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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022027535
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】熱暴走抑制素子および関連応用
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20220203BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220203BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220203BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/052
H01M4/66 A
H01M4/70 Z
【審査請求】有
【請求項の数】26
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021118364
(22)【出願日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】63/058,205
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/087,563
(32)【優先日】2020-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/372,084
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】512306818
【氏名又は名称】輝能科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】PROLOGIUM TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.6-1, Ziqiang 7th Rd., Zhongli Dist., Taoyuan City, Taiwan
(71)【出願人】
【識別番号】512316932
【氏名又は名称】プロロジウム ホールディング インク
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】楊思▲ダン▼
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017EE05
5H029AJ12
(57)【要約】
【課題】本発明は熱暴走抑制素子および関連応用を提供する。
【解決手段】抑制素子は不動態化組成物供給体および極性溶液供給体を含む。不動態化組成物供給体は、非リチウムアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、またはこれらの組み合わせから選択される金属イオン(A)、およびアルミニウムエッチングイオン(B)を放出できる。極性溶液供給体の極性溶液は、金属イオン(A)、およびアルミニウム集電体をエッチングするアルミニウムエッチングイオン(B)をアルミニウム集電体に運び、金属イオン(A)およびエッチング時に発生したアルミニウムイオンは電気化学反応系に入り込む。その後、正極活物質が、電位もエネルギーも低い結晶状態に移行し、かつ負極活物質が、電位が高くエネルギーが低い無機ポリマー状態に移行して、熱暴走の発生を防ぐ。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム電池に適用される熱暴走抑制素子であって、
金属イオン(A)およびアルミニウムエッチングイオン(B)を放出する不動態化組成物供給体であって、前記金属イオン(A)が、非リチウムアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、またはこれらの組み合わせから選択される不動態化組成物供給体と、
前記金属イオン(A)および前記アルミニウムエッチングイオン(B)をリチウム電池のアルミニウム集電体に運ぶ極性溶液を放出する極性溶液供給体であって、前記アルミニウム集電体が、前記アルミニウムエッチングイオン(B)によってエッチングされてアルミニウムイオンが交換され、かつ前記金属イオン(A)および前記アルミニウムイオンが、前記極性溶液によって前記リチウム電池内で運ばれて電気化学反応系に入り込み、電気化学反応を停止させる極性溶液供給体と、を含む、
熱暴走抑制素子。
【請求項2】
前記不動態化組成物供給体が前記極性溶液中で解離されると、前記金属イオン(A)および前記アルミニウムエッチングイオン(B)は放出されることを特徴とする、請求項1に記載の熱暴走抑制素子。
【請求項3】
前記金属イオン(A)は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、またはこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の熱暴走抑制素子。
【請求項4】
前記不動態化組成物供給体は両性金属イオン(C)をさらに放出することを特徴とする、請求項1に記載の熱暴走抑制素子。
【請求項5】
前記アルミニウムエッチングイオン(B)は、水酸化物イオンまたは硝酸イオンから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の熱暴走抑制素子。
【請求項6】
前記不動態化組成物供給体はNaAl(OH)であることを特徴とする、請求項1に記載の熱暴走抑制素子。
【請求項7】
前記不動態化組成物供給体および前記極性溶液供給体を隔離する隔離機構をさらに含む、請求項1に記載の熱暴走抑制素子。
【請求項8】
前記隔離機構は、無孔の保護層またはカプセルから選択されることを特徴とする、請求項7に記載の熱暴走抑制素子。
【請求項9】
前記保護層または前記カプセルは、感熱分解物質、または前記極性溶液に溶解する溶解性物質で作られていることを特徴とする、請求項8に記載の熱暴走抑制素子。
【請求項10】
前記極性溶液供給体は、吸熱分解して水を放出する水放出性化合物であり、前記不動態化組成物供給体は無水であり、かつ前記隔離機構は、前記不動態化組成物供給体および前記極性溶液供給体を覆う有孔ポリマー層であることを特徴とする、請求項7に記載の熱暴走抑制素子。
【請求項11】
前記不動態化組成物供給体または前記極性溶液供給体は、構造支持材に付着していることを特徴とする、請求項1に記載の熱暴走抑制素子。
【請求項12】
前記構造支持材は溶液を吸収できることを特徴とする、請求項11に記載の熱暴走抑制素子。
