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特開2022-27313固体電解質、その製造方法及び電気化学セル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022027313
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】固体電解質、その製造方法及び電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1246 20160101AFI20220203BHJP
   H01M 8/124 20160101ALI20220203BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20220203BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20220203BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20220203BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20220203BHJP
【FI】
H01M8/1246
H01M8/124
H01B1/06 A
H01B1/08
C04B35/50
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020131239
(22)【出願日】2020-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】高山 定和
(72)【発明者】
【氏名】大島 智子
(72)【発明者】
【氏名】小川 宏隆
(72)【発明者】
【氏名】菅 章紀
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 優太
【テーマコード(参考)】
5G301
5H126
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA18
5G301CA22
5G301CA23
5G301CA25
5G301CA28
5G301CD01
5G301CD10
5H126AA06
5H126BB06
5H126GG13
5H126HH01
5H126HH08
5H126JJ08
(57)【要約】
【課題】 高いプロトン伝導性をもつとともに焼結性及び化学安定性に優れた固体電解質、その製造方法及び電気化学セルを提供すること。
【解決手段】 本発明の固体電解質は、A 1-x 1-y (A:アルカリ土類金属、B:La,Nd,Gd,Ce,Pr,Ybより選ばれる少なくとも1種、B:遷移金属より選ばれる少なくとも1種、M:Be,Mg,Ca,Srより選ばれる少なくとも1種、M:Ta,Sb,Zr,Sn,Ti,Mgより選ばれる少なくとも1種、0≦x≦0.30、0≦y≦0.30)で示される化合物である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-x 1-y (A:アルカリ土類金属、B:La,Nd,Gd,Ce,Pr,Ybより選ばれる少なくとも1種、B:遷移金属より選ばれる少なくとも1種、M:Be,Mg,Ca,Srより選ばれる少なくとも1種、M:Ta,Sb,Zr,Sn,Ti,Mgより選ばれる少なくとも1種、0≦x≦0.30、0≦y≦0.30)で示される化合物であることを特徴とする固体電解質。
【請求項2】
酸素欠損型の結晶構造を有する請求項1記載の固体電解質。
【請求項3】
所定の原子比となるように秤量した原料粉末を混合して、焼結温度未満の温度で熱処理して前駆体を生成する工程と、
前記前駆体を焼結温度以上の温度で熱処理する工程と、
を有することを特徴とする固体電解質の製造方法。
【請求項4】
焼結温度以上の温度での前記熱処理は、酸素含有雰囲気下で行われる請求項3記載の固体電解質の製造方法。
【請求項5】
請求項1~2のいずれかに記載の固体電解質を用いてなることを特徴とする電気化学セル。
【請求項6】
