(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022027396
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】電極製造方法及び湿潤造粒体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20220203BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220203BHJP
H01M 4/1397 20100101ALI20220203BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20220203BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/1397
H01M4/58
H01M4/36 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201380
(22)【出願日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2020131268
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】田崎 智之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛司
(72)【発明者】
【氏名】阿部 友邦
(72)【発明者】
【氏名】小柳津 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】呑村 優
(72)【発明者】
【氏名】君島 健之
(72)【発明者】
【氏名】江口 達哉
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB11
5H050DA11
5H050EA12
5H050EA22
5H050EA23
5H050EA28
5H050GA03
5H050GA06
5H050GA07
5H050GA10
5H050GA12
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】電極材料を有する湿潤造粒体を用いて電極層を製造する方法として、湿潤造粒体中の電極材料が均一に分散させることができる電極製造方法を提供すること。
【解決手段】電極活物質を有する粉粒体と結着剤と分散媒との混合物に対して撹拌による剪断力を加えてスラリー組成物にするスラリー化工程と、前記スラリー組成物から分散媒の一部を除去し得られた湿潤体に対して撹拌による剪断力を加えて湿潤造粒体とする湿潤造粒体形成工程と、前記湿潤造粒体を集電体上に圧着して100μm以上の厚みをもつ電極層を形成する電極層形成工程とを有する。電極合剤として利用する湿潤造粒体を均一に製造することが容易になる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質と結着剤と分散媒との混合物を撹拌してスラリー組成物にするスラリー化工程と、
前記スラリー組成物から分散媒の一部を除去し得られた湿潤体を撹拌して湿潤造粒体とする湿潤造粒体形成工程と、
前記湿潤造粒体を集電体上に圧着して電極層を形成する電極層形成工程と、
を有する電極製造方法。
【請求項2】
前記湿潤造粒体形成工程における前記分散媒の除去は減圧乾燥によって行われ、前記スラリー化工程と前記湿潤造粒体形成工程とは連続して行われる請求項1に記載の電極製造方法。
【請求項3】
前記スラリー組成物中の固形分の含有量は、70質量%以下であり、前記湿潤造粒体の固形分の含有量は75質量%以上90質量%以下である請求項1又は2に記載の電極製造方法。
【請求項4】
前記スラリー化工程は、前記分散媒の量を徐々に増加させて固形分の含有量が徐々に低下するようにして前記スラリー組成物を調製する工程である請求項1~3のうちの何れか1項に記載の電極製造方法。
【請求項5】
前記湿潤体の粘度は10万Pa・s以上である請求項1~4のうちの何れか1項に記載の電極製造方法。
【請求項6】
前記電極層形成工程は、前記湿潤造粒体をロールで圧縮し前記集電体に付着させる工程である請求項1~5のうちの何れか1項に記載の電極製造方法。
【請求項7】
前記電極層の厚みは100μm以上である請求項1~6のうちの何れか1項に記載の電極製造方法。
【請求項8】
前記結着剤は水系結着剤と前記水系結着剤以外の結着剤とを含み、
前記電極活物質は、リン酸鉄リチウムを含み、表面に金属酸化物を有する粒子である、請求項1~7のうちの何れか1項に記載の電極製造方法。
【請求項9】
前記水系結着剤の量は、前記粒子に対して0.1質量%以上1.45質量%以下である、請求項8に記載の電極製造方法。
【請求項10】
前記水系結着剤として、カルボキシメチルセルロースを含む請求項8又は9に記載の電極製造方法。
【請求項11】
前記水系結着剤以外の結着剤として、スチレン-ブタジエンゴムを含む、請求項8~10のうちの何れか1項に記載の電極製造方法。
【請求項12】
前記金属酸化物の量は、前記粒子に対して0.1質量%以上5.0質量%以下である、請求項8~11のうちの何れか1項に記載の電極製造方法。
【請求項13】
前記金属酸化物は酸化チタンである、請求項8~12のうちの何れか1項に記載の電極製造方法。
【請求項14】
電極活物質と結着剤と分散媒との混合物を撹拌してスラリー組成物にするスラリー化工程と、
前記スラリー組成物を撹拌しつつ前記分散媒の一部を除去して湿潤造粒体とする湿潤造粒体形成工程と、
を有する湿潤造粒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電体の表面に電極層を形成して電極を製造する電極製造方法及び湿潤造粒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、活物質と結着剤と導電剤とを含むスラリーを調製し、該スラリーを噴霧乾燥することにより、活物質と結着剤と導電剤とが一体化した電極用複合粒子(造粒粒子)の製造方法が開示されている。このような電極材料は、適宜溶媒と混合して、スラリー又は湿潤状態として電極製造に用いることができる。
