(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028126
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】アニオン性歩留向上剤及びそれを用いた歩留向上方法
(51)【国際特許分類】
D21H 21/10 20060101AFI20220208BHJP
D21H 17/42 20060101ALI20220208BHJP
C08F 220/54 20060101ALI20220208BHJP
C08F 220/04 20060101ALI20220208BHJP
C08F 222/02 20060101ALI20220208BHJP
C08F 228/02 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
D21H21/10
D21H17/42
C08F220/54
C08F220/04
C08F222/02
C08F228/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020131334
(22)【出願日】2020-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000142148
【氏名又は名称】ハイモ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏彦
(72)【発明者】
【氏名】高木 祐太
【テーマコード(参考)】
4J100
4L055
【Fターム(参考)】
4J100AB07Q
4J100AJ02Q
4J100AJ08Q
4J100AJ09Q
4J100AL09P
4J100AM02P
4J100AM15P
4J100AM19P
4J100AM21P
4J100AN04P
4J100AP01Q
4J100AQ08P
4J100BA16Q
4J100BA56Q
4J100CA04
4J100DA09
4J100DA55
4J100FA20
4J100JA13
4L055AG07
4L055AG58
4L055AG71
4L055AG72
4L055AG89
4L055AG97
4L055AH18
4L055AH29
4L055EA25
4L055EA29
4L055EA32
4L055EA34
4L055FA30
(57)【要約】
【課題】
製紙工程で使用する歩留向上剤及びそれを用いた製紙原料の歩留向上方法に関するものであり、高シェアが掛かる抄造条件においても高い歩留効果を有するアニオン性歩留向上剤及びそれを用いた製紙原料の歩留向上方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
特定の組成、物性を有するアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンを歩留向上剤として抄紙前の製紙原料に使用することで高シェアが掛かる抄造条件において高い歩留効果を達成することができる。アニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンの25℃で測定した0.5質量%における、4質量%食塩水溶液中の固有粘度が15~30dl/gが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される単量体を5~80モル%、非イオン性水溶性単量体20~95モル%含有する単量体混合物水溶液を、界面活性剤により水に非混和性有機液体を連続相、該単量体混合物水溶液を分散相となるよう乳化し、重合した後、転相剤を添加して製造されたアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンからなる歩留向上剤であり、該アニオン性水溶性高分子が、下記定義(A)で測定した電荷内包率が15.0%を超えることを特徴とするアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンからなる歩留向上剤。
一般式(1)
R
1は水素、メチル基又はカルボキシメチル基、QはSO
3、C
6H
4SO
3、CONHC(CH
3)
2CH
2SO
3、C
6H
4COOあるいはCOO、R
2は水素又はCOOY
2、Y
1あるいはY
2は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
定義(A):電荷内包率(%)=(1-α/β)×100
αはアンモニアにてpH10.0に調整したアニオン性水溶性高分子0.0025質量%水溶液を1/1000Nポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液にて滴定した滴定量。βはアンモニアにてpH10.0に調整したアニオン性水溶性高分子0.0025質量%水溶液にせん断を加え、1/1000Nポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液にて滴定した滴定量。
【請求項2】
前記単量体混合物水溶液中に無機塩を油中水型エマルジョンの液量に対し0.5~10質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンからなる歩留向上剤。
【請求項3】
前記アニオン性水溶性高分子の25℃で測定した0.5質量%における、4質量%食塩水溶液中の固有粘度が15~30dl/gであることを特徴とする請求項1あるいは2に記載のアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンからなる歩留向上剤。
【請求項4】
下記一般式(1)で表される単量体を5~80モル%、非イオン性水溶性単量体20~95モル%含有する単量体混合物水溶液、界面活性剤により水に非混和性有機液体を連続相、該単量体混合物水溶液を分散相となるよう乳化し、重合した後、転相剤を添加して製造されたアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンであり、該アニオン性水溶性高分子が、下記定義(A)で測定した電荷内包率が15.0%を超えるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンを、抄紙前の製紙原料に添加することを特徴とする製紙原料の歩留向上方法。
