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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026462
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】筋肉増強用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/125 20160101AFI20220203BHJP
【FI】
A23L33/125
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020129946
(22)【出願日】2020-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】落合 優
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴子
【テーマコード(参考)】
4B018
【Fターム(参考)】
4B018MD28
4B018ME14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】動物や植物の抽出物のようにアレルゲンとなりうる物質を含む素材でなく、長期摂取による安全性が確認された素材であって、体重量及び体脂肪率を増加させることなく、筋力の低下防止又は筋力の増強をするために有効な素材の提供。
【解決手段】D-アロースを有効成分として含有する筋肉増強用組成物。D-アロースを有効成分として一日当たり0.01~0.50g/体重kg摂取する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-アロースを有効成分として含有する筋肉増強用組成物。
【請求項2】
D-アロースを有効成分として含有する、体重及び体脂肪率を増加させることなく筋肉を増強する用の組成物。
【請求項3】
D-アロースを有効成分として一日当たり0.01~0.50g/体重kg摂取するための、請求項1又は2に記載の筋肉増強用組成物。
【請求項4】
摂取期間が少なくとも2週間である、請求項1~3のいずれか一項に記載の筋肉増強用組成物。
【請求項5】
筋肉が骨格筋である、請求項1~4のいずれか一項に記載の筋肉増強用組成物。
【請求項6】
D-アロースを摂取することにより、筋肉を増強する方法。
【請求項7】
D-アロースを摂取することにより、体重及び体脂肪率を増加させることなく筋肉を増強する方法。
【請求項8】
筋肉が骨格筋である、請求項6又は7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D-アロースを有効成分として含有する筋肉増強用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車などの移動手段の発達により運動機会が減少し、老齢層はもとより、若年層の体力低下が問題となっている。これは、運動機会の減少により、健全な身体の発育又は維持のために必要な筋肉又は筋力が十分に形成されないことが、要因のひとつとなっている。しかし、継続した運動による筋肉増強は容易ではなく、特別なトレーニングを必要としない薬剤や飲食品の摂取による筋肉増強方法が望まれている。
【0003】
筋肉増強用組成物は、これまでにいくつか開示されている。もっともよく知られる筋肉増強剤は、タンパク質、ペプチド及びアミノ酸であるが、これらは運動と併用してはじめて筋肉増強の効果が発揮される。また、日常的に継続摂取する形態を望む場合、その素材の安全性が大前提であることから、例えば、タラ目に属する魚の魚肉タンパク質(特許文献1)や牛肉抽出物(特許文献2)といった動物由来の抽出物、クローブ抽出物(特許文献3)や黒ショウガ抽出物(特許文献4)といった植物由来の抽出物のほか、小麦蛋白質の加水分解物(特許文献5)など、ヒトにとって食経験のある素材が筋肉増強用組成物として提案されている。しかし、これら抽出物の場合、有効成分以外の物質を含むため、例えばアレルギーなど、別の問題が生じうる。
【0004】
D-アロースは、急性及び亜慢性毒性がないことが確認されている(非特許文献1)。また、非特許文献1には、D-アロース3%含有の餌(CE-2)を5週齢ラットに6か月間摂取させたときに、後肢骨格筋の重量が有意に減少したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-073292号公報
