(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026583
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】光電変換素子
(51)【国際特許分類】
H01G 9/20 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
H01G9/20 113Z
H01G9/20 115A
H01G9/20 111D
H01G9/20 119
H01G9/20 105
H01G9/20 121
H01G9/20 307
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020130125
(22)【出願日】2020-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(71)【出願人】
【識別番号】000202350
【氏名又は名称】綜研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】岡田 佳子
(72)【発明者】
【氏名】岡本 秀二
(72)【発明者】
【氏名】宮本 豪
(57)【要約】
【課題】光受容性タンパク質を用いた光電変換素子において、対極の仕事関数を容易に変化させることができる、光電変換素子を提供する。
【解決手段】本発明によれば、作用極と、光受容層と、対極をこの順に備える光電変換素子であって、前記対極は、第1導電性高分子層を備え、前記光受容層は、光受容性タンパク質を含む、光電変換素子が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用極と、光受容層と、対極をこの順に備える光電変換素子であって、
前記対極は、第1導電性高分子層を備え、
前記光受容層は、光受容性タンパク質を含む、光電変換素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光電変換素子であって、
前記光受容性タンパク質は、バクテリオロドプシンである、光電変換素子。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の光電変換素子であって、
前記作用極は、第2導電性高分子層を備える、光電変換素子。
【請求項4】
請求項3に記載の光電変換素子であって、
前記作用極の表面抵抗は、前記対極の表面抵抗よりも高い、光電変換素子。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の光電変換素子であって、
前記作用極は、導電性無機材料層を備える、光電変換素子。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか1つに記載の光電変換素子であって、
前記対極の仕事関数は、前記作用極の仕事関数と同じか、それよりも小さい、光電変換素子。
【請求項7】
請求項1~請求項6の何れか1つに記載の光電変換素子であって、
第1導電性高分子層は、内側導電性高分子層と外側導電性高分子層を備え、
前記内側導電性高分子層は、前記光受容層と前記外側導電性高分子層に間に配置され、
前記内側導電性高分子層は、前記外側導電性高分子層よりも、仕事関数が小さく、且つ表面抵抗が大きい、光電変換素子。
【請求項8】
請求項1~請求項7の何れか1つに記載の光電変換素子であって、
前記光電変換素子は、前記光受容層への光の入射が検出可能に構成された光検出素子である、光電変換素子。
【請求項9】
請求項8に記載の光電変換素子であって、
前記光検出素子は、前記光受容層への光の入射位置が検出可能に構成された光位置検出素子である、光電変換素子。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載の光電変換素子であって、
前記光受容層と前記対極の間に電解質層を備える、光電変換素子。
【請求項11】
請求項10に記載の光電変換素子であって、
前記電解質層は、ゲル化された電解質溶液で構成される、光電変換素子。
【請求項12】
請求項1~請求項7の何れか1つに記載の光電変換素子であって、
前記光電変換素子は、前記光受容層へ入射光が入射している間に継続的に光電力を出力するように構成された光発電素子である、光電変換素子。
【請求項13】
請求項12に記載の光電変換素子であって、
前記光受容層と第1導電性高分子層が直接接触している、光電変換素子。
【請求項14】
請求項1~請求項13の何れか1つに記載の光電変換素子の製造方法であって、
第1導電性高分子層は、導電性高分子が水に溶解又は分散して構成された高分子液を用いて形成され、
