(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022027515
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】溶鋼の脱硫方法および脱硫フラックス
(51)【国際特許分類】
C21C 7/064 20060101AFI20220203BHJP
C21C 7/04 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C21C7/064 Z
C21C7/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113854
(22)【出願日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2020131118
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕典
(72)【発明者】
【氏名】原田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】中井 由枝
【テーマコード(参考)】
4K013
【Fターム(参考)】
4K013BA05
4K013CE01
4K013CE07
4K013EA01
4K013EA03
4K013EA04
4K013EA05
(57)【要約】
【課題】溶鋼中へのAlピックアップを回避することができ、かつ高い脱硫能力を発揮する溶鋼の脱硫方法を提供する。
【解決手段】(%CaO)+(%SiO
2)+(%MgO)≧90、1.0<(%CaO)/(%SiO
2)<1.3、1≦(%MgO)≦20および(%Al
2O
3)≦2を満足するフラックスを溶鋼に供給して脱硫を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)式から(4)式を満足するフラックスを溶鋼に供給して前記溶鋼の脱硫を行う溶鋼の脱硫方法。
記
(%CaO)+(%SiO2)+(%MgO)≧90・・・(1)
1.0<(%CaO)/(%SiO2)<1.3・・・(2)
1≦(%MgO)≦20・・・(3)
(%Al2O3)≦2・・・(4)
ここで、(%CaO):フラックス中のCaOの濃度(質量%)
(%SiO2) :フラックス中のSiO2の濃度(質量%)
(%MgO) :フラックス中のMgOの濃度(質量%)
(%Al2O3) :フラックス中のAl2O3の濃度(質量%)
【請求項2】
前記フラックスは、フッ素を含有しないものである、請求項1に記載の溶鋼の脱硫方法。
【請求項3】
前記溶鋼は、Al濃度が0.005質量%以下である、請求項1または2に記載の溶鋼の脱硫方法。
【請求項4】
前記溶鋼は、C濃度が0.005質量%以下かつSi濃度が1.0質量%以上である請求項1から3のいずれかに記載の溶鋼の脱硫方法。
【請求項5】
前記溶鋼は、溶鋼中に溶存する酸素の活量aOが0.0010質量%以上0.0100質量%以下である請求項1から4のいずれかに記載の溶鋼の脱硫方法。
【請求項6】
前記溶鋼への前記フラックスの供給は、真空脱ガス設備において行う請求項1から5のいずれかに記載の溶鋼の脱硫方法。
【請求項7】
下記(1)式から(4)式を満足する脱硫フラックス。
記
(%CaO)+(%SiO2)+(%MgO)≧90・・・(1)
1.0<(%CaO)/(%SiO2)<1.3・・・(2)
1≦(%MgO)≦20・・・(3)
(%Al2O3)≦2・・・(4)
ここで、(%CaO):フラックス中のCaOの濃度(質量%)
(%SiO2) :フラックス中のSiO2の濃度(質量%)
(%MgO) :フラックス中のMgOの濃度(質量%)
(%Al2O3) :フラックス中のAl2O3の濃度(質量%)
【請求項8】
