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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026617
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】溶接治具
(51)【国際特許分類】
   B23K 37/00 20060101AFI20220203BHJP
   B23K 9/32 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
B23K37/00 A
B23K9/32 E
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020130175
(22)【出願日】2020-07-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】520287080
【氏名又は名称】合同会社明政製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】特許業務法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 明政
(57)【要約】
【課題】簡単な構造でありながら、溶接トーチの手振れ防止を図ることができ、あわせて火花の飛散防止やスパッタの溶接対象物への付着防止を図ることができる溶接治具を提供する。
【解決手段】部材35を平板31上に隅肉溶接するときに用いる溶接治具1であって、底板2と、底板2の上側に設け、溶接トーチ20のノズル21又はその近傍を支持する支持板3とを備えており、溶接治具1を平板31上に搭載し、部材35の隅肉溶接をするときにおいて、部材35側を前側とすると、底板2と支持板3との間に、前側が開放され後側が閉塞した空間9を形成しており、支持板3の前側に溶接トーチのノズル又はその近傍を乗せて、支持板3上でノズル21又はその近傍を摺動させながら隅肉溶接ができるようにしている。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材を平板上に隅肉溶接するときに用いる溶接治具であって、
底板と、
前記底板の上側に設け、溶接トーチのノズルを支持する支持板とを備えており、
前記溶接治具を前記平板上に搭載し、前記部材の前記隅肉溶接をするときにおいて、
前記部材側を前側とすると、
前記底板と前記支持板との間に、前側が開放され後側が閉塞した空間を形成しており、
前記支持板の前側に前記溶接トーチのノズル又はその近傍を乗せて、前記支持板上で前記ノズル又はその近傍を摺動させながら前記隅肉溶接ができるようにしたことを特徴とする溶接治具。
【請求項2】
前記支持板は、前側に比べ後側が低くなるように傾斜した傾斜面を有している請求項1に記載の溶接治具。
【請求項3】
前記底板は、前側の端部にテーパ面が形成されている請求項1又は2に記載の溶接治具。
【請求項4】
前記支持板は金属材料で形成されており、前側を下方に曲げた曲げ部で前記ノズル又はその近傍を乗せる部分を形成している請求項1から3のいずれかに記載の溶接治具。
【請求項5】
前記溶接治具を前記平板上に載置したときに、載置状態を安定させるために、前記底板からの出代が調整可能な調整具を備えている請求項1から4のいずれかに記載の溶接治具。
【請求項6】
前記底板と前記支持板とが別部品であり、前記調整具は前記底板に前記支持板を固定する固定具を兼ねている請求項5に記載の溶接治具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材を平板上に隅肉溶接するときに用いる溶接治具に関する。
【背景技術】
【0002】
土木・建築用の鋼材として、H形鋼と呼ばれる鋼材が知られている。H形鋼は、一対の対向するフランジがウェブで接続されたものである。H形鋼に他のH形鋼を例えば直交させて接続させるには、ガセットプレート、スチフナー、リブと呼ばれる部材が用いられる。この接合は、例えばガセットプレートを予め一方のH形鋼に固定しておき、ガセットプレート及び他方のH形鋼に設けた穴にボルトを締め付けることにより行われる(特許文献1参照)。
【0003】