一般式(1)
R
1は水素、メチル基又はカルボキシメチル基、QはSO
3、C
6H
4SO
3、CONHC(CH
3)
2CH
2SO
3、C
6H
4COOあるいはCOO、R
2は水素又はCOOY
2、Y
1あるいはY
2は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
定義(A):電荷内包率(%)=(1-α/β)×100
αはアンモニアにてpH10.0に調整したアニオン性水溶性高分子0.0025質量%水溶液を1/1000Nポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液にて滴定した滴定量。βはアンモニアにてpH10.0に調整したアニオン性水溶性高分子0.0025質量%水溶液にせん断を加え、1/1000Nポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液にて滴定した滴定量。
【請求項5】
前記アニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンを添加した、抄紙前の製紙原料がファンポンプ及びスクリーンから選択される一つ以上のせん断工程を通過することを特徴とする請求項4に記載の製紙原料の歩留向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙工程で使用する歩留向上剤及びそれを用いた製紙原料の歩留向上方法に関するものであり、詳しくは、抄紙工程においてアニオン性歩留向上剤を使用して製紙原料のワイヤー上での歩留を向上する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗工原紙、PPC用紙、上質紙、板紙及び新聞用紙等の抄紙工程において、原料パルプ、微細繊維、填料、製紙用薬剤等のワイヤー上での歩留率向上を図るために歩留向上剤、あるいは歩留と同時に濾水改善の機能を重視した濾水性向上剤(あるいは歩留濾水性向上剤)が使用されている。一般的にポリアクリルアミド系(PAM系)ポリマーが歩留向上剤として汎用されるが、近年の抄造条件の多様化により、有効な歩留向上剤や歩留システムがそれぞれ異なる。ワイヤー上での製紙原料の歩留率が低下することは生産性の低下のみならず、製紙原料中に含まれる填料あるいは紙力剤やサイズ剤といった製紙用薬剤の歩留が低下し紙製品の品質低下を招く要因の一つとなっている。主流はカチオン性PAMあるいは両性PAMであるが、中にはアニオン性PAMが有効な抄造条件もある。
一般的にアニオン性PAMを適用する場合は、スクリーン通過後に添加する場合が多い。スクリーン通過前(入口)に添加する場合やスクリーンより製紙工程の上流であるファンポンプ前後に添加する場合ではせん断力が掛かるため、歩留向上剤により形成したフロックが破壊され歩留効果が低下する。
又、製紙工場での生産性向上の観点からワイヤーの抄紙速度が高速化され、800m/分以上の高速、中には1000m/分以上もある。抄紙速度が速くなると製紙原料に掛かるせん断力が強くなり、形成したフロックが壊れやすくなり歩留効果は低下する。
一般的には歩留効果の向上を図るにはアニオン性PAMの分子量を上げることで達成できる。例えば、特許文献1には、粘度平均分子量が3500万を超える、低い電荷密度のアニオン性の高分子化合物を含有する歩留り剤について開示されている。しかし、高分子量の歩留剤を添加すると、地合いに与える影響が大きく、添加率が制限される。又、せん断力が掛かるとフロックが壊れやすく形成フロックを維持できない。
そこで、地合への影響を抑制し耐シェア性を持たせるため、アニオン性PAMの構造を変化させる方法も種々、試みられている。特許文献2には、架橋型アニオン性水溶性重合体を歩留向上剤として使用した場合、製紙原料フロックが巨大化せず小さく締ったものとなりシェアに強いことが記載されている。又、特許文献3には、交叉結合された陰イオン性または両性の有機高分子微粒子、特許文献4には、架橋アニオン性ポリマーを含む水中水型ポリマー分散物がそれぞれ開示され、歩留向上目的としての使用が示唆されている。しかし、これら構造を変化させたポリマーにより紙質への影響は比較的抑制できるが、必ずしも満足できる歩留効果は得られていない。又、これらアニオン性ポリマーはカチオン性あるいは両性PAMと併用され、主にスクリーン出口に添加されている場合が多い。ファンポンプ前後やスクリーン入口での添加では、せん断力が掛かり、抄紙機までの距離が長いため、その間に形成フロックが壊れやすくなる。又、高速抄紙の場合もせん断力が強くなるためフロックが壊れる結果、歩留効果が低下する。
そこで、高シェアが掛かる抄紙条件においても高い歩留効果が得られるアニオン性歩留向上剤の開発が要望されている。
【0003】
【特許文献1】国際公開2015/053349号公報
【特許文献2】特開2016-104433号公報
【特許文献3】特開平4-226102号公報
【特許文献4】特表2013-502502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、製紙工程で使用する歩留向上剤及びそれを用いた製紙原料の歩留向上方法に関するものであり、高シェアが掛かる抄造条件に適用できるアニオン性歩留向上剤及びそれを用いた製紙原料の歩留向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため鋭意検討を行なった結果、特定の組成、物性を有するアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンを歩留向上剤として抄紙前の製紙原料に添加することで製紙原料の歩留向上を達成することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンを歩留向上剤として抄紙前の製紙原料に添加することで、高シェアが掛かる抄造条件においてより高い歩留率を得ることができ生産性の向上や紙品質の向上を達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンは、下記一般式(1)で表される単量体を5~80モル%、非イオン性水溶性単量体20~95モル%を含有する単量体混合物水溶液を、界面活性剤により水に非混和性有機液体を連続相、該単量体混合物水溶液を分散相となるよう乳化し、重合した後、転相剤を添加して製造したものである。