フッ素を含有しない、請求項7に記載の脱硫フラックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼中へのAlピックアップを回避することが可能であり、かつ高い脱硫効率を有する溶鋼の脱硫方法および、この方法に用いる脱硫フラックスに関する。
【背景技術】
【0002】
Sは、鉄鋼製品の原料である鉄鉱石や副原料である加炭材等に含有され、鉄鋼製品に不可避的に含有される元素の一つである。このSは、多くの鉄鋼製品において、その材料特性向上のために極力低減することが望まれている。例えば、家電製品等のモータの鉄心材料として使用される無方向性電磁鋼板では、酸化物系介在物のみならずMnSのような比較的微細な硫化物が存在すると、仕上げ焼鈍の段階において結晶粒成長が阻害されるため、S濃度の低減が重要となる。
【0003】
そのため、製鋼段階において溶銑や溶鋼中のSを低減する脱硫処理が行われている。溶鋼の脱硫処理は、一般的に、CaOを主成分とするフラックスを溶鋼に添加することで実施されている。このときの脱硫反応は次式で示される。
(CaO)+[S]=(CaS)+[O]
【0004】
したがって、上式によれば、脱硫反応を促進させるためには、CaOの反応性が高いスラグを使用することや、溶鋼中に溶存する酸素の活量aOを0.0010質量%未満程度まで低減することが必要である。そこで、CaOの反応性を向上させるために、添加されたフラックスの溶融・滓化を促進させるフラックス組成の検討が行われてきた。
【0005】
例えば、特許文献1に記載の技術は、減圧下でのケイ素キルド鋼の脱硫方法に関して、約5~15質量%のCaF2を含むスラグを形成することが規定されている。また、特許文献2および特許文献3には、CaO-Al2O3-SiO2系の脱硫フラックスが開示されている。なお、フラックスの添加は、溶鋼中に溶存する酸素の活量aOが0.0010質量%未満程度まで低減された状態で行われることが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2014-509345号
【特許文献2】特許第5152442号公報
【特許文献3】特許第3230068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、スラグにCaF2が含まれるため、該スラグは耐火物との反応性が高く、精錬容器の内張り耐火物の溶損が著しくなる、おそれがある。また、脱硫処理後に排出されるスラグ中のCaF2から溶出するFが環境に悪影響をおよぼす、おそれがある。すなわち、近年の環境保全に伴う規制によれば、CaF2を使用することは好ましくないため、CaF2の使用による脱硫反応の向上技術は適用が望めない状況にあった。
【0008】
また、最近では、低Al濃度を要求される鋼種が製造されるようになり、このような鋼種では、Al脱酸溶鋼に脱硫処理を施すことができない。例えば、上記した電磁鋼板を製造するに当たり発生する、高Si鋼のスクラップを鋳物銑の原料に再利用することが増加してきている。その際に、鋳物銑に含まれるAl含有量が0.05質量%以上になると、鋳物中に鋳巣(引け巣)が生じ易くなるため、スクラップ中に含まれるAlの含有量を0.05質量%未満に制限することが望まれている。
【0009】
このように、低いAl濃度を要求される溶鋼成分系では、溶鋼中酸素を十分に下げることが難しく、上記した特許文献1に記載のように、CaF2を含有させてフラックスの溶融・滓化を促進させることのみでは、脱硫反応が進まないという問題があった。また、特許文献2および特許文献3に記載されているようなAl2O3を含む脱硫フラックスを適用すると、溶鋼へのAlピックアップが生じる懸念があり、Alピックアップにより溶鋼中Alの含有量が目標範囲の上限を超えてしまうという問題があった。