前記高分子液のpHは、3.5~8.0である、方法。
【請求項15】
請求項1~請求項13の何れか1つに記載の光電変換素子の製造方法であって、
第1導電性高分子層は、内側導電性高分子層と外側導電性高分子層を備え、
前記内側導電性高分子層は、前記光受容層と前記外側導電性高分子層に間に配置され、
前記内側導電性高分子層は、導電性高分子が水に溶解又は分散して構成された第1高分子液を用いて形成され、
前記外側導電性高分子層は、導電性高分子が水に溶解又は分散して構成された第2高分子液を用いて形成され、
第2高分子液のpHは、第1高分子液のpHよりも低い、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、光受容性タンパク質であるバクテリオロドプシン(適宜、「bR」と略称する。)を用いた光電変換素子が用いられている。特許文献1では、bR層を挟む作用極と対極の両方がITO基板で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような光電変換素子では、対極の仕事関数を変化させることができればその特性を変化させることができる可能性があるが、ITOの仕事関数を自由に変化させることは容易ではない。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、光受容性タンパク質を用いた光電変換素子において、対極の仕事関数を容易に変化させることができる、光電変換素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、作用極と、光受容層と、対極をこの順に備える光電変換素子であって、前記対極は、第1導電性高分子層を備え、前記光受容層は、光受容性タンパク質を含む、光電変換素子が提供される。
【0007】
本発明の光電変換素子は、対極が導電性高分子層を有する点を特徴としている。導電性高分子層の仕事関数は変化させやすいので、本発明によれば、対極の仕事関数を容易に変化させることができる光電変換素子が得られる。
【0008】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記記載の光電変換素子であって、前記光受容性タンパク質は、バクテリオロドプシンである、光電変換素子である。
好ましくは、前記記載の光電変換素子であって、前記作用極は、第2導電性高分子層を備える、光電変換素子である。
好ましくは、前記記載の光電変換素子であって、前記作用極の表面抵抗は、前記対極の表面抵抗よりも高い、光電変換素子である。
好ましくは、前記記載の光電変換素子であって、前記作用極は、導電性無機材料層を備える、光電変換素子である。
好ましくは、前記記載の光電変換素子であって、前記対極の仕事関数は、前記作用極の仕事関数と同じか、それよりも小さい、光電変換素子である。
好ましくは、前記記載の光電変換素子であって、第1導電性高分子層は、内側導電性高分子層と外側導電性高分子層を備え、前記内側導電性高分子層は、前記光受容層と前記外側導電性高分子層に間に配置され、前記内側導電性高分子層は、前記外側導電性高分子層よりも、仕事関数が小さく、且つ表面抵抗が大きい、光電変換素子である。
好ましくは、前記記載の光電変換素子であって、前記光電変換素子は、前記光受容層への光の入射が検出可能に構成された光検出素子である、光電変換素子である。
好ましくは、前記記載の光電変換素子であって、前記光検出素子は、前記光受容層への光の入射位置が検出可能に構成された光位置検出素子である、光電変換素子である。
好ましくは、前記記載の光電変換素子であって、前記光受容層と前記対極の間に電解質層を備える、光電変換素子である。
好ましくは、前記記載の光電変換素子であって、前記電解質層は、ゲル化された電解質溶液で構成される、光電変換素子である。
好ましくは、前記記載の光電変換素子であって、前記光電変換素子は、前記光受容層へ入射光が入射している間に継続的に光電力を出力するように構成された光発電素子である、光電変換素子である。
好ましくは、前記記載の光電変換素子であって、前記光受容層と第1導電性高分子層が直接接触している、光電変換素子である。
好ましくは、前記記載の光電変換素子の製造方法であって、第1導電性高分子層は、導電性高分子が水に溶解又は分散して構成された高分子液を用いて形成され、前記高分子液のpHは、3.5~8.0である、方法である。
