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  • 特開-バインダー組成物及びミネラルウール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028261
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】バインダー組成物及びミネラルウール
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/587 20120101AFI20220208BHJP
   D04H 1/4209 20120101ALI20220208BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20220208BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20220208BHJP
   C08K 5/24 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
D04H1/587
D04H1/4209
C08L33/02
C08K5/053
C08K5/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020131577
(22)【出願日】2020-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】窪田 厚史
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 智広
(72)【発明者】
【氏名】井上 実希
【テーマコード(参考)】
4J002
4L047
【Fターム(参考)】
4J002BG011
4J002EC057
4J002ER006
4J002FD146
4J002FD200
4J002GK02
4J002HA04
4L047AA01
4L047BA12
4L047BC07
4L047BC14
4L047CC10
(57)【要約】
【課題】カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂と、カルボン酸ジヒドラジド化合物とを含むバインダー組成物に関して、バインダー組成物中での架橋反応が抑制され、より広範な製造条件でミネラルウールに十分な硬さを付与できるミネラルウール用バインダー組成物を提供すること。
【解決手段】カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂と、2個のヒドラジノ基を有するカルボン酸ジヒドラジド化合物と、4~12個のヒドロキシ基を有するポリオールと、水性媒体と、を含む、ミネラルウール用バインダー組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂と、2個のヒドラジノ基を有するカルボン酸ジヒドラジド化合物と、4~12個のヒドロキシ基を有するポリオールと、水性媒体と、を含む、ミネラルウール用バインダー組成物。
【請求項2】
前記カルボン酸ジヒドラジド化合物が有するヒドラジノ基の総量に対する、前記ポリオールが有するヒドロキシ基の総量のモル比が、30.0~160.0である、請求項1に記載のミネラルウール用バインダー組成物。
【請求項3】
前記カルボン酸ジヒドラジド化合物が有するヒドラジノ基の総量に対する、前記ポリオールが有するヒドロキシ基の総量のモル比が72.0~118.0である、請求項1又は2に記載のミネラルウール用バインダー組成物。
【請求項4】
前記カルボン酸ジヒドラジド化合物が、アジピン酸ジヒドラジドである、請求項1~3のいずれか一項に記載のミネラルウール用バインダー組成物。
【請求項5】
前記ポリオールがマンニトールである、請求項1~4のいずれか一項に記載のミネラルウール用バインダー組成物。
【請求項6】
無機繊維と、前記無機繊維に付着したバインダーと、を含み、
前記バインダーが、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂と、2個のヒドラジノ基を有するカルボン酸ジヒドラジド化合物と、4~12個のヒドロキシ基を有するポリオールとを含有し、
前記(メタ)アクリル樹脂のうち少なくとも一部が、前記カルボン酸ジヒドラジド化合物との反応、及び、前記ポリオールとの反応によって架橋構造を形成している、ミネラルウール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバインダー組成物及びミネラルウールに関する。
【背景技術】
【0002】
グラスウール、又は、ロックウール等のミネラルウールにおいて、繊維間を接着させるためにバインダー(ミネラルウール用バインダー)が使用されている(例えば、特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-59955号公報
【特許文献2】特開2017-226826号公報
【特許文献3】特開2013-136864号公報
