(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026822
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】搬送装置
(51)【国際特許分類】
B65H 26/02 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
B65H26/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020130461
(22)【出願日】2020-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】武本 和大
【テーマコード(参考)】
3F105
【Fターム(参考)】
3F105AA01
3F105AA04
3F105AB04
3F105BA02
3F105BA33
3F105BA37
3F105CA02
3F105CA13
3F105CB08
3F105DA02
(57)【要約】
【課題】ブレーキ部の劣化とトルク伝達部の劣化とを判別できる搬送装置を提供する。
【解決手段】ブレーキ部12は、ブレーキトルクを発生する。ウェブロール支持軸11は、ウェブロール8から引き出されつつ搬送されるウェブWにブレーキ部12のブレーキトルクを伝達する。制御部7は、ウェブWの搬送中にブレーキ部12への入力電流値を漸次的に増大させ、ブレーキ部12への入力電流値を増大させている途中からウェブWの張力が変化しなくなった場合は、ウェブロール支持軸11が劣化していると判定し、ブレーキ部12への入力電流値の増大に応じてウェブWの張力が増大するが、入力電流値に応じたウェブWの張力が正常値より低下している場合は、ブレーキ部12が劣化していると判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキトルクを発生するブレーキ部と、
搬送されるウェブに前記ブレーキ部のブレーキトルクを伝達する伝達部と、
前記ブレーキ部を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
ウェブの搬送中に前記ブレーキ部のブレーキトルクが漸次的に増大するように前記ブレーキ部の制御パラメータの値を漸次的に変化させ、
前記制御パラメータの値を変化させている途中からウェブの張力が変化しなくなった場合は、前記伝達部が劣化していると判定し、
前記制御パラメータの値の変化に応じてウェブの張力が増大するが、前記制御パラメータの値に応じたウェブの張力が正常値より低下している場合は、前記ブレーキ部が劣化していると判定することを特徴とする搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェブを搬送する搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェブを搬送しつつ、印刷等の加工を施す装置では、ウェブの姿勢、状態を良好に保つために、ウェブに適切な張力を付与し、張力を一定に維持する必要がある。
【0003】
ウェブに張力を付与するための構成として、ブレーキ部が接続されたエアシャフトにウェブロールを取り付け、ブレーキ部が発生するブレーキトルクによって、ウェブロールから引き出されつつ搬送されるウェブに張力を付与するようにした構成が知られている。
【0004】
また、他の構成として、ウェブをニップする一対のローラのうちの一方にブレーキ部を接続し、このブレーキ部が発生するブレーキトルクによって、搬送されるウェブに張力を付与するようにした構成が知られている。
【0005】
上述のような、ブレーキ部のブレーキトルクによってウェブに張力を付与する構成では、ブレーキ部が劣化すると、ウェブに適切な張力を付与することができなくなる。このため、ブレーキ部が劣化すると、ブレーキ部を交換する必要がある。
【0006】
ブレーキ部の劣化、交換に関し、特許文献1には、非常停止用のブレーキ部が作動してから印刷機が停止するまでの給紙胴の回転数に基づき、ブレーキ部の交換時期を管理する技術が開示されている。
【0007】
