(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022027324
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】医療用マニピュレータシステム並びにアダプタ装置
(51)【国際特許分類】
A61B 34/35 20160101AFI20220203BHJP
【FI】
A61B34/35
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020131253
(22)【出願日】2020-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093241
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 正昭
(74)【代理人】
【識別番号】100101801
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 英治
(74)【代理人】
【識別番号】100095496
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 榮二
(74)【代理人】
【識別番号】100086531
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】110000763
【氏名又は名称】特許業務法人大同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若菜 和仁
(57)【要約】
【課題】滅菌処理が施された術具と滅菌処理をしていない駆動部間での清潔領域と不潔領域の交錯を防止する医療用マニピュレータシステムを提供する。
【解決手段】医療用マニピュレータシステムは、先端に術具を備えた術具ユニットと、前記術具を駆動する駆動ユニットと、前記術具ユニットを前記駆動ユニットに装着するアダプタを具備する。前記アダプタは、前記駆動ユニットが生成する駆動力を前記術具ユニットに伝達する直動伝達部と、前記直動伝達部の前記術具ユニット側と前記駆動ユニット側を分離する防滴部を備える。前記防滴部は前記直動伝達部の前記術ユニット側と前記駆動ユニット側の間に空気室を有する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に術具を備えた術具ユニットと、
前記術具を駆動する駆動ユニットと、
前記術具ユニットを前記駆動ユニットに装着するアダプタと、
を具備し、
前記アダプタは、前記駆動ユニットが生成する駆動力を前記術具ユニットに伝達する直動伝達部と、前記直動伝達部の前記術具ユニット側と前記駆動ユニット側を分離する防滴部を備える、
医療用マニピュレータシステム。
【請求項2】
前記防滴部は、前記直動伝達部の前記術具ユニット側と前記駆動ユニット側の間に空気室を設ける構造によって分離する、
請求項1に記載の医療用マニピュレータシステム。
【請求項3】
前記防滴部は、それぞれ2つ折り構造からなる2個の弾性体を向き合わせて配置した構造を有し、前記直動伝達部で両端を繋ぐことで前記弾性体の間に前記空気室が形成される、
請求項2に記載の医療用マニピュレータシステム。
【請求項4】
前記空気室は一定の気圧に保たれている、
請求項2に記載の医療用マニピュレータシステム。
【請求項5】
前記駆動ユニットは、第1のリニアシャフトと、前記第1のリニアシャフトを直動動作するアクチュエータを備え、
前記アダプタは、前記直動伝達部としての第2のリニアシャフトを備え、
前記術具ユニットは、第3のリニアシャフトを備え、
前記アダプタを前記駆動ユニットに装着したときに前記第2のリニアシャフトは前記第1のリニアシャフトと結合し、前記術具ユニットを前記アダプタに装着したときに前記第3のリニアシャフトは前記第2のリニアシャフトと結合し、前記アクチュエータの駆動力を前記第1、第2、及び第3のリニアシャフトによって伝達して前記術具を駆動する、
請求項1に記載の医療用マニピュレータシステム。
【請求項6】
前記術具ユニットは、前記第3のリニアシャフトの動作を制限するロック装置をさらに備える、
請求項5に記載の医療用マニピュレータシステム。
【請求項7】
前記ロック装置は、前記第3のリニアシャフトの動作を制限するロック状態と前記制限を解除するアンロック状態を有する、
請求項6に記載の医療用マニピュレータシステム。
【請求項8】
前記ロック装置は、前記術具ユニットの前記アダプタへの装着が完了していないときはロック状態となる、
請求項7に記載の医療用マニピュレータシステム。
【請求項9】
前記術具ユニットは、前記第3のリニアシャフトと前記第2のリニアシャフト間の結合を誘導する誘導部を含む、前記アダプタの受容部を備える、
請求項5に記載の医療用マニピュレータシステム。
【請求項10】
前記誘導部は、前記第2のリニアシャフトの端部の引掛けピンが前記第3のリニアシャフトの端部の引掛け溝に引っ掛かる経路をたどるように、前記受容部及び前記アダプタの動作を誘導する、
請求項9に記載の医療用マニピュレータシステム。
【請求項11】
前記誘導部は、前記アダプタの外周に突設されたガイドピンを前記受容部に形成した溝の特定形状に沿わせることで前記誘導を行う、
請求項10に記載の医療用マニピュレータシステム。
【請求項12】
前記溝の終端に前記ガイドピンを引き込むロック溝を備える、
請求項11に記載の医療用マニピュレータシステム。
【請求項13】
前記駆動ユニットは、前記第1のリニアシャフトと前記第2のリニアシャフト間の結合を誘導する誘導部を含む、前記アダプタの受容部を備える、
請求項5に記載の医療用マニピュレータシステム。
【請求項14】
前記誘導部は、前記第2のリニアシャフトの端部の引掛けピンが前記第1のリニアシャフトの端部の引掛け溝に引っ掛かる経路をたどるように、前記受容部及び前記アダプタの動作を誘導する、
請求項13に記載の医療用マニピュレータシステム。
【請求項15】
前記誘導部は、前記アダプタの外周に突設されたガイドピンを前記受容部に形成した溝の特定形状に沿わせることで前記誘導を行う、
請求項14に記載の医療用マニピュレータシステム。
【請求項16】
前記溝の終端に前記ガイドピンを引き込むロック溝を備える、
請求項15に記載の医療用マニピュレータシステム。
【請求項17】
一端に駆動ユニットを装着するとともに他端に術具ユニットを装着し、
前記駆動ユニットが生成する駆動力を前記術具ユニットに伝達する直動伝達部と、
前記直動伝達部の前記術具ユニット側と前記駆動ユニット側を分離する防滴部と、
を具備するアダプタ装置。
【請求項18】
前記防滴部は、前記直動伝達部の前記術具ユニット側と前記駆動ユニット側の間に空気室を設ける構造によって分離する、
請求項17に記載のアダプタ装置。
【請求項19】
前記防滴部は、それぞれ2つ折り構造からなる2個の弾性体を向き合わせて配置した構造を有し、前記直動伝達部で両端を繋ぐことで前記弾性体の間に前記空気室が形成される、
請求項18に記載のアダプタ装置。
【請求項20】
前記直動伝達部として、両端が前記駆動ユニットの第1のリニアシャフト及び前記術具ユニットの第3のリニアシャフトとそれぞれ結合する第2のリニアシャフトを備える、
請求項17に記載のアダプタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する技術(以下、「本開示」とする)は、術具と術具を駆動する駆動部で構成される医療用マニピュレータシステム、並びに術具を駆動部に装着するアダプタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のロボティクス技術の進歩は目覚ましく、さまざまな産業分野の作業現場にロボティクス技術が広く浸透してきている。例えば医療分野では、手術用ロボットが普及しつつある。マスタスレーブ方式の手術用ロボットであれば、スレーブ装置が備える1又は複数の術具を、術者などのオペレータがマスタ側から操作するように構成されている。スレーブ装置は、多リンク構造からなる多関節アームとそのアームの先端に装着した術具や観察装置で構成され、術者などのオペレータがマスタ側から操作するように構成されている。術具として、鉗子や気腹チューブ、エネルギー処置具、攝子、レトラクタなどが挙げられる。観察装置として内視鏡や顕微鏡などが挙げられる。
【0003】
術具が体腔内や体表などにおける施術で使用されることから、術具の先端は多自由度を備えつつ細径で小型且つ軽量であることが強く望まれている。具体的には、術具先端は、回転2自由度と開閉自由度の合計3自由度以上を持っていることが望ましい。また、小型化のため、術具先端の操作にはワイヤを用いた駆動方式が適用されることが多い。
【0004】
また、術具が体腔に直接接触することから、使用に先立って滅菌処理を施しておく必要がある。滅菌処理の方式としては、高温高圧の飽和水蒸気によって微生物の滅菌を行う高圧蒸気滅菌(オートクレーブ滅菌)や酸化エチレンガス(EOG)を用いたアルキル化によって微生物の滅菌を行うEOGガス滅菌などの各種の方式が存在する。通常、アームやアームの先端を駆動する駆動部は滅菌処理に耐え得る構造ではないことが多い。このため、術具などの滅菌処理が必要な部分と駆動部などの滅菌処理に耐え得る構造をしていない部分から分離して滅菌処理を行うようにしている。しかしながら、アームの先端に滅菌処理が施された術具を装着する場合、装着時や手術中に術具を駆動させる際などに、滅菌処理が行われている清潔領域と滅菌処理が行われていない不潔領域とが交錯して清潔領域が汚染されてしまうおそれがある。
【0005】
例えば、無菌外科手術アダプタが提案されている(特許文献1を参照のこと)。この無菌外科手術アダプタは、4自由度の術具をアームから切り離す構造であるが、術具側のキャプスタンとアーム側のキャプスタンを防滴ベアリングで接続することで清潔領域と不潔領域を分離するように構成されている。しかしながら、この無菌外科手術アダプタで接続される術具は、回転機構を含むため、術具側の近位端が大型化してしまう。
【0006】
また、蛇腹形状の接続部により清潔領域と不潔領域を分離してつなぐ動力伝達アダプタが提案されている(特許文献2を参照のこと)。この動力伝達アダプタを用いて術具と駆動部を接続する場合、接続部の蛇腹が術具の直動動作を阻害することや、術具を取り外した際にワイヤが弛むことが懸念される。
【0007】
また、滅菌処理が施される清潔領域に接触する第1の部位と滅菌処理が施されない不潔領域に接触する第2の部位とを有するロッド222a、222bを備え、ロッド222a、222bが直動運動しても第1の部位が清潔領域に位置し、且つ、第2の部位が不潔領域に位置するように、ロッド222a、222bの直動運動の範囲を設定して、清潔領域と不潔領域との交錯を防止する手術用動力伝達アダプタが提案されている(特許文献3を参照のこと)。この手術用動力伝達アダプタは、はめあい公差のみで防滴を行う構造であるため、部品の製作や組み立てが容易でなく、完全に防滴を行えないことが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-91331号公報
【特許文献2】特開2018-143426号公報
【特許文献3】特開2012-55377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示の目的は、術具と術具を駆動する駆動部で構成され、滅菌処理が施された術具と滅菌処理をしていない駆動部間での清潔領域と不潔領域の交錯を防止する医療用マニピュレータシステム、並びに清潔領域と不潔領域の交錯を防止して術具を駆動部に装着するアダプタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、上記課題を参酌してなされたものであり、その第1の側面は、
先端に術具を備えた術具ユニットと、
前記術具を駆動する駆動ユニットと、
前記術具ユニットを前記駆動ユニットに装着するアダプタと、
を具備し、
前記アダプタは、前記駆動ユニットが生成する駆動力を前記術具ユニットに伝達する直動伝達部と、前記直動伝達部の前記術具ユニット側と前記駆動ユニット側を分離する防滴部を備える、
