(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026725
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】トロリ線設備の検査装置および検査方法
(51)【国際特許分類】
B60M 1/28 20060101AFI20220203BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20220203BHJP
【FI】
B60M1/28 R
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020130324
(22)【出願日】2020-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】小林 直人
(72)【発明者】
【氏名】國上 啓太郎
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD16
2G024AD28
2G024BA27
2G024CA17
2G024CA21
2G024CA22
2G024EA01
2G024EA14
(57)【要約】
【課題】トロリ線設備の欠損や溶損を未然に検知することができ、設備ごとに判定条件の調整が必要なく、かつ実物との比較確認が不要なトロリ線設備の検査装置および検査方法を提供する。
【解決手段】トロリ線を介して移動機に電力を供給するトロリ線設備の異常の有無を検査するトロリ線設備の検査装置20は、移動機に取り付けられ、移動機とともに移動して前記トロリ線設備を熱動画として撮像する熱動画撮像装置21と、熱動画撮像装置で撮像した熱動画から各位置における温度データを抽出し、抽出された温度データに対し、閾値判定を行い、各位置の温度データが正常か異常かを判定する熱判定部22とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロリ線を介して移動機に電力を供給するトロリ線設備の異常の有無を検査するトロリ線設備の検査装置であって、
前記移動機に取り付けられ、前記移動機とともに移動して前記トロリ線設備を熱動画として撮像する熱動画撮像装置と、
前記熱動画撮像装置で撮像した前記熱動画から各位置における温度データを抽出し、抽出された前記温度データに対し、閾値判定を行い、各位置の温度データが正常か異常かを判定する熱判定部と、
を有することを特徴とするトロリ線設備の検査装置。
【請求項2】
前記閾値判定は、絶対値温度での閾値判定、および雰囲気温度を基準とした閾値判定または並列機器・走行方向前後部位を含む撮像エリア内の平均値を基準とした閾値判定であることを特徴とする請求項1に記載のトロリ線設備の検査装置。
【請求項3】
前記熱動画撮像装置は、前記移動機を稼働させている際に前記トロリ線設備を撮像することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトロリ線設備の検査装置。
【請求項4】
前記熱動画撮像装置は、前記トロリ線設備を撮像する際に、前記トロリ線設備に並列する同型機器が同時に撮像されるように配置され、
前記熱判定部は、撮像エリア内の前記同型機器の対応する位置間で温度を比較し、温度データが正常か異常かを判定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のトロリ線設備の検査装置。
【請求項5】
前記移動機に取り付けられ、前記移動機とともに移動して前記トロリ線設備を可視動画として撮像する可視動画撮像装置と、
前記可視動画撮像装置で撮像した前記可視動画を画像処理して抽出された、前記トロリ線設備の一以上の部位の抽出画像から、前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定する形状判定部と、
をさらに有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のトロリ線設備の検査装置。
【請求項6】
前記一以上の部位は、前記トロリ線、建屋と前記トロリ線を絶縁する支持碍子、給電範囲の切り替えのために前記トロリ線の間に設けられたインシュレータ、および、前記トロリ線の隣接するものを連結する連結部の一以上を含むことを特徴とする請求項5に記載のトロリ線設備の検査装置。
【請求項7】
前記形状判定部は、前記一以上の部位が複数の部位である場合に、前記複数の部位の前記抽出画像に位置情報を紐づけることにより前記抽出画像を区分して、前記複数の部位のそれぞれに前記抽出画像を振り分けることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のトロリ線設備の検査装置。
【請求項8】
前記形状判定部は、前記一以上の部位の前記抽出画像を、前記一以上の部位の初期形状と比較することで、前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定することを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか一項に記載のトロリ線設備の検査装置。
【請求項9】
前記形状判定部は、前記一以上の部位の前記抽出画像を同じ位置の異なる日時の抽出画像と比較することで、前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定することを特徴とする請求項5から請求項8のいずれか一項に記載のトロリ線設備の検査装置。
【請求項10】