また、引用文献2には、ブレーキ部の定格出力時のトルクを検出することにより、ブレーキ部の劣化診断を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-280137号公報
【特許文献2】特開2014-87131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述のブレーキ部がエアシャフトに接続された構成では、ブレーキ部が劣化していないとしても、エアシャフトの劣化によって、ウェブに適切な張力を付与することができなくなることがある。
【0010】
すなわち、エアシャフトが劣化すると、エアシャフトとウェブロールの紙管(コア)との間の摩擦力が低下する。これによりエアシャフトと紙管との間の摩擦トルクがブレーキ部のブレーキトルクを下回ると、エアシャフトと紙管との間で滑りが発生し、エアシャフトを介したブレーキ部からウェブ(ウェブロール)へのトルク伝達量が低下する。この結果、ウェブに適切な張力を付与することができなくなることがある。
【0011】
また、上述のブレーキ部がローラに接続された構成でも、ブレーキ部が劣化していないとしても、ローラの劣化(磨耗や紙粉の付着等)によって、ウェブに適切な張力を付与することができなくなることがある。
【0012】
すなわち、ローラの劣化によりローラとウェブとの間の摩擦力が低下することでローラとウェブとの間で滑りが発生し、ローラを介したブレーキ部からウェブへのトルク伝達量が低下する。この結果、ウェブに適切な張力を付与することができなくなることがある。
【0013】
特許文献1,2の技術を適用しても、ブレーキ部の劣化と、エアシャフトやローラ等のトルク伝達部の劣化とを判別することができない。そこで、ブレーキ部の劣化とトルク伝達部の劣化とを判別できる技術が要望されていた。
【0014】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、ブレーキ部の劣化とトルク伝達部の劣化とを判別できる搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の搬送装置は、ブレーキトルクを発生するブレーキ部と、搬送されるウェブに前記ブレーキ部のブレーキトルクを伝達する伝達部と、前記ブレーキ部を制御する制御部とを備え、前記制御部は、ウェブの搬送中に前記ブレーキ部のブレーキトルクが漸次的に増大するように前記ブレーキ部の制御パラメータの値を漸次的に変化させ、前記制御パラメータの値を変化させている途中からウェブの張力が変化しなくなった場合は、前記伝達部が劣化していると判定し、前記制御パラメータの値の変化に応じてウェブの張力が増大するが、前記制御パラメータの値に応じたウェブの張力が正常値より低下している場合は、前記ブレーキ部が劣化していると判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の搬送装置によれば、ブレーキ部の劣化とトルク伝達部の劣化とを判別できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態に係る印刷装置の概略構成図である。
【
図2】
図1に示す印刷装置の制御ブロック図である。
【
図3】ウェブロール支持軸が劣化している場合におけるブレーキ部への入力電流値とウェブの張力との関係を示す図である。
【
図4】ウェブロール支持軸は劣化していないがブレーキ部が劣化している場合におけるブレーキ部への入力電流値とウェブの張力との関係を示す図である。
【
図5】ウェブロール支持軸の寿命予測の説明図である。
【
図6】第2実施形態に係る印刷装置の概略構成図である。
【
図7】
図6に示す印刷装置の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。
【0019】
以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る搬送装置を備えた印刷装置の概略構成図である。
図2は、
図1に示す印刷装置の制御ブロック図である。なお、以下の説明において、
図1の紙面に直交する方向を前後方向とする。また、
図1における紙面の上下左右を上下左右方向とする。
【0021】
図1、
図2に示すように、第1実施形態に係る印刷装置1は、ウェブロール保持部2と、搬送部3と、印刷部4A,4Bと、巻取部5と、張力検出部6と、制御部7とを備える。なお、印刷装置1の印刷部4A,4B以外の各部が、搬送装置を構成する。
