(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028148
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】水圧転写シート及びそれを用いた水圧転写方法
(51)【国際特許分類】
B44C 1/175 20060101AFI20220208BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
B44C1/175 D
B32B27/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020131360
(22)【出願日】2020-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】306026980
【氏名又は名称】株式会社タイカ
(72)【発明者】
【氏名】茂内 将希
【テーマコード(参考)】
3B005
4F100
【Fターム(参考)】
3B005FA00
3B005FB25
3B005FB37
3B005FB42
3B005FB58
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3B005GA24
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3B005GC08
4F100AA37E
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4F100YY00E
(57)【要約】 (修正有)
【課題】背後に配置された光源の点灯、消灯の切り替えによって意匠が変化する装飾層を備えた装飾物品を水圧転写法で製造するとき、水圧転写時の伸展性と、水圧転写品における装飾層の密着性とを両立できる水圧転写シート及びその水圧転写シートを用いた水圧転写方法を提供する。
【解決手段】水溶性フィルム30と水溶性フィルムの上に形成された加飾層40とから成る水圧転写シート20であって、加飾層は水溶性フィルム側から順に少なくとも反射層41と光透過パターン層42とが積層されてなり、光透過パターン層は遮光部42aと光透過部42bとからなり、遮光部は樹脂中に顔料を含む遮光性樹脂組成物からなり、顔料の配合割合は樹脂100重量部に対して20~40重量部であり、遮光部の厚みは10~20μmである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性フィルムと前記水溶性フィルムの上に形成された加飾層とから成り、前記加飾層を水圧転写によって光透過性の被転写物体に装飾層を形成するための水圧転写シートであって、
前記加飾層は前記水溶性フィルム側から順に少なくとも反射層と光透過パターン層とが積層されてなり、前記光透過パターン層は、遮光部と光透過部とからなり、前記遮光部は樹脂中に顔料を含む遮光性樹脂組成物からなり、前記顔料の配合割合は前記樹脂100重量部に対して20~40重量部であり、前記遮光部の厚みは10~20μmであることを特徴とする水圧転写シート。
【請求項2】
前記加飾層は反射層の水溶性フィルム側に柄層を有することを特徴とする請求項1に記載の水圧転写シート。
【請求項3】
前記顔料はカーボンブラックであることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の水圧転写シート。
【請求項4】
前記反射層は、表面に凹凸パターンを有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の水圧転写シート。
【請求項5】
前記加飾層と前記水溶性フィルムの間に機能性樹脂層を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の水圧転写シート。
【請求項6】
以下の工程(A)~(C)を備える水圧転写方法;
工程(A):前記水圧転写シートの加飾層に活性剤組成物を塗布する工程;
工程(B):請求項1~5のいずれか1項に記載の水圧転写シートを、水溶性フィルム側を水面に接触した状態で浮遊させる工程;
工程(C):工程(A)及び(B)を経た水圧転写シート上に光透過性の被転写体を押圧し、水圧によって前記加飾層を前記被転写体の被転写面に密着させて水圧転写装飾層を形成する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾層の背面側から光源の点灯、消灯を切り替えることによって意匠が視覚的に変化する水圧転写品を得るために用いられる水圧転写シート及びその水圧転写シートを用いた水圧転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表面が加飾された透明基材の裏面から光を透過させる構造の照明サイン等の照明表示装置が提案されている。例えば、特許文献1には、加熱延伸により被覆する成形法によって光透過性加飾フィルムが表面に積層された透明基材と、その透明基材の背面に配置された光源とから構成される照明表示装置が提案されている。この照明表示装置に用いられる光透過性加飾フィルムは、表面側から順に光透過性を有する上部意匠層、反射層、光透過性を有する下部意匠層が積層された構成からなり、下部意匠層は、光透過性の領域と光不透過性(遮光性)の領域を含んで構成されている。