【請求項13】
前記構造支持材は、紙、ポリマー繊維、ゲルポリマー、またはグラスファイバーから選択されることを特徴とする、請求項12に記載の熱暴走抑制素子。
【請求項14】
前記熱暴走抑制素子は貫通孔を有する金網フレームをさらに含み、前記不動態化組成物供給体および前記極性溶液供給体は前記貫通孔に充填されることを特徴とする、請求項1に記載の熱暴走抑制素子。
【請求項15】
前記極性溶液供給体は、吸熱分解して水を放出する水放出性化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の熱暴走抑制素子。
【請求項16】
前記不動態化組成物供給体および/または前記極性溶液供給体と混合されて膜を形成する膜形成剤をさらに含む、請求項1に記載の熱暴走抑制素子。
【請求項17】
前記極性溶液供給体に、前記純水よりも沸点が高い親水性物質を添加することを特徴とする、請求項1に記載の熱暴走抑制素子。
【請求項18】
前記不動態化組成物供給体は3つ以上の化合物で構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の熱暴走抑制素子。
【請求項19】
アルミニウム集電体を有するリチウム電池を含む、熱暴走を抑制できる電池構造であって、
請求項1に記載の熱暴走抑制素子が前記アルミニウム集電体の開放側面に配置されていることを特徴とする、
電池構造。
【請求項20】
前記電池構造はもう1つのリチウム電池をさらに含み、前記熱暴走抑制素子は前記2つのリチウム電池間に位置している、請求項19に記載の電池構造。
【請求項21】
前記電池構造は、前記2つの本体間に配置されているU字形金属板をさらに含み、前記U字形金属板は、2本の平行アーム、およびこれに接続したクロスメンバーを含み、前記2本の平行アームおよび前記クロスメンバーは、前記熱暴走抑制素子を含む空間を形成することを特徴とする、請求項19に記載の電池構造。
【請求項22】
前記熱暴走抑制素子の側壁を取り囲んで配置されている、エッチング方向の制限層をさらに含む、請求項19に記載の電池構造。
【請求項23】
前記アルミニウム集電体は前記開放側面に溝を有し、前記不動態化組成物供給体および前記極性溶液供給体は前記溝に充填されていることを特徴とする、請求項19に記載の電池構造。
【請求項24】
前記溝は、前記アルミニウム集電体に位置する複数の隆起によって形成されていることを特徴とする、請求項23に記載の電池構造。
【請求項25】
前記隆起は、熱暴走抑制素子に対し不活性である金属、ガラス、またはポリマー製であることを特徴とする、請求項24に記載の電池構造。
【請求項26】
前記アルミニウム集電体は、前記開放側面に、前記アルミニウム集電体を貫通しない複数の補助スロットを有し、前記補助スロットはエッチングを促進するのに用いられることを特徴とする、請求項19に記載の電池構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池の安全機構、具体的には、リチウム電池に配置される熱暴走抑制素子および関連応用に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、車両、消費者向けおよび産業用途のウェアラブル製品、携帯機器、ならびにエネルギー蓄積装置などのさまざまな製品で幅広く用いられ、人々の日常生活のほぼすべての領域で適用されている。しかしながら、携帯電話用バッテリや電気自動車の発火や爆発といったリチウムイオン電池の事故について時折耳にする。これらはすべて、リチウム電池の安全問題に関して、いまだに包括的で効果的な解決策がないことが原因である。
【0003】
リチウム電池の発火や爆発につながる危険な事象の主因は熱暴走である。リチウム電池の熱暴走の主因は熱であり、これは温度上昇によって誘発される、電池中のSEI(固体電解質界面)膜、電解質、結合剤、ならびに正極活物質および負極活物質の熱分解に起因する発熱反応である。
熱暴走を抑制する現在の方法は、安全機構の作動位置に応じて、電池セル外部と電池セル内部の2種類に分類できる。電池セル外部の場合、監視システムを利用し、デジタル演算シミュレーションを用いる。電池セル内部の場合、さらに物理的方法と化学的方法に分けられる。電池セル外部のデジタル監視システムでは、電池セル外部の専用保護回路と専用管理システムを利用し、使用中のバッテリの安全監視を強化する。サーマルシャットダウンセパレーターなどの電池セル内部の物理的な方式では、電池セルが高温になると、セパレーターの孔が塞がり、イオンの通過が阻止される。
【0004】
電池セル内部の化学的な方式は、スケール制御型または電気化学反応型と定義できる。スケール制御型では、電解質に難燃剤を添加し、熱暴走のスケールを制御する。電気化学反応型の例には以下がある。
a.モノマーまたはオリゴマーを電解質に添加する。温度が上昇し、イオンマイグレーション速度が低下すると、重合が生じる。そのため、温度の上昇に伴ってイオン伝導率が低下し、セル内の電気化学反応速度が落ちる。
b.正の温度係数(PTC)抵抗材料が、正極層または負極層と、隣接する集電層との間に挟まれている。電池セルの温度が上昇すると、電気絶縁能力が向上する。正極層または負極層と、隣接する集電層との間の電力伝送効率が低下し、電気化学反応速度も低下する。
c.正極活物質の表面に改質層が形成されている。電池セルの温度が上昇すると、改質層が緻密な膜に変化し、電荷移動の抵抗が増して、電気化学反応速度が低下する。
【0005】
しかしながら、前述の方法は、イオン/エレクトロマイグレーション経路を受動的に遮断して発熱を抑えることのみを目指しており、熱暴走を引き起こす最大エネルギーの主な発生源、および電気化学反応全体の主な反応体、すなわち活物質を対象としていない。
【0006】
したがって本発明は、活物質の熱暴走をもたらす熱エネルギーを減少させることによって、前述の問題を緩和または除去するリチウム電池の熱暴走抑制素子および関連応用を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、リチウムイオンが脱離した正極活物質を、電位もエネルギーも高い本来の状態から、電位もエネルギーも低い金属酸化物の結晶状態に移行させ、かつリチウムイオンが挿入された負極活物質を、電位が低くエネルギーが高い本来の状態から、電位が高くエネルギーが低い無機ポリマー状態に移行させることが可能な、新しい熱暴走抑制素子および関連応用を提供することである。それにより、電気化学反応経路が遮断され、熱暴走の発生が防止される。
【0008】
また、本発明のもう1つの目的は、リチウム電池の外部に配置される、新しい熱暴走抑制素子および関連応用を提供することである。それにより、リチウム電池の電気化学反応系の性能に影響が及ばない。