【0003】
また特許文献2には、活物質と結着剤とを含む湿潤造粒体(湿潤状態の電極合剤)を用いた電極の製造方法が開示されている。混練時における結着剤の凝集を防止するために、溶媒の量が相対的に少ない環境下において活物質と結着剤とを混練して造粒粒子を作製した後、溶媒を加えて湿潤造粒体を作製し、ロールコーターによって集電体に転写して電極を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-216468号公報
【特許文献2】特開2016-103433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2のように、溶媒が少ない状態で湿潤造粒体の混練を行えば結着剤の凝集を防止できる反面、湿潤造粒体中の電極材料を均一に分散させることは困難であった。一方、特許文献1のように、一旦スラリーとした後に噴霧乾燥することで、電極材料が均一に分散した複合粒子を作製し、その後に再度溶媒と混合することで好ましい湿潤造粒体を作製することが出来る。しかし、このような製造工程は、スラリーを一旦乾燥させるために、製造工程が複雑になり、また製造に必要なエネルギーも大きくなる。
本発明の目的は、生産効率がより高い、電極材料が均一に分散した湿潤造粒体の製造方法、及びその湿潤造粒体を用いた電極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電極製造方法は、
電極活物質と結着剤と分散媒との混合物を撹拌してスラリー組成物にするスラリー化工程と、
前記スラリー組成物から分散媒の一部を除去し得られた湿潤体を撹拌して湿潤造粒体とする湿潤造粒体形成工程と、
前記湿潤造粒体を集電体上に圧着して電極層を形成する電極層形成工程と、
を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電極材料が均一に分散した湿潤造粒体を用いた電極をより効率的に製造する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】試験1で製造した湿潤造粒体のSEM写真である。
【
図2】試験2で製造した湿潤造粒体のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の電極製造方法及び湿潤造粒体の製造方法について、以下実施形態に基づき詳細に説明を行う。本実施形態の湿潤造粒体の製造方法は、本実施形態の電極製造方法のうちの一工程として採用可能な方法であるため、本実施形態の電極製造方法に含まれる一工程として説明を行う。
【0010】
なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a~b」は、下限a及び上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに、これらの数値範囲内から任意に選択した数値を、その数値を数値範囲に含む新たな上限や下限の数値、その数値を数値範囲に含まない新たな上限や下限の数値とすることができる。
【0011】
本実施形態の電極製造方法は、スラリー化工程と、湿潤造粒体形成工程と、電極層形成工程とを有する。そしてそのスラリー化工程と湿潤造粒体形成工程とを合わせることで、本実施形態の湿潤造粒体の製造方法になる。
【0012】
なお、本明細書中において湿潤体とは、電極材料を有しており、流動性が乏しい材料である。そのような湿潤体を造粒したのが、湿潤造粒体であり、湿潤造粒体は粉粒体としての挙動を示す材料である。
【0013】
湿潤体は、例えば、分散媒としての液体中に固形分が70質量%~99%の範囲で分散されている材料である。なお、ここでいう固形分の質量比は、分散媒および固形分を含む湿潤体全体の質量を100質量%としたときの質量比を意味する。固形分は、湿潤造粒体から液体を乾燥などにより分離した後に残存するものである。湿潤体における固形分の割合としては、下限値として75質量%、80質量%を採用することができ、上限値としては90質量%を採用することができる。湿潤造粒体の粒径としては1mm以下であることが好ましい。湿潤造粒体の粒径の下限値としては50μmであることが好ましい。
【0014】
固形分を分散する液体(分散媒)としては、電極材料と混合したときに望まない反応を生じず、後工程で容易に乾燥できる液体であり、水、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、イソプロピルアルコール、イソブチルケトン、ノルマルブチルアルコール、ベンジルアルコール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン、2-エトキシエタノール、2-メトキシエタノール、2-アミノエタノール等の揮発し易い液体を単独で又は混合物として利用することが例示できる。コストと環境負荷の点から水を単独で用いるのが好ましい。疎水性物質を分散する場合、すなわち固形分が疎水性物質を含む場合には、水よりも親水性の低い溶媒を単独で、あるいは水と混合して用いることで、固形分の凝集を抑制することができるため好ましい。
【0015】
固形分は、電極材料としての、電極活物質、導電助剤、結着剤などである。固形分を分散する液体についても電極材料をその一部又は全部に採用することもできる。具体例を挙げると、当該固形分を分散する液体として、電解液の溶媒を用いても良い。また、固形分の一部又は全部が、固形分を分散する液体中に溶解しても良い。
【0016】
なお、本明細書中におけるスラリー組成物とは、湿潤造粒体とは異なり流動性が十分にある組成物である。湿潤体や湿潤造粒体とスラリー組成物とは、粘度や固形分濃度によって区別することが可能である。
例えば、湿潤体とスラリー組成物とを粘度で区別するための指針を例示すると、粘度が10万Pa・s以上である場合に湿潤体、10万Pa・s未満であるときにスラリー組成物と扱うことができる。なお、確実にスラリー組成物であるとすることができる粘度の上限としては10Pa・sが例示できる。