この光透過性加飾フィルムを透明基材に積層することにより、光源が消灯した状態において、表面側からの昼光下などの光で上部意匠による第1意匠が視認され、光源が点灯した状態においては、基材、下部意匠層、反射層及び上部意匠層をこの順で光が透過することによって、透明基材及び下部意匠層にある光透過性領域を通過する光で形成される光透過パターンと上部意匠層とが組み合わさって視認される独特な第2意匠を発現できるものである。しかし、この照明表示装置は、加熱延伸法を用いて光透過性加飾フィルムで透明基材を被覆する工法で得られるものであるため、透明基材の被覆される面が高い曲率を持つ場合や、細かい凹凸を有する場合には、良好な被覆ができないことが多く、透明基材の形状に制限がある点で課題があった。また透明基材の被覆される面に孔が存在する場合には、光透過性加飾フィルムが孔を被覆してしまうため、被覆加工後に孔が被覆された部分の余分な光透過性加飾フィルムをトリミング等の別工程を設けて取り除く必要があり、生産性とコストの点においても課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本出願人は、課題を解決する手法として水圧転写方法に着目し、この水圧転写方法で光透過パターンを備えた意匠層(特許文献1における下部意匠層に相当)と反射層とが積層された装飾層を透明基材に形成する着想に至った。水圧転写方法とは、
図1に概略的に示したように、水溶性フィルム上に加飾層が形成された水圧転写シートに活性剤を塗布して水圧転写層の水面上に配置し、被転写物品を押し当てて水圧で透明基材の表面に加飾層を転写して装飾層を形成する方法である。この方法であれば、透明基材の被加飾面が高い曲率を持つ場合や細かい凹凸を持つ場合であっても形状に追従した装飾層を形成することができる。また、透明基材の被加飾面に貫通孔がある場合であっても、支持体フィルムが水溶性のため、孔を被覆することなく、トリミング工程が不要となる。
【0005】
このように、上記の照明表示装置に用いられる装飾部品を製造するにおいて、水圧転写方法の適用は従来の加熱延伸法における課題解決に有効であるが、水圧転写方法を適用するにおいて課題があった。具体的には、目的の装飾層を形成するためには、水圧転写シートは、少なくとも光透過性領域がパターン(光透過性パターン)として形成された意匠層(光透過性パターン層)と反射層が水溶性フィルム上に積層された構成とするが、水圧転写品の装飾層において明瞭な光透過性パターンを得るためには、意匠層の非光透過性領域の遮光性を高める必要があり、そのため意匠層の非光透過性領域の厚みを増やす、または遮光性を付与する顔料を高濃度で添加する必要があった。
【0006】
しかし、水圧転写シートは、水圧転写工程において、活性剤が塗布されたのちに水上で活性剤の浸透と水による膨潤によって、水圧転写可能な状態に伸展しなければならず、非光透過性領域の厚みが増すと活性剤が意匠層に浸透し難くなって水圧転写シートの伸展が阻害され、被転写物品への意匠層の付き周りが悪くなり、良好な水圧転写品が得られなくなるという課題があった。また、意匠層の非光透過性領域に遮光性顔料が高濃度で添加されると、水圧転写で形成された水圧転写品の装飾層において、反射層と光透過性パターン層との界面における密着性が低下し、実用上の耐久性においても課題があった。
【0007】
従って、本発明はこれらの課題を解決するものであり、その目的は、装飾層の背面側に配置された光源の点灯、消灯の切り替えによって意匠が変化する装飾層を備えた装飾物品を水圧転写法で得るための水圧転写シートであって、水圧転写時の伸展性と、水圧転写品における装飾層の密着性とを両立できる水圧転写シートを提供することにある。
【0008】
また、本発明の第2の目的は、本発明の水圧転写シートを用いて、装飾層の背面側に配置された光源の点灯、消灯の切り替えによって意匠が変化する装飾層を備えた水圧転写品を得るための水圧転写法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の水圧転写シートは、水溶性フィルムと水溶性フィルムの上に形成された加飾層とからなり、加飾層を水圧転写によって光透過性の被転写物体の表面に装飾層を形成するための水圧転写シートであって、加飾層は水溶性フィルム側から順に少なくとも反射層と光透過パターン層とが積層されてなり、光透過パターン層は、遮光部と光透過部とからなり、遮光部は樹脂中に顔料を含む遮光性樹脂組成物からなり、顔料の配合割合は樹脂100重量部に対して20~40重量部であり、遮光部の厚みは10~20μmであることを特徴とする。
【0010】
水圧転写シートがこれらの構成を有することにより、水圧転写時の伸展性が良好であり、水圧転写品における光透過性の被転写物体と装飾層との密着性に優れ、さらに装飾層内の光透過パターン層の遮光部の遮光性を十分に高められるので、光透過パターン層の光透過部を通過する光で視認される光透過パターンが明瞭に形成される。そのため、水圧転写品の装飾層の背後側に光源を配置した構成において、光源が消灯した状態では表面側からの光で第1の意匠形態として反射層が視認され、該光源が点灯した状態では光透過性の被転写物体、光透過パターン層の光透過部、反射層の順で光が透過することによって、光透過パターンと反射層とが組み合わされた第2の意匠形態が視認されることで、光源の点灯、消灯の切り替えによって意匠が変化する装飾層を有する水圧転写品を得ることができる。