燃料電池セルである請求項5記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記固体電解質よりなる電解質層と、前記電解質層の一方の表面に設けられた燃料極と、前記電解質層の他方の表面に設けられた空気極と、を有する請求項6記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質、その製造方法及び電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー変換効率の高い固体酸化物形燃料電池(SOFC)やプロトン導電性セラミックス燃料電池(PCFC)が、次世代のエネルギー供給システムとして注目を集めている。
【0003】
SOFCは、電解質としてイオン伝導性(酸化物イオン伝導性)をもつ固体電解質を使用し、その電解質層の一方の表面に燃料極(アノード)を、他方の表面に空気極(カソード)を接合して構成される。アノードに水素を含む燃料、カソードに酸素(空気)をそれぞれ供給すると、以下の電気化学反応によって電気エネルギーを取り出すことができる。
アノード反応:2H+2O2- → 2HO+4e (反応1)
カソード反応:O+4e → 2O2- (反応2)
全反応:2H+O →2H
【0004】
一方、PCFCは、電解質としてプロトン伝導性(水素イオン伝導性)をもつ固体電解質を使用し、その電解質層の一方の表面に燃料極(アノード)を、他方の表面に空気極(カソード)を接合して構成される。アノードに水素を含む燃料(燃料ガス)、カソードに酸素(空気)をそれぞれ供給すると、以下の電気化学反応によって電気エネルギーを取り出すことができる。
アノード反応:2H → 4H+4e (反応3)
カソード反応:4H+O+4e → 2HO (反応4)
全反応:2H+O →2H
【0005】
PCFCの電解質層を形成する固体電解質は、プロトン伝導性(水素イオン伝導性)が求められている。プロトン伝導性をもつ固体電解質としては、ペロブスカイト構造を持つBaCeO系やBaZrO系の化合物(酸化物)が知られている。これらの化合物は、従来、酸化物を焼結した焼結体よりなる。
【0006】
そして、PCFCの性能向上を目的として、固体電解質での更なる材料探索が進められている。特に、PCFCの固体電解質においては、プロトン伝導性の向上、良好な焼結性及び化学安定性の特性を有するものが求められている。
【0007】
具体的には、ペロブスカイト構造のBaCeO系の酸化物は、化学的に不安定であった。化学的に不安定となると、PCFCを形成したときに、PCFCの長期信頼性が低下する。一方、BaZrO系の酸化物は、難焼結性の化合物であり、緻密化が困難となっていた。緻密化が困難となると、プロトン以外の物質(例えば、原子イオンやガスの分子)が固体電解質(電解質層)を透過するようになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、高いプロトン伝導性をもつとともに焼結性及び化学安定性に優れた固体電解質、その製造方法及び電気化学セルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の固体電解質は、A 1-x 1-y (A:アルカリ土類金属、B:La,Nd,Gd,Ce,Pr,Ybより選ばれる少なくとも1種、B:遷移金属より選ばれる少なくとも1種、M:Be,Mg,Ca,Srより選ばれる少なくとも1種、M:Ta,Sb,Zr,Sn,Ti,Mgより選ばれる少なくとも1種、0≦x≦0.30、0≦y≦0.30)で示される化合物であることを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決する本発明の固体電解質の製造方法は、所定の原子比となるように秤量した原料粉末を混合して、焼結温度未満の温度で熱処理して前駆体を生成する工程と、前駆体を焼結温度以上の温度で熱処理する工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決する本発明の電気化学セルは、請求項1~2のいずれかに記載の固体電解質を用いてなることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ダブルペロブスカイト型の結晶構造を示す図である。
図2】ペロブスカイト型の結晶構造を示す図である。
図3】実施形態の固体電解質の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図4】実施例1~2のXRDの測定結果を示す図である。
