(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022027981
(43)【公開日】2022-02-14
(54)【発明の名称】バッテリモジュール
(51)【国際特許分類】
H01M 10/659 20140101AFI20220203BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20220203BHJP
H01M 10/651 20140101ALI20220203BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20220203BHJP
H01M 10/6551 20140101ALI20220203BHJP
H01M 10/6555 20140101ALI20220203BHJP
【FI】
H01M10/659
H01M10/613
H01M10/651
H01M10/625
H01M10/6551
H01M10/6555
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205395
(22)【出願日】2021-12-17
(62)【分割の表示】P 2020566004の分割
【原出願日】2020-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2019119389
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】小沢 元樹
(72)【発明者】
【氏名】北田 学
(57)【要約】
【課題】セルの異常初期及び異常発生から一定期間の間において、温度上昇し難いバッテリモジュールを提供する。
【解決手段】ケースと、前記ケース内に配置されたエネルギー密度が200Wh/L以上である複数のセルと、前記ケースとセルの間、及び複数のセルの間の少なくとも一方に吸熱部材が設けられたバッテリモジュールであって、前記吸熱部材が、150~350℃に加熱したときの吸熱量Qが500J/cm3以上であり、かつ熱伝導率λが0.8W/mK以上である、バッテリモジュールである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケース内に配置されたエネルギー密度が200Wh/L以上である複数のセルと、
前記ケースとセルの間、及び複数のセルの間の少なくとも一方に吸熱部材が設けられたバッテリモジュールであって、
前記吸熱部材の150℃から350℃までの吸熱量Qが500J/cm3以上であり、かつ前記吸熱部材の熱伝導率λが0.8W/mK以上である、バッテリモジュール。
【請求項2】
前記吸熱部材が、セル表面に対して単位面積当たりの吸熱量Qsが50J/cm2以上になるように設けられている、請求項1に記載のバッテリモジュール。
【請求項3】
前記熱伝導率λと吸熱量Qとの積(λ×Q)が、1000W・J/mK・cm3以上である請求項1又は2に記載のバッテリモジュール。
【請求項4】
前記吸熱部材が、樹脂と充填剤とを含有する請求項1~3のいずれかに記載のバッテリモジュール。
【請求項5】
前記樹脂がシリコーンゴムである、請求項4に記載のバッテリモジュール。
【請求項6】
前記充填剤が、少なくとも水酸化アルミニウムを含有する、請求項4又は5に記載のバッテリモジュール。
【請求項7】
前記水酸化アルミニウムは、平均粒子径が2μm以下の小粒径水酸化アルミニウムと、平均粒子径が2μm超の大粒径水酸化アルミニウムとを含有する、請求項6に記載のバッテリモジュール。
【請求項8】
前記吸熱部材が、樹脂100質量部に対して、水酸化アルミニウムを100質量部以上含む、請求項6又は7に記載のバッテリモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の吸熱部材を備えるバッテリモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題等の観点から電気自動車が普及しつつある。電気自動車には、リチウムイオン二次電池などのバッテリが搭載されている。電気自動車に使用されるバッテリは、高出力、大容量が必要であり、バッテリセル単独では足りず、複数のバッテリセルを組み合わせたバッテリモジュール、そして、該バッテリモジュールを複数組み合わせたバッテリパックが用いられている。
【0003】
