(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022027363
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】魚貝類の感染ウイルス及び貝毒の浄化法とその装置。
(51)【国際特許分類】
A01K 61/13 20170101AFI20220203BHJP
A01K 63/04 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A01K61/13
A01K63/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020140458
(22)【出願日】2020-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】502166662
【氏名又は名称】熊谷 照男
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 照男
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA01
2B104AA22
2B104BA14
2B104EB04
2B104EB19
2B104EB20
2B104EB27
(57)【要約】
【課題】 魚貝類に感染したノロウイルスの不活化および貝毒を解毒化して、消費者が安心して、牡蠣やホタテを摂食できる処理方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 柿タンニンのタンパク質凝集能と、マイクロバブルの微小静電気を伴う自己加圧分解の相互作用で、ノロウイルスの不活化と貝毒の解毒に効果を示すことは、ノロウイルスや貝毒の発生で出荷規制が行われることによる生産者や水産経済への被害を減らし、消費者に安全安心な魚貝類の提供を可能にすることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚貝類蓄養水槽内水およびマイクロバブル発生処理原水には、植物由来組成物を含む滅菌濾過海水、又は、人工海水など塩分を含む塩水である、魚貝類の感染ウイルスの不活化および貝毒の解毒化法とその装置。
【請求項2】
前項[1]の魚貝類の感染ウイルスの不活性化および貝毒の解毒法に用いる植物由来組成物は柿タンニンであることを特徴とする、魚貝類の感染ウイルスの不活化および貝毒の解毒化法とその装置。
【請求項3】
前項[1]及び[2]の魚貝類の感染ウイルスの不活性化、および、貝毒の解毒化法に、柿タンニンのタンパク質凝集能、および、マイクロバブルの微小静電気を伴う自己加圧分解能を応用することを特徴とする、魚貝類の感染ウイルスの不活化および貝毒の解毒化法とその装置。
【請求項4】
塩水に植物由来タンニンを滴下、または、添加・混合した処理水を、加圧循環ポンプ、および、マイクロバブル発生ノズルを用いて、魚貝類蓄養水槽内の塩水に微細気泡にして放散、および、循環させ、魚介類の感染ウイルス、および、貝毒をマイクロバブルの微小静電気を伴う自己加圧分解作用と柿タンニンのタンパク質凝集能で凝集した汚染物を、泡沫分離器を介して魚貝類の蓄養水槽外に放出する、項[1]~[3]に記載の事項を抱合する、魚貝類の感染ウイルスの不活化および貝毒の解毒化法とその装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、魚貝類に感染したノロウイルスの不活化および貝毒の解毒化に関する。また本発明は、植物組成物の柿タンニンおよび微細気泡のマイクロバブルそれぞれの応用に関する。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルスは、直径約30nmのプラス鎖の一本鎖RNAウイルスで、1968年にアメリカで食中毒・急性胃腸炎の病原体として発見されて以来、日本でもノロウイルスを起因とする食中毒の発生が多数報告されている。
【0003】
ノロウイルスに感染すると24~48時間の潜伏期間(感染から発症までの時間)を経て、下痢や発熱、腹痛などの症状が現れる。
【0004】
感染源は牡蠣などの二枚貝を原因とする経口感染、ノロウイルスの含まれる排泄物や食品に触れた手を介しる接触感染、嘔吐物からの飛沫を吸い込む事による飛沫感染など二次感染などがある。
【0005】
ノロウイルスは少量であっても人体の腸内で増殖する感染力の強いウイルスといわれている。
【0006】
ノロウイルスの感染拡大を抑制するためには、摂食食品を中心内部が85~90℃になる状態で90秒以上加熱処理する一次感染予防とともに調理器具や手指等の消毒により、ノロウイルスの二次感染を防御することが極めて重要であり、200ppm以上の次亜塩素酸ナトリウムでの処理がノロウイルスの消毒方法として公的に認められている。
【0007】
しかし、これ等は人体の安全性への配慮から飲食物に使用することは適当とは云えず、例えば、[特許文献1参照]の苛性ソーダーと食塩を混合した電解質水溶液、または海水に苛性ソーダーを加えてアルカリ性とした溶液を電解装置で電気分解し、生成した電解水を水道水または海水等の用水に希釈混合して生牡蠣等や活魚貝類を洗浄・殺菌する技術が公開されている。
