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特開2022-27838二次電池用の負極活物質および負極ならびに水溶液電解質二次電池
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  • 特開-二次電池用の負極活物質および負極ならびに水溶液電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022027838
(43)【公開日】2022-02-14
(54)【発明の名称】二次電池用の負極活物質および負極ならびに水溶液電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20220203BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20220203BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20220203BHJP
   C01G 39/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
H01M4/485
H01M10/36 A
H01M4/80 C
C01G39/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197185
(22)【出願日】2021-12-03
(62)【分割の表示】P 2019505943の分割
【原出願日】2018-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2017049707
(32)【優先日】2017-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新田 耕司
(72)【発明者】
【氏名】酒井 将一郎
(72)【発明者】
【氏名】福永 篤史
(72)【発明者】
【氏名】奥野 一樹
(72)【発明者】
【氏名】藪内 直明
(57)【要約】
【課題】水の電気分解を抑制しつつ、高容量かつ高電圧を得ることができる水溶液電解質二次電池を提供する。
【解決手段】Moを含み、かつ充放電によりMoの少なくとも一部がMo3+/Mo6+の酸化還元反応を発現する、二次電池用の負極活物質、およびこれを含む負極、ならびにその負極を含む水溶液電解質二次電池。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Moを含み、かつ充放電によりMoの少なくとも一部がMo3+/Mo6+の酸化還元反応を発現する、二次電池用の負極活物質。
【請求項2】
4価以上の遷移金属Meと、3価のMoと、Liと、を含む複合酸化物を含む、請求項1に記載の二次電池用の負極活物質。
【請求項3】
前記複合酸化物が、
式[1]:xLiMoO2-(1-x)Li3NbO4
式[2]:xLiMoO2-(1-x)Li4MoO5、および
式[3]:xLiMoO2-(1-x)Li2TiO3の組成を有する単相酸化物よりなる群から選択される少なくとも1種を含み、式[1]~[3]は、0<x<1を満たす、請求項2に記載の二次電池用の負極活物質。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の負極活物質を含む、二次電池用の負極。
【請求項5】
リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する正極活物質を含む正極と、
リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する負極活物質を含む負極と、
リチウム塩を溶解させた水溶液電解質と、を具備し、
前記負極が、請求項4に記載の二次電池用の負極である、水溶液電解質二次電池。
【請求項6】
前記水溶液電解質が、前記リチウム塩の少なくとも一部として、リチウムビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドを含む、請求項5に記載の水溶液電解質二次電池。
【請求項7】
前記正極が、正極集電体と、正極集電体に担持された前記正極活物質を含む正極合剤とを含み、
前記負極が、負極集電体と、負極集電体に担持された前記負極活物質を含む負極合剤とを含み、
前記正極集電体および前記負極集電体の少なくとも一方は、三次元網目状の金属製の骨格を有する、請求項5または請求項6に記載の水溶液電解質二次電池。
【請求項8】
充放電の電位窓が2.1Vを超える、請求項5~請求項7のいずれか1項に記載の水溶液電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池用の負極活物質および負極ならびに水溶液電解質二次電池に関する。
