(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026770
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法、リチウムイオン二次電池の制御装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20220203BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20220203BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20220203BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20220203BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20220203BHJP
G01R 31/387 20190101ALI20220203BHJP
B60L 58/16 20190101ALI20220203BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20220203BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20220203BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/10 H
G01R31/392
G01R31/385
G01R31/382
G01R31/387
B60L58/16
B60L58/12
B60L3/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020130391
(22)【出願日】2020-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 恒良
(72)【発明者】
【氏名】西 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 裕也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 祐貴
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
5H125
【Fターム(参考)】
2G216AB01
2G216BA21
5G503BB02
5G503CA01
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BC01
5H125BC09
5H125EE22
5H125EE23
5H125EE25
5H125EE27
5H125EE29
5H125EE30
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池の金属リチウムの析出の抑制と効率的な利用の両立を図ること。
【解決手段】副反応電流を用いたリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法では、セル電圧を測定する電圧測定のステップ(S5)と、取得した前記セル電圧から正負極の電位を推定する電位推定のステップ(S6)と、電池温度を取得するセル温度測定のステップ(S7)と、推定した正負極の電位とセル温度とから正負極副反応電流値を推定する副反応電流推定のステップ(S8)と、推定した前記正負極副反応電流値を積算して負極劣化量を推定する負極劣化量推定のステップ(S9)と、前記推定した負極劣化量に応じてLi析出を抑制する範囲で許容される上限の充電電流を連続的に決定する充電電流決定のステップ(S10)とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル電圧を測定する電圧測定のステップと、
取得した前記セル電圧から正極開放電位と負極開放電位を推定する電位推定のステップと、
セル温度を取得するセル温度測定のステップと、
前記推定した正極開放電位及び負極開放電位とセル温度とから、正極副反応電流値及び負極副反応電流値を推定する副反応電流推定のステップと、
推定した前記負極副反応電流値を積算して負極劣化量を推定する負極劣化量推定のステップと、
前記推定した負極劣化量に応じてLi析出を抑制する範囲で許容される上限の充電電流を決定する充電電流決定のステップと
を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法。
【請求項2】
前記充電電流決定のステップにおいて、負極劣化量に応じて、Li析出を生じない限界の充電電流と対応させたマップに基づいて、Li析出を抑制する範囲で許容される上限の充電電流を決定することを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法。
【請求項3】
推定した前記正極副反応電流値及び負極副反応電流値から容量劣化量を推定する容量劣化量予測のステップをさらに備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法。
【請求項4】
前記充電電流決定のステップにおいて決定されたLi析出を抑制する範囲で許容される上限の充電電流を閾値として、前記リチウムイオン二次電池の充電電流を制限する充電のステップと
を備えることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法。
【請求項5】
前記充電のステップにおいて、前記負極劣化量推定のステップにおいて負極劣化量を推定する毎に前記閾値を更新することを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法。
【請求項6】
前記負極劣化量算出のステップにおいて、
i
0を交換電流密度、αを移動係数、Fをファラデー定数、Rを気体定数、Tを絶対温度、U
sideを被膜形成電位、U
NEを負極開放電位、U
PEを正極開放電位としたとき、
下記式(3)
【数1】
により算出した負極副反応電流値i
NEを算出し、
正極劣化量算出のステップにおいて、
下記式(4)
【数2】
により正極副反応電流値i
PEを算出する
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法。
【請求項7】
前記負極劣化量算出のステップにおいて、経過時間に応じて副反応電流値を減衰させた値を用いて負極劣化量を算出することを特徴とする請求項1~6に記載のリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法。
【請求項8】
前記リチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法を実行する前に、
リチウムイオン二次電池を特定の条件で保存する保存のステップと、
前記保存したリチウムイオン二次電池の保存前後の電池満容量の容量低下量を測定する容量低下量測定のステップと、
前記保存したリチウムイオン二次電池の保存前後の自己放電容量を測定する自己放電容量測定のステップと、
前記容量低下量及び自己放電容量とから、前記保存時の特定条件における正極及び負極の副反応電流値を求めるステップとを含む
劣化特性取得のステップ
を備えたことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法。
【請求項9】
リチウムイオン二次電池のセル電圧を検出する電圧センサと、
リチウムイオン二次電池のセル温度を検出する温度センサと、
CPUとメモリとを有したコンピュータと
を備えたリチウムイオン二次電池の制御装置であって、
前記コンピュータは、請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法を実行する制御手段を構成することを特徴とするリチウムイオン二次電池の制御装置。
【請求項10】
