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特開2022-26977摩擦低減材含有高圧水を用いた地盤貫入工法
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  • 特開-摩擦低減材含有高圧水を用いた地盤貫入工法 図1
  • 特開-摩擦低減材含有高圧水を用いた地盤貫入工法 図2
  • 特開-摩擦低減材含有高圧水を用いた地盤貫入工法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026977
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】摩擦低減材含有高圧水を用いた地盤貫入工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 7/24 20060101AFI20220203BHJP
   E02D 7/20 20060101ALI20220203BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
E02D7/24
E02D7/20
C09K3/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020130712
(22)【出願日】2020-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】391002122
【氏名又は名称】調和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 典子
(72)【発明者】
【氏名】北村 卓也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 努
(72)【発明者】
【氏名】井上 敏男
(72)【発明者】
【氏名】諸橋 洋平
【テーマコード(参考)】
2D050
【Fターム(参考)】
2D050CB21
2D050CB31
2D050CB41
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高圧水を噴射することにより地盤を掘削して構造物を地盤に貫入する地盤貫入工法において、高圧水による周辺地盤の乱れを低減し、施工後の構造物の十分な支持力を得る地盤貫入工法を提供する。
【解決手段】高圧水が、地盤との摩擦を低減するためにその粘度を高める摩擦低減材を含有することを特徴とする。前記摩擦低減材が、水溶性高分子、水溶性高分子と界面活性剤との組合せ、又は、セルロースI型結晶構造を有するセルロース繊維である。高圧水の噴射時における前記摩擦低減材の濃度よりも高濃度の前記摩擦低減材を含む原液を調製する工程と、前記原液を、前記高圧水を移送する経路上において混入する工程と、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧水を噴射することにより地盤を掘削して構造物を地盤に貫入する地盤貫入工法において、
前記高圧水が、地盤との摩擦を低減するためにその粘度を高める摩擦低減材を含有することを特徴とする地盤貫入工法。
【請求項2】
前記摩擦低減材が、水溶性高分子であることを特徴とする請求項1に記載の地盤貫入工法。
【請求項3】
前記水溶性高分子が、アクリル酸系ポリマーであることを特徴とする請求項2に記載の地盤貫入工法。
【請求項4】
前記水溶性高分子が、グアガム、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシルエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、及び水溶性ポリアミノ酸からなる群から選択された1又は複数の水溶性高分子であることを特徴とする請求項2に記載の地盤貫入工法。
【請求項5】
前記摩擦低減材が、水溶性高分子及び界面活性剤であることを特徴とする請求項1に記載の地盤貫入工法。
【請求項6】
前記水溶性高分子が、ポリビニルピロリドン(PVP)又はポリビニルアルコール(PVA)であることを特徴とする請求項5に記載の地盤貫入工法。
【請求項7】
前記水溶性高分子が、以下の化学構造を有する、疎水的に化学修飾を施したポリアクリル酸ナトリウムであることを特徴とする請求項5に記載の地盤貫入工法。
【化1】
【請求項8】
前記界面活性剤が、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)又はドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB)であることを特徴とする請求項5~7のいずれかに記載の地盤貫入工法。