一般式(1)
R
1は水素、メチル基又はカルボキシメチル基、QはSO
3、C
6H
4SO
3、CONHC(CH
3)
2CH
2SO
3、C
6H
4COOあるいはCOO、R
2は水素又はCOOY
2、Y
1あるいはY
2は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
【0008】
本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンを製造する際に使用するアニオン性単量体、即ち前記一般式(1)で表される単量体は5~80モル%の範囲である。5モル%より少ないとアニオン性水溶性高分子のアニオン基による大きな歩留効果は得られず、80モル%より多いと高分子量のものが得られ難くなる。好ましくは10~70モル%の範囲である。
【0009】
一般式(1)で表されるアニオン性単量体としては、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸あるいは2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フタル酸あるいはp-カルボキシスチレン酸、あるいはそれらの塩、等が挙げられる。これらを二種以上、組み合わせても差し支えない。
【0010】
本発明で使用する非イオン性単量体としては、(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、アクリロイルモルホリン等が挙げられる。これらを二種以上、組み合わせても差し支えない。非イオン性単量体のモル数としては、20~95モル%であるが、好ましくは30~90モル%である。
【0011】
本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンを製造する際に、効果を阻害しない範囲においてカチオン性単量体を使用することができる。その際に使用するカチオン性単量体は0~10モル%未満の範囲であり、10モル%以上であるとアニオン性歩留向上剤としての効果が低下する。好ましくは5モル%未満である。
【0012】
本発明でカチオン性単量体を使用する際は、以下の様なものがある。即ち、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートやジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の塩化メチルや塩化ベンジルによる四級化物である。その例として、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物である。これら二種以上組み合わせることも可能である。
【0013】
本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンは、アニオン性単量体及び非イオン性単量体含有する単量体混合物を共重合することによって製造することができる。重合はこれら単量体を混合した水溶液を調製した後、常法の油中水型エマルジョン重合法によって行なう。
【0014】
油中水型エマルジョンの製造方法としては、特開昭55-137147号公報、特開昭59-130397号公報、特開平10-140496号公報、特開2011-99076号公報等に挙げられる方法に準じて適宜に製造することができる。アニオン性単量体及び非イオン性単量体含有する単量体混合物を水、水と非混和性の炭化水素からなる油状物質、油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する少なくとも一種類の界面活性剤を混合し、強攪拌し油中水型エマルジョンを形成させた後、重合する。
【0015】
本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンを製造する際に無機塩を添加すると歩留効果が向上するので好ましい。無機塩を添加するタイミングは、アニオン性単量体及び非イオン性単量体含有する単量体混合物を混合した水溶液中である。又、無機塩を分割し単量体混合物を混合した水溶液中に一部を添加、残りを重合途中や共重合後の油中水型エマルジョン中に添加しても良い。
【0016】
添加する無機塩は、ナトリウムやカリウムの様なアルカリ金属イオンやアンモニウムイオン、マグネシウムイオン等の陽イオンと、ハロゲン化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン等の陰イオンとを組み合わせた塩が使用可能である。これら塩類の濃度としては、油中水型エマルジョン液量に対して、0.5~10質量%が好ましい。0.5質量%以上ないと更なる歩留効果向上に寄与し難く、10質量%より多い添加は無機塩の溶解性から製造工程上難しく、又、5質量%より多いと電荷内包率が15%以下になる傾向にあるため、好ましくは0.5~5質量%の範囲である。
【0017】
又、分散媒として使用する炭化水素からなる油状物質の例としては、パラフィン類或いは灯油、軽油、中油等の鉱油、或いはこれらと実質的に同じ範囲の沸点や粘度等の特性を有する炭化水素系合成油、或いはこれらの混合物が挙げられる。含有量としては、油中水型エマルジョン全量に対して20質量%~50質量%の範囲であり、好ましくは20質量%~35質量%の範囲である。
【0018】
油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する少なくとも一種類の界面活性剤の例としては、HLB3~11のノニオン性界面活性剤であり、その具体例としては、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。これら界面活性剤の添加量としては、油中水型エマルジョン全量に対して0.5~10質量%であり、好ましくは1~5質量%の範囲である。