【特許文献4】特許第5997827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、ミネラルウールには、ホルムアルデヒドとその他の単量体との重縮合物(例えば、フェノール樹脂)を主成分とするバインダーが用いられてきた。上記重縮合物から放散されるホルムアルデヒドへの懸念等から、用途によっては他の樹脂の使用が望まれる場合がある。ところが、他の樹脂を含むバインダー組成物を用いたミネラルウールでは、硬さが十分でない場合があった。このような事情のもと検討された結果、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂と、カルボン酸ジヒドラジド化合物とを含むバインダー組成物を用いることによって、ミネラルウールに十分な硬さを付与できることが見いだされた。
【0005】
しかし、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂と、2個のヒドラジノ基を有するカルボン酸ジヒドラジド化合物とを含むバインダー組成物を用いたミネラルウールでは、バインダー組成物を無機繊維に付着させる装置及び条件によっては(例えば、バインダー組成物を付着させた無機繊維が加熱硬化前に乾燥条件におかれた場合には)、十分な硬さを示さない不都合が生じる場合があった。本発明者らは、かかる不都合が、バインダー組成物を付与してからバインダー組成物を加熱硬化させるまでの時間に対して、(メタ)アクリル樹脂のカルボキシ基と、カルボン酸ジヒドラジド化合物のヒドラジノ基との架橋反応速度が速すぎるために生じることを見出した。
【0006】
本発明の目的は、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂と、カルボン酸ジヒドラジド化合物とを含むバインダー組成物に関して、バインダー組成物中での架橋反応が抑制され、より広範な製造条件でミネラルウールに十分な硬さを付与できるミネラルウール用バインダー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂と、2個のヒドラジノ基を有するカルボン酸ジヒドラジド化合物と、4~12個のヒドロキシ基を有するポリオールと、水性媒体と、を含む、ミネラルウール用バインダー組成物に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂と、カルボン酸ジヒドラジド化合物とを含むバインダー組成物に関して、バインダー組成物中での架橋反応が抑制され、より広範な製造条件でミネラルウールに十分な硬さを付与できるミネラルウール用バインダー組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ミネラルウールの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
〔ミネラルウール用バインダー組成物〕
一実施形態に係るミネラルウール用バインダー組成物は、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂と、2個のヒドラジノ基を有するカルボン酸ジヒドラジド化合物と、4~12個のヒドロキシ基を有するポリオールと、水性媒体と、を含む。
【0012】
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又はそれに対応する「メタクリル」を意味する。
【0013】
(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる(メタ)アクリルモノマーを主な単量体単位として含む重合体である。(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリルモノマー以外の単量体を単量体単位として含んでいてもよいが、通常、単量体単位として含まれる(メタ)アクリルモノマーの割合は、重合体の全体質量に対して50~100質量%である。
【0014】
カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂は、通常、カルボキシ基を有する単量体を単量体単位として含む。カルボキシ基を有する単量体は、例えば(メタ)アクリル酸である。
【0015】
カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂は、カルボキシ基を有する単量体以外の単量体を単量体単位として含んでいてもよい。単量体単位として含まれるカルボキシ基を有する単量体以外の単量体の割合は、(メタ)アクリル樹脂を構成する全単量体単位数に対して、50モル%未満、30モル%未満、10モル%未満、又は1モル%未満であってもよい。カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂は、単量体単位としてカルボキシ基を有する単量体のみを含むものであってよく、単量体単位として(メタ)アクリル酸のみを含むポリ(メタ)アクリル酸であってもよい。
【0016】
