(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022027977
(43)【公開日】2022-02-14
(54)【発明の名称】神経障害性疼痛の治療用薬剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20220203BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20220203BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220203BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220203BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20220203BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20220203BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P25/04
A61P43/00 111
A61K39/395 N
A61K31/517
A61K31/5377
A61K31/4709
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205147
(22)【出願日】2021-12-17
(62)【分割の表示】P 2019169072の分割
【原出願日】2012-07-05
(31)【優先権主張番号】61/504,737
(32)【優先日】2011-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514005157
【氏名又は名称】スィーケフス ソールラン ホーエフ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】ケルステン クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】キャメロン マルテ グロンリー
(72)【発明者】
【氏名】ミャランド スヴェイン
(57)【要約】
【課題】神経障害性疼痛の治療に使用される、EGFRポリペプチド活性を阻害する薬剤を提供する。
【解決手段】薬剤は、がんをもたないか又は以前にがんを治療したことがなく、かつ治療された被検者が、神経障害性疼痛の症状を示さず、前記治療が、神経障害性疼痛の症状を減弱するか又は調節するか、もしくは前記治療された被検者が、がんを有し、神経障害性疼痛の症状を示し、かつ前記治療が、腫瘍治療とは独立に、神経障害性疼痛の症状を減弱するか又は調節する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGFRポリペプチド活性を阻害する薬剤を含む、被検者における神経障害性疼痛の治療のための医薬組成物であって、
前記被検者が、がんをもたないが、神経障害性疼痛の症状を示し、かつ前記被検者が、オピオイド治療を受けていないことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
前記薬剤が、前記EGFRポリペプチドに特異的に結合する抗原結合タンパク質である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記抗原結合タンパク質が、セツキシマブ、マツズマブ、ネシツムマブ、ニモツズマブ、パニツムマブ、及びザルツムマブからなる群より選ばれる、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記抗原結合タンパク質が、セツキシマブ及びパニツムマブからなる群より選ばれる、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記薬剤が、低分子薬剤である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記低分子薬剤が、アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、ネラチニブ及びバンデタニブからなる群より選ばれる、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記低分子薬剤が、ゲフィチニブ及びエルロチニブからなる群より選ばれる、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記治療される被検者が、動物である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記動物が、ヒトである、請求項8に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経障害性疼痛の治療に使用される、EGFRポリペプチド活性を阻害する薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
神経損傷後の慢性疼痛及び/又は神経障害性疼痛は、世界的に大きな健康問題である。神経障害性疼痛(NP)は、体性感覚系の原発病変又は疾患によって生じる(Jensen TS, Baron R, Haanpaa M, et al. A new definition of neuropathic pain. Pain 2011;152:2204-5)。普通は、NPについてその重症度、慢性度及び現在の薬理学的治療の不充分な副作用と効力との比率によって(Dworkin RH. An overview of neuropathic pain: syndromes, symptoms, signs, and several mechanisms. Clin J Pain 2002;18:343-9; Finnerup NB, Sindrup SH, Jensen TS. The evidence for pharmacological treatment of neuropathic pain. Pain 2010;150:573-81)、患者の中には身体的且つ心理的機能が激しく損なわれることになることがあり得る(Jensen MP, Chodroff MJ, Dworkin RH. The impact of neuropathic pain on health-related quality of life: review and implications. Neurology 2007;68:1178-82)。一般集団において、NPの発生率は1%であると推定され(Dieleman JP、Kerklaan J、Huygen FJ、Bouma PA, Sturkenboom MC. Incidence rates and treatment of neuropathic pain conditions in the general population. Pain 2008;137:681-8)、上昇している(上記、Dworkin)。結果として中等度から重症までの慢性のNPの罹患率は5%であり(Bouhassira D, Lanteri-Minet M, Attal N, Laurent B, Touboul C. Prevalence of chronic pain with neuropathic characteristics in the general population. Pain 2008;136:380-7)、世界的に共通の且つ手ごわい健康問題になっている。
【0003】
NPの多数の病因論にもかかわらず、由来に関係なく、その永続化の機序は、神経細胞、グリア細胞及び免疫細胞の相互作用を含むことがわかってきた(Scholz J, Woolf CJ. The neuropathic pain triad: neurons, immune cells and glia. Nat Neurosci 2007;10:1361-8)。これらの細胞間の連絡は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)タンパク質のファミリーを介してシグナル伝達することによるものである(Ji RR, Gereau RWt, Malcangio M, Strichartz GR. MAP kinase and pain. Brain Res Rev 2009;60:135-48)。
神経障害性疼痛は、通常は組織損傷に付随する複雑な慢性疼痛状態である。神経障害性疼痛については、神経線維自体が損傷、機能障害又は傷害されていることがあり得る。これらの損傷神経線維によって、他の疼痛中枢に誤ったシグナルが出される。神経線維傷害の影響には、傷害部位及び傷害周辺の領域双方で神経機能の変化が含まれる。一部の神経障害性疼痛研究によって、非ステロイド系抗炎症薬、例えばAleve又はMotrinの使用が疼痛を緩和し得ることが提唱されている。一部の人々には、より強い鎮痛剤、例えばモルヒネを含有するものを必要とする場合がある。場合によっては抗痙攣剤及び抗うつ剤が作用するようである。他の状態、例えば糖尿病が含まれる場合には、その障害のより良好な治療が疼痛を軽減し得る。
治療が困難である場合に、疼痛専門医は、疼痛を治療するために、侵襲的デバイス又は植込み型デバイス治療法を用いることになる。神経障害性疼痛発生に関係する神経の電気刺激もまた、疼痛症状を制御し得る。
残念なことに、神経障害性疼痛は、標準疼痛治療にしばしば不充分に反応し、時間が経つにつれて良くなる代わりにときどきより悪くなる場合がある。一部の人々については、それによって、重篤な障害につながり得る。現在の治療は、満足できない副作用と効力との比率に特徴を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、神経障害性疼痛のような神経学的障害を標的にする追加の治療法が、緊急に求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、神経障害の治療のための組成物及び方法に関する。特に、本発明は、神経障害の治療の臨床目標としてのEGFRに関する。