【0009】
本発明のさらなる目的は、アルミニウム集電体がエッチングされ、金属イオン(A)およびエッチング時に発生したアルミニウムイオンは、リチウム電池の電気化学反応系に入り込み、リチウムイオンが脱離した正極活物質およびリチウムイオンが挿入された負極活物質は、低いエネルギー状態に移行し、そのため電池全体の電圧が下がり、電気化学反応経路が遮断され、熱暴走の発生が防止される、新しい熱暴走抑制素子および関連応用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記を実施するために、本発明は、不動態化組成物供給体および極性溶液供給体を含む熱暴走抑制素子を開示する。不動態化組成物供給体は、非リチウムアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、またはこれらの組み合わせから選択される金属イオン(A)、およびアルミニウムエッチングイオン(B)を放出できる。極性溶液供給体は、金属イオン(A)およびアルミニウムエッチングイオン(B)をリチウム電池のアルミニウム集電体に運ぶ極性溶液を放出する。アルミニウム集電体はアルミニウムエッチングイオン(B)によってエッチングされ、金属イオン(A)およびエッチング時に発生したアルミニウムイオンは、リチウム電池の電気化学反応系に入り込む。リチウムイオンが脱離した正極活物質およびリチウムイオンが挿入された負極活物質は、金属イオン(A)と反応し、低いエネルギー状態に移行する。そのため電池全体の電圧が下がり、電気化学反応経路が遮断され、熱暴走の発生が防止される。
【0011】
さらに本発明は、アルミニウム集電体を有するリチウム電池を含む、熱暴走を抑制できる電池構造を開示する。前述の熱暴走抑制素子は、アルミニウム集電体の開放側面に配置される。
【0012】
以下に示す詳細な説明から、本発明のさらなる適用範囲が明らかになる。しかしながら、この詳細な説明により、当業者には本発明の精神および範囲内のさまざまな変更および修正が明らかになることから、詳細な説明および具体例は本発明の好ましい実施形態を示す一方で、例示にすぎないことを理解されたい。
【0013】
本発明は、以下に示す、例示のみを目的とし、本発明を限定するものではない詳細な説明から完全に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】本発明の熱暴走抑制素子の実施形態を示す概略図である。
図1B】本発明の熱暴走抑制素子の実施形態を示す概略図である。
図1C】本発明の熱暴走抑制素子の実施形態を示す概略図である。
図2】本発明の熱暴走抑制素子の別の実施形態を示す概略図である。
図3A】本発明の層状の熱暴走抑制素子の実施形態を示す概略図である。
図3B】本発明の層状の熱暴走抑制素子の実施形態を示す概略図である。
図3C】本発明の層状の熱暴走抑制素子の実施形態を示す概略図である。
図4A】本発明のリチウム電池に適用される熱暴走抑制素子の実施形態を示す概略図である。
図4B】本発明のリチウム電池に適用される熱暴走抑制素子の実施形態を示す概略図である。
図4C】本発明のリチウム電池に適用される熱暴走抑制素子の実施形態を示す概略図である。
図4D】本発明のリチウム電池に適用される熱暴走抑制素子の実施形態を示す概略図である。
図4E】本発明のリチウム電池に適用される熱暴走抑制素子の実施形態を示す概略図である。
図4F】本発明のリチウム電池に適用される熱暴走抑制素子の実施形態を示す概略図である。
図4G】本発明のリチウム電池に適用される熱暴走抑制素子の実施形態を示す概略図である。
図4H】本発明のリチウム電池に適用される熱暴走抑制素子の実施形態を示す概略図である。
図5A】各濃度の溶液、30%NaOH(aq)、30%NaAl(OH)4(aq)、30%NaCl(aq)、10%LiOH(aq)、および30%KOH(aq)と、リチウムイオンが脱離した正極活物質との反応におけるXRD回折パターンである。
図5B】リチウムイオンが挿入された負極活物質をナトリウム/カリウムイオンおよびアルミニウムイオンに曝露する前と後のXRD回折パターンである。
図6A】従来のリチウム電池セルの熱暴走試験での電圧曲線および温度曲線を示すグラフである。
図6B】本発明の熱暴走抑制を備えたリチウム電池セルの電圧曲線および温度曲線を示すグラフである。
図7A】100%SOC(充電状態)のカソードに純水を滴下した結果の画像である。
図7B】100%SOCのカソードにNaOH(aq)を滴下した結果の画像である。
図7C】100%SOCのカソードにNaAl(OH(aq)を滴下した結果の画像である。
図8A】100%SOC(充電状態)のアノードに純水を滴下した結果の画像である。
図8B】100%SOCのアノードにNaOH(aq)を滴下した結果の画像である。
図8C】100%SOCのアノードにNaAl(OH(aq)を滴下した結果の画像である。
図8D】泡をジグで固定した図13Cの画像である。
図9A】約1時間にわたって30%水酸化ナトリウムを滴下した40%SOCのカソードのSEMダイアグラムである。
図9B】約1時間にわたって30%水酸化ナトリウムを滴下した100%SOCのカソードのSEMダイアグラムである。
図10A】約1時間にわたって30%水酸化ナトリウムを滴下した40%SOCのアノードのSEMダイアグラムである。
図10B】約1時間にわたって30%水酸化ナトリウムを滴下した100%SOCのアノードのSEMダイアグラムである。
図11A】20%NaAl(OH(aq)を用いたカソードの、示差走査熱量計のサーモグラムである。
図11B】20%NaAl(OH(aq)を用いたアノードの、示差走査熱量計のサーモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を、特定の実施形態に関して、特定の図面を参照して説明していくが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。特許請求の範囲におけるいかなる参照符号も、範囲を限定するものと解釈してはならない。説明する図面は概略的なものに過ぎず、非限定的である。図面では、いくつかの要素のサイズは説明のために誇張され、縮尺通りに描かれていない場合がある。
【0016】
