(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022027262
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】平ベルト伝動システム
(51)【国際特許分類】
F16H 7/20 20060101AFI20220203BHJP
F16H 7/12 20060101ALI20220203BHJP
F16H 55/36 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
F16H7/20
F16H7/12 A
F16H55/36 A
F16H55/36 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020131156
(22)【出願日】2020-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉見 武将
【テーマコード(参考)】
3J031
3J049
【Fターム(参考)】
3J031BA08
3J031CA01
3J049AA01
3J049BB05
3J049BB14
3J049BB23
3J049BE03
3J049BE06
3J049BE08
3J049BE09
3J049BH02
3J049CA10
(57)【要約】
【課題】簡単な構造で確実に逆回転におけるベルトの脱落を阻止できるようにする。
【解決手段】平ベルト伝動システム1に、駆動プーリ2と、従動プーリ3と、駆動プーリ2及び従動プーリ3に掛けられる平ベルト6と、平ベルト6に当接し、正転時にプーリ軸7の傾きを調整し平ベルト6の蛇行を制御する蛇行制御プーリ5とを設ける。蛇行制御プーリ5を回転可能に支持する蛇行制御デバイス4に、逆転時に平ベルト6の側面に当接し、平ベルト6の脱落を防止する脱落防止部材10を設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動プーリと、
従動プーリと、
上記駆動プーリ及び上記従動プーリに掛けられる平ベルトと、
上記平ベルトに当接し、正転時にプーリ軸の傾きを調整して該平ベルトの蛇行を制御する蛇行制御プーリとを備え、
上記蛇行制御プーリを回転可能に支持する蛇行制御デバイスと、上記従動プーリとの間には、逆転時に上記平ベルトの側面に当接し、該平ベルトの脱落を防止する脱落防止部材が設けられている
ことを特徴とする平ベルト伝動システム。
【請求項2】
請求項1の平ベルト伝動システムにおいて、
上記従動プーリの軸に垂直な方向から見たときに、上記脱落防止部材の上記平ベルトの側面との接触面が上記平ベルトにおける正転時の正常な位置での側面から5mm以下だけ離れており、該平ベルトの正常な位置では、該平ベルトの側面と上記脱落防止部材とは、接触しないように構成されている
ことを特徴とする平ベルト伝動システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の平ベルト伝動システムにおいて、
上記脱落防止部材には、上記平ベルトが当接する部分に対応して溝部が形成されている
ことを特徴とする平ベルト伝動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛇行制御プーリを有する平ベルト伝動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平ベルトを用いた伝動システムにおいては、平ベルトが走行中に蛇行したり、プーリの片側に寄って片寄り走行したりすることがある。これは、平ベルトが、他の平ベルトに比べて、プーリ軸の正規位置からのずれや、軸荷重の変化によるプーリ軸のたわみ、プーリの揺れなどに敏感なためである。このような蛇行及び片寄り走行を防ぐために、平ベルトの蛇行を防止する平ベルト蛇行制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献2のように、ワンウェイクラッチを有する蛇行制御プーリが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-121205号公報
【特許文献2】特許第6412293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
送風機などのファンを有する平ベルト伝動システムでは、風などでファンが逆方向に回転(以下、逆転という)することがある。このような場合、上述したように、平ベルトはプーリからずれやすく、逆転すると平ベルトが蛇行する方向に動き、平ベルトがプーリのフランジに接触し、ベルト側面を損傷する。また、場合によっては、平ベルトがフランジに乗り上げてプーリから脱落してしまうおそれがある。
【0006】
また、特許文献2のようなワンウェイクラッチを設けなくても逆転による脱落を防止できる簡易なものが求められている。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡単な構造で確実に逆回転におけるベルトの脱落を阻止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、逆回転時に平ベルトの脱落を防止する脱落防止部材を蛇行制御デバイスに設けた。