図5】実施例3~5のXRDの測定結果を示す図である。
図6】実施例6のXRDの測定結果を示す図である。
図7】実施例及び比較例のプロトン伝導度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、実施の形態に示す構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更した構成を含む。
【0014】
[固体電解質]
本形態の固体電解質は、A 1-x 1-y (A:アルカリ土類金属、B:La,Nd,Gd,Ce,Pr,Ybより選ばれる少なくとも1種、B:遷移金属より選ばれる少なくとも1種、M:Be,Mg,Ca,Srより選ばれる少なくとも1種、M:Ta,Sb,Zr,Sn,Ti,Mgより選ばれる少なくとも1種、0≦x≦0.30、0≦y≦0.30)で示される化合物である。
【0015】
本形態の固体電解質は、上記組成のB及びBの価数が、M及びMの価数よりも小さい価数であることが好ましい。価数がこの関係を満たすことで、本形態の固体電解質は、好適なプロトン伝導性を有するものとなる。ここで、BとBの価数は、同じであっても異なっていてもいずれでもよいが同じであることが好ましい。MとMの価数についても、同じであっても異なっていてもいずれでもよい。MとMの価数が異なっている場合、BとBの価数のいずれもが、MとMの価数の小さい方の価数よりも小さいことが好ましい。
【0016】
本形態の固体電解質は、上記組成において、AがBaであることが好ましい。BとBの元素のそれぞれは、同じ元素であっても異なる元素であっても、いずれでもよい。本形態の固体電解質は、上記組成において、0≦x≦0.30及び0≦y≦0.30となることで、後述のダブルペロブスカイト型の結晶構造となる。x及びyが0.30を超えると、2相の結晶相を生じやすくなり、プロトン伝導性(プロトン伝導度の値)が低下しやすくなる。0≦x≦0.25及び0≦y≦0.25であることがより好ましく、0≦x≦0.20及び0≦y≦0.20であることが更に好ましい。
【0017】
本形態の固体電解質の化合物は、ダブルペロブスカイト型とよばれる結晶構造を有する酸化物である。ダブルペロブスカイト型の酸化物は、好適なプロトン伝導性(イオン伝導性)を有する酸化物である。ここで、好適なプロトン伝導性を有するとは、プロトン伝導度が10-5S/cm以上であり、好ましくは10-3S/cm以上であることを示す。すなわち、電気化学セル(例えば、燃料電池セル)を形成したときに、その作動温度で、所望の電池特性を発揮できる程度の高いプロトン伝導性を発揮する。
【0018】
ダブルペロブスカイト型の結晶は、図1に示した結晶構造を有する。図1は、一般式:AMM’O(A:Ba、M:Nd又はGd、M’:Nb)で示されるダブルペロブスカイト型の化合物の結晶構造を示す図である。
対して、ペロブスカイト型の結晶は、図2に示した結晶構造を有する。図2は、一般式:AMO(A:Ba、M:Zr又はCe)で示されるペロブスカイト型の化合物の構造を示す図である。
【0019】
図1に示すように、ダブルペロブスカイト型の化合物は、M’(5価の原子イオン、Nb5+)を囲む酸素八面体と、M(3価の原子イオン、M3+)を囲む酸素八面体と、が、A(Ba2+)を囲む構造を有している。この構造の空間群は、Fm-3m(No.225)である。
対して、図2に示すように、ペロブスカイト型の化合物は、M(4価の原子イオン、M4+)を囲む酸素八面体が、A(Ba2+)を囲む構造を有している。この構造の空間群は、Pm-3m(No.221)である。
【0020】
図1図2から明らかなように、ダブルペロブスカイト型の化合物と、ペロブスカイト型の化合物とでは、結晶構造の対称性が明らかに異なる。この結晶構造の相違により、ダブルペロブスカイト型の化合物は、ペロブスカイト型の化合物よりも高い化学的な安定性を有するものとなっている。
ダブルペロブスカイト型の化合物は、価数の異なる元素を囲んでなる酸素八面体を複数種有しており、かさ高い元素を囲む酸素八面体間の距離が長くなる。そうすると、固体電解質内を原子が移動しやすくなる。つまり、原子の移動を伴う焼結反応が生じやすくなる。すなわち、高い焼結性を有する。
【0021】