本出願は、2017年3月15日出願の日本出願第2017-049707号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、高濃度のリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(TFSI)を含む水溶液電解質と、LiMnを含む正極と、Moを発現する負
極活物質とを具備するリチウムイオン二次電池を提案している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】K. Xu et al., Science, 350, 938 (2015)
【発明の概要】
【0004】
本開示の一側面は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する負極活物質を含む負極と、リチウム塩を溶解させた水溶液電解質と、を具備し、前記負極活物質が、Moを含み、かつ充放電によりMoの少なくとも一部が、Mo3+/Mo6+の酸化還元反応を発現し、充放電の電位窓が2.0Vを超える、水溶液電解質二次電池に関する。
【0005】
本開示の別の側面は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する負極活物質を含む負極と、リチウム塩を溶解させた水溶液電解質と、を具備し、前記負極活物質が、Moを含み、かつ充放電によりMoの少なくとも一部が、Mo3+/Mo6+の酸化還元反応を発現し、前記水溶液電解質の少なくとも一部が、常温溶融水和物を形成している、水溶液電解質二次電池に関する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】LiTFSI水溶液中に浸漬した作用極に標準電極に対する電圧を印加したときの酸化還元電流の変化を示す図である。
図2】高濃度LiTFSI水溶液中でのLi9/7Nb2/7Mo3/7およびLi1.1Mn1.9のサイクリックボルタモグラムである。
図3】本開示の一実施形態に係る水溶液電解質二次電池の縦断面図である。
図4】実施例で合成された負極活物質のXRDパターンである。
図5】実施例に係る水溶液電解質二次電池の充放電カーブを示す図である。
図6】比較例に係る水溶液電解質二次電池の充放電カーブを示す図である。
図7】別の実施例に係る水溶液電解質二次電池の充放電カーブを示す図である。
図8】同電池のサイクル数と放電容量(mAh/g)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
非特許文献1が提案する電池は、水の理論分解電圧を超える2V級の電位窓を有するものの容量が低く、実用化は困難である。また、より広い電位窓を有する実用性の高い水溶液電解質を含む二次電池の開発が求められている。
【0008】
一方、3電子反応であるMo3+/Mo6+の酸化還元反応を利用した高容量なリチウムイオン二次電池用正極の開発が進められている。例えば、藪内らは、LiMoOとLiNbOとをメカニカルミリングすることで得られる単相酸化物が、約250mAh/gの容量を発現し、良好なサイクル特性を示すことを見出している。しかし、多電子反応を発現する従来の正極活物質(例えばLiNi1/2Mn1/2)に比べると高電圧が得られず、実用化への課題となっている(ACS Energy Lett., 2017, 2, pp733-738)。
【0009】
[本開示の効果]
本開示に係る水溶液電解質二次電池によれば、水の電気分解を抑制しつつ、高容量かつ高電圧を得ることができる。
[実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本開示の一実施形態に係る水溶液電解質二次電池は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する負極活物質を含む負極と、リチウム塩を溶解させた水溶液電解質とを具備する。負極活物質は、Moを含み、かつMoの少なくとも一部は、充放電によってMo3+/Mo6+の酸化還元反応を発現するように構成されており、水溶液電解質は、充放電の電位窓が2.0Vを超える(例えば2.1V以上の電位窓を有する)ように構成されている。なお、Mo3+/Mo6+の酸化還元反応とは、下記式(A)のように、電池の充電時にMoが3価まで還元され、放電時にMoが6価まで酸化される3電子反応を意味する。
式(A): Mo3+ ⇔ Mo6+ + 3e-
【0010】
(2)負極活物質は、4価以上の遷移金属Meと、3価のMoと、Liとを含む複合酸化物を含むことが好ましい。遷移金属Meと3価のMoを複合化することで、MoがMo3+/Mo4+の酸化還元反応以外に、Mo3+/Mo5+の2電子反応やMo3+/Mo6+の3電子反応を発現可能となる。上記元素の組み合わせによれば、様々な高容量の負極活物質を設計することが可能である。なお、遷移金属Meは4~6価のMoでもよい。
【0011】
(3)遷移金属Me、3価のMoおよびLiを含む複合酸化物は、式[1]:xLiMoO-(1-x)LiNbO、式[2]:xLiMoO-(1-x)LiMoO、および式[3]:xLiMoO-(1-x)LiTiOの組成を有する単相酸化物(ただし式[1]~[3]は、0<x<1を満たす)よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが、高容量を達成し得る点で好ましい。