【0009】
具体的には、第1の発明の平ベルト伝動システムは、
駆動プーリと、
従動プーリと、
上記駆動プーリ及び上記従動プーリに掛けられる平ベルトと、
上記平ベルトに当接し、正転時にプーリ軸の傾きを調整して該平ベルトの蛇行を制御する蛇行制御プーリとを備え、
上記蛇行制御プーリを回転可能に支持する蛇行制御デバイスと、上記従動プーリとの間には、逆転時に上記平ベルトの側面に当接し、該平ベルトの脱落を防止する脱落防止部材が設けられている。
【0010】
通常、蛇行制御プーリは、正転時にプーリ軸の傾きを調整して平ベルトの蛇行を防止する蛇行防止機能を発揮する。しかし、強風などによりファンが逆回転するような逆転時には、構造上、その機能を発揮できず、蛇行制御プーリが一方向に傾いたままとなり、そこを起点にベルト位置がずれていき、最終的に脱落に至る。しかし、上記の構成によると、逆転時に脱落しようとする平ベルトの側面に脱落防止部材が当接してそれ以上の脱落方向への移動を阻止するので、逆転時でも平ベルトが脱落しない。さらに平ベルトが逆方向に回転しようとするときには、平ベルトの幅剛性以上の荷重になると、平ベルトが幅方向に座屈し、脱落防止部材との接触面積が増加することで抵抗となり、最終的には平ベルトが停止する。脱落防止部材は、蛇行制御デバイスに設けられていてもよいし、別体に設けられていてもよい。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、
上記従動プーリの軸に垂直な方向から見たときに、上記脱落防止部材の上記平ベルトの側面との接触面が上記平ベルトにおける正転時の正常な位置での側面から5mm以下だけ離れており、該平ベルトの正常な位置では、該平ベルトの側面と上記脱落防止部材とは、接触しないように構成されている。
【0012】
上記の構成によると、平ベルトを正転時には脱落防止部材には接触させないようにしながら、逆転時には接触させ、ベルト位置がそれ以上脱落方向に移動しないようにすることができる。このため、必要なときだけ平ベルトの側面が脱落防止部材に接触するので、平ベルトの耐久性が低下しにくい。なお、正転時の正常な位置とは、平ベルトが蛇行していない(ずれていない)走行位置を意味する。
【0013】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、
上記脱落防止部材には、上記平ベルトが当接する部分に対応して溝部が形成されている。
【0014】
上記の構成によると、溝の側面方向にも平ベルトが移動しにくくなるので、平ベルトの脱落防止効果が向上する。なお、溝は、正転時の平ベルトの走行時に、溝の側面に平ベルトが接触しないように設けられるのが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、逆転時に脱落防止部材が平ベルトの側面に当接するようにしたことにより、簡単な構造で確実に逆回転におけるベルトの脱落を阻止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係るベルト伝動システムの概要を示す斜視図である。
【
図2】逆転時のベルト伝動システムの概要を示す側面図である。
【
図3】正転時のベルト伝動システムの概要を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1~
図3は、本発明の実施形態に係る平ベルト伝動システム1を示す。各図において、正転方向を矢印Fで示し、逆転方向を矢印Rで示す。
【0019】
この平ベルト伝動システム1は、詳しくは図示しないが、例えば冷却塔、送風機等の駆動システムとして用いられ、電動モータ等のアクチュエータに駆動される駆動プーリ2と、ファン等の回転軸に連結された従動プーリ3と、これらに掛けられる平ベルト6とを備えている。この平ベルト伝動システム1は、送風機に限定されず、空調機、コンプレッサーなどにも用いられる。特にエンジンの出力軸に取り付けられるベルト伝動システムと違って回転変動がない、又はほとんどないものを対象とする。平ベルト6は、例えば、厚さ方向中心に心線を備え、この心線が上ゴム及び底ゴムによって挟持されているような構造とする。しかし、平ベルト6の種類は特に限定されず、材質等も特に限定されず、走行時に蛇行しやすいベルトも対象となり得る。
【0020】