前記可視動画撮像装置は、前記トロリ線設備を撮像する際に、前記トロリ線設備に並列する同型機器が同時に撮像されるように配置され、
前記形状判定部は、前記一以上の部位の抽出画像を、前記同型機器の一以上の部位の抽出画像と比較することで、前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定することを特徴とする請求項5から請求項9のいずれか一項に記載のトロリ線設備の検査装置。
【請求項11】
前記形状判定部は、前記可視動画から抽出された前記一以上の部位の画像をAIにより機械学習させ、正常と判定される部位の検知精度を向上させることを特徴とする請求項5から請求項10のいずれか一項に記載のトロリ線設備の検査装置。
【請求項12】
前記可視動画撮像装置は、撮像方向が前記トロリ線の摩耗方向に対して垂直になるように配置され、前記トロリ線設備を撮像する際に、前記トロリ線の摩耗量も同時に測定することを特徴とする請求項5から請求項11のいずれか一項に記載のトロリ線設備の検査装置。
【請求項13】
トロリ線を介して移動機に電力を供給するトロリ線設備の異常の有無を検査するトロリ線設備の検査方法であって、
前記移動機に取り付けられ、前記移動機とともに移動する熱動画撮像装置により、前記トロリ線設備を熱動画として撮像することと、
前記熱動画撮像装置で撮像した前記熱動画から各位置における温度データを抽出することと、
抽出された前記温度データに対し、閾値判定を行い、各位置の温度データが正常か異常かを判定することと、
を有することを特徴とするトロリ線設備の検査方法。
【請求項14】
前記閾値判定は、絶対値温度での閾値判定、および雰囲気温度を基準とした閾値判定または並列機器・走行方向前後部位を含む撮像エリア内の平均値を基準とした閾値判定であることを特徴とする請求項13に記載のトロリ線設備の検査方法。
【請求項15】
前記移動機を稼働させている際に前記トロリ線設備を撮像することを特徴とする請求項13または請求項14に記載のトロリ線設備の検査方法。
【請求項16】
前記熱動画撮像装置は、前記トロリ線設備を撮像する際に、前記トロリ線設備に並列する同型機器が同時に撮像されるように配置され、
温度データが正常か異常かの判定は、撮像エリア内の前記同型機器の対応する位置間で温度を比較することにより行われることを特徴とする請求項13から請求項15のいずれか一項に記載のトロリ線設備の検査方法。
【請求項17】
前記移動機に取り付けられ、前記移動機とともに移動する可視動画撮像装置により、前記トロリ線設備を可視動画として撮像することと、
前記撮像装置で撮像した前記可視動画を画像処理して、前記トロリ線設備の一以上の部位の画像を抽出することと、
前記一以上の部位の抽出画像から、前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定することと、
をさらに有することを特徴とする請求項13から請求項16のいずれか一項に記載のトロリ線設備の検査方法。
【請求項18】
前記トロリ線設備を熱動画として撮像することと、前記トロリ線設備を可視動画として撮像することとを同時に行うことを特徴とする請求項17に記載のトロリ線設備の検査方法。
【請求項19】
前記複数の部位は、前記トロリ線、建屋と前記トロリ線を絶縁する支持碍子、給電範囲の切り替えのために前記トロリ線の間に設けられたインシュレータ、および、前記トロリ線の隣接するものを連結する連結部の一以上を含むことを特徴とする請求項17または請求項18に記載のトロリ線設備の検査方法。
【請求項20】
前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定することは、前記一以上の部位が複数の部位である場合に、前記複数の部位の前記抽出画像に位置情報を紐づけることにより前記抽出画像を区分して、前記複数の部位のそれぞれに前記抽出画像を振り分けて行うことを特徴とする請求項17から請求項19のいずれか一項に記載のトロリ線設備の検査方法。
【請求項21】
前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定することは、前記一以上の部位の前記抽出画像を、前記一以上の部位の初期形状と比較することで行うことを特徴とする請求項17から請求項20のいずれか一項に記載のトロリ線設備の検査方法。
【請求項22】
前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定することは、前記一以上の部位の前記抽出画像を同じ位置の異なる日時の抽出画像と比較することで行うことを特徴とする請求項17から請求項21のいずれか一項に記載のトロリ線設備の検査方法。
【請求項23】
前記可視動画撮像装置は、前記トロリ線設備を撮像する際に、前記トロリ線設備に並列する同型機器が同時に撮像されるように配置され、
前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定することは、前記一以上の部位の抽出画像を、前記同型機器の一以上の部位の抽出画像と比較することで行うことを特徴とする請求項17から請求項22のいずれか一項に記載のトロリ線設備の検査方法。
【請求項24】
前記可視動画から抽出された前記一以上の部位の画像をAIにより機械学習させ、正常と判定される部位の検知精度を向上させることを特徴とする請求項17から請求項23のいずれか一項に記載のトロリ線設備の検査方法。
【請求項25】