【0011】
また、本発明の水圧転写シートは、加飾層は反射層よりも水溶性フィルム側に柄層を有することが好ましい。これにより、水圧転写品の装飾層の背後側の光源が消灯した状態では表面側からの光で第1の意匠形態として柄層と反射層との複合意匠が視認され、該光源が点灯した状態では光透過性の被転写物体、光透過パターン層の光透過部の順で透過した光で形成される光透過パターンと上記の複合意匠とが組み合わされた第2の意匠形態が視認されることで、該光源の点灯、消灯の切り替えによって意匠が変化する装飾層のデザイン性を多様化することができる。
【0012】
また、本発明の水圧転写シートは、光透過パターン層の遮光部に含まれる顔料はカーボンブラックであることも好ましい。これにより、遮光部の遮光性が高くなり、光透過パターン層の光透過部を光が通過することで形成される光透過パターンがより明瞭になるため、反射層または柄層と反射層との複合意匠と光透過パターンとが組み合わされた第2の意匠形態の効果を向上させることができる。
【0013】
また、本発明の水圧転写シートは、反射層が表面に凹凸パターンを有することも好ましい。これにより、反射層にホログラム効果を付与することができ、水圧転写品の装飾層の背後側に配置された光源の点灯、消灯の切り替えによって意匠が変化する装飾層により独特な意匠性を付与することができる。
【0014】
また、本発明の水圧転写シートは、加飾層と水溶性フィルムの間に機能性樹脂層を有することも好ましい。これにより、水圧転写品の装飾層の背後側に配置された光源の点灯、消灯の切り替えによって意匠が変化する装飾層を有する水圧転写品に機能性樹脂層が有する機能を付加することができる。
【0015】
また、本発明の水圧転写方法は、以下の工程(A)~(C)を備えている。
工程(A):上記の水圧転写シートの加飾層に活性剤組成物を塗布する工程。
工程(B):上記の何れか一つの水圧転写シートを、水溶性フィルム側を水面に接触した状態で浮遊させる工程。
工程(C):工程(A)及び(B)を経た水圧転写シート上に光透過性の被転写体を押圧し、水圧によって加飾層を被転写体の被転写面に密着させて水圧転写装飾層を形成する工程。
これにより、水圧転写シートの水圧転写時の伸展性が良好となるため、光透過性の被転写物体への密着性に優れた装飾層を形成できるとともに、装飾層の遮光部の遮光性に優れているので、光透過パターン層の光透過部を光が通過して形成される光透過パターンが明瞭に視認される。そのため、水圧転写品の装飾層の背後側に配置された光源が消灯した状態では表面側からの光で第1の意匠形態として反射層が視認され、該光源が点灯した状態では光透過性の被転写物体、光透過パターン層の光透過部、反射層の順で光が透過して形成される光透過パターンと、反射層とが組み合わされた第2の意匠形態が視認されることで、該光源の点灯、消灯の切り替えによって意匠が変化する装飾層を有する水圧転写品を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水溶性フィルム側から順に少なくとも反射層と光透過パターン層とが積層されてなり、光透過パターン層は、遮光部と光透過部とからなり、遮光部は樹脂中に顔料を含む組成物からなり、顔料の配合割合は樹脂100重量部に対して20~40重量部であり、遮光部の厚みは10~20μmである水圧転写シートは、水圧転写時の伸展性に優れるため、光透過性の被転写物体への密着性に優れた装飾層を形成できるとともに、光透過パターン層の遮光部が遮光性に優れているので、光透過部を通過する光で視認される光透過パターンが明瞭であり、水圧転写品の装飾層の背後側に配置された光源が消灯した状態では表面側からの光で第1の意匠形態として反射層が視認され、該光源が点灯した状態では透明基材、光透過パターン層の光透過部、反射層の順で光が透過して形成される光透過パターンと、反射層とが組み合わされた第2の意匠形態が視認されることで、該光源の点灯、消灯の切り替えによって意匠が変化する装飾層を有する水圧転写品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の方法によって実施される水圧転写の概略図である。
【
図2】本発明の水圧転写シートの構造の一例を示す模式的な断面図であり、(a)は反射層が平坦な実施形態であり、(b)は反射層が表面に凹凸を有する実施形態である。
【
図3】本発明の水圧転写シートの別の実施形態として、反射層と水溶性フィルムとの間に柄層を備えた構造を示す模式的な断面図であり、(a)は反射層が平坦な実施形態であり、(b)は反射層が表面に凹凸を有する実施形態である。
【
図4】本発明の水圧転写シートの別の実施形態として、加飾層と水溶性フィルムとの間に機能性樹脂層を備えた構造を示す模式的な断面図であり、(a)は反射層が平坦な実施形態であり、(b)は反射層が表面に凹凸を有する実施形態である。
【
図5】本発明の水圧転写方法の各工程を模式的に示す図面である。
【
図6】本発明の水圧転写方法の別の実施形態における各工程を模式的に示す図面である。
【
図7】本発明の水圧転写方法によって得られた装飾層を有する水圧転写品を模式的に示す拡大断面図であり、(a)~(d)はそれぞれ
図2(a)水圧転写シート、
図2(b)の水圧転写シート、
図3(a)の水圧転写シート、
図4(a)の水圧転写シートを用いて得られた水圧転写品である。
【