あるいは、湿潤造粒体とスラリー組成物とを固形分で区別するための指針を例示すると、両者の固形分率が3質量%以上異なることを例示できる。
【0017】
電極活物質は、正極用の正極活物質と負極用の負極活物質の何れに対しても適用可能であり特に限定しない。正極活物質としては、層状岩塩構造の一般式:LiaNibCocMndDeOf(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表されるリチウム複合金属酸化物、Li2MnO3を挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn2O4等のスピネル構造の金属酸化物、スピネル構造の金属酸化物と層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO4、LiMVO4又はLi2MSiO4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePO4FなどのLiMPO4F(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBO3などのLiMBO3(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。
【0018】
同様に、負極活物質としては、電荷担体を吸蔵及び放出し得る材料が使用可能である。したがって、リチウムイオンなどの電荷担体を吸蔵及び放出可能である単体、合金又は化合物であれば特に限定はない。たとえば、負極活物質としてLiや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すればよい。合金又は化合物の具体例としては、Ag-Sn合金、Cu-Sn合金、Co-Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiOx(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質として、Nb2O5、TiO2、Li4Ti5O12、WO2、MoO2、Fe2O3等の酸化物、又は、Li3-xMxN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。
【0019】
なお、電極活物質は粒子状をなし、その表面に各種のコート層を有するのが好ましい。当該コート層により、電極活物質に各種の機能を付与できる。
【0020】
例えば、電極活物質として比較的導電性に劣るものを用いる場合には、その粒子の表面に炭素や金属等の導電性に優れた材料を含むコート層を設けることで、粒子全体としての導電性向上を図ることが可能である。
【0021】
また、例えば、溶媒として極性溶媒を用いかつ電極活物質として比較的親水性に劣るものを用いる場合には、粒子の表面に金属酸化物を含むコート層を設けることで、粒子全体としての極性溶媒への分散性向上を図ることが可能である。金属酸化物が空気や反応系中の水等と反応することにより、当該金属酸化物には水酸基が形成される。そして、当該水酸基の存在により金属酸化物には優れた親水性が付与され、当該金属酸化物を含むコート層、ひいては当該コート層を有する粒子にも親水性が付与される。これにより、当該粒子は全体として極性溶媒に十分に分散する。
このような効果を発揮する金属酸化物は、如何なる金属の酸化物であっても良く、特に限定されない。当該金属酸化物のうち特に好ましいものとしては、アルカリ土類金属の酸化物、遷移金属の酸化物を例示できる。特に好ましい金属酸化物として、酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムを例示できる。
なお、上記のコート層は、粒子全体を覆わなくても良いし、必ずしも層状をなさなくても良い。つまり、粒子は、その表面に上記したコート層の材料を有すれば良い。
【0022】
電極活物質の粒子にコート層を形成する方法は特に限定されず、気相法、液相法、固相法等の各種方法を用い得る。
具体的には、気相法としては、物理蒸着(PVD:phisical vapor deposition)法、化学蒸着(CVD:chemical vapor deposition)法、原子層堆積法(ALD:atomic layer deposition)法を例示できる。
液相法としては、各種の溶媒にコート層を構成する材料またはその前駆体を溶解させ、当該材料またはその前駆体を溶液中にて粒子表面に析出させる方法を例示できる。なお、ここで用いる溶媒は、上記の材料またはその前駆体の種類に応じて適宜選択すれば良く、水等の極性の高いものを用いても良いし、極性の低い有機溶媒を用いても良い。
固相法としては、ビーズミルやボールミルを用いたメカノケミカル法を例示できる。
本発明の電極製造方法は、電極活物質の粒子にコート層を形成するコート層工程を具備し得る。
【0023】
結着剤としては、特に限定されず、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)などのゴム、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、アクリル酸やメタクリル酸などのモノマー単位を含むアクリル系樹脂を例示することができる。また、結着剤として、親水基を有するポリマーを採用してもよい。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基が例示される。親水基を有するポリマーの具体例として、ポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリメタクリル酸などの分子中にカルボキシル基を含むポリマー、又は、ポリ(p-スチレンスルホン酸)などのスルホ基を含むポリマー、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)を挙げることができる。ポリアクリル酸、あるいはアクリル酸とビニルスルホン酸との共重合体など、カルボキシル基及び/又はスルホ基を多く含むポリマーは水溶性となる。親水基を有するポリマーは、水溶性ポリマーであることが好ましく、化学構造でいうと、一分子中に複数のカルボキシル基及び/又はスルホ基を含むポリマーが好ましい。
