(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026653
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】グラファイト積層体、グラファイトプレート、およびグラファイト積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/373 20060101AFI20220203BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20220203BHJP
C01B 32/21 20170101ALI20220203BHJP
【FI】
H01L23/36 M
H05K7/20 F
C01B32/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020130221
(22)【出願日】2020-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】390022471
【氏名又は名称】アオイ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】七尾 勉
(72)【発明者】
【氏名】大西 範明
(72)【発明者】
【氏名】山地 範男
【テーマコード(参考)】
4G146
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146BA02
4G146CB19
4G146CB34
5E322FA04
5E322FA09
5F136FA01
5F136FA02
5F136FA03
5F136FA23
5F136GA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡単な工程で容易に高熱伝導性のグラファイト積層体、グラファイトプレート、およびグラファイト積層体を新たに提供する。
【解決手段】異方性熱伝導性を有するグラファイト積層体1であって、グラファイトフィルム層10と、平均粒径が100nm以下のナノ金属由来のナノ金属焼結層20とが交互に積層される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイトフィルム層と、平均粒径が100nm以下のナノ金属由来の金属ナノ粒子焼結層とが交互に積層され、異方性熱伝導性を有するグラファイト積層体。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子焼結層が銀ナノ粒子を含むペースト材由来である請求項1に記載のグラファイト積層体。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子焼結層の成分において、少なくとも30重量%以上が銀ナノ粒子由来であることを特徴とする請求項1または2に記載のグラファイト積層体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のグラファイト積層体を、前記グラファイトフィルム層の積層方向に切断し薄片化したグラファイトプレートであって、切断面方向よりも、前記切断面に垂直な方向において高い熱伝導性を有することを特徴とする、グラファイトプレート。
【請求項5】
グラファイトフィルム面上に金属ナノ粒子を含むペースト材を塗布する工程、
ペースト材が面上に塗布されたグラファイトフィルムを乾燥して金属ナノ粒子を含むペースト材を塗布したグラファイトフィルムとする工程、
前記ペースト材を塗布したグラファイトフィルムを多層に積層し、加圧下、250℃以下の条件において加熱処理することで、前記ペースト材が焼結し、グラファイトフィルム層と金属ナノ粒子焼結層とが交互に積層されたグラファイト積層体を得る工程、を具備することを特徴とするグラファイト積層体の製造方法。
【請求項6】
