(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026740
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】マイクロバブル製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 9/50 20060101AFI20220203BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20220203BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20220203BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20220203BHJP
A61K 49/22 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A61K9/50
A61K47/24
A61K47/06
A61K47/69
A61K49/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020130343
(22)【出願日】2020-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮
(72)【発明者】
【氏名】小俣 大樹
(72)【発明者】
【氏名】丸山 一雄
(72)【発明者】
【氏名】島 忠光
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA61
4C076BB13
4C076CC50
4C076DD35
4C076DD60
4C076DD63
4C076DD67
4C076EE37
4C076EE41
4C076EE59
4C085HH09
4C085JJ08
4C085KB39
4C085KB60
(57)【要約】
【課題】繰返し使用したとしてもABC現象が生じにくいマイクロバブル製剤を提供する。
【解決手段】脂質からなる被膜と、被膜の内腔に封入されたガスとからなり、accelerated blood clearance(ABC)現象の回避を可能とするマイクロバブル製剤であって、被膜は、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、及び、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)からなる脂質であり、ガスは、パーフルオロプロパン、パーフルオロブタン、パーフルオロペンタン、及び、パーフルオロヘキサンの少なくとも何れか又は混合ガスを含有することを特徴とする。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質からなる被膜と、前記被膜の内腔に封入されたガスとからなり、accelerated blood clearance(ABC)現象の回避を可能とするマイクロバブル製剤であって、
前記被膜は、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、及び、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)からなる脂質であり、
前記ガスは、パーフルオロプロパン、パーフルオロブタン、パーフルオロペンタン、及び、パーフルオロヘキサンの少なくとも何れか又は混合ガスを含有することを特徴とするマイクロバブル製剤。
【請求項2】
前記被膜は、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)とジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)とを、9:16~3:7のモル比にて形成された脂質であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロバブル製剤。
【請求項3】
前記ガスは、パーフルオロプロパンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロバブル製剤。
【請求項4】
前記被膜は、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)とジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)とを、1:2のモル比にて形成された脂質であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のマイクロバブル製剤。
【請求項5】
直径が10nm~5μmである請求項1乃至4の何れか1項に記載のマイクロバブル製剤。
【請求項6】
前記被膜の脂質表面にリガンドが修飾されており、
前記リガンドは、Arginine-Glycine-Aspartic acid(RGD)配列ペプチド、トランスフェリン、葉酸、ヒアルロン酸、ガラクトース又はマンノースであることを特徴とする請求項5に記載のセラノスティクス用のマイクロバブル製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ABC現象を回避することができるマイクロバブル製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床では超音波検査時の血行動態評価に、脂質膜の外殻にガスを内包したマイクロバブル(以下MBと記載することがある。)が造影剤として使用されている。国内で使用されている造影剤には主としてレボビスト(登録商標)とソナゾイド(登録商標)とがある。レボビストは心血管造影の診断として使用されており、ソナゾイドはクッパー細胞造影による肝癌の診断及び乳腺腫瘍の診断に使用されている。
【0003】
臨床で用いられている多くのMB製剤は、安定性や血中滞留性に問題を抱えている。これらの問題を解決するためジステアロイルホスファチジルグリセロール(以下DSPGと記載することがある。)を主要構成成分とする安定且つ血中滞留性の高いMBを開発してきた(非特許文献1)。即ちDSPC:DSPE-PEG2000をベースにした組成にDSPGを添加し、パーフルオロプロバンガスの存在下ホモジナイザーを用いて調製したマイクロバブル製剤は安定な造影能を示した。このMBには安定性向上の目的でPolyethylene glycol(以下PEGと記載することがある。)修飾脂質を使用している。
【0004】
しかし、PEG修飾脂質を含有したリポソーム等で、初回投与に比べ繰り返し投与におけるクリアランスが著しく上昇するAccelerated Blood Clearance現象(以下ABC現象と記載することがある。)の発現が報告されている。即ち、一度マイクロバブル製剤が投与された動物に、一定期間経過後、同一または異なる種類のマイクロバブル製剤を投与した場合、2回目に投与されたマイクロバブル製剤の血中クリアランスが促進され、マイクロバブル製剤の血中濃度が急激に低下することが報告されている(非特許文献2,3参照)。
【0005】
このABC現象はPEG含有物への暴露により誘導される抗PEG抗体が原因となっている。最近では、ABC現象が発現するとPEG含有MB製剤の超音波造影効果が短くなることが報告されている(非特許文献4)。ABC現象がMBの超音波造影効果に影響を与えることから、ABC現象を回避できるMB製剤の開発は、MBを繰返し使用する際の診断能向上に繋がると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Unga J.,et al.,J Liposome Res.,29,368-374(2019).
【非特許文献2】Ishida T.,Kiwada H.,Int J Pharm.,354,56-62(2008).
【非特許文献3】Dams ET,Laverman P,Oyen WJ,Storm G,Scherphof GL,van Der Meer JW,Corstens FH,Boerman OC.,Accelerated blood clearance and altered biodistribution of repeated injections of sterically stabilized liposomes.J Pharmacol Exp Ther.2000 Mar;292(3):1071-9
【非特許文献4】Fix S.M.,et al.,Ultrasound Med Biol.,44,1266-1280(2018).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、繰返し使用したとしてもABC現象が生じにくいマイクロバブル製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかるマイクロバブル製剤は、脂質からなる被膜と、前記被膜の内腔に封入されたガスとからなり、Accelerated Blood Clearance(ABC)現象の回避を可能とするマイクロバブル製剤であって、前記被膜は、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、及び、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)からなる脂質であり、前記ガスは、パーフルオロプロパン、パーフルオロブタン、パーフルオロペンタン、及び、パーフルオロヘキサンの少なくとも何れか又は混合ガスを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、繰返し使用したとしてもABC現象が生じにくいマイクロバブル製剤が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】PG(PEG)-MBの調製方法の概要を説明する図である。
【
図2】PG(PEG)-MBの外観を、凍結乾燥品と復水後とにおいて、説明する写真図である。
【
図3】in vitroにおけるPG(PEG)-MBの安定性評価方法を説明する図であり、そのうち(A)は実験の模式図であり、(B)はコントラストモードによるPG(PEG)-MBの超音波造影画像である。
【
図4】in vitroにおけるPG(PEG)-MBの超音波造影輝度消失曲線を示す図である。
【
図5】PG(PEG)-MBの繰り返し投与による造影評価を説明する図であり、そのうち(A)は実験の模式図であり、(B)は超音波造影により撮像したマウスの腎臓をBモードとコントラストモードとで造影した図である。
【
図6】PG(PEG)-MBの繰り返し投与における超音波造影を説明する図であり、そのうち(A)は造影輝度消失曲線であり、(B)は造影半減期を示すグラフである。
【
図7】PG(PEG)-MBによる抗PEG IgM抗体誘導方法の概要を説明する図である。
【
図8】遊離PEG前投与によるPG(PEG)-MBの超音波造影への影響検討方法の概要を説明する図である。
【
図9】マウスの血漿のおける抗PEG IgM抗体価の測定結果を示す図であり、そのうち(A)はPEG修飾リポソーム投与後の抗PEG IgM抗体価を説明する図であり、(B)はPG(PEG)-MB投与後の抗PEG IgM抗体価を説明する図である。
【
図10】遊離PEG前投与によるPG(PEG)-MBの超音波造影への影響検討を説明する図であり、そのうち(A)は造影輝度消失曲線であり、(B)は造影半減期を示すグラフである。
【
図11】PEG修飾リポソーム投与後におけるPG(PEG)-MBの血中滞留性評価を説明する図であり、そのうち(A)は造影輝度消失曲線であり、(B)は造影半減期を示すグラフである。
【
図12】PEG未修飾MBの特性評価を示す図であり、そのうち(A)は各MBの外観を示す写真図であり、(B)は各MBの平均粒子径を説明する図であり、(C)は各MBの個数濃度を説明する図である。
【
図13】in vitroにおけるnonPEG-MBの安定性評価を説明する図であり、そのうち(A)は造影輝度消失曲線であり、(B)は造影半減期を示すグラフである。
【
図14】in vivoにおけるnonPEG-MBの血中滞留性評価を説明する図であり、そのうち(A)は造影輝度消失曲線であり、(B)は造影半減期を示すグラフである。
【
図15】nonPEG-MBの静脈内投与後の経時的血中抗PEG IgM抗体価の測定結果を示す図である。
【
図16】nonPEG-MBの繰り返し投与における超音波造影評価を説明する図であり、そのうち(A)は造影輝度消失曲線であり、(B)は造影半減期を示すグラフである。
【
図17】抗PEG IgM抗体存在下におけるnonPEG-MBの超音波造影評価を説明する図であり、そのうち(A)は造影輝度消失曲線であり、(B)は造影半減期を示すグラフである。
【
図18】ABC現象誘導下におけるMBの組織分布を説明する図であり、そのうち(A)はIVISによる蛍光観察の結果を示す図であり、(B)は肝臓又は脾臓の相対蛍光強度を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0012】
1.<マイクロバブル製剤>
本発明者らは、診断(Diagnosis)と治療(Therapeutics)を融合したセラノスティクス(Theranostics)に使用されるセラノスティクス用のバブル製剤の開発に成功しているが、ABC現象を回避し、セラノスティクス用のバブル製剤を繰返し使用する際の診断能力を向上させるための要請がある。本発明者らはABC現象には抗PEG IgM抗体誘導が関与していることを見出し、抗PEG IgM抗体の抗体価を抑制できるマイクロバブル製剤を実現することに成功した。
【0013】
本実施形態にかかるマイクロバブル製剤は、脂質からなる被膜と、この被膜の内腔に封入されたガスとからなる。
【0014】
被膜は、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、及び、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)からなる脂質である。
【0015】
ガスはパーフルオロ炭化水素ガスであり、具体的にはパーフロオロプロパン、パーフルオロブタン、パーフルオロペンタン、及び、パーフルオロヘキサンの少なくとも何れか又は混合ガスを含有する。パーフルオロ炭化水素ガスは、日本では医療用として購入できる。好ましくはパーフルオロプロパンである。なお、これら以外のパーフルオロ炭化水素を包含することも可能で有り、具体的には例えばパーフルオロメタン、パーフルオロエタン、パーフルオロイソオクタン、パーフルオロノルマルオクタン、及び六フッ化イオウである。充填されるガスの圧力としては、例えば0.1~1.0MPa程度である。
【0016】
DSPCとDSPGとのモル比は、特に限定されるものではないが例えばDSPCよりもDSPGが多く包含されるモル比として設定することが可能であり、具体的には0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0の何れかから任意の組み合わせを選択してDSPCよりもDSPGが多く包含されるモル比として設定することが可能であり、好ましくはDSPCとDSPGとを9:16~3:7のモル比にて形成することが可能であり、好ましくはDSPCとDSPGとが1:2のモル比にて形成される。即ち、DSPG/(DSPC+DSPG)が、64%~70%のモル比にて形成することが可能であり、好ましくはDSPG/(DSPC+DSPG)が、67%のモル比にて形成される。
【0017】
本発明にかかるマイクロバブル製剤は、脂質からなる被膜によってガスを包み込んだ微少気泡であり、液体中に直径10nm~5μmの泡状体で存在する。マイクロバブル製剤の直径は、例えば動的光散乱法により測定される。
【0018】
被膜は、DSPC及びDSPGからなる脂質であるが、下記に示す脂質を更に包含させることも可能である。具体的には、ジミリストイル-ホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジアラキドイルホスファチジルエタノールアミン(DAPE)又はジリノレイルホスファチジルエタノールアミン(DLPE)等のホスファチジルエタノールアミン;ジラウロイル-ホスファチジルコリン(DLPC)、ジミリストイル-ホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイル-ホスファチジルコリン(DPPC)、ジアラキドイル-ホスファチジルコリン(DAPC)、又はジオレイル-ホスファチジルコリン(DOPC)等のホスファチジルコリン;ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジアラキドイルホスファチジルセリン(DAPS)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ジオレイルホスファチジルセリン(DOPS)等のホスファチジルセリン;ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジミリストイルホスファチジン酸(DMPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)、ジアラキドイルホスファチジン酸(DAPA)及びそのアルカリ金属塩等のホファチジン酸誘導体;ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)及びそのアルカリ金属塩、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)及びそのアルカリ金属塩、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)及びそのアルカリ金属塩、ジオレイル-ホスファチジルグリセロール(DOPG)等のホスファチジルグリセロール;ジラウロイルホスファチジルイノシトール(DLPI)、ジアラキドイルホスファチジルイノシトール(DAPI)、ジミリストイルホスファチジルイノシトール(DMPI)、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)、ジオレイルホスファチジルイノシトール(DOPI)等のホスファチジルイノシトール等が挙げられる。
【0019】
被膜の脂質表面に、標的細胞、標的組織、標的病巣に対するリガンドが修飾されていることも可能である。リガンドは、例えば、血栓に対するリガンドとしてArginine-Glycine-Aspartic acid(RGD)配列ペプチド、Sigma Protein等が挙げられ、癌細胞に対するリガンドとしてトランスフェリン、葉酸、ヒアルロン酸、ガラクトース又はマンノースが挙げられる。またモノクローナル抗体やポリクローナル抗体もリガンドとして使用できる。好ましくはRGDペプチドであり、RGDペプチドは、特定の細胞や血栓上に存在する細胞接着因子に特異的に結合する機能を持つ。そのため被膜の脂質表面にRGDペプチドを修飾させることにより、血栓の可視化を更に容易とすることが可能となる。
【0020】
被膜には、必要に応じ他の物質を加えることもでき、例えば膜安定化剤としてシトステロール、コレステロール、ジヒドロコレステロール、コレステロールエステル、フィトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、コレスタノール、ラノステロール、1-O-ステロールグルコシド、1-O-ステロールマルトシド、及びこれらの混合物を含有させることができる。
【0021】
本発明にかかるセラノスティクス用のマイクロバブル製剤の被膜の内部には薬物を内包又は表面吸着させることも可能である。薬物は、長期間血中濃度が維持されることが望まれる薬物又は特定の疾患部位や細胞への標的指向性を意図した投与が必要な薬物等が好ましい。薬物は、特に限定されるものではないが、例えば抗癌剤、腫瘍溶解性ウイルス、抗生物質、抗喘息薬、抗血栓剤、抗原虫薬、免疫賦活剤、ペプチド系薬物、抗ウイルス薬である。
【0022】
抗癌剤は、特に限定されるものではないが、例えばドキソルビシン、シスプラチン、マイトマイシン、ブレオマイシン、5-フルオロウラシル、メソトレキサート、ナイトロジェンマスタード、ブスルファン、オギザリプラチン、タキソール、カンプトテシン等である。腫瘍溶解性ウイルスは例えば腫瘍溶解性レオウイルス、腫瘍溶解性アデノウイルス、腫瘍溶解性麻疹ウイルス、腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス、腫瘍溶解性ニューカッスル病ウイルス、腫瘍溶解性牛痘ウイルス、腫瘍溶解性ムンプスウイルス、腫瘍溶解性コクサッキーウイルス、腫瘍溶解性ワクシニアウイルス等である。抗生物質は例えばスルファゼン、ゲンタマイシン、ストレプトマイシン等である。抗喘息薬は例えばテオフィリン等である。抗血栓剤は、例えば、tPA、ヘパリン、低分子量ヘパリン、ウロキナーゼ、トロンボモジュリン、ストレプトキナーゼ等である。抗原虫薬は例えばアンチモン酸メグルミン等である。免疫賦活剤は例えばムラミルペプチド類等である。ペプチド系薬物は例えば、天然型又は遺伝子組み換え型のα、β、γ-インターフェロン、インターロイキン、スーパーオキシドデスムターゼ、ワクチン用ペプチド、抗原等である。その他にも薬物として、例えばプロスタグランジン等の動脈硬化症治療薬、動脈閉塞症、バーチャ病に対するNFカッパーB、デコイ等が挙げられる。
【0023】
また、セラノスティクス用のマイクロバブル製剤の内部には薬物のみならず遺伝子類を内包又は表面吸着させることも可能である。遺伝子類は、例えば、DNA、RNA、アンチセンスDNA、siRNA、デコイ、治療用オリゴヌクレオチド、遺伝子治療用ウイルスベクター等である。
【0024】
2.<マイクロバブル製剤の製造方法>
本発明にかかるマイクロバブル製剤は、脂質懸濁液を有機溶媒に溶解させ、有機溶媒を減圧除去して脂質薄膜を作製し、この脂質薄膜にリン酸緩衝液を添加して水和し、恒温振盪してリポソームとする。調製したリポソームをパーフルオロ炭化水素存在下にてホモジナイザーを用いて高速攪拌することで調製することが可能である。
【0025】
3.<凍結乾燥粉末体>
本発明にかかるマイクロバブル製剤は、長期保存を可能とするために、凍結乾燥粉末体とすることが可能である。凍結乾燥粉末体は、本発明にかかるマイクロバブル製剤が、トレハロース又はスクロースである糖質の溶液に懸濁している懸濁液を凍結乾燥させて得られる。
【0026】
凍結乾燥の際に、凍結保護及び/又は分散保護のために凍結乾燥添加剤を含有させておくことも可能である。凍結乾燥添加剤としては、例えば、グリシンのようなアミノ酸;マンニトール、マルトース、グルコース、ラクトース、イヌリン、スクロース、トレハロース又はシクロデキストリンのような糖類;デキストラン、キトサンのような多糖;又はポリエチレングリコールのようなポリオキシアルキレングリコール等が挙げられる。
【0027】
この凍結乾燥粉末体により3ヶ月以上の長期の保存が可能となり、注射用水と、上述したパーフルオロプロパン等のパーフルオロ炭化水素ガスにより復元して使用することが可能である。
【0028】
4.<マイクロバブル製剤(TB)の使用方法>
本発明にかかるマイクロバブル製剤は、例えばセラノスティクス用に使用する場合は、下記のように使用する。即ち、本発明にかかるマイクロバブル製剤が注射用水に懸濁されている懸濁液を対象組織に導入する。対象組織は特に限定されるものではないが、例えば癌組織である。
【0029】
次に第1の周波数からなる診断用超音波を対象組織に作用させることにより対象組織の造影による診断を行う。第1の周波数は例えば3MHz~20MHzである。第1の周波数を作用させることによりMicrostreaming現象が生じる。即ち、超音波の音圧強度によりナノバブルが拡大・縮小を繰り返して局所的に振動する。
【0030】
次に第2の周波数からなる低強度超音波を対象組織に作用させることによりキャビテーション現象による対象組織の治療を行う。第2の周波数は例えば0.5MHz~3.0MHzである。キャビテーション現象は、ナノバブルが圧壊する時点で大きな圧力を放出し、ジェット流が生じるものである。
【0031】
第1の周波数による診断用超音波を対象組織に作用させることにより対象組織の造影が可能となり、造影できるということはその部位に向かって第2の周波数による低強度超音波又はLOFUを照射すればキャビテーションによる治療が可能となる。また本発明にかかるマイクロバブル製剤はABC現象を抑制可能であるため繰返し使用した場合でも診断能力を的確に保持できる。
【実施例0032】
1.PG(PEG)-MB
1-1.PG(PEG)-MBの調製方法
DSPC:DSPG:DSPE-PEG(2k)-OMe=1:2:0.33(mol比)を有機溶媒混合液(クロロホルム:メタノール:10%アンモニア水:MilliQ=65:35:4:4)に溶解させ、ロータリーエバポレーターにて有機溶媒を減圧除去し脂質薄膜を作製した。その後、脂質薄膜をデシケータにて終夜減圧し有機溶媒を完全に除去した。この脂質薄膜に100mMリン酸緩衝液(pH7.4)を添加し水和した。水和後、恒温振盪(65℃、30分間、160rpm)しリポソームとした。調製した1mMリポソーム20mLを50mL用ファルコンチューブへ添加し、C
3F
8存在下でホモジナイザーを用いて高速攪拌(15,000rpm、5min)することでPG(PEG)-MBを調製した(
図1)。調製したPG(PEG)-MBと凍結乾燥時の保護剤となる18%スクロース溶液を各1mLずつ1:1の割合で5mL用バイアルへ添加し、凍結乾燥(-35℃;1時間、-20℃;72時間、+20℃;40時間)を行った。作製した凍結乾燥品(
図2)をMilliQ2mLで用時溶解し、PBSで希釈して実験に使用した。
【0033】
1-2.コールターカウンター法によるMBのサイズと個数濃度の測定方法
ガラスビーカー内のISOTON50mLに調製したPG(PEG)-MB(10μL)を添加し、コールターカウンター法で精密粒度分布測定装置(Multisizer3)を用いて平均粒子径と個数濃度を測定した。
【0034】
1-3.in vitroにおけるPG(PEG)-MBの安定性評価方法
造影時のノイズを抑えるため超音波音響吸収タイルを設置したビーカーに500mLの脱気PBS(37℃、攪拌下)を注ぎ、PG(PEG)-MB(1×10
6個/50μL)を添加して超音波造影装置(LOGIQE9)のコントラストモードを用いて超音波造影(照射条件:Dynamic range(DR)=72dB,相対超音波出力(AO)=70%,Mechanical index(MI値)=0.2,Gain=1dB)した(
図3)。撮影した造影像は画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いて輝度解析し、相対輝度を算出した。相対輝度は最高輝度から以下の式を用いて算出した。
【0035】
相対輝度=測定輝度/最高輝度×100(%)
さらに、相対輝度が50%となった時間を造影輝度の半減期(造影半減期)として算出した。また、各測定の1秒毎の相対輝度の平均をとり、散布図とすることで相対輝度の消失曲線を描出した。
【0036】
1-4.invivoにおけるPG(PEG)-MBの血中滞留性評価方法
ddYマウス(雌性、6週齢)の後背部を除毛し、イソフルラン麻酔下においてPG(PEG)-MB(0.25×107個/マウス)を静脈内投与した。PG(PEG)-MB投与後、超音波造影装置(LOGIQE9)のコントラストモード(照射条件:DR=72dB,AO=70%,MI値=0.2,Gain=1dB)を用いて、腎臓における超音波造影輝度の変化を指標に各MBの血中滞留性を評価した。超音波撮像画像はImageJを用いて輝度解析し、造影半減期を算出した。さらに、PG(PEG)-MB初回投与から7日後にPG(PEG)-MB(0.25×107個/マウス)を再投与し、同様の方法で血中滞留性を評価し、造影半減期を比較した。
【0037】
1-5.特性評価
はじめに本研究で調製したPG(PEG)-MBの特性を評価した。その結果、PG(PEG)-MBの平均粒子径は2.16±0.06μmで、調製時の平均個数濃度は1.3±0.3(×10
9個/mL)であった。既存の超音波造影剤であるSonazoidの平均粒子径はインタビューフォームより2~3μmとされているため、本検討におけるPG(PEG)-MBの粒子径はSonazoidとほぼ同様と示された。また、PG(PEG)-MBをin vitroで超音波造影した結果、PG(PEG)-MBの造影輝度が時間の経過とともに低下した。PG(PEG)-MBの造影半減期を算出したところ、造影半減期の平均値は124.3±25.4秒であった(
図4)。
【0038】
1-6.検討結果
次に、このPG(PEG)-MBのABC現象を検討するため、PG(PEG)-MBをマウスに投与し、その7日後にPG(PEG)-MBを再投与した時のマウス腎臓における超音波造影輝度の推移を検討した(
図5)。腎臓は血流が多く、表皮に近いため超音波造影での観察に適しており、本研究の観察臓器として選択した。PG(PEG)-MBの造影半減期を算出した結果、初回投与に比べ、2回目に投与したマウスにおいて超音波造影輝度の消失が早く、造影半減期が有意に短縮した(
図6)。このことから、PG(PEG)-MBがABC現象を誘導することが明らかとなった。このように、繰り返し投与でMBの造影半減期が変化することは、臨床で同一患者への再検査を行う場合に障害となる可能性が懸念された。そのため、ABC現象を回避可能なMBの開発が必要と考えられた。また、過去の報告によると、PEG修飾リポソームやPEG修飾MBの繰り返し投与において、抗PEGIgM抗体の誘導がABC現象の原因であることが示されている。本検討により、PG(PEG)-MBによるABC現象の誘導が確認できたため、PG(PEG)-MBにおいても抗PEGIgM抗体の誘導がABC現象の原因である可能性が考えられた。
【0039】
2.ABC現象誘導における抗PEGIgM抗体の関与
2-1.PEG修飾リポソームの調製方法
EggPC:Cholesterol:DSPE-PEG(2k)-OMe=1.85:1:0.15(mol比)をクロロホルムに溶解させ、ロータリーエバポレーターにて有機溶媒を減圧除去し、脂質薄膜を作製した。その後、脂質薄膜をデシケータにて終夜減圧し、有機溶媒を完全に除去した。この脂質薄膜に25mMHEPES緩衝液(0.14MNaCl、pH7.4)を20mL添加して水和した。水和後、恒温振盪(65℃、30分間、160rpm)し、バス型ソニケーターで10分間のソニケーションを行った。その後、エクストルーダー(膜孔径:400nm×3回,200nm×15回,100nm×10回,80nm×3回)により粒子径を調製し、450nmフィルターでろ過し、PEG修飾リポソーム懸濁液とした。作製したPEG修飾リポソームは動的光散乱法により粒子径分析装置(ZetasizerNano-ZS)を用いて平均粒子径を測定した。
【0040】
2-2.PEG修飾リポソームによる抗PEGIgM抗体誘導方法
ddYマウス(雌性、6週齢)にPEG修飾リポソーム(EggPC:0.1μmoL/kg)を静脈内投与し、投与後0,3,5,7,10,14日目にヘパリン処理キャピラリーで採血を行った。回収した血液を遠心分離(3400rpm、30分)することで血漿を回収し、固相をDSPE-PEG(2k)-OMeとし、一次抗体として希釈したマウスの血漿、二次抗体をGOAT anti-MOUSE IgM HRP conjugate(0.1μg/mL)、発色基質にTMBを用いたELISA法により、抗PEGIgM抗体の抗体価を評価した。なお、抗体価は吸光度(450nm)が0.1以上となる最大希釈倍率の2を底とする常用対数と定義した。
【0041】
2-3.PG(PEG)-MBによる抗PEGIgM抗体誘導方法
ddYマウス(雌性、6週齢)にPG(PEG)-MB(0.25×10
7個/マウス)を静脈内投与し、PG(PEG)-MB投与後0,3,5,7,10,14日目に採血を行った(
図7)。回収した血液を遠心分離(3400rpm、30分)することで血漿部分を回収し、PEG修飾リポソームによる抗PEGIgM抗体誘導の実験と同様のELISA法により、抗PEGIgM抗体の抗体価を評価した。
【0042】
2-4.遊離PEG前投与によるPG(PEG)-MBの超音波造影への影響検討方法
ddYマウス(雌性、6週齢)にPG(PEG)-MB(0.25×10
7個/マウス)を投与し、投与後7日後に遊離PEG-20k(120mg/マウス)をマウスの静脈内へ投与した。遊離PEG投与後3時間後にPG(PEG)-MB(0.25×10
7個/マウス)の再投与を行った(
図8)。PG(PEG)-MB投与後に超音波造影装置(LOGIQE9)(照射条件:DR=72dB,AO=70%,MI値=0.2,Gain=1dB)を用いて腎臓における超音波造影輝度の変化を指標に、ABC現象誘導下でのPG(PEG)-MBの造影半減期への遊離PEG投与の影響を評価した。
【0043】
2-5.検討結果
本実施例では、PEG修飾リポソーム投与による抗PEGIgM抗体の誘導を、PG(PEG)-MB投与による抗PEGIgM抗体誘導に関する検討のポジティブコントロールにすることを考えた。そのため、はじめに上述の実験におけるポジティブコントロールとしてのPEG修飾リポソームの妥当性を検討することとした。本検討の方法で作製したPEG修飾リポソームの平均粒子径は73.77±3.71nm(n=3)となった。マウスにPEG修飾リポソームを投与し、経日的に血液をサンプリングし、血漿中の抗PEGIgM抗体価を検討した。その結果、PEG修飾リポソームの投与3日後から抗PEGIgM抗体価の有意な上昇が認められ、抗体価の高値は投与後14日間に渡り継続していた。そのため、PEG修飾リポソームが、PG(PEG)-MBを評価するためのポジティブコントロールとして妥当であると考えられた。次に、PG(PEG)-MBを投与したマウスでの抗PEGIgM抗体の誘導について検討した。その結果、PG(PEG)-MB投与後3日目以降で血漿中の抗PEGIgM抗体価の有意な上昇がみられ、投与後14日間に渡り高値が継続した(
図9)。この抗PEGIgM抗体価の上昇はPEG修飾MB投与後7日目にピークを迎えていた。PG(PEG)-MBの投与においてもPEG修飾リポソーム投与と同様に抗PEGIgM抗体産生が誘導されることが明らかとなった。このようにPG(PEG)-MB投与でも抗PEGIgM抗体の産生が確認されたことから、PG(PEG)-MBのABC現象の原因が抗PEGIgM抗体の誘導であると考えられた。そこで、PG(PEG)-MB投与における抗PEGIgM抗体のABC現象への関与を明確にするため、遊離PEGを用いた競合阻害実験を行った。遊離PEGは120mg/マウスとして投与した。PG(PEG)-MBを投与し抗PEGIgM抗体を誘導したマウスに、遊離PEGを投与した後にPG(PEG)-MBを再投与した結果、PG(PEG)-MBの造影半減期は、初回投与と同等まで回復した(
図10)。これより、遊離PEGの投与でABC現象が解消されることが示された。これは、遊離PEGの投与により本来PG(PEG)-MBに結合するはずであった抗PEGIgM抗体が競合阻害され、PG(PEG)-MBのオプソニン化が回避されたためであると推察された。このようなPG(PEG)-MBのオプソニン化回避に伴い、肝臓及び脾臓への取り込みが抑制され、造影半減期が初回投与と同等になったと考えられた。以上の結果から、PG(PEG)-MB再投与でみられたABC現象の原因が抗PEGIgM抗体であることが示唆された。
【0044】
3.抗PEG抗体によるABC現象の交差性に対する検討
3-1.PEG修飾リポソームの調製方法
PEG修飾リポソームは前述と同様の方法で調製した。
【0045】
3-2.PEG修飾リポソーム投与後におけるPG(PEG)-MBの血中滞留性評価方法
ddYマウス(雌性、6週齢)にPEG修飾リポソーム(EggPC:0.1μmol/kg)を静脈内投与した。さらに、7日後に後背部を除毛し、イソフルラン麻酔下においてPG(PEG)-MB(0.25×107個/マウス)を静脈内投与した。PG(PEG)-MB投与後、超音波造影装置(LOGIQE9)を用いて前述と同様に造影し、造影半減期を算出した。
【0046】
3-3.検討結果
PEG修飾リポソームを事前に投与し、抗PEGIgM抗体が誘導されたマウスにPG(PEG)-MBを投与したときの超音波造影への影響を検討した。その結果、無処置のマウスへのPG(PEG)-MB投与に比べ、PEG修飾リポソーム投与後のPG(PEG)-MB投与において、超音波造影半減期の有意な短縮が認められた(
図11)。このことから、PEG修飾リポソームの投与で産生誘導された抗PEGIgM抗体が、PG(PEG)-MBのABC現象にも関与することが明らかとなった。このように、産生誘導された抗PEGIgM抗体は、PEG化製剤の種類を超えた交差性を有していることが示された。本実施例でみられた抗PEGIgM抗体の交差性は臨床現場において問題点とされる可能性があり、抗PEGIgM抗体の影響から逃れる対策を講じる必要があると考えられた。
【0047】
4.PEG未修飾マイクロバブルの開発
4-1.nonPEG-MBの調製
各脂質懸濁液(DSPC:DSPG=2:1,1:1,1:2,1:3,1:4およびDSPG100%(mol 比))を有機溶媒混合液(クロロホルム:メタノール:10%アンモニア水:MilliQ=65:35:4:4)に溶解させ、ロータリーエバポレーターにて有機溶媒を減圧除去し脂質薄膜を作製した。その後、脂質薄膜をデシケータにて終夜減圧し有機溶媒を完全に除去した。この脂質薄膜に100mMリン酸緩衝液(pH7.4)を添加し、水和した。水和後、恒温振盪(65℃、30分間、160rpm)し、リポソームとした。調製したリポソーム(脂質濃度1mM)20mLを50mLチューブへ添加し、C3F8存在下にてホモジナイザーを用いて高速攪拌(15,000rpm、5min)することでnonPEG-MBを調製した。調製したnonPEG-MBと凍結乾燥時の保護剤として18%スクロース溶液を各1mLずつ1:1の割合で5mL用バイアルへ添加し、凍結乾燥(-35℃;1時間、-20℃;72時間、+20℃;40時間)を行った。作製した凍結乾燥品をMilliQ2mLで用時溶解し、PBSで希釈して実験に使用した。
【0048】
4-2.サイズ及び個数濃度の測定方法
作成したnonPEG-MBのサイズと個数濃度の測定は、前述したコールターカウンター法によった。
【0049】
4-3.in vitroにおけるnonPEG-MBの安定性評価方法
造影時のノイズを抑えるため超音波音響吸収タイルを設置したビーカーに500mLの脱気PBS(37℃、攪拌下)を注ぎ各組成のnonPEG-MB(1×106個/50μL)を添加し、超音波造影(照射条件:DR=72dB,AO=70%,MI値=0.2,Gain=1dB)した。撮影した造影像はImageJを用いて輝度解析し、相対輝度を算出した。相対輝度は前述と同様の手法にて算出した。
【0050】
4-4.in vivoにおけるnonPEG-MBの血中滞留性評価方法
ddYマウス(雌性、6週齢)の後背部を除毛し、イソフルラン麻酔下において各組成のnonPEG-MB(0.25×107個/マウス)を静脈内投与した。各nonPEG-MB投与後、超音波造影装置(LOGIQE9)を用いて前述と同様の手法にて造影し、造影半減期を算出した。
【0051】
4-5.検討結果
DSPC:DSPG=0:1,1:4,1:3,1:2,1:1または2:1(mol比)の外殻脂質組成からなるMBを調製したところ、外観は全て白濁した乳濁液となり、いずれの組成でもMBが形成されていた(
図12(A))。また、各MBの粒子径を測定した結果、どの組成の粒子も平均粒子径5μm以下となった(
図12(B))。個数濃度はPG(PEG)-MBで一番高くなった(
図12(C))。このようにPEG修飾脂質を使用したMBにおいて個数濃度が高くなるのは、PEG修飾脂質の界面活性作用により調製されるMBの個数が多くなるためであると考えられた。いずれにしても、MBの生体内への投与は個数を合わせて投与するため、調製時の個数濃度は大きな問題にはならないと考えられた。
【0052】
相対輝度ではDSPC:DSPG=1:2の外殻脂質組成のMBがPG(PEG)-MBとほぼ同じ程度であった(
図13(A))。in vitroの超音波造影では、PG(PEG)-MBと比べDSPC:DSPG=2:1,1:1,1:3,1:4およびDSPG100%の外殻脂質組成において、造影半減期が有意に短くなった(
図13(B))。DSPC:DSPG=1:2の外殻脂質組成では、PG(PEG)-MBと有意な差が無い造影半減期が得られた。また、2:1,1:1および1:3の組成と比べ、1:4,DSPG100%の組成では造影半減期の短縮が小さかったため、安定性を高める割合の組成は単峰性でない可能性が考えられた。しかし、DSPGを100%にしてもDSPC:DSPG=1:2の組成において造影半減期が有意に長かったことから、PEGを使用しないMBの外殻脂質組成としてDSPC:DSPG=1:2が安定性の観点から最適であることが明らかとなった(
図13(B))。MB外殻の脂質単分子膜であるPCとPGの立体混雑がDSPC:DSPG=1:2で最も解消されMBの安定化につながったものと考えられた。
【0053】
次に、in vivoでの各組成のnonPEG-MBの造影半減期を検討したところ、外殻脂質組成がDSPC:DSPG=1:2において血中滞留性が長くなることが明らかとなった(
図14)。PEGを除去した外殻脂質組成間において粒子径に大きな違いはみられなかった。そのため、この血中滞留性の向上は、粒子のサイズではなく膜の安定化によるMB自体の安定性向上が主な要因であると考えられた。
【0054】
5.PEG未修飾マイクロバブルによる抗PEGIgM抗体誘導
5-1.nonPEG-MBの静脈内投与後の血中抗PEGIgM抗体価の測定方法
ddYマウス(雌性、6週齢)に、DSPC:DSPG=1:2(mol比)の外殻脂質組成からなるnonPEG-MB(0.25×107個/マウス)を静脈内投与し、nonPEG-MB投与後0,3,5,7,10,14日目に採血を行った。回収した血液を遠心分離(3400rpm、30分)することで血漿部分を回収し、前述と同様にELISA法により、血中抗PEGIgM抗体の抗体価を評価した。
【0055】
5-2.検討結果