カルボン酸ジヒドラジド化合物は、2個のカルボキシ基を有する化合物から誘導される化合物であり、2個のヒドラジノ基(-NHNH)を有する。カルボン酸ジヒドラジド化合物は、例えば、式:HNHN-CO-R-CO-NHNHで表される化合物であってよい。ここで、Rはアルキレン基を示す。Rで表されるアルキレン基の炭素数は、例えば、2以上、3以上又は4以上であってよく、10以下、9以下、又は8以下であってよい。
【0017】
カルボン酸ジヒドラジド化合物は、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド又はこれらの混合物であってもよく、アジピン酸ジヒドラジドであってもよい。
【0018】
(メタ)アクリル樹脂が有するカルボキシ基の総量に対する、カルボン酸ジヒドラジド化合物が有するヒドラジノ基の総量のモル比は、0.002~0.200、0.003~0.150、0.004~0.100、0.005~0.050、又は0.006~0.020であってよい。ヒドラジノ基の総量のモル比がこの範囲内にあると、ミネラルウールの硬さ向上に関して特に顕著な効果が得られる。バインダー組成物を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)で分析することにより、カルボキシ基の総量に対するヒドラジノ基の総量のモル比を定量することができる。
【0019】
カルボン酸ジヒドラジド化合物の含有量は、(メタ)アクリル樹脂100質量部に対して、0.1~10質量部、0.2~5.0質量部、0.3~3.0質量部、又は0.4~1.5質量部であってよい。
【0020】
バインダー組成物に含まれるポリオールは、4~12個のヒドロキシ基を有する化合物である。ポリオールのヒドロキシ基の数は、4以上であり、例えば、5以上、又は6以上であってもよい。ポリオールのヒドロキシ基の数は、12以下であり、10以下、9以下、8以下、又は7以下であってよい。ポリオールは、6個のヒドロキシ基を有するポリオールであってよい。
【0021】
ポリオールは、4~12個のヒドロキシ基を有する糖アルコールであってよい。糖アルコールは、糖のアルデヒド基及び/又はケトン基をヒドロキシ基に還元して生成したものに相当する化合物である。
【0022】
ポリオールとしては、エリスリトール、ペンタエリスリトール、トレイトール、アラビニトール、キシリトール、リビトール、イジトール、ガラクチトール、ソルビトール、マンニトール、ボミトール、ペルセイトール、D-エリトロ-D-ガラクト-オクチトール、ラクチトール、マルチトール及びマルトトリイトールが挙げられる。
【0023】
(メタ)アクリル樹脂が有するカルボキシ基の総量に対する、ポリオールが有するヒドロキシ基の総量のモル比は、(メタ)アクリル樹脂が有するカルボキシ基と、カルボン酸ジヒドラジド化合物が有するヒドラジノ基との架橋反応が更に抑制されやすくなる観点から、0.2~2.0、0.30~1.80、0.40~1.60、0.45~1.50、0.72~1.18であってよい。バインダー組成物を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)で分析することにより、カルボキシ基の総量に対するヒドロキシ基の総量のモル比を定量することができる。
【0024】
カルボン酸ジヒドラジド化合物が有するヒドラジノ基の総量に対する、ポリオールが有するヒドロキシ基の総量のモル比は、(メタ)アクリル樹脂が有するカルボキシ基と、カルボン酸ジヒドラジド化合物が有するヒドラジノ基との架橋反応が更に抑制されやすくなる観点から、30.0~160.0、75.0~118.0、72.0~118.0、又は75.0~96.0であってよい。バインダー組成物を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)で分析することにより、ヒドラジノ基の総量に対するヒドロキシ基の総量のモル比を定量することができる。
【0025】
ポリオールの含有量は、(メタ)アクリル樹脂が有するカルボキシ基と、カルボン酸ジヒドラジド化合物が有するヒドラジノ基との架橋反応が更に抑制されやすくなる観点から、(メタ)アクリル樹脂100質量部に対して、5~100質量部、10~80質量部、15~70質量部、又は30~50質量部であってよい。
【0026】
水性溶媒は、水、又は水と任意の割合で相溶し得る親水性溶媒である。水性溶媒は、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、及びグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。経済性及び取扱性の観点から、水性溶媒が水を含んでいてもよい。水性溶媒中の水の割合が、水性溶媒の質量を基準として50~100質量%、60~100質量%、70~100質量%、80~100質量%、又は90~100質量%であってもよい。水性溶媒の含有量は、例えば、バインダー組成物の全量に対して、80.0~98.0質量%、85.0~98.0質量%又は88.0~98.0質量%であってもよい。
【0027】