前記リチウムイオン二次電池は車両に搭載され、前記コンピュータが前記車両に搭載されたコンピュータであることを特徴とする請求項9に記載のリチウムイオン二次電池の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法及び制御装置に係り、詳しくは副反応電流を用いたリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、他の二次電池に比べ、初期開路電圧及び平均動作電圧が高い。このことから、大きな電池容量、高い電圧を必要とするハイブリッド自動車用電源システムには好適である。また、リチウムイオン二次電池は、クーロン効率が100%に近いことから充放電効率が高く、したがって、他の二次電池に比べエネルギーの有効利用が可能であるという利点も有する。
【0003】
しかしながら、リチウムイオン二次電池は、使用態様(例えば、ハイレートで充電、高充電状態(高SOC)からの充電、長時間充電継続、低温での充電(抵抗が高い状態での充電))において、リチウムイオン二次電池の負極表面に金属リチウムが析出する虞があり、結果として、リチウムイオン二次電池の劣化を招く虞がある。
【0004】
電動車両では、バッテリで駆動されるモータジェネレータに接続された駆動輪を回生制動力で制動する。この際、モータジェネレータが発電する電力は、バッテリに充電させて回収する。しかし、限度を超えて回生により得られた電力でバッテリを充電すると、バッテリが過充電状態となり金属リチウムの析出が生じてしまう。これを防止するために、バッテリ電圧とバッテリ電圧リミットとを比較し、バッテリ電圧がバッテリ電圧リミットを超えないようにバッテリの充電を制御するバッテリ充電制御装置が提案されている。
【0005】
特許文献1に記載された発明では、充電電流が許容電流を上回らないように二次電池の充電を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、セル電池全体の電圧に基づいてリチウム析出を判定しているため、リチウム析出に影響が少ない正極の劣化によりセル電池全体の容量劣化量が大きいと、負極の劣化が少ない場合でも充電電流が規制されてしまうという問題があった。
【0008】
また、
図15に示すように、充電電流が、負極に金属Liが析出しない電流として設定される許容電流を上回らないように充電を制御する際に、車両の利用様態に関わらずあらかじめ決められた許容電流のユーザ設定値を領域2の部分に一律に静的に設定する。そのため、あらかじめ想定された劣化状態に達するまでの期間は、領域1の範囲でも金属リチウムの析出は抑制できるにもかかわらず、充電性能が過度に制限されてしまうという問題もあった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するため、リチウムイオン二次電池の金属リチウムの析出の抑制と効率的な利用の両立を図ることができるリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明のリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法では、セル電圧を測定する電圧測定のステップと、取得した前記セル電圧から正極開放電位と負極開放電位を推定する電位推定のステップと、セル温度を取得するセル温度測定のステップと、前記推定した正極開放電位及び負極開放電位とセル温度とから、正極副反応電流値及び負極副反応電流値を推定する副反応電流推定のステップと、推定した前記負極副反応電流値を積算して負極劣化量を推定する負極劣化量推定のステップと、前記推定した負極劣化量に応じてLi析出を抑制する範囲で許容される上限の充電電流を決定する充電電流決定のステップとを備えたことを特徴とする。
【0011】
前記充電電流決定のステップにおいて、負極劣化量に応じて、Li析出を生じない限界の充電電流と対応させたマップに基づいて、Li析出を抑制する範囲で許容される上限の充電電流を決定してもよい。
【0012】
また、推定した前記正極副反応電流値及び負極副反応電流値から容量劣化量を推定する容量劣化量予測のステップをさらに備えることも好ましい。
前記充電電流決定のステップにおいて決定されたLi析出を抑制する範囲で許容される上限の充電電流を閾値として、前記リチウムイオン二次電池の充電電流を制限する充電のステップとを備えることもできる。
【0013】
前記充電のステップにおいて、前記負極劣化量推定のステップにおいて負極劣化量を推定する毎に前記閾値を更新することも好ましい。
前記負極劣化量算出のステップにおいて、i0を交換電流密度、αを移動係数、Fをファラデー定数、Rを気体定数、Tを絶対温度、Usideを被膜形成電位、UNEを負極開放電位、UPEを正極開放電位としたとき、下記式(3)により算出した負極副反応電流値iNEを算出する。
【0014】
【数1】
また、正極劣化量算出のステップにおいて、下記式(4)により正極副反応電流値i
PEを算出することも好ましい。
【0015】
【数2】
また、前記負極劣化量算出のステップにおいて、経過時間に応じて副反応電流値を減衰させた値を用いて負極劣化量を算出することも好ましい。
【0016】
さらに、前記リチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法を実行する前に、リチウムイオン二次電池を特定の条件で保存する保存のステップと、前記保存したリチウムイオン二次電池の保存前後の電池満容量の容量低下量を測定する容量低下量測定のステップと、前記保存したリチウムイオン二次電池の保存前後の自己放電容量を測定する自己放電容量測定のステップと、前記容量低下量及び自己放電容量とから、前記保存時の特定条件における正極及び負極の副反応電流値を求めるステップとを含む劣化特性取得のステップを備えることも好ましい。
【0017】
本発明のリチウムイオン二次電池の制御装置では、リチウムイオン二次電池のセル電圧を検出する電圧センサと、リチウムイオン二次電池のセル温度を検出する温度センサと、
CPUとメモリとを有したコンピュータとを備えたリチウムイオン二次電池の制御装置であって、前記コンピュータは、請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法を実行する制御手段を構成することを特徴とする。
【0018】
この場合、前記リチウムイオン二次電池は車両に搭載され、前記コンピュータが前記車両に搭載されたコンピュータとすることもできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法及び装置では、リチウムイオン二次電池の金属リチウムの析出の抑制と効率的な利用の両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】リチウムイオン二次電池の構造の一例を示す模式図。
【
図2】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を搭載する車両の全体構成を概略的に示す模式図。
【
図3】副反応電流を用いたリチウムイオン二次電池のLi析出を抑制する制御方法のフローチャート。
【
図4】リチウムイオン二次電池の劣化特性取得のため装置の構成を示すブロック図。
【
図6】(a)劣化前の正極・負極の容量-OCP(Open circuit potential)特性(電池容量とそのときの正極・負極の開放電位との関係を示すもの)を示すグラフ。(b)劣化後のOCP特性を示すグラフ。
【
図7】本実施形態の劣化後の正極・負極のSOC-OCP特性を示すグラフ。
【
図8】本実施形態の時間t
0から所定の時間t
1までに積算された負極劣化量Qを算出するフローチャート。
【
図10】被膜形成量と副反応電流値の関係を示す式。
【
図11】被膜量の逆数に対する電流値の減衰率を示すグラフ。
【
図12】経過時間と被膜形成量と副反応電流値の関係を示す表。
【
図13】従来技術の劣化度推定結果と本実施形態の劣化度推定結果を比較するグラフ。
【
図14】負極劣化-Li析出許容電流マップの概念的な一例を示すグラフ。
【
図15】従来のバッテリ充電制御装置の制御を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1~14を参照して、本発明の副反応電流を用いたリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法及び制御装置を、一実施形態を例に説明する。
<実施形態の概略>
