(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022027466
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20220203BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20220203BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08L79/08 A
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088359
(22)【出願日】2021-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2020128719
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】安池 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】藤下 翔平
(72)【発明者】
【氏名】西村 達哉
(72)【発明者】
【氏名】宮下 由佳
【テーマコード(参考)】
2H290
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
2H290BD01
2H290BF13
2H290BF24
2H290BF25
2H290DA01
2H290DA03
4J002CM04W
4J002CM04X
4J002GP00
4J002GT00
4J002HA03
4J043PA04
4J043QB15
4J043QB26
4J043RA06
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4J043SA02
4J043SA05
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4J043SA46
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4J043SA61
4J043SB03
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4J043TA12
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4J043UA022
4J043UA032
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4J043UA052
4J043UA082
4J043UA121
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA141
4J043UA151
4J043UA331
4J043UA361
4J043UA381
4J043UA411
4J043UA711
4J043UB011
4J043UB012
4J043UB121
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4J043UB171
4J043UB211
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4J043UB401
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4J043VA022
4J043VA041
4J043VA062
4J043XA16
4J043XA18
4J043XA19
4J043XB07
4J043XB09
4J043YA06
4J043YA08
4J043ZA18
4J043ZA60
4J043ZB21
(57)【要約】
【課題】残像が生じにくく、塗布性が良好であり、かつ力学強度が高い液晶配向膜を得ることができる液晶配向剤を提供すること。
【解決手段】構造単位(U1)を含み、構造単位(U2)を含まない重合体[A]と、構造単位(U2)及び構造単位(U3)を含む重合体[B]と、を液晶配向剤に含有させる。構造単位(U1):式(1)で表される部分構造を有するジアミンに由来する構造単位。構造単位(U2):式(2)で表される部分構造を有するジアミンに由来する構造単位。構造単位(U3):部分構造Y(-(CH
2)
n-等)を有するジアミンに由来する構造単位。式(1)中、X
1及びX
2は2価の芳香環基である。R
1及びR
2は単結合、炭素数1~4のアルカンジイル基等である。Y
1及びY
2は-NR
3-CO-である。Z
1は2価の有機基等である。A
1及びA
2は2価の芳香環基である。B
1は-NR
4-又は2価の芳香族複素環基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造単位(U1)を有し、下記構造単位(U2)を有しない重合体[A]と、
下記構造単位(U2)及び下記構造単位(U3)を有する重合体[B]と、
を含有する、液晶配向剤。
構造単位(U1):下記式(1)で表される部分構造を有するジアミンに由来する構造単位
構造単位(U2):下記式(2)で表される部分構造を有するジアミンに由来する構造単位
構造単位(U3):下記部分構造Yを有するジアミンに由来する構造単位
部分構造Y:-(CH
2)
n-で表される構造(ただし、nは1~20の整数)、-(CH
2)
n+1-で表される構造において任意のメチレン基が-O-、-S-、-COO-、-NR
7-、-NR
7-CO-、-NR
7-COO-、-NR
7-CO-NR
8-、若しくは窒素含有非芳香族複素環基に置き換えられてなる構造(ただし、R
7及びR
8は、それぞれ独立に水素原子又は1価の有機基である。nが2以上の場合、-O-、-S-、-COO-、-NR
7-、-NR
7-CO-、-NR
7-COO-、-NR
7-CO-NR
8-及び窒素含有非芳香族複素環基は互いに隣接していない。)、-O-、-S-、-COO-、-NR
7-CO-、-NR
7-COO-、又は-NR
7-CO-NR
8-
【化1】
(式(1)中、X
1及びX
2は、それぞれ独立に2価の芳香環基である。ただし、X
1が有する芳香環には、R
1の結合位置、及び「*」に結合する基の結合位置とは異なる位置に置換基が結合しておらず、X
2が有する芳香環には、R
2の結合位置、及び「*」に結合する基の結合位置とは異なる位置に置換基が結合していない。R
1及びR
2は、それぞれ独立に単結合、炭素数1~10のアルカンジイル基又は炭素数1~10の置換アルカンジイル基である。Y
1及びY
2は、それぞれ独立に*
1-NR
3-CO-又は*
1-CO-NR
3-である。R
3は、水素原子又は1価の有機基である。「*
1」はZ
1との結合手を表す。Z
1は、単結合又は2価の有機基である。mは0又は1である。mが0の場合、R
1及びR
2のうち少なくとも一方は、炭素数1~10のアルカンジイル基又は置換アルカンジイル基である。「*」は結合手であることを表す。)
【化2】
(式(2)中、A
1及びA
2は、それぞれ独立に2価の芳香環基である。B
1は、-NR
4-又は2価の芳香族複素環基である。B
1が2価の芳香族複素環基である場合、R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子又は1価の有機基である。B
1が-NR
4-である場合、R
4、R
5及びR
6は、以下の(i)又は(ii)である。
(i)R
4は、水素原子又は1価の有機基である。R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子若しくは1価の有機基であるか、又はR
5とR
6とが互いに合わせられてA
1、-NR
4-及びA
2と共に構成される環構造を表す。
(ii)R
4及びR
5は、それぞれ独立に水素原子若しくは1価の有機基であるか、又はR
4とR
5とが互いに合わせられてA
1及び窒素原子と共に構成される環構造を表す。R
6は、水素原子又は1価の有機基である。
「*」は結合手であることを表す。)
【請求項2】
前記重合体[A]及び前記重合体[B]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記R1及び前記R2のうち少なくとも一方は、炭素数1~10のアルカンジイル基又は置換アルカンジイル基である、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
上記式(1)で表される部分構造を有するジアミンは、下記式(DA)で表される化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【化3】
(式(DA)中、R
1、R
2、Y
1、Y
2及びZ
1は上記式(1)と同義である。)
【請求項5】
前記重合体[B]は、前記構造単位(U2)を、前記重合体[B]が有するジアミン単位の全量に対して5~95質量%含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項7】
請求項6に記載の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子の液晶材料としては、VA駆動方式やMVA駆動方式等の液晶素子ではネガ型液晶が使用され、TN型やIPS(In-Plane Switching)駆動方式、FFS(Fringe Field Switching)駆動方式等の液晶素子ではポジ型液晶が使用されている。また近年では、液晶素子の更なる高精細化を図るべく、IPS駆動方式やFFS駆動方式の液晶素子においてネガ型液晶を使用することも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
