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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028365
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】炭酸ランタン水和物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 17/247 20200101AFI20220208BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20220208BHJP
   A61K 33/244 20190101ALN20220208BHJP
【FI】
C01F17/247
A61P7/00
A61K33/244
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020131718
(22)【出願日】2020-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】重元 貴将
(72)【発明者】
【氏名】弘中 好美
(72)【発明者】
【氏名】宮奥 隆行
【テーマコード(参考)】
4C086
4G076
【Fターム(参考)】
4C086AA02
4C086AA04
4C086HA05
4C086HA16
4C086NA20
4C086ZA51
4G076AA16
4G076AB02
4G076AB04
4G076BA13
4G076BA43
4G076BB03
4G076BC02
4G076BC07
4G076BC08
4G076BD02
4G076BE11
4G076CA01
4G076CA02
4G076CA07
4G076CA08
4G076CA36
4G076CA40
4G076DA16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】良好なろ過性を有する炭酸ランタン水和物を効率的に得る製造方法の提供。
【解決手段】酸化ランタンと無機酸を反応させてランタンの無機酸塩溶液とした後、-5~10℃で該ランタンの無機酸塩溶液に炭酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩を添加・混合して、炭酸ランタンを析出させることを特徴とする炭酸ランタン水和物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ランタンと無機酸を反応させてランタンの無機酸塩溶液とした後、-5~10℃で該ランタンの無機酸塩溶液に炭酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩を添加・混合して、炭酸ランタンを析出させることを特徴とする炭酸ランタン水和物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ランタンを原料とした炭酸ランタン水和物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ランタン水和物は、高リン酸血症の治療薬として使用されている。炭酸ランタン水和物の製造方法として、酸化ランタンを原料にして炭酸ランタン水和物を製造する方法は既に知られている。例えば、酸化ランタンを硝酸や塩酸と反応させて得たランタン塩の溶液に、炭酸ナトリウムを室温で添加して炭酸ランタン水和物を製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平11-503119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者等が特許文献1に記載の技術で炭酸ランタン水和物を製造したところ、炭酸ランタンの湿体のろ過性に問題が発生することが明らかとなった。即ち、ランタン塩の溶液に炭酸ナトリウムを添加することにより、炭酸ランタンが溶液中に析出してくるが、炭酸ランタンを分離しようとしてろ過すると、ろ過性が悪いためろ過に時間がかかってしまい、炭酸ランタン水和物を効率的に製造することができない。
【0005】
従って、本発明の目的は炭酸ランタンの湿体のろ過性が悪く、炭酸ランタン水和物を効率的に製造できないという問題を起こすことなく炭酸ランタン水和物の製造を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため種々検討した結果、炭酸ランタンの析出温度を制御することで、湿体のろ過性を改善することが可能となり、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、酸化ランタンと無機酸を反応させてランタンの無機酸塩溶液とした後、-5~10℃で該ランタンの無機酸塩溶液に炭酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩を添加・混合して、炭酸ランタンを析出させることを特徴とする炭酸ランタン水和物の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、-5~10℃でランタンの無機酸塩溶液に炭酸塩を添加・混合して、炭酸ランタンを析出させることでろ過性の良い炭酸ランタンの湿体を得ることが可能となる。よって、ろ過を短時間で行うことが可能となり、炭酸ランタン水和物を効率的に製造することができる。
【0009】
通常、結晶の析出時の温度を低くすると、析出してくる結晶の粒径が小さくなってろ過性が悪くなる。しかしながら本発明においては、析出時の温度を低くすることによって、ろ過性を良好にすることができる。これは、室温で析出させた場合には結晶形状が板状であったが、析出時の温度を低くした場合には花弁状又は塊状であったことから、結晶形状が変化したためであると推測している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1で得られた本発明の炭酸ランタン4水和物のSEM写真である。