本形態の固体電解質の化合物は、Ba 1-xCaNbOであることが好ましい。この化合物は、上記組成式において、A:Ba、B:Nb、M:Ca、y=0の場合の化合物である。この化合物は、図1で示す結晶構造において、M(3価)の一部がCa(2価)に置換した結晶構造の化合物である。
本形態の固体電解質は、酸素欠損型の結晶構造を有することが好ましい。本形態の固体電解質は、この結晶構造を有することで、より高いプロトン伝導性を有するものとなる。
【0022】
(本形態の効果)
本形態の固体電解質は、上記した組成の化合物であり、好適なプロトン伝導性(イオン伝導性)を有する酸化物よりなる。この酸化物は、焼結性及び化学安定性に優れており、本形態の固体酸化物も焼結性及び化学安定性に優れたものとなっている。
【0023】
本形態の固体電解質は、その製造方法が限定されるものではない。例えば、以下の製造方法を用いて製造することができる。
[固体電解質の製造方法]
本形態の固体電解質の製造方法は、図3に示す各工程を有する。
(原料秤量工程:S1)
原料秤量工程は、固体電解質の原料粉末を秤量する工程である。具体的には、固体電解質の原料粉末を、固体電解質を製造できる割合で秤量する工程である。固体電解質の原料粉末は、固体電解質を構成する無機元素(A,B,M,B,Mの各元素)を含有する化合物の粉末(酸化物,炭化物の粉末)を用いることができる。また、炭酸塩等の無機元素の塩化合物であってもよい。さらに、固体電解質の原料は、固体電解質を構成する無機元素を1種で含有する化合物であっても、2種以上を含有する化合物であっても、いずれでもよい。
【0024】
固体電解質の原料粉末の秤量は、無機元素が所定の原子比(製造後の固体電解質の原子比)となるように秤量する。なお、焼結工程中に無機元素の一部が蒸発して原子比が変化することがある。この場合には、蒸発する当該無機元素の原料粉末は、蒸発量を含む原子比で秤量することが好ましい。つまり、当該無機元素の原料粉末は、所定の原子比よりも、蒸発量の分だけ多く秤量することが好ましい。
【0025】
(混合工程:S2)
混合工程は、秤量した原料粉末を混合する工程である。混合工程は、原料粉末を混合して、均一に混合した原料粉末を得る工程である。原料粉末を混合する方法は、各原料粉末が均一に分散した状態に混合することができれば、限定されない。例えば、ボールミル、遊星ボールミル、トロミル等の混合装置を用いて混合する方法を挙げることができる。
混合工程は、乾燥状態の原料粉末を混合する乾式混合、溶媒等に分散した状態で原料粉末を混合する湿式混合、のいずれの混合方法を用いてもよい。
【0026】
(乾燥工程:S3)
乾燥工程は、混合した原料粉末を乾燥する工程である。乾燥工程は、混合粉末を乾燥することができれば、具体的な乾燥方法は限定されない。乾燥工程は、混合粉末に含まれる水分(原料粉末の粒子の表面に吸着している水分)を除去する。さらに、混合工程で湿式混合を行った場合には、溶媒等の分散媒を除去する。
混合粉末を乾燥する方法は、限定されない。乾燥工程は、例えば、室温より高い温度で混合粉末を加熱して行う工程である。好ましくは、混合粉末中の水分(及び分散媒)を蒸発する温度で加熱して行う工程である。加熱温度は限定されず、50℃以上の温度とすることが好ましい。100℃以上がより好ましい。加熱時の圧力についても限定されず、常圧又は減圧された圧力であることが好ましい。
【0027】
(仮焼工程:S4)
仮焼工程は、乾燥した原料粉末(混合粉末)を焼結温度未満の温度で熱処理する工程である。仮焼工程では、原料粉末(混合粉末)を熱処理することで、各原料粉末中の無機元素同士の反応(原子の拡散反応)を進行させる。無機元素同士の反応が進行すると、前駆体(全体の組成が、固体電解質の組成を有する化合物。原料粉末が混合した状態の結晶構造となっており、最終製品とは結晶構造が異なる。)が生成する。すなわち、仮焼工程は、焼結温度未満の温度で熱処理して前駆体を生成する工程である。ここで、焼結温度とは、後述の焼結工程での反応が進行する温度のうち、最も低い温度である。
【0028】
仮焼工程での熱処理は、焼結温度未満の温度であり、かつ前駆体を製造できる温度であればよい。例えば、焼結温度より100~300℃低い温度をあげることができる。
仮焼工程での熱処理時の圧力についても限定されないが、常圧又は減圧された圧力であることが好ましい。