本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、全体的な発明概念を限定することは意図していない。本明細書で使用する単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかに他を意味しない限り、複数形も含むことを意図している。特に定義していない限り、本明細書で使用するすべての用語(技術用語および科学用語を含む)は、例示の実施形態が属する技術分野の通常の技術者によって一般的に理解されているのと同じ意味を持つ。さらに、一般的に使用されている辞書で定義されているような用語は、関連する技術の文脈における意味と一致する意味を持つと解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義していない限り、理想化され、または過度に形式的な意味で解釈されるべきでないことが理解されよう。
【0017】
本明細書全体にわたる「1つの実施形態」または「一実施形態」への言及は、実施形態に関連して説明する特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書のさまざまな場所に見られる「1つの実施形態で」または「一実施形態で」という句は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指しているわけではないが、そうであってもよい。さらに、特定の特徴、構造、または特性は、1つまたは複数の実施形態で、本開示から当業者に明らかになるような任意の適切な方法で組み合わせてもよい。
【0018】
本発明は、不動態化組成物供給体および極性溶液供給体を含む熱暴走抑制素子に関する。不動態化組成物供給体は、金属イオン(A)およびアルミニウムエッチングイオン(B)を放出できる。極性溶液供給体は、金属イオン(A)と、リチウム電池のアルミニウム集電体をエッチングするアルミニウムエッチングイオン(B)とをリチウム電池のアルミニウム集電体に運ぶ極性溶液を放出する。アルミニウム集電体、すなわち正極集電体がアルミニウムエッチングイオン(B)によってエッチングされた後、金属イオン(A)、残りのアルミニウムエッチングイオン(B)、およびエッチング時に発生したアルミニウムイオンはリチウム電池の電気化学反応系に入り込む。リチウムイオンが脱離した正極活物質およびリチウムイオンが挿入された負極活物質が反応し、低いエネルギー状態に移行する。そのため、電気化学反応経路が遮断され、熱暴走の発生が防止される。
【0019】
金属イオン(A)は、非リチウムアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、またはこれらの組み合わせから選択される。金属イオン(A)が非リチウムアルカリ金属イオンから選択される場合、好ましくはナトリウムイオン、カリウムイオン、またはこれらの組み合わせから選択される。金属イオン(A)がアルカリ土類金属イオンから選択される場合、好ましくはベリリウムイオン、マグネシウムイオン、またはカルシウムイオンから選択される。アルミニウムエッチングイオン(B)は、水酸化物イオンなどのアルカリ性物質、または硝酸イオンなどの酸性物質から選択される。また、不動態化組成物供給体はさらに両性金属イオン(C)を含んでよく、好ましくはアルミニウムイオンまたは亜鉛イオンから選択される。不動態化組成物供給体は溶液または無水粉末である。前述の「運ぶ」は、極性溶液が金属イオン(A)およびアルミニウムエッチングイオン(B)の透過媒体として作用することを意味する。
【0020】
正極活物質では、金属イオン(A)が、リチウムイオンが脱離した正極活物質およびその堆積物から電子を得たのち、さらに移動して正極のリチウムイオン脱離部分を占有、すなわちインターカレーションする。リチウムイオンが脱離した正極活物質は、電位もエネルギーも高い本来の状態から、電位もエネルギーも低い反応物状態、すなわち金属酸化物の結晶状態に移行する。さらに、構造が不安定で、リチウム原子が失われた正極活物質本来の状態であるため、酸素種(O、O 、O)が放出されやすい。電子を有する金属イオン(A)によって形成される金属原子、例えばナトリウム原子は、熱エネルギーによって駆動され、正極のリチウムイオン脱離部分に入り、すなわちインターカレーションし、格子を再配置して新たな安定状態を形成し、同時に熱エネルギーを消費する。
さらに、電子を有する金属イオン(A)が正極物質に入り込むと、金属イオン(A)の特性が誘導される。例えば、ナトリウムが正極物質に入り込んだ場合、この新たな安定状態の構造は、ナトリウムを含むため、水分吸着量の増加といったナトリウムの特性の一部を示す。それにより電極の絶縁性が高まり、動作が低下する。負極活物質では、金属イオン(A)、エッチング時に発生したアルミニウムイオン、およびさらに添加された両性金属イオン(C)が、リチウムイオンが挿入された負極活物質と反応する。リチウムイオンが挿入された負極活物質は、電位が低くエネルギーが高い本来の状態から、電位が高くエネルギーが低い無機ポリマー状態に移行する。したがって本発明は、追加的な金属イオン(A)、アルミニウムイオン、またはさらに添加された両性金属イオン(C)を適用し、電気化学反応経路を遮断して電池の熱暴走を効果的に防ぐことにより、正極活物質と負極活物質の電位差、および電池全体の電圧の低下を実現できる。
【0021】
さらに、正極活物質が、電位もエネルギーも高い状態から、電位もエネルギーも低い結晶状態に移行する前述の状況について、以下に詳細に説明する。
正極活物質はリチウムイオンが脱離した状態にあり、電位が高くなっている。また、結晶格子は不安定であるため、崩壊しやすく、酸素を放出し、熱エネルギーを激しく放出する能力が高い。したがって、上記において、正極活物質は電位もエネルギーも高い状態にあると定義される。電子を有する金属イオン(A)が、リチウムイオンが脱離した位置に入り、すなわちインターカレーションすると、正極活物質の電位が低下し、正極活物質の結晶格子が比較的安定する。また、正極活物質の結晶格子の安定性が高まり、酸素を放出する能力が低下し、熱エネルギーを激しく放出する能力が低下する。したがって、上記において、正極活物質は、金属イオン(A)との反応後に不動態化状態にあり、電位もエネルギーも低い結晶状態と定義される。
【0022】
負極活物質が、電位が低くエネルギーが高い状態から、電位が高くエネルギーが低い状態に移行する前述の状況について、以下に詳細に説明する。
負極活物質はリチウムイオンが挿入された状態にあり、電位が低くなっている。また、負極活物質は正極活物質から放出された酸素を受け取るため、激しく燃焼して熱エネルギーを放出しやすい。そのため、負極活物質は不安定であり、熱エネルギーを放出する能力が高い。したがって、上記において、負極活物質は電位が低くエネルギーが高い状態にあると定義される。金属イオン(A)、アルミニウムイオン、またはさらに追加された両性金属イオン(C)が、リチウムイオンが挿入された負極活物質と作用すると、リチウムイオンが捕捉され、ケイ素-炭素といった負極活物質の基材を有するポリマー化合物を形成する。正極活物質の酸素を放出する能力が低下するのと同様に、負極活物質の熱エネルギーを激しく放出する能力も低下する。したがって、上記において、負極活物質は、金属イオン(A)、アルミニウムイオン、またはさらに追加された両性金属イオン(C)との反応後に不動態化状態にあり、電位が高くエネルギーが低いポリマー化合物状態であると定義される。この状態では、負極活物質は、環境に優しいセメントであるジオポリマーに変化する。