バッテリセルは、内部短絡や外部から損傷を受けるなどの異常が生じた場合に発熱し、これが隣接するバッテリセルに伝わるなどして、温度上昇し、バッテリ全体の熱暴走が生じてしまう問題がある。
これを改善する観点から、特許文献1では、鉱物系粉体及び難燃剤のうち少なくとも一方を含有し、100~1000℃で吸熱反応を開始し、該吸熱反応により特定の構造変化が起こる、熱暴走防止シートが記載されている、該熱暴走防止シートにより、断熱性能が発現し、隣接するセルの連続的な熱暴走を防止できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した熱暴走防止シートでは、断熱性能により、隣接するセルへの熱の伝達を一定程度抑えることができるものの、異常初期の急激な発熱を十分に冷却する観点から改善の余地がある。また、シートが断熱性能を有する場合は、吸熱剤などを消費した後に、大きな温度上昇を招く場合がある。
よって、本発明の課題は、バッテリセルに異常が生じた場合においても、異常初期及び異常発生から一定期間の間において、温度上昇を効果的に抑制できるバッテリモジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、吸熱量及び熱伝導率が特定の範囲にある吸熱部材を備えたバッテリモジュールにより上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の[1]~[8]を提供する。
[1]ケースと、前記ケース内に配置されたエネルギー密度が200Wh/L以上である複数のセルと、前記ケースとセルの間、及び複数のセルの間の少なくとも一方に吸熱部材が設けられたバッテリモジュールであって、前記吸熱部材の150℃から350℃までの吸熱量Qが500J/cm3以上であり、かつ前記吸熱部材の熱伝導率λが0.8W/mK以上である、バッテリモジュール。
[2]前記吸熱部材が、セル表面に対して単位面積当たりの吸熱量Qsが50J/cm2以上になるように設けられている、上記[1]に記載のバッテリモジュール。
[3]前記熱伝導率λと吸熱量Qとの積(λ×Q)が、1000W・J/mK・cm3以上である上記[1]又は[2]に記載のバッテリモジュール。
[4]前記吸熱部材が、樹脂と充填剤とを含有する上記[1]~[3]のいずれかに記載のバッテリモジュール。
[5]前記樹脂がシリコーンゴムである、上記[4]に記載のバッテリモジュール。
[6]前記充填剤が、少なくとも水酸化アルミニウムを含有する、上記[4]又は[5]に記載のバッテリモジュール。
[7]前記水酸化アルミニウムは、平均粒子径が2μm以下の小粒径水酸化アルミニウムと、平均粒子径が2μm超の大粒径水酸化アルミニウムとを含有する、上記[6]に記載のバッテリモジュール。
[8]前記吸熱部材が、樹脂100質量部に対して、水酸化アルミニウムを100質量部以上含む、上記[6]又は[7]に記載のバッテリモジュール。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、異常初期及び異常発生から一定期間の間において、温度上昇を効果的に抑制できるバッテリモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】バッテリモジュールの吸熱部材の配置の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】バッテリモジュールの吸熱部材の配置の他の例を模式的に示す断面図である。
【
図4】バッテリモジュールの吸熱部材の配置の他の例を模式的に示す断面図である。
【
図5】バッテリモジュールの吸熱部材の配置の他の例を模式的に示す断面図である。
【
図6】バッテリモジュールを組み立てる状態の一例を示す説明図である。
【
図7】バッテリモジュールを組み立てる状態の他の例を示す説明図である。
【
図8】バッテリパックを組み立てる状態の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ケースと、前記ケース内に配置されたエネルギー密度が200Wh/L以上である複数のセルと、前記ケースとセルの間、及び複数のセルの間の少なくとも一方に特定の吸熱部材が設けられたバッテリモジュールである。前記吸熱部材の150℃から350℃までの吸熱量Qが500J/cm3以上であり、かつ前記吸熱部材の熱伝導率λが0.8W/mK以上である。
【0010】
