(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028075
(43)【公開日】2022-02-14
(54)【発明の名称】免疫寛容を誘導する抗体、誘導されたリンパ球、また誘導されたリンパ球を用いる細胞治療剤治療法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220203BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220203BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220203BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220203BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220203BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220203BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220203BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220203BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220203BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220203BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220203BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220203BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C12N15/13
A61K35/17 Z
A61K39/395 N
A61P37/06
A61P37/08
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/21
C12N1/19
C12N5/10
C12P21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208592
(22)【出願日】2021-12-22
(62)【分割の表示】P 2020525825の分割
【原出願日】2019-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2018118996
(32)【優先日】2018-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】518385109
【氏名又は名称】株式会社JUNTEN BIO
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】前田 龍
(72)【発明者】
【氏名】川上 雅之
(72)【発明者】
【氏名】内田 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】竹田 和由
(72)【発明者】
【氏名】奥村 康
(57)【要約】
【課題】免疫寛容を誘導する抗体、誘導されたリンパ球、また誘導されたリンパ球を用いる細胞治療剤治療法を提供すること。
【解決手段】本開示は、ある細胞の細胞表面に発現するCD80および/またはCD86と、他の細胞の細胞表面に発現するCD28との相互作用を阻害する抗体であって、免疫活性化により誘導されるサイトカインを実質的に誘導しない抗体を提供する。特定の実施形態では、抗体のFc部分が免疫活性化により誘導されるサイトカインを実質的に産生しない部分である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、免疫寛容に関する新規技術に関する。より特定すると、本開示は、免疫寛容を誘導する抗体、誘導されたリンパ球、また誘導されたリンパ球を用いる細胞治療剤治療法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓移植は、末期の肝不全の患者に対する最終的な処置として広く使用されてきた。毎年、日本国外では20、000以上の症例があり、日本では500を超える症例がある。
【0003】
移植は、末期の腎臓、心臓、肝臓、膵臓、等の臓器不全に対して選択される主な処置の1つであり、近年における移植拒絶反応の処置の著しい進歩にもかかわらず、免疫抑制レジメン無しには移植の大部分は最終的には拒絶される。連続的な薬物療法に依存する現在の免疫抑制レジメンは、薬物では移植に対して明確に向けられた反応のみならず、全ての免疫反応を抑制するため、臓器移植患者に、感染症や癌に対する感受性の増加を生じやすくしてしまう。
【0004】
再生医療も注目されるが、誘導性多能性幹細胞(iPS細胞)等を用いても、最終的には自己由来の細胞で無い限りは免疫拒絶反応が起こり得るため、免疫寛容の技術は注目されている。
【0005】
この免疫寛容を誘導する技術として、T細胞の抗原特異的な不免疫応答(アナジー)の誘導がある。具体的には、抗原提示細胞上のCD80/CD86と未活性化(ナイーブ)T細胞上のCD28との相互作用を阻害する抗体を臓器移植患者に直接投与して生体内でドナー抗原特異的アナジーを誘導する技術(特許文献1)や、同じ抗体の存在下でレシピエント細胞と放射線照射したドナー細胞を共培養により体外でドナー抗原特異的アナジー細胞を誘導し、レシピエントに戻す技術が報告されている(特許文献2、特許文献3および非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002-504120号公報
【特許文献2】特表2007-131598号公報
【特許文献3】特表2016-520081号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Satoru Todo et al.Hepatorogy、 64(vol.2)、632-643 (2016)
【非特許文献2】Teraoka S, Koyama I, Bashuda H, Uchida K, Tonsho M, et al. (2017) J Transplant Res 2(1) p1-8
【非特許文献3】Bashuda H et al., J. Clin. Invest. 115:1896-1902 (2005).
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、CD80/CD86とCD28との相互作用を阻害するある特定のヒトFc領域を有する抗体を用いた不免疫応答(アナジー)の誘導を試みた結果、マクロファージ、好中球、ナチュラルキラー(NK)細胞のような免疫系に関与する細胞と結合することにより、これらの細胞を活性化し、免疫反応をつかさどるインターロイキンやインターフェロン(IFN)などの液性因子放出を誘導することを見出した。本発明者らは、これらの液性因子の放出は免疫寛容とは逆の好ましくない免疫系の活性化を誘導することから、これらの細胞に結合しないヒトFc領域を有する抗体を用いて不免疫応答(アナジー)の誘導を調整することにより、免疫寛容の効果を改善または免疫寛容の効果の減弱を抑制することができることを新たに発見した。これにより、本発明者らは、免疫寛容の効果を改善する、または免疫寛容の効果を減弱させない特徴を有する構造をもつ抗体を提供する。
【0009】
したがって、本開示は以下を提供する。
(1)ある細胞の細胞表面に発現するCD80および/またはCD86と、他の細胞の細胞表面に発現するCD28との相互作用を阻害する抗体またはその改変体であって、免疫活性化によるサイトカインの産生を実質的に誘導しない抗体またはその改変体。
(2)前記サイトカインがインターフェロンγを含む、上記項目に記載の抗体またはその改変体。
(3)キメラ抗体である、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体。
(4)前記抗体のサブクラスがIgG1である、上記項目のいずれかのいずれか一項に記載の抗体またはその改変体。
(5)配列番号38または42に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号40または44に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を有する、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体。
(6)(a)配列番号53に記載のアミノ酸配列のCDRH1、配列番号54に記載のアミノ酸配列のCDRH2、および配列番号55に記載のアミノ酸配列のCDRH3を含むVH、ならびに配列番号56に記載のアミノ酸配列のCDRL1、配列番号57に記載のアミノ酸配列のCDRL2、および配列番号58に記載のCDRL3を含むVL、または
(b)配列番号59に記載のアミノ酸配列のCDRH1、配列番号60に記載のアミノ酸配列のCDRH2、および配列番号61に記載のアミノ酸配列のCDRH3を含むVH、ならびに配列番号62に記載のアミノ酸配列のCDRL1、配列番号63に記載のアミノ酸配列のCDRL2、および配列番号64に記載のCDRL3を含むVL
を含む、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体。
(7)(a)配列番号46に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVHおよび配列番号48に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVL、あるいは
(b)配列番号50に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVHおよび配列番号52に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVL
を含む、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体。
(8)前記抗体のFc部分が、免疫活性化によるサイトカインの産生を実質的に誘導しない部分である、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体。
(9)前記抗体のサブクラスがIgG2またはIgG4である、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体。
(10)前記抗体のサブクラスがIgG4である、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体。
(11)前記抗体の改変体が、前記抗体のFc部分を欠いている改変体である、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体。
(12)前記抗体の改変体が、Fab抗体、F(ab’)2抗体、Fab’抗体、Fv抗体またはscFv抗体である、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体。
(13)免疫寛容を誘導する能力を有する、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体。
(14)CD80および/またはCD86を発現する前記細胞が抗原提示細胞であり、CD28を発現する前記他の細胞がT細胞である、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体。
(15)前記抗体またはその改変体は、アンタゴニスティック抗CD80抗体、アンタゴニスティック抗CD86抗体、アンタゴニスティック抗CD28抗体、またはCD80およびCD86に対するアンタゴニスティック二重特異性抗体、あるいはそれらの改変体である、上記項目のいずれかに記載の抗体。
(16)ヒト化抗体またはヒト抗体、あるいはそれらの改変体のいずれかである、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体。
(17)ヒト抗体のIgG2またはIgG4のFc部分を含む、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体。
(18)ヒト抗体のIgG4のFc部分を含む、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体。
(19)(a)配列番号25に記載のアミノ酸配列のCDRH1、配列番号26に記載のアミノ酸配列のCDRH2、および配列番号27に記載のアミノ酸配列のCDRH3を含むVH、ならびに配列番号28に記載のアミノ酸配列のCDRL1、配列番号29に記載のアミノ酸配列のCDRL2、および配列番号30に記載のCDRL3を含むVL、または
(b)配列番号31に記載のアミノ酸配列のCDRH1、配列番号32に記載のアミノ酸配列のCDRH2、および配列番号33に記載のアミノ酸配列のCDRH3を含むVH、ならびに配列番号34に記載のアミノ酸配列のCDRL1、配列番号35に記載のアミノ酸配列のCDRL2、および配列番号36に記載のCDRL3を含むVL
を含む、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体。
(20)(a)配列番号18に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVHおよび配列番号20に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVL
(b)配列番号22に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVHおよび配列番号24に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVL
を含む、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体。
(21)上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体のアミノ酸配列またはその一部をコードする核酸分子。
(22)(a)配列番号17もしくは配列番号45に記載のヌクレオチド配列を有する、VHをコードするポリヌクレオチド、および配列番号19もしくは配列番号47に記載のヌクレオチド配列を有する、VLをコードするポリヌクレオチド、または
(b)配列番号21もしくは配列番号49に記載のヌクレオチド配列を有する、VHをコードするポリヌクレオチド、および配列番号23もしくは配列番号51に記載のヌクレオチド配列を有する、VLをコードするポリヌクレオチド
を含有する、上記項目のいずれかに記載の核酸分子。
(23)上記項目のいずれかに記載の核酸分子を有するベクター。
(24)上記項目のいずれかに記載の核酸分子あるいは項目23に記載のベクターを含む細胞。
(25)上記項目のいずれかの細胞を培養することを含む、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体の製造方法。
(26)上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体で免疫寛容を誘導された細胞。
(27)前記免疫寛容は、前記抗体またはその改変体と、被験体由来の細胞と、該被験体に由来しない抗原または該抗原の含有物とを混合することによって誘導される、上記項目のいずれかに記載の細胞。
(28)上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体のうちの少なくとも1つを含む、免疫寛容が誘導された細胞を作製するための組成物。
(29)アンタゴニスティック抗CD80抗体、アンタゴニスティック抗CD86抗体、アンタゴニスティック抗CD28抗体、もしくはCD80およびCD86に対するアンタゴニスティック二重特異性抗体、またはそれらの改変体、あるいはこれらの任意の組み合わせを含む、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(30)上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体と、被験体由来の細胞と、該被験体に由来しない抗原または該抗原の含有物とを混合するステップを含む、該被験体に由来しない抗原によって生じる疾患、障害または状態を処置または予防するための細胞を製造するための方法。
(31)前記疾患、障害または状態は、移植免疫拒絶反応、アレルギー、自己免疫疾患、移植片対宿主病、ならびにiPS細胞またはES細胞およびそれらの細胞由来の細胞、組織または臓器の移植によって引き起こされる免疫拒絶反応からなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(32)前記抗原の含有物は細胞である、上記項目のいずれかに記載の方法。
(33)上記項目のいずれかに記載の方法で製造される細胞。
(34)T細胞を含む、上記項目のいずれかに記載の細胞。
(35)上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体で免疫寛容を誘導された細胞、上記項目のいずれかに記載の方法によって製造される細胞、あるいは上記項目のいずれかに記載の細胞を含む、細胞治療剤。