ガセットプレート等は、H形鋼へ溶接により固定される。溶接の際にはガセットプレート等をH形鋼のウェブ上に直立させた状態で、ガセットプレート等の下端部とウェブとの間が隅肉溶接される。隅肉溶接にはアーク溶接が用いられ、アーク溶接は、溶接トーチ先端を溶接位置に向け、溶接トーチをガセットプレート等の下端部の辺方向に移動させながら行う。
【0004】
溶接トーチを用いた溶接作業を手作業で行うと、作業負担が大きく、手振れによる溶接精度も問題となる。この点、特許文献2では、溶接トーチをロボットに取り付け、ロボットにティーチングした後、自動溶接を行うようにしている。また、溶接作業中においては、火花やスパッタの飛散が問題となる。特許文献3には、H形鋼のウェブとフランジを溶接するときに発生する火花を落とし込んで、火花の周辺への飛散を防止する火花飛散防止ボックスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-76232号公報
【特許文献2】特開昭59-178183号公報
【特許文献3】特開2018-118305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示されているロボットによる自動溶接は、作業負担は軽減されるが、高額なロボットを導入する必要があり設備投資の面で負担となる。また、ロボットによる自動溶接を行うというだけでは、火花やスパッタの飛散防止を図ることはできず、別途対策が必要であった。
【0007】
特許文献3に記載の火花飛散防止ボックスは、ある程度の大きさがあり、開閉扉を備えたものであり、小型で簡単な構造であるとはいえず、取り扱いが容易なものではなかった。また、火花飛散防止ボックスを用いることにより、火花の周辺への飛散を防止することはできるが、H形鋼へのスパッタの付着防止を図るものではなかった。
【0008】
本発明は前記のような従来の問題を解決するものであり、簡単な構造でありながら、溶接トーチの手振れ防止を図ることができ、あわせて火花の飛散防止やスパッタの溶接対象物への付着防止を図ることができる溶接治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の溶接治具は、部材を平板上に隅肉溶接するときに用いる溶接治具であって、底板と、前記底板の上側に設け、溶接トーチのノズルを支持する支持板とを備えており、前記溶接治具を前記平板上に搭載し、前記部材の前記隅肉溶接をするときにおいて、前記部材側を前側とすると、前記底板と前記支持板との間に、前側が開放され後側が閉塞した空間を形成しており、前記支持板の前側に前記溶接トーチのノズル又はその近傍を乗せて、前記支持板上で前記ノズル又はその近傍を摺動させながら前記隅肉溶接ができるようにしたことを特徴とする。
【0010】
前記本発明の溶接治具によれば、底板と支持板とで本体部分を構成した簡単な構造でありながら、支持板上で溶接トーチのノズル又はその近傍を摺動させながら隅肉溶接を行うことで、溶接トーチの手振れ防止を図ることができ、あわせて、底板と支持板との間に形成した空間により、火花の飛散防止やスパッタの溶接対象物への付着防止を図ることができる。
【0011】
前記本発明の溶接治具においては、以下の各構成とすることが好ましい。前記支持板は、前側に比べ後側が低くなるように傾斜した傾斜面を有していることが好ましい。この構成によれば、傾斜面と溶接トーチとの間の空間が大きくなり、溶接中に高温となる支持板に作業者の手が触れにくくなる。また、支持板を矩形状断面とする場合に比べ、短い展開寸法で高さを確保できるので、軽量化に有利になる。さらに、傾斜面の角度を適宜設定することにより、高さ及び長さを維持して、溶接治具の機能を損なうことなく軽量化を図ることができる。
【0012】
前記底板は、前側の端部にテーパ面が形成されていることが好ましい。この構成によれば、テーパ面を有することにより、火花やスパッタの跳ね返りを防止でき、火花やスパッタが空間へ流動され易くなる。
【0013】
前記支持板は金属材料で形成されており、前側を下方に曲げた曲げ部で前記ノズル又はその近傍を乗せる部分を形成していることが好ましい。この構成によれば、曲げ部で形成される曲面部をノズル又はその近傍の摺動部として活用できる。また、前側に曲げ部を形成することにより、溶接対象物側である前側が補強されるので、支持板の熱変形防止に有利になる。