【特許文献2】特開2004-075637号公報
【特許文献3】特開2017-197491号公報
【特許文献4】特開2017-078032号公報
【特許文献5】特開2012-062309号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Y.Igaら、「Acute and Sub-Chronic Toxicity of D-allose in Rats」、Biosci.Biotechnol.Biochem.(2010年)、74巻、第7号、1476-1478頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、動物や植物からの抽出物のようにアレルゲンとなりうる物質を含む素材でなく、長期摂取による安全性が確認された素材であって、筋力の低下防止又は筋力の増強のために有効な素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、D-プシコース、D-ソルボース及びD-アロースを含む餌を3週齢の雄ラットに4週間摂取させたときに、意外にも、D-アロースのみが骨格筋量が増加することを発見し、当該知見をもって本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]乃至[8]から構成されるものである。
まず、第一の発明は、筋肉増強用の組成物であって、具体的には以下である。
[1]D-アロースを有効成分として含有する筋肉増強用組成物。
[2]D-アロースを有効成分として含有する、体重及び体脂肪率を増加させることなく筋肉を増強する用の組成物。
[3]D-アロースを有効成分として一日当たり0.01~0.50g/体重kg摂取するための、前記[1]又は[2]に記載の筋肉増強用組成物。
[4]摂取期間が少なくとも2週間である、前記[1]乃至[3]のいずれかに記載の筋肉増強用組成物。
[5]筋肉が骨格筋である、前記[1]乃至[4]のいずれかに記載の筋肉増強用組成物。
また、第二の発明は、筋肉の増強方法であって、具体的には以下である。
[6]D-アロースを摂取することにより、筋肉を増強する方法。
[7]D-アロースを摂取することにより、体重及び体脂肪率を増加させることなく筋肉を増強する方法。
[8]筋肉が骨格筋である、前記[6]又は[7]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物は、安全性の高い組成物であるため日常的に継続摂取することができ、体重量及び体脂肪率を増加させることなく筋肉増強することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で使用するD-アロースは、市販品を利用すればよいが、D-プシコース(例えば、松谷化学工業株式会社製「Astraea」)を原料とし、L-ラムノースイソメラーゼにより異性化して得ることもできる(例えば、特開2008-109933号公報などを参照)。また、混合品、例えば、D-アロースを約2%含有するシロップ「レアシュガースウィート」(松谷化学工業株式会社製)を用いることもできるが、混合シロップの場合、有効成分であるD-アロースが非常に少ないばかりか過半が不要なD-グルコースとD-フラクトースであるため、D-アロースを少なくとも15質量%以上、好ましくは20質量%以上、さらに好ましく30質量%以上含む、D-アロース含有品を用いるのがよい。なお、D-アロースの測定方法は、糖の分析方法として一般的な公知の高速液体クロマトグラフ法(例えば、高峰ら著、「アルカリ異性化を用いた希少糖含有シロップの製造方法およびαグルコシダーゼの阻害作用」、応用糖質科学(2015)、第5巻、第1号p.44-49を参照)を用いて測定することができる。
【0012】
本発明の組成物を食品又は医薬品として摂取する場合、本発明の目的を達成するための必要量を摂取するのに便利な濃度、すなわち、少なくとも15質量%以上とすればよく、食品及び医薬品の形態及びその摂取量に応じて15~100質量%の範囲、さらに好ましくは30~80質量%の範囲とするなど、一日当たりの必要量を摂取しやすい濃度で設計することが望ましい。
【0013】