前記ペースト材を塗布する工程が、グラファイトフィルムの片面または両面に前記ペースト材を塗布する工程である、請求項5記載のグラファイト積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトフィルムを用いた高熱伝導材料であるグラファイト積層体、グラファイトプレート、およびグラファイト積層体の製造方法に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高速化、高出力化そして高密度化に伴って、発熱する搭載部品の熱対策の重要性がますます高まっている。その熱対策手段として、可能な限り熱伝導率の高い材料を構成部材として用いることが有効であり、産業界にて熱伝導性に優れた素材の採用あるいは開発が進められている。
熱伝導性の優れた素材としては金属材料の銀、銅、アルミニウムが良く知られ、放熱用ヒートシンク部材として大量に用いられている。さらに上記材料以外には、グラファイト(黒鉛)が近年注目されている。グラファイトは結晶粒子が並んだ面方向ではダイヤモンドに次いで高い熱伝導性があり、銅の3倍近い熱伝導率を有している。また逆に、結晶面の垂直方向では熱伝導率は結晶面に比べ1/200以下と低くいわゆる異方性熱伝導の特性を有しており、結晶が配向されているグラファイトフィルムを用いてグラファイトの異方性熱伝導性を最大限利用する検討が精力的に進められている。
従来、グラファイトフィルムは、天然黒鉛粒子の層間を硫酸などにより膨張させたのち粉砕し、鱗片状にしたものを、紙と同様な工程で抄くことにより、天然黒鉛のグラファイトフィルムが作られる。
また、ポリイミドフィルムを炭化したのちさらに3000℃近い高熱処理で黒鉛化させた合成黒鉛のグラファイトフィルムも製造販売されており、製造コストは高いものの、密度および結晶配向が天然グラファイトフィルムより格段に優れ、面方向の熱伝導率は黒鉛の理論値に近い1200W/m・K以上の熱伝導率を有している。
【0003】
このグラファイトの高熱伝導性を利用して、グラファイトフィルムを用いた種々の熱対策材料の用途として、たとえばスマートフォンでは、搭載している半導体の発熱によるホットスポット解消策として、スマートフォン裏面にグラファイトフィルムが貼られ、面方向の高熱伝導性を活用して、ヒートスプレッダーとして使われている。また、グラファイトフィルムを積層して積層体化したのち、フィルムの面方向に対し垂直に切断した切片を、市場にて熱望されているIGBTなどのパワー半導体や高出力LED素子あるいはペルチェ素子のヒートシンク用途としての検討が精力的に進められている(特許文献1)。
【0004】
上記グラファイト積層体の製造方法として、色々な手段が試みられている。例えば天然黒鉛と金属を熔解混合したのちロール圧延にてシート化し金属内に黒鉛粒子が配向したグラファイト積層体が作られている(特許文献2)。また、グラファイトフィルムを積層したのち加圧しながら高温でグラファイトフィルム相互を焼結させるか、もしくは溶融した金属銅をグラファイトフィルム層間に加圧注入する手段も知られている(特許文献3~5)。さらに、黒鉛フィルムに接着性樹脂をコーティングしたのちこれを積層した熱伝導材も知られている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-4733号公報
【特許文献2】特許第5640239号公報
【特許文献3】特許第4711165号公報
【特許文献4】特許第4490723号公報
【特許文献5】特許第3345986号公報
【特許文献6】特開2019-10773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記グラファイト積層体の構造および製造手段はそれぞれに課題を有している。例えば、合成黒鉛フィルムのみを積層加圧して高温で焼結して得られたグラファイト積層体は、熱伝導性は優秀であるもののグラファイト層相互間の接着強度が弱く、切片加工時に破損し、薄葉化が困難であった。また、銅やアルミなどの金属と天然黒鉛粒子を溶解混練したのちロール圧延したシートを積層する方法は、黒鉛粒子の充填量に制限が起こりかつ黒鉛粒子が連続して繋がらず、期待したほど高い熱伝導度が得られていない。
グラファイトフィルム間に溶融金属を圧入する方法は、圧入する装置が大がかりで投資が大きい難点があり、製造コスト面で不利となる。さらに緻密度が高い合成グラファイトフィルムに圧入法を用いると溶融銅との濡れが悪いため製造が難しく、天然グラファイトフィルムを用いたときのみ製造可能であった。このため熱伝導率は合成グラファイトフィルム使用時の熱伝導率より大幅に劣った結果となる。