図2図2は、実施例4で得られた本発明の炭酸ランタン4水和物のSEM写真である。
図3図3は、比較例1で得られた炭酸ランタン4水和物のSEM写真である。
図4図4は、比較例2で得られた炭酸ランタン4水和物のSEM写真である。
図5図5は、比較例3で得られた炭酸ランタン4水和物のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、酸化ランタンと無機酸を反応させてランタンの無機酸塩溶液とした後、-5~10℃で該ランタンの無機酸溶液に炭酸塩を添加・混合して、炭酸ランタンを析出させることを特徴とする炭酸ランタン水和物の製造方法である。本発明について以下説明する。
【0012】
(酸化ランタン)
本発明において、原料の酸化ランタンとしては特に制限されることなく、試薬や工業品等として市販されているもの、または公知の手法で製造されているものを使用することができる。無機酸との反応性の観点から酸化ランタンは粉末状であることが好ましい。
【0013】
(無機酸)
本発明の製造方法において、無機酸としては特に制限されないが、純度の高い炭酸ランタンが得られることから硝酸、塩酸であることが好ましい。これら硝酸や塩酸は濃硝酸(濃度60%)、濃塩酸(濃度36%)等、試薬や工業品等として市販されているものを使用することができる。無機酸の使用量は、原料の酸化ランタン1.0モルに対し、4.0~8.0モルであることが好ましく、5.6~6.6モルであることがより好ましい。
【0014】
(ランタンの無機酸塩溶液の調製)
本発明において、ランタンの無機酸塩溶液は、酸化ランタンを水に懸濁した懸濁液と無機酸とを混合して、酸化ランタンと無機酸とを反応させて調製すれば良い。酸化ランタンの懸濁液の調製方法は特に制限されないが、ガラス製、テフロン(登録商標)製、グラスライニング製等の容器中で、メカニカルスターラー、マグネティックススターラー等を用いて、水と酸化ランタンを撹拌下で混合し、懸濁液とすれば良い。
【0015】
水と酸化ランタンの混合順序は、特に制限されない。酸化ランタンの懸濁液は、操作性等を考慮すると酸化ランタン濃度が8~25質量%であることが好ましく、10~20質量%であることがより好ましい。
【0016】
ランタンの無機酸塩溶液の調製の際の酸化ランタンの懸濁液と無機酸の混合順序も、特に制限されないが、酸化ランタンの懸濁液に無機酸を加えることが、均一性や操作性の観点で好ましい。
【0017】
また、ランタン無機酸塩溶液の調製温度は、使用する原料の酸化ランタンの種類や水の使用量等の製造条件によるため、原料の酸化ランタンと無機酸が過不足なく反応する温度に適宜調整すれば良いが、通常は25~80℃である。ただし、無機酸として塩酸を使用した場合、高温下では塩酸の揮発により、未反応の酸化ランタンが残留する傾向にあり、また、低温下では酸化ランタンと塩酸の反応に要する時間が長くなる傾向にあるため、好ましくは35~75℃、より好ましくは55~70℃である。無機酸は、温度が上昇し過ぎないように徐々に添加して混合することが好ましい。
【0018】
反応に要する時間は、目視により原料の酸化ランタンの消失を確認するなどして適宜決定すれば良い。
【0019】
ランタンの無機酸塩溶液は、調製後ろ過等により不溶物を除去することが好ましい。
【0020】
(炭酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩)
本発明の製造方法において、炭酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウムを挙げることができる。これらは特に制限されることなく、試薬や工業品等を使用することができる。また、炭酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩を使用する際の形態についても特に制限されず、固体や溶液の何れもでも良いが、操作性の観点から水溶液の形態が好ましい。
【0021】
炭酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の使用量は、原料の酸化ランタン1モルに対し、2.0~4.5モルであることが好ましく、3.0~3.5モルであることがより好ましい。
【0022】
(炭酸ランタンの析出)
本発明の製造方法における、炭酸ランタンの析出はランタンの無機酸塩溶液に炭酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩を添加・混合することよってなされる。ランタンの無機酸塩溶液への炭酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の添加・混合に用いる設備は特に制限されず、ランタンの無機酸塩溶液の製造に用いた設備を用いて行えば良い。炭酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の添加・混合は、良好なろ過性を有する炭酸ランタンの湿体を得るため、-5~10℃の範囲で行う。こうすることにより、ろ過性の良い炭酸ランタンを得ることができ、ろ過を短時間で行うことが可能となり、炭酸ランタン水和物を効率的に製造することができる。-5℃未満ではランタンの無機酸塩溶液が凍る場合があり、また、10℃を超えるとろ過性が低下する傾向がある。好ましくは0~10℃である。炭酸塩の滴下速度は、作業時間や析出する炭酸ランタンの溶媒中のへの分散具合等を確認しながら適宜決定すれば良いが、通常20分間~4時間の範囲で決定すれば良い。
【0023】
