(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022027368
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】無菌化空調装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/10 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
A61L2/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020145038
(22)【出願日】2020-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】319012060
【氏名又は名称】N-EMラボラトリーズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永山 國昭
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA07
4C058AA23
4C058AA26
4C058BB06
4C058CC04
4C058DD11
4C058EE29
4C058KK02
4C058KK28
(57)【要約】 (修正有)
【課題】人の出入りに波があり3蜜状態が形成されやすい環境での感染症に対して、社会的に許容されるコストでの感染防止対策機器の提供。
【解決手段】本願装置の下方または側方にいる人に対し、周辺空気を紫外線殺菌された無菌化空気の気流で常時置換し、種々の感染を持続的に防止する。具体的には、送風機22の駆動によりウイルスや細菌の浮遊する外気が送風機吸気口21より取り込まれ、殺菌箱吸気口23を通り殺菌箱24に送られる。紫外線により殺菌箱中で無菌化された空気は主散気パイプ26に送られ、そこから分岐する複数の散気パイプ27a、27b、27c、27dに穿たれた大きさの異なる散気口28a、28b、28c,28dより室内に放出される。放出される無菌化空気は、複数の風向調整板31を用いて気流方向を調整され、本装置の周辺空気を常に無菌状態に保ち感染防止を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内に装備される散気システムにおいて、前記散気システムに紫外線源を収容する殺菌箱と前記殺菌箱に空気を送る送風機と前記送風機より送られた空気を散気する散気パイプよりなる散気機構とを接合配置し、
前記送風機の送風により室内の空気と前記殺菌箱の空気と前記散気機構の空気とを気流接合させ、
前記殺菌箱に導かれた空気に浮遊するウイルスや細菌を、前記殺菌箱に付置された前記紫外線源から放射される紫外線により殺菌し、
無菌化された空気は、前記送風機により前記散気パイプに送られ、前記散気パイプに穿たれた散気口より室内に放出され、
散気システムの近傍に位置する人の周辺を無菌化空気で覆うことで感染源を遮断し感染防止を行う、
ことを特徴とする無菌化空調装置。
【請求項2】
前記散気システムは、散気機構部位に、
散気口から放出される気流方向調整用の風向調整板を収容した風向調整筐体を密着付置する、
ことを特徴とする請求項1に記載の無菌化空調装置。
【請求項3】
前記散気パイプは、複数の散気口を持ち、
異なる位置の散気口からの送気量が同一になるように、
散気口径は殺菌箱接合部位からの距離に依存して大となる構造を保持する、
ことを特徴とする請求項1に記載の無菌化空調装置。
【請求項4】
前記散気システムの外形は平形であり、
前記殺菌箱を前散気システムの外周に沿い周回して配置し、
前記殺菌箱に接合する散気パイプよりなる前記散気機構を周回殺菌箱の内側に配置し、
前記散気パイプから無菌化空気を放出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の無菌化空調装置。
【請求項5】
前記散気パイプは、分岐構造または渦渦巻き状構造を持つことで周回殺菌箱の内側を密に被覆する、
ことを特徴とする請求項4に記載の無菌化空調装置。
【請求項6】
前記散気システムは、天井または天井に固定される架台に水平方向に装備され、
前記散気パイプからの無菌化空気を下方に放出し、
下方に位置する人の周辺を無菌化空気で覆う、
ことを特徴とする請求項1に記載の無菌化空調装置。
【請求項7】
前記散気システムは、移動可能なスタンドに水平方向に装備され、
前記散気パイプからの無菌化空気を下方に放出し、
下方に位置する人の周辺を無菌化空気で覆う、
ことを特徴とする請求項1に記載の無菌化空調装置。
【請求項8】
前記散気機構システムは、移動可能な架台に垂直方向に装備され、
前記散気パイプからの無菌化空気を側方に放出し、
側方に位置する人の周辺を無菌化空気で覆う、
ことを特徴とする請求項1に記載の無菌化空調装置。
【請求項9】
前記散気システムにおいて、前記散気機構は送風ファンを付置した散気口を多数保持する分岐散気パイプまたは渦巻き散気パイプより構成され、
前記散気パイプは紫外線源を収容する単一の殺菌箱に気流接合され、
前記殺菌箱は、前記散気パイプと反対側に配置された単一の送風機に気流接合され、
前記単一送風機で賄えない送風量を各散気口付置送風ファンで補強することにより、
室内の広範囲に広がる人に無菌化空気を放出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の無菌化空調装置。
【請求項10】
前記紫外線発生源は、波長範囲が180nmから379nmのいずれかに中心波長をもつ紫外線を発生する紫外線LEDを1個乃至複数個有する、
ことを特徴とる請求項1から請求項9のいずれかに記載の無菌化空調装置。
【請求項11】
前記送風機は、送風量が電気制御され、下降気流速度を1cm/秒から100cm/秒の範囲に設定し得る、
ことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載の無菌化空調装置。
【請求項12】
前記殺菌箱は、内壁を鏡面仕上げされ、鏡面仕上げされた内壁の反射率が50%以上である、