近年、液晶素子は、液晶テレビやインフォメーションディスプレイ等といった比較的大型の表示装置から、スマートフォン等の小型の表示装置まで幅広い用途に適用されている。こうした液晶素子の多用途化に伴い、液晶素子の更なる高品質化が求められている。そこで従来、含窒素メタアリーレン構造を有する重合体を液晶配向剤に含有させ、これにより抵抗値が低く、透明性が高い液晶配向膜を得るとともに、蓄積電荷に起因する焼き付き(DC残像)が少ない液晶素子を得ることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/152928号
【特許文献2】国際公開第2019/093037号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶素子で発生する残像には、DC残像のほかに、液晶の配向方向が初期配向からずれてくることに起因するAC残像がある。残像の発生を抑制して液晶素子の更なる高精細化を図るためには、DC残像に加え、AC残像についても抑制可能であることが求められる。また、特許文献2の技術のようにメタアリーレン構造を重合体に導入した場合、剛直な構造が主鎖に導入されることによって重合体の溶解性が低下し、液晶配向剤の塗布性が低下することが懸念される。さらに、液晶配向膜をラビング法によって得る場合や、歩留まり低下を抑制すること等を考慮すると、液晶配向剤を用いて形成される膜には高い力学強度が求められる。しかしながら、これら複数の特性を同時に満たすようにすることは困難であり、液晶配向剤においては更なる改善の余地がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、残像が生じにくく、塗布性が良好であり、かつ力学強度が高い液晶配向膜を得ることができる液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、分子構造が異なる複数種の重合体を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明により以下の手段が提供される。
【0008】
<1> 下記構造単位(U1)を有し、下記構造単位(U2)を有しない重合体[A]と、下記構造単位(U2)及び下記構造単位(U3)を有する重合体[B]と、を含有する、液晶配向剤。
構造単位(U1):下記式(1)で表される部分構造を有するジアミンに由来する構造単位
構造単位(U2):下記式(2)で表される部分構造を有するジアミンに由来する構造単位
構造単位(U3):下記部分構造Yを有するジアミンに由来する構造単位
部分構造Y:-(CH
2)
n-で表される構造(ただし、nは1~20の整数)、-(CH
2)
n+1-で表される構造において任意のメチレン基が-O-、-S-、-COO-、-NR
7-、-NR
7-CO-、-NR
7-COO-、-NR
7-CO-NR
8-、若しくは窒素含有非芳香族複素環基に置き換えられてなる構造(ただし、R
7及びR
8は、それぞれ独立に水素原子又は1価の有機基である。nが2以上の場合、-O-、-S-、-COO-、-NR
7-、-NR
7-CO-、-NR
7-COO-、-NR
7-CO-NR
8-及び窒素含有非芳香族複素環基は互いに隣接していない。)、-O-、-S-、-COO-、-NR
7-CO-、-NR
7-COO-、又は-NR
7-CO-NR
8-
【化1】
(式(1)中、X
1及びX
2は、それぞれ独立に2価の芳香環基である。ただし、X
1が有する芳香環には、R
1の結合位置、及び「*」に結合する基の結合位置とは異なる位置に置換基が結合しておらず、X
2が有する芳香環には、R
2の結合位置、及び「*」に結合する基の結合位置とは異なる位置に置換基が結合していない。R
1及びR
2は、それぞれ独立に単結合、炭素数1~10のアルカンジイル基又は炭素数1~10の置換アルカンジイル基である。Y
1及びY
2は、それぞれ独立に*
1-NR
3-CO-又は*
1-CO-NR
3-である。R
3は、水素原子又は1価の有機基である。「*
1」はZ
1との結合手を表す。Z
1は、単結合又は2価の有機基である。mは0又は1である。mが0の場合、R
1及びR
2のうち少なくとも一方は、炭素数1~10のアルカンジイル基又は置換アルカンジイル基である。「*」は結合手であることを表す。)
【化2】
(式(2)中、A
1及びA
2は、それぞれ独立に2価の芳香環基である。B
1は、-NR
4-又は2価の芳香族複素環基である。B
1が2価の芳香族複素環基である場合、R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子又は1価の有機基である。B
1が-NR
4-である場合、R
4、R
5及びR
6は、以下の(i)又は(ii)である。
(i)R
4は、水素原子又は1価の有機基である。R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子若しくは1価の有機基であるか、又はR
5とR
6とが互いに合わせられてA
1、-NR
4-及びA
2と共に構成される環構造を表す。
(ii)R
4及びR
5は、それぞれ独立に水素原子若しくは1価の有機基であるか、又はR
4とR
5とが互いに合わせられてA
1及び窒素原子と共に構成される環構造を表す。R
6は、水素原子又は1価の有機基である。
「*」は結合手であることを表す。)
【0009】
<2>上記<1>の液晶配向剤により形成された液晶配向膜。
<3>上記<2>の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液晶配向剤によれば、残像が生じにくく、塗布性に優れ、かつ力学強度が高い液晶配向膜を得ることができる。特に本発明の液晶配向剤によれば、AC残像特性及びDC残像特性を両立できる液晶配向膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の液晶配向剤は、重合体[A]と、重合体[A]とは異なる重合体である重合体[B]とを含有する。以下に、本開示の液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
【0012】
なお、本明細書において、「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。「構造単位」とは、主鎖構造を主として構成する単位であって、少なくとも主鎖構造中に2個以上含まれる単位をいう。各成分及び各化合物については、特に言及しない限り、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
<重合体[A]>
重合体[A]は、下記式(1)で表される部分構造を有するジアミン(以下「特定ジアミン(A)」ともいう)に由来する構造単位(U1)を有する重合体である。
【化3】
(式(1)中、X
1及びX
2は、それぞれ独立に2価の芳香環基である。ただし、X
1が有する芳香環には、R
1の結合位置、及び「*」に結合する基の結合位置とは異なる位置に置換基が結合しておらず、X
2が有する芳香環には、R
2の結合位置、及び「*」に結合する基の結合位置とは異なる位置に置換基が結合していない。R
1及びR
2は、それぞれ独立に単結合、炭素数1~10のアルカンジイル基又は炭素数1~10の置換アルカンジイル基である。Y
1及びY
2は、それぞれ独立に、*
1-NR
3-CO-又は*
1-CO-NR
3-である。R
3は、水素原子又は1価の有機基である。「*
1」はZ
1との結合手を表す。Z
1は、単結合又は2価の有機基である。mは0又は1である。R
1及びR
2のうち少なくとも一方は、炭素数1~10のアルカンジイル基又は置換アルカンジイル基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0014】
・構造単位(U1)
構造単位(U1)は、2個の芳香環と、少なくとも1個のアミド結合(-NR3-CO-)とを含むジアミンに由来する構造単位である。上記式(1)において、X1及びX2の2価の芳香環基は芳香族炭化水素基であることが好ましい。X1、X2の具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環及びアントラセン環等の芳香族炭化水素環の環を構成する炭素原子に結合する任意の2個の水素原子を取り除いてなる基が挙げられる。
【0015】
なお、X1及びX2が有する芳香環は置換基を有しない。すなわち、X1が有する芳香環には、R1の結合位置、及び「*」により表される結合手と結合する基の結合位置とは異なる位置には置換基が結合していない。また同様に、X2が有する芳香環にも、R2との結合位置、及び「*」により表される結合手と結合する基の結合位置とは異なる位置には置換基が結合していない。
【0016】
液晶配向膜の高密度化を図り、残像の低減効果及び膜の力学強度を高くする観点から、X1及びX2の2価の芳香環基はフェニレン基が好ましく、1,4-フェニレン基が特に好ましい。
【0017】
R1及びR2が炭素数1~10のアルカンジイル基である場合、R1及びR2としては、メチレン基、エチレン基、1,3-プロパンジイル基、1,4-ブタンジイル基、1,5-ペンタンジイル基等の直鎖状アルカンジイル基;1,2-プロパンジイル基、1,2-ブタンジイル基、2-メチル-1,3-プロパンジイル基等の分岐状アルカンジイル基が挙げられる。R1及びR2が炭素数1~10の置換アルカンジイル基である場合、置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、シアノ基、アルコキシ基、保護された水酸基、保護されたアミノ基等が挙げられる。
【0018】