【0012】
(4)水溶液電解質は、リチウム塩の少なくとも一部として、リチウムビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドを含むことが好ましい。リチウムビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドを用いる場合、水の電気分解が顕著に抑制される水溶液電解質を得ることができる。
【0013】
(5)水溶液電解質の少なくとも一部は、常温溶融水和物を形成していることが好ましい。常温溶融水和物とは、常温(25℃)で十分な流動性を有する金属塩の水和物である。常温溶融水和物を用いることで、水の電気分解が更に顕著に抑制される水溶液電解質を得ることができる。
【0014】
(6)本開示の別の実施形態に係る水溶液電解質二次電池は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する負極活物質を含む負極と、リチウム塩を溶解させた水溶液電解質とを具備し、負極活物質が、Moを含み、かつ充放電によりMoの少なくとも一部がMo3+/Mo6+の酸化還元反応を発現するように構成されており、水溶液電解質の少なくとも一部が、常温溶融水和物を形成している。上記構成によれば、充放電の電位窓が2.0Vを超える(例えば2.1V以上の電位窓を有する)水溶液電解質二次電池を容易に得ることができる。
【0015】
(7)正極が、正極集電体と、正極集電体に担持された正極活物質を含む正極合剤とを含み、負極が、負極集電体と、負極集電体に担持された負極活物質を含む負極合剤とを含む場合、正極集電体および負極集電体の少なくとも一方は、三次元網目状の金属製の骨格を有することが好ましい。このような集電体と水溶液電解質との組み合わせによれば、厚く高容量な正極および負極を用いる場合でも、高い活物質利用率を達成することができる。
【0016】
[実施形態の詳細]
次に、本開示の実施形態について更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、添付の請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0017】
<正極活物質>
リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する正極活物質を含む正極は、負極活物質よりも十分に高い電位を有する材料であればよく、例えば金属リチウムに対して4V以上の電位を発現し得るリチウム含有遷移金属酸化物を用いることができる。例えば、LiCoO、LiNiO、LMn、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi1/2Mn3/2などのリチウム含有遷移金属酸化物を典型的な材料として例示できる。
【0018】
<負極活物質>
リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する負極活物質は、高容量を達成する観点から、少なくともMoを含む。典型的な層状構造を有するLiMoOの場合、Mo3+/Mo4+の1電子反応が利用される。一方、所定手法を用いて調製された負極活物質中では、Moの少なくとも一部が、充放電に伴ってMo3+/Mo6+の3電子反応を発現するようになる。
【0019】
Mo3+/Mo6+の3電子反応を利用可能なMo含有材料としては、高価数のMoを含むLiMoO、MoO、MoOなども用い得るが、3価のMoと4価以上の遷移金属Meとを含む二元系遷移金属複合酸化物が好ましい。このような二元系遷移金属複合酸化物の中では、式[1]:xLiMoO-(1-x)LiNbO(0<x<1)、式[2]:xLiMoO-(1-x)LiMoO(0<x<1)および式[3]:xLiMoO-(1-x)LiTiO(0<x<1)の組成を有する単相酸化物よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0020】
式[1]~[3]で表される単相酸化物の結晶構造は、いずれも類似のカチオン非秩序型の岩塩構造であり、耐水性を有するとともに、250mAh/g以上の容量を達成し得る有望な材料である。これらの単相酸化物のCuKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)においては、2θ=38°、42°および63°の付近に、それぞれカチオン非秩序型岩塩構造の(111)面、(200)面および(220)面に帰属されるピークが観測される。
【0021】
式[1]~[3]の中でも、式[1]で表されるニオブ系酸化物および式[2]で表される6価モリブデン系酸化物は、高電圧を得やすい点で好ましい。また、6価モリブデン系酸化物は、高容量かつサイクル特性に非常に優れている点で最も好ましい。
