(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028232
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】差動減速機及びクランクシャフト
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20220208BHJP
【FI】
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020131531
(22)【出願日】2020-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】591218307
【氏名又は名称】株式会社ニッセイ
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 光明
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA20
3J027FB32
3J027GA01
3J027GB03
3J027GC03
3J027GC22
3J027GD03
3J027GD08
3J027GD12
(57)【要約】
【課題】加工コストを低減することができる差動減速機及びクランクシャフトを提供することを目的とする。
【解決手段】内歯歯車4と、内歯歯車4と同軸で内歯歯車4に貫通するように配置されており、中心軸C0に対して偏心する偏心部22を有している入力軸6と、偏心部22に外装され、内歯歯車4に内接して噛み合う外歯歯車3と、を備える差動減速機において、入力軸6の一方の端面24aには、偏心部22の偏心方向側に偏った位置に複数の貫通孔26が形成されており、端面24aにおいて貫通孔26を避ける位置に複数のボルト穴25が形成されており、貫通孔26の内径D1は、ボルト穴25の下穴の内径D2と等しくなっている。このため、貫通孔26とボルト穴25の下穴とを同じ工具で加工でき、加工コストを低減できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車と、
前記内歯歯車と同軸で前記内歯歯車に貫通するように配置されており、自身の中心軸である入力中心軸に対して偏心する偏心部を有している入力軸と、
前記偏心部に外装され、前記内歯歯車に内接して噛み合う外歯歯車と、
を備えており、
前記入力軸の少なくとも一方の端面には、前記偏心部の偏心方向側に偏った位置に複数の肉抜き穴が形成されており、
前記端面における前記肉抜き穴を避ける位置に複数のボルト穴が形成されており、
前記肉抜き穴の内径は、前記ボルト穴の下穴の内径と等しい
ことを特徴とする差動減速機。
【請求項2】
前記肉抜き穴は、前記入力軸を前記入力中心軸方向に貫通している
ことを特徴とする請求項1に記載の差動減速機。
【請求項3】
偏心部を有するクランクシャフトであって、
前記クランクシャフトの少なくとも一方の端面には、前記偏心部の偏心方向側に偏った位置に複数の肉抜き穴が形成されており、
前記端面における前記肉抜き穴を避ける位置に複数のボルト穴が形成されており、
前記肉抜き穴の内径は、前記ボルト穴の下穴の内径と等しい
ことを特徴とするクランクシャフト。
【請求項4】
前記肉抜き穴は、前記クランクシャフトを軸方向に貫通している
ことを特徴とする請求項3に記載のクランクシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工コストを低減することができる差動減速機及びクランクシャフトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、クランクシャフトを支持する支持部の端面に肉抜き部として複数の貫通孔を形成することで、回転バランスの偏りを改善した差動減速機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の差動減速機のように肉抜きとして貫通孔を設ける場合、従来は、なるべく大きい孔を設けて偏心側の重量を減らすことで、回転バランスの偏りを効率良く改善することが普通であった。しかしながら、特許文献1に開示されたような肉抜きの形状では、加工の手間がかかっていた。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、回転バランス取り構造を低コストで実現できる差動減速機及びクランクシャフトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、請求項1記載の差動減速機は、内歯歯車と、前記内歯歯車と同軸で前記内歯歯車に貫通するように配置されており、自身の中心軸である入力中心軸に対して偏心する偏心部を有している入力軸と、前記偏心部に外装され、前記内歯歯車に内接して噛み合う外歯歯車と、を備えており、前記入力軸の少なくとも一方の端面には、前記偏心部の偏心方向側に偏った位置に複数の肉抜き穴が形成されており、前記端面における前記肉抜き穴を避ける位置に複数のボルト穴が形成されており、前記肉抜き穴の内径は、前記ボルト穴の下穴の内径と等しいことを特徴とするものである。