バインダー組成物はシランカップリング剤を更に含有してもよい。シランカップリング剤は、例えばアルコキシシリル基と反応性官能基とを有する化合物であり、ミネラルウールの更なる硬さ向上に寄与し得る。シランカップリング剤の例としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシランカップリング剤、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のエポキシシランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤の市販品の例としては、信越化学工業株式会社製のアミノプロピルトリメトキシシラン「KBE903」が挙げられる。シランカップリング剤は、1種類単独で用いてもよく、又は、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0028】
シランカップリング剤の含有量は、バインダー組成物の全質量に対して、0.1~3.0質量%であってよく、0.2~2.0質量%であってよく、0.3~1.0質量%であってよい。
【0029】
バインダー組成物は、硫酸アンモニウムを更に含有してもよい。硫酸アンモニウムの含有量は、バインダー組成物の全質量に対して、1~20質量%であってよく、2~15質量%であってよく、4~12質量%であってよい。
【0030】
本実施形態に係るバインダー組成物は、以上例示した成分に加えて、必要に応じてその他の成分を更に含有していてよい。その他の成分としては、防塵剤、撥水剤等が挙げられる。防塵剤としては、オイルエマルション等が挙げられる。防塵剤の市販品の例としては、出光興産株式会社製の重質オイルエマルション「ダフニープロソルブルPF」が挙げられる。撥水剤としては、例えば、シリコーンオイルエマルション等のシリコーン系添加剤、及び、フッ素系添加剤が挙げられる。撥水剤の市販品の例としては、信越化学工業株式会社製のシリコーンオイルエマルション「Polon MR」が挙げられる。
【0031】
バインダー組成物における、固形分濃度、すなわち水性溶媒以外の成分の含有量は、バインダー組成物全量に対して、2.0~20質量%であってよい。水性溶媒以外の成分の含有量が、2.0質量%以上である場合、ミネラルウールを乾燥させるための加熱処理に要する時間が短くなり、生産性が向上する傾向がある。水性溶媒以外の成分の含有量が、20.0質量%以下であると、溶液(バインダー組成物)の粘度が充分に低下し、ウール状の無機繊維に対する浸透性が良好になる。同様の観点から、水性溶媒以外の成分の含有量が2.0~15.0質量%であってもよく、2.0~12.0質量%であってもよい。
【0032】
本実施形態に係るバインダー組成物は、例えば、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂、カルボン酸ジヒドラジド化合物及び4~12個のヒドロキシ基を有するポリオール、並びに、必要に応じて、シランカップリング剤、硫酸アンモニウム、他の成分を水性媒体とともに混合及び撹拌し、必要に応じて、水性媒体を添加し、上記成分の含有量を調整して得ることができる。
【0033】
〔ミネラルウール〕
図1は、ミネラルウールの一実施形態を示す断面図である。図1に示すミネラルウール1は、無機繊維と、無機繊維に付着したバインダーとを含むマット状の材料である。ただし、ミネラルウールの形状はこれに限られない。
【0034】
ミネラルウール1は、無機繊維を含むウール状の繊維集合体を含む。繊維集合体を構成する無機繊維同士がバインダーを介して結着している。無機繊維は、ガラス繊維、又は、けい酸分と石灰分を主成分とする高炉スラグ、又は岩石等を原料とした繊維であってよい。無機繊維としてガラス繊維を含むミネラルウールは、一般にグラスウールと称される。無機繊維として、けい酸分と石灰分を主成分とする高炉スラグ、又は岩石等を原料とした繊維を含むミネラルウールは、一般にロックウールと称される。ミネラルウールは、断熱性及び吸音性がより優れたものとなる観点から、ガラス繊維を含むグラスウールであってもよい。
【0035】
ミネラルウール1を構成する無機繊維の繊維径(バインダーの厚さを含む。)は、3.0~10.0μm、3.5~8.0μm、又は4.0~7.0μmであってよい。ここでの繊維径は、マイクロネア法で測定される値である。ミネラルウールを構成する無機繊維の繊維長は、2.0~500.0mmであってもよい。
【0036】
無機繊維に付着したバインダーは、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂と、2個のヒドラジノ基を有するカルボン酸ジヒドラジド化合物と、4~12個のヒドロキシ基を有するポリオールとを含有する。
【0037】
バインダーに含まれる(メタ)アクリル樹脂のうち少なくとも一部が、カルボン酸ジヒドラジド化合物との反応、及び、ポリオールとの反応によって架橋されている。通常、(メタ)アクリル樹脂のカルボキシ基とカルボン酸ジヒドラジド化合物のヒドラジノ基との反応、及び、ポリオールのヒドロキシ基との反応により、(メタ)アクリル樹脂が架橋される。
【0038】