【0022】
ウェブロール保持部2は、ウェブロール8を保持する。ウェブロール8は、フィルム、紙等からなる長尺状の印刷媒体であるウェブWがロール状に巻かれたものである。ウェブロール保持部2は、ウェブロール支持軸(伝達部に相当)11と、ブレーキ部12とを備える。
【0023】
ウェブロール支持軸11は、ウェブロール8を回転可能に支持する。また、ウェブロール支持軸11は、ウェブロール8から引き出されつつ搬送されるウェブWにブレーキ部12のブレーキトルクを伝達する。ウェブロール支持軸11は、前後方向に延びる長尺状に形成されている。ウェブロール支持軸11は、例えば、エアシャフトからなる。
【0024】
ブレーキ部12は、ウェブロール支持軸11を介してウェブロール8の回転にブレーキをかけることで、ウェブロール8と後述する搬送ローラ16との間のウェブWに張力を付与する。ブレーキ部12は、入力される電流(制御パラメータに相当)が大きいほど、大きなブレーキトルクを発生する。ブレーキ部12は、例えば、パウダーブレーキからなる。
【0025】
搬送部3は、ウェブWをウェブロール8から引き出しつつ、後述する巻取部5の巻取軸26へ向けてウェブWを搬送する。搬送部3は、一対の搬送ローラ16と、搬送モータ17とを備える。
【0026】
一対の搬送ローラ16は、ウェブWをニップしつつ搬送する。搬送ローラ16によるウェブWの搬送により、ウェブロール支持軸11とともにウェブロール8が回転し、ウェブロール8からウェブWが引き出される。搬送モータ17は、搬送ローラ16を回転駆動させる。
【0027】
印刷部4A,4Bは、それぞれウェブWのおもて面、うら面に画像を印刷する。印刷部4A,4Bは、それぞれ5つのヘッドユニット21を備える。
【0028】
ヘッドユニット21は、インクジェットヘッド(図示せず)を有し、インクジェットヘッドのノズルからウェブWにインクを吐出して画像を印刷する。印刷部4A,4Bのそれぞれにおいて、5つのヘッドユニット21は、それぞれ異なる色のインクを吐出する。
【0029】
巻取部5は、印刷部4A,4Bにより印刷されたウェブWを巻き取る。巻取部5は、巻取軸26と、巻取モータ27とを備える。
【0030】
巻取軸26は、印刷部4A,4Bにより印刷されたウェブWを巻き取って保持する。巻取モータ27は、巻取軸26を回転駆動させる。
【0031】
張力検出部6は、ウェブロール8と搬送ローラ16との間のウェブWの張力を検出する。
【0032】
制御部7は、印刷装置1全体の動作を制御する。制御部7は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク等を備えて構成される。
【0033】
制御部7は、後述する劣化判定処理において、ウェブWの搬送中にブレーキ部12のブレーキトルクが漸次的に増大するようにブレーキ部12への入力電流値を変化させる。すなわち、制御部7は、ウェブWの搬送中にブレーキ部12への入力電流値を漸次的に増大させる。そして、制御部7は、ブレーキ部12への入力電流値を増大させている途中からウェブWの張力が変化しなくなった場合は、ウェブロール支持軸11が劣化していると判定する。ブレーキ部12への入力電流値の増大に応じてウェブWの張力が増大するが、入力電流値に応じたウェブWの張力が正常値より低下している場合は、制御部7は、ブレーキ部12が劣化していると判定する。
【0034】
次に、印刷装置1の印刷時の動作について説明する。
【0035】
印刷ジョブが入力されると、制御部7は、ブレーキ部12がオンの状態で、搬送モータ17および巻取モータ27の駆動を開始させて、ウェブWの搬送を開始させる。ブレーキ部12によりウェブロール支持軸11にブレーキがかけられることで、ウェブロール8と搬送ローラ16との間においてウェブWに張力が付与されつつ、ウェブWが搬送される。
【0036】
ウェブWの搬送開始後、制御部7は、印刷ジョブに基づき印刷部4A,4Bの各ヘッドユニット21のインクジェットヘッドを制御してウェブWに画像を印刷させる。
【0037】
印刷ジョブに基づく印刷が終了すると、制御部7は、搬送モータ17および巻取モータ27を停止させて、ウェブWの搬送を終了させる。