ことを特徴とする請求項1から請求項11のいずれかに記載の無菌化空調装置。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の周辺の無菌化空間生成に関する。より詳しくは、トイレにおける用便中の人やレストランにおける食事中の人などの人周辺部を無菌化空気流で覆い感染防止を目的とした無菌化空間を生成する独立型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現今猛威を振るう新興感染症(新型コロナウイルス感染症)につき種々の感染環境が疑われているが、いずれも閉鎖的な狭小空間の少人数収容か閉鎖的大空間の多人数収容に伴ういわゆる3蜜(密閉、密集、密接)状態を形成しやすい空間という共通の性質を持つ。
【0003】
一般に閉鎖空間である室内の空気清浄化については、フィルターを用いた種々の製品(非特許文献1、2)が市販されている。しかしこれらはゴミや花粉などのアレルゲン除去が主目的であり殺菌の実効性はほとんどないと考えられる。殺菌をうたった家庭用製品としては、空気還流型の紫外線殺菌装置(非特許文献3)があるが、殺菌効率が定義できるのは装置内部空間だけあり、膨大な空間の空気容量を考慮すると装置外部での殺菌率が推計不能である。紫外線照射による開放型の紫外線殺菌装置(非特許文献4)では、殺菌可能域は装置近くに限定され、離れた場所の殺菌効果は不明である。また人目に触れる場所や時間での設置が紫外線有害性により困難である。紫外線に替わる感染源不活化手段としてオゾン除菌装置(非特許文献5,6)も注目されているが、これも除菌・殺菌効率と有害性との相反性という難点を持つ。いずれにせよこれらはコロナ禍で感染環境と指摘され認定されはじめた3蜜状態に特に対処する工夫がなされておらず実効性には疑問府がつく。
なお本願で殺菌とは、「ウイルスや細菌など感染源全般の不活化」を指す。また殺菌率は対象の中に存在するウイルスや細菌の個体数の内、不活化されたものの個数の比率を指す。
【0004】
すでに本出願者は、閉鎖空間に対する新興感染症対策機器として、便器内空気の殺菌装置(特許文献1)、ハンドドライヤー空気の殺菌装置(特許文献2)、患者下半身局所の空気殺菌装置(特許文献3)、乗用車やエレベーターなどの移動体内の殺菌装置(特許文献4)などを出願しているが、それら全てにおいて、閉鎖空間と殺菌箱を結合する円環気流接合の原理を用いて、特定の紫外線光出力での殺菌時間推計を殺菌すべき空気量と目標の殺菌率を指標として定量設計してきた。そこでの定量性の根拠は、例えば99.9%殺菌を行う紫外線照射量のデータであり、円環気流接合を行う対象空間空気容積量の確定である。99.9%殺菌という完全殺菌に近い高い殺菌効率が、殺菌装置の大きさおよびコストを過大にせず可能となったのは、狭い閉鎖空間の空気容積量の小ささが幸いしている。一方、広い閉鎖空間では装置コスト、稼働コストの両面から完全殺菌は望めない。しかし、完全殺菌でなく例えば、90%程度の殺菌率による感染回避でも必要とされる社会的局面は多々ある。またトイレなどの狭い閉鎖空間でもコストとの関係で完全殺菌でなく90%以上殺菌を許容する局面があるであろう。さらに言えば90%以下の殺菌率でも殺菌率が定量化できれば、個人個人の行動対応の指針となる有用な局面もあると考えられる。すなわちすでに世に出回っている実効性の薄い空気清浄機、紫外線殺菌灯やオゾン殺菌装置などと本出願者の発明である円環気流接合原理を用いた完全殺菌に近い殺菌装置の中間的装置が日常生活のより広い局面で求められていると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2020-094964(便器内空気殺菌装置) 2020年4月27日出願
【特許文献2】特願2020-097256(空気殺菌ハンドドライヤー) 2020年5月4日出願
【特許文献3】特願2020-103374(局所空気殺菌装置) 2020年5月19日出願
【特許文献4】移動体殺菌装置、出願人:N-EMラボラトリーズ株式会社 2020年7月1日出願
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】https://www.dyson.co.jp/air-treatment/purifier-humidifier/dyson-pure-humidify-cool/ph01-dyson-pure-humidify-cool-white-silver.aspx(加湿空気清浄機)
【非特許文献2】https://www.daikinaircon.com/ca/index.html(ストリーマ空気清浄機)
【非特許文献3】https://axel.as-1.co.jp/asone/g/NCN8038968/(空気殺菌灯)
【非特許文献4】http://www.nitride.co.jp/products/Germicidal-Lamp.html(ハンディUV-LED殺菌灯)
【非特許文献5】https://www.ozonemart.jp/wp/archives/product_lp/1003(オゾンクラスター1400)
【非特許文献6】https://www.teco.co.jp/lyon.html(リオン3.0)
【非特許文献7】Ryoichi Matsuda,Fart and air in toilet private room maybe routes for fecal-oral infection,possibly for 2019-nCoV.,Internat.J.Hygn.Environ.Health,2020、投稿中。
【非特許文献8】https://www.iwasaki.co.jp/optics/chishiki/uv/02.html、岩崎電機株式会社ホームページ、照明、光応用の知識、紫外線殺菌、2.紫外線による殺菌・不活化、表2。
【非特許文献9】https://www.ana.co.jp/group/about-us/air-circulation.html ANA、機内の空気循環について。
【非特許文献10】石田鉄光、紫外線殺菌の効果に関する研究、補綴誌JPN Prosthdont Soc,39,939~947,1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トイレ、タクシー、エレベーター、バス、カフェ、レストラン、会議室、サービスビス業受付、病院受付など人の出入りに波があり時として3蜜状態が形成されやすい環境での感染症に対して、社会的に許容されるコストでの感染防止装置の設置が求められているが、そのためには以下の課題の解決が要請される。