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みて開発されたものであり、溶鋼中へのAlピックアップを回避することができ、かつ高い脱硫能力を発揮する溶鋼の脱硫方法を、この方法に用いる脱硫フラックスに併せて提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、上記課題を解決するべく、脱硫フラックス成分と溶鋼添加成分との関係について鋭意検討を重ねた。その結果、溶鋼中へのAlピックアップを回避することができる、溶鋼の脱硫を行うためには、CaO、SiO2およびMgOを主成分とするフラックスを精錬反応容器内の溶鋼上に添加するのが有効であることを見出し、本発明を開発するに至ったものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
【0012】
1.下記(1)式から(4)式を満足するフラックスを溶鋼に供給して前記溶鋼の脱硫を行う溶鋼の脱硫方法。
記
(%CaO)+(%SiO2)+(%MgO)≧90・・・(1)
1.0<(%CaO)/(%SiO2)<1.3・・・(2)
1≦(%MgO)≦20・・・(3)
(%Al2O3)≦2・・・(4)
ここで、(%CaO):フラックス中のCaOの濃度(質量%)
(%SiO2) :フラックス中のSiO2の濃度(質量%)
(%MgO) :フラックス中のMgOの濃度(質量%)
(%Al2O3) :フラックス中のAl2O3の濃度(質量%)
【0013】
2.前記フラックスは、フッ素を含有しないものである、前記1に記載の溶鋼の脱硫方法。
【0014】
3.前記溶鋼は、Al濃度が0.005質量%以下である、前記1または2に記載の溶鋼の脱硫方法。
【0015】
4.前記溶鋼は、C濃度が0.005質量%以下かつSi濃度が1.0質量%以上である前記1から3のいずれかに記載の溶鋼の脱硫方法。
【0016】
5.前記溶鋼は、溶鋼中に溶存する酸素の活量aOが0.0010質量%以上0.0100質量%以下である前記1から4のいずれかに記載の溶鋼の脱硫方法。
【0017】
6.前記溶鋼への前記フラックスの供給は、真空脱ガス設備において行う前記1から5のいずれかに記載の溶鋼の脱硫方法。
【0018】
7.下記(1)式から(4)式を満足する脱硫フラックス。
記
(%CaO)+(%SiO2)+(%MgO)≧90・・・(1)
1.0<(%CaO)/(%SiO2)<1.3・・・(2)
1≦(%MgO)≦20・・・(3)
(%Al2O3)≦2・・・(4)
ここで、(%CaO):フラックス中のCaOの濃度(質量%)
(%SiO2) :フラックス中のSiO2の濃度(質量%)
(%MgO) :フラックス中のMgOの濃度(質量%)
(%Al2O3) :フラックス中のAl2O3の濃度(質量%)
【0019】
8.フッ素を含有しない、前記7に記載の脱硫フラックス。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、溶鋼にCaO、SiO2およびMgOを所定条件下で含有するフラックスを添加することによって、溶鋼中へのAlピックアップを回避しつつ高い溶鋼脱硫能力を発揮することが可能であり、Al量が制限された成分系においても溶鋼中S濃度を確実に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例において得られた脱硫フラックス中の(%CaO)+(%SiO
2)+(%MgO)の値と脱硫率との関係を示す図である。
【
図2】実施例において得られた脱硫フラックス中の(%CaO)/(%SiO
2)の値と脱硫率との関係を示す図である。
【
図3】実施例において得られた脱硫フラックス中の(%MgO)の値と脱硫率との関係を示す図である。
【
図4】実施例において得られた脱硫フラックス中の(%Al
2O
3) の値と溶鋼中sol.Al変化率との関係を示す図である。
【
図5】実施例において得られたa
Oと脱硫率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を導くに至った実験結果について詳述する。