本発明の実施形態を図面において説明する。なお、本発明は、以下の各図面の内容に限定されるものではない。
図1は、本発明のバッテリモジュールの吸熱部材の配置の一例を模式的に示す断面図である。バッテリモジュール10は、ケース11と、ケース11内に配置された複数のセル12と、ケース11とセル12の間に設けられた吸熱部材13とを備える。
セル12は、リチウムイオン二次電池などの構成単位であり、一般に、外装フィルムと、外装フィルム内に封入された図示しない電池要素とから構成されている。電池要素としては、正極、負極、セパレータ、電解液などが挙げられる。セル12は
図2に示すように、幅の大きさに比べて厚さが薄い偏平体であり、正極12a、負極12bが外部に表れ、偏平面12cは、圧着された端部12dよりも肉厚に形成されている。
セル12のエネルギー密度は200Wh/L以上である。このように、エネルギー密度が高いことにより、セル12は小型化させることが可能となる。一方で、エネルギー密度が高いことにより短絡などの異常が生じた場合に、高温になりやすいことが懸念されるが、後述するように、吸熱部材13は、吸熱量Q及び熱伝導率λが一定以上であるため、セル12の温度上昇を抑制しやすい。セル12のエネルギー密度は高ければ高い方がよいが、通常は700WL/L以下である。
【0011】
ケース11内で、複数のセル12は、互いの偏平面が接触するように積層されており、それぞれのセル12は、その長手方向がケース11の上下方法になるように配置されている。ケース11は、セル12をまとめて覆う部材である。ケース11は、複数のセル12を支持できる強度があり、セル12から発生する熱で変形しない材質が用いられ、強度や重量、耐熱性等のバランスを考慮して、アルミニウムを用いることが好ましい。
【0012】
吸熱部材13は、ケースの下面11aと、セル12の下部端面12aとの間に設けられている。吸熱部材13により、セル12に内部短絡や外部からの損傷などによる異常が生じた場合において、異常初期及び異常発生から一定期間の間において、バッテリモジュールの温度上昇を効果的に抑制できる。これは、吸熱部材13は、150~350℃に加熱したときの吸熱量Qが一定以上であるため、セル12の温度上昇を抑え、かつ熱伝導率λが一定以上であるため、セル12から生じた熱を、ケース11に効果的に伝達し易いからと推測される。なお、熱伝導率λが一定以上であることが、特に、異常初期の温度上昇を抑え、吸熱量Qが一定以上であることが、異常初期及び異常発生から一定期間の間の継続的な温度上昇を抑えているものと推測している。
【0013】
図1においては、吸熱部材13がケース11の下面11aと、セル12の下部端面12aとの間に設けられている態様について示したが、吸熱部材13の配置はこの態様にのみ限定されず、ケース11の任意の面と、この面に近接するセル12の面との間の少なくともいずれかの空間に設けられればよい。具体的には、吸熱部材13は、ケースの側面11cと、セル12の偏平面12cとの間、ケースの上面11bとセル12の上部端面12bとの間などに設けてもよい。
さらに、ケース11のすべての面と、この面に近接するセル12の面との間の全ての空間(すなわち、ケース11内部の全空間)に吸熱部材13を設けてもよく、
図3に示すように、複数のセル12全体を包み込むように、吸熱部材13を配置してもよい。この場合は、セル12から発生する熱をより効果的に低減することが可能となる。
【0014】
上記
図1及び3では、吸熱部材13がケース11とセル12の間に設けられる態様を示したが、
図4に示すように、吸熱部材13は、複数のセル12の間(セル間14)に設けられてもよい。この場合、吸熱部材13により、異常が発生したセル12の温度上昇を抑制でき、かつ隣接するセル12への高温での熱伝達が生じ難くなり、異常の広がりを抑制することができる。これにより、異常初期及び異常発生から一定期間の間において、温度上昇を効果的に抑制できる。
【0015】
また、吸熱部材13をケース11とセル12の間に設けると共に、複数のセル12の間に設けてもよい。
図5では、複数のセル12の間と、ケース11のすべての面と、この面に近接するセル12の面との間の全ての空間に吸熱部材13が設けられており(言い換えれば、ケース11内部のすべての空間に吸熱部材13が設けられており)、セル12の温度上昇を特に効果的に抑制することが可能となる。
【0016】