前記撮像装置は、撮像方向が前記トロリ線の摩耗方向に対して垂直になるように配置され、前記トロリ線設備を撮像する際に、前記トロリ線の摩耗量も同時に測定することを特徴とする請求項17から請求項24のいずれか一項に記載のトロリ線設備の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井クレーンやコイル台車等の移動機に電力を供給する設備であるトロリ線設備の検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トロリ線設備は、例えば、天井クレーンや、鉄鋼等の素材や製品を搬送する台車のような移動機に対して電力を供給する設備である。トロリ線設備は、連結された複数のトロリ線と、建屋とトロリ線を絶縁する支持碍子と、給電範囲の切り替えのための絶縁物であるセクションインシュレータとを有している。トロリ線設備から電動移動体へ給電する際には、地上側に配置されたトロリ線に電圧を印加し、電動移動体が有する集電部材であるパンタグラフの集電子をトロリ線に接触させ摺動させる。
【0003】
このようなトロリ線設備において、トロリ線やその連結部等に欠損や溶損等による設備停止トラブルが発生することがある。このため、設備停止トラブルの未然防止の観点から、保守員が複数連結されたトロリ線の全長にわたる目視点検を行ってトロリ線設備の異常箇所を特定することが行われていた。
【0004】
しかし、保守員による目視点検は、時間がかかったり、傾向管理ができなかったり、異常の判定基準が保守員によって異なったりする等の問題があるため、最近ではセンサーを用いたトロリ線の異常診断技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1、2には、トロリ線の異常箇所を、レーザ距離計を用いて常時監視する技術が提案されている。具体的には、特許文献1の技術は、移動機側面に設けられたレーザ距離計により測定された移動機とトロリ線との相対距離に基づいたトロリ線偏位情報と、パンタグラフと移動機械との間に設けられた荷重計の荷重情報の関係から異常判別しており、特許文献2の技術は、移動機側面に設けられたレーザ距離計により測定されたトロリ線の断面プロファイル情報から異常判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6544089号公報
【特許文献2】特開2019-111904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えばトロリ線連結部のボルトの緩み等により接触不良が生じている部分では接触抵抗が高くなって欠損や溶損が生じるおそれがあるが、接触不良が生じても外観上の変化がほとんどないため、上記特許文献1、2の技術では、これを未然に検知することはができない。また、上記特許文献1、2の技術では、トロリ線に沿って移動機が移動する軌道設備ごとに判別条件を調整する必要がある、数値データによる判定のため、調整や検出部の確認のために実物との比較確認が必要となり、点検時間が長くなったり操業制約がかかったりするおそれがある等の問題もある。
【0008】
したがって、本発明は、トロリ線設備の欠損や溶損を未然に検知することができ、設備ごとに判定条件の調整が必要なく、かつ実物との比較確認が不要なトロリ線設備の検査装置および検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の[1]~[25]を提供する。
【0010】
[1]トロリ線を介して移動機に電力を供給するトロリ線設備の異常の有無を検査するトロリ線設備の検査装置であって、
前記移動機に取り付けられ、前記移動機とともに移動して前記トロリ線設備を熱動画として撮像する熱動画撮像装置と、
前記熱動画撮像装置で撮像した前記熱動画から各位置における温度データを抽出し、抽出された前記温度データに対し、閾値判定を行い、各位置の温度データが正常か異常かを判定する熱判定部と、
を有することを特徴とするトロリ線設備の検査装置。
【0011】
[2]前記閾値判定は、絶対値温度での閾値判定、および雰囲気温度を基準とした閾値判定または並列機器・走行方向前後部位を含む撮像エリア内の平均値を基準とした閾値判定であることを特徴とする[1]に記載のトロリ線設備の検査装置。
【0012】
[3]前記熱動画撮像装置は、前記移動機を稼働させている際に前記トロリ線設備を撮像することを特徴とする[1]または[2]に記載のトロリ線設備の検査装置。
【0013】
[4]前記熱動画撮像装置は、前記トロリ線設備を撮像する際に、前記トロリ線設備に並列する同型機器が同時に撮像されるように配置され、
前記熱判定部は、撮像エリア内の前記同型機器の対応する位置間で温度を比較し、温度データが正常か異常かを判定することを特徴とする[1]から[3]のいずれかに記載のトロリ線設備の検査装置。
【0014】
[5]前記移動機に取り付けられ、前記移動機とともに移動して前記トロリ線設備を可視動画として撮像する可視動画撮像装置と、
前記可視動画撮像装置で撮像した前記可視動画を画像処理して抽出された、前記トロリ線設備の一以上の部位の抽出画像から、前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定する形状判定部と、
をさらに有することを特徴とする[1]から[4]のいずれかに記載のトロリ線設備の検査装置。
【0015】
[6]前記一以上の部位は、前記トロリ線、建屋と前記トロリ線を絶縁する支持碍子、給電範囲の切り替えのために前記トロリ線の間に設けられたインシュレータ、および、前記トロリ線の隣接するものを連結する連結部の一以上を含むことを特徴とする[5]に記載のトロリ線設備の検査装置。
【0016】