このように、市場の要求を十分に満たす性能・コストのバランスの取れたグラファイト積層体の製法はまだ確立されていなかった。
【0007】
グラファイト積層体であるグラファイト積層体は、これをダイサーやワイヤーソー等を用いて切断することで薄葉化する。この切片は、高熱伝導性を有する機能を生かして発熱部品からの迅速な熱移動に貢献する放熱部材となる。ただし、この切片は形状保持に必要な強度と生産性そして価格競争力が必要である。
本発明は、上記要望に対応可能な、簡単な工程で容易に高熱伝導性のグラファイト積層体、グラファイトプレート、およびグラファイト積層体の製造方法を新たに提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記要求を満たす新たなグラファイト積層体の製造手段の検討を重ねた結果、グラファイトフィルム間に溶けた金属を注入することなく金属層を生成する方法として金属ナノ粒子の低温焼結反応を応用することを発案し、コストと性能で両立できる実用性に優れた特性のグラファイト積層体を得ることを見出し、本発明に到達した。
なお、金属ナノ粒子とは、平均粒径がナノメーター単位の微細な金属粒子のことであり、本発明では平均粒径100nm以下の金属粒子を金属ナノ粒子という。とくに平均粒径が20nm以下の銀ナノ粒子は100℃前後の低温で焼結する現象、いわゆる粒子の曲率が焼結温度に反比例するギブス-トムソン効果を起こすことが知られている。
また銀ナノ粒子を溶剤に分散させた銀ナノペーストは導電回路材料として用いるプリンティッド・エレクトロニクス技術にて応用展開されている。この特徴は低温でナノ銀粒子の焼結反応が進行して銀の導電回路が出来ることが特長である。
本発明に用いられるグラファイトフィルムの面内方向は炭素間の強い結合を持っているが厚み方向は層状となってファンデルワールス力のみの弱い結合である。このため表面エネルギーが極めて弱く、金属との濡れが悪いことが知られている。例えばグラファイトフィルム上に溶けた金属を乗せると拡がらずに球状に丸まってしまう。
本発明者らは上記グラファイトフィルムの接着性改善策を種々検討し、銀ナノ粒子を用いてグラファイト表面の炭素六員環とのアンカー的な効果が起り、表面の親和性が改善されることを期待し、ナノ銀ペーストをグラファイトフィルム上に塗布することを試みた。すると250℃の加熱処理をすることにより、均一の銀ナノ焼結膜がグラファイト表面に出来ることを確認し、銀ナノ粒子により特別な効果が得られることを見出した。さらにこの効果を応用し、銀ナノペーストを塗布したグラファイトフィルムを多段に積層し、約50KPaの荷重を掛けながら250℃で1時間加熱することで銀ナノ粒子が焼結して新規なグラファイト積層体を得ることが出来た。
【0009】
本発明に係るグラファイト積層体は、グラファイトフィルム層と、平均粒径が100nm以下のナノ金属由来の金属ナノ粒子焼結層とが交互に積層され、異方性熱伝導性を有することを特徴とする。
上記グラファイト積層体は、前記金属ナノ粒子焼結層が銀ナノ粒子を含むペースト材由来である構成とすることができる。
上記グラファイト積層体は、前記金属ナノ粒子焼結層の成分において、少なくとも30重量%以上が銀ナノ粒子由来である構成とすることができる。
【0010】
本発明に係るグラファイトプレートは、上記グラファイト積層体を、グラファイトフィルム層の積層方向に切断し薄片化したグラファイトプレートであって、切断面方向よりも、前記切断面に垂直な方向において高い熱伝導性を有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係るグラファイト積層体の製造方法は、グラファイトフィルム面上に金属ナノ粒子を含むペースト材を塗布する工程、ペースト材が面上に塗布されたグラファイトフィルムを乾燥させて金属ナノ粒子を含むペースト材を塗布したグラファイトフィルムとする工程、前記ペースト材を塗布したグラファイトフィルムを多層に積層し、加圧下、250℃以下の条件において加熱処理することで、前記ペースト材が焼結し、グラファイトフィルム層と金属ナノ粒子焼結層とが交互に積層されたグラファイト積層体を得る工程、を具備することを特徴とする。