【0019】
重合後は、転相剤と呼ばれる親水性界面活性剤を添加して油の膜で被われたエマルジョン粒子が水になじみ易くし、中の水溶性高分子が溶解しやすくする処理を行ない、水で希釈して用いる。親水性界面活性剤の例としては、カチオン性界面活性剤やHLB9~15のノ二オン性界面活性剤であり、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル系、ポリオキシエチレンアルコールエーテル系等である。
【0020】
重合条件は通常、使用する単量体や共重合モル%によって適宜決めていき、温度としては20~80℃、好ましくは20~60℃の範囲で行なう。重合開始はラジカル重合開始剤を使用する。これら開始剤は油溶性或いは水溶性のどちらでも良く、アゾ系、レドックス系、過酸化物系の何れでも重合することが可能である。油溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル-2、2’-アゾビスイソブチレート、1、1’-アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2、2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2、2’-アゾビス-2-メチルプロピオネート、4、4’-アゾビス-(4-メトキシ-2、4-ジメチル)バレロニトリル等が挙げられる。
【0021】
水溶性アゾ開始剤の例としては、2、2’-アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物、2、2’-アゾビス[2-(5-メチル-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩化水素化物、4、4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等が挙げられる。又、レドックス系の例としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウムと亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等との組み合わせが挙げられる。更に過酸化物系の例としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウム或いはカリウム、過酸化水素、ベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、オクタノイルペルオキサイド、サクシニックペルオキサイド、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート等を挙げることができる。
アゾ系あるいは過酸化物系開始剤の添加率としては、重合開始時、単量体当たり50~5000ppm、好ましくは100~500ppmである。しかし、これら開始剤一回の添加では重合率が低くなるので、数回に分けて添加することが好ましい。
【0022】
又、重合度を調節するためイソプロピルアルコールを対単量体0.1~5質量%併用、あるいはギ酸ナトリウムを対単量体0.02~0.5質量%併用、又はホスフィン酸ナトリウム0.0005~0.05質量%併用すると効果的である。
【0023】
単量体の重合濃度は20~50質量%の範囲であり、単量体の組成、開始剤の選択によって適宜重合の濃度と温度を設定する。
【0024】
本発明におけるアニオン性水溶性高分子のポリマー構造は、電荷内包率を指標とする。本発明で使用する電荷内包率は、以下のように定義される。
定義(A):電荷内包率(%)=(1-α/β)×100
αはアンモニアにてpH10.0に調整したアニオン性水溶性高分子0.0025質量%水溶液を京都電子工業(株)製PCD滴定装置(PCD-500、AT-510)により、滴下液:1/1000Nポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液、滴下速度:0.1ml/5sec、終点判定:0mVにて滴定し、求めた滴定量である。βはアンモニアにてpH10.0に調整したアニオン性水溶性高分子0.0025質量%水溶液に(株)日本精機製作所製エースホモジナイザー(AM-11)により、10000rpm、5分間の条件にてせん断を加え、同様にPCD滴定装置により、滴下液:1/1000Nポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液、滴下速度:自動制御、終点判定:0mVにて滴定し、求めた滴定量である。
尚、PCD滴定装置は、同様な測定ができるのであれば前記装置に限定はしないが、数値を規定する必要上、前記装置で前記条件において測定した同一のイオン性高分子の電荷内包率の実験誤差が±0.5%以内に入る必要がある。
【0025】
前記滴定量α値は、試料であるアニオン性水溶性高分子に反対電荷を有するポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液を滴下して行き、アニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンの「表面」(粒子状の表面部)に存在するイオン性基にイオン的静電反応を行わせる操作を意味する。
前記滴定量β値は、水溶性高分子の化学組成から計算される理論的な電荷量に相当すると考えられる。即ち水溶性高分子に対し、せん断によって現出した反対電荷が多量に存在するので、表面の電荷だけでなく、内部の電荷まで静電的な中和反応が行われると考えられる。架橋度が高ければ、αはβに対し小さくなり、(1-α/β)値は、大きくなり電荷内包率は大きい(すなわち架橋の度合いは高くなる)。
【0026】
即ち、電荷内包率の大きい水溶性高分子は、架橋が高まった水溶性高分子であり、電荷内包率の低い水溶性高分子は、架橋が少ない水溶性高分子であると言える。この理由は、以下の通りに説明される。直鎖型水溶性高分子は、希薄溶液中では、分子はほぼ「伸びきった」形状をしている。一方、架橋型水溶性高分子は、溶液中において粒子状の丸まった形状をしていて、粒子状の内部に存在するイオン性基は、外側には現われ難く、反対電荷との反応も緩慢に起こると考えられる。