図1などにおいては、セル12は外装フィルムを用いたラミネート型のセルを記載しているが、ラミネート型のセル以外にも、角型のセルや円筒型のセルを用いてもよい。
【0017】
また、
図1などにおいては、複数のセル12が接触して積層される態様を示したが、セル12とセル12の間に、吸収材、冷却フィンなどの機能性部材を設けてもよい。
【0018】
例えば、
図6に示すように、セル12とセル12との間にシート状の吸収材15を設けてもよい。吸収材15を設けることで、衝撃吸収性が向上し、外部衝撃などによるセル12の異常発生を低減することができる。また、図示してないが、複数のセル12を積層したサブモジュール、好ましくは2つのセル12を積層したサブモジュールを作製し、サブモジュールとサブモジュールの間に吸熱材15を設けてもよい。
吸収材15としては、具体的には、発泡体、低硬度ゴムなどを挙げることができる。吸収材15は、1つのみ設けてもよいし、2以上設けてもよい。
また、セル12とセル12との間には吸収材15と吸熱部材13とを並べて配置する形態、または吸収材15とセル12との間に吸熱部材13を配置する形態が好ましい。これにより、セル12の異常発生を低減させることができるとともに、異常が発生した場合でもセル12の温度上昇を抑制でき、バッテリモジュールの安全性が高まる。
セル12とセル12との間には吸収材15と吸熱部材13とを並べて配置する場合には、破損のおそれが大きい箇所に吸熱部材13を配置し、他の部分に吸収剤15を配置することが好ましい。例えば、セル12の中央付近には吸収剤15を配置し、セル12の外縁や角付近に吸熱部材13を配置する形態が一例である。
【0019】
また、
図7に示すように、セル12とセル12との間に冷却フィン16を設けてもよい。冷却フィン16は、シートと、該シートの両端部に長手方向に沿った係止部が設けられた部材であり、断面がH形状の部材である。また、図示してないが、複数のセル12を積層したサブモジュール、好ましくは2つのセル12を積層したサブモジュールを作製し、サブモジュールとサブモジュールの間に冷却フィン16を設けてもよい。
また、冷却フィン16は、金属製であることが好ましく、アルミニウム製であることがより好ましい。該冷却フィン16により、セル12の温度上昇を抑制しやすくなる。
冷却フィン16は、1つのみ設けてもよいし、2以上設けてもよい。
冷却フィン16とセル12の間に、放熱性の接着剤や、放熱性シートを設けてもよい。中でも、冷却フィン16とセル12との間に、吸熱部材13を配置することが好ましい。これによりセル12で生じた熱が、吸熱部材13及び冷却フィン16で効果的に冷却される。また、セル12で生じた熱が、吸熱部材13及び冷却フィン16の係止部を通って、ケース面に伝わり、より効果的に放熱され、冷却される。なお、冷却フィン16の構造は、上記態様に限定されない。
【0020】
(吸熱部材)
本発明における吸熱部材は、150℃から350℃までの吸熱量Qが500J/cm3以上である。吸熱量Qは、吸熱部材を一定の昇温速度で加熱した際の、150℃から350℃までの吸熱量である。吸熱量Qが500J/cm3未満であると、バッテリモジュールの温度上昇を抑制することが難しくなる。吸熱量Qは、好ましくは1000J/cm3以上であり、より好ましくは1500J/cm3以上であり、さらに好ましくは2000J/cm3以上である。吸熱量Qは高ければ高い方がよいが、通常は4000J/cm3以下である。
なお、吸熱部材の吸熱量Qは、吸熱部材に含まれる後述する充填剤の吸熱量Qf(J/cm3)と、吸熱部材における充填剤の体積割合とから算出することができる。該充填剤の吸熱量Qfは、150℃から350℃までの充填剤の吸熱量である。吸熱部材全体に対する充填剤の体積の割合をX体積%とした場合、吸熱部材の吸熱量Q=充填剤の吸熱量Qf×X/100、なる式により求めることができる。充填剤の吸熱量QfはTG-DTA測定により求められる。
吸熱量Qfは、TG-DTA装置により測定することができ、その測定条件は、φ5mmのアルミパンを用い、窒素雰囲気下(流量50ml/min)で、25℃から昇温速度5℃/分で測定するものとする。
また、充填剤の吸熱量Qfの測定が困難である場合は、吸熱部材の吸熱量QをTG-DTAで直接測定することもできる。この場合は、φ5mmで厚みが2mmの円板状の吸熱部材の試験片をつくり、この試験片をφ5mmのアルミパン内の底面に密着するように配置して、窒素雰囲気下(流量50ml/min)で、25℃から昇温速度5℃/分で測定するものとする。
