(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022027572
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】感温材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 9/02 20060101AFI20220203BHJP
C08J 3/12 20060101ALI20220203BHJP
C08J 3/205 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C09K9/02 C
C08J3/12 CEP
C08J3/205 CEY
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122573
(22)【出願日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2020128082
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078950
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 忠
(72)【発明者】
【氏名】村上 賢治
(72)【発明者】
【氏名】中村 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】一ノ関 留奈
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友祐
【テーマコード(参考)】
4F070
【Fターム(参考)】
4F070AA01
4F070AA36
4F070AC12
4F070AC45
4F070AC50
4F070AC66
4F070AE04
4F070AE22
4F070AE28
4F070DA33
4F070DA37
4F070FA05
4F070FA17
4F070FB06
(57)【要約】
【課題】 本発明は、漏出逸脱を防止し、細かな温度変化に伴う様々なリスクを管理する比較的簡易で安価に製造できる感温材を提供する。
【解決手段】 感温材4は、溶液中にあって臨界溶液温度で相転移する温度応答性高分子ポリマーであるPoly(NIPAM-co-AAC)と、この溶液をゲル状に維持するゲル化剤と、pHに応じて変色する指示薬とを具備させる。臨界溶液温度において相転移するPoly(NIPAM-co-AAC)が所定範囲の温度変化に応じて水素イオンを放出しまたは取り込むことにより、pHを変えて感温材は変色する。感温材4は、隙間をおいて重なり合う透明の一対のガラス板2と、これらの間に介入して収容空間を形成するスペーサ3とを備えた収容枠体に充填する。収容枠体のガラス板2を通して変色により温度変化を視認可能にする。感温材4はゲル状をなし、収容枠体から漏出逸脱を防止し、シール強度を低減して、感温性表示部材の製造が容易になる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒内に、温度応答性高分子ポリマーと、前記溶媒をゲル状に保持するゲル化剤と、前記溶媒をpHに応じて変色させる指示薬とを含有し、
前記溶媒の温度に応じて、温度応答性高分子ポリマーが水素イオンを放出しまたは取り込むことによるpHの変化に伴う変色により温度を識別することを特徴とする感温材。
【請求項2】
前記温度応答性高分子ポリマーが、N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)とアクリル酸(AAC)とを共重合させたPoly(NIPAM-co-AAC)であることを特徴とする請求項1に記載の感温材。
【請求項3】
前記ゲル化剤が糖類であることを特徴とする請求項2に記載の感温材。
【請求項4】
蒸留水10[mL]当たり、前記Poly(NIPAM-co-AAC)を0.05[g]と、前記指示薬を所要量と、前記ゲル化剤を0.1[g]とを混合し、加熱溶解後ゲル状化させることを特徴とする請求項2または3に記載の感温材の製造方法。
【請求項5】
蒸留水50mL当たり、NIPAMとAACを混合した濃度150~270[mmol/L]の溶液に、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を45[mg]添加し、pH調整剤でpH2~4に調整してから、窒素によるバブリング処理を施した後、過硫酸アンモニウム(APS)70[mg/mL]を1[mL]加えて、窒素雰囲気下40℃で重合処理を行い、透析後凍結乾燥して前記Poly(NIPAM-co-AAC)を製造することを特徴とする請求項4に記載の感温材の製造方法。