【0014】
前記溶接治具を前記平板上に載置したときに、載置状態を安定させるために、前記底板からの出代が調整可能な調整具を備えていることが好ましい。この構成によれば、平板の平面度が低くても、調整具の出代調整により、溶接治具の平板上での載置状態を安定させることができる。
【0015】
前記底板と前記支持板とが別部品であり、前記調整具は前記底板に前記支持板を固定する固定具を兼ねていることが好ましい。この構成によれば、底板と支持板を固定するための作業や固定具を別途追加する必要がないので、溶接治具の作成が容易になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果は前記のとおりであり、本発明によれば、底板と支持板とで本体部分を構成した簡単な構造でありながら、支持板上で溶接トーチのノズル又はその近傍を摺動させながら隅肉溶接を行うことで、溶接トーチの手振れ防止を図ることができ、あわせて、底板と支持板との間に形成した空間により、火花の飛散防止やスパッタの溶接対象物への付着防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る溶接治具を用いて、溶接作業を行っている様子を示す斜視図。
図2図1の側面図。
図3図1に示した溶接治具のAA線における断面図を含む側面図。
図4図2のBB線における断面図。
図5】本発明の一実施形態において、H形鋼のウェブ上に溶接治具を載置する直前の状態を示した斜視図。
図6】本発明の一実施形態において、H形鋼のウェブ上に溶接治具を載置した状態を示した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の一実施形態に係る溶接治具1を用いて、溶接作業を行っている様子を示す斜視図である。本図はH形鋼30(図5参照)のウェブ31にガセットプレート35を溶接している様子を示している。図示の便宜のため、ウェブ31の両側のフランジ32、33(図5参照)の図示は省略している。本実施形態では、H形鋼30に溶接する部材としてガセットプレート35の例で説明するが、スチフナーやリブであってもよい。
【0019】
ウェブ31にガセットプレート35を溶接することにより、H形鋼30にガセットプレート35を介して他のH形鋼を接続させることができる。孔36は、他のH形鋼にボルトを締め付けるための孔である。
【0020】
図1において、溶接治具1の支持板2上にアーク溶接を行う溶接トーチ20のノズル21が乗せられている。ノズル21はグリップ23に接続されたトーチボディ22の先端に取り付けられており、溶接ワイヤ25と溶接対象である母材との間にアークを発生させ、アーク熱によって溶接を行う。グリップ23にはトーチケーブルが24が接続されており、トーチケーブル24により、溶接電流、溶接ワイヤ及びシールドガスが供給される。作業者はグリップ23を握って溶接作業を行う。
【0021】
図1における溶接は、ウェブ31に垂直に立設させたガセットプレート35の下端部における隅肉溶接である。溶接時は、図1のように溶接治具1の支持板2上に溶接トーチ20のノズル21を乗せた状態で、支持板2上でノズルを摺動させることにより(矢印a方向)、溶接が進み溶接ビード38が形成されていく。本実施形態では、支持板2上にノズル21を乗せる例で説明するが、支持板2上に乗せるのは、ノズル21の近傍でもよく、ノズル21に隣接するインシュレータやトーチボディ22でもよい。
【0022】
以下、図1図3を参照しながら、溶接治具1及び溶接作業について具体的に説明する。図2図1の側面図であり、図3図1に示した溶接治具1のAA線における断面図を含む側面図である。本実施形態においては、図2のような溶接治具1の使用状態において、溶接対象部材側(ガセットプレート35側)を前側といい、これと反対側を後側という。
【0023】
図2において、ウェブ31の水平面とガセットプレート35の垂直面とが直交しており、これらの水平面と垂直面との交差部37が隅肉溶接部分である。溶接トーチ20のノズル21の先端は交差部37に向いており、交差部37近傍に溶接ビード38が形成されている。
【0024】