液晶素子の電圧保持特性及び信頼性を高くできる点で、R1及びR2のうち少なくとも一方は、炭素数1~10のアルカンジイル基又は炭素数1~10の置換アルカンジイル基であることが好ましく、R1及びR2共に、炭素数1~10のアルカンジイル基又は炭素数1~10の置換アルカンジイル基であることが好ましい。R1及びR2の炭素数は、良好な電圧保持特性及び液晶配向性を示す点で、1~8が好ましく、炭素数2~8がより好ましい。液晶配向性を高くでき、残像低減の効果が高い点で、R1及びR2は、直鎖状であることが好ましい。
【0019】
Y1及びY2は、アミド結合(*1-NR3-CO-又は*1-CO-NR3-)である。R3の1価の有機基は、炭素数1~10の1価の炭化水素基であるか、又は脱離により水素原子を生じる基(保護基)であることが好ましい。R3が1価の炭化水素基である場合、当該1価の炭化水素基は、炭素数1~3のアルキル基又はフェニル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
【0020】
R3が保護基である場合、当該保護基は、熱により脱離する1価の基であることが好ましく、例えば、カルバメート系保護基、アミド系保護基、イミド系保護基、スルホンアミド系保護基等が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性が高い点で、カルバメート系保護基が好ましく、その具体例としては、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-ハロエチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基等が挙げられる。熱による脱離性に優れ、かつ脱保護した部分の膜中の残存量を少なくできる点で、これらの中でも特に、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)が好ましい。
【0021】
R3は、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は保護基が好ましく、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基が特に好ましい。
【0022】
Z1は、単結合又は2価の有機基である。液晶素子の電圧保持特性及び液晶配向性を高くできる点で、Z1は2価の有機基であることが好ましい。
【0023】
Z1が2価の有機基である場合、当該2価の有機基としては、炭素数1~20の2価の炭化水素基、当該炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-又は-NR3-(ただし、R3は、Y1及びY2中のR3と同義である)を有する2価の基等が挙げられる。なお、Z1は、Y1及びY2のアミド結合に対して炭化水素基で結合している。
【0024】
重合体[A]の溶解性を高くできる点で、Z1の2価の有機基は、これらのうち、炭素数1~20の2価の鎖状炭化水素基、炭素数4~20の2価の脂環式炭化水素基、又は鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-又は-NR3-を有する2価の基であることが好ましく、炭素数1~20のアルカンジイル基又は炭素数4~12のシクロアルキレン基が特に好ましい。
Z1の炭素数は、1~12が好ましく、1~10がより好ましい。
mは0又は1であり、AC残像の低減効果をより高くできる点で、1が好ましい。
【0025】
特定ジアミン(A)は芳香族ジアミンであることが好ましく、中でも、上記式(1)で表される部分構造を重合体[A]の主鎖に導入可能な構造を有する芳香族ジアミンであることが好ましい。具体的には、特定ジアミン(A)は、下記式(DA)で表される化合物であることが特に好ましい。なお、「主鎖」とは、重合体のうち最も長い原子の連鎖からなる「幹」の部分をいう。この「幹」の部分が環構造を含むことは許容される。例えば、「特定構造を主鎖に有する」とは、その特定構造が主鎖の一部分を構成することをいう。「側鎖」とは、重合体の「幹」から分岐した部分をいう。
【化4】
(式(DA)中、R
1、R
2、Y
1、Y
2、Z
1及びmは上記式(1)と同義である。)
【0026】
上記式(DA)において、R1、R2、Y1、Y2、Z1及びmの例示及び好ましい例については、上記式(1)の説明が適用される。
【0027】
特定ジアミン(A)の具体例としては、下記式(DA-1)~式(DA-23)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化5】
【化6】
【化7】
(式中、「Boc」は、tert-ブトキシカルボニル基を表す。)
【0028】
重合体[A]は、構造単位(U1)を有する重合体であればよいが、液晶との親和性及び力学強度が高く、かつ信頼性の高い液晶配向膜を形成できる点で、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。重合体[A]がポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である場合、上記式(1)で表される部分構造を重合体[A]の主鎖に導入することができる。また、上記式(1)で表される部分構造が重合体の主鎖に導入されることにより、残像の低減及び膜強度の改善効果をより高くでき好適である。
【0029】
(ポリアミック酸)
重合体[A]がポリアミック酸である場合、当該ポリアミック酸(以下「ポリアミック酸[A]」ともいう)は、例えば、テトラカルボン酸二無水物と、特定ジアミン(A)を含むジアミン化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0030】
・テトラカルボン酸二無水物
ポリアミック酸[A]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物等を;脂環式テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等を;芳香族テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメート、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’-カルボニルジフタル酸無水物等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。テトラカルボン酸二無水物としては、1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
ポリアミック酸[A]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、溶剤に対する溶解性が高く、良好な電気特性及び低残像特性を示す液晶配向膜を得ることができる点で、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物よりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含むことが好ましく、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことがより好ましい。脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用割合は、ポリアミック酸[A]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、20モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることが更に好ましい。
【0032】
・ジアミン化合物
ポリアミック酸[A]の合成に使用するジアミン化合物は、特定ジアミン(A)のみであってもよいが、特定ジアミン(A)とともに、特定ジアミン(A)とは異なるジアミン(以下「他のジアミン(A)」ともいう)を使用してもよい。他のジアミン(A)としては、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。他のジアミン(A)の具体例としては、例えば、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、2,5-ジアミノ安息香酸、3,5-ジアミノ安息香酸、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、N,N’-ジ(5-アミノ-2-ピリジル)-N,N’-ジ(tert-ブトキシカルボニル)エチレンジアミン、6,6’-(ペンタメチレンジオキシ)ビス(3-アミノピリジン)、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル等が挙げられる。
【0033】
ポリアミック酸[A]の合成に際し、特定ジアミン(A)の割合は、残像の低減を十分に図る観点、及び力学強度が高い液晶配向膜を得る観点から、ポリアミック酸[A]の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、10モル%以上であることが好ましく、15モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることが更に好ましく、30モル%以上であることがより更に好ましく、40モル%以上であることが一層好ましく、60モル%以上であることが特に好ましい。また、特定ジアミン(A)の割合は、ポリアミック酸[A]の合成に使用するジアミン化合物の全量に対し、100モル%以下の範囲で設定することができる。
【0034】
・ポリアミック酸の合成