本実施形態の車両10は、例えばハイブリッド車であり回生ブレーキなどにより充電を行うような車両を例示している。もちろん、車両10はリチウムイオン二次電池によりモータジェネレータを駆動するものであれば、プラグインハイブリッド車はもちろん電気自動車なども対象となる。この車両10は、リチウムイオン二次電池1を搭載しており、このリチウムイオン二次電池1は、ECU(電子制御装置:Electronic Control Unit)100により、充電電流が制御されている。
【0022】
リチウム金属の析出は、リチウムイオン二次電池1の劣化により、許容される充電電流の上限値が低くなることがわかっている。特に負極の容量が減少することによりその上限値が低下する。
【0023】
そこで本実施形態では、このECU100により、測定したセル電圧VBと、随時変化する正負極組成対応ずれ容量ΔQから、その時の負極開放電位VNE0及び正極開放電位VPE0を正確に推定する。このように正確に推定した負極開放電位VNE0及び正極開放電位VPE0に加えてセル温度TBに基づいて、負極における副反応電流値iNE及び正極における副反応電流値iPEを正確に算出する。そしてこれらをそれぞれ積算して、負極における副反応電流値iNE及び正極における副反応電流値iPEの累積に基づいて、負極劣化量INE及び、正極劣化量IPEをそれぞれ算出し、正負極組成対応ずれ容量ΔQを補正していく。この繰り返しで常に正確な負極開放電位VNE0及び正極開放電位VPE0に基づいて負極における副反応電流値iNE及び正極における副反応電流値iPEを推定する。言い換えれば、副反応電流値iNEにより形成される負極のSEI被膜(solid electrolyte interphase)の厚さを正確に推定すれば、負極の劣化及び正極の劣化を区別して、負極の劣化が正確に推定できることになる。
【0024】
リチウムイオン二次電池1の全体の容量低下は、電池の劣化により進行するが、金属リチウムの析出は主に負極で発生するため、金属リチウムの析出の抑制のためには、負極における劣化を正確に推定する必要がある。本実施形態のLi析出抑制制御装置であるECU100による制御方法では、このように推定した負極の劣化の変化に応じて充電電流閾値ICmaxを設定する。この「充電電流閾値ICmax」は、実験的に、リチウムイオン二次電池1に、充電するときの電流値を、このICmaxを超えないようにすれば、負極における金属リチウムの析出を抑制することができる閾値である。そしてこの充電電流閾値ICmaxにより、金属リチウムの析出が生じるようなハイレートの充電電流ICの上限を逐次動的に制限して金属リチウムの析出を回避する。したがって、常に金属リチウムの析出を抑制できる範囲で、充電電流ICを最大にして、リチウムイオン二次電池1の劣化の抑制と効率的な利用の両立を図っている。
【0025】
<リチウムイオン二次電池1>
図1は、リチウムイオン二次電池1の構造の一例を示す模式図である。リチウムイオン二次電池1は、図示しない電解質とともに、その正極3、負極4、及びセパレータ5が内側に封入されたセルを構成要素とする。そして、例えば、車載電源等、その用途に応じて、このようなセルを複数組み合わせてパッケージ化する構成が一般的となっている。
【0026】
正極3及び負極4、及びセパレータ5は、シート状の外形を有して積層される。更に、この積層体を巻回することにより、正極3と負極4との間にセパレータ5を挟み込む状態で、その径方向において、正負の電極とセパレータ5とが交互に並ぶ電極体11が形成される。即ち、電極体11の形成には、二枚のセパレータ5が用いられる。また、多くの場合、電極体11は、その巻回された正極3、負極4、及びセパレータ5を径方向外側から押圧することで、扁平した外形を有するものとなっている。そして、リチウムイオン二次電池1は、このような電極体11を、電解質となる非水電解液や非水電解質ポリマー等とともに、そのセル10の外殻を構成するケース12内に収容する構成となっている。
【0027】
また、正極3及び負極4は、それぞれ、例えば、シート状の外形を有した正極集電体13及び負極集電体14に対し、活物質を含んだスラリーを塗布することにより形成される。具体的には、正極集電体13には、例えば、アルミニウム等が用いられ、正極活物質には、リチウム遷移金属酸化物が用いられる。また、負極集電体14には、例えば、銅等が用いられ、負極活物質には、炭素系材料が用いられる。更に、リチウムイオン二次電池1のケース12には、その外部に突出する正極端子15及び負極端子16が設けられている。そして、リチウムイオン二次電池1は、これらの正極端子15及び負極端子16に対して、それぞれ、その対応する正極集電体13及び負極集電体14が電気的に接続される構成となっている。
【0028】
リチウムイオン二次電池は、使用態様(例えば、ハイレートで充電、高充電状態(高SOC)からの充電、長時間充電継続、低温での充電(抵抗が高い状態での充電))において、リチウムイオンの負極における吸収拡散がリチウムイオンの供給に追い付かず、リチウムイオン二次電池の負極表面に金属リチウムが析出する虞がある。
【0029】
金属リチウムの析出は、セパレータ5を突き抜けて正極3と負極4との短絡の原因ともなり、自己放電が大きく劣化が著しく早くなる。また、一旦金属リチウムとして析出すると、リチウムイオンには戻らないため、リチウムイオンの減少による劣化も進む。
【0030】
したがって、充電電流や充電電圧を制御するなどして金属リチウムの析出を抑制しなければならない。
<リチウムイオン二次電池1が搭載される車両10の全体構成>
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池1が搭載される車両10について、簡単に説明する。
【0031】
図2は、実施形態に係るリチウムイオン二次電池1を搭載する車両10の全体構成を概略的に示す模式図である。車両10は、ハイブリッド車両である。車両10は、リチウムイオン二次電池1の制御装置18と、PCU(パワーコントロールユニット:Power Control Unit)30と、モータジェネレータ41,42と、エンジン50と、動力分割装置60と、駆動軸70と、駆動輪80とを備える。
【0032】
リチウムイオン二次電池の制御装置18は、リチウムイオン二次電池1と、このリチウムイオン二次電池1のセル電圧VB、セル電流IB、セル温度TBを常時監視する監視ユニット20と、これらのセル電圧VB・セル電流IB・セル温度TBを記憶するメモリ102、及びこれらを処理するCPU101を備えたECU100とを備える。
【0033】
<モータジェネレータ42>
モータジェネレータ42は、主として電動機として動作し、急加速時にはリチウムイオン二次電池1から供給された大電流で駆動輪80を駆動する。一方、車両の制動時や下り斜面では、モータジェネレータ42は、発電機として動作して大電流の回生発電を行ない、リチウムイオン二次電池1に大電流を供給する。
【0034】
このような車載用のリチウムイオン二次電池1では、使用環境により劣化の進み方が異なることがある。例えば、環境温度が低温から高温まで変化してセル温度TBが低温から高温まで変化したり、ハイレートの充放電が行われたり、その充放電の状況から低いセルSOCから高いセルSOCまで変化したりしたような場合である。
【0035】
<リチウムイオン二次電池の監視ユニット20>
監視ユニット20は、電圧センサ21と、電流センサ22と、温度センサ23とを含む。電圧センサ21は、セル電圧VBを検出する。電流センサ22は、リチウムイオン二次電池1に入出力される電流IBを検出する。温度センサ23は、ブロック毎のセル温度TBを検出する。各センサは、その検出結果を示す信号をECU100に出力する。これらのセル電圧VB、セル電流IBは、このリチウムイオン二次電池1の履歴として、一定時間毎にセル温度TB、セル電圧VBとして記憶される。
【0036】
<セル電圧VB・セル電流IB・セル温度TB>
本実施形態では、リチウムイオン二次電池1が車両10に搭載された使用開始の時間t0から、その運用時には、Δt(例えば、0.1秒)毎に、セル電圧VB・セル電流IB・セル温度TBの測定及び記録、劣化の判定が行われている。
【0037】
<ECU100>