図2において、溶接治具1は、底板2と支持板3とで本体部分を構成している。図1に示したように底板2は平板状部材であり、支持板3は平板状部材を曲げ加工したものである。底板2及び支持板3の材料は、溶接による熱変形を防止するために金属材料であり、例えば鋼材である。
【0025】
図1において、溶接治具1の後側において、底板2と支持板3とがボルト5によって結合されている。より具体的には、図3において、ボルト5の軸部7が、スプリングワッシャ13、支持板3及び底板2を挿通し、さらにナット8と螺合することにより、底板2と支持板3とが結合されている。
【0026】
ボルト5の軸部7は、底板2から延出しており、図2のように溶接治具1をウェブ31上に載置した状態においては、底板2の前側の端部と、ボルト5の軸部7の先端がウェブ31に接している。詳細は後に説明するとおり、ボルト5の軸部7の底板2からの出代調整により、溶接治具1をウェブ31上に安定して搭載することが可能になる。
【0027】
図2において、支持板3は前側に比べ後側が低くなるように傾斜している傾斜面4を有している。平板状の底板2と傾斜面4を有する支持板3とが結合されることにより、底板2と支持板3との間に、前側が開放され後側が閉塞した空間9を形成している。傾斜面4を有していることにより、傾斜面4と溶接トーチ20との間の空間が大きくなり、溶接中に高温となる支持板3に作業者の手が触れにくくなる。また、支持板3を矩形状断面とする場合に比べ、短い展開寸法で高さを確保できるので、軽量化に有利になる。
【0028】
溶接により、火花やスパッタが飛散するが(矢印b)、これらは空間9の内周面で受け止めることができる。また、図2及び図3に示したように、底板2は前側の端部にテーパ面10が形成されている。テーパ面10を有することにより、火花やスパッタの跳ね返りを防止でき、火花やスパッタが空間9へ流動され易くなる。
【0029】
図1に示したように、溶接治具1は溶接の進行方向(矢印a)に延在しているので、ウェブ31上のうち溶接部に隣接する部分の大半は、溶接治具1の底板2で覆われている。図1において、ウェブ31の端面近傍には底板2で覆われていない部分があるが、適宜溶接治具1を移動させることにより、溶接中において、ウェブ31の全幅に亘り、溶接治具1で覆われた状態で溶接を行うことができる。
【0030】
このことにより、溶接中はウェブ31の全幅に亘り、スパッタがウェブ31上に付着するのを防止することができ、火花が作業者側に飛散するのを終始防止することができる。特に、スパッタがウェブ31上に付着すると、この除去作業は工具を用いた労力の大きな作業となるが、溶接治具1を用いることにより、このような除去作業の労力は1/10程度となる。スパッタは溶接治具1に付着するが、溶接治具1の機能は損なわれることはなく、繰り返し使用が可能である。
【0031】
前記のとおり、図2において、底板2と支持板3とがボルト5を介して結合されているが、ボルト5は固定具であるとともに、溶接治具をウェブ上に載置したときに、載置状態を安定させるための調整具でもある。底板2の裏面側の平面度が高くても、ウェブ31の平面度が低ければ、溶接治具1を安定してウェブ上に載置することはできない。載置状態が不安定であれば、溶接中において、溶接治具1のずれやガタツキが生じ、溶接作業も不安定になる。
【0032】
図2に示したように、溶接治具1をウェブ31上に載置した状態においては、底板2の前側の端部と、ボルト5の軸部7の先端がウェブ31に接している。また、図1に示したように、ボルト5は2個所に設けている。このため、溶接治具1はウェブ31上に3箇所で支持可能である。この構成では、ウェブ31の平面度が低くても、ボルト5の軸部7の底板2からの出代調整により、2個所のボルト5をウェブ31上に確実に当接させることができ、この場合底板2の前側の端部と、2個所のボルト5により、溶接治具1はウェブ31上に3箇所で支持され、載置状態が安定する。ボルト5の出代調整は、図3において、ボルト5の頭部6を回転させればよい。また、軸部7の長さの異なるボルト5に交換してもよい。
【0033】
溶接治具1を3箇所で支持するには、ボルト5は少なくとも2個設けていればよく、そのうち少なくとも1個が出代調整可能であればよい。また、本実施形態では、固定具と調整具を兼ねた部材として、ボルト5の例を示しているが、底板2と支持板3を溶接等で固定し、ボルト5は調整具専用としてもよい。調整具はボルト5に限るものではなく、ねじ類全般を用いることができる。