【請求項6】
前記温度応答性高分子ポリマーが、Poly(NIPAM-co-AAC)と、ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミドのいずれか一つとを共重合したPoly(NIPAM-XXX-AAC)であることを特徴とする請求項1に記載の感温材。
【請求項7】
蒸留水10[mL]当たり、前記Poly(NIPAM-XXX-AAC)を0.05~0.1[g]と、前記指示薬を所要量と、前記ゲル化剤を0.1~0.2[g]とを混合し、加熱溶解後ゲル状化させることを特徴とする請求項6に記載の感温材の製造方法。
【請求項8】
蒸留水50[mL]当たり、NIPAMを95-x[mol%]、ジメチルアクリルアミド(DMA)をx[mol%]、AACを5[mol%]を混合した濃度234[mmol/L]の溶液に、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を45[mg]添加し、pH調整剤で約pH4に調整してから、窒素によるバブリング処理を施した後、過硫酸アンモニウム(APS)70[mg/mL]を1[mL]加えて、窒素雰囲気下45℃で重合処理を行い、透析後凍結乾燥して前記Poly(NIPAM-XXX-AAC)を製造することを特徴とする請求項7に記載の感温材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の温度の前後において、分散又は凝集する特性を有する温度応答性高分子重合体を用いて、外部の温度変化によって変色可能な感温材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1ないし4に記載の遮光材が感温材の例として開示されている。これらの遮光材は、N-イソプロピルアクリルアミド(以下NIPAMという)の重合体が特定の温度(下限臨界溶液温度(以下LCSTという))の前後において、水中で親水性により膨張して透明に、また疎水性により収縮して不透明になる性質を利用して、これを水溶液等の溶媒と共に透明のガラスや合成樹脂製の板材又はシートの間に密封する。これらの遮光材は建物や温室への日射しを調整する窓ガラス板材等の多分野への応用が提案されている。
また、特許文献5ないし7にコレステリック液晶を組み込んだ温度変化に伴い変色する示温材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭61-7948号公報
【特許文献2】特開平6-330681号公報
【特許文献3】特開平10-316453号公報
【特許文献4】特開2007-211153号公報
【特許文献5】実全昭60-031636号公報
【特許文献6】実用新案登録第3189952号公報
【特許文献7】特開2017-125741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の遮光材において温度応答性高分子の溶液を用いると、温度応答性高分子ポリマー及び溶媒を封入する容器からの漏出を防止するために、高い強度や気密なシール手段を必要とし、製造が容易でなく、高価になってしまうし、比較的頻繁な保守点検を必要とする。
また、NIPAMのLCST前後の透明と不透明の変化により二つの温度域を区別するのみであるため、細かな温度変化を表すことができない。
コレステリック液晶は呈色温度域が狭く、これを克服するために、マイクロカプセル化し、表示温度ごとに異なる複数の識別位置を設けるが、制作が容易でなく、高価にならざるを得ない。また、表示温度が散逸的で精度を高めることが困難である。
そこで本発明は、流動性を阻害し、漏出逸脱を防止し、比較的細かな温度変化を精度高く目視確認でき、また識別温度域を変更して応用範囲を拡大でき、温度変化に伴う様々なリスクを管理する比較的簡易で安価に製造できる感温材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の感温材は、溶媒内に臨界溶液温度で相転移する温度応答性高分子ポリマーであるPoly(NIPAM-co-AAC)と、この溶液をゲル状に維持するゲル化剤と、pHに応じて変色する指示薬とを具備する。Poly(NIPAM-co-AAC)が温度に応じて、水素イオンを放出しまたは取り込むことによりpHを変化させて変色することにより、温度を識別する。