(36)上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体で免疫寛容を誘導された細胞、上記項目のいずれかに記載の方法によって製造される細胞、あるいは上記項目のいずれかに記載の細胞を含む、被験体に由来しない抗原によって生じる疾患、障害または状態を処置または予防するための組成物。
(37)前記疾患、障害または状態は、移植免疫拒絶反応、アレルギー、自己免疫疾患、移植片対宿主病、iPS細胞またはES細胞およびそれらの細胞由来の細胞、組織または臓器の移植によって引き起こされる免疫拒絶反応からなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(38)前記免疫拒絶は、移植を受ける臓器が、腎臓、肝臓、心臓、皮膚、肺、すい臓、食道、胃、小腸、大腸、神経、血液、免疫系細胞を含む血球細胞、骨、軟骨、血管、角膜、眼球または骨髄であることを特徴とする、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(39)上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体で免疫寛容を誘導された細胞、上記項目のいずれかに記載の方法によって製造される細胞、あるいは上記項目のいずれかに記載の細胞の有効量を、被験体に投与する工程を含む、被験体において、該被験体に由来しない抗原によって生じる疾患、障害または状態を処置または予防するための方法。
(40)前記疾患、障害または状態は、移植免疫拒絶反応、アレルギー、自己免疫疾患、移植片対宿主病、iPS細胞またはES細胞およびそれらの細胞由来の細胞、組織または臓器の移植によって引き起こされる免疫拒絶反応からなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(41)前記免疫拒絶は、移植を受ける臓器が、腎臓、肝臓、心臓、皮膚、肺、すい臓、食道、胃、小腸、大腸、神経、血液、免疫系細胞を含む血球細胞、骨、軟骨、血管、角膜、眼球または骨髄であることを特徴とする、上記項目のいずれかに記載の方法。
(39A)被験体において、該被験体に由来しない抗原によって生じる疾患、障害または状態を処置または予防するための医薬を製造するための、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体で免疫寛容を誘導された細胞、上記項目のいずれかに記載の方法によって製造される細胞、あるいは上記項目のいずれかに記載の細胞の使用。
(40A)前記疾患、障害または状態は、移植免疫拒絶反応、アレルギー、自己免疫疾患、移植片対宿主病、iPS細胞またはES細胞およびそれらの細胞由来の細胞、組織または臓器の移植によって引き起こされる免疫拒絶反応からなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載の使用。
(41A)前記免疫拒絶は、移植を受ける臓器が、腎臓、肝臓、心臓、皮膚、肺、すい臓、食道、胃、小腸、大腸、神経、血液、免疫系細胞を含む血球細胞、骨、軟骨、血管、角膜、眼球または骨髄であることを特徴とする、上記項目のいずれかに記載の使用。
(39B)被験体において、該被験体に由来しない抗原によって生じる疾患、障害または状態を処置または予防するための医薬を製造するための、上記項目のいずれかに記載の抗体またはその改変体で免疫寛容を誘導された細胞、上記項目のいずれかに記載の方法によって製造される細胞、あるいは上記項目のいずれかに記載の細胞。
(40B)前記疾患、障害または状態は、移植免疫拒絶反応、アレルギー、自己免疫疾患、移植片対宿主病、iPS細胞またはES細胞およびそれらの細胞由来の細胞、組織または臓器の移植によって引き起こされる免疫拒絶反応からなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載の細胞。
(41B)前記免疫拒絶は、移植を受ける臓器が、腎臓、肝臓、心臓、皮膚、肺、すい臓、食道、胃、小腸、大腸、神経、血液、免疫系細胞を含む血球細胞、骨、軟骨、血管、角膜、眼球または骨髄であることを特徴とする、上記項目のいずれかに記載の細胞。
本開示は以下をも提供する。
(A1) ある細胞の細胞表面に発現するCD80および/またはCD86と、他の細胞の細胞表面に発現するCD28との相互作用を阻害する抗体であって、免疫活性化によるサイトカインの産生を実質的に誘導しない抗体。
(A2) 前記サイトカインがインターフェロンγを含む、(A1)に記載の抗体。
(A3) 前記抗体のFc部分が、免疫活性化によるサイトカインの産生を実質的に誘導しない部分である、(A1)または(A2)に記載の抗体。
(A4) 前記抗体のサブクラスがIgG2またはIgG4である、(A1)~(A3)のいずれか一項に記載の抗体。
(A5) 前記抗体のサブクラスがIgG4である、(A4)に記載の抗体。
(A6) 前記抗体が、Fc部分を欠いている、(A1)または(A2)に記載の抗体。
(A7) 前記抗体が、Fab抗体、F(ab’)2抗体、Fab’抗体、Fv抗体またはscFv抗体である、(A6)に記載の抗体。
(A8) 免疫寛容を誘導する能力を有する、(A1)~(A7)のいずれか一項に記載の抗体。
(A9) CD80および/またはCD86を発現する前記細胞が抗原提示細胞であり、CD28を発現する前記他の細胞がT細胞である、(A1)~(A8)のいずれか一項に記載の抗体。
(A10)前記抗体は、アンタゴニスティック抗CD80抗体、アンタゴニスティック抗CD86抗体、アンタゴニスティック抗CD28抗体、またはCD80およびCD86に対するアンタゴニスティック二重特異性抗体である、(A1)~(A9)のいずれか一項に記載の抗体。
(A11) キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体のいずれかである、(A1)~(A10)のいずれか一項に記載の抗体。
(A12) ヒト抗体のIgG2またはIgG4のFc部分を含む、(A1)~(A11)のいずれか一項に記載の抗体。
(A13) ヒト抗体のIgG4のFc部分を含む、(A1)~(A12)のいずれか一項に記載の抗体。
(A14) (a)配列番号25に記載のアミノ酸配列のCDRH1、配列番号26に記載のアミノ酸配列のCDRH2、および配列番号27に記載のアミノ酸配列のCDRH3を含むVH、ならびに配列番号28に記載のアミノ酸配列のCDRL1、配列番号29に記載のアミノ酸配列のCDRL2、および配列番号30に記載のCDRL3を含むVL、または
(b)配列番号31に記載のアミノ酸配列のCDRH1、配列番号32に記載のアミノ酸配列のCDRH2、および配列番号33に記載のアミノ酸配列のCDRH3を含むVH、ならびに配列番号34に記載のアミノ酸配列のCDRL1、配列番号35に記載のアミノ酸配列のCDRL2、および配列番号36に記載のCDRL3を含むVL
を含む、(A1)~(A13)のいずれか一項に記載の抗体。
(A15) (a)配列番号18に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVHおよび配列番号20に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVL
(b)配列番号22に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVHおよび配列番号24に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVL
を含む、(A14)に記載の抗体。
(A16) (A1)~(A15)のいずれか1項に記載の抗体のアミノ酸配列またはその一部をコードする核酸分子。
(A17) (a)配列番号17に記載のヌクレオチド配列を有する、VHをコードするポリヌクレオチド、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を有する、VLをコードするポリヌクレオチド、または
(b)配列番号21に記載のヌクレオチド配列を有する、VHをコードするポリヌクレオチド、および配列番号23に記載のヌクレオチド配列を有する、VLをコードするポリヌクレオチド
を含有する、(A16)に記載の核酸分子。
(A18) (A16)または(A17)に記載の核酸分子を有するベクター。
(A19) (A16)または(A17)に記載の核酸分子あるいは(A18)に記載のベクターを含む細胞。
(A20) (A19)の細胞を培養することを含む、(A1)~(A15)のいずれか一項に記載の抗体の製造方法。
(A21) (A1)~(A15)のいずれか一項に記載の抗体で免疫寛容を誘導された細胞。(A22) 前記免疫寛容は、前記抗体と、被験体由来の細胞と、該被験体に由来しない抗原または該抗原の含有物とを混合することによって誘導される、(A21)に記載の細胞。(A23) (A1)~(A15)のいずれか一項に記載の抗体のうちの少なくとも1つを含む、免疫寛容が誘導された細胞を作製するための組成物。
(A24) アンタゴニスティック抗CD80抗体、アンタゴニスティック抗CD86抗体、アンタゴニスティック抗CD28抗体、またはCD80およびCD86に対するアンタゴニスティック二重特異性抗体、あるいはこれらの任意の組み合わせを含む、(A23)に記載の組成物。
(A25) (A1)~(A15)のいずれか一項に記載の抗体と、被験体由来の細胞と、該被験体に由来しない抗原または該抗原の含有物とを混合するステップを含む、該被験体に由来しない抗原によって生じる疾患、障害または状態を処置または予防するための細胞を製造するための方法。
(A26) 前記疾患、障害または状態は、移植免疫拒絶反応、アレルギー、自己免疫疾患、移植片対宿主病、ならびにiPS細胞またはES細胞およびそれらの細胞由来の細胞、組織または臓器の移植によって引き起こされる免疫拒絶反応からなる群より選択される、(A25)に記載の方法。
(A27) 前記抗原の含有物は細胞である、(A25)または(A26)に記載の方法。
(A28) (A25)~(A27)のいずれか一項に記載の方法で製造される細胞。
(A29) T細胞を含む、(A28)に記載の細胞。
(A30) (A1)~(A15)のいずれか一項に記載の抗体で免疫寛容を誘導された細胞、(A25)もしくは(A26)に記載の方法によって製造される細胞、あるいは(A21)、(A22)、(A28)もしくは(A29)に記載の細胞を含む、細胞治療剤。
(A31) (A1)~(A15)のいずれか一項に記載の抗体で免疫寛容を誘導された細胞、(A25)もしくは(A26)に記載の方法によって製造される細胞、あるいは(A21)、(A22)、(A28)もしくは(A29)に記載の細胞を含む、被験体に由来しない抗原によって生じる疾患、障害または状態を処置または予防するための組成物。
(A32) 前記疾患、障害または状態は、移植免疫拒絶反応、アレルギー、自己免疫疾患、移植片対宿主病、iPS細胞またはES細胞およびそれらの細胞由来の細胞、組織または臓器の移植によって引き起こされる免疫拒絶反応からなる群より選択される、(A31)に記載の組成物。
(A33) 前記免疫拒絶は、移植を受ける臓器が、腎臓、肝臓、心臓、皮膚、肺、すい臓、食道、胃、小腸、大腸、神経、血液、免疫系細胞を含む血球細胞、骨、軟骨、血管、角膜、眼球または骨髄であることを特徴とする、(A32)に記載の組成物。
(A34) (A1)~(A15)のいずれか一項に記載の抗体で免疫寛容を誘導された細胞、(A23)もしくは(A24)に記載の方法によって製造される細胞、あるいは(A21)、(A22)、(A28)もしくは(A29)に記載の細胞の有効量を、被験体に投与する工程を含む、被験体において、該被験体に由来しない抗原によって生じる疾患、障害または状態を処置または予防するための方法。
(A35) 前記疾患、障害または状態は、移植免疫拒絶反応、アレルギー、自己免疫疾患、移植片対宿主病、iPS細胞またはES細胞およびそれらの細胞由来の細胞、組織または臓器の移植によって引き起こされる免疫拒絶反応からなる群より選択される、(A34)に記載の方法。
(A36) 前記免疫拒絶は、移植を受ける臓器が、腎臓、肝臓、心臓、皮膚、肺、すい臓、食道、胃、小腸、大腸、神経、血液、免疫系細胞を含む血球細胞、骨、軟骨、血管、角膜、眼球または骨髄であることを特徴とする、(A35)に記載の方法。
【0010】
本開示は、さらに以下の発明にも関する。
(B1) ヒトFc領域を有する抗体であって、細胞表面に発現するCD80またはCD86と、他の細胞表面に発現するCD28との相互作用を阻害することができ、かつ、ヒトPBMCによるサイトカイン産生を促進しないことを特徴とする抗体。
(B2) 抗原提示細胞表面に発現するCD80またはCD86とT細胞表面に発現するCD28との相互作用を阻害することができる、(B1)に記載の抗体。
(B3) 抗原または抗原を表面に有する細胞と共にPBMCに接触させることにより、当該抗原に対する免疫寛容を誘導することができる、(B1)または(B2)に記載の抗体。
(B4) サイトカインがIFNγであることを特徴とする、(B1)~(B3)のいずれか1項に記載の抗体。
(B5) 抗CD80抗体または抗CD86抗体である、(B1)~(B4)のいずれか1項に記載の抗体。
(B6) キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体である、(B1)~(B5)のいずれか1項に記載の抗体。
(B7) モノクローナル抗体である、(B1)~(B6)のいずれか1項に記載の抗体。
(B8) サブクラスがIgG2またはIgG4である、(B1)~(B7)のいずれか1項に記載の抗体。
(B8A) サブクラスがIgG1である、(B1)~(B7)のいずれか1項に記載の抗体。
(B8B) 配列番号38、配列番号42から選択される1つの配列番号に記載のアミノ酸配列を有する重鎖を有する、(B8A)に記載の抗体。
(B8C) 配列番号38に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、配列番号40に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を有するか、または
配列番号42に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、配列番号44に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を有する、(B8B)に記載の抗体。
(B8D) 配列番号55または配列番号61に記載のアミノ酸配列のCDRH3を有する、(B1)~(B7)、(B8A)~(B8C)のいずれか1項に記載の抗体。
(B8E) (B8D)に記載の抗体であって、
(Bi)配列番号53に記載のアミノ酸配列のCDRH1、配列番号54に記載のアミノ酸配列のCDRH2、配列番号55に記載のアミノ酸配列のCDRH3を有する抗体、あるいは、
(Bii)配列番号59に記載のアミノ酸配列のCDRH1、配列番号60に記載のアミノ酸配列のCDRH2、配列番号61に記載のアミノ酸配列のCDRH3を有する抗体。
(B8F) (B8E)の(Bi)に記載の抗体であって、配列番号56に記載のアミノ酸配列のCDRL1、配列番号57に記載のアミノ酸配列のCDRL2、配列番号58に記載のアミノ酸配列のCDRL3を有する抗体、あるいは、
(B8E)の(Bii)に記載の抗体であって、配列番号62に記載のアミノ酸配列のCDRL1、配列番号63に記載のアミノ酸配列のCDRL2、配列番号64に記載のアミノ酸配列のCDRL3を有する抗体。
(B8G) 配列番号46または配列番号50に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)を有する、(B8D)に記載の抗体。
(B8H) 配列番号46に記載のアミノ酸配列を有するVHを有し、かつ、配列番号48に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)を有するか、または、配列番号50に記載のアミノ酸配列を有するVHを有し、かつ、配列番号52に記載のアミノ酸配列を有するVLを有する、(B8G)に記載の抗体。
(B8I) 配列番号38または配列番号42から選択される1つの配列番号に記載のアミノ酸配列を有する重鎖を有する、(B8G)に記載の抗体。
(B8J) 配列番号38に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、配列番号40に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を有するか、または
配列番号42に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、配列番号44に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を有する、(B8I)に記載の抗体。(B9) 配列番号27または配列番号33に記載のアミノ酸配列のCDRH3を有する、(B1)~(B8)のいずれか1項に記載の抗体。
(B10) (B9)に記載の抗体であって、
(Bi)配列番号25に記載のアミノ酸配列のCDRH1、配列番号26に記載のアミノ酸配列のCDRH2、配列番号27に記載のアミノ酸配列のCDRH3を有する抗体、あるいは、
(Bii)配列番号31に記載のアミノ酸配列のCDRH1、配列番号32に記載のアミノ酸配列のCDRH2、配列番号33に記載のアミノ酸配列のCDRH3を有する抗体。
(B11) (B10)の(Bi)に記載の抗体であって、配列番号28に記載のアミノ酸配列のCDRL1、配列番号29に記載のアミノ酸配列のCDRL2、配列番号30に記載のアミノ酸配列のCDRL3を有する抗体、あるいは、