【0034】
以下、溶接作業について具体的に説明する。図1において、溶接時には溶接治具1の支持板3上に溶接トーチ20のノズル21を乗せる。この状態で作業者はグリップ23を握って、支持板3上でノズル21を摺動させながら溶接を行う。図4は、図2のBB線における断面図である。図4において、ノズル21が支持板3上に乗せられている。このため、溶接作業時には、ノズル21の下方への移動(矢印c方向)が規制され、意識的にノズル21を持ち上げない限り、ノズル21が支持板3から離間(矢印d方向)することもない。
【0035】
一方、溶接方向である水平方向(矢印a方向又は矢印b方向)については、ノズル21は支持板3に沿って容易に移動させることが可能である。すなわち、溶接治具1を用いることにより、溶接作業時には溶接方向以外への手振れの防止を図ることができ、容易かつ安定した溶接作業を行うことができる。
【0036】
図1において、溶接治具1の支持板3は、前側を下方に曲げた曲げ部12でノズル22を乗せる部分を形成している。このことにより、曲げ部12で形成される曲面部をノズル21の摺動部として活用できる。また、前側に曲げ部12を形成することにより、溶接対象物側である前側が補強されるので、支持板3の熱変形防止に有利になる。
【0037】
以下、図5及び図6を参照しながら、溶接治具1の設置について説明する。図5は、H形鋼30のウェブ31上に溶接治具1を載置する直前の状態を示した斜視図である。H形鋼30のウェブ31上において、フランジ32とフランジ33との間を架け渡すように、ガセットプレート35が部分的な溶接により位置決めされている。ウェブ31の水平面とガセットプレート35の垂直面との交差部37が隅肉溶接部分である。
【0038】
図6は、ウェブ31上に溶接治具1を載置した状態を示した斜視図である。図示の便宜のため、フランジ32の一部を破断している。図6において、ガセットプレート35と溶接治具1との位置関係は、図1と同じである。H形鋼30の各部の寸法は規格化されており、例えばウェブ高さH(図5参照)は100mm~900mm程度である。溶接治具1において、長さ方向をノズル21の摺動方向(図5の矢印e方向)とすると、溶接治具1の長さLがウェブ高さHに比べ所定寸法だけ短くなっていれば、図6のようにウェブ31上に溶接治具1を載置することができる。
【0039】
ウェブ高さHが大きく、溶接部である交差部37の長さが長くなると、溶接治具1を用いない場合は、溶接トーチ20(図1参照)の手振れが問題となる。このため、ウェブ高さHが例えば400mm~900mmのH形鋼用の溶接治具1として、長さLの異なる複数種類の溶接治具1を用意しておけばよい。この場合、溶接治具1の長さLがウェブ高さHに比べ多少短くても、前記のとおり、適宜溶接治具1を移動させることにより、溶接中において、ウェブ31の全幅に亘り、溶接治具1で覆われた状態で溶接を行うことができる。
【0040】
溶接治具1は、図1に示したように、持手11を設けており、持手11を掴むことにより、H形鋼30への設置やH形鋼30からの取り外しが可能になる。図5において、持手11を掴んだ状態で、ウェブ31上に溶接治具1を運ぶことができるので、両端にフランジ32、33が直立した状態であっても、溶接治具1を容易にウェブ31上に設置することができる。
【0041】
前記のとおり、溶接治具1の底板2及び支持板3は金属材料で形成されており、かつ溶接治具1の長さL(図5参照)は、例えば400mm程度以上の長さがあるため、重量も重くなる。このため、溶接治具1をウェブ31上に載置しておくだけでも、載置状態は安定するので、特別に支持具等を追加することは不要となる。
【0042】
一方、溶接治具1の長さLが長いと、重量が重くなり過ぎて取り扱いの負担となる場合がある。このため、図3において高さhを維持した状態で、支持板3の傾斜角度θを大きくして支持板3の幅W1を小さくし、これに合わせて底板2の幅W1を小さくすれば、高さh及び長さL(図5参照)を維持した状態で軽量化を図ることができる。すなわち、溶接治具1の支持板3は傾斜面4を有しているので、傾斜面4の角度を適宜設定することにより、溶接治具1の機能を損なうことなく軽量化を図ることができる。
