(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028377
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20220208BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20220208BHJP
F16H 59/68 20060101ALI20220208BHJP
F16H 59/42 20060101ALI20220208BHJP
F16H 61/68 20060101ALI20220208BHJP
F16H 61/04 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
B60L15/20 K
F16H63/50
F16H59/68
F16H59/42
F16H61/68
F16H61/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020131745
(22)【出願日】2020-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】田中 将之
(72)【発明者】
【氏名】小保方 雄也
【テーマコード(参考)】
3J552
5H125
【Fターム(参考)】
3J552MA02
3J552MA04
3J552NA01
3J552NB01
3J552NB05
3J552PA02
3J552PA20
3J552PA51
3J552PA54
3J552RA04
3J552RA09
3J552SA07
3J552SA15
3J552SB35
3J552TB02
3J552TB05
3J552UA08
3J552VA05W
3J552VA32W
3J552VA78W
3J552VD02W
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125BE05
5H125CA01
5H125EE08
5H125EE41
5H125EE42
(57)【要約】
【課題】トルク相において回転電機の出力トルクを実際のトルク比の変化に合わせて変化させやすい技術を実現する。
【解決手段】制御装置は、係合側係合装置の係合と解放側係合装置の解放とを行って、変速機が形成する変速段を変速前変速段から変速後変速段に移行させる場合に、係合側係合装置の伝達トルクを漸増させる係合制御を実行して、係合側係合装置と解放側係合装置とのトルク分担比を変更するトルク相を進行させる。制御装置は、係合制御の実行中、入力部材の回転速度を変速前同期回転速度に応じた目標回転速度に近づけるように回転電機の出力トルクを制御する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、複数の係合装置を備えて前記入力部材と前記出力部材との間の動力伝達経路に配置された変速機と、を備え、前記変速機が複数の変速段を形成可能に構成された車両用駆動装置を、制御対象とする制御装置であって、
複数の前記係合装置のうちの係合側係合装置の係合と解放側係合装置の解放とを行って、前記変速機が形成する変速段を変速前変速段から変速後変速段に移行させる場合に、前記係合側係合装置の伝達トルクを漸増させる係合制御を実行して、前記係合側係合装置と前記解放側係合装置とのトルク分担比を変更するトルク相を進行させ、
前記係合制御の実行中、前記入力部材の回転速度を変速前同期回転速度に応じた目標回転速度に近づけるように前記回転電機の出力トルクを制御する、制御装置。
【請求項2】
前記解放側係合装置は、噛み合い式の係合装置であり、
前記目標回転速度を、前記変速前同期回転速度に一致させる、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記解放側係合装置は、摩擦式の係合装置であり、
前記車輪に前進加速方向のトルクである正トルクが伝達されている状態では、前記目標回転速度を、前記変速前同期回転速度より規定値だけ高い回転速度とし、前記車輪に前記正トルクとは反対方向のトルクである負トルクが伝達されている状態では、前記目標回転速度を、前記変速前同期回転速度より規定値だけ低い回転速度とする、請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記係合制御では、前記係合側係合装置の伝達トルクを、前記変速前変速段から前記変速後変速段への移行前後で前記回転電機から前記車輪に伝達されるトルクを同等とするための目標伝達トルクに向けて漸増させ、
前記目標伝達トルクを前記回転電機でのトルクに換算したトルクを目標出力トルクとして、
前記係合制御では、前記係合側係合装置の伝達トルクの指令値が前記目標伝達トルクに応じた目標指令値に到達した時点での前記回転電機の出力トルクと前記目標出力トルクとのトルク差に応じて、前記回転電機の出力トルクを前記目標出力トルクに近づけるように前記係合側係合装置の伝達トルクの指令値を調整する、請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記係合制御では、過去の前記係合制御での前記トルク差に応じて、前記目標指令値を調整する、請求項4に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機が複数の変速段を形成可能に構成された車両用駆動装置を、制御対象とする制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような制御装置の一例が、特開2011-94757号公報(特許文献1)に開示されている。以下、背景技術の説明において括弧内に示す符号は特許文献1のものである。特許文献1では、制御装置(2)による制御対象の車両用駆動装置(1)が、回転電機(12)に駆動連結される入力部材(I)と車輪(17)に駆動連結される出力部材(O)との間の動力伝達経路に、複数の係合装置を備えて複数の変速段を形成可能な変速機(13)を備えている。この制御装置(2)は、係合側係合装置(Ee)の係合と解放側係合装置(Er)の解放とを行って、変速機(13)が形成する変速段を変速前変速段から変速後変速段に移行させる場合に、係合側係合装置(Ee)への供給油圧の指令値を一定の変化率で上昇させてトルク相(Pt)を進行させると共に、トルク相(Pt)において回転電機(12)の出力トルクを一定の変化率で変化させるように構成されている。回転電機(12)の出力トルクをこのように変化させることで、トルク相(Pt)における出力部材(O)のトルク変動を抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、トルク相では、出力部材のトルクに対する入力部材のトルクの比であるトルク比が、変速前変速段の変速比に応じたトルク比から、変速後変速段の変速比に応じたトルク比に変化する。トルク相における出力部材のトルク変動を抑制するためには、トルク比の変化に合わせて回転電機の出力トルクを変化させることが望ましい。しかしながら、係合装置には一般に伝達トルクの指令値(特許文献1では供給油圧の指令値)に対する実伝達トルクに誤差があり、この誤差のために、トルク相における実際のトルク比の変化に対する、回転電機の出力トルクの変化にもずれが生じ得るものとなっていた。