(B10)の(Bii)に記載の抗体であって、配列番号34に記載のアミノ酸配列のCDRL1、配列番号35に記載のアミノ酸配列のCDRL2、配列番号36に記載のアミノ酸配列のCDRL3を有する抗体。
(B12) 配列番号18または配列番号22に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)を有する、(B9)に記載の抗体。
(B13) 配列番号18に記載のアミノ酸配列を有するVHを有し、かつ、配列番号20に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)を有するか、または、配列番号22に記載のアミノ酸配列を有するVHを有し、かつ、配列番号24に記載のアミノ酸配列を有するVLを有する、(B12)に記載の抗体。
(B14) 配列番号2、配列番号6、配列番号10、配列番号14から選択される1つの配列番号に記載のアミノ酸配列を有する重鎖を有する、(B12)に記載の抗体。
(B15) 配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を有するか、
配列番号6に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、配列番号8に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を有するか、
配列番号10に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、配列番号12に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を有するか、または
配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、配列番号16に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を有する、(B14)に記載の抗体。
(B16) (B1)~(B15)のいずれか1項に記載の抗体を含有する医療用組成物。
(B17) 抗CD80抗体抗CD86抗体を含有する、(B16)に記載の医療用組成物。(B18) 免疫寛容を誘導するために用いられる、(B16)または(B17)に記載の医療用組成物。
(B19) 臓器移植を受ける患者から採取された細胞の免疫寛容を誘導するために用いられる、(B18)に記載の医療用組成物。
(B20) 移植を受ける臓器が、心臓、腎臓または肝臓であることを特徴とする(B19)または(B20)に記載の医療用組成物。
(B21) 自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の患者において免疫寛容を誘導するために用いられる、(B18)に記載の医療用組成物。
(B22) (B12)~(B15)のいずれか1項に記載の抗体のアミノ酸配列をコードする核酸分子。
(B23) 配列番号1、5、9、13から選択されるいずれか1つに記載のヌクレオチド配列を有するVHをコードするポリヌクレオチド、配列番号3、7、11、15から選択されるいずれか1つに記載のヌクレオチド配列を有するVLをコードするポリヌクレオチドを含有する、(B22)に記載の核酸分子。
(B24) (B22)または(B23)に記載の核酸分子を有するベクター。
(B25) (B24)に記載のベクターを有する宿主細胞。
(B26) (B25)の宿主細胞を培養することを含む、(B1)~(B15)のいずれか1項に記載の抗体の製造方法。
(B27) (B1)~(B15)のいずれか1項に記載の抗体と、免疫寛容を誘導しようとする抗原または該抗原を表面に有する細胞と、PBMCとを接触させることを含む、PBMCの前記抗原に対する免疫寛容の誘導方法。
(B28) ex vivoで行われることを特徴とする、(B27)に記載の誘導方法。
(B29) PBMCが臓器移植を受ける患者から採取された細胞である、(B27)または(B28)に記載の方法。
(B30) PBMCが自己免疫疾患またはアレルギー疾患の患者から採取された細胞である、(B27)または(B28)に記載の方法。
(B31) (B27)~(B30)のいずれか1項に記載の方法により免疫寛容を誘導されたPBMC。
(B32) (B30)に記載のPBMCを有効性成分として含有する細胞治療剤。
(B33) 臓器移植における拒絶反応を抑制するための、(B32)に記載の細胞治療剤
(B34) 移植を受ける臓器が、腎臓、肝臓、心臓、皮膚、肺、すい臓、食道、胃、小腸、大腸、神経、血液、免疫系細胞を含む血球細胞、骨、軟骨、血管、角膜、眼球または骨髄であることを特徴とする(B33)に記載の細胞治療剤。
(B35) 自己免疫疾患またはアレルギー性疾患を治療するための、(B32)に記載の細胞治療剤。
(B36) (B1)~(B15)のいずれか1項に記載の抗体を臓器移植を受ける患者に投与することを含む、臓器移植における拒絶反応の抑制方法。
(B37) 移植を受ける臓器が、腎臓、肝臓、心臓、皮膚、肺、すい臓、食道、胃、小腸、大腸、神経、血液、免疫系細胞を含む血球細胞、骨、軟骨、血管、角膜、眼球または骨髄であることを特徴とする(B36)に記載の方法。
(B37) (B1)~(B15)のいずれか1項に記載の抗体を自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の患者に投与することを含む、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の治療方法。
(B38) (B32)~(B34)のいずれか1項に記載の細胞治療剤を臓器移植を受ける患者に投与することを含む、臓器移植における拒絶反応の抑制方法。
(B39) (B32)または(B35)の細胞治療剤を自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の患者に投与することを含む、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の治療方法。
(B40) 更に、免疫寛容を誘導されたPBMCを患者に投与することを含む、(B27)~(B30)のいずれか1項に記載の方法。
(B41) 移植される臓器に対する免疫寛容を誘導された患者由来のPBMCを臓器移植を受ける患者に投与することを含む、(B40)に記載の方法。
(B42) 自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の原因となる抗原に対する免疫寛容を誘導された患者由来のPBMCを自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の患者に投与することを含む、(B40)に記載の方法。
【0011】
本開示において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0012】
本開示の抗体は、免疫寛容の誘導能を維持したまま、IFNγ産生を抑制する。特に、本開示のサブクラスIgG2またはIgG4の抗体は、IFNγを産生することなく、免疫寛容を誘導する細胞を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】抗ヒトCD80および抗CD86抗体(IgG1)存在下での混合リンパ球反応(
3H-チミジン取り込み)の結果を示す。Naive;ドナー添加なし、抗体添加なし、Allo;ドナー添加あり、抗体添加なし。10,1,0,1は、添加した各抗体の濃度(μg/ml)である。縦軸は、抗体添加なし(Allo)を基準とした
3H-チミジン取り込みを示す。
【
図2】抗ヒトCD80および抗CD86抗体(IgG1)存在下での混合リンパ球反応(IFNγ産生)の結果を示す。縦軸は、培地中の濃度(pg/ml)を示す。
【
図3】抗ヒトCD80および抗CD86抗体(IgG1)存在下での混合リンパ球反応(
3H-チミジン取り込み)の結果を示す。縦軸は、抗体添加なし(Allo)を基準とした
3H-チミジン取り込みを示す。
【
図4】抗ヒトCD80および抗CD86抗体(IgG1)存在下での混合リンパ球反応(IFNγ産生)の結果を示す。上段:ドナー刺激あり、下段:ドナー刺激なし。*は、50000pg/mL以上を表す。縦軸は、培地中の濃度(pg/ml)を示す。
【
図5】抗CD80および抗CD86抗体(IgG2、IgG4)存在下での混合リンパ球反応(
3H-チミジン取り込み)の結果を示す。縦軸は、抗体添加なし(Allo)を基準とした
3H-チミジン取り込みを示す。10,3,1は、添加した各抗体の濃度(μg/ml)である。
【
図6】抗CD80および抗CD86抗体(IgG1、IgG2、IgG4)存在下での混合リンパ球反応(IFNγ産生)の結果を示す。縦軸は、培地中の濃度(pg/ml)を示す。
【
図7】抗CD80および抗CD86抗体(IgG1、IgG2、IgG4)存在下で得られた細胞添加時の混合リンパ球反応(
3H-チミジン取り込み)の結果を示す。縦軸は、抗体添加なし(Allo)を基準とした
3H-チミジン取り込みを示す。1/2,1/4,1/8は、ナイーブなレスポンダー細胞に対する、抗CD80および抗CD86抗体(IgG1、IgG2、IgG4)存在下で得られた細胞の混合比率である。
【
図8】キメラ抗CD80抗体およびキメラ抗CD86抗体存在下での混合リンパ球反応(IFNγ産生)の結果を示す。縦軸は、培地中の濃度(pg/ml)を示す。
【
図9】キメラ抗CD80抗体およびキメラ抗CD86抗体存在下で得られた細胞添加時の混合リンパ球反応(
3H-チミジン取り込み)の結果を示す。縦軸は、抗体添加なし(Allo)を基準とした
3H-チミジン取り込みを示す。1/2、1/4、1/8、1/16は、ナイーブなレスポンダー細胞に対する、キメラ抗CD80抗体およびキメラ抗CD86抗体存在下で得られた細胞の混合比率である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0015】
(用語の定義)
本明細書において「約」とは、本明細書で使用される場合、後に続く数値の±10%を意味する。
【0016】
本明細書において、「免疫寛容」とは、特定の抗原に対する特異的免疫反応を示さないか、特異的免疫反応が抑制された状態のことである。免疫寛容は、免疫細胞(特にT細胞)が特定の抗原に対する特異的免疫反応を示さないか、特異的免疫反応が抑制された状態と、ヒトが特定の抗原に対する特異的免疫反応を示さないか、特異的免疫反応が抑制された状態の両方またはいずれか一方を意味していてもよい。免疫寛容が惹起されることにより、免疫拒絶反応に対する処置が可能になったり、アレルギーに対する治療が可能なったりすることから注目されている。本明細書において、「アナジー」とは、抗原提示細胞から抗原を提示される際に共刺激が入力されないことにより、当該次回に共刺激のある条件で刺激されても反応できなくなった状態を意味する。本明細書において、「免疫寛容を誘導されたPBMC(またはT細胞)」と「アナジーなPBMC(またはT細胞)」とは同意義である。
【0017】
本明細書において、「被験体」とは、飼育動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例えば、ヒト、およびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、ならびに、げっ歯類(例えば、マウスおよびラット)を含む。特定の実施形態では、被験体は、ヒトである。
【0018】
本明細書において、「免疫活性化」とは、免疫系の細胞(例えば、マクロファージ、好中球、ナチュラルキラー(NK)細胞、T細胞、B細胞など)への刺激、免疫系の細胞の増殖を意味する。免疫系の細胞が活性化されることによりサイトカイン(例えば、INF)の産生や細胞傷害活性が誘導される。
【0019】
本明細書において、「免疫活性化によるサイトカインの産生を実質的に誘導しない」とは、抗原存在下かつ本開示の抗体非存在下で、被験体に由来する細胞(例えば、マクロファージ、好中球、ナチュラルキラー(NK)細胞、T細胞、B細胞など)により産生されるサイトカイン量の約20%以下のサイトカイン産生をもたらすことをいう。
【0020】
本明細書において広義の「抗体」は、抗原上の特定のエピトープに特異的に結合することができる分子またはその集団をいう。本明細書における広義の「抗体」は、全長抗体(すなわち、Fc部分を有する抗体)であっても、Fc部分を欠いている抗体であってもよい。Fc部分を欠いている抗体は、目的の抗原に結合することができればよく、そのような抗体としては、例えば、Fab抗体、F(ab’)2抗体、Fab’抗体、Fv抗体、scFv抗体などが挙げられるが、これらに限定されない。また抗体は、抗体修飾物または抗体非修飾物を含む。抗体修飾物は、抗体と、例えばポリエチレングリコール等の各種分子が結合していてもよい。抗体修飾物は、抗体に公知の手法を用いて化学的な修飾を施すことによって得ることができる。
【0021】
本明細書において狭義の「抗体」は、抗原上の特定のエピトープに特異的に結合することができるイムノグロブリンまたはその集団をいい、その改変体を「抗体の改変体」という。本明細書における狭義の「抗体」は、全長抗体(すなわち、Fc部分を有する抗体)であり得、本明細書における「抗体の改変体」は、上記抗体のFc部分を欠いている改変体であり得る。したがって、本明細書において狭義の抗体は全長抗体とも称され得、抗体の改変体は全長抗体の改変体とも称され得る。Fc部分を欠いている改変体は、目的の抗原に結合することができればよく、そのような改変体としては、例えば、Fab抗体、F(ab’)2抗体、Fab’抗体、Fv抗体、scFv抗体などが挙げられるが、これらに限定されない。また抗体の改変体は、抗体修飾物または抗体非修飾物を含む。抗体修飾物は、抗体と、例えばポリエチレングリコール等の各種分子が結合していてもよい。抗体修飾物は、抗体に公知の手法を用いて化学的な修飾を施すことによって得ることができる。
【0022】
本開示の一実施形態において「ポリクローナル抗体」は、例えば、抗原に特異的なポリクローナル抗体の産生を誘導するために、哺乳類(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、サル等)、鳥類等に、目的の抗原を含む免疫原を投与することによって生成することが可能である。免疫原の投与は、1つ以上の免疫剤、および所望の場合にはアジュバントの注入をしてもよい。アジュバントは、免疫応答を増加させるために使用されることもあり、フロイントアジュバント(完全または不完全)、ミネラルゲル(水酸化アルミニウム等)、または界面活性物質(リゾレシチン等)等を含んでいてもよい。免疫プロトコールは、当該技術分野で公知であり、選択する宿主生物に合わせて、免疫応答を誘発する任意の方法によって実施される場合がある(タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):86-91.)。
【0023】
本開示の一実施形態において「モノクローナル抗体」は、集団を構成する個々の抗体が、少量自然に生じることが可能な突然変異を有する抗体を除いて、実質的に単一のエピトープに対応する同一な抗体である場合を含む。または、集団を構成する個々の抗体が、少量自然に生じることが可能な突然変異を有する抗体を除いて、実質的に同一である抗体であってもよい。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、異なるエピトープに対応する異なる抗体を典型的に含むような、および/または同一なエピトープに対応する異なる抗体を典型的に含むような、通常のポリクローナル抗体とは異なる。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンによって汚染されていないハイブリドーマ培養から合成できる点で有用である。「モノクローナル」という形容は、実質的に均一な抗体集団から得られるという特徴を示していてもよいが、抗体を何か特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、モノクローナル抗体は、"Kohler G, Milstein C.,Nature. 1975 Aug 7;256(5517):495-497."に掲載されているようなハイブリドーマ法と同様の方法によって作製してもよい。あるいは、モノクローナル抗体は、米国特許第4816567号に記載されているような組換え法と同様の方法によって作製してもよい。または、モノクローナル抗体は、"Clackson et al., Nature. 1991 Aug 15;352(6336):624-628."、または"Marks et al., J Mol Biol. 1991 Dec 5;222(3):581-597."に記載されているような技術と同様の方法を用いてファージ抗体ライブラリーから単離してもよい。または、"タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):92-96."に掲載されている方法でよって作製してもよい。
【0024】
本開示の一実施形態において「キメラ抗体」は、例えば、異種生物間における抗体の可変領域と、抗体の定常領域とを連結したもので、遺伝子組換え技術によって構築できる。マウス-ヒトキメラ抗体は、例えば、"Roguska et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1994Feb 1;91(3):969-973."に記載の方法で作製できる。マウス-ヒトキメラ抗体を作製するための基本的な方法は、例えば、クローン化されたcDNAに存在するマウスリーダー配列および可変領域配列を、哺乳類細胞の発現ベクター中にすでに存在するヒト抗体定常領域をコードする配列に連結する。または、クローン化されたcDNAに存在するマウスリーダー配列および可変領域配列をヒト抗体定常領域をコードする配列に連結した後、哺乳類細胞発現ベクターに連結してもよい。ヒト抗体定常領域の断片は、任意のヒト抗体のH鎖定常領域およびヒト抗体のL鎖定常領域のものとすることができ、例えばヒトH鎖のものについてはCγ1、Cγ2、Cγ3またはCγ4を、L鎖のものについてはCλまたはCκを各々挙げることができる。