図8】本発明の水圧転写シートを適用した水圧転写方法で得られた水圧転写品の被転写物側に光源を配置した構成を示す模式的な断面図であり、(a)は光源が消灯した状態で観察した場合の見え方を示すものであり、(b)は光源が点灯した状態で観察した場合の見え方を示すものである。
【
図9】本発明の実施例における光透過パターン層を構成する遮光部の遮光性を評価するための評価装置を説明する模式図であり、(a)は評価装置の斜視図であり、(b)は評価装置のA-A´断面図である。
【
図10】本発明の実施例における光透過パターン層を構成する遮光部と光透過部の配置パターンを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る水圧転写シートについて
図2を参照しながら説明する。本発明の水圧転写シート20は、水溶性フィルム30と水溶性フィルム30の上に形成された加飾層40とから成り、加飾層40は水溶性フィルム30側から順に少なくとも反射層41と光透過パターン層42とが積層されてなり、光透過パターン層42は、遮光部42aと光透過部42bとからなり、遮光部42aは少なくとも樹脂中に顔料を含む組成物からなり、顔料の配合割合は樹脂100重量部に対して20~40重量部であり、遮光部42aの厚みは10~20μmであることを特徴とする。以下項目毎に詳細に説明する。
【0019】
1.水溶性フィルム
水溶性フィルム30は、水を吸収して膨潤することによって軟化し伸展する基材であって、例えば、ポリビニルアルコールを主体とする水溶性材料から成っている。この水溶性フィルム30は、水圧転写時に、転写槽内の水に触れて膨潤しながら軟化し、水圧転写シート20を水面上で伸展させ、加飾されるべき物品に付き回って、水圧転写を行うことができるようにする。
【0020】
2.加飾層
水溶性フィルム30の表面上に積層される加飾層40は、水溶性フィルム30側から順に少なくとも反射層41と光透過パターン層42とが積層されて構成される。
【0021】
2-1.反射層
加飾層40を構成する反射層41は、光が反射することで意匠性を発揮する性質(反射性)と一定の光強度以上の光が透過する光透過性を発現する性質(光透過性)の両方を併せ持つ金属層から成っている。金属層としては、例えば、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、金、錫、亜鉛、黄銅、ステンレスの如き金属単体又は合金、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素の如き金属酸化物から形成することができ、蒸着、スパッタリング等の適宜の手段によって水溶性フィルム30の表面に形成できる。また、反射層41は、水圧転写工程において水による膨潤性や活性剤による軟化性を有しない非伸展性層であるため、水圧転写時には、水溶性フィルム30も伸展性する力によって微細に割れることで水圧転写シートを伸展させる必要があり、反射層41の厚みが小さいほど、この微細分割がし易く、逆に厚みが大きいと微細分割し難くなる。したがって、反射層の厚みは、上記の反射性と光透過性を両立しつつ水圧転写時の伸展性も確保できるように設定され、例えば金属単体の場合には10~80nm、更に好ましくは、20~60nmとすることができ、金属酸化物で発色させる場合には、10~300nmとするのが好ましい。
【0022】
反射層41は、光が反射すればよく、例えば屈折率の異なる複数の樹脂層が積層された構成としてもよい。また、
図2(b)のように反射層41の表面に例えばホログラム効果を示すような凹凸パターンを有していてもよい。また、表面粗さなどを調整して反射特性や金属光沢感を適宜設定することができる。
【0023】
2-2.光透過パターン層
加飾層40を構成する光透過パターン層42は、遮光部42aと光透過部42b部から構成され、光が照射された時に遮光部42aで遮光し、光透過部42bを透過する光で光透過パターン(光模様)を形成するためのものである。この光透過パターン層42は、水圧転写された後の被転写体との密着性と、光透過部42bを透過する光で形成する光透過パターンの輪郭部の明瞭性と、さらに水圧転写時の伸展性が求められる。そのため、遮光部42aは、十分な遮光性、密着性、伸展性を備えた遮光性樹脂組成物で形成される。
【0024】
遮光部42aを形成する遮光性樹脂組成物は、樹脂中に顔料を含んで構成されている。遮光性樹脂組成物を構成する樹脂成分は、水圧転写で使用する活性剤で軟化して伸展性と接着性を発現できるものであり、従来の水圧転写シートの印刷層を構成するインクに用いられる樹脂を適用することができ、具体的には、アマニ油、大豆油、合成乾性油等の各種の油脂類;ロジン、硬化ロジン、ロジンエステル、重合ロジン等の天然樹脂;フェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、アルキッド樹脂、石油樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、アミノアルキッド樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂;ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート樹脂、エチルセルロース等の繊維素誘導体;塩化ゴム、環化ゴム等のゴム誘導体;その他カゼイン、デキストリン、ゼイン等を挙げることができるが、短油性アルキッド樹脂、ニトロセルロース、セルロースアセトブチレートなどが好ましい。
