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  • 特開-マンホールポンプの劣化予測方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022027683
(43)【公開日】2022-02-14
(54)【発明の名称】マンホールポンプの劣化予測方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
G05B23/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124836
(22)【出願日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2020128200
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(令和元年度国土技術政策総合研究所「下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)」委託研究、産業技術力強化法17条の適用を受ける出願)
(71)【出願人】
【識別番号】515195440
【氏名又は名称】株式会社新日本コンサルタント
(71)【出願人】
【識別番号】397028016
【氏名又は名称】株式会社日水コン
(71)【出願人】
【識別番号】509042518
【氏名又は名称】エコモット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002996
【氏名又は名称】特許業務法人宮田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿曽 克司
(72)【発明者】
【氏名】堀 孝成
(72)【発明者】
【氏名】中村 元紀
(72)【発明者】
【氏名】服部 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】水谷 智彦
(72)【発明者】
【氏名】谷裏 弘晃
(72)【発明者】
【氏名】松永 崇
(72)【発明者】
【氏名】庄内 道博
(72)【発明者】
【氏名】吉村 貴志
(72)【発明者】
【氏名】岩本 卓三
(72)【発明者】
【氏名】田川 哲哉
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA21
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB03
3C223FF05
3C223FF22
3C223FF46
3C223FF51
3C223GG01
3C223HH08
(57)【要約】
【課題】マンホールポンプの余寿命を算出し、マンホールポンプの更新の時期を適切に判断できるマンホールポンプの劣化予測方法の提供を目的とする。
【解決手段】マンホールポンプ群のうち一部のマンホールポンプの運転状態について、維持管理業者による長命または短命のいずれにつながるものであるかの判断結果を教師データとして用いるとともに、分析の要素データとして前記一部のマンホールポンプに関する各種情報を用いてAIによる決定木分析を行うことで、前記各種情報のうち、前記一部のマンホールポンプの運転状態が長命または短命のいずれにつながるものであるかを判定するために必要な特徴データを選別して決定木モデルを構築し、前記決定木モデルに前記マンホールポンプ群のうち任意のマンホールポンプに関する前記特徴データを入力することで、前記任意のマンホールポンプの運転状況が長命または短命のいずれにつながるものであるかを推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンホールポンプ群のうち一部のマンホールポンプの運転状態について、維持管理業者による長命または短命のいずれにつながるものであるかの判断結果を教師データとして用いるとともに、分析の要素データとして前記一部のマンホールポンプに関する各種情報を用いてAIによる決定木分析を行うことで、前記各種情報のうち、前記一部のマンホールポンプの運転状態が長命または短命のいずれにつながるものであるかを判定するために必要な特徴データを選別して決定木モデルを構築し、
前記決定木モデルに前記マンホールポンプ群のうち任意のマンホールポンプに関する前記特徴データを入力することで、前記任意のマンホールポンプの運転状況が長命または短命のいずれにつながるものであるかを推定することを特徴とするマンホールポンプの劣化予測方法。
【請求項2】
横軸を時間、縦軸を累積仕事量とするグラフに、運転状況が前記長命または短命のいずれにつながるものかによって分類された二つのマンホールポンプ群について、それぞれのリアルタイム電流値データに基づき算出した累積仕事量と稼働年数とをプロットすることで、前記二つのマンホールポンプ群それぞれの寿命予測式を推定し、