【請求項9】
前記摩擦低減材が、セルロースI型結晶構造を有するセルロース繊維であることを特徴とする請求項1に記載の地盤貫入工法。
【請求項10】
前記摩擦低減材が、生分解性であることを特徴とする請求項2~8のいずれかに記載の地盤貫入工法。
【請求項11】
前記高圧水の噴射時における前記摩擦低減材の濃度よりも高濃度の前記摩擦低減材を含む原液を調製する工程と、
前記原液を、前記高圧水を移送する経路上において混入する工程と、を有することを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の地盤貫入工法。
【請求項12】
前記摩擦低減材を、原水を貯留した貯槽内に混入することを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の地盤貫入工法。
【請求項13】
前記構造物が杭又は矢板であり、
前記地盤貫入工法が、
原水を供給されて高圧水を送出する1又は複数の高圧水送出装置と、
1又は複数の前記高圧水送出装置から送出された高圧水が1又は複数の注入孔から流入されかつ複数の吐出孔から均等な吐出量で送出されるように構成された集合管と、
前記杭又は矢板に取り付けられかつ前記集合管の複数の吐出孔からそれぞれ高圧水を供給される複数のジェット配管と、を設置し、複数の前記ジェット配管から高圧水をそれぞれ噴射して行う杭又は矢板の施工方法であり、
前記高圧水の噴射時における前記摩擦低減材の濃度よりも高濃度の前記摩擦低減材を含む原液を調製する工程と、
前記原液を前記集合管に注入する工程と、を有することを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の地盤貫入工法。
【請求項14】
前記構造物が杭又は矢板であり、前記地盤貫入工法が、バイブロハンマ又は圧入機と高圧水の噴射を併用して行う杭又は矢板の施工方法であることを特徴とする請求項1~13のいずれかに記載の地盤貫入工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦低減材含有高圧水を用いた地盤貫入工法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイブロハンマ工法や圧入工法などにおいて、杭や矢板などの構造物(以下、「構造物」と称する)を地盤に貫入する際、バイブロハンマや圧入機など(以下、「貫入用施工機」と称する)の能力が足りない場合、ウォータージェットを併用して構造物の地盤への貫入を可能とするウォータージェット併用工法が従来から採られている(特許文献1~3)。
【0003】
ウォータージェット併用工法は、貫入用施工機による貫入力を構造物に与えつつ、構造物の先端又は側面に取り付けた複数個の噴射ノズルから高圧の水を噴射することにより、地盤を緩め又は切削し、さらに礫塊等の障害物を移動させることにより地盤の抵抗を弱め、構造物を地中に貫入する工法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-065755号公報
【特許文献2】特開平-238544号公報
【特許文献3】特開2002-250333号公報
【特許文献4】再公表WO2015/029959号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】八尋暉夫:最新ウォータージェット工法、鹿島出版会、1996年12月10日
【非特許文献2】堀内照夫:水溶性高分子の物理化学的性質、表面技術Vol.60 No.12、2009年
【非特許文献3】バイブロハンマ工法技術研究会:バイブロハンマ設計施工便覧、平成27年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のウォータージェット併用工法では、地盤抵抗が大きい場合に高圧水の流量や圧力を高める必要があるが、その結果、構造物の周辺地盤が大幅に乱され、貫入した構造物の支持力や水平抵抗力が十分に発揮されなくなる危険性があった。また、これを回避するためには、貫入用施工機を能力の高い機種に変更する必要があるが、その場合には施工費の増大を招くという問題があった。さらに、高圧水を適正な流量と圧力で使用した場合でも、影響は小さいものの構造物の周辺地盤が乱されることには変わりはなく、ウォータージェットを併用しない場合に比べて施工後の構造物の支持力が小さくなることが指摘されていた(非特許文献3)。
【0007】