医療用マニピュレータシステムである。
【0011】
前記防滴部は、それぞれ2つ折り構造からなる2個の弾性体を向き合わせて配置した構造を有する。前記直動伝達部で両端を繋ぐことで、前記直動伝達部の前記術具ユニット側と前記駆動ユニット側の間に空気室を設けて、前記術具ユニット側と前記駆動ユニット側を分離する。
【0012】
また、本開示の第2の側面は、
一端に駆動ユニットを装着するとともに他端に術具ユニットを装着し、
前記駆動ユニットが生成する駆動力を前記術具ユニットに伝達する直動伝達部と、
前記直動伝達部の前記術具ユニット側と前記駆動ユニット側を分離する防滴部と、
を具備するアダプタ装置である。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、術具と駆動部とを接続するアダプタによって清潔領域と不潔領域を分離する医療用マニピュレータシステム、並びに清潔領域と不潔領域を分離した状態で術具と駆動部とを接続するアダプタ装置を提供することができる。
【0014】
なお、本明細書に記載された効果は、あくまでも例示であり、本開示によりもたらされる効果はこれに限定されるものではない。また、本開示が、上記の効果以外に、さらに付加的な効果を奏する場合もある。
【0015】
本開示のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、手術支援システム100の機能的構成例を示した図である。
【
図2】
図2は、医療用アーム装置110の外観構成例を示した図である。
【
図3】
図3は、手術用操作装置300の外観構成例を示した図である。
【
図4】
図4は、術具ユニット400の構成例を示した図である。
【
図5】
図5は、具ユニット400の先端部401を拡大して示した図である。
【
図6】
図6は、術具ユニット400の自由度構成例を示した図である。
【
図7】
図7は、リストエレメントWEの第1軸回りの動作例を示した図である。
【
図8】
図8は、エンドエフェクタの第2軸回りの動作例を示した図である。
【
図9】
図9は、エンドエフェクタの第2軸回りの動作例を示した図である。
【
図10】
図10は、術具装置1000の構成例を示した図である。
【
図11】
図11は、術具装置1000の構成例を示した図である。
【
図12】
図12は、術具装置1000の断面を示した図である。
【
図13】
図13は、術具装置1000の断面を示した図である。
【
図14】
図14は、装着直後のアダプタ1002付近の断面を拡大して示した図である。
【
図15】
図15は、動作時のアダプタ1002付近の断面を拡大して示した図である。
【
図16】
図16は、アダプタ1002の断面(装着直後)を示した図である。
【
図17】
図17は、アダプタ1002の断面(動作状態)を示した図である。
【
図18】
図18は、アダプタ1002の断面(装着直後)を示した図である。
【
図19】
図19は、アダプタ1002の断面(動作状態)を示した図である。
【
図20】
図20は、アダプタ1002の断面(動作状態)を示した図である。
【
図21】
図21は、リニアシャフトBの長手軸方向の移動に伴う空気室の変化を示した図である。
【
図22】
図22は、リニアシャフトBの長手軸方向の移動に伴う空気室の変化を示した図である。
【
図23】
図23は、リニアシャフトBの長手軸方向の移動に伴う空気室の変化を示した図である。
【
図24】
図24は、アダプタ1002の外観構成例を示した図である。
【
図25】
図25は、リニアシャフトCの後端部分の形状とリニアシャフトBの先端部分の形状を示した図である。
【
図26】
図26は、ロック装置2600の外観(正面、側面、背面、及び立体視)を示した図である。
【
図27】
図27は、ロックオフ状態のロック装置2600の外観構成を示した図である。
【
図28】
図28は、ロックオフ状態のロック装置2600の外観構成を示した図である。
【
図29】
図29は、ロックオン状態のロック装置2600の外観構成を示した図である。
【
図30】
図30は、ロックオン状態のロック装置2600の外観構成を示した図である。
【
図31】
図31は、ロックオン状態のロック装置2600の断面を示した図である。
【
図32】
図32は、駆動ユニット1003にアダプタ1002を装着する手順を示した図である。
【
図33】
図33は、駆動ユニット1003にアダプタ1002を装着する手順を示した図である。
【
図34】
図34は、駆動ユニット1003にアダプタ1002を装着する手順を示した図である。
【
図35】
図35は、駆動ユニット1003にアダプタ1002を装着する手順を示した図である。
【
図36】
図36は、アダプタ1002に術具ユニット1001を装着する手順を示した図である。
【
図37】
図37は、アダプタ1002に術具ユニット1001を装着する手順を示した図である。
【
図38】
図38は、アダプタ1002に術具ユニット1001を装着する手順を示した図である。
【
図39】
図39は、アダプタ1002に術具ユニット1001を装着する手順を示した図である。
【
図40】
図40は、アダプタ1002から術具ユニット1001を取り外す手順を示した図である。
【
図41】
図41は、アダプタ1002から術具ユニット1001を取り外す手順を示した図である。
【
図42】
図42は、アダプタ1002から術具ユニット1001を取り外す手順を示した図である。
【
図43】
図43は、アダプタ1002から術具ユニット1001を取り外す手順を示した図である。
【
図44】
図44は、駆動ユニット1003からアダプタ1002を取り外す手順を示した図である。
【
図45】
図45は、駆動ユニット1003からアダプタ1002を取り外す手順を示した図である。
【
図46】
図46は、駆動ユニット1003からアダプタ1002を取り外す手順を示した図である。
【
図47】
図47は、駆動ユニット1003からアダプタ1002を取り外す手順を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本開示について、以下の順に従って説明する。
【0018】
A.手術支援システム(
図1)
B.医療用アーム装置の外観構成 (
図2)
C.手術用操作ユニットの外観構成(
図3)
D.術具ユニットの駆動機構(
図4~
図9)
E.防滴アダプタを利用した術具装置
E-1.術具装置の全体構成(
図10~
図11)
E-2.アダプタの直動伝達構造(
図12~
図15)
E-3.アダプタの防滴構造(
図16~
図25)
E-4.術具ユニットのロック装置(
図26~
図31)
F.脱着手順
F-1.アダプタの駆動ユニットへの装着(
図32~
図35)
F-2.術具ユニットのアダプタへの装着(
図36~
図39)
F-3.術具ユニットのアダプタからの取り外し(
図40~
図43)
F-4.アダプタの駆動ユニットからの取り外し(
図44~
図47)
G.変形例
G-1.直動伝達機構の本数について
G-2.ロック装置について
G-3.アダプタについて
G-4.アクチュエータについて
G-5.術具ユニットの識別
G-6.運用について
H.効果
【0019】
A.手術支援システム
図1には、本開示を適用可能な手術支援システム100の機能的構成例を模式的に示している。図示の手術支援システム100は、医療用アーム装置110と、制御装置120と、入力装置130で構成される。手術支援システム100がマスタスレーブ方式の手術用ロボットの場合、入力装置130は術者などのオペレータが操作するコントローラ、制御装置120はオペレータの操作に基づいてスレーブ装置に対する指令を出力するマスタ装置、医療用アーム110はマスタ装置から出力される指令に従って動作するスレーブ装置に相当する。
【0020】
医療用アーム装置110は、例えば多リンク構造からなる多関節アームとそのアームの先端に装着した術具で構成される、「医療用マニピュレータシステム」である。アームは、先端部の位置及び姿勢を決める3以上の自由度を備えている。また、先端の術具は、例えば鉗子であり、回転2自由度と開閉自由度を含む合計3自由度以上の自由度を備えている。術具が体腔内や体表などにおける施術で使用されることから、小型化のため、術具先端の操作にはワイヤを用いた駆動方式が適用される。但し、術具の詳細な構造については後述に譲る。
図1では、医療用アーム装置110の機能を抽象化して、リンク間を接続する関節並びに術具の関節を能動関節部111と受動関節部112の2種類に分類し、且つ、センサ部113で構成されるものとする。
【0021】
能動関節部111は、関節を駆動させる回転モータなどのアクチュエータ111Aと、関節に作用するトルクを検出するトルクセンサ111Bと、関節の回転角を計測するエンコーダ111Cを備えている。また、受動関節部112は、関節角度を計測するエンコーダ112Aを備えている。センサ部113は、IMU(Inertial Measurement Unit)や、ロボットアームの先端に取り付けられた医療用器具に作用する接触力を検出する接触センサなど、関節部以外に配置される各種センサを含んでいる。
【0022】
制御装置120は、術者などのオペレータが入力装置130を介して入力する指示に基づいて医療用アーム装置110の目標動作を生成して、位置制御や力制御などの所定の制御方式に従って医療用アーム装置110の駆動を制御する。具体的には、制御装置120は、所定の制御方式に従って能動関節部111のアクチュエータ111Aの制御量を計算して駆動信号を供給するとともに、トルクセンサ111Bやエンコーダ111C、センサ部113からのセンサ信号に基づいてアクチュエータ111Aをフィードバック制御する。制御装置120は、例えばCPU(Central Processing UJnit)などのプロセッサ及びそのローカルメモリなどで構成され、プロセッサがローカルメモリにロードした所定のプログラムを実行する。
【0023】
制御装置120と医療用アーム装置110間は、電気信号の通信に対応した電気信号ワイヤ、光通信に対応した光ファイバ、又はこれらの複合ワイヤ、あるいは無線で接続されていてもよい。
【0024】
B.医療用アーム装置の外観構成
図2には、本開示が適用される医療用アーム装置110の外観構成例を示している。図示の医療用アーム装置110は、多リンク構造からなるアーム210と、そのアーム201の遠位端に支持された先端部220で構成される。
【0025】
先端部220は、術具ユニット221と、術具ユニット221を駆動する駆動ユニット222を備えている。小型化のため、術具ユニット221の操作にはワイヤを用いた駆動方式が適用される。したがって、駆動ユニット222内のアクチュエータが発生する駆動力は、ワイヤ(図示しない)を使って術具ユニット221に伝達される。術具ユニット221が例えば鉗子の場合、回転2自由度と開閉自由度を含む合計3自由度を持つ。また、駆動ユニット222は、各自由度に対応した3個のアクチュエータを装備することになる。術具ユニット221及び駆動ユニット222の駆動機構の詳細については後述する。
【0026】
本開示では、術具ユニット221は交換可能であることを想定している。術具ユニット221は、体腔に直接接触することから、使用に先立って滅菌処理を施しておく必要がある。一方、駆動ユニット222は滅菌処理に耐え得る構造ではない。このため、術具ユニット221を駆動ユニット222から分離して滅菌処理を行うようにしている。また、本開示では、術具ユニット221を駆動ユニット222に装着して駆動させる際などに清潔領域と不潔領域を分離した状態を保つために、直動伝達機構を備えた防滴アダプタを介して術具ユニット221を駆動ユニット222に装着するように構成されている。
図2では図面の簡素化のため防滴アダプタの図示を省略している。防滴アダプタの詳細については後述する。
【0027】