【0005】
そこで、トルク相において回転電機の出力トルクを実際のトルク比の変化に合わせて変化させやすい技術の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る制御装置は、回転電機に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、複数の係合装置を備えて前記入力部材と前記出力部材との間の動力伝達経路に配置された変速機と、を備え、前記変速機が複数の変速段を形成可能に構成された車両用駆動装置を、制御対象とする制御装置であって、複数の前記係合装置のうちの係合側係合装置の係合と解放側係合装置の解放とを行って、前記変速機が形成する変速段を変速前変速段から変速後変速段に移行させる場合に、前記係合側係合装置の伝達トルクを漸増させる係合制御を実行して、前記係合側係合装置と前記解放側係合装置とのトルク分担比を変更するトルク相を進行させ、前記係合制御の実行中、前記入力部材の回転速度を変速前同期回転速度に応じた目標回転速度に近づけるように前記回転電機の出力トルクを制御する。
【0007】
本構成では、係合制御の実行中、入力部材の回転速度を変速前同期回転速度に応じた目標回転速度に近づけるように回転電機の出力トルクが制御される。係合制御の実行中は、トルク比が変速前変速段の変速比に応じたトルク比から変速後変速段の変速比に応じたトルク比に向かって変化するが、回転電機の出力トルクを上記のように制御することで、各時点でのトルク比に応じたトルクとなるように回転電機の出力トルクを変化させることができる。よって、トルク相において回転電機の出力トルクを予め定めた一定の変化率で変化させる場合に比べて、トルク相において回転電機の出力トルクを実際のトルク比の変化に合わせて変化させやすい。
【0008】
制御装置の更なる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】制御装置において実行される制御フローの一例を示すフローチャート
【
図4】制御装置において実行される制御フローの別例を示すフローチャート
【
図5】アップシフト時の制御挙動の一例を示すタイムチャート
【
図6】アップシフト時の制御挙動の別例を示すタイムチャート
【
図7】ダウンシフト時の制御挙動の一例を示すタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
制御装置の実施形態について、図面を参照して説明する。本明細書では、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。また、本明細書では、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力(トルクと同義)を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材(例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等)が含まれる。伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置(例えば、摩擦式の係合装置、噛み合い式の係合装置等)が含まれていてもよい。
【0011】
制御装置5は、車両用駆動装置4を制御対象とする制御装置である。制御装置5による制御対象となり得る車両用駆動装置4の一例を
図1に示し、別例を
図2に示す。制御装置5による制御対象となる車両用駆動装置4は、
図1や
図2に示す車両用駆動装置4に限られず、他の構成の車両用駆動装置4であってもよい。
【0012】
図1及び
図2に示すように、車両用駆動装置4は、回転電機3に駆動連結される入力部材20と、車輪2に駆動連結される出力部材30と、入力部材20と出力部材30との間の動力伝達経路に配置された変速機10と、を備えている。なお、
図1及び
図2では、機能が共通する部分に同一の符号を付与しており、
図2では、
図1における一部の構成を省略している。回転電機3に加えて別の駆動力源が、入力部材20に駆動連結されていてもよい。この別の駆動力源は、回転電機に限られず、他の種類の駆動力源(例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関)であってもよい。
【0013】
図1に示すように、回転電機3は、直流電力と交流電力との間で電力変換を行うインバータ装置6を介して、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置7と電気的に接続されている。回転電機3は、蓄電装置7から電力の供給を受けて力行し、或いは、車両1の慣性力等により発電した電力を蓄電装置7に供給して蓄電させる。回転電機3として、3相交流(多相交流の一例)で駆動される交流回転電機を用いることができる。
【0014】
図1及び
図2に示す2つの例では、入力部材20は、回転電機3(具体的には、回転電機3のロータ軸)と一体的に回転するように、回転電機3に連結されている。また、これら2つの例では、出力部材30は、2つの車輪2に駆動連結されている。具体的には、出力部材30は、出力用差動歯車装置31を介して2つの車輪2(例えば、2つの前輪又は2つの後輪)に連結されている。出力用差動歯車装置31は、例えば傘歯車式又は遊星歯車式等の差動歯車機構を備え、差動入力ギヤとして機能する出力部材30の回転を2つの車輪2に分配する。
図1に示すように、車両1には、車輪2に連結される車軸2aが設けられている。車軸2aは、車輪2と一体的に回転する軸部材(ドライブシャフト)である。
図1に示す例では、車軸2aは、出力用差動歯車装置31と車輪2とを連結しており、出力用差動歯車装置31は、出力部材30の回転を2つの車軸2aに分配することで、出力部材30の回転を2つの車輪2に分配する。出力部材30が、2つの車輪2ではなく1つの車輪2(すなわち、2つの車軸2aではなく1つの車軸2a)に駆動連結される構成とすることもできる。
【0015】