以上に鑑み、本発明は、高圧水を噴射することにより地盤を掘削して構造物を地盤に貫入する地盤貫入工法において、高圧水による周辺地盤の乱れを低減し、施工後の構造物の十分な支持力を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を提供する。
・ 本発明の態様は、高圧水を噴射することにより地盤を掘削して構造物を地盤に貫入する地盤貫入工法において、
前記高圧水が、地盤との摩擦を低減するためにその粘度を高める摩擦低減材を含有することを特徴とする。
・ 上記態様において、前記摩擦低減材が、水溶性高分子であることが、好適である。
この場合、前記水溶性高分子が、アクリル酸系ポリマーであることが、好適である。
またこの場合、前記水溶性高分子が、グアガム、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシルエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、及び水溶性ポリアミノ酸からなる群から選択された1又は複数の水溶性高分子であることが、好適である。
・ 上記態様において、前記摩擦低減材が、水溶性高分子及び界面活性剤であることが、好適である。
この場合、前記水溶性高分子が、ポリビニルピロリドン(PVP)又はポリビニルアルコール(PVA)であることが、好適である。
またこの場合、前記水溶性高分子が、以下の化学構造を有する、疎水的に化学修飾を施したポリアクリル酸ナトリウムであることが、好適である。
【化1】
またこの場合、前記界面活性剤が、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)又はドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB)であることが、好適である。
・ 上記態様において、前記摩擦低減材が、セルロースI型結晶構造を有するセルロース繊維であることが、好適である。
・ 上記態様において、前記摩擦低減材が、生分解性であることが、好適である。
・ 上記態様において、前記高圧水の噴射時における前記摩擦低減材の濃度よりも高濃度の前記摩擦低減材を含む原液を調製する工程と、
前記原液を、前記高圧水を移送する経路上において混入する工程と、を有することが、好適である。
・ 上記態様において、前記摩擦低減材を、原水を貯留した貯槽内に混入することが、好適である。
・ 上記態様において、前記構造物が杭又は矢板であり、
前記地盤貫入工法が、
原水を供給されて高圧水を送出する1又は複数の高圧水送出装置と、
1又は複数の前記高圧水送出装置から送出された高圧水が1又は複数の注入孔から流入されかつ複数の吐出孔から均等な吐出量で送出されるように構成された集合管と、
前記杭又は矢板に取り付けられかつ前記集合管の複数の吐出孔からそれぞれ高圧水を供給される複数のジェット配管と、を設置し、複数の前記ジェット配管から高圧水をそれぞれ噴射して行う杭又は矢板の施工方法であり、
前記高圧水の噴射時における前記摩擦低減材の濃度よりも高濃度の前記摩擦低減材を含む原液を調製する工程と、
前記原液を前記集合管に注入する工程と、を有することが、好適である。
・ 上記態様において、前記構造物が杭又は矢板であり、前記地盤貫入工法が、バイブロハンマ又は圧入機と高圧水の噴射を併用して行う杭又は矢板の施工方法であることが、好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高圧水を噴射することにより地盤を掘削して構造物を地盤に貫入する地盤貫入工法において、高圧水が、地盤との摩擦を低減するためにその粘度を高める摩擦低減材を含有することによって、高圧水が周辺地盤を乱すことが低減され、その結果、施工後の構造物の十分な支持力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明による地盤貫入工法を実施するための施工システムの一例を概略的に示す外観図である。
図2図2は、図1に示した施工システムにおける配管構成の一例を模式的に示す図である。
図3図3は、鋼管杭の先端部分を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施例を示す図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
本発明は、高圧水噴射いわゆるウォータージェットにより地盤を掘削して構造物を地盤に貫入する地盤貫入工法において新規の工法を提供するものである。本発明の地盤貫入工法としては、多様な構造物、施工システム及び施工工程による工法が含まれる。構造物としては、例えば、鋼管杭、鋼管矢板、鋼矢板など(以下、「杭又は矢板」と称する)を含む。また工法としては、ウォータージェットをバイブロハンマと併用する工法、ウォータージェットを圧入機と併用する工法、ウォータージェットと流動性固化材の充填とを組み合わせた工法、及びこれらを組み合わせた工法などがある。