【0008】
また、[特許文献2参照]の次亜塩素酸を含有する殺菌海水に活きている牡蠣を浸して貯蔵するとともに、殺菌海水を電気分解して酸素を発生させることにより、殺菌海水中の酸素濃度を高めて牡蠣の給水活動の低下を抑制し、牡蠣の浄化効率を高めるような技術も公開されている。
【0009】
更には、[特許文献3参照]の植物の果実の抽出物「カキ抽出物」や植物の種子の抽出物「デーツ種子抽出物」を用い、抗ノロウイルス作用に優れ、かつ人体に対する安全性も高い技術、及び[特許文献4参照]のヒトノウイルスの近縁のウイルスを用いて、実際のウイルスに対する作用として証明し、12種類のウイルスに対する効果を判定し、柿渋のみが、調べたすべてのウイルスに対して強い効果をもつことを示した技術が提案されている。
【0010】
一方、魚貝類は日本料理をはじめ、中華、フランス料理といった世界各国の食文化で、特に二枚貝の牡蠣やホタテは非常に人気がある。
【0011】
しかし、食卓の主役を演じる二枚貝を摂食する事により、時々、食中毒を起こすことは昔から経験的に知られており、消費量が増加するに伴い、安全確保の面からも貝毒の問題がクローズアップされている。
【0012】
貝毒は、海水中に異常増殖した有毒プランクトンを二枚貝が摂食し、貝の体内に毒を特異的に蓄積して発生する。貝毒は、食中毒の初期症状の違いから、「下痢性」と「麻痺性」が知られている。
【0013】
下痢性貝毒はホタテ貝などの中腸線に含まれる下痢性貝毒の量が、1g当り、0.5マウスユニット(下痢性貝毒の1マウスユニットとは、体重20gのマウスを24時間で死に至らしめる毒の量をいう)を超えた場合。
【0014】
又は、ホタテ貝などの中腸線に含まれる麻痺性貝毒の量が、1g当り、20マウスユニット(麻痺性貝毒の1マウスユニットとは、体重20gのマウスを15分間で死に至らしめる毒の量をいう)を超えた場合には、当該ホタテ貝生産海域のホタテ貝の生産に厳しい出荷規制等がある。
【0015】
いずれも毒化原因となるプランクトンの種類と有毒成分が異なり、「下痢性」と「麻痺性」の二つの貝毒は、熱や酸処理による抵抗性が強いのが共通している。
【0016】
下痢性貝毒による中毒は、食後30分から4時間以内に下痢・吐き気・嘔吐・腹痛が発症します。通常3日程度で回復する。
【0017】
麻痺性貝毒の場合は食後30分くらいから口唇・舌・顔面・四肢の痺れ感にはじまり、運動麻痺が起こるが対応治療薬は無く、毒が体外に排出されるまで人工呼吸による対症療法が唯一の処置法とされている。
【0018】
一方、青い未熟な渋柿の実を搾汁し、醗酵、醸したのが柿渋で、日本では古くから、この柿渋を塗料や染料、あるいは万能民間薬として、高血圧、やけど、しもやけ、蛇毒の解毒としてマルチに活用されていた。
【0019】
近年は、柿渋を分子構造が安定するまで熟成し、高分子化したカキタンニンを用い、種々のウイルス成分を不活性化することを証明した、渋柿の強力な抗ウイルス作用が公開され、さらに柿渋の抗ウイルス能の作用機構を調べ、ウイルス表面たんぱく質に柿渋が結合してウイルスを不活性化していることを明らかにしている。
【0020】
微細気泡のマイクロバブルは1992年に広島県の牡蠣が赤潮により壊滅の危機に陥った時に、当時の徳山高等専門学校の大成教授が海水中で微細気泡を発生させ、牡蠣を危機から救ったおり、大成教授がこの微細気泡をマイクロバブルと名付けたことからマイクロバブルが日本初の技術として本格的な研究がはじまったといわれている。
【0021】
液中で発生したマイクロバブルの内、約50μより大きなマイクロバブルは数分で消滅するが、約50μ以下のマイクロバブルは水圧によってナノバブルへと縮小する。
【0022】
この微小気泡のマイクロバブルの工学的な利用技術を応用して、牡蠣など貝類の食中毒の原因物質として多くの被害を出しているノロウイルスを不活性化することに成功した技術[非特許文献1]が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2003-259755号公報
【特許文献2】特開2006-20570号公報
【特許文献3】特開2020-40907号公報
【特許文献4】特許第5092145号 平成24年9月28日登録
【0024】
【非特許文献1】独立行政法人 産業技術総合研究所、AIST today 2004.3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、植物由来組成物の柿タンニンおよび微細気泡のマイクロバブルをそれぞれの特徴を応用して、魚貝類のノロウイルス(またはその代替えウイルス)に対する不活化およびホタテ貝など二枚貝に特異的に蓄積する貝毒の解毒化を図り、かつ人体に対する安全性も高い浄化処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者は、青渋柿の抽出物に代表される柿タンニンのタンパク質の凝集能とマイクロバブルの微小静電気を伴う自己加圧分解作用に着目した。
【0027】
