(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028438
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】アルツハイマー型認知症発症リスク評価のための方法、キット及びデバイス
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20220208BHJP
C12Q 1/6827 20180101ALI20220208BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220208BHJP
C12Q 1/6883 20180101ALI20220208BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALI20220208BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220208BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220208BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20220208BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12Q1/6827 Z ZNA
C12N15/113 Z
C12Q1/6883 Z
C12Q1/6837 Z
C12M1/00 A
C12Q1/686 Z
C12Q1/6851 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020131832
(22)【出願日】2020-08-03
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業、体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」に係る委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510108858
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大森 智織
(72)【発明者】
【氏名】須藤 裕子
(72)【発明者】
【氏名】重水 大智
(72)【発明者】
【氏名】新飯田 俊平
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 浩一
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 孝
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB20
4B029CC02
4B029CC03
4B029FA15
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR72
4B063QR77
4B063QR82
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】被験体の将来のアルツハイマー型認知症発症リスクを詳細に判定できる、キット、デバイス又は方法を提供する。
【解決手段】被験体の検体中のmiRNAを測定する工程、被験体のSNPを検出する工程、測定されたmiRNA発現量及び検出されたSNP情報を用いて、被験体のアルツハイマー型認知症の発症リスクをin vitroで評価する工程を含む、アルツハイマー型認知症発症リスクを判定する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の検体において、miR-1228-5p、miR-1249-5p、miR-29a-3p、miR-3196、miR-323b-5p、miR-330-3p、miR-3940-5p、miR-4264、miR-4508、miR-4633-3p、miR-5006-3p、miR-5006-5p、miR-6085、miR-6793-3p、miR-6799-3p、miR-6851-5p、miR-7112-3p及びmiR-8070からなる群から選択される1以上のポリヌクレオチドの発現量を測定する工程、
被験体のゲノムDNAにおける、rs12997752、rs149944930、rs117393460、rs12616298、rs117534907、rs35831886、rs118073044、rs117574479、rs116868325、rs117099240、rs79726130、rs3777118、rs117336092、rs6721935、rs72861163、rs11855092、rs2830386、rs76232851、rs17682567及びrs9507595からなる群から選択された1以上で特定された一塩基多型の情報を取得する工程、及び
測定されたポリヌクレオチドの発現量及び取得された一塩基多型の情報を用いて、被験体のアルツハイマー型認知症の発症リスクを評価する工程を含む、アルツハイマー型認知症発症リスクの評価方法。
【請求項2】
前記ポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドの相補鎖と特異的に結合可能な核酸を用いて前記ポリヌクレオチドの発現量の測定を行い、前記核酸が、下記の(a)~(e)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(a)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(b)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(d)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(e)前記(a)~(d)のいずれかのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域又はその相補鎖と特異的に結合可能な核酸を用いて、前記一塩基多型の検出を行い、前記核酸が、下記(f)~(j)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(f)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(g)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(h)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(i)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(j)前記(f)~(i)のいずれかのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
miR-5006-5p_rs72861163、miR-6085_rs11855092、miR-3940-5p_rs117574479、miR-1228-5p_rs12997752、miR-330-3p_rs118073044、miR-323b-5p_rs118073044、miR-4633-3p_rs6721935、miR-6793-3p_rs2830386、miR-29a-3p_rs117393460、miR-8070_rs9507595、miR-5006-3p_rs118073044、miR-3196_rs12616298、miR-1249-5p_rs149944930、miR-3940-5p_rs116868325、miR-4508_rs3777118、miR-3940-5p_rs117099240、miR-3196_rs35831886、miR-7112-3p_rs79726130、miR-3940-5p_rs35831886、miR-3196_rs117534907、miR-6851-5p_rs17682567、miR-4508_rs117336092、miR-4264_rs79726130、及びmiR-6799-3p_rs76232851からなる群より選択される、少なくとも1つのmiRNA発現量的形質遺伝子座(miR-eQTL)の検出を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも6のmiR-eQTLの検出を含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