【0025】
本開示の一実施形態において「ヒト化抗体」は、例えば、非ヒト種由来の1つ以上のCDR、およびヒト免疫グロブリン由来のフレームワーク領域(FR)、さらにヒト免疫グロブリン由来の定常領域を有し、所望の抗原に結合する抗体である。抗体のヒト化は、当該技術分野で既知の種々の手法を使用して実施可能である(Almagro et al., Front Biosci. 2008 Jan 1;13:1619-1633.)。例えば、CDRグラフティング(Ozaki et al.,Blood.1999 Jun1;93(11):3922-3930.)、Re-surfacing (Roguska et al., Proc Natl Acad Sci US A.1994Feb 1;91(3):969-973.)、またはFRシャッフル(Damschroder et al., Mol Immunol. 2007Apr;44(11):3049-3060. Epub 2007 Jan 22.)などが挙げられる。抗原結合を改変するために(好ましくは改善するために)、ヒトFR領域のアミノ酸残基は、CDRドナー抗体からの対応する残基と置換してもよい。このFR置換は、当該技術分野で周知の方法によって実施可能である(Riechmann et al., Nature. 1988 Mar 24;332(6162):323-327.)。例えば、CDRとFR残基の相互作用のモデリングによって抗原結合に重要なFR残基を同定してもよい。または、配列比較によって、特定の位置で異常なFR残基を同定してもよい。
【0026】
本開示の一実施形態において「ヒト抗体」は、例えば、抗体を構成する重鎖の可変領域および定常領域、軽鎖の可変領域および定常領域を含む領域が、ヒトイムノグロブリンをコードする遺伝子に由来する抗体である。主な作製方法としてはヒト抗体作製用トランスジェニックマウス法、ファージディスプレイ法などがある。ヒト抗体作製用トランスジェニックマウス法では、内因性Igをノックアウトしたマウスに機能的なヒトのIg遺伝子を導入すれば、マウス抗体の代わりに多様な抗原結合能を持つヒト抗体が産生される。さらにこのマウスを免疫すればヒトモノクローナル抗体を従来のハイブリドーマ法で得ることが可能である。例えば、"Lonberg et al., Int Rev Immunol.1995;13(1):65-93."に記載の方法で作製できる。ファージディスプレイ法は、典型的には大腸菌ウイルスの一つであるM13やT7などの繊維状ファージのコート蛋白質(g3p、g10p等)のN末端側にファージの感染性を失わないよう外来遺伝子を融合蛋白質として発現させるシステムである。例えば、"Vaughanet al., Nat Biotechnol. 1996 Mar;14(3):309-314."に記載の方法で作製できる。
【0027】
本明細書において「改変配列」とは、アミノ酸配列の場合、元々の配列に対して、少なくとも1つのアミノ酸残基の改変(置換、付加または欠失)を有する配列をいい、核酸配列の場合、フレームシフトが生じないような、少なくとも1つの塩基の改変(置換、付加または欠失)をいう。改変配列は、元々の配列が有する機能と類似の機能を有しており、例えば、元々の配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一である。元々の配列が抗体である場合は、改変配列は、CDR内に改変を有さないことが好ましいが、元々の抗体の結合能力または機能を維持する限り、1または複数の改変を有してもよく、好ましくは、3個以下の改変、より好ましくは、2個以下の改変、最も好ましくは1個の改変を有する。CDR内に改変を導入する場合、当業者であれば、元々の抗体の結合能力または機能を維持するように、適切な改変を選択することが可能である。
【0028】
本明細書において、「被験体由来の細胞」とは、本開示の組成物が投与される被験体から得た細胞または該被験体から得た細胞に由来する細胞をいう。本明細書において、「被験体由来の抗原」とは、免疫応答を生じさせる被験体自身が生成する抗原、例えば、自己免疫疾患を有する被験体における自己免疫疾患の原因となる被験体自身が生成する抗原をいう。本明細書において、「被験体に由来しない抗原」とは、免疫応答を生じさせ得る外来の抗原をいう。本明細書において、「被験体に由来しない抗原の含有物(antigen-containing material)」は、被験体に由来しない抗原を含有する任意の物質または物質の集合物をいい、例えば、被験体に由来しない抗原を発現している細胞、細胞集団、組織等が挙げられる。
【0029】
本明細書において、「移植免疫拒絶反応」とは、臓器、組織または細胞の移植を受けた被験体において、被験体の免疫系が、移植された臓器、組織または細胞に対して攻撃し、損傷または破壊することをいう。
【0030】
本明細書において、「アレルギー」とは、被験体に由来しない抗原に対して、免疫応答が過剰に起こる状態をいう。アレルギーを引き起こす被験体に由来しない抗原は、アレルゲンとも呼ばれ、例えば、ダニ抗原、卵白抗原、ミルク抗原、小麦抗原、ピーナッツ抗原、大豆抗原、ソバ抗原、ゴマ抗原、コメ抗原、甲殻類抗原、キウイ抗原、リンゴ抗原、バナナ抗原、モモ抗原、トマト抗原、マグロ抗原、サケ抗原、サバ抗原、牛肉抗原、鶏肉抗原、豚肉抗原、ネコ皮屑抗原、昆虫抗原、花粉抗原、イヌ皮屑抗原、真菌抗原、細菌抗原、ラテックス、ハプテンおよび金属等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0031】
本明細書において、「自己免疫疾患」とは、免疫系が自身の細胞、組織または臓器に対して望ましくない免疫応答を行う任意の疾患をいう。自己免疫疾患としては、例えば、関節リウマチ、多発性硬化症、1型糖尿病、炎症性腸疾患(例えば、クローン病または潰瘍性大腸炎)、全身性エリテマトーデス、乾癬、強皮症、自己免疫性甲状腺疾患、円形脱毛症、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、セリアック病、シェーグレン症候群、リウマチ熱、胃炎、自己免疫性萎縮性胃炎、自己免疫性肝炎、膵島炎、卵巣炎、精巣炎、ブドウ膜炎、水晶体起因性ブドウ膜炎、重症筋無力症、原発性粘液水腫、悪性貧血、自己免疫性溶血性貧血、アジソン病、強皮症、グッドパスチャー症候群、腎炎(例えば、糸球体腎炎)、乾癬、尋常性天疱瘡、類天疱瘡、交感性眼炎、特発性血小板減少性紫斑病、特発性白血球減少症、ウェゲナー肉芽腫および多発性/皮膚筋炎が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
本明細書において、「移植片対宿主病」とは、移植された臓器、組織または細胞が、免疫応答によって、移植を受けた被験体の細胞、組織または臓器を攻撃し、損傷または破壊することをいう。
【0033】
本明細書において、「iPS細胞もしくはES細胞またはそれらの細胞に由来する細胞、組織もしくは臓器の移植によって引き起こされる免疫拒絶反応」とは、iPS細胞もしくはES細胞が有する抗原、またはiPS細胞もしくはES細胞に由来する細胞、組織もしくは臓器が有する抗原によって生じる免疫拒絶反応をいう。
【0034】
(好ましい実施形態)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本開示の例示であり、本開示の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本開示の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。これらの実施形態について、当業者は適宜、任意の実施形態を組み合わせ得る。
【0035】
本発明者らは、CD80および/またはCD86とCD28との相互作用を阻害するヒトFc領域を有する抗体を用いた不免疫応答(アナジー)の誘導を試みた結果、マクロファージ、好中球、ナチュラルキラー(NK)細胞のような免疫系に関与する細胞を活性化し、免疫反応をつかさどるインターロイキンやインターフェロン(IFN)などの液性因子放出を誘導することを見出した。これらの液性因子の放出は免疫寛容とは逆の好ましくない免疫系の活性化を誘導することから、ヒトFc領域を有する抗体を用いた不免疫応答(アナジー)の誘導には、免疫寛容の効果を減弱させるという問題が存在することを新たに発見し、このヒトFc領域を調整することで免疫寛容の効果を改善することができることを見出した。
【0036】
具体的には、CD80および/またはCD86とCD28との相互作用を阻害し、免疫寛容を誘導するキメラ抗体は、リコンビナント・ヒトCD80/CD86―Fc融合タンパクをBalb/cマウスに免疫感作後、そのマウスの脾臓からmRNAを抽出し、cDNAを合成、RT-PCR法により増幅した遺伝子を用いて構築したファージディズプレイ・ライブラリーより同定したCD80/CD86に親和性の高いFab抗体を選択した後、ヒトFc部分を遺伝子工学的に付与し作製した。
【0037】
免疫寛容誘導に使用した抗体に対する拒絶反応を最小化するため、発明者らはキメラ抗体のヒト化をXoma社により開発されたCDRグラフティング法により実施し、ヒト化抗体(サブクラス;IgG1)を作製した。得られたヒト化抗CD80抗体および抗CD86抗体(サブクラス;IgG1)を、ドナーとレシピエントを想定した2人のボランティアから採取したPBMC(末梢血単核細胞)による混合リンパ球反応に添加し、誘導した細胞の同じ抗原刺激時の抑制機能を評価した。具体的には、1人のボランティアからPBMCを採取し30Gy放射線照射し別のボランティアから採取したPBMCと、ヒト化抗CD80/CD86抗体の存在下で7日間共培養してドナー抗原特異的アナジー細胞を誘導した。この誘導した細胞を同じレシピエントとドナーの混合リンパ球に一定の割合で添加して、抗原刺激に伴う細胞の分裂増殖の抑制能をトリチウム標識したチミジンの取込量として測定した。その結果、ヒト化抗CD80抗体および抗CD86抗体は有意にチミジン取込量を抑制し、その抗体を用いて誘導した細胞には抑制機能を新たに獲得していることが確認された。
【0038】
しかしながら、7日間培養後の上清に存在するIFNγ量を測定した所、非抗原刺激時でも抗体を添加するとIFNγが産生されていた。また、放射線を照射したPBMC添加によるアロ抗原刺激時に通常産生されているIFNγは抗体を添加してもほぼ同等量上澄中に存在していることがあきらかになった。
【0039】
そこで、本発明者らは、免疫寛容の誘導能を維持したまま、IFNγ産生を誘導しない抗体を得るべく鋭意検討した結果、ヒト化抗CD80/CD86抗体のサブクラスをIgG2、またはIgG4とすることで、IFNγを産生する事なく、免疫寛容を誘導する細胞を得られることを見い出した。
【0040】
(抗体)
本開示の一態様において、本開示は、ある細胞の細胞表面に発現するCD80および/またはCD86と、他の細胞の細胞表面に発現するCD28との相互作用を阻害する抗体であって、免疫活性化によるサイトカインの産生を実質的に誘導しない抗体を提供する。本開示の抗体は、抗CD80抗体および/または抗CD86抗体であってもよく、CD80およびCD86に対する二重特異性抗体であってもよく、抗CD28抗体であってもよく、あるいはこれらの混合物であってもよい。いくつかの実施形態において、本開示の抗体のFc部分は、免疫活性化によるサイトカインの産生を実質的に誘導しない部分であり得る。特定の実施形態では、本開示の抗体のサブクラスはIgG2またはIgG4である。サブクラスがIgG2またはIgG4である本開示の抗体は、驚くべきことに、免疫系の細胞によるサイトカインの産生をまったく誘導しなかった。本開示で使用される抗体は、レセプターを作動することによって望ましくない作用が生じる可能性があるため、アンタゴニスティック抗体であることが好ましい。
【0041】
いくつかの実施形態において、免疫活性化によるサイトカインの産生を実質的に誘導しない抗体は、本開示の抗体非存在下で、被験体に由来する細胞(例えば、マクロファージ、好中球、ナチュラルキラー(NK)細胞、T細胞、B細胞など)により産生されるサイトカイン量の約20%以下、好ましくは、約10%以下、より好ましくは、約5%以下、最も好ましくは、約0%のサイトカイン産生をもたらし得る。
【0042】
本明細書において「アンタゴニスティック(抗体)」とは、アンタゴニスト(抗体)、阻害(抗体)またはブロッキング(抗体)などと同義であり、対象となる機能またはシグナルの働きを阻害し、生体の作用を弱めるまたは不活性化させる機能を有するもの(抗体の場合は、抗体)をいう。
【0043】
上述のとおり、抗体のサブクラスをIgG1からIgG2またはIgG4に変更するとにより、予想外にサイトカインの産生を誘導が抑制された。理論に束縛されることを望まないが、IgGサブクラス間では、Fc部分を介した機能が異なっているため、サイトカイン産生の誘導は、IgG1抗体のFc部分に起因していると考えられる。したがって、別の実施形態において、本開示の抗体は、Fc部分を欠いた抗体であってもよい。そのような抗体としては、例えば、Fab抗体、F(ab’)2抗体、Fab’抗体、Fv抗体、scFv抗体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
いくつかの実施形態において、CD80および/またはCD86を発現する前記細胞が抗原提示細胞であり、CD28を発現する前記他の細胞がT細胞であり得る。
【0045】
本開示の別の局面において、本開示の抗体は、細胞表面に発現するCD80および/またはCD86と、他の細胞表面に発現するCD28との相互作用を阻害することができることを特徴とする。候補抗体が細胞表面に発現するCD80および/またはCD86と、他の細胞表面に発現するCD28との相互作用を阻害することができるか否かは、例えば、共免疫沈降法により判定することができる。具体的には、これらのタンパク質を結合させた後、いずれか一方のタンパク質(bait)に結合する抗体を用いて免疫沈降させ、免疫沈降されたもう一方のタンパク質(Prey)測定する。候補抗体を含まないコントロールと比較して候補抗体を添加した場合に免疫沈降物中に含まれるPreyが減少した場合には、当該候補抗体はタンパク質間の結合を阻害すると判定される。免疫沈降物中に含まれるPreyは、必要に応じてPreyを標識化するなどして測定することができる。また、プルダウンアッセイ法を用いて、いずれか一方のタンパク質(bait)を担体に結合させ、候補抗体の存在下/非存在下でもう一方のタンパク質(Prey)を接触させ、担体に結合したPreyの量を比較してもよい。
【0046】
好ましくは、本開示の抗体は抗原提示細胞表面に発現するCD80および/またはCD86とT細胞表面に発現するCD28との相互作用を阻害することができる。候補抗体が、抗原提示細胞表面に発現するCD80および/またはCD86とT細胞表面に発現するCD28との相互作用を阻害するか否かは、CD80および/またはCD86を発現する抗原提示細胞と、CD28を発現するT細胞を抗原候補抗体の存在下で接触させて、T細胞が活性化されない場合には抗原提示細胞表面に発現するCD80および/またはCD86とT細胞表面に発現するCD28との相互作用を阻害すると判定することができる。
【0047】
また、本開示の抗体は、ヒトPBMCによるサイトカイン産生を促進しないことを特徴とする。候補抗体がヒトPBMCによるサイトカイン産生を促進しないか否かは、候補抗体と培地中のヒトPBMCを接触させて、培地中に放出されたサイトカイン量を測定することにより判定することができる。抗体非存在下でヒトPBMCにより放出されたサイトカイン量と比較して、候補抗体の存在下で放出されたサイトカイン量が少ない/多い該候補抗体は、ヒトPBMCによるサイトカイン産生を促進しない/すると判定される。サイトカインとしては、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-9、IL-14、IL-15、IL-17、IL-18などのインターロイキン;CC、CXC、CX3C、Cなどのケモカイン;IFNα、IFNβ、IFNγなどのインターフェロン;、TNFαなどの細胞傷害因子を挙げることができる。好ましくは、炎症性サイトカインであり、より好ましくはIFNγである。サイトカインの測定は、市販のキットを用いて行うことができる。例えば、IFNγはBioligands社製Human IFNγ ELISA MAXTM Deluxeを用いて測定することができる。
【0048】
好ましくは、本開示の抗体は、抗原または抗原を表面に有する細胞と共にPBMCに接触させることにより、当該抗原に対する免疫寛容を誘導することができる。候補抗体が、抗原または抗原を表面に有する細胞と共にPBMCに接触させることにより、当該抗原に対する免疫寛容を誘導することができるか否かは、候補抗体の存在下で抗原または抗原を表面に有する細胞とPBMCを数日~7日間接触させた後、3H-チミジンを添加し、3H-チミジン添加の16~20時間後に培養液中の3H-チミジン除去後、PBMCによる3H-チミジン取込み量を測定することにより判定することができる。候補抗体を展開してないコントロールと比較して、候補抗体を添加した場合において、PBMCによる3H-チミジン取り込み量が少ない場合、当該抗体は抗原または抗原を表面に有する細胞と共にPBMCに接触させることにより、当該抗原に対する免疫寛容を誘導することができると判定することができる。
