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特開2022-28230樹脂シート及びこれを用いた回路基板材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028230
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】樹脂シート及びこれを用いた回路基板材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/02 20060101AFI20220208BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220208BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220208BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L101/00
C08J5/18 CEQ
H05K1/03 610J
H05K1/03 630H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020131527
(22)【出願日】2020-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】早川 裕子
(72)【発明者】
【氏名】佐野 二朗
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA12X
4F071AA19X
4F071AA75X
4F071AA78X
4F071AA82X
4F071AA84X
4F071AA88X
4F071AF14
4F071AF20Y
4F071AF30
4F071AF40Y
4F071AH13
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4J002AA012
4J002AC032
4J002AC062
4J002AC072
4J002AC082
4J002BB032
4J002BB122
4J002BB152
4J002BB182
4J002BP011
4J002GF00
4J002GP00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】低誘電特性を有し、かつ耐屈曲性を有する樹脂シート、及びこれを用いた回路基板材料を提供する。
【解決手段】結晶融解ピーク温度が100℃未満である環状ポリオレフィン樹脂共重合体と、エチレン系重合体、オレフィン系熱可塑性エラストマー及びスチレン系熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂とを含有し、12GHzにおける誘電正接が0.005未満であり、24℃における貯蔵弾性率が2000MPa未満である樹脂シートを用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶融解ピーク温度が100℃未満である環状ポリオレフィン樹脂共重合体と、エチレン系重合体、オレフィン系熱可塑性エラストマー及びスチレン系熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂とを含有し、12GHzにおける誘電正接が0.005未満であり、24℃における貯蔵弾性率が2000MPa未満である樹脂シート。
【請求項2】
前記環状ポリオレフィン樹脂共重合体が、ポリオレフィンの側鎖にシクロヘキサンを有する、請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項3】
前記環状ポリオレフィン樹脂共重合体が、少なくとも1種の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位及び少なくとも1種の水素化共役ジエンポリマーブロック単位を含む樹脂共重合体、又はこの樹脂共重合体の不飽和カルボン酸及び/若しくはその無水物による変性体である、請求項1又は2に記載の樹脂シート。
【請求項4】
前記環状ポリオレフィン樹脂共重合体が、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個含む樹脂共重合体である、請求項3に記載の樹脂シート。
【請求項5】
前記環状ポリオレフィン樹脂共重合体が、スチレンとブタジエンの水素化トリブロック若しくは水素化ペンタブロックコポリマー、又はこれらの不飽和カルボン酸及び/若しくはその無水物による変性体である、請求項3又は4に記載の樹脂シート。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂を5~50質量%含有する請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項7】
前記環状ポリオレフィン樹脂共重合体の誘電正接が、12GHzにおいて0.005未満である請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂の24℃における貯蔵弾性率が500MPa未満である請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂シートからなる絶縁層と、導体とを積層してなる回路基板材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低誘電特性及び耐屈曲性に優れた樹脂シート、及びこれを用いた回路基板材料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気・電子機器に使用される回路基板材料としては、銅張積層板(CCL)と言われる、紙やガラス等の基材に樹脂を含浸させたシート(プリプレグ)を重ね、加圧加熱処理して得た絶縁板の表面に銅箔を施したものや、フレキシブルプリント基板(FPC)と言われる、ベースフィルムの上に絶縁接着層を形成してその上に銅等の導体箔を張り合わせたものが主に使われる。
【0003】