転炉から出鋼した溶鋼に真空脱ガス処理装置を用いて、脱炭処理、脱酸処理および合金添加による成分調整を行い、C:0.005質量%以下、Si:1.0~5.0質量%、Al:0.005質量%以下、S:0.0025~0.0040質量%、aO:0.0010~0.0100質量%である溶鋼を溶製した。ここで、前記溶鋼の調整組成は、真空脱ガス処理中の合金添加後の取鍋内の溶鋼から採取した試料における測定値である。このうちAl濃度は、溶鋼中にAl2O3等の固相として懸濁しているAl分を除いた濃度であり、sol. Alとも称する。また、溶鋼中に溶存する酸素の活量aOは、酸素濃淡電池および温度測定センサを有する消耗型測温・測酸プローブを溶鋼中に浸漬して得られる測定値である。
引き続いて、真空脱ガス処理中の前記溶鋼に脱硫フラックスを添加し、C:0.005質量%以下、Si:1.0~5.0質量%、S:0.002質量%以下、Al:0.005質量%以下、aO:0.0010~0.0100質量%である溶鋼を溶製した。ここで、前記溶鋼の調整組成は、真空脱ガス処理後の取鍋内の溶鋼から採取した試料における測定値である。
【0023】
前記真空脱ガス処理において、添加する脱硫フラックスの成分やその配合比率を種々に変化させ、該真空脱ガス処理終了時における溶鋼中S濃度との関係を評価した。その結果、CaO、SiO2およびMgOを主成分とし、それら成分が所定比率からなり、Al2O3濃度が所定の値以下である脱硫フラックスを溶鋼へ添加したとき、真空脱ガス処理後の溶鋼中へのAlピックアップを回避することができ、かつ溶鋼中S濃度が低位となることを見出した。具体的には以下の通りである。
【0024】
まず、脱硫フラックスにおけるCaOの濃度(質量%)、SiO2の濃度(質量%)およびMgOの濃度(質量%)の合計量、すなわち(%CaO)+(%SiO2)+(%MgO)は90質量%以上であることが必要である。この値が90質量%より低いと、フラックス中に含まれる不純物分の影響が大きくなり、期待した脱硫効果が得られない。良好な脱硫効果を得るためには、望ましくは、フラックス中の(%CaO)+(%SiO2)+(%MgO)が95質量%以上である。100質量%であってもよいのは勿論である。
【0025】
また、フラックス中のCaOとSiO2の比率(%CaO)/(%SiO2)が1.0超~1.3未満の範囲内であることが必要である。フラックスの(%CaO)/(%SiO2)が1.0以下であると、フラックス中のSiO2濃度が高いため、フラックス添加により形成されるスラグのサルファイドキャパシティが低下し、脱硫反応が進まない。また、フラックスの (%CaO)/(%SiO2)が1.3以上であると、1650℃以下の溶鋼温度ではフラックスが溶融しなくなり反応性も低下するため、脱硫反応が進まない。好ましくは、1.1~1.2の範囲である。
【0026】
さらに、脱硫フラックスにおけるMgOの濃度、すなわち(%MgO)は、1質量%以上20質量%以下であることが必要である。この値が1質量%未満であると、フラックス添加により形成されるスラグの液相率が低下するため、当該スラグのサルファイドキャパシティが低下し、脱硫反応が進まない。一方、この値が20質量%を超えると、1650℃以下の溶鋼温度ではフラックスが溶融しなくなり反応性も低下するため、脱硫反応が進まない。より良好な脱硫効果を得るためには、この値が5質量%以上20質量%以下であることが望ましい。
【0027】
加えて、本発明においては、脱硫フラックス中のAl2O3の濃度(質量%)、すなわち(%Al2O3)が2質量%以下であることが必要である。フラックスから溶鋼中へのAlピックアップを抑制するため、フラックス中にAl2O3を極力含有しないこと、すなわちフラックス中(%Al2O3)は低いほど良い。この値が2質量%を超えると、フラックスから溶鋼中へのAlピックアップが顕著となる。また、Al2O3に限らず、フラックス中にはAl源を含まないことが望ましい。従って、Al2O3は0質量%でよいことは勿論である。