【0027】
通常の直鎖型高分子や架橋型高分子の場合、分子量を上げるとポリマーの収縮やポリマー間の絡み合いが生じ、ポリマーの表面に存在する電荷が減少し電荷中和作用が抑制される。その結果、歩留向上剤として使用した場合に歩留効果が低下する場合がある。電荷内包率が15%以下であるとこの現象が起こり難いが、15%を超えると分岐構造の進行や、更に分子間の架橋まで分岐が進行し強い絡み合いが生じ、ポリマーの表面電荷が減少する結果、歩留効果が低下する傾向にある。
しかし、本発明におけるアニオン性水溶性高分子では、電荷内包率15%を超えても、重合開始剤、連鎖移動剤の種類や量、重合条件を最適化することで、一定の範囲の電荷内包率及び高い分子量を有することで、高シェアが掛かる抄造条件において高い歩留効果が発現する。
電荷内包率15.0%を超えて30.0%以下が好ましく、17.0%以上、30.0%以下がより好ましく、20.0%以上、30.0%以下がより一層好ましい。電荷内包率がこの範囲内において、高シェアが掛かった場合に、内部に存在する電荷が徐々に外側に現出し、電荷中和作用が有効に作用し耐シェア性がより発現するためである。電荷内包率が30.0%を超えると高分子量のものが得られ難いので好ましくはない。
又、本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンは、無機塩の添加により立体障害や電荷の反発が生じポリマー間の絡み合いを調製する役割を果たし、より効果を発揮することができるため無機塩を添加することが好ましい。
【0028】
本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンでは、重合時あるいは重合後、構造変性剤として架橋性単量体を使用しても良い。使用する場合は、単量体総量に対し0.0001~0.1質量%の範囲である。架橋性単量体の例としては、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルアミン、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸テトラエチレングリコール、ジメタクリル酸-1,3-ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、N-ビニル(メタ)アクリルアミド、N-メチルアリルアクリルアミド、アクリル酸グリシジル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アクロレイン、グリオキザール、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられ、これらの中でN,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0029】
本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンは、高い凝集力を得るには高分子量が必要である。分子量は、固有粘度で表わすと、油中水型エマルジョンを構成する水溶性高分子の25℃で測定した0.5質量%における、4質量%食塩水溶液中の固有粘度が15~30dl/gであるが、好ましくは17~30dl/g、更に好ましくは20~30dl/gの範囲である。固有粘度が15dl/gより低いと歩留向上効果が著しく低下し、30dl/gより高いと紙の品質、特に地合いが低下する傾向にあり好ましくはない。極限粘度法による重量平均分子量では、1000万から3000万の範囲内が好ましい。又、4質量%食塩水中に高分子濃度が0.5質量%になるように溶解したときの25℃において測定した粘度(0.5質量%塩水溶液粘度)も分子量の指標とすることができ、0.5質量%塩水溶液粘度が150~350mPa・sの範囲が好ましい。
【0030】
本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンからなる歩留向上剤は、抄紙前の製紙原料に添加される。通常、製紙工程において上流からパルプ乾燥固形分濃度が2.0質量%以上で移送されてきた製紙原料が抄紙機の直前では白水や清水等によりパルプ乾燥固形分濃度が2.0質量%より低い製紙原料に希釈されている。一般的には0.5~1.5質量%に希釈されており、これらはインレット原料やヘッドボックス原料と呼ばれており、これら原料(以下、インレット原料とする。)に対して歩留向上剤が添加され抄紙される。本発明の歩留向上剤もインレット原料に適用する。
【0031】
本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンの製紙工程における添加場所は、せん断工程であるファンポンプ前後やスクリーンを通過前が適用される。従来のアニオン性歩留向上剤ではスクリーン通過前やスクリーンより製紙工程の上流であるファンポンプ前後に添加するとせん断力が掛かるため効果が低下する。しかし、本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンでは、耐シェア性に優れるためスクリーン入口(通過前)やスクリーン入口よりも製紙工程の上流であるファンポンプ前後に添加しても有効に作用し歩留効果を発揮する。又、分割して添加しても良い。アニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンを添加した、抄紙前の製紙原料がファンポンプやスクリーンのせん断工程を通過しても耐シェア性に優れる結果、従来のアニオン性PAMに比べて高い歩留効果が得られる。
【0032】
一方、製紙工場での生産性向上の観点から抄紙速度が高速化、800m/分以上の高速、中には1000m/分を超える場合もある。抄紙速度が速くなると製紙原料に掛かるせん断力が強くなるため、歩留向上剤の添加により形成したフロックが壊れやすくなる。特に800m/分以上の高速においてその傾向が大きく、高いシェアにおいてもフロックを保持する歩留向上剤が求められており、本発明のアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンの性能は高速抄紙においてより発揮される。抄紙速度800m/分以上が好ましく、1000m/分以上がより好ましい。尚、本発明の効果が得られる限り、抄紙速度の上限は特に制限されない。