少なくとも10のmiR-eQTLの検出を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
少なくとも14のmiR-eQTLの検出を含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
24のmiR-eQTLの検出を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記被験体のアルツハイマー型認知症の発症リスクを評価する工程が、被験体の年齢、性別及びAPOE4対立遺伝子数からなる群より選択される少なくとも1つの臨床的要素の評価を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記被験体が、軽度認知障害患者である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記検体が、血液、血清及び血漿からなる群より選択される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
miR-1228-5p、miR-1249-5p、miR-29a-3p、miR-3196、miR-323b-5p、miR-330-3p、miR-3940-5p、miR-4264、miR-4508、miR-4633-3p、miR-5006-3p、miR-5006-5p、miR-6085、miR-6793-3p、miR-6799-3p、miR-6851-5p、miR-7112-3p及びmiR-8070からなる群から選択される1以上のポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの相補鎖と特異的に結合可能な第1の核酸と、
ゲノムDNAの、rs12997752、rs149944930、rs117393460,rs12616298、rs117534907、rs35831886、rs118073044、rs117574479、rs116868325、rs117099240、rs79726130、rs3777118、rs117336092、rs6721935、rs72861163、rs11855092、rs2830386、rs76232851、rs17682567及びrs9507595からなる群から選択された1以上で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域又はその相補鎖と特異的に結合可能な第2の核酸と、
を含む、アルツハイマー型認知症発症リスク評価用キット。
【請求項13】
前記第1の核酸が、下記の(a)~(e)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(a)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(b)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(d)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(e)前記(a)~(d)のいずれかのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、請求項12記載のキット。
【請求項14】
前記第2の核酸が、下記の(f)~(j)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(f)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(g)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(h)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(i)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(j)前記(f)~(i)のいずれかのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、請求項12又は13に記載のキット。
【請求項15】
miR-1228-5p、miR-1249-5p、miR-29a-3p、miR-3196、miR-323b-5p、miR-330-3p、miR-3940-5p、miR-4264、miR-4508、miR-4633-3p、miR-5006-3p、miR-5006-5p、miR-6085、miR-6793-3p、miR-6799-3p、miR-6851-5p、miR-7112-3p及びmiR-8070からなる群から選択される1以上のポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの相補鎖と特異的に結合可能な第1の核酸と、
ゲノムDNAの、rs12997752、rs149944930、rs117393460,rs12616298、rs117534907、rs35831886、rs118073044、rs117574479、rs116868325、rs117099240、rs79726130、rs3777118、rs117336092、rs6721935、rs72861163、rs11855092、rs2830386、rs76232851、rs17682567及びrs9507595からなる群から選択された1以上で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域又はその相補鎖と特異的に結合可能な第2の核酸と、
を含む、アルツハイマー型認知症発症リスク評価用デバイス。
【請求項16】
前記第1の核酸が、下記の(a)~(e)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(a)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(b)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(d)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(e)前記(a)~(d)のいずれかのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
前記第2の核酸が、下記の(f)~(j)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(f)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(g)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(h)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(i)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(j)前記(f)~(i)のいずれかのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、請求項15又は16に記載のデバイス。
【請求項18】
前記デバイスが、ハイブリダイゼーション技術による測定のためのデバイスである、請求項15~17にいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項19】
前記ハイブリダイゼーション技術が、核酸アレイ技術である、請求項18記載のデバイス。
【請求項20】