【0028】
なお、CaO、SiO2、MgOおよびAl2O3以外の成分については、Fe酸化物、MnO、TiO2、Cr2O3やREM酸化物等を含有しても良いが、フッ素を含有しないことが好ましい。ここで、TiO2の濃度については、溶鋼中へのTiピックアップが懸念されることから5.0質量%以下とすることが望ましい。また、FeOやMnOについては、溶鋼の再酸化により溶鋼中酸素の活量aOが上昇することの懸念から、1.0質量%以下にすることが望ましい。
【0029】
以上のとおり、脱硫フラックスにおけるCaO、SiO2およびMgOの合計濃度、CaOとSiO2との比率、MgO濃度およびAl2O3濃度を規制することが、溶鋼中へのAlピックアップを回避し、かつ脱硫効率を高めるのに肝要である。すなわち、上記したとおり、(%CaO)+(%SiO2)+(%MgO)≧90、1.0<(%CaO)/(%SiO2)<1.3、1≦(%MgO)≦20および(%Al2O3)≦2に規制されたフラックスを用いて脱硫処理を行うことが肝要である。
【0030】
かような組成比率になる脱硫フラックスは、その原料を特に規定する必要はないが、例えば生石灰や珪石、れんが屑やドロマイト、ブルーサイトを粉砕し混合したものを使用することができる。さらに、フラックスの反応性を向上するためには、前記原料を粉砕し混合した後、プリメルトしたものを粉砕し使用することが望ましい。
【0031】
また、脱硫フラックスは、その粒径が小さく比表面積が大きいほど、溶鋼とフラックスとの接触面積が増大し脱硫反応が促進される。一方で、粒径が小さすぎると、溶鋼中へ供給される前に排気系に吸引されてしまう等、フラックスの添加歩留が低下する場合がある。したがって、フラックスの添加歩留が比較的高い、上吹きランスからの投射またはインジェクションによりフラックス添加を行う場合、フラックス粒径は0.05mm以上1mm以下であることが望ましい。一方、真空槽内にフラックスを自由落下させて上添加する場合は、上記の場合よりフラックスが排気系に吸引されやすいため、フラックス粒径は粗目にするとよい。例えば、1mm以上10mm以下のフラックス粒径であることが望ましい。
【0032】
なお、脱硫後のフラックスは、例えば、取鍋中の溶鋼上に浮遊するCaO-SiO2-Al2O3-MgO-FeOを主成分とするスラグ中へ吸収される。必要であれば、スラグからの復Sを防ぐために、例えば、MgOクリンカーを添加し、融点の高いスラグに改質することにより、メタル-スラグ反応による溶鋼中へのS移動を抑制することも可能である。
【0033】
本発明の脱硫方法は、例えば、無方向性電磁鋼板向け溶鋼の精錬において、低Al濃度の溶鋼を脱硫する際に有利に適合するものである。具体的には、Al:0.005質量%以下の溶鋼に対して特に有効である。
【0034】
Al:0.005質量%以下
Alは、高Si鋼のスクラップを鋳物銑の原料としてリサイクルする観点からは、0.05 質量%未満であることが望まれており、低いほど好ましい。特に、本発明の脱硫方法を溶鋼中Al濃度が高い溶鋼に適用すると、CaO-Al2O3-MgOを主成分とするスラグが形成され、スラグの液相率が低下することによる脱硫能力の低下が懸念されるため、0.005質量%以下であることが望ましい。下限については、少ないほど好ましいので、特に規定しない。従って、0質量%であってもよい。
【0035】
次に、本発明の脱硫方法の適用に好適な溶鋼の成分組成範囲とその理由は、以下のとおりである。
C:0.005質量%以下
Cは、本発明の脱硫方法が適用される対象となる鉄鋼材料の強度や加工性に影響する元素であり、特に0.005質量%を超えると、延性や絞り加工性の低下が顕著となることから、0.005質量%以下に制限する。なお、下限については、本発明の脱硫方法の適用対象となる鉄鋼材料においては、少ないほど好ましいので、特に規定しない。