メモリ102、CPU101を備えたECU(電子制御装置:Electronic Control Unit)100は、制御用のコンピュータとして機能し、本発明のリチウムイオン二次電池の制御装置として機能する。
【0038】
(実施形態の作用)
<副反応電流を用いたリチウムイオン二次電池のLi析出を抑制する制御方法>
図3は、副反応電流を用いたリチウムイオン二次電池のLi析出を抑制する制御方法のフローチャートである。本実施形態では、リチウムイオン二次電池1とこれを搭載する車両10により、以下のような手順で、副反応電流を用いたリチウムイオン二次電池のLi析出を抑制するように制御する。
【0039】
<電池劣化特性取得(S1)>
まず、車両10にリチウムイオン二次電池1を搭載する前に、車載するリチウムイオン二次電池1の最初の状態と、劣化の速度の固有の特性を測定する。このように車載するリチウムイオン二次電池1を予め測定することで、車載後の劣化の推定を正確なものとすることができる。
【0040】
ここで、
図4及び
図5を参照して、この劣化特性取得の手順を説明する。正確な劣化の推定のためには、その推定の基準となる車両10に搭載されたリチウムイオン二次電池1の劣化の速度、つまり、リチウムイオン二次電池1の固有の劣化特性を予め取得しておくことが重要である。そこで、リチウムイオン二次電池1を車両に搭載する前、若しくは車両に搭載されたリチウムイオン二次電池1を車両から取り外して、劣化特性取得の装置200にセットして測定をする。そして、予め設定された特定の温度、時間、充放電の条件で「保存」を行い、その前後での副反応電流の実測値の差から、このリチウムイオン二次電池1の固有の劣化の速度を正極と負極に分けて測定する。この副反応電流の実測値を基準として、将来的に予想される条件で補正することにより、リチウムイオン二次電池1の負極劣化量I
NE[Ah]と正極劣化量I
PE[Ah]を正確に算出することができるものである。
【0041】
<リチウムイオン二次電池の劣化特性取得の装置200の構成>
図4は、リチウムイオン二次電池1の劣化特性取得のため装置200の構成を示すブロック図である。本実施形態のリチウムイオン二次電池1の劣化情報取得の装置200の構成は、周知の充放電装置203、セル電圧測定器204、セル電流測定器205、温度計206、保温装置207を備える。また、これらを制御するインタフェースを備えた周知のコンピュータからなる制御装置208を備える。制御装置208は、CPU281とメモリ282を備える。メモリ282は、RAM、ROMを備える。
【0042】
これらは、リチウムイオン二次電池1の劣化特性取得の装置の構成として、リチウムイオン二次電池1を特定の条件で保存する保存手段として機能する。また保存したリチウムイオン二次電池1の保存前後の電池満容量の容量低下量Qlossを測定する電池容量低下量測定手段として機能する。また、保存したリチウムイオン二次電池1の保存前後の自己放電容量QSDを測定する自己放電量測定手段として機能する。また、測定した容量低下量Qloss及び自己放電容量QSDと、予め取得した副反応速度と使用環境の関係を用いて、想定される使用環境下における正極の劣化量と、負極の劣化量とをそれぞれ算出する劣化量算出手段として機能する。
【0043】
<劣化特性取得のフローチャート>
図5は、劣化特性取得の手順を示すフローチャートである。このフローチャートに沿って劣化特性の取得の手順について説明する。
【0044】
ここでまず、このフローチャートの説明に先立って、説明で用いる用語について予め説明する。
「T1[°C]」は、任意の保存温度(例えば50°C)である。
【0045】
「t1[h]」は、任意の保存期間(例えば24時間)である。
「V1[V]」は、セル電圧VBが完全放電の電圧3.0[V](この実施形態では、セルSOC0%の完全放電状態のセル電圧VBを「下限電圧」という。)から、満充電の4.1[V](セルSOC0~100%、本実施形態では、「上限電圧」という。)の間で任意に設定した電圧(例えば3.8[V])で、本実施形態では、「基準電圧」という。本実施形態では、自己放電容量の測定の基準電圧に用いられるとともに、保存の任意の初期セル電圧VBでもある。
【0046】
「Q1[Ah]」は、セル電圧VBを下限電圧3.0[V]から上限電圧(満充電のセル電圧VB=4.1[V](ここでは、セルSOC100%の電圧))の電池容量を測定した保存前電池満容量である。
【0047】
「Q2[Ah]」下限電圧3.0[V]から基準電圧V1=3.8[V]で測定した保存前の区間容量である。
「Q3[Ah]」は、基準電圧V1=3.8[V]から保存を経て下限電圧3.0[V]まで放電した保存後の残存容量である。
【0048】
「Q4[Ah]」は、下限電圧3.0[V]から、上限電圧4.1[V]で測定した保存後電池満容量である。
「QSD[Ah]」は、保存前の区間容量Q2と保存後の残存容量Q3の差から求めた保存期間中の自己放電容量である。
【0049】
「Qloss[Ah]」は、保存前電池満容量Q1から保存後電池満容量の差から求めた容量低下量である。
「iNE0[A]」は、自己放電容量QSD[Ah]÷保存時間t1[h]で求めた負極の副反応電流(速度)である。
【0050】
「iPE0[A]」は、負極の副反応電流(速度)iNE0から、容量低下量Qloss[Ah]÷保存時間t1[h]の商との差から求めた正極の副反応電流(速度)である。
【0051】
本実施形態では以上のように規定する。
<劣化特性取得のフローチャートの手順>
次に、これらの定義を用いて、リチウムイオン二次電池1の劣化特性取得の手順を
図5のフローチャートに沿って説明する。
【0052】
まず、劣化特性取得の処理を開始すると(START)、完全放電時のセルSOC0%の下限電圧3.0[V]からセルSOC100%の上限電圧4.1[V]の満充電まで充電して保存前の電池満容量Q1[Ah]を測定する(S101)。
【0053】
次に、下限電圧3.0[V]から基準電圧V1=3.8[V]までの電圧区間において充電することで保存前の区間容量Q2[Ah]を測定する(S102)。
続いて、基準電圧V1=3.8[V]に電圧を調整したまま、任意の温度T1(例えば50°C)で任意の時間t1(例えば24時間)保存する(S104)。この手順が「保存のステップ」に相当する。したがって、この保存は、開始セル電圧、保存温度T1、保存時間t1が常に一定な条件で行われる。
【0054】
保存前に基準電圧V1=3.8[V]に電圧を調整した後、保存を経て、下限電圧3.0[V]まで放電し、保存後の残存容量Q3[Ah]を測定する(S105)。続いて、下限電圧3.0[V]から、上限電圧4.1[V]までの満充電を行い、保存後の電池満容量Q4[Ah]を測定する(S106)。この場合は、電圧で規定する。保存後は、活物質・電解質の劣化、被膜の形成などの理由から保存前より満充電容量が低下するからである。
【0055】
そして、保存前の区間容量Q2[Ah]と、保存後の残存容量Q3[Ah]との差を求める。保存前の区間容量Q2に対し、保存後の残存容量Q3は、自己放電による容量の低下がある。下限電圧3.0[V]から基準電圧V1=3.8[V]まで充電した容量を、保存を経て、下限電圧3.0[V]まで放電したときの残存容量を求める。このことで保存時間t1の自己放電量を求めることができる。この手順により、保存時間t1に減少した電気容量から自己放電容量QSDを算出する(S107)。この手順が、「自己放電量測定のステップ」に相当する。
【0056】
次に、自己放電容量QSD[Ah]を保存時間t1[h]で除して、被膜の成長速度、つまり劣化速度に相当する負極の副反応電流値(被膜形成電流)iNE0[A]を算出する(S108)。
【0057】
また、容量低下量Qloss[Ah]を、保存前の電池満容量Q1[Ah]と保存後の電池満容量Q4[Ah]との差から算出する(S109)。
最後に、負極の副反応電流値iNE0[A]と、容量低下量Qlossを保存時間t1[h]で除した商[A]との差から、正極の副反応電流値iPE0[A]を算出する(S110)。
【0058】
以上で、本実施形態の所定の保存区間におけるリチウムイオン二次電池の負極の副反応電流値iNE0[A]と正極の副反応電流値iPE0[A]を測定する劣化特定取得の手順が終了する(END)。
【0059】