現時刻から、前記寿命予測式と、マンホールポンプの寿命時点での累積仕事量である限界累積仕事量とのグラフ上の交点までの期間が各マンホールポンプの余寿命となることを特徴とする請求項1に記載のマンホールポンプの劣化予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンホールポンプの劣化予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚水を流すマンホールポンプは全国で約4万7千基設置されている。その中で、老朽化している施設が増加していることから、計画的な点検や改築等が求められている。しかし、限られた人員や財源などの中で広い地域に点在する施設全てを管理し日常的に点検することは困難である。特にマンホールポンプの劣化を予測し、適切な時期にマンホールポンプを交換することは実質上頗る困難である。また、各マンホールポンプは単なる経過時間のみでポンプの寿命を算定することはできず、施設によってバラツキがあり、同一施設であっても運転状況や環境等により寿命時期は異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-020264
【特許文献2】特開2016-018526
【特許文献3】特開2016-012158
【特許文献4】特開2012-038298
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的なポンプ設備の劣化予測方法は、部品単位で点検調査を行い、設備の健全度を評価する。しかしながら、マンホールポンプにおいては、排水機場やポンプ場といった大型のポンプ設備ではなく、道路上に点在するマンホール内に設置する小型のポンプであり、管理する施設が多いことから、詳細な点検調査はコスト的にも困難である。
そこで本発明は、上記事情に鑑みて、IoTデバイスを活用したリアルタイム計測による状態監視を行い、ポンプの更新時期を予測することで、点検調査費用の削減ならびに計画的な改築計画の立案に寄与できるマンホールポンプの劣化予測方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係るマンホールポンプの劣化予測方法は、マンホールポンプ群のうち一部のマンホールポンプの運転状態について、維持管理業者による長命または短命のいずれにつながるものであるかの判断結果を教師データとして用いるとともに、分析の要素データとして前記一部のマンホールポンプに関する各種情報を用いてAIによる決定木分析を行うことで、前記各種情報のうち、前記一部のマンホールポンプの運転状態が長命または短命のいずれにつながるものであるかを判定するために必要な特徴データを選別して決定木モデルを構築し、前記決定木モデルに前記マンホールポンプ群のうち任意のマンホールポンプに関する前記特徴データを入力することで、前記任意のマンホールポンプの運転状況が長命または短命のいずれにつながるものであるかを推定することを特徴とする。
【0006】
また、本発明の請求項2に係るマンホールポンプの劣化予測方法は、横軸を時間、縦軸を累積仕事量とするグラフに、運転状況が前記長命または短命のいずれにつながるものかによって分類された二つのマンホールポンプ群について、それぞれのリアルタイム電流値データに基づき算出した累積仕事量と稼働年数とをプロットすることで、前記二つのマンホールポンプ群それぞれの寿命予測式を推定し、現時刻から、前記寿命予測式と、マンホールポンプの寿命時点での累積仕事量である限界累積仕事量とのグラフ上の交点までの期間が各マンホールポンプの余寿命となることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、累積仕事量から各マンホールポンプの余寿命を算定することで、個別の点検調査を実施せずに、各マンホールポンプの将来的な更新時期の推定が可能となるため、調査のコスト削減ならびに改築事業費の平準化に寄与でき、計画的な改築事業の効率化に資することができるものである。
【0008】
また、決定木モデルを構築したことにより、各ポンプの維持管理において注意すべき項目がわかるので、特に短命ポンプにおいては、例えば単位時間運転が長いものはフロート水位設定の見直し等に活用でき、長命化に向けた対応が可能である。さらに、更新計画において、長命ポンプでの運用に移行できるよう改善計画の立案が可能となる。また、他の地域管理区分(自治体等)においても、同様にして決定木モデルを構築することでポンプの長命/短命を分類するための特徴データが抽出できると考えられるため、汎用性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ポンプ劣化予測のフローチャートである。