近年、電気・電子機器において情報伝達量、速度の向上のため、通信周波数の高周波化が進んでおり、その中で、伝送損失(α)の増大が大きな課題となっている。この伝送損失(α)の値が低いほど、情報信号の減衰が少なく、通信の高い信頼性が確保できることを意味する。
伝送損失(α)は周波数(f)に比例するため、高周波数領域での通信ではαが大きくなり、信頼性の低下につながる。伝送損失(α)を抑える手法として、周波数(f)と同じく、αが比例する誘電正接(tanδ)を低減する方法が挙げられる。通信信号の高速伝送のためには、誘電正接(tanδ)の低い材料、即ち、低誘電特性を有する材料が求められている。
【0004】
低誘電特性を有する材料として、例えば、特許文献1には、特定の構造を有するポリイミドと、特定の構造を有するビスイミド系化合物とを有する低誘電樹脂組成物及び積層板、金属張積層板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-006437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような材料をフレキシブルプリント基板(FPC)などの用途で用いる場合、シートを撓ませても割れないように柔軟性や耐屈曲性が要求される。また、シート製膜時にロール状に巻き取り、ロールの状態で保管・輸送する工程においてシートの破断やクラックを防ぐためにも、耐屈曲性があることが好ましい。
【0007】
そこで、本発明の目的は、低誘電特性を有し、かつ耐屈曲性を有する樹脂シート、及びこれを用いた回路基板材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、環状ポリオレフィン樹脂共重合体に熱可塑性樹脂を配合することで、低誘電特性を維持したままで耐屈曲性を有するシートを作製でき、上記課題を解決し得ることを見出した。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0009】
[1]結晶融解ピーク温度が100℃未満である環状ポリオレフィン樹脂共重合体と、エチレン系重合体、オレフィン系熱可塑性エラストマー及びスチレン系熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂とを含有し、12GHzにおける誘電正接が0.005未満であり、24℃における貯蔵弾性率が2000MPa未満である樹脂シート。
[2]前記環状ポリオレフィン樹脂共重合体が、ポリオレフィンの側鎖にシクロヘキサンを有する、[1]に記載の樹脂シート。
【0010】
[3]前記環状ポリオレフィン樹脂共重合体が、少なくとも1種の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位及び少なくとも1種の水素化共役ジエンポリマーブロック単位を含む樹脂共重合体、又はこの樹脂共重合体の不飽和カルボン酸及び/若しくはその無水物による変性体である、[1]又は[2]に記載の樹脂シート。
[4]前記環状ポリオレフィン樹脂共重合体が、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個含む樹脂共重合体である、[3]に記載の樹脂シート。
[5]前記環状ポリオレフィン樹脂共重合体が、スチレンとブタジエンの水素化トリブロック若しくは水素化ペンタブロックコポリマー、又はこれらの不飽和カルボン酸及び/若しくはその無水物による変性体である、[3]又は[4]に記載の樹脂シート。
【0011】
[6]前記熱可塑性樹脂を5~50質量%含有する[1]~[5]のいずれか1項に記載の樹脂シート。
[7]前記環状ポリオレフィン樹脂共重合体の誘電正接が、12GHzにおいて0.005未満である[1]~[6]のいずれか1項に記載の樹脂シート。
[8]前記熱可塑性樹脂の24℃における貯蔵弾性率が500MPa未満である[1]~[7]のいずれか1項に記載の樹脂シート。
[9][1]~[8]のいずれか1項に記載の樹脂シートからなる絶縁層と、導体とを積層してなる回路基板材料。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低誘電特性を有し、かつ耐屈曲性を有する樹脂シート、及びこれを用いた回路基板材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
以下において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0014】
<<樹脂シート>>
本発明の樹脂シートは、結晶融解ピーク温度が100℃未満である環状ポリオレフィン樹脂共重合体と、エチレン系重合体、オレフィン系熱可塑性エラストマー及びスチレン系熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂とを含有する。
【0015】
本発明の環状ポリオレフィン樹脂共重合体は、結晶融解ピークをもたない従来の環状ポリオレフィンとは異なり、耐屈曲性が悪い場合があった。すなわち、この耐屈曲性という課題は、結晶融解ピーク温度が100℃未満である環状ポリオレフィン樹脂共重合体を用いる場合ならではの課題である。
本発明者らは、熱可塑性樹脂を種々検討し、環状ポリオレフィン樹脂共重合体の低誘電特性を維持したままで耐屈曲性を改善できることを見出した。
【0016】
<環状ポリオレフィン樹脂共重合体>
本発明の環状ポリオレフィン樹脂共重合体における「環状」とは、環状ポリオレフィン樹脂共重合体が有する脂環式構造、具体的には、ポリオレフィンの側鎖に有する脂環式構造のことをいう。当該脂環式構造の好適な例としては、シクロアルカン、ビシクロアルカン、多環式化合物等が挙げられ、なかでもシクロアルカンが好ましく、シクロヘキサンがより好ましい。
また、当該脂環式構造は、後述する水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が有する、芳香族環の水素化により生じる脂環式構造であることがより好ましい。
【0017】
(環状ポリオレフィン樹脂共重合体の物性)
本発明の環状ポリオレフィン樹脂共重合体は、結晶融解ピーク温度が100℃未満である。