このような手順により、保存を開始する基準電圧V1[V]、保存温度T1[°C]、保存時間t1[h]の条件での正極の副反応電流値iPE0[A]と、負極の副反応電流値iNE0[A]とが測定できる。すなわち、このリチウムイオン二次電池1の劣化特性が判明する。すなわち、「劣化特性」とは、セル電圧BVとセル温度TBとから劣化を判定する基準となるデータである。この手順は、セル毎に行ってもよいが、同じ構成のリチウムイオン二次電池1であれば、全数検査せず抜き取り検査でも十分である。
【0060】
以上が、リチウムイオン二次電池1の劣化特性取得の手順である。以上のような手順で取得した劣化特性が、リチウムイオン二次電池1が車両10に搭載されるときに、ECU100のメモリ102に格納される。
【0061】
<負極劣化-Li析出許容電流マップ取得(S2)>
また、電池の使用の開始に先立って、負極の劣化量、すなわちここでは負極のSEI被膜を形成する副反応電流が積算された値[Ah]に応じて、Li析出を生じない限界の充電電流IC[A]を実験的に求めたマップを取得する。
【0062】
図14は、この負極劣化-Li析出許容電流マップ2の概念的な一例を示す。ここでは、縦軸に充電電流IC[A]をとり、横軸に負極劣化量I
NE[Ah]をとっており、その時のリチウムイオン二次電池1の劣化量、すなわち積算された負極の副反応電流値[Ah]に応じて、充電電流閾値ICmaxのグラフで充電電流ICが何Aまで許容できるかがわかるようになっている。例えば、劣化がない負極劣化量I
NE0=0のときは、ICmaxが最大で、高い充電電流ICで充電が可能である。電池の使用に応じて負極の劣化が進み、I
NE1になると、対応する充電電流閾値ICmaxがIC
1となり、使用開始時より、充電可能な充電電流ICが制限される。さらに電池の使用により劣化が進み、I
NE2になると、対応する充電電流閾値ICmaxがIC
2となり、さらに充電可能な充電電流ICが制限される。このようにして、ユーザが使用可能として設定した負極の劣化がI
NE ENDとなったとき、充電電流ICは、IC
ENDとなり、車載のリチウムイオン二次電池1としては、十分な機能が果たせず、電池の使用が終了される。なお本実施形態では、負極劣化量I
NEが、例えば0.1秒ごとに算出され、連続的に変化し、対応する充電電流閾値ICmaxもこれに伴って連続的に変化する。なお充電電流閾値ICmaxの決定の間隔は、任意に決定することができる。
図14では、グラフは直線で表しているが、もちろん実験値に基づいた曲線であってもよい。マップはもちろんその形式は問わず、表形式のテーブルでも換算式でもよいが、負極の劣化量[Ah]を引数に、直ちに許容される充電電流閾値ICmaxが導くことができればよい。
【0063】
<リチウムイオン二次電池1の使用開始(S3)>
車両10の電源が投入され車載されたリチウムイオン二次電池1の運用が開始される(S3)。リチウムイオン二次電池1の使用が開始されると、それまでに積算された負極副反応電流値である負極劣化量INEと、それまでに積算された正極副反応電流値である正極劣化量IPEとが読み出される。初めて開始する場合には、リチウムイオン二次電池1の劣化の情報はないため、最初に取得された劣化特性に基づいて、記録を開始させる。その後、使用する毎に、S4~S14に示すような手順でリチウムイオン二次電池1の劣化がECU100で算出されメモリ102に記憶される。車両の運用を開始すると、この劣化のデータが読み込まれ積算される。
【0064】
<データの収集(S5,S7)>
リチウムイオン二次電池の使用が開始されると、車両10の監視ユニット20は、電圧センサ21によりセル電圧VBが測定される(S5)。また、これと並行して温度センサ23により電池温度であるセル温度TBが測定される(S7)。測定したデータは、ECU100のメモリ102に蓄積される。
【0065】
<正負極の電位の推定(S6)>
S5で測定されたセル電圧VBに基づいて負極開放電位VNE、正極開放電位VPEが推定される(S6)。
【0066】
図6(a)は、劣化前の正極・負極の容量-OCP(Open circuit potential)特性(電池容量とそのときの正極・負極の開放電位との関係を示すもの)を示すグラフである。
図6(b)は、劣化後のOCP特性を示すグラフである。
図6(a)に示すグラフは電極の組成などから特定される電池の初期の劣化前の特性を示すグラフで、セル電圧VBがわかれば、負極及び正極の容量に応じた初期の負極開放電位V
NE0及び初期の正極開放電位V
PE0がわかっている。その後、リチウムイオン二次電池1において負極と負極の劣化がそれぞれ進む。このため、電池の初期状態でのフローチャートの1巡目では正極開放電位V
PEと負極開放電位V
NEの関係は
図6(a)に示すような関係であるが、2巡目以降では、逐次劣化のズレが生じて
図7のように変化していく。
【0067】
<正負極組成対応ずれ容量ΔQに基づくS6における正負極の電位の推定の補正>
図3に示すフローチャートの正負極の電位を推定する手順(S6)では、1巡目では、リチウムイオン二次電池1が劣化していない状態である
図6(a)に示すように、正極と負極の容量には、ずれは生じていない。ところが、リチウムイオン二次電池1の正極と負極の劣化は、一般に負極の方が大きく、その結果正極の劣化と負極の劣化の差によって正負極組成対応ずれ容量ΔQを生じる。ここで、説明の便宜からまず負極のみの容量のずれについて説明する。
【0068】
図6(a)に示すグラフは電極の組成などから特定される電池の初期の劣化前の特性を示すグラフで、セル電圧VBがわかれば、負極の容量に応じた負極開放電位V
NE0及び正極の容量に応じた正極開放電位V
PE0がわかる。
図6(a)からわかるように、正極OCPのグラフU
PE及び負極OCPのグラフU
NE0は、不規則な曲線となっている。特に、負極はリチウムイオンのインターカレーションにより階段状のグラフとなる。ここでセル電圧VBは、正極の電位V
PE0と負極の電位V
NE0の電位差となる。そうすると、
図6(a)に示す正極OCPのグラフU
PE0と負極OCPのグラフU
NE0との相対的な位置関係と、正負極の容量により、セル電圧VBは変化することになる。このときには、正負極組成対応ずれ容量ΔQは生じていない。
【0069】
そこで、リチウムイオン二次電池1において、「正負極組成対応ずれ容量ΔQ」を用いることでリチウムイオン二次電池1の電位を推定する。「正負極組成対応ずれ容量ΔQ」とは、初期状態から正極活物質の表面の局所充電率と負極活物質の表面の局所充電率の対応関係のずれによる電池容量の変動量である。
【0070】
図6(b)は、負極のみの劣化を考慮した正極・負極の容量-OCP特性を示すグラフである。
図6(b)を参照して負極における正負極組成対応ずれ容量ΔQを説明する。
図6(a)に示す状態から、使用により劣化が進むと、
図6(b)に示すように負極における副反応による負極ずれ量ΔQ
NEが大きくなる。このため、負極OCPのグラフU
NE0上の点の位置が、当初の位置から、左側に示す負極OCPのグラフU
NE1上の点の位置にずれ、左向きの矢印で示す正負極組成対応ずれ容量ΔQが生じる。
【0071】
ここでセル電圧VBは、正極開放電位V
PEと負極開放電位V
NEの電位差となる。そうするとセル電圧VBは、例えば<正極開放電位V
PE0-負極開放電位V
NE0>の電位差から、<正極開放電位V
PE0-負極開放電位V
NE1>の電位差となり、
図6(a)で示すように、電位差が小さくなる。そうすると検出したセル電圧VBと容量との対応関係に差が生じることになる。
【0072】
そこで、使用による容量劣化をターフェル式などを使ってSEI被膜の形成から推定し、この正負極組成対応ずれ容量ΔQを算出する。この正負極組成対応ずれ容量ΔQは、随時積算されて、セル電圧VBから、正極開放電位VPEと負極開放電位VNEをそれぞれ算出する場合に正負極組成対応ずれ容量ΔQが参照される。
【0073】
ここでは、正負極組成対応ずれ容量ΔQは、正極に変化がない前提であるので、負極における副反応による負極ずれ量ΔQ
NEの低下と等しい。
<本実施形態の正負極組成対応ずれ容量ΔQの算出の特徴>