ランタンの無機酸塩溶液に炭酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩を添加・混合した後、炭酸ランタンを十分に析出させるために、攪拌したまま同じ温度で一定時間保持することが好ましい。保持時間は、通常30分間~60分間保持すれば十分であり、また、その際のpHは8.5~10.0である。このような本発明の製造方法によって、良好なろ過性を有する炭酸ランタンを含有する懸濁液を得ることができる。
【0024】
(単離操作)
本発明の製造方法で得られた炭酸ランタン水和物は良好なろ過性を有するので、上記懸濁液の減圧ろ過や加圧ろ過、遠心ろ過等を用いた固液分離により炭酸ランタンの湿体を短時間で単離することができる。固液分離操作において、上記湿体は、水により洗浄し母液を十分に取り除くことが好ましい。例えば、固液分離に使用した装置内において、湿体と洗浄液とを接触させて洗浄しても良い。装置内で洗浄に使用する水の量は、原料の酸化ランタン10g(10質量部)に対し、10~80mL(10~80容量部)であることが、洗浄効果が十分に得られることから好ましい。均一な洗浄効果を得るため、固液分離後の湿体を水と混合して、懸濁液とした後、再度固液分離を行う、即ち、リスラリー洗浄操作がより好ましい。リスラリー洗浄回数は1回以上が好ましく、2回が最も好ましい。懸濁させる水の使用量は、原料の酸化ランタン10g(10質量部)に対して、85~100mL(85~100容量部)が好ましい。装置内で洗浄に使用する水の量は、原料の酸化ランタン10g(10質量部)に対し、10~80mL(10~80容量部)が好ましい。
【0025】
得られた炭酸ランタンの湿体を乾燥することで炭酸ランタンを得ることができる。常圧下、減圧下、或いは、窒素やアルゴン等の不活性ガスの通気下において、乾燥温度、乾燥時間を制御することで、炭酸ランタンの水和水を制御することができる。具体的には、炭酸ランタン8水和物と炭酸ランタン4水和物である。乾燥温度は、60℃~80℃であり、その時間は炭酸ランタン中の水分量を確認しながら適宜決定すれば良いが、通常、4~24時間である。
【実施例0026】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等制限されることはない。
【0027】
なお、実施例、比較例の炭酸ランタンの水分量は、カールフィッシャー滴定法(KF)で測定した。さらに、実施例、比較例の塩素残量は、沈殿滴定法により測定した。
【0028】
(水分量の測定)
KFによる炭酸ランタン水和物の水分量は、下記条件で測定した。以下の実施例、比較例において、炭酸ランタン水和物の水分量は、当該条件で測定される。水分量は、炭酸ランタン水和物に含まれる水の質量の割合である。なお、水分量は、当該条件にて3回測定した平均値を採用した。
【0029】
装置:水分測定装置 CA-200(三菱ケミカル製)
測定方法:カールフィッシャー滴定気化法
滴定剤:アクアミクロンSS-Z3mg(三菱ケミカル製)
溶剤:無水メタノール
試料量:約100mg
気化温度:300℃
キャリヤーガス:窒素
キャリヤーガス流速:250mL/分
気化時間:25.5分
【0030】
(塩素残留量の測定)
電位差滴定による炭酸ランタン水和物の塩素残留量は、下記条件で測定した。以下の実施例、比較例において、炭酸ランタン水和物の塩素残留量は、当該条件で測定される。塩素残留量は、炭酸ランタン水和物に含まれる塩素の質量の割合である。なお、塩素残留量は、当該条件にて3回測定した平均値を採用した。
【0031】
装置:電位差滴定装置 AT-710(京都電子製)
測定方法:沈殿滴定法
指示電極:複合銀電極 C-373(京都電子製)
参照電極:温度補償電極 T-171(京都電子製)
滴定剤:0.01mol/L硝酸銀水溶液
試料調製:炭酸ランタン水和物約100mgを1mol/L硝酸15mLに溶解させた後、蒸留水で50mLにメスアップした。
【0032】
(実施例1)
攪拌翼、温度計を取り付けた300mLの四つ口フラスコに、酸化ランタン20.0g(61.6mmol)と水80mLを加え攪拌した。次いで、36%塩酸37.9g(374mmol)を20℃から25分かけて滴下した。滴下中の温度は55~70℃であり、1時間攪拌した後、減圧ろ過により未反応の酸化ランタンをろ過し、塩化ランタン溶液を得た。次いで、炭酸ナトリウム20.8g(196mmol)と水60mLから調製した水溶液を0~10℃で25分かけて滴下し、炭酸ランタンを析出させた。次いで、0~10℃で1時間攪拌した後、減圧ろ過(キリヤマ漏斗、90mm、ろ紙、5C)により固体を分離し、ろ過時間を測定した。この時のろ過時間は3分であった。次いで、水20mLで固体を1回洗浄し、炭酸ランタンの湿体を得た。
【0033】
攪拌翼、温度計を取り付けた300mL四つ口フラスコに、炭酸ランタンの湿体を加え、水200mLに懸濁させ、45~55℃で1時間攪拌した後、減圧ろ過により固体を分離し、水20mLで固体を1回洗浄し、炭酸ランタンの湿体を得た。
【0034】
攪拌翼、温度計を取り付けた300mL四つ口フラスコに、炭酸ランタンの湿体を加え、水200mLに懸濁させ、45~55℃で1時間攪拌した後、減圧ろ過により固体を分離し、水20mLで8回洗浄し、炭酸ランタンの湿体を得た。得られた湿体を、65℃で15時間減圧乾燥させ、31.3gの炭酸ランタン水和物を得た。カールフィッシャーで炭酸ランタンの水分量を測定し、14.0質量%であった。X線回折から、炭酸ランタン4水和物であることを確認した。原料の酸化ランタンの質量を基準とした炭酸ランタン4水和物の収率は96.2%(炭酸ランタン4水和物取得量×100/炭酸ランタン4水和物分子量529.9×酸化ランタンmol数)であった。炭酸ランタン中の塩素残留量は、0.24質量%であった。
【0035】
(実施例2~5、比較例1~4)
炭酸ナトリウムの添加・混合時の温度又は炭酸塩若しくは酸の種類を変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施した。条件と結果を表1に示した。
【0036】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5