仮焼工程での熱処理の処理時間についても限定されないが、前駆体を生成する反応が完了する時間とすることができる。
【0029】
(粉砕工程:S5)
粉砕工程は、前駆体を粉砕する工程である。粉砕工程では、仮焼により生成した前駆体を粉砕して、前駆体粉末を製造する。前駆体粉末は、その粒子径(平均粒子径:D50)が限定されない。
粉砕工程において、前駆体を粉砕する具体的な方法は限定されない。例えば、ボールミル、遊星ボールミル、トロミル等の装置を用いて物理的に前駆体を粉砕し、前駆体粉末を得る。
【0030】
(成形工程:S6)
成形工程は、粉砕工程で得られた前駆体粉末を所定の形状に成形する工程である。所定の形状とは、本形態の固体電解質を使用する時の形状(すなわち、後述の電気化学セルにおける電解質層に対応した形状)であり、板状やシート状の薄板形状をあげることができる。なお、焼結工程中に体積変化(具体的には、収縮)を生じる場合には、当該体積変化を想定した形状を所定の形状とする。
【0031】
成形工程は、前駆体粉末を圧縮成形する工程であることが好ましい。前駆体粉末を圧縮成形する場合、加圧力,加圧時間,加圧温度等の成形条件は限定されない。たとえば、所定の形状に対応するキャビティを持つ成形型を用いて加圧成形する型成形,HIP成形やCIP成形等の等方圧加圧法で加圧成形する型成形等の成形方法を用いることができる。
【0032】
(焼結工程:S7)
焼結工程は、前駆体の成形体を焼結温度以上の温度で熱処理する工程である。焼結工程では、前駆体の成形体を熱処理して前駆体を焼結させる。前駆体を焼結すると、前駆体の元素の交換反応が進行するとともに、ダブルペロブスカイト型の結晶構造を持つ化合物を生成する反応が進行して、本形態の固体電解質の化合物が生成する。ここで、焼結温度とは、前駆体が焼結する温度であり、前駆体の元素の交換反応が進行するとともに、ダブルペロブスカイト型の結晶構造を持つ化合物を生成する反応が進行して固体電解質の化合物が生成する温度のうち、最も低い温度である。熱処理温度が焼結温度より低い温度でも前駆体の元素の交換反応が生じることがあるが、ダブルペロブスカイト型の結晶構造を持つ化合物が生成する反応は進行しない。
また、焼結工程は、前駆体粉末の粒子同士の焼結反応が進行し、所定の形状の固体電解質の化合物を得ることができる。より詳しくは、上記組成の化合物(ダブルペロブスカイト型の結晶構造を持つ化合物)よりなる固体電解質を生成する。すなわち、成形工程で成形した板状やシート状等の薄板形状の固体電解質を得ることができる。
【0033】
焼結工程は、焼結反応を進行できる処理条件で前駆体の成形体を熱処理する。熱処理の処理条件は、限定されない。すなわち、熱処理温度,熱処理時間,雰囲気等の熱処理条件は限定されない。熱処理温度は、前駆体の元素の交換反応が進行するとともに、ダブルペロブスカイト型の結晶構造を持つ化合物を生成する反応が進行する温度(すなわち、焼結温度以上の温度)であればよい。熱処理時間は、固体電解質の化合物を生成する反応が完了する時間であればよい。雰囲気は、固体電解質の化合物を生成する反応を進行できる雰囲気であればよい。大気~酸素雰囲気である(すなわち焼結温度以上の温度での熱処理は、酸素含有雰囲気下で行われる)ことが好ましい。
これらの各工程(S1~S7)が施されることで本形態の固体電解質が製造される。なお、上記以外の条件については、従来公知の方法(工程)を適宜用いることができる。
例えば、焼結工程の後に、表面を研磨して整形する工程を施してもよい。整形工程を施すことで、寸法精度が向上するとともに、固体電解質の化合物の清浄な表面が露出する。
【0034】
(本形態の効果)
本形態の固体電解質の製造方法によると、上記した本形態の固体電解質、すなわち上記の組成の化合物よりなる固体電解質を製造できる。つまり、本形態の固体電解質の製造方法は、好適なプロトン伝導性を有するとともに、焼結性及び化学安定性に優れた固体電解質を製造できる効果を発揮する。
【0035】
[電気化学セル]
本形態の固体電解質は、プロトン伝導性を有するものであり、この特性が要求される部材に用いることができる。例えば、電気化学セルの電解質(固体電解質)として用いることができる。
電気化学セルとは、電気化学反応によって燃料の化学エネルギーから電力を取り出す電池セル(又は電池)を示す。電気化学セルとしては、例えば、燃料電池の電池セルをあげることができる。本形態の固体電解質は、燃料電池セルの固体電解質であることが好ましい。