続いて、正極の劣化も考慮した正負極組成対応ずれ容量ΔQの算出について説明する。従来においても正極が負極と同じように副反応を生じること自体は知られていたが、どのような副反応がどのように作用するかは周知ではなかった。また、将来の副反応電流を推定することも容易ではなかった。さらに正極の副反応の影響は小さなものと思われていた。このため、専ら負極の劣化のみを考慮し、正極のずれを考慮することに対しては、単に処理を複雑にするだけであるという阻害要因があったといえる。そのため、当業者において
図6(b)に示すのと同じように正極の副反応は考慮されていなかった。
【0074】
しかしながら本発明者は、そのリチウムイオン二次電池1自体が、どのような特性を持った電池であるかを解析したうえで、さらに正極にどのような副反応が生じそれがどのように作用するかを解明し、実験によりその影響が小さくないことを見出し、本発明に至ったものである。また、正極も負極と同様に、ターフェルの式により副反応の反応速度を規定することができることを実験的に確認した。
【0075】
<本実施形態の正負極組成対応ずれ容量ΔQの算出>
図7は、本実施形態の劣化後の正極・負極のSOC-OCP特性を示すグラフである。本発明者の知見によれば、実際には、
図7に示すように、正極においても副反応による正極ずれ量ΔQ
PEが生じる。正極ずれ量ΔQ
PEが生じると、
図6(a)に示す正極OCPのグラフ上の点U
PE0上の位置が、左向きの矢印で示す正極ずれ量ΔQ
PEだけ左側の位置にずれ、グラフ上の点U
PE1となる。
【0076】
つまり、セル電圧VBの低下は、負極開放電位V
NEの上昇と正極開放電位V
PEの低下の両者から生じる。従来は、
図6(b)に示されるようにセル電圧VBの低下は、負極開放電位V
NEの影響が大きいことから負極のみを参照していた。言い換えると、正負極組成対応ずれ容量ΔQ=負極ずれ量ΔQ
NEとみなされていた。しかしながら、本実施形態では、セル電圧VBの低下は、負極開放電位V
NEの上昇と正極開放電位V
PEの低下の両者から生じるものとし、これらをそれぞれ切り分けて分析することとしたものである。
【0077】
本実施形態では、ずれが生じる前のセル電圧VBは、
図6(a)に示すように<正極開放電位V
PE0-負極開放電位V
NE0>の電位差であるが、ずれを生じると、
図7に示すように<正極開放電位V
PE1-負極開放電位V
NE1>の電位差となる。
【0078】
本実施形態では、
図7に示すように、セル電圧VBの低下を、負極開放電位V
NEの上昇と正極開放電位V
PEの低下に振り分けた結果、セル電圧VBが同じ電圧であったとしても、
図6(b)の従来技術で示す負極開放電位V
NEの上昇よりも本実施形態の
図7に示す負極開放電位V
NEの上昇は小さいものとなっている。
【0079】
これを正負極組成対応ずれ容量ΔQについて言い換えれば、(従来の負極ずれ量ΔQNE)>(本実施形態の負極ずれ量ΔQNE)という関係から本実施形態の正負極組成対応ずれ容量ΔQは、従来の正負極組成対応ずれ容量ΔQよりも小さなものとなる。
【0080】
さらに、(従来の負極ずれ量ΔQNE)>(本実施形態の負極ずれ量ΔQNE)という関係から、負極における副反応による負極ずれ量ΔQNEの低下によるずれと、正極における副反応による正極ずれ量ΔQPEの低下によるずれとが、相殺されてΔQが小さくなる。すなわち、(正負極組成対応ずれ容量ΔQ)=(負極ずれ量ΔQNE-正極ずれ量ΔQPE)という関係になる。したがって、本実施形態の正負極組成対応ずれ容量ΔQは、従来の正負極組成対応ずれ容量ΔQよりもさらに小さなものとなる。
【0081】
つまり、本発明者は、従来の方法では、セル電圧VBが同じ電圧であったとしても、正負極組成対応ずれ容量ΔQを大きく見積もる可能性があったことを見出した。本実施形態においては、負極ずれ量ΔQNEと正極ずれ量ΔQPEとをそれぞれ劣化を正確に算出する。ここから導かれた正負極組成対応ずれ容量ΔQを用いることで、セル電圧VBを正極開放電位VPEと負極開放電位VNEに正しく振り分け、さらに負極ずれ量ΔQNEと正極ずれ量ΔQPEとをそれぞれ劣化を正確に算出する。これを繰り返すことで、常に正負極組成対応ずれ容量ΔQをより正確に推定することができるものとした。
【0082】
このような手順により、負極開放電位V
NE0及び正極開放電位V
PE0を正確に推定することができる。
<正負極副反応電流値を推定(S8)
ここで、
図3のフローチャートに戻って、S6において推定した負極開放電位V
NE及び正極開放電位V
PEと、S4で取得した電池温度であるセル温度TBに基づいて正負極副反応電流値を推定するステップ(S5)を説明する。
【0083】
<負極開放電位V
NE、正極開放電位V
PEから負極副反応電流値i
NE、正極副反応電流値i
PEの算出>
図8は、本実施形態の時間t
0から所定の時間t
1までに積算された正負極組成対応ずれ容量Δを算出するフローチャートの一例である。
【0084】
<正負極組成対応ずれ容量ΔQ(t
0~t
1)の算出を開始する(S81)>
以下、
図8に沿って、
図3のフローチャートの「正負極副反応電流値を推定(S8)」の具体的な手順を説明する。まず、正負極組成対応ずれ容量ΔQ(t
0~t
1)の算出を開始する(S81)。ここで時間t
0は、このリチウムイオン二次電池1の劣化の推定の開始時である。また、時間t
1は、リチウムイオン二次電池1の劣化の推定の終了時である。Δtは、時間t
0から時間t
1までの経過時間である。そして時間t
2は、測定間隔時間である。例えば、0.1秒である。
【0085】
<セル電圧VBとセル温度TBの測定(S82)>
続いて、S7において測定した検査の対象となるリチウムイオン二次電池1のセル電圧VBとセルのセル温度Tを読み込む(S82)。セル電圧VBとセル温度TBは、リチウムイオン二次電池1が搭載された車両10の監視ユニット20の電圧センサ21と温度センサ23(
図1)により測定されている。
【0086】
<負極開放電位V
NE算出(S83)>
S82の処理に続いてS6においてセル電圧VBから算出した負極開放電位V
NEを読み込む(S83)。フローチャートの1巡目では、時間t
0においては、正負極組成対応ずれ容量ΔQ=0であるので、
図6(a)のグラフに従ってセル電圧VBを正極開放電位V
PEと負極開放電位V
NEに振り分けることができる。2巡目以降は、
図7のように変化していく。
【0087】
<負極副反応電流値iNE算出(S84)>
負極開放電位VNEとセル温度TBから負極副反応電流値iNEを算出する(S84)。
【0088】
<正極開放電位VPE算出(S85)>
S83の処理と並行して、S82の処理に続けて同様な手順でセル電圧VBから正極開放電位VPEを読み込む(S85)。
【0089】
<正極副反応電流値iPE算出(S86)>
正極開放電位VPEから正極副反応電流値iPEを算出する(S86)。
<正負極組成対応ずれ容量ΔQ(t0~t1)算出(S87)>
S84で算出した負極ずれ量ΔQNEと、S86で算出した正極ずれ量ΔQPEとから、正負極組成対応ずれ容量ΔQ(t0~t1)=(負極反応電流値iNE-正極反応電流値iPE)×Δtを算出する。すなわち、負極副反応電流値iNEと正極副反応電流値iPEの差に、経過時間Δtを掛けて、経過時間Δtの正負極組成対応ずれ容量ΔQ(t0~t1)の総容量を算出する(S87)。
【0090】
この処理は、時間t0から時間t1まで、Δtが順次処理される。この処理が一巡終了すると、次の処理時には正負極組成対応ずれ容量ΔQ(t
0~t
1)が算出されている。このようにt
n~t
n+1の処理時には正負極組成対応ずれ容量ΔQ(t
n-1~t
n)が算出されている。そこで、S82で取得したセル電圧VBは、
図7に示すように、すでに算出し累積された正負極組成対応ずれ容量ΔQによりセル電圧VBを正極開放電位V
PEと負極開放電位V
NEに振り分けることができる。これを繰り返すことで、その後も、その時点で算出した正負極組成対応ずれ容量ΔQによりセル電圧VBを正確に正極開放電位V
PEと負極開放電位V
NEに振り分けて、
図7に示すように、正負極対応ずれ容量ΔQを参照することで、S83、S85における処理を正確に行うことができる。
【0091】
<負極副反応電流値iNE及び正極副反応電流値iPEの算出>
ここで、負極副反応電流値iNEと正極副反応電流値iPEは、以下のようにして求められる。
【0092】