【0038】
次に、印刷装置1における劣化判定処理について説明する。
【0039】
印刷装置1における劣化判定処理は、ウェブロール支持軸11およびブレーキ部12が劣化しているか否かを判定する処理である。劣化判定処理は、例えば、所定期間ごとに、定期的に行われる。
【0040】
劣化判定処理において、制御部7は、搬送モータ17および巻取モータ27を駆動させて、ウェブWを所定速度で搬送させる。
【0041】
ウェブWの搬送中において、制御部7は、ブレーキ部12への入力電流値を、0から所定値(最大値)まで漸次的に増大させる。これにより、ブレーキ部12のブレーキトルクが漸次的に増大する。また、制御部7は、ウェブWの搬送中において、張力検出部6の検出値を取得する。
【0042】
ここで、ウェブロール支持軸11が劣化すると、ウェブWの搬送中におけるウェブロール支持軸11とウェブロール8の紙管(コア)との間の摩擦力が低下する。例えば、ウェブロール支持軸11がエアシャフトからなる場合、エアシャフトを紙管に固定するためのラグや、エア圧をラグに伝えるゴム部材等が劣化すると、ウェブWの搬送中におけるエアシャフトと紙管との間の摩擦力が低下する。
【0043】
このため、ウェブロール支持軸11がある程度以上、劣化している場合、劣化判定処理においてブレーキ部12への入力電流値を漸次的に増大させると、途中でブレーキ部12のブレーキトルクがウェブロール支持軸11と紙管との間の摩擦トルクを超える。
【0044】
ブレーキ部12のブレーキトルクがウェブロール支持軸11と紙管との間の摩擦トルクを超えると、ウェブロール支持軸11と紙管との間で滑りが発生する。この場合、ウェブWの張力は、ウェブロール支持軸11と紙管との間の摩擦トルク分の張力となる。
【0045】
したがって、ウェブロール支持軸11がある程度以上、劣化している場合、
図3に示すように、ブレーキ部12への入力電流値を増大させている途中からウェブWの張力が変化しなくなる。一方、ウェブロール支持軸11が劣化していない場合は、ブレーキ部12への入力電流値の増大に応じてウェブWの張力が増大する。
【0046】
そこで、ブレーキ部12への入力電流値を漸次的に増大させている途中からウェブWの張力が変化しなくなった場合、制御部7は、ウェブロール支持軸11が劣化していると判定する。
【0047】
ここで、ウェブWの張力が変化しなくなった時点以降における張力値は、上述のように、ウェブロール支持軸11と紙管との間の摩擦トルク分の張力値である。したがって、ウェブWの張力が変化しなくなった時点以降における張力値から、ウェブロール支持軸11と紙管との間の摩擦トルクが分かる。制御部7は、この摩擦トルクが、ウェブWの印刷用の設定張力分のトルクを下回っている場合、すなわち、ウェブWの張力が変化しなくなった時点以降における張力値が設定張力を下回っている場合は、ユーザにウェブロール支持軸11のメンテナンスを促すための警告画面を操作パネル(図示せず)に表示させる。
【0048】
ウェブロール支持軸11のメンテナンスとしては、例えば、ウェブロール支持軸11の交換が行われる。また、ウェブロール支持軸11がエアシャフトである場合は、メンテナンスとして、例えば、エアシャフトに封入するエア圧を上げる(ただし、破損防止のためエアシャフトの最大入力圧力を超えない)ことが行われる。
【0049】
ウェブロール支持軸11は劣化していないがブレーキ部12が劣化している場合、
図4に示すように、ブレーキ部12への入力電流値の増大に応じてウェブWの張力が増大するが、ブレーキ部12への入力電流値に応じたウェブWの張力が正常値より低下する。ウェブWの張力の正常値は、ウェブロール支持軸11およびブレーキ部12が劣化していない場合の張力値である。
【0050】
したがって、劣化判定処理において、ブレーキ部12への入力電流値の増大に応じてウェブWの張力が増大するが、ブレーキ部12への入力電流値に応じたウェブWの張力が正常値より低下している場合は、制御部7は、ブレーキ部12が劣化していると判定する。
【0051】