従って、一部の実施態様において、本発明は、神経障害をもつ被検者を治療する方法であって、EGFRポリペプチドの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤を前記被検者に投与することを含む、前記方法を提供する。一部の実施態様において、被検者は神経障害の症状を示し、前記薬剤を前記投与することによって前記神経障害の症状が減弱されるか又は調節される。一部の実施態様において、薬剤は、前記EGFRポリペプチドに特異的に結合する抗原結合タンパク質である。一部の実施態様において、抗原結合タンパク質は、ベバシズマブ、セツキシマブ、コナツムマブ、ガニツマブ、マツズマブ、ネシツムマブ、ニモツズマブ、パニツムマブ、リロツムマブ、トラスツズマブ、及びザルツムマブからなる群より選ばれる。一部の実施態様において、抗原結合タンパク質は、好ましくセツキシマブ又はパニツムマブからなる群より選ばれる。一部の実施態様において、薬剤は、低分子薬剤である。一部の実施態様において、低分子薬剤は、アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、ネラチニブ及びバンデタニブからなる群より選ばれる。一部の実施態様において、低分子薬剤は、好ましくはゲフィチニブ及びエルロチニブからなる群より選ばれる。一部の実施態様において、被検者は動物である。一部の実施態様において、動物はヒトである。一部の実施態様において、被検者は、がんをもたないか又は以前にがんを治療したことがない。一部の実施態様において、神経障害は、神経障害性疼痛である。一部の実施態様において、神経障害は、疼痛、坐骨神経痛、多発性硬化症、うつ病、痴呆、パーキンソン病、卒中、軸索切断(axotomia)、虚血又は再灌流傷害、ダウン症候群及び自閉症からなる群より選ばれる。一部の実施態様において、EGFRポリペプチドの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤は、少なくとも追加の治療薬と同時投与される。一部の実施態様において、少なくとも追加の治療薬は、非ステロイド系抗炎症剤、ステロイド系抗炎症剤、オピオイド系薬剤、抗うつ剤、抗痙攣薬、抗てんかん薬、抗不安剤、及びカンナビノイド及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる。
【0006】
一部の実施態様において、本発明は神経障害を治療する方法であって、神経障害の症状を示す被検者にEGFRポリペプチドの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤を投与することを含む前記方法であって、前記投与することによって前記症状が減弱されるか、調節されるか又は排除される、前記方法を提供する。一部の実施態様において、EGFRポリペプチドの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤は、少なくとも追加の治療薬と同時投与される。一部の実施態様において、少なくとも追加の治療剤は、非ステロイド系抗炎症剤、ステロイド系抗炎症剤、オピオイド系薬剤、抗うつ剤、抗痙攣薬、抗てんかん薬、抗不安剤、及びカンナビノイド及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる。
一部の実施態様において、本発明は、神経障害の治療のためのEGFRの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤の使用を提供する。一部の実施態様において、神経障害は、神経障害性疼痛、座骨神経痛、多発性硬化症、うつ病、痴呆、パーキンソン病、卒中、虚血又は再灌流傷害、軸索切断、ダウン症候群及び自閉症からなる群より選ばれる。一部の実施態様において、薬剤は、前記EGFRポリペプチドに特異的に結合する抗原結合タンパク質である。一部の実施態様において、抗原結合タンパク質は、ベバシズマブ、セツキシマブ、コナツムマブ、ガニツマブ、マツズマブ、ネシツムマブ、ニモツズマブ、パニツムマブ、リロツムマブ、トラスツズマブ、及びザルツムマブからなる群より選ばれる。一部の実施態様において、抗原結合タンパク質は、好ましくはセツキシマブ又はパニツムマブからなる群より選ばれる。一部の実施態様において、薬剤は、低分子薬剤である。一部の実施態様において、低分子薬剤は、アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、ネラチニブ及びバンデタニブからなる群より選ばれる。一部の実施態様において、低分子薬剤は、好ましくは、ゲフィチニブ及びエルロチニブからなる群より選ばれる。一部の実施態様において、EGFRポリペプチドの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤は、少なくとも追加の治療薬と同時投与される。一部の実施態様において、少なくとも追加の治療薬は、非ステロイド系抗炎症剤、ステロイド系抗炎症剤、オピオイド系薬剤、抗うつ剤、抗痙攣薬、抗てんかん薬、抗不安剤、及びカンナビノイド及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる。一部の実施態様において、投与又は同時投与は、前記神経障害の症状を減弱させるか又は調節させる。
追加の実施態様は、本明細書に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1 a-dは、本発明の治療を示す画像である。a)症例2. 写真は、患者の右手において、CRPS1の典型的な異常の持続を示している。EGRF阻害剤セツキシマブによる治療は、彼女のNPを軽減したが、基礎にある状態の血管運動症状には影響しなかった。b)症例3. 磁気共鳴画像は、最初の軽減後、NP背痛の再発のため、手術後6週目に撮られた。画像は、患者の5番目の腰椎の脊髄神経根周辺に病理学的瘢痕組織形成を示している。c及びd)症例4. EGFR阻害前c)及びEGFR阻害後d)の患者の骨盤のコンピュータ断層撮影。走査間の間に、患者は、仙骨神経をますます浸潤した発育している骨盤腫瘍にもかかわらず、彼のNPを完全に軽減した。
【
図2】
図2は、EGFR阻害の導入前後のBPI測定を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
定義
本発明の理解を容易にするために、多くの用語及び語句を以下に定義する:
本明細書に用いられる用語「神経障害性疼痛」は、通常は組織傷害に付随する複雑な慢性痛状態を意味する。神経障害性疼痛としては、下記の症候群及び疾患状態が挙げられるが、これらに限定されない: 神経障害、複合性局所疼痛症候群I型及びII型、三叉神経痛、幻肢痛、糖尿病神経障害、脊髄損傷、及び例えばがん、火傷又は心的外傷による、神経損傷。
本明細書に用いられる用語「EGFRの少なくとも1つの生物活性を阻害する」は、EGFRのいかなる活性も(例えば、本明細書に記載されている活性が含まれるがこれに限定されない)、直接EGFRタンパクに接触すること、EGFR mRNA又はゲノムDNAに接触すること、EGFRポリペプチドのコンホメーション変化を引き起こすこと、EGFRタンパクレベルを低下させること、又はEGF、TGF-アルファ、ニューレグリン、NGF及び/又はHER1、HER2、HER3及びHER4が含まれるがこれらに限定されない受容体のホモ二量体やヘテロ二量体が含まれるがこれらに限定されない異なる潜在的なリガンドのようなシグナリングパートナーとのEGFR相互作用を妨害すること、及びEGFR標的遺伝子の発現に影響を及ぼすことを介して低下させる任意の薬剤を意味する。阻害剤には、上流のシグナリング分子を妨害することによってEGFR生物活性を間接的に調節する分子も含まれる。
【0009】
本明細書に用いられる用語「siRNAs」は、低分子干渉RNAを意味する。一部の実施態様において、siRNAsは、約18-25ヌクレオチド長の二重鎖、又は二本鎖領域を意味し; siRNAsは、各鎖の3'末端に約2~4の不対ヌクレオチドをしばしば含有する。siRNAの二重鎖又は二本鎖領域の少なくとも1つの鎖は、標的RNA分子に実質的に相同であるか、又は実質的に相補的である。標的RNA分子に相補的な鎖は、「アンチセンス鎖」であり; 標的リボ核酸分子に相同な鎖は、「センス鎖」であり、また、siRNAアンチセンス鎖に相補的である。siRNAsは、また、追加の配列を含有し得る; このような配列の限定されない例としては、連結配列、又はループ、並びにステム及び他の折りたたみ構造が挙げられる。siRNAsは、無脊椎動物及び脊椎動物においてRNA干渉の引き金になる際、また、植物において転写後の遺伝子サイレンシングの間に配列特異的RNA分解の引き金になる際の重要な仲介役として機能すると思われる。
用語「RNA干渉」又は「RNAi」は、siRNAsによる遺伝子発現のサイレンシング又は低下を意味する。これは、動植物における配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングのプロセスであり、サイレンス化遺伝子の配列に二重鎖領域において相同であるsiRNAによって開始される。遺伝子は、生物体に内因性でも外因性でもよく、染色体に組み込まれて存在しているか又はゲノムに組み込まれないトランスフェクションベクター中に存在している。遺伝子の発現は、完全に或いは部分的に阻害される。RNAiは、また、標的RNAの機能を阻害すると考えられ得る; 標的RNAの機能は、完全でも部分的でもよい。
【0010】
本明細書に用いられる用語「エピトープ」は、特定の抗体と接触する抗原のその部分を意味する。
タンパク又はタンパクの断片が宿主動物を免疫化するために用いられる場合、タンパクの多数の領域は、タンパク上の所定の領域又は三次元構造と特異的に結合する抗体の産生を誘導し得る; これらの領域又は構造は、「抗原決定基」と呼ばれる。抗原決定基は、抗体と結合するために無傷の抗原(すなわち、免疫応答を誘発するために用いられる「免疫原」)と競合し得る。
抗体とタンパク又はペプチドの相互作用に関して用いられる場合の用語「特異結合」又は「特異的に結合する」は、相互作用がタンパク上の特定の構造(すなわち、抗原決定基又はエピトープ)の存在に依存する; 言い換えれば、抗体は、一般のタンパク質よりもむしろ特異的なタンパク構造を認識し且つそれに結合する。例えば、抗体がエピトープ「A」に特異的である場合には、標識「A」及び抗体を含有する反応においてエピトープA(又は遊離の非標識A)を含有するタンパクが存在すると抗体に結合した標識Aの量が減少する。