【0024】
導電助剤は化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(VaporGrownCarbonFiber)、カーボンナノチューブ及び各種金属粒子等が例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック等が例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて電極材料に添加することができる。
【0025】
スラリー化工程は、電極材料(特に、電極活物質を有する粉粒体と結着剤)と分散媒との混合物に対して撹拌による剪断力を加えてスラリー組成物にする工程である。当該混合物は均質に混ざり合ったものであっても良いし、そうでなくても良い。つまり、電極材料と分散媒とを予め互いに混合した状態でスラリー化工程に用いても良いし、互いに分離された状態の電極材料と分散媒とをスラリー化工程において混合しても良い。何れの場合にも、スラリー化工程の間に、電極材料と分散媒とは混合物となり、当該混合物に撹拌による剪断力が加えられてスラリー組成物が生成するといえる。スラリー化工程を行う混合物には、必要に応じて、電極材料としての導電助剤をさらに加えるのも好ましい。
スラリー化工程で製造するスラリー組成物は、流動性があれば充分であるが、最終的には固形分の濃度として70質量%以下の状態にすることが好ましい。特にスラリー組成物の固形分濃度を50質量%以上の範囲にすることが、混合性やその後の操作(分散媒の除去のし易さ)の観点からも好ましい。スラリー化工程では、上記した各種材料の混合物がスラリー組成物になった後にも撹拌を継続して行うことが、電極材料の分散媒中での分散性が向上するため好ましい。
【0026】
スラリー化工程において上記した各種材料を撹拌して混合する手段としては、特に限定しないが、固定容器内に回転攪拌機を有する混合機を採用することが好ましい。回転撹拌機としてはパドルまたはアームをもつものが好ましい。回転撹拌機は、固定容器内の被撹拌物(スラリー組成物や湿潤体)を一様に撹拌するために、被撹拌物内に均等にパドルやアームを配設することが望ましい。例えば、円筒形の固定容器内に、水平方向に回転するパドルやアームを上下方向に均等に複数設けることで一様に撹拌することができる。更にパドルやアームは、回転方向とは異なる方向に被撹拌物を付勢するように捻れなどを有することが好ましい。また、混合機は固定容器内を調温・減圧乾燥可能なものが好ましい。それによれば、スラリー化工程と湿潤造粒体形成工程を同一容器内で連続して行う事ができる。
【0027】
電極材料と分散媒とを混合する方法としては、これらの混合物に剪断力を加えて混合を行う方法を採用する。電極材料と分散媒とを混合する順序については、分散媒に対して電極材料を徐々に加えたり、電極材料に分散媒を徐々に加えたり、電極材料を構成する材料毎に分散媒に加えたりすることができる。電極材料や分散媒は、各々連続的に加えても良いし多段階で加えても良い。
分散媒を多段階で加える場合には、分散媒を加える毎に十分に剪断力を加えて混合することが好ましい。ここで「十分に剪断力を加えて混合する」とは、それ以上の粘度の低下が認められない程度か、所定の粘度以下に到達するまで混合を行ったり、所定時間混合を行ったりすることを意味する。分散媒を連続的に加える場合には、混合物に剪断力を連続的に作用させるのが好ましい。
【0028】
特に、混合物における分散媒の相対量を徐々に高くすることで、固形分の濃度が高い状態から低い状態に移行させながら混合することができる。そうすることにより、固形分の濃度が高い状態では、剪断力を効果的に電極材料に加えることができるため含有する結着剤の溶解を速やかに行うことが可能になり、その後に分散媒の相対量を増加させて混合を継続することにより、均一に混合されたスラリー組成物を調製することができる。スラリー化工程では、分散媒を徐々に添加する場合には、その過程で湿潤体からスラリー組成物に移行することがある。
【0029】
なお、電極活物質及び結着剤とその他の材料からなる電極材料は、分散媒が存在しない乾燥状態の条件で予め混合することもできる。例えば、分散媒として非水溶媒を用いる場合において、CMCなどの当該非水溶媒に対する溶解性が低い材料を結着剤に含む場合には、CMCを他の電極材料と混合することでCMCの溶解性を向上できる。また、分散媒中に結着剤だけを予め溶解または分散させた予混合液を調製し、続いて電極活物質を予混合液に混合することで、電極材料を分散液中に十分に分散または溶解させることができる。
【0030】
特に結着剤として性質の異なる複数種類の材料を採用する場合には、各結着剤毎に親和性が高い種類の液体からなる分散媒を順次加える方法や、結着剤毎に親和性が高い分散媒に別々に分散又は溶解させた後に混合する方法を採用することができる。例えば、結着剤としてCMCとSBRの組み合わせを採用する場合に、水を添加して撹拌混合した後にNMPを添加して撹拌混合することもできる。
【0031】
湿潤造粒体形成工程は、スラリー組成物から分散媒の一部を除去し、得られた湿潤体に対して撹拌による剪断力を加えて湿潤造粒体とする工程である。スラリー組成物から分散媒を除去する操作を行った後に、残部に剪断力を加える操作を行っても良いし、分散媒を連続的に除去しながら、残部に連続的に剪断力を加える操作を行っても良い。本湿潤造粒体形成工程において、スラリー組成物から形成される湿潤体は、前述のスラリー化工程において最初に調製されることがある湿潤体と比較して、十分に分散されており、分散性に優れている。この点で両者は大きく異なっている。
【0032】
スラリー組成物に対して、分散媒を除去しながら、又は、分散媒を除去した状態で、残部に剪断力を加えながら混合することにより、流動性を失った状態の固形分に剪断力が加わる。これにより、当該固形分の解砕が進行するために、湿潤造粒体形成工程で最終的に得られる湿潤造粒体は、塊状とはなり難く、解砕の進行したものとなる。
【0033】