【0049】
本明細書において、「免疫寛容」とは、特定の抗原に対する特異的免疫反応を示さないか、特異的免疫反応が抑制された状態のことである。免疫寛容は、免疫細胞(特にT細胞)が特定の抗原に対する特異的免疫反応を示さないか、特異的免疫反応が抑制された状態と、ヒトが特定の抗原に対する特異的免疫反応を示さないか、特異的免疫反応が抑制された状態の両方またはいずれか一方を意味していてもよい。本明細書において、「アナジー」とは、抗原提示細胞から抗原を提示される際に共刺激が入力されないことにより、当該次回に共刺激のある条件で刺激されても反応できなくなったT細胞を意味する。本明細書において、「免疫寛容を誘導されたPBMC(またはT細胞)」と「アナジーなPBMC(またはT細胞)」とは同意義である。
【0050】
好ましくは、本開示は、抗CD80抗体および抗CD86抗体に関する。本明細書において、抗CD80抗体および抗CD86抗体は、それぞれ、CD80およびCD86と特異的に結合する。本明細書において、抗体が「特異的に」結合するとは、その抗体が他のタンパク質やペプチドに対する親和性よりも、目的のタンパク質(CD80またはCD86)に対して実質的に高い親和性で結合することを意味する。ここで、「実質的に高い親和性で結合する」とは、所望の測定装置または方法によって、目的とする特定のタンパク質やペプチドを他のタンパク質やペプチドから区別して検出することが可能な程度に高い親和性を意味する。例えば、実質的に高い親和性は、ELISAまたはEIAにより検出された強度(例えば、蛍光強度)として、約3倍以上、約4倍以上、約5倍以上、約6倍以上、約7倍以上、約8倍以上、約9倍以上、約10倍以上、約20倍以上、約30倍以上、約40倍以上、約50倍以上、約100倍以上であることを意味していてもよい。
【0051】
本開示の抗体とCD80、CD86またはCD28との結合における結合速度定数(Ka1)としては、例えば、約1×104Ms-1以上、約1×105Ms-1以上、約5×105Ms-1以上を挙げることができる。また、本開示の抗体とCD80、CD86またはCD28との結合における解離速度定数(Kd1)としては、例えば、約1×10-3以下、約1×10-4以下を挙げられる。本開示の抗体とCD80、CD86またはCD28との結合における結合定数(KD)としては、例えば、約1×10-8(M)以下、約5×10-8(M)以下、約1×10-9(M)以下、約5×10-9(M)以下であり得る。本明細書における抗体の結合速度定数(Ka1)、解離速度定数(Kd1)、結合定数(KD)はBIACORE(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社、BIACORE-X100)を用いて、製造者提供のマニュアルに従い、SAチップにビオチン化CD80、CD86もしくはCD28またはこれらを発現する細胞を固定後、被検抗体を流し、結合速度定数Ka1、解離速度定数Kd1を測定し、bivalentフィッティングを用いて結合定数KD値を決定することができる。
【0052】
本開示の抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、好ましくは、モノクローナル抗体である。本開示において、「モノクローナル抗体」は、単一な抗原決定基と反応する、構造が均一な抗体である。更に、本開示の抗体は、非ヒト動物の抗体のアミノ酸配列とヒト由来の抗体のアミノ酸配列を有する抗体、ヒト抗体を包含する。非ヒト動物の抗体としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ラビット、イヌ、サル、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ニワトリ、アヒル等の抗体を挙げることができ、好ましくは、ハイブリドーマを作製することができる動物の抗体であり、より好ましくはマウス、ラットまたはウサギの抗体である。非ヒト動物の抗体のアミノ酸配列とヒト由来の抗体のアミノ酸配列を有する抗体としては、ヒト型キメラ抗体、ヒト化抗体を挙げることができる。上記において、「キメラ抗体」とは、非ヒト動物由来であって目的の抗原(CD80、CD86またはCD28)と特異的に結合する抗体の定常領域をヒトの抗体と同じ定常領域を有するように遺伝子工学的に改変した抗体のことであり、好ましくは、ヒト・マウス・キメラ抗体(欧州特許公開公報EP0125023参照)である。「ヒト化抗体」とは、非ヒト動物由来であってCD80、CD86またはCD28と特異的に結合する抗体のH鎖とL鎖の相補認識領域(CDR)以外の一次構造をヒトの抗体に対応する一次構造に遺伝子工学的に改変した抗体のことである。ここで、CDRとは、Kabatら(“Sequences of Proteins of Immunological Interest”、Kabat、E.ら、U.S.Department of Health and Human Services、1983)またはChothiaら(Chothia&Lesk(1987)J.Mol.Biol.、196:901-917)のいずれの定義によるものであってもよい。「ヒト抗体」とは、完全にヒト由来の抗体遺伝子の発現産物であるヒト抗体のことであり、例えば、ヒトの抗体産生に関与する遺伝子を導入したトランスジェニック動物を用いて作製したモノクローナル抗体(欧州特許公開公報EP0546073参照)等を挙げることができる。例えば、本開示の抗体を治療、予防、または体内に投与することにより用いる診断に使用する場合には、本開示の抗体として好ましくは、ヒト・非ヒト動物のキメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体である。
【0053】
好ましくは、本開示の抗体のイムノグロブリンクラスは、IgGである。また、本開示の抗体のサブクラスは、好ましくは、IgG2、またはIgG4である。さらに好ましくは、本開示の抗体のサブクラスは、IgG4である。あるいは、好ましくは、本開示の抗体のサブクラスは、IgG2である。また、本開示の抗体は、モノスペシフィック、バイスペシフィック(二重特異性抗体)、トリスペシフィック(三重特異性抗体)(例えば、WO1991/003493号)、テトラスペシフィック(四重特異性抗体)、それ以上のマルチスペシフィック(多重抗原特異性)であってもよい。
【0054】
一態様において、本開示の抗体は、配列番号27または配列番号33に記載のアミノ酸配列のCDRH3を有する。好ましくは、本開示の抗体は、配列番号25に記載のアミノ酸配列のCDRH1、配列番号26に記載のアミノ酸配列のCDRH2、配列番号27に記載のアミノ酸配列のCDRH3を有するか、あるいは、配列番号31に記載のアミノ酸配列のCDRH1、配列番号32に記載のアミノ酸配列のCDRH2、配列番号33に記載のアミノ酸配列のCDRH3を有する。より好ましくは、本開示の抗体は、配列番号25に記載のアミノ酸配列のCDRH1、配列番号26に記載のアミノ酸配列のCDRH2、配列番号27に記載のアミノ酸配列のCDRH3を有し、かつ、配列番号28に記載のアミノ酸配列のCDRL1、配列番号29に記載のアミノ酸配列のCDRL2、配列番号30に記載のアミノ酸配列のCDRL3を有するか、あるいは、配列番号31に記載のアミノ酸配列のCDRH1、配列番号32に記載のアミノ酸配列のCDRH2、配列番号33に記載のアミノ酸配列のCDRH3を有し、かつ、配列番号34に記載のアミノ酸配列のCDRL1、配列番号35に記載のアミノ酸配列のCDRL2、配列番号36に記載のアミノ酸配列のCDRL3を有する。
【0055】
一態様において、本開示の抗体は、配列番号38または42に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有する重鎖、および配列番号40または44に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有する軽鎖を有する抗体はまたはその改変体であり得る。好ましくは、本開示の抗体は、(a)配列番号53に記載のアミノ酸配列またはその改変配列のCDRH1、配列番号54に記載のアミノ酸配列またはその改変配列のCDRH2、および配列番号55に記載のアミノ酸配列またはその改変配列のCDRH3を含むVH、ならびに配列番号56に記載のアミノ酸配列またはその改変配列のCDRL1、配列番号57に記載のアミノ酸配列またはその改変配列のCDRL2、および配列番号58に記載のアミノ酸配列またはその改変配列のCDRL3を含むVL、あるいは(b)配列番号59に記載のアミノ酸配列またはその改変配列のCDRH1、配列番号60に記載のアミノ酸配列またはその改変配列のCDRH2、および配列番号61に記載のアミノ酸配列またはその改変配列のCDRH3を含むVH、ならびに配列番号62に記載のアミノ酸配列またはその改変配列のCDRL1、配列番号63に記載のアミノ酸配列またはその改変配列のCDRL2、および配列番号64に記載のアミノ酸配列またはその改変配列CDRL3を含むVLを含む、抗体またはその改変体であり得る。特定の実施形態において、(a)配列番号46に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVHおよび配列番号48に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVL、あるいは(b)配列番号50に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVHおよび配列番号52に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVLを含む、抗体またはその改変体であり得る。改変配列は、CDR内に改変(アミノ酸の置換、付加または欠失)を含まないのが好ましいが、改変前の抗体の結合能力および/または機能を維持する限り、各CDR内に数個(3個以下、2個以下、好ましくは1個以下)の改変を含んでもよい。改変配列は、好ましくは、元々の配列に対して少なくとも90%の同一性を有し得る。
【0056】
別の局面において、本開示の抗体は、配列番号18または配列番号22に記載のアミノ酸配列を有するVHを有する抗体に関する。好ましくは、本開示の抗体は、配列番号18に記載のアミノ酸配列を有するVHを有し、かつ、配列番号20に記載のアミノ酸配列を有するVLを有するか、または、配列番号22に記載のアミノ酸配列を有するVHを有し、かつ、配列番号24に記載のアミノ酸配列を有するVLを有する。
【0057】
更に、本開示は、VHが、配列番号18、または配列番号22に記載のアミノ酸配列をコードする核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列によりコードされたアミノ酸配列を有する抗体に関する。好ましくは、本開示は、VHが、配列番号18記載のアミノ酸配列をコードする核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列によりコードされたアミノ酸配列を有し、かつ、VLが配列番号20に記載されたアミノ酸配列をコードする核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列によりコードされたアミノ酸配列を有する抗体、あるいは、VHが、配列番号22記載のアミノ酸配列をコードする核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列によりコードされたアミノ酸配列を有し、かつ、VLが配列番号24に記載されたアミノ酸配列をコードする核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列によりコードされたアミノ酸配列を有する抗体に関する。本明細書において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするとは、当業者に通常用いられるハイブリダイゼーション条件でハイブリダイズすることを意味する。例えば、Molecular Cloning、a Laboratory Mannual、Fourth Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press(2012)または、Current Protocols in Molecular Biology、 Wiley Online Library等に記載の方法によりハイブリダイズするか否かを決定することができる。例えば、ハイブリダイズの条件は、6×SSC(0.9M NaCl、0.09M クエン酸三ナトリウム)または6×SSPE(3M NaCl、0.2M NaH2PO4、20mM EDTA・2Na、pH7.4)中42℃でハイブリダイズさせ、その後42℃で0.5×SSCで洗浄する条件であってもよい。
【0058】
また、本開示は、VHが、配列番号18または配列番号22のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する抗体を含む。好ましくは、本開示の抗体は、VHが、配列番号18のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、VLが、配列番号20のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、あるいは、VHが、配列番号22のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有し、かつ、VLが、配列番号24のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する。アミノ酸配列の同一性は、2種類のタンパク質間において、比較対象とするアミノ酸配列範囲における種類が同一なアミノ酸数の割合(%)を意味し、例えば、BLAST、FASTA等の公知のプログラムを用いて決定することができる。上述の同一性としては、80%以上よりも高い同一性であってもよく、例えば、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、または99%以上の同一性であってもよい。
【0059】
上述のVHが、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列によりコードされたアミノ酸配列を有する抗体、80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する抗体は、好ましくは、上述のCDR配列を有する。
【0060】
より具体的な例として、本開示は配列番号2、配列番号6、配列番号10、配列番号14から選択される1つの配列番号に記載のアミノ酸配列を有する重鎖を有する抗体を含む。好ましくは、本開示の抗体は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を有するか、配列番号6に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、配列番号8に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を有するか、配列番号10に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、配列番号12に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を有するか、または配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、配列番号16に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を有する。
【0061】
好ましい実施形態において、抗体は、(a)配列番号25に記載のアミノ酸配列のCDRH1、配列番号26に記載のアミノ酸配列のCDRH2、および配列番号27に記載のアミノ酸配列のCDRH3を含むVH、ならびに配列番号28に記載のアミノ酸配列のCDRL1、配列番号29に記載のアミノ酸配列のCDRL2、および配列番号30に記載のCDRL3を含むVL、または(b)配列番号31に記載のアミノ酸配列のCDRH1、配列番号32に記載のアミノ酸配列のCDRH2、および配列番号33に記載のアミノ酸配列のCDRH3を含むVH、ならびに配列番号34に記載のアミノ酸配列のCDRL1、配列番号35に記載のアミノ酸配列のCDRL2、および配列番号36に記載のCDRL3を含むVLを含み得る。別の好ましい実施形態において、抗体は、(a)配列番号18に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVHおよび配列番号20に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVL(b)配列番号22に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVHおよび配列番号24に記載のアミノ酸配列またはその改変配列を有するVLを含み得る。改変配列は、CDR内に改変(アミノ酸の置換、付加または欠失)を含まないのが好ましいが、改変前の抗体の結合能力および/または機能を維持する限り、各CDR内に数個(3個以下、2個以下、好ましくは1個以下)の改変を含んでもよい。改変配列は、好ましくは、元々の配列に対して少なくとも90%の同一性を有し得る。
【0062】