本明細書に用いられる用語「非特異結合」及び「バックグラウンド結合」は、抗体及びタンパク又はペプチドの相互作用に関して用いられる場合、特定の構造の存在に依存しない相互作用を意味する(すなわち、抗体は、エピトープのような特定の構造よりはむしろ一般のタンパク質に結合している)。
【0011】
本明細書に用いられる用語「被検者」は、特定の治療の受容個体になる、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類等が含まれるがこれらに限定されない任意の動物(例えば、哺乳類)を意味する。典型的には、用語「被検者」及び「患者」は、ヒト被検者に関して本明細書においては同じ意味で用いられている。
本明細書に用いられる用語「非ヒト動物」は、脊椎動物、例えばげっ歯類、非ヒト霊長類、ヒツジ、ウシ、反芻動物、ウサギ、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、鳥類等が含まれるが、これらに限定されない全ての非ヒト動物を意味する。
用語「遺伝子」は、ポリペプチド、前駆体、又はRNA(例えば、rRNA、tRNA)の産生に必要なコード配列を含む核酸(例えば、DNA)配列を意味する。ポリペプチドは、全長又は断片の望ましい活性又は機能特性(例えば、酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達、免疫原性等)が保持される限り、全長コード配列によって又はコード配列の任意の部分によってコードされ得る。用語は、また、遺伝子が全長mRNAの長さに対応するように、構造遺伝子のコード領域及び両端上に約1kb以上の距離の5'と3'両端上にコード領域に隣接して位置する配列を包含する。コード領域の5'に位置し且つmRNA上に存在する配列は、5'非翻訳配列と呼ばれる。コード領域の3'又は下流に位置し且つmRNA上に存在する配列は、3'非翻訳配列と呼ばれる。用語「遺伝子」は、cDNA及び遺伝子のゲノム形態を包含する。遺伝子のゲノム形態又はクローンは、「イントロン」又は「介在領域」又は「介在配列」と呼ばれる非コード配列で中断されたコード領域を含有する。イントロンは、核RNA(hnRNA)に転写される遺伝子のセグメントである; イントロンは、エンハンサーのような調節エレメントを含有し得る。イントロンは、細胞核転写物又は一次転写物から取り出されるか又は「切り出される」; それ故、イントロンは、メッセンジャRNA(mRNA)転写物にはない。mRNAは、新生ポリペプチドにおけるアミノ酸の配列又は順序を特定するために翻訳中に機能する。
【0012】
本明細書に用いられる用語「遺伝子発現」は、遺伝子の「転写」によって(すなわち、RNAポリメラーゼの酵素活性を経て)遺伝子にコードされた遺伝情報をRNA(例えば、mRNA、rRNA、tRNA、又はsnRNA)に、また、タンパク質コード遺伝子については、mRNAの「翻訳」によってタンパク質に変換するプロセスを意味する。遺伝子発現は、プロセスにおいて多くの段階で調節され得る。「アップレギュレーション」又は「活性化」は、遺伝子発現産物(すなわち、RNA又はタンパク)の産生を増加させる調節を意味し、「ダウンレギュレーション」又は「抑制」は産生を減少する調節を意味する。アップレギュレーション又はダウンレギュレーションに関係する分子(例えば、転写因子)は、それぞれ、「アクチベーター」及び「レプレッサー」としばしば呼ばれている。
「アミノ酸配列」及び「ポリペプチド」又は「タンパク」のような用語は、アミノ酸配列を、詳述されたタンパク分子と関連した完全な未変性アミノ酸配列に限定しないことを意味する。
本明細書に用いられる用語「未変性タンパク質」は、タンパク質がベクター配列によってコードされたアミノ酸残基を含有しないことを意味する; すなわち、未変性タンパク質は、天然に存在するタンパク質に見られるアミノ酸のみを含有する。未変性タンパク質は、組換え手段によって産生されてもよく、天然に存在する供給源から分離されてもよい。
本明細書に用いられる用語「部分」は、タンパクに関する(「所定のタンパクの一部」のような)場合、そのタンパクの断片を意味する。断片は、4つのアミノ酸残基からアミノ酸配列全体引く1つのアミノ酸までの大きさの範囲にあり得る。
【0013】
本明細書に用いられる用語「生体外」は、人工環境に及び人工環境内に存在するプロセス又は反応を意味する。生体外環境は、試験管及び細胞培養からなることができるが、これらに限定されない。用語は、「生体内」は、自然環境(例えば、動物又は細胞)及び自然環境内に存在するプロセス又は反応を意味する。
用語「試験化合物」及び「候補化合物」は、身体機能の疾患、疾病、病気又は障害(例えば、神経障害)を治療するか又は予防するために用いられる候補である任意の化学成分、医薬品、薬剤等を意味する。試験化合物は、既知の治療化合物及び潜在的な治療化合物双方を含む。試験化合物は、本明細書に記載されるスクリーニング法を用いて選別することによって治療的であることが決定され得る。一部の実施態様において、試験化合物には、アンチセンス化合物が含まれる。
本明細書に用いられる用語「試料」は、最も広い意味で用いられる。1つの意味では、任意の供給源から得られる試料又は培養物、並びに生体試料及び環境試料が含まれることを意味する。生体試料は、動物(ヒトが含まれる)から得られることになり、流体、固体、組織、及び気体を包含し得る。生体試料には、血液製剤、例えば血漿、血清等が含まれる。環境試料には、表面物質、土壌、水、結晶又は工業用試料のような環境材料が含まれる。しかしながら、このような例は、記載されている組成物及び方法に適用できる試料タイプを限定するものとして解釈されるべきでない。
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は、神経障害の治療のための組成物及び方法に関する。特に、本発明は、神経障害の治療のための臨床標的としてのEGFRに関する。
【0015】
I. 治療適用
本発明は、神経障害の治療のための組成物及び方法に関する。特に、本発明は、神経障害の治療のための臨床標的としてのEGFRに関する。
EGF-MAPKシグナルは、傷害又は機能不全に応答してニューロンや神経膠細胞において活性化される。EGFRを阻害すると、ネガティブフィードバックループが中断され、それによって、神経障害(疼痛、神経障害性疼痛、MS、うつ病、痴呆、パーキンソン病、卒中、軸索切断等)からの症状が緩和され得る。特に神経障害性疼痛においては、疼痛に対する神経線維の病的感作が阻害される。
神経損傷による疼痛は、中枢、脊髄及び末梢の神経において、並びに星状膠細胞やシュワン細胞のような末梢及び中枢のグリアにおいて3つの経路ERK、p38及びJNKを経てMAPKシグナルによって発生し且つ維持されると考えられている(Ji RR, Gereau RWt, Malcangio M, Strichartz GR. MAP kinase and pain. Brain Res Rev 2009;60(1):135-48)。更に、神経細胞、グリア細胞及び免疫細胞の間の連絡は、神経障害性疼痛において確立された病原因子である(Scholz J, Woolf CJ. The neuropathic pain triad: neurons, immune cells and glia. Nat. Neurosci. 2007;10(11):1361-8)。神経損傷後のこれらの細胞間の活性化及び連絡は、MAPKシグナルに依存することが示されており、EGFRが潜在的に活性化し、これが神経系においてアップレギュレートされる(Werner MH, Nanney LB, Stoscheck CM, King LE. Localization of immunoreactive epidermal growth factor receptors in human nervous system. J. Histochem. Cytochem. 1988;36(1):81-6; Maklad A, Nicolai JR, Bichsel KJ, Evenson JE, Lee TC, Threadgill DW, et al. The EGFR is required for proper innervation to the skin. J. Invest. Dermatol. 2009;129(3):690-8; Ji RR. Mitogen-activated protein kinases as potential targets for pain killers. Curr Opin Investig Drugs 2004;5(1):71-5)。
【0016】
MAPKシグナル経路の活性化は、神経疾患及び神経障害性疼痛における重要性が確立している。EGFR阻害は、これらの経路のいくつかを効果的に遮断する(JNK、RAS-MEK-ERK、STAT等)。本発明の実施態様は、EGFRを阻害することによって神経障害を治療する方法を提供する。本発明は、特定の神経障害に限定されない。例えば、一部の実施態様において、本発明は、疼痛、神経障害性疼痛、MS、うつ病、痴呆、パーキンソン病、卒中、虚血や再灌流傷害、虚血脳損傷、及び軸索切断を治療するためにEGF受容体を阻害する方法を提供する。例えば、Oyagi et al., Neuroscience. 2011 Jun 30;185:116-24 and Chen-Plotikin et al., Ann Neurol. 2011 Apr;69(4):655-63を参照のこと。本発明の薬剤の投与がダウン症候群や自閉症のような遺伝的障害と関連した症状を回復させるのに有効であることも企図される。
本発明の実施態様の開発中に行われた実験は、神経障害性疼痛患者において腫瘍退縮せずに劇的に、即時に且つ反復して疼痛減少を示した。この作用は、セツキシマブで治療される患者において見出された。
従って、本発明は、EGFRポリペプチドの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤を用いて、下記の疾患又は障害に関連した1つ以上の症状を減弱させるか、改善させるか、調節させるか、又は予防する方法を提供する: 疼痛、神経障害性疼痛、座骨神経痛、MS、うつ病、痴呆、パーキンソン病、卒中、虚血や再灌流傷害、虚血脳損傷、軸索切断、ダウン症及び自閉症。
【0017】
A. 抗体治療