【0025】
遮光部42aを形成する遮光性樹脂組成物を構成する顔料は、遮光性を付与する成分であり、公知の遮光性顔料を適用できる。遮光性顔料としては、黒色有機顔料、混色有機顔料又は遮光材などが挙げられる。このうち、黒色有機顔料としては、例えばペリレンブラック、シアニンブラック等が挙げられる。混色有機顔料としては、赤、青、緑、紫、黄色、シアニン、マゼンタ等から選ばれる少なくとも2種以上の顔料を混合して擬似黒色化されたものが挙げられる。遮光材としては、カーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄、チタンブラック、アニリンブラック、シアニンブラックを挙げることができ、2種以上を適宜選択して用いることもできる。これらの遮光性顔料のうち、遮光部42aの遮光性、水圧転写時の伸展性、水圧転写後の装飾層の密着強度をバランスよく実現する観点から、ガーボンブラックであることが好ましい。
【0026】
顔料の配合割合は樹脂100重量部に対して20~40重量部である。顔料の配合割合が20重量部未満であると、遮光部42aにおける十分な遮光性を確保できずに、遮光部42aでも光が透過するようになり、光透過パターンが不明瞭となる不具合が発生し、40重量部を超えると樹脂分が不足するため、遮光部42aが反射層41や被転写体との密着性を確保できなくなる不具合が生じるので、上記の配合割合とすることが重要ある。
【0027】
また、顔料の配合割合を上記範囲とするとともに、遮光部42aの厚みは10~20μmとすることが重要である。これは、遮光部42aの厚みが10μm未満であると遮光部42aの遮光性が不十分となり、遮光部42a側から光が入射したときに遮光部42aと光透過部42bとの光透過性の差が小さくなり、光透過パターンが全体的またはエッジ(輪郭)部が不明瞭になり、遮光部42aの厚みが20μmを超えると水圧転写時の伸展性が低下するためである。
【0028】
この遮光性樹脂組成物を塗布した部分が遮光部42aとなり、遮光性樹脂組成物が塗布されない部分が光透過部42bとなるため、光透過部42bが所望の光透過パターン(光模様)となるように反射層41に遮光性樹脂組成物を塗布し乾燥して光透過パターン層42が形成される。遮光性樹脂組成物の塗布は、スクリーン印刷やインクジェット印刷など公知の方法を適用することができる。なお、光透過部42bに水圧転写可能な透明インクを塗布して、光透過性を確保しつつ遮光部42aとの段差を埋めて平坦化した構成としてもよい。この場合、透明インクは、十分な伸展性と被転写物体や金属層への密着性と有することが好ましい。また、透明インクは着色されていてもよい。
【0029】
また、本発明の水圧転写シートの別の実施形態として、加飾層40は、
図3(a)に示すように、反射層41の水溶性フィルム30側の少なくとも一部に柄層43を積層してもよい。反射層41の水溶性フィルム30側に柄層43が加わることで、水圧転写品の装飾層の意匠が柄層43、反射層41、光透過パターン層42の3つにより複合的に構成されることになり、幅広い意匠表現を実現でき、
図3(b)に示すように反射層41にホログラム等の効果を発現する凹凸を有する場合には、ホログラム等の光学的装飾効果と柄層43の意匠との複合による独特の意匠感が実現される。柄層43は、従来の水圧転写シートで用いられるインクを適用してグラビア印刷等により形成される。また、柄層43は杢目や幾何学柄だけではなくカラークリア層などの光透過性を有する無地(無模様)のものも含む。
【0030】
また本発明の水圧転写シートは、さらに別の実施形態として、
図4(a)のように加飾層40と水溶性フィルム30との間の少なくとも一部に機能性樹脂層50を積層してもよい。
図4(a)では、加飾層40の水溶性フィルム30側の構成層である柄層43に隣接して機能性樹脂層50が積層された例であり、
図4(b)は
図4(a)において反射層41にホログラム等の効果を発現する凹凸を有する構成例である。機能性樹脂層50の作用の具体例として、例えばUV吸収機能をもつ機能性樹脂層を積層することで水圧転写品の装飾層の耐候性を向上させることができ、機能性樹脂層50が導電性を有する場合には、帯電防止作用を付加できる。なお、機能性樹脂層50を構成する樹脂成分は、水圧転写工程において活性剤が塗布されることで伸展できるとともに、加飾層との密着性が得られるものを適用すればよい。
【0031】
次に本発明の水圧転写方法について説明する。
【0032】
本発明の水圧転写方法は、次の工程(A)~(C)を備えており、本発明の上記水圧転写シートを用いて行われる。
工程(A):水圧転写シートの加飾層に活性剤組成物を塗布する工程。
工程(B):本発明の水圧転写シートを、水溶性フィルム側を水面に接触した状態で浮遊させる工程。
工程(C):工程(A)及び(B)を経た水圧転写シート上に光透過性の被転写体を押圧し、水圧によって上記加飾層を被転写体の被転写面に密着させて水圧転写装飾層を形成する工程。
【0033】
本発明の水圧転写方法に用いられる被転写体は、無色または有色の光透過性を有しており、公知の光透過性の素材を適宜選択して適用できる。被転写物品の光透過率は、求める光透過パターンの性状に応じて適宜設定される。
【0034】