【0023】
本実施形態では、不動態化組成物供給体は少なくとも1つの化合物を含み、この化合物は、解離、および金属イオン(A)とアルミニウムエッチングイオン(B)、例えばNaOH、KOH、NaNO、KNOなどの放出が可能である。両性金属イオン(C)を供給できる化合物は、AlCl、AlBr、AlI、Al(NO、AlClO、AlF、AlH、Zn(OH)などであってよい。また、不動態化組成物供給体は、金属イオン(A)、アルミニウムエッチングイオン(B)、および両性金属イオン(C)を供給できる化合物で、例えばNaAl(OH)などであってよい。ただし、これらは例示にすぎず、本発明で使用する化合物の種類や量の限定を意図するものではない。
さらに、不動態化組成物供給体は無水状態または溶液状態であってよい。溶液状態では、例えば、濃度が80~50%と高く、エッチング能力が低く、安定性が高い。したがって、貫通孔を形成するために、極性溶液で濃度を調節してアルミニウム集電体に対するエッチング能力を発揮させる必要がある。不動態化組成物供給体が無水状態であれば、極性溶液は不動態化組成物供給体を解離し、金属イオン(A)およびアルミニウムエッチングイオン(B)、あるいは両性金属イオン(C)を放出できる。さらに、アルミニウムに対するエッチング能力を発揮させるために、水酸化物イオンなどのアルミニウムエッチングイオン(B)の濃度を、極性溶液で、例えば30~20%に調節する。
【0024】
極性溶液供給体は、吸熱分解して水または純水を放出する水放出性化合物である。極性溶液を用いて、不動態化組成物供給体を解離させ、金属イオン(A)およびアルミニウムエッチングイオン(B)、あるいは両性金属イオン(C)を放出し、さらにアルミニウムエッチングイオン(B)の濃度を調節して、アルミニウムに対するエッチング能力を発揮させる。また、極性溶液の流動性により、エッチング時に発生した金属イオン(A)、アルミニウムエッチングイオン(B)、およびアルミニウムイオンは極性溶液によって運ばれ、リチウム電池の電気化学反応系に入り込む。
【0025】
本発明の熱暴走抑制素子は、不動態化組成物供給体と極性溶液供給体の間でさまざまな物質が直接接触することによって不安定になるのを防ぐ隔離機構をさらに含んでよい。隔離機構は、無孔の保護層もしくはカプセル、または有孔ポリマーフィルムであってよく、さらに以下の膜形成剤を含んでよい。
【0026】
無孔の保護層またはカプセルの場合、保護層を例にとると、保護層は、感熱分解物質、または極性溶液に溶解する溶解性物質で構成されている。感熱分解物質が分解する温度は70~130℃である。保護層とカプセルはいずれも、不動態化組成物供給体と極性溶液供給体を隔てるために用いられるが、用途が異なる。保護層は、単層または多層の膜状物質の外面を保護層で覆うことによって膜状物質を隔離するのに用いる。
カプセルは、粉末状または液状の物質をカプセルに分け入れて隔離し、この2種類の物質が直接接触しないようにするために用いる。貫通孔を有するポリマーフィルムは、非流動状態の物質を覆うのに用いる。極性溶液供給体が極性溶液を放出すると、極性溶液は透過経路である貫通孔を経由して不動態化組成物供給体と接触する。ポリマーフィルムの材料は、以下に説明するように、膜形成剤であってよい。
【0027】
吸熱分解して水を放出する上述の水放出性化合物は、Al(OH)、Al(OH)・HO、Mg(OH)、NHPO、NaHCO、CHCOONa・3HO、ZnOBO、Na・10HO、無水CaCl、CaCl・HO、CaCl・2HO、CaCl・4HO、MgCl・6HO、KAl(SO・12HO、Zn(OH)、Ba(OH)・8HO、LiOH、またはこれらの組み合わせから選択してよい。
【0028】
感熱分解物質は、パラフィン油、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、低密度PE(ポリエチレン)、ポリ(トランス-1,4-ブタジエン)、ポリ(テトラメチレンオキシド)、アイソタクチックポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンアジペート)、アイソタクチックポリ(1-ブテン)、ポリ(エチレン)から選択される。また、感熱分解物質は軟化点を下げるために鉱油と混合する。
【0029】
本発明では、熱暴走抑制素子の保護層は、感熱分解物質、または吸熱分解される水放出性物質で構成されている。したがって、電池自体の熱エネルギーは、熱暴走抑制素子に金属イオン(A)とアルミニウムエッチングイオン(B)を放出させ、アルミニウム集電体をエッチングする能力を誘発するのに利用される。例えば、極性溶液供給体が水放出性物質から選択される場合、不動態化組成物供給体を被包するのに用いられる保護層の材料は、水に溶解しやすい材料から選択される。したがって、吸熱分解される水放出性物質が熱誘因として機能する。極性溶液供給体の材料が純水の場合、水に溶解しない感熱分解物質を用いて水を被包する。したがって、感熱分解物質が熱誘因として機能する。極性溶液の揮発温度を高めるために、グリセリンまたはDMSO(ジメチルスルホキシド)などの高沸点の親水性物質を極性溶液供給体に添加してよい。
【0030】
さらに、不動態化組成物供給体および/または極性溶液供給体は、膜状の熱暴走抑制素子を形成するために、さらに膜形成剤と混合してよい。例えば、図1Aに示すように、不動態化組成物供給体12および極性溶液供給体14を、溶媒を必要とする膜形成剤16と混合し、混合、被覆、乾燥、プレス工程により膜10を形成する。他の例では、溶媒を必要としない膜形成剤16を用いて、不動態化組成物供給体12および極性溶液供給体14と混合し、熱プレス工程により膜10を形成する。したがって、溶媒を除去する乾燥工程は不要である。溶媒を必要としない膜形成剤16は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であってよい。一方、溶媒を必要とする膜形成剤16は、好ましくは、約80℃で溶媒を除去する材料、例えば、溶媒としてアセトンを用いるポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)、溶媒としてブタノンを用いるポリウレタン(PU)、または溶媒として水を用いるスチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシルメチルセルロース(CMC)もしくはポリアクリル酸(PAA)から選択される。