変速機10は、入力部材20の回転を変速して出力部材30に伝達する。変速機10は、出力部材30の回転速度に対する入力部材20の回転速度の比である変速比を変更可能に構成されている。変速機10は、変速比の異なる複数の変速段を形成可能な有段の自動変速機であり、本実施形態では、第1変速段と、第1変速段より変速比の小さい第2変速段と、を形成可能に構成されている。このように、変速機10は複数の変速段(本実施形態では、第1変速段及び第2変速段を含む複数の変速段)を形成可能に構成されている。変速機10は、複数の係合装置60を備えている。
図1及び
図2に示す例では、変速機10は、係合装置60である第1係合装置11と、第1係合装置11とは別の係合装置60である第2係合装置12と、を備えている。そして、変速機10は、第1係合装置11が係合し且つ第2係合装置12が解放した状態で第1変速段を形成し、第1係合装置11が解放し且つ第2係合装置12が係合した状態で第2変速段を形成するように構成されている。
【0016】
図1に示す例では、第1係合装置11は、噛み合い式の係合装置(ドグクラッチ)である。噛み合い式の係合装置の係合の状態は、係合状態と解放状態とに切り替えられる。噛み合い式の係合装置の係合の状態は、電動アクチュエータ、油圧アクチュエータ、電磁アクチュエータ等のアクチュエータによって切り替えられる。具体的には、
図1に示す例では、第1係合装置11は、アクチュエータにより軸方向に駆動されるスリーブ部材15を備えており、第1係合装置11の係合の状態は、スリーブ部材15の軸方向の位置に応じて切り替えられる。ここで、軸方向は、第1係合装置11が配置される軸(
図1に示す例では中間部材40が配置される軸)に沿う方向である。
【0017】
図2に示す例では、第1係合装置11は、摩擦式の係合装置である。また、
図1及び
図2に示す例では、第2係合装置12は、摩擦式の係合装置である。摩擦式の係合装置として、例えば、湿式多板クラッチを用いることができる。摩擦式の係合装置の係合の状態は、直結係合状態と滑り係合状態と解放状態とに切り替えられる。摩擦式の係合装置の係合の状態は、電動アクチュエータ、油圧アクチュエータ(油圧サーボ機構等)、電磁アクチュエータ等のアクチュエータによって切り替えられる。直結係合状態では、摩擦式の係合装置の係合部材間に回転速度差(滑り)がない状態で、静摩擦により係合部材間でトルクが伝達される。滑り係合状態では、摩擦式の係合装置の係合部材間に回転速度差がある状態で、動摩擦により係合部材間でトルクが伝達される。摩擦式の係合装置には、制御装置5により伝達トルク容量を生じさせる指令が出されていない場合でも、係合部材同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じる場合がある。本明細書では、このような引き摺りトルクは係合の状態の分類に際して考慮せず、伝達トルク容量を生じさせる指令が出されていない場合に係合部材同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じている状態(すなわち、引き摺りトルクが発生している状態)は「解放状態」とする。
【0018】
図1に示す例では、変速機10は、複数の平行な軸に配置された複数の歯車が相互に噛み合う構成を備えた平行軸歯車式の変速機である。
図1に示す変速機10は、入力部材20とそれぞれ同軸に配置された第1入力ギヤ21及び第2入力ギヤ22と、中間部材40とそれぞれ同軸に配置された第1中間ギヤ41及び第2中間ギヤ42を備えている。中間部材40は、入力部材20とは別軸(入力部材20が配置される軸と平行な軸)に配置されており、出力部材30を構成するギヤに噛み合う第3中間ギヤ43を備えている。第1中間ギヤ41は第1入力ギヤ21に噛み合い、第2中間ギヤ42は第2入力ギヤ22に噛み合っている。第1入力ギヤ21と第1中間ギヤ41とのギヤ比、及び第2入力ギヤ22と第2中間ギヤ42とのギヤ比は、第1中間ギヤ41の回転速度に対する第1入力ギヤ21の回転速度の比が第2中間ギヤ42の回転速度に対する第2入力ギヤ22の回転速度の比より大きくなるように設定されている。
【0019】
第1係合装置11が係合し且つ第2係合装置12が解放して第1変速段が形成された状態では、入力部材20と中間部材40とが第1入力ギヤ21と第1中間ギヤ41とのギヤ対を介して連結され、入力部材20の回転が当該ギヤ対のギヤ比に応じて変速されて中間部材40に伝達される。また、第1係合装置11が解放し且つ第2係合装置12が係合して第2変速段が形成された状態では、入力部材20と中間部材40とが第2入力ギヤ22と第2中間ギヤ42とのギヤ対を介して連結され、入力部材20の回転が当該ギヤ対のギヤ比に応じて変速されて中間部材40に伝達される。
【0020】
図1に示す例では、第1入力ギヤ21及び第2入力ギヤ22は、入力部材20と一体的に回転するように入力部材20に連結されている。そして、第1係合装置11は、第1中間ギヤ41と中間部材40とを選択的に連結し、第2係合装置12は、第2中間ギヤ42と中間部材40とを選択的に連結する。第1係合装置11が係合して第1中間ギヤ41と中間部材40とが連結され、第2係合装置12が解放して第2中間ギヤ42と中間部材40との連結が解除された状態で、第1変速段が形成される。また、第1係合装置11が解放して第1中間ギヤ41と中間部材40との連結が解除され、第2係合装置12が係合して第2中間ギヤ42と中間部材40とが連結した状態で、第2変速段が形成される。
【0021】
図1に示す例では、スリーブ部材15は、中間部材40と一体的に回転する第3係合部40aに外嵌するように配置されている。具体的には、スリーブ部材15の内周部に形成された内歯が、第3係合部40aの外周部に形成された外歯に、相対回転が規制され且つ軸方向の相対移動が許容される形態で係合している(具体的には、スプライン係合している)。そして、スリーブ部材15が、第3係合部40aと、第1中間ギヤ41と一体的に回転する第1係合部41aとの双方に係合する軸方向の位置(
図1に示すスリーブ部材15の位置より図中右側の位置)に移動した状態で、第1係合装置11が係合して第1中間ギヤ41と中間部材40とが連結される。この状態では、スリーブ部材15の内周部に形成された内歯が、第3係合部40aの外周部に形成された外歯と第1係合部41aの外周部に形成された外歯との双方に係合している。また、スリーブ部材15が、第1係合部41aに係合しない軸方向の位置(例えば、
図1に示すスリーブ部材15の位置)に移動した状態で、第1係合装置11が解放して第1中間ギヤ41と中間部材40との連結が解除される。
【0022】
図1に示す例では、変速機10は、更に、第1係合装置11及び第2係合装置12とは別の係合装置60である第3係合装置13を備えている。第3係合装置13は、第2係合装置12と並列に設けられており、第2中間ギヤ42と中間部材40とを選択的に連結する。よって、第2係合装置12に代えて第3係合装置13を係合させることでも、第2変速段が形成される。第3係合装置13は、噛み合い式の係合装置である。