環状ポリオレフィン樹脂共重合体の結晶融解ピーク温度は、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、65℃以上がさらに好ましい。また、結晶融解ピーク温度は、90℃以下が好ましく、85℃以下がより好ましい。
なお、本発明における結晶融解ピーク温度とは、加熱速度10℃/分で測定される示差走査熱量測定(DSC)において、結晶融解ピークが検出されたときの温度である。
【0018】
本発明の環状ポリオレフィン樹脂共重合体の誘電正接は、12GHzにおいて0.005未満であることが好ましく、0.001未満であることがより好ましい。誘電正接が小さければ小さいほど誘電損失も小さくなるので、回路基板材料とした際の電気信号の伝達効率、高速化が得られるために好ましい。誘電正接の下限は特に限定されず、0以上であればよい。
【0019】
本発明の環状ポリオレフィン樹脂共重合体のメルトフローレート(MFR)は特に限定されないが、通常0.1g/10分以上であり、成形方法や成形体の外観の観点から、好ましくは0.5g/10分以上である。また通常20.0g/10分以下であり、材料強度の観点から、好ましくは10.0g/10分以下、より好ましくは5.0g/10分以下である。MFRを上記範囲内にすることによって、後述する熱可塑性樹脂との相溶性が良好となる。
MFRは、ISO R1133に従って、測定温度230℃、測定荷重2.16kgの条件で測定することで求められる。
【0020】
<環状ポリオレフィン(a)>
本発明の環状ポリオレフィン樹脂共重合体としては、低誘電特性の観点から、少なくとも1種の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位及び少なくとも1種の水素化共役ジエンポリマーブロック単位を含む環状ポリオレフィン(以下、「環状ポリオレフィン(a)」ともいう)、又は当該環状ポリオレフィン(a)の不飽和カルボン酸及び/若しくはその無水物による変性体(以下、「変性環状ポリオレフィン(a’)」ともいう)が好ましい。
【0021】
本発明において「ブロック」とは、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ相分離を表すコポリマーの重合セグメントをいう。ミクロ相分離は、ブロックコポリマー中で重合セグメントが混じり合わないことにより生ずる。
なお、ミクロ相分離とブロックコポリマーは、PHYSICS TODAYの1999年2月号32-38頁の“Block Copolymers-Designer Soft Materials”で広範に議論されている。
【0022】
環状ポリオレフィン(a)は、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(以下「ブロックA」ともいう)及び水素化共役ジエンポリマーブロック単位(以下「ブロックB」ともいう)からなるジブロックコポリマー、ブロックA及びブロックBの少なくとも一方を2以上含むトリブロックコポリマー、テトラブロックコポリマー、ペンタブロックコポリマー等が挙げられる。
環状ポリオレフィン(a)は、ブロックAを少なくとも2個含むことが好ましく、例えば、A-B-A型、A-B-A-B型、A-B-A-B-A型などが好適に挙げられる。
【0023】
また、環状ポリオレフィン(a)はそれぞれの末端に芳香族ビニルポリマーからなるセグメントを含むことが好ましい。このため、本発明の水素化ブロックコポリマーは、少なくとも2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(ブロックA)を有し、この2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(ブロックA)の間には、少なくとも1つの水素化共役ジエンポリマーブロック単位(ブロックB)を有することが好ましい。これらの観点から、環状ポリオレフィン(a)は、A-B-A型又はA-B-A-B-A型がより好ましい。
【0024】
環状ポリオレフィン(a)における水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(ブロックA)の含有率は、好ましくは30 ~99モル%、より好ましくは40~90モル%である。なかでも、さらに好ましくは50モル%以上、よりさらに好ましくは60モル%以上である。
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(ブロックA)の比率が上記下限以上であれば剛性が低下することがなく、耐熱性も良好となる。一方、上記上限以下であれば柔軟性が良好となる。
【0025】
また、環状ポリオレフィン(a)における水素化共役ジエンポリマーブロック単位(ブロックB)の含有率は、好ましくは1~70モル%、より好ましくは10~60モル%である。なかでも、さらに好ましくは50モル%以下、よりさらに好ましくは40モル%以下である。
水素化共役ジエンポリマーブロック単位(ブロックB)の比率が上記下限以上であれば柔軟性が良好となる。一方、上記上限以下であれば剛性が低下することがなく、耐熱性も良好となる。
【0026】
環状ポリオレフィン(a)を構成する水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位及び水素化共役ジエンポリマーブロック単位はそれぞれ、後に詳述する芳香族ビニルモノマー及び1,3-ブタジエンなどの共役ジエンモノマーから構成されるポリマーブロックを水素化することで得ることができる。
また、環状ポリオレフィン(a)は官能基のないブロックコポリマーであることが好ましい。「官能基のない」とはブロックコポリマー中に如何なる官能基、即ち、炭素原子と水素原子以外の原子を含む基が存在しないことを意味する。
【0027】
以下、水素化する前の芳香族ビニルポリマーブロック単位及び共役ジエンポリマーブロック単位を形成するためのモノマーについて説明する。
【0028】
(芳香族ビニルモノマー)
水素化前の芳香族ビニルポリマーブロック単位の原料となる芳香族ビニルモノマーは、一般式(1)で示されるモノマーである。
【0029】
【化1】