[7]前記形状判定部は、前記一以上の部位が複数の部位である場合に、前記複数の部位の前記抽出画像に位置情報を紐づけることにより前記抽出画像を区分して、前記複数の部位のそれぞれに前記抽出画像を振り分けることを特徴とする[5]または[6]に記載のトロリ線設備の検査装置。
【0017】
[8]前記形状判定部は、前記一以上の部位の前記抽出画像を、前記一以上の部位の初期形状と比較することで、前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定することを特徴とする[4]から[7]のいずれかに記載のトロリ線設備の検査装置。
【0018】
[9]前記形状判定部は、前記一以上の部位の前記抽出画像を同じ位置の異なる日時の抽出画像と比較することで、前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定することを特徴とする[5]から[8]のいずれかに記載のトロリ線設備の検査装置。
【0019】
[10]前記可視動画撮像装置は、前記トロリ線設備を撮像する際に、前記トロリ線設備に並列する同型機器が同時に撮像されるように配置され、
前記形状判定部は、前記一以上の部位の抽出画像を、前記同型機器の一以上の部位の抽出画像と比較することで、前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定することを特徴とする[5]から[9]のいずれかに記載のトロリ線設備の検査装置。
【0020】
[11]前記形状判定部は、前記可視動画から抽出された前記一以上の部位の画像をAIにより機械学習させ、正常と判定される部位の検知精度を向上させることを特徴とする[5]から[10]のいずれかに記載のトロリ線設備の検査装置。
【0021】
[12]前記可視動画撮像装置は、撮像方向が前記トロリ線の摩耗方向に対して垂直になるように配置され、前記トロリ線設備を撮像する際に、前記トロリ線の摩耗量も同時に測定することを特徴とする[5]から[11]のいずれかに記載のトロリ線設備の検査装置。
【0022】
[13]トロリ線を介して移動機に電力を供給するトロリ線設備の異常の有無を検査するトロリ線設備の検査方法であって、
前記移動機に取り付けられ、前記移動機とともに移動する熱動画撮像装置により、前記トロリ線設備を熱動画として撮像することと、
前記熱動画撮像装置で撮像した前記熱動画から各位置における温度データを抽出することと、
抽出された前記温度データに対し、閾値判定を行い、各位置の温度データが正常か異常かを判定することと、
を有することを特徴とするトロリ線設備の検査方法。
【0023】
[14]前記閾値判定は、絶対値温度での閾値判定、および雰囲気温度を基準とした閾値判定または並列機器・走行方向前後部位を含む撮像エリア内の平均値を基準とした閾値判定であることを特徴とする[13]に記載のトロリ線設備の検査方法。
【0024】
[15]前記移動機を稼働させている際に前記トロリ線設備を撮像することを特徴とする[13]または[14]に記載のトロリ線設備の検査方法。
【0025】
[16]前記熱動画撮像装置は、前記トロリ線設備を撮像する際に、前記トロリ線設備に並列する同型機器が同時に撮像されるように配置され、
温度データが正常か異常かの判定は、撮像エリア内の前記同型機器の対応する位置間で温度を比較することにより行われることを特徴とする[13]から[15]のいずれかに記載のトロリ線設備の検査方法。
【0026】
[17]前記移動機に取り付けられ、前記移動機とともに移動する可視動画撮像装置により、前記トロリ線設備を可視動画として撮像することと、
前記撮像装置で撮像した前記可視動画を画像処理して、前記トロリ線設備の一以上の部位の画像を抽出することと、
前記一以上の部位の抽出画像から、前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定することと、
をさらに有することを特徴とする[13]から[16]のいずれかに記載のトロリ線設備の検査方法。
【0027】
[18]前記トロリ線設備を熱動画として撮像することと、前記トロリ線設備を可視動画として撮像することとを同時に行うことを特徴とする[17]に記載のトロリ線設備の検査方法。
【0028】
[19]前記複数の部位は、前記トロリ線、建屋と前記トロリ線を絶縁する支持碍子、給電範囲の切り替えのために前記トロリ線の間に設けられたインシュレータ、および、前記トロリ線の隣接するものを連結する連結部の一以上を含むことを特徴とする[17]または[18]に記載のトロリ線設備の検査方法。
【0029】
[20]前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定することは、前記一以上の部位が複数の部位である場合に、前記複数の部位の前記抽出画像に位置情報を紐づけることにより前記抽出画像を区分して、前記複数の部位のそれぞれに前記抽出画像を振り分けて行うことを特徴とする[17]から[19]のいずれかに記載のトロリ線設備の検査方法。
【0030】
[21]前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定することは、前記一以上の部位の前記抽出画像を、前記一以上の部位の初期形状と比較することで行うことを特徴とする[17]から[20]のいずれかに記載のトロリ線設備の検査方法。
【0031】
[22]前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定することは、前記一以上の部位の前記抽出画像を同じ位置の異なる日時の抽出画像と比較することで行うことを特徴とする[17]から[21]のいずれかに記載のトロリ線設備の検査方法。
