(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022027342
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】衣類及び衣類の提供方法
(51)【国際特許分類】
A41H 43/00 20060101AFI20220203BHJP
A41D 1/00 20180101ALI20220203BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20220203BHJP
A41D 31/02 20190101ALI20220203BHJP
【FI】
A41H43/00 C
A41D1/00 G
A41D1/00 Z
A41D31/00 502C
A41D31/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020138281
(22)【出願日】2020-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】519440582
【氏名又は名称】浅野 千幸
(72)【発明者】
【氏名】浅野 千幸
【テーマコード(参考)】
3B030
【Fターム(参考)】
3B030AA02
3B030AA03
3B030AB09
3B030AB11
(57)【要約】
【課題】この発明は切り出しによって衣類を形成するための経編布帛に関するものであり、実質的に縫製作業をなくすことができ、かつ着用者の嗜好に合わせて多種多様に着用できることを目的とする。
【解決手段】切り出しによって衣類を形成する経編布帛は、分離した複数の10、12を備え、その第1層が衣類の一方の側面、第2層が衣類の他方の側面となり、第1層と第2層とは衣類の外形線14に沿って接結される。多種多様に着用できるようにカットを行う際の案内線CL1,CL2,CL3,CL4,CL5,CL6が編み込まれており、着用者は案内線CL1,CL2,CL3,CL4,CL5,CL6のどちらかをガイドにしてカットを行い、所望のアイテムを得ることが出来る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経編組織にて編成され、それぞれが衣類の前見頃、後見頃となる分離された二つの層を具備しており、前記の二つの層を衣類の輪郭線に沿って接結する接結部を備えた衣類であって、切断用案内線の部分を切断することにより、衣類を分離し多種多様な着用方法になるよう指標部が形成されていることを特徴とする衣類。
【請求項2】
請求項1に記載の衣類において、前記指標部は多種多様に着用するための指標となるマークであることを特徴とする衣類。
【請求項3】
請求項2に記載の衣類において、前記マークは衣類を構成する少なくとも一つの層に編成により一体に形成されていることを特徴とする衣類。
【請求項4】
それぞれが衣類の前身頃、後身頃となる分離された二つの層を身頃の輪郭線に沿って一体化した衣類を長手方向に連鎖した長尺編物を経編組織にて編成し、経編組織による前記編物の編成と共に切断用案内線の部分を切断することにより、衣類を分離し多種多様な着用方法になるよう形成され、分離された衣類において、その着用者の嗜好に基づいて選択された指標部の案内に従って、衣類の切断用案内線の部分を切断し、これにより、縫製工程を経ることなく着用者の嗜好な衣類を提供する方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、前記指標部を編物の編成時に織布に一体に編み込むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は長尺の経編の布帛より切り出される無縫製の衣類及びそのような衣類の多種多様な活用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の既製服の製造にあたっては、製織又は編成後に前身頃、後身頃、襟等の各部を型紙にそって裁断し、裁断された各部を縫製によって連結し、衣類とする工程をとるのが行われているところである。ワンピースならワンピースとして、スカートはスカートとして着用することを前提に一つ一つの商品を大量に生産し提供することが通常であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭52-12306号公報
【特許文献2】実開昭62-153304号公報