【0036】
[燃料電池]
本形態の固体電解質が用いられる燃料電池セル(燃料電池)は、その構成が限定されない。燃料電池セルは、従来知られたプロトン導電性セラミックス燃料電池(PCFC)の燃料電池セルと同様な構成とすることができる。特に言及しない燃料電池セルの構成は、従来公知の構成を適用できる。燃料電池セルは、例えば、電解質層、燃料極、及び空気極を有する。
電解質層は、本形態の固体電解質よりなる。電解質層は、板状に形成された固体電解質よりなる。
燃料極は、板状の電解質層の一方の表面に形成される。燃料極は、水素を含む燃料(燃料ガス)が供給される極である。燃料極は、電解質層の一方の表面に一体に設けられた電極体を有する。この電極体は、水素を含むガス(燃料ガス)の透過を許容する多数の孔を有する箔状(網状)である。燃料極では、電極体の多数の孔を燃料ガスが通過し、電解質層の一方の表面に水素が接触して電極反応を生じる。電極反応で生じた電子は、電極体から外部素子に流れる。すなわち、上記の反応3の反応を生じる。
空気極は、板状の電解質層の他方の表面に形成される。空気極は、酸素を含むガス(空気)が供給される極である。空気極は、電解質層の他方の表面に一体に設けられた触媒及び電極体を有する。この電極体は、ガスの透過を許容する多数の孔を有する箔状(網状)である。空気極では、電極体の多数の孔を酸素を含むガス(空気)が通過し、電解質層の他方の表面に酸素が接触して反応する。電極反応で消費される電子は、外部素子から電極体を介して流れる。すなわち、上記の反応4の反応を生じる。
【0037】
燃料電池セルは、更に、燃料極セパレータと、空気極セパレータとにより電解質層が挟持された構成とすることができる。燃料極セパレータは、複数の燃料ガス流路を備え、空気極セパレータは、複数の酸素を含むガス流路を備える。燃料極セパレータ及び空気極セパレータは、電解質層と対向する表面に形成した流路(燃料ガス流路,酸素を含むガス流路)の断面形状が限定されない。
燃料電池は、複数の燃料電池セルを積層した構成としてもよい。
【0038】
(本形態の効果)
本形態の電気化学セルは、本形態の固体電解質を電解質層に用いてなることを特徴とする。すなわち、上記した効果の固体電解質を用いてなるものであり、上記した効果(特に長寿命の効果)を発揮する。
【実施例0039】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。実施例として、固体電解質を製造する。
(実施例1)
本例の固体電解質は、BaNd0.8Ca0.2NbOで示される化合物よりなる。この化合物は、上記組成式において、A:Ba、B:Nd、B:Nb、M:Ca、x=0.2、y=0の場合の化合物である。
【0040】
本例の固体電解質は、上記の製造方法を用いて製造する。具体的には、以下の各工程を施して製造する。
(原料秤量工程:S1)
原料秤量工程では、Ba源としてBaCOを、Nd源としてNdを、Ca源としてCaCOを、Nb源としてNbを、それぞれ準備する。
準備した各化合物の粉末を、Ba:Nd:Ca:Nbの原子比が2:0.8:0.2:1となるように秤量する。
(混合工程:S2)
準備した各化合物の粉末を、100rpm×24時間の条件で、ボールミルで均一に混合する。
(乾燥工程:S3)
混合した原料粉末を、50℃×1時間の条件(常圧下)で保持し、乾燥する。
(仮焼工程:S4)
乾燥した原料粉末を焼成容器内に投入する。原料粉末は、焼成容器内で非圧縮の状態で保持される。
続いて、焼成容器を加熱炉内に配置し、1300℃×10時間の条件(常圧下)で熱処理する。この熱処理により、前駆体酸化物(原料粉末が混在した状態で全体の組成がBaNd0.8Ca0.2NbO)が生成する。
【0041】
(粉砕工程:S5)
仮焼工程(S4)で生成した前駆体酸化物を、放冷後、100rpm×24時間の条件で、ボールミルで粉砕する。前駆体酸化物は、この粉砕により、粒子径が5μm以下となる。
(成形工程:S6)
得られた前駆体酸化物の粉末を、φ18mm、厚さ1.5mmの円板状(所定の形状)に成形する。前駆体酸化物の粉末の成形は、成形圧:98.0665MPa(1ton重/cm)で押圧する。
(焼結工程:S7)