【0032】
[23]前記可視動画撮像装置は、前記トロリ線設備を撮像する際に、前記トロリ線設備に並列する同型機器が同時に撮像されるように配置され、
前記一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定することは、前記一以上の部位の抽出画像を、前記同型機器の一以上の部位の抽出画像と比較することで行うことを特徴とする[17]から[22]のいずれかに記載のトロリ線設備の検査方法。
【0033】
[24]前記可視動画から抽出された前記一以上の部位の画像をAIにより機械学習させ、正常と判定される部位の検知精度を向上させることを特徴とする[17]から[23]のいずれかに記載のトロリ線設備の検査方法。
【0034】
[25]前記撮像装置は、撮像方向が前記トロリ線の摩耗方向に対して垂直になるように配置され、前記トロリ線設備を撮像する際に、前記トロリ線の摩耗量も同時に測定することを特徴とする[17]から[24]のいずれかに記載のトロリ線設備の検査方法。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、トロリ線設備の欠損や溶損を未然に検知することができ、設備ごとに判定条件の調整が必要なく、かつ実物との比較確認が不要なトロリ線設備の検査装置および検査方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るトロリ線設備の検査装置が適用されるトロリ線設備を示す正面図である。
【
図2】本発明第1の実施形態に係るトロリ線設備の検査装置を示すブロック図である。
【
図3】トロリ線設備と熱動画カメラとの位置関係を示す斜視図である。
【
図4】
図2の検査装置の熱判定部により実施される検査方法を示すフローチャートである。
【
図5】移動機が稼働していない状態と稼働している状態とで電流の流れを比較して示す図である。
【
図6】本発明第2の実施形態に係るトロリ線設備の検査装置を示すブロック図である。
【
図7】トロリ線設備と可視動画カメラとの位置関係を示す斜視図である。
【
図8】トロリ線設備と可視動画カメラとの位置関係を示す側面図である。
【
図9】
図6の検査装置の形状判定部により実施される形状判定のフローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0038】
<第1の実施形態>
まず、第1の実施形態について説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係るトロリ線設備の検査装置が適用されるトロリ線設備を示す正面図、
図2は本発明の第1の実施形態に係るトロリ線設備の検査装置を示すブロック図、
図3はトロリ線設備と検査装置の撮像装置との位置関係を示す斜視図である。
【0039】
トロリ線設備10は、天井クレーンや鉄鋼等の素材や製品を搬送する台車等の移動機(図示せず)に電力を供給するためのものであり、
図1に示すように、隣接するものどうしが連結された複数のトロリ線11と、建屋とトロリ線を絶縁する支持碍子12と、給電範囲の切り替えのためにトロリ線11の間に設けられる絶縁物であるインシュレータ13とを有している。トロリ線11は、隣接するトロリ線11は連結部14で連結されている。
【0040】
トロリ線11には、給電部(図示せず)から電力が供給される。例えば、200V~3kVの3相交流(アースを入れると4相)が供給される。トロリ線11には、移動機のパンタグラフ15が接触され、摺動するようになっている。移動機の駆動部には、トロリ線11からパンタグラフ15を介して電力が供給される。トロリ線設備10と移動機により軌道設備が構成される。
【0041】
第1の実施形態に係るトロリ線設備の検査装置20は、熱動画撮像装置である熱動画カメラ21と、熱判定部22と、管理部23とを有する。
【0042】
熱動画カメラ21は、トロリ線設備10の熱的に異常がある部分を検出するためのものであり、移動機に取り付けられ、移動機とともに移動してトロリ線設備10を熱動画として撮像する。このとき、熱動画カメラ21においては、移動機の振動影響による撮像ノイズが発生しないフレームレートに設定する。熱動画カメラ21としては、赤外線サーモグラフィー(赤外線カメラ)等を挙げることができる。
【0043】
熱動画カメラ21は、並列する同型機器およびトロリ線設備の走行方向前後が同時に撮影できる位置に配置することが好ましい。同型機器とは、トロリ線設備として採用された型式が同じで、形状仕様が同一である機器をいう。また、熱動画カメラ21は、
図3に示すように、トロリ線設備10に正対する位置に配置することが好ましい。
【0044】
熱判定部22は、熱動画カメラ21で撮像した温度データに対して絶対値温度での閾値判定、および雰囲気温度や並列機器・走行方向前後部位との温度データから算出した平均値を基準とした閾値判定を行い、正常部と異常部を判別する。熱判定部22は、記憶部と演算部とを有し、記憶部に熱動画カメラ21で撮像されたデータが記憶され、演算部で閾値判定を行い、正常部と異常部を判別する。これにより、連結部14のボルトの緩みや、腐食、経年劣化等の接触不良で発生する抵抗加熱傾向にある部位(例えば支持碍子12の取り付け部や連結部14等)の異常を早期に把握することができる。熱動画カメラ21で撮像した撮像エリアにおいて、トロリ線設備10に並列する同型機器の同一位置を比較して正常部と異常部を判別してもよい。
【0045】