好ましくは、前記記載の光電変換素子の製造方法であって、第1導電性高分子層は、内側導電性高分子層と外側導電性高分子層を備え、前記内側導電性高分子層は、前記光受容層と前記外側導電性高分子層に間に配置され、前記内側導電性高分子層は、導電性高分子が水に溶解又は分散して構成された第1高分子液を用いて形成され、前記外側導電性高分子層は、導電性高分子が水に溶解又は分散して構成された第2高分子液を用いて形成され、第2高分子液のpHは、第1高分子液のpHよりも低い、方法である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態の光電変換素子1の構成を示す断面図である。
【
図2】
図1の光電変換素子1に光を照射したときに検出される光電流の例を示すグラフである。
【
図3】
図1の光電変換素子1の製造工程を示し、
図3Aは、作用極3及び対極6を形成した後の状態を示し、
図3Bは、
図3Aの状態から、光受容層4を形成し、スペーサー8を配置した後の状態を示す。
【
図4】本発明の第2実施形態の光電変換素子1の構成を示す断面図である。
【
図5】実施例1の光電変換素子1を用いた位置検出実験の結果を示すグラフである。
【
図6】実施例2の光電変換素子1を用いた発電実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0011】
1.第1実施形態
1-1.光電変換素子1の構造
図1に示すように、本発明の第1実施形態の光電変換素子1は、作用極基板2と、作用極3と、光受容層4と、電解質層5と、対極6と、対極基板7を備える。作用極3には、互いに離間されて配置された複数の作用極端子31,32が設けられており、対極6には、複数の対極端子61,62が設けられている。作用極端子31と対極端子61は、互いに対向する位置に配置されている。作用極端子32と対極端子62は、互いに対向する位置に配置されている。作用極端子31と対極端子61の組は、作用極3の一端近傍に配置され、作用極端子32と対極端子62の組は、作用極3の他端近傍に配置されている。
【0012】
<作用極基板2、作用極3>
作用極基板2は、作用極3を支持するための基板であり、ガラス板や樹脂(例:PET)フィルムなどで構成される。作用極基板2は透明であることが好ましい。作用極基板2は不要な場合は省略可能である。
【0013】
作用極3は、光受容層4に隣接した電極であり、導電性を有する任意の材料で形成可能である。作用極3は、透明導電膜で構成されることが好ましい。透明導電膜は、導電性高分子で構成された導電性高分子層で構成されたものであってもよく、導電性無機材料(ITO、FTOなど)で構成された導電性無機材料層で構成されたものであってもよく、両者が積層されたものであってもよい。
【0014】
導電性高分子は、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0015】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、PEDOT:PSSが特に好ましい。PEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)はp型ドーピング状態が極めて安定であり、高い導電性及び透明性を有する。難溶性のPEDOTに水溶性高分子のPSS(ポリスチレンスルホン酸)をドーピングして乳化重合することでPEDOT:PSSを得る。PSSがアクセプターとしてPEDOTから電子を奪うことで導電性が発現する.ドーピングにより難溶性のPEDOTを安定させて水溶液に分散させることができる。この水分散液を塗布することによって、導電性高分子層を容易に形成することができる。
【0016】
導電性高分子が水溶性である場合には、導電性高分子が水に溶解して構成した高分子水溶液を用いて導電性高分子層を形成することができる。つまり、導電性高分子層は、導電性高分子が水に溶解又は分散して構成された高分子液を用いて形成することができる。導電性高分子(例:PEDOT:PSS)の高分子液(例:水分散液)のpHは、3.5~8.0であることが好ましい。作用極3の導電性高分子層は光受容層4に接触するので、この導電性高分子層を形成するための高分子液のpHが低いと、光受容性タンパク質の生体機能が阻害されてしまうためである。このpHは、4.0~7.0が好ましく、具体的には例えば、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0017】
<光受容層4>
光受容層4は、光受容性タンパク質を含む層である。光受容性タンパク質とは、光の照射に伴ってプロトンを可逆的に放出するタンパク質である。光受容性タンパク質としては、バクテリオロドプシンが挙げられる。バクテリオロドプシンは、(a)プロトン輸送過程がサイクル反応であるので、光刺激の繰り返しに耐えうるため工学応用には望ましい、(b)きわめて安定性が高く140°C以上の温度でも変性しない、(c)浸透圧で破壊した細胞膜画分を密度勾配遠心にかけるといった簡単な操作で純粋なバクテリオロドプシンを大量に得られる等の優れた性質を有するので、好ましい。