【0021】
吸熱部材の熱伝導率λは、0.8W/mK以上である。熱伝導率が0.8W/mK未満であると、吸熱部材からケースなどへの熱伝達が起こりにくく、そのため、異常が生じたバッテリモジュールの温度上昇が大きくなりやすい。吸熱部材の熱伝導率λは、好ましくは1.0W/mK以上であり、より好ましくは1.5W/mK以上である。また、熱伝導率の上限については、好ましくは4.0W/mK以下であり、より好ましくは3.4W/mK以下であり、さらに好ましくは2.8W/mK以下である。
熱伝導率λは、ASTM D5470-06に準拠した方法で測定することがきる。
具体的には、吸熱部材について厚みが0.5mm~5.0mmの範囲内(好ましくは1.0mm~3.0mm)の試料を準備して、異なる3つの厚みで熱抵抗を測定して、熱伝導率を算出する。異なる厚みの試料は、厚みの異なる試料を別々に準備しても良いし、単一の試料について圧縮率を変化させた測定でも良い。
【0022】
熱伝導率λと吸熱量Qとの積(λ×Q)は、1000W・J/mK・cm3以上であることが好ましく、2000W・J/mK・cm3以上であることがより好ましく、3000W・J/mK・cm3以上であることがさらに好ましく、そして16000W・J/mK・cm3以下であることが好ましい。
吸熱部材の吸熱量Q及び熱伝導率λが共に大きい値の場合には、バッテリモジュールの温度上昇をより効果的に抑制することができる。吸熱量Qが大きいことにより、セルの温度が低減され、かつ熱伝導率λが大きいことにより、セルから生じた熱を、ケースなどに伝達し易くなるため、これらの各作用の相乗効果により、バッテリモジュールの温度上昇を効果的に抑制できると考えられる。
【0023】
吸熱部材は、セル表面に対して単位面積当たりの吸熱量Qsが好ましくは50J/cm2以上、より好ましくは100J/cm2以上、さらに好ましくは200J/cm2以上となるように設けられるとよい。このように吸熱量Qsが一定以上であると、セルの温度上昇が抑制されやすくなる。吸熱量Qsの上限は特に限定されないが、例えば1000J/cm2である。上記単位面積当たりの吸熱量Qsは、セル表面に配置されている吸熱部材の最大の厚さをY(cm)とした場合に、Qs=Q×Yにより算出される。なお、吸熱部材がセル表面に対して、均一の厚さで設けられている場合は、吸熱部材の平均厚さ及び任意の厚さが最大厚さYと等しくなる。
【0024】
(吸熱部材)
本発明の吸熱部材は、樹脂及び充填剤を含有する。これら、吸熱部材の各成分について以下説明する。
【0025】
<樹脂>
吸熱部材に含有される樹脂は、特に制限されず、例えば、ゴム、エラストマーなどを挙げることができる。
ゴムとしては、例えば、シリコーンゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム等が挙げられる。これらゴムを使用する場合、架橋されてもよいし、未架橋(すなわち、未硬化)のままでもよい。
また、エラストマーとしては、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなど熱可塑性エラストマーや、主剤と硬化剤からなる混合系の液状の高分子組成物を硬化して形成する熱硬化型エラストマーも使用可能である。例えば、水酸基を有する高分子とイソシアネートとを含む高分子組成物を硬化して形成するポリウレタン系エラストマーを例示できる。
【0026】
吸熱部材に含有される樹脂は、上記した中でも、シリコーンゴムであることが好ましい。シリコーンゴムを用いることにより、充填剤を高充填しやすくなり、熱伝導率及び吸熱量を所望の値に調整しやすくなる。シリコーンゴムは液状シリコーンから形成されることが好ましく、具体的には、吸熱部材は、液状シリコーン及び充填剤を含有する吸熱組成物により形成されることが好ましい。
液状シリコーンは、硬化性を有しないシリコーンであってもよいし、反応硬化型シリコーンであってもよいが、反応硬化型シリコーンを用いることが好ましい。ここで、液状とは、室温(25℃)において液体状であることを意味する。
反応硬化型シリコーンとしては、例えば、付加反応硬化型シリコーン、ラジカル反応硬化型シリコーン、縮合反応硬化型シリコーン、紫外線又は電子線硬化型シリコーン、及び湿気硬化型シリコーンが挙げられる。上記の中でも、反応硬化型シリコーンが付加反応硬化型シリコーンであることが好ましい。付加反応硬化型シリコーンとしては、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(主剤)とハイドロジェンオルガノポリシロキサン(硬化剤)とを含むものがより好ましい。