分散媒の除去は、固形分の濃度が75質量%以上、80質量%以上、特には85質量%以上になるように行うのが好ましい。これにより、せん断・混合力によるスラリー組成物の残部の解砕が進み、最終的に得られる湿潤造粒体が粉末状になり易くなる。なお、このときの固形分の濃度の好ましい上限値としては、既述した湿潤体における固形分の割合の上限値と同様の、90質量%を採用することができる。
【0034】
分散媒を除去する方法としては、減圧、加熱、送風、濾過等を採用でき、これらを単独であるいは組み合わせて実施することができる。何れの方法を採用する場合であっても、分散媒を均等に除去するために、スラリー組成物を撹拌しながら分散媒の除去を行うことが好ましい。
【0035】
減圧により分散媒を除去する方法としては、減圧ポンプを用いてスラリー組成物を保持する容器内の気体を除去する方法を例示できる。加熱により分散媒を除去する方法としては、スラリー組成物を保持する容器を外部から加熱、あるいはスラリー組成物を直接加熱する方法を例示できる。このうちスラリー組成物を直接加熱する方法としては、ヒータをスラリー組成物中に投入したり、マイクロ波などを照射したりする方法を例示できる。送風により分散媒を除去する方法としては、乾燥した気体(空気など)をスラリー組成物が保持されている容器内に送ったり、スラリー組成物中に送ってバブリングさせたりする方法を例示できる。分散媒を濾過することにより分散媒を除去する方法としては、スラリー組成物を撹拌しながら当該スラリー組成物から分散媒を濾過する方法を例示できる。
【0036】
上記した減圧、加熱、送風等の方法を採用する場合、すなわち、分散媒の蒸発により分散媒を除去する方法を採用する場合には、分散媒を沸点の異なる2種以上の液体の混合物から構成することが好ましい。そうすることにより、分散媒を蒸発により除去する際に、沸点の低い方の溶媒のみが蒸発する条件を採用することで、湿潤造粒体中に残存する分散媒の量を制御することが容易になる。
【0037】
スラリー組成物に分散媒を除去しながら剪断力を加えることで、分散媒の除去に伴い、湿潤体の解砕が進行して粒径が小さくなっていく。
【0038】
スラリー組成物や湿潤体に剪断力を加える装置としては特に限定しないが、撹拌翼を水平に回転させることでスラリー組成物に剪断力を加える撹拌混合機を例示できる。湿潤体に加えられる剪断力は、含有する電極活物質について粉砕が主ではなく、解砕が主になる程度の大きさに調節することが好ましい。
【0039】
ところで、スラリー組成物に対し、分散媒を除去しながら剪断力を加える場合、スラリー組成物に作用する当該剪断力の効果は、湿潤造粒体形成工程の初期と後期とで異なると考えられる。
湿潤造粒体形成工程の初期、つまり、スラリー組成物が比較的多くの分散媒を含むスラリー状態である場合には、上記した剪断力の効果は主に混合が進行するように作用する。これに対して、湿潤造粒体形成工程の後期、つまり、スラリー組成物があまり多くの分散媒を含まない、湿潤体の状態に至った後には、主に解砕が進行するように作用する。その結果、湿潤造粒体形成工程の初期から後期に向けて、湿潤体の粒径が小さくなっていき、且つ、粒径が揃ってくる。粒径が小さくなるにつれて個々の湿潤体への剪断力の伝達がし難くなって、湿潤体の解砕効率が低下していく。このため、湿潤造粒体形成工程の後期においては、上記した攪拌混合機等のせん断・混合速度を大きくして解砕効率を向上することが好ましい。
【0040】
電極層形成工程は、得られた湿潤造粒体を集電体上に圧着して電極層を形成する工程である。電極層形成工程で用いられる装置は、一般的なロールコーターを採用できる。ロールコーターの一例として、特開2012-254422に開示される塗工装置が挙げられる。形成される電極層の厚みは、100μm以上であるのが好ましい。例えば負極の電極層を形成する場合には150μm以上、更には200μm以上にすることができ、正極の電極層を形成する場合には300μm以上、更には500μm以上にすることができる。湿潤造粒体からなる電極合剤は、スラリー組成物からなる電極合剤よりも集電体上に厚く圧着しやすい。
【0041】
単位面積あたり一定量になるように湿潤造粒体を集電体上に供給後、加圧することで湿潤造粒体が集電体上に圧着されて電極層が形成される。
【0042】
集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0043】
集電体の形状は特に限定しないが、箔状をなすものを選択できる。ここで言う箔状とは、シート状、フィルム状、リボン状等を含む概念であり、厚さ1mm以下かつ幅及び長さが厚さよりも大きいものを指す。
【実施例0044】
本発明の電極製造方法について以下実施例に基づき詳細に説明を行う。なお、特に断らない限り、常温及び常圧の条件において行なった。
【0045】
(試験1)
(第1湿潤造粒体の製造)
・スラリー化工程
撹拌混合装置(日本コークス工業株式会社製:FMミキサ20L、CK三段羽根)中に、電極材料としての人造黒鉛6000g及びCMC49.5gを入れて、350rpmで3分間撹拌して予混合した。その後、予混合物に分散媒としての水855gを添加して350rpmで3分間撹拌した。この段階での混合物の固形分濃度は、87.6質量%であった。なお、撹拌容器の周囲を25℃に保持した。固形分の測定には赤外線水分計を用いた。
【0046】
更に上記の混合物に水855gを添加し630rpmで10分間撹拌する操作を2回行った。2回の操作後の混合物の固形分濃度は78質量%であった。水の添加を2回に分けたのは温度の上昇を抑えるためである。なお、ここまでは混合物はスラリー化しておらず、流動性に乏しい状態であり、比較的高速で撹拌混合することにより混合物に大きな剪断力を加えた。
【0047】
上記の混合物に、さらに水を202.5gずつ3回に分けて添加し、それぞれ水を加える毎に350rpmで30分間撹拌混合した。3回の操作後の混合物の固形分濃度は72.3質量%であった。3回のうちの最初の水の添加撹拌により、混合物はスラリー化した。
【0048】
その後、上記の混合物にSBRの40質量%乳濁液(水)を340.2g添加して350rpmで10分間撹拌混合した。攪拌後の混合物の固形分濃度は71質量%であった。
ここまでの操作により得られたスラリー組成物において、固形分は完全に分散媒中に均一に分散された。
