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特開2022-26495RIPK1阻害剤又はシグナル伝達阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026495
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】RIPK1阻害剤又はシグナル伝達阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/395 20060101AFI20220203BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A61K31/395
A61P43/00 111
A61P19/02
A61P1/04
A61P1/00
A61P17/06
A61P9/00
A61P31/04
A61P29/00
A61P25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020130008
(22)【出願日】2020-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】504136993
【氏名又は名称】独立行政法人国立病院機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 行彦
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC33
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA36
4C086ZA66
4C086ZA89
4C086ZA96
4C086ZB11
4C086ZB15
4C086ZB35
4C086ZC20
(57)【要約】
【課題】NF-κBの活性化を選択的に抑制する新規なRIPK1阻害剤を提供する。
【解決手段】下記式で示されるゲルダナマイシン又はゲルダナマイシン誘導体を有効成分として有し、RIPK1キナーゼに媒介される疾患又は障害を治療するためのRIPK1阻害剤である。疾患は例えば関節リウマチである。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で示されるゲルダナマイシン又はゲルダナマイシン誘導体を有効成分として有し、RIPK1キナーゼに媒介される疾患又は障害を治療するためのRIPK1阻害剤。
【化1】
【請求項2】
前記ゲルダナマイシン誘導体が、17-アリルアミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(2-ジメチルアミノエチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(2-(カルボキシ)エチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(2-(N-メチルエチルアミノ)エチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(2-(ピロリジン-1-イル)エチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(2-(ピペラジン-1-イル)エチル)アミノ-デメトキシゲルダナマイシン、又は、17-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシンの何れかであることを特徴とする請求項1に記載のRIPK1阻害剤。
【請求項3】
前記疾患又は障害が、関節リウマチ、乾癬性関節炎、変形性関節症、脊椎関節炎、全身型若年性特発性関節炎(SoJIA)、クローン病、潰瘍性大腸炎、乾癬、実質臓器の虚血性再潅流傷害、敗血症、全身性炎症性応答症候群、又は、多発性硬化症であることを特徴とする請求項1に記載のPIPK1阻害剤。
【請求項4】
NF-κBの活性化を阻害するがカスパーゼ8の活性化を阻害しないことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のRIPK1阻害剤。
【請求項5】
下記式で示されるゲルダナマイシン又はゲルダナマイシン誘導体を有効成分として有し、カスパーゼ8の転写活性を阻害することなくNF-κBの転写活性を阻害することを特徴とするシグナル伝達阻害剤。
【化2】
【請求項6】
更にMLKLの転写活性を阻害することを特徴とする請求項5に記載のシグナル伝達阻害剤。
【請求項7】