【特許文献3】特許第3718793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、あまりたくさんの洋服を買わない持たない大量消費しない、というサスティナブルな志向が世界的傾向にもなり、ブランドの在り方、洋服の提供方法などが重要になってきた。需要者にとっても一つのアイテムを個人間で多種多様に活用させたいという要求があり、従来の既製品衣料のアイテムを多種活用するにはある程度の知識とミシンなどの道具、手間暇が掛かることが現状であり不満は大きい。そのため、簡単に誰でも多種多様に活用できる衣類に対する要求があった。
【0005】
この発明は以上の現状に鑑みてなされたものであり、縫製コストを伴うことなく誰でも簡単に広範囲での多種多様に活用が可能にすることを目的とする。ここで、多種多様とは、例えばパーカーなどフードがついたスポーティーなものがあったとする。そのフードの取り外しが出来ることで、ノーカラーのエレガントな羽織になり、印象が変わることで全く別の洋服に見えるなどのこと。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施の形態によれば、経編組織にて編成され、それぞれが衣類の前見頃、後見頃となる分離された二つの層を具備しており、前記の二つの層を衣類の輪郭線に沿って接結する接結部を備えた衣類において、切断用案内線の部分を切断することにより、衣類を分離し多種多様な着用方法になるよう形成されていることを特徴とする衣類。
【0007】
このような構造の経編による布帛は少なくとも2枚の地筬と少なくとも2枚のジャカード筬とを有する経編機にて編成することができる。即ち、衣類の二つの層のうち一方の層は第1の地筬によって編成され、他方の層は第2の地筬によって編成される。二つの層を衣類の輪郭線に沿って接結する接結部はジャカード筬によってその編成を行うことができる。
【0008】
即ち、これらの技術では分離された2層の編成が可能であるとともに、これら2層間の連結編成が可能な2列の針床を有した経編機を用い、2層のうちの一方を衣類の前身頃、他方を衣類の後身頃となし、前身頃及び後身頃の輪郭線に沿った部分については2層間の連結編成を行うことにより、経編の編成の過程において編物中に衣類を一体に形成するものを提案している。従って、この発明における経編組織は前記公報と同様の技術によっても編成しうるものである。
【0009】
そして、この発明の構成によれば、切断用案内線の部分を切断することにより多種多様な活用をするための指標部が形成されている。需要者は指標部をガイドとして任意のラインでカットを行う。指標部は、誰でもカットができるようになっているため任意のラインでカットを行うことができる。例えば、需要者が購入した時のアイテムに飽き、違うアイテムにしたい場合、指標部の切断を行うことになろう。従って、従来の衣類固定のいくつかのものから選択せざるを得なかったことと比較してこの発明では需要者の嗜好に合わせ多種多様に活用が可能であり、他アイテムを新しく購入した時と同じ楽しみが味わえる。
【0010】
以上述べたように、この発明は任意の点でのカットにより違う任意のアイテムに多種多様に活用することができるが、任意の点でのカットしつつ無縫製というこの発明の解決手段との関係で重要な点は編組織として経編となっていることである。即ち、織成や横編による布ではカットによって織り目や編み目が露出すると、糸のほつれが極めて簡単に生ずることから、ほつれを生じさせないため、カット部分での追加的な縫製処理が必須である。これに対して、経編組織においては、縦糸がウエール方向(経糸と交叉する方向)に振られることによりどのカットラインに沿っても経糸同士間での糸間は複雑な交絡構造となっており、任意のカットラインによるカットを行い、カットラインをそのままとしても、カットラインでの糸のほつれは殆ど起こり得ない。
【0011】
この発明になる衣類の多種多様な活用方法においては、それぞれが衣類の前身頃、後身頃となる分離された二つの層を身頃の輪郭線に沿って一体化した衣類を長手方向に連鎖した長尺編物を経編組織にて編成し、経編組織による前記編物の編成と共に輪郭線に沿った編物の連鎖部分を切断することにより衣類を分離し分離された一つの衣類はその着用者の嗜好に基づいて指標の案内に従って切断している。この方法により縫製工程を経ることなく衣類を製造すると共に任意のラインによるカットにより衣類を着用者の嗜好により多種多様に活用させることができる。
【0012】