ポリアミック酸[A]は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることにより得ることができる。ポリアミック酸の合成反応において、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましい。分子量調整剤としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸などの酸一無水物、アニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミンなどのモノアミン化合物、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどのモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0035】
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。このときの反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等を挙げることができる。これらの具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を反応溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えばブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテル等)との混合物を使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して、0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0036】
以上のようにして、ポリアミック酸[A]を溶解してなる重合体溶液が得られる。この重合体溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、重合体溶液中に含まれるポリアミック酸[A]を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0037】
(ポリアミック酸エステル)
重合体[A]がポリアミック酸エステルである場合、当該ポリアミック酸エステルは、例えば、[I]ポリアミック酸[A]とエステル化剤とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルと、特定ジアミン(A)を含むジアミン化合物とを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物と、特定ジアミン(A)を含むジアミン化合物とを反応させる方法、等によって得ることができる。ポリアミック酸エステルは、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。ポリアミック酸エステルを溶解してなる反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸エステルを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0038】
(ポリイミド)
重合体[A]がポリイミドである場合、当該ポリイミドは、例えば上記の如くして合成されたポリアミック酸[A]を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。ポリイミドのイミド化率は、20~99%であることが好ましく、30~90%であることがより好ましい。なお、イミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0039】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し、必要に応じて加熱する方法により行われる。この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間である。なお、ポリイミドを含有する反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0040】
<重合体[B]>
重合体[B]は、構造単位(U2)と、構造単位(U3)とを有する重合体である。以下、重合体[B]が有する各構造単位について詳しく説明する。
【0041】
・構造単位(U2)
構造単位(U2)は、下記式(2)で表される部分構造を有するジアミン(以下「特定ジアミン(B1)」ともいう)に由来する構造単位である。構造単位(U2)によって、液晶配向膜中の蓄積電荷を緩和する機能が重合体[B]に付与される。なお、上述した重合体[A]は構造単位(U2)を有しておらず、この点において重合体[B]は重合体[A]とは異なる。
【化8】
(式(2)中、A
1及びA
2は、それぞれ独立に2価の芳香環基である。B
1は、-NR
4-又は2価の芳香族複素環基である。B
1が2価の芳香族複素環基である場合、R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子又は1価の有機基である。B
1が-NR
4-である場合、R
4、R
5及びR
6は、以下の(i)又は(ii)である。
(i)R
4は、水素原子又は1価の有機基である。R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子若しくは1価の有機基であるか、又はR
5とR
6とが互いに合わせられてA
1、-NR
4-及びA
2と共に構成される環構造を表す。
(ii)R
4及びR
5は、それぞれ独立に水素原子若しくは1価の有機基であるか、又はR
4とR
5とが互いに合わせられてA
1及び窒素原子と共に構成される環構造を表す。R
6は、水素原子又は1価の有機基である。
「*」は結合手であることを表す。)
【0042】
なお、本明細書において、液晶配向剤に含まれる複数種の重合体のうち少なくとも1種の重合体が有している構造単位(以下、「特定単位」という)を別の重合体が「有しない」とは、別の重合体が、本発明の効果を損なわない範囲において、その特定単位を有することは許容される意味である。別の重合体が特定単位を有しない場合、別の重合体における特定単位の含有量は、別の重合体が有する全構造単位に対して、好ましくは1モル%以下であり、より好ましくは0.5モル%以下であり、更に好ましくは0.1モル以下である。
【0043】
上記式(2)において、A1及びA2の2価の芳香環基としては、2価の芳香族炭化水素基及び2価の芳香族複素環基が挙げられる。2価の芳香族複素環基としては、窒素含有芳香族複素環基、酸素含有芳香族複素環基、硫黄含有芳香族複素環基等が挙げられ、窒素含有芳香族複素環基が好ましい。なお、A1及びA2は、芳香環部分に置換基を有していてもよい。当該置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0044】
A1、A2の具体例としては、2価の芳香族炭化水素基として、ベンゼン環、ナフタレン環又はアントラセン環の環を構成する炭素原子に結合する任意の2個の水素原子を取り除いてなる基を;2価の窒素含有芳香族複素環基として、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環又はピラジン環の環を構成する炭素原子に結合する任意の2個の水素原子を取り除いてなる基を;2価の酸素含有芳香族複素環基として、フラン環の環を構成する炭素原子に結合する任意の2個の水素原子を取り除いてなる基を;2価の硫黄含有芳香族複素環基として、チオフェン環の環を構成する炭素原子に結合する任意の2個の水素原子を取り除いてなる基を、それぞれ挙げることができる。液晶配向膜の高密度化、及び高透過率化を図る観点から、A1及びA2の2価の芳香環基は、2価の芳香族炭化水素基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。
【0045】
B1は、-NR4-又は2価の芳香族複素環基である。B1が2価の芳香族複素環基である場合、当該芳香族複素環基としては、A1、A2で例示した2価の芳香族複素環基が挙げられる。これらのうち、B1の2価の芳香族複素環基は、蓄積電荷の緩和効果が高い点で、ピロール環、フラン環及びチオフェン環の環を構成する炭素原子に結合する任意の2個の水素原子を取り除いてなる基であることが好ましい。
【0046】
B1が2価の芳香族複素環基である場合、R5及びR6は、それぞれ独立に水素原子又は1価の有機基である。R5の具体例及び好ましい例については、上記R3の説明を援用することができる。R6の1価の有機基としては、炭素数1~3のアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基等が挙げられる。
【0047】
B1が-NR4-である場合、R4、R5及びR6は、上記の(i)又は(ii)を満たす。R4、R5及びR6が上記(i)を満たす場合、R4は、水素原子又は1価の有機基である。R4の具体例及び好ましい例については、上記R3の説明を援用することができる。R5及びR6が、水素原子若しくは1価の有機基である場合の具体例及び好ましい例についても同様に、上記R3の説明を援用することができる。R5及びR6が、R5とR6とが互いに合わせられてA1、-NR4-及びA2と共に環構造を構成している場合、当該環構造としては、カルバゾール構造、9-メチルカルバゾール構造、9-エチルカルバゾール構造等が挙げられる。
【0048】
R4、R5及びR6が上記(ii)を満たす場合、R4が水素原子若しくは1価の有機基である場合の具体例及び好ましい例については、上記R3の説明を援用することができる。R5及びR6が水素原子又は1価の有機基である場合、当該1価の有機基としては、炭素数1~3のアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基等が挙げられる。