本実施形態の平ベルト伝動システム1は、上記平ベルト6の伝動面に当接する蛇行制御プーリ5の傾きを調整して平ベルト6の蛇行を制御する蛇行制御デバイス4を備えている。この蛇行制御デバイス4は、送風機などに取り付けられるベース部4aと、このベース部4aの一端のアーム支持軸4bに揺動可能に支持されるテンションアーム4cとを備え、このテンションアーム4cに上記蛇行制御プーリ5を回転可能に支持するプーリ軸7が設けられている。蛇行制御プーリ5は、図示しないベアリングを介してプーリ軸7に回転可能に支持されている。詳しい説明は省略する(上記特許文献1及び2参照)が、このプーリ軸7に直交するピンを中心に傾動させてプーリ軸7の傾きを調整することで、平ベルト6の蛇行修正が行われるようになっている。テンションアーム4cは、ベース部4aの他端側に設けた引っ張りバネ4dにより所定の引っ張り力で付勢されることで、オートテンショナとしての機能も果たしている。この蛇行制御デバイス4により、平ベルト6の走行位置が自律制御され、張力付与が引っ張りバネ4dで安定維持されるので、平ベルト6の長寿命化及びメンテナンスフリーを達成できるようになっている。
【0021】
そして、本実施形態の特徴として、平ベルト伝動システム1は、平ベルト6の側面に当接し、平ベルト6の脱落を防止する脱落防止部材10を備えている。脱落防止部材10は、その形状は特に限定されないが、例えば、ベース部4aに上方に突出するように形成されており、かつ、テンションアーム4cの揺動を阻害しないように、その揺動範囲外に設けられている。
【0022】
蛇行制御プーリ5は、駆動プーリ2の正転時の緩み側に配置されているので、結果として、この脱落防止部材10も緩み側に設けられている。
【0023】
そして、従動プーリ3の軸に垂直な方向から見たとき(具体的には、
図3の正面から見たとき)に、脱落防止部材10の平ベルト6に対する当接面(すなわち上面)が平ベルト6における正転時の正常な位置での側面から0mmよりも大きく5mm以下(例えばx=4mm)だけ離れている。そして、平ベルト6の正常な位置では、平ベルト6の側面と脱落防止部材10とは、接触しないように構成されている。つまり、必要以上に離れすぎず、最小限の距離が保たれている。
【0024】
-平ベルト伝動システムの作動-
例えば、送風機に平ベルト伝動システム1が使用された例について説明する。
【0025】
電動モータ等を駆動すると、
図3に示すように、駆動プーリ2が正転方向に回転し、従動プーリ3が回転する。この動力により、ファンが回転する。蛇行制御デバイス4は、オートテンショナ機能も有するので、引っ張りバネ4dの張力により、平ベルト6が適度な張力に保たれている。
【0026】
蛇行制御プーリ5は、このような正転時に平ベルト6が蛇行した場合、その蛇行を戻すような方向にプーリ軸7が、プーリ軸7に直交するピンを中心に傾いて蛇行を防止する蛇行防止機能を発揮する。そして、平ベルト6には、蛇行制御プーリ5が斜交い状態になることによる戻し力(片寄りを戻す力)と、蛇行制御プーリ5が傾斜することによる戻し力とが働き、これによって平ベルト6の片寄りが防止される。
【0027】
一方で、停止時に、
図2に示すように、従動側のファンが強風などにより外力が加わって逆回転するような逆転時には、その機能を発揮できない。このため、蛇行制御プーリ5が一方向に傾いたままとなり、そこを起点にベルト位置がずれていき、最終的に脱落に至るおそれがある。
【0028】
しかし、本実施形態では、逆転時に脱落しようとする平ベルト6の側面に脱落防止部材10が当接してそれ以上の脱落方向への移動を阻止する。このため、逆転時でも平ベルト6が脱落しない。
【0029】
さらに平ベルト6が逆方向に回転しようとするときには、平ベルト6の幅剛性以上の荷重になると、平ベルト6が幅方向に座屈し、脱落防止部材10との接触面積が増加することで抵抗となり、最終的には平ベルト6が停止し、脱落することはない。
【0030】
また、脱落防止部材10の高さを適度に低く保っているので、平ベルト6を、正転時には脱落防止部材10には接触させず、逆転時のみ接触させ、ベルト位置がそれ以上脱落方向に移動しないようにすることができる。つまり、必要なときだけ脱落防止部材10に接触させるので、平ベルト6の耐久性が低下しにくい。
【0031】
したがって、本実施形態に係る平ベルトの駆動装置1によると、逆転時に脱落防止部材10が平ベルト6の側面に当接するようにしたことにより、正転時の蛇行防止機能を確保しつつ、簡単な構造で確実に逆回転における平ベルト6の脱落を阻止できる。これにより、蛇行制御デバイス4特有の弱点を解消できる。
【0032】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0033】
すなわち、上記実施形態は、送風機などの特に回転変動のない平ベルト伝動システム1に適しているが、多少回転変動がある場合にも適用できる。
【0034】
上記実施形態では、脱落防止部材10は、蛇行制御デバイス4に設けられているが、それよりも従動プーリ3側に設けられていてもよい。例えば、
図1で取付範囲として示すような範囲で、かつ、適度に従動プーリ3に近い方が、脱落防止効果がより発揮される。
【0035】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0036】
1 平ベルト伝動システム
2 駆動プーリ
3 従動プーリ
4 蛇行制御デバイス
4a ベース部
4b アーム支持軸
4c テンションアーム
4d 引っ張りバネ
5 蛇行制御プーリ
6 平ベルト
7 プーリ軸
10 脱落防止部材