【0012】
図1は、本発明による地盤貫入工法を実施するための施工システムの一例を概略的に示す外観図である。図2は、図1に示した施工システムにおける配管構成の一例を模式的に示す図である。ここでは、一例として、ウォータージェットとバイブロハンマを併用して構造物を海底の地盤に鉛直方向に貫入する工法を示す。この場合の構造物は、複数の鋼管杭1を並設した鋼管矢板である。
【0013】
施工システムは、海上の起重機船10の上に設置されている。海から取水して貯槽13に貯留された原水は、切替装置11を介してポンプにより1又は複数の高圧水送出装置14へ供給される。1又は複数の高圧水送出装置14の各々は、切替装置12の切り替えによりそれぞれ高圧水を送出する。切替装置11、12は、必要な台数の高圧水送出装置14を稼動させるために用いられる。
【0014】
さらに、切替装置12の1又は複数の出力ポートは、1又は複数の高圧ホース15を介して集合管16の1又は複数の注入孔とそれぞれ接続されている。切替装置12の切り替えにより、各高圧水送出装置14から集合管16の1又は複数の注入孔へ高圧水を送出又は停止することができる。
【0015】
1又は複数の高圧水送出装置14から送出された高圧水は、一旦、1つの集合管16に集合させられる。その後、高圧水は、集合管16の複数の吐出孔にそれぞれ接続された複数の高圧ホース17を介して複数のジェット配管3へ圧送される。集合管16については、ここでは詳細に説明しないが、高圧水を貯留する所定の容積の内部空間を有することによって、複数の出力ポートの各々から均等な吐出量で複数の高圧ホース17の各々に高圧水を送出することができる(特許文献1参照)。
【0016】
図示しないが、施工システムの別の例では、集合管16を省くこともできる。その場合、高圧水送出装置14から高圧水ホースを介してジェット配管3に高圧水が移送される。
【0017】
複数のジェット配管3は、ここでは一例として、鋼管杭1の外面に周方向に等角度間隔で取り付けられている。ジェット配管3は、先端に噴射ノズル4を有している。ジェット配管3は、鋼管杭1の内面に取り付けることもできる。
【0018】
鋼管杭1の上端を把持したバイブロハンマ2が、クレーンにより吊下されている。図1の例では電動式であるバイブロハンマ2を駆動するために発動発電機20が設けられ、操作ユニット21により操作される。陸上施工の場合は、これらの装置が全て作業ヤードに設置される。
【0019】
従来、ウォータージェットの高圧水として純水又は海水が用いられている。本発明の地盤貫入工法では、ウォータージェットの高圧水が、構造物と地盤との間の摩擦力を小さくする材料(以下、「摩擦低減材」と称する)を含むことを特徴とする。この摩擦低減材により、ジェット配管から噴射された高圧水と周囲地盤との間の摩擦が低減される。この結果、高圧水が周囲地盤を乱すことが軽減され、高圧水の直進性が向上する。すなわち、高圧水による地盤の切り崩し能力が向上することになる。
【0020】
図3を参照して、ウォータージェットによる地盤の切崩し能力について説明する。図3は、鋼管杭1の先端部分を概略的に示している。鋼管杭1の外周面上に取り付けられたジェット配管3の先端の噴射ノズル4からウォータージェットWJが、鋼管杭1の先端方向に向かって噴射されている。このウォータージェットWJの到達距離は、噴射ノズル4の噴射口から鋼管杭1の先端までの距離Lと、鋼管杭1の先端からウォータージェットWJの到達限界までの距離Lとの和である。このウォータージェットWJの到達距離L+Lは、地盤の切崩し深さと見なすことができ、以下の近似式で表される(非特許文献1参照)。

+L=a・ν1/3(bj・Vj)2/3/(g・d)-b (式1)

a、b:係数
ν:ウォータージェットに用いる水の動粘性係数(10-6m/s)
:ジェット配管のノズル直径(m)
:ウォータージェットの噴射速度(m/s)
:砂の平均粒径(m)
g:重力加速度(9.8m/s
【0021】
式1から、ウォータージェットによる地盤の切崩し深さは、ウォータージェットに用いる水の動粘性係数νと相関関係があることが解る。動粘性係数νが大きくなると切崩し深さも大きくなる。例えば、動粘性係数νが2倍になると切り崩し深さは約1.3倍となり、動粘性係数νが10倍となると切り崩し深さは約2.1倍となる(係数bが無視できる程度の場合)。
【0022】