具体的には、例えば、入力電流値が所定値(最大値)になるまでブレーキ部12への入力電流値の増大に応じてウェブWの張力が増大し、入力電流値が所定値(最大値)のときに検出されたウェブWの張力値が、入力電流値が所定値(最大値)のときの正常値よりも小さい場合、制御部7は、ブレーキ部12が劣化していると判定する。ここで、入力電流値が所定値(最大値)のときのウェブWの張力の正常値は、ブレーキ部12およびウェブロール支持軸11が劣化していない(正常である)場合において入力電流値が所定値(最大値)のときのウェブWの張力値である。
【0052】
次に、ウェブロール支持軸11の寿命予測について説明する。
【0053】
ウェブロール支持軸11の使用開始時において、制御部7は、上述の劣化判定処理を行い、検出されたウェブWの張力の最大値である検出最大張力値を記憶する。検出最大張力値は、劣化判定処理におけるブレーキ部12への入力電流値が所定値(最大値)のときのウェブWの張力の検出値である。制御部7は、検出最大張力値を、ウェブロール支持軸11の使用開始からの経過期間である使用年数と対応させて記憶する。ウェブロール支持軸11の使用開始時における使用年数は0年である。
【0054】
ウェブロール支持軸11の使用開始時としては、印刷装置1全体の使用開始時、および上述したメンテナンス後のウェブロール支持軸11の使用開始時がある。
【0055】
上述したウェブロール支持軸11の使用開始時の劣化判定処理の後、定期的に実施する劣化判定処理において、ウェブロール支持軸11が劣化していると判定し、かつ検出最大張力値が設定張力以上である場合、制御部7は、検出最大張力値を、ウェブロール支持軸11の使用年数と対応させて記憶する。
【0056】
ここで、ウェブロール支持軸11が劣化していると判定された劣化判定処理における検出最大張力値は、ウェブWの張力が変化しなくなった時点以降における張力値である。検出最大張力値が設定張力を下回っている場合は、上述したウェブロール支持軸11のメンテナンスが行われる。
【0057】
ウェブロール支持軸11の使用年数と対応させて記憶した検出最大張力値が複数個になると、制御部7は、それらの値から、
図5に示すような、検出最大張力値とウェブロール支持軸11の使用年数との関係の近似曲線を算出する。
図5の例では、指数近似による近似曲線を示している。そして、制御部7は、この近似曲線に基づき、検出最大張力値が設定張力となるウェブロール支持軸11の使用年数を、予測されるウェブロール支持軸11の寿命として算出する。
【0058】
このようにして、ウェブロール支持軸11の劣化の度合いを測定して寿命を予測することができる。
【0059】
制御部7は、算出したウェブロール支持軸11の寿命を、操作パネルへの表示等によりユーザに通知してもよい。これにより、ウェブロール支持軸11の交換の準備等の事前対応が可能になる。
【0060】
なお、ウェブロール支持軸11の使用年数のかわりに、ウェブロール支持軸11の使用開始からのウェブWの搬送距離を用いてもよい。
【0061】
以上説明したように、印刷装置1では、劣化判定処理において、制御部7は、ウェブWの搬送中にブレーキ部12への入力電流値を漸次的に増大させる。そして、制御部7は、ブレーキ部12への入力電流値を増大させている途中からウェブWの張力が変化しなくなった場合は、ウェブロール支持軸11が劣化していると判定する。ブレーキ部12への入力電流値の増大に応じてウェブWの張力が増大するが、入力電流値に応じたウェブWの張力が正常値より低下している場合は、制御部7は、ブレーキ部12が劣化していると判定する。これにより、制御部7は、ブレーキ部12の劣化とウェブロール支持軸11の劣化とを判別できる。
【0062】
[第2実施形態]
次に、上述した第1実施形態の一部を変更した第2実施形態について説明する。
図6は、第2実施形態に係る印刷装置の概略構成図である。
図7は、
図6に示す印刷装置の制御ブロック図である。
【0063】
図6、
図7に示すように、第2実施形態に係る印刷装置1Aは、上述した第1実施形態の印刷装置1のウェブロール保持部2、搬送部3を、それぞれ巻出部31、搬送部3Aに置き換えた構成である。
【0064】
巻出部31は、ウェブロール8からウェブWを巻き出して搬送部3Aへ搬送する。巻出部31は、ウェブロール支持軸11と、巻出モータ36と、一対の送出ローラ37と、送出モータ38と、バッファ部39,40とを備える。
【0065】
巻出モータ36は、ウェブロール支持軸11を回転させる。巻出モータ36がウェブロール支持軸11を