【0049】
・湿潤造粒体形成工程
上記のスラリー化工程で得られたスラリー組成物につき、混合撹拌装置内を40℃に保持しながら0.098MPaまで減圧した状態(乾燥が進行する状態)で、350rpmで撹拌混合を行った。
スラリー組成物は、10分後には固形分濃度が78質量%のスラリー状、そこから5分経過後には固形分濃度が83.5質量%の湿潤体状で5mm程度の大きさの粒状、更に5分経過後には固形分濃度が88質量%の湿潤体状で5mm程度の大きさの粒状となっていた。
次いで、混合撹拌装置内を常圧に戻し、1750rpmで5分間撹拌混合を行った結果、固形分濃度が83.5質量%の湿潤造粒体が得られた。更にこの湿潤造粒体に水分を添加して630rpmで5分間撹拌混合を行った結果、固形分濃度が83.5質量%の湿潤造粒体が得られた。得られた湿潤造粒体を目開き1mmの篩にて篩分けをした篩下を第1湿潤造粒体とする(
図1)。図からも明らかなように、粒径が揃い、均質な湿潤造粒体が得られた。
【0050】
得られた湿潤造粒体を目開き1mmの篩にて篩分けをしたところ、篩上が40質量%、篩下が60質量%であった。最後の常圧での630rpmで5分間撹拌混合を2回行う工程の撹拌速度を1000rpmに変更することにより更に篩下の割合が大きくなった。反対に撹拌速度を360rpmとすると、5mm程度の大きさの粒のまま変化なかった。
【0051】
(試験2)
(第2湿潤造粒体の製造)
・スラリー化工程
撹拌混合装置(撹拌容器の周囲温度25℃)中に、CMC66.5g及びアセチレンブラック250gを入れて、350rpmで3分間撹拌して予混合した。その後、分散媒としての水1500gを添加して700rpmで3分間撹拌した。この段階での混合物はスラリー状をなし、その固形分濃度は17.4質量%であった。
【0052】
上記の混合物に、電極材料としてのリン酸鉄リチウム4500gを添加し700rpmで30分間撹拌を行った。この段階での混合物は団子状をなす湿潤体であり、その固形分濃度は76.3質量%であった。その後、混合物に水を750gずつ2回に分けて添加し、それぞれ水を加える毎に700rpmで30分間撹拌混合した。2回の操作後の固形分濃度は61.6質量%であった。2回の操作のうちの最初の水の添加撹拌では混合物は粘土状をなし、2回目の添加撹拌では混合物はスラリー化した。
【0053】
その後、上記の混合物にSBRの40質量%乳濁液(水)を66.5g添加して350rpmで10分間撹拌混合した。この段階での混合物の固形分濃度は60.4質量%であった。
ここまでの操作により固形分が完全に分散媒中に均一に分散されたスラリー組成物が得られた。
【0054】
・湿潤造粒体形成工程
上記のスラリー化工程で得られたスラリー組成物につき、混合撹拌装置内を40℃に保持しながら0.098MPaまで減圧した状態で、1400rpmで撹拌混合を行った。
スラリー組成物は、10分後には固形分濃度が78質量%のスラリー状となった。そこからさらに同条件での攪拌混合を5分行うことで固形分濃度が80質量%程度の湿潤造粒体が得られた。得られた湿潤造粒体を目開き1mmの篩にて篩分けをした篩下を第2湿潤造粒体とする(
図2)。図からも明らかなように、粒径が揃い、均質な湿潤造粒体が得られた。
【0055】
得られた湿潤造粒体を目開き1mmの篩にて篩分けをしたところ、篩上が40質量%、篩下が60質量%であった。
【0056】
(試験3)
(第3湿潤造粒体の製造)
・スラリー化工程
撹拌混合装置(撹拌容器の周囲温度40℃)中に、PVP111.6g、NMP470g及び水500gを入れて700rpmで30分間撹拌混合してPVPを溶解させた。その後、電極材料としてのリン酸鉄リチウム4000gを添加して700rpmで30分間撹拌した。この段階での混合物は湿潤体状をなし、その固形分濃度は80.9質量%であった。
【0057】
次いで、上記の混合物に水280gを添加し700rpmで10分間撹拌を行った。この段階での混合物は湿潤体状をなし、その固形分濃度は76.7質量%であった。その後、上記の混合物にカーボンナノチューブ(CNT)水溶液を500g、600g、966.1gと3回に分けて添加し、それぞれCNT水溶液の添加毎に700rpmで10分間撹拌混合した。この段階での混合物はスラリー状をなしていた。なお、CNT水溶液1回目添加後における混合物の固形分濃度は70.2質量%であり、CNT水溶液2回目添加後における混合物の固形分濃度は63.8質量%であり、CNT水溶液3回目添加後における混合物の固形分濃度は55.6質量%であった。
ここまでの操作により固形分が完全に分散媒中に均一に分散されたスラリー組成物が得られた。
【0058】
・湿潤造粒体形成工程
上記のスラリー化工程で得られたスラリー組成物につき、混合撹拌装置内を80℃に保持しながら0.098MPaまで減圧した状態で、350rpmで撹拌混合を行った。
スラリー組成物は、10分後には固形分濃度が68質量%のスラリー状となった。そこからさらに同条件での攪拌混合を10分行うことで固形分濃度が80質量%程度の湿潤造粒体が、更に回転数を1750rpmに上げて攪拌混合を5分行うことで固形分濃度が85質量%程度の湿潤造粒体が、さらに同条件での攪拌混合を5分行うことで固形分濃度が90質量%程度の湿潤造粒体が得られた。得られた湿潤造粒体を目開き1mmの篩にて篩分けをした篩下を第3湿潤造粒体とする。
【0059】
(試験4)
(比較例の湿潤造粒体の製造)
比較例として、(試験1)と同じ材料を用いて、スラリー化することなく湿潤造粒体を次の手順で製造した。
【0060】
撹拌混合装置中に、電極材料としての人造黒鉛6000g及びCMC49.5gを入れて350rpmで3分間撹拌して予混合した。この段階での混合物の固形分濃度は96.8質量%であった。その後、上記の混合物にSBRの40質量%乳濁液(水)を136.4g、水を1018g添加して、1750rpmで10分間撹拌混合した。得られた混合物の固形分濃度は83.5質量%であった。なお、攪拌混合中は撹拌容器の周囲を25℃に保持した。上記の攪拌混合により得られた湿潤造粒体を目開き1mmの篩にて篩分けをした篩下を第4湿潤造粒体とする。得られた湿潤造粒体は、SBRが局所的に凝集した粗大粒子を含んでいた。