【0033】
本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンからなる歩留向上剤を使用する紙の種類としては、新聞用紙、上質印刷用紙、中質印刷用紙、グラビア印刷用紙、PPC用紙、塗工原紙、微塗工紙、包装用紙、ライナーや中芯原紙の板紙等が挙げられる。製紙原料のアニオン量、即ちカチオン要求量が比較的低い製紙原料に有効である。具体的にはカチオン要求量が0.0
3meq/L以下であれば本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンが有効に作用する。好ましくは0.02meq/L以下、更に好ましくは0.01meq/L以下である。又、製紙原料がカチオン性(=アニオン要求量)を示しても効果を発揮する。カチオン性あるいは両性澱粉等の紙力剤や硫酸バンドの添加率が比較的多いライナーや中芯原紙等の板紙に適用すると効果的である。カチオン要求量は、Whatman No.41濾紙濾過液を市販の粒子電荷計(ミューテック社PCD-05型等)で測定した値(meq/L)で表される。
本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンは、水で0.01~1.0質量%に希釈溶解して使用する。溶解する水は、蒸留水、イオン交換水、水道水、工業用水等が使用できる。これらが混合されていても差し支えない。希釈溶解液を更に二次希釈、三次希釈しても差し支えない。
アニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンの添加率は、紙料固形分濃度に対して10~1000ppm(ポリマー純分)の範囲であり、好ましくは50~500ppmである。
【0034】
本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンからなる歩留向上剤は、紙力剤、サイズ剤、硫酸バンド、凝結剤やその他の製紙用薬品と同時に添加することができる。歩留向上処方としてその他のカチオン性水溶性高分子、両性水溶性高分子、アニオン性水溶性高分子、非イオン性水溶性高分子、ベントナイトあるいはコロイダルシリカ等とも併用しても差し支えないが、歩留向上剤として一液での適用が、他の歩留向上剤処方に比べてより優位性があり好ましい。
【実施例0035】
以下に本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンからなる歩留向上剤及びそれを用いた製紙原料の歩留向上方法について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンからなる歩留向上剤として、試料1~4を油中水型エマルジョン重合法の常法により調製した。試料1、3、4は、重合時に単量体混合物を混合した水溶液中に無機塩を含有させ、油中水型エマルジョン重合法の常法により製造した。これらの組成、物性を表1に示す。
【0037】
(比較例1)本発明の範囲外のアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンからなる歩留向上剤試料5~9を油中水型エマルジョン重合法の常法により調製した。これらの組成、物性を表1に示す。又、市販品の歩留向上剤試料A~Cを準備した。これらの組成、物性を表2に示す。
【0038】
(表1)
単量体組成;AAC:アクリル酸、AAM:アクリルアミド
無機塩;SC:塩化ナトリウム、無機塩添加率:対油中水型エマルジョン液量
0.2質量%水溶液粘度:高分子濃度が0.2質量%になるように水で溶解したときの25℃において測定した粘度(mPa・s)。
【0039】
(表2)
製品形態;E:油中水型エマルジョン、D:塩水液中分散重合液
0.2質量%水溶液粘度:高分子濃度が0.2質量%になるように水で溶解したときの25℃において測定した粘度(mPa・s)。
0.5質量%塩水溶液粘度:4質量%食塩水中に高分子濃度が0.5質量%になるように溶解したときの25℃において測定した粘度(mPa・s)。
【0040】
(実施例2)(せん断工程添加想定試験)
叩解度340mLに調製したLBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)を清水希釈後、軽質炭酸カルシウムを添加、調整インレット紙料として試験に用いた。試験では、総歩留率及び灰分歩留率の測定を目的としてブリット式ダイナミックジャーテスターを用いた(30メッシュワイヤー使用)。調整紙料の物性値は、固形分濃度9447ppm、軽質炭酸カルシウム等Ash分を40質量%対紙料固形分濃度、pH8.8、電気伝導度21mS/mであった。調整紙料のWhatman No.41濾紙濾過液の濁度87NTU(HACH社製2100P型を使用)、カチオン要求量0.006meq/L(ミューテック社製PCD-05型を使用)であった。
調整紙料を所定量採取し、市販カチオン澱粉を1.0質量%添加(対紙料固形分)、攪拌回転数850rpmで20秒攪拌した後、表1の試料1の0.1質量%水溶液を紙料固形分に対して300ppm添加(ポリマー純分)し、攪拌回転数850rpmで30秒攪拌後(スクリーン入口添加想定)、濾液を一定時間採取しADVANTEC No.2濾紙にて濾過後、SSを測定、総歩留率を求めた。その濾紙を525℃にて2時間灰化し、灰分歩留率を測定した。又、同じ調整紙料を用いて、試料1を添加後、攪拌回転数850rpmで40秒攪拌(ファンポンプ入口添加想定)に変更した以外は同様な条件で同様な試験を実施した。更に表1の試料2についても同様に実施した。これらの結果を表3に示す。
【0041】
(比較例2)
実施例2と同じ調整紙料を用いて、実施例2と同様な条件で同様な試験を表1の試料5、8、9、表2の試料Aを用いて実施した。これらの結果を表3に示す。
【0042】
(比較例3)
実施例2と同じ調整試料を用いて、試料1添加後の攪拌回転数850rpmで10秒攪拌(スクリーン出口添加想定)に変更した以外は、実施例2と同様な試験を実施した。表1の試料2、5、8、9及び表2の試料Aについても同様に実施した。これらの結果を表4に示す。