【0022】
式[1]~[3]で表される単相酸化物は、それぞれ、xモルのLiMoOと(1-x)モルのLiNbOとの固溶体、xモルのLiMoOと(1-x)モルのLiMoOとの固溶体およびxモルのLiMoOと(1-x)モルのLiTiOとの固溶体を表している。式[1]~[3]において、LiMoOは、3価のMoを含む。一方、LiNbO、LiMoOおよびLiTiOは、それぞれ遷移金属Meとして5価のNb、6価のMoおよび4価のTiを含む。
【0023】
xの好ましい範囲は0.2≦x≦0.9であり、より好ましい範囲は0.3≦x≦0.8である。より具体的には、式[1]で表される単相酸化物の一例としてLi9/7Nb2/7Mo3/7(x=0.6)、式[2]で表される単相酸化物の一例としてLi4/3MoVI 2/9MoIII 4/9(x=2/3)、式[3]で表される単相酸化物の一例としてLi6/5Ti2/5Mo2/5(x=0.5)が挙げられる。
【0024】
なお、式[1]~[3]の範疇の単相酸化物もしくはこれらに類似する単相酸化物を、それぞれLi1.5-x/2Nb0.5-x/2Mo、Li1.6-3x/5MoVI 0.4-2x/5MoIII およびLi1.33-x/3Ti0.67-2x/3Moと表示することもできる。
【0025】
式[1]~[3]で表される負極活物質は、原料混合物のメカニカルミリングにより製造することが好ましい。原料混合物は、3価のMoを含む第1原料と、4価以上の遷移金属Meを含む第2原料との混合物である。第1原料にはLiMoO用いることが好ましく、第2原料には、LiNbO、LiMoOおよびLiTiOよりなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。原料混合物のメカニカルミリングにより、メカノケミカル反応が進行する。単相酸化物を得るには、メカニカルミリングを、XRDにおいて第1原料および第2原料に帰属されるピークが実質的に観測されなくなるまで行うことが好ましい。第1原料および第2原料に帰属されるピークは、例えば2θ=15°~37°の範囲に観測される。
【0026】
<水溶液電解質>
水溶液電解質は、水にリチウム塩を溶解させた水溶液として調製される。水溶液電解質は、安全性が高く、イオン伝導性に優れるだけでなく、豊富な資源量を誇る水を安価で供給できるという利点がある。
【0027】
水の電気分解に対して安定な電位窓は、論理的に1.23Vであるが、水に高濃度のリチウム塩を溶解することで、電気分解に対して安定な電位窓が広くなる。2Vを超える電圧を発現する電池を設計するには、電解質中の水の電気分解に対して安定な電位窓が2Vを超え、好ましくは3Vを超えるように、リチウム塩を水溶液電解質に高濃度で溶解させることが必要である。なお、リチウム塩の濃度は、リチウム塩の種類によって適宜選択すればよい。水溶液電解質中におけるリチウム塩の濃度の上限は、リチウム塩が水に溶解する範囲であれば特に制限されない。
【0028】
リチウム塩は、加水分解に対する耐性が高く、かつ水に対する溶解度が高いことが好ましい。このような塩として、有機イミド塩、無機塩などが挙げられる。中でも有機イミド塩が好ましく、リチウム塩の主成分(50モル%以上、更には80モル%以上)は有機イミド塩であることが好ましい。
【0029】
有機イミド塩の中では、リチウムビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドを含むことが好ましい。リチウムビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドは、水溶液中でも電気化学的に安定であるだけでなく、高濃度の水溶液中では、水分子と水和物を形成する。水分子が水和物を形成することで、水の電気分解が顕著に抑制される。
【0030】
リチウムビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドの具体例としては、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウム(トリフルオロエチルスルホニル)(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドなどが挙げられる。
【0031】
水溶液電解質の少なくとも一部は、常温溶融水和物を形成していることが好ましく、水溶液電解質の全体もしくは90質量%以上が常温溶融水和物を形成していることが好ましい。常温溶融水和物は、高濃度のビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドを水に溶解させることにより容易に生成する。
【0032】
常温溶融水和物を水溶液電解質として用いる場合、例えば2.2V以上、更には3V程度の電位窓を有する水溶液電解質二次電池を構成することも可能となる。例えば、1mol/kgおよび21mol/kgの濃度を有するLiTFSI水溶液の電気分解に対して安定な電位窓は、図1に示すように、それぞれ2.25Vおよび3.0Vである。図1は、ステンレス鋼の作用極に標準電極に対する電圧を印加したときの酸化電流および還元電流の変化を示している。