上記グラファイト積層体の製造方法において、前記ペースト材を塗布する工程が、前記グラファイトフィルムの片面または両面に前記ペースト材を塗布する工程である構成とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、積層したグラファイト層間の密着強度が高く、かつ、熱伝導性に優れるグラファイト積層体およびその製造方法を提供することができる。また、1000℃以上の高温の熱処理や溶けた金属の圧入が不要で生産性に優れ、かつ投資額の少ない簡単な工程で作れるので、実用性に優れた構造の高熱伝導性のグラファイト積層体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係るグラファイト積層体の概要を示す断面図である。
【
図2】本実施形態に係るグラファイト積層体およびグラファイトプレートの製造方法を説明するための図である。
【
図3】実施例1に係るグラファイトプレートの切断断面を電子顕微鏡で拡大して撮像した写真である。
【
図4】実施例3に係るグラファイトプレートの切断断面を電子顕微鏡で拡大して撮像した写真である。
【
図5】他の実施形態に係るグラファイト積層体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るグラファイト積層体の実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係るグラファイト積層体の概要を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るグラファイト積層体1は、金属ナノ粒子焼結層20と、黒鉛結晶が面内に配向されたグラファイトフィルム層10とが交互に積層された構造を有する。
【0015】
(グラファイトフィルム層10)
グラファイトフィルム層10は、グラファイトフィルムを出発原料とする。出発原料は、例えば、面方向にグラファイト結晶が配向しているフィルム状のグラファイトであるが、グラファイトの配向方向は面内であればその方向は限定されない。グラファイトフィルム層10の出発原料とするフィルムには、天然グラファイトおよび合成グラファイトのいずれも好適に用いることができる。天然のグラファイトフィルムは、黒鉛原石を硫酸などの酸処理で層間を膨らませたのち粉砕して鱗片状粉体とし、その後、液相において抄くことにより、任意の厚さで得ることができる。また、合成グラファイトフィルムは、ポリイミドフィルムを不活性雰囲気にて炭化したのち、3000℃近い高温で黒鉛化処理を施すことにより製造することができる。特に、ポリイミドフィルムを炭化・黒鉛化した合成グラファイトフィルムは、高い熱伝導率を有しており、面内方向の熱伝導率は、理論値に近い性能を示すことができる。
【0016】
グラファイトフィルム層10の出発原料であるグラファイトフィルムの厚さは、必要とする熱伝導度、強度、コストによって選択することが可能である。天然グラファイトフィルムを用いる場合、合成グラファイトに比べて厚く硬いフィルムであり、50μm以上のグラファイトフィルムが入手できる。厚めのグラファイトフィルムを用いることで銀ナノペーストの加熱焼結によりさらに剛性の強いグラファイト積層体が得られる。合成グラファイトフィルムを用いる場合、ポリイミドフィルムの熱分解という出発原料の理由で天然グラファイトフィルムに比べて厚さが100μm以下と薄く柔軟性があるグラファイトフィルムが入手できる。銀ナノペーストを塗布し加熱によってナノ銀が焼結した後でもグラファイトフィルムの剛性が弱く銀焼結層が外力にて容易に破壊されるので注意する必要がある。この課題の改善の手段としてグラファイトフィルムに細かい貫通孔を空けたのち銀ナノペーストを塗布して加熱焼結させることで強度が向上する。高密度のグラファイト積層体を得るためには、天然グラファイトフィルム採用の際はグラファイトフィルム層10を厚く積層することが望ましく、合成グラファイトフィルムを採用した場合はその厚さは100μm以下、より好ましくは厚さ50μm以下と薄くすることが好ましい。
【0017】
(金属ナノ粒子焼結層20)