図1に示す例では、第1係合装置11と第3係合装置13とが共通のスリーブ部材15を用いて構成されており、第3係合装置13の係合の状態は、スリーブ部材15の軸方向の位置に応じて切り替えられる。具体的には、スリーブ部材15が、第3係合部40aと、第2中間ギヤ42と一体的に回転する第2係合部42aとの双方に係合する軸方向の位置(
図1に示すスリーブ部材15の位置より図中左側の位置)に移動した状態で、第3係合装置13が係合して第2中間ギヤ42と中間部材40とが連結される。この状態では、スリーブ部材15の内周部に形成された内歯が、第3係合部40aの外周部に形成された外歯と第2係合部42aの外周部に形成された外歯との双方に係合している。また、スリーブ部材15が、第2係合部42aに係合しない軸方向の位置(例えば、
図1に示すスリーブ部材15の位置)に移動した状態で、第3係合装置13が解放されて第2中間ギヤ42と中間部材40との連結が解除される。
【0023】
図2に示す例では、変速機10は、1つ以上の遊星歯車機構(ここでは、1つの遊星歯車機構50)を用いて構成される遊星歯車式の変速機である。遊星歯車機構50は、シングルピニオン型の遊星歯車機構であり、サンギヤ51と、リングギヤ52と、サンギヤ51及びリングギヤ52の双方に噛み合うピニオンギヤ53を回転自在に支持するキャリヤ54と、を備えている。リングギヤ52は、入力部材20と一体的に回転するように入力部材20に連結され、キャリヤ54は、出力部材30を構成するギヤに噛み合う出力ギヤ55と一体的に回転するように出力ギヤ55に連結されている。
【0024】
図2に示す例では、第1係合装置11は、サンギヤ51を車両用駆動装置4のケース9(固定部材の一例)に選択的に固定し、第2係合装置12は、サンギヤ51とキャリヤ54とを選択的に連結する。第1係合装置11が係合してサンギヤ51がケース9に固定され、第2係合装置12が解放してサンギヤ51とキャリヤ54との連結が解除された状態で、第1変速段が形成される。この状態では、入力部材20の回転が、遊星歯車機構50のギヤ比に応じて減速されて、出力ギヤ55に伝達される。また、第1係合装置11が解放してサンギヤ51がケース9から切り離され、第2係合装置12が係合してサンギヤ51とキャリヤ54とが連結した状態で、第2変速段が形成される。この状態では、入力部材20の回転が、そのままの回転速度で出力ギヤ55に伝達される。
【0025】
次に、制御装置5の構成について説明する。制御装置5は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置を中核部材として備えると共に、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の当該演算処理装置が参照可能な記憶装置を備えている。そして、ROM等の記憶装置に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御装置5の各機能が実現される。制御装置5が備える演算処理装置は、各プログラムを実行するコンピュータとして動作する。
【0026】
図1に簡略化して示すように、車両1にはセンサ群8が設けられており、制御装置5は、センサ群8を構成する各種センサの検出情報(センサ検出情報)を取得可能に構成されている。センサ検出情報には、例えば、アクセル開度の情報、ブレーキ操作量の情報、車速の情報、入力部材20の回転速度の情報、出力部材30の回転速度の情報、車両1の運転者によるレンジ(走行レンジ、ニュートラルレンジ、パーキングレンジ等)の選択操作の情報、車両1の運転者による変速段の変更操作(シフト操作)の情報、スリーブ部材15の軸方向の位置或いは移動量の情報が含まれる。
【0027】
制御装置5は、複数の係合装置60のうちの係合側係合装置の係合と解放側係合装置の解放とを行って、変速機10が形成する変速段を変速前変速段から変速後変速段に移行させる場合に、係合側係合装置の伝達トルクを漸増させる(具体的には、伝達トルクの絶対値を漸増させる)係合制御を実行して、係合側係合装置と解放側係合装置とのトルク分担比を変更するトルク相を進行させる。制御装置5は、係合側係合装置のアクチュエータの動作を制御して係合側係合装置の係合圧を漸増させることで、係合側係合装置の伝達トルクを漸増させる。
【0028】
制御装置5は、係合側係合装置が摩擦式の係合装置である場合に、係合制御を実行してトルク相を進行させる。
図1に示す例では、変速前変速段が第1変速段であり変速後変速段が第2変速段である場合に、係合側係合装置が摩擦式の係合装置(具体的には、第2係合装置12)となる。
図2に示す例では、変速前変速段が第1変速段であり変速後変速段が第2変速段である場合と変速前変速段が第2変速段であり変速後変速段が第1変速段である場合との双方において、係合側係合装置が摩擦式の係合装置(具体的には、前者の場合には第2係合装置12、後者の場合には第1係合装置11)となる。
【0029】
制御装置5は、係合制御の実行中、入力部材20の回転速度を変速前同期回転速度に応じた目標回転速度に近づけるように回転電機3の出力トルクを制御する。ここで、変速前同期回転速度は、出力部材30の回転速度と変速前変速段の変速比とに応じて定まる入力部材20の回転速度である。具体的には、変速前同期回転速度は、出力部材30の回転速度に変速前変速段の変速比を乗算した回転速度である。また、「変速前同期回転速度に応じた目標回転速度」は、後に参照する
図5に示す例のように、目標回転速度が変速前同期回転速度に等しい場合と、後に参照する
図6及び
図7に示す例のように、目標回転速度が変速前同期回転速度に対して規定値だけ異なる場合との、双方を含む概念である。
【0030】
制御装置5は、変速段の移行がパワーオンアップシフト又はパワーオフダウンシフトである場合に、係合制御の実行中、入力部材20の回転速度を変速前同期回転速度に応じた目標回転速度に近づけるように回転電機3の出力トルクを制御する。パワーオンアップシフトは、車輪2に前進加速方向のトルクである正トルクが伝達されている状態(例えば、アクセルオン状態)でのアップシフト(変速比が相対的に小さくなる側への変速段の移行)であり、パワーオフダウンシフトは、車輪2に正トルクとは反対方向の負トルクが伝達されている状態(例えば、アクセルオフ状態)でのダウンシフト(変速比が相対的に大きくなる側への変速段の移行)である。
【0031】