そこで、魚貝蓄養槽内の海水および、人工海水など塩分を含む塩水中に、柿タンニンを添加、または、滴下混合し、エアーレーション式マイクロバブル発生ノズルを介して人工海水蓄養槽内に微細気泡のマイクロバブルを放散・循環することにより、意外にも牡蠣の中腸線内に含有するノロウイルスの不活化とホタテ貝の中腸線内に含有する貝毒の解毒化作用があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0028】
すなわち本発明は、柿タンニンのタンパク質凝集能とマイクロバブルの微小静電気を伴う自己加圧分解の相互作用が、ノロウイルスの不活化と貝毒の解毒化させる効果を有することを見出した本発明は、下記の事項を包含する。
[1]
魚貝類蓄養水槽内水およびマイクロバブル発生処理原水には、植物由来組成物を含む滅菌濾過海水、又は、人工海水など塩分を含む塩水である、魚貝類の感染ウイルスの不活化および貝毒の解毒化法とその装置。
[2]
前項[1]の魚貝類の感染ウイルスの不活化および貝毒の解毒化法とその装置に用いる植物由来組成物は、柿タンニンであることを特徴とする魚貝類の感染ウイルスの不活化および貝毒の解毒化法とその装置。
[3]
前項[1]及び[2]の魚貝類の感染ウイルスの不活化、および、貝毒の解毒化法に、柿タンニンのタンパク質凝集能、および、マイクロバブルの微小静電気を伴う自己加圧分解能を応用することを特徴とする、魚貝類の感染ウイルスの不活化および貝毒の解毒化法とその装置。
[4]
滅菌濾過海水、又は、人工海水など塩水に植物由来タンニンを、添加または、滴下・混合した処理水を、加圧循環ポンプ、および、マイクロバブル発生ノズルを用いて、魚貝類蓄養水槽内の塩水に微細気泡にして放散、および、循環させ、魚介類の感染ウイルス、および、貝毒をマイクロバブルの微小静電気を伴う自己加圧分解作用と柿タンニンのタンパク質凝集能で凝集した汚染物を、泡沫分離器を介して魚貝類の蓄養水槽外に放出する、項[1]~[3]に記載の事項を抱合する魚貝類の感染ウイルスの不活化および貝毒の解毒化法とその装置。
【発明の効果】
【0029】
植物由来タンニンのタンパク質凝集能と、マイクロバブルの微小静電気を伴う自己加圧分解の相互作用で、ノロウイルスや貝毒の原因となる海洋プランクトンや微生物の毒性物質を浄化し、ノロウイルスの不活性化と貝毒の解毒に一定の効果を示すことは、消費者のノロウイルスや貝毒による中毒をなくすと共に、これまでノロウイルスや貝毒の発生で出荷規制が行われることによる生産者や水産経済への被害を減らし、消費者に安全安心な魚貝類の提供を可能にする。よって、魚貝生産者の所得を引き上げ、その地域の水産経済を活性化することに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本願の実施形態における製造工程を表したフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を、図面1のフローチャート図に基づいて説明する。ただし、以下の説明は、本質的な例示に過ぎず、本発明の範囲の適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0032】
1の魚貝類の蓄養水槽内に張る塩水は、比重計で1.020~1.023の濃度の滅菌濾過海水、又は、人工海水であり、水温は13℃~15℃を保つことが好ましい。
【0033】
2のマイクロバブルを噴射する気体加圧溶解ノズルは、液体の流れによって吸気するエジェクター方式、又は、高圧酸素を用いて10~20μ以下の微細気泡を1の魚貝類の蓄養水槽内に放散する。
【0034】
3の泡沫分離器は、1の魚貝類の蓄養水槽内に柿タンニンとマイクロバブルで発生する、ノロウイルスおよび貝毒を含む凝集汚染物を泡沫分離して放出する
【0035】
4の濾過槽は、1の魚貝類の蓄養水槽内のオーバーフロー水、および、3の泡沫分離器からの戻り水の受入れと、クーラー等による水温調整も兼ねる。
【0036】
5の加圧循環ポンプは、総体水量を最低でも1時間に3巡回する能力を要する。
【0037】
6の紫外線殺菌装置は、バクテリア、ウイルス、藻や細菌類を破壊する、簡単で高価な費用のかからない装置である。
【0038】
7の柿タンニン滴下混合器は、2ppm以下の適量な柿タンニン滴下混合と、3の泡沫分離器でノロウイルスおよび貝毒を含む凝集汚染物を泡沫分離して放出した際に生ずる、総体塩水量不足を補う、バッファータンクも兼ねる。
【0039】
以上の本実施形態の運用によって、魚貝類に感染したノロウイルスの不活性化および貝毒の解毒化を達成することができる。
【0040】
本発明は、マイクロバブルの微小静電気を伴う自己加圧分解作用と柿タンニンのタンパク質凝集能の二つの特性が関与して成された可能性が高いが、ノロウイルスおよび貝毒は、人間の腸管のみで増殖するので、その詳細なメカニズムの解明は難しく、牡蠣のノロウイルスの分析結果とホタテ貝の貝毒の分析結果で証明されたのみの事実だけで出願するものである。
【符号説明】
【0041】
1 魚貝類蓄養水槽
2 マイクロバブル発生ノズル
3 泡沫分離器
4 濾過槽
5 加圧循環ポンプ
6 紫外線殺菌装置
7 柿タンニン滴下混合器