異なる材料の不動態化組成物供給体12と極性溶液供給体14を混合する場合、不動態化組成物供給体12および極性溶液供給体14の表面のいずれか一方に、これと接触する上述の隔離機構を形成する必要がある。例えば、図1Bに示すように、不動態化組成物供給体12および極性溶液供給体14は、カプセル26で被包することで、不動態化組成物供給体12と極性溶液供給体14を隔てている。カプセル26の粒径は、好ましくは1~100ミクロンである。また、供給体12、14を被包するカプセル26の材料を用いる工程は、物理的または化学的工程であってよい。物理的工程は、例えば、温度変化または溶媒揮発に基づく固液相変化であってよい。化学的工程は、小さなモノマーの重合であってよい。極性溶液供給体14が水放出性化合物から選択され、かつ不動態化組成物供給体12が無水状態である場合、図1Cに示すように、貫通孔25を有する水不溶性ポリマーフィルム23を用いて不動態化組成物供給体12を覆い、不動態化組成物供給体12と極性溶液供給体14が接触する可能性を減らす。極性溶液供給体14が、温度の上昇に誘発されて水を放出すると、水は貫通孔25を経由して不動態化組成物供給体12と反応し、液体を形成する。その後、液体は貫通孔25から流出し、アルミニウム集電体のエッチングなどの事後反応が起こる。
【0031】
さらに、基質を利用して、膜を形成する要件を満たしてもよい。膜形成剤は必須ではない。例えば、図2に示すように、熱暴走抑制素子10の極性溶液供給体14は構造支持材22に付着して膜を形成する。不動態化組成物供給体12は膜形成剤16と混合され、膜17を形成する。不動態化組成物供給体12と極性溶液供給体14が直接接触して不安定になるのを防ぐために、構造支持材22の外面を保護層18で覆う。構造支持材22は、ポリマー、例えば、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ウレタンポリマー、グアーガム、アルギン酸ナトリウム塩、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリエチレンオキシド(PEO)、およびポリビニルピロリドン(PVP)で作られていてよい。構造支持材22が不織布などの繊維である場合、材料はポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)など、またはグラスファイバーであってよい。また構造支持材22は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびポリカーボネート(PC)で構成されていてもよい。さらに、構造支持材22が、アルギン酸ナトリウムおよびポリアクリル酸ナトリウムなど、溶液を吸収できるゲル状態である材料から選択される場合、溶液状態である化合物を直接吸収できる。構造支持材22が、ゲル状態である材料から選択される場合、不織繊維など、有孔の他の構造支持材も混合してよい。
カプセル26の材料は、含有される化合物によって決定する。例えば、カプセル26の材料が水に溶解しやすく、純水を含有するのに使用できない場合、材料は、ゼラチン、アラビアゴム、キトサン、カゼイン酸ナトリウム、デンプン、ラクトース、マルトデキストリン、ポリ-L-リシン/アルギネート、ポリエチレンイミン/アルギネート、アルギン酸カルシウム、ポリビニルアルコールから選択される。カプセル26の材料が水に溶解しにくい場合、材料は、エチルセルロース、ポリエチレン、ポリメタクリル酸、硝酸セルロース、シリコーン、パラフィン、カルナウバワックス、ステアリン酸、脂肪アルコール、ステアリルアルコール、脂肪酸、炭化水素樹脂、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、およびトリアシルグリセロールから選択される。
【0032】
例えば、極性溶液供給体14が純水を放出する場合、純水を含有するのに使用されるカプセル26の材料は、水に溶解しにくい感熱分解物質から選択される。不動態化組成物供給体12は、カプセルで被包されていなくてもよく、または水に溶解しやすい材料から作られたカプセル26で被包されていてもよい。
【0033】
不動態化組成物供給体12および極性溶液供給体14のための上述の保護または膜形成方法は、互いに組み合わせることができ、またその図面または説明のみに限定されない。例えば、不動態化組成物供給体12が、2つの化合物121、122で構成されている場合、化合物121はカプセル26で被包され、混合、被覆、乾燥、プレス工程によって極性溶液供給体14および膜形成剤16と混合され、第1の膜28を形成する。化合物122はカプセル26で被包され、混合、被覆、乾燥、プレス工程によって膜形成剤16と混合され、第2の膜29を形成する。図3Aに示すように、第2の膜29が第1の膜28の表面に付着し、層構造を形成している。
【0034】
さらに、図3B、3Cは熱暴走抑制素子10の別の実施形態である。図3Bに示す化合物122は溶液状であり、保護層18で被包された構造支持材22に付着している。化合物121の1つは、極性溶液供給体14および膜形成剤16と混合され、カプセル26で被包され、膜を形成する。図3Cに示す2つの化合物121、122は極性溶液供給体14および膜形成剤16と混合され、カプセル26で被包され、それぞれ膜を形成する。当業者は、保護または膜形成方法を変更または組み合わせることができる。そのような変形は、本発明の精神および範囲からの逸脱と見なされるべきではない。
【0035】
図4Aおよび4Bには、本発明の熱暴走抑制素子を有する電池構造を示す。このような構造では、熱暴走抑制素子はリチウム電池の外部に配置されているため、電気化学反応系の動作に影響を及ぼさない。図4Aでは、熱暴走抑制素子10はリチウム電池30の正極集電体301の外面に配置されている。正極集電体301はアルミニウム集電体である。リチウム電池30は、正極集電層301、負極集電層302、接着剤フレーム303、電気化学反応系を含む。接着剤フレーム303は正極集電層301と負極集電層302の間に挟まれている。接着剤フレーム303の一端は正極集電層301に付着し、接着剤フレーム303のもう一端は負極集電層302に付着している。