【0018】
光受容層4の厚さは、例えば、10~300nmであり、20~200nmが好ましい。この厚さは、具体的には例えば、10、20、50、100、150、200、250、300nmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0019】
光受容性タンパク質によるプロトンの放出に伴って光電変換素子1によって構成されるコンデンサの帯電状態が変化する。この過程で外部回路を通じて電荷が移動するので、
図2に示すように、作用極端子31と対極端子61の間及び作用極端子32と対極端子62の間にそれぞれ光電流I
ONが観測される。つまり、光の照射に対して微分応答して光電流I
ONが出力される。また、光の照射を停止すると、光受容性タンパク質がプロトンを取り込むことによって、作用極端子31と対極端子61の間及び作用極端子32と対極端子62の間にそれぞれ逆特性の光電流I
OFFが観測される。つまり、光の照射停止に対して微分応答して光電流I
OFFが出力される。
【0020】
光電流IONを検出することによって、光受容層4への光の入射が検出可能である。従って、光電変換素子1は、光検出素子として機能する。この光検出素子は、バイアス電源なしで動作可能である。この場合、作用極端子と対極端子の組は、1つでよい。
【0021】
また、作用極端子31と対極端子61の間に検出される光電流をI1とし、作用極端子32と対極端子62の間に検出される光電流をI2とすると、全電流I=I1+I2であり、I1とI2の比率は、光の入射位置に依存して変化する。このため、I、I1、I2に基づいて、光の入射位置を決定することができる。この観点では、光電変換素子1は、光受容層4への光の入射位置が検出可能に構成された光位置検出素子である。光位置検出素子が一次元の位置を検出する場合、作用極端子と対極端子の組は2つ必要である。一方、光位置検出素子が二次元の位置を検出する場合、作用極端子と対極端子の組は4つ必要である。
【0022】
光電変換素子1が光受容層4への光の入射の有無のみを検出する素子である場合、作用極3は、電気抵抗が小さいことが好ましく、作用極3は、ITO、FTOなどのように導電性が高い材料で形成することが好ましい。
【0023】
一方、光電変換素子1が光位置検出素子である場合、入射位置に応じてI1aとI1bの比率が大きく変化することが好ましいので、作用極3の電気抵抗はある程度大きいことが好ましい。一般に、導電性高分子は、ITOやFTOよりも電気抵抗が大きくなりやすいので、光電変換素子1が光位置検出素子である場合、作用極3は導電性高分子で形成することが好ましい。この場合、作用極3の表面抵抗は、100~600Ω/sqが好ましく、200~500Ω/sqがさらに好ましい。この表面抵抗は、具体的には例えば、100、200、300、400、500、600Ω/sqであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。また、作用極3の厚さは、0.05~1μmが好ましく、0.1~0.5μmがさらに好ましい。この厚さは、具体的には例えば、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0μmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。導電性高分子層の表面抵抗は、導電性高分子層の厚さを変えたり、導電性高分子層の形成に用いる高分子液のpHを変えることによって、変化させることができる。
【0024】
<電解質層5、スペーサー8>
電解質層5は、電解質で構成された層である。電解質層5は、光受容層4と対極6を電気的に接続する機能と、光受容層4からのプロトン放出を促進する機能を有する。
【0025】
電解質層5は、ゲル化された電解質溶液で構成されることが好ましい。対極6の導電性高分子がPEDOT:PSSのように水分散性を有する場合、耐湿性が低いので、電解質溶液をゲル化する技術的意義が特に顕著である。また、ゲル化された電解質層5によって光受容層4と対極6が接着されるので光電変換素子1の組み立てが容易になる。
【0026】
電解質溶液は、KClを含むことが好ましく、HEPES(2-[4-(2-hydroxyethyl)piperazin-1-yl]ethanesulfonic acid)を含むことがさらに好ましい。電解質溶液のpHは、6~10が好ましく、7~9がさらに好ましく、7.5~8.5がさらに好ましい。