【0030】
上記一般式(1)において、Rは水素又はアルキル基であり、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基又はアントラセニル基である。
【0031】
前記Rがアルキル基である場合、炭素数は好ましくは1~6であり、該アルキル基はハロ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基及びカルボキシル基のような官能基で単置換若しくは多重置換されていてもよい。
また、前記Arは、フェニル基又はアルキルフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0032】
芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン(全ての異性体を含み、特にp-ビニルトルエンが好ましい)、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン(全ての異性体を含む)、及びこれらの混合物が挙げられ、なかでも、スチレンが好ましい。
【0033】
(共役ジエンモノマー)
水素化前の共役ジエンポリマーブロック単位の原料となる共役ジエンモノマーは、2個の共役二重結合を持つモノマーであればよく、特に限定されるものではない。
共役ジエンモノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2-メチル-1,3-ペンタジエンとその類似化合物、及びこれらの混合物が挙げられ、なかでも、1,3-ブタジエンが好ましい。
【0034】
なお、共役ジエンモノマーとして1,3-ブタジエンを用いる場合、その重合体であるポリブタジエンは、1,4-結合単位([-CH-CH=CH-CH-])と1,2-結合単位([-CH-CH(CH=CH)-])とが存在するため、水素化により、前者はポリエチレンの繰り返し単位と同様の構造(エチレン構造)を与え、後者は1-ブテンを重合した際の繰り返し単位と同様の構造(1-ブテン構造)を与える。したがって、本発明に係る水素化共役ジエンポリマーブロック単位は、エチレン構造及び1-ブテン構造の少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。
また、共役ジエンモノマーとしてイソプレンを用いる場合、その重合体であるポリイソプレンは、1,4-結合単位([-CH-C(CH)=CH-CH-])、3,4-結合単位([-CH-CH(C(CH)=CH)-])及び1,2-結合単位([-CH-C(CH)(CH=CH)-])が存在し、水素化により得られる3種の繰り返し単位の少なくともいずれかを含むものとなる。
【0035】
(ブロック構造)
環状ポリオレフィン(a)はSBS、SBSB、SBSBS、SBSBSB、SIS、SISIS、及びSISBS(ここで、Sはポリスチレン、Bはポリブタジエン、Iはポリイソプレンを意味する。)のようなトリブロックコポリマー、テトラブロックコポリマー、ペンタブロックコポリマー等のマルチブロックコポリマーの水素化によって製造されることが好ましい。ブロックは、線状ブロックでもよく、分岐していてもよい。分岐している場合の重合連鎖はコポリマーの骨格に沿ってどの位置に結合していてもよい。また、ブロックは、線状ブロックのほかに、テーパーブロック、又はスターブロックであってもよい。
【0036】
環状ポリオレフィン(a)を構成する水素化前のブロックコポリマーは、芳香族ビニルポリマーブロック単位及び共役ジエンポリマーブロック単位以外の1又は複数の追加ブロック単位を含んでいてもよく、例えばトリブロックコポリマーの場合には、これらの追加ブロック単位はトリブロックポリマー骨格のどの位置に結合していてもよい。
【0037】
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリスチレンを挙げることができ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリブタジエン又は水素化ポリイソプレンを挙げることができ、水素化ポリブタジエンがより好ましい。
そして、環状ポリオレフィン(a)の好ましい一態様としては、スチレンとブタジエンの水素化トリブロック又は水素化ペンタブロックコポリマーを挙げることができ、他の如何なる官能基又は構造的変性剤も含まないことが好ましい。
【0038】
(水素化レベル)
環状ポリオレフィン(a)は、ブタジエンなどの共役ジエンに由来する二重結合に加えて、スチレンなどに由来する芳香族環も水素化されるものであり、実質的に完全に水素化されている。具体的には、以下に示す水素化レベルを達成しているものをいう。
すなわち、環状ポリオレフィン(a)の水素化レベルは、好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上;より好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が95%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99%以上;更に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が98%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上;特に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が99.5%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上である。
このように高レベルの水素化をすることによって、誘電損失を低減することができる。
なお、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルとは、芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示し、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルとは、共役ジエンポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示す。