前記ゲルダナマイシン誘導体が、17-アリルアミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(2-ジメチルアミノエチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(2-(カルボキシ)エチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(2-(N-メチルエチルアミノ)エチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(2-(ピロリジン-1-イル)エチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(2-(ピペラジン-1-イル)エチル)アミノ-デメトキシゲルダナマイシン、又は、17-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシンの何れかであることを特徴とする請求項5又は6に記載のシグナル伝達阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RIP1キナーゼ(RIPK1)に媒介される疾患又は障害を治療するためのRIPK1阻害剤に関する。また本発明はシグナル伝達阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リウマチ性疾患の代表である関節リウマチは、慢性多発性関節炎を主症状とする全身性結合組織疾患であり、自己免疫疾患の一種である。関節リウマチは、30~60歳の女性に好発し、有病者数は日本国内においては約70万人と推測されている。関節リウマチ病態の特徴として、関節滑膜における血管新生、炎症性細胞浸潤、滑膜細胞増殖、軟骨・骨破壊等が挙げられる。また、関節リウマチにおける関節炎は改善と増悪を繰り返しながら進行し、徐々に軟骨・骨破壊を引き起こし、関節リウマチ患者は関節障害をきたし、運動機能や生活の質の低下を招く。
【0003】
TNFαは関節リウマチの炎症に関わる主要なサイトカインのひとつであり、過剰に産生されたTNFαが関節の炎症や関節破壊の原因となる。TNFαは細胞表面にあるレセプターを介し作用する。そのレセプターには2種類(TNFRI、TNFRII)あり、前者はほぼすべての細胞に発現し、後者はリンパ球など免疫担当細胞に発現が限られる。そして、関節リウマチにおいて、TNFαは主にTNFRIを介して作用し、炎症を惹起、増幅し、病気を進行させる。TNFRI を介したTNFαのシグナル伝達経路には、主にNF-κB活性化による炎症・細胞生存/増殖シグナル経路と相反するカスパーゼ活性化による細胞死(アポトーシス)シグナル経路のふたつがある。TNFRIはデスドメインを持ち、いくつかのタンパク質がデスドメイン同士で結合しあって、TRAF2からのNF-κB活性化とカスパーゼの活性化からアポトーシス誘導とを引き起こす(非特許文献1,2)。TNFαという一つの分子から誘導されるこれらの相反する二つのシグナル経路がどのように制御されているかは完全には解明されていない。関節リウマチの罹患関節では、関節滑膜細胞増殖、炎症増幅が特徴的な病理所見であり、炎症と細胞増殖のシグナル、つまりNF-κB活性経路がアポトーシスのシグナル(カスパーゼ活性)経路よりドミナントになっていることが示唆されている。
【0004】
関節リウマチ治療薬としては、メトトレキサートをはじめとする合成疾患修飾性抗リウマチ薬(Synthetic Disease-Modifying AntiRheumatic Drug)や、腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor:TNF)阻害剤、IL-6阻害薬(トシリズマブ)、T細胞阻害薬(アバタセプト)をはじめとする生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬(バイオ薬品)がある(非特許文献3)。とくに、バイオ薬品(以下、本明細書においてはバイオと略されることがある)の治療効果は、従来の非バイオ薬品に比べて極めて顕著であり、関節リウマチ患者の病気の進行を抑えることが可能となり、関節リウマチにおける薬物療法のパラダイムシフトをもたらした。バイオの中でも、TNF阻害剤はフロンティア薬品で、最も頻用されていて、現在では、関節リウマチの薬物療法において中心的薬剤となっている。しかしながら、バイオTNF阻害薬には課題もあり、約20%効果不良症例がみられること、また、自己免疫疾患の併発、心不全の悪化や悪性腫瘍の併発などが副作用として危惧されている。現存のバイオTNF阻害薬は、TNFに対するモノクローナル抗体や人工的レセプターで、TNFαとそのレセプターとの結合をブロックするものであり、レセプターの下流のシグナル伝達経路を全てブロックすると考えられ、NF-κBの活性化を抑制するのみならずアポトーシスをも抑制するものであった。アポトーシスは、関節リウマチにおいては滑膜細胞や免疫、炎症細胞増殖を抑え、病期の進行を抑止するもの(protective)、また自己免疫や悪性腫瘍の併発を抑止するものと考えられている。上述の現存のバイオTNF阻害薬の課題である、効果不良症例、自己免疫疾患、悪性腫瘍の併発の一因は、NF-κBの活性化を抑制するのみならずアポトーシスの進行をも抑制することにあるものと考えられる。一方、近年、TNFαがTNFRIを介して、別のシグナル伝達経路でアポトーシスとは異なる細胞死、ネクロプトーシスを誘導することが明らかにされてきた。