本発明の水圧転写方法に用いられる活性剤は、溶剤系、光硬化系、熱光併用硬化系などの従来の水圧転写で使用されている公知の活性剤組成物を用いることができる。例えば、溶剤系活性剤としては、樹脂分と溶剤分と可塑剤分とを必須成分として含む組成物であり、この組成物には、さらに微粒子シリカを含んでいてもよい。
【0035】
この水圧転写方法の具体的な工程について
図5を参照して説明する。工程(A)として、
図5(a)及び(b)に示すように、水圧転写シート20の加飾層40に活性剤60を塗布し、加飾層40中の光透過パターン層42を軟化させるとともに付着性を回復(再現)する。活性剤60の塗布は、塗布量が調整でき均一に塗布できる方法として、例えばロールコーターなど公知の方法を適用できる。次に工程(B)として
図5(c)に示すように、活性剤60が塗布された水圧転写シート20を水溶性フィルム30側から水面Wに接触させた状態で浮遊させて、水面上で水圧転写シート20を水圧転写可能な状態に伸展させる。続いて工程(C)として
図5(d)に示すように、水面Wで伸展した水圧転写シー20に光透過性の被転写体10を水中方向に押し込んで、水圧によって加飾層40を被転写体10の表面に転写して装飾層を形成する。その後、
図5(e)に示すように、水圧転写品100の装飾層の表面に残存する水溶性フィルム30を、シャワー等の洗浄手段Sによって水洗いして除去し、更に、
図5(f)に示すように、装飾層を熱風などの乾燥手段Hによって乾燥して、水圧転写品100を得る。更に必要に応じて、装飾層を保護するためにトップコート加工を施してもよい。トップコート材としては、例えば、光透過性を有する紫外線硬化性塗料を適用できる。
【0036】
図5の水圧転写方法の実施形態では、水圧転写シート20に活性剤60を塗布する工程(A)の後に水面に浮遊させる工程(B)を行っているが、
図6に示す別の実施形態として、
図6(a)及び(b)に示すように水面に水圧転写シート20を浮遊させた工程(B)を実行した後、
図6(c)に示すように工程(A)としてスプレー塗布などの方法で水圧転写シート20の加飾層40に活性剤60を塗布してもよい。この場合、活性剤60の塗布は、水圧転写シート20の水溶性フィルム30が着水後に膨潤を開始したタイミングで行われることが好ましい。続いて実行される
図6(d)に示す工程(C)並びに
図6(e)及び(f)に示す洗浄、乾燥工程は、
図5に示す実施形態と同じ内容なので説明を省略する。
【0037】
本発明の水圧転写方法で得られる水圧転写品は、
図7(a)に例示するように、光透過性の被転写体10の表面に装飾層70を備え、装飾層70は被転写体10側から順に光透過パターン層72、反射層71が積層された構造となっている。また、
図2(b)の水圧転写シート20を用いて水圧転写することで、
図7(b)に示すような表面に凹凸を有する反射層71を備えた装飾層70が形成され、ホログラム等の光学的な意匠が付加される。また、
図3(a)の水圧転写シート20を用いて水圧転写することで、
図7(c)に示すように反射層71の表面に柄層73が形成された構造の装飾層700を備えた水圧転写品100となり、反射層71と柄層73との複合的な意匠が実現される。さらに、
図4(a)の水圧転写シート20を用いて水圧転写することで、
図7(d)に示すように柄層73上に機能性樹脂層80が形成された構成の装飾層701を備えた水圧転写品100となる。
【0038】
本発明の水圧転写方法で得られた水圧転写品は、例えば
図8に示すような水圧転写品100の被転写体10側に光源90が配置された構成において、
図8(a)に示したように、光源90が消灯した状態では、装飾層70の表面に入射した光が反射層71で反射されることで反射層71を第1の意匠形態として視認する。一方、
図8(b)に示したように、光源90が点灯した状態では、光源90から光透過パターン層72に照射された光が遮光部72aで遮光された状態で光透過部72bを通過することで形成される光透過パターン(光模様)が反射層71を透過し、反射層71と光透過パターンとが複合された第2の意匠形態として視認されるため、光源90の点灯、消灯の切り替えによって意匠を変化させることができる。
【実施例0039】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に特に限定されるものではない。
【0040】
以下の実施例及び比較例における評価項目及び評価方法は、下記の通りである。
【0041】
(1)水圧転写シートの加工性(伸展性)
伸展する方向(後述するX方向)の幅が630mmの水圧転写シートを、水槽内に一対のガイドチェーンを備え、この一対のガイドチェーン間を伸展有効幅750mmとする水圧転写槽水面の略中央に着水させた直後に、水圧転写シートの加飾層に活性剤を塗布し、その時点から水圧転写シートが伸展して一対のガイドチェーンのいずれか一方に到達するまでの時間を伸展時間として、ストップウォッチで計測した。伸展時間が90秒以内であれば合格(〇)、90秒を超えた場合は不合格(×)とした。
【0042】
(2)装飾層の密着性
水圧転写品の装飾層に対して、セロテープ(登録商標)(ニチバン製)を用いて、クロスカット試験(旧JIS K5400-8.5準拠)を実施し、装飾層の剥離状態を観察して密着性を評価した。装飾層の剥がれが全くない場合を合格(〇)、装飾層の剥がれがある場合を不合格(×)とした。
【0043】