【0036】
Si:1.0質量%以上
Siは、本発明の脱硫方法が適用される対象となる鉄鋼材料においては、少なくともAlに代わる脱酸材として用いられ、脱酸元素の含有率としては1.0質量%以上が必要である。一方で、5.0 質量%を超えると、鋼が脆化し、冷間圧延中に亀裂を生じる等、製造性を大きく低下させる。よって、上限は5.0 質量%とすることが好ましい。
【0037】
S:0.002質量%以下
Sは、硫化物となって析出物や介在物を形成し、製造性(熱間圧延性)を低下させるので、少ないほど好ましい。そこで、本発明での上限は0.002 質量%まで許容される。下限については、少ないほど好ましいので、特に規定しない。従って、0質量%であってもよい。
【0038】
さらに、上記した組成のCaO、SiO2およびMgOを主成分としたフラックスによる脱硫方法は、溶鋼中に溶存する酸素の活量aOを低位にした溶鋼に対して適用すると、より効果を発揮する。ここで、溶鋼中に溶存する酸素の活量aOは、脱酸元素とその酸化物(スラグまたは介在物)との平衡により定まるが、例えば、上記で例示の成分系のような、Al濃度が0.005質量%以下かつSi濃度が1.0質量%以上であれば、溶鋼中の酸素ポテンシャルはSi-SiO2平衡により定まることになる。この場合、SiはAlと比べて脱酸力は低いため、通常のAl脱酸鋼(Al濃度が0.02質量%程度)に比較すると、aOの値は高くなり、CaO-SiO2-MgO系酸化物のサルファイドキャパシティが低くなる。したがって、CaO-SiO2-MgO系酸化物の脱硫能を高めるためには、aOを低位にすることが好ましい。具体的には、次に示す通りである。
【0039】
aO:0.0010~0.0100質量%
溶鋼の脱硫反応は還元反応であるため、溶鋼中に溶存する酸素の活量aOは、この値が高いほど脱硫反応が進行しにくくなる。本発明のフラックスに対しては、その脱硫能力を確保する観点から、aOは0.0100質量%以下であることが望ましい。さらに、フラックスの脱硫能力を高めるためには、0.0040質量%以下であることが好ましい。下限については、一般的に少ないほど好ましいが、低いAl濃度を要求される溶鋼成分系では、aOを0.0010質量%未満まで低減することは困難である。したがって、下限は0.0010質量%とすることが好ましい。
【0040】
ここで、活量は、一般には固体や液体中の補正濃度と理解されるが、本発明における溶鋼中に溶存する酸素の活量aOは、酸素濃淡電池および温度測定センサを有する消耗型測温・測酸プローブを溶鋼中に浸漬して直接測定された値である。酸素濃淡電池は、酸素イオンが動くことのできる電解質の両端に酸素濃度の差ができると、この間に起電力が発生するというものである。この起電力と、温度および熱力学データとから、aOが求められる。なお、溶鋼中に溶存する酸素の活量aOは、ヘンリーの法則を基準とし、質量%を用いて表記したものとする。
【0041】
鉄鋼中の酸素濃度は、不活性ガス融解-熱伝導度法や、不活性ガス融解-赤外線吸収法で測定されることが多いが、得られる値は分析試料中の酸化物を含んだ値(全酸素値)であるため、溶鋼脱硫の能力を見積もるには誤差が大きい。また、全酸素値から溶存酸素値を求めるためには、試料中の酸化物を抽出しその量を定量分析する必要があり、測定に時間を要するという問題がある。そこで、本発明においては、溶存酸素の値が迅速に得られる上記方法を利用することが好ましい。また、一般的な酸素濃度と区別して、酸素の活量aOと示すこととした。
【0042】
なお、aOを0.0010~0.0100質量%とするには、例えば、Alに代わる脱酸材として金属SiやSi合金を脱硫処理前の溶鋼中に添加する方法が適用できる。
【0043】
次に、本発明の脱硫方法について、極低炭素濃度の無方向性電磁鋼板用溶鋼の溶製に適用する場合を例として説明する。