管理部23は、熱判定部22の温度データ、移動機の稼働情報、および位置情報を総括するものであり、CPUや記憶部を有するコンピュータで構成される。
【0046】
次に、本実施形態の検査装置20における検査方法について具体的に説明する。本実施形態では、検査装置20における検査方法は、熱判定部22で実施される。
図4は、熱判定部22で実施される検査方法を示すフローチャートである。
【0047】
最初に、熱動画カメラ21でトロリ線設備10を熱動画として撮像し、その撮像データを取り込む(ステップST1)。このとき、熱動画カメラ21による撮像は、移動機が実際に稼働している状態で行うことが好ましい。つまり、
図5の(a)に示すように、移動機が停止した状態でパンタグラフ15が停止している状態では、例えば、連結部14のうち符号Aで示す部分のボルトが緩んでいたとしても、その部分に電流が流れないため、その部分の異常を検出することができない。これに対して、実際に移動機が実際に稼働している状態では、
図5の(b)に示すように、移動機が走行するので符号Aで示す部分にも電流が流れ、異常を検知することができる。すなわち、給電点と移動機(パンタグラフ15)の位置により、トロリ線を流れる電流ループが異なるので、異常を確実に検出するためには移動機が稼働中であることが好ましい。また、単に移動機が走行しているだけでは流れる電流は小さいが、移動機が稼働している状態(例えば移動機がクレーンの場合は、クレーンが実際に巻き上げ等を行っている状態)では負荷がかかり流れる電流が大きくなるので、接触不良で発生する抵抗加熱傾向にある部位の異常をより確実に顕在化させることができる。
【0048】
次いで、撮像データから位置情報に応じて温度データを抽出する(ステップST2)。このとき、設備配置により温度データが不要な部分は、マスキングにより撮像エリアから除外する。位置情報は、天井クレーン等の移動機の位置情報を用いて把握することができる。
【0049】
次に、抽出された温度データに対し、絶対値温度が閾値を超えるか否かを判定する(絶対温度での閾値判定)(ステップST3)。ステップST3で閾値を超えたと判定された場合は、撮像エリア内の平均値との偏差が閾値を超えるか否かの判定を行う(平均温度を基準とした閾値判定)(ステップST4)。ここで、撮像エリア内の平均値とは、雰囲気温度、または並列機器・走行方向前後部位を含む撮像エリア内の平均値をいう。雰囲気温度とは、抽出温度データとは独立した抽出エリア(トロリ線設備以外の建築設備)の平均温度であり、電気的・機械的な温度変化を生じないものである。ステップST4で閾値を超えたと判定された場合、すなわち、
(抽出された温度)-(雰囲気温度)>閾値
または
(抽出された温度)-(並列機器・走行方向前後部位を含む撮像エリア内の平均値)>閾値
と判定された場合、異常部として出力する(ステップST5)。そして、この出力結果を操業データと紐づける。
【0050】
ステップST3で閾値を超えなかった場合、およびステップST3では閾値を超えたがステップST4では閾値を超えなかった場合は、正常部として出力する(ステップST6)。熱動画カメラ21で撮像した撮像エリアにおいて、トロリ線設備10に並列する同型機器の同一位置を比較して正常部と異常部を判別してもよい。
【0051】
このように、本実施形態では、熱動画カメラ21で撮像した熱動画から各位置の温度データを抽出し、抽出された温度データから、絶対値温度での閾値判定、撮像エリア内の平均値を基準とした閾値判定を行い、正常部と異常部を判別する。このため、目視や上記特許文献1、2の技術では異常部と判別しにくい、ボルトの緩みや腐食、経年劣化等の接触不良で発生する抵抗加熱傾向にある部位(例えば支持碍子12の取り付け部や連結部14等)の異常を早期に把握することができる。このため、接触不良が生じている部分において、接触抵抗が高くなって欠損や溶損が生じることを未然に防止することができる。また、移動機が稼働している状態で熱動画を撮像することにより、接触不良が生じている部分に大きな電流を流すことができ、その部分の温度上昇を確実に把握することができるので、より正確に異常部の判別を行うことができる。
【0052】
また、熱判定部22では、熱動画カメラ21で撮像した温度データに対して閾値判定を行うことにより異常を検出するので、軌道設備ごとに判定条件の調整が必要なく、他の軌道設備への展開が容易になる。さらに、熱動画カメラ21で撮像した実物の温度データに基づいて正常か異常かを判定するため、実物との比較確認が不要となり、点検時間が短時間で済み、また操業制約がかかるおそれも小さい。
【0053】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図6は本発明の第2の実施形態に係るトロリ線設備の検査装置を示すブロック図、
図7はトロリ線設備と可視動画カメラとの位置関係を示す斜視図、
図8はトロリ線設備と可視動画カメラとの位置関係を示す側面図、
図9は
図6の検査装置の形状判定部により実施される検査方法を示すフローチャートである。
【0054】
第2の実施形態においても、第1の実施形態の
図1の示すトロリ線設備が適用される。
【0055】
第2の実施形態に係るトロリ線設備の検査装置120は、熱動画撮像装置である熱動画カメラ121と、熱判定部122と、可視動画撮像装置である可視カメラ123と、形状判定部124と、管理部125とを有する。熱動画カメラ121および熱判定部122は、第1の実施形態の熱動画カメラ21および熱判定部22と同様に構成される。
【0056】