このネクロプトーシスは、組織の破壊、壊死を生じることから、関節リウマチなどの炎症性疾患だけでなく、多くの疾患において組織傷害機序として注目されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Yamasaki et al., Functional changes in rheumatoid fibroblast-like synovial cells through activation of peroxisome proliferator-activated receptor γ-mediated signaling pathway, Clin Exp Immunol 2002; 129: 379-384
【非特許文献2】S. Yamasaki et al., Cytokines regulate fibroblast-like synovial cell differentiation to adipocyte-like cells, Rheumatology, 2004; 43: 448-452
【非特許文献3】Ann Rheum Dis. 2014;73:492-509
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、関節リウマチなどの炎症疾患において、カスパーゼ活性化、アポトーシスは抑制せず、NF-κBの活性化を選択的に抑制する新規なRIPK1阻害剤を提供することを目的とする。またNF-κBの転写活性を選択的に阻害するシグナル伝達阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかるRIPK1阻害剤は、下記式で示されるゲルダナマイシン(Geldanamycin:GM又はGDMと本明細書において略されることがある。)又はゲルダナマイシン誘導体を有効成分として有し、RIP1キナーゼに媒介される疾患又は障害を治療するためのRIPK1阻害剤である。
【0008】
【化1】
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、NF-κBの活性化のみを選択的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】TNFαのTNFRIを介したシグナル伝達の経路を説明する図である。
図2】関節リウマチ患者由来の滑膜細胞株であるMH7Aにおけるゲルダナマイシンの作用によるRIPK1の発現抑制を示す図である。
図3】ゲルダナマイシンの作用によるMH7A細胞におけるTNFα刺激下でのIL-6の発現抑制を示すELISA法による解析図である。
図4】ゲルダナマイシンの作用によるMH7A細胞におけるTNFα刺激下でのIL-6のmRNA発現抑制を示すPCR法による解析図である。
図5】ゲルダナマイシンの作用によるMH7A細胞におけるTNFα刺激下でのIL-1βの発現抑制を示すELISA法による解析図である。
図6】ゲルダナマイシンの作用によるMH7A細胞におけるTNFα刺激下でのIL-1βのmRNA発現抑制を示すPCR法による解析図である。
図7】ゲルダナマイシンの作用によりMH7A細胞におけるTNFα刺激下でのアポトーシスの抑制がないことを示すフローサイトメトリー図である。
図8】ゲルダナマイシンの作用によるMH7A細胞におけるTNFα刺激下でのNF-κBの活性化抑制を示すレポーターアッセイによる図である。
図9】ゲルダナマイシンの作用によりMH7A細胞におけるTNFα刺激下でのカスパーゼ8の活性抑制がないことを示すウエスタンブロッティング図である。
図10】ゲルダナマイシンの作用によるMH7A細胞におけるTNFα刺激下でのMLKLの活性化(リン酸化)抑制を示すウエスタンブロッティング図である。
図11】RIPK1リコビナント蛋白の添加によるMH7A細胞におけるTNFα刺激下でのNF-κBの活性化抑制の回復を示すレポーターアッセイ図である。
図12】コラーゲン誘導関節炎モデル動物(マウス)を使用したゲルダナマイシンの作用による関節炎抑制を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0012】
TNFαによるTNF受容体タイプI(TNFRI)を介したシグナルは細胞死(アポトーシス)及び炎症・細胞増殖生存という相反する2つのシグナル伝達経路を誘発する。更に、最近、アポトーシス以外の細胞死、ネクロプトーシス誘導が分子レベルで明らかにされた。これらのTNFαによるTNF受容体タイプI(TNFRI)を介したシグナル経路には、RIPK1と呼ばれるアダプター分子が共通に働いている(図1)。
【0013】
本発明者は、下記式で示されるゲルダナマイシン又はゲルダナマイシン誘導体が、RIPK1キナーゼに媒介されるTNFαによるTNF受容体タイプI(TNFRI)を介した上述の3つのシグナル経路において、炎症・細胞増殖に関わるNF-κB活性化経路及び細胞・組織壊死に関わるネクロプトーシスのみを選択的に抑制し、アポトーシスは抑制しないことを見出し、RIPK1キナーゼに媒介される疾患又は障害を治療することができることを新知見として見出しかかる事実に基づいて本発明を完成させた。