図6における時計回り方向に回転させることで、ウェブロール8が同方向に回転し、ウェブWが下流側(右側)へ巻き出される。
【0066】
一対の送出ローラ37は、ウェブロール8から巻き出されたウェブWをニップしつつ搬送部3Aへ向けて搬送する。送出モータ38は、送出ローラ37を回転駆動させる。
【0067】
バッファ部39は、ウェブロール支持軸11と送出ローラ37との間におけるウェブWのたるみを保持する。
【0068】
バッファ部40は、送出ローラ37と搬送部3Aとの間におけるウェブWのたるみを保持する。
【0069】
搬送部3Aは、巻出部31によりウェブロール8から巻き出されたウェブWを搬送する。搬送部3Aは、上述した第1実施形態の搬送部3に対し、一対のブレーキローラ(伝達部に相当)41と、ブレーキ部42とを追加した構成である。
【0070】
一対のブレーキローラ41は、搬送されるウェブWをニップし、ウェブWにブレーキ部42のブレーキトルクを伝達してブレーキをかけるためのものである。ブレーキローラ41は、ウェブWの搬送経路における巻出部31と搬送ローラ16との間において、張力検出部6より上流側に配置されている。ブレーキローラ41は、搬送されるウェブWに従動回転する。
【0071】
ブレーキ部42は、ブレーキローラ41を介してウェブWにブレーキをかけることにより、搬送ローラ16とブレーキローラ41との間のウェブWに張力を付与する。ブレーキ部42は、入力される電流(制御パラメータに相当)が大きいほど、大きなブレーキトルクを発生する。ブレーキ部42は、例えば、パウダーブレーキからなる。
【0072】
制御部7は、後述する劣化判定処理において、ウェブWの搬送中にブレーキ部42のブレーキトルクが漸次的に増大するようにブレーキ部42への入力電流値を変化させる。すなわち、制御部7は、ウェブWの搬送中にブレーキ部42への入力電流値を漸次的に増大させる。そして、制御部7は、ブレーキ部42への入力電流値を増大させている途中からウェブWの張力が変化しなくなった場合は、ブレーキローラ41が劣化していると判定する。ブレーキ部42への入力電流値の増大に応じてウェブWの張力が増大するが、入力電流値に応じたウェブWの張力が正常値より低下している場合は、制御部7は、ブレーキ部42が劣化していると判定する。
【0073】
次に、印刷装置1Aにおける劣化判定処理について説明する。
【0074】
印刷装置1Aにおける劣化判定処理は、ブレーキローラ41およびブレーキ部42が劣化しているか否かを判定する処理である。劣化判定処理は、例えば、所定期間ごとに、定期的に行われる。
【0075】
劣化判定処理において、制御部7は、巻出モータ36、送出モータ38、搬送モータ17、および巻取モータ27を駆動させて、ウェブWを所定速度で搬送させる。
【0076】
ウェブWの搬送中において、制御部7は、ブレーキ部42への入力電流値を、0から所定値(最大値)まで漸次的に増大させる。これにより、ブレーキ部42のブレーキトルクが漸次的に増大する。また、制御部7は、ウェブWの搬送中において、張力検出部6の検出値を取得する。
【0077】
ここで、ブレーキローラ41が劣化(磨耗や紙粉の付着等)すると、ウェブWの搬送中におけるブレーキローラ41とウェブWとの間の摩擦力が低下する。
【0078】
このため、ブレーキローラ41がある程度以上、劣化している場合、劣化判定処理においてブレーキ部42への入力電流値を漸次的に増大させると、途中でブレーキ部42のブレーキトルクがブレーキローラ41とウェブWとの間の摩擦トルクを超える。
【0079】
ブレーキ部42のブレーキトルクがブレーキローラ41とウェブWとの間の摩擦トルクを超えると、ブレーキローラ41とウェブWとの間で滑りが発生する。この場合、ウェブWの張力は、ブレーキローラ41とウェブWとの間の摩擦トルク分の張力となる。
【0080】
すなわち、ブレーキローラ41の劣化は、ウェブロール支持軸11の劣化と同様の現象を発生させる。
【0081】
そこで、ブレーキ部42への入力電流値を漸次的に増大させている途中からウェブWの張力が変化しなくなった場合、制御部7は、ブレーキローラ41が劣化していると判定する。また、ブレーキ部42への入力電流値の増大に応じてウェブWの張力が増大するが、ブレーキ部42への入力電流値に応じたウェブWの張力が正常値より低下している場合は、制御部7は、ブレーキ部42が劣化していると判定する。