成形体を加熱炉内に配置し、1500℃×10時間の条件(大気雰囲気、常圧下)で熱処理する。なお、本例の固体電解質の焼結温度は、1500℃である。この熱処理により、円板状の本例の固体電解質が製造された。製造された本例の固体電解質は、割れ等の不良が無い緻密な焼結体となっている。すなわち、HやO等のガスを透過しない固体電解質となっている。
【0042】
(実施例2)
本例の固体電解質は、BaNdNbOで示される化合物よりなる。この化合物は、上記組成式において、A:Ba、B:Nd、B:Nb、x=0、y=0の場合の化合物である。
本例の固体電解質は、原料秤量工程(S1)の各化合物の粉末の配合を変更した以外は、実施例1と同様に製造された。なお、本例の固体電解質の焼結温度は、1500℃である。
【0043】
(実施例3)
本例の固体電解質は、BaGd0.7Ca0.3NbOで示される化合物よりなる。この化合物は、上記組成式において、A:Ba、B:Gd、B:Nb、M:Ca、x=0.3、y=0の場合の化合物である。
本例の固体電解質は、実施例1と同様に製造した。実施例1との相違点を以下に示す。
原料秤量工程(S1)においては、Gd源としてGdを用いた。
仮焼工程(S4)においては、1350℃×10時間の条件(常圧下)で熱処理する。この熱処理により、前駆体酸化物(原料粉末が混在した状態で全体の組成がBaGd0.7Ca0.3NbO)が生成する。
焼結工程(S7)においては、1600℃×10時間の条件(大気雰囲気、常圧下)で熱処理する。なお、本例の固体電解質の焼結温度は、1600℃である。
【0044】
(実施例4)
本例の固体電解質は、BaGd0.8Ca0.2NbOで示される化合物よりなる。この化合物は、上記組成式において、A:Ba、B:Gd、B:Nb、M:Ca、x=0.2、y=0の場合の化合物である。
本例の固体電解質は、原料秤量工程(S1)の各化合物の粉末の配合を変更した以外は、実施例3と同様に製造された。なお、本例の固体電解質の焼結温度は、1600℃である。
【0045】
(実施例5)
本例の固体電解質は、BaGdNbOで示される化合物よりなる。この化合物は、上記組成式において、A:Ba、B:Gd、B:Nb、x=0、y=0の場合の化合物である。
本例の固体電解質は、原料秤量工程(S1)の各化合物の粉末の配合を変更した以外は、実施例3と同様に製造された。なお、本例の固体電解質の焼結温度は、1600℃である。
【0046】
(実施例6)
本例の固体電解質は、BaLa0.9Ca0.1NbOで示される化合物よりなる。この化合物は、上記組成式において、A:Ba、B:La、B:Nb、M:Ca、x=0.1、y=0の場合の化合物である。
本例の固体電解質は、実施例1と同様に製造した。実施例1との相違点を以下に示す。
原料秤量工程(S1)においては、La源としてLaを用いた。
仮焼工程(S4)においては、1350℃×10時間の条件(常圧下)で熱処理する。この熱処理により、前駆体酸化物(原料粉末が混在した状態で全体の組成がBaLa0.9Ca0.1NbO)が生成する。
焼結工程(S7)においては、1600℃×10時間の条件(大気雰囲気、常圧下)で熱処理する。なお、本例の固体電解質の焼結温度は、1600℃である。
【0047】
(比較例1)
本例の固体電解質は、BaZr0.950.05で示される化合物よりなる。本例の固体電解質は、化合物の組成及び結晶構造が各実施例のものとは異なる。本例の化合物は、ペロブスカイト型の結晶構造を有する。
本例の固体電解質は、実施例1と同様に製造した。実施例1との相違点を以下に示す。
原料秤量工程(S1)においては、Ba源としてBaCOを、Zr源としてZrOを、Y源としてYを、それぞれ用いた。準備した各化合物の粉末を、Ba:Zr:Yの原子比が1:0.95:0.05となるように秤量する。
仮焼工程(S4)においては、1400℃×10時間の条件(常圧下)で熱処理する。この熱処理により、前駆体酸化物(原料粉末が混在した状態で全体の組成がBaZr0.950.05)が生成する。
焼結工程(S7)においては、1600℃×10時間の条件(大気雰囲気、常圧下)で熱処理する。
【0048】
(比較例2)
本例の固体電解質は、BaCe0.9Nd0.1で示される化合物よりなる。本例の固体電解質は、化合物の組成及び結晶構造が各実施例のものとは異なる。本例の化合物は、ペロブスカイト型の結晶構造を有する。
本例の固体電解質は、実施例1と同様に製造した。実施例1との相違点を以下に示す。