なお、各ブロック単位の水素化レベルは、プロトンNMRを用いて決定される。
【0039】
環状ポリオレフィン(a)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の環状ポリオレフィン(a)としては、市販のものを用いることができ、具体的には三菱ケミカル(株)製:テファブロック(商標登録)が挙げられる。
【0040】
<変性環状ポリオレフィン(a’)>
本発明の環状ポリオレフィン樹脂共重合体として、変性された変性環状ポリオレフィン(a’)を用いてもよい。変性環状ポリオレフィン(a’)は、前述した環状ポリオレフィン(a)の、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物による変性体である。
環状ポリオレフィン(a)を変性することによりポリマーの極性が大きくなるので、銅箔等の金属層との接着性向上が期待できる。
【0041】
(環状ポリオレフィン(a)の変性操作)
以下、環状ポリオレフィン(a)の変性操作について説明する。この変性操作は、環状ポリオレフィン(a)に、変性剤として不飽和カルボン酸及び/又はその無水物を添加して反応させることによって行われることが好ましい。
【0042】
[変性剤]
前記変性剤としての不飽和カルボン酸及び/又はその無水物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸類等の不飽和カルボン酸、及びこれらの無水物が挙げられる。
また、酸無水物としては、具体的には、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸類が挙げられる。
なお、ナジック酸類又はその無水物としては、エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2,3-ジカルボン酸(ナジック酸)、メチル-エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸(メチルナジック酸)等及びその無水物が挙げられる。
【0043】
これらの不飽和カルボン酸及び/又はその無水物の中では、アクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、無水マレイン酸、無水ナジック酸が好ましい。
不飽和カルボン酸及び/又はその無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
[変性方法]
上記環状ポリオレフィン(a)を上記の不飽和カルボン酸及び/又はその無水物で変性することにより、変性環状ポリオレフィン(a’)を得ることができる。変性の方法としては、溶液変性、溶融変性、電子線や電離放射線の照射による固相変性、超臨界流体中での変性等が好適に用いられる。
中でも設備やコスト競争力に優れた溶融変性が好ましく、連続生産性に優れた押出機を用いた溶融混練変性がより好ましい。
このとき用いられる装置としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサーが挙げられる。中でも連続生産性に優れた単軸押出機、二軸押出機が好ましい。
【0045】
一般に、環状ポリオレフィン(a)への不飽和カルボン酸及び/又はその無水物による変性は、環状ポリオレフィン(a)を構成するブロック単位の1つである水素化共役ジエンポリマーブロック単位の炭素-水素結合を開裂させて炭素ラジカルを発生させ、これに不飽和官能基が付加するというグラフト反応によって行われる。
炭素ラジカルの発生源としては、上述した電子線や電離放射線の他、高温度とする方法や、有機過酸化物、無機過酸化物、アゾ化合物等のラジカル発生剤を用いることもできる。ラジカル発生剤としては、コストや操作性の観点から有機過酸化物を用いることが好ましい。
【0046】
上記アゾ化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジアゾニトロフェノールが挙げられる。
上記無機過酸化物としては、例えば、過酸化水素、過酸化カリウム、過酸化ナトリウム、過酸化カルシウム、過酸化マグネシウム、過酸化バリウムが挙げられる。
【0047】
上記有機過酸化物としては、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル及びケトンパーオキサイド群に含まれるものが挙げられる。
具体的には、キュメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;ジクミルパーオキサイド、ジt-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等のジアルキルパーオキサイド;ラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエイト、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシエステル;シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイドが挙げられる。
これらのラジカル発生剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
[溶融混練変性]
一般的に用いられる溶融混練変性の操作は、環状ポリオレフィン(a)、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物、有機過酸化物を配合し、混練機、押出機に投入し、加熱溶融混練しながら押出を行ない、先端ダイスから出てくる溶融樹脂を水槽等で冷却して変性環状ポリオレフィン(a’)を得るものである。
【0049】
環状ポリオレフィン(a)と不飽和カルボン酸及び/又はその無水物との配合比率は、環状ポリオレフィン(a)100質量部に対し、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物が0.2~5質量部である。