1、人の出入りがある室内で、人がとどまる特定場所の人周辺の空気を効率的に無菌化する装置であること(空気感染防止)、
2、人の出入りがある室内で、推奨される2mのソーシャルディスタンスを大幅に縮小しても、マスクなしの対人コミュニケーションが可能となる無菌化装置であること(飛沫感染防止)、
3、殺菌率を定量化できること(殺菌性能)、
4、手法が無害であること(安全性)、
5、無人連続運転に耐えること(頑強性)、
6、いろいろな環境の室内空間に対応して敷設できること(汎用性)。
【0008】
ここで感染形態の用語につき本願における定義を明確にする。
飛沫感染とは、咳やくしゃみで感染源を含む飛沫が飛び、その飛沫を近隣他者が呼吸を通じて体内に取り込むために感染する形態を指す。
空気感染とは、咳やくしゃみで飛んだ飛沫の水分が蒸発した後、感染源エアロゾルや感染源核が長時間空気中に浮遊し、呼吸を通じて人の体内に入り感染する形態を指す。なお肛門よりおならとして排出される腸内ガスにも感染源細菌が多量に含まれることが最近報告された(非特許文献7)。おならを肛門から排出される飛沫と考えれば、人の口に達するまでに空中を漂い水分が蒸発した後、呼気を通じて人の体内に入り得るので空気感染の1種と考えられる。便器内の便臭気からの飛沫も同様であり、これらを総称して糞口感染と語用することもある。
接触感染とは、皮膚や粘膜の感染源への直接的な接触や、感染源がついた物に触れた手を介して人の口に入り感染する形態を指す。
経口感染とは、感染源が含まれた水を飲んだり、食物を食べたりすることで、人の口に入り感染する形態を指す。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、室内に装備される散気システムにおいて、前記散気システムに紫外線源を収容する殺菌箱と前記殺菌箱に空気を送る送風機と前記送風機より送られた空気を散気する散気パイプよりなる散気機構とを接合配置し、前記送風機の送風により室内の空気と前記殺菌箱の空気と前記散気機構の空気とを気流接合し、前記殺菌箱に導かれた空気に浮遊するウイルスや細菌を、前記殺菌箱に付置された前記紫外線源から放射される紫外線により殺菌し、無菌化された空気を、前記送風機により前記散気パイプに送り前記散気パイプに穿たれた散気口より室内に放出し、散気システムの近傍に位置する人の周辺を無菌化空気で覆うことで感染源を遮断し感染防止を行うことを特徴とする無菌化空調装置である。
【0010】
第1の発明に係る無菌化空調装置によれば、人と対面する室内空間の場合は対面者からの飛沫感染を、感染源が疑われる室内空間の場合は空気感染を、無菌化気流が人周辺に作る無菌化空気バリアーにより連続的に防止できる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記散気システムは、散気機構部位に、散気口から放出される気流の方向調整用風向調整板を収容した風向調整筐体を密着付置することを特徴とする無菌化空調装置である。
【0012】
第2の発明に係る無菌化空調装置によれば、無菌化空気の気流方向を調整でき、無菌化空気バリアーを散気システム近傍に位置する人周辺の最適位置に確保できる。
【0013】
第3の発明は、第1の発明において、前記散気パイプは、複数の散気口を持ち、異なる位置の散気口からの送気量が同一になるように、散気口が殺菌箱接合部位から離れるに従い散気口径を大とする設計であることを特徴とする無菌化空調装置である。
【0014】
第3の発明に係る無菌化空調装置によれば、散気口から室内に放出される気流は異なる位置で同一となるので気流量の場所的むらがなくなり散気システム近傍に位置する人周辺の無菌化空気バリアーに抜け穴がなくなり安全を確保できる。
【0015】
第4の発明は、第1の発明において、前記散気システムの外形は平形であり、前記殺菌箱は前散気システムの外周に沿い周回して配置され、前記殺菌箱に接合する散気パイプよりなる前記散気機構は周回殺菌箱の内側に配置され、前記散気パイプから無菌化空気を放出することを特徴とする無菌化空調装置である。
【0016】
第4の発明に係る無菌化空調装置によれば、散気システムがコンパクト設計されつつもシステム外周を殺菌箱が取り巻くので殺菌箱内気流路長を最大化でき、同一紫外線源光出力での殺菌効率を最大化できる。
【0017】
第5の発明は、第4の発明において、前記散気パイプは、分岐構造または渦渦巻き状構造を持つことでシステム周回殺菌箱の内側を密に被覆することを特徴とする無菌化空調装置である。
【0018】
第5の発明に係る無菌化空調装置によれば、気流放出散気口をシステム内側に設定でき散気システム近傍に位置する人に向かう気流のコンパクトな調整ができ無菌化空気バリアーを効率的に確保できる。
【0019】
第6の発明は、第1の発明において、前記散気システムは、天井または天井に固定される架台に水平方向に装備され、前記散気パイプからの無菌化空気を下方に放出し、下方に位置する人の周辺を無菌化空気で覆うことを特徴とする無菌化空調装置である。
【0020】
第6の発明に係る無菌化空調装置によれば、天井または天井に固定される架台に装備された前記散気システムからの無菌化気流は、下方に位置する人の周辺に無菌化空気バリアーを作るため対人コミュニケーションに邪魔となる透明プラスチック板などの対人感染対策が不要となる。
【0021】
第7の発明は、第1の発明において、前記散気システムは、移動可能なスタンドに水平方向に装備され、前記散気パイプからの無菌化空気を下方に放出し、下方に位置する人の周辺を無菌化空気で覆うことを特徴とする無菌化空調装置である。
【0022】
第7の発明に係る無菌化空調装置によれば、散気システムを支える移動スタンドの支柱の長さを下方に位置する人の状況により任意に設定できるので、天井直接設置型に比べ気流路を短くでき、気流拡散を防ぎ効率的な無菌化空気バリアー生成が可能となる。また移動可能なので、感染源の疑われる室内において、不規則に散在するひとりひとりに対し無菌化空気バリアーを生成することができる。
【0023】
第8の発明は、第1の発明において、前記散気システムは、移動可能な架台に垂直方向に装備され、前記散気パイプからの無菌化空気を側方に放出し、側方に位置する人の周辺を無菌化空気で覆うことを特徴とする無菌化空調装置である。
【0024】
第8の発明に係る無菌化空調装置によれば、側方に位置する人と装置との距離を任意に設定できるので気流路を短くでき、気流拡散を防ぎ効率的な無菌化空気バリアー生成が可能となる。また感染源の疑われる室内において、不規則に散在するひとりひとりに対し無菌化空気バリアーを生成することができる。