【0043】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、前記実施形態は一例であり適宜変更したものであってもよい。例えば、底板と支持板とを1枚の板状部材で一体にしてもよく、逆に底板や支持板を複数部材を接合して形成してもよい。また、溶接治具1をH形鋼30のウェブ31上に部材を隅肉溶接するときに用いる例で説明したが、これに限るものではなく、溶接治具1は平板状に部材を隅肉溶接するときに用いることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 溶接治具
2 底板
3 支持板
4 傾斜面
5 ボルト(固定具、調整具)
9 空間
10 テーパ面
11 持手
20 溶接トーチ
21 ノズル
30 H形鋼
31 ウェブ(平板)
32,33 フランジ
35 ガセットプレート(部材)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2020-11-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材を平板上に隅肉溶接するときに用いる溶接治具であって、
底板と、
前記底板の上側に設け、溶接トーチのノズルを支持する支持板とを備えており、
前記溶接治具を前記平板上に搭載し、前記部材の前記隅肉溶接をするときにおいて、
前記部材側を前側とすると、
前記底板は、前側が前記隅肉溶接をする部分に隣接し、かつ前後方向において前記平板を覆うように配置でき、
前記底板と前記支持板との間に、前記底板及び前記支持板を内周面とし、かつ前側が開放され後側が閉塞した空間を形成しており、
前記支持板の前側に前記溶接トーチのノズル又はその近傍を乗せて、前記ノズルの下方への移動が規制された状態で、作業者が前記支持板上で前記ノズル又はその近傍を摺動させながら前記隅肉溶接ができるようにし、
前記隅肉溶接により飛散する火花及びスパッタを前記内周面で受け止めることにより、前記スパッタが前記平板上に付着するのを防止することができ、前記火花が前記作業者側に飛散するのを防止することができるようにしたことを特徴とする溶接治具。
【請求項2】
前記支持板は、前側に比べ後側が低くなるように傾斜した傾斜面を有している請求項1に記載の溶接治具。
【請求項3】
前記底板は、前側の端部にテーパ面が形成されている請求項1又は2に記載の溶接治具。
【請求項4】
前記支持板は金属材料で形成されており、前側を下方に曲げた曲げ部で前記ノズル又はその近傍を乗せる部分を形成している請求項1から3のいずれかに記載の溶接治具。
【請求項5】
前記溶接治具を前記平板上に載置したときに、載置状態を安定させるために、前記底板からの出代が調整可能な調整具を備えている請求項1から4のいずれかに記載の溶接治具。
【請求項6】
前記底板と前記支持板とが別部品であり、前記調整具は前記底板に前記支持板を固定する固定具を兼ねている請求項5に記載の溶接治具。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
図1において、溶接治具1の支持板上にアーク溶接を行う溶接トーチ20のノズル21が乗せられている。ノズル21はグリップ23に接続されたトーチボディ22の先端に取り付けられており、溶接ワイヤ25と溶接対象である母材との間にアークを発生させ、アーク熱によって溶接を行う。グリップ23にはトーチケーブルが24が接続されており、トーチケーブル24により、溶接電流、溶接ワイヤ及びシールドガスが供給される。作業者はグリップ23を握って溶接作業を行う。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
図1における溶接は、ウェブ31に垂直に立設させたガセットプレート35の下端部における隅肉溶接である。溶接時は、図1のように溶接治具1の支持板上に溶接トーチ20のノズル21を乗せた状態で、支持板上でノズルを摺動させることにより(矢印a方向)、溶接が進み溶接ビード38が形成されていく。本実施形態では、支持板上にノズル21を乗せる例で説明するが、支持板上に乗せるのは、ノズル21の近傍でもよく、ノズル21に隣接するインシュレータやトーチボディ22でもよい。