また、Poly(NIPAM-co-AAC)に代えて、Poly(NIPAM-co-AAC)とジメチルアクリルアミド(DMA)等を共重合した温度応答性高分子ポリマーであるPoly(NIPAM-DMA-AAC)等を用いる。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、温度に対する可逆的な変色が可能で、可視化する対象温度域を広げ、細かな温度変化に対する警告手段の適用範囲を拡大して、温度変化に伴う様々なリスクを回避することができる。
また、ゲル状態により粘性を有し、定着し易いため、流動し難く、収容部材からの漏出逸脱を防止することができ、収容するためのシール強度を低減でき、所定の温度に変化した状態を細かに識別する表示部材を安価に製造することができる。
温度応答性高分子との共重合物の合成比に応じて対象温度域を調整することができ、温度管理の適用範囲を一層拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の感温材を用いた感温性表示部材の正面図である。
【
図3】感温材の製造方法に用いる設備の概略図である。
【
図4】感温材の製造方法に用いる容器の概略図である。
【
図5】第1の実施形態に係る感温材についてNIPAMとAACの混合比を変えた場合の温度に対するpHの変化の比較を表すグラフである。
【
図6】感温材についてNIPAMとAACの混合比を変えた場合のpHの変動幅と特定のpH値に達するまでの温度域の比較を示す表である。
【
図7】感温材についてNIPAMとAACの混合比を変えた場合の温度に対する変色変化の比較を表す写真である。
【
図8】感温材についてPoly(NIPAM-co-AAC)の濃度を変えた場合の温度に対するpHの変化の比較を表すグラフである。
【
図9】感温材についてPoly(NIPAM-co-AAC)の濃度を変えた場合のpHの変動幅と特定のpH値に達するまでの温度域の比較を示す表である。
【
図10】感温材について高分子合成時のpH調整値を変えた場合の温度に対するpHの変化の比較を表すグラフである。
【
図11】感温材について高分子合成時のpH調整値を変えた感温材についてpHの変動幅と特定のpH値に達するまでの温度域の比較を示す表である。
【
図12】感温材についてグルコースの添加量の異なる場合の温度に対するpHの変化の比較を表すグラフである。
【
図13】感温材についてグルコースの添加量を変えた場合のLCSTとpHの変動幅と特定のpH値に達するまでの温度域の比較を示す表である。
【
図14】感温材のグルコースの添加の有無の違いによる温度に対する変色過程の比較を表す写真である。
【
図15】メチルレッドを用いた感温材の温度に対する変色過程を表す写真である。
【
図16】メチルレッドーメチレンブルーを用いた感温材の温度に対する変色過程を表す写真である。
【
図17】本発明の第2の実施形態に係る感温材のPoly(NIPAM-DMA-AAC)の製造方法の工程説明図である。
【
図18】感温材のDMAの合成比に対するLCSTの変化を表すグラフである。
【
図19】感温材についてDMAの合成比を変えた場合の温度に対するpHの変化の比較を表すグラフである。
【
図20】感温材についてDMAの合成比を変えた場合のLCSTから80℃までのpHの変動幅の比較を示す表である。
【
図21】感温材についてDMAの合成比を変えた場合のpH5.2またはpH6.0に達するまでの温度域の比較を示す表である。
【
図22】感温材についてDMAの合成比を変えた場合のメチルレッドを用いた温度に対する変色過程の比較を表す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照して本発明の実施の一形態を説明する。
図1,
図2において、本発明に係る感温材を用いる感温性表示部材1は僅かな厚みの板状をなし、間隙をおいて前後に重なり合う平行一対の透明のガラス板2と、ガラス板2の相互間に介在することによりガラス板2の隙間に収容空間を形成する略コ字状のシリコンゴム製のスペーサ3と、スペーサ3とガラス板2とに囲まれた空間に注入、収容される感温材4とを具備する。感温性表示部材1は、約1mmの厚みによってガラス板2の相互間隔を形成するスペーサ3の開口端で外側に開放し、感温材4を注入できる。