制御装置5は、係合制御の実行中、回転電機3を回転速度制御することで、入力部材20の回転速度を目標回転速度に近づけるように回転電機3の出力トルクを制御する。回転電機3の回転速度制御は、回転電機3に目標回転速度を指令し、回転電機3の回転速度をその目標回転速度に追従させるように回転電機3の出力トルクを決定する制御である。制御装置5は、回転電機3をトルク制御する場合もある。回転電機3のトルク制御は、回転電機3に目標トルクを指令し、回転電機3の出力トルクをその目標トルクに追従させる制御である。制御装置5は、例えば、センサ検出情報(例えば、アクセル開度及び車速の情報)に基づき、回転電機3の目標トルクを決定する。車輪2に伝達することが要求されるトルクを車輪要求トルクとして、回転電機3の目標トルクは、基本的に、車輪要求トルクを回転電機3でのトルクに換算したトルク(具体的には、車輪要求トルクを回転電機3から車輪2までの動力伝達経路の総変速比で除算したトルク)に設定される。
【0032】
制御装置5は、変速段の移行要求(具体的には、パワーオンアップシフト又はパワーオフダウンシフトの要求)があると、例えば
図3又は
図4の処理手順に沿って、係合側係合装置の係合と解放側係合装置の解放とを行って、変速機10が形成する変速段を変速前変速段から変速後変速段に移行させる。制御装置5は、例えば、センサ検出情報(例えば、アクセル開度及び車速の情報)に基づき決定される目標変速段が変更された場合や、車両1の運転者によるシフト操作が検出された場合に、変速段の移行要求があると判定する。
図3は、
図1に示す変速機10において第1変速段から第2変速段への移行動作を行う場合のように、解放側係合装置が噛み合い式の係合装置である場合の制御フローの一例を示している。
図4は、
図2に示す変速機10において第1変速段から第2変速段への移行動作や第2変速段から第1変速段への移行動作を行う場合のように、解放側係合装置が摩擦式の係合装置である場合の制御フローの一例を示している。
【0033】
制御装置5が
図3に示す処理手順に沿って変速機10の変速動作を制御する場合、変速段の移行要求があると(ステップ#01:Yes)、制御装置5は、係合制御及び回転速度制御を開始する(ステップ#02)。ステップ#02や後述するステップ#12(
図4参照)における回転速度制御は、入力部材20の回転速度を変速前同期回転速度に応じた目標回転速度に近づけるように回転電機3の出力トルクを制御する制御である。係合制御の開始タイミングと回転速度制御の開始タイミングとは、同じであっても異なっていてもよい。
【0034】
制御装置5は、係合制御及び回転速度制御を開始した後、解放側係合装置を解放する解放制御の開始条件が成立したか否かを判定し(ステップ#03)、開始条件が成立したと判定すると(ステップ#03:Yes)、解放制御を開始する(ステップ#04)。制御装置5は、解放制御を開始した後、解放側係合装置が解放したか否かを判定し(ステップ#05)、解放側係合装置が解放したと判定すると(ステップ#05:Yes)、同期制御を行い(ステップ#06)、変速段の移行が完了する。ステップ#06や後に説明するステップ#14(
図4参照)における同期制御は、入力部材20の回転速度を変速後同期回転速度に近づけるように回転電機3の出力トルクを制御する制御である。変速後同期回転速度は、出力部材30の回転速度と変速後変速段の変速比とに応じて定まる入力部材20の回転速度である。具体的には、変速後同期回転速度は、出力部材30の回転速度に変速後変速段の変速比を乗算した回転速度である。
図3に示す各工程の詳細は、後に
図5を参照して説明する。
【0035】
制御装置5が
図4に示す処理手順に沿って変速機10の変速動作を制御する場合、変速段の移行要求があると(ステップ#11:Yes)、制御装置5は、係合制御、解放側係合装置を解放する解放制御、及び回転速度制御を開始する(ステップ#12)。係合制御の開始タイミングと、解放制御の開始タイミングと、回転速度制御の開始タイミングとは、同じであっても異なっていてもよい。制御装置5は、係合制御、解放制御、及び回転速度制御を開始した後、トルク相が終了したか否かを判定し(ステップ#13)、トルク相が終了したと判定すると(ステップ#13:Yes)、同期制御を行い(ステップ#14)、変速段の移行が完了する。
図4に示す各工程の詳細は、後に
図6及び
図7を参照して説明する。
【0036】
図5は、制御装置5が、
図3に示す処理手順に沿って、
図1に示す変速機10において第1変速段から第2変速段への変速段の移行を行う場合の制御挙動の一例を示している。
図5では、入力部材20の回転速度である入力回転速度のグラフ、出力部材30の回転速度である出力回転速度のグラフ、回転電機3の出力トルクである回転電機トルクのグラフ、係合側係合装置(第2係合装置12)及び解放側係合装置(第1係合装置11)のそれぞれの伝達トルクのグラフ、解放側係合装置(第1係合装置11)が備えるスリーブ部材15のストローク(軸方向位置)のグラフ、及び、係合側係合装置(第2係合装置12)の係合圧(具体的には、係合圧の指令値)のグラフを、上から順に示している。
図5や後に参照する
図6及び
図7に示す例において、入力回転速度のグラフにおける“1st”で示す回転速度は、出力部材30の回転速度に第1変速段の変速比を乗算した回転速度であり、入力回転速度のグラフにおける“2nd”で示す回転速度は、出力部材30の回転速度に第2変速段の変速比を乗算した回転速度である。
図5では、“1st”で示す回転速度が「変速前同期回転速度」に相当し、“2nd”で示す回転速度が「変速後同期回転速度」に相当する。
【0037】
図5では、時刻t1より前の時点において、変速機10が第1変速段を形成している状態で、車両1が走行している状況を想定している。時刻t1より前の時点では、制御装置5は回転電機3をトルク制御しており、回転電機3は、車輪要求トルクを回転電機3でのトルクに換算したトルク(車両1を前進させる方向の正トルク)を出力するように制御されている。時刻t1において変速段の移行要求(具体的には、パワーオンアップシフトの要求)があると、制御装置5は、時刻t1又はそれより後の時点で、係合制御及び回転速度制御(回転電機3の回転速度制御)を開始する。
【0038】
図5では、係合側係合装置のアクチュエータが油圧アクチュエータ(具体的には、油圧サーボ機構)である場合を想定しており、制御装置5は、時刻t1より後の時刻t2において、係合側係合装置の係合圧を上昇させるための準備制御(具体的には、作動油を予備充填する制御)を開始する。その後、制御装置5は、時刻t2より後の時刻t3において、係合制御を、言い換えれば、係合側係合装置の係合圧を漸増させる制御(具体的には、作動油の予備充填後の値から漸増させる制御)を開始する。
図5や後に参照する
図6及び