無機繊維に付着したバインダーにおける(メタ)アクリル樹脂、カルボン酸ジヒドラジド化合物及びポリオールの合計の含有量は、バインダーの全体質量を基準として、50~100質量%、75~100質量%、又は95~100質量%であってもよい。ここでの含有量は、架橋構造を形成している(メタ)アクリル樹脂、カルボン酸ジヒドラジド化合物及びポリオールの量も含む。これは本明細書における以下の説明でも同様である。
【0039】
バインダーにおいて、(メタ)アクリル樹脂が有するカルボキシ基の総量に対する、カルボン酸ジヒドラジド化合物が有するヒドラジノ基の総量のモル比が、0.002~0.200、0.003~0.150、0.004~0.100、0.005~0.050、又は0.006~0.020であってよい。ヒドラジノ基の総量のモル比がこの範囲内にあると、ミネラルウールの硬さ向上に関して特に顕著な効果が得られる。無機繊維に付着したバインダーをメタノールによって抽出し、得られた抽出物を、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)で分析することにより、カルボキシ基の総量に対するヒドラジノ基の総量のモル比を定量することができる。得られたモル比が上記範囲内にある場合、カルボン酸ジヒドラジド化合物は少なくともその一部が架橋構造を形成しているとみなすことができる。
【0040】
バインダーにおいて、(メタ)アクリル樹脂が有するカルボキシ基の総量に対する、ポリオールが有するヒドロキシ基の総量のモル比は、0.2~2.0、0.30~1.80、0.40~1.60、0.45~1.50、0.72~1.18であってよい。無機繊維に付着したバインダーをメタノールによって抽出し、得られた抽出物を、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)で分析することにより、カルボキシ基の総量に対するヒドロキシ基の総量のモル比を定量することができる。得られたモル比が上記範囲内にある場合、ポリオールは少なくともその一部が架橋構造を形成しているとみなすことができる。
【0041】
バインダーにおいて、カルボン酸ジヒドラジド化合物が有するヒドラジノ基の総量に対する、ポリオールが有するヒドロキシ基の総量のモル比は、30.0~160.0、75.0~118.0、72.0~118.0、又は75.0~96.0であってよい。無機繊維に付着したバインダーをメタノールによって抽出し、得られた抽出物を、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)で分析することにより、ヒドラジノ基の総量に対するヒドロキシ基の総量のモル比を定量することができる。
【0042】
バインダーは、上述したシランカップリング剤、硫酸アンモニウム、他の成分等を更に含有してもよい。
【0043】
無機繊維に対するバインダーの付着量が、ミネラルウール100質量部に対して、0.5~15.0質量部、1.0~15.0質量部又は1.0~6.0質量部であってよい。バインダーの付着量は、ミネラルウール100質量部に対して、1.0質量部以上、1.5質量部以上、2.0質量部以上又は2.5質量部以上であってよく、15.0質量部以下、10.0質量部以下、6.0質量部以下又は5.0質量部以下であってよい。バインダーの付着量は、まず、バインダーの付着したグラスウールの重量(焼却前質量)を測定することと、次いで、グラスウールを空気雰囲気下、500℃の条件で60分間加熱して、バインダーを焼却し、残ったグラスウールの質量(焼却後質量)を測定することと、下記式によりバインダーの付着量を算出することとを含む方法により、求めることができる。
バインダーの付着量(質量%)={(焼却前質量-焼却後質量)/焼却前質量}×100
【0044】
ミネラルウール1の密度は10~250kg/mであってよい。ミネラルウール1の厚さは、例えば、10~300mmであってよい。ミネラルウール1の密度及び厚さは、JIS A 9521:2014に準拠して測定することができる。ここでの密度は、空隙体積を含む体積を基準とする見かけ密度である。
【0045】
ミネラルウール1は、例えば、バインダー組成物を無機繊維に付着させる工程と、無機繊維とこれに付着したバインダー組成物とを含むウール状の中間繊維基材を形成させる工程と、中間繊維基材を加熱してミネラルウールを得る工程とを含む方法によって、製造することができる。
【0046】
バインダー組成物を無機繊維に付着させる工程では、例えば、熱溶融されたガラス、又は岩石等の鉱物のような無機質原料を繊維化して無機繊維を形成させながら、形成された無機繊維にバインダー組成物を付着させてもよい。無機繊維を繊維化する方法としては、例えば、火焔法、吹き飛ばし法、遠心法(ロータリー法とも言う)が挙げられる。無機繊維にバインダー組成物を付着させる方法としては、例えば、無機繊維に対し、スプレー装置等により、霧状のバインダー組成物を吹き付ける方法、無機繊維をバインダー組成物に浸漬させる方法が挙げられる。
【0047】
バインダー組成物を無機繊維に付着させながら、バインダー組成物が付着した無機繊維を堆積させることによって、ウール状の中間繊維基材を形成させることができる。堆積した無機繊維同士が徐々に絡み合い、それらがウール状の形態を形成する。形成された直後の無機繊維にバインダー組成物を付着させ、その後、ウール状の中間繊維基材を形成させてもよい。