【0061】
(試験5)
(湿潤造粒体を用いた電極の製造)
・電極層形成工程
第1~第4湿潤造粒体を用いて電極を作製した。
電極層形成工程で用いられる装置は、集電体を支持して回転する第1ロールと、第1のロールに平行かつ隙間をあけて配置された第2ロールと、第1のロール上の集電体に湿潤造粒体を供給するホッパーとを備える。ホッパーには、逐次、湿潤造粒体が外部供給源から補充される。
【0062】
第1ロールの回転軸と第2ロールの回転軸は、平行に配置される。第1ロールと第2ロールは、駆動装置によって湿潤造粒体を巻き込む方向に回転される。第1ロールと第2ロールとは、逆向きに回転している。集電体は第1ロールの回転方向と同方向に、第1ロールの周速度と同じ速度で搬送される。第2ロールの周速度は、第1ロールの周速度より遅く設定されており、ホッパーから供給された湿潤造粒体は第1ロールと第2ロールとの間で圧縮、整形されると共に、第2ロールよりも周速度の速い集電体に付着する。これによって、集電体にシート状の電極層を形成した電極が得られる。第1ロールと第2ロールの駆動装置、外部供給源は制御装置によって制御される。
【0063】
第1湿潤造粒体または第4湿潤造粒体を用いた電極層形成工程では、第1ロールと第2ロールのギャップを200μmに設定し、厚み10μmの銅箔を集電体として用いた。第1湿潤造粒体を用いて作製した電極は、集電体を含む厚さが190μm、密度が1.40g/cm3であった。電極層は平滑でひび割れなく良好な塗布状態であった。
一方、第4湿潤造粒体を用いた電極の作製では、第4湿潤造粒体が集電体に定着せず、電極を形成出来なかった。
【0064】
第2湿潤造粒体または第3湿潤造粒体を用いた電極層形成工程では、第1ロールと第2ロールのギャップを250μmに設定し、厚み30μmのアルミ箔を集電体として用いた。作製した電極は集電体を含む厚さが220μm、密度が2.0g/cm3であった。電極層は平滑でひび割れなく良好な塗布状態であった。
【0065】
(結果)
試験1~3の結果から、電極活物質と結着剤と分散媒との混合物を撹拌してスラリー状にした後に、分散媒を減圧乾燥により除去し撹拌混合を続けて湿潤体としたときには、その混合物に含有される電極材料が均一に混合されていることが明らかになった。更に同一または類似の操作により減圧乾燥しながら撹拌混合を続けることで、電極材料が均一に混合され、湿潤状態の造粒体が得られることが明らかになった。また、試験5の結果から、第1~3湿潤造粒体を用いて製造した電極は平滑でいずれも良好な塗布状態であった。
一方、混合物をスラリー化することなく製造した第4湿潤造粒体は、結着剤が凝集した粗大粒子を含み、電極材料の混合が不均一であった。さらに試験5の結果から、第4湿潤造粒体では電極を作製することが出来なかった。
【0066】
以上のように、活物質や結着剤等を含む電極材料と溶媒との混合物をスラリーとした状態で撹拌し、混合物から溶媒を除去して作製した湿潤状態の造粒体は、電極材料が均一に分散しており、当該湿潤状態の造粒体を用いて厚みが100μmを超える電極層を備える電極を作製することが出来た。
【0067】
ところで、上記の試験1~3で得られた第1湿潤造粒体~第3湿潤造粒体を用いた電極は、表面において何れも塗布状態に優れ平滑であったものの、電極全体としてはやや反りが生じていた。本発明の発明者は、電極の反りが、結着剤として用いたCMCやPVPに起因するものと考えた。
【0068】
つまり、試験1~3で用いたCMCやPVP等の水系結着剤は、親水基を有し、溶媒である水との親和性が高い。このためこれらの水系結着剤は、湿潤造粒体中においても水を多く吸収した状態にあり、電極製造の際、電極層の乾燥に伴って大きく収縮する。上記した電極の反りは、この水系結着剤の収縮に因るものと推測される。
本発明の発明者は、水系結着剤の収縮を抑制すべく、水系結着剤の量を低減し、そのかわりに、水系結着剤以外の結着剤を併用することを志向した。さらに、電極活物質としてはリン酸鉄リチウムを用いることを志向した。しかし、実際に水系結着剤の量を低減して電極を製造したところ、電極層と集電体とに剥離が生じることがわかった。以下、必要に応じて、水系結着剤以外の結着剤を第2の結着剤と称する。
【0069】
発明者は、上記の知見を基に、水系結着剤の量を低減すると集電体に対する電極層の密着強度が低下するものと推測し、更には、当該密着強度の低下が湿潤造粒体中での電極活物質や結着剤の分散不良に因るものと推測した。
電極活物質であるリン酸鉄リチウムは、水に対する分散性に劣るために、湿潤造粒体中において凝集した状態にあると考えられる。リン酸鉄リチウムが湿潤造粒体中で凝集すれば、結着剤もまた湿潤造粒体中で十分に分散するとはいい難く、特に、水系結着剤以外の結着剤である第2の結着剤は湿潤造粒体中で凝集すると考えられる。このような場合、湿潤造粒体中において結着剤の機能は十分には発揮されず、その結果、上記した電極の剥離が生じると推測される。
【0070】
本発明の発明者は、さらに考えを進めて、リン酸鉄リチウムの水への分散性を高めることを志向した。そしてその方法として、リン酸鉄リチウムを金属酸化物でコートし、金属酸化物に由来する水酸基をリン酸鉄リチウムの表面に導入することを想起し、以下の試験6を行った。
【0071】
(試験6)
(第6湿潤造粒体の製造)
・コート層形成工程
(第1工程)
液相法により電極活物質の粒子にコート層を形成した。
電極活物質として、市販のリン酸鉄リチウム粒子を用いた。当該リン酸鉄リチウム粒子は、粒子状のリン酸鉄リチウムが炭素コートされたものである。
ビーカーにエタノール50mLを入れ、さらに酸化チタンの前駆体としてのチタンテトライソプロポキシド1.434gを添加することで、エタノールにチタンテトライソプロポキシドを溶解させた。溶媒としてエタノールを用いることで、金属アルコキシドであるチタンテトライソプロポキシドを溶媒中に均一に溶解させることが可能である。
【0072】
(第2工程)
上記の第1工程で得られたエタノール溶液に、50gのリン酸鉄リチウム粒子を添加し、分散させた。当該エタノール溶液にさらに適量の水を加えた。