【0027】
吸熱部材に含まれる樹脂全量基準における、上記シリコーンゴムの含有量は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
【0028】
<充填剤>
本発明における吸熱部材は、充填剤を含有する。充填剤は、吸熱部材の吸熱量Q、熱伝導率λを上記した所定の範囲とするものであれば特に限定されるものではない。
後述する充填剤の種類にもよるが、樹脂100質量部に対して、充填剤の含有量は好ましくは50~1500質量部、より好ましくは100~1000質量部である。
【0029】
上記充填剤としては、例えば、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウムなどが挙げられる。これらの中でも、吸熱部材の吸熱量Q及び熱伝導率λを所望の範囲に調整しやすい観点から、充填剤は、水酸化アルミニウムを少なくとも含有することが好ましい。
水酸化アルミニウムは、1種類を単独で用いてもよいが、吸熱部材中の充填量を高めることにより、吸熱量Q及び熱伝導率λを大きくするため、平均粒子径が異なる2種以上の水酸化アルミニウムを用いることが好ましい。このような観点から、水酸化アルミニウムとしては、平均粒子径が2μm以下の小粒径水酸化アルミニウムと、平均粒子径が2μm超の大粒径水酸化アルミニウムとを含有することが好ましい。上記小粒径水酸化アルミニウムとしては、平均粒子径が1μm以下のものが好ましい。なお、平均粒子径は電子顕微鏡などにより測定することができる。
大粒径水酸化アルミニウムに対する小粒径水酸化アルミニウムの量(小粒径水酸化アルミニウム/大粒径水酸化アルミニウム)は、吸熱部材への充填量を高める観点から、0.1~2であることが好ましく、0.1~0.8であることがより好ましく、0.2~0.5であることがさらに好ましい。
また、上記大粒径水酸化アルミニウムは、吸熱部材への充填量を高める観点から、平均粒子径が2μm超20μm以下の第1大粒径水酸化アルミニウムと、平均粒子径が20μm超100μm以下の第2大粒径水酸化アルミニウムとを含むことが好ましい。ここで、第2大粒径水酸化アルミニウムに対する第1大粒径水酸化アルミニウムの量(第1大粒径水酸化アルミニウム/第2大粒径水酸化アルミニウム)は、0.1~2であることが好ましく、0.2~1.5であることがより好ましく、0.3~1であることがさらに好ましい。
【0030】
吸熱部材の吸熱量Q、及び熱伝導率λを向上させる観点から、樹脂100質量部に対する水酸化アルミニウムの量は、好ましくは50質量部以上、より好ましくは100質量部以上、さらに好ましくは300質量部以上、よりさらに好ましくは500質量部以上であり、そして好ましくは1500質量部以下である。
充填剤全量基準における水酸化アルミニウムの含有量は、吸熱量Qと熱伝導率λとを高める観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。また、充填剤として、水酸化アルミニウムと水酸化アルミニウム以外の充填剤とを併用する場合は、熱伝導率λを高めに調整する観点から、充填剤は水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムを含むことが好ましく、水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムのみからなることが好ましい。この場合、酸化アルミニウムに対する水酸化アルミニウムの量(水酸化アルミニウム/酸化アルミニウム)は、好ましくは0.05~7、より好ましくは0.1~5の範囲とすればよい。
酸化アルミニウムの平均粒子径は、特に限定されないが、好ましくは0.5~150μm、より好ましくは1~100μmである。
【0031】
上記した充填剤は、シランカップリング剤などにより表面処理がされていてもよい。表面処理された充填剤を用いることで、吸熱部材に対する充填率を高めることができる。シランカップリング剤としては、公知のものが特に制限なく使用され、例えば、ジメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0032】