図7に示す例では、係合側係合装置の係合圧を一定の変化率で漸増させることで、係合側係合装置の伝達トルクを一定の変化率で漸増させている。時刻t3以降、係合側係合装置と解放側係合装置とのトルク分担比が変更するトルク相が進行する。具体的には、時刻t3以降、係合側係合装置の係合圧の漸増に伴い係合側係合装置の伝達トルクが漸増して、変速機10が伝達するトルクのうちの係合側係合装置が分担する割合が高くなり、これに伴い、解放側係合装置の伝達トルクがゼロに向かって漸減する。
【0039】
図5では、制御装置5は、時刻t1において回転電機3の回転速度制御を開始し、時刻t1以降、入力部材20の回転速度を変速前同期回転速度に応じた目標回転速度に近づけるように回転電機3の出力トルクを制御する。この制御は、係合制御が開始する時刻t3以降も行われるため、時刻t3以降、回転電機3の出力トルクが、各時点でのトルク比(出力部材30のトルクに対する入力部材20のトルクの比)に応じたトルクとなるように変化する。
図5や後に参照する
図6及び
図7に示す例では、出力部材30のトルクが一定となるように変速前同期回転速度やそれに応じた目標回転速度を設定する場合を想定しており、回転電機3の出力トルクは、出力部材30のトルクを維持するようにトルク比の変化に合わせて変化する。
【0040】
図5に示す例では、解放側係合装置(第1係合装置11)は、噛み合い式の係合装置であり、制御装置5は、変速前同期回転速度に応じた上記の目標回転速度を、変速前同期回転速度に一致させる。解放側係合装置が噛み合い式の係合装置である場合、トルク相の終期において解放側係合装置が解放されるまでの間、解放側係合装置は係合した状態とされる。解放側係合装置が噛み合い式の係合装置である場合に、このように目標回転速度を変速前同期回転速度に一致させることで、目標回転速度を適切に設定して、トルク相において回転電機3の出力トルクを実際のトルク比の変化に合わせて変化させることができる。
【0041】
図5や後に参照する
図6及び
図7に示す例では、制御装置5は、係合制御では、係合側係合装置の伝達トルクを、変速前変速段から変速後変速段への移行前後で回転電機3から車輪2に伝達されるトルクを同等とするための目標伝達トルクに向けて漸増させる。ここで、目標伝達トルクを回転電機3でのトルクに換算したトルクを目標出力トルクとする。すなわち、目標出力トルクは、目標伝達トルクを回転電機3から係合側係合装置までの動力伝達経路の総変速比で除算したトルクである。変速段の移行前における回転電機3の出力トルクを“T”とし、変速前変速段の変速比を“G1”とし、変速後変速段の変速比を“G2”とすると、目標出力トルクは、T×G1/G2で表される。そして、本実施形態では、制御装置5は、係合制御では、係合側係合装置の伝達トルクの指令値が目標伝達トルクに応じた目標指令値に到達した時点での回転電機3の出力トルクと目標出力トルクとのトルク差に応じて、回転電機3の出力トルクを目標出力トルクに近づけるように係合側係合装置の伝達トルクの指令値(ここでは、係合圧の指令値)を調整する。例えば、制御装置5が、上記トルク差が規定値以上である場合にこのような調整を行う構成とすることができる。なお、回転電機3の出力トルクの大きさは、例えば、回転電機3を流れる電流値に基づき取得することができる。
【0042】
係合制御の実行中は、入力部材20の回転速度を変速前同期回転速度に応じた目標回転速度に近づけるように回転電機3の出力トルクが制御される。そのため、係合側係合装置の伝達トルクの指令値が目標指令値に到達した時点での回転電機3の出力トルクは、当該時点での係合側係合装置の実伝達トルクに応じたトルクとなり、この時点での係合側係合装置の実伝達トルクが目標伝達トルクと異なる場合には、これら2つの伝達トルクの差に応じたトルク差が回転電機3の出力トルクと目標出力トルクとの間に生じる。上記のように、係合側係合装置の伝達トルクの指令値が目標伝達トルクに応じた目標指令値に到達した時点での回転電機3の出力トルクと目標出力トルクとのトルク差に応じて、回転電機3の出力トルクを目標出力トルクに近づけるように係合側係合装置の伝達トルクの指令値を調整することで、当該トルク差に基づき係合側係合装置の実伝達トルクと目標伝達トルクとのずれを把握して、係合側係合装置の実伝達トルクが目標伝達トルクに近づくように係合側係合装置の伝達トルクの指令値を調整することができる。
【0043】
特に、
図5で想定している状況のように、解放側係合装置が噛み合い式の係合装置である場合には、解放側係合装置の解放に伴う車両1の加速度変動を小さく抑えるために、解放側係合装置の伝達トルクがゼロに近い状態で解放側係合装置を解放できることが望ましい。この点に関して、上記のように係合側係合装置の実伝達トルクと目標伝達トルクとのずれを把握して、係合側係合装置の実伝達トルクが目標伝達トルクに近づくように係合側係合装置の伝達トルクの指令値を調整することで、係合側係合装置の実伝達トルクを目標伝達トルクに近づけて、解放側係合装置の伝達トルクをゼロに近づけることができる。よって、係合側係合装置の伝達トルクの指令値が目標指令値に到達した時点での係合側係合装置の実伝達トルクが目標伝達トルクと異なる場合であっても、解放側係合装置の伝達トルクがゼロに近い状態で解放側係合装置を解放することが可能となる。
【0044】
制御装置5が、係合制御では、過去の係合制御(例えば、前回の係合制御)でのトルク差(係合側係合装置の伝達トルクの指令値が目標伝達トルクに応じた目標指令値に到達した時点での回転電機3の出力トルクと目標出力トルクとのトルク差)に応じて、目標指令値を調整する構成とすると好適である。この場合、過去の変速挙動を学習して、係合側係合装置の伝達トルクの指令値が目標指令値に到達した時点での係合側係合装置の実伝達トルクが目標伝達トルクに近づくように、目標指令値を調整することができる。例えば、過去の係合制御における、回転電機3の出力トルクを目標出力トルクに近づけるための調整後の係合側係合装置の伝達トルクの指令値を、目標伝達トルクに応じた新たな目標指令値として用いる構成とすることができる。
【0045】
図5では、係合側係合装置の伝達トルクの指令値(ここでは、係合圧の指令値)が、時刻t4において、目標伝達トルクに応じた目標指令値に到達する。
図5では、係合側係合装置の伝達トルクの指令値が目標指令値に到達した時点で、回転電機3の出力トルクと目標出力トルクとの間にトルク差がない場合を実線で示している。この場合、係合側係合装置の伝達トルクの指令値が目標指令値に到達した時点で、係合制御は終了され、係合側係合装置の伝達トルクはその後維持される。また、
図5では、係合側係合装置における伝達トルクの指令値に対する実伝達トルクの誤差によって、係合側係合装置の伝達トルクの指令値が目標指令値に到達した時点で、回転電機3の出力トルクと目標出力トルクとの間にトルク差がある場合を破線で示している。具体的には、係合側係合装置の伝達トルクの指令値が目標指令値に到達した時点での係合側係合装置の伝達トルクが目標伝達トルクより大きいために、回転電機3の出力トルクが目標出力トルクよりも大きくなっている場合を破線で示している。