【0027】
電解質溶液のゲル化は、電解質溶液とゲル化剤を混合することによって行うことができる。ゲル化剤としては、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルキチン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。電解質層5全体に対するゲル化剤の配合量は、例えば、2~20質量%であり、5~15質量%が好ましい。
【0028】
電解質層5は、作用極3と対極6の間にスペーサー8を配置し、スペーサー8の開口内に電解質溶液とゲル化剤を混合したものを流し込むことによって形成することができる。
【0029】
<対極6、対極基板7>
対極基板7は、対極6を支持するための基板であり、ガラス板、樹脂(例:PET)フィルム、Alなどの金属板などで構成される。対極基板7は、透明であっても不透明であってもよい。対極基板7は、金属板であることが好ましい。この場合、作用極側から入射した光が対極基板7で反射されて光受容層4に再度入射するので、光検出の感度が高められる。対極基板7は不要な場合は省略可能である。
【0030】
対極6は、導電性高分子層6aを備える。対極6は、導電性高分子層6aの単層構造であってもよく、複数の導電性高分子層の積層構造であってもよく、導電性高分子層と他の導電層の積層構造であってもよい。他の導電層としては、導電性無機材料(ITO、FTOなど)で構成された導電性無機材料層や、AlやCuなどの金属で構成された金属層などが挙げられる。何れの場合でも、電解質層5に最近接の層は、導電性高分子層6aであることが好ましい。
【0031】
導電性高分子は、作用極3に関連した説明した通りである。導電性高分子層6aの仕事関数は変化させやすいので、本実施形態によれば、対極6の仕事関数を容易に変化させることができる光電変換素子1が得られる。
【0032】
例えば、導電性高分子がPEDOT:PSSである場合、後掲の表1に示すように、導電性高分子層6aの形成に用いる高分子液のpHを変化させることによって、導電性高分子層6aの仕事関数を変化させることができる。また、表1に示すように、高分子液のpHを変化させることによって、導電性高分子層6aの表面抵抗を変化させることができることが分かる。
【0033】
対極6及び作用極3の導電性高分子層を形成するための導電性高分子(例:PEDOT:PSS)の高分子液のpHをそれぞれpHc,pHaとすると、pHc≧pHaであることが好ましく、pHc>pHaであることがさらに好ましい。この場合、対極6の仕事関数Ecが、作用極3の仕事関数Eaと同じかこれよりも低くなる。つまり、Ec≦Ea(好ましくはEc<Ea)となる。光電変換素子1への光照射時には、対極6から抜け出た電子が外部回路を通って作用極3に入るように光電流が流れる。このため、Ec≦Eaの関係が成立することによって、電子が流れやすくなり、光検出感度が高くなる。(Ea-Ec)の値は、例えば、0~2であり、具体的には例えば、0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2.0であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0034】
pHcは、3.5~8.0であることが好ましい。pHcは、4.0~7.0が好ましく、具体的には例えば、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。(pHc-pHa)の値は、例えば0~4.5であり、具体的には例えば、0、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0035】
対極6の表面抵抗は、10~200Ω/sqが好ましく、20~80Ω/sqがさらに好ましい。この表面抵抗は、具体的には例えば、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200Ω/sqであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。また、作用極3の厚さは、0.5~10μmが好ましく、1~5μmがさらに好ましい。この厚さは、具体的には例えば、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10μmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0036】
1-2.光電変換素子1の製造方法
図3を用いて、光電変換素子1の製造方法の一例について説明する。
【0037】
まず、