環状ポリオレフィン(a)に対する不飽和カルボン酸及び/又はその無水物の配合比率が上記下限以上であれば、本発明の効果を奏するために必要な所定の変性率が得られる。また、上記上限以下であれば、未反応の不飽和カルボン酸及び/又はその無水物が残留することがなく、誘電特性としても好ましい。
【0050】
上記不飽和カルボン酸及び/又はその無水物と上記有機過酸化物との配合比率は、上記不飽和カルボン酸及び/又はその無水物100質量部に対し、上記有機過酸化物が20~100質量部である。
上記不飽和カルボン酸及び/又はその無水物に対する上記有機過酸化物の配合比率が上記下限以上であれば、本発明の効果を奏するために必要な所定の変性率が得られる。また、上記上限以下であれば、環状ポリオレフィン(a)の劣化が生じず、色相が悪化することがない。
【0051】
また溶融混練変性条件としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機においては150~300℃の温度にて押出すことが好ましい。
【0052】
[変性率]
上記不飽和カルボン酸及び/又はその無水物による変性環状ポリオレフィン(a’)の変性率は0.1~2質量%が好ましい。
変性率が上記下限以上であれば、ポリマーの極性が大きくなり、銅箔等の金属層との接着性が向上するので好ましい。また、上記上限以下であれば、環状ポリオレフィン(a)の誘電損失の悪化を防止できる。また、臭気の発生や色の悪化も防ぐことができる。
上記変性環状ポリオレフィン(a’)の変性率は、上記変性環状ポリオレフィン(a’)をメチルエステル化処理した後、プロトンNMRにて測定することができる。
【0053】
<熱可塑性樹脂>
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、エチレン系重合体、オレフィン系熱可塑性エラストマー及びスチレン系熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
熱可塑性樹脂を配合することによって、樹脂シートの耐屈曲性を良好にすることができる。
また、これらの熱可塑性樹脂は、環状ポリオレフィン樹脂共重合体との相溶性が良好であるため、得られる樹脂シートの透明性も良好となる。
【0054】
前記エチレン系重合体としては、エチレンの単独重合体、及びエチレンと他の単量体との共重合体が挙げられる。
前記エチレンと他の単量体との共重合体は、エチレンを主成分とすることが好ましい。ここで、「エチレンを主成分とする」とは、共重合体中にエチレン構造単位を50mol%以上、好ましくは60mol%以上含有することをいう。
また、エチレンと共重合する他の単量体は、エチレンと共重合可能な単量体であれば特に限定されない。
前記エチレン系重合体の好ましい例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、メタロセン系触媒を用い重合して得られたポリエチレン等が挙げられる。その中でも特に、柔軟性が高い点から、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いることが好ましい。
【0055】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとしてポリオレフィンを含み、ソフトセグメントとしてゴム成分を含む。
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーは、前記ポリオレフィンと前記ゴム成分との混合物(ポリマーブレンド)であってもよく、前記ポリオレフィンと前記ゴム成分とを架橋反応させた架橋物であってもよく、前記ポリオレフィンと前記ゴム成分とを重合させた重合体であってもよい。
前記ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。
前記ゴム成分としては、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、プロピレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-イソプレンゴム等のジエン系ゴム、エチレン-プロピレン非共役ジエンゴム、エチレン-ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられる。
【0056】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体あるいはそれらを水素化した水添スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、水添スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体などが挙げられる。
【0057】
上記熱可塑性樹脂の中でも、耐屈曲性の観点からスチレン系熱可塑性エラストマーが好ましく、水添スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体がより好ましい。
【0058】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂の24℃における貯蔵弾性率は、0.1MPa以上であることが好ましく、1MPa以上であることがより好ましい。また、500MPa未満であることが好ましく、300MPa未満であることがより好ましく、50MPa未満であることがさらに好ましい。貯蔵弾性率を上記の上限値未満とすることで、環状ポリオレフィン樹脂共重合体とブレンドした際に好適な柔軟性を付与し、耐屈曲性を改善することができる。また、貯蔵弾性率を上記の下限値以上とすることで、熱可塑性樹脂のブロッキングやシートの貼りつきを防ぎ、効率的に生産することができる。
【0059】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂の密度は930g/cm以下であることが好ましく、920g/cm以下がより好ましく、910g/cm以下がさらに好ましい。密度が上記の値以下であることで、熱可塑性樹脂の貯蔵弾性率が低減しやすく、環状ポリオレフィン樹脂共重合体をブレンドした際に好適な柔軟性を付与でき、耐屈曲性を改善することができる。