なお、アーム210は、極座標型ロボット、円筒座標型ロボット、直角座標系型ロボット、垂直多関節型ロボット、水平多関節型ロボット、パラレルリンク型ロボット、RCM(Remote Center of Motion)型ロボットなどのうちいずれの機構型のロボットであってもよい。また、機構のコンパクト性やトロッカー箇所でのピボット動作生成の容易性などの観点から、アーム210として、垂直多関節型や、駆動回転中心から離れた位置に遠隔回転中心を配置してピボット(不動点)運動を実現するRCM(Remote Center of Motion)型のアームを用いてもよい。
【0028】
C.手術用操作装置の外観構成
本開示に係る、清潔領域と不潔領域を分離して術具と駆動部を接続するアダプタは、医療用アーム装置(
図2を参照のこと)だけではなく、術者が手に持って操作する手術用操作装置にも適用することができる。
図3には、本開示が適用される手術用操作装置300の外観構成例を示している。図示の手術用操作装置300は、ユーザ(術者)が直接手に持って操作するハンドル部310と、そのハンドル部310の遠位端に支持された先端部320で構成される。
【0029】
先端部320は、術具ユニット321と、術具ユニット321を駆動する駆動ユニット322を備えている。小型化のため、術具ユニット321の操作にはワイヤを用いた駆動方式が適用される。したがって、駆動ユニット322内のアクチュエータが発生する駆動力は、ワイヤ(図示しない)を使って術具ユニット321に伝達される。術具ユニット321が例えば鉗子の場合、回転2自由度と開閉自由度を含む合計3自由度を持つ。また、駆動ユニット322は、各自由度に対応した3個のアクチュエータを装備することになる。術具ユニット321及び駆動ユニット322の駆動機構の詳細については後述する。
【0030】
ハンドル部310は、例えば、術具ユニット321の姿勢を任意の方向に指示するための、親指で操作可能なジョイスティック311を備えてもよい。また、ハンドル部310は、術具ユニット321の開閉操作を指示するための、人差し指で操作可能なボタン312を備えてもよい。ハンドル部310内には、コントローラ(図示しない)が搭載されている。このコントローラは、ジョイスティック311やボタン312の操作量に応じた術具ユニット321の自由度毎の回転角度や開閉角度を演算し、これを各モータの回転量に換算して、術具ユニット駆動部322への制御信号を出力する。
【0031】
本開示では、術具ユニット321は交換可能であることを想定している。術具ユニット321は、体腔に直接接触することから、使用に先立って滅菌処理を施しておく必要がある。一方、駆動ユニット322は滅菌処理に耐え得る構造ではない。このため、術具ユニット321を駆動ユニット322から分離して滅菌処理を行うようにしている。また、本開示では、術具ユニット321を駆動ユニット322に装着して駆動させる際などに清潔領域と不潔領域を分離した状態を保つために、直動伝達機構を備えた防滴アダプタを介して術具ユニット321を駆動ユニット322に装着するように構成されている。
図3では図面の簡素化のため防滴アダプタの図示を省略している。防滴アダプタの詳細については後述する。
【0032】
D.術具ユニットの駆動機構
本開示が適用される術具ユニットは、例えば鉗子であり、回転2自由度と開閉自由度を含む合計3自由度以上の自由度を備えており、駆動ユニットで生成される駆動力を用いて駆動する。また、小型化のため、術具ユニットの操作にはワイヤを用いた駆動方式が適用され、駆動ユニットはワイヤを介して術具ユニットを牽引する。この項では、ワイヤ駆動方式による術具ユニットの駆動機構について説明する。
【0033】
図4には、本開示が適用される術具ユニット400の構成例を示している。術具ユニット400は、最先端部に1対の対向するジョー部材からなる開閉機構401を備えている。術具ユニット400は、長手軸を有する中空のシャフト402を介して、3個のアクチュエータからなる駆動ユニット403と結合している。なお、術具ユニット400は、シャフト402の中間付近に設けられた防滴アダプタ(図示しない)を介して、清潔領域と不潔領域を分離した状態で駆動ユニット403と着脱可能となっている。但し、防滴アダプタの構造についてはこの項では説明しない。
【0034】
術具ユニット400は、後述するように、シャフト402に対しヨー軸と平行な第1軸回りに旋回可能なリストエレメントWEと、リストエレメントWEの先端にピッチ軸と平行な第2軸を開閉軸として開閉動作するエンドエフェクタを含んでいる。但し、第2軸は第1軸からオフセットさせた位置に配置されている。エンドエフェクタは、第2軸を中心に旋回して開閉動作する一対の対向するジョー部材からなる。また、駆動ユニット403は、術具ユニット400におけるリストを駆動する1個のアクチュエータと、各ジョー部材をそれぞれ駆動する2個のアクチュエータを備えている。これらのアクチュエータは、図示しないベース部材によってシャフト402の後端(近位端)付近に取り付けられている。
【0035】
図5には、術具ユニット400の先端部401を拡大して示している。また、
図6には、術具ユニット400の自由度構成例を示している。
【0036】
術具ユニット400の先端部401は、リストエレメントWEと開閉型のエンドエフェクタを含んでおり、エンドエフェクタは第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2の一対の対向するジョー部材からなる。リストエレメントWEは根元付近で、シャフト402の先端(遠位端)の、ヨー軸と平行な第1軸回りに旋回可能に支持されている。また、第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2は、リストエレメントWEの先端の、ピッチ軸と平行な第2軸回りに旋回可能に支持されている。第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2は、第2軸を開閉軸として開き角度が変化して開閉動作する。
【0037】
駆動ユニット403は、第1のジョー部材J1の駆動に使用される第1のモータM1と、第2のジョー部材J2の駆動に使用される第2のモータM2と、リストエレメントWEの駆動に使用されるモータM3を備えている。これらのモータM1~M3の各出力軸には、駆動キャプスタンとしてのモータキャプスタンMC1、MC2、MC3が取り付けられている。そして、これらのモータM1~M3は、図示しないベース部材によってシャフト402の端部(近位端)で支持されている。
【0038】
リストエレメントWEの根元付近には、第1軸を回転軸とするリストキャプスタンWCが形設されている。また、リストキャプスタンWCと第3のモータキャプスタンMC3には、シャフト402内に挿通された第3のワイヤが巻き付けられている。そして、第3のモータM3が発生する駆動力が第3のワイヤ3によって伝達され、リストエレメントWEの第1軸回りの旋回動作を実現する。
【0039】
図6に示す例では、第3のワイヤは、往路のワイヤC3aと復路のワイヤC3bからなるが、駆動側となる第3のモータキャプスタンMC3と出力側となるリストキャプスタンWCにループさせたワイヤループ型の構成をなしている。第2のモータM3を回転させると、その回転方向に応じて、往路のワイヤC3aと復路のワイヤC3bの間に張力の差が生じるので、張力差に基づく回転トルクがリストキャプスタンWCに作用して、リストエレメントWEが第1軸回りに旋回する。したがって、第3のモータM3で往路のワイヤC3aと復路のワイヤC3bを拮抗制御することにより、リストエレメントWEを第1軸回りに旋回動作させることができる。ワイヤC3aとワイヤC3bからなる第3のワイヤには、撓み防止のために、例えば
図4に示すように、ワイヤC3b側に予張力(pre-tension)を与えるテンションばねTS3が挿入されている。但し、予張力は追加のアイドラプーリを使って与えるように構成してもよい。
【0040】
第1のジョー部材J1は、第2軸回りに旋回可能となるように、根元付近でリストエレメントWEに支持されている。同様に、第2のジョー部材J2は、第2軸回りに旋回可能となるように、根元付近でリストエレメントWEに支持されている。したがって、第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2の開き角が増大又は減少するように(言い換えれば、第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2の第2軸回りの角度の差が変化するように)、各々を第2軸回りに旋回させることによって、エンドエフェクタの開閉動作が実現する。また、第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2の開き角を一定に保ったまま(言い換えれば、第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2の第2軸回りの角度の和が変化するように)、両者を同時に第2軸回りに旋回させることによって、第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2からなるエンドエフェクタの第2軸回りの旋回動作が実現する。
【0041】
第1のジョー部材J1の根元付近には、上記の第2軸を回転軸とする第1のジョーキャプスタンJC1が形設されている。そして、第1のジョーキャプスタンJC1と第1のモータキャプスタンMC1には、第1のワイヤC1が巻き付けられており、第1のモータM1が発生する駆動力が第1のワイヤC1によって伝達され、第1のジョー部材J1の第2軸回りの旋回動作が実現する。また、第2のジョー部材J2の根元付近には、上記の第2軸を回転軸とする第2のジョーキャプスタンJC2が形設されている。そして、第2のジョーキャプスタンJC2と第2のモータキャプスタンMC2には、第2のワイヤC2が巻き付けられており、第2のモータM2が発生する駆動力が第2のワイヤC2によって伝達され、第2のジョー部材J2の第2軸回りの旋回動作が実現する。
【0042】
ここで、第1のワイヤC1と第2のワイヤC2は、互いに逆方向から、それぞれ第1のジョーキャプスタンJC1及び第2のジョーキャプスタンJC2に巻き付けられている。具体的には、第1のワイヤC1は、牽引したときに、第1のジョー部材J1が第2のジョー部材J2に接近する方向に旋回するように、第1のジョーキャプスタンJC1に巻き付けられる。また、第2のワイヤC2は、牽引したときに、第2のジョー部材J2が第1のジョー部材J1に接近する方向に旋回するように、第2のジョーキャプスタンJC2に巻き付けられている。したがって、第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2の第2軸回りの角度の差が変化するように、第1のモータM1及び第2のモータM2によって第1のワイヤC1と第2のワイヤC2の牽引力を制御することで、エンドエフェクタの開閉動作を行うことができる。また、第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2の第2軸回りの角度の和が変化するように第1のモータM1及び第2のモータM2によって第1のワイヤC1と第2のワイヤC2の牽引力を制御することで、エンドエフェクタを第2軸回りに旋回動作させることができる。
【0043】
第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2の間には、常に開く方向へ反発力が作用するようにスプリングSPが配設されている。スプリングSPには、ねじりコイルばねを用いることが好ましい。スプリングSPは、第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2の最大の開き角度においても反発力が作用する自然長を有するものとする。但し、スプリングSPの実装方法は特に限定されないので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0044】