また、請求項2記載の差動減速機は、請求項1に記載の差動減速機であって、更に、前記肉抜き穴は、前記入力軸を前記入力中心軸方向に貫通していることを特徴とするものである。
また、請求項3記載のクランクシャフトは、偏心部を有するクランクシャフトであって、前記クランクシャフトの少なくとも一方の端面には、前記偏心部の偏心方向側に偏った位置に複数の肉抜き穴が形成されており、前記端面における前記肉抜き穴を避ける位置に複数のボルト穴が形成されており、前記肉抜き穴の内径は、前記ボルト穴の下穴の内径と等しいことを特徴とするものである。
また、請求項4記載のクランクシャフトは、請求項3に記載のクランクシャフトであって、更に、前記肉抜き穴は、前記クランクシャフトを軸方向に貫通していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の差動減速機によれば、肉抜き穴を加工する際に、ボルト穴の下穴を加工する際の工具と同じものを使用できる。このため、入力軸の加工時の工具交換の回数を減らし、加工コストを下げることができる。従来は、差動減速機の回転バランス取りの効果を高めるために、肉抜き穴をなるべく大きく加工することが当たり前であったが、本発明では肉抜き穴を敢えて大きくしないという発想の転換により、加工コストの低減を実現できる。
また、請求項2記載の差動減速機によれば、肉抜き穴を貫通させることで、回転バランスをより改善することができる。
また、請求項3記載のクランクシャフトによれば、肉抜き穴を加工する際に、ボルト穴の下穴を加工する際の工具と同じものを使用できる。このため、クランクシャフトの加工時の工具交換の回数を減らし、加工コストを下げることができる。従来は、クランクシャフトの回転バランス取りの効果を高めるために、肉抜き穴をなるべく大きく加工することが当たり前であったが、本発明では肉抜き穴を敢えて大きくしないという発想の転換により、加工コストの低減を実現できる。
また、請求項4記載のクランクシャフトによれば、肉抜き穴を貫通させることで、回転バランスをより改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態における差動減速機の中央縦断面図である。
【
図2】本発明の実施形態における差動減速機の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態である差動減速機1の中央縦断面図である。
図2は、本発明の実施形態である差動減速機1の分解斜視図である。本発明の差動減速機1は、例えば産業用ロボットの関節部分などに使用される。
【0010】
差動減速機1は、外歯歯車3が内歯歯車4と噛み合いながら偏心回転する偏心搖動型の減速機である。差動減速機1は、外歯歯車3と、内歯歯車4と、ケース5と、入力軸6とを備えている。
【0011】
ケース5は、円筒状の主ケース7と、主ケース7における入力側(
図1の右側)に配置され、外形が主ケース7と略同一である当てプレート8と、当てプレート8を挟んで主ケース7とは反対側に配置され、外形が主ケース7及び当てプレート8と略同一のケースカバー9とから成り、主ケース7、当てプレート8、及びケースカバー9は、ケースカバー9側から当てプレート8を貫通して主ケース7に螺合される複数のボルト10,10・・により一体に結合されている。主ケース7は、内周面にクロスローラ11の軌道面が形成されている。つまり主ケース7はクロスローラベアリング12の外輪も兼ねている。また、主ケース7、当てプレート8、及びケースカバー9には、複数のボルト10,10・・を避けた位置に、複数の貫通孔13が形成されている。
【0012】
主ケース7の径方向内側には、円筒状の内歯歯車4が配置されている。外歯歯車3は、内歯歯車4の歯数よりも僅かに少ない歯数を有しており、内歯歯車4に偏心位置で内接している。内歯歯車4は、外周面にクロスローラ11の軌道面が形成されており、クロスローラ11を介して、主ケース7に対して回転可能に軸支されている。クロスローラ11は、中心軸C0に垂直な方向から見て、内歯歯車4の径方向外側に、内歯と重なる位置に配置されている。つまり内歯歯車4は、クロスローラベアリング12の内輪も兼ねている。内歯歯車4において、出力側(