好ましくは、前記指標部は編物の編成時に織布に一体に編み込むことができる。これにより指標部の形成を編物の編成と同じに一挙に効率的に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、一つの編布を切断案内線の部分を切断することにより、個人間の嗜好に合わせて多種多様に活用できる衣類である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明の一体型のワンピースを編み込んだこの発明の編布を模式的に示す平面図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿って表される断面図である。
【
図3】
図1の編布を編成するための経編機の概略的構成を示す図である。
【
図4】
図4-1は
図1の編布を切断用案内線の部分を切断し、スリットを入れて着用できることを示す図である。
図4-2は
図1の編布をラインCL3又はCL4又はCL5部分どちらかを切断することによりトップスの長さを自らの嗜好に合わせて着用できることを示す図である。
【
図5】
図5-1は
図1の編布を切断用案内線の部分をはさみによって切断し、トップスとスカートのセットアップとして着用できることを示す図である。
図5-2は
図1のラインCL3又はCL4又はCL5部分どちらかを切断することにより、長さを嗜好に合わせてトップスとして着用でき、またラインCL6を自らの嗜好に合わせて長さを決め切断することにより、襟元の中心線にスリットを入れることができることを示す図である。
図5-3はラインCL6を裾まで切断することにより、羽織として着用できることを示す図である。
【
図6】
図6-1は
図1の編布をラインCL3又はCL4又はCL5部分どちらかをはさみによって切断することによりスカートの長さを嗜好に合わせて着用できることを示す図である。
図6-2は
図1の編布をラインCL3又はCL4又はCL5部分どちらかを切断し、またラインCL1,CL2どちらか片方、もしくは両方の切断用案内線の部分を切断することにより自らの嗜好に合わせてスリットを入れることができることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施の形態)
図1,2はこの発明の実施によって得られる袋状の経編組織による編物を示しており、編物は分離した第1層10(表層)と、第2層12(裏層)とを備える。第1層10は編物からの切り出し後に衣類(この実施形態においてはワンピース)の一方側、例えば前身頃となり、第2層12は布帛からの切り出し後に衣類の他方側、例えば後身頃となる。衣類は布帛の長手方向(経糸方向)にリピートするように編成されている。
【0016】
図1において、符号14-1,14-2は接結線であり、この接結線14-1,14-2に沿って第1層10と第2層12とは一体に連結されている。これらの接結線14-1,14-2を総称して14にて表す(
図2参照)。
図1に示すように、接結線14-1,14-2は衣類(ワンピース)の外形線に沿っており、接結線14-1は衣類の胴部における両側、接結線14-2は衣類の肩から袖口までを示している。
【0017】
14Aは衣類の首回りの開口部分を示し、14Bは袖口の開口部分、14Cは胴部の裾の開口部分を示し、これらの人体を通過させる部分においては上下層10,12の接結は行われておらず、両者は分離しており、上下層間に首、腕、胴体を通過させるための開口が形成される。
【0018】
図1において、符号CL1,CL2,CL3,CL4,CL5,CL6で示すラインは多種多様な活用方法の部位に設けられた切断用の案内用の案内線である。この案内線は経編の編物の編成と一体に形成されたワンピースを編物から分離した後において、顧客である着用者の嗜好に合わせ切断用案内線の部分を切断する際の案内線となるものである。即ち、
図4-1に示すように、ラインCL1,CL2は例えばワンピースにスリットを入れたいと顧客である着用者が望んだ場合ラインCL1かラインCL2どちらか片方、もしくは両方の切断用案内線の部分をはさみによって切断を行うことにより自らの嗜好に合わせてスリットを入れることができる。また、
図4-2に示すように、ラインCL3,CL4,CL5の切断用の案内用の案内線は、ラインCL3,CL4,CL5のどちらかの切断用案内線の部分を切断することにより、ワンピースがトップスとスカートとして着用することができるようになる。トップスの長さも着用者の嗜好に合わせて長さが調節できる。例えば一番短く着用したい場合はラインCL3の裁断用案内線の部分を切断する。逆に一番長く着用したい場合はラインCL5の裁断用案内線の部分を切断する。さらに、
図5-1および