第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2の間には、スプリングSPの復元力によって反発力が作用し、常に開く方向にプリテンションが作用している。したがって、第1のジョー部材J1を1本の(言い換えれば、往路のみの)第1のワイヤC1を使い第1のモータM1で閉じる方向に牽引するとともに、第2のジョー部材J2を1本の(言い換えれば、往路のみの)第2のワイヤC2を使い第2のモータM2で閉じる方向に牽引すると、第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2を閉じることができる。また、第1のモータM1及び第2のモータM2による牽引を停止すると、スプリングSPの復元力によって、第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2は自ずと開く。すなわち、第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2を開く動作はスプリングSPの弾性力によって行なわれるので、ジョー部材を開くための復路のワイヤは不要である。
【0045】
図5及び
図6を参照すると、第1のジョーキャプスタンJC1に取り付けられた第1のワイヤC1は、第2軸に直交する方向に牽引されるが、第1軸を回転軸とする第1のアイドラプーリP1aによって第1軸に直交する方向に方向変換される。さらに、第1のアイドラプーリP1aに隣接し、第1軸と平行な回転軸を持つ第1の隣接アイドラプーリP1bによって、第1のワイヤC1は、シャフト402内を挿通するとともにシャフト402の長手軸方向に方向変換された後、他端で第1のモータキャプスタンMC1に巻き付けられている。
【0046】
第1のワイヤC1は、第1のアイドラプーリP1aに対して最短距離となる方向から巻き付けられている。また、第1のワイヤC1を牽引したとき、第1のアイドラプーリP1aと第1の隣接アイドラプーリP1bが逆方向に回転するように、第1のワイヤC1が巻き付けられている。そして、第1のモータM1で第1のモータキャプスタンMC1を回転させて、第1のワイヤC1の牽引力を発生させると、第1のジョー部材J1に第2軸回りのトルクを加えて、第2のジョー部材J2に接近する方向(閉じる方向)に旋回させることができる。
【0047】
また、
図5及び
図6を参照すると、第2のジョーキャプスタンJC2に取り付けられた第2のワイヤC2は、第2軸に直交する方向に牽引されるが、第1軸を回転軸とする第2のアイドラプーリP2aによって第1軸に直交する方向に方向変換される。さらに、第2のアイドラプーリP2aに隣接し、第1軸と平行な回転軸を持つ第2の隣接アイドラプーリP2bによって、第2のワイヤC2は、シャフト402内を挿通するとともにシャフト402の長手軸方向に方向変換された後、他端で第2のモータキャプスタンMC2に巻き付けられている。
【0048】
第2のワイヤC2は、第2のアイドラプーリP2aに対して最短距離となる方向から巻き付けられている。また、第2のワイヤC2を牽引したとき、第2のアイドラプーリP2aと第2の隣接アイドラプーリP2bが逆方向に回転するように、第2のワイヤC2が巻き付けられている。ここで、第2のワイヤC2を第2のアイドラプーリP2aに巻き付ける方向は、第1のワイヤC1を第1のアイドラプーリP1aに巻き付ける方向とは逆方向となる。そして、第2のモータM2で第2のモータキャプスタンMC2を回転させて、第2のワイヤC2の牽引力を発生させると、第2のジョー部材J2に第2軸回りのトルクを加えて、第1のジョー部材J1に接近する方向(閉じる方向)に旋回させることができる。
【0049】
第1のワイヤC1及び第2のワイヤC2をシャフト402内に挿通させる手前(すなわち、第1軸付近)でそれぞれ方向変換させるためのアイドラプーリが、第1のワイヤC1はシャフト402内を通過した後に、アイドラプーリP1cを経由して方向変換され、末端部で第1のモータキャプスタンMC1に巻き付けられている。同様に、第2のワイヤC2はシャフト402内を通過した後に、アイドラプーリP2cを経由して方向変換され、末端部で第1のモータキャプスタンMC1に巻き付けられている。
【0050】
また、
図4に示すように、第1のワイヤC1と第2のワイヤC2は、それぞれ第1のモータキャプスタンMC1及び第2のモータキャプスタンMC2に巻き付いた後、テンションばねTS1を介して結合されている。したがって、第1のワイヤC1と第2のワイヤC2には、テンションばねTS1の復元力による予張力が与えられている。
【0051】
続いて、術具ユニット400の先端部401の具体的な動作方法について説明する。
【0052】
第1軸における動作:
往路のワイヤC3a及び復路のワイヤC3bを含む第3のワイヤは、第3のモータキャプスタンMC3とリストキャプスタンWCにループを描くように巻き付けられている。第3のモータM3で第3のモータキャプスタンMC3を回転させると、第3のワイヤに牽引力が発生して、リストキャプスタンWCを第1軸回りに回転させることができる。これによって、リストエレメントWE及びリストエレメントWEに搭載されたエンドエフェクタを、第1軸回りに旋回させることができる。
【0053】
第2軸における動作:
第1のジョー部材J1の第2軸回りの角度と第2のジョー部材J2の第2軸回りの角度の平均値をエンドエフェクタの第2軸回りの角度とする。第1のジョーキャプスタンJC1及び第2のジョーキャプスタンJC2を同じ方向に同じ速度で回転することで、エンドエフェクタの第2軸回りの旋回動作が生成される。
【0054】
エンドエフェクタの動作:
エンドエフェクタは、第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2の一対の対向するジョー部材からなる。第1のジョー部材J1と第2のジョー部材J2の開き角度をエンドエフェクタの開閉角度とする。第1のモータキャプスタンMC1と第2のモータキャプスタンMC2を反対方向に同じ速度で回転させることで、エンドエフェクタの開閉動作が生成される。
【0055】
図7には、リストエレメントWEの第1軸回りの動作例を示している。但し、同図は、術具ユニット先端部101を第1軸に平行な方向から眺めた図である。同図に示すように、リストキャプスタンWCのプーリ半径をR
ψとし、リストエレメントWEの第1軸回りの旋回角度をψとする。
【0056】
また、
図8及び
図9には、エンドエフェクタの第2軸回りの動作例を示している。但し、各図は、術具ユニット先端部101を第2軸に平行な方向から眺めた図である。各図に示すように、第1のジョーキャプスタンJC1及び第2のジョーキャプスタンJC2のプーリ半径をともにR
θとし、第1のジョー部材J1の第2軸回りの旋回角度をθ
g1とし、第2のジョー部材J2の第2軸回りの旋回角度をθ
g2とし、エンドエフェクタの開き角度をαとし、エンドエフェクタの第2軸回りの旋回角度をθとする。
【0057】
また、図示を省略するが、第1のモータキャプスタンMC1及び第2のモータキャプスタンMC2のプーリ半径をともにRm12とし、第3のモータキャプスタンMC3のプーリ半径をRm3とし、第1のモータM1の回転角度をφm1とし、第2のモータM2の回転角度をφm2とし、第3のモータM3の回転角度をφm3とする。
【0058】
すると、リストエレメントWEの第1軸回りの旋回角度ψ、エンドエフェクタの第2軸回りの旋回角度θ、及び、エンドエフェクタの開き角度αは、それぞれ下式(1)~(3)のように表される。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
また、第1のジョー部材J1の第2軸回りの旋回角度θg1と、第2のジョー部材J2の第2軸回りの旋回角度θg2は、それぞれ下式(4)及び(5)のように表される。
【0063】
【0064】
【0065】
上式(1)~(5)から分かるように、リストエレメントWEの第1軸回りの旋回角度φに対して、第1のジョー部材J1及び第2のジョー部材J2の第2軸回りの旋回角度θg1及びθg12は影響しない。他方、第1のジョー部材J1及び第2のジョー部材J2の第2軸回りの旋回角度θg1及びθg12に対して、リストエレメントWEの第1軸回りの旋回角度φは影響する。したがって、リストエレメントWEの第1軸回りの旋回角度φの影響を補償するように制御することで、目的のエンドエフェクタの第2軸回りの旋回角度θ及び開き角度αを実現することができる。
【0066】
要するに、第3のモータM3の回転角度φm3を制御することによって、リストエレメントWEの第1軸回りの旋回動作を制御することができる。また、第1のモータM1、第2のモータM2、及び第3のモータM3の各回転角度φm1、φm2、φm3を制御することで、エンドエフェクタの第2軸回りの旋回動作及び開閉動作を制御することができる。
【0067】
E.防滴アダプタを利用した術具装置
上記D項で説明したように、術具ユニットは、トロッカー経由で体腔内に挿入して使用されることを考慮して、先端を小型化するとともに、アームの近位端に配置した駆動ユニット内のアクチュエータによって生成された駆動力を、中空のシャフト内に挿通されたワイヤ経由で伝達して、術具を作動させるように構成される。
【0068】
また、術具が体腔に直接接触することから、使用に先立って滅菌処理を施しておく必要があるが、駆動ユニットは滅菌処理に耐え得る構造をしていない。そこで、本開示では、シャフトの中間付近に設けたアダプタを介して、術具ユニットを駆動ユニットから着脱する構造としている。したがって、本開示に係るアダプタを介して、術具ユニットを駆動ユニットから取り外して、滅菌処理を行うことができる。ワイヤなどの直動伝達機構を使って駆動ユニットが術具ユニットを駆動することから、本開示に係るアダプタは、駆動力を直動伝達する構造を備えた接続装置である。
【0069】
さらに、本開示に係るアダプタは、滅菌処理が施された術具ユニットを装着する際や、先端のジョー部材などの術具を駆動させる間に、清潔領域と不潔領域を分離した状態を保つように、防滴構造を備えている。以上をまとめると、本開示に係るアダプタは、防滴構造及び直動伝達構造を備えた接続装置である。
【0070】
E-1.術具装置の全体構成
図10には、本開示を適用した術具装置1000の構成例を示している。術具装置1000は、先端(遠位端)から順に、術具ユニット1001と、アダプタ1002と、駆動ユニット1003で構成される。
図10に示す例では、術具ユニット1001は、1対のジョー部材などからなるエンドエフェクタと、エンドエフェクタを支持する中空のシャフトで構成され、シャフトの内部にはワイヤなどの直動伝達機構(図示しない)が挿通される。そして、術具ユニット1001は、シャフトの根元部(又は、近位端)で、アダプタ1002を介して駆動ユニット1003に接続されている。また、
図11には、術具装置1000の分解図を示している。
図11に示す例では、術具ユニット1001と、アダプタ1002と、駆動ユニット1003を、シャフトの長手軸方向に分離して描いている。
【0071】
アダプタ1002は、駆動ユニット1003で生成される駆動力を術具ユニット1001に伝達する直動伝達構造と、術具ユニット1001側の清潔領域と、駆動ユニット1003側の不潔領域を分離した状態を保つための防滴構造を備えている。また、駆動ユニット1003側の不潔領域を覆う(又は、術具ユニット1001側の清潔領域を隔離する)ために、ドレープ1004が使用されている。アダプタ1002とドレープ1004は一体、あるいはアダプタ1002とドレープ1004の間隙はなく、不潔領域の物質が清潔領域に浸み込んで汚染することはないものとする。術具ユニット1001は、滅菌処理により複数回再利用可能であってもよい。また、アダプタ1002とドレープ1004は1回の手術で使い捨てであってもよい。
【0072】
E-2.アダプタの直動伝達構造
図12には、アダプタ1002を介して術具ユニット1001を駆動ユニット1003に装着した状態での術具装置1000の断面を示している。また、
図13には、術具ユニット1001、アダプタ1002、及び駆動ユニット1003を分離した状態での術具装置1000の断面を示している。但し、シャフトの長手軸と平行な面で切断した断面とする。
図12及び