図1の左側)の端面には、複数のボルト穴14が形成されている。ケース5(貫通孔13)または内歯歯車4(ボルト穴14)のどちらか一方を固定側とし、他方を出力側として相手側装置と連結される。内歯歯車4の内周面において、ボルト穴14側の部分には内歯が形成されず、円盤状のベアリングハウジング15が圧入により固定されている。
【0013】
外歯歯車3の内側には、中空筒状の入力軸6が配置されている。入力軸6は、配線や駆動軸等を通すために、中心軸C0を中心とする円形の中空部16が設けられた円筒状とされている。入力軸6の中心軸C0は、内歯歯車4の軸線と同軸である。
【0014】
入力軸6の両端には、ボールベアリング20が配置されるための支持部21がそれぞれ形成されている。入力軸6は、2個のボールベアリング20,20を介して、ケースカバー9及びベアリングハウジング15の内周面に回転可能に軸支されている。入力軸6における各支持部21,21の間には、中心軸C0から偏心量δ1だけオフセットした偏心軸C1を中心として、支持部21よりも外径が大きい円筒面を有する偏心部22が形成されている。
【0015】
偏心部22の径方向外側には、円周方向に全周に亘って配設される横断面円形状の複数のニードルローラ23を介して、1枚の外歯歯車3が回転可能に支持されている。全てのニードルローラ23を総合して、外歯歯車3を支持するニードルベアリングが形成されている。つまり偏心部22は、ニードルベアリングの内輪としての軌道面を兼ねている。各ニードルローラ23は、中心軸C0と同じ方向を向いており、各ニードルローラ23の軸方向の長さは、偏心部22の軸方向の長さと略同一である。各ニードルローラ23の軸方向への移動は、ボールベアリング20の外輪の側面により規制されている。
【0016】
入力軸6の入力側の端面24aには、複数のボルト穴25が形成されている。
図3は、入力軸6のみを入力側の端面24aから見た図である。ボルト穴25は円周状に等間隔で4箇所形成され、駆動軸(図示略)を連結可能な形状となっている。
【0017】
また、入力軸6には、入力側の端面24aから出力側の端面24bにかけて複数の円形の貫通孔26が形成されている。各貫通孔26は円形であり、中心軸C0に対して偏心部22の偏心方向側(
図3の上側)の部分に、ボルト穴25を避ける位置に8箇所形成されている。貫通孔26は、中心軸C0に対して偏心部22の偏心方向とは反対側(
図3の下側)には形成されていない。貫通孔26は支持部21及び偏心部22の内部を貫通している。貫通孔26は肉抜き部としての機能を果たし、差動減速機1の駆動時において、入力軸6及び外歯歯車3の偏心に起因する回転バランスの偏りを改善することができる。
【0018】
貫通孔26の内径D1は、ボルト穴25の下穴の内径D2と等しい。本実施形態では、ボルト穴25のサイズはM3であり、貫通孔26の内径D1及びボルト穴25の下穴の内径D2は、いずれも2.5mmである。
【0019】
図4は、
図1のA―A線に沿った断面図であり、差動減速機1からケースカバー9を取り除いた状態を示している。
【0020】
外歯歯車3における入力側の側面には、2個の当てブロック30a,30bが、外歯歯車3と一体に形成されている。各当てブロック30a,30bには、各々両側の側面に第1摺動部31a,31bが形成されている。各当てブロック30a,30bは、第1摺動部31a,31bが各々互いに平行になるように形成されている。
【0021】
当てプレート8の径方向内側には、変換部材32が配置されている。変換部材32は板状であり、厚さは当てプレート8よりも僅かに厚くなっている。変換部材32は円盤状であり、内周側において互いに180度対称な位置に形成された2つの切り欠き33a,33bと、外周側において互いに180度対称な位置に形成された2つの切り欠き33c,33dとを備えている。一方の対になる切り欠き33a,33bは、それぞれ両側の側面に平行な第2摺動部34a,34bを有している。また、他方の対になる切り欠き33c,33dは、それぞれ両側の側面に平行な第3摺動部34c,34dを有している。一方の対になる切り欠き33a,33bと、他方の対になる切り欠き33c,33dとは、第2摺動部34a,34bと第3摺動部34c,34dとが直交するように形成されている。第1摺動部31a,31bと第2摺動部34a,34bとの間には、横断面円形状の第1ニードルローラ35aが各2個ずつ配置されており、一方の対になる切り欠き33a,33bは、第1ニードルローラ35aを介して当てブロック30a,30bの第1摺動部31a,31bと摺動可能である。変換部材32は、第1ニードルローラ35aによって外歯歯車3に対して第2摺動部34a,34bの方向(