R4及びR5が、R4とR5とが互いに合わせられてA1及び窒素原子と共に環構造を構成している場合、当該環構造としては、インドリン構造、イソインドリン構造等が挙げられる。
【0049】
上記式(2)で表される部分構造の好ましい具体例としては、B
1が-NR
4-である場合として、下記式(2-1)~式(2-7)のそれぞれで表される部分構造等を;B
1が2価の芳香族複素環基である場合として、下記式(2-8)~式(2-10)のそれぞれで表される部分構造等を、挙げることができる。
【化9】
(式(2-1)~式(2-10)中、R
4及びR
33は、それぞれ独立に水素原子又は1価の有機基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0050】
特定ジアミン(B1)は、上記式(2)で表される部分構造を1個のみ有していてもよく、2個以上有していてもよい。重合体[B]の溶解性を確保する観点から、好ましくは1個又は2個である。特定ジアミン(B1)は、芳香族ジアミンであることが好ましく、中でも、上記式(2)で表される部分構造を重合体[B]の主鎖に導入可能な構造を有する芳香族ジアミンであることが好ましい。特定ジアミン(B1)の具体例としては、下記式(DB-1)~式(DB-21)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。なお、特定ジアミン(B1)は、構造単位(U3)が有する部分構造Yを有していない。
【化10】
【化11】
【化12】
【0051】
・構造単位(U3)
構造単位(U3)は、下記の部分構造Yを有するジアミン(以下「特定ジアミン(B2)」ともいう)に由来する構造単位である。なお、特定ジアミン(B2)は、上記式(2)で表される部分構造を有しない化合物であり、特定ジアミン(B1)とは異なる。重合体[B2]が構造単位(U2)と共に構造単位(U3)を有することにより、重合体[B2]の溶解性を高めることができ、かつ低残像特性(特に、AC残像の低減)を示す液晶配向膜を得ることができる。
部分構造Y:-(CH2)n-で表される構造(ただし、nは1~20の整数)、-(CH2)n+1-で表される構造において任意のメチレン基が-O-、-S-、-COO-、-NR7-、-NR7-CO-、-NR7-COO-、-NR7-CO-NR8-、若しくは窒素含有非芳香族複素環基に置き換えられてなる構造(ただし、R7及びR8は、それぞれ独立に水素原子又は1価の有機基である。nが2以上の場合、-O-、-S-、-COO-、-NR7-、-NR7-CO-、-NR7-COO-、-NR7-CO-NR8-及び窒素含有芳香族複素環基は互いに隣接していない。)、-O-、-S-、-COO-、-NR7-CO-、-NR7-COO-、又は-NR7-CO-NR8-
【0052】
部分構造Yにおいて、重合体[B]の溶解性の改善効果を高くでき、かつ低残像特性(AC残像及びDC残像の低減)の改善効果及び液晶配向膜の力学強度の観点から、nは1~14が好ましく、1~12がより好ましい。部分構造Yが、-(CH2)n+1-で表される構造において任意のメチレン基が-O-等に置き換えられてなる構造(以下「ヘテロ原子含有構造」ともいう)である場合、nは2以上であることが好ましく、2~14であることがより好ましい。
部分構造Yにおいて、窒素含有非芳香族複素環基としては、ピペリジン-1,4-ジイル基、ピペラジン-1,4-ジイル基、2-オキソ-4-イミダゾリジノン-1,3-ジイル基等が挙げられる。
R7及びR8の例示及び好ましい例については、上記R3の説明を援用することができる。
部分構造Yとしては、これらのうち、-(CH2)n-で表される構造、ヘテロ原子含有構造、又は-O-が好ましく、-(CH2)n-で表される構造、又はヘテロ原子含有構造がより好ましい。
【0053】
特定ジアミン(B2)は、部分構造Yを有するジアミンであれば特に限定されず、例えば、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。特定ジアミン(B2)は、部分構造Yを重合体[B]の主鎖に導入可能な構造を有していることが好ましく、具体的には、下記式(DB2)で表される化合物であることが好ましい。
【化13】
(式(DB2)中、Y
3は、-(CH
2)
n-で表される構造、-(CH
2)
n+1-で表される構造において任意のメチレン基が-O-、-S-、-COO-、-NR
7-、-NR
7-CO-、-NR
7-COO-、-NR
7-CO-NR
8-、若しくは窒素含有非芳香族複素環基に置き換えられてなる構造(ヘテロ原子含有構造)、-O-、-S-、-COO-、-NR
7-CO-、-NR
7-COO-、又は-NR
7-CO-NR
8-である。A
3及びA
4は、それぞれ独立して、単結合、置換若しくは無置換のシクロへキシレン基、又は置換若しくは無置換のフェニレン基である。n、R
7及びR
8の定義は上記と同義である。nが2以上の場合、上記ヘテロ原子含有構造において、-O-、-S-、-COO-、-NR
7-、-NR
7-CO-、-NR
7-COO-、-NR
7-CO-NR
8-及び窒素含有非芳香族複素環基は互いに隣接していない。)
【0054】
特定ジアミン(B2)の具体例としては、脂肪族ジアミンとして、メタキシリレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等を;脂環式ジアミンとして、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;芳香族ジアミンとして、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ウレア、1,3-ビス(4-アミノフェネチル)ウレア、1,3-ビス(4-アミノベンジル)ウレア、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-[4,4’-プロパン-1,3-ジイルビス(ピペリジン-1,4-ジイル)]ジアニリン、ジエチレングリコールビス(4-アミノフェニル)エーテル、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、上記式(DA-1)~式(DA-15)及び式(DA-17)~式(DA-20)のそれぞれで表される化合物、下記式(DC-1)~式(DC-7)のそれぞれで表される化合物等を;ジアミノオルガノシロキサンとして、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等を、それぞれ挙げることができる。
【化14】
【0055】
特定ジアミン(B2)としては、これらのうち、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、4,4’-[4,4’-プロパン-1,3-ジイルビス(ピペリジン-1,4-ジイル)]ジアニリン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、ジエチレングリコールビス(4-アミノフェニル)エーテル、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、及び上記式(DC-5)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0056】
重合体[B]は、重合体[A]との親和性が高い点で、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。特に、重合体[B]が、上記式(2)で表される部分構造と部分構造Yとを主鎖に有することにより、重合体[B]の溶解性を高めながら、蓄積電荷を速やかに緩和でき、かつAC残像を十分に低減できる点で好適である。
【0057】
重合体[B]がポリアミック酸である場合、当該ポリアミック酸(以下「ポリアミック酸[B」ともいう)は、テトラカルボン酸二無水物と、特定ジアミン(B1)及び特定ジアミン(B2)を含むジアミン化合物とを反応させることにより得ることができる。重合体[B]であるポリアミック酸[B]、ポリアミック酸エステル及びポリイミドについても、重合体[A]と同様にして製造することができる。
【0058】
重合体[B]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、重合体[A]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の例示及び好ましい例の説明を援用することができる。すなわち、ポリアミック酸[B]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物よりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含むことが好ましく、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことがより好ましい。脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用割合は、ポリアミック酸[B]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、20モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることが更に好ましい。
【0059】