動粘性係数ν(m/s)と、粘度μ(Pa・s)及び密度ρ(kg/m)との間には、ν=μ/ρの関係がある。ウォータージェットを形成する水の密度ρが一定(定数)であれば、動粘性係数νと粘度μは比例関係にある。したがって、式1は、水の粘度μが大きくなると、切崩し深さも大きくなることを示している。純水は、例えば温度が5℃と30℃の場合では、密度ρはほぼ同じであるが、粘度μは1.5mPa・sと0.8mPa・sとほぼ2倍近く異なっており、5℃の純水の方が、切り崩し深さが大きいことになる。しかしながら、ウォータージェットに用いる大量の水の温度を制御することは容易でなく高コストとなる。
【0023】
そこで本発明では、ウォータージェットと地盤との摩擦を低減してウォータージェットの切り崩し深さを大きくするべく、高圧水に用いる原水の粘度を高めるための摩擦低減材を原水に含有させている。したがって、摩擦低減材は、増粘剤とも云える。ここでの原水は、純水又は海水である。
【0024】
ウォータージェットの高圧水に、摩擦低減材を混入することにより、高圧水の流量や圧力を必要以上に大きくすることなく構造物の貫入を可能とし、構造物の周辺地盤の乱れを最小限に止めて支持力や水平抵抗力を適正な範囲に保つことができる。摩擦低減材の使用により、構造物と地盤の間の摩擦力を効果的に小さくすることによって、施工に必要となる貫入用施工機の能力を下げることができ、工事の経済化を図ることが可能となる。
【0025】
特に生分解性の摩擦低減材を用いた場合、当該摩擦低減材を含む高圧水のウォータージェットにより構造物を地盤に貫入した後は、時間経過と共に摩擦低減効果が薄れ地盤強度が回復する。本発明の工法により施工された構造物が杭である場合、摩擦低減材を含まない従来の高圧水のウォータージェットで施工した場合に比べて周辺地盤が乱されないため、より大きな支持力や水平抵抗力を期待できる。
【0026】
以下、本発明で用いる摩擦低減材の例を示す。
<水溶性高分子>
本発明で用いる摩擦低減材の一例は、水溶性高分子である。水溶性高分子は、増粘剤として、例えば化粧品、食品、洗浄剤、塗料などの分野において汎用的に用いられている。これらの水溶性高分子は、分子量によって機能が異なる。増粘剤の場合、一般的に例えば分子量10万~数百万程度の範囲が用いられる。
【0027】
また、摩擦低減材として水溶性高分子を用いる場合、原水の密度とその水溶液の密度とが、ほぼ同じと見なせるような濃度範囲で用いることが好ましい。このような濃度範囲では、粘度μと動粘性係数νが比例関係にあるからである。したがって、できるだけ少量の溶質を含む水溶液、すなわち極めて低い濃度の範囲が望ましい。限定しないが、例えば、摩擦低減材含有水溶液の濃度を0.01~10wt%とする。言い換えると、限定しないが、例えば、水溶液の密度を原水の密度に対して+1%未満、好ましくは+0.1%未満、さらに好ましくは0.01%未満とする。それによって、原水を水溶液としたことによる粘度μの増大を、そのまま高圧水の動粘性係数νの増大を見なすことができる。
【0028】
よって、粘度調整を容易に行うためには、少量の添加で水溶液の粘度を大きく変更できる水溶性高分子が好ましい。また、極めて低い濃度範囲では、水溶性高分子が少量でよいので材料コストも低い。これらの点を考慮して、所望する動粘性係数νが得られるように、原水に対する摩擦低減材の含有量を調整する。
【0029】
増粘剤としては、アクリル酸系ポリマーが多様な分野において広く用いられている。例えば、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸ナトリウム(PSA)、架橋型ポリアクリル酸などがある。これらのアクリル酸系ポリマーを、本発明における摩擦低減材として用いることができる。
【0030】
摩擦低減材として用いることができるその他の水溶性高分子として、配管抵抗減少用に用いられる配管抵抗減少剤(DR剤)がある。配管内の流体のレイノルズ数Reは、以下の式で表される。
Re=uDρ/μ (式2)

u:平均流速
D:配管の内径
ρ:流体の密度
μ:流体の粘度
【0031】
式2に示されるように、流体の粘度μを大きくすると、レイノルズ数Reは小さくなり、これは流体と管壁との摩擦係数が低下することを意味する。これにより、配管内で乱流を低減し、層流を保持することができる。DR剤は、配管内の流体の粘度を大きくするために広く用いられている。DR剤としては、例えば、グアガム、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシルエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムなどがある。
【0032】