図13を参照しながら、アダプタ1002の直動伝達構造について説明する。なお、上記D項では、シャフト内には4本のワイヤ(C1、C2、C3a及びC3b)を挿通させて術具を駆動する構成例について説明したが、以下では図面の錯綜を防ぐために、ワイヤの本数を2本にして説明する。実際に使用するワイヤ本数に応じて同様の直動伝達構造を追加すればよい。
【0073】
ワイヤ毎に、駆動ユニット1003内の対応するアクチュエータによって長手方向に動作するリニアシャフトAと、リニアシャフトAに対応するアダプタ1002内のリニアシャフトBと、リニアシャフトBに対応する術具ユニット1001内のリニアシャフトCが配設される。リニアシャフトCの先端は、対応するワイヤの端部と結合している。術具ユニット1001は、後端(又は、近位端)のアダプタ1002との接合部分にロック装置を備えている。ロック装置は、リニアシャフトCの位置を固定し、且つ固定を解除する機能を備えている。ロック装置の詳細については後にE-4項で詳細に説明する。
【0074】
図12に示すように、駆動ユニット1003にアダプタ1002を取り付けると、リニアシャフトAの先端の突起部とリニアシャフトBの後端の受容部が結合し、アダプタ1002に術具ユニット1001を取り付けると、リニアシャフトBの先端の受容部とリニアシャフトCの後端の突起部が結合する。したがって、アダプタ1002を介して術具ユニット1001を駆動ユニット1003に装着した状態では、リニアシャフトA~Cは一体となってシャフトの長手軸方向に駆動される。駆動ユニット1003内のアクチュエータを駆動すると、リニアシャフトA~Cを通じて、対応するワイヤに牽引力を直動伝達することができる。なお、術具ユニット1001、アダプタ1002、及び駆動ユニット1003の脱着手順の詳細については、後に詳細に説明する。
【0075】
図14には、装着直後すなわち術具ユニット1001と駆動ユニット1003を装着した状態でのアダプタ1002付近の断面を拡大して示している。図示の断面上には、2個のアクチュエータ1401及び1402が示されている。各アクチュエータ1401及び1402の出力軸にはリニアシャフトAがそれぞれ取り付けられている。そして、駆動ユニット1003にアダプタ1002を取り付けると、リニアシャフトAの先端とリニアシャフトBの後端が結合し、アダプタ1002に術具ユニット1001を取り付けると、リニアシャフトBの先端とリニアシャフトCの後端が結合する。リニアシャフトAとリニアシャフトBの結合方法、及びリニアシャフトBとリニアシャフトCの結合方法については、後のF項で詳細に説明する。
【0076】
図15には、動作時すなわち駆動ユニット1003内のアクチュエータ1401及び1402を駆動させたときのアダプタ1002付近の断面を拡大して示している。
図15に示す例では、紙面上側のアクチュエータ1401は、先端(又は遠位端)に向かって進出動作しており、この駆動力がリニアシャフトA~Cを介して術具ユニット1001側のワイヤに直動伝達される。また、紙面下側のアクチュエータ1402は、後方(又は近位端)に向かって後退動作しており、この駆動力がリニアシャフトA~Cを介して術具ユニット1001側のワイヤに直動伝達される。
【0077】
図12~
図15を参照しながら、術具装置1000の駆動時における駆動ユニット1003、アダプタ1002、及び術具ユニット1001の各部の動作や役割について説明する。
【0078】
駆動ユニットについて:
駆動ユニット1003は、アクチュエータを駆動して、リニアシャフトAを長手軸に沿って前後に移動させることができる。前方への移動は、リニアシャフトAを先端(又は、遠位端)に向かって進出させることに相当し、後方への移動は、リニアシャフトAを末端(又は、近位端)に向かって後退させることに相当する。アクチュエータは、リニアエンコーダなど、リニアシャフトAの現在位置を検出できるセンサを備えていることが好ましい。
【0079】
駆動ユニット1003は、医療用アーム装置110のアーム210の先端に結合され(
図1及び
図2を参照のこと)、マスタなどの制御装置120からの制御信号に基づいてアクチュエータを動作させる場合や、術者が手に持って操作する手術用操作装置300の先端に結合され(
図3を参照のこと)、術者がハンドル部310に対して行った操作に基づいてアクチュエータを動作させる場合などがある。
【0080】
アダプタ:
アダプタ1002は、駆動ユニット1003が生成する駆動力、言い換えればリニアシャフトAの長手軸方向の運動を術具ユニット1001に伝達するための直動伝達部として、リニアシャフトBを備えている。リニアシャフトBは、後端部でリニアシャフトAの先端と結合するとともに、先端部でリニアシャフトCの後端部と結合している。したがって、駆動ユニット1003側でアクチュエータを駆動してリニアシャフトAが長手軸方向に沿って前後に移動すると、リニアシャフトBがこれに追従して長手軸方向の前後に移動し、その結果、術具ユニット1001のリニアシャフトCも長手軸方向の前後に移動するので、駆動ユニット1003内のアクチュエータの駆動力がアダプタ1002を介して術具ユニット1001に直動伝達される。
【0081】
術具ユニット1001は使用に先立って滅菌処理が施される清潔領域であるのに対して、駆動ユニット1003は滅菌処理できない不潔領域であり、アダプタ1002は、清潔領域と不潔領域を分離する役割を持つ。アダプタ1002は、直動伝達部としてのリニアシャフトBが長手軸方向の前後に移動する際に、清潔領域と不潔領域が交錯しないように分離する構造を備えている。アダプタ1002の分離構造については次のE-3項で詳細に説明する。
【0082】
術具ユニット:
リニアシャフトCの先端は、ジョー部材などのエンドエフェクタを牽引するワイヤ(上記D項を参照のこと)と結合している。したがって、リニアシャフトCは、アダプタ1002の直動伝達部としてのリニアシャフトBによって長手軸方向の前後に移動して、ワイヤを牽引することにより、ジョー部材の開閉動作や手首の旋回動作などのエンドエフェクタの動作を実現することができる。
【0083】
E-3.アダプタの防滴構造
図16及び
図17には、アダプタ1002を長手軸方向に平行な面で切断した断面を斜視して示している。
図16には各リニアシャフトBが装着直後の初期位置の状態を示し、
図17には各リニアシャフトBが動作した状態(上側のリニアシャフトBが先端(遠位端側)に向かって進行し、下側のリニアシャフトBが後方(近位端側)に後退した状態)を示している。
【0084】
アダプタ1002本体は、長手軸方向を高さ方向とするほぼ円柱の形状をし、直動伝達機構の数に応じた本数のリニアシャフトBを挿通させる貫通穴1611が長手軸方向に穿設されている。但し、
図16及び
図17では、図面の錯綜を防ぐために、リニアシャフトBとリニアシャフトBを挿通する貫通穴1611を2本だけ図示している。また、アダプタ1002本体の円柱の中央付近には、外周方向にリブ1612が形成されている。
図12~
図15から分かるように、アダプタ1002本体の円柱の一方は駆動ユニット1003に受容され、他方は術具ユニット1001に受容される。リブ1612は、円柱の両側から挿入した駆動ユニット1003及び術具ユニット1002をそれぞれ係止する位置に相当する。リブ1612の両側面には、当接した駆動ユニット1003及び術具ユニット1002に対して反力を加えるばね(
図16及び
図17には図示しない)が取り付けられている。
【0085】
各リニアシャフトBには、1対の筒状の弾性体(本実施形態ではシールドゴム)1601及び1602が取り付けられている。
図16の上段には、シールドゴム1601及び1602の外観および断面を拡大して示している。各シールドゴム1601及び1602は、フランジ型(又は、外観がシルクハットの形状に似た)の2つ折り構造のシールドゴムで構成される。
図16の下段に示すように、各シールドゴム弾性体1601及び1602は、リニアシャフトBの外周面に沿った後、外向きに折り返すと、貫通穴の1611の内周面に沿う。リニアシャフトBの長手軸方向の移動に伴って、各シールドゴム1601及び1602は、無給油で低摩擦に滑らかに、折り返し長を変化させながら転がり変形(ローリング)することができる。
【0086】
図16に示すように、シールドゴム1601とシールドゴム1602は、互いの「シルクハット」のつばに相当する端部を向き合わせるように対称的に配置されている。リニアシャフトBでシールドゴム1601とシールドゴム1602の両端を繋ぐことで、密閉された空気室を持つ構造となる。したがって、リニアシャフトBの先端側(又は、遠位端側)の清潔領域と後端側(又は、近位端側)の不潔領域は、完全に分離されている。
【0087】
図18には、2本のリニアシャフトBが装着直後の初期位置の状態、
図19には、上のリニアシャフトBが後方(近位端側)に後退するとともに下のリニアシャフトBが先端(遠位端側)に進出した状態、
図20には、上のリニアシャフトBが先端(遠位端側)に進出するとともに下のリニアシャフトBが後方(近位端側)に後退した状態のアダプタ1002の断面をそれぞれ示している。
図18~
図20を参照すると、いずれの状態でも、リニアシャフトBの先端側(又は、遠位端側)の清潔領域と後端側(又は、近位端側)の不潔領域は1対のシールドゴム1601及び1602で仕切られた空気室を介して完全に分離されており、領域の交錯により清潔領域が汚染されることはない。
【0088】
所定の可動範囲内であれば、リニアシャフトBの長手軸方向の位置に関わらず、空気室の体積を一定に保つことができる。
図18~
図20に示すように、リニアシャフトBが先端(遠位端側)に進出し又は後方(近位端側)に後退する直動動作に伴い、シールドゴム1601及び1602は滑らかに転がり変形(ローリング)して、折り目の位置を長手軸方向に移動させて、リニアシャフトBの現在位置に応じて「シルクハット」のクラウンの高さを変化させる。シールドゴム1601及び1602は、このような転がり変形に伴い、復元力のような反力は生じない。各シールドゴム1601及び1602が滑らかに転がり変形することで、リニアシャフトBを無給油で低摩擦に支持することができる。
【0089】
図21~
図23には、リニアシャフトBの長手軸方向の移動に伴う空気室の変化を示している。但し、各図において、空気室内をドットで塗り潰している。
図21には、リニアシャフトBが先端(遠位端側)に進出した状態、
図22には、リニアシャフトBが初期位置の状態、
図23には、リニアシャフトBが後方(近位端側)に後退した状態を示している。
【0090】
空気室には、シールドゴム1601及び1602が突っ張る程度の予圧が加えられている。
図21~
図23に示すようにリニアシャフトBが長手軸方向に移動する間、空気室の体積は常に一定である。したがって、リニアシャフトBが長手軸方向に移動するときに、空気室の加減圧による抵抗は発生しない。また、リニアシャフトBと貫通穴1611の間に滑り軸受のような摺動部はなく、一対のシールドゴム1601及び1602の間隙に形成された空気室によって術具ユニット1001側と駆動ユニット1003側は完全に分離されるので、完全な防滴構造を実現することができる。また、リニアシャフトBを貫通穴1611に挿通させるために、厳しいはめあい公差は要求されないので、アダプタ1002を安価に製作することができる。
【0091】
図21~
図23からも分かるように、アダプタ1002における防滴構造は、1対の向かい合うシールドゴム1601及び1602を使って実現することができる。
図16の上段に示したような、フランジ型の2つ折り構造のシールドゴム1601及び1602は、簡単な形状であり、小型化が容易で、量産によりコストを低減することが可能である。シールドゴム1601及び1602は、「ローリングダイヤフラム」と呼ぶこともできる。
【0092】
図24には、アダプタ1002の外観構成例を示している。アダプタ1002は、長手軸方向を高さとするほぼ円柱の形状をしており、円柱の各端面は術具ユニット1001及び駆動ユニット1003とそれぞれ接合する。また、アダプタ1002の各端面からは、直動伝達機構を構成する各リニアシャフトBが出没する。
アダプタ1002の側面には、先端側(又は、遠位端側)と後端側(又は、近位端側)にそれぞれガイドピン2401及び2402が1個ずつ突設されている。各ガイドピン2401及び2402は、術具ユニット1001及び駆動ユニット1003に取り付ける際に操作方向を案内する役割を持つが、詳細については後述する。