また、重合体[B]であるポリアミック酸[B]、ポリアミック酸エステル及びポリイミドの合成に際し、ジアミン化合物として、特定ジアミン(B1)及び特定ジアミン(B2)とは異なる化合物(以下「他のジアミン(B)」ともいう)を更に使用してもよい。他のジアミン(B)としては、p-フェニレンジアミン、3,5-ジアミノ安息香酸、2,5-ジアミノ安息香酸、4,4-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル、3,5-ジアミノ-N,N-ビス(ピリジン-3-イルメチル)ベンズアミド等が挙げられる。合成に際し、他のジアミン(B)の使用量は、重合体[B]の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0060】
重合体[B]の合成に際し、特定ジアミン(B1)の使用量は、残留電荷を速やかに緩和し、DC残像の低減を十分に図ることができる点で、重合体[B]の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、15モル%以上であることが更に好ましい。また、AC残像を抑制する観点、及び重合体[B]の溶解性を確保する観点から、特定ジアミン(B1)の使用量は、重合体[B]の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、95モル%以下であることが好ましく、80モル%以下であることがより好ましく、70モル%以下であることが更に好ましい。
【0061】
特定ジアミン(B2)の使用量は、重合体[B]の溶解性を高くすることができる点で、重合体[B]の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、15モル%以上であることが更に好ましい。また、DC残像の低減を十分に図る観点から、特定ジアミン(B2)の使用量は、重合体[B]の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、90モル%以下であることが好ましく、80モル%以下であることがより好ましく、70モル%以下であることが更に好ましい。
【0062】
なお、ポリアミック酸[B]等の各重合体の合成方法における各種条件等については、上述した重合体[A]の説明を援用することができる。
【0063】
液晶配向剤の調製に使用する重合体[A]及び重合体[B]の溶液粘度は、濃度10質量%の溶液としたときに10~800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15~500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、溶液粘度(mPa・s)は、重合体の良溶媒(例えばγ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0064】
重合体[A]及び重合体[B]のそれぞれにつき、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。また、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは7以下であり、より好ましくは5以下である。
【0065】
液晶配向剤において、重合体[A]の含有量は、AC残像の低減を十分に図る観点から、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量に対して、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが更に好ましく、10質量%以上であることがより更に好ましい。また、重合体[A]の含有量は、残留電荷の緩和によりDC残像を低減する観点から、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量に対して、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが更に好ましい。
【0066】
重合体[B]の含有量は、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量に対して、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましい。また、重合体[B]の含有量は、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量に対して、99質量%以下であることが好ましく、98質量%以下であることがより好ましく、95質量%以下であることが更に好ましく、90質量%以下であることがより更に好ましい。
【0067】
<その他の成分>
液晶配向剤は、重合体[A]及び重合体[B]のほか、必要に応じて、重合体[A]及び重合体[B]とは異なる成分(以下「その他の成分」ともいう)を含有していてもよい。
【0068】
(その他の重合体)
本開示の液晶配向剤は、重合体成分として、重合体[A]及び重合体[B]とは異なる重合体(以下「その他の重合体」ともいう)を含有していてもよい。その他の重合体の主骨格は特に限定されない。その他の重合体としては、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリエナミン、ポリウレア、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾオキサゾール前駆体、ポリベンゾオキサゾール、セルロース誘導体、ポリアセタール、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、マレイミド系重合体、又はスチレン-マレイミド系重合体が挙げられる。重合体[A]及び重合体[B]と併用した場合の液晶との親和性が高く、また液晶素子の信頼性を高くする観点から、その他の重合体は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0069】
その他の重合体を液晶配向剤に含有させる場合、液晶配向剤において、その他の重合体の含有量は、重合体[A]と重合体[B]とその他の重合体との合計量に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、5質量%以下がより更に好ましい。
【0070】
(溶剤)
本開示の液晶配向剤は、重合体[A]、重合体[B]及び必要に応じて使用されるその他の成分が、好ましくは適当な溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製される。
【0071】
溶剤としては有機溶媒が好ましく使用される。その具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、フェノール、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ジアセトンアルコール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、プロパン-1,2-ジオール、3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸エチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ジエチレングリコールジエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールジアセテート、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等を挙げることができる。
【0072】
液晶配向剤に含有されるその他の成分としては、上記のほか、例えば酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。その他の成分の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0073】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性等を考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%以上であると、塗膜の膜厚を十分に確保でき、良好な液晶配向性を示す液晶配向膜が得られやすい。一方、固形分濃度が10質量%以下であると、塗膜を適度な厚みとすることができ、良好な液晶配向性を示す液晶配向膜が得られやすく、また、液晶配向剤の粘性が適度となり塗布性を良好にできる傾向がある。
【0074】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により製造される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の駆動方式は特に限定されず、例えばTN型、STN型、VA型(VA-MVA型、VA-PVA型などを含む。)、IPS型、FFS型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA型(Polymer Sustained Alignment)等の種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は、各動作モード共通である。
【0075】
<工程1:塗膜の形成>
まず、基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)等のプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一方の面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO2)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In2O3-SnO2)からなるITO膜等が挙げられる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板2枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。