負極副反応電流値iNEは、aNEを負極上で起こる副反応の交換電流密度とし、bNEを負極上で起こる副反応の過電圧項としたとき、下記式(1)により負極副反応電流値iNEを算出することができる。
【0093】
【数3】
また、正極副反応電流値i
PEは、a
PEを正極上で起こる副反応の交換電流密度とし、b
PEを正極上で起こる副反応の過電圧項としたとき、下記式(2)により正極副反応電流値i
PEを算出することができる。
【0094】
【数4】
なお、セル電池の副反応電流値は、電流密度に応じて算出される。これら式(1)及び式(2)から、負極副反応電流値i
NEと正極副反応電流値i
PEは、過電圧項b
NEの変化により指数関数的に増大することがわかる。
【0095】
<負極における副反応電流による劣化量の低下の求め方>
次に、ターフェル式を用いて具体的に負極副反応電流値iNEと正極副反応電流値iPEの低下を求める方法について説明する。
【0096】
ここでは、まず、負極について説明する。副反応による負極劣化量iNEはターフェル式を用いて求めることができる。
すなわち、負極における副反応による劣化量は、負極副反応電流値iNEをΔtの間で積分する。負極副反応電流値iNEは、セル電圧VB及びセル温度TBに基づいて、次のターフェル式により求めることができる。
【0097】
<ターフェル式による負極副反応電流値iNEの算出>
本実施形態では、以下に示すターフェル式(式(3))により、負極副反応電流値iNEを求める。
【0098】
【数5】
ここで、i
0を交換電流密度、αを移動係数、Fをファラデー定数、Rを気体定数、Tを絶対温度、U
sideを被膜形成電位、U
NEを負極開放電位とする。
【0099】
<ターフェルの式を用いた負極ずれ量ΔQNEの計算>
ターフェル式(式(3))による負極副反応電流値iNEの求め方は、詳しくは、特開2017-190979号公報の段落0024~0081、特にターフェルの式を用いた正負極組成対応ずれ容量ΔQの計算方法は、段落0076~0081に詳細に開示されているため、ここでは詳しい記載は省略する。また、もちろん電流密度は必要に応じて副反応電流値に換算される。式(3)の交換電流密度i0は、リチウムイオン二次電池1の製造完了後に数回充放電を繰り返すと、SEI被膜の形成速度が略定常となるので略一定の値に落ち着いてくる。このため、試験等により予めセル温度TBに対応するマップを作成しておき、このマップから読み出すようにしてもよい。
【0100】
移動係数αは、例えば、充放電効率が同一と仮定して、0.5としてもよい。また、被膜形成の主要因である電解液の還元分解は、負極開放電位が0.6V~1.0Vで連続的に起こるので、例えば、被膜形成電位Usideを0.6V、0.8Vあるいは1.0Vのように設定してもよい。
【0101】
<正極における副反応電流値iPE>
従来、正負極組成対応ずれ容量ΔQは、負極表面上でのSEI被膜形成(副反応)の影響が主であると考えられていた。負極で形成される被膜は、SEIのほか、LiF、Li2Co3などがあるが、負極副反応電流値iNEは、上述のターフェルの式により推定されていた。
【0102】
本発明者は、正極で形成される被膜についても、同じように考え、同様にターフェルの式により推定できるのではないかという仮説をたて、実験によりこの仮説が正しいことを見出した。
【0103】
そこで、正極においても、セル電圧VB及びセル温度TBに基づいて、下記式(4)のターフェル式により正極副反応電流値iPEを算出する。
ここで、i0を交換電流密度、αを移動係数、Fをファラデー定数、Rを気体定数、Tを絶対温度、Usideを被膜形成電位、UPEを正極開放電位とする。
【0104】
【数6】
そして、この正極副反応電流値i
PEに基づいて、負極ずれ量ΔQ
NEを算出する。
【0105】
<正負極組成対応ずれ容量ΔQ(t
0~t
1)の総容量>
そして、
図5に示すフォローチャートのS87において、このように算出した負極副反応電流値i
NEと、正極副反応電流値i
PEとから、ΔQ(t0~t1)=(i
NE-i
PE)×Δtを算出する。すなわち、負極副反応電流値i
NEと正極副反応電流値i
PEの差に、経過時間Δtを乗じて、経過時間Δtの正負極組成対応ずれ容量ΔQ(t
0~t
1)の総容量を算出する(S87)。なお、i
NE×Δt-i
PE×Δt=ΔQ
NE-ΔQ
PE=ΔQ(t
0~t
1)としてもよい。
【0106】
<正負極の副反応電流値の被膜成長に応じた減衰>
なお、前記ターフェル式では、SEI被膜の厚みによる電流値への影響については、考慮されていない。そこで、ΔQPE、ΔQNEの算出において、各経過時間における被膜形成量に応じて、副反応電流値を減衰させた値を用いてΔQPE、ΔQNEを算出する。
【0107】
図9は、被膜成長のモデルを示す模式図である。
図10は、被膜形成量と副反応電流値の関係を示す式である。
図11は、被膜量の逆数に対する電流値の減衰率を示すグラフである。
図12は、経過時間と被膜形成量と副反応電流値の関係を示す表である。
図13は、従来技術の劣化度推定結果と本実施形態の劣化度推定結果を比較するグラフである。
図9~13を参照して、正負極の副反応電流値の被膜成長に応じた減衰について説明する。
【0108】
図10(a)に示すように、リチウムイオン二次電池1の組み立て直後(コンディショニング前)の時間t
0は、集電箔1cと合材1aとが貼り合された状態で、SEI被膜1seiは形成されていない。使用に応じて、時間t
1では、
図10(b)に示すようにSEI被膜1seiが、形成される。さらに使用を続け、時間t
2になると
図10(c)のようにSEI被膜1seiが厚く成長する。このSEI被膜1seiは、抵抗となり電流の流れを妨げる。副反応電流値Iは、厚さxに依存する。副反応電流値Iは、
図11に示す式のように、1/xに比例する(kは係数)。そして、(t
1~t
2)におけるΔQを算出する場合に、
図12に示す「1/Σ副電流値×t/mAh」と「副反応電流値の減衰率/%」の関係により、減衰させた(t
1~t
2)における副反応電流値を用いて(t
1~t
2)におけるΔQを算出する。
【0109】
その結果、
図13に示すように、時間がt
1~t
2~t
nと経過していくと、被膜量は、累積的に厚くなるとともに、副反応電流値Iは、厚さxの逆数に比例して小さくなる。
本実施形態では、以上に述べた正負極の副反応電流値の被膜成長に応じた減衰を考慮するため、
図14に示すように、本実施形態の劣化推定の方法は、従来の技術によるターフェル式のみの劣化推定の方法よりも、より実際の劣化に近い推定が可能となっている。
【0110】
<負極劣化量を推定(S9)>
ここで、
図3のフローチャートに戻り負極劣化量を推定(S9)について説明する。負極劣化量は、すなわち負極ずれ量ΔQ
NEで、S8において算出されたその区間の負極の副反応電流値i
NEを積算したものである。
【0111】
<負極劣化量に応じた充電電流閾値ICmaxを決定(S10)>
ここでは、予め「負極劣化-Li析出許容電流マップ」取得(S2)において取得したマップ2(
図14参照)から、負極劣化量を推定(S9)の手順において推定した充電電流閾値ICmaxを決定する(S10)。新たに決定された充電電流閾値ICmaxは、それまでECU100のメモリ102に記憶されていた充電電流閾値ICmaxに上書きして更新をする。
【0112】
<充電電流IC≧充電電流閾値ICmaxか否かを判断(S11)>
続いて、リチウムイオン二次電池1に対する充電電流ICを常時監視し、S10で決定された充電電流閾値ICmaxを基準値として、充電電流ICが、充電電流閾値ICmaxを超えているか否かを判断する。充電電流ICが、充電電流閾値ICmaxを超えていなければ(S11:NO)、充電電流ICの制限はせず、そのまま、S8において算出されたその区間の負極副反応電流値iNEを積算したΔQNEを記憶して(S14)、次の処理を行う(S15:NO→S4)。
【0113】
一方、充電電流ICが、充電電流閾値ICmaxを超えていると判断した場合は(S11:YES)、リチウムイオン二次電池1に印加される充電電流ICを、リミッターにより充電電流閾値ICmaxに抑制する(S12)。そして、S8において算出されたその区間の負極副反応電流値iNEを積算したΔQNEを記憶して(S14)、次の処理を行う(S15:NO→S4)。
【0114】