図4の横方向)に摺動可能である。
【0022】
当てプレート8の内周面には、変換部材32よりも大きな開口部36が形成され、開口部36の内周面には、第3摺動部34c,34dと平行に対向する第4摺動部37a,37bを備えた突部38a,38bが、内周方向に向かって形成されている。第3摺動部34c,34dと第4摺動部37a,37bとの間には、第1ニードルローラ35aと同形状の第2ニードルローラ35bが各2個ずつ配置されている。変換部材32は、第2ニードルローラ35bを介して当てプレート8に対して第3摺動部34c,34dの方向(
図4の縦方向)に摺動可能である。
【0023】
主ケース7と内歯歯車4との間でクロスローラベアリング12の出力側には、オイルシール40が配置されている。当てプレート8における出力側の端面には、開口部36よりも径方向外側に、全周に亘って凹溝41が形成されており、該凹溝41にはOリング42が配置されている。また、ケースカバー9における出力側の端面には、全周に亘って凹溝43が形成されており、該凹溝43にはOリング44が配置されている。
【0024】
以上のように構成された差動減速機1において、図示しない駆動原の動力によって入力軸6が回転することで、偏心部22が偏心運動し、外歯歯車3が内歯歯車4に内接した状態で偏心及び自転運動する。このため、各当てブロック30a,30bも偏心及び自転運動するが、各当てブロック30a,30bは変換部材32に対して第2摺動部34a,34bの方向(横方向)に摺動するように配置されており、かつ変換部材32は当てプレート8に対して第3摺動部34c,34dの方向(縦方向)に摺動するように配置されているため、各摺動部が摺動しながら動力が伝達されることによって、変換部材32を介して外歯歯車3の自転成分のみが取り出され、内歯歯車4がケース5に対して相対的に回転する。つまり変換部材32は、外歯歯車3の偏心回転運動を、中心軸C0を中心とした回転運動に変換する、いわゆる自在継手と同様の機能を果たしている。また、当てプレート8は、外歯歯車3の遊星運動から内歯歯車4と相対的に回転する回転運動を取り出すキャリアの機能を果たしている。このとき、差動減速機1内に充填された潤滑剤は、オイルシール40,Oリング42,及びOリング44によって封止されている。
【0025】
このように、上記実施形態によれば、貫通孔26の内径D1とボルト穴25の下穴の内径D2とが等しいため、貫通孔26とボルト穴25の下穴とを同じ工具で加工することができる。このため、入力軸6の加工時の工具交換の回数を減らし、加工コストを下げることができる。
【0026】
また、貫通孔26は、入力軸6の一方の端面24aから他方の端面24bに向けて貫通している。このため、より回転バランスを改善することができる。
【0027】
以上のように、本実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。以下に、上記実施形態に加えうる変更の例について説明する。
【0028】
例えば、本実施形態では入力軸6は中空形状であり、中心軸C0を中心とする円形の中空部16が設けられた円筒状とされているが、中空部は円形である必要はなく、配線や駆動軸等を通すために必要な形状であればよい。また、中空部には段差等が設けられていてもよい。また、ボルト穴25は、一方の端面24aだけでなく、他方の端面24bにも設けられていてもよい。また、本実施形態では第1摺動部31a,31bと第2摺動部34a,34bとの間には、第1ニードルローラ35aが配置されており、第3摺動部34c,34dと第4摺動部37a,37bとの間には、第2ニードルローラ35bが配置されているが、ニードルローラの代わりに滑り軸受を配置しても良い。また、本実施形態では肉抜き穴として貫通孔26を設けたが、貫通孔ではなく止まり穴であってもよい。また、止まり穴は両側の端面24a,24bに設けられていてもよい。また、肉抜き穴は、ボルト穴25とは反対側の端面24bに、ボルト穴25と同軸で設けられていてもよい。
【0029】
[本発明と実施形態との構成の対応関係]
本実施形態の入力軸6は、本発明のクランクシャフトの一例である。本実施形態の貫通孔26は、本発明の肉抜き穴の一例である。本実施形態の中心軸C0は、本発明の入力中心軸の一例である。
【符号の説明】
【0030】
1 差動減速機
3 外歯歯車
4 内歯歯車
6 入力軸
20 ボールベアリング
22 偏心部
24a,24b 端面
25 ボルト穴
26 貫通孔
C0 中心軸
C1 偏心軸
D1 貫通孔の内径
D2 ボルト穴の下穴の内径