請求項12~14のいずれか1項に記載のキット又は請求項15~19のいずれか1項に記載のデバイスを用いて、被験体の検体における標的遺伝子の発現量を測定する、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体においてアルツハイマー型認知症発症リスク評価のために使用される、試薬、キット及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
65歳以上の高齢者の認知症患者数と有病率の将来推計で、日本における認知症患者数は、2012年では462万人(65歳以上の高齢者の7人に1人(有病率15.0%))であったが、2025年には約700万人(65歳以上の高齢者の5人に1人)になると見込まれている(内閣府 H28年版高齢者社会白書)。一方、認知症患者の医療や介護にかかるコストは2014年に14兆5千億円(内訳:医療費1兆9千億円(入院約9703億円、外来約9412億円)、介護費6兆4千億円(在宅約3兆5281億円、施設約2兆9160億円)、インフォーマルケアコスト6兆2千億円)に上ったことが報告されている(厚生労働省研究班「認知症の社会的コスト推計」2015年5月)。世界的にも、2030年までに認知症患者数は7,470万人まで増加し、認知症医療コストは240兆円にも上ると試算されている(ADI「World Alzheimer Report 2015」)。
【0003】
軽度の認知障害(MCI)は正常な老化と認知症との間の中間段階であり、MCI患者群は、臨床的に、将来アルツハイマー型認知症(AD)を発症するリスクの高い群とされている。年間にMCIからADへと進行する割合は、10%~15%と報告されている(非特許文献1)。6年間の追跡試験によると、MCI患者の約80%がADに移行したが(MCIコンバーター(MCI-C))、一部のMCI患者は変化が見られないか、正常に戻ることが分かった(MCI非コンバーター(MCI-NC))(非特許文献2)。現在まで、ADを発症した患者に対する根本的な根治的な治療は存在せず、現時点で適用可能や薬剤は、病気の進行を遅らせることしかできない。しかし、一方で、MCI患者については、運動療法等により、認知機能が改善する傾向があることが報告されている。(非特許文献3)。つまり、AD発症前のMCIの段階で、MCI患者のAD発症リスクを把握し、適切な治療を行うことで、AD発症を防ぐことが可能であり、これにより、AD患者数を減少できる可能性が示唆される。
【0004】
ADのような多因子疾患は、遺伝的要因と環境的要因の組合せによって誘発される。老年性のADは、その約60%~80%が遺伝性と推定され(非特許文献4)、多くの遺伝的要因が、ADの発症および進行に関連するといえる。実際、多数の遺伝的要因について、ADのリスク増加との関連性が明らかにされている。ADの遺伝的要因として関連性の強いものとして、アミロイド前駆タンパク質(APP)、プレセニリン1(PSEN1)、プレセニリン2(PSEN2)、及びアポリポタンパク質Eのε4対立遺伝子(APOE4)が知られる。
【0005】
マイクロRNA(miRNA)は、神経細胞を含む遺伝子発現および細胞発生の転写後調節において重要な役割を果たす、約22ヌクレオチドの低分子非コードRNA分子である。miRNAは、血液試料からの分析が可能であることから、臨床的な使用において、低侵襲性、費用対効果、再現性の面で優れたバイオマーカーとなり得る。早期ADを発見するためのバイオマーカーとして、血液試料中のmiRNAの解析がなされたことが報告されている(特許文献1)。また、認知症発症の予測方法として、認知症を発症していない個体群の血清中の認知症に関連する複数のmiRNAを解析することで、将来の認知症への進行及び発症を高精度で予測できることも報告されている(特許文献2、3及び非特許文献5)。この方法は、AD発症予測にも適用され、将来ADを発症するか、しないかを発症前に分類し得る方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2014/0206777号明細書
【特許文献2】国際公開第2017/084770号
【特許文献3】国際公開第2019/159884号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tabuas-Pereira M, et al.,Prognosis of Early-Onset vs. Late-Onset Mild Cognitive Impairment: Comparison of Conversion Rates and Its Predictors. Geriatrics (Basel) 1, (2016)
【非特許文献2】Lovell MA. A potential role for alterations of zinc and zinc transport proteins in the progression of Alzheimer’s disease. J Alzheimers Dis 16, 471-483 (2009)
【非特許文献3】Suzuki et al., A Rondomized Control Trial of Multicomponent Exercise in Older Adults with Mild Cognitive Imparment. PLOS One 8(4), e61483
【非特許文献4】Gatz M, et al.,Role of genes and environments for explaining Alzheimer disease. Arch Gen Psychiatry 63, 168-174 (2006)
【非特許文献5】Shigemitsu D, et al.,Risk prediction models for dementia constructed by supervised principal component analysis using miRNA expression data,Commun Biol. 2:77 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、AD発症前のMCI患者について、AD発症リスクを把握し、リスクの高さに応じて適切な治療を行うことが、AD患者数を減じるために有効とされるが、特許文献1に示される解析方法は、既にADを発症した患者を特定する方法であるため、AD発症前の対象者の治療につなげることは困難である。特許文献2の認知症予測方法は、MCI患者の将来のAD発症を予測することができる、つまり、MCI患者のうちADに進行する、発症する可能性の高い群(MCI-C)とADに進行しない、発症する可能性が低い群(MCI-NC)に分類することが可能な方法であるが、この方法では、MCIの被験体の約80%が「AD発症の可能性あり」と判定され得るが、発症時期を予測することはできず、直ぐに発症するリスクがあるか、或いは数十年後に発症するリスクがあるかでは対処も異なり、臨床的な実用性に乏しい。AD発症前の治療を効果的に進めるためには、より治療が必要な対象者の絞り込みが求められる。
【0009】
本発明の目的は、MCI患者の将来のAD発症リスクを、将来の発症の有無のみでなく、ADの発症予測時期についても判定できる、キット、デバイス又は判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、被験者、特にMCI患者について、将来のAD発症の有無に加えて、ADの発症予測時期を判定可能な新規の認知症マーカーを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
<発明の概要>
すなわち、本発明は以下の(1)~(20)を包含する。
(1)被験体の検体において、miR-1228-5p、miR-1249-5p、miR-29a-3p、miR-3196、miR-323b-5p、miR-330-3p、miR-3940-5p、miR-4264、miR-4508、miR-4633-3p、miR-5006-3p、miR-5006-5p、miR-6085、miR-6793-3p、miR-6799-3p、miR-6851-5p、miR-7112-3p、miR-8070からなる群から選択される1以上のポリヌクレオチドの発現量を測定する工程、