本開示の抗体は、CD80、CD86またはCD28タンパク質若しくはその細胞外ドメイン、あるいはCD80、CD86またはCD28を発現する細胞を免疫原として、必要に応じて免疫賦活剤(例えば、鉱油若しくはアルミニウム沈殿物と加熱死菌若しくはリポ多糖体、フロインドの完全アジュバント、または、フロインドの不完全アジュバント等)とともに、免疫反応を生じる非ヒト動物、好ましくは、過剰免疫により自己に対して免疫反応(自己抗体)を生じる非ヒト動物(例えば、MRL/lprマウス)を免疫することにより作製することができる。免疫動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ラビット、イヌ、サル、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、アヒル等ハイブリドーマを作製することが可能な動物であれば特に限定はないが、好ましくは、マウスまたはラットであり、より好ましくはマウスであり、最も好ましくはMRL/lprマウスである。動物への免疫原の投与は、例えば、1×106個の細胞を1回または適当な間隔をあけて数回(通常1~6週毎に1回の免疫を合計2~10回程度)、皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射、皮内注射、筋肉内注射または足蹠注射により行うことができる。最後の免疫から1~2週間後に、免疫した動物の眼窩または尾静脈から採血を行い、その血清を用いて抗体価の測定を行う。本開示の抗体は、十分な抗体価を示す動物の血清から精製することにより得ることができる。
【0063】
モノクローナル抗体は、上記方法により免疫した免疫感作動物から得た抗体産生細胞と、骨髄腫系細胞(ミエローマ細胞)を融合することにより得られるハイブリドーマを培養することにより得ることができる。当該融合方法としては、例えば、ミルステインらの方法(Galfre、G.&Milstein、C.(1981)Methods Enzymol.、73:3-46)を挙げることができる。使用する抗体産生細胞は、上記方法により免疫し血清が十分な抗体価を示したマウスまたはラットの脾臓、膵臓、リンパ節、末梢血より採取することができる。使用する骨髄腫系細胞は、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ラビットまたはヒト等の哺乳動物に由来する細胞であって、in vitroで増殖可能な細胞であれば特に限定はない。このような細胞としては、例えば、P3-X63Ag8(X63)(Nature、256、495、1975)、P3/NS1/1-Ag4-1(NS1)(Eur.J.Immunol.、6、292、1976)、P3X63Ag8U1(P3U1)(Curr.Top.Microbiol.Immunol.、81、1、1978)、P3X63Ag8.653(653)(J.Immunol.、123、1548、1979)、Sp2/0-Ag14(Sp2/O)(Nature、276、269、1978)、Sp2/O/FO-2(FO-2)(J.Immunol.Methods、35、1、1980)、SP2ab等を挙げることができ、好ましくは、抗体産生細胞と同種動物由来の細胞であり、より好ましくは、抗体産生細胞と同系統の動物由来の細胞である。
【0064】
培養後、培養上清を採取し、CD80、CD86またはCD28タンパク質若しくはその細胞外ドメイン、あるいはCD80、CD86またはCD28を発現する細胞を用いたELISAにより、CD80、CD86またはCD28に結合するクローンを選択する。選択されたクローンについて、限界希釈法を1~5回繰り返すことにより単一細胞化を行うことにより、モノクローナル抗体を産生する細胞を得ることができる。
【0065】
あるいは、例えば、抗体ファージライブラリーを利用することによりCD80、CD86またはCD28に結合する抗体を得ることができる(富塚ら、Nature Genet.、15、146-156(1997))。抗体ファージライブラリーを利用する場合、例えば、CD80、CD86またはCD28タンパク質若しくはその細胞外ドメイン、あるいはCD80、CD86またはCD28を発現する細胞を固相に固定化し、ファージ抗体ライブラリーを反応させて、非結合のファージを洗浄除去した後、結合したファージを回収することにより、所望のクローンを得ることができる(パンニング)。
【0066】
あるいは、本明細書記載のアミノ酸配列を参照して、目的の抗体またはその免疫反応性断片のアミノ酸配列をデザインし、当該デザインされたアミノ酸配列をコードするDNAを調製して、発現ベクターに組み込み、適当な宿主細胞に当該ベクターを導入して発現させることにより得た抗体から、上述の方法に従ってCD80、CD86またはCD28への特異性が高い抗体をスクリーニングすることにより得ることができる。
【0067】
本開示の抗体がヒト型キメラ抗体の場合、非ヒト動物モノクローナル抗体のVHVLをコードするDNAを調製し、これをヒト免疫グロブリンの定常領域cDNAと結合して発現ベクターに組み込み、適当な宿主細胞に当該ベクターを導入して発現させることにより得ることができる(Morrison、S.L.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81、6851-6855、1984)。
【0068】
本開示の抗体がヒト化抗体の場合は、非ヒト動物モノクローナル抗体のVHVLのCDRをコードするアミノ酸配列をヒト抗体のVHVLのFramework Region(FR)に移植したV領域をコードするDNAを構築し、構築したDNAをヒト由来免疫グロブリンの定常領域cDNAと結合して発現ベクターに組み込み、適当な宿主細胞に当該ベクターを導入して発現させることにより得ることができる(L.Rieohmannら、Nature、332、323、1988:Kettleborough、C.A.ら、Protein Eng.、4、773-783、1991;Clark M.、Immunol.Today.、21、397-402、2000参照)。非ヒト動物モノクローナル抗体のCDRは、上述の方法によって得られた非ヒト動物モノクローナル抗体のVHVLをコードするDNA配列から予測されるアミノ酸配列と、既知の抗体のVHVLの全アミノ酸配列とを比較して得ることができる。既知の抗体のアミノ酸配列は、例えば、プロテイン・データ・バンク等のデータベースに登録されている抗体のアミノ酸配列より得ることができる。また、ヒト化抗体のFRとしては、移植後の抗体が本開示の効果を奏するものであれば特に限定は無いが、好ましくは、ヒト化抗体の可変領域(以下、「V領域」という)がCDRが由来する非ヒト動物モノクローナル抗体のV領域と類似の立体構造となるヒト抗体のFR、または、使用する非ヒト動物モノクローナル抗体のFRのアミノ酸配列と相同性が高いヒト抗体FRである。ヒト化抗体において、ヒト抗体に由来するFRを構成するアミノ酸の一部(特には、立体的にCDRと近接した位置に存在するアミノ酸)は、必要に応じてCDRが由来する非ヒト動物モノクローナル抗体のFR配列に置換されていてもよい(Queenら、米国特許第5585089号参照)。使用するヒト化抗体のV領域をコードするDNA配列は、非ヒト動物モノクローナル抗体のCDRのアミノ酸配列とヒト抗体のFRのアミノ酸配列を結合したアミノ酸配列に対応するDNA配列として設計する。ヒト化抗体のV領域をコードするDNAは、設計したDNA配列を基に、当業者周知の方法によって作製することができる。
【0069】
ヒト抗体は、例えば、ヒト抗体ファージライブラリーまたはヒト抗体産生トランスジェニックマウスを利用することにより得ることができる(富塚ら、Nature Genet.、15、146-156(1997))。ヒト抗体ファージライブラリーを利用する場合、例えば、CD80、CD86またはCD28タンパク質若しくはその細胞外ドメイン、あるいはCD80、CD86またはCD28を発現する細胞を固相に結合させ、ファージ抗体ライブラリーを反応させて、非結合のファージを洗浄除去した後、結合したファージを回収することにより、所望のクローンを得ることができる(パンニング)。ヒト抗体産生トランスジェニックマウスは、内因性免疫グロブリン(Ig)遺伝子をノックアウトしたマウスにヒト抗体のIg遺伝子を導入したマウスである。ヒト抗体産生トランスジェニックマウスを免疫動物として、上述の本開示の抗体作製方法に準じて抗原タンパクを免疫することにより、CD80、CD86またはCD28を特異的に認識するヒト抗体を得ることができる。
【0070】
(核酸分子・ベクター・宿主細胞)
別の局面において、本開示は、上述の本開示の抗体をコードするポリヌクレオチドを有する核酸分子に関する。例えば、本開示の核酸分子は、配列番号17または配列番号21に記載のヌクレオチド配列をVHとして含む。また、別の局面において、本開示の核酸分子は、配列番号19または配列番号23に記載のヌクレオチド配列をVLとして含む。より具体的な例として、本開示の核酸分子は、配列番号1、5、9、13から選択されるいずれか1つに記載のヌクレオチド配列を有するVHをコードするポリヌクレオチド、配列番号3、7、11、15から選択されるいずれか1つに記載のヌクレオチド配列を有するVLをコードするポリヌクレオチドを含有する。本開示の核酸分子は、上述の配列番号とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列を有していてもよい。更に、本開示は、前記核酸分子を有するベクターを包含する。このようなベクターとしては、抗体の発現に利用可能なベクターであれば特に制限されるものではなく、適切なウイルスベクターまたはプラスミドベクターなどを使用する宿主に応じて選択することができる。別の局面において、本開示は、前記ベクターを含有する宿主細胞に関する。宿主細胞としては、抗体の発現に利用可能な宿主細胞であれば特に制限されるものではなく、哺乳類細胞(マウス細胞、ラット細胞、ウサギ細胞、ヒト細胞など)、酵母、微生物(大腸菌など)を挙げることができる。本開示は、上述の宿主細胞を培養することを含む、本開示の抗体の製造方法を含む。培地培養方法は、採用する宿主細胞に応じて、当業者周知の手段で適宜決定することができる。
【0071】
本開示の核酸は、上述において得られた抗体を産生するハイブリドーマからクローニングするか、あるいは、上述において得られた抗体またはその免疫反応性断片のアミノ酸配列を基に、適宜核酸配列を設計することにより得ることができる。本開示のベクターは、得られた核酸を適宜発現に適したベクターに組み込むことにより得ることができる。本開示のベクターは、本開示の核酸の他、発現に必要な領域(プロモーター、エンハンサー、ターミネーター等)を含んでいてもよい。また、本開示の宿主細胞は、本開示のベクターを適切な細胞株(例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母、大腸菌等の微生物)に導入することにより得ることができる。
【0072】
(組成物)
本開示の一態様において、本開示は、本明細書に記載の抗体のうちの少なくとも1つを含む、免疫寛容が誘導された細胞を作製するための組成物を提供する。本開示の一実施形態では、組成物は、抗CD80抗体、抗CD86抗体、抗CD28抗体、またはCD80およびCD86に対する二重特異性抗体、あるいはこれらの任意の組み合わせを含み得る。免疫寛容が誘導された細胞を、例えば、臓器移植を受けた被験体に投与することによって、臓器移植による拒絶反応を低減することが可能である。免疫寛容が誘導された細胞は、被験者(レシピエント)またはドナー由来の細胞、あるいは、これらが混合した細胞であってもよい。本開示の組成物は、驚くべきことに、サイトカイン産生細胞(例えば、マクロファージ、好中球、ナチュラルキラー(NK)細胞)によるサイトカインの放出を実質的に誘導しない。サイトカインは免疫寛容を減弱するため、サイトカインの放出が誘導されないことは有利である。
【0073】
別の局面において、本開示は本明細書に記載の抗体を含有する医療用組成物に関する。一例において、本開示の医療用組成物は、抗CD80抗体、抗CD86抗体、抗CD28抗体、またはCD80およびCD86に対する二重特異性抗体を含む。本開示の医療用組成物は、免疫寛容を誘導するために用いることができる。本明細書全体において、「免疫寛容を誘導するため」とは、例えば、移植された臓器に対する免疫寛容を誘導するため、すなわち、臓器移植における拒絶反応を抑制するため、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の患者において、免疫源となる原因物質に対する過剰な免疫反応を抑制し、これらの疾患の症状緩和または治療のために用いる場合を含む。別の実施形態では、本開示の医薬組成物は、免疫寛容を誘導された細胞を作製するために使用される。
【0074】
本明細書における「臓器移植」において、移植を受ける「臓器」としては、特に制限するものでは例として、心臓、腎臓、肺、すい臓、食道、胃、小腸、大腸、皮膚、神経、血液、免疫系細胞を含む血球細胞、骨、軟骨、血管、角膜、眼球、骨髄または肝臓を含む。また、本明細書において「臓器」は、臓器の全部や臓器の塊の他、臓器の一部または臓器を構成する細胞を含む。例えば、心筋細胞や角膜細胞などをも移植臓器に含まれる。また、臓器移植とは、他人の臓器を患者に移植する場合の他、再生医療等において他家由来幹細胞を用いて作製された臓器を患者に移植する場合も含む。
【0075】
本開示の抗体は、必要により精製した後、常法に従って製剤化することにより、医療用組成物として用いることができる。また、本開示は、免疫寛容を誘導するための医療用組成物を製造するための、本開示の抗体の使用を含む。あるいは、本開示は、本開示の抗体の免疫寛容を誘導するための使用を含む。更に、本開示は、本開示の抗体を添加または投与することを含む、免疫寛容を誘導する方法に関する。例えば、本開示は、本開示の抗体を臓器移植を受ける患者に投与することを含む、臓器移植における拒絶反応の抑制方法、本開示の抗体を自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の患者に投与することを含む、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の治療方法、本開示の抗体をiPS細胞もしくはES細胞、またはこれらの細胞由来の細胞、組織、臓器移植を受ける患者に投与することを含む、iPS細胞もしくはES細胞、またはこれらの細胞由来の(から分化した)細胞、組織、臓器移植における拒絶反応の抑制方法、を含む。
【0076】
iPS細胞またはES細胞に由来する(から分化した)細胞、組織もしくは臓器としては、例えば、神経細胞または組織、角膜細胞または組織、心筋細胞または組織、肝臓または組織、軟骨細胞または組織、皮膚細胞または組織、腎臓または組織、などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、iPS細胞またはES細胞に由来する(から分化した)細胞、組織もしくは臓器としては、神経細胞または組織、心筋細胞または組織、軟骨細胞または組織および皮膚細胞または組織が挙げられる。
【0077】
本開示の医療用組成物は、患者に直接投与することにより使用することもできるし、免疫寛容を誘導しようとする患者から採取したPBMCに、免疫寛容を誘導する目的の抗原と共にex vivoで接触させることにより、当該抗原に対してアナジーである免疫細胞を作製することにより使用することもできる。
【0078】
本開示の医療用組成物を患者に直接投与する場合、経口または非経口のいかなる製剤を採用してもよい。非経口投与のための組成物としては、例えば、点眼、注射剤、点鼻剤、坐剤、貼布剤、軟膏等を挙げることができる。好ましくは、注射剤である。本開示の医療用組成物の剤形は、例えば、液剤または凍結乾燥製剤を挙げることができる。本開示の医療用組成物を注射剤として使用する場合、必要に応じて、プロピレングリコール、エチレンジアミン等の溶解補助剤、リン酸塩等の緩衝材、塩化ナトリウム、グリセリン等の等張化剤、亜硫酸塩等の安定剤、フェノール等の保存剤、リドカイン等の無痛化剤等の添加物(「医薬品添加物事典」薬事日報社、「Handbook of Pharmaceutical Excipients Fifth Edition」APhA Publications社参照)を加えることができる。また、本開示の医療用組成物を注射剤として使用する場合、保存容器としては、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、ペン型注射器用カートリッジ、点滴用バッグ等を挙げることができる。
【0079】
例えば、本開示の医療用組成物(治療薬若しくは予防薬)は、注射剤として利用することができ、静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、硝子体内注射剤、点滴注射剤などの剤形を包含する。このような注射剤は、公知の方法に従って、例えば、上記抗体等を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製することができる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール、その他の補助薬を含む等張液等が用いることができ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、ポリソルベート20、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用することができる。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などを用いることができ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等と併用することができる。調製された注射液は、通常、適当なアンプル、バイアル、シリンジに充填される。また、本開示の抗体またはその免疫反応性断片に適当な賦形剤を添加することにより、凍結乾燥製剤を調製し、用時、注射用水、生理食塩水などで溶解して注射液とすることもできる。なお、一般的に抗体などのタンパク質の経口投与は消化器により分解されるため困難とされるが、抗体断片や修飾した抗体断片と剤形の創意工夫により、経口投与の可能性もある。経口投与の製剤としては、例えば、カプセル剤、錠剤、シロップ剤、顆粒剤等を挙げることができる。