図3Aに示すように、作用極基板2上に作用極3を形成し、対極基板7上に対極6を形成したものを準備する。作用極3及び対極6が導電性高分子で構成される場合、導電性高分子の高分子液を作用極基板2及び対極基板7のそれぞれに塗布して乾燥させることによって作用極3及び対極6を形成することができる。高分子液の塗布は、例えばスピンコーターやバーコーターを用いて行うことができる。
【0038】
次に、作用極3に作用極端子31,32を取り付け、対極6に対極端子61,62を取り付ける。作用極端子31,32及び対極端子61,62は、例えば、銀ペーストを用いて取り付けることができる。この工程は、別のタイミングで行ってもよい。
【0039】
次に、
図3Bに示すように、作用極3上に光受容層4を形成する。この工程は、例えば、光受容性タンパク質の懸濁液を作用極3上にコーティングした後に乾燥させることによって実行可能である。コーティング方法としては、スプレーコーティング、スピンコーティング、バーコーティング、ディップコーティングなどが挙げられる。
【0040】
次に、
図3Bに示すように、作用極3上に、開口8aを有するスペーサー8を配置し、開口8a内にゲル化した電解質溶液を充填し、その上に対極6を乗せる。ゲル化した電解質溶液が糊の役割を果たして各種部材が一体化され、光電変換素子1の製造が完了する。
【0041】
1-3.光電変換素子1によって奏される効果
本実施形態の光電変換素子1は、ウェットプロセスのみで形成することができ、真空蒸着装置が不要である。このため、大面積化が容易である。光電変換素子1は、安価な材料のみで形成することができるので、製造コストの低減が可能である。さらに、低環境負荷で持続可能な材料が利用可能であるため、特別な廃棄処理を不要にすることができる。
【0042】
さらに、光電変換素子1は、レアメタル、金属を用いない全有機デバイスにすることができる。また、導電性高分子層は、ITOなどの導電性無機材料層よりもフレキシブルであるので、本実施形態の光電変換素子1は、従来よりも、フレキシブル性を向上させることができる。
【0043】
また、半導体で作成した光位置検出素子は、基板端部分の表面抵抗が高くなる問題があるが、本実施形態では、導電性高分子をインクジェット法でパターニングすることによって表面抵抗の面内分布を自由に補正することができる。
【0044】
2.第2実施形態
2-1.光電変換素子1の構造
図4に示すように、本発明の第2実施形態の光電変換素子1は、作用極基板2と、作用極3と、光受容層4と、対極6を備える。この光電変換素子1は、電解質層5を備えない乾式素子であり、光受容層4と、対極6の導電性高分子層6aが直接接触している。このような光電変換素子1は、光受容層4へ入射光が入射している間に継続的に光電力を出力するように構成された光発電素子となる。作用極3には作用極端子3cが取り付けられ、対極6には、対極端子6cが取り付けられる。端子3c,6cを通じて、発電された電力が取り出される。
【0045】
<作用極基板2、作用極3>
作用極基板2、作用極3の説明は、第1実施形態と同様である。
【0046】
<光受容層4>
光受容層4の構成の説明は、第1実施形態と同様である。但し、本実施形態では、光の照射に対して微分応答した後に光電流の出力が停止されるのではなく、微分応答の後、光の照射が継続している間は、光電流の出力が継続する点が第1実施形態とは異なっている。
【0047】
<対極6>
本実施形態では、対極6は、光受容層4上に形成される。このため、第1実施形態のような対極基板は不要である。なお、対極基板上に対極6を形成した後に、対極6を光受容層4に接触させるようにしてもよいが、この形態では、対極6と光受容層4が接触しにくいので、対極6は、光受容層4上に形成することが好ましい。
【0048】
対極6の説明は、基本的に、第1実施形態と同様であるが、本実施形態では、対極6の導電性高分子層6aは、内側導電性高分子層6a1と外側導電性高分子層6a2を備えることが好ましい。内側導電性高分子層6a1は、光受容層4と外側導電性高分子層6a2に間に配置される。このため、内側導電性高分子層6a1が光受容層4に接触する。
【0049】
内側導電性高分子層6a1と外側導電性高分子層6a2を形成するための導電性高分子(例:PEDOT:PSS)の高分子液のpHをそれぞれpH1,pH2とすると、以下のことが言える。
【0050】
pH1は、3.5~8.0であることが好ましい。内側導電性高分子層6a1は、光受容層4に接触するので、pH1が低いと、光受容性タンパク質の生体機能が阻害されてしまうためである。pH1の具体的な値は、pHcと同様である。
【0051】