図2に示すように、感温性表示部材1は、対向一対のガラス板2の間にスペーサ3を挟み込むように重ね合わせ、側縁部を挟持手段(本実施形態では簡易的にクリップ5を使用した)により挟み込むことにより固定し、感温性表示部材内部の水分の蒸発による劣化を防ぐため、接着剤で固定した収容枠体または薄膜で封入するが、シール材を付加するなどの高い気密性を確保するためのシール手段を必要としない。
【0009】
感温材4は、Poly(NIPAM-co-AAC)を含む溶媒にゲル化剤である多糖類を混合することによりゲル状をなすと共に、pH指示薬を混合することにより相転移に対応して変色する。Poly(NIPAM-co-AAC)は、温度応答性高分子であるN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)と、酸性を有するモノマーであるアクリル酸(AAC)とを互いに共重合させた高分子である。Poly(NIPAM-co-AAC)は、LCSTである35℃付近を境に、下側の温度で水分子を引き付ける水和により膨潤すると共に、AAC側鎖のカルボキシル基(-COOH)が水素イオン(H+)を放出し、カルボキシル基がイオン化(-COO-)することでpHが低下する一方、上側の温度で水分子を放出する脱水和により収縮すると共に、水素イオン(H+)が取り込まれてカルボキシル基(-COOH)に再結合することでpHが上昇する可逆的な相転移の特性を有する。指示薬は、温度変化によるPoly(NIPAM-co-AAC)の相転移に伴うpHの変化により温度に対応して変色するので、変色またはその濃淡の変化により連続的に温度を表す。pH指示薬は、感温材の表示色により適宜変更され、コンゴーレッド溶液、メチルレッド、メチルレッドーメチレンブルー溶液、ブロモチモールブルー溶液等周知のものを適用でき、薬液に応じて添加量は適宜変更される。
【0010】
感温材4中のPoly(NIPAM-co-AAC)を試験的に製造する設備は、
図3に示すように、溶液を収容する容器6と、水を張って密閉した容器6を浸し溶液温度を調整する恒温槽7と、容器6内の溶液温度を検知して所望の温度に調整するように恒温槽7を制御する温度コントローラ8と、容器6内に流量計9を介して所望の圧力で窒素を送るタンク10とを具備する。容器6は、
図4に示すように、密閉蓋11を貫通して内部にそれぞれ差し込まれる、内外を連通させる排気管12と、流量計9を介してタンク10に接続される送気管13と、温度計に接続されて溶液温度を検知する熱電対14と、溶液を攪拌する攪拌子15とを具備する。
【0011】
感温材4を製造する方法を
図4を参照して説明する。
蒸留水50[mL]と、NIPAMとアクリル酸(AAC)を合計して150~270[mmol/L]と、分散剤として負の電荷を有する界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)45[mg]とを容器6に収容して混合する。
この混合溶液に塩酸等の酸性溶液や水酸化ナトリウムなどのアルカリ性溶液を添加してpH を2~4の酸性に調整する。
NIPAMとAACの重合を行うにあたり酸素が存在すると副反応が起き、Poly(NIPAM-co-AAC)の重合が阻害されるため、流量計9及びタンク10を通じて窒素によるバブリング処理を30分間行う。
NIPAMと酸性の単量体であるアクリル酸(AAC)を十分な分子量を持つ高分子に調整する為に、重合開始剤である過硫酸アンモニウム(APS)を70[mg/mL]の濃度で1[mL]加えてから、窒素雰囲気下、恒温槽7及び温度コントローラ8により40℃の溶液温度に調整しながら3時間撹拌して重合処理を行う。
容器6内のPoly(NIPAM-co-AAC)を未反応の分子や分子量の小さい分子と分離するために透析膜を用いて透析を2日程度行う。なお、分離時間は濃度勾配に依存するため、膜外の水の交換回数を増やして早めてもよい。
透析後のPoly(NIPAM-co-AAC)は水中に溶解しており、水と完全に分離するため、他の容器にPoly(NIPAM-co-AAC)の溶解液を移して凍結し、容器内を減圧して水分子の沸点を下げ、氷から水蒸気に昇華させることで水分を完全に除去する凍結乾燥を行う。この凍結乾燥によってPoly(NIPAM-co-AAC)を粉末状態で取り出せる。実験では、100[mL]の水溶液を凍結し、その状態で排気速度65[L]/80[min]、真空到達度0.067[Pa]の真空ポンプを使用して約1日半~2日間の凍結乾燥を行うと水分の除去が可能であることを確認している。なお、処理時間は溶液の量や排気速度、真空到達度によって異なることは言うまでもない。
【0012】