(3)光透過パターン層における遮光部の遮光性
暗室(シンプル卓上暗室BBX-01,アズワン株式会社)内において、
図9(a)に示すように、底面に面状光源90を備え、面状光源の発光面から垂直方向に150mmの位置に面状光源90の光を通過させるための開口部を有した試料取付部95bを備えた直方形状の遮光性コンテナ95aとからなる遮光性評価装置を作製し、その試料取付部95bに試験体である水圧転写品を被転写体側を開口部に向けて取付け、
図9(b)に示すように面状光源90を点灯して水圧転写品の被転写体側から光を照射した状態で、水圧転写品の装飾層を真上から目視観察し、光透過部の光透過パターン(光模様)が明瞭に見える場合を合格(〇)、光透過部の光透過パターン以外の部分(遮光部)が少しでも光を透過している状態が視認される場合を不合格(×)とした。なお、面状光源として白色LED式のLED面発光ライト(Unigear社製 LEDトレース大、A4サイズ、出力1.8W、厚さ5mm)を用い、三段階の照度設定における最も明るい設定で点灯した。
【0044】
[実施例1]
水溶性フィルムとしてポリビニルアルコール(PVA)フィルム(日本合成化学工業社製 ハイセロンC-300;伸展倍率がX方向1.4倍、X方向と直行するY方向1.1倍)の片側全面に、蒸着装置を用いて30nmの厚みでアルミニウム蒸着膜からなる反射層を形成した。次いで、反射層の表面全体に遮光性樹脂組成物を用いてスクリーン印刷によって
図10に示した格子柄からなる厚さ15μmの遮光部を形成し、格子柄の光透過部を有する光透過パターン層を形成して構成(A)とした、実施例1の水圧転写シートを得た。なお、遮光部の格子柄を構成する格子サイズは、伸展倍率が1.4倍のX方向の辺長が7mm、伸展倍率が1.1倍の方向の辺長が9mmであり、水圧転写後に約10mm×約10mmの格子からなる格子柄を形成するように設定した。遮光性樹脂組成物は、ニトロセルロースを樹脂成分とするグラビアインク(東洋インキ社製PCNTインク)にカーボンブラック顔料(東洋カラー社製 OP-1440Aブラック)を樹脂成分100重量部に対して30重量部を添加し、攪拌脱泡装置((株)シンキー社製 泡取り錬太郎ARV-310)を用いて均一分散したものを用いた。得られた水圧転写シートは上記の評価項目(1)について評価した。次に実施例1の水圧転写シートを用いて、
図6に示す水圧転写方法によって光透過性を有する無色のポリカーボネート樹脂製の平板形状の被転写体(友成機工社製 サイズ:200mm×100mm×厚さ3mm)に水圧転写を行い、水溶性フィルムを水洗除去後、乾燥して、装飾層が形成された実施例1の水圧転写品を得た。活性剤は、大橋化学株式会社製のCPA-H DMP(溶剤系)を使用し、水圧転写シートが水圧転写槽内の水面に着水後直ぐに12g/m
2の噴霧量条件にてスプレー装置で噴霧塗工した。得られた実施例1の水圧転写品について、上記の評価項目(2)及び(3)について評価した。
【0045】
[実施例2]
実施例1において、遮光性樹脂組成物に含まれるカーボンブラック顔料の配合割合を樹脂成分100重量部に対して20重量部に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2の水圧転写シートを得て、上記の評価項目(1)について評価した。次に実施例2の水圧転写シートを用いて実施例1と同様にして水圧転写品を得て、上記の評価項目(2)及び(3)について評価した。
【0046】
[実施例3]
実施例1において、遮光性樹脂組成物に含まれるカーボンブラック顔料の配合割合を樹脂成分100重量部に対して40重量部に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例3の水圧転写シートを得て、上記の評価項目(1)について評価した。次に実施例3の水圧転写シートを用いて実施例1と同様にして水圧転写品を得て、上記の評価項目(2)及び(3)について評価した。
【0047】
[実施例4]
実施例1において、光透過パターン層の遮光部の厚みを10μmに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例4の水圧転写シートを得て、上記の評価項目(1)について評価した。次に実施例4の水圧転写シートを用いて実施例1と同様にして水圧転写品を得て、上記の評価項目(2)及び(3)について評価した。
【0048】
[実施例5]
実施例1において、光透過パターン層の遮光部の厚みを20μmに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例5の水圧転写シートを得て、上記の評価項目(1)について評価した。次に実施例5の水圧転写シートを用いて実施例1と同様にして水圧転写品を得て、上記の評価項目(2)及び(3)について評価した。
【0049】
[実施例6]
実施例1において、水溶性フィルムとしてハイセロンC-300に代えて、柄層が形成された水溶性フィルムにとして、本出願人である株式会社タイカがライセンス先に供給している、PVAフィルムに木目模様の柄層を形成した「BLACK SHELL」(株式会社タイカの商品名)とし、柄層に反射層、光透過性パターン層の順に実施例1と同様にして形成して、水溶性フィルムと反射層の間にインキによる柄層を設けた構成(B)とした実施例6の水圧転写シートを得て、上記の評価項目(1)について評価した。次に実施例6の水圧転写シートを用いて実施例1と同様にして水圧転写品を得て、上記の評価項目(2)及び(3)について評価した。