本発明の組成物の一日当たりの摂取量は、対象となる動物の種類や体重により異なるが、ヒト体重1kg当たり0.01g以上であればよく、また、大量摂取による緩下作用の点から、上限は0.5gとするのがよく、0.02~0.30gが好ましく、0.03~0.15gがより好ましい。また、本発明の組成物を摂取するタイミングは限定されず、運動することも要しないが、効率よく効果を得るためには、運動前に摂取することが好ましく、また、一日の必要量を2~4回に分けて摂取しても構わない。本発明の組成物の効果を得るための摂取期間は、少なくとも1週間以上、好ましくは2週間~5ヶ月間、より好ましくは4週間~2ヶ月間である。そして、本発明の組成物は、幼年期から老年期の哺乳動物を対象とするのがよく、好ましくは成長期から青年期にある哺乳動物を対象とするのがよい。また、その哺乳動物としては、ヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、ブタ、ウシ、ウマが挙げられる。
【0014】
本発明にいう「筋肉増強」とは、筋力低下防止、筋力増強、筋肉増加などの意を含み、例えば、筋力測定機器(握力計、脚筋力計など)や、測定方法(立幅跳び、上体起こしなど)により確認でき、筋肉重量そのものを測定することにより評価することもできる。また、実験動物であれば、それらにD-アロースを飲用水又は餌として摂取させ、適切な部位の筋肉、例えば、骨格筋(ヒラメ筋、腓腹筋、足底筋)を単離して重量を測定し、その相対重量(体重における筋肉量)がD-アロース非摂取時又は非摂取群に比べて増加したときに、筋肉が増強したと評価できる。また、ヒトにおいても、一定期間D-アロースを摂取する前後で、体脂肪率計測機能付き体重計などで体重と体脂肪率を測定し、摂取後の「体重-(体脂肪率×体重)」が増加したときに筋肉が増強したと評価することができるし、各脚の膝蓋骨の頂点から10cmおよび15cmの地点を巻き尺で測定し、大腿周囲径が増加したときに筋肉が増強したと評価することもできる。
【0015】
以下、本発明について具体的に詳述するが、本発明はこれに限定されるものでない。
【実施例0016】
(1)実験動物及び飼料の調製
実験動物には、3週齢の雄性Wistarラット25匹を日本エスエルシー社より搬入し、1週間の馴化期間終了後、体重を均等に4群に分けて、ショ糖3%群(対照群、n=7)、D-プシコース3%群(PSI群、n=6)、D-ソルボース3%群(SOR群、n=6)及びD-アロース3%群(ALL群、n=6)とし、本飼育期間中、各食餌(表1)を自由に摂取させた。体重及び食餌摂取量は週2回測定した。
【0017】
【表1】
【0018】
本飼育終了後、12時間絶食後に解剖を実施した。イソフルラン溶液(10%)で麻酔し、開腹後に腹部大静脈より採血を行い、遠心分離(3000rpm、4℃、15分間)後に得られる血漿を分析するまで-30℃で保管した。その後、腹腔内(腸間膜、腎周囲、精巣周囲)脂肪組織と骨格筋(ヒラメ筋、足底筋、腓腹筋)を採取して各重量を測定し、各分析まで-80℃で保管した。また、内臓組織、四肢、尾を除く胴部分を屠体とし、分析まで-30℃で保管した。
【0019】
(2)血漿の分析
解剖時に採取した血漿について、グルコース、インスリン、中性脂肪、総コレステロールを市販キット(和光純薬製、シバヤギ製)を用いて測定した。
【0020】
(3)骨格筋の脂質含有量の測定
骨格筋を液体窒素で凍結粉砕し、クロロホルム:メタノール(2:1)混液を加え、ホモジナイザーを用いて粉砕・混合後、冷蔵庫で一晩静置した。クロロホルム層を1/4倍量の生理食塩水と混合し、遠心分離(3000rpm、4℃、10分間)し、下層を用いて脂質含有量の測定を行った。乾固法によって総脂質を測定し、中性脂肪および総コレステロールの定量には和光純薬製のキットを用いた。数値は組織1g当たりの脂質量で示した。
【0021】
(4)骨格筋のグリコーゲン含有量の測定
骨格筋のグリコーゲン含有量の定量は、熱アルカリ溶液中で加水分解されて生じるグルコースを、和光純薬製のキットを用いて定量することにより行った。液体窒素を用いて凍結粉砕した骨格筋をサンプルチューブに約0.1g秤量し、30%水酸化カリウム溶液を加えて100℃で30分間加熱した。完全に溶解した後、飽和硫酸ナトリウム及び95%エタノール溶液を加えて混合し、加熱処理(100℃、30分間)後に遠心分離した上清をアスピレーターで除去した。蒸留水を用いて沈殿物を再溶解し、再び95%エタノール溶液を加えて混合してから遠心分離し、上清をアスピレーターで除去した。0.6N塩酸を添加し、100℃で150分間、酸加水分解した。溶液中のグルコース濃度を測定し、0.93(換算係数)を乗じたものをグリコーゲン濃度とした。数値は組織1 g当たりのグリコーゲン量で示した。
【0022】
(5)骨格筋の脂質合成系酵素活性の測定