【0025】
第9の発明は、第1の発明において、前記散気機構は送風ファンを付置した散気口を多数保持する分岐散気パイプまたは渦巻き散気パイプより構成され、前記散気パイプは紫外線源を収容する単一の殺菌箱に気流接合され、前記殺菌箱は、前記散気パイプと反対側に配置された単一の送風機に気流接合され、前記単一送風機で賄えない送風量を各散気口付置送風ファンで補強することにより、室内の広範囲に広がる複数の人に無菌化空気を放出することを特徴とする無菌化空調装置である。
【0026】
第9の発明に係る無菌化空調装置によれば、複数の人が定位置にとどまる室内空間において、人と対面している場合は対面者からの飛沫感染を、感染源が疑われる室内空間の場合は空気感染を、単一の殺菌箱が生成する無菌化空気を送風ファンの助けで複数散気口から同時に複数の人に向け放出し無菌化空気バリアーを作り、効率的な感染防止を実行できる。
【0027】
第10の発明は、第1の発明から第9の発明のいずれかにおいて、前記紫外線発生源は、波長範囲が180nmから379nmのいずれかに中心波長をもつ紫外線を発生する紫外線LEDを1個乃至複数個有することを特徴とする無菌化空調装置である。
【0028】
第10の発明に係る無菌化空調装置によれば、殺菌箱内空気を紫外線で常時殺菌することで無菌化空気を下方または側方に常時放出することができ装置下方または側方に位置する人の感染を防止できる。
【0029】
第11の発明は、第1の発明から第10の発明のいずれかにおいて、前記送風機は、送風量が電気制御され、下降気流速度を1cm/秒から50cm/秒の範囲に設定し得ることを特徴とする無菌化空調装置である。
【0030】
第11の発明に係る無菌化空調装置によれば、装置下方または側方に位置する人の周辺に作る無菌化空気バリアーの生成を安定に制御できる。すなわち、無菌化空気下降気流と競合する室内の擾乱気流の状況に応じ気流速度および第6発明に係る気流方向を調整することで無菌化空気バリアーを装置下方または側方に位置する人周辺の最適位置に確保できる。特に室内の擾乱気流がない場合やソーシャルディスタンスが確保されている場合、気流を弱く設定でき電力消費面で経済的に運用できる。
【0031】
第12の発明は、第1の発明から第11の発明のいずれかにおいて、前記殺菌箱は、内壁が鏡面仕上げされ、鏡面仕上げされた内壁の反射率が50%以上であることを特徴とする無菌化空調装置である。
【0032】
第12の発明に係る無菌化空調装置によれば、殺菌箱内に設置された前記紫外線源から射出された紫外線が内壁により何回も反射されながら殺菌箱内空気を照明するため、紫外線照明強度が実効的に増大し殺菌効率を高めること及び殺菌時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0033】
本願装置設置の下方または側方にいる人の周辺に、紫外線により無菌化された空気を常時送気することで無菌化空気バリアーを生成し、人々を飛沫感染や空気感染の危険から持続的に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】正方形外形散気システムを持つ無菌化空調装置の1実施例の概要図。A、装置の平面図 B、装置の側面図 なお以下の図において、循環する気流の流れは図中にところどころ矢印で示されている。
【
図2】トイレへの据え付け型無菌化空調装置の設置例概要図。A、天井に直接設置した例 B、天井から下方に移動懸架した例
【
図3】レストランへの据え付け型無菌化空調装置の設置例概要図。A、個人個人の真上に装置を個別設置 B、対面者二人の中間地点真上に装置を共有設置
【
図4】紫外線LED光出力推計のための殺菌箱モデル。(L:殺菌箱長さ、S:殺菌箱断面積、v:送風量)
【
図5】机に向かう人への可搬型無菌化空調装置の設置例概要図。A、可搬型片持ちスタンドに無菌化空調装置を設置した例 B、可搬型4脚スタンドに無菌化空調装置を設置した例
【
図6】ソファに座る人への可搬型無菌化空調装置の設置例概要図。
【
図7】レストランへの散気複数据え付け型無菌化空調装置の設置例概要図。A、個人個人の真上に散気システム個別設置 B、対面者二人の中間地点真上に散気システム共有設置
【発明を実施するための形態】
【0035】
本願は、飛沫感染および空気感染防止を目的としており、以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。また本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
(装置の基本的実施形態)
【0036】
本願装置の基本的実施形態は冷暖房空調装置に似ており、冷暖房空調装置の熱交換機を殺菌箱に置換した構造をしている。冷暖房空調装置において、熱交換機と室内送風機構の組み合わせに関し、一対一の送風単一型と一対多の送風複数型の別があるように、本願装置も、殺菌箱と室内散気機構の組み合わせに散気単一型と散気複数型の別がある。また冷暖房空調装置において、可搬性に関し、据え付け型と可搬型があるように、本願装置も据え付け型と可搬型がある。ここでは散気単一据え付け型装置、散気単一可搬型装置、散気複数据え付け型装置の順で基本的実施形態を説明する。
(据え付け型無菌化空調装置)
【0037】
室内の天井に水平方向に装備される散気単一据え付け型無菌化空調装置は、全ての型の無菌化空調装置の基本なので詳しく説明する。なおへの装備については、
図2に示すように、直接設置と懸架設置がある。
図1に正方形外形を散気システム基本形態とした1実施例の装置概略を示す。図中のところどころに矢印で示されている気流の流れに従い、装置の部分を説明すると、送風機22の駆動によりウイルスや細菌の浮遊する外気が送風機吸気口21より取り込まれ、殺菌箱吸気口23を通り殺菌箱24に送られる。外気は装置外周を形成する正方形ドーナツ型殺菌箱24の内部20を流れる間に殺菌箱内に複数付置された紫外線源100により紫外線照射され殺菌無菌化される。無菌化された空気は殺菌箱排気口25を通り主散気パイプ26に送られ、そこから分岐する複数の散気パイプ27a、27b、27c、27dに送られ、各パイプに穿たれた大きさの異なる散気口28a、28b、28c,28dより室内に放出される。本装置は原則として人より上方にとりつけられるので、散気口から放出される無菌化空気は、複数の風向調整板31を用いて気流方向を調整され、下降気流として下方に放出され、本装置の下にいる人の周辺空気を常に無菌状態に保つ。すなわち無菌化された空気のバリアーで人を飛沫感染や空気感染から保護する。