図5-2に示すように、ラインCL6の切断用案内線の部分を嗜好に合わせて切断することでトップスにスリットが入れられるようになる。
図5-3に示すように、ラインCL6の切断用案内線の部分をラインCL3まで切断し、ラインCL3の切断用案内線の部分を切断することにより、羽織り物として着用することができるようになる。
【0019】
次にガイドラインに沿った切断および、切断後の活用方法をどう顧客に提案するかについて説明すると、経編機による編成後個々に切り離されたワンピースは多種多様に活用出来ることがわかる。1つのデザインのワンピースをそれぞれ任意の切断用案内線の部分を切断し、活用例をディスプレイ又はコンピューターグラフィックスや動画などで表現することで、顧客がどのように活用したら良いかがわかりやすい。そしてショップは必要最低限の小さなショップやイーコマースサイトなど、従来のショップよりもコストを抑えた方法で販売する。顧客が購入後任意のラインで顧客自ら切断を行って差支えない旨の多種多様な活用方法を注意書きとして同封することにより需要性に注意を喚起することができる。多種多様に活用する際に着用者は最適な切断線を決定する。このような切断作業が不安であればショップにゆだねてもよいし、購入者(着用者)自らが行ってもなんら差し支えない。
【0020】
以上の実施形態ではワンピースにスリットを入れること又はワンピースを切り離して上下分けて着用することができることや、トップスにスリットを入れたり、羽織り物としての着用について説明したが、
図6に示すように、スカートとしても着用することができる。
図6-1に示すように、ラインCL5の裁断用案内線部分を切断することにより短め丈のスカートとして着用できる。また、CL3の裁断用案内線で切断することにより短めの丈で着用ができる。
図6-2に示すように、ラインCL1,CL2の裁断用案内線で切断することによりスリットを入れることも可能になる。スカートウエストのサイズがフィットするかもスカートでは重要になってくるが、付属の紐が通るよう専用に紐を通す穴DM2,DM3が開けられているので、付属の紐を通してベストフィットのサイズに調整することが可能となる。(開口の大きさ)を自由に設定可能とすることもこの発明の範囲に包含される。
【0021】
この発明において重要な点はワンピースを一体に形成した編物は経編組織にて編成されていることである。経編組織においては、周知の通りのウエール方向における経糸ループ同士の複雑な交絡構造を有している。そのため、任意のラインでのカットにかかわらず、カット縁において編物を構成する糸が交絡を維持することができる。即ち、この実施形態では経編布帛中に衣類(ワンピース)を一体形成し、一体形成された衣類を切り出した後、ショップないしは個人が過程において多様に設けた案内線を利用して多種多様な活用方法が得られるようカットしており、カットされた縁部はそのままで何等処理を加えていないが、このようにカットしたままでも縁部に糸のほつれがない状態を確保することができる。
【0022】
図3はこの発明の実施において使用しうるラッシェル経編機の一例を模式的に示しており、経編機は2列の針列20,22と、針列20,22に対応して設けた2列の地筬24,26と、2列のジャカード筬28,30を備えており、地筬24には第1層10を構成する経糸32が挿通され、地筬26には第2層12を構成する経糸34が挿通される。従って、非接結部では針列20及び地筬24によって経糸32より第1層10が編成されると同時針列22及地筬26によって経糸34より第2層12が編成され、これら第1層10と第2層12とは非接結部では相互に分離している。そして、ジャカード筬28,30にはそれぞれ経糸36,38が挿通されており、ジャカード筬28,30は接結線14に沿って第1層10と第2層12とを経糸36,38によって綴じ、これにより
図1及び
図2で説明した、第1層10と第2層12とが衣類の外形線に沿った接結された構造を得ることができる。
【0023】
図3に示す経編機の構造は公技番号86-5822に開示されたものと同様である。また、特公昭52-12306号公報や実開昭62-153304号公報や特許第3718793号公報にも開示された経編機によってもこの発明は実施可能である
【符号の説明】
【0024】
10…第1層
12…第2層
14‐1,14‐2,14‐3…接結線
14A…首回りの開口部分
14B…袖口の開口部分
14C…裾の開口部分
20,22…針床
24,26…地筬
28,30…ジャカード筬
32,34,36,38…経糸
CL1,CL2,CL3,CL4,CL5,CL6…切断用の案内線
DM1,DM2,DM3…紐を通す穴
DL…飾り穴