【0050】
[実施例7]
実施例1において、反射層に凹凸を付与してホログラムパターンを設けた構成(C)に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例7の水圧転写シートを得て、上記の評価項目(1)について評価した。次に実施例7の水圧転写シートを用いて実施例1と同様にして水圧転写品を得て、上記の評価項目(2)及び(3)について評価した。
【0051】
実施例1~5の水圧転写シート及びそれを用いた水圧転写法で得られた水圧転写品の評価結果を表1に、実施例6及び実施例7の同評価結果を表2に示した。
【0052】
【0053】
【0054】
[比較例1]
実施例1において、遮光性樹脂組成物に含まれるカーボンブラック顔料の配合割合を樹脂成分100重量部に対して10重量部に変更した以外は実施例1と同様にして、比較例1の水圧転写シートを得て、上記の評価項目(1)について評価した。次に比較例1の水圧転写シートを用いて実施例1と同様にして水圧転写品を得て、上記の評価項目(2)及び(3)について評価した。
【0055】
[比較例2]
実施例1において、遮光性樹脂組成物に含まれるカーボンブラック顔料の配合割合を樹脂成分100重量部に対して50重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例2の水圧転写シートを得て、上記の評価項目(1)について評価した。次に比較例2の水圧転写シートを用いて実施例1と同様にして水圧転写品を得て、上記の評価項目(2)及び(3)について評価した。
【0056】
[比較例3]
実施例1において、光透過パターン層の遮光部の厚みを5μmに変更した以外は実施例1と同様にして、比較例3の水圧転写シートを得て、上記の評価項目(1)について評価した。次に比較例3の水圧転写シートを用いて実施例1と同様にして水圧転写品を得て、上記の評価項目(2)及び(3)について評価した。
【0057】
[比較例4]
実施例1において、光透過パターン層の遮光部の厚みを30μmに変更した以外は実施例1と同様にして、比較例4の水圧転写シートを得て、上記の評価項目(1)について評価した。次に比較例4の水圧転写シートを用いて実施例1と同様にして水圧転写品を得て、上記の評価項目(2)及び(3)について評価した。
【0058】
比較例1~4の水圧転写シート及びそれを用いた水圧転写法で得られた水圧転写品の評価結果を表3に示した。
【0059】
【0060】
本発明の構成を備える実施例1~7の水圧転写シートは、水圧転写工程における伸展性に優れ、その水圧転写シートを用いた水圧転写方法で得られた水圧転写品は、いずれも装飾層の密着性に優れることが分かった。また、光透過パターン層の遮光部の遮光性にも優れるため、水圧転写品に被転写体側から光を照射したときに鮮明な光透過パターンが得られることが分かった。また、表1には示していないが、実施例1~7の水圧転写不シートを用いて得られた水圧転写品のいずれにおいても、被転写体側から光源を消灯した状態では光透過パターン層は視認されず、光源を点灯した状態では光透過パターンが視認され、光透過パターンと反射層との複合された意匠、または光透過パターンと柄層と反射層とが複合された意匠として視認された。
【0061】
一方、比較例1~4の水圧転写シートの評価結果から、本発明の構成が1つでも条件が満たされないと本発明の効果が得られないことが分かった。具体的には比較例1の水圧転写シートのように、光透過パターン層の遮光部を構成する遮光性樹脂組成物に含まれる顔料の配合割合が樹脂成分100重量部に対して20重量部(下限)未満になると、水圧転写品の装飾層を構成する光透過パターン層の遮光部の遮光性が不十分となり、明瞭な光透過パターン(光模様)が得られなくなり、比較例2の水圧転写シートのように、顔料の配合割合が樹脂成分100重量部に対して40重量部(上限)を超えると、装飾層の光透過パターン層と被転写体との密着性が悪くなることが分かった。また比較例3の水圧転写シートのように、光透過パターン層の遮光部の厚みが10μm(下限)未満になると遮光部の遮光性が不十分になり、明瞭な光透過パターン(光模様)が得られなくなり、比較例4の水圧転写シートのように光透過パターン層の遮光部の厚みが20μm(上限)を超えると、水圧転写加工における水圧転写シートの伸展性が乏しく、良好な装飾層が得られないことが分かった。
【0062】
また実施例6の水圧転写シートの評価結果から、水圧転写シートが水溶性フィルムと反射層の間に柄層を設けた構成であっても本発明の効果が得られ、被転写体側から光を照射したときに、反射層と柄層と光透過パターンとの複合的な意匠が得られることが分かった。
【0063】
また、実施例7の水圧転写シートの評価結果から、水圧転写シートが反射層に凹凸を有してホログラムパターンが形成された構成であっても本発明の効果が得られ、被転写体側から光を照射したときに、反射層のホログラム作用と光透過パターンとの複合的な意匠が得られることが分かった。
本発明の水圧転写シートを用いた水圧転写方法によって得られる水圧転写品は、被転写体側に配置された光源の点灯と消灯の切り替えによって意匠が変化する表示装置の加飾部品として、例えば乗物の内装品や照明装置、家電などの装飾に対して有用である。