【0048】
中間繊維基材を加熱することにより、無機繊維に付着したバインダー組成物が加熱硬化することでバインダーが形成されて、無機繊維と無機繊維に付着したバインダーとを含むミネラルウールが得られる。中間繊維基材を加熱する方法は、特に制限されない。例えば、所定の加熱温度に設定された1つ又は複数の加熱ゾーンを通過させることにより、中間繊維基材を加熱することができる。
【0049】
中間繊維基材の加熱温度は、バインダー組成物が付着した無機繊維の密度、厚さにより、適宜調整される。加熱温度は、例えば、150~240℃であってよい。中間繊維基材の加熱時間は、バインダー組成物が付着した無機繊維の密度、厚さにより、適宜調整される。加熱時間は、例えば、10分間~2時間であってよい。
【0050】
加熱工程後の中間繊維基材、すなわちミネラルウールは、必要により例えばマット状に成形され、さらに所望の幅、長さに切断してもよい。
【0051】
ミネラルウールは、そのままの形態で用いてもよく、また、ミネラルウールの表面を表皮材で被覆して、ミネラルウール及び表皮材を有するパネル等の部材を作製してもよい。表皮材としては、特に制限されないが、例えば、紙(特に耐熱紙、例えば、ガラスペーパー)、合成樹脂フィルム、金属箔フィルム、不織布(例えば、ガラスチョップドストランドマット)、織布(例えば、ガラス繊維織物)又はこれらを組み合わせたものを用いることができる。
【0052】
本実施形態に係るミネラルウールは、例えば、断熱・吸音機能を持つ素材として用いることができる。本実施形態に係るミネラルウールを、建築材料用断熱材(特に、壁内や天井内、床内といった建築材料内部に配置される断熱材)として用いてもよい。
【実施例0053】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
1.バインダー組成物の調製
実施例1
水性溶媒(水)に、アクリル樹脂(サイビノールX219-224E、サイデン化学株式会社製)を100質量部、アジピン酸ジヒドラジド(ヒドラジノ基を架橋基として有する架橋物質)を0.6質量部、マンニトールを40質量部加えて、実施例1のバインダー組成物を調製した。
【0055】
実施例2
マンニトールの量を20質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のバインダー組成物を調製した。
【0056】
実施例3
マンニトールの量を60質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3のバインダー組成物を調製した。
【0057】
実施例4
アジピン酸ジヒドラジドに代えて、セバシン酸ジヒドラジド(ヒドラジノ基を架橋基として有する架橋物質)を0.8質量部加えたこと以外は実施例2と同様にして、実施例4のバインダー組成物を調製した。
【0058】
実施例5
マンニトールに代えてソルビトールを加えたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5のバインダー組成物を調製した。
【0059】
比較例1
マンニトールを加えなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のバインダー組成物を調製した。
【0060】
比較例2
マンニトールに代えて、エチレングリコールを加えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2のバインダー組成物を調製した。
【0061】
比較例3
マンニトールに代えて尿素を加えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3のバインダー組成物を調製した。
【0062】
比較例4
アジピン酸ジヒドラジドに代えてジエタノールアミンを加えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4のバインダー組成物を調製した。
【0063】
比較例5
マンニトールに代えてジエタノールアミンを加えたこと以外は実施例1と同様にして、比較例5のバインダー組成物を調製した。
【0064】
比較例6
アジピン酸ジヒドラジドに代えてポリエチレンイミン(エポミンSP-006、株式会社日本触媒製)を加えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例6のバインダー組成物を調製した。
【0065】
比較例7
アジピン酸ジヒドラジドに代えてトリエチレンテトラミンを加えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例7のバインダー組成物を調製した。
【0066】
比較例8
アジピン酸ジヒドラジドに代えてp-トルエンスルホン酸を加えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例8のバインダー組成物を調製した。
【0067】