pH2<pH1であることが好ましい。外側導電性高分子層6a2は、光受容層4に接触しないので、pH2を低くしても、光受容性タンパク質の生体機能が阻害されることがない。また、表1に示すように、高分子液のpHを大きくするほど、導電性高分子層の導電率が低くなる(つまり、厚さが同じときの表面抵抗が大きくなる)ので、pH2<pH1とすることによって、外側導電性高分子層6a2の導電率を向上することができる。また、表1に示すように、高分子液のpHを大きくするほど、導電性高分子層の仕事関数が小さくなる。従って、pH2<pH1とすることによって、外側導電性高分子層6a2に比べて、内側導電性高分子層6a1の仕事関数が小さくなり、導電率も小さくなる。
【0052】
(pH1-pH2)の値は、例えば、0.5~8であり、1~5が好ましい。この値は、具体的には例えば、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0053】
内側導電性高分子層6a1と外側導電性高分子層6a2の厚さをそれぞれT1,T2とすると、T1,T2は、それぞれ、0.1~30μmであり、具体的には例えば、0.1、0.5、1、5、10、15、20、25、30μmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。T1/T2は、例えば、0.01~10であり、具体的には例えば、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0054】
2-2.光電変換素子1の製造方法
本実施形態の光電変換素子1の製造方法は、作用極基板2上に、作用極3、光受容層4を形成する工程までは、第1実施形態と同様の方法で行うことができる。
【0055】
次に、導電性高分子の高分子液を光受容層4上に塗布して乾燥させることによって、対極6を形成することができる。
【0056】
次に、銀ペーストなどを用いて、作用極3及び対極6に端子3c,6cを取り付けることによって、光電変換素子1の製造が完了する。
【0057】
2-3.光電変換素子1によって奏される効果
第1実施形態について述べた効果は、本実施形態の趣旨に反しない限り、本実施形態にも当てはまる。また、本実施形態の光電変換素子1は、電解質を用いない乾式素子であるので、長寿命である。さらに、バイアス電源を必要とせずに、発電を行うことができる。
【実施例0058】
以下、本発明の実施例について説明する。以下に示す、実施例1~2は、それぞれ、第1及び第2実施形態の光電変換素子1に対応する。
【0059】
1.実施例1
1-1.光電変換素子1の製造
<作用極3の形成>
まず、導電性高分子(PEDOT:PSS、綜研化学株式会社製、型式:VERAZOL WED-SM)の乾燥粉末品(20%の水を含む)を純水に加えて濃度4w%程度に調整し、次にpH緩衝剤HEPES(富士フィルム和光純薬株式会社製,販売元 346-01373,JAN 4987481518575)をHEPESの濃度が0.01mol/Lとなるように加えて撹拌し、さらに濡れ剤(ビックケミー社製、型式:BYK-3410)を10w%となるよう添加し、撹拌した。次に、NaOHの1N水溶液(pH13.1)をpHが4.5になるまで滴定し、最後に高分子濃度が3.0w%となるように純水を加えることによって、高分子液を得た。
【0060】
次に、この高分子液をwet膜厚が4μmになるようにガラス板上にバーコーターで塗布し、その後、110℃で10分のアニールを行った。このアニールの後、DMSOでリンス処理してさらに90℃で10分のアニールを行うことによって、作用極3となる導電性高分子層が得られた。この導電性高分子層は、厚さ180nm、表面抵抗333Ω/sq、透過率81%であった。
【0061】
なお、導電性高分子層の厚さは,触針式表面形状測定器(Dektak 150)という装置を用い、一部スクラッチした膜の段差を測定し、膜厚を求めた。表面抵抗は、4探針法によって求めた。透過率は,可視分光法により求めた。以下同様である。
【0062】
<光受容層4の形成>
次に、2回目のアニールの後、1時間常温に置いてから、バクテリオロドプシンの懸濁液をスプレーした後に乾燥させることによって、厚さ100nmの光受容層4を形成した。バクテリオロドプシンの懸濁液は、バクテリオロドプシンを純水に懸濁して濃度を1mg/mLに調整し、超音波粉砕機を用いて均一な懸濁液にしたものを用いた。
【0063】
<対極6の形成>
pHを表1に示す種々の値にした以外は、上記と同様の方法で高分子液を得た。この高分子液を種々の膜厚でガラス板上にバーコーターで塗布し、その後、110℃で10分のアニールを行った。このアニールの後、DMSOでリンス処理してさらに90℃で10分のアニールを行うことによって、対極6となる導電性高分子層が得られた。この導電性高分子層の厚さ、表面抵抗、透過率は、表1に示す通りであった。なお、表1中の仕事関数は、紫外光電子分光法(UPS)で求めたものである。