【0014】
【化2】
【0015】
従って、本発明にかかるシグナル伝達阻害剤は、アポトーシスを阻害することなく、選択的に炎症や細胞増殖に関わるNF-κBの活性化及び細胞・組織壊死であるネクロプトーシス(MLKLの転写活性)を阻害することを特徴とする。
【0016】
ここでゲルダナマイシン誘導体は、特に限定されるものではないが、例えば17-アリルアミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(2-ジメチルアミノエチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(2-(カルボキシ)エチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(2-(N-メチルエチルアミノ)エチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(2-(ピロリジン-1-イル)エチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、17-(2-(ピペラジン-1-イル)エチル)アミノ-デメトキシゲルダナマイシン、又は、17-(4-(ジメチルアミノ)ブチル)アミノ-17-デメトキシゲルダナマイシンである。
【0017】
RIPK1キナーゼに媒介される疾患又は障害は、特に限定されるものではないが、例えば関節リウマチ、乾癬性関節炎、変形性関節症、脊椎関節炎、全身型若年性特発性関節炎(SoJIA)、クローン病、潰瘍性大腸炎、乾癬、実質臓器の虚血性再潅流傷害、敗血症、全身性炎症性応答症候群、又は、多発性硬化症である。
【0018】
本発明にかかるRIPK1阻害剤又はシグナル伝達阻害剤は、医薬組成物として使用され、薬学的に許容される担体・添加剤を配合することにより提供される。
【0019】
医薬組成物は、医薬品又は医薬部外品として提供される。医薬組成物は、内用的又は外用的に用いられる。医薬組成物は、内服剤、静脈注射、皮下注射、皮内注射、筋肉注射及び/又は腹腔内注射等の注射剤、経粘膜適用剤、経皮適用剤等の製剤形態で使用できる。また、医薬組成物の剤型としては、適当に設定できるが、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末剤、散剤等の固形製剤、液剤、懸濁剤等の液状製剤、軟膏剤、又はゲル剤等の半固形剤が例示される。
【0020】
医薬組成物の投与量は症状、患者の年齢、性別、及び体重等によって異なるが、当業者であれば適宜適当な投与量を設定することが可能である。例えば、成人(体重約60kg)を対象として一日当たりの有効成分量が約10mg~100g、好ましくは約100mg~10gとなるよう投与量を設定することができる。投与スケジュールとしては例えば一日一回~数回、二日に一回、或いは三日に一回等を採用できる。投与スケジュールの設定においては、患者の病状や薬剤の効果持続時間等を考慮することができる。
【実施例0021】
1.実施例1
RIPK1を発現しているヒトT細胞由来のJurkat細胞にゲルダナマイシン(GM)を濃度依存的に作用させた。またヒトRA患者由来滑膜細胞株MH7Aにゲルダナマイシン(GM)を濃度依存的に作用させた。図2に示されるようにゲルダナマイシンはRIPK1を抑制することが示された。
【0022】
2.実施例2
IL-6はRAの病態においてT細胞活性化や自己抗体産生等自己免疫反応の成立や炎症反応、破骨細胞の活性化にかかわっている。そのためIL-6の阻害によりRAの治療の可能性がある。
【0023】
滑膜細胞にTNF-α刺激を行うことでIL-6を発現させ、ゲルダナマイシン(GM)を濃度依存的に作用させることでIL-6の発現を抑制できるか試験した。ELISAキットを使用し、試料中に存在するIL-6をサンドイッチ法を用いて比色定量した。図3に示されるようにゲルダナマイシンはIL-6を抑制することが示された。
【0024】
3.実施例3
次にPCR法によっても、ゲルダナマイシン(GM)を濃度依存的に作用させることで
mRNAレベルでのIL-6の発現を抑制できるか試験した。滑膜細胞にTNF-α刺激を行うことでIL-6を発現させ、ゲルダナマイシン(GM)を濃度依存的に作用させることで
IL-6のmRNAの発現を抑制できるか試験した。TNF-α刺激後4時間のtotal RNAを用いてRT-PCRにより測定した。PCR溶液をDNA Engine Opticon 1(Bio-Rad)にて95℃で5分間加熱後、94℃15秒,55℃30秒,72℃30秒を40サイクル行い、DNAを増幅した。図4に示されるようにゲルダナマイシンはIL-6mRNAの発現を抑制することが示された。
【0025】
4.実施例4
IL-1βは、IL-6と同様にRAの病態において炎症反応、破骨細胞の活性化にかかわっている。そのためIL-1βの阻害によりRAの治療の可能性がある。