【0080】
本開示の医療用組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好適である。このような投薬単位の剤形としては、注射剤(アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ)が例示され、投薬単位剤形当たり通常5~500mg、5~100mg、10~250mgの本開示の抗体またはその免疫反応性断片を含有していても良い。
【0081】
本開示の医療用組成物の投与は、局所的であってもよく、全身的であってもよい。投与方法には特に制限はなく、上述のとおり非経口的または経口的に投与される。非経口的投与経路としては、眼内、皮下、腹腔内、血中(静脈内、若しくは動脈内)または脊髄液への注射または点滴等が挙げられ、好ましくは血中への投与である。本開示の医療用組成物(治療薬若しくは予防薬)は、一時的に投与してもよいし、持続的または断続的に投与してもよい。例えば、投与は、1分間~2週間の持続投与することもできる。
【0082】
本開示の医療用組成物の投与量は、所望の治療効果または予防効果が得られる投与量であれば特に限定は無く、症状、性別、年齢等により適宜決定することができる。本開示の医療用組成物の投与量は、例えば、免疫寛容の誘導の程度を指標として決定することができる。例えば、本開示の医療用組成物の有効成分の1回量として、通常0.01~20mg/kg体重程度、好ましくは0.1~10mg/kg体重程度、さらに好ましくは0.1~5mg/kg体重程度を、1月1~10回程度、好ましくは1月1~5回程度、静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量または投与回数を増加させてもよい。
【0083】
本開示の医療用組成物を、免疫寛容を誘導しようとする患者から採取したPBMCに、免疫寛容を誘導する目的の抗原と共にex vivoで接触させることにより、当該抗原に対してアナジーである免疫細胞を作製することにより使用する場合、上述の投与用の組成物に準じて液状、粉末状、タブレット状、ゲル状、顆粒状などの形態で調製することができる。
【0084】
(免疫寛容誘導細胞)
別の局面において、本明細書に記載の抗体で免疫寛容を誘導された細胞を提供する。免疫寛容は、被験体由来の細胞と、被験体に由来しない抗原または抗原の含有物とを混合することによって誘導され得る。さらなる本開示の局面において、本開示は、本明細書に記載の抗体と、被験体由来の細胞と、被験体に由来しない抗原または抗原の含有物(例えば、細胞)とを混合するステップを含む、被験体に由来しない抗原によって生じる疾患、障害または状態を処置または予防するための細胞を製造するための方法を提供する。疾患、障害または状態は、移植免疫拒絶反応、アレルギー、自己免疫疾患、移植片対宿主病、iPS細胞またはES細胞およびそれらの細胞に由来する細胞、組織または臓器の移植によって引き起こされる免疫拒絶反応からなる群より選択され得る。
【0085】
本開示が対象とする疾患等が移植免疫拒絶反応である実施形態において、アナジー細胞は、上記抗体と、レシピエント由来の細胞(PBMCまたは脾臓細胞)と、ドナー由来の抗原またはドナー由来の抗原の含有物とを混合することによって誘導され得る。ナー由来の抗原の含有物は、PBMC、脾臓細胞または移植される臓器由来の細胞であり得る。
【0086】
本開示が対象とする疾患等がアレルギーである実施形態において、アナジー細胞は、上記抗体と、被験体由来の細胞(PBMCまたは脾臓細胞)と、アレルギーを引き起こす被験体に由来しない抗原とを混合することによって誘導され得る。
【0087】
本開示が対象とする疾患等が自己免疫疾患である実施形態において、アナジー細胞は、上記抗体と、被験体由来の細胞(PBMCまたは脾臓細胞)と、自己免疫疾患の原因となる被験体由来の抗原とを混合することによって誘導され得る。
【0088】
本開示が対象とする疾患等が移植片対宿主病である実施形態において、アナジー細胞は、上記抗体と、移植片を提供するドナーのPBMCまたは脾臓細胞と、レシピエント由来の抗原または該抗原の含有物とを混合することによって誘導され得る。レシピエント由来の抗原の含有物は、PBMC、脾臓細胞または臓器が移植される部位の周辺の細胞もしくはそれに由来する細胞であり得る。
【0089】
本開示が対象とする疾患等がiPS細胞またはES細胞およびそれらの細胞に由来する細胞、組織または臓器の移植によって引き起こされる免疫拒絶反応である実施形態において、アナジー細胞は、上記抗体と、被験体由来の細胞(PBMCまたは脾臓細胞)と、iPS細胞またはES細胞から分化させた移植に用いる細胞とを混合することによって誘導され得る。
【0090】
以下に本開示による疾患等の治療例を示すが、以下に限定されるものではない。
【0091】
(アレルギーおよび自己免疫疾患)
アレルギーおよび自己免疫疾患に関しては、患者の末梢血から得たマクロファージを慣例的な方法により抗原提示能の高い樹状細胞(マクロファージ由来樹状細胞)へと分化させ、放射線(γ線)照射後のこの細胞にアレルギーや自己免疫疾患における過剰反応の原因となっている抗原を提示させ、同じ患者末梢血から得たT細胞群と、抗CD80抗体および/または抗CD86抗体の存在下で1~2週間共培養し、アレルギーや自己免疫疾患の原因となっている抗原に特異的なアナジー細胞を得る。このアナジー細胞を患者に投与することで、アレルギーや自己免疫疾患の原因となっている抗原に特異的な免疫寛容を誘導し、アレルギーおよび自己免疫疾患の予防および治療に用いる。予防的療法であるか治療であるか、さらに症状の強弱等の諸条件により、投与回数は複数回となることもある。
【0092】
(移植片対宿主病)
移植片対宿主病においては、移植免疫拒絶反応に対する治療とは対照的に、移植片を提供するドナーのPBMCまたはT細胞等の移植片対宿主病の原因となりうる細胞を、放射線(γ線)照射した宿主由来のPBMCまたはそれ以外の細胞と抗CD80抗体および/または抗CD86抗体の存在下で1~2週間共培養し、宿主に特異的なアナジー細胞を得る。このアナジー細胞を宿主に投与することで、移植片対宿主病の原因となっている移植片による宿主への反応を抑制し(免疫寛容を誘導し)移植片対宿主病を予防および治療する。予防的療法であるか治療であるか、さらに移植する組織やその大きさ、症状の強弱等の諸条件により、投与回数は複数回となることもある。
【0093】
(iPS細胞またはES細胞およびそれらの細胞に由来する細胞、組織または臓器の移植によって引き起こされる免疫拒絶反応)
iPS細胞またはES細胞を用いた治療への応用においては、iPS細胞またはES細胞から分化させた移植に用いる細胞または樹状細胞に放射線(γ線)を照射し、この細胞と移植を受ける患者のPBMCまたはT細胞群を抗CD80抗体および/または抗CD86抗体の存在下で1~2週間共培養し、iPS細胞またはES細胞から分化させた細胞に特異的なアナジー細胞を得る。このアナジー細胞を宿主に投与することで、iPS細胞またはES細胞に由来する移植した細胞、組織、および臓器に特異的な免疫寛容を誘導し、それらへの拒絶反応を予防および治療する。予防的療法であるか治療であるか、さらに移植する組織やその大きさ、症状の強弱の諸条件により、投与回数は複数回となることもある。
【0094】
具体的な実施形態において、本開示は、上記抗体(上記抗体を含有する組成物を含む、以下同様)と、免疫寛容を誘導しようとする抗原または該抗原を表面に有する細胞と、PBMCとを接触させることを含む、患者のPBMCの前記抗原に対するアナジーを誘導する方法に関する。本開示の免疫寛容を誘導する方法は、ex vivoで行われる。例えば、臓器移植において移植を受ける患者の移植臓器に対する拒絶反応を抑制することを目的とする場合、PBMCは臓器移植を受ける患者から採取された細胞である。また、PBMCが自己免疫疾患またはアレルギー疾患の治療または改善を目的とする場合、PBMCは当該患者から採取された細胞である。
【0095】
例えば、臓器移植の拒絶反応を抑制するための免疫寛容の誘導は、以下の方法により行うことができる。臓器移植を受ける患者(レシピエント)PBMCと臓器を提供する対象者(ドナー)PBMCを調製し、ドナーPBMCに放射線30Gyを照射する。レシピエントPBMCと1:1で混合して、本開示の抗体(好ましくは、抗ヒトCD80抗体および抗ヒトCD86抗体の組み合わせ)を添加する。PBMC用培地中、37℃、5%CO2インキュベーター内で3~7日培養することで、ドナーに対してアナジーなレシピエントPBMCを調製することができる。
【0096】
また、例えば、自己免疫疾患またはアレルギー疾患の治療または改善のための免疫寛容の誘導は、以下の方法により行うことができる。患者PBMCを調製し、自己免疫疾患またはアレルギー疾患の原因となる抗原と混合して、本開示の抗体(好ましくは、抗ヒトCD80抗体および抗ヒトCD86抗体の組み合わせ)を添加する。PBMC用培地中、37℃、5%CO2インキュベーター内で3~7日培養することで、前記抗原に対してアナジーなレシピエントPBMCを調製することができる。
【0097】
本開示は、上記方法によりアナジーを誘導された細胞(例えば、PBMC)を含む。アナジーを誘導された細胞(例えば、PBMC)は、患者に投与することにより、患者における免疫寛容を誘導することができることから、アナジーを誘導された細胞(例えば、PBMC)は細胞治療剤とすることができる。よって、本開示は、上記方法によりアナジーを誘導された細胞(例えば、PBMC)を有効性成分として含有する細胞治療剤、好ましくは、移植臓器に対するアナジーを誘導された移植を受ける患者の細胞(例えば、PBMC)を有効性成分として含有する、臓器移植における拒絶反応を抑制するための細胞治療剤、あるいは、過剰に免疫反応することで自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の原因となっている抗原に対するアナジーを誘導された細胞(例えば、PBMC)を有効性成分として含有する、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患を治療するための細胞治療剤、iPS細胞やES細胞やそれらの細胞に由来する細胞、組織または臓器の移植における拒絶反応を抑制するための細胞治療剤に関する。そのような拒絶反応としては、移植片対宿主病が例示される。
【0098】
本開示の細胞治療剤は、患者に投与することにより、患者における免疫寛容を誘導することができる。例えば、本開示は、移植臓器に対するアナジーを誘導された移植を受ける患者の細胞(例えば、PBMC)を有効性成分として含有する、臓器移植における拒絶反応を抑制するための細胞治療剤を臓器移植を受ける患者に投与することを含む、臓器移植における拒絶反応の抑制方法を含む。また、本開示は、過剰に免疫反応することで自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の原因となっている抗原に対するアナジーを誘導された細胞(例えば、PBMC)を有効性成分として含有する、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患を治療するための細胞治療剤を自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の患者に投与することを含む、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の治療方法を含む。また本開示は、移植するiPS細胞もしくはES細胞、またはそれらの細胞由来の細胞、組織または臓器に対してアナジーが誘導された、移植を受ける患者の細胞(例えば、PBMC)を有効性成分として含有する、iPS細胞やES細胞やそれらの細胞に由来する細胞、組織または臓器の移植における拒絶反応を抑制するための細胞治療剤を、臓器移植を受ける患者に投与することを含む、iPS細胞やES細胞やそれらの細胞に由来する細胞、組織または臓器の移植における拒絶反応の抑制方法を含む。
【0099】
本開示の細胞治療剤は、血清含有/非含有のヒトに投与可能な培地または生理食塩水中にPBMCを含有する。細胞が接着性の場合には、細胞剥離が可能な基材に担持して保存し、用時に細胞を剥離して使用することができる。例えば、温度変化により細胞剥離可能な基材(RepCell、セルシード社、日本)などを用いることができる。
【0100】
本開示は、上記抗体と、免疫寛容を誘導しようとする抗原または該抗原を表面に有する細胞と、細胞(例えば、PBMC)とを接触させることにより、患者の細胞(例えば、PBMC)の前記抗原に対するアナジーを誘導すること、アナジーを誘導された細胞(例えば、PBMC)を患者に投与することを含む、患者における免疫寛容を誘導する方法であってもよい。例えば、本開示は、ドナー由来細胞と、患者の細胞(例えば、PBMC)とを接触させることにより、患者の細胞(例えば、PBMC)の移植臓器に対するアナジーを誘導することにより、移植される臓器に対する免疫寛容を誘導された患者由来の細胞(例えば、PBMC)を調製すること、調製された細胞(例えば、PBMC)を臓器移植を受ける患者に投与することを含む、臓器移植における拒絶反応の抑制方法を含む。また、本開示は、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の原因となる抗原と、患者の細胞(例えば、PBMC)とを接触させることにより、患者の細胞(例えば、PBMC)の前記抗原に対するアナジーを誘導することにより、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の原因となる抗原に対する免疫寛容を誘導された患者由来の細胞(例えば、PBMC)を調製すること、、調製された細胞(例えば、PBMC)を自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の患者に投与することを含む、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の治療方法または改善方法であってもよい。また、本開示は、iPS細胞もしくはES細胞、あるいはこれらの細胞
由来の細胞、組織または臓器と、患者の細胞(例えば、PBMC)とを接触させることにより、患者の細胞(例えば、PBMC)のiPS細胞やES細胞、またはこれらの細胞由来の細胞、組織または臓器に対するアナジーを誘導することにより、移植されるiPS細胞もしくはES細胞、またはこれらの細胞由来の細胞、組織もしくは臓器に対する免疫寛容が誘導された患者由来の細胞(例えば、PBMC)を調製すること、調製された細胞(例えば、PBMC)をiPS細胞もしくはES細胞、またはこれらの細胞由来の細胞、組織もしくは臓器移植を受ける患者に投与することを含む、iPS細胞もしくはES細胞、またはこれらの細胞由来の細胞、組織もしくは臓器の移植における拒絶反応の抑制方法を含む。
【0101】
本明細書において、細胞治療剤(アナジーを誘導された細胞、例えばPBMC)の投与は、所望の治療効果または予防効果が得られる投与量であれば特に限定は無く、症状、性別、年齢等により適宜決定することができる。本開示の細胞治療剤の投与量は、例えば、免疫寛容の誘導の程度を指標として決定することができる。例えば、本開示の細胞治療剤のアナジーを誘導されたPBMCの1回量として、通常1.0~3.7×107細胞/kg体重程度、好ましくは2.0~5.0×107細胞/kg体重程度、さらに好ましくは3.0~5.0×107細胞/kg体重程度を、1月1~10回程度、好ましくは1月1~5回程度、静脈注射により投与するのが好都合である。免疫抑制効果がみられない場合には、その症状に応じて増量または投与回数を増加させてもよい。
【0102】
(注記)
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0103】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0104】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0105】
以下、実施例に基づいて本開示をより具体的に説明する。ただし、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【0106】