【0064】
【0065】
<光電変換素子1の組み立て>
銀ペーストを用いて作用極3に作用極端子31,32を取り付け、対極6に対極端子61,62を取り付けた。次に、作用極3上に厚さ10mmで開口面積38mm×10mmのスペーサー8を配置し、スペーサー8内にゲル化電解質を充填した後、対極6を載せて、ゲル化電解質を乾燥させて電解質層5を形成した。電解質層5によって作用極3と対極6が接触される。
【0066】
ゲル化電解質は、電解質溶液(KCL:500mmol/L、pH緩衝液(HEPES)10mmol/L、pH8.1)にゲル化剤(ポリビニルアルコール)を10wt%添加したものを用いた。
【0067】
1-2.光照射実験
作製した素子に対して、波長532nm、入射光強度50mW/cm2、ビーム径φ=5mmのレーザー光を連続的に照射したときに発生する光電流のピーク出力、立ち上がり時間、減衰時間を求めた。その結果を表1に示す。表1に示すように、対極6を形成するための高分子液のpHが4.5又は7.0である場合に、ピーク出力が特に高かった。
【0068】
1-3.位置検出実験
作製した素子に対して、波長532nm、入射光強度4.8mW/cm
2、ビーム径φ=1.5mmのレーザー光を500μm間隔で照射したときの照射位置を作用極端子31と対極端子61の組から検出される光電流I1と、作用極端子32と対極端子62の組から検出される光電流I2に基づいて算出した。実際の照射位置と算出された照射位置の関係を
図5に示す。非線形性は1.69%であり、十分許容範囲内である。
【0069】
2.実施例2
2-1.光電変換素子1の製造
ガラス基板上にFTOからなる作用極3がコーティングされた作用極基板(アズワン株式会社販売,型番 NPV-CFT2-7D,JAN 4571446030044)をバクテリオロドプシンの懸濁液に浸漬させた後に引き上げ、乾燥させることによって、作用極3上に光受容層4を形成した。この工程は、室温24.5℃、湿度60%、液温14℃、引き上げ速度2mm/s、懸濁液濃度8.3mg/mLで行った。得られた光受容層4の厚さは、40nmであった。
【0070】
次に、pHを1,9,3.0,4.5,6.0,7.5,10に変更した以外は、上記と同様の方法で高分子液を得た。
【0071】
次に、この高分子液を乾燥厚さが10μmとなるように光受容層4上にバーコーターで塗布し、その後、110℃で10分のアニールを行うことによって、対極6を形成した。なお、サンプルS7及びS8については、pH4.5の高分子液を用いて第1層を形成した後に、pH1.9の高分子液を用いて第2層を形成することによって、対極6を形成した。
【0072】
次に、銀ペーストを用いて作用極3及び対極6に端子3c,6cを取り付けて、光電変換素子1を作製した。
【0073】
対極6の形成条件が異なる8つのサンプルS1~S8の詳細を表2に示す。
【0074】
【0075】
2-2.発電実験
作製した素子に対して、波長532nm、入射光強度50mW/cm
2、ビーム径φ=5mmのレーザー光を照射したときに端子3c,6cから検出される光電流を測定した。その結果を
図6に示す。
【0076】
図6を参照すると、湿式光電変換素子で見られる典型的な微分応答の後に、光照射中持続的に発生する微弱光電流が発生していることが分かる。これは、本実施例の光電変換素子がショットキー太陽電池として機能していることを示している。また、
図6及び表2を参照すると、pH1.9(S1)又はpH3.0(S2)の強酸性条件のときには、表面抵抗か゛低い(つまり、導電率が高い)にも関わらす゛、電流振幅は小さく、pH4.5(S3)て゛最高出力を示すことが分かる。この結果は、生体材料であるbRは強酸性に弱く、pH4.5の弱酸性で親和性が保障されることがわかる。pH6.0(S4)、pH7.5(S5)になると、表面抵抗の増加(導電率の減少)に伴って振幅は減少するが、塩基性pH10(S6)になると逆極性になり、振幅か゛回復した。bRのLUMOとPEDOT:PSSの仕事関数(-3.8eV)か゛同等になったため、電流の向きか゛反転したと考えられる。さらに、サンプルS7では、pH4.5のポリマーを薄膜化(0.5μm)してbR保護に用い、その上に導電率の高いpH1.9のポリマー(10μm)を積層したところ、出力はpH4.5単層膜(S3)の1.3倍に向上した。さらに、サンプルS8では、pH4.5の第1層(10μm)上に導電率の高いpH1.9の第2層(10μm)を積層したところ、出力は、サンプルS7の1.1倍に向上した。