骨格筋の脂質合成系酵素活性の測定は、分光法による定法(農業・食品産業技術総合研究所の方法、http://www.naro.affrc.go.jp/org/nfri/yakudachi/manual/6-3ide.htmlを参照)を用い、以下のとおり行った。まず、粗酵素源の調製を行った。具体的には、液体窒素を用いて凍結粉砕した骨格筋の一部を秤量し、秤量サンプルの5倍量の緩衝液(0.25mMショ糖液-1mM EDTA-3mMトリス塩酸(pH7.2))を加えてホモジナイズし、500×gで10分間(4℃)遠心分離した。得られた上清を他のチューブに移し、9,000×gで10分間(4℃)遠心分離した。得られた上清を他のチューブに移し、12,000×gで1時間遠心分離し、上清を回収して分析まで-80℃で保管した。
【0023】
グルコース6リン酸脱水素酵素活性は以下の通り実施した。1mLキュウベットに0.32Mトリス-塩酸緩衝液(0.500mL)、NADP(0.05mL)、粗酵素源0.025mL、蒸留水0.350mLを加えて最終容量を0.95mLとし、混合し、30℃に保温した恒温セルホルダーに装着した。吸光度(340nm波長)が安定した後、グルコース-6リン酸(0.05mL)を加え、4分間の反応を開始した。吸光度を1分間毎記録し、吸光度の変化の直線部分を活性の計算に用いた。分子吸光計数は6,220/M・cmとした。
【0024】
(6)屠体栄養成分の分析
屠体中の粗脂肪及び粗タンパク質含有量を測定した。粗タンパク質は、ケルダール法(窒素-タンパク質換算係数を6.25とした)、粗脂肪は石油エーテルを用いたソックスレー抽出法、水分は加熱法(105℃、24時間)によって測定した。
【0025】
(7)統計解析
いずれの分析項目も平均値±標準誤差(n=6、7)を用いて示した。統計分析はエクセル統計を用いて実施し、対照群と各希少糖給餌群との間の差はDunnett法を用いて分析した。いずれもp<0.05にて有意差ありと判断した。
【0026】
(8)結果
体重、食餌摂取量、骨格筋重量及び脂肪組織重量の結果を表2に示す。食餌摂取量及び体重増加量に有意な差は認められなかった。腹腔内脂肪組織の重量と相対重量が、SOR群およびALL群で有意に低くなること、骨格筋の相対重量がALL群で高くなることが示された。
【0027】
【表2】
【0028】
血漿分析の結果と、骨格筋のグリコーゲン含有量及び脂質合成系酵素活性の結果を表3に示す。血漿分析では、ALL群で総コレステロール濃度が有意に低いことが認められた。一方、骨格筋(腓腹筋)のグリコーゲン含有量には有意な差は認められなかった。また、骨格筋(腓腹筋)のグルコース6リン酸脱水素酵素(G6PDH)活性にも有意な差は認められなかった。
【表3】
【0029】
屠体栄養成分含有量の結果を表4に示す。SOR群において、屠体のタンパク質含有量が有意に高くなり、粗脂肪含有量および体脂肪含有量が有意に低くなることが示された。また、ALL群において体脂肪含有量が有意に低くなることが示された。
【0030】
【表4】
【0031】
すべての希少糖群において、食餌摂取量、体重増加量に差は認められなかった。また、ALL群の骨格筋の脂質合成系酵素活性に差は認められなかった。それにもかかわらず、ALL群においては、骨格筋の相対重量が高値になり、腹腔内脂肪組織重量と屠体脂肪率が低値になることが示唆された。
【0032】
ところで、筋肉増強の効果がある素材として知られるロイシンは、ラットに1.35g/体重kg/日で投与すると有意に筋肉が増強するとの報告(X.Gaoら、PLoS ONE 10(4):e0125023)があり、また、ヒト(成人)に330mg含有サプリメントを一日当たり4個(=1.32g/日)摂取させると有意に大腿筋肉量が増加したとの報告(E.Labouteら、Annals of Physical and Rehabilitation Medicine、56(2013)、102-112)がある。そうすると、筋肉増強にあっては、ラット適用量の約50分の1量がヒト成人(50kgとして計算)の適用量になると考えられる。上述のD-アロース摂食試験におけるラットの平均食餌摂取量と飼育終了時の体重から換算すると、被験ラットは約1.935g/体重kg/日のD-アロースを摂取していたことになるから、これをヒト適用量に換算すると、0.0387g/体重kg/日になると考えられる。
【0033】
以上より、本発明のD-アロースを有効成分とする組成物を摂取すれば、食餌摂取量も体重を増加させることなく、また、体脂肪率を上げることなく、筋肉を増強することができる。