【0043】
【0044】
【0045】
製紙工程のせん断力が掛かるスクリーン入口添加想定(攪拌時間30秒)、ファンポンプ入口添加想定(攪拌時間40秒)の実施例2では、本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョン試料が、本発明の範囲外の試料に比べて高い歩留効果を示した。無機塩を含有する試料1がより高い歩留性能を示した。一方、ファンポンプ、スクリーンのせん断力が掛からないスクリーン出口添加想定(攪拌時間10秒)の比較例3では、本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョン試料と本発明の範囲外の試料との効果差は小さかった。
【0046】
(実施例3)(高速抄紙添加想定試験)
叩解度340mLに調製したLBKPを清水希釈後、軽質炭酸カルシウムを添加、調整インレット紙料として試験に用いた。試験では、総歩留率及び灰分歩留率の測定を目的としてブリット式ダイナミックジャーテスターを用いた(30メッシュワイヤー使用)。調整紙料の物性値は、固形分濃度9379ppm、軽質炭酸カルシウム等Ash分を39質量%対紙料固形分濃度、pH8.8、電気伝導度18mS/mであった。調整紙料のWhatmanNo.41濾紙濾過液の濁度135NTU(HACH社製2100P型を使用)、カチオン要求量0.012meq/L(ミューテック社製PCD-05型を使用)であった。
調整紙料を所定量採取し、市販カチオン澱粉を1.0質量%添加(対紙料固形分)、攪拌回転数1300rpmで20秒攪拌した後、表1の試料1の0.1質量%水溶液を紙料固形分に対して300ppm添加(ポリマー純分)、攪拌回転数1300rpmで10秒攪拌後、濾液を一定時間採取しADVANTEC No.2濾紙にて濾過後、SSを測定、総歩留率を求めた。その濾紙を525℃にて2時間灰化し、灰分歩留率を測定した。又、同じ調整紙料を用いて攪拌回転数1600rpmに変更した以外は同様な条件で同様な試験を実施した。尚、ブリット式ダイナミックジャーテスターの攪拌回転数1300rpmは、抄紙マシンや抄紙条件にもよるが、少なくとも抄紙速度800m/分は超える高速抄紙に匹敵すると推察される。これらの結果を表5に示す。
【0047】
(比較例4)
実施例3と同じ調整紙料を用いて、実施例3と同様な条件で同様な試験を表1の試料5を用いて実施した。これらの結果を表5に示す。
【0048】
(比較例5)
実施例3と同じ調整紙料を用いて、攪拌回転数を700rpmに変更した以外は実施例3と同様な条件で同様な試験を表1の試料1、5を用いて実施した。これらの結果を表6に示す。
【0049】
【0050】
【0051】
抄紙機の高速抄紙におけるせん断力を想定した実施例3では、本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョン試料が、本発明の範囲外の試料に比べて高い歩留効果を示した。これは、同モル組成で同程度の分子量を有する高分子試料において、電荷内包率が15.0%を超える高分子試料が高速シェアにおいて高い歩留効果を発揮することが確認できた。
【0052】
(実施例4)(せん断工程添加想定試験)
叩解度365mLに調製したLBKPを清水希釈後、軽質炭酸カルシウムを添加、pH調整し、調整紙料として試験に用いた。試験では、総歩留率及び灰分歩留率の測定を目的としてブリット式ダイナミックジャーテスターを用いた(30メッシュワイヤー使用)。調整紙料の物性値は、固形分濃度9272ppm、軽質炭酸カルシウム等Ash分を38質量%対紙料固形分濃度、pH7.9、電気伝導度48.4mS/mであった。調整紙料のWhatmanNo.41濾紙濾過液の濁度140NTU(HACH社製2100P型を使用)、カチオン要求量0.005meq/L(ミューテック社製PCD-05型を使用)であった。
調整紙料を所定量採取し、市販カチオン澱粉を1.0質量%添加(対紙料固形分)、攪拌回転数850rpmで20秒攪拌した後、表1の試料3の0.1質量%水溶液を紙料固形分に対して300ppm添加(ポリマー純分)、攪拌回転数850rpmで40秒攪拌後(ファンポンプ入口添加想定)、濾液を一定時間採取しADVANTEC No.2濾紙にて濾過後、SSを測定、総歩留率を求めた。その濾紙を525℃にて2時間灰化し、灰分歩留率を測定した。又、試料3の添加後の攪拌時間を10秒(スクリーン出口添加想定)に変更した以外は同様な条件で同様な試験を実施した。これらの結果を表7に示す。
【0053】
(比較例6)
実施例4と同様な調整紙料を用いて、実施例4と同様な条件で同様な試験を表1の試料6を用いて実施した。これらの結果を表7に示す。
【0054】
【0055】
製紙工程のスクリーン出口添加想定(攪拌時間10秒)に比べて、せん断力が掛かるファンポンプ入口添加想定(攪拌時間40秒)では、本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョン試料が、本発明の範囲外の試料よりも高い歩留効果を示した。これは、同モル組成で同程度の分子量を有する高分子試料において、電荷内包率が15.0%を超える高分子試料が高シェアにおいて高い効果を発揮することが確認できた。
【0056】
(実施例5)(せん断工程及び高速抄紙添加想定試験)
叩解度370mLに調製したLBKPを清水希釈後、軽質炭酸カルシウムを添加、pH調整し、調整インレット紙料として試験に用いた。試験では、総歩留率及び灰分歩留率の測定を目的としてブリット式ダイナミックジャーテスターを用いた(30メッシュワイヤー使用)。調整紙料の物性値は、固形分濃度9272ppm、軽質炭酸カルシウム等Ash分を38質量%対紙料固形分濃度、pH8.0、電気伝導度48.0mS/mであった。調整紙料のWhatmanNo.41濾紙濾過液の濁度140NTU(HACH社製2100P型を使用)、カチオン要求量0.01meq/L(ミューテック社製PCD-05型を使用)であった。