上記Poly(NIPAM-co-AAC)を用いて感温材4を製造する方法について説明する。
容器に、蒸留水10[mL]当たりPoly(NIPAM-co-AAC)を0.05[g]、pH指示薬を所要量、ゲル化剤である寒天粉末を0.1[g]を収容し、この溶液を撹拌しながら90℃まで加熱して寒天を溶解させ、この溶液をスペーサ3とガラス板2との収容空間に注入し、5℃雰囲気を維持しつつ12時間以上静置してゲル化して感温材4とする。
なお、添加するpH指示薬は複数組み合わせて所望の発色に調合してもよい。
【0013】
感温材4についてNIPAM:AACの合成比を変えて、温度に対するpHの変化を調べたところ、
図5のグラフに示すように、合成比に関係なくLCSTは35℃で変わらないが、LCSTを超えると、pHの変化に違いが表れた。すなわち、
図6の表に示すように、NIPAM:AACの合成比が異なる感温材4は、35~60℃の温度に対するpHの変動幅と、pH指示薬のコンゴーレッドが赤色に変色するpH5.2になるまでの温度域について、AACの合成濃度が増加するほど広がる。NIPAM:AACの合成比を変えて感温材4の変色挙動を調べたところ、
図7に示すように、AAC濃度の増加に伴い、赤色に変わる温度域が徐々に高温側に移行する。これらの結果から、この感温材4は、NIPAM/AACの合成比によって変色温度域の調整が可能である。
【0014】
感温材4についてPoly(NIPAM-co-AAC)の濃度を変えて感温材4の温度に対するpHの変化を調べたところ、
図8のグラフに示すように、Poly(NIPAM-co-AAC)の濃度が低いほど、pHの増加変化が少なく表れた。すなわち、
図9の表に示すように、Poly(NIPAM-co-AAC)の濃度が低いとpHの変動幅は小さくなるが、pH5.8に達するまでの温度域が広がる。この結果から、感温材は、Poly(NIPAM-co-AAC)の濃度によって変色温度域の調整が可能である。
【0015】
感温材4についてPoly(NIPAM-co-AAC)重合時の初期pH値を変えて温度に対するpHの変化を調べた結果、
図10のグラフに示すように、初期pH値が低いほどpHの変化が小さく表れた。すなわち、
図11に示すように、初期pHが低いほど、pHの変動幅は小さいが、pH5.8に達するまでの温度域が広がる。この結果から、感温材は、初期pHによっても変色温度域の調整が可能である。
【0016】
感温材4のゲル化剤であるグルコースの添加量を変えて温度に対するpHの変化を調べた結果、
図12のグラフに示すように、添加量が多いほどpHの変化が大きく表れた。すなわち、
図13の表に示すように、グルコース濃度が高くなるほどLCSTは低下すると共に、pH5.2に達するまでの温度域が低温側へ移行した。この結果から、感温材は、グルコースの添加量によっても温度域の調整が可能である。感温材のグルコースの有無による温度に対する変色挙動を調べた結果、
図14に示すように、グルコースの有無によってLCSTが低くなることを確認した。PNIPAMの化学構造は多くの水分子を保持しやすい親水性部分(アミド基)を持ち、外部から熱エネルギーを加えると、親水性部分に保持されている水分子を放出し、疎水性部分であるイソプロピル基同士が疎水性相互作用により凝集(白濁)し、Poly(NIPAM-co-AAC)のpHが変化する。しかし、アミド基が保持する水分子が多いため、放出に必要な熱エネルギーも増加し、LCSTがほぼ固定される。そこで、PNIPAMが保持している水分子を減らすため、水分子との相互作用が強いヒドロキシ基を多く持つグルコースなどの糖類をゲル化剤として加えることが有効である。これと同様の効果が得られる糖類等として、スクロースやマルトースの構造を持つものが適用できる。
なお、NIPAM:AAC=95:5、グルコース1[g]添加の条件で、指示薬をメチルレッドと、メチルレッドーメチレンブルー溶液とを適用して製造した感温材について、温度変化に伴う変色経過を調べた結果、
図15,
図16に示すように、いずれも温度に応じて変色状態が徐々に移行することを確認した。
【0017】
本発明の他の実施形態を説明する。