殺菌率はウイルスや細菌ごとに必要な紫外線照射量(光エネルギー/面積)として実測されている。これを満たす紫外線照射量は、紫外線光出力(光エネルギー/時間)、殺菌時間(殺菌箱滞在時間)と照射面積で求まり、また殺菌時間は殺菌箱容積と送風量の比で決まるので、これらのパラメーターが決まれば、本装置から放出される空気の殺菌率が与えられるので、対象空間特定部位の殺菌率推計の出発点となる。
図1に示す装置の外寸(正方形型の殺菌箱の辺長)は、使用される状況で最適値が変わるが、20cmから150cmの間である。
なお本願での送風機は、空気ポンプやブロアーなど空気を送気、送風する機構を持つ電動型機械を指す。また紫外線源としては殺菌効率の高い波長をもつ深紫外線源を考慮対象とする。
【0038】
本願装置の性能を左右するのは気流である。従って気流量(風量)、気流方向の制御は重要課題である。気流量については、表1に見るように送風機の送風能力でほぼ決定されるが、気流方向は空調機のような風向調整板で制御するのが良い。本願装置では必要に応じ、気流の集中、拡散、方向を制御する風向調整筐体30が散気口の下方に取り付けられる。例えば
図1Bに示すように、細長い5枚の風向調整板31が取り付けられている。気流方向について、風向調整板で調整できるが、
図1に示すような細長い平面の風向調整板での調整は、1方向のみであり、基本的には、装置下方に位置する人の平均的顔の位置の直上に据え付けるのが良い。図示していないが、一般的には、風向調整板を各散気口を囲むように縦横に取り付け、相当数ある風向調整板全体の方向調整により、ある角度範囲内で任意の方向に風向き制御することも可能である。
【0039】
殺菌箱における殺菌率を与える推計公式は、本発明者がすでに出願した4つの特許(特許文献1~4)と同じものを適用できるが、人周辺の空気の殺菌率にはあいまいさが残る。外部放出された無菌化空気が装置下に位置する個人に届くまでにどの程度他の室内空気と混合するかが特定しにくいからである。後に推計するように下降気流はそよ風程度の風速なので、室内の他の気流の影響を受けることになる。これが先の4つの特許と異なり完全殺菌を主張しない理由である。しかし、トイレ、レストラン、カフェ、会議室などの空間は特別な換気を行わない限りほとんどの時間帯で静止気流状態なので、その場合は下降気流下の人周辺の無菌化空気バリアー内殺菌率を推計できる。具体的には、本願無菌化空調装置が放出する空気の殺菌率につき99.9%を要請するので、個人が占有する特定位置における静止気流状態時間の前記個人の特定位置全占有時間との比をもとに殺菌率を推計できる。例えばレストランにおける場合、客個人の直上から殺菌率99.9%の空気が下降するので客対応の無菌化空気バリアーが張られるが、ウエイターがサービスに来るときや客がトイレに立つとき、その時間帯は無菌化空気バリアーが棄損される。無菌化空気バリアー以外のレストラン環境の殺菌率は一般には不明だが、最悪値0%を仮定すれば、100x(客テーブル滞在時間―無菌化空気バリアー毀損時間)/客テーブル滞在時間が殺菌率を与える。無菌化空気バリアー毀損時間が客テーブル全滞在時間の5%なら殺菌率は95%と定義してよい。もちろん、定義された殺菌率sの空気環境を用意するレストランなどでは、殺菌率は改善され以下の式で推計される。
【0040】
【数1】
上記にs=0を与えれば、先に示した近似式、
100x(客テーブル滞在時間―無菌化空気バリアー毀損時間)/客テーブル滞在時間、がでる。
【0041】
次に無菌化空気バリアーを作るためにどの程度の下降気流速度が必要かを考察する。例えば
図2に示すトイレの場合、感染源はおならや便臭気から放出されるウイルスや細菌である。これらが便器から上方に移動することはにおいから容易に想像がつくが、それはまたおならや便臭気が空気感染源となることも意味している。また現行の水洗トイレに常備されているにおいフィルターは感染源を捕捉する能力が不十分であればむしろトイレ内にウイルスや細菌を拡散させることになる。用便者へのこれらの空気感染源は、例えば顔の周りの絶えざる下降気流、例えば気流速度9m/分=15cm/秒で通過する無菌化空気で遮断できると考えられる。15cm/秒の風速では天井から用便者の顔まで届くのに10秒ほどかかるので、本願装置の始動は、トイレに人が入ってきた直後から行い、用便開始前の無菌化空気バリアーの生成が好ましい。
図3に示すレストランでの使用における下降気流速度は、食事時対面者からの飛沫感染防止に必要な風速であるが、くしゃみ、咳などの際の飛沫発注早いので感染は気流速度9m/分=15cm/秒では感染を防げない。無論、ハンカチで口を覆わずくしゃみ、咳をすること自体エチケット違反なので除外するとすれば、例えば50cm離れた位置からの感染者の呼気や会話時空気が相手に届く時間が問題となる。人の呼気や会話時空気の気流が、50cm離れた相手に届く時間が5秒以上であれば、15cm/秒風速で感染源を含む空気は無菌化空気に置換される。人の呼気や会話時空気の気は送風機と異なり定常流ではないのでこの条件は満たされると考えられる。無論大声で話したり激高したりすればこの限りではないが、新型コロナ禍の教訓はこうした行為が特に忌避される社会常識を生み出しつつある。
なお気流速度と風速は同義として語用している。
【0042】
図3には、2つの例A、Bが示されている。
図3Aは、天井敷設の本願装置から下降気流をほぼ真下に送気し、真下いる一人一人の顔に空気バリアーを張る場合で、気流利用効率が最も高い。しかし、食事中、感染者呼気(咳やくしゃみも含む)から出た感染源は前方対面者の食物に届き、食物を汚染し対面者の経口感染を引き起こす可能性が指摘されており、この場合
図3Bのように、対面する2者の中央付近の天井に散気システムが敷設され、気流を斜め向きに2者の顔周辺に送気するのが好ましい。これにより感染者呼気から出た感染源は感染者本人に押し戻され、対面者の食物には届かず経口感染は防止され、人々は安心して食事を楽しむことが出来る。
図3A、
図3Bのどちらを選択するかは、食事中対面する2者間の距離による。距離が離れている場合は
図3Aが効率的、近い場合は
図3Bが好ましい。特に