【0093】
また、アダプタ1002の先端側(又は、遠位端側)の端面には、長手軸回りに180度だけ異なる位置に2つの凸部2403及び2404が突設されている。これらの凸部2403及び2404は、術具ユニット1001をアダプタ1002に装着した際の、ロック装置の回転範囲を規制するが、詳細については次のE-4項で説明する。
【0094】
図25には、リニアシャフトCの後端部分の形状と、リニアシャフトBの先端部分の形状をそれぞれ示している。図示を省略するが、リニアシャフトAノンタン部分の形状はリニアシャフトCの後端部分と同じ形状であり、また、リニアシャフトBの後端部分の形状も同じであるものとする。リニアシャフトCは後端に突起(以下、「引掛けピン」とも呼ぶ)を持っている。同様に、リニアシャフトAは先端に引掛けピンを持っている。リニアシャフトA及びリニアシャフトCの引掛けピンは、ほぼ同一の形状及び同一の寸法で形成されている。一方、リニアシャフトBの先端部分及び後端部分は、
図25に示すようにそれぞれ凹み部(以下、「引掛け溝」とも呼ぶ)を持つ。リニアシャフトBの両端の引掛け溝は、リニアシャフトA及びリニアシャフトCの引掛けピンを受け容れる開口部と、開口部から侵入した引掛けピンを係止するU字形状の切り欠き部を有している。リニアシャフトAとリニアシャフトB間で引掛けピンと引掛け溝同士を結合及び分離する仕組み、及びリニアシャフトCとリニアシャフトB間で引掛けピンと引掛け溝同士を結合及び分離する仕組みについては、後のF項でアダプタ1002と駆動ユニット1003間の脱着手順、並びに術具ユニット1001とアダプタ1002との脱着手順とともに説明する。
【0095】
E-4.術具ユニットのロック装置
上述したように、術具ユニット1001内には、先端(ジョー部材など)を駆動する各ワイヤに対応するリニアシャフトCが長手軸方向に沿って配置され、各リニアシャフトCは、それぞれ対応するワイヤの端部と結合している。術具ユニット1001は、リニアシャフトCの位置を固定(ロックをオン)し、且つ固定を解除(ロックをオフ)するロック装置を備えている。
【0096】
ロック装置は、術具ユニット1001のアダプタ1002への接続が完了していないときはロックオン状態となってリニアシャフトCを固定(又は、リニアシャフトCの動作を制限)することと、ロックオフの状態では術具ユニット1001からアダプタ1002を取り外すことができないようにすることを主な役割とする。この項では、ロック装置について詳細に説明する。
【0097】
図26には、ロック装置2600の外観(正面、側面、背面、及び立体視)を示している。ロック装置2600は、術具ユニット1001の後端(又は、近位端側)の、アダプタ1002を受容する筒状の受容部の内部に、内周に沿って長手軸回りに回転可能となるように取り付けられる。ロック装置2600は、底面2601が開口部を持つ、底が抜けたコップのような形状をしている。底面2601は、段差が形成されたロック爪2602と、開口半径が拡張された解放部2603を持つ。また、ロック装置2600の外周には、ロックをオンオフ操作するための操作子2604が突設されている。術者などのユーザは、操作子2604を使ってロック装置2600を長手軸回りに回転操作してロック爪2602や解放部2603の回転位置を変更することによって、ロックのオンオフ操作を行うことができる。
【0098】
また、ロック装置2600は、コップ形状の縁に相当する端部には凹凸形状が形成されており、長手軸回りに180度だけ異なる位置に2つの凹部2605及び2606を有する。これらの凹部2605及び2606は、アダプタ1002に装着した際に、アダプタ1002の先端側(又は、遠位端側)の端面に突設された2つの凸部2403及び2404が挿入され、ロック装置2600を長手軸回りに回転範囲を決める役割を持つ。
【0099】
図27及び
図28には、ロックオフ状態のロック装置2600の外観構成を、動作制限の対象となるリニアシャフトCとともに示している。但し、
図27は、術具ユニット1001の後端(又は、近位端側)からロック装置2600を斜視した様子を示し、
図28は、術具ユニット1001の先端(又は、遠位端側)からロック装置2600を斜視した様子を示している。術具ユニット1001の後端の筒状の受容部2701は、円周方向に沿って線状の溝2702が穿設されている。ロック装置2600の外周に突設された操作子2604は、この溝2702を介して受容部2701から外界に露出している。術者などのユーザは、操作子2604を使ってロック装置2600を長手軸回りに回転操作することができる。
図27及び
図28に示すロック装置2600の回転位置では、2本のリニアシャフトCの後端は開口半径が拡張された解放部2603に位置するので、リニアシャフトCの動作は制限されない。したがって、
図27及び
図28に示すロック装置2600の回転位置は、ロックのオフ状態、又はアンロック位置と言うことができる。
【0100】
図29及び
図30には、ロックオン状態のロック装置2600の外観構成を示している。但し、
図29は、術具ユニット1001の後端(又は、近位端側)からロック装置2600を斜視した様子を示し、
図30は、術具ユニット1001の先端(又は、遠位端側)からロック装置2600を斜視した様子を示している。また、
図31は、ロックオン状態のロック装置2600の断面を示している。上述したように、術者などのユーザは、操作子2604を使ってロック装置2600を長手軸回りに回転操作することができる。
図29及び
図30に示すロック装置2600の回転位置では、2本のリニアシャフトCの後端は段差が形成されたロック爪2602に当接している。
図31を参照すると、リニアシャフトCの後端は、引掛けピンの手前にくびれ部3101が形成されている。そして、
図29及び
図30に示すロック装置2600の回転位置では、ロック爪2602がくびれ部3101を係止することで、リニアシャフトCを固定(又は、リニアシャフトCの動作を制限)する。したがって、
図29及び
図30に示すロック装置2600の回転位置は、ロックのオン状態、又はロック位置と言うことができる。リニアシャフトCが固定されると、リニアシャフトCに結合しているワイヤも長手軸方向に移動できなくなるので、ジョー部材などのエンドエフェクタの動作が制限される。
【0101】
再び
図26を参照すると、ロック装置2600の、コップ形状の縁に相当する端部には凹凸形状が形成されており、長手軸回りに180度だけ異なる位置に2つの凹部2605及び2606を有する。一方、
図24を再び参照すると、アダプタ1002の先端側(又は、遠位端側)の端面には、長手軸回りに180度だけ異なる位置に2つの凸部2403及び2404が突設されている。
【0102】
アダプタ1002の2つの凸部2403及び2404がそれぞれロック装置2600の2つの凹部2605及び2606に収容される相対的な回転位置で、術具ユニット1001をアダプタ1002に装着することができる。ロック層2600を長手軸回りに回転させていくと、アダプタ1002側の2つの凸部2403及び2404がそれぞれロック装置2600の各凹部2605及び2606の終端にぶつかって回転が規制される。すなわち、各凸部2403及び2404がそれぞれ凹部2605及び2606に収まる範囲で、ロック装置2600を長手軸回りに回転操作することができる。
【0103】
続いて、術具ユニット1001のアダプタ1002への取り付け操作と、ロック装置2600のロックのオンオフ切り替えとの関係について説明する。
【0104】
図27や
図29を参照すると、術具ユニット1001の筒状の受容部2701には、後端の縁から長手軸方向に進行した後に直角に曲がって円周方向に進行する、L字形状をした線状のL字溝2703が穿設されている。このL字溝2703は、L字の足のつま先に、長手軸方向に屈曲したロック溝を備えている。また、
図24を再び参照すると、アダプタ1002の先端側(又は、遠位端側)の側面には、ガイドピン2401が突設されている。
【0105】
アダプタ1002側のガイドピン2401を、術具ユニット1001側の受容部2701のL字溝2703の入り口に位置合わせして、ガイドピン2401がL字溝2703のL字形状に沿うように、術具ユニット1001をまず長手軸方向にアダプタ1002に差し込み、L字形状の屈曲部分に到達すると、次いで術具ユニット1001を長手軸回りに45度程度回転させる。そして、L字溝2703のL字形状の足のつま先に到達すると、最後はリブ1612の側面に取り付けられたばね(前述)の反力を利用してガイドピン2401をL字溝2703の最奥部のロック溝に押し込むことによって、術具ユニット1001をアダプタ1002に装着することができる。
【0106】
アダプタ1002のガイドピン2401をL字形状のL字溝2703に収めた状態で、ロック装置2600をロックのオフ状態にすると、リニアシャフトCの動作制限が解除されるとともに、アダプタ1002のガイドピン2401はロックされて、術具ユニット1001の取り外しが制限される。
【0107】
但し、術具ユニット1001とアダプタ1002の脱着手順については、次のF項で詳細に説明する。
【0108】
なお、術具ユニット1001をアダプタ1002に装着しない単体の状態で、ロック装置2600のロックをオンにすると、術具ユニット1001内のワイヤの予張力によりロック装置2600が押え付けられる。したがって、ロック装置2600が不意に外れるリスクは少ない。
【0109】
F.脱着手順
滅菌処理した術具ユニット1001を使用する場合、まず駆動ユニット1003にアダプタ1002を装着し、次いでアダプタ1002に術具ユニット1001を装着するという順番で、装着が行われる。一方、使用後の術具ユニット1001を交換する場合、まず、術具ユニット1001をアダプタ1002から取り外し、次いでアダプタ1002を駆動ユニット1003から取り外すという順番で、取り外しが行われる。
F-1.アダプタの駆動ユニットへの装着
駆動ユニット1003にアダプタ1002を装着する手順について、
図32~
図35を参照しながら説明する。
【0110】
まず、駆動ユニット1003においてアクチュエータを駆動して、すべてのリニアシャフトAを脱着位置で静止させる(
図32を参照のこと)。リニアシャフトAの脱着位置は、駆動ユニット1003にアダプタ1002を装着する際に、対応するリニアシャフトAとリニアシャフトBの端部同士が適切に結合するための、リニアシャフトAの長手軸方向の基準位置であり、あらかじめ定義されているものとする。
【0111】
図33の左側に拡大して示しているように、駆動ユニット1003は、先端部に、アダプタ1002を受容する筒状の受容部3301を備えている。術具ユニット1001の受容部2701と同様に(前述)、受容部3301は、後端の縁から長手軸方向に進行した後に直角に曲がって円周方向に進行する、L字形状をした線状のL字溝3302が穿設されている。このL字溝3302は、L字の足のつま先に、長手軸方向に屈曲したロック溝を備えている。また、
図24を再び参照すると、アダプタ1002の後端側(又は、近位端側)の側面には、ガイドピン2402が突設されている。
【0112】
アダプタ1002側のガイドピン2402を、駆動ユニット1003側の受容部3302のL字形状のL字溝3302の入り口に位置合わせして、ガイドピン2402をL字溝3302に差し込んで、ガイドピン2402がL字溝3302のL字形状に沿うように長手軸方向にアダプタ1002を受容部3301に差し込む(
図33を参照のこと)。
【0113】
ガイドピン2402がL字溝3302のL字形状の屈曲部分に到達すると、次いで、アダプタ1002を駆動ユニット1003に対して長手軸回りに45度程度回転させる(
図34を参照のこと)。ガイドピン2402がL字溝3302のL字形状の屈曲部分に到達した位置で、駆動ユニット1003側の受容部3301の先端縁がアダプタ1002のリブ1612にちょうど当接する。