金属ナノ粒子焼結層20は、マイクロフィルム層10に金属ナノ粒子を含むペースト材を塗布し、焼結することで形成された層である。金属ナノ粒子焼結層20に含まれる金属ナノ粒子の種類は、銀、銅、アルミニウムなど熱伝導性の高い金属であれば特に限定されないが、銀ナノ粒子を用いることが好ましい。本実施形態に係る金属ナノ粒子焼結層20は、出発原料とするグラファイトフィルムに銀ナノペースト材料を塗布して形成された塗布膜を出発材料とし、加熱焼結することにより形成される。金属ナノ粒子焼結層20に含有される銀ナノ粒子は、加熱により焼結を起こす平均粒径100nm以下の銀ナノ粒子であれば特に限定されず、銀焼結層の特性を維持するためには加熱後の固形分のうち30%以上は銀ナノ粒子が含まれていることが好ましい。本実施形態では、銀ナノペースト材料をグラファイトフィルム層10の出発原料であるグラファイトフィルムに塗布することで形成される塗布膜が出発材料である。銀ナノペースト材料としては、銀ナノ粒子を100%含有時は、250℃以下、好ましくは200℃以下で焼結して連続膜を生成するものであれば、特に限定されない。銀ナノ粒子は特に20nm以下とすることで低温焼結性が発揮できる。このような銀ナノ粒子を含むペースト材料は、プリンティッド・エレクトロニクス技術の分野にて塗布や印刷で電気回路が形成することが検討されており、市場での入手が可能となっている。特に、平均粒径20nm以下の銀ナノ粒子は100℃前後の低温で銀が焼結するため耐熱性のないプラスチックフィルムに回路が直接描ける利点を有している。
【0018】
なお、銀ナノペースト材料には、上記銀ナノ粒子のほかにペーストとしての機能を維持するための有機系溶媒や添加剤を加えることができる。有機系溶媒や添加剤は、本実施形態に係るグラファイト積層体1の機能を阻害しないものであれば特に制限はない。また、低温焼結の銀ナノ粒子に加え、銀焼結後の構造安定を促進するような目的で、無機物、例えばμmオーダーの銀粒子、銀酸化物粒子、アルミナ、シリカなどのセラミックス粒子、銀以外の銅やチタンなどの金属粒子そして黒鉛粒子を添加することもできる。ただしその際は銀ナノペースト含有率が固形分として30重量%以上含有していることが必要で、塗布後の加熱温度もやや高めの200~250℃で処理すると完全な焼結層が得られる。
【0019】
また、本実施形態に係る金属ナノ粒子焼結層20において、グラファイトフィルムの表面塗布する銀ナノペースト材料は、加熱焼結時に残存する固形分のうち少なくとも30重量%以上がナノ銀粒子由来であれば、残りの固形分は粒径1μmを超える銀または酸化銀などの銀化合物であっても構わない。このような組成のペーストであれば、250℃以下の加熱によって、金属銀の焼結体に変化することが確認されている。さらには残りの固形分には銅ナノ材料など銀以外の金属組成、セラミックであってもグラファイトフィルム間を接合する状態であれば使用することができる。銀ナノ粒子の含有量が少なくなると焼結が進まず強固な銀焼結層は得られなくなる。
【0020】
銀ナノ粒子焼結層20は、グラファイトフィルム層10上に銀ナノ粒子ペースト材を塗布乾燥し、多層に積層した状態で加熱処理することで、ナノ銀粒子がグラファイトフィルム表面の微小な凹凸表面に噛みこんだ状態で焼結されると考えられ、高い接合強度を発現する。グラファイトフィルム層10間に形成される金属ナノ粒子焼結銀層20の厚さは、体積収縮によるクラック発生防止のため焼結後の厚さが100μm以下とすることで均質なグラファイト積層体が得られる。したがって銀ナノペーストの塗布厚さは、その固形分濃度によっても異なるが、たとえば固形分濃度40%前提で100μm前後とすることができる。
【0021】
(グラファイト積層体1の製造方法)
次に、グラファイト積層体1の製造方法について説明する。
図2は、本実施形態に係るグラファイト積層体1および後述するグラファイトプレート2を示す図である。まず、
図2(a),(b)に示すように、グラファイトフィルム層10の出発原料のグラファイトフィルムの面上に金属ナノ粒子ペースト(本実施形態では銀ナノ粒子ペースト)を塗布する。金属ナノ粒子ペーストの塗布方法は、通常のコーティング方法、例えばスクリーン印刷、ロールコート、バーコート、フレキソ印刷、グラビア印刷などで塗布することができる。
【0022】