以下に実施例を記載する。以下の実施例で用いる生物の取り扱いは、順天堂大学や監督官庁において規定される基準を遵守した。動物実験の実施にあたっては、「動物の愛護及び管理に関する法律」、「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」(平成18年環境省告示第88号)、「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」(平成18年文部科学省告示第71号)に基づいて制定された順天堂大学動物実験等管理規則を遵守して行った。実験はいわゆる3Rに基づいて計画し、順天堂大学医学部実験動物委員会に計画書を提出し審議の上、既に承認、受理されている。遺伝子操作マウスの使用においては、組み替えDNA作出動物を用いた実験計画の学内安全委員会の審査を受け承認を受けている。さらに、組み換えDNA実験に関しては、順天堂大学医学部DNA実験安全委員会に計画書を提出し審議の上、既に承認、受理されており、「遺伝子組み換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」等の関係規定に従って研究を進めた。ヒト末梢血(PBMC)を用いた実験に関しては、順天堂大学医学部倫理委員会において、公正な審議と情報公開の原則に基づいた審査を受け、適切との判断により承認を既に受けている。検体提供者より研究目的・計画・方法に関するインフォームドコンセントを得たうえで、個人情報の保護を厳重に行い、匿名性を保ちながら研究を進めた。実験を遂行するに当たっては、順天堂大学医学部および相模原病院の倫理委員会が定める倫理規定、ならびに厚生労働省の定める“臨床研究に関する指針”を遵守した。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma-Aldric、和光純薬、ナカライ、R&DSystems、USCN Life Science INC、BD bioscience、BioLegend等)の同等品でも代用可能である。
【0107】
(実施例1)抗ヒトCD80および抗CD86抗体(サブクラスIgG1)存在下での混合リンパ球反応(MLR)
(材料および方法)
Promo cell社製Lymphocyte separation Media(Cat.No.C―44010)を用いて、三人のボランティア(一人をドナー(ドナーC)、二人をレシピエント(レシピエントAおよびレシピエントB)に指定)のヒト末梢血から単核細胞(PBMC)を分離し、Biowest社製2%ヒト血清AB型(プール)入りALyS505N-0培地(細胞科学研究所(CSTI)1020P10)で4×106cells/mlとなるよう調整した。ドナーPBMCには放射線(γ線)30Gyを照射した。
【0108】
ドナーPBMCとレシピエントPBMCを1:1の比率になるよう、96well plate(Corning社製、Cat.No.3799)に100μL/wellずつ4wellに分注し(合わせて最終的に200μL/well)、そこへ、ヒト化抗ヒトCD80抗体(v2(サブクラスIgG1))と抗ヒトCD86抗体(v5(サブクラスIgG1))の組み合わせ、またはeBioscience社製マウス抗ヒトCD80抗体(Cat.No.16-0809-85)(サブクラスIgG1)とマウス抗ヒトCD86抗体(Cat.No.16-0869-85)(サブクラスIgG2)の組み合わせを、各抗体の添加後濃度が0.1、1、10μg/mLになるように10μlずつ添加し、37℃、5%CO2インキュベーター中で培養を開始した。培養開始4日目に3H-チミジン(10μL)を添加し、培養開始5日目(3H-チミジン添加の16~20時間後)にCell Harvester(Molecular Devices)により培養細胞を回収し、シンチレーションカウンターで3H-チミジン取込み量を測定した。
【0109】
IFNγ産生は、前述と同様の方法で混合され、同様に各抗体を添加されたPBMC混合物を48well Plate(Corning社製、Cat.No.3548)に500μL/wellで3wellに分注し、37℃、5%CO2インキュベーター中で培養を開始した。培養6日目に上清を回収し、回収したサンプルを10~25倍に希釈後、Bioligands社製Human IFNγ ELISA MAXTM Deluxe、Cat.430104を用いて測定した。
【0110】
(結果)
その結果、
図1に示したように、ヒト化抗ヒトCD80抗体(v2(サブクラスIgG1))とヒト化抗ヒトCD86抗体(v5(サブクラスIgG1))の組み合わせは、eBioscience社製マウス抗ヒトCD80抗体とマウス抗ヒトCD86抗体の組み合わせとほぼ同等に
3H-チミジン取り込みが少なく、すなわち、免疫細胞の活性化を抑制した。一方、
図2に示したように、IFNγ産生評価の結果、eBioscience社製マウス抗ヒトCD80、CD86抗体存在下では産生が少なかったのに対して、ヒト化抗ヒトCD80、CD86抗体(サブクラスIgG1)存在下では抗体添加量によるIFNγ産生が見られ、10μg/mLでは抗体非存在下(
図2 Allo)以上の産生が見られた。理論に束縛されることは望まないが、eBioscience社製抗体は、マウス抗体であり反応性が低いことに起因して、IFNγ産生が少ないと考えられる。
【0111】
(実施例2)抗ヒトCD80および抗CD86抗体(サブクラスIgG1)存在下での混合リンパ球反応(MLR)
(材料および方法)
実施例1と同じ方法で、ヒト化抗ヒトCD80抗体(v2(サブクラスIgG1))と抗ヒトCD86抗体(v5またはv9(サブクラスIgG1))の組み合わせ、またはeBioscience社製マウス抗ヒトCD80抗体(Cat.No.16-0809-85)とマウス抗ヒトCD86抗体(Cat.No.16-0869-85)の組み合わせを、各抗体の添加後濃度が10μg/mLになるように添加した場合の3H-チミジン取り込みを評価した。なお、三人のボランティアのうち、一人をドナー(ドナーF)、二人をレシピエント(レシピエントDおよびレシピエントE)に指定した。
【0112】
また、ヒト化抗ヒトCD80抗体(v2(サブクラスIgG1))とヒト化抗ヒトCD86抗体(v9(サブクラスIgG1))の組み合わせ、およびeBioscience社製マウス抗ヒトCD80抗体と抗ヒトCD86抗体の組み合わせについて、IFNγ産生について評価した。ヒト化抗ヒトCD80抗体(v2(サブクラスIgG1))と抗ヒトCD86抗体(v9(サブクラスIgG1))の組み合わせについては、実施例1の方法に加え、放射線照射したドナーPBMCを加えない場合のIFNγ産生についても評価した。
【0113】
(結果)
その結果、
図3に示した様に、ヒト化抗ヒトCD80抗体と抗ヒトCD86抗体の組み合わせは、マウス抗ヒトCD80抗体と抗ヒトCD86抗体の組み合わせよりも
3H-チミジン取り込み抑制を示した。一方、
図4に示した様に、IFNγ産生は、実施例1と同様にeBioscience社製マウス抗ヒトCD80、CD86抗体では産生量は少なかった。ヒト化抗ヒトCD80、CD86抗体では、抗体非存在でのドナー刺激時と同等またはそれ以上の産生が見られ、さらには放射線照射したドナーPBMCを加えない場合でもヒト化抗CD80と抗ヒトCD86抗体の添加時には同様なIFNγ産生が見られた。
【0114】
(実施例3)抗ヒトCD80および抗CD86抗体(サブクラスIgG1、IgG2、IgG4)存在下での混合リンパ球反応(MLR)
実施例2において、放射線照射したドナーPBMCを加えない場合でもIFNγ産生が見られたことから、ヒト化抗ヒトCD80抗体と抗ヒトCD86抗体のクラススイッチを行い、このヒト化抗ヒトCD80抗体(v2(サブクラスIgG2またはIgG4))と抗ヒトCD86抗体(v9(サブクラスIgG2またはIgG4))の同じサブクラスどうしの組み合わせ、およびeBioscience社製マウス抗ヒトCD80抗体(品番16-0809-85)と抗ヒトCD86抗体(品番16-0869-85)の組み合わせを、各抗体の添加後濃度が1、3または10μg/mLになるように添加した場合の3H-チミジン取り込みと、各抗体の添加後濃度が10μg/mLになるように添加した場合のIFNγ産生について評価した。なお、三人のボランティアのうち、一人をドナー(ドナーI)、二人をレシピエント(レシピエントGおよびレシピエントH)に指定した。具体的な実験系は以下のとおりとした。
【0115】
[
3H-チミジン取り込み(抗体濃度 各1、3、10μg/mL)](
図5)
-抗体添加なし(Allo)、放射線照射したドナーPBMC添加
-eBioscience社製マウス抗ヒトCD80抗体、マウス抗ヒトCD86抗体
-ヒト化抗ヒトCD80抗体(v2(IgG2))、ヒト化抗ヒトCD86抗体(v9(IgG2))
-ヒト化抗ヒトCD80抗体(v2(IgG4))、ヒト化抗ヒトCD86抗体(v9(IgG4))
【0116】
[IFNγ産生(抗体濃度 各10μg/mL)](
図6)
放射線照射したドナーPBMC添加あり(Allo)
-抗体添加なし
-eBioscience社製マウス抗ヒトCD80抗体、抗ヒトCD86抗体
-ヒト化抗ヒトCD80抗体(v2(IgG2))、ヒト化抗ヒトCD86抗体(v9(IgG2))
-ヒト化抗ヒトCD80抗体(v2(IgG4))、ヒト化抗ヒトCD86抗体(v9(IgG4))
放射線照射したドナーPBMC添加なし(Naive)
-抗体添加なし
-eBioscience社製マウスCD80抗体、抗CD86抗体
-ヒト化抗CD80抗体(v2(IgG1))、ヒト化抗ヒトCD86抗体(v9(IgG1))
-ヒト化抗CD80抗体(v2(IgG2))、ヒト化抗ヒトCD86抗体(v9(IgG2))
-ヒト化抗CD80抗体(v2(IgG4))、ヒト化抗ヒトCD86抗体(v9(IgG4))
【0117】
(結果)
その結果、
図5に示した様に、サブクラスIgG2とIgG4は、実施例1および2と同様に
3H-チミジン取り込み抑制を示した。一方、
図6に示した様に、IFNγ産生については、サブクラスIgG1ではその産生が見られるが、驚くべきことに、サブクラスIgG2およびIgG4では、IFNγが全く産生されなかった。
【0118】
(実施例4)抗ヒトCD80および抗ヒトCD86抗体(サブクラスIgG1、IgG2、IgG4)存在下で培養し得られた細胞を添加した場合の混合リンパ球反応(MLR)
(材料および方法)
実施例1に記載の方法で、ヒト化抗ヒトCD80抗体(v2)と抗ヒトCD86抗体(v9)のサブクラスIgG1、IgG2、IgG4の組み合わせの存在下で14日目まで培養を継続した。サブクラスIgG2のヒト化抗ヒトCD80抗体(v2)は、重鎖が配列番号2のアミノ酸配列からなり、軽鎖が配列番号4のアミノ酸配列からなる。サブクラスIgG4のヒト化抗ヒトCD80抗体(v2)は、重鎖が配列番号6のアミノ酸配列からなり、軽鎖が配列番号8のアミノ酸配列からなる。サブクラスIgG2の抗ヒトCD86抗体(v9)は、重鎖が配列番号10のアミノ酸配列からなり、軽鎖が配列番号12のアミノ酸配列からなる。サブクラスIgG4の抗ヒトCD86抗体(v9)は、重鎖が配列番号14のアミノ酸配列からなり、軽鎖が配列番号16のアミノ酸配列からなる。培養後、得られたアナジー細胞とレシピエントPBMC(R-PBMC)、放射線を照射したドナーPBMC(D-PBMC)を以下の表に従って混合後、実施例1に記載の方法で3H-チミジン取り込み量を評価した。
【0119】
【0120】
(結果)
その結果、
図7に示した様に、いずれのサブクラスの抗体存在下で得られた細胞も、同等の
3H-チミジン取り込みを抑制した。
【0121】
(実施例5)臓器移植を受けた患者における免疫寛容の誘導
Satoru Todo et al.Hepatorogy、 64(vol.2)、632-643 (2016)に記載の方法と同様の方法により試験した。簡潔には、レシピエントの脾臓または抹消血から回収したリンパ球と、30Gyで放射線照射されたドナー由来のリンパ球と、実施例4で使用したサブクラスIgG4のヒト化抗CD80抗体および抗CD86抗体とを共培養することにより、ドナー抗原に特異的なアナジーT細胞を誘導する。このアナジーT細胞を、肝臓移植を受けたレシピエントに術後13日目に投与する。その後、経過を観察する。
【0122】
(実施例6)キメラ抗ヒトCD80およびキメラ抗ヒトCD86抗体(サブクラスIgG1)
抗体の作製
本発明者らは、細胞治療での使用を考慮して、抗ヒトCD80抗体および抗ヒトCD86抗体の改良を試みた。具体的には、eBioscience社製マウス抗ヒトCD80抗体とマウス抗ヒトCD86抗体をベースとして、それぞれのキメラ抗体を作製した。作製したキメラ抗ヒトCD80抗体(サブクラスIgG1)は、重鎖が配列番号38のアミノ酸配列からなり、軽鎖が配列番号40のアミノ酸配列からなる。また作製したキメラ抗ヒトCD86抗体(サブクラスIgG1)は、重鎖が配列番号42のアミノ酸配列からなり、軽鎖が配列番号44のアミノ酸配列からなる。これらをコードするプラスミドを、外部(TPG Biologics,Inc.台湾)に委託してCHO細胞から発現させ、抗体を産生・精製した。
【0123】
キメラ抗ヒトCD80およびキメラ抗CD86抗体(サブクラスIgG1)存在下での混合リンパ球反応(MLR)
IFNγ産生
実施例1に記載の方法とほぼ同様に、Promo cell社製Lymphocyte separation Media(Cat.No.C―44010)を用いて、二人のボランティア(一人をドナー、もう一人をレシピエントに指定)のヒト末梢血から単核細胞(PBMC)を分離し、Biowest社製2%ヒト血清AB型(プール)入りALyS505N-0培地(細胞科学研究所(CSTI)1020P10)で2×106細胞/mlとなるよう調整した。ドナーPBMCには放射線(γ線)30Gyを照射した。
【0124】
下記のように、実験系を構築した:
1.「naive」:レシピエントPBMC 1×106細胞
2.「allo」:レシピエントPBMC 1×106細胞およびドナーPBMC 1×106細胞
3.「キメラ抗CD80」:レシピエントPBMC 1×106細胞およびキメラ抗ヒトCD80抗体 4μg
4.「キメラ抗CD86」:レシピエントPBMC 1×106細胞およびキメラ抗ヒトCD86抗体 4μg
系1.~4.を、96well plate(Corning社製、Cat.No.3799)のウェルごとに入れ、最終的な反応体積を200μLとした(抗体の最終濃度は約20μg/mL)。37℃、5%CO2インキュベーター中で培養を開始した。培養開始5日目と6日目とに上清を回収し、回収したサンプルを20~25倍に希釈後、Bioligands社製Human IFNγ ELISA MAXTM Deluxe、Cat.430104を用いて測定した。
【0125】
結果
図8に示したように、キメラ抗ヒトCD80抗体もキメラ抗ヒトCD86抗体も、検出可能なIFNγ産生を示さなかった。
【0126】
3H-チミジン取込み量測定
基本的には、実施例1および実施例4に記載の方法に従い実験を行った。レシピエントPBMCおよびドナーPBMCには、それぞれヒト末梢血から新鮮に分離したものを使用するか、または-80℃で凍結保存したものを急速解凍して使用した。これらの細胞はともに、Biowest社製2%ヒト血清AB型(プール)入りALyS505N-0培地(細胞科学研究所(CSTI)1020P10)にて4×106細胞/mLに調整した。ドナーPBMCには、20Gy放射線を照射した。これらのレシピエントPBMCとドナーPBMCとを、1:1で混合し、この混合物に、キメラ抗ヒトCD80抗体およびキメラ抗ヒトCD86抗体をそれぞれ最終濃度10μg/mlとなるように添加した。培養は、6cm~10cmシャーレ(培養体積6~18mL)にて37℃、5%CO2インキュベーター中で7日間行った。
【0127】
培養開始から7日目に遠心により、培養したレシピエントPBMCを回収し、上記の培地で4×106細胞/mLに調整した。この培養したレシピエントPBMCに、新たに調製した照射済みドナーPBMCを細胞数比2:1になるように添加し、さらにキメラ抗ヒトCD80抗体およびキメラ抗ヒトCD86抗体をそれぞれ最終濃度5μg/mlになるように添加した。培養は、上記と同じ条件で7日間行った(細胞密度:4×106細胞/mL)。
【0128】
培養開始から通算して14日目に遠心により誘導細胞を回収し、以下の割合で、各細胞を混合する:
1.「naive」:レシピエントPBMC 4×105細胞
2.「allo」:レシピエントPBMC 4×105細胞およびドナーPBMC 4×105細胞
3.「1:1/2」:レシピエントPBMC 4×105細胞およびドナーPBMC 4×105細胞および誘導細胞 2×105細胞
4.「1:1/4」:レシピエントPBMC 4×105細胞およびドナーPBMC 4×105細胞および誘導細胞 1×105細胞
5.「1:1/8」:レシピエントPBMC 4×105細胞およびドナーPBMC 4×105細胞および誘導細胞 5×104細胞
6.「1:1/16」:レシピエントPBMC 4×105細胞およびドナーPBMC 4×105細胞および誘導細胞 2.5×104細胞
系1.~6.各々を、96well plate(Corning社製、Cat.No.3799)の4ウェルに分注し、37℃、5%CO2インキュベーターで共培養した。共培養開始4日目に3H-チミジン(10μl)を添加し、共培養開始5日目(3H-チミジン添加の16~20時間後)に培養液中の3H-チミジンを除去し、3H-チミジン取込み量を測定した。
【0129】
結果
図9に示したように、誘導細胞は、用量依存的に
3H-チミジン取込み量を低減させた(すなわち、免疫細胞の活性化を抑制した)。したがって、キメラ抗ヒトCD80抗体およびキメラ抗ヒトCD86抗体は、アナジーT細胞を誘導することができ、かつ有害なIFNγ産生を引き起こさない、細胞治療に適した抗体であることが実証された。
【0130】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本出願は、日本国特許出願特願2018-118996(2018年6月22日出願)に対して優先権主張の利益を主張するものであり、当該出願の内容は本願において、その内容が(全部であり得る)参考として援用されることが理解される。また、日本国特許出願特願2018-119001および特願2018-1190031(いずれも2018年6月22日出願)ならびにそれらに対して優先権主張する国際出願の内容は、その一部または全文が、本明細書において参考として援用される。
本開示は、免疫寛容の効果を改善する、または免疫寛容の効果を減弱させない特徴を有する構造をもつ抗体を提供する。このような技術に基づく製剤等に関連する産業(製薬)において利用可能な技術が提供される。