図5の破線で示される例では、回転電機3の出力トルクと目標出力トルクとトルク差に応じて、回転電機3の出力トルクを目標出力トルクに近づけるように係合側係合装置の伝達トルクの指令値が調整されることで(ここでは、伝達トルクが小さくなる側へ調整されることで)、時刻t5において、回転電機3の出力トルクが目標トルクに等しくなると共に、係合側係合装置の伝達トルクが目標伝達トルクに等しくなっている。係合側係合装置の伝達トルクの指令値の調整が行われる場合、当該調整が完了した時点で係合制御は終了され、係合側係合装置の伝達トルクはその後維持される。
【0046】
図5に示す例では、制御装置5は、回転電機3の出力トルクと目標出力トルクとのトルク差が規定値以下となった後の時刻t5において、解放側係合装置を解放する解放制御を開始する。この場合、
図3のステップ#03における開始条件は、係合側係合装置の伝達トルクの指令値が目標指令値に到達した時点以降であって、回転電機3の出力トルクと目標出力トルクとのトルク差が規定値以下である場合に成立する。制御装置5は、解放制御では、解放側係合装置(第1係合装置11)のアクチュエータの動作を制御して、スリーブ部材15に軸方向の推力を付与することで、スリーブ部材15を、第1係合装置11が係合する位置(係合位置)から第1係合装置11が解放する位置(解放位置)まで移動させる。
【0047】
図5に示す例では、時刻t6において、スリーブ部材15が解放位置に到達することで、解放側係合装置が解放される。制御装置5は、時刻t6において解放側係合装置が解放すると、入力部材20の回転速度を変速前同期回転速度に応じた目標回転速度に近づけるように回転電機3の出力トルクを制御する制御を終了して、同期制御を開始する。同期制御は、入力部材20の回転速度を変速後同期回転速度に近づけるように回転電機3の出力トルクを制御する制御である。そして、時刻t7において入力部材20の回転速度が変速後同期回転速度に到達すると(言い換えれば、入力部材20の回転速度と変速後同期回転速度との回転速度差が規定値以下になると)、制御装置5は、回転電機3の回転速度制御を終了して回転電機3のトルク制御を開始すると共に、係合側係合装置の係合圧を上昇させる(例えば、ライン圧まで上昇させる)制御を行い、時刻t8において変速段の移行が完了する。
【0048】
図6は、制御装置5が、
図4に示す処理手順に沿って、
図2に示す変速機10において第1変速段から第2変速段への変速段の移行を行う場合の制御挙動の一例を示している。
図6では、入力部材20の回転速度である入力回転速度のグラフ、出力部材30の回転速度である出力回転速度のグラフ、回転電機3の出力トルクである回転電機トルクのグラフ、係合側係合装置(第2係合装置12)及び解放側係合装置(第1係合装置11)のそれぞれの伝達トルクのグラフ、及び、係合側係合装置(第2係合装置12)及び解放側係合装置(第1係合装置11)のそれぞれの係合圧(具体的には、係合圧の指令値)のグラフを、上から順に示している。ここでは、“1st”で示す回転速度が「変速前同期回転速度」に相当し、“2nd”で示す回転速度が「変速後同期回転速度」に相当する。
【0049】
図6では、時刻t10より前の時点において、変速機10が第1変速段を形成している状態で、車両1が走行している状況を想定している。時刻t10より前の時点では、制御装置5は回転電機3をトルク制御しており、回転電機3は、車輪要求トルクを回転電機3でのトルクに換算したトルク(車両1を前進させる方向の正トルク)を出力するように制御されている。時刻t10において変速段の移行要求(具体的には、パワーオンアップシフトの要求)があると、制御装置5は、時刻t10又はそれより後の時点で、係合制御及び回転速度制御(回転電機3の回転速度制御)を開始する。
【0050】
図6に示す例では、時刻t10において解放側係合装置の係合圧が低下され、時刻t11において解放側係合装置が直結係合状態から滑り係合状態に移行する。制御装置5は、時刻t11において回転電機3の回転速度制御を開始し、時刻t11以降、入力部材20の回転速度を変速前同期回転速度に応じた目標回転速度に近づけるように回転電機3の出力トルクを制御する。
図6に示す例では、解放側係合装置(第1係合装置11)は、摩擦式の係合装置であり、また、車輪2に前進加速方向のトルクである正トルクが伝達されている状態を想定しているため、制御装置5は、変速前同期回転速度に応じた上記の目標回転速度を、変速前同期回転速度より規定値だけ高い回転速度とする。
【0051】
図6に示す例では、制御装置5は、時刻t11より後の時刻t12において、係合側係合装置の係合圧を上昇させるための準備制御を開始し、その後、時刻t13において、係合制御を、言い換えれば、係合側係合装置の係合圧を漸増させる制御を開始する。また、制御装置5は、時刻t13において、解放側係合装置を解放する解放制御を、具体的には、解放側係合装置の係合圧を漸減させる制御(言い換えれば、解放側係合装置の伝達トルクを漸減させる制御)を開始する。時刻t13以降、トルク相の進行に伴い、回転電機3の出力トルクが各時点でのトルク比に応じたトルクとなるように変化する。
図6では、係合側係合装置の伝達トルクの指令値が目標指令値に到達した時刻t14において、回転電機3の出力トルクと目標出力トルクとの間にトルク差がない場合を想定している。
図4のステップ#13におけるトルク相の終了判定では、例えば、係合側係合装置の伝達トルクの指令値が目標指令値に到達した時点以降であって、回転電機3の出力トルクと目標出力トルクとのトルク差が規定値以下である場合に、トルク相が終了したと判定される。
【0052】
制御装置5は、時刻14においてトルク相が終了すると、入力部材20の回転速度を変速前同期回転速度に応じた目標回転速度に近づけるように回転電機3の出力トルクを制御する制御を終了して、同期制御を開始する。そして、時刻t15において入力部材20の回転速度が変速後同期回転速度に到達すると、制御装置5は、回転電機3の回転速度制御を終了して回転電機3のトルク制御を開始すると共に、係合側係合装置の係合圧を上昇させる(例えば、ライン圧まで上昇させる)制御を行い、時刻t16において変速段の移行が完了する。
【0053】
図7は、制御装置5が、
図4に示す処理手順に沿って、
図2に示す変速機10において第2変速段から第1変速段への変速段の移行を行う場合の制御挙動の一例を示している。