図3Bは敷設する散気システムが2人に1個、場合によっては4人に1個で済むので経済的である。
【0043】
速度9m/分=15cm/秒の気流が天井からの下降気流として人周辺の無菌化空気バリアーを形成するには、人周辺環境がこれより弱い気流状態でなければならない。室内に扇風機や冷暖房空調があると何らかの気流が生じるので、そうした装置の稼働停止状態か下降気流を強める対策が必要となる。
ここで下降気流の速度、気流面積、送風量の関係につき考察し装置のサイズ感について考える。気流は正方形外形散気システムに従う正方形とした。結果を下表1に示した。
【表1】
例えば天井に外寸1m四方の装置で内側0.8m四方に気流吹き出し口があるとする。標準的な下降気流15cm/秒を作るには5.76m
3/分の風量が必要になる。市販のヘヤードライヤーの最大風量は2m
3/分程度、家庭用ルームエアコンの風量は5~10m
3/分程度なので風量は両者の中間的値になる。強めの30cm/秒の風速が必要な場合,風量は11.52m
3/分となるが、その場合は家庭用ルームエアコン強風対応の送風能力が必要になる。逆に扇風機などのように顔の近くに置き無菌化空気を顔に吹き付ける場合(
図6参照)、装置の外寸は0.5m四方、気流吹き出しは0.3m四方とすれば良く、30cm/秒風速の気流を1.62m
3/分風量でまかなえるので市販ヘヤードライヤー送風機と同等能力の送風能力となる。このように本願装置は状況に応じた気流速度、気流量が極めて容易に設定できる。その理由は発明の無菌化空調装置が、個人対応のパーソナルユースを前提とするので、仕様を状況に応じ厳密に確定できるからである。
ただし、ヘヤードライヤーの風量や家庭用ルームエアコンの風量との比較は、直ちにそれらに用いられている送風機で本願装置の送風機がまかなえることを意味しない。ヘヤードライヤーや家庭用ルームエアコンに比べ、本願装置の気流抵抗は気流路が長い分大きいため、装置内気流としての風量を満たす送風機の能力は、ヘヤードライヤーや家庭用ルームエアコンに装備されている送風機の裸の性能よりはるかに大きいものが要求されるからである。また気流抵抗及び騒音の考察からHEPAフィルターなどの除菌フィルターは本願装置不向きであり、深紫外線を殺菌の基本とした。
(殺菌率の推計と装置パラメーターの設定)
【0044】
本願装置での殺菌は、人の目に触れない殺菌箱内空間の紫外線殺菌で遂行される。そのために、紫外線強度を必要に応じ強力化することができ、殺菌効率の著しい向上が可能となる。その殺菌効率がどの程度か見積もるため、以下殺菌箱の端面に紫外線LED100を付置した
図4の長尺殺菌箱モデルを使い、殺菌性能を定量的に推計する。殺菌箱24利用のもう一つの利点として、内面を鏡面仕上げにすることで紫外線反射の繰り返しが起こるため、実効的照射強度増加による殺菌効率増強効果がある。反射率をx%とすれば、増強率は1/(1-0.01x)となる。例えば、照射強度は反射率90%では10倍に、反射率80%では5倍にまで増強される。しかも気流方向に紫外線が照射されるため増強紫外線が同一感染源に対し殺菌箱の気流通過時間と同時間照射されつづけることになる。
【0045】
次に必要な下降気流速度と殺菌箱容積が与えられているとき、ある特定の殺菌率(例えば99.9%など)に要求される紫外線照射量(単位mJ/cm2)を満たす紫外線光出力について推計を行う。紫外線照射量(単位:mJ/cm2)については、種々のウイルスや細菌に対して、たとえば254nm波長の水銀ランプでの99.9%不活化率(殺菌)対応のデータが公開されている(非特許文献8)。それによれば、大腸菌、赤痢菌、コレラ菌などは、10mJ/cm2前後。インフルエンザウイルスは7mJ/cm2、ロタウイルスは24mJ/cm2である。新型コロナウイルスに対する紫外線照射量は不明だが、本願では2つのウイルスの中間値を取り15mJ/cm2を仮定する。
【0046】
容積V(cm
3)を持つ殺菌箱を用い、送風機による空気送風量をv(cm
3/秒)とすると、殺菌箱内を空気が通過する時間はV/v秒となる。長尺で細身の殺菌箱を想定し、殺菌箱の長さをL、断面積をSとすると、V=LS。ここで
図2のように殺菌箱端面に添付した深紫外LED1個の光出力をQ(mW=mJ/秒)とすると、鏡面反射による増強率がMの場合、MQの光出力が殺菌箱長手方向に放出される。殺菌箱断面積はSなので、殺菌箱内空気通過時間での感染源への紫外線照射量は以下の[数1]で与えられる。
なお
図1のような正方形コーナーに深紫外LED1個を付置した正方形殺菌箱の場合、各コーナーに付置された深紫外LEDからの光がコーナーを回り込まないとすると、正方形をまっすぐ伸ばした長尺の殺菌箱の端面に深紫外LED1個を付置した場合とほぼ等価となると仮定する。
【0047】
【0048】
殺菌率を99.9%とした場合、上記紫外線照射量が新型コロナウイルスの99.9%殺菌に必要な照射量qに等しくなる条件[数2]により深紫外LED光出力の見積もり[数3]が与えられる。
【0049】
【0050】
【数3】
ところで下降気流速度wと送風量vを関係づけるには本装置が作り出す下降気流の断面積の数値が必要である。それをS
aとしよう。v=wS
aなので、[数3]に代入すると以下の[数4]を得る。
【0051】
【数4】
[数4]より必要な光出力Qは、q、w、S
a、Mが所与の時、Lを大きくすればいくらでも小さくできることになる。すなわち殺菌箱は長ければ長いほど弱い光出力で同一の殺菌効率を保持できることになる。これはこのように理解される。体積V一定、送風量v一定の時は、殺菌箱内滞在時間が一定なので、Sを小さく(Lを大きく)すれば同様に弱めた光出力で同一光照射量(光出力/面積)が保持され同一殺菌率が確保される。断面積一定の場合は、Lを大きくすれば殺菌箱滞在時間が延びるので逆に光出力を弱めても同一殺菌率を確保できる。
しかし、反射率とMとの関係は、相対する2つの鏡面に光が垂直入射・反射を繰り返しながら同一反射率で無限回反射するときの照射増強定数であり、細長い箱では照射角度の広いLEDの場合、照射方向が箱の長手方向よりずれ側面反射が生ずるので、Lが大きくなればMの減弱が生ずる。その場合、[数1]に示す照射量LMQ/vはLに単純に比例せずLMに対する評価が必要となる。しかしここでは端的に、殺菌箱は細長い方が殺菌効率に寄与すると仮定し、装置性能推計作業において、MのL依存は無視し、M=(1/(1-0.01x))とする。
【0052】