被験体のゲノムDNAにおける、rs12997752、rs149944930、rs117393460、rs12616298、rs117534907、rs35831886、rs118073044、rs117574479、rs116868325、rs117099240、rs79726130、rs3777118、rs117336092、rs6721935、rs72861163、rs11855092、rs2830386、rs76232851、rs17682567及びrs9507595からなる群から選択された1以上で特定された一塩基多型の情報を取得する工程、及び
測定されたポリヌクレオチドの発現量及び取得された一塩基多型の情報を用いて、被験体のアルツハイマー型認知症の発症リスクを評価する工程を含む、アルツハイマー型認知症発症リスクの評価方法。
(2)前記ポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドの相補鎖と特異的に結合可能な核酸を用いて前記ポリヌクレオチドの発現量の測定を行い、前記核酸が、下記の(a)~(e)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(a)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(b)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(d)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(e)前記(a)~(d)のいずれかのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、(11)の方法。
(3)前記一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域又はその相補鎖と特異的に結合可能な核酸を用いて、前記一塩基多型の検出を行い、前記核酸が、下記(f)~(j)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(f)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてtがuである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(g)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(h)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてtがuである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(i)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてtがuである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(j)前記(f)~(i)のいずれかのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、(1)又は(2)の方法。
(4)miR-5006-5p_rs72861163、miR-6085_rs11855092、miR-3940-5p_rs117574479、miR-1228-5p_rs12997752、miR-330-3p_rs118073044、miR-323b-5p_rs118073044、miR-4633-3p_rs6721935、miR-6793-3p_rs2830386、miR-29a-3p_rs117393460、miR-8070_rs9507595、miR-5006-3p_rs118073044、miR-3196_rs12616298、miR-1249-5p_rs149944930、miR-3940-5p_rs116868325、miR-4508_rs3777118、miR-3940-5p_rs117099240、miR-3196_rs35831886、miR-7112-3p_rs79726130、miR-3940-5p_rs35831886、miR-3196_rs117534907、miR-6851-5p_rs17682567、miR-4508_rs117336092、miR-4264_rs79726130、及びmiR-6799-3p_rs76232851からなる群より選択される、少なくとも1つのmiRNA発現量的形質遺伝子座(miR-eQTL)の検出を含む、(1)~(3)のいずれかの方法。
(5)少なくとも6のmiRNA-eQTLの検出を含む、(4)の方法。
(6)少なくとも10のmiRNA-eQTLの検出を含む、(5)の方法。
(7)少なくとも14のmiRNA-eQTLの検出を含む、(6)の方法。
(8)24のmiRNA-eQTLの検出を含む、(7)の方法。
(9)前記被験体のアルツハイマー型認知症の発症リスクをin vitroで評価する工程が、被験体の年齢、性別及びAPOE4対立遺伝子数からなる群より選択される少なくとも1つの臨床的要素の評価を含む、(1)~(8)のいずれかの方法。
(10)前記被験体が、軽度認知障害(MCI)患者である、(1)~(9)のいずれかの方法。
(11)前記検体が、血液、血清及び血漿からなる群より選択される、(1)~(10)のいずれかの方法。
(12)miR-1228-5p、miR-1249-5p、miR-29a-3p、miR-3196、miR-323b-5p、miR-330-3p、miR-3940-5p、miR-4264、miR-4508、miR-4633-3p、miR-5006-3p、miR-5006-5p、miR-6085、miR-6793-3p、miR-6799-3p、miR-6851-5p、miR-7112-3p及びmiR-8070からなる群から選択される1以上のポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの相補鎖と特異的に結合可能な第1の核酸と、
ゲノムDNAの、rs12997752、rs149944930、rs117393460、rs12616298、rs117534907、rs35831886、rs118073044、rs117574479、rs116868325、rs117099240、rs79726130、rs3777118、rs117336092、rs6721935、rs72861163、rs11855092、rs2830386、rs76232851、rs17682567及びrs9507595からなる群から選択された1以上で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域又はその相補鎖と特異的に結合可能な第2の核酸と、
を含む、アルツハイマー型認知症発症リスク評価用キット。
(13)前記第1の核酸が、下記の(a)~(e)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(a)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(b)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(d)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(e)前記(a)~(d)のいずれかのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、(12)のキット。