高炉から出銑された溶銑を溶銑鍋やトーピードカーなどの溶銑保持・搬送用容器で受銑し、必要に応じて脱珪、脱りんおよび脱硫処理等の溶銑予備処理を行う。予備処理後の溶銑を転炉において脱炭精錬し、得られた溶鋼を未脱酸状態で転炉から取鍋に出鋼する。
【0044】
ここで、使用する溶鋼としては、高炉から出銑された溶銑を転炉で脱炭精錬した溶鋼に限るものではなく、鉄スクラップなどを電気炉で溶解して精錬した溶鋼であっても良い。転炉あるいは電気炉において溶製した溶鋼を取鍋に出鋼した後、必要であれば取鍋に流出したスラグを除滓しても良い。また、出鋼中あるいは出鋼後の取鍋内にドロマイト等の改質剤を添加してスラグ改質を実施しても良い。
【0045】
出鋼後あるいは除滓またはスラグ改質後の取鍋に保持された溶鋼は、RH等の真空処理機能を有した真空脱ガス処理装置にて、Cを極低濃度まで脱炭すると同時に、脱窒を行う。C濃度が0.0050 質量%以下に到達した後、Si濃度を1.0 質量%以上とする狙いで金属SiやSi合金を添加して脱酸する。このとき、金属MnやMn合金等を添加して、Si以外の成分濃度を高めてもよい。なお、ここでは無方向性電磁鋼板用溶鋼の溶製を例としたので、Si濃度を1.0質量%以上としたが、Si濃度は1.0質量%以上に限らず、溶製する鋼種の成分と脱硫が支障なく行える範囲で適宜定めればよい。
【0046】
さらに、溶鋼中のaOを0.0100質量%以下とすることが好ましい。そのために、例えば、Alに代わる脱酸材として金属SiやSi合金を脱硫処理前の溶鋼中に添加することによって、aOを0.0100質量%以下とする。
【0047】
続いて、真空槽上部から本発明に従う脱硫フラックスを添加し、溶鋼の脱硫を行う。このとき、真空槽に設置した上吹きランスよりキャリアガスとともに脱硫フラックスを溶鋼上へ吹き付けても良い。また、真空槽あるいは取鍋に設置した、羽口や浸漬ランスからキャリアガスとともに本発明の脱硫フラックスを溶鋼中へインジェクションすることも可能である。真空脱ガス処理後、必要に応じて、溶鋼中に、Ca含有合金(CaSi合金等)の添加を行う場合もある。
その後、上記の無方向性電磁鋼板向け溶鋼は、連続鋳造法または造塊-分塊圧延法等で鋼素材(スラブ)とする。
【実施例0048】
1チャージの溶鋼量が約200トン規模の実機において、高炉から出銑した後に脱硫処理を施した溶銑を転炉へ搬送し、転炉にて脱炭処理を施して溶鋼を溶製した後、未脱酸状態で取鍋に出鋼した。なお、出鋼の際にスラグ改質剤の添加は行わず、取鍋に流出したスラグの除滓は実施せずに溶鋼の入った取鍋をRH真空脱ガス装置へ搬送した。
【0049】
なお、RH真空脱ガス装置による処理前の溶鋼は、C:0.02~0.08質量%、Si:0.03質量%以下、S:0.002~0.004質量%およびAl:0.002~0.004質量%の組成であった。また、溶鋼温度は1610~1650℃であった。
【0050】
次いで、RH真空脱ガス装置にて、上吹きランスから酸素ガスを吹き付けてC濃度が0.005質量%以下となるまで脱炭処理を実施した。その後、Si合金を添加して脱酸および成分調整を行い、さらに、Mn合金等の各種合金元素を添加して成分調整を行った。引き続き、真空槽上部から粒径1mm以上かつ5mm以下に調整した脱硫フラックスを添加し、脱硫処理を実施した。このとき、添加する脱硫フラックスの各成分濃度を種々に変化させて操業を実施した。
【0051】
上記の操業では、RH真空脱ガス装置において、表1に示すS濃度の溶鋼に、表1に記載の各成分濃度の脱硫フラックスを真空槽内の溶鋼上へ添加した。脱硫処理後、各種合金を添加し成分調整を実施した。比較例では、脱硫フラックスを添加しないか、本発明の成分組成ではないフラックスを添加した。得られた溶鋼の成分組成について、真空脱ガス処理後の取鍋において調査した結果を表1に併記する。
【0052】