【0082】
ここで、ブレーキローラ41が劣化していると判定する場合において、ウェブWの張力が変化しなくなった時点以降における張力値は、上述のように、ブレーキローラ41とウェブWとの間の摩擦トルク分の張力値である。したがって、ウェブWの張力が変化しなくなった時点以降における張力値から、ブレーキローラ41とウェブWとの間の摩擦トルクが分かる。制御部7は、この摩擦トルクが、ウェブWの印刷用の設定張力分のトルクを下回っている場合、すなわち、ウェブWの張力が変化しなくなった時点以降における張力値が設定張力を下回っている場合は、ユーザにブレーキローラ41のメンテナンスを促すための警告画面を操作パネル(図示せず)に表示させる。
【0083】
ブレーキローラ41のメンテナンスとしては、例えば、ブレーキローラ41のニップ圧の増大(ニップ圧を発生させるバネのバネ長の調整、バネの交換)、ブレーキローラ41の表面の清掃による摩擦係数の回復、ブレーキローラ41の交換等が行われる。
【0084】
印刷装置1Aでは、ブレーキローラ41の寿命予測を行う。ブレーキローラ41の寿命を予測する手順は、上述した第1実施形態で説明したウェブロール支持軸11の寿命を予測する手順と同様であるため、説明を省略する。
【0085】
以上説明したように、印刷装置1Aでは、劣化判定処理において、制御部7は、ウェブWの搬送中にブレーキ部42への入力電流値を漸次的に増大させる。そして、制御部7は、ブレーキ部42への入力電流値を増大させている途中からウェブWの張力が変化しなくなった場合は、ブレーキローラ41が劣化していると判定する。ブレーキ部42への入力電流値の増大に応じてウェブWの張力が増大するが、入力電流値に応じたウェブWの張力が正常値より低下している場合は、制御部7は、ブレーキ部42が劣化していると判定する。これにより、制御部7は、ブレーキ部42の劣化とブレーキローラ41の劣化とを判別できる。
【0086】
[その他の実施形態]
上述のように、本発明は第1および第2実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0087】
上述した第1および第2実施形態では、劣化判定処理において、張力検出部6の検出値を取得した。しかし、張力検出部6を省略し、ウェブWの張力を示すものとして、搬送モータ17の駆動トルクを用いてもよい。
【0088】
上述した第1および第2実施形態では、ブレーキ部12,42の制御パラメータが電流であるとしたが、これに限らず、電圧等であってもよい。
【0089】
上述した第1実施形態でウェブロール支持軸11としてエアシャフトを用いた場合、エアシャフトにエア漏れが発生していると、ウェブロール支持軸11とウェブロール8の紙管との間の摩擦トルクが低下する。そこで、エアシャフトに所定のエアを充填してから所定時間が経過した後に劣化判定処理を行うことで、エア漏れの診断を行うようにしてもよい。
【0090】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【0091】
[付記]
本出願は、以下の発明を開示する。
【0092】
(付記1)
ブレーキトルクを発生するブレーキ部と、
搬送されるウェブに前記ブレーキ部のブレーキトルクを伝達する伝達部と、
前記ブレーキ部を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
ウェブの搬送中に前記ブレーキ部のブレーキトルクが漸次的に増大するように前記ブレーキ部の制御パラメータの値を漸次的に変化させ、
前記制御パラメータの値を変化させている途中からウェブの張力が変化しなくなった場合は、前記伝達部が劣化していると判定し、
前記制御パラメータの値の変化に応じてウェブの張力が増大するが、前記制御パラメータの値に応じたウェブの張力が正常値より低下している場合は、前記ブレーキ部が劣化していると判定することを特徴とする搬送装置。
【符号の説明】
【0093】
1,1A 印刷装置
2 ウェブロール保持部
3,3A 搬送部
4A,4B 印刷部
5 巻取部
6 張力検出部
7 制御部
11 ウェブロール支持軸
12,42 ブレーキ部
16 搬送ローラ
31 巻出部
41 ブレーキローラ