銀ナノペーストの塗布膜厚は銀ナノペースト材料の固形分濃度により適宜調整が必要であるが、1回で塗布すると乾燥後表面にひびが入る不具合が起こる場合は、重ね塗りで改善することが可能である。また、銀ナノペースト材料をグラファイトフィルム層10の出発原料フィルムの両面に銀ナノペースト材料を塗布することで、後述する加熱焼結後にボイドの少ない高強度のグラファイト積層体を作ることができる。
【0023】
次いで、
図2(c),(d)に示すように、銀ナノペースト材料を塗布したグラファイトフィルムを多層積層する。そして、多層積層したグラファイトフィルムを、250℃以下で加熱処理する。加熱温度は、銀ナノ粒子が焼結する温度以上であればよく、たとえば、銀ナノ粒子が焼結開始する温度より100℃程度高い温度で1時間以上保持することで強固な銀ナノ粒子の焼結膜が得られる。
【0024】
銀ナノ粒子は大気中で焼結反応を起こし、結晶粒が面内に配向されたグラファイトフィルム層10と、銀粒子焼結層20とが交互に積層して構成されたグラファイト積層体1が形成される。なお、グラファイトフィルムに塗布した銀ナノペースト材料に含まれる溶剤などの揮発成分を除去するため、加熱処理では100℃付近まで徐々に昇温した後一定時間保持し、その後、銀ナノ粒子の焼結温度まで昇温した後に一定時間保持し、その後に徐冷するように、加熱温度を段階的に降温させる加熱方法が望ましい。
【0025】
さらに、加熱処理においては、グラファイトフィルムの間に介在する銀ナノ粒子を該グラファイトフィルムに密に焼結させるために、加圧状態で加熱するとより高密度なグラファイト積層体が得られる。加圧する圧力としては50~2000KPa、特に50~500KPaの範囲の圧力を加重することが好ましい。
【0026】
(グラファイトプレート2)
また、上述した実施形態で得られたグラファイト積層体1を、
図2(e)に示すように、当該グラファイト積層体1の積層方向に切断し薄片化することで、当該グラファイト積層体1の切断面に垂直な方向に高熱伝導性を有するグラファイトプレート2を製造することができる。グラファイトプレート2の厚さは、特に限定されないが、コストダウンおよび強度保持の観点で可能な限り薄い厚さにすることが好ましく、0.1mmから1.0mmとすることが好ましい。このようなグラファイトプレート2は、たとえば発熱する電子素子に接合させることで、有用な熱放散材料となるものと期待される。
【実施例0027】
(実施例1)
厚さ100μmの天然グラファイトフィルム(東洋炭素株式会社製)を用い、この表面に、銀含有量40%および粘度1800mPa・Sの銀ナノペースト(長瀬ケムテックス社製)を、バーコーターを用いて塗布厚さ約50μmで塗布した。さらに、この上に、銀ナノペーストを同様に塗布したグラファイトフィルムを19層重ね、グラファイトシート/銀ペーストを20層重ねた積層体を作成した。そして、常温にて8時間乾燥した後、0.5MPs・m2相当で加重を掛けながら、5℃/分の昇温速度で100℃まで昇温させながら1時間保持し、その後、5℃/分の昇温速度で250℃まで昇温させながら2時間保持し、焼結反応を行った後、徐々に徐冷した。
(比較例1)
平均粒径約1μmの銀ペースト標準グレード(田中貴金属株式会社製TR-3025)を用い、これ以外は実施例1と全く同じ材料および手段でグラファイトプレート2を作成した。
【0028】
実施例1で得られた約2ミリ厚の積層体では、グラファイトフィルム層10と銀ナノ粒子を含む金属ナノ粒子焼結層20との界面は強固に接着しており、強く曲げた場合、グラファイトフィルム層10と金属ナノ粒子焼結層20との界面ではなく、グラファイトフィルム層10の層内において層間剥離が起こった。これは、本実施形態に係る銀ナノ粒子焼結層20では、銀ナノ粒子がグラファイトフィルム表面の微小な凹凸表面に噛みこんだ状態で焼結を起こし、グラファイトフィルム層10と金属ナノ粒子焼結層20との界面における強度が、グラファイトフィルム層10の層内よりも高くなったためと考えられる。
図3に、実施例1のグラファイト積層体を、ダイヤモンド刃を有するダイサーにて約20mm×20mmの小片に切り出したグラファイトプレート2の切断断面を、電子顕微鏡で拡大して撮像した写真を示す。