原料秤量工程(S1)においては、Ba源としてBaCOを、Ce源としてCeOを、Nd源としてNdを用いた。準備した各化合物の粉末を、Ba:Ce:Ndの原子比が1:0.9:0.1となるように秤量する。
仮焼工程(S4)においては、1400℃×10時間の条件(常圧下)で熱処理する。この熱処理により、前駆体酸化物(原料粉末が混在した状態で全体の組成がBaCe0.9Nd0.1)が生成する。
焼結工程(S7)においては、1600℃×10時間の条件(大気雰囲気、常圧下)で熱処理する。
【0049】
[評価]
上記の各例の固体電解質の評価を行った。固体電解質の評価として、XRDの回折パターンの測定、プロトン伝導度の測定を行った。
【0050】
[XRD]
各実施例の固体電解質のXRDを測定し、実施例1~2の測定結果を図4に、実施例3~5の測定結果を図5に、それぞれ示した。
図4図5に示すように、実施例1と実施例2を比較すると、実施例1の固体電解質は、実施例2の固体電解質のNdの一部がCaに、部分的に置換していることが確認できる。実施例3~4と実施例5を比較すると、同様に、実施例3~4の固体電解質は、実施例5の固体電解質のGdの一部がCaに、部分的に置換していることが確認できる。
【0051】
すなわち、Ba 1-xCaNbO(B:Nd又はGd、0≦x≦0.30)である実施例1~5の固体電解質は、BがCaに部分的に置換可能であり、この置換により酸素欠損が生じ(酸素欠損型の結晶構造を有し)、高いプロトン伝導性を有することがわかる。
また、実施例1~5の固体電解質は、図4図5のXRDの回折パターンから、ダブルペロブスカイト型の結晶構造を有していることが確認できる。ダブルペロブスカイト型の結晶構造を有することで、実施例1~5の固体電解質は、高い化学的な安定性を有するものとなっている。さらに、実施例1~5の固体電解質は、ダブルペロブスカイト型の結晶構造を有することから、焼結性にも優れたものとなっている。
加えて、実施例1~5の固体電解質のXRDの回折パターンは、図4図5に示したように、シャープなピークを示している。つまり、実施例1~5の固体電解質は、高い結晶性を有するものとなっている。そして、実施例1~5の固体電解質は、不良の無い焼結体よりなっており、焼結性に優れたものとなっている。
【0052】
[XRD]
実施例6の固体電解質のXRDを測定し、測定結果を図6に示した。
図6のXRDの回折パターンは、図4図5のXRDの回折パターンと同様なピークを備えている。すなわち、実施例6の固体電解質は、実施例1~5の固体電解質と同様に、ダブルペロブスカイト型の結晶構造を有していることが確認できる。このため、実施例6の固体電解質は、実施例1~5の固体電解質と同様に、高い化学的な安定性を有するものとなっている。さらに、実施例6の固体電解質は、ダブルペロブスカイト型の結晶構造を有することから、焼結性にも優れたものとなっている。
実施例6の固体電解質のXRDの回折パターンも、シャープなピークを示している。つまり、実施例6の固体電解質も、実施例1~5と同様に高い結晶性を有するものとなっており、焼結性に優れたものとなっている。
【0053】
[プロトン伝導度]
実施例1,4の評価として、プロトン伝導度を交流インピーダンス法で測定し、測定結果を図7に示した。図7には、比較例1,2のプロトン伝導度(文献値)を合わせて示した。
図7に示すように、実施例1及び実施例4の固体電解質は、比較例1及び比較例2の固体電解質よりも、高いプロトン伝導度を有している。つまり、ダブルペロブスカイト型の結晶構造をもつ化合物は、ペロブスカイト型の結晶構造の化合物よりもプロトン伝導性に優れたものとなっている。
以上に説明したように、各実施例の固体電解質は、各比較例の固体電解質と比較して、優れたプロトン伝導性を有する。
【0054】
以上に詳述したように、各実施例の固体電解質は、各比較例と比較して、プロトン伝導性に優れたものとなっている。各実施例の固体電解質は、その結晶構造から、焼結性及び化学安定性に優れたものとなっている。
この結果、これらの固体電解質を用いた電気化学セル(燃料電池セル)は、性能に優れた長寿命のものとなる効果を発揮する。
さらに、本発明の製造方法によると、これらの効果を発揮する固体電解質を製造できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7