【0060】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂の誘電正接は12GHzにおいて0.005未満であることが好ましく、0.001未満であることがより好ましい。誘電正接が小さければ小さいほど誘電損失が小さいので、回路基板材料とした際の電気信号の伝達効率、高速化が得られるために好ましい。誘電正接の下限は特に限定されず、0以上であればよい。
【0061】
本発明の樹脂シートにおける熱可塑性樹脂の含有割合は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。熱可塑性樹脂の含有割合が上記の下限値以上であることで、環状ポリオレフィン樹脂共重合体に柔軟性を付与し、耐屈曲性を改善することができる。一方で、熱可塑性樹脂の含有割合が上記の上限値以下であることで、環状ポリオレフィン樹脂共重合体の有する低誘電特性や耐熱性等の特徴を維持することができる。
また、熱可塑性樹脂としては上記に挙げられた樹脂のうち1種類を使用するのでもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0062】
<その他の成分>
本発明の樹脂シートについて、その機能性の更なる向上を目的として、環状ポリオレフィン樹脂共重合体と熱可塑性樹脂以外の成分を任意に含んでよい。具体的には、上記に記載以外の熱可塑性エラストマー、紫外線防止剤、帯電防止剤、酸化防止剤、カップリング剤、可塑剤、難燃剤、着色剤、分散剤、乳化剤、低弾性化剤、希釈剤、消泡剤、イオントラップ剤、無機フィラー、有機フィラー等が挙げられる。
【0063】
<樹脂シートの特性>
本発明における樹脂シートの誘電正接は、12GHzにおいて 0.005未満であることが好ましく、0.002未満であることがより好ましく、0.001未満であることがさらに好ましい。誘電正接が小さければ小さいほど誘電損失が小さいので、回路基板材料とした際の電気信号の伝達効率、高速化が得られるために好ましい。誘電正接の下限は特に限定されず、0以上であればよい。
【0064】
本発明における樹脂シートの24℃における貯蔵弾性率は、50MPa以上が好ましく、100MPa以上がより好ましく、さらに好ましくは200MPa以上である。また、2000MPa未満が好ましく、1800MPa未満がより好ましく、さらに好ましくは1700MPa未満である。樹脂シートの貯蔵弾性率が上記の下限値以上であることで、シートのコシが担保され、製膜時や加工時に弛んだり皺が入ったりといった不具合を防ぐことができる。一方で、樹脂シートの貯蔵弾性率が上記の上限値未満であることで、樹脂シートに柔軟性が付与され、樹脂シートの耐屈曲性を向上することができるので、製膜時にロールに巻き付ける際や基板加工時に打ち抜く際の割れを防ぐことができる。
【0065】
本発明における樹脂シートのヘーズは、10%以下が好ましく、より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは3%以下である。樹脂シートのヘーズが上記の範囲以下であることで、透明性を確保することができる。ヘーズの下限は特に限定されず、0以上であればよい。
【0066】
樹脂シートの厚みは、10μm以上200μm以下が好ましい。厚みが上記範囲内であることにより、強度を適度に保ちつつ、電気・電子機器の小型化に対応可能な回路基板材料を得ることができる。
【0067】
<<樹脂シートの製造方法>>
以下、本発明の樹脂シートの製造方法について説明するが、以下の説明は、本発明の樹脂シートを製造する方法の一例であり、本発明の樹脂シートは以下に説明する製造方法により製造される樹脂シートに限定されるものではない。
【0068】
本発明の樹脂シートは、例えば、前記環状ポリオレフィン樹脂共重合体と熱可塑性樹脂、及び必要に応じて前記のその他の成分を、単軸、あるいは、二軸押出機等で溶融混合して、それらをTダイにより共押出し、キャストロールで急冷、固化することにより製造することができる。
本発明の樹脂シートを押出機等で混練して製造する際には、通常180~300℃、好ましくは220~280℃に加熱した状態で溶融混練することが好ましい。
【0069】
<<樹脂シートの用途>>
本発明の樹脂シートの用途の一例としては、銅箔積層板、フレキシブルプリント基板、多層プリント配線基板、キャパシタ等の電気・電子機器用回路基板材料、アンダーフィル材料、3D-LSI用インターチップフィル、絶縁シート、放熱基板が挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0070】
<回路基板材料>
本発明の樹脂シートは、導体と積層することにより回路基板材料とすることができる。
【0071】
導体としては、銅、アルミニウム等の導電性金属や、これらの金属を含む合金等からなる金属箔、あるいはメッキやスパッタリングで形成された金属層を用いることができる。
【0072】
電気・電子機器用の回路基板材料として用いる場合、樹脂シートの厚みは10μm以上200μm以下が好ましい。また、導体の厚みは0.2μm以上70μm以下が好ましい。
【0073】
本発明の回路基板材料は、誘電正接が十分に低いことが特徴である。
回路基板材料の誘電正接は、12GHzにおいて0.01未満であることが好ましく、より好ましくは0.008未満である。誘電正接は低ければ低いほど回路基板とした際の電気信号の伝達効率、高速化が得られるために好ましい。誘電正接の下限は特に限定されず、0以上であればよい。
【0074】
<回路基板材料の製造方法>
本発明における回路基板材料は、例えば次のような方法で製造できる。
本発明の樹脂シートに導体を積層したあと、フォトレジスト等を用いて回路を形成し、こうした層を必要数重ねる。
樹脂シートと導体との積層は、樹脂シートに導電性金属箔を直接重ね合わせる方法であってもよく、接着剤を用いて樹脂シートと導電性金属箔とを接着する方法であってもよい。また、メッキやスパッタリングにより導電性金属層を形成する方法であってもよく、これらの方法を組み合わせて行ってもよい。