【0033】
ここで、図2に、21mol/kgの高濃度を有するLiTFSI水溶液中でのLi9/7Nb2/7Mo3/7とLi1.1Mn1.9のサイクリックボルタモグラムを示す。図2は、Li9/7Nb2/7Mo3/7を負極活物質、Li1.1Mn1.9を正極活物質として用い、電池を組み立てた場合に、水溶液電解質二次電池としては十分に高い2.3Vの電圧が得られることを示している。つまり、高濃度LiTFSI水溶液が安定な電位窓内で、2.3V級の電池の充放電が可能である。
【0034】
<ナトリウムイオン二次電池>
次に、水溶液電解質二次電池の構造の一例について説明する。図3は、一実施形態に係る水溶液電解質二次電池100(以下、電池100)を概略的に示す縦断面図である。電池100は、積層型の電極群、水溶液電解質(図示せず)およびこれらを収容する角型の電池ケース10を具備する。電池ケース10は、例えばアルミニウム製であり、上部が開口した有底の容器本体12と、上部開口を塞ぐ蓋体13とで構成されている。
【0035】
蓋体13の中央には、電池ケース10の内圧が上昇したときに内部で発生したガスを放出するための安全弁16が設けられている。安全弁16を中央にして、蓋体13の一方側寄りには、蓋体13を貫通する外部正極端子14が設けられ、蓋体13の他方側寄りの位置には、蓋体13を貫通する外部負極端子が設けられる。
【0036】
積層型の電極群は、いずれもシート状の複数の正極2と複数の負極3およびこれらの間に介在する複数のセパレータ1により構成されている。各正極2の一端部には、正極リード片2aが形成されている。複数の正極2の正極リード片2aは束ねられ、電池ケース10の蓋体13に設けられた外部正極端子14に接続されている。同様に、各負極3の一端部には、負極リード片3aが形成されている。複数の負極3の負極リード片3aは束ねられ、電池ケース10の蓋体13に設けられた外部負極端子に接続される。
【0037】
外部正極端子14および外部負極端子は、いずれも柱状であり、少なくとも外部に露出する部分が螺子溝を有する。各端子の螺子溝にはナット7が嵌められ、ナット7を回転することにより蓋体13に対してナット7が固定される。各端子の電池ケース10内部に収容される部分には、鍔部8が設けられており、ナット7の回転により、鍔部8が、蓋体13の内面に、O-リング状のガスケット9を介して固定される。
【0038】
正極は、例えば、正極集電体と、正極集電体に担持された正極合剤とを含み、正極合剤は、正極活物質に加え、導電助剤、バインダなどを含み得る。正極集電体には、例えば金属箔が用いられる。正極集電体の材質としては、アルミニウム、アルミニウム合金などが好ましい。
【0039】
負極は、例えば、負極集電体と、負極集電体に担持された負極合剤とを含み、負極合剤は、負極活物質に加え、導電助剤、バインダなどを含み得る。負極集電体には、例えば金属箔が用いられる。負極集電体の材質としては、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、ステンレス鋼などが好ましい。
【0040】
正極合剤および負極合剤に含まれ得る導電助剤としては、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維などが挙げられる。バインダとしては、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ゴム状重合体、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂(ポリアミドイミドなど)、セルロースエーテルなどが挙げられる。
【0041】
正極集電体および負極集電体は、それぞれ独立に金属箔でもよく、金属多孔体でもよいが、厚くて高容量な正極および負極を形成できる点で、金属多孔体が好ましい。厚い電極を形成する場合でも、イオン伝導性の高い水溶液電解質を用いる場合には、イオン移動が大きく妨げられず、活物質の十分な利用率を達成することができる。イオン濃度の高い水溶液電解質を用いる場合には、更に高い利用率を達成し得る。
【0042】
金属多孔体としては、三次元網目状の金属製の骨格(特に中空の骨格)を有するものが好ましい。三次元網目状の骨格を有する金属多孔体は、連続空隙を有する樹脂製の多孔体(樹脂発泡体および/または樹脂製の不織布など)を、例えば、メッキ処理などにより、集電体を構成する金属で被覆することにより形成されたものであってもよい。中空の骨格を有する金属多孔体は、骨格内の樹脂を、加熱処理などにより除去することにより形成できる。
【0043】
三次元網目状の骨格を有する金属多孔体の空隙率(または気孔率)は、例えば、30~99体積%、好ましくは50~98体積%、さらに好ましくは80~98体積%または90~98体積%である。三次元網目状の骨格を有する金属多孔体の比表面積(BET比表面積)は、例えば、100~700cm/g、好ましくは150~650cm/g、さらに好ましくは200~600cm/gである。