ここで、表1中の脱硫率は、脱硫フラックス添加前の溶鋼中S濃度とRH真空脱ガス処理終了後の溶鋼中S濃度との差分を、脱硫フラックス添加前のS濃度に対して百分率で表したものである。また、表1中のsol.Al変化率は、脱硫フラックス添加前の溶鋼中sol.Al濃度に対するRH真空脱ガス処理終了後の溶鋼中sol.Al濃度の比を表したものである。
【0053】
【0054】
図1に、発明例1~3および比較例2、3において得られた脱硫フラックス中の(%CaO)+(%SiO
2)+(%MgO)の値と脱硫率の関係を示す。これらの事例はすべて、(%CaO)/(%SiO
2)=1.1~1.2、(%MgO)=15~17質量%、(%Al
2O
3)=0.5~0.7質量%、脱硫フラックス添加前の溶鋼中に溶存する酸素の活量a
O=0.0036~0.0041質量%の水準にある。
【0055】
図2に、発明例4~6および比較例4、5において得られた脱硫フラックス中の(%CaO)/(%SiO
2)の値と脱硫率の関係を示す。これらの事例はすべて、(%CaO)+(%SiO
2)+(%MgO)=93~97質量%、(%MgO)=16~17質量%、(%Al
2O
3)=0.6~0.9質量%、脱硫フラックス添加前の溶鋼中に溶存する酸素の活量a
O=0.0039~0.0044質量%の水準にある。
【0056】
図3に、発明例7~10および比較例6、7において得られた脱硫フラックス中の(%MgO)の値と脱硫率の関係を示す。これらの事例はすべて、(%CaO)+(%SiO
2)+(%MgO)=92~96質量%、(%CaO)/(%SiO
2)=1.1~1.2、(%Al
2O
3)=0.6~0.8質量%、脱硫フラックス添加前の溶鋼中に溶存する酸素の活量a
O=0.0038~0.0044質量%の水準にある。
【0057】
図4に、発明例11~14および比較例8、9において得られた脱硫フラックス中の(%Al
2O
3)の値と溶鋼中sol.Al変化率の関係を示す。これらの事例はすべて、(%CaO)+(%SiO
2)+(%MgO)=94~96質量%、(%CaO)/(%SiO
2)=1.1~1.2、(%MgO)=14~16質量%、脱硫フラックス添加前の溶鋼中に溶存する酸素の活量a
O=0.0041~0.0045質量%の水準にある。
【0058】
図5に、発明例15~22において得られた脱硫フラックス添加前の溶鋼中に溶存する酸素の活量a
Oと脱硫率との関係を示す。これらの事例はすべて、(%CaO)+(%SiO
2)+(%MgO)=90~94質量%、(%CaO)/(%SiO
2)=1.1~1.2、(%MgO)=5~8質量%、(%Al
2O
3)=0.4~0.6質量%の水準にある。
【0059】
表1および
図1~3に示す結果から、本発明に適合する条件の脱硫フラックスを用いる場合は、RH真空脱ガス処理後の溶鋼中S濃度が0.0013質量%以下と低位であり、脱硫率が65%以上であることが分かる。一方、比較例1~7に示すように、脱硫フラックスを添加しないか、本発明に適合しない条件の脱硫フラックスを用いる場合は、RH真空脱ガス処理における脱硫率が40%以下であることが分かる。
【0060】
また、表1および
図4に示す結果から、比較例8、9に示すように、Al
2O
3を2質量%以上含むフラックスを用いる場合は、本発明と同等に溶鋼中Sを低減することが可能であるが、溶鋼中へのAlピックアップを回避することができないことが分かる。
【0061】
さらに、表1および
図5に示す結果から、本発明に適合する条件の脱硫フラックスを用いて、かつ脱硫フラックス添加前の溶鋼中に溶存する酸素の活量a
Oが0.0010~0.0100質量%である場合は、RH真空脱ガス処理後の溶鋼中S濃度が0.0011質量%以下と低位であり、脱硫率が70%以上であることが分かる。一方、比較例10に示すように、本発明に適合しない条件の脱硫フラックスを用いる場合は、a
Oが0.0010質量%であっても、RH真空脱ガス処理における脱硫率が40%以下であることが分かる。