図2】決定木の構造を示す説明図である。
図3】決定木モデルによる分類結果を示すグラフである。
図4】ポンプの余寿命を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本発明のマンホールポンプ(以下、ポンプとする)の劣化予測のフローチャートS1~S9を図1に示す。本実施形態では、ポンプの寿命時期は、同種の設備であっても運転状況や環境等により分散することから、「ポンプの寿命は単なる時間経過ではなく、運転した仕事量に依存する」と仮定し、各ポンプの累積仕事量の変化からポンプ寿命を予測する。また、IoTデバイスを活用することでポンプのリアルタイムでの状態監視が可能となり、現地での点検作業を省力化するとともに、蓄積した計測データを用いて累積仕事量の変化の予測式である余寿命算定モデル3を構築する。この余寿命算定モデル3により将来的なポンプの限界累積仕事量(ポンプ寿命時点での累積仕事量)に達するまでの残り年数(余寿命)を算定し、将来的な更新時期を予測する。
【0011】
ここで、累積仕事量から精度良く余寿命を算定するために、上述のようにポンプの寿命が設備によってばらつきがあり、同一設備でも運転状況や環境等により寿命時期が分散することから、AIによる分析によって構築される決定木モデル2を用いることとした。決定木モデル2は、各ポンプの運転状況を、「短命につながる運転状態(以下、「短命」とする)」または、「長命につながる運転状態(以下、「長命」とする)」に分類するものである。前記決定木モデル2によって、長命または短命に分類した各ポンプについて、IoTデバイスによるリアルタイム計測データを、ポンプが故障するまでの余寿命を返すモデルである余寿命算定モデル3に対して入力することにより、ポンプの余寿命を算定する。これにより、ポンプの実際の運転状況を踏まえた劣化予測が可能となる。以下に、上記決定木モデル2と余寿命算定モデル3について詳説する。
【0012】
<決定木モデル2>
決定木モデル2は、維持管理業者(熟練技術者)による、経験に基づく長命または短命の判断の曖昧な特徴を明確化して定義するための、AIによる教師データありの識別手法である。分類問題を解くAI分析には様々な方法があるが、存在するデータ項目や用途(余寿命算定結果をストックマネジメントや最適運転等に利用すること)を考慮し、ポンプの劣化予測には機械学習のうち教師データありの識別の手法に該当する決定木を用いた分析を行う。該決定木分析の特徴は、カテゴリ変数と数値変数を混合して取り扱えること、
及び、木構造により簡潔明瞭に出力ができることである。
【0013】
地域管理区分(自治体等)毎に決定木モデル2を構成するために、教師データ4として地域管理区分の一つである富山市のポンプのうち60箇所について、維持管理業者による長命/短命判断の結果をAIに学習させた。ポンプの長命/短命の分類判断においては、維持管理業者への定性的なヒアリング結果を用いた。この決定木作成により、熟練技術者である維持管理業者が直感的に分類を行う際に用いる曖昧な特徴を簡易的に把握することができる。長命短命のヒアリング(教師データ4の作成)は下記表1に示す条件を基に実施した。
【表1】
維持管理業者へのヒアリング結果として、ポンプ120基(60施設)に対する長命/短命の峻別データ(長命78基,短命42基)を得た。
【0014】
さらに、長命/短命の分類に必要な項目およびその値を抽出するために、AIに学習データとして下記表2に示すポンプ諸元や過去の日報データからなる要素データ5であるデータセットを学習させ、各ポンプを長命または短命に分類するための特徴を抽出した。なお、ここでは工場、商業施設、病院介護施設、新興住宅などによる特殊な排水影響を受ける環境条件なども項目として参照した。データセット項目のうち、特殊な排水影響については、AHP法による重み係数を算定した。前記重み係数である社会的影響度X[1]は、維持管理業者にヒアリングを行い数値化したものであり、0.00(影響を受けない)<0.03(工場)<0.05(温泉を含む商業施設)<0.08(病院・介護施設)とした。なお、前記データセットに含めるデータの種類は多いほどよく、表2に記載のデータ項目に限定されるものではない。
【表2】
【0015】
上記のようにして、維持管理業者へヒアリングを行った結果から、地域管理区分別の分析を実施し、「短命につながる運転状態」の特徴を決定木(AI)により分析を行った。
分析データの項目を集約し、決定木モデル2を作成した結果、特に特徴量の大きい「運転時間」および「特殊な排水影響(特に飲食店等の商業や病院・介護施設等からの外部的要因による異物等の詰まりの影響)」の2項目によって分類が行われていることが判明した。なお、「運転時間」が長い(稼働率が高い)施設においては、流入量が多く槽内のスカムによる影響を受けやすいため、劣化判断における最も大きな特徴であると考えられる。また、特殊な排水影響を受ける施設は、特に飲食店等の商業や病院・介護施設等からの外部的要因(異物等の詰まりの影響)が大きいといったことが推察される。