正極集電層301、負極集電層302、および接着剤フレーム303は閉鎖空間を形成する。閉鎖空間に配置されている電気化学反応系は、正極集電層301に隣接する正極活物質層304と、負極集電層302に隣接する負極活物質層305とを含む。セパレーター306は正極活物質層304と負極活物質層305の間に位置し、イオン伝導特性および電気絶縁性を有する。電解質系は閉鎖空間内に位置し、正極活物質層304、負極活物質層305、およびセパレーター306に含浸または混合され、イオン移動に用いられる。また、正極活物質層304および負極活物質層305は導電性材料および接着材料をさらに含んでよい。これらの構成物は、本発明の技術的特徴ではないため、本明細書では詳細な説明を省略する。
【0036】
さらに、セパレーター306の材料は、固体電解質、またはセラミック粉末で表面を被覆したポリマー材料で形成された有孔電気絶縁層で構成されている。またセパレーター306は、接着剤を使用してセラミック粉末のみを積重して形成してもよい。セラミック粉末はイオン伝導性を有していてもいなくてもよい。
【0037】
正極集電層301、負極集電層302、および接着剤フレーム303は、電池30の包装部材として使用される。電池30の電気化学反応系はこの包装部材によって保護され、外部環境から隔離される。接着剤フレーム303は、正極集電層301および負極集電層302の表面に接着でき、電解質系に耐性があるポリマー材料で作られている。しかしながら、熱硬化性樹脂、例えばシリコーンが好ましい。負極活物質は、炭素材料、ケイ素系材料、またはこれらの混合物であってよい。炭素材料の例に、黒鉛化炭素材料および無定形炭素材料、例えば天然黒鉛、改質黒鉛、黒鉛化メソフェーズ炭素粒子、コークスなどの軟質炭素、および一部の硬質炭素がある。ケイ素系材料には、ケイ素、酸化ケイ素、ケイ素-炭素複合材料、およびケイ素合金などがある。
【0038】
本発明の熱暴走抑制素子10は、リチウム電池30の正極集電体301の外面に配置されている。熱暴走抑制素子10は、所定の温度、例えば70~130℃に達すると、金属イオン(A)、アルミニウムエッチングイオン(B)、および極性溶液を放出する。正極集電体301がエッチングされ、アルミニウムイオンがエッチング時に交換されて、リチウム電池30に入り込み、リチウムイオンが脱離した正極活物質およびリチウムイオンが挿入された負極活物質と反応する。
【0039】
図4Bは、電池に適用される本発明の熱暴走抑制素子の別の実施形態を示す。本実施形態では、熱暴走抑制素子10は2つの積重されたリチウム電池30の間に配置できる。2つの積重されたリチウム電池30が並列に接続される場合、これらはタブを利用して接続される。
また、図4Cに示す、本発明による熱暴走抑制素子10は、熱暴走抑制素子10でエッチング可能な材料で作られたU字形金属板32、すなわち金網をさらに含む。U字形金属板32は、2本の平行アーム321、およびこれに接続したクロスメンバー322を含み、2本の平行アーム321およびクロスメンバー322は、熱暴走抑制素子10を含む空間323を形成する。平行アーム321のうち1本は、リチウム電池30の正極集電体301上に配置され、平行アーム321のもう1本は、もう1つのリチウム電池30の負極集電体302上に配置されている。したがって、2つのリチウム電池30は電気的に接続されている。
あるいは図4Dに示す、本発明による熱暴走抑制素子10は、貫通孔331を有する金網フレーム33をさらに含む。貫通孔331には不動態化組成物供給体および極性溶液供給体が充填されている。金網フレーム33は構造支持用の容器として、また電気接続のために用いられる。上述の実施形態では、熱暴走抑制素子10は、並列または直列に接続されている2つの積重されたリチウム電池30の間に位置する。
【0040】
図4Eに示す、エッチング方向の制限層34は、熱暴走抑制素子10の側壁を取り囲んで配置されている。制限層34は、保護層18およびカプセル26よりも外部環境変化の影響を受けにくい。制限層34の2つの端面は、電池30の集電体301、302に隣接、または配置されている。上述の外部環境変化は、温度、pH、または電解質濃度の変化である。例えば、外部環境変化が温度である場合、このような構造では、制限層34と比較して、カプセル26または保護層18は、温度変化によって最初に破壊される。そのため、その中に含まれる不動態化組成物供給体12および極性溶液供給体14が放出される。また、周囲の制限層34が損傷していないため、放出されたイオンまたは極性溶液は、制限層34に囲まれた領域内に制限される。エッチング方向は集電体301に限定される。上述の制限層34はシリコーン製であってよい。
【0041】
図4Fに示す実施形態では、正極集電体301の開放側面に、開口部を備える複数の溝36がある。溝36には熱暴走抑制素子10が充填されている。そのため、溝36の側壁を用いて、熱暴走抑制素子10のエッチング方向を限定できる。あるいは図4Gに示すように、正極集電体301上に複数の隆起38を設ける。隆起38は、熱暴走抑制素子10に対して不活性である金属、ガラス、またはポリマー製である。正極集電体301の隆起38および隆起38から露出した部分が、熱暴走抑制素子10を収容する溝36を形成する。あるいは、正極集電体301の開放側面は、それを貫通しない複数の補助スロット37を含む。補助スロット37は、図4Hに示すように、エッチングを促進するのに用いられる。
【0042】
次に、本発明の熱暴走抑制素子の影響が、リチウムイオンが脱離した正極活物質およびリチウムイオンが挿入された負極活物質に作用していることを見ていく。この実験では、正極活物質はNMC811、負極活物質はケイ素-炭素である。
【0043】
図5Aには、各濃度の溶液、30%NaOH、30%NaAl(OH)、30%NaCl、10%LiOH、および30%KOHと、リチウムイオンが脱離した正極活物質との反応におけるXRD回折パターンを示す。図面から、リチウムイオンが脱離したNMC811がナトリウムイオンと反応した後にはNMC811の特性ピーク(矢印で示した箇所)が存在せず、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンの挿入により格子構造が変化したことがわかる。これは、リチウムイオンと比べてサイズが大きく、重量が重く、位置エネルギーが高いナトリウム/カリウムイオンが、正極活物質の表面で電子を得てナトリウム/カリウム原子を形成するためと考えられる。また、発生した熱エネルギーの駆動によって、これらはリチウムイオンが脱離した状態でのインターカレーションに移行し、安定性が高く電気化学的な位置エネルギーが低い構造を形成する。
【0044】
図5Bには、リチウムイオンが挿入された負極活物質とナトリウム/カリウムイオンおよびアルミニウムイオンとの反応前後のXRD回折パターンを示す。Li-Si合金を表す特性ピークが完全に消失していることがはっきりとわかる。これは、Li-Si合金が、エネルギーが低いポリマー化合物になったことを意味する。ナトリウム/カリウムイオンおよびアルミニウムイオンが、ケイ素-炭素と一緒に無機ポリマー、すなわちジオポリマーを形成していると推測できる。