一部の実施態様において、本発明は、EGFRを標的にする抗体を用いる。適切な任意の抗体(例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、又は合成抗体)が本明細書に開示される治療法に用いられてもよい。
一部の実施態様において、神経障害性疼痛のような神経障害は、抗原結合タンパク質で治療される。好適な抗原結合タンパク質としては、ベバシズマブ、セツキシマブ、コナツムマブ、ガニツマブ、マツズマブ、ネシツムマブ、ニモツズマブ、パニツムマブ、リロツムマブ、トラスツズマブ、及びザルツムマブが挙げられるが、これらに限定されない。一部の好ましい実施態様においては、モノクローナル抗体セツキシマブ(Eli Lilly and Company、New York、NY)が用いられる。セツキシマブは、いずれの内因性リガンドよりも高い親和性を有する上皮成長因子受容体の細胞外ドメインに結合する組換えキメラヒトマウス免疫グロブリンG1抗体である。この結合は受容体リン酸化及び活性化を阻害し、それが受容体内部移行及び分解につながる。(The biological properties of cetuximab. Vincenzi B, Schiavon G, Silletta M, Santini D, Tonini G. Crit Rev Oncol Hematol. 2008 Nov;68(2):93-106. Epub 2008 Aug 3. Review)。セツキシマブは、がんを治療するために認可されており、EGFシグナル経路においてK-RAS突然変異がなく結腸直腸がんに最もしばしば用いられている。セツキシマブは、EGFR活性化を阻害するために開発され、いくつかの経路、特に、MAPKシグナルの更なる阻害につながった。このIgG1抗体を結腸直腸がんに用いて、リガンドEGFによる活性化を阻害するが、EGFRを遮断するので、他のEGF結合リガンドの結合も阻止する。他の好ましい実施態様においては、モノクローナル抗体パニツムマブが用いられている(Amgen、Thousand Oaks、CA)。
好ましい実施態様において、抗原結合タンパク質は、ヒト化抗体である。抗体をヒト化する方法は、当該技術においてよく知られている(例えば、米国特許第6,180,370号明細書、同第5,585,089号明細書、同第6,054,297号明細書及び同第5,565,332号明細書を参照のこと; これらの引例の各々が本願明細書に援用されている)。
好ましい実施態様において、抗体ベースの治療は、後述するように医薬組成物として配合される。好ましい実施態様において、本発明の抗体組成物の投与により、神経障害の症状の測定可能な減少が生じる。
【0018】
B. RNA干渉及びアンチセンス治療
一部の実施態様において、本発明は、EGFRの発現をモジュレートする物質を用いる。例えば、一部の実施態様において、本発明は、EGFRをコードする核酸分子の機能をモジュレートし、最終的には発現されるEGFRの量をモジュレートするのに用いられる、オリゴマーアンチセンス又はRNAi化合物、特にオリゴヌクレオチド(例えば、本明細書に記載されているもの)を含む組成物を使う。
1. RNA干渉(RNAi)
一部の実施態様において、EGFRタンパク機能を阻害するためにRNAiが用いられる。RNAiは、ヒトが含まれるほとんどの真核生物において異質遺伝子の発現を制御するための進化的に保存された細胞防御を表している。RNAiは、典型的には二本鎖RNA(dsRNA)が引き金になり、dsRNAに応答して相同の一本鎖標的RNAの配列特異的mRNA分解を引き起こす。mRNA分解の仲介物は、低分子干渉RNA二重鎖(siRNA)であり、通常は長いdsRNAから細胞における酵素的切断によって産生される。siRNAsは、一般的には長さが約21ヌクレオチド(例えば長さが21-23ヌクレオチド)であり、2つのヌクレオチド3'-突出部に特徴を有する塩基対構造を有する。低分子RNA、又はRNAiを細胞に導入した後、配列がRISC(RNA誘導サイレンシング複合体)と呼ばれる酵素複合体に送達されると考えられる。RISCは、標的を認識し、それをエンドヌクレアーゼで切断する。より大きいRNA配列が細胞に送達される場合には、RNase III酵素(Dicer)がより長いdsRNAを21-23nt ds siRNA断片に変換することがわかる。
【0019】
化学的に合成されたsiRNAsは、培養体細胞における哺乳類遺伝子機能のゲノムレベル解析に対して強力な試薬になっている。遺伝子機能の確証のための価値を超えて、siRNAsは、遺伝子特異的治療剤としても大きな可能性を保持している(Tuschl and Borkhardt, Molecular Intervent. 2002; 2(3):158-67、この文献は本願明細書に援用されている)。
siRNAを動物細胞へトランスフェクトすることにより、特異的遺伝子の強力な持続性の転写後サイレンシングが生じる(Caplen et al, Proc Natl Acad Sci U.S.A. 2001; 98: 9742-7; Elbashir et al., Nature. 2001; 411:494-8; Elbashir et al., Genes Dev. 2001;15: 188-200; Elbashir et al., EMBO J. 2001; 20: 6877-88、これらの文献の全てが本願明細書に援用されている)。RNAiをsiRNAsで行うための方法及び組成物は、例えば、米国特許第6,506,559号明細書に記載されており、この引例は本願明細書に援用されている。
siRNAsは、標的にされたRNAの量を、エクステンションタンパク質によって、しばしば検出不可能なレベルに低減するのに非常に効果的である。サイレンシング効果は数ヶ月間持続することができ、標的RNAとsiRNAの中心領域との間の1つのヌクレオチドの違いがサイレンシングを防止するのにしばしば充分であることから非常に特異的である。(Brummelkamp et al, Science 2002; 296:550-3; Holen et al, Nucleic Acids Res. 2002; 30:1757-66、これらの文献のいずれもが本願明細書に援用されている)。
【0020】
siRNAsの設計において重要な要素は、siRNA結合のために接近可能な部位の存在である。Bahoiaら(J. Biol. Chem., 2003; 278: 15991-15997; 本願明細書に援用されている)は、効果的なsiRNAsを設計するためにmRNAにおいて接近可能な部位を見つける走査アレイと呼ばれるDNAアレイ型の使用を記載している。これらのアレイは、配列における各塩基の段階的付加による物的障壁(マスク)を用いて合成されるサイズがモノマーからある特定の最大までの範囲にあるオリゴヌクレオチド、通常はコマー(Comer)を含んでいる。従って、アレイは、標的遺伝子の領域の完全オリゴヌクレオチド相補体を表している。これらのアレイに対する標的mRNAのハイブリダイゼーションは、標的mRNAのこの領域の網羅的な接近性プロファイルを与える。このようなデータは、効力及び標的特異性を保持するために、アンチセンスオリゴヌクレオチド(7量体から25量体までの範囲にある)の設計に有効であり、オリゴヌクレオチド長と結合親和性の間の妥協を達成することが重要である(Sohail et al, Nucleic Acids Res., 2001; 29(10): 2041- 2045)。siRNAsを選択する追加の方法及び関心は、例えば、国際公開第05054270号パンフレット、同第05038054A1号パンフレット、同第03070966A2号パンフレット、J Mol Biol. 2005 May 13;348(4):883-93, J Mol Biol. 2005 May 13;348(4):871-81, and Nucleic Acids Res. 2003 Aug 1;31(15):4417-24に記載されており、これらの文献の各々が本願明細書に全体として援用されている。更に、ソフトウェア(例えば、MWGオンラインsiMAX siRNA設計ツール)は、siRNAsの選択に用いるのに商業的に又は公的に利用できる。
【0021】
一部の実施態様において、本発明は、平滑末端部(例えば、米国特許出願公開第20080200420号明細書を参照のこと、この引例は本願明細書に全体として援用されている)、突出部(例えば、米国特許出願公開第20080269147A1号明細書を参照のこと、この引例は本願明細書に全体として援用されている)、ロックド核酸(例えば、国際公開第2008/006369号パンフレット、同第2008/043753号パンフレット及び同第2008/051306号パンフレットを参照のこと、これらの引例の各々は本願明細書に全体として援用されている)が含まれるsiRNAを用いる。一部の実施態様において、siRNAは、遺伝子発現を介して又は細菌を用いて送達される(例えば、Xiang et al., Nature 24: 6 (2006)及び 国際公開第06066048号パンフレットを参照のこと、これらの文献の各々は本願明細書に全体として援用されている)。
他の実施態様において、shRNA技術(例えば、20080025958を参照のこと、この引例は本願明細書に全体として援用されている)が用いられる。低分子ヘアピンRNA又はショートヘアピンRNA(shRNA)は、RNA干渉を介してサイレンス遺伝子発現に使用し得るタイトなヘアピンターンをつくるRNA配列である。shRNAは、shRNAが常に発現されることを確実にするために細胞に導入されたベクターを用い且つU6プロモーターを用いる。このベクターは通常は娘細胞に移され、遺伝子サイレンシングを引き継ぐことができる。shRNAヘアピン構造は、細胞機構によってsiRNAに切断され、次にRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に結合される。この複合体は、結合されているsiRNAに適合するmRNAに結合し、mRNAを切断する。shRNAは、RNAポリメラーゼIIIによって転写される。
【0022】
2. アンチセンス