吸熱部材は、樹脂及び充填剤を含有する吸熱組成物により形成され、上記した通り、液状シリコーン及び充填剤を含有する吸熱組成物により形成されることが好ましい。ここで、液状シリコーンに対する充填剤の量は、上記した樹脂に対する充填剤の量と同様である。
なお、吸熱組成物には、上記したシランカップリング剤を含んでもよく、分散剤、難燃剤、可塑剤、硬化遅延剤、酸化防止剤、着色剤、触媒などの添加剤を含んでもよい。
【0033】
(バッテリパック)
上記した吸熱部材が設けられたバッテリモジュールを複数用いてバッテリパックとすることができる。
図8は、バッテリパックを組み立てる状態の一例を示す説明図である。バッテリパック20は、複数のバッテリモジュール10と、バッテリモジュール10を格納するバッテリパック筐体19と、バッテリモジュール10とバッテリパック筐体19との間に設けられる放熱性材料18とを備えている。バッテリモジュール10は、放熱性材料18を介して、バッテリパック筐体19に固定されている。
バッテリパック筐体19は、上記したケース11と同様の材料により形成することができる。バッテリパック20では、バッテリモジュール10から発生する熱を、放熱性材料18を介して、バッテリパック筐体19に逃がすことができる。このようにして、セル12で発生する熱は、吸熱部材13、ケース11、放熱性材料18、バッテリパック筐体19へと伝わり、外部への放熱を効率的に行うことができる。上記放熱性材料18としては、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などの熱伝導性充填剤を含むシリコーンゴムなどの公知の材料を用いることができるが、本発明における吸熱部材を用いてもよい。吸熱部材を用いると、吸熱量Qと熱伝導率λが一定以上であることより、効果的に温度を低減させることが可能となる。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0035】
本実施例では、以下の方法により評価した。
【0036】
[熱伝導率]
吸熱部材の熱伝導率はASTM D5470-06に準拠した測定装置を用いて熱抵抗を測定する方法で求めた。
厚さ1.0mmの吸熱部材を用いて、圧縮率が10%(厚さ0.9mm)、20%(厚さ0.8mm)、30%(厚さ0.7mm)となるように圧縮して、各圧縮率(10~30%)における熱抵抗を測定した。これら3つの熱抵抗の値について、横軸が厚さ、縦軸が熱抵抗値のグラフを作成し、最小二乗法により3点の近似直線を求めた。そして、その近似直線の傾きが熱伝導率となる。
熱抵抗の測定は、80℃にて行い、Long Win Science and Technology Corporation製のLW-9389により行った。
【0037】
[吸熱量Q]
吸熱部材の吸熱量Qは、明細書中に記載のとおり、吸熱部材に含有される充填剤の150℃から350℃までの吸熱量Qfを求めた後、Qfの値から計算で求めた。
吸熱量Qfは、TG-DTA装置(島津製作所製、示差熱・熱重量同時測定装置「DTG-60」)により測定した。窒素雰囲気下で、25℃から、昇温速度5℃/分で、600℃まで加熱して、150~350℃までの吸熱量を求めた。
【0038】
[実施例1]
(1)吸熱組成物の調製
主剤及び硬化剤からなる付加反応硬化型シリコーン100質量部、平均粒径が1μmの水酸化アルミニウム150質量部、平均粒径が10μmの水酸化アルミニウム150質量部、平均粒径が54μmの水酸化アルミニウム300質量部、シランカップリング剤1質量部からなる吸熱組成物を調製した。
(2)釘刺し試験
(使用したセルの詳細)
・種類:94Ah リチウムイオン二次電池
・形状:角型セル、縦125mm、横173mm、厚さ70mm、
・重量:2kg
・出力電圧:4V
・エネルギー密度、355Wh/L
(試験)
上記した角型セルの表面に、硬化後に表2で記載されている平均厚み(Y)の吸熱部材となるように、吸熱組成物を塗布した。このとき、セルの一面(天面(70mm×173mm))以外の全ての表面に吸熱組成物を塗布した。塗布後、25℃で、24時間経過させて、吸熱組成物を硬化させて、吸熱部材とした。このように作製された吸熱部材を備えるセルの両面(セル表面のうち面積が最大の2つの面)を隣接セルに相当する2つのアルミニウム板(125mm×210mm×10mm)で挟み、端部をボルトで固定し、釘刺し試験用の試料とした。該試料の釘刺し試験における温度変化を測定した。温度変化は、熱電対を異常の生じたセルの温度を測定するために“セルと吸熱部材との間”に配置して「50秒経過後までの最大セル温度」を測定した。また、さらに当該セルが隣接セルに接する表面に相当する“アルミニウム板と吸熱部材との間”に別の熱電対を配置して300秒経過後の外部温度を測定した。