図3に示すように、実施例1のグラファイトプレート2では、銀ナノ粒子がグラファイトフィルム表面の微小な凹凸表面に噛みこんだ状態で焼結されている様子が分かる。これに対して、比較例1で得られたグラファイトプレートは、層間の銀ペーストが焼結しておらず、折り曲げると銀粉が飛び散って明らかに弱い接着になっていたことが確認された。
このように、本実施例1によるグラファイト積層体1は、グラファイトフィルム層10間に銀ナノペーストを塗布して焼結することで、グラファイトフィルム層10と銀ナノ粒子焼結層20との界面が強固に接着し、グラファイトフィルム層10の層内で高い密着強度が得られることがわかった。
【0029】
また、実施例1のグラファイトプレート2の熱伝導率をレーザーフラッシュ法にて測定した結果、切断面方向の熱伝導率が10W/K・mであるのに対して、切断面に垂直な方向の熱伝導率は430W/K・mであった。このように、実施例1のグラファイトプレート2においては、グラファイトフィルム層10の切断面方向よりも、グラファイトフィルム層10の切断面に垂直な方向において熱伝導率が高くなる、異方性熱伝導性を有することが分かった。
【0030】
(実施例2)
また、実施例2では、厚さ40μmの合成グラファイトフィルム(株式会社カネカ製)を用い、実施例1と同様にこのフィルム上に平均粒径50nmの銀ナノペースト(長瀬ケムテックス社製)を塗布し、次にこれを積層し、グラファイトシート/銀ナノペーストを50層重ねた積層体を作成した。そして、作成した積層体を、250℃で2時間、加熱処理を行った。
【0031】
得られた実施例2のグラファイト積層体を、実施例1と同様に、ダイヤモンド刃を有するダイサーにて20mm×20mm×3mmの小片に切り出し、切断断面の観察を実施するとともに、熱伝導率を測定した。
図4に、実施例3のグラファイト積層体を小片に切り出したグラファイトプレート2の切断断面を電子顕微鏡で拡大して撮像した写真を示す。その結果、実施例2のグラファイトプレート2においても、銀ナノ粒子がグラファイトフィルム表面の微小な凹凸表面に噛みこんだ状態で焼結されている様子が分かる。
また、実施例2のグラファイプレートでは、合成グラファイトそのものの高熱伝導性を引き継いで切断面に垂直な方向において、1100W/K・mの高い熱伝導性が確認された。
【0032】
以上のように、本実施形態に係るグラファイト積層体1は、グラファイトフィルム層10の間に金属ナノ粒子焼結層20が介在する構造を有する。金属ナノ粒子は、150℃以下の低温で焼結反応を起こすため、グラファイトフィルム層10の間に金属ナノ粒子焼結層20を有する構成(グラファイトフィルム層10の層の間に銀ナノ粒子ペーストによる銀ナノ粒子焼結層を積層した構成とすることで、銀ナノ粒子がグラファイトフィルム表面の微小な凹凸表面に噛みこんで、グラファイトフィルム層10同士の密着強度を高くすることができ、グラファイトフィルム層10内部の密着強度よりも高い密着強度を得ることができる。また、金属ナノ粒子焼結20が平均粒径50nm以下の銀ナノ粒子を含む金属ナノ粒子焼結層20である場合は、100℃前後の低温で銀粒子が焼結するいわゆるギブス-トムソン効果が起こり、銀の融点よりはるかに低い温度でグラファイトフィルムと密着する。
【0033】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態例の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0034】
たとえば、上述した実施形態では、グラファイトフィルムの片面または両面に金属ナノ粒子を含むペースト材を塗布することで、グラファイト積層体1を製造する方法を例示したが、グラファイト積層体の製造方法は、これに限定されず、たとえば、
図5に示すように、銀ナノペーストを塗布したグラファイトフィルムを軸材に巻き付けてコイル状にしたのち加熱焼結させる方法としてもよい。この場合、加熱時に加圧できないため緻密な銀ナノ焼結層が得られない場合があるが、グラファイトフィルムの端面が外周に出にくいため形状保持性に優れている特徴がある。なお、
図5は、他の実施形態に係るグラファイト積層体1’を示す図である。
【0035】
また、上述した実施形態に加えて、グラファイト積層体を、銅やニッケルなど電解メッキで補強することで、機械的強度および防塵性を付与することができる。