他の実施態様において、EGFR発現は、EGFR及び/又はEGFRをコードする1つ以上の核酸と特異的にハイブリダイズするアンチセンス化合物を用いてモジュレートされる。その標的核酸とオリゴマー化合物との特異的ハイブリダイゼーションは、核酸の通常機能に干渉する。それに特異的にハイブリダイズする化合物による標的核酸の機能のこのモジュレーションは、一般的には「アンチセンス」と呼ばれる。干渉されるDNAの機能には、複製及び転写が含まれる。干渉されるRNAの機能には、すべての生体機能、例えば、RNAのタンパク翻訳部位へのトランスロケーション、タンパク質のRNAからの翻訳、1つ以上のmRNA種を産生するRNAのスプライシング、RNAに関与するか又はRNAによって促進され得る触媒活性が含まれる。標的核酸機能によるこのような干渉の作用全体がEGFRの発現のモジュレーションである。本発明に関連して、「モジュレーション」は、遺伝子の発現の増大(刺激)又は減少(阻害)を意味する。例えば、発現を阻害して、神経障害を治療し得る。
【0023】
アンチセンスとして特定の核酸を標的にすることが好ましい。本発明に関連して、具体的な核酸に対してアンチセンス化合物を「標的にする」ことは、多段階プロセスである。プロセスは、通常、機能がモジュレートされる核酸配列の同定から開始される。これは、例えば、発現が具体的な障害又は疾患状態と関係している細胞遺伝子(又は遺伝子から転写されるmRNA)、又は感染因子からの核酸分子でもよい。本発明において、標的は、EGFRをコードする核酸分子である。標的にするプロセスには、望ましい作用、例えば、タンパク質の発現の検出又はモジュレーションが起こるように生じるアンチセンス相互作用に対してこの遺伝子の範囲内で部位(1つ又は複数)の決定が含まれる。本発明に関連する範囲内で、好ましい遺伝子内部位は、遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)の翻訳開始又は終止コドンを包含する領域である。翻訳開始コドンが典型的には5'-AUG(転写されたmRNA分子において; 対応するDNA分子中の5'-ATG)であるので、翻訳開始コドンは、「AUGコドン」、「開始コドン」又は「AUG開始コドン」とも呼ばれる。少数の遺伝子がRNA配列5'-GUG、5'-UUG又は5'-CUGを有する翻訳開始コドンを有し、5'-AUA、5'-ACG及び5'-CUGが生体内で機能することが示されている。従って、用語「翻訳開始コドン」及び「開始コドン」は、各例における開始アミノ酸が、典型的にはメチオニン(真核生物において)又はホルミルメチオニン(原核生物において)であるとしても、多くのコドン配列を包含し得る。真核遺伝子及び原核遺伝子は、2つ以上の別の開始コドンを有する場合があり、そのいずれか1つは特定の細胞型又は組織において、又は特定の一組の条件下で翻訳開始に優先的に用いられ得る。本発明に関連して、「開始コドン」及び「翻訳開始コドン」は、EGFRをコードする遺伝子から転写されるmRNA分子の翻訳を開始するために生体内で用いられるコドン(1つ又は複数)を意味する。
【0024】
遺伝子の翻訳終止コドン(又は「停止コドン」)は、3つの配列(すなわち、5'-UAA、5'-UAG及び5'-UGA; 対応するDNA配列は、それぞれ、5'-TAA、5'-TAG及び5'-TGAである)の1つを有し得る。用語「開始コドン領域」及び「翻訳開始コドン領域」は、翻訳開始コドンからいずれかの方向(すなわち、5'又は3')に約25から約50までの隣接ヌクレオチドを包含するようなmRNA又は遺伝子の一部を意味する。同様に、用語「停止コドン領域」及び「翻訳終止コドン領域」は、翻訳終止コドンからいずれかの方向(すなわち、5'又は3')に約25から約50までの隣接ヌクレオチドを包含するようなmRNA又は遺伝子の一部を意味する。
オープンリーディングフレーム(ORF)又は「コード領域」は、翻訳開始コドンと翻訳終止コドンの間の領域を意味し、効果的に標的にされ得る領域でもある。他の標的領域には、翻訳開始コドンから5'方向にmRNAの部分を意味し、従ってmRNAの5'キャップ部位と翻訳開始コドン間のヌクレオチド又は遺伝子上の対応するヌクレオチドが含まれる5'非翻訳領域(5' UTR)、及び翻訳終止コドンから3'方向にmRNAの部分を意味し、従って翻訳終止コドンとmRNAの3'端間のヌクレオチド又は遺伝子上の対応するヌクレオチドが含まれる3'非翻訳の領域(3' UTR)が含まれる。mRNAの5'キャップは、5'-5'三リン酸エステル結合を介してmRNAの最も5'側の残基に結合したN7-メチル化グアノシン残基を含んでいる。mRNAの5'キャップ領域は、5'キャップ構造自体だけでなくキャップに隣接した最初の50ヌクレオチドが含まれると考えられる。キャップ領域が好ましい標的領域であってもよい。
【0025】
一部の真核mRNA転写物が直接翻訳されるが、多くは翻訳される前に転写物から切り出される「イントロン」として知られる1つ以上の領域を含有する。残りの(それ故に翻訳された)領域は、「エクソン」として知られ、一緒にスプライスされて、連続mRNA配列が形成される。mRNAスプライス部位(すなわち、イントロン-エクソン接合部)もまた、好ましい標的領域であってもよく、異常スプライシングが疾患に関係しているか、又は具体的なmRNAスプラス産物の過剰産生が疾患に関係している状況において特に有効である。
一部の実施態様において、アンチセンス阻害のための標的部位は、市販のソフトウェアプログラムを用いて同定される(例えば、Biognostik, Gottingen, Germany; SysArris Software, Bangalore, India; Antisense Research Group, University of Liverpool, Liverpool, England; GeneTrove, Carlsbad, CA)。他の実施態様において、アンチセンス阻害のための標的部位は、PCT国際公開第0198537A2号パンフレットに記載されている接近可能な部位方法を用いて同定され、この引例は本願明細書に援用されている。
1つ以上の標的部位が同定されると、望ましい作用を得る標的に充分に相補性である(すなわち、充分によく且つ充分な特異性をもってハイブリダイズする)オリゴヌクレオチドが選択される。例えば、本発明の好ましい実施態様において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、開始コドンの標的にされるか又は開始コドンの近くの標的にされる。
【0026】
本発明に関連して、アンチセンス組成物及び方法についての「ハイブリダイゼーション」は、相補性ヌクレオシド又はヌクレオチド塩基の間の、ワトソン-クリック型、フーグスティーン型又は逆フーグスティーン型水素結合でもよい水素結合を意味する。例えば、アデニン及びチミンは、水素結合の形成によって対になる相補性核酸塩基である。アンチセンス化合物の配列が特異的にハイブリダイズ可能であるその標的核酸の配列に100%相補性である必要がないことが理解される。アンチセンス化合物は、その化合物の標的DNA又はRNA分子への結合が標的DNA又はRNAの正常機能に干渉して、効用喪失を引き起こす場合に、特異的にハイブリダイズ可能であり、相補性の程度は特異結合が望まれる条件下で(すなわち、生体内分析又は治療的治療の場合には生理学的条件下で、また、生体外分析の場合には分析が行われる条件下で)アンチセンス化合物の非標的配列への非特異結合を回避するのに充分な程度である。
アンチセンス化合物は、研究用試薬及び診断用薬として一般に用いられている。例えば、遺伝子発現を特異的に阻害することができるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、特定の遺伝子の機能を解明するために使用し得る。アンチセンス化合物は、また、例えば、生物学的経路の様々な部分の機能を識別するためにも用いられる。
【0027】
アンチセンスの特異性と感受性もまた、治療的使用に適用される。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、動物及びヒトにおいて疾患状態の治療における治療的部分として用いられている。アンチセンスオリゴヌクレオチドはヒトに安全に且つ効果的に投与されており、多くの臨床試験が現在行われている。従って、オリゴヌクレオチドが細胞、組織、及び動物、特にヒトの治療のための治療計画に有効であるように構成され得る有効な治療法であることが確立されている。
アンチセンスオリゴヌクレオチドがアンチセンス化合物の好ましい形であるが、本発明は他のオリゴマーアンチセンス化合物も包含する。本発明のアンチセンス化合物は、好ましくは約8~約30核酸塩基(すなわち、約8~約30結合塩基)を含んでいるが、より長い配列もより短い配列も本発明で用い得る。特に好ましいアンチセンス化合物は、アンチセンスオリゴヌクレオチドであり、より好ましくは約12~約25核酸塩基を含むものである。
本発明のキメラアンチセンス化合物は、上記のように2つ以上のオリゴヌクレオチド、修飾オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオシド及び/又はオリゴヌクレオチドミメティクスの複合構造として形成されてもよい。
本発明は、また、下記のように本発明のアンチセンス化合物が含まれる医薬組成物及び配合物も含まれる。
【0028】
C. 遺伝子治療
本発明は、EGFRの発現をモジュレートするのに用いられる任意の遺伝子操作の使用を企図する。遺伝子操作の例としては、遺伝子ノックアウト(例えば、染色体から、例えば、組換えを用いてEGFR遺伝子を除去する)、誘導性プロモーターの有無によるアンチセンス構築物の発現等が挙げられるが、これらに限定されない。核酸構築物の細胞への生体外又は生体内送達は、適切な任意の方法を用いて行われ得る。適切な方法は、望ましい結果が起こるように(例えば、アンチセンス構築物の発現)核酸構造物を細胞に導入するものである。遺伝子治療は、また、生体内で(例えば、誘導性プロモーターによる刺激時に)発現されるsiRNA又は他の干渉分子を送達するために用いられてもよい。
遺伝情報をもった分子の細胞への導入は、ネイクトDNA構築物の特定部位注射、前記構築物を充填した金粒子による衝撃、及び例えば、リポソーム、バイオポリマー等を用いた巨大分子仲介遺伝子移入が含まれるが、これらに限定されない種々の方法のいずれによっても達成される。好ましい方法は、アデノウィルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、及びアデノ随伴ウイルスが含まれるが、これらに限定されないウイルスに由来する遺伝子送達ビヒクルを用いる。レトロウイルスと比較して効率がより高いことから、アデノウィルス由来のベクターは、生体内で核酸分子をホスト細胞に移動させるのに好ましい遺伝子送達ビヒクルである。アデノウイルスベクターの例及び遺伝子移入の方法は、PCT国際公開第00/12738号パンフレット及び同第00/09675号パンフレット及び米国特許第6,033,908号明細書、同第6,019,978号明細書、同第6,001,557号明細書、同第5,994,132号明細書、同第5,994,128号明細書、同第5,994,106号明細書、同第5,981,225号明細書、同第5,885,808号明細書、同第5,872,154号明細書、同第5,830,730号明細書、及び同第5,824,544号明細書に記載されており、これらの引例の各々は本願明細書に全体として援用されている。
ベクターは、種々の方法で被検者に投与され得る。例えば、本発明の一部の実施態様において、ベクターは、直接注射を用いて細胞に投与される。他の実施態様において、投与は、血液循環又はリンパ循環による(例えば、PCT国際公開第99/02685号パンフレットを参照のこと、この引例は本願明細書に全体として援用されている)。アデノウイルスベクターの例示的用量レベルは、好ましくは、潅流液に添加された108~1011ベクター粒子であるレベルである。
【0029】
D. 低分子治療
本発明の一部の実施態様は、EGFRの1つ以上の生物活性を阻害する低分子を用いる。低分子治療は、例えば、本明細書に記載されている薬剤スクリーニング法を用いて同定される。一部の実施態様において、本発明において有効な低分子治療には、アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、ネラチニブ及びバンデタニブが含まれるが、これらに限定されない。一部の好ましい実施態様において、低分子は、ゲフィチニブ又はエルロチニブ、それぞれ、商品名イレッサ(AstraZeneca、London、UK)及びタルセバ(Genentech、South San Fransisco、CA)である(Activation of epidermal growth factor receptors in astrocytes: from development to neural injury. Liu B, Neufeld AH. J Neurosci Res. 2007 Dec; 85(16):3523-9. Review)。
【0030】
E. 医薬組成物
本発明は、更に、上記の方法に用いられる医薬組成物(例えば、EGFRの発現又は活性をモジュレートする医薬剤を含んでいる)を提供する。本発明の医薬組成物は、局所治療が望まれるにしても全身治療が望まれるにしても、また、治療すべき領域によって多くの方法で投与され得る。投与は、局所(眼並びに膣送達及び直腸送達が含まれる粘膜が含まれる)、肺(例えば、ネブライザーが含まれる散剤又はエアゾール剤の吸入又は吹送; 気管内、鼻腔内、表皮又は経皮による)、経口又は非経口であってもよい。非経口投与には、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、腹腔内又は筋肉内注射又は注入; 又は脳内、例えば、髄腔内投与又は脳室内投与が含まれる。
局所投与用の医薬組成物及び製剤には、経皮パッチ、軟膏、ローション剤、クリーム剤、ゲル剤、点滴剤、坐剤、噴霧剤、液剤及び散剤が含まれ得る。慣用的な医薬担体、水性、粉末若しくは油性の基剤、増粘剤等が必要であるか又は望ましいことがあり得る。
経口投与用の組成物及び製剤には、散剤又は顆粒剤、水中又は非水性媒体中の懸濁液剤又は液剤、カプセル剤、サッシェ剤又は錠剤が含まれる。増粘剤、香味剤、希釈剤、乳化剤、分散助剤又は結合剤が望ましいことがあり得る。
非経口、髄腔内又は脳室内投与用の組成物及び製剤には、緩衝剤、希釈剤及び他の適切な添加剤(これらに限定されないが、浸透促進剤、担体化合物、他の医薬的に許容され得る担体又は賦形剤のようなもの)を含有し得る滅菌水性液剤が含まれてもよい。
【0031】
本発明の医薬組成物には、液剤、乳剤、及びリポソーム含有製剤が挙げられるが、これらに限定されない。これらの組成物は、予め形成された液体、自己乳化固形分及び自己乳化半固形分が含まれるが、これらに限定されない種々の成分から生成されてもよい。
本発明の医薬組成物は、便利には単位剤形で存在してもよく、薬品工業において周知の従来の技術に従って調製され得る。このような技術には、活性医薬剤と医薬担体(1つ以上)又は賦形剤(1つ以上)とを会合させる工程が含まれる。一般に、製剤は、活性成分と液体担体又は微粉固体担体又はこれらの双方とを一様に且つ密接に会合させ、次に、必要な場合には、生成物を成形することによって調製される。
本発明の医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、液体シロップ剤、軟ゲル剤、坐剤、浣腸剤のような、これらに限定されないが多くの考えられる剤形のいずれにも配合され得る。本発明の組成物は、また、水性媒体、非水性媒体又は混合媒体中の懸濁液として配合されてもよい。水性懸濁液剤は、更に、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール及び/又はデキストランが含まれる懸濁液の粘度を増加させる物質を含有してもよい。懸濁液は、安定剤を含有してもよい。
【0032】
本発明の組成物は、更に、医薬組成物に慣用的に見られる他の補助成分を含有してもよい。従って、例えば、組成物は、追加の適合する医薬的に活性な材料、例えば、鎮痒薬、収斂薬、局所麻酔薬又は抗炎症薬を含有してもよく、本発明の組成物の種々の剤形を物理的に配合するのに有効な追加の材料、例えば色素、香味剤、防腐剤、抗酸化剤、乳白剤、粘稠化剤、安定剤を含有してもよい。しかしながら、このような材料が添加される場合、本発明の組成物の成分の生物活性を過度に妨害してはならない。配合物は滅菌することができ、所望される場合には、配合物の核酸(1つ以上)と有害に相互作用しない補助剤、例えば、滑沢剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響する塩、緩衝剤、着色剤、香味剤及び/又は芳香族物質等と混合することができる。
投薬は、数日から数ヶ月まで続く治療過程で、又は治癒が達成されるまでか又は疾患状態の減退が達成されるまで、治療すべき疾患状態の重症度と応答性に依存している。最適投薬スケジュールは、患者の体内における薬剤蓄積の測定から算出され得る。投与する医師は、最適用量、投薬方法及び繰返し数を容易に決定し得る。最適用量は、個々の薬剤の相対効力によって異なってもよく、一般的には、生体外及び生体内動物モデルに効果的であるとわかったEC50に基づいて又は本明細書に記載されている実施例に基づいて推定され得る。一般に、用量は、体重1kgにつき0.01μg~100gであり、一日に、一週間に、一ヶ月に又は一年に一回以上投与され得る。治療している医師は、体液又は組織中の薬剤の測定された残留時間及び濃度に基づいて投薬の繰返し数を推定し得る。治療に成功した後、疾患状態の再発を防止するために被検者が維持治療を受けることが望ましい場合があり、体重1kgにつき0.01μg~100gの範囲にある維持量で一日に一回以上から20年毎に一回薬剤が投与される。
【0033】
F. 併用治療
一部の実施態様において、本発明は、本明細書に記載されている1つ以上の組成物(例えば、EGFR阻害剤)を追加の薬剤(例えば、神経障害又は神経障害性疼痛を治療するための薬剤)と併用して含む治療法を提供する。本発明は、特定の薬剤に限定されない。例としては、NSAIDやステロイド系のような抗炎症剤; オピオイド鎮痛剤; 三環系やセロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)のような抗うつ薬; ガバペンチンのような抗痙攣薬; 抗てんかん薬; ベンゾジアゼピン; 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のような抗不安薬; アルファリポ酸やベンフォチアミンのような栄養補助食品; カンナビノイド; その他が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
併用療法のための有効な薬剤の種類としては、例えば、非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDS)、アスピリン(アナシン、アスクリプチン、バイエル、バッファリン、エコトリン、エキセドリン)、コリン及びサリチル酸マグネシウム(CMT、トリコサール、トリリセート)、サリチル酸コリン(アルトロパン)、セレコキシブ(セレブレクス)、ジクロフェナクカリウム(カタフラム)、ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン、ボルタレンXR)、ジクロフェナクナトリウムとミソプロストール(オルソテック)、ジフルニサル(ドロビッド)、エトドラク(ロヂン、ロヂンXL)、フェノプロフェンカルシウム(ナフロン)、フルルビプロフェン(アンサイド)、イブプロフェン(アドビル、モートリン、モートリンIB、ニュプリン)、インドメタシン(インドシン、インドシンSR)、ケトプロフェン(アクトロン、オルヂス、オルヂスKT、オルバイル)、サリチル酸マグネシウム(Arthritab、バイエルセレクト、ドアンの丸薬、Magan、モビジン、Mobogesic)、メクロフェナム酸ナトリウム(メクロメン)、メフェナム酸(ポンステル)、メロキシカム(モービック)、ナブメトン(レラフェン)、ナプロキセン(ナプロシン、ナプレラン)、ナプロキセンナトリウム(アレベ、アナプロクス)、オキサプロジン(Daypro)、ピロキシカム(フェルデン)、ロフェコキシブ(バイオックス)、サルサレート(アミゲシック、Anaflex 750、ジサルシド、Marthritic、Mono-Gesic、Salflex、Salsitab)、サリチル酸ナトリウム(種々のジェネリック薬)、スリンダク(クリノリル)、トルメチンナトリウム(トレクチン)、バルデコキシブ(ベクストラ)のようなもの; ステロイド系抗炎症剤、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、ベクロメタゾン、ベクロメタゾン、ブデソニド、フルニソリド、フルチカゾンプロピオン酸エステル、トリアムシノロン等が含まれる; 及びオピオイド系鎮痛剤、フェンタニル、ヒドロモルフォン、メタドン、モルヒネ、オキシコドン、及びオキシモルホンが含まれるが、これらに限定されない; 抗うつ剤、三環系化合物、例えばブプロピオン、ノルトリプチリン、デシプラミン、アミトリプチリン、アミトリプチリンオキシド、ブトリプチリン、クロミプラミン、デメキシプチリン、ジベンゼピン、ジメタクリン、ドスレピン/ドチエピン、ドキセピン、イミプラミン、アミネプチン、イプリンドール、オピプラモール、チアネプチン、トリミプラミン、イミプラミンオキシド、ロフェプラミン、メリトラシン(melitracin)、メタプラミン、ニトロキサゼピン、ノキシプチリン、ピポフェジン、プロピゼピン、プロトリプチリン(protriptyine)、キヌプラミン及びSNRI、例えばデュロキセチン、ベンラファキシン、デスベンラファキシン、ミルナシプラン、レボミルナシプラン、シブトラミン、ビシファジン、SEP-227162が含まれる; 抗痙攣薬、例えばプレガバリン、ガバペンチン、カルバマゼピン、オクスカルバゼピン、ベンゾジアゼピン(例えば、アルプラゾラム、ブレタゼニル、ブロマゼパム、ブロチゾラム、クロルジアゼポキシド、シノラゼパム、クロナゼパム、クロラゼプ酸、クロチアゼパム、クロキサゾラム、デロラゼパム、ジアゼパム、エスタゾラム、エチゾラム、フルニトラゼパム、フルラゼパム(flurazapam)、フルトプラゼパム、ハラゼパム、ケタゾラム、ロプラゾラム、ロラゼパム、ロルメタゼパム、メダゼパム、ミダゾラム、ネメタゼパム、ニトラゼパム、ノルダゼパム、オキサゼパム、フェナゼパム、ピナゼパム(pinazepaam)、プラゼパム、プレマゼパム、クアゼパム、テマゼパム、テトラゼパム、トリアゾラム、クロバザム、DMCM、フルマゼニル、エスゾピクロン、ザレプロン、ゾルピデム、ゾピクロン); 選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)、例えばシタロプラム、ダポキセチン、エシタロプラム、フルオキセチン、フルボキサミン、インダルピン、パロキセチン、セルトラリン、ジメリジン; カンナビノイド、例えばデルタ-9-テトラヒドロカンナビノール、ナビロンが挙げられる。
【0035】
III. 薬剤スクリーニング適用
一部の実施態様において、本発明は、薬剤スクリーニング分析を提供する(例えば、EGFRを阻害する薬剤を選別するために)。本発明のスクリーニング法は、EGFRを用いる。例えば、一部の実施態様において、本発明は、EGFRの発現を変える(例えば、減少させる)化合物を選別する方法を提供する。化合物又は薬剤は、例えば、プロモーター領域と相互作用することによって、転写を妨害し得る。化合物又は薬剤は、EGFRから産生されるmRNAを妨害し得る(例えば、RNA干渉、アンチセンス技術等によって)。化合物又は薬剤は、EGFRの生物活性の上流又は下流である経路を妨害し得る。一部の実施態様において、候補化合物は、EGFRに対向するアンチセンス剤又は干渉RNA剤(例えば、オリゴヌクレオチド)である。他の実施態様において、候補化合物は、EGFRに特異的に結合し且つその生物学的機能を阻害する抗体又は低分子である。
一スクリーニング法において、化合物とEGFRを発現させる細胞と接触させ、次に候補化合物の発現に対する作用を分析することにより候補化合物についてEGFR発現を変えるその能力を評価する。一部の実施態様において、細胞によって発現されるEGFR mRNAのレベルを検出することによってEGFRの発現に対する候補化合物の作用が分析される。mRNA発現は、適切な任意の方法によって検出され得る。
【0036】
他の実施態様において、EGFRによってコードされるポリペプチドレベルを測定することによってEGFRの発現に対する候補化合物の作用が分析される。発現されるポリペプチドレベルは、適切な任意の方法を用いて測定され得る。
詳しくは、本発明は、EGFRに結合するか、阻害作用を、例えば、EGFR発現又は活性に対して有するか、又は刺激作用又は阻害作用を、例えば、EGFR基質の発現又は活性に対して有するモジュレータ、すなわち、候補化合物又は試験化合物又は薬剤(例えば、抗体、タンパク質、ペプチド、ペプチドミメティクス、ペプチド、低分子又は他の薬剤を同定するためのスクリーニング法を提供する。このようにして同定された化合物は、直接的或いは間接的に治療プロトコールにおいて標的遺伝子産物(例えば、EGFR)の活性をモジュレートするために、標的遺伝子産物の生物学的機能を詳しく述べるために、又は通常の標的遺伝子相互作用を損なう化合物を同定するために使用し得る。EGFRの活性又は発現を阻害する化合物は、神経障害の治療に有効である。
本発明の試験化合物は、生物学ライブラリ; ペプチドライブラリ(酵素分解に抵抗するが生理活性が保たれているペプチドの機能性を有するが、新規な非ペプチド主鎖を有する分子のライブラリ; 例えば、Zuckennann et al.、J. Med. Chem. 37: 2678-85[1994]を参照のこと); 空間的にアドレス可能な平行固相又は液相ライブラリー; 逆重畳積分を必要とする合成ライブラリー法;『1-ビーズ1-化合物』ライブラリ法; 及びアフィニティークロマトグラフィー選択を用いた合成ライブラリ法が含まれる、当該技術において既知のコンビナトリアルライブラリ法における数多くの方法のいずれを用いても得ることができる。生物学ライブラリ及びペプトイドライブラリの方法は、ペプチドライブラリとの使用が好ましく、その他の4つの方法は、化合物のペプチド、非ペプチドオリゴマー又は低分子ライブラリに適用できる(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12:145)。
【0037】
分子ライブラリの合成のための方法の例は、当該技術において見出すことができる、例えば: DeWitt et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90:6909 [1993]; Erb et al., Proc. Nad. Acad. Sci. USA 91:11422 [1994]; Zuckermann et al., J. Med. Chem. 37:2678 [1994]; Cho et al., Science 261:1303 [1993]; Carrell et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33.2059 [1994]; Carell et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061 [1994]; and Gallop et al., J. Med. Chem. 37:1233 [1994]。
化合物のライブラリは、溶液(例えば、Houghten, Biotechniques 13:412-421 [1992])、又はビーズ(Lam, Nature 354:82-84 [1991])、チップ(Fodor, Nature 364:555-556 [1993])、細菌又は胞子(米国特許第5,223,409号明細書; 本願明細書に援用されている)、プラスミド(Cull et al., Proc. Nad. Acad. Sci. USA 89:18651869 [1992])又はファージ(Scott and Smith, Science 249:386-390 [1990]; Devlin Science 249:404-406 [1990]; Cwirla et al., Proc. NatI. Acad. Sci. 87:6378-6382 [1990]; Felici, J. Mol. Biol. 222:301 [1991])において存在し得る。
【0038】
実験
下記の実施例は、本発明のある種の好ましい実施態様及び態様を実証しかつ更に例示するために示され、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。
【実施例0039】
転移性結腸がんをもつ68歳の男性は、彼の坐骨神経に影響を与える骨盤内再発により神経障害性疼痛に罹患した。数年間にわたって、この疼痛を軽減する試みにおいて、彼は、強力なオピオイド鎮痛薬、抗てんかん薬、抗うつ剤、抗炎症剤、放射線治療、化学療法、高圧酸素及び鍼治療で治療した。これらの治療はわずかしか効果的でなく、投与量増大は副作用によって制限された。
約3年後、彼の骨盤内腫瘍を縮小し、このことにより彼の疼痛を軽減する更に他の努力として、XELOX化学療法(カペシタビン及びオキサリプラチン)とEGFR抗体、セツキシマブの組み合わせを患者に投与した。この治療の当初に、患者は、24時間当たり200mgのドルコチンを必要とした。彼の最初の経過観察の予約時に、2回の治療後に、彼はすべてのアヘン剤使用を実際に停止したことを報告した。4ヶ月後に撮られた骨盤MRIは、骨盤内腫瘍サイズの変化を示さなかったが、神経障害性骨盤疼痛はその時点で完全になくなった。
次の治療の中断の間、患者の疼痛が再発し、彼はより高用量のアヘン剤を必要とした。しかしながら、XELOXとセツキシマブの次の各々の再導入時に、鎮痛反応が繰り返され、4~5時間以内に完全に、又はほとんど完全に疼痛が消失した。
【0040】
XELOXとセツキシマブによる治療の22ヶ月後、患者の肺転移が進行し、化学療法及び抗体治療の双方を中断した。翌月にかけて、患者の疼痛が劇的に増加し、満足な効果がなく、彼の持続アヘン剤投与量は320mg/24時間まで増大した。疼痛悪化の約4ヶ月後、腫瘍特定治療することなく、彼の疼痛を軽減する試みとして、セツキシマブ単独治療450mgi.v./250mg m2当たりを元に戻した。再び、セツキシマブの最初の注入から数時間以内に、患者の疼痛は劇的に改善し、彼は次の4週間以内に彼の持続アヘン剤投与量を半分に減らすことが可能であった。
次の20ヶ月間、彼のがんは進行が明らかであったが、患者は疼痛軽減のためにおよそ12日毎にセツキシマブ注入を投与し続けた。彼の転移性疾患による症状及び合併症の進行にもかかわらず、慢性的な骨盤内神経障害性疼痛は、セツキシマブによって最も良く制御し続けた。
このむしろ高価な投薬の鎮痛作用が用量依存性であったかを試験するために、鎮痛作用を結果として生じない通常のセツキシマブ投与量の20%(患者はこの変化を知らない)を患者に投与した。それ故、セツキシマブ投与量を前の有効な投与量に増加し、およそ12日毎に彼に注入し続け、4-5時間以内に有効な鎮痛に達し、2週間足らず続いた。新たな注入の前の最後の数日間、患者はより高用量のアヘン剤を必要としたが、これにより次のセツキシマブ注入の直後に投与量のおよそ1/3に再び減少することができた。
鎮痛のためにセツキシマブ単独治療を始めた8ヶ月後、骨盤のMRIは、問題ある病巣の増大を示した。この知見にもかかわらず、セツキシマブは記載されている劇的な鎮痛反応をもち続け、患者は非常に良好な生活の質を維持することが可能であった。
我々は、最近、直腸がん患者におけるNPをセツキシマブ(Kersten C, Cameron MG. Cetuximab alleviates neuropathic pain despite tumour progression. BMJ Case Rep 2012;2012)、結果としてMAPKシグナリングを阻害する上皮成長因子(EGF)受容体に対するモノクローナル抗体(Vincenzi B, Zoccoli A, Pantano F, Venditti O, Galluzzo S. Cetuximab: from bench to bedside. Curr Cancer Drug Targets 2010;10:80-95)で治療する際の我々の経験を報告した。患者は、仙骨神経叢神経の進行性骨盤内腫瘍浸潤にもかかわらずセツキシマブ注入のわずか数時間後にNPの劇的な軽減を繰り返し経験し、直接抗NP作用が示された。
EGFR阻害剤が臨床試験において広く試験され、主に一過性及び対処可能な副作用を有する承認された抗がん剤であるので、我々は慢性、衰弱させるような且つ治療抵抗性のNPをもつ5人の患者にこれを治療した(Holt K. Common side effects and interactions of colorectal cancer therapeutic agents. J Pract Nurs 2011;61:7-20; Petrelli F, Borgonovo K, Cabiddu M, Barni S. Efficacy of EGFR Tyrosine Kinase Inhibitors in Patients With EGFR-Mutated Non-Small-Cell Lung Cancer: A Meta-Analysis of 13 Randomized Trials. Clin Lung Cancer 2012;13:107-14; Brown T, Boland A, Bagust A, et al. Gefitinib for the first-line treatment of locally advanced or metastatic non-small cell lung cancer. Health Technol Assess 2010;14:71-9)。
症例2は、抗EGFR抗体パニツムマブ注入のわずか数時間後に疼痛の劇的な増大を報告した。最近の研究は、セツキシマブとパニツムマブが相互のEGFR結合を妨げることを証明している(Alvarenga ML, Kikhney J, Hannewald J, et al. In-depth biophysical analysis of interactions between therapeutic antibodies and the extracellular domain of the epidermal growth factor receptor. Anal Biochem 2012;421:138-51)。これは、おそらくセツキシマブがパニツムマブで置き換えられることにつながり、このことにより、症例2において見られる急速な疼痛再発が引き起こされた。EGFR1活性化、特に、がんにおけるEGFによるMAPKシグナリングを阻害するためにこれらの患者において使われる全ての抗EGFR薬剤が開発された。見られた効果は、EGF阻害によるものであり得るが、EGFR1を遮断することによって、これらの薬剤は、また、他のEGFR1結合リガンドを阻害する可能性(Wheeler DL, Dunn EF, Harari PM. Understanding resistance to EGFR inhibitors-impact on future treatment strategies. Nature reviews Clinical oncology 2010;7:493-507)を、直接に或いはヒト上皮成長因子受容体(HER)ファミリーヘテロ二量体化の阻害によって有する(Nautiyal J, Rishi AK, Majumdar AP. Emerging therapies in gastrointestinal cancers. World journal of gastroenterology : WJG 2006;12:7440-50; Schamel WW, Dick TP. Signal transduction: specificity of growth factors explained by parallel distributed processing. Med Hypotheses 1996;47:249-55; Ise N, Omi K, Nambara D, Higashiyama S, Goishi K. Overexpressed HER2 in NSCLC is a possible therapeutic target of EGFR inhibitors. Anticancer Res 2011;31:4155-61)。この点で、ニューレグリン1-ErbB3-ErbB2複合体がネズミにおいて神経損傷誘発三叉神経障害性疼痛の因果的機序であることが最近提唱されたことは興味深いことである(Ma F, Zhang L, Westlund KN. Trigeminal Nerve Injury ErbB3/ErbB2 Promotes Mechanical Hypersensitivity. Anesthesiology 2012)。
いくつかの受容体チロシンキナーゼ(RTK)は、NPだけでなく、他の慢性神経系疾患に対向する治療の標的として提案されている、MAPKシグナリングを活性化する可能性を有する(上記Ji 2009; Ji RR. Mitogen-activated protein kinases as potential targets for pain killers. Curr Opin Investig Drugs 2004;5:71-5; Yasuda S, Sugiura H, Tanaka H, Takigami S, Yamagata K. p38 MAP kinase inhibitors as potential therapeutic drugs for neural diseases. Cent Nerv Syst Agents Med Chem 2011;11:45-59)。神経損傷後、ニューロンは、受容体のHERファミリーの一部をアップレギュレートし(上記、Scholz; Liu B, Neufeld AH. Activation of epidermal growth factor receptors in astrocytes: from development to neural injury. J Neurosci Res 2007;85:3523-9; Carroll SL, Miller ML, Frohnert PW, Kim SS, Corbett JA. Expression of neuregulins and their putative receptors, ErbB2 and ErbB3, is induced during Wallerian degeneration. J Neurosci 1997;17:1642-59)、それによってMAPKシグナリング(上記、Ji, 2009)カスケードの活性化が潜在的に増加する。これにより、神経障害性疼痛トライアド(上記、Scholz)の細胞間の更なる相互作用につながり得る。それ故、我々は、以前に、神経細胞又はグリア細胞における細胞のセツキシマブによるMAPKシグナリングの直接阻害を仮定した(Kersten C, Cameron MG. Cetuximab alleviates neuropathic pain despite tumor progression. BMJ Case Rep 2012)。
ニューレグリンは、神経障害性疼痛トライアドの重要なレギュレータである(Calvo M, Zhu N, Grist J, Ma Z, Loeb JA, Bennett DL. Following nerve injury neuregulin-1 drives microglial proliferation and neuropathic pain via the MEK/ERK pathway. Glia 2011;59:554-68)。NPモデルネズミにおけるニューレグリン1イソ型の発現変化は、EGFRとNPの間の関連を示唆している(Kanzaki H, Mizobuchi S, Obata N, et al. Expression changes of the neuregulin 1 isoforms in neuropathic pain model rats. Neurosci Lett 2012;508:78-83)。更にまた、ニューレグリンシグナリング経路は、セツキシマブ効力の生物マーカーであることがわかった(Oliveras-Ferraros C, Vazquez-Martin A, Queralt B, et al. Interferon/STAT1 and neuregulin signaling pathways are exploratory biomarkers of cetuximab (Erbitux(R)) efficacy in KRAS wild-type squamous carcinomas: a pathway-based analysis of whole human-genome microarray data from cetuximab-adapted tumor cell-line models. Int J Oncol 2011;39:1455-79)。
身体的及び心理社会的機能の激しい損傷につながる、何ヶ月もの激しい痛みを与えるNP後、4人の反応する患者全員が、以前には想像できなかったQOLをほとんど直ちに回復した。