(14)前記第2の核酸が、下記の(f)~(j)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(f)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてtがuである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(g)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(h)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてtがuである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(i)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてtがuである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(j)前記(f)~(i)のいずれかのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、(12)又は(13)のキット。
(15)miR-1228-5p、miR-1249-5p、miR-29a-3p、miR-3196、miR-323b-5p、miR-330-3p、miR-3940-5p、miR-4264、miR-4508、miR-4633-3p及びmiR-5006-3p、miR-5006-5p、miR-6085、miR-6793-3p、miR-6799-3p、miR-6851-5p、miR-7112-3p及びmiR-8070からなる群から選択される1以上のポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの相補鎖と特異的に結合可能な第1の核酸と、
ゲノムDNAの、rs12997752、rs149944930、rs117393460、rs12616298、rs117534907、rs35831886、rs118073044、rs117574479、rs116868325、rs117099240、rs79726130、rs3777118、rs117336092、rs6721935、rs72861163、rs11855092、rs2830386、rs76232851、rs17682567及びrs9507595からなる群から選択された1以上で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域又はその相補鎖と特異的に結合可能な第2の核酸と、
を含む、アルツハイマー型認知症発症リスク評価用デバイス。
(16)前記第1の核酸が、下記の(a)~(e)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(a)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(b)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(d)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(e)前記(a)~(d)のいずれかのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、(15)のデバイス。
(17)前記第2の核酸が、下記の(f)~(j)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(f)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてtがuである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(g)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(h)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてtがuである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(i)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてtがuである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(j)前記(f)~(i)のいずれかのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、(15)又は(16)のデバイス。
(18)前記デバイスが、ハイブリダイゼーション技術による測定のためのデバイスである、(15)~(17)のいずれかのデバイス。
(19)前記ハイブリダイゼーション技術が、核酸アレイ技術である、(18)のデバイス。
(20)(12)~(14)のいずれかのキット又は(15)~(19)のいずれかのデバイスを用いて、被験体の検体における標的遺伝子の発現量を測定する、(1)~(11)のいずれかの方法。
【0012】
本発明の認知症の検出用キット、デバイス又は認知症の検出方法の別の好ましい一態様において、miR-1228-5pがhsa-miR-1228-5pであり、miR-1249-5pがhsa-miR-1249-5pであり、miR-29a-3pがhsa-miR-29a-3pであり、miR-3196がhsa-miR-3196であり、miR-323b-5pがhsa-miR-323b-5pであり、miR-330-3pがhsa-miR-330-3pであり、miR-3940-5pがhsa-miR-3940-5pであり、miR-4264がhsa-miR-4264であり、miR-4508がhsa-miR-4508であり、miR-4633-3pがhsa-miR-4633-3pであり、miR-5006-3pがhsa-miR-5006-3pであり、miR-5006-5pがhsa-miR-5006-5pであり、miR-6085がhsa-miR-6085であり、miR-6793-3pがhsa-miR-6793-3pであり、miR-6799-3pがhsa-miR-6799-3pであり、miR-6851-5pがhsa-miR-6851-5pであり、miR-7112-3pがhsa-miR-7112-3p、miR-8070がhsa-miR-8070である。
【0013】
<用語の定義>
本明細書中で使用する用語は、以下の定義を有する。
【0014】
ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、DNA、RNAなどの略号による表示は、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)及び当技術分野における慣用に従うものとする。
【0015】
本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、RNA、DNA、及びRNA/DNA(キメラ)のいずれも包含する核酸に対して用いられる。なお、上記DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAのいずれもが含まれる。また上記RNAには、total RNA、mRNA、rRNA、miRNA、siRNA、snoRNA、snRNA、non-coding RNA及び合成RNAのいずれもが含まれる。本明細書において「合成DNA」及び「合成RNA」は、所定の塩基配列(天然型配列又は非天然型配列のいずれでもよい。)に基づいて、例えば自動核酸合成機を用いて、人工的に作製されたDNA及びRNAをいう。本明細書において「非天然型配列」は、広義の意味に用いることを意図しており、天然型配列と異なる、例えば1以上のヌクレオチドの置換、欠失、挿入及び/又は付加を含む配列(すなわち、変異配列)、1以上の修飾ヌクレオチドを含む配列(すなわち、修飾配列)、などを包含する。また、本明細書では、ポリヌクレオチドは核酸と互換的に使用される。
【0016】
本明細書において「断片」とは、ポリヌクレオチドの連続した一部分の塩基配列を有するポリヌクレオチドであり、15塩基以上、好ましくは17塩基以上、より好ましくは19塩基以上の長さを有することが望ましい。
【0017】
本明細書において「遺伝子」とは、RNA、及び2本鎖DNAのみならず、それを構成する正鎖(又はