(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026751
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】多段冷凍サイクルを用いた温度調節装置及びそれを用いた温度調節方法
(51)【国際特許分類】
F25B 1/00 20060101AFI20220203BHJP
F25B 7/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
F25B1/00 371B
F25B1/00 304L
F25B1/00 399Y
F25B7/00 E
F25B1/00 361D
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020130358
(22)【出願日】2020-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】520287334
【氏名又は名称】谷口 啓旨
(74)【代理人】
【識別番号】100104488
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 良夫
(72)【発明者】
【氏名】谷口 啓旨
(57)【要約】
【課題】冷却対象の温度制御範囲が広い場合でも、全制御温度範囲に対応して冷却対象を設定温度に制御することが可能な温度調節装置を提供する。
【解決手段】少なくとも高温側冷凍サイクル21aと低温側冷凍サイクル21bを具備し、高温側冷凍サイクルと低温側冷凍サイクルはそれぞれ、コンプレッサー4と凝縮器5と膨張弁6と蒸発器が途上に配置されて冷媒を循環させる循環回路3を具備するとともに、低温側冷凍サイクルにおける冷媒の凝縮を高温側冷凍サイクルの冷媒によって行い、コンプレッサーはインバータ制御可能なコンプレッサーを用い、膨張弁は電子膨張弁を用い、予め循環液の設定温度を複数のエリアに分割し、それぞれのエリアに応じてコンプレッサーの運転周波数と電子膨張弁の開度をパラメータ化して設定し、循環液の設定温度に応じて、コンプレッサーの運転周波数と電子膨張弁の開度をパラメータに従って自動で調節する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各種の装置、プロセス等の温度制御を必要とする制御対象に所定温度に制御した循環液を循環させることで、前記制御対象を予め設定した設定温度に維持するために用いる、多段冷凍サイクルを用いた温度調節装置であって、
前記多段冷凍サイクル(2)は、
少なくとも高温側冷凍サイクル(21a)と低温側冷凍サイクル(21b)を具備し、
高温側冷凍サイクル(21a)と低温側冷凍サイクル(21b)はそれぞれ、
冷媒を循環させる循環回路(3)と、
該循環回路(3)の途上に配置した、気化した冷媒を圧縮して高圧にするためのコンプレッサー(4)と、
該コンプレッサー(4)により高圧にされた冷媒を熱交換により凝縮するための凝縮器(5)と、
該凝縮器(5)で液化された冷媒を低温にするための膨張弁(6)と、
該膨張弁(6)で低温にされた冷媒を熱交換により気化する蒸発器(7)と、を具備するとともに、
前記高温側冷凍サイクル(21a)の蒸発器(7)と低温側冷凍サイクル(21b)の凝縮器(5)を兼用して、低温側冷凍サイクル(21b)における冷媒の凝縮を高温側冷凍サイクル(21a)の冷媒によって行うこととし、
前記コンプレッサー(4)としてインバータ制御可能なコンプレッサーを用いるとともに、前記膨張弁として電子膨張弁を用いて、
予め、循環液の設定温度を複数のエリアに分割しておくとともに、それぞれのエリアに応じて、高温側冷凍サイクル(21a)のコンプレッサー(4)の運転周波数、高温側冷凍サイクル(21a)の電子膨張弁(6)の開度、低温側冷凍サイクル(21b)のコンプレッサー(4)の運転周波数、低温側冷凍サイクル(21b)の電子膨張弁(6)の開度をパラメータ化して設定しておき、
循環液の設定温度に応じて、高温側冷凍サイクル(21a)のコンプレッサー(4)の運転周波数、高温側冷凍サイクル(21a)の電子膨張弁(6)の開度、低温側冷凍サイクル(21b)のコンプレッサー(4)の運転周波数、低温側冷凍サイクル(21b)の電子膨張弁(6)の開度を、パラメータに従って自動で調節する、ことを特徴とする多段冷凍サイクルを用いた温度調節装置。
【請求項2】
請求項1に記載の多段冷凍サイクルを用いた温度調節装置を用いた温度調節方法であって、
予め、循環液の設定温度を複数のエリアに分割しておくとともに、それぞれのエリアに応じて、高温側冷凍サイクル(21a)のコンプレッサー(4)の運転周波数、高温側冷凍サイクル(21a)の電子膨張弁の開度、低温側冷凍サイクル(21b)のコンプレッサー(4)の運転周波数、低温側冷凍サイクル(21b)の電子膨張弁の開度をパラメータ化して設定しておき、
循環液の設定温度に応じて、高温側冷凍サイクル(21a)のコンプレッサー(4)の運転周波数、高温側冷凍サイクル(21a)の電子膨張弁の開度、低温側冷凍サイクル(21b)のコンプレッサー(4)の運転周波数、低温側冷凍サイクル(21b)の電子膨張弁の開度を、パラメータに従って自動で調節する、ことを特徴とする多段冷凍サイクルを用いた温度調節方法。
【請求項3】
前記高温側冷凍サイクル(21a)のコンプレッサー(4)の運転周波数、高温側冷凍サイクル(21a)の電子膨張弁の開度、低温側冷凍サイクル(21b)のコンプレッサー(4)の運転周波数、低温側冷凍サイクル(21b)の電子膨張弁の開度のパラメータを遠隔操作で設定可能としたことを特徴とする請求項2に記載の多段冷凍サイクルを用いた温度調節方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体製造装置等の各種装置やプロセス等の温度を制御するために用いられる温度調節装置及びそれを用いた温度調節方法に係り、より詳しくは、多段冷凍サイクルを用いた温度調節装置及びそれを用いた温度調節方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、半導体製造に際しては、各工程内において、温度を一定に制御する必要があり、そのために、液温を管理した循環液を循環させることで温度制御を行う温度調節装置としてチラーが用いられている。
【0003】
そして、従来から半導体業界で用いられているチラーでは、一定速のコンプレッサーを使用しているとともに、このコンプレッサーを最大能力で設定することにより、チラーの冷却能力の設定を行っていた。
【0004】
即ち、チラーは一般的に、温度制御の対象となるプロセス等に供給する循環液の温度を所定温度に制御するための冷凍機ユニットを有しており、この冷凍機ユニットでは、コンプレッサー、凝縮器、膨張弁、及び蒸発器で構成される冷凍サイクル内で冷媒を循環させながら、この冷媒と、温度制御の対象となるプロセス等から戻ってきた循環液とを熱交換することで、循環液温度を必要温度以下に下げて、その後に、循環液を、ヒーターで加熱することで必要温度にすることとしているのが一般的である。
【0005】
ところで、温度調節装置により調節する循環液の温度の幅は広く、例えば、マイナス60℃から30℃などの低温から高温まで幅広い温度に制御する必要がある。そのために、冷却対象の温度が低い場合には、通常の冷凍サイクル(単段冷凍サイクル)では、循環液を対象とする温度にまで冷却することができない場合がある。
【0006】
例えば、
図4は一般的な冷凍サイクルを示した図であり、図において点線で示した部分31が一般的な冷凍サイクルの部分である。そして、この冷凍サイクル31では、周知のように、コンプレッサー32、凝縮器33、膨張弁34、及び蒸発器35を配置した循環回路内で冷媒を循環させながら、蒸発器35において、冷媒と、温度制御の対象となるプロセス等から戻ってきた循環液とを熱交換することで、循環液温度を必要温度以下に下げる構成である。
【0007】
また、
図4に示す冷凍サイクルは、冷却対象温度がマイナス40℃以上の場合を想定しており、この場合は、下限蒸発温度がマイナス45℃程度であり、凝縮温度は30℃程度である。そのために、コンプレッサーから供給される高圧のガスを凝縮器において凝縮する場合の凝縮温度は30℃程度であり、この場合は、水や空気による凝縮が可能である。即ち、水の流量や空気の風量のコントロールで凝縮能力をコントロールすることが可能である。
【0008】
しかし、冷却対象温度がマイナス40℃以下の場合は、前述の単段冷凍サイクルでは、循環液の温度を希望温度にすることが困難である。例えば、冷却対象温度がマイナス60℃の場合を例にとると、この場合には、蒸発温度はマイナス70℃程度であり、凝縮温度はマイナス10℃程度になる。そのために、マイナス10℃の凝縮は水や空気では不可能であるため、単段冷凍サイクルを多段に組み合わせた冷凍サイクル(多段冷凍サイクル)を用いたチラーが必要となる。
【0009】
この多段冷凍サイクルについて説明すると、例えば、冷却対象温度がマイナス60℃の場合を想定すると、蒸発温度がマイナス70℃程度であり、凝縮温度はマイナス10℃程度となる。そのために、コンプレッサーから供給される高圧のガスを凝縮器において凝縮する場合の凝縮温度はマイナス10℃程度となり、水や空気による凝縮は不可能であるため、単段冷凍サイクルでは、循環液の温度を希望温度にすることが困難である。
【0010】
そこで、多段冷凍サイクルでは、冷凍サイクルを例えば2個組み合わせた場合は、一方を低温側冷凍サイクル、他方を高温側冷凍サイクルとして、高温側冷凍サイクルの蒸発器と低温側冷凍サイクルにおける凝縮器を兼用して、低温側冷凍サイクルにおける冷媒の凝縮を高温側冷凍サイクルにおける冷媒で行うこととしている。そのために、この多段冷凍サイクルを用いたチラーでは、循環液の温度がマイナス40℃以下のような低い温度の場合でも、十分に対応することが可能である、
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013-20509号公報
【特許文献2】特開2011-114279号公報
【特許文献3】特開2003-148852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、冷凍サイクルで使用される前述の構成部品は、一定速のコンプレッサーや機械式の膨張弁が一般的である。そして従来は、コンプレッサーの選定に際しては、すべての温度に対応できるように、コンプレッサーの最大能力で設定することで、チラーの冷却能力に対応できるようにしていた。即ち、従来の使用に際しては、循環液の設定温度にかかわらず、コンプレッサーを最大能力で運転せざるを得ず、各種調整弁等を使用することで、何とかコンプレッサーが安定に運転出来る様に調整をしていた。
【0013】
そのために従来は、循環液の設定温度によっては、チラーの冷却能力が必要冷却能力を大幅に上回る場合も出てきており、即ち、循環液を、必要冷却温度を大幅に下回る温度に冷却してしまい、その結果、必要以上の冷却を行うことになり、それに伴い必要以上の加熱が必要になってしまい、エネルギーを無駄にしてしまう事態も発生していた。
【0014】
また、前述のように、従来の冷凍サイクルで使用される構成部品は一定速のコンプレッサーや機械式の膨張弁が一般的であり調整代があまり無いので、容量調整弁、蒸発圧力調整弁、凝縮圧力調整弁等の各種調整弁を使い、冷却能力の調整や冷凍サイクルで不具合が起きないように、状況に応じて調整を行っているのが実情である。
【0015】
そして、例えば二元冷凍サイクルの様な多段冷凍サイクルにおいても、単段冷凍サイクルの場合と同様に、一定速のコンプレッサーと機械式膨張弁に各種調整弁を組み合わせて、冷却能力の調整や冷凍サイクルに不具合が起きないようにしている。
【0016】
しかし、例えば二元冷凍サイクルの様な多段冷凍サイクルにより循環液を冷却する場合は、冷却対象の温度はマイナス40℃以下であるため、冷却対象の温度制御範囲を広くしたい場合、各種調整弁を使った場合でも、全制御温度範囲に対応することが出来なかった。そのために従来は、例えば設定温度がマイナス40℃以上の場合には、高温側冷凍サイクルのみを運転して循環液の冷却を行い、一方、設定温度がマイナス40℃以下の場合には、二元冷凍サイクル全体を用いて循環液の冷却を行うという様に、冷凍サイクルを切り替えて使用する等の工夫が必要であった。その様な工夫が出来ない場合には、冷却対象の温度制御範囲を狭くして対応する必要があった。
【0017】
また、多段冷凍サイクルにおいて、例えば二元冷凍サイクルの場合、低温側冷凍サイクルと高温側冷凍サイクルの熱的なバランス、すなわち低温側冷凍サイクルの冷却能力及びコンプレッサーの仕事熱を十分に凝縮するだけの高温側冷凍サイクルの冷却能力の確保が出来なければ、安定した冷凍サイクルの運転は出来ず、温度制御範囲が広い場合は、温度制御範囲の各温度毎に低温側冷凍サイクルと高温側冷凍サイクルの熱的バランスを各種調整弁等を用いても確保する事が出来ない場合は、冷却対象の温度制御範囲を狭くして対応する必要があった。
【0018】
そこで、本発明は、冷却対象の温度制御範囲が広い場合でも、全制御温度範囲に対応して冷却対象を設定温度まで冷却することが可能な、多段冷凍サイクルを用いた温度調節装置及びそれを用いた温度調節方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の多段冷凍サイクルを用いた温度調節装置及びそれを用いた温度調節方法は、各種の装置、プロセス等の温度制御を必要とする制御対象に所定温度に制御した循環液を循環させることで、前記制御対象を予め設定した設定温度に維持する多段冷凍サイクルを用いた温度調節装置であって、
前記多段冷凍サイクルは、
少なくとも、高温側冷凍サイクルと低温側冷凍サイクルを具備し、該高温側冷凍サイクルと低温側冷凍サイクルはそれぞれ、
冷媒を循環させる循環回路と、該循環回路の途上に配置した、
気化した冷媒を圧縮して高圧にするためのコンプレッサーと、
該コンプレッサーにより高圧にされた冷媒を熱交換により凝縮するための凝縮器と、該凝縮器で液化された冷媒を低温にするための膨張弁と、
該膨張弁で低温にされた冷媒を熱交換により気化するための蒸発器と、を具備するとともに、前記高温側冷凍サイクルの蒸発器によって、低温側凝縮器に供給された冷媒の凝縮を行うこととし、前記コンプレッサーとしてインバータ制御可能なコンプレッサーを用いるとともに、膨張弁として電子膨張弁を用いて、
予め、循環液の設定温度を複数のエリアに分割しておくとともに、それぞれのエリアに応じて、高温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、高温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度、低温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、及び低温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度をパラメータ化して設定しておき、循環液の設定温度に応じて、高温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、高温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度、低温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、及び低温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度を、パラメータに従って調節する、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の温度調節装置及び温度調節方法では、それぞれが、冷媒を循環させる循環回路と、循環回路の途上に配置した、コンプレッサーと、コンプレッサーにより高圧にされた冷媒を熱交換により凝縮するための凝縮器と、凝縮器で液化された冷媒を低温にするための膨張弁と、膨張弁で低温にされた冷媒を熱交換により気化するための蒸発器とを具備する、高温側冷凍サイクルと低温側冷凍サイクルを具備し、高温側冷凍サイクルの蒸発器によって低温側凝縮器に供給された冷媒の凝縮を行う、多段冷凍サイクルを用いたことを特徴としている。そのために、循環液の設定温度がマイナス40℃以下のような低い温度の場合でも、十分に対応することが可能である。
【0021】
そして、本発明の温度調節装置では、コンプレッサーとしてインバータ制御可能なコンプレッサーを用いるとともに、膨張弁として電子膨張弁を用いて、予め、循環液の設定温度を複数のエリアに分割しておくとともに、それぞれのエリアに応じて、高温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、高温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度、低温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、及び低温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度をパラメータ化して設定しておき、循環液の設定温度に応じて、高温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、高温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度、低温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、及び低温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度を、パラメータに従って調節することとしている。そのために、冷却対象の温度制御範囲を広くしたい場合でも、全制御温度範囲に対応することが可能である。
【0022】
更に、すべての温度に対応できるように、コンプレッサーを最大能力で設定して、チラーの冷却能力が最大になるようにする必要も無いので、エネルギーを無駄にしてしまう事態も回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の温度調節装置の実施例の構成を説明するためのブロック図である。
【
図2】本発明の温度調節装置の実施例に用いる冷凍サイクルを説明するためのブロック図である。
【
図3】本発明の温度調節装置の実施例における複数エリアに分割した循環液の設定温度に応じた、コンプレッサーの運転周波数、電子膨張弁の開度のパラメータ化を示す図である。
【
図4】一般的な冷凍サイクルを説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の温度調節装置では、多段冷凍サイクルを具備しており、この多段冷凍サイクルは、例えば二元冷凍サイクルの場合は、高温側冷凍サイクルと、低温側冷凍サイクルを具備している。
【0025】
そして、高温側冷凍サイクルと低温側冷凍サイクルはそれぞれ、冷媒を循環させる循環回路を有しており、この循環回路の途上には、コンプレッサーと、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器が配置され、コンプレッサーは、蒸発器で気化した冷媒を圧縮して高圧にするために用いられ、凝縮器は、コンプレッサーにより高圧にされた冷媒を熱交換により凝縮するために用いられ、膨張弁は、凝縮器で液化された冷媒を低温にするために用いられ、蒸発器は、膨張弁で低温にされた冷媒を熱交換により気化し、その気化熱により循環液を冷却するために用いられる。また、本発明の温度調節装置における多段冷凍サイクルは、例えば二元冷凍サイクルでは、低温側凝縮器に供給された冷媒の凝縮は、高温側冷凍サイクルの蒸発器によって行うこととしている。
【0026】
更にまた、本発明では、コンプレッサーとしてインバータ制御可能なコンプレッサーを用いるとともに、膨張弁としては電子膨張弁を用いている。
【0027】
また、本発明では、予め、循環液の設定温度を複数のエリアに分割しておくとともに、それぞれのエリアに応じて、高温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、高温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度、低温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、及び低温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度をパラメータ化して設定しておくこととしている。
【0028】
そして、このような本発明の温度調節装置を用いて温度調節を行う場合には、循環液の設定温度に応じて、高温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、高温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度、低温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、低温側冷凍サイクルの電子膨張弁を、予め設定しておいたパラメータに従って調節することとしている。
【0029】
なお、ここで、各パラメータの設定に際して、インターネット等を介して装置を遠隔操作可能にしておき、高温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、高温側冷凍サイクルの電子膨張弁開度、低温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、低温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度のパラメータを遠隔操作によって設定可能にするとよく、これにより、装置のリモートメンテナンスも可能になる。
【実施例0030】
本発明の温度調節装置の実施例について、図面を参照して説明すると、
図1は、本実施例の温度調節装置を説明するためのブロック図であり、図において1が本実施例の温度調節装置である。
【0031】
そして、本実施例の温度調節装置1は、各種の装置、プロセス等の温度制御を必要とする制御対象に所定温度に制御した循環液を循環させることで、制御対象を予め設定した設定温度に維持する装置であり、ここでは単段の冷凍サイクルを2個組み合わせて構成した二元冷凍サイクルを具備した構成としている。但し、制御する温度次第では三元冷凍サイクルで構成する場合もあり得る。
【0032】
即ち、図において2が二元冷凍サイクルであり、本実施例において前記二元冷凍サイクル2は、前述したように、単段の冷凍サイクルを2個組み合わせることで構成され、一方を高温側冷凍サイクル21aとし、他方を低温側冷凍サイクル21bとしている。
【0033】
ここで、前記高温側冷凍サイクル21a及び低温側冷凍サイクル21bについて説明すると、
図2は高温側冷凍サイクル21a及び低温側冷凍サイクル21bの構成を説明するためのブロック図である。なお、本実施例において、前記高温側冷凍サイクル21a及び低温側冷凍サイクル21bは同一の構成としているため、以下においては単に冷凍サイクル21と言う。
【0034】
本実施例の温度調節装置に用いられる冷凍サイクル21は、一般的に用いられている冷凍サイクルと同様に、冷媒を循環させる循環回路3を有している。そしてこの循環路3の途上には、気化した冷媒を圧縮して高圧にするためのコンプレッサー4と、このコンプレッサー4により高圧にされた冷媒を熱交換により凝縮するための凝縮器5と、この凝縮器5で液化された冷媒を低温にするための膨張弁6と、膨張弁6で低温にされた冷媒を熱交換により気化させる蒸発器7を具備している。
【0035】
そして、周知の通り、蒸発器7により気化した低温のガスは、コンプレッサー4によって高圧のガスにされ、次にこの高圧のガスは、凝縮器5において凝縮され、高圧の液体になる。また、凝縮器5で凝縮されて高圧の液体にされた冷媒は、膨張弁6によって低温の液体になり、その後に蒸発器7において、気化されるとともに、気化熱によって循環液を冷却する。そして、本実施例において、前記コンプレッサー4はインバータ制御可能なコンプレッサーを用いており、更に、前記膨張弁6は電子膨張弁としている。
【0036】
次に、図において8は冷却水循環回路であり、この冷却水循環回路8は、コンプレッサー4で高圧高温にされた冷媒を凝縮器5において、熱交換によって凝縮するために用いられている。
【0037】
また、図において9は循環液循環路であり、この循環液循環回路9は、半導体のエッチングプロセス等の、温度制御を行う制御対象と、前記蒸発器7との間で循環液を循環させながら、蒸発器7において予め設定された温度に冷却された循環液を、前記制御対象に供給するために用いられている。なお、図において18はヒーターである。即ち、循環液の温度制御精度によっては、設定温度以下に冷却し、ヒーター等18を用いて設定温度に制御する等して前記制御対象に供給する場合もある。
【0038】
そして、冷凍サイクル21においては、前記冷却水循環回路8は、クーリングタワー等で冷却された冷却水を凝縮器5へ供給する冷却水供給路801と、凝縮器5において冷媒との間で熱交換を行い温度が上昇した後の冷却水を再びクーリングタワー等に戻す冷却水戻り路802とを有しており、クーリングタワー等と凝縮器との間を循環する循環路としている。
【0039】
また、冷凍サイクル21において循環液循環回路9は、蒸発器7で設定温度まで冷却された循環液を制御対象に供給するための循環液供給路901と、制御対象に置いて温度が上昇された循環液を蒸発器7に戻すための循環液戻り路902とポンプ17を有している。
【0040】
そして、本実施例の二元冷凍サイクル2においては、
図1に示すように、低温側冷凍サイクル21bにおける凝縮器5は、高温側冷凍サイクル21aにおける蒸発器7と兼用しており、低温側冷凍サイクル21bにおける前記冷却水循環回路8は、高温側冷凍サイクル21aにおける循環液循環回路9としている。
【0041】
即ち、低温側冷凍サイクル21bにおいては、コンプレッサー4により高圧にされた冷媒は、凝縮器5(高温側冷凍サイクル21aにおける蒸発器7)において、高温側冷凍サイクル21aの循環回路3を流れてきた冷媒が気化する際の気化熱によって凝縮され、高圧の液体になる。
【0042】
従って、本実施例の温度調節装置1では、高温側冷凍サイクル21aにおいて冷却された冷媒により、低温側冷凍サイクル21bにおける凝縮器で冷媒を凝縮するために、水や空気で凝縮する単段冷凍サイクルと異なり、凝縮温度が低い場合でも十分に対応することが可能である。
【0043】
なお、図において11は、前記蒸発器7の手前において熱交換器7にホットガスを供給するためのホットガス供給路で、12はホットガスの流量等を調節するための電子膨張弁である。また、図において13は、コンプレッサー4を冷却するためにコンプレッサー4に冷媒を供給するための冷却用冷媒供給路であり、14は、コンプレッサー4に供給する冷却用冷媒の流量等を調節するための電子膨張弁である。更に、15は、凝縮器5に流れる冷却水の流量を調整するための制水弁、16は圧力センサーである。
【0044】
次に、このように構成される本実施例の温度調節装置の作用について説明すると、本実施例の温度調節装置1によって、各種の装置、プロセス等の温度制御を必要とする制御対象に供給する循環液の温度を調節する本発明の温度調節方法の実施例について説明すると、本実施例の温度調節方法では、設定される可能性のある循環液の設定温度を、予め複数のエリアに分割しておく。そして、各エリアについて、循環液の温度を設定温度にすることが可能なように、高温側冷凍サイクル21aにおける、コンプレッサー4の運転周波数、及び電子膨張弁6、12、14の開度を設定し、更に、低温側冷凍サイクル21bにおける、コンプレッサー4の運転周波数及び電子膨張弁6、12、14の開度を、パラメータ化して設定しておく。
【0045】
図3が複数のエリアに分割した循環液の設定温度と、各エリアについて、循環液の温度を設定温度にすることが可能なように、高温側冷凍サイクル21aにおける、コンプレッサー4の運転周波数及び電子膨張弁6、12、14の開度、低温側冷凍サイクル21bにおける、コンプレッサー4の運転周波数及び電子膨張弁6、12、14の開度をパラメータ化した状態を示す図であり、HCMPが高温側冷凍サイクル21aのコンプレッサー4の運転周波数、LCMPが低温側冷凍サイクル21bのコンプレッサー4の運転周波数、HDEVが高温側冷凍サイクル21aの電子膨張弁6、12、14の開度、LDEVが低温側冷凍サイクル21bの電子膨張弁6、12、14の開度を示している。
【0046】
そして、循環液の温度が設定された後に、高温側冷凍サイクル21aにおけるコンプレッサー4の運転周波数及び電子膨張弁6、12、14の開度、及び、低温側冷凍サイクル21bにおけるコンプレッサー4の運転周波数及び電子膨張弁6、12、14の開度を、設定された循環液の温度が属するエリアに応じて予めパラメータ化されて設定されている値に自動で設定する。
【0047】
そうすると、一定速のコンプレッサーゆえに循環液の設定温度にかかわらずコンプレッサー4を最大能力で運転し、各種調整弁等を用いて温度制御を行っていた従来の方法と異なり、簡単な部品構成でより効率的に循環液の温度を設定温度に冷却することができる。
【0048】
即ち、冷却対象を設定温度まで下げるためには、冷媒の蒸発温度をコントロールする必要があるが、本実施例では、電子膨張弁を使用しているために、冷媒の蒸発温度を意図した温度にコントロールすることが可能である。
【0049】
また、必要な冷却能力を確保するにはコンプレッサーの運転周波数をコントロールして冷媒の循環量を調整する必要があるが、本実施例ではインバータ制御可能なコンプレッサーを用いているために、一定速のコンプレッサーを用いて、コンプレッサーを最大能力で運転し、各種調整弁等を使用することで循環液の冷却を行っていた従来の装置と異なり、冷却能力に必要な冷媒循環量を確保出来る様にコンプレッサーの運転周波数をコントロールできるため、必要以上の循環液の冷却を回避することにより省エネルギーを達成する事が可能である。
【0050】
そして、例えば二元冷凍サイクルの場合は特に、低温側冷凍サイクルの凝縮器と高温側冷凍サイクルの蒸発器を兼用し、低温側冷凍サイクルの凝縮を高温側冷凍サイクルで行うために、凝縮温度に見合う高温側冷凍サイクルの蒸発温度のコントロールと、凝縮能力に見合う高温側冷凍サイクルの冷媒循環量のコントロールが必要であるが、この点、本実施例では、電子膨張弁とインバータコンプレッサーを使用しているために、冷却対象の設定温度に応じた条件で冷凍サイクルを運転することで、各種の調整弁を使用することなく、凝縮能力に見合う高温側冷凍サイクルの蒸発温度のコントロールと、凝縮能力に見合う高温側冷凍サイクルの冷媒循環量のコントロールが可能であるため、低温側冷凍サイクルと高温側冷凍サイクルの熱的バランスが確保出来て、安定した冷凍サイクルの運転が可能となる。
【0051】
なおこのとき、本実施例において冷凍サイクル21は、蒸発器7の手前において蒸発器7にホットガスを供給するためのホットガス供給路11と、ホットガスの流量等を調節するための電子膨張弁12を有しているため、コンプレッサー4の運転周波数の調整だけでは希望の冷却能力に冷却能力の調整ができない場合等のときに、電子膨張弁12を用いて蒸発器7に流入するホットガスの流量を制御することで、冷却能力を希望の冷却能力に調整することが可能であり、また循環液の設定温度によっては、コンプレッサーを安定的に運転する事が出来る温度以上にコンプレッサーの温度が上昇する場合があり、その様な場合でも電子膨張弁14を用いてコンプレッサーを安定的に運転する事が出来る温度に維持する事が出来る。
【0052】
このように、本実施例の温度調節方法では、例えば高温側冷凍サイクルと低温側冷凍サイクルからなる二元冷凍サイクルを用いて、高温側冷凍サイクルの蒸発器によって低温側凝縮器に供給された冷媒の凝縮を行うため、循環液の設定温度がマイナス40℃以下のような低い温度の場合においても、十分に対応することが可能であり、循環液の温度次第では二元冷凍サイクルだけではなく、三元冷凍サイクルと言う様にいわゆる多段冷凍サイクルにする事で対応が可能となる。
【0053】
また、本実施例の温度調節装置では、コンプレッサーとしてインバータ制御可能なコンプレッサーを用いており、コンプレッサーの運転周波数をコントロールできるため、冷却能力に必要な冷媒循環量を確保することが可能である。更に、膨張弁として電子膨張弁を用いているために、冷媒の蒸発温度を意図した温度にコントロールしたり、コンプレッサーを必要に応じて安定して運転する事の出来る温度に調整したりすることが可能である。
【0054】
また、本実施例の温度調節方法では、予め、循環液の設定温度を複数のエリアに分割しておくとともに、それぞれのエリアに応じて、高温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、高温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度、低温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、及び低温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度をパラメータ化して設定しておき、循環液の設定温度に応じて、高温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、高温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度、低温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、及び低温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度を、装置がパラメータに従って自動で調節することとしているために、必要以上の循環液の冷却を回避することにより省エネルギーを達成する事も可能である。
【0055】
なお、前述したように、本実施例の温度調節方法では、循環液の設定温度に応じて分割した複数のエリアに応じて、高温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、高温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度、低温側冷凍サイクルのコンプレッサーの運転周波数、及び低温側冷凍サイクルの電子膨張弁の開度をパラメータ化して設定しておくことにしているが、この各種パラメータの設定に際しては、装置を直接操作する方法の他に、インターネット等を介して装置を遠隔操作可能にしておき、前記各種パラメータの設定を遠隔操作によって行うことを可能にしても良い。そうすると、パラメータの初期設定の他に、装置の運転環境の変化により各種のパラメータを修正する必要が生じる場合に、リモートによるメンテナンスも可能となる。
本発明は、例えば二元冷凍サイクルや三元冷凍サイクルの様な多段冷凍サイクルを用いた温度調節装置及びそれを用いた温度調節方法において、冷却対象の温度制御範囲が広い場合でも、全制御温度範囲に対応して冷却対象を効率的に設定温度に制御することを可能としているために、例えば二元冷凍サイクルや三元冷凍サイクルの様な多段冷凍サイクルを用いた温度調節装置の全般に適用可能である。