【0076】
基板への液晶配向剤の塗布方法は特に限定されず、例えばスピンコート方式、印刷方式(例えば、オフセット印刷方式、フレキソ印刷方式等)、インクジェット方式、スリットコート方式、バーコーター方式、エクストリューションダイ方式、ダイレクトグラビアコーター方式、チャンバードクターコーター方式、オフセットグラビアコーター方式、含浸コーター方式、MBコーター方式法等により行うことができる。
【0077】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止等の目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて、重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~280℃であり、より好ましくは80~250℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。
【0078】
<工程2:配向処理>
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に対し、液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基板上に形成した塗膜の表面をコットン等で擦るラビング処理、又は塗膜に光照射を行って液晶配向能を付与する光配向処理を用いることが好ましい。垂直配向型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用してもよく、液晶配向能をさらに高めるために該塗膜に対し配向処理を施してもよい。
【0079】
光配向のための光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線の場合の照射方向は斜め方向とする。
【0080】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザー等が挙げられる。放射線の照射量は、好ましくは200~30,000J/m2であり、より好ましくは500~10,000J/m2である。配向能付与のための光照射後において、基板表面を例えば水、有機溶媒(例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル等)又はこれらの混合物を用いて洗浄する処理や、基板を加熱する処理を行ってもよい。
【0081】
<工程3:液晶セルの構築>
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤により貼り合わせ、基板表面とシール剤で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。液晶としては、ポジ型及びネガ型のいずれを用いてもよいが、好ましくはネガ型である。ネガ型液晶としては、例えばメルク社製「MLC-6608」、「MLC-6609」、「MLC-6610」、「MLC-7026-100」等が挙げられる。特に、IPS型及びFFS型の液晶素子においてネガ型液晶を用いた場合、電極上部での透過損失を小さくでき、コントラスト向上を図ることができる点で好ましい。また、液晶としては、ネマチック液晶、スメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。
【0082】
液晶表示装置を製造する場合、続いて、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせ、液晶表示素子を得る。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0083】
本発明の液晶素子は、種々の用途に有効に適用することができる。具体的には、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワードプロセッサ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイ等の各種表示装置や、調光装置、位相差フィルム等として用いることができる。
【実施例0084】
以下、実施例に基づき実施形態をより詳しく説明するが、以下の実施例によって本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0085】
以下の例において、重合体溶液中のポリイミドのイミド化率は以下の方法により測定した。以下の実施例で用いた原料化合物及び重合体の必要量は、下記の合成例に示す合成スケールでの合成を必要に応じて繰り返すことにより確保した。
[ポリイミドのイミド化率]
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温で1H-NMRを測定した。得られた1H-NMRスペクトルから、下記数式(1)によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1-(β1/(β2×α)))×100 …(1)
(数式(1)中、β1は化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、β2はその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
【0086】
実施例で用いたモノマーの略号は以下の通りである。
(テトラカルボン酸二無水物)
・化合物(c-1)~化合物(c-5):下記式(c-1)~式(c-5)のそれぞれで表される化合物
【化15】
【0087】
(ジアミン化合物)
・化合物(DA-1)~化合物(DA-14):上記式(DA-1)~式(DA-14)のそれぞれで表される化合物
・化合物(DB-1)~化合物(DB-20):上記式(DB-1)~式(DB-20)のそれぞれで表される化合物
・化合物(d-1)~化合物(d-5):下記式(d-1)~式(d-5)のそれぞれで表される化合物
・化合物(b-1)~化合物(b-11):下記式(b-1)~式(b-11)のそれぞれで表される化合物
【化16】
【化17】
【0088】
<重合体の合成>
1.ポリアミック酸の合成
[合成例1]
テトラカルボン酸二無水物として化合物(c-2)100モル部、ジアミン化合物として化合物(DA-1)100モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、室温で6時間反応を行い、ポリアミック酸(これを「重合体(PAA-1)」とする)を15質量%含有する溶液を得た。
[合成例2~17、23~46]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を下記表1及び表2に記載のとおり変更した以外は合成例1と同様の操作を行い、ポリアミック酸(重合体(PAA-2)~(PAA-41))を含有する溶液を得た。なお、表1及び表2中、テトラカルボン酸二無水物の配合量は、各重合体の合成に使用したテトラカルボン酸二無水物の全量に対する割合(モル%)を表す。ジアミン化合物の配合量は、各重合体の合成に使用したジアミン化合物の全量に割合(モル%)を表す。
【0089】
2.ポリイミドの合成
[合成例18]
テトラカルボン酸二無水物として化合物(c-1)90モル部及び化合物(c-5)10モル部、ジアミン化合物として化合物(DA-2)100モル部をNMPに溶解し、室温で6時間反応を行い、ポリアミック酸を15質量%含有する溶液を得た。次いで、得られたポリアミック酸溶液に、NMPを追加してポリアミック酸濃度10質量%の溶液とし、ピリジン及び無水酢酸を添加して60℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換することにより、イミド化率約80%のポリイミド(これを「重合体(PI-1)」とする)を15質量%含有する溶液を得た。
[合成例19~22]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を下記表1に記載のとおり変更した以外は合成例18と同様の操作を行い、ポリイミド(重合体(PI-2)~(PI-5))を含有する溶液を得た。
【0090】
【0091】
【0092】
[実施例1]
1.液晶配向剤の調製
合成例1で得た重合体(PAA-1)の溶液及び合成例41で得た重合体(PAA-36)の溶液を用いて、NMP及びブチルセロソルブ(BC)により希釈して、固形分濃度が4.0質量%、溶剤組成比がNMP:BC=80:20(質量比)となる溶液を得た。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(R-1)を調製した。
【0093】
2.ラビング法を用いたFFS型液晶セルの製造
平板電極(ボトム電極)、絶縁層及び櫛歯状電極(トップ電極)がこの順で片面に積層されたガラス基板(第1基板とする)、並びに電極が設けられていないガラス基板(第2基板とする)を準備した。次いで、第1基板の電極形成面及び第2基板の片面のそれぞれに、液晶配向剤(R-1)を、スピンナーを用いて塗布し、110℃のホットプレートで3分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.08μmの塗膜を形成した。次いで、塗膜表面に対し、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.3mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行い、次いで100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する一対の基板を得た。