【0016】
以上のように、維持管理業者による長命/短命分類結果と各データセット項目から特徴データをAIが分析抽出し、決定木モデル2が構築された。このようにして得られた決定木モデル2の決定木(ツリー構造)T1~T9を図2に示す。決定木モデル2における短命ポンプの特徴は以下の通りであり、決定木の上段にある要素ほど大きな特徴がある。
短命ポンプの特徴:
(1)年間運転時間X[0]が761.5h(約2.1h/日)以上である。
(2)特殊な排水影響を受け、かつ年間運転時間X[0]が210h(約0.6h/日)以上である。
(3)年間運転時間X[0]が209.5h(約0.6h/日)以下かつ、社会的影響度X[1]が大きい、病院・介護施設及び商業施設からの排水影響を受ける施設である。
なお、図2中のginiとは、決定木分析において不純度や不平等度を示す指標であるジニ係数であり、決定木はジニ係数を指標に構築される。具体的には、多くの要素に対し決定木分析を行うと、自動的に数値化されるジニ係数の値が小さくなるように、決定木が構成される。また、ジニ係数の値が大きい要素が、維持管理業者が長命/短命を分類した特徴や共通点を表す。そして、図3の決定木分析結果を示すグラフ中の点P1およびP2で表されるように、運転時間の短い施設であっても、特殊な排水影響を受ける施設は決定木モデル2によって短命に分類された。
【0017】
次いで、同一の地域管理区分内の他のポンプへの決定木モデル2の拡張展開を実施し、その正答率を算定することで決定木モデル2の精度の検証を行った。上記のようにIoTデバイス設置ポンプ60箇所を教師データ4として作成した決定木モデル2に対する検証の方法を以下に示す。まず、IoTデバイス未設置のポンプ300箇所に対して、決定木モデル2による長命短命の峻別を実施した。そして、該IoTデバイス未設置のポンプに対して、維持管理業者へ再度、長命/短命判断のヒアリングを実施した。その上で、決定木モデル2と維持管理業者の正答率を算定し評価した。
【0018】
上記の検証結果を以下に示す。表3の決定木モデルOに示すように、決定木モデル2では、85%の精度で長命/短命の峻別が可能であった。また、以下のような3つの決定木モデルM,N,Oのケース別分析を行った結果、モデルMおよびNのように、し渣等の詰まりによる異常(出動回数や特殊な排水影響)が短命につながる運転状態に関係していることが把握できた。
・決定木モデルM:運転時間のみで分類したケース。
・決定木モデルN:運転時間と出動頻度で分類したケース。
・決定木モデルO:運転時間と特殊な排水影響で分類したケース。
【表3】
【0019】
以上のように、決定木モデル2を構築したことにより、各ポンプの維持管理において注意すべき項目がわかるので、特に短命ポンプにおいては、例えば単位時間運転が長いものはフロート水位設定の見直し等に活用でき、長命化に向けた対応が可能である。さらに、更新計画において、長命ポンプでの運用に移行できるよう改善計画の立案が可能となる。また、他の地域管理区分においても、同様にして決定木モデル2を構築することでポンプの長命/短命を分類するための特徴データが抽出できると考えられるため、汎用性にも優れる。
【0020】
<余寿命算定モデル3>
次に、上記の決定木モデル2による各ポンプの長命/短命分類の結果を用いて、余寿命算定モデル3による余寿命算定を行う。
【0021】
本実施例におけるポンプの劣化予測方法は、ポンプの仕事量が(電圧)×(電流)×(運転時間)として定義されることから、ポンプが寿命を迎える時点での累積仕事量である、ポンプの限界累積仕事量Gをこれまでの実績から仮定することで、ポンプが寿命を迎えるまでの残りの年数である余寿命Hを算定するものである。各ポンプ設備にIoTデバイスを設置し、電流値をリアルタイムでモニタリングすることで、各ポンプの仕事量の変化(特徴)を把握する。各ポンプの特徴および分類別に将来的な仕事量の変化の予測式である余寿命算定モデル3を構築することで、余寿命算定を行う。
【0022】
ポンプの劣化は、し渣等の詰まりが発生しやすい特殊な排水影響を受ける施設において、電流過負荷が頻発し、ポンプへの負荷が蓄積することで摩耗・劣化による故障期間が早まると考えらえる。したがって、「ポンプの寿命は、単なる時間経過ではなく運転した仕事量に依存する」と仮定し、「仕事経過率y」に着目し算定することとする。前記仮定に基づくと、電圧が200Vで一定であることから負荷は直接電流の変化に現れるので、ポンプがした仕事は「電流値」と「運転時間」に依存すると考えることができる。
ポンプの仕事量について以下に定義する。