【0044】
セパレータとしては、樹脂製の微多孔膜、不織布などが使用できる。セパレータの材質は、ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂などが例示できる。
【0045】
以下、本開示を実施例に基づいて更に詳細に説明する。ただし、以下の実施例は、何ら本発明を限定するものではない。
【0046】
<複合酸化物の合成>
第1原料として、LiMoOを準備し、第2原料として、LiNbO、LiMoOおよびLiTiOの3種類を準備した。LiMoOとLiNbOとを所定モル比で混合し、第1原料混合物を得た。同様に、LiMoOとLiMoOとを所定モル比で混合して第2原料混合物を得るとともに、LiMoOとLiTiOとを所定モル比で混合して第3原料混合物を得た。各原料混合物を、メカニカルミリングを行う装置(Pulverisette 7、Fritsch社製)に投入し、空気中で、600rpmで32時間のミリングを行い、下記の3種の単相酸化物を得た。
【0047】
(A1)Li9/7Nb2/7Mo3/7
(A2)Li4/3MoVI 2/9MoIII 4/9
(A3)Li6/5Ti2/5Mo2/5
【0048】
単相酸化物A1~A3のXRD測定を行い、結晶構造の同定を行った。測定装置は、株式会社リガク製の粉末X線回折測定装置(MultiFlex)を用いた。単相酸化物A1~A3のXRDパターンを図4に示す。図4から、いずれも単相構造のカチオン非秩序型岩塩構造を有していることが理解できる。
【0049】
(実施例1)
<負極>
単相酸化物A1と、アセチレンブラック(AB)と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、80:10:10の質量比で配合し、適量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を分散媒として用いてスラリーを調製した。得られたスラリーを銅箔の片面に塗布した。塗膜を十分に乾燥させた後、銅箔とともに打ち抜いて、直径1.0cmのコイン形の負極を得た。
【0050】
<正極>
Li1.1Mn1.9と、アセチレンブラック(AB)と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、80:10:10の質量比で配合し、適量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を分散媒として用いてスラリーを調製した。得られたスラリーをAl箔の片面に塗布した。塗膜を十分に乾燥させた後、銅箔とともに打ち抜いて、直径1.0cmのコイン形の正極を得た。
【0051】
<水溶液電解質>
LiTFSIと水とを、モル比21:56で混合し、濃度21mol/kgのLiTFSI水溶液を調製し、これを水溶液電解質として用いた。
【0052】
<コイン形電池の充放電>
負極、正極および水溶液電解質を用いて、コイン形電池を組み立て、正極活物質の質量あたり概ね10mA/gの電流値で、25℃で、0V-2.6Vの範囲で充放電を22サイクル繰り返した。そのとき得られた充放電カーブを図5に示す。
【0053】
図5より、水溶液電解質のリチウム塩(TFSI)に由来するリチウムイオン濃度が十分に高い場合、サイクル特性に優れた2.6V級の水溶液電解質二次電池が得られることが確認できた。単相酸化物A1の代わりに、単相酸化物A2、単相酸化物A3を用いた場合にも、同様に2.0Vを超える水溶液電解質二次電池を得ることができる。
【0054】
(比較例1)
水溶液電解質として、LiTFSIと水とを混合し、濃度1mol/kgのLiTFSI水溶液を調製し、これを水溶液電解質として用いたこと以外、実施例1と同様にコイン形電池を組み立て、同様の充放電を3サイクル繰り返した。そのとき得られた充放電カーブを図6に示す。
【0055】
図6より、水溶液電解質のリチウム塩に由来するリチウムイオン濃度が不十分、もしくは常温溶融水和物が形成されない場合には、2Vを超える電圧が得られず、水の電気分解が進行することが理解できる。
【0056】
(実施例2)
正極活物質をLi1.05Mn1.95に変更したこと以外、実施例1と同様にコイン形電池を組み立て、電流値を100mA/gに変更したこと以外、実施例1と同様の充放電を100サイクル繰り返した。このとき得られた充放電カーブを図7に示す。また、サイクル数と放電容量(mAh/g)との関係を図8に示す。
【0057】
図7、8より、充放電の電流値を100mA/gに変更した場合でも、十分な高容量と高電圧が得られ、かつ良好なサイクル特性が得られることが示された。
【符号の説明】
【0058】
1:セパレータ、2:正極、2a:正極リード片、3:負極、3a:負極リード片、7:ナット、8:鍔部、9:ガスケット、10:電池ケース、12:容器本体、13:蓋体、14:外部正極端子、16:安全弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8