ここで、気流速度10cm/秒、装置外形1mx1m、殺菌箱寸法10cmx10cmとした場合につき[数4]Q=qwSa/LMを見積もると、
q=15mJ/cm2(99.9%殺菌照射量をインフルエンザとロタウイルスの中間とした)
w=10cm/秒
Sa=80cmx80cm=0.64m2
L=360cm(80cmx80cm正方の気流面を10cm正方断面の殺菌箱が正方形状に囲む)、
M=10(内壁の反射率を90%とした)、
S=100cm2(殺菌箱断面は10cmx10cmの正方形;殺菌箱内風速計算に使用)、
v=3.84m/分(v=wSaより。分速とした)
すると必要光出力Qは以下で与えられる。
【0053】
【0054】
市販の深紫外LEDの現状での最高光出力は約50mWなので、正方形殺菌箱の4つの各コーナーに5個強、装置全体では計22個のLEDの付置が必要となる。以上は気流速度10cm/秒を仮定した場合だが、ここで[数5]を導出した条件の装置構成、10cmx10cmの正方形断面を持つ殺菌箱が気流吹き出し口を正方形状に取り囲む場合につき、表1に対応する、気流速度(cm/秒)、気流面積(m
2)、光出力(mW)の間の関係を与える。ただし、殺菌箱外周と内周は長さが大きく異なるので、正方形殺菌箱を伸ばした時の全長は正方形断面中央を通る流路長とした。結果を表2に示した。
【表2】
表2より、同一気流面積では99.9%殺菌率を満たす光出力は、気流速度に比例し、同一気流速度では99.9%殺菌率を満たす光出力は、必ずしも気流面積に比例しないことが分かる。[数4]が与える光出力Qは、正方形状殺菌箱の各コーナーに置かれるべき紫外線源の出力なので実際には表2の数値の4倍の光出力が必要となる。現在入手可能な深紫外LEDの最大出力が約50mWなので、無菌化空気バリアー生成に必要な気流速度を15cm/秒とした場合、50cm四方の気流面装置では25個、80cm四方の気流面装置では43個とかなりの数のLEDが必要となる。現状の市販深紫外LEDは可視LEDに比べ同一出力で比較した場合、価格がけた違いに高く装置製作費用面で最大の圧迫要因である。大出力かつ安価な深紫外LEDの早急な開発と市場頒布が望まれる。
【0055】
ここで殺菌箱内の風速につき騒音の観点から検討する。
[数5]の導出に用いた風量3.84m3/分の場合、断面積100cm2の殺菌箱では、風速は6.4m/秒となる。これはかなりの速さなので騒音が問題となるかもしれない。その場合の最も簡単な解決方法は、殺菌箱断面積を大きくすることである。断面を20cmx20cmの正方形とすれば、風速は4分の1の1.6m/秒となり騒音は回避されよう。すでに論じまた[数3]でも見られるように必要光出力は、殺菌箱断面積によらず長さだけに依存する。従って殺菌性能を変えずに、殺菌箱の断面積をこのような騒音対策用に自由に変更できる。
(可搬型無菌化空調装置)
【0056】
散気可搬型無菌化空調装置としては種々の実施形態が考えられるが、典型的な例として、
図5に可搬スタンド型、
図6に扇風機型を示した。
可搬スタンド型には、
図5Aで示されるような事務机や勉強机に向かう人用に設置され片持ち可動型と
図5Bで示されるような会議机に向かう人用に設置される4脚可動型などの種々のバリエーションが考えられるが、いずれも本願装置を可搬スタンドに装備することで、必要に応じ人のいる場所に移動ができかつ気流散気口と人の距離を短縮できる利点を持つ。本願装置と無菌化空気バリアーの恩恵にあずかる人との距離は、気流速度保持や擾乱気流回避の点から常に短い方が有利である。可搬スタンド型無菌化空調装置は邪魔にならなければあらゆる場所に設置でき感染防止の効率化に寄与する。可搬スタンド型の場合、重量制限を考慮すると表2の気流面積、0.3mx0.3m(外形50cmx50cm)か気流面積、0.5mx0.5m(外形70cmx70cm)の大きさが推奨される。
扇風機型は、
図6に示すように、すでに説明した散気単一据え付け型無菌化空調装置を可搬架台に垂直に置くことで、気流を側方に送気できる無菌化空調装置である。顔正面または顔側方から気流を顔方向に送り顔の周りに無菌化空気バリアーを作る。この場合も装置と顔の距離は邪魔にならない限り小さく設定することが好ましい。扇風機型の場合、重量制限を考慮すると表2の気流面積、0.3mx0.3m(外形50cmx50cm)か気流面積、0.5mx0.5m(外形70cmx70cm)の大きさが推奨される。
(散気複数据え付け型無菌化空調装置)
【0057】
多人数を擁するレストラン、食堂などでは、散気単一据え付け型無菌化空調装置を食卓に座る各人の上に設置するのは電力消費の関係で不経済と考えられる。その場合は中央空調システムのように熱交換機に対応する殺菌箱を単一にし、複数の散気機構を連結させ気流接合させることが望ましい。
図7は、レストランなどの天井に連結複数散気機構を敷設し、同じ室内に設置された単一殺菌箱に気流接合させた場合である。
図3に対応した2つの例をA、Bとして
図7に示した。
図7A、
図7Bの長短については、[0042]に記した
図3A、
図3Bの説明と同じなので繰り返さない。装置導入及び電力消費の観点から、多人数対応の空間では、
図7Bの形態が最も経済的と考えられる。
【0058】
以上の様に本願装置の設置においては、無菌化空気の気流設計が各種感染ルートの効率的遮断のために極めて重要である。例えば、食事の際の呼気は主に顔の前方に移動することが分かっているので、気流の形を対面2者を結ぶ方向に長い形にすることが有用と考えられる。例えば表2において、気流面を0.5mx0.8mの長方形とすれば、気流速度10cm/秒の場合、必要光出力は200.0mWとなり、必要LED総数は16個と減るにもかかわらず22個のLEDを必要とした0.8mx0.8mの気流面形と同様な感染防止機能を発揮でき経済的である。
【0059】
本願装置の1実施形態として正方形の基本態を示したが、装置の形、サイズ、仕様性能については多くの変形が可能である。形としては、すでに述べたように長方形、さらに円形も使用環境に合わせ考えられる。状況に応じた形、サイズ、仕様性能の最適化について共通することは、本願で提示した数式、[数1]から[数4]を設計の基礎とすることである。
【0060】
実施実例として
図2、3、5,6,7を示したが、その他に仕事、学業、趣味、遊興、イベント、接客等、複数の人が出入りする環境において有効に使われる。特にそうした環境のおける特定位置にある程度の時間拘束される特定の個人に対し適用されることが重要である。すなわち無菌化空調装置は3蜜状態を招く環境全体への対応ではなく、そうした環境にいる個人個人への対応装置であることが基本である。