既述したように、当該リン酸鉄リチウム粒子は炭素コートされたものであるため、第2工程では、炭素コートされたリン酸鉄リチウム粒子の表面に、さらに、酸化チタンが析出すると推測される。このときさらにチタンテトライソプロポキシドの分解生成物であるプロパノールも生成する。
第2工程においては、チタンテトライソプロポキシドとリン酸鉄リチウム粒子とを含む反応系にさらに水を加えることで酸化チタンを生成したが、当該第2工程を大気中で行い、大気中の水によって酸化チタンを生成しても良い。
なお、ビーカー内に添加したチタンテトライソプロポキシドの量およびリン酸鉄リチウム粒子の量は、後述する粒子におけるリン酸鉄リチウムと酸化チタンとの質量比が99.2:0.8となる量であった。
【0073】
(第3工程)
上記の第2工程で得られた分散液を、60℃のホットプレートで12時間程度加熱しつつ攪拌し、分散液中のエタノール、プロパノール及び水を蒸発させ、粒子状の生成物を得た。得られた生成物を250℃で加熱し、加熱後の生成物をさらに解砕および分級して、電極活物質としてリン酸鉄リチウムを含みコート層を有する粒子を形成した。当該コート層には炭素および酸化チタンが含まれる。
なお、第3工程における250℃での加熱にかえて、生成物を500℃のアルゴン雰囲気下で加熱しても良い。この場合には、後述する電極における剥離強度がより向上する。
【0074】
・スラリー化工程
撹拌混合装置中に、コート層形成工程で得られた粒子35g、CNT/CMC水溶液18.04gを入れて、これらを混合した。この段階での混合物の固形分濃度は66.3質量%であった。なおCNT/CMC水溶液は0.4質量%のCNTと0.6質量%のCMCとを含む。
【0075】
上記の混合物にSBRの40質量%乳濁液(水)を2.26g添加して撹拌混合した。この段階での混合物の固形分濃度は65.2質量%であった。なお、CMCは水系結着剤であり、SBRは第2の結着剤である。
【0076】
・湿潤造粒体形成工程
上記のスラリー化工程で得られた混合物、すなわちスラリー組成物につき、加熱および減圧しつつ撹拌混合を行うことで、溶媒を除去して固形分濃度が77質量%である第6湿潤造粒体を得た。
【0077】
試験6で得られた第6湿潤造粒体を用い、試験5と同様の方法で電極を製造した。
なお、第6湿潤造粒体を用いた電極層形成工程では、第1ロールと第2ロールのギャップを250μmに設定し、厚み50μmのアルミ箔を集電体として用いた。参考までに、当該電極における電極層は平滑でひび割れなく良好な塗布状態であった。
【0078】
(試験7)
(分散性評価)
試験6で用いた市販のリン酸鉄リチウム粒子、および、試験6のコート層形成工程で得られた粒子につき、水への分散性を評価した。既述したとおり、試験6のコート層形成工程で得られた粒子は、表面に酸化チタンを有するリン酸鉄リチウム粒子である。
各粒子0.1gを各々4mLの水に添加して超音波分散させた。そして各分散液を静置し、分散液の外観の経時変化を調べた。結果を
図3に示す。図中左側(未処理)が市販のリン酸鉄リチウム粒子の分散液であり、図中右側(処理品)が表面に酸化チタンを有するリン酸鉄リチウム粒子の分散液である。
【0079】
図3に示すように、市販のリン酸鉄リチウム粒子の分散液では時間の経過に伴って粒子の沈降が認められ、当該分散液は一日経過後にはほぼ2相に分離した。これに対して、表面に酸化チタンを有するリン酸鉄リチウム粒子の分散液では時間が経過しても粒子の沈降が認められず、当該分散液は一日経過後にも単一相であった。
この結果から、リン酸鉄リチウムの粒子に酸化チタンを含むコート層を設けることで、リン酸鉄リチウム粒子の水に対する分散性を大きく向上させ得ることがわかる。
【0080】
(試験8)
(密着強度評価)
第2湿潤造粒体を用いた電極および第6湿潤造粒体を用いた電極につき、密着強度を評価した。具体的には、引張試験機を用い、JIS Z 0237に準拠して、各電極の剥離強度を測定した。試験方法について詳細に述べると、電極層側を下向きにして各電極を台座に粘着テープで接着し、そして、各電極の集電箔を上向きに90度の方向に引っ張ることにより剥離強度を測定した。測定により得られた剥離強度は、第2湿潤造粒体を用いた電極では0.02N/cmであったのに対し、第6湿潤造粒体を用いた電極では0.08N/cmであった。この結果から、リン酸鉄リチウムの粒子に酸化チタンすなわち金属酸化物を含むコート層を設けることで、電極の剥離強度を向上させ得ることがわかる。
【0081】
なお、第2湿潤造粒体を用いた電極には反りが認められたものの、第6湿潤造粒体を用いた電極には反りは認められなかった。これは、第2湿潤造粒体および第6湿潤造粒体に含まれる水系結着剤の量の違いに起因すると考えられる。リン酸鉄リチウムの粒子に対する水系結着剤の量は、第2湿潤造粒体では約1.48質量%であったのに対し、第6湿潤造粒体では約0.3質量%と少ない量であった。このため、第6湿潤造粒体を用いた電極では、水系結着剤の収縮による電極層の収縮量を低減でき、その結果、電極の反りを抑制できたものと考えられる。
この結果に基づくと、電極の反りを抑制することを考慮すると、リン酸鉄リチウムの粒子に対する水系結着剤の量は、0.1質量%以上1.45質量%以下であるのが好ましいと考えられる。リン酸鉄リチウムの粒子に対する水系結着剤の量のより好ましい範囲として、0.1質量%以上1.0質量%未満、0.1質量%以上0.7質量%以下、0.15質量%以上0.6質量%以下、0.15質量%以上0.5質量%以下、0.15質量%以上0.4質量%以下、0.2質量%以上0.35質量%以下の各範囲を例示できる。
【0082】
また、第6湿潤造粒体において、リン酸鉄リチウムの粒子に対する金属酸化物の量が0.8質量%であったことから、集電体に対する電極層の密着強度向上を考慮すると、リン酸鉄リチウムの粒子に対する金属酸化物の量は0.1質量%以上であるのが好ましいと考えられる。なお、リン酸鉄リチウムの粒子に対する金属酸化物の量に特に上限はないが、電池容量を考慮すると、5.0質量%以下とするのが合理的である。
以上のことから、リン酸鉄リチウムの粒子に対する金属酸化物の量のより好ましい範囲として、0.2質量%以上3.0質量%以下、0.5質量%以上2.5質量%以下、0.6質量%以上1.5質量%以下の各範囲を例示できる。