図25を参照しながら説明したように、リニアシャフトAの先端には引掛けピンが形成され、リニアシャフトBの後端は引掛け溝が形成されている。引掛け溝は、引掛けピンを受け容れる開口部と、開口部から侵入した引掛けピンを係止するU字形状の切り欠き部を有している。ガイドピン2402がL字溝3302のL字形状の屈曲部分に到達すると、引掛けピンと引掛け溝がちょうど重なり合う位置になり、且つ、引掛け溝の開口部は引掛けピンの方を向いている。そして、アダプタ1002が駆動ユニット1003に対して長手軸回りに45度程度回転する過程で、リニアシャフトAの先端の引掛けピンがリニアシャフトBの引掛け溝の開口部に収容され且つU字形状の切り欠き部に引っ掛かることで(
図34の左側を参照のこと)、リニアシャフトBがリニアシャフトAと結合する。ガイドピン2402がL字溝3302に沿うようにアダプタ1002を駆動ユニット1003側の受容部3301に装着すると、リニアシャフトBの後端の引掛け溝の切り欠き部に引っ掛かる経路をたどるようにリニアシャフトAの先端の引掛けピンを誘導することができる。
【0114】
そして、L字溝3302のL字形状の足のつま先に到達すると、最後はリブ1612の側面に取り付けられたばねの反力を利用してガイドピン2402をL字溝3302の最奥部のロック溝に押し込むことによって、ガイドピン2402をロックして、アダプタ1002を駆動ユニット1003に装着することができる(
図35を参照のこと)。アダプタ1002のガイドピン2402がロックされているので、アダプタ1002の駆動ユニット1003からの取り外しが制限される。
【0115】
F-2.術具ユニットのアダプタへの装着
アダプタ1002に術具ユニット1001を装着する手順について、
図36~
図39を参照しながら説明する。
【0116】
術具ユニット1001のアダプタ1002への装着は、上記F-1項で説明した手順に従ってアダプタ1002の術具ユニット1003への装着が完了した後に実施される。したがって、この時点では、アダプタ1002の各リニアシャフトBは、駆動ユニット1003側のそれぞれ対応するリニアシャフトAと結合した状態である。
【0117】
まず、駆動ユニット1003においてアクチュエータを駆動して、リニアシャフトAに結合しているリニアシャフトBを、脱着位置で静止させる(
図36を参照のこと)。リニアシャフトBの脱着位置は、駆動ユニット1003にアダプタ1002を装着し、さらにアダプタ1002に術具ユニット1001を装着する際に、対応するリニアシャフトBとリニアシャフトCの端部同士が適切に結合するための、リニアシャフトBの長手軸方向の基準位置である。リニアシャフトAを脱着位置に設定すると、これに結合するリニアシャフトBも自ずと脱着位置に設定されるものとする。
【0118】
既に説明したように、術具ユニット1001の筒状の受容部2701には、後端の縁から長手軸方向に進行した後に直角に曲がって円周方向に進行する、L字形状をした線状のL字溝2703が穿設されている。このL字溝2703は、L字の足のつま先に、長手軸方向に屈曲したロック溝を備えている(
図27及び
図29を参照のこと)。また、アダプタ1002の先端側(又は、遠位端側)の側面には、ガイドピン2401が突設されている(
図24を参照のこと)。
【0119】
術具ユニット1001のロック装置2600のロックをオンにして、術具ユニット1001側の受容部2701のL字溝2703の入り口を、アダプタ1002側のガイドピン2401に位置合わせして、ガイドピン2401をL字溝2703に差し込んで、ガイドピン2401がL字溝2703のL字形状に沿うようにアダプタ1002を受容部2701に長手軸方向に差し込む(
図37を参照のこと)。
【0120】
ガイドピン2401がL字溝2703のL字形状の屈曲部分に到達すると、次いで、術具ユニット1001をアダプタ1002に対して長手軸回りに45度程度回転させる。ガイドピン2401がL字溝2703のL字形状の屈曲部分に到達した位置で、術具ユニット1001側の受容部2701の後端縁がアダプタ1002のリブ1612にちょうど当接する。
図25を参照しながら説明したように、リニアシャフトCの後端には引掛けピンが形成され、リニアシャフトBの先端は引掛け溝が形成されている。引掛け溝は、引掛けピンを受け容れる開口部と、開口部から侵入した引掛けピンを係止するU字形状の切り欠き部を有している。ガイドピン2401がL字溝2703のL字形状の屈曲部分に到達すると、引掛けピンと引掛け溝がちょうど重なり合う位置になり、且つ、引掛け溝の開口部は引掛けピンの方を向いている。そして、術具ユニット1101がアダプタ1002に対して長手軸回りに45度程度回転する過程で、リニアシャフトCの後端の引掛けピンがリニアシャフトBの引掛け溝の開口部に収容され且つU字形状の切り欠き部に引っ掛かることで(
図38の左側を参照のこと)、リニアシャフトCがリニアシャフトBと結合する。ガイドピン2401がL字溝2703に沿うように術具ユニット1001の受容部2701をアダプタ1002に装着すると、リニアシャフトBの先端の引掛け溝の切り欠き部に引っ掛かる経路をたどるようにリニアシャフトCの後端の引掛けピンを誘導することができる。
【0121】
そして、L字溝2703のL字形状の足のつま先に到達すると、最後はリブ1612の側面に取り付けられたばねの反力を利用してガイドピン2401をL字溝2703の最奥部のロック溝に押し込むことによって、ガイドピン2401をロックして、術具ユニット1001をアダプタ1002に装着することができる(
図38を参照のこと)。アダプタ1002のガイドピン2601がロックされているので、術具ユニット1001のアダプタ1002からの取り外しが制限される。
【0122】
このようにして、術具ユニット1001へアダプタ1002への装着が完了すると、ロック装置2600の外周に突設された操作子2604を、受容部2701の円周方向の溝2702に沿って操作することによって、術具ユニット1001のロック装置2600のロックをオフ状態にして、リニアシャフトCの動作制限を解除する(
図39を参照のこと)。その結果、直動伝達部としてのアダプタ1002のリニアシャフトBを介して、駆動ユニット1003が術具ユニット1001のエンドエフェクタを駆動できる動作可能な状態になる。また、ロック装置2600がロックオフ状態になる代わりに、アダプタ1002のガイドピン2401及び2402はともにばねの反力によってロックされているので、術具ユニット1001及びアダプタ1002の取り外しが制限される。
【0123】
F-3.術具ユニットのアダプタからの取り外し
アダプタ1002から術具ユニット1001を取り外す手順について、
図40~
図43を参照しながら説明する。
【0124】
術具ユニット1001、アダプタ1002、及び駆動ユニット1003は、上記F-1項及びF-2項で説明した手順に従って装着が完了した状態である。したがって、この時点では、対応するリニアシャフトA~C同士が結合した状態である。
【0125】
まず、駆動ユニット1003においてアクチュエータを駆動して、駆動ユニット1003、アダプタ1002、及び術具ユニット1001に亘って結合している各リニアシャフトA~Cの組を、それぞれ脱着位置で静止させる(
図40を参照のこと)。
【0126】
この時点では、術具ユニット1001のロック装置2600のロックはオフ状態である。まず、操作子2604を使ってロック装置2600を長手軸回りに逆方向に回転操作して、ロックオン状態に切り替えて、リニアシャフトCを固定する(
図41を参照のこと)。また、ガイドピン2401は術具ユニット1001側の受容部2701のL字溝2703の最奥部のロック溝に押し込まれてロック状態にあるので、ガイドピン2401のロック状態を解除する。ガイドピン2401は、リブ1612の側面に取り付けられたばねの反力でロック溝に押し込まれているので、一旦術具ユニット1001をアダプタ1002に向かって押し込むことで、ガイドピン2401をロック溝から取り出すことができ、さらにアダプタ1002を長手軸回りに逆回転させることで、ガイドピン2401のロックを解除することができる。
【0127】
次いで、術具ユニット1001をアダプタ1002に対して長手軸回りに45度程度、装着時とは逆方向に回転させる。この45度程度の逆回転の過程で、リニアシャフトCの後端の引掛けピンはリニアシャフトBの先端の引掛け溝から解放され、リニアシャフトBとリニアシャフトCは分離する(
図42を参照のこと)。
【0128】
術具ユニット1001をアダプタ1002に対して長手軸回りに逆回転させて、ガイドピン2401がL字溝2703のL字形状の屈曲部分に到達すると、次いで、ガイドピン2401がL字溝2703のL字形状に沿うように、術具ユニット1001をアダプタ1002から長手方向に引っ張る。そして、アダプタ1002側のガイドピン2401が、術具ユニット1001側の受容部2701のL字溝2703の入り口から出ると、術具ユニット1001のアダプタ1002からの取り外しが完了する(
図43を参照のこと)。
【0129】
F-4.アダプタの駆動ユニットからの取り外し
駆動ユニット1003からアダプタ1002を取り外す手順について、
図44~
図47を参照しながら説明する。
【0130】
アダプタ1002の駆動ユニット1003からの取り外しは、上記F-3項で説明した手順に従って、術具ユニット1001をアダプタ1002から取り外したのちに実施される。したがって、アダプタ1002の各リニアシャフトBは、駆動ユニット1003側のそれぞれ対応するリニアシャフトAと結合した状態である。
【0131】
まず、駆動ユニット1003においてアクチュエータを駆動して、リニアシャフトAに結合しているリニアシャフトBを、脱着位置で静止させる(
図44を参照のこと)。
【0132】
この時点では、ガイドピン2402は駆動ユニット1003側の受容部3301のL字溝3302の最奥部のロック溝に押し込まれてロック状態にあるので、ガイドピン2402のロック状態を解除する。ガイドピン2401は、リブ1612の側面に取り付けられたばねの反力でロック溝に押し込まれているので、一旦アダプタ1002を駆動ユニット1003に向かって押し込むことで、ガイドピン2402をロック溝から取り出すことができる(
図45を参照のこと)。
【0133】
次いで、アダプタ1002を駆動ユニット1003に対して長手軸回りに45度程度、装着時とは逆方向に回転させる(
図46を参照のこと)。この45度程度の逆回転の過程で、リニアシャフトAの先端の引掛けピンはリニアシャフトBの後端の引掛け溝から解放され、リニアシャフトAとリニアシャフトBは分離する。
【0134】
アダプタ1002を駆動ユニット1003に対して長手軸回りに逆回転させて、ガイドピン2402がL字溝3302のL字形状の屈曲部分に到達すると、次いで、ガイドピン2402がL字溝3302のL字形状に沿うように、術具ユニット1001をアダプタ1002から長手方向に引っ張る。そして、アダプタ1002側のガイドピン2402が、駆動ユニット1003側の受容部3301のL字溝3302の入り口から出ると、アダプタ1002の駆動ユニット1003からの取り外しが完了する(
図47を参照のこと)。
【0135】
G.変形例
この項では、術具装置1000に関する変形例について説明する。
G-1.直動伝達機構の本数について
図12~
図47では、図面の錯綜を防ぐために、ワイヤ(又は、直動伝達機構)の本数を2本に限定して説明したが、実際に使用するワイヤ本数に応じて同様の直動伝達構造を追加することができる。例えば上記D項(
図4~
図9を参照のこと)では、4本のワイヤ(C1、C2、C3a及びC3b)を挿通させて術具を駆動する構成例について説明したが、各ワイヤに対応する合計で4本の直動伝達部を備えても、防滴構造を備えたアダプタを製作して、清潔領域の術具ユニットと不潔領域の駆動ユニットの分離を実現することができる。
【0136】
G-2.ロック装置について
図12~
図47に示した実施形態では、駆動ユニット1003のリニアシャフトAは長手軸方向に両方向に動作することを想定しているが、先端側からリニアシャフトAを引っ張る方向にしか動作しないことを想定する場合には、術具ユニット1001と同様に、未使用時にリニアシャフトAを固定するロック装置を備えていてもよい。