ポリマーの構造はM[-(SiO-AlO・wHOであり、このとき、zはSi/Al原子のモル比、Z=1,2,3または3より大きく、Mはカリウムイオン(K)またはナトリウムイオン(Na)などのカチオンであり、nは重合度であり、wは結晶水のモル量である。この無機化合物はゼオライトと同様の閉じた枠構造であるため、リチウムイオンが挿入された負極活物質を、電位が高くエネルギーが低い状態に移行させることができる。
【0045】
図6Aと6Bを見ていく。図6Aは、従来のリチウム電池セルの熱暴走試験での電圧曲線および温度曲線を示す。図6Bは、本発明による熱暴走を抑制するリチウム電池セルの電圧曲線および温度曲線を示す。図面に示すように、熱暴走が起こって発熱すると、従来のリチウム電池セルでは、温度が約500℃に達してから電圧が低下し始める。しかしながら、本発明の熱暴走抑制を備えたリチウム電池セルでは、電気化学反応経路を遮断することによって、温度が約100℃に達すると電圧が低下し始め、熱暴走を効果的に防ぐ。
【0046】
図7A~7Cは、純水、NaOH(aq)、およびNaAl(OH(aq)から選択されるさまざまな溶液を、それぞれ100%SOC(充電状態)のカソードに滴下した結果の画像である。図7Aでは、カソードは純水と反応しないことがわかる。図7Bおよび7Cでは、NaOH(aq)およびNaAl(OH(aq)が、カソードの表面で疎水性状態の小滴を形成し、この小滴中に複数の小さな泡が生じていることがわかる。
【0047】
図8A~8Cは、純水、NaOH(aq)、およびNaAl(OH(aq)から選択されるさまざまな溶液を、それぞれ100%SOC(充電状態)のアノードに滴下した結果の画像である。図8Aでは、アノードに残ったリチウムが純水に激しく反応し、アノードに亀裂が生じていることがわかる。図8Bおよび8Cでは、NaOH(aq)およびNaAl(OH(aq)が、アノードの表面に気泡のような泡を含む無機ポリマーを形成していることがわかる。また、図8Dに示すように、無機ポリマーの一部はジグで固定できる。
【0048】
図9Aおよび9Bは、それぞれ約1時間にわたって30%水酸化ナトリウムを滴下し、DMC(炭酸ジメチル)および純水を用いて表面を洗浄した後、60℃で8時間乾燥させた40%SOCおよび100%SOCのカソードのSEMダイアグラムである。図面に示すように、40%SOCのカソードでは、リチウムイオンの脱離が少ないため、カソードである正極のリチウムイオン脱離部分にナトリウムイオンが挿入される状況は顕著ではない。ただし、カソードの表面形状の起伏が大きくなっている。100%SOCのカソードでは、リチウムイオンの脱離が多いため、カソードである正極のリチウムイオン脱離部分にナトリウムイオンが挿入される状況が極めて顕著である。100%SOCのカソードでは、格子の再配置および表面形状の起伏も極めて大きい。また、表面の一部に亀裂が入っていることも確認できる。
【0049】
図10Aおよび10Bは、それぞれ約1時間にわたって30%水酸化ナトリウムを滴下し、DMCおよび純水を用いて表面を洗浄した後、60℃で8時間乾燥させた40%SOCおよび100%SOCのアノードのSEMダイアグラムである。図面に示すように、水酸化ナトリウムによって、40%SOCのアノードの一部が無機ポリマー(ジオポリマー)を形成し、コロイダルシリカ酸の針状構造も見られる。100%SOCのカソードでは、その針状構造がよりはっきりしている。
【0050】
さらに、上述のカソードおよびアノードの低エネルギーを検証するために、図11Aおよび11Bに、20%NaAl(OH(aq)を用いたカソードおよびアノードでの、示差走査熱量計のサーモグラムを示す。図11Aから、約210℃でカソードの熱流のピークが明らかに消失していること、および図11Bから、約180℃でアノードの熱流のピークが明らかに消失していることがはっきりわかる。
【0051】
したがって、熱暴走抑制素子は、リチウムイオンが脱離した正極活物質を、電位もエネルギーも高い本来の状態から、電位もエネルギーも低い金属酸化物の結晶状態に移行させ、かつリチウムイオンが挿入された負極活物質を、電位が低くエネルギーが高い本来の状態から、電位が高くエネルギーが低い無機ポリマー状態に移行させることができる。それにより、電池全体の電圧が低下し、電気化学反応経路が遮断される。
【0052】
本発明は、リチウム電池および関連応用の熱暴走抑制素子を提供する。リチウム電池の温度が所定の温度、例えば70~130℃に達すると、アルミニウム集電体がアルミニウムエッチングイオンによってエッチングされ、電気化学反応系の内部に入る経路となる。金属イオン(A)、およびエッチング時に発生したアルミニウムイオンは、この経路を通って電気化学反応系に入り込み、リチウムイオンが脱離した正極活物質およびリチウムイオンが挿入された負極活物質と反応して、エネルギーが低い状態をもたらす。電池全体の電圧が低下し、電気化学反応経路が遮断され、熱暴走の発生が防止される。
その上、従来技術と比較して、本発明の熱暴走抑制方法は、熱暴走を引き起こす最大エネルギーを発生する、電気化学反応全体の主な反応体である活物質に対して直接行われる。また、金属イオン(A)は、獲得した熱エネルギーによって駆動され、正極のリチウムイオン脱離部分に入り、すなわちインターカレーションし、格子を再配置して新たな安定状態を形成すると同時に、熱エネルギーを消費する。
また、構造の不安定さに起因する酸素の放出、およびそこから生じる制御不能な連鎖反応が抑制される。リチウムイオンが挿入された負極活物質は、非リチウムアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、またはこれらの組み合わせなどの金属イオン(A)およびアルミニウムイオンと作用し、エネルギーが低いポリマー化合物を形成する。そのため、正極活物質と負極活物質はともにエネルギーが低いままとなり、リチウム電池の安全性が向上し、リチウム電池の熱暴走を効果的かつ迅速に停止できる。
さらに、熱暴走抑制素子はリチウム電池の外部に配置されているため、リチウム電池の電気化学反応系の効率や構成に影響を与えない。
【0053】
以上の説明から、本発明が多くの方法で変化させられることは明らかであろう。このような変形は、本発明の精神および範囲から逸脱するものとはみなされず、当業者には明らかであろうこのような変更は、すべて以下の請求項の範囲に含まれることが意図される。
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
【外国語明細書】