可視カメラ123は、移動機に取り付けられており、移動機とともに移動してトロリ線設備10を可視動画として撮像する。このとき、可視カメラ123においては、移動機の振動影響による撮像ノイズが発生しないフレームレートに設定する。可視カメラ123としては、判定精度を高めるために極力高解像度のものを用いることが好ましく、また、移動機への装着に適したものが用いられる。これらの点を満たすものとして、アクションカメラを挙げることができる。
【0057】
可視カメラ123は、トロリ線設備10の一以上の部位(トロリ線11、支持碍子12、インシュレータ13、連結部14の一以上)の形状および表面状態が正常か異常かを検査し、破損等を検知するためのものであり、熱動画カメラ121と同様、並列する同型機器が同時に撮影できる位置に配置することが好ましい。また、可視カメラ123は、
図7に示すように、トロリ線設備10に正対する位置に配置することが好ましい。これにより、トロリ線11の摩耗を観察することできる。特に、
図8のように、撮像エリアの中央部をトロリ線11(中央に位置するもの)に対応させ、撮像方向がトロリ線11の摩耗方向に対して垂直になるように配置することにより、撮像の際にトロリ線11の摩耗量の測定も同時に行うことができる。
【0058】
形状判定部124は、可視カメラ123で撮像した可視動画を画像処理して抽出された、トロリ線設備10の点検箇所である一以上の部位、すなわちトロリ線11、支持碍子12、インシュレータ13、および連結部14のうちの一以上の部位の画像から、一以上の部位の形状または表面性状が正常か異常かを判定する。形状判定部124は、記憶部と演算部とを有し、可視カメラ123で撮像した可視動画が記憶部に記憶され、演算部では各部位の形状や表面性状の判定を行う。可視カメラ123が撮像した可視動画は静止画の集合体であることから、形状判定部124では、動画から複数の画像(静止画)を抽出し、編集することにより、一以上の部位が正常部か異常部かを判定する。
【0059】
このとき、一以上の部位が複数である場合の抽出画像の振り分けは、例えば、抽出画像に位置情報を紐づけて抽出画像を区分することにより行うことができる。位置情報は、画像自体の特徴部から把握してもよいし、天井クレーン等の移動機の位置情報を用いて把握してもよい。そして、例えば、複数の部位の抽出画像をそれぞれの部位の初期形状と比較することで正常部か異常部かを判定することができる。また、一以上の部位の抽出画像を同じ位置の異なる日時(前回以前)の抽出画像と比較することで正常部か異常部かを判定することができる。さらに、一以上の部位の抽出画像を、トロリ線設備10に並列する同型機器の一以上の部位の抽出画像と比較することで正常部か異常部かを判定することができる。
【0060】
形状判定部124において可視カメラ123で撮像した可視動画から抽出された画像データを、AIにより機械学習させてもよい。AIによる機械学習は、抽出された画像データをAI学習に必要な点検箇所のデータに加工し、それらデータを特定モデルを用いたAIに学習させることにより行われる。このようにAIによる機械学習を多数の画像データについて繰り返すことにより、正常と判定される正常部の画像データが増加し、正常部の検知精度を向上させることができる。これにより、未検知部を重点的に点検して高精度に形状判定を実施することができる。
【0061】
管理部125は、熱判定部122の温度データ、形状判定部124の形状判定データ、移動機の稼働情報、および位置情報を総括するものであり、CPUや記憶部を有するコンピュータで構成される。
【0062】
次に、本実施形態の検査装置120における検査方法について具体的に説明する。本実施形態では、検査装置120における検査方法は、熱判定部122および形状判定部124で実施される。
【0063】
第1の実施形態では、目視や上記特許文献1、2の技術では異常部と判別しにくい、接触不良で発生する抵抗加熱傾向にある部位を、熱判定部22により早期に把握して、欠損や溶損が生じることを未然に防止するが、本実施形態では、欠損や溶損が生じることをさらに確実に防止するとともに、他の設備停止トラブルについても未然に防止するものである。
【0064】
すなわち、トロリ線設備においては、熱による欠損や溶損等による設備停止トラブル以外にも、パンタグラフの脱線によるトラブル等も発生する。パンタグラフの脱線は、トロリ線間の隙間、トロリ線間の上下方向の急激な段差、または、トロリ線自体の欠損などの形状の異常箇所でパンタグラフが引っ掛かることにより生じるため、トロリ線の形状のみならず、トロリ線設備の他の部位の形状も問題となる。
【0065】
そこで、本実施形態では、熱判定部122により、第1の実施形態の熱判定部22と同様にステップST1~ST6を実施し、熱による異常部を検知して欠損や溶損を未然に防止する他、以下のように形状判定部124により各部位の形状判定を実施して、各部位の形状異常によるトラブルをも未然に防止する。
【0066】
次に、形状判定部124において実施される形状判定について、
図9を参照して具体的に説明する。
【0067】
最初に、可視カメラ123でトロリ線設備10を撮像し、その撮像データを取り込む(ステップST11)。次いで、位置情報に応じて各部位(トロリ線11、支持碍子12、インシュレータ13、連結部14)を画像抽出する(ステップST12)。画像の位置情報は、上述したように、画像自体の特徴部から把握してもよいし、天井クレーン等の移動機の位置情報を用いて把握してもよい。画像抽出は、各部位について同じ角度から撮像した同じ位置の画像が抽出されるように行われることが好ましい。
【0068】