(換気との競合と調和)
【0061】
本願装置は気流制御を飛沫感染防止の手段としており、設置空間の換気と競合する。換気の気流が本願装置気流制御の擾乱要因となるからである。従って換気なしの条件での本願装置の作動が望ましい。そもそも3蜜状態における感染の回避法の一つとして換気が、飲食店、商店、車内、イベント会場など人の集まるあらゆる局面で推奨されている。しかしたとえば窓開け換気のように、冷暖房空調との相反問題や騒音増大問題などの新たな問題も生まれる。清浄空気の供給を殺菌箱活用により自前で用意する本願装置は、清浄外気を取り込む換気法と対極の技術である。しかし換気法と本願の気流制御法の調和も考えられる。換気流と本願装置気流の両者を含めた設置空間での気流設計を行い、本願装置散気口からの風向きを調整し、設置空間内の人の顔周辺に無菌化空気が集中するよう工夫することである。そのためには設置空間の内部構造と人配置を考慮した高度な流体力学計算が必要だが、スーパーコンピューターによる気流計算シミュレーションが広く普及し始めており容易に実行可能である。
換気法を特定空間での感染防止に積極的に活用する例として、飛行機内空気循環の例がある(非特許文献9)。飛行機が飛ぶ高度の外気はほぼ無菌と考えられるので、その外気を換気に取り込んでいる。ただし地上での換気の際の除菌としてHEPAフィルターも併用している。この中で換気の際、上方からの下降気流が飛沫感染防止に有効とうたっているので、本願では「上方からの下降気流による飛沫感染防止」は公知として扱い、殺菌機構、装置構造や具体的な気流速度、気流面積に本願装置の独自性を盛り込んだ。
(冷暖房空調との競合と調和)
【0062】
空間内の気流を生み出す仕組みとして換気の他に冷暖房空調がある。例えば、家庭でも飲食店でも公共空間でも冷暖房空調が快適さのため常備されており、本願装置との併用が避けられない。その場合は冷暖房空調使用時の設置空間内気流を考慮した本願装置の位置取りや下降気流の風量、風向の設計が必要である。これに関しても広く普及し始めたスーパーコンピューターによる気流計算シミュレーションの利用により容易に実行できる。
なお冷暖房空調を持つ既存の空間に本願装置を装備する場合の最も簡単な調和は、両者を交互に使用し両装置からの気流の衝突を回避することである。また両装置の競合問題の最も完全な調和法は、両装置を一体化することである。世上にはすでに殺菌をうたった冷暖房空調装置が販売されているが、定量性がなくほとんど実効を伴わない。すでに記したように、本願装置の使用風量は家庭用ルームエアコンのそれと同程度なので両者の統合は可能である。すなわち、設置空間に装備された冷暖房空調の持つ送風機と熱交換機の前後または間に殺菌箱を設け、さらに既設の気流放出機構を効率的な散気と集気を行う散気パイプ機構、集気パイプ機構に改変すれば実行できる。
(殺菌率と光照射量の関係)
【0063】
本願では99,9%殺菌率を殺菌箱性能に課したが、この無菌化空気の送気による人周辺の無菌化空気バリアーは室内空気との混合により殺菌率が落ちることは既に記載した通りである。落ちた先の殺菌率を例えば95%に仮定した場合、本願装置が送気する無菌化空気の殺菌率は99,9%でなく99%でも充分有用と思われる。殺菌率要求を99.9%から99%に減じれば当然要求される紫外線照射量は少なくて済むので装置コストの抑制その結果の普及につながる。これを見積もるにことにする。
細菌の対紫外線照射生存率の報告(非特許文献10)によれば、歯科材表面に指標菌を塗布し、波長253.7nmの紫外線を照射した場合、歯科材によりかなりのばらつきはあるが、照射量が増すと生存率が減る。その場合、生存曲線は、おおむね照射量に対し指数関数的に推移する。
生存率=10-q/c(q:照射量、c:生存数を10分の1にする感染源ごとに定まる照射量)
99.9%殺菌率から99%殺菌率に性能を変えることは、生存率を0.001から0,01に替えることであるが、それはq/cを3から2に代えることに相当し、照射量は3cから2cに減ずることになる。すなわち99%殺菌は、99.9%殺菌の場合の照射量の67%で済む。すなわち紫外線源設置数は33%節約出来ることになる。しかし、99.9%殺菌を99%殺菌に替えることで高々33%の紫外線源コスト削減しかできないことは、本願装置の普及の指針として、早急な研究開発による深紫外LEDの製造コスト減が重要課題であることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0064】
ウイルス感染などの感染防止を紫外線により無菌化された空気の気流制御を用いて効率的に行う本願装置は、職場、飲食店、公共施設など対人コミュニケーションが避けられない日常生活の広い局面に応用でき、人周辺無菌化空気バリアーという感染防止ミクロ環境を実現する新規公衆衛生機器として幅広く利用される。
【符号の説明】
【0065】
10 無菌化空調装置
10a 無菌化空調装置懸架支柱
20 殺菌箱内空間
21 送風機吸気口
22 送風機
22a 送風ファン
23 殺菌箱吸気口
24 殺菌箱
25 殺菌箱排気口
26 主散気パイプ
27a 副散気パイプ1
27b 副散気パイプ2
27c 副散気パイプ3
27d 副散気パイプ4
28a 副散気パイプ1散気口1
28b 副散気パイプ1散気口2
28c 副散気パイプ1散気口3
28d 副散気パイプ1散気口4
30 風向調整筐体
31 風向調整板
41 可搬片持ちスタンド
42 可搬4脚スタンド
43 可搬架台
50 トイレ
51 水洗用タンク
52 様式便器
53 食卓椅子
54 食卓
55 人
56 机
57 椅子
58 ソファ
60 レストラン
61 本
100 紫外線LED
【手続補正書】
【提出日】2020-10-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0040
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0040】
殺菌率=100x(99.9x客テーブル滞在時間―(100-s)x無菌化空気バリアー毀損時間)÷99.9x客テーブル滞在時間
上記にs=0を与えれば、先に示した近似式、
100x(客テーブル滞在時間―無菌化空気バリアー毀損時間)/客テーブル滞在時間、がでる。