【0026】
滑膜細胞にTNF-α刺激を行うことでIL-1βを発現させ、ゲルダナマイシン(GM)を濃度依存的に作用させることでIL-1βの発現を抑制できるか試験した。ELISAキットを使用し、試料中に存在するIL-1βをサンドイッチ法を用いて比色定量した。図5に示されるようにゲルダナマイシンはIL-1βを抑制することが示された。
【0027】
5.実施例5
次にPCR法によって、ゲルダナマイシン(GM)を濃度依存的に作用させることでIL-1βの発現を抑制できるか試験した。滑膜細胞にTNF-α刺激を行うことでIL-1βを発現させ、ゲルダナマイシン(GM)を濃度依存的に作用させることでIL-1βの発現を抑制できるか試験した。TNF-α刺激後4時間のtotal RNAを用いてRT-PCRにより測定した。PCR溶液をDNA Engine Opticon 1(Bio-Rad)にて95℃で5分間加熱後、94℃15秒,55℃30秒,72℃30秒を40サイクル行い、DNAを増幅した。図6に示されるようにゲルダナマイシンはIL-1βのmRNAの発現を抑制することが示された。
【0028】
6.実施例6
TNFαによって誘発されるアポトーシスがゲルダナマイシンにより抑制されるかフローサイトメトリーで試験した。アポトーシスを検出するAnnexin V Kitを使用した。Annexin Vは、細胞膜内側の膜リン脂質(フォスファチジルセリン PS)と結合する蛍光標識Annexin VとDNAに結合するPIを用いてアポトーシス細胞を検出する方法である。アポトーシス初期段階では、通常細胞膜内側に存在するPSが細胞膜表面に露出し、このPSとAnnexin Vは結合する。この段階の細胞膜にはまだ損傷が起こっていないため、PIは細胞内に取り込まれず、核内DNAとは結合しない。アポトーシス後期段階では、細胞膜に損傷が起きているため、PIは細胞内に取り込まれ、核内DNAと結合するため、アポトーシス細胞はAnnexin VとPIの両方に染まる。図7に示されるようにゲルダナマイシン濃度を上昇させるとアポトーシス陽性細胞は増加傾向を示し、アポトーシスの抑制は見られなかった。
【0029】
7.実施例7
TNFαは主にNF-κB活性化経路を介して炎症を誘導する。ゲルダナマイシン(GM)を濃度依存的に作用させることでNF-κB応答を抑制できるか試験した。NF-κB阻害活性は、Dual-Glo Luciferase Assay Systemを用いて検討した。図8に示されるようにゲルダナマイシンはNF-κB応答を抑制することが確認された。
【0030】
8.実施例8
TNFαがTNFRIに結合すると、FADDや他のデスドメインアダプタータンパク質が動員され、それらがカスパーゼを動員・活性化することによってアポトーシスが開始されます。とくにカスパーゼ8は活性型に変換し、活性化したカスパーゼ8はアポトーシスを開始、進行させる。活性化したカスパーゼ8によるアポトーシス進行がゲルダナマイシンにより抑制されるか試験した。図9に示されるようにゲルダナマイシンは濃度依存的に活性型カスパーゼ8の発現を増幅した。
【0031】
9.実施例9
ネクロプトーシス(necroptosis)は、組織傷害、壊死にみられるアポトーシスとは異なる細胞死であり、RIPK1とRIPK3(Receptor-interacting kinase 3)の共同作用でMLKL(Mixed lineage kinase domain-like)が活性化し引き起こされる。ネクロプトーシス進行がゲルダナマイシンにより抑制されるか試験した。図10に示されるようにゲルダナマイシンはMLKLの転写活性を阻害し、ネクロプトーシスを抑制することが確認された。
【0032】
10.実施例10
上述の実施例では、ゲルダナマイシンがNF-κB応答を抑制することを確認した。そこでRIPK1リコビナント蛋白を添加することでNF-κB活性化抑制が回復するか試験した。図11に示されるように、RIPK1リコビナント蛋白を添加することでNF-κB活性化抑制が回復することが確認された。
【0033】
11.実施例11
関節炎モデル動物を使用してゲルダナマイシンが関節炎を抑制するかin vivo実験をした。関節炎モデル動物としてはII型コラーゲン誘導性マウスを使用した。図12に示されるように、ゲルダナマイシンはII型コラーゲン誘導性マウスの関節炎を抑制した。またモデル動物が関節炎を発症する前にゲルダナマイシンを投与(予防的投与)するよりもモデル動物が関節炎を発症した後にゲルダナマイシンを投与(治療的投与)したほうが関節炎を効果的に抑制した。
【産業上の利用可能性】
【0034】
関節リウマチの治療に利用できる。
図1
図2
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図4
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図6
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図8
図9
図10
図11
図12