【実施例0075】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0076】
<測定方法>
(1)貯蔵弾性率
樹脂シートの動的粘弾性を、粘弾性スペクトロメーターDVA-200(アイティー計測制御(株)製)を用いて下記条件で測定した。測定結果から、24℃における貯蔵弾性率の値を各樹脂の貯蔵弾性率とし、下記の基準により評価した。
[測定条件]
振動数波数:10Hz
歪み:0.1%
昇温速度:3℃/分
測定温度:-50℃~200℃
[評価基準]
A(good):貯蔵弾性率が2000MPa未満
B(poor):貯蔵弾性率が2000MPa以上
【0077】
(2)誘電特性
空洞共振器法を用いて、樹脂シートの面内方向の誘電正接を測定し、下記の基準により評価した。測定周波数は12GHzとした。
[評価基準]
A(good):誘電正接が0.005未満
B(poor):誘電正接が0.005以上
【0078】
(3)耐屈曲性
JIS P8115に基づいて、樹脂シートの耐折強さを、MIT耐折度試験機を用いて測定し、耐屈曲性を評価した。
[測定条件]
屈曲速度:175回/分
屈曲角度:左右135度
荷重:9.8N
試験方向:製膜長手方向(MD)、幅方向(TD)
[評価基準]
A(very good):300回以上の屈曲で破断した
B(good):10回以上300回未満の屈曲で破断した
C(poor):10回未満の屈曲で破断した
【0079】
(4)ヘーズ
JIS K7105に基づいて、樹脂シートの全光線透過率および拡散透過率を、ヘーズメーターを用いて測定した。得られた全光線透過率および拡散透過率からヘーズを以下の式で算出し、下記の基準で評価した。
[ヘーズ](%)=[拡散透過率]/[全光線透過率]×100
[評価基準]
A(very good):ヘーズが5%以下
B(good):ヘーズが5%を超えて10%以下
C(poor):ヘーズが10%を超える
【0080】
<原料>
[環状ポリオレフィン樹脂共重合体]
・a-1:環状ポリオレフィン(a)として三菱ケミカル(株)製「テファブロック(登録商標)CP MC930」を用い、これを環状ポリオレフィン樹脂共重合体a-1とした。
・結晶融解ピーク温度:75℃
・誘電正接:0.0003(12GHz)
・密度(ASTM D792):0.94g/cm
・MFR(230℃、2.16kg):1g/10分
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率65モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率35モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.5%以上
【0081】
・a-2:変性環状ポリオレフィン(a’)として三菱ケミカル(株)製「テファブロック(登録商標)CP MC940AP」を用い、これを環状ポリオレフィン樹脂共重合体a-2とした。
・結晶融解ピーク温度:75℃
・誘電正接:0.0009(12GHz)
・密度(ASTM D792):0.94g/cm
・MFR(230℃、2.16kg):3g/10分
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率67モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率33モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.5%以上
・マレイン酸変性率:1.2質量%
・Mw:68000
【0082】
[熱可塑性樹脂(b)]
・b-1:水添スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、誘電正接(12GHz)=0.0004、貯蔵弾性率(24℃)=6.2MPa、密度=890g/cm
・b-2:直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)、誘電正接(12GHz)=0.0003、貯蔵弾性率(24℃)=290MPa、密度=920g/cm
・b-3:直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)、誘電正接(12GHz)=0.0003、貯蔵弾性率(24℃)=190MPa、密度=908g/cm
【0083】
<実施例1>
環状ポリオレフィン樹脂共重合体としてa-1を、熱可塑性樹脂としてb-1を、それぞれ単軸押出機を用いて溶融混錬し、Tダイで押出し、キャスティングロールで冷却、固化することで厚さ100μmの樹脂シートを製膜した。得られた樹脂シートについて、貯蔵弾性率、誘電特性、耐屈曲性とヘーズを評価した。結果を表1に示す。
【0084】
<実施例2~4>
環状ポリオレフィン樹脂共重合体、熱可塑性樹脂として表1に記載の配合で溶融混錬した以外は、実施例1と同様の方法で樹脂シートを製膜した。得られた樹脂シートについて、貯蔵弾性率、誘電特性、耐屈曲性とヘーズを評価した。結果を表1に示す。
【0085】
<比較例1>
比較例として、環状ポリオレフィン樹脂共重合体a-2単体を、単軸押出機を用いて溶融混錬し、Tダイで押出し、キャスティングロールで冷却、固化することで厚さ100μmの樹脂シートを製膜した。得られたシートについて貯蔵弾性率、誘電特性、耐屈曲性とヘーズを評価した。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
上記の表1の実施例1~4の結果より、環状ポリオレフィン樹脂共重合体に特定の熱可塑性樹脂を配合することで、低誘電特性を維持しながら耐屈曲性を向上できることが示された。本発明による樹脂シートであれば、撓ませても破断やクラックが生じることを防ぐことができるので、ロールへの巻きとりや打ち抜き加工などが容易にできる。このようなシートであれば、フレキシブル基板(FPC)の材料として活用が期待できる。
【0088】
一方で、熱可塑性樹脂を配合しない比較例1では、耐屈曲性試験において1度屈曲させるだけで破断してしまい、非常に脆いことが示された。