次に、初期形状等を用いて正常に各部位を画像抽出できたか否かを判断する(ステップST13)。ステップST13で正常に抽出できた場合(正常部として検知された場合)は、そのまま、抽出した画像に撮像日時、位置情報を追加して、各部位データごとに区分する(ステップST14)。また、正常に抽出できない場合(未検知部の場合)は、本来あるべき部位のデータを切り抜いて抽出し(ステップST15)、その後ステップST14を実行する。
【0069】
そして、各部位ごとに区分された抽出画像データに基づいて、各部位が正常部か異常部かを判定する(ステップST16)。具体的には、各部位(トロリ線11、支持碍子12、インシュレータ13、連結部14)について、初期形状と比較して形状の変化がないか(トロリ線11およびインシュレータ13の場合は曲がりや摩耗の有無、支持碍子12の場合は、ヒビ、割損、汚れ、傾き、連結部14の場合はボルト外れ、破損)、並列する同種機器と比較して変動はないか、異なる日時(前回以前)の測定データ(抽出画像データ)と比較して変動はないか、のいずれか、または、これらの2つ以上を検査し、正常部か異常部かを判定する。
【0070】
次いで、正常部・異常部を出力する(ステップST17)。このとき、抽出動画区分および元の動画へのマーキングが行われてもよい。
【0071】
ステップST13で正常に抽出できた場合は、ステップST16において正常部と判定される確率が高い。一方、ステップST13で正常に抽出できなかった未検知部は、ステップST16において異常部と判定される確率が高い。上述したように、AIによる機械学習を用いることにより、ステップST13における正常に画像抽出する確率を上げ、正常部の検知精度を上げることができる。
【0072】
なお、熱動画カメラ121による撮像と、可視動画カメラ123による撮像は、同時に実施することができる。また、どちらかを先に実施してもよい。
【0073】
このように、本実施形態では、熱動画カメラ121により撮像した熱動画から各位置の温度データを抽出し、熱判定部122により閾値判定を行って正常部と異常部を判別するので、ボルトの緩みや腐食、経年劣化等の接触不良で発生する抵抗加熱傾向にある部位の熱的な異常を早期に把握することができる。また、可視カメラ123で撮像した動画を画像処理して、トロリ線設備の各部位(トロリ線11、支持碍子12、インシュレータ13、連結部14)の画像抽出を行い、抽出された画像により各部位の一つひとつが正常部か異常部かを判定するので、各部位の形状異常を早期に検知することが可能となる。
【0074】
これにより、目視等では把握することができない外観の変化をともなわない熱的異常に基づく欠損や溶損を未然に防止することができるとともに、トロリ線設備10の各部位の形状異常に基づく設備異常を早期に検知することができる。また、熱異常と形状異常の両方を把握することができるので、トロリ線設備のトラブルをより効果的に防止することができる。例えば、連結部14のボルトの緩みにより異常が生じている場合、ボルトの緩みによる接触不良による熱的な異常を熱判定部122で判定できるが、何等かの事情で熱判定部122により異常判定を行えない場合でも、連結部14の熱による変形を形状判定124により検知することにより、設備異常が生じる前に異常判定を行うことができる。
【0075】
また、熱判定部122は、第1の実施形態の熱判定部22と同様、設備ごとに判定条件の調整が必要なく、実物との比較確認が不要であり、また、形状判定部124も、各部位の初期形状や、同じ位置の時系列データ、並列する同型機器の抽出画像との比較判定により異常を検出し、かつ実物の画像に基づいて正常か異常かを判定するため、軌道設備ごとに判定条件の調整が必要なく、実物との比較確認が不要である。このため、本実施形態の検査装置120においても、第1の実施形態の検査装置20と同様、他の軌道設備への展開が容易であり、かつ、点検時間が短時間で済み、また操業制約がかかるおそれも小さい。
【0076】
さらにまた、形状判定部124における画像抽出の際の画像処理は、AIによる機械学習を用いて行うことにより、正常部の検知精度を向上させることができ、データ量の増加にともなって、正常部と異常部の判定を高精度でかつより短時間で行うことが可能となる。
【0077】
さらにまた、天井クレーン等の移動機は走行時の振動影響があるが、可視カメラ123は、従来用いられていたレーザ距離計よりも振動影響が小さいという利点も有する。
【0078】
なお、
図9では、トロリ線11、支持碍子12、インシュレータ13、連結部14の全ての画像抽出を行う例を示しているが、これらの一以上の部位の画像抽出であってよい。
【0079】
<他の適用>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上記実施の形態はあくまで例示に過ぎず、制限的なものではないと考えられるべきである。上記実施の形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【0080】
例えば、上記実施の形態では、移動機として天井クレーンや台車を例示したが、それらに限定されるものではない。また、上記実施の形態では、形状判定部による画像処理にAIによる機械学習を適用して正常部の検知精度を向上させる例を示したが、これに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0081】
10 トロリ線設備
11 トロリ線
12 支持碍子
13 インシュレータ
14 連結部
15 パンタグラフ
20,120 検査装置
21,121 熱動画カメラ
22,122 熱判定部
23,125 管理部
123 可視カメラ
124 形状判定部