調製したバインダー組成物に含まれる、アクリル樹脂、アジピン酸ジヒドラジド及びマンニトールの量、アクリル樹脂が有するカルボキシ基の総量に対するアジピン酸ジヒドラジドが有するヒドラジノ基の総量のモル比、アクリル樹脂が有するカルボキシ基の総量に対するマンニトールが有するヒドロキシ基の総量のモル比、並びに、アジピン酸ジヒドラジドが有するヒドラジノ基の総量に対するマンニトールが有するヒドロキシ基の総量のモル比は表1及び表2に示す量であった。
【0068】
表中の「固形分の合計含有量」は、バインダー組成物の全質量に対する水性溶媒以外の成分の合計の含有量である。表中の「水性溶媒(水)の含有量」は、バインダー組成物の全質量に対する水性溶媒の含有量である。
【0069】
2.ゲルタイムの評価
ゲルタイムを以下の手順で測定した。
実施例及び比較例のバインダー組成物それぞれ1.0gを180℃に加熱した熱板上に滴下し、テフロン(登録商標)棒にて、30回/分の条件で混錬を行った。混錬開始から、バインダー組成物の粘りが無くなるまでの時間を測定し、ゲルタイムとした。ゲルタイムが高いほど、バインダー組成物中の架橋反応が抑制されていると判断される。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
表1及び表2にゲルタイムの評価結果が示される。実施例のバインダー組成物は、比較例のバインダー組成物と比べて、ゲルタイムが長く、バインダー組成物中の架橋反応が抑制されていることが示された。
【0073】
3.バインダー組成物の調製
実施例6
実施例1のバインダー組成物、アミノプロピルトリエトキシシラン、硫酸アンモニウム及び水を混合して、実施例6のバインダー組成物を調製した。実施例1のバインダー組成物の固形分量(実施例1のバインダー組成物の水性溶媒(水)以外の成分の含有量)、アミノプロピルトリエトキシシラン、硫酸アンモニウム及び水の量は、バインダー組成物の全質量を基準として、下表に示す量となるように調整した。
【0074】
実施例7
実施例2のバインダー組成物を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、実施例7のバインダー組成物を調製した。
【0075】
実施例8
実施例4のバインダー組成物を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、実施例8のバインダー組成物を調製した。
【0076】
実施例9
実施例5のバインダー組成物を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、実施例9のバインダー組成物を調製した。
【0077】
比較例9
比較例1のバインダー組成物を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、比較例9のバインダー組成物を調製した。
【0078】
参考例1
フェノール樹脂を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、参考例1のバインダー組成物を調製した。
【0079】
4.硬さの評価
(非乾燥時ミネラルウール硬度)
実施例、比較例及び参考例のバインダー組成物にグラスウールを浸漬し、次いで、遠心脱水を行い、グラスウール中間体を得た。得られたグラスウール中間体から、縦250mm、横250mmであって、水分を除いた状態での質量が80gとなる高さを備える測定用サンプルを切り出した。次いで、高さが20mmとなるように測定用サンプルを加圧し、測定用サンプルの密度を64kg/mに調整した。次いで、密度を調整した測定用サンプルを、180℃に調整した恒温槽内で1時間加熱し、グラスウール成形体を作成した。得られたグラスウール成形体について、硬度計(株式会社エーアンドディ製、型式名:デジタルフォースゲージAD-4932A-50N)を用い、測定板をグラウウール成形体より2mm押し込んだ時の応力を硬度として測定した。これを非乾燥時ミネラルウール硬度とした。
【0080】
(乾燥時ミネラルウール硬度)
グラスウール中間体を得た後、測定用サンプルを切り出す前に、グラスウール中間体を100℃に調整した恒温槽に入れ、30分間加熱した以外は、非乾燥時ミネラルウール硬度と同様にして、硬度計を用い、測定板をグラスウール成形体より2mm押し込んだ時の応力を硬度として測定した。これを乾燥時ミネラルウール硬度とした。
【0081】
【表3】
【0082】
表3にミネラルウールの硬度の評価結果が示される。カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂、カルボン酸ジヒドラジド化合物及び4~12個のヒドロキシ基を有するポリオールを含有するバインダーを含む実施例のミネラルウールは、非乾燥時ミネラルウール強度と、乾燥時ミネラルウール強度との差が小さく(実施例6~9と、比較例9との対比)、かつ、非乾燥時及び乾燥時のいずれの製造条件であっても十分な硬さを有するものであった。すなわち、実施例のバインダー組成物を用いることによって、より広範な製造条件で十分な硬さを有するミネラルウールを製造できることが示された。
【符号の説明】
【0083】
1…ミネラルウール。

図1