調整紙料を所定量採取し、市販カチオン澱粉を1.0質量%添加(対紙料固形分)し、攪拌回転数1200rpmで30秒攪拌した後、表1の試料4の0.1質量%水溶液を紙料固形分に対して300ppm添加(ポリマー純分)し攪拌回転数1200rpmで30秒攪拌後(スクリーン入口添加想定)、濾液を一定時間採取しADVANTEC No.2濾紙にて濾過後、SSを測定、総歩留率を求めた。その濾紙を525℃にて2時間灰化し、灰分歩留率を測定した。又、同じ調整紙料を用いて試料4を添加後の攪拌時間を10秒(スクリーン出口添加想定)に変更した以外は同様な条件で同様な試験を実施した。これらの結果を表8に示す。
【0057】
(比較例7)
実施例5と同様な調整紙料を用いて、実施例5と同様な試験を表1の試料7、表2の試料B、Cを用いて実施した。これらの結果を表8に示す。
【0058】
【0059】
製紙工程のスクリーン出口添加想定(攪拌時間10秒)では、本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョン試料と本発明の範囲外との試料に比べて効果差は小さいが、せん断力の掛かるスクリーン入口添加想定(攪拌時間30秒)では、高い歩留効果を示した。
尚、当該試料において、カチオン性歩留向上剤試料Cの歩留効果は低く、アニオン性歩留向上剤が有効な紙料であることが確認できた。
【0060】
(実施例6)(せん断工程添加想定試験)
某製紙会社の板紙におけるライナー抄造紙料(固形分濃度13382ppm、Ash分1842ppm、pH6.5、電気伝導度192mS/m)を試験に用いた。紙料をWhatmanNo.41濾紙濾過液の濁度66NTU(HACH社製2100P型を使用)、カチオン要求量0.021meq/L(ミューテック社製PCD-05型を使用)であった。
試験では、総歩留率及び灰分歩留率の測定を目的としてブリット式ダイナミックジャーテスターを用いた(30メッシュワイヤー使用)。表1の試料1の0.1質量%水溶液を紙料固形分に対して200ppm添加(ポリマー純分)し攪拌回転数850rpmで40秒攪拌後(ファンポンプ入口添加想定)、濾液を一定時間採取しADVANTEC No.2濾紙にて濾過後、SSを測定、総歩留率を求めた。その濾紙を525℃にて2時間灰化し、灰分歩留率を測定した。これらの結果を表9に示す。
【0061】
(比較例8)
実施例6と同じ抄造紙料を用いて、実施例6と同様な条件で同様な試験を表1の試料5を用いて実施した。これらの結果を表9に示す。
【0062】
(比較例9)
実施例6と同じ抄造紙料を用いて、試料1添加後の攪拌回転数850rpmで10秒攪拌(スクリーン出口添加想定)に変更した以外は、実施例6と同様な試験を実施した。又、表1の試料5についても同様に実施した。これらの結果を表10に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
製紙工程のせん断力が掛かるファンポンプ入口添加想定(攪拌時間40秒)の実施例では、本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョン試料が、本発明の範囲外の試料に比べて高い歩留効果を示した。一方、ファンポンプ、スクリーンのせん断力が掛からないスクリーン出口添加想定(攪拌時間10秒)の比較例では、本発明の範囲外の試料が本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョン試料と比べ高い歩留効果を示した。
【0066】
(実施例7)(せん断工程添加想定、濾水性能評価)
叩解度359mLに調製したLBKPを清水希釈後、軽質炭酸カルシウムを添加、調整インレット紙料として試験に用いた。濾水性能について動的濾水性試験機DDA(Dynamic Drainage Analyzer、マツボー社)による濾水性能評価を実施した。調整紙料の物性値は、固形分濃度9488ppm、軽質炭酸カルシウム等Ash分として38.7質量%対紙料固形分濃度、pH8.5、電気伝導度17.7mS/mであった。調整紙料のWhatmanNo.41濾紙濾過液の濁度293NTU(HACH社製2100P型を使用)、カチオン要求量0.006meq/L(ミューテック社製PCD-05型を使用)であった。
調整紙料の所定量を底部に62メッシュワイヤーの付いたDDA攪拌槽に投入した。攪拌回転数1600rpmにて5秒攪拌後、市販のカチオン澱粉を1.0質量%添加(対紙料固形分)し、20秒攪拌した後、表1の試料1の0.1質量%水溶液を紙料固形分に対して300ppm添加(ポリマー純分)、攪拌回転数1600rpmで50秒攪拌後(ファンポンプ入口添加想定)、300mBarの減圧下で、紙料を吸引し、ワイヤー上にシートを形成した時点の濾水時間及びシート含水率を測定した。又、同じ調整紙料を用いて試料1を添加後の攪拌時間を80秒(ファンポンプより製紙工程上流添加想定)に変更した以外は同様な条件で同様な試験を実施した。これらの結果を表11に示す。
【0067】
(比較例10)
実施例7と同様な調整紙料を用いて、実施例7と同様な試験を表1の試料5、8を用いて実施した。これらの結果を表11に示す。
【0068】
(比較例11)
実施例7と同様な調整紙料を用いて、試料1添加後の攪拌時間を10秒(スクリーン出口添加想定)に変更した以外は実施例7と同様な試験を実施した。同様に表1の試料5、8を用いて実施した。これらの結果を表12に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
製紙工程のせん断力の掛かるファンポンプ入口添加想定(攪拌時間50秒)及びファンポンプより製紙工程上流添加想定(攪拌時間80秒)では、本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョン試料は、本発明の範囲外の試料に比べて濾水時間が短縮、シート含水率が低下したことから高シェアが掛かる条件において濾水性能が優れることが確認できた。
【0072】
本発明におけるアニオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンは、製紙工程のせん断力が掛かるファンポンプ入口、出口及びスクリーン入口添加、あるいは高速抄紙において優れた歩留性能及び濾水性能が発揮することが確認された。本発明におけるアニオン水溶性高分子の油中水型エマルジョンを歩留向上剤として高シェアが掛かる抄造条件で適用することで生産性の向上及び紙品質の向上を達成することが可能となる。