nonPEG-MBを投与後、経日的に採血し、抗PEGIgM抗体価をELISAにて評価した。その結果、nonPEG-MB投与群の抗PEGIgM抗体価は、ポジティブコントロールのPG(PEG)-MB投与群よりも有意に低い値となった(P<0.01,Dunnett’stest,vsDay0,3,5,7,10,14)。しかし、nonPEG-MB投与群において無処置群より若干の抗体価上昇が認められた(
図15)。nonPEG-MBにはPEGが含まれないことから、この抗体価の上昇はプレートに固相化したDSPE-PEG(2k)-OMeに対する非特異的な抗体の誘導によるものと推察された。いずれにしても、ポジティブコントロールであるPG(PEG)-MB投与ほどの抗体価の上昇は認められず、nonPEG-MB投与後の血清はどの時点でもポジティブコントロールと比べ有意に低かった。そのため、nonPEG-MBによる抗PEGIgM抗体誘導は弱く、PG(PEG)-MBと比べて抗原性が低下していることが示唆された。
【0056】
6.PEG未修飾マイクロバブルの超音波造影
6-1.nonPEG-MBの繰り返し投与における超音波造影評価方法
ddYマウス(雌性、6週齢)の後背部を除毛し、イソフルラン麻酔下においてnonPEG-MB(0.25×107個/マウス)を静脈内投与した。nonPEG-MB投与後、超音波造影装置(LOGIQE9)を用いて前述と同様に造影し、造影半減期を算出した。また、7日後にnonPEG-MB(0.25×107個/マウス)を再投与し、同様の方法で血中滞留性を評価した。
【0057】
6-2.抗PEG抗体存在下におけるnonPEG-MBの超音波造影評価方法
ddYマウス(雌性、6週齢)の後背部を除毛し、イソフルラン麻酔下においてPG(PEG)-MB(0.25×107個/マウス)を静脈内投与した。7日後にnonPEG-MBを投与し、超音波造影装置(LOGIQE9)を用いて前述と同様に造影し、造影半減期を算出した。
【0058】
6-3.検討結果
nonPEG-MBのABC現象誘導について検討したところ、nonPEG-MBは繰り返し投与しても造影半減期に有意な差がなかった(
図16)。このことからnonPEG-MBはABC現象を誘導しないことが示唆された。また、PG(PEG)-MB投与後にnonPEG-MBを投与した結果、抗PEGIgM抗体が誘導されていると考えられるマウスにおいても造影半減期に有意な差がなかった(
図17)。したがって、nonPEG-MBは既存の抗PEGIgM抗体に影響されないMBであることが明らかとなった。これらのことから、nonPEG-MBは「繰り返し投与で造影半減期が短縮しないこと」、「抗PEG抗体の所持・未所持により造影半減期が変わらないこと」という2点の要件を満たすABC現象を回避可能な新規MBであることが示された。
【0059】
7.ABC現象誘導下におけるマイクロバブルの組織分布
7-1.DiR修飾PG(PEG)-MBの調製方法
DSPC:DSPG:DSPE-PEG(2k)-OMe=1:2:0.33(mol比)とDiR(脂質モル濃度に対し1%)を有機溶媒混合液(クロロホルム:メタノール:10%アンモニア水:MilliQ=65:35:4:4)に溶解させ、ロータリーエバポレーターにて有機溶媒を減圧除去し脂質薄膜を作製した。その後、前述と同様に調製し、実験に使用した。
【0060】
7-2.DiR修飾nonPEG-MBの調製方法
DSPC:DSPG=1:2(mol比)とDiR(脂質モル濃度に対し1%)を有機溶媒混合液(クロロホルム:メタノール:10%アンモニア水:MilliQ=65:35:4:4)に溶解させ、ロータリーエバポレーターにて有機溶媒を減圧除去し脂質薄膜を作製した。その後、前述と同様に調製し、実験に使用した。
【0061】
7-3.IVISによる各MBの組織分布評価方法
無蛍光飼料で飼育したddYマウス(雌性、6週齢)にPG(PEG)-MB(0.25×107個/マウス)を静脈内投与し、抗PEG抗体を誘導した。7日後にDiR修飾PG(PEG)-MBもしくはDiR修飾nonPEG-MBをDiRの蛍光量として各1×109[photons/sec]/[μW/cm2]/マウスを麻酔下で静脈内投与し、投与3分後に脱血して各臓器を摘出した。摘出した臓器をIn Vivo Imaging System(IVIS)で撮影し、各臓器を囲うROIをかけ各臓器におけるTotalRadiantEfficiency[photons/sec]/[μW/cm2]/mg tissueを指標に、各組織へのMBの分布を評価した。
【0062】
7-4.検討結果
リポソームにおけるABC現象では、初回投与と再投与で薬剤の体内動態が劇的に変化する。そのため、MBの組織分布の解析がMBのABC現象の機序解明に重要である。そこで、ABC現象を誘導したマウスにおけるMBの組織分布を検討した。本検討では、蛍光物質のDiRで標識したPG(PEG)-MB(DiR修飾PG(PEG)-MB)もしくはDiRで標識したnonPEG-MB(DiR修飾nonPEG-MB)をマウスに投与し、3分後に臓器を摘出し、MBの組織分布をIVISにより解析した。その結果、いずれのMBでも撮影画像から肝臓に強く蛍光がみられ(
図18)、蛍光量は肝臓・脾臓・肺に多く分布することが明らかとなった。さらに、ABC現象誘導時におけるMBの組織分布の結果から、肝臓における蛍光強度は、DiR修飾nonPEG-MBにおいてABC現象誘導群と非誘導群で同程度であった。一方、DiR修飾PG(PEG)-MBでは、ABC誘導群の肝臓における蛍光強度が、非誘導群の約1.7倍高くなることが明らかとなった。なお、脾臓におけるMBの分布はABC現象の有無で有意差は無かった。このことより、MBのABC現象における超音波造影輝度の急激な低下は、MBの肝臓への速やか取り込みが1つの要因であると考えられた。また、PG(PEG)-MBとPEG修飾リポソームのABC現象誘導下における組織分布の違いは、粒子の大きさ等のMBとリポソームの元々の物性が大きく異なることに起因する可能性が考えられた。