[数1] ポンプの累積仕事量W=仕事率w×総運転時間t=電圧V(一定)×消費電流I×総運転時間t

ポンプが寿命を迎える時点での累積仕事量Wである限界累積仕事量Gは、これまでの実績から平均的な運転時間(6時間/日)とポンプの標準耐用年数(15年)から算定したものである。

[数2] 限界運転時間=標準耐用年数15年×365日×6時間/日

[数3] 限界累積仕事量G(ポンプ寿命)=電圧V(一定)×計画電流Ip×限界運転時間

なお、「計画電流Ip」は最大電流値の70~80%の、仕事率が最も効率的となるときの電流値である。

[数4] 仕事経過率y(%)=累積仕事量W/限界累積仕事量G

である。

そして、仕事経過率yの近似式を以下のように得る。
ポンプの寿命は環境や地域性等により異なり、各ポンプによって運転状況も異なることから、上記決定木モデル2によって分類された長命/短命ポンプそれぞれのグループについて余寿命算定を行った結果を以下に示す。

[数5] 余寿命(年)=寿命年数-稼働年数

寿命予測式(余寿命算定モデル3)を

[数6] y=f(x)

とする。ここで、yは仕事経過率、xは稼働年数であり、y=100%のときのxを寿命年数とする。

ある時点までのポンプの稼働年数と累積仕事量Wとは、前述したように、蓄積してあるリアルタイム電流値データを基に算出することができるので、これを、図4に示すように、横軸を時間(稼働年数)xとし、縦軸を仕事経過率yとしたグラフ上にプロットする。なお、グラフは縦軸を累積仕事量Wとしてもよいが、本実施形態例ではよりわかりやすくするために縦軸を仕事経過率yとした。
そして、逆関数
[数7] x=g(y)
とし、グラフにプロットした仕事経過率(座標点)から寿命予測式(余寿命算定モデル3)を近似すると、
余寿命算定モデル3は
短命ポンプの場合
[数8] y=0.0831e^(0.1375x)
長命ポンプの場合
[数9] y=0.0157x
となった。
【0023】
そして、図4に示すように、前記グラフ上に限界累積仕事量Gを破線で示す。前記短命/長命ポンプそれぞれの寿命予測式(余寿命算定モデル3)のグラフと、限界累積仕事量Gを示す直線との交点が当該ポンプの寿命点Lであり、現時点から前記寿命点Lまでの期間が当該ポンプの余寿命Hとなり、劣化予測を行うことができる。
【0024】
本余寿命算定モデル3の技術的特徴は、マンホールポンプに設けたIoTデバイスから送られてくるリアルタイムの電流値データを余寿命算定に利用した点にある。
前記ポンプの累積仕事量Wにおける「消費電流I」及び「総運転時間t」は、IoTデバイスにより常時送られてくるポンプの稼働時間を含むリアルタイム電流値データが蓄積されているので、前記蓄積した電流値データから算出することができる。
【0025】
上記のようなポンプの劣化予測により、点在する複数施設を管理し、常時の点検が難しく劣化状況の把握が困難なポンプにおいて、IoTデバイスによるリアルタイム計測データを活用し、個別の詳細点検調査を実施せずに余寿命を算定することで、ポンプの将来的な改築量が推定可能となり、維持管理並びにストックマネジメント計画の効率化が期待できる。また、従来のストックマネジメント計画においては、時間計画的な管理では、優先度順位に差がなく、劣化状態において実態との乖離が大きかったが、決定木モデル2において、計画以上に稼働しているマンホールポンプを長命/短命分類によって抽出し、余寿命の予測式を作成し余寿命算定を行うことで、調査箇所の優先順位付け(スクリーニング)を行い、点検調査計画の効率化やポンプ全体の中長期的な改築事業シナリオ作成を支援することが可能となる。さらに、決定木モデル2を構築したことにより、各ポンプの維持管理において注意すべき項目がわかるので、特に短命ポンプにおいては、例えば単位時間運転が長いものはフロート水位設定の見直し等に活用でき、長命化に向けた対応が可能である。さらに、更新計画において、長命ポンプでの運用に移行できるよう改善計画の立案が可能となる。また、他の地域管理区分(自治体等)においても、同様にして決定木モデル2を構築することでポンプの長命/短命を分類するための特徴データが抽出できると考えられるため、汎用性にも優れる。
【符号の説明】
【0026】
3 余寿命算定モデル
4 教師データ
5 要素データ
W 累積仕事量
G 限界累積仕事量
L 寿命点
H 余寿命
図1
図2
図3
図4