【0137】
G-3.アダプタについて
シールドゴム1601及び1602の間の空気室は、予圧を加えた状態で密閉されているが、外部から空気配管をつなげて加圧して、常に一定の気圧を保つようにしてもよい。
【0138】
それぞれシルクハット型をしたシールドゴム1601とシールドゴム1602を、互いのつばが向き合うように対称的に配置する構造によって空気室を形成したが、1本のリニアシャフトBについて1個のシルクハット型のシールドゴムを使用してもよい。
【0139】
2つ折り構造のシールドゴムは、無給油で低摩擦に滑らかに、折り返し長を変化させながら転がり変形することが望まれるが、この要件を満たせば、素材は特に限定されない。例えば、繊維メッシュとゴムのハイブリット材料を用いてシールドゴムを製作してもよい。
【0140】
リニアシャフトBを複数個用いる場合、それぞれのシールドゴムが一体成型されていてもよい。
【0141】
G-4.アクチュエータについて
駆動ユニット1003においてリニアシャフトAを駆動するアクチュエータとして、以下を挙げることができる。複数のアクチュエータを搭載する場合には、2種類以上のアクチュエータを組み合わせて用いてもよい。
【0142】
・電磁回転モータ
・電磁リニアモータ
・空気圧シリンダ
・水圧シリンダ
・油圧シリンダ
・超音波回転モータ
・超音波リニアモータ
【0143】
また、いずれのタイプのアクチュエータを採用するにせよ、アクチュエータに減速機や位置検出器、非常用のブレーキ機構を装備するようにしてもよい。ここで、減速機として、例えば、ギア式減速機、波動歯車減速機、郵政歯車減速機、不思議郵政歯車減速機、ケーブル減速機、トラクション減速機、ボールねじ、滑りねじ、ウォームギアなどを挙げることができる。また、位置検出器として、例えば、磁気式エンコーダ、光学式エンコーダ、ポテンショメータなどを挙げることができる。
【0144】
G-5.術具ユニットの識別
1台の医療用アーム装置又は手術用操作装置に対して、アダプタを介して複数種類の術具ユニットを交換して使用するという運用が行われる。そこで、各術具ユニットに、術具種類(鉗子や気腹チューブ、エネルギー処置具、攝子、レトラクタなど)を特定するための識別装置を装備していてもよい。
【0145】
識別装置は、アダプタを介して駆動ユニット(又は、駆動ユニットを搭載する医療用アーム装置や手術用操作装置)から読み取り可能である必要がある。識別装置は、例えばIC(Integrated Circuit)チップでもよいが、2次元バーコードや結合部分(筒状の受容部2701など)の形状によって術具種類などの情報を表現するものであってもよい。ICチップを利用する場合、術具種類の他に、術具形状、重量、使用回数などさまざまな情報をICチップに記録するようにしてもよい。
【0146】
G-6.運用について
アダプタは1回の手術で使い捨て(disposable)とし、術具ユニットは使用後に滅菌処理して所定回数までは再利用するようにしてもよい。あるいは、アダプタと術具ユニットを一体構造にして、使用後に滅菌処理して所定回数までは再利用するようにしてもよい。あるいは、アダプタと術具ユニットを一体構造にして、1回の手術で使い捨てにしてもよい。
【0147】
H.効果
本開示を適用することによる術具ユニットや医療用アーム装置、手術用操作装置にもとたらされる効果についてまとめておく。
【0148】
・本開示によれば、術具ユニットの機構が簡素化されるので、低コスト化を実現できるとともに、滅菌処理が容易になる。
・本開示によれば、術具ユニットは防滴構造を有するアダプタを介して駆動ユニットに装着されるので、清潔領域と不潔領域を完全に分離することができ、信頼性が向上する。
・本開示によれば、アダプタは、貫通穴を挿通させた直動伝達部(リニアシャフトB)防滴構造を、2つ折り構造のシールドゴム(ローリングダイヤフラム)を使って実現し、直動伝達部が直動動作する際にシールドゴムが無給油で低摩擦に滑らかに、折り返し長を変化させながら転がり変形することで防滴性を保つ。したがって、直動伝達部を挿通させるための厳しいはめあい公差は要求されないので、低コスト化を実現することができる。
・本開示に係るアダプタの防滴構造によれば、直動伝達部の摺動部に血液が付着したとしても、シールドゴムによって防滴性を保ちながら直動伝達部を円滑に動作させることができるので、信頼性が向上する。
・本開示に係るアダプタの防滴構造によれば、2つ折り構造のシールドゴムは、無給油で低摩擦に滑らかに、折り返し長を変化させながら転がり変形するので、直動伝達部での内部攪乱は低下し、術具の動作に関する透明性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0149】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本開示について詳細に説明してきた。しかしながら、本開示の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0150】
本明細書では、本開示を手術用ロボットに適用して、滅菌処理する術具ユニットを駆動ユニットから脱着する機構における清潔領域と不潔領域を分離する実施形態を中心に説明してきたが、本開示の要旨はこれに限定されるものではない。本開示は、医療以外の分野にも適用して、2つのユニットを脱着する機構における清潔領域と不潔領域の分離、及び脱着可能な2つのユニットを装着した際のユニット毎の完全な領域の分離を実現することができる。
【0151】
要するに、例示という形態により本開示について説明してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本開示の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【0152】
なお、本開示は、以下のような構成をとることも可能である。
(1)先端に術具を備えた術具ユニットと、
前記術具を駆動する駆動ユニットと、
前記術具ユニットを前記駆動ユニットに装着するアダプタと、
を具備し、
前記アダプタは、前記駆動ユニットが生成する駆動力を前記術具ユニットに伝達する直動伝達部と、前記直動伝達部の前記術具ユニット側と前記駆動ユニット側を分離する防滴部を備える、
医療用マニピュレータシステム。
(2)前記防滴部は、前記直動伝達部の前記術具ユニット側と前記駆動ユニット側の間に空気室を設ける構造によって分離する、
上記(1)に記載の医療用マニピュレータシステム。
(3)前記防滴部は、それぞれ2つ折り構造からなる2個の弾性体を向き合わせて配置した構造を有し、前記直動伝達部で両端を繋ぐことで前記弾性体の間に前記空気室が形成される、
上記(2)に記載の医療用マニピュレータシステム。
(4)前記空気室は一定の気圧に保たれている、
上記(2)又は(3)のいずれかに記載の医療用マニピュレータシステム。
(5)前記駆動ユニットは、第1のリニアシャフトと、前記第1のリニアシャフトを直動動作するアクチュエータを備え、
前記アダプタは、前記直動伝達部としての第2のリニアシャフトを備え、
前記術具ユニットは、第3のリニアシャフトを備え、
前記アダプタを前記駆動ユニットに装着したときに前記第2のリニアシャフトは前記第1のリニアシャフトと結合し、前記術具ユニットを前記アダプタに装着したときに前記第3のリニアシャフトは前記第2のリニアシャフトと結合し、前記アクチュエータの駆動力を前記第1、第2、及び第3のリニアシャフトによって伝達して前記術具を駆動する、
上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の医療用マニピュレータシステム。
(6)前記術具ユニットは、前記第3のリニアシャフトの動作を制限するロック装置をさらに備える、
上記(5)に記載の医療用マニピュレータシステム。
(7)前記ロック装置は、前記第3のリニアシャフトの動作を制限するロック状態と前記制限を解除するアンロック状態を有する、
上記(6)に記載の医療用マニピュレータシステム。
(8)前記ロック装置は、前記術具ユニットの前記アダプタへの装着が完了していないときはロック状態となる、
上記(7)に記載の医療用マニピュレータシステム。
(9)前記術具ユニットは、前記第3のリニアシャフトと前記第2のリニアシャフト間の結合を誘導する誘導部を含む、前記アダプタの受容部を備える、
上記(5)乃至(8)のいずれかに記載の医療用マニピュレータシステム。
(10)前記誘導部は、前記第2のリニアシャフトの端部の引掛けピンが前記第3のリニアシャフトの端部の引掛け溝に引っ掛かる経路をたどるように、前記受容部及び前記アダプタの動作を誘導する、
上記(9)に記載の医療用マニピュレータシステム。
(11)前記誘導部は、前記アダプタの外周に突設されたガイドピンを前記受容部に形成した溝の特定形状に沿わせることで前記誘導を行う、
上記(10)に記載の医療用マニピュレータシステム。
(12)前記溝の終端に前記ガイドピンを引き込むロック溝を備える、
上記(11)に記載の医療用マニピュレータシステム。
(13)前記駆動ユニットは、前記第1のリニアシャフトと前記第2のリニアシャフト間の結合を誘導する誘導部を含む、前記アダプタの受容部を備える、
上記(5)乃至(12)のいずれかに記載の医療用マニピュレータシステム。
(14)前記誘導部は、前記第2のリニアシャフトの端部の引掛けピンが前記第1のリニアシャフトの端部の引掛け溝に引っ掛かる経路をたどるように、前記受容部及び前記アダプタの動作を誘導する、
上記(13)に記載の医療用マニピュレータシステム。
(15)前記誘導部は、前記アダプタの外周に突設されたガイドピンを前記受容部に形成した溝の特定形状に沿わせることで前記誘導を行う、
上記(14)に記載の医療用マニピュレータシステム。
(16)前記溝の終端に前記ガイドピンを引き込むロック溝を備える、
上記(15)に記載の医療用マニピュレータシステム。
(17)一端に駆動ユニットを装着するとともに他端に術具ユニットを装着し、
前記駆動ユニットが生成する駆動力を前記術具ユニットに伝達する直動伝達部と、
前記直動伝達部の前記術具ユニット側と前記駆動ユニット側を分離する防滴部と、
を具備するアダプタ装置。
(18)前記防滴部は、前記直動伝達部の前記術具ユニット側と前記駆動ユニット側の間に空気室を設ける構造によって分離する、
上記(17)に記載のアダプタ装置。
(19)前記防滴部は、それぞれ2つ折り構造からなる2個の弾性体を向き合わせて配置した構造を有し、前記直動伝達部で両端を繋ぐことで前記弾性体の間に前記空気室が形成される、
上記(18)に記載のアダプタ装置。
(20)前記直動伝達部として、両端が前記駆動ユニットの第1のリニアシャフト及び前記術具ユニットの第3のリニアシャフトとそれぞれ結合する第2のリニアシャフトを備える、
請求項17乃至19のいずれかに記載のアダプタ装置。
【符号の説明】
【0153】
100…手術支援システム、110…医療用アーム装置
111…能動関節部、111A…アクチュエータ
111B…トルクセンサ、111C…エンコーダ
112…受動関節部、112A…エンコーダ、113…センサ部
120…制御装置 130…入力装置
210…アーム、220…先端部、221…術具ユニット
222…駆動ユニット
300…手術用操作装置、310…ハンドル部
311…ジョイスティック、312…ボタン、320…先端部
321…術具ユニット、322…駆動ユニット
400…術具ユニット、401…開閉機構、402…シャフト
403…駆動ユニット
1000…術具装置、1001…術具ユニット、1002…アダプタ
1003…駆動ユニット、1004…ドレープ
1401、1402…アクチュエータ
1601、1602…シールドゴム、1611…貫通穴
1612…リブ
2401…ガイドピン(術具ユニット1001と装着用)
2402…ガイドピン(駆動ユニット1003と装着用)
2403、2404…凸部
2600…ロック装置、2601…底面、2602…ロック爪
2603…解放部、2604…操作子、2605、2606…凹部
2701…受容部、2702…溝、2703…L字溝
3101…くびれ部、3301…受容部、3302…L字溝