車両10の運転者などにより、車両10の運用が終了し、電源が切られて電池の使用が終了する場合は(S15:YES)、処理を終了する。
(実施形態の効果)
本実施形態は、上記構成から以下のような効果を奏する。
【0115】
(1)本実施形態の副反応電流を用いたリチウムイオン二次電池1のLi析出抑制制御方法では、負極で金属リチウムが析出しない充電電流ICの範囲でリチウムイオン二次電池1を充電するため、負極における金属リチウムの析出を効果的に抑制することができる。
【0116】
(2)また、金属リチウムが析出しない範囲で、最大限の充電電流ICとすることができるため、リチウムイオン二次電池1の劣化を抑制しつつ、最大限に電池性能を引き出すことができる。
【0117】
(3)負極の劣化状態に応じて、連続的に充電電流閾値ICmaxを動的に変化させるため、副反応電流による劣化が進行する中で、常にその時の劣化状態に合わせて性能を無駄なく最大限に引き出すことができる。
【0118】
従来は、
図15に示すように、許容される充電電流ICは、固定的に制限されており、さらに、金属リチウムの析出に密接な負極劣化量I
NEではなく、電池全体の容量低下量のみを判断していたため、充電電流ICの制限も負極の劣化の程度のかかわらず、一定の電流値で静的に制限していた。そのため、電池全体の容量の劣化がないときも、マージンを見て制限していたため、
図15に示す領域1の部分での充電電流ICを印加することなく、領域2の範囲で充電をしていた。さらに、電池全体の容量がΔQ
2に低下すると、今度は充電電流ICを制限していても、金属リチウムが析出するような充電電流ICとなって、ますます電池の劣化を促進することになってしまう。
【0119】
一方、本実施形態では、
図14に示すように、負極劣化量I
NEに着目して、その劣化状態で許容される充電電流ICを充電電流閾値ICmaxとして算出し、その範囲で最大の電流値まで充電許容するため、劣化状態が小さいときも、劣化状態が大きいときも、その許容される範囲を十分に生かし切った活用ができる。また、使用期間の末期においても、充電電流閾値ICmaxを十分に小さくすることで、劣化を促進させるようなことがない。
【0120】
(4)リチウムイオン二次電池1の使用にあたり、予め、そのリチウムイオン二次電池1の固有の劣化特性を取得することで、車載された場合に個々のリチウムイオン二次電池1の劣化特性に応じた精密な制御をすることができる。実施形態では、新車を例に説明しているが、中古車や中古の二次電池でも、予めそのリチウムイオン二次電池1の固有の劣化特性を取得することで本実施形態の副反応電流を用いたリチウムイオン二次電池1のLi析出抑制制御方法を実施することができる。
【0121】
(5)セル電圧VBから、負極開放電位VNE、正極開放電位VPEを推定する場合に、正極・負極の容量-OCP(Open circuit potential)特性(電池容量とそのときの正極・負極の開放電位との関係を示すもの)を示すグラフにおいて、正負極組成対応ずれ容量ΔQを参照して負極開放電位VNE、正極開放電位VPEを推定するため、正確な電位を推定をすることで、正確に劣化を推定できる。
【0122】
(6)リチウムイオン二次電池1の負極の劣化を、ターフェル式に基づいた副反応電流値に基づくSEI被膜の成長に基づいて判断している。このため、負極の副反応電流値を積算することで正確なSEI被膜の成長を推定し、このデータから負極の容量劣化量を正確に推定するため、実測しなくても理論的に正確な劣化を推定できる。
【0123】
(7)さらに、負極SEI被膜の成長に応じて負極副反応電流値iNEが減少するが、この負極SEI被膜の成長に応じた負極副反応電流値iNEの減少を反映することで、より正確に負極の劣化を推定することができる。
【0124】
(8)車両10のECU100により、予め記憶された「そのリチウムイオン二次電池固有の劣化特性」と「負極劣化-Li析出許容電流マップ2」に基づいて、セル電圧VBとセル温度TBからのデータのみで制御することができる。そのため、車両10における構成は、ECU100に本実施形態のLi析出抑制制御方法のプログラムをインストールするだけで、制御装置18を、副反応電流を用いたリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御装置とすることができる。
【0125】
(9)そのため、既存の車両10においても簡単な構造で適応が容易であるため、後付けで装着することも容易である。既存の車両でも効率的な制御をすることができる。
(変形例)本発明は、上記各実施形態には限定されず、下記のように実施することもできる。
【0126】
○実施形態では、車両に搭載された例を示したが、必ずしも自動車に搭載されたものに限らず、船舶や鉄道、航空機や、さらに固定型のものでの実施を排除するものではない。
○実施形態では、
図1に示すようなリチウムイオン二次電池1を例に挙げて説明したが、リチウムイオン二次電池1は、円筒状の形状や、立方体のような形状であってもよい。また、正極及び負極は、巻回したものに限らず、複数の正極板、負極板が積層されたようなものであってもよい。
【0127】
○
図1には、単一のセル電池を示したが、車両10においては、リチウムイオン二次電池1は、セル電池を単位にこれを連結してスタックとして使用しており、本実施形態の副反応電流を用いたリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法は、それぞれセル電池毎に独立して実施されるが、組電池全体を制御するようにしてもよい。
【0128】
○実施形態の実施において、数1~8に示された数式(1)~(4)は、処理の一例であり、充電電流閾値ICmaxを算出できれば、そのプロセスは限定されない。数式によらず、すべてデータをテーブルやマップで換算するようなものでもよい。
【0129】
○充電電流ICの制御については、これを充電電圧VCに換算して制御するようにしてもよい。
○本実施形態のリチウムイオン二次電池のLi析出抑制制御方法において、ここから得られたデータを用いて、例えば充電におけるセルSOCの制御や劣化予測を行うようにしてもよい。
【0130】
○充電電流閾値ICmaxによる制御は、安全のために一定のマージンを設けてもよい。また、完全に連続的でなくても、段階的・間歇的に変化させるようなものでもよい。
○
図3、
図5、
図8に例示したフローチャートは、処理の一例であり、その順序を変更し、またステップの付加、削除もしくは変更をして実施することができることは言うまでもない。
【0131】
○
図6(a),(b)、
図7、
図11、
図13、
図14に例示したグラフは、概念的な一例であり、これらに限定されるものではない。また、必ずしも実施に当たって、グラフを作製する必要もない。
【0132】
○また、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない限り、当業者により、その構成を付加、削除または変更をし、又はカテゴリーを変えて装置として実施することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0133】
1…リチウムイオン二次電池(二次電池)
2…(負極劣化-Li析出許容電流)マップ
10…車両
18…制御装置
20…監視ユニット
21…電圧センサ
22…電流センサ
23…温度センサ
30…PCU
100…ECU
101…CPU
102…メモリ
200…劣化特性取得の装置
VB…セル電圧
IB…セル電流
TB…セル温度
IC…充電電流
ICmax…充電電流閾値
t0…時間(初期値)
t1…時間
Δt…時間(経過時間)
ΔQ…正負極組成対応ずれ容量
ΔQNE…負極ずれ量
ΔQPE…正極ずれ量
Qloss…保存前後の電池満容量の容量低下量
QSD…自己放電容量
VNE…(負極の容量に応じた)負極開放電位
VPE…(正極の容量に応じた)正極開放電位
VNE0…負極の容量に応じた負極開放電位(劣化のない初期値)
VPE0…正極の容量に応じた正極開放電位(劣化のない初期値)
INE…負極劣化量[Ah]
IPE…正極劣化量[Ah]
iNE…負極副反応電流値[A]
iPE…正極副反応電流値[A]
iNE0…(劣化特性として取得された)負極副反応電流値[A]
iPE0…(劣化特性として取得された)正極副反応電流値[A]