本発明における地盤との間の摩擦低減材としてDR剤を用いることにより、地盤との摩擦低減効果に加え、高圧水を移送する配管内での配管抵抗を減少させる効果も得られる。それによってウォータージェットの吐出圧が高められるため、摩擦低減材を用いない場合よりも能力の小さな貫入用施工機で施工することができ、経済化をさらに図ることが可能となる。
【0033】
その他の水溶性高分子では、水溶性ポリアミノ酸を摩擦低減材として用いることができる。水溶性ポリアミノ酸には、例えば、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリアスパラギン酸(PAsp)などがある。
【0034】
摩擦低減材として用いることができる水溶性高分子は、上記のものに限られない。また、2種以上の水溶性高分子を混合して用いることもできる。
【0035】
摩擦低減材に用いられる水溶性高分子は、生分解性であることが好ましい。地盤中に放出された水溶性高分子が、その後時間経過とともに分解されることにより、施工完工後に貫入された構造物を実際に使用するときの地盤との摩擦抵抗を回復し、支持力や水平抵抗力の低下を防ぐことができる。
【0036】
さらに、地盤中に放出された後に分解されて無害化されることによって、環境負荷を大幅に軽減することができる。上述した中では、少なくともポリビニルアルコール(PVA)、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリアスパラギン酸(PAsp)が該当する。
【0037】
<セルロースI型結晶構造を有するセルロース繊維>
本発明で用いる摩擦低減材の別の例は、セルロースI型結晶構造を有するセルロース繊維である(特許文献4参照)。所定のセルロース繊維を原水に添加し分散させることにより、粘度を高めることができる。原水中のセルロース繊維含有量は、例えば、0.01~10wt%である。セルロース繊維は、天然由来の物質であるため、生分解性が高い点でも、上述した生分解性高分子と同じ効果を期待することができ、好ましい。
【0038】
<水溶性高分子と界面活性剤>
本発明で用いる摩擦低減材の別の例は、水溶性高分子と界面活性剤との組合せである。水溶性高分子は、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)又はポリビニルアルコール(PVA)である。界面活性剤は、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)又はドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB)である。
【0039】
摩擦低減材の成分として水溶性高分子及び界面活性剤を含む場合、各成分の相対的割合及び水溶液中での各成分の濃度を調整することによって、水溶液の粘度を調整する。また、摩擦低減材として水溶性高分子及び界面活性剤を用いる場合も、原水とその水溶液の密度がほぼ同じと見なせるような濃度範囲で用いることが好ましい。それによって、粘度の増大をそのまま動粘性係数の増大を見なすことができる。水溶液における摩擦低減材の濃度は、例えば、0.01~10wt%とする。また、水溶液における界面活性剤の濃度は、例えば、10-5~10-1mol/Lとする。
【0040】
さらに、摩擦低減材として水溶性高分子と界面活性剤とを組み合わせて用いる別の例を示す。非特許文献2には、以下の化学構造を有する、疎水的に化学修飾を施したポリアクリル酸(hydrophobically modified poly acrylic acid:HMPAA)を含む、濃度の異なるラウリル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液の粘度特性が開示されている。
【化1】
【0041】
上記のHMPAAは、ポリアクリル酸ナトリウムの主鎖の一部を疎水基で化学修飾した水溶性高分子である。x=0のときは、ポリアクリル酸ナトリウムである。ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)は、アニオン系界面活性剤である。
【0042】
非特許文献2によれば、SDS水溶液全体に対して以下の(i)~(iii)を1wt%でそれぞれ溶解させた3つの試料について、SDS濃度を10-5~10-1mol/Lの範囲で変化させた場合、試料(i)(ii)では粘度は全く又はほとんど変化せず、試料(iii)において、SDS濃度が10-2mol/Lの近傍で、粘度が10cPから10cP(=100Pa・s)まで3桁上昇する粘度のピークを呈することが確認されている。
(i) 非化学修飾ポリアクリル酸ナトリウム(x=0)
(ii) 化学修飾度(疎水度)の低いHMPAA(x=1mol%, n=18)
(iii)化学修飾度(疎水度)の高いHMPAA(x=3mol%, n=18)