次いで、液晶配向膜を有する一対の基板につき、液晶配向膜を形成した面の縁に液晶注入口を残して、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷塗布した。その後、基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より、一対の基板間の間隙にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷し、液晶セルを製造した。なお、一対の基板を重ね合わせる際には、それぞれの基板のラビング方法が反平行となるようにした。
【0094】
3.インクジェット塗布性の評価(溶解性の評価)
液晶配向剤を塗布する基板として、ITOからなる透明電極付きガラス基板を200℃のホットプレート上で1分間加熱し、次いで紫外線/オゾン洗浄を行って透明電極面の水の接触角を10°以下とした直後のものを用いた。上記1.で調製した液晶配向剤(R-1)を、インクジェット塗布機(芝浦メカトロニクス(株)製)を用いて、上記透明電極付きガラス基板の透明電極面上に塗布した。このときの塗布条件は、2,500回/(ノズル・分)、吐出量250mg/10秒にて2往復(計4回)塗布とした。塗布後、1分間静置した後に80℃にて加熱することによって、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。得られた塗膜につき、干渉縞計測ランプ(ナトリウムランプ)照射下、肉眼でムラ及びハジキの数を観察した。ムラ及びハジキの箇所が合わせて0の場合を「優良(◎)」とし、ムラ及びハジキの箇所が合わせて1以上3未満の場合を「良好(〇)」、ムラ及びハジキの箇所が合わせて3以上の場合を「不良(×)」として評価した。なお、インクジェット塗布性が良好である場合、その液晶配向剤の調製に用いた重合体は溶解性が良好であるといえる。その結果、この実施例の液晶配向剤のインクジェット塗布性は、「優良」であった。
【0095】
4.AC残像特性の評価
上記2.で製造したFFS型液晶セルにつき、交流電圧10Vで72時間駆動した後に、光源と光量検出器の間に偏光子と検光子を配置した装置を使用して、下記数式(2)で表される最小相対透過率(%)を測定した。
最小相対透過率(%)=(β-B0)/(B100-B0)×100 …(2)
(数式(2)中、B0は、ブランクでクロスニコル下の光の透過量である。B100は、ブランクでパラニコル下の光の透過量である。βは、クロスニコル下で偏光子と検光子の間に液晶セルを挟み最小となる光透過量である。)
暗状態の黒レベルは液晶セルの最小相対透過率で表され、FFS型液晶セルでは、暗状態での黒レベルが小さいほどコントラスト特性に優れ、AC残像特性に優れていると言える。最小相対透過率が0.3%未満のものを「優良(◎)」、0.3%以上2.0%未満のものを「良好(〇)」、2.0%以上のものを「不良(×)」とした。その結果、この実施例では「優良」の評価であった。
【0096】
5.電気特性の評価
上記2.で製造したFFS型液晶セルを60℃のオーブンに静置した後、東洋テクニカ社製VHR測定装置「VHR-1」を用いて、1V、1670msecの条件で電圧保持率(VHR)を測定した。評価基準としては、VHRが80%以上の場合に「優良(◎)」、80%未満70%以上の場合に「良好(○)」、70%未満60%以上の場合に「可(△)」、60%未満の場合に「不可(×)」とした。その結果、この実施例のVHRの評価は「優良」であった。
【0097】
6.光照射後の信頼性の評価
上記2.で製造したFFS型液晶セルの信頼性を評価した。評価は以下のようにして行った。まず、液晶セルに1Vの電圧を60マイクロ秒印加した後、印加解除から1670ミリ秒後の電圧保持率(VHR1)を測定した。次いで、液晶セルにCCFL(バックライト)を60℃で1週間照射した後、室温中に静置して室温まで自然冷却した。冷却後、液晶セルに1Vの電圧を60マイクロ秒印加した後、印加解除から1670ミリ秒後の電圧保持率(VHR2)を測定した。なお、測定装置には、東陽テクニカ社製VHR測定装置「VHR-1」を使用した。このときのVHRの変化率(ΔVHR)をVHR1とVHR2との差分(ΔVHR=VHR1-VHR2)により算出し、ΔVHRによって信頼性を評価した。ΔVHRが10%未満であった場合を「優良(◎)」、10%以上15%未満であった場合を「良好(○)」、15%以上20%未満であった場合を「可(△)」、20%以上であった場合を「不可(×)」と判定した。その結果、この実施例では信頼性「優良」であった。
【0098】
7.DC残像特性の評価
上記2.で製造した液晶セルにつき、AC2.5Vで駆動させて任意の2画素の間の輝度差を0に設定した後、AC2.5Vで駆動させつつ片方の画素のみにDC1Vを20分間印加して電荷を蓄積させた。DC1Vの印加を終了してAC2.5Vでの駆動のみに戻すと、蓄積された電荷によって2画素の間に輝度差が生じた。この輝度差の経時変化を観測することで、残留DC値が減衰する過程の緩和時間を算出した。緩和時間が10秒未満であった場合を「優良(◎)」、緩和時間が10秒以上20秒未満であった場合を「良好(〇)」、緩和時間が20秒以上であった場合を「不良(×)」と判定した。その結果、この実施例では「優良」の評価であった。
【0099】
8.ラビング耐性の評価
上記1.で調製した液晶配向剤(R-1)をガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、110℃のホットプレートで3分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.08μmの塗膜を形成し、ヘイズメーター(hazemeter)を用いて塗膜のヘイズ値を測定した。次いで、この塗膜に対し、コットン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.3mmでラビング処理を5回実施した。その後、ヘイズメーターを用いて液晶配向膜のヘイズ値を測定し、下記数式(3)によりラビング処理前のヘイズ値との差(ヘイズ変化値)を計算した。
ヘイズ変化値(%)=〔ラビング処理後の膜のヘイズ値(%)〕-〔ラビング処理前の膜のヘイズ値(%)〕 …(3)
液晶配向膜のラビング耐性につき、ヘイズ変化値が0.8未満であった場合を「優良(◎)」、ヘイズ変化値が0.8以上1.5未満であった場合を「良好(○)」、ヘイズ変化値が1.5以上であった場合を「不良(×)」と評価した。ヘイズ変化値が1.5未満(より好ましくは0.8未満)であれば膜強度が十分に高く、ラビング耐性に優れているといえる。その結果、この実施例ではラビング耐性「優良」であった。
【0100】
[実施例2~21及び比較例1~8]
液晶配向剤の組成を下記表3のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして液晶配向剤を調製した。また、得られた液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にしてラビング法によりFFS型液晶セルを製造し、各種評価を行った。それらの結果を下記表4に示す。表3中、配合量は、液晶配向剤の調製に使用した重合体成分の全量に対する、各重合体の固形分での配合量(質量部)を表す。
【0101】
[実施例22、23]
液晶配向剤の組成を下記表3のとおりに変更した点、及び液晶配向膜をラビング法に代えて光配向法を用いた点以外は実施例1と同様にして液晶配向剤を調製するとともに、FFS型液晶セルを製造し、各種評価を行った。結果を表4に示す。光配向法による液晶配向膜の形成は以下の手順で行った。
(光配向法による液晶配向膜の形成)
平板電極(ボトム電極)、絶縁層及び櫛歯状電極(トップ電極)がこの順で片面に積層されたガラス基板と、電極が設けられていない対向ガラス基板とのそれぞれの面上に液晶配向剤をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレートで1分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。得られた塗膜に対し、Hg-Xeランプを用いて、直線偏光された254nmの輝線を含む紫外線1,000J/m2を基板法線方向から照射して光配向処理を施した。なお、この照射量は、波長254nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。次いで、光配向処理が施された塗膜を、230℃のクリーンオーブンで30分加熱して熱処理を行い、液晶配向膜を形成した。
また、上記の一連の操作を、ポストベーク後の紫外線照射量を100~10,000J/m2の範囲でそれぞれ変更して実施することにより、紫外線照射量が異なる3個以上の液晶セルを製造し、最も良好な配向特性を示した露光量(最適露光量)の液晶セルを用いて、実施例1と同様にして各種評価を行った。
【0102】
【0103】
【0104】
表4に示すように、実施例1~23は、比較例1~8に比べて、インクジェット塗布性、AC残像特性、VHR、信頼性、DC残像特性及びラビング耐性の各種特性のバランスが取れていた。特に、実施例1~6、8、9、11及び14~22は、いずれの特性も「◎」の評価であり優れていた。これに対し、比較例1~8は、インクジェット塗布性、AC残像特性、信頼性、DC残像特性及びラビング耐性のうち少なくともいずれかの特性が「×」の評価であった。
【0105】
以上の結果から、重合体[A]と重合体[B]とを含む液晶配向剤によれば、液晶表示素子の残像を少なくでき、かつ力学強度が高い液晶配向膜を製造できることが明らかとなった。また、重合体[A]及び重合体[B]は溶解性が良好であり、塗布性に優れた液晶配向剤を得ることができることが明らかとなった。