【0039】
なお、このとき「50秒経過後までの最大セル温度」を、セルと吸熱部材との間に配置した熱電対で測定した理由は、以下のとおりである。本耐火試験では釘を刺した直後に、セルの温度が急激に上昇し、その後温度は下がっていく傾向があることがわかっている。この初期の温度上昇は極めて速いため、吸熱部材の外側の温度では、熱の伝わりの時間差に加え、吸熱部材の吸熱量や熱伝導率が影響するため、実際の最高温度よりも低い温度が検出されてしまい異常セルの温度を正確に把握できないため、吸熱部材の内側の温度を測定する必要がある。異常セルの初期の温度上昇を低く抑えることができれば、例えばバスバー等の吸熱部材を介在させることが難しい経路を通じた熱伝導による周囲への影響を低減できることが期待できる。
【0040】
一方、「300秒経過後の外部温度」をアルミニウム板と吸熱部材との間に配置した熱電対で測定した理由は、300秒程度経過すると熱的には安定した状態となり、吸熱部材の内側と外側との温度差は、熱伝導率や吸熱量等の影響をうけた所定の温度になる。このとき、隣接セルの暴走を抑えるという観点から、隣接セル温度に接する表面に相当する吸熱部材の外側の温度(外部温度)を評価することが有用であるためである。
【0041】
釘刺し試験は、釘(φ6mm、先端角度30℃)を20mm/秒の速度で、セルの側面(面積が70mm×125mmの面)からセル中央部まで刺し込むことで行った。
セルに釘を刺した後から50秒経過後までの最大セル温度と、300秒後の外部温度を熱電対により測定し、以下の基準で評価した。結果を表2に示した。
≪初期の温度上昇抑制効果≫
A・・50秒経過後までの最大セル温度が200℃以下
B・・50秒経過後までの最大セル温度が200℃超300℃以下
C・・50秒経過後までの最大セル温度が300℃超350℃以下
D・・50秒経過後までの最大セル温度が350℃超
≪通期の温度上昇抑制効果≫
A・・300秒経過後の外部温度が270℃以下
B・・300秒経過後の外部温度が270℃超300℃以下
D・・300秒経過後の外部温度が300℃超
≪総合評価≫
A・・初期及び通期の結果が共にA
B・・初期及び通期の結果の一方がB、他方がA又はB
C・・初期及び通期の結果の少なくとも一方がC、他方がA,B,Cの何れか
D・・初期及び通期の結果の少なくとも一方がD
【0042】
[実施例2~5、比較例3]
吸熱組成物の組成を表1のとおり変更した以外は、実施例1と同様に吸熱組成物を調製して、釘刺し試験を行った。結果を表2に示した。
【0043】
[比較例1]
実施例1で用いた吸熱組成物の代わりにエアロゲル(厚み10mm、熱伝導率0.017W/mK)を用いた以外は、実施利1と同様にして釘刺し試験を行った。結果を表2に示した。
【0044】
[比較例2]
実施例1において、吸熱組成物を用いなかった以外は、実施例1と同様にして釘刺し試験を行った。
【0045】
【0046】
【0047】
以上の実施例の結果から明らかなように、吸熱量Q及び熱伝導率λが一定以上である吸熱部材を用いると、セルに異常が生じた場合であっても、異常初期及び異常発生から一定期間の間、温度上昇が抑制されることが分かった。一方、比較例の結果より、吸熱部材の吸熱量Q及び熱伝導率λが一定以上ではない場合は、セルの温度上昇が抑制され難いことが分かった。具体的には、比較例3では、吸熱量Qは本発明で規定する所定以上の値であるものの、熱伝導率λが低く、総合評価「D」と悪い結果となった。これにより、吸熱量Q及び熱伝導率λの双方が所定以上の値である必要があることが分かる。
また、実施例1~5の中でも、吸熱量Qが1000J/cm3以上と高い値を示す実施例1、3~5は総合評価が「B」以上であり、吸熱量が500以上1000J/cm3未満の実施例2は総合評価が「C」となり、吸熱量Qを好適な範囲に調整することにより、セルの温度上昇がより抑制されることが分かる。
実施例1と実施例3とは、吸熱部材の組成は同じであるが、単位面積当たりの吸熱量Qsが異なる。すなわち、実施例1のほうがQsが高い値であり、好適な範囲となっており、総合評価が高く、セルの温度上昇が抑制されやすいことが分かる。