【0043】
また、界面活性剤をカチオン系のドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB)とした場合、試料(ii)(iii)において、DTAB濃度が10-3mol/Lの近傍で、粘度が10cPから10cP(=1000Pa・s)まで4桁上昇するピークを呈することが確認されている。
【0044】
非特許文献2の知見から、HMPAAの化学修飾度(疎水度)とその濃度を適切に選択し、かつ界面活性剤の濃度を適切に選択して高圧水の原水に含有させることによって、所望する粘度の水溶液が得られることになる。その場合、原水と水溶液の密度がほぼ同じとみなせる程度の濃度範囲を選択することによって、原水を水溶液としたときの粘度の増大を、そのまま動粘性係数の増大と見なすことができる。HMPAAは、上述したような極めて低い濃度で大きな粘度の変化を示すので、所望する粘度及び動粘性係数を得るために容易に調整することができる。
【0045】
さらに、HMPAAは、生分解性であるので、地盤中に放出された後に分解されて無害化されることによって、構造物と地盤との摩擦抵抗の回復や環境負荷の軽減を効果的に実現することができる。
【0046】
以下、図1及び図2を参照して、本発明の地盤貫入工法の例を説明する。
工法の第1の例では、先ず、高圧水の噴射時における摩擦低減材の濃度よりも高濃度で、摩擦低減材を含む原液を調製する。この原液の調製は、例えば、以下のように行う。摩擦低減材として水溶性高分子のみを含む場合は、所定の濃度となるように水溶性高分子を原水に溶解させる。摩擦低減材として不溶性のセルロース繊維のみを含む場合、所定の含有量となるようにセルロース繊維を原水に分散させる。この場合、適宜分散剤を添加してもよい。摩擦低減材として水溶性高分子及び界面活性剤を含む場合は、所定の濃度となるように水溶性高分子及び界面活性剤を原水に溶解させるか、又は、所定の濃度となるように水溶性高分子を界面活性剤水溶液に溶解させる。
【0047】
上記のように調製された高濃度の原液を、その後、図1及び図2に示す高圧水送出装置14の送出口からジェット配管3の先端ノズルまでの間の高圧水を移送する経路上の1又は複数の箇所で高圧水中に混入させる。例えば、図1及び図2の高圧ホース15、17又はジェット配管3の各々における中間位置又は接続位置などである。図示しないが、高圧水の移送経路上には高圧水の吐出量を調整するための流量計が適宜設置されている。また、原液を混入する箇所にも原液の混入量を調整するための流量計を適宜設置する。これらの流量計により適宜調整することによって、噴射時の高圧水における摩擦低減材濃度が、所望する粘度に対応する濃度となるようにする。
【0048】
工法の第2の例では、摩擦低減材を図1及び図2の貯槽13内の原水に混入する。この場合、貯槽13内の原水における摩擦低減材濃度が、噴射時の高圧水の摩擦低減材濃度となるようにする。この場合、貯槽13の一箇所のみにおいて摩擦低減材を混入すれば、当該貯槽13から原水を供給される全てのジェット配管3に摩擦低減材を含む高圧水を分配できるという利点がある。
【0049】
工法の第3の例では、上述した第1の例と同様に、先ず、高圧水の噴射時における摩擦低減材の濃度よりも高濃度で、摩擦低減材を含む原液を調製する。その後、この原液を、図1及び図2に示す集合管16に注入する。この場合も、流量計により適宜調整することによって、噴射時の高圧水における摩擦低減材濃度が、所望する粘度に対応する濃度となるようにする。集合管16は、注入した高圧水を複数の吐出孔から均等な吐出量で吐出する機能を有するので、高圧水の摩擦低減材濃度についてもばらつきなく均質とする作用が得られる。この作用をさらに高めるために、集合管16内に撹拌装置や整流板などを設置してもよい。
【0050】
以上に述べた本発明の各実施形態は、本発明の主旨に沿う限りにおいて多様な変形形態が考えられ、それらについても本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
1 杭
2 バイブロハンマ
3 ジェット配管
4 噴射ノズル
11、12 切替装置
13 貯槽
14 高圧水送出装置
15、17 高圧ホース
16 集合管
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2020-09-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
【特許文献1】特開2019-065692号公報
【特許文献2】特開平7-238544号公報
【特許文献3】特開2002-250333号公報
【特許文献4】再公表WO2015/029959号公報