図7では、入力部材20の回転速度である入力回転速度のグラフ、出力部材30の回転速度である出力回転速度のグラフ、回転電機3の出力トルクである回転電機トルクのグラフ、係合側係合装置(第1係合装置11)及び解放側係合装置(第2係合装置12)のそれぞれの伝達トルクのグラフ、及び、係合側係合装置(第1係合装置11)及び解放側係合装置(第2係合装置12)のそれぞれの係合圧(具体的には、係合圧の指令値)のグラフを、上から順に示している。ここでは、“1st”で示す回転速度が「変速後同期回転速度」に相当し、“2nd”で示す回転速度が「変速前同期回転速度」に相当する。
【0054】
図7では、時刻t20より前の時点において、変速機10が第2変速段を形成している状態で、車両1が走行している状況を想定している。時刻t20より前の時点では、制御装置5は回転電機3をトルク制御しており、回転電機3は、車輪要求トルクを回転電機3でのトルクに換算したトルク(正トルクとは反対方向の負トルク)を出力するように制御されている。時刻t20において変速段の移行要求(具体的には、パワーオフダウンシフトの要求)があると、制御装置5は、時刻t20又はそれより後の時点で、係合制御及び回転速度制御(回転電機3の回転速度制御)を開始する。
【0055】
図7に示す例では、時刻t20において解放側係合装置の係合圧が低下され、時刻t21において解放側係合装置が直結係合状態から滑り係合状態に移行する。制御装置5は、時刻t21において回転電機3の回転速度制御を開始し、時刻t21以降、入力部材20の回転速度を変速前同期回転速度に応じた目標回転速度に近づけるように回転電機3の出力トルクを制御する。
図7に示す例では、解放側係合装置(第2係合装置12)は、摩擦式の係合装置であり、また、車輪2に正トルクとは反対方向のトルクである負トルク(回生トルク)が伝達されている状態を想定しているため、制御装置5は、変速前同期回転速度に応じた上記の目標回転速度を、変速前同期回転速度より規定値だけ低い回転速度とする。
【0056】
図7に示す例では、制御装置5は、時刻t21より後の時刻t22において、係合側係合装置の係合圧を上昇させるための準備制御を開始し、その後、時刻t23において、係合制御を、言い換えれば、係合側係合装置の係合圧を漸増させる制御を開始する。ここでは、係合側係合装置の係合圧の漸増に伴い、係合側係合装置の負の伝達トルクの絶対値が漸増する。また、制御装置5は、時刻t23において、解放側係合装置を解放する解放制御を、具体的には、解放側係合装置の係合圧を漸減させる制御(言い換えれば、解放側係合装置の負の伝達トルクの絶対値を漸減させる制御)を開始する。ここでは、解放側係合装置の係合圧の漸減に伴い、解放側係合装置の負の伝達トルクの絶対値が漸減する。時刻t23以降、トルク相の進行に伴い、回転電機3の出力トルクが各時点でのトルク比に応じたトルクとなるように変化する。
図7では、係合側係合装置の伝達トルクの指令値が目標指令値に到達した時刻t24において、回転電機3の出力トルクと目標出力トルクとの間にトルク差がない場合を想定している。
【0057】
制御装置5は、時刻t24においてトルク相が終了すると、入力部材20の回転速度を変速前同期回転速度に応じた目標回転速度に近づけるように回転電機3の出力トルクを制御する制御を終了して、同期制御を開始する。そして、時刻t25において入力部材20の回転速度が変速後同期回転速度に到達すると、制御装置5は、回転電機3の回転速度制御を終了して回転電機3のトルク制御を開始すると共に、係合側係合装置の係合圧を上昇させる(例えば、ライン圧まで上昇させる)制御を行い、時刻t26において変速段の移行が完了する。
【0058】
図6及び
図7に示す例を参照して説明したように、解放側係合装置が摩擦式の係合装置である場合、制御装置5は、車輪2に前進加速方向のトルクである正トルクが伝達されている状態では、目標回転速度を、変速前同期回転速度より規定値だけ高い回転速度とし、車輪2に正トルクとは反対方向のトルクである負トルクが伝達されている状態では、目標回転速度を、変速前同期回転速度より規定値だけ低い回転速度とする。
【0059】
解放側係合装置が摩擦式の係合装置である場合には、トルク相において解放側係合装置を滑り係合状態に制御して、入力部材20の回転速度を変速前同期回転速度とは異ならせることができる。この場合、車輪2に伝達されるトルクの正負は、入力部材20の回転速度と変速前同期回転速度との大小関係に応じて定まる。上記のように、車輪2に正トルクが伝達されている状態では目標回転速度を変速前同期回転速度より規定値だけ高い回転速度とし、車輪2に負トルクが伝達されている状態では目標回転速度を変速前同期回転速度より規定値だけ低い回転速度とすることで、解放側係合装置が摩擦式の係合装置である場合に、車輪2に伝達されるトルクの正負に応じて目標回転速度を適切に設定して、トルク相において回転電機3の出力トルクを実際のトルク比の変化に合わせて変化させることができる。
【0060】
〔その他の実施形態〕
次に、制御装置のその他の実施形態について説明する。
【0061】
(1)上記の実施形態では、制御装置5が、係合制御では、係合側係合装置の伝達トルクの指令値が目標伝達トルクに応じた目標指令値に到達した時点での回転電機3の出力トルクと目標出力トルクとのトルク差に応じて、回転電機3の出力トルクを目標出力トルクに近づけるように係合側係合装置の伝達トルクの指令値を調整する構成を例として説明した。しかし、本開示はそのような構成に限定されず、制御装置5が係合制御においてこのような調整を行わない構成とすることもできる。
【0062】
(2)本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎず、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0063】
2:車輪、3:回転電機、4:車両用駆動装置、5:制御装置、10:変速機、20:入力部材、30:出力部材、60:係合装置
【手続補正書】
【提出日】2021-08-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
回転電機に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、複数の係合装置を備えて前記入力部材と前記出力部材との間の動力伝達経路に配置された変速機と、を備え、前記変速機が複数の変速段を形成可能に構成された車両用駆動装置を、制御対象とする制御装置であって、
複数の前記係合装置のうちの係合側係合装置の係合と解放側係合装置の解放とを行って、前記変速機が形成する変速段を変速前変速段から変速後変速段に移行させる場合に、前記係合側係合装置の伝達トルクを漸増させる係合制御を実行して、前記係合側係合装置と前記解放側係合装置とのトルク分担比を変更するトルク相を進行させ、
前記トルク相の進行中に、前記入力部材の回転速度を変速前同期回転速度に応じた目標回転速度に近づけるように前記回転電機の出力トルクを制御する、制御装置。