感温材4は、先の実施形態のPoly(NIPAM-co-AAC)に代えてPoly(NIPAM-DMA-AAC)を用い、先と同様にゲル化剤によりゲル状をなし、pH指示薬により相転移に対応して変色する。Poly(NIPAM-DMA-AAC)は、温度応答性高分子であるNIPAMと、酸性を有するモノマーであるAACと、さらにNIPAMより水和力の高いジメチルアクリルアミド(DMA)とを共重合させた高分子である。Poly(NIPAM-DMA-AAC)は、先の実施形態と同様に、LCSTの下側の温度域で水和により膨潤すると共に、水素イオン(H+)を放出してイオン化することでpHが低下する一方、上側の温度域で水分子を放出する脱水和により収縮すると共に、水素イオン(H+)が取り込まれて再結合することでpHが上昇する可逆的な相転移の特性を有する。さらに、この感温材4は、DMAにより水分子の保持力が強くなり、脱水和に必要な熱エネルギーが増加するため、DMAの合成比に応じてLCSTが先の実施形態における35℃より高温側に移行する。
【0018】
感温材4のPoly(NIPAM-DMA-AAC)を先の実施形態と同様に
図3,
図4に示す設備を用いて製造する方法を
図17を参照して説明する。
容器6に、蒸留水を50[mL]、NIPAMとDMAとAACとを合計して234[mmol/L]、分散剤として負の電荷を有する界面活性剤であるSDSを45[mg]加える。
塩酸又は水酸化ナトリウム溶液を用いてこの混合溶液のpH を4.1の酸性に調整する。なお、このpH値は、後述するように、Poly(NIPAM-DMA-AAC)のLCSTにおけるpH値より低い限度においてpH4.0の前後一定範囲が許容される。
NIPAM、DMA、AACの重合を行う際に溶存酸素により副反応により重合が阻害されるのを防ぐため、流量計9及びタンク10を通じて窒素によるバブリング処理を30分間行う。
この混合溶液に重合開始剤であるAPSを70[mg/mL]の濃度で1[mL]加え、1分攪拌後、窒素雰囲気下、恒温槽7及び温度コントローラ8により45℃の溶液温度を維持しながら3時間撹拌する重合処理を行う。
容器6内の共重合したPoly(NIPAM-DMA-AAC)を未反応の分子や分子量の小さい分子と分離するために、透析膜を用いた透析を2日程度行う。
水中に溶解している透析後のPoly(NIPAM-DMA-AAC)を水と完全に分離するため、他の容器に溶液を移して凍結し、容器内を減圧して水分子の沸点を下げ、氷から水蒸気に昇華させることで水分を完全に除去する凍結乾燥を行う。
【0019】
上記Poly(NIPAM-DMA-AAC)を用いた感温材4を製造する方法について説明する。
容器6に、蒸留水10[mL]、Poly(NIPAM-DMA-AAC)0.05~0.1[g]、pH指示薬所要量、ゲル化剤である寒天粉末0.1~0.2[g]を収容し、撹拌しながら90℃まで加熱して寒天を溶解し、この溶液をスペーサ3とガラス板2との収容空間に注入し、5℃雰囲気を維持しつつ12時間以上静置してゲル化して感温材4とする。
【0020】
この感温材4に用いたPoly(NIPAM-DMA-AAC)について、DMA量に対するLCSTの変化を調べた結果、
図18のグラフに示すように、DMA量(NIPAM:DMAの合成比)の増加に伴い LCSTは上昇した。この変化は、NIPAMモノマーよりも水和力が強いモノマーとしてDMAを共重合することで、Poly(NIPAM-DMA-AAC)の共重合体の水分子の保持力が強くなり、脱水和に必要な熱エネルギーが増加するためである。DMAと同様の作用を行うモノマーとして、アクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド等がある。
【0021】
感温材4のNIPAM:DMAの合成比を変えて、LCSTから80℃までのpHの変動幅を調べた結果、
図19,
図20に示すように、DMA量の増加に伴い、pH変動幅は小さくなりLCSTが高温側に移行する。すなわち、
図21の表に示すように、pH指示薬のコンゴーレッドが変色するまでのpH5.2、またはメチルレッドが変色するまでのpH6.0に達するまでの温度域は、高温側に移行する。
感温材4の指示薬をメチルレッドとして、NIPAM:DMAの合成比を変えて、温度に対するpHの変色変化を調べた結果、
図22に示すように、DMA量の増加に伴い、赤色から淡橙色へ変色する温度域が徐々に高温側へ移行した。この結果から、DMAを共重合させたPoly(NIPAM-DMA-AAC)共重合体を感温材に用いることによって変色温度域を高温側に制御することが可能であることを確認した。
【符号の説明】
【0022】
1 感温性表示部材
2 ガラス板
2a 表示部
3 スペーサ
4 感温材
5 クリップ
6 容器
7 恒温槽
8 温度コントローラ
9 流量計
10 タンク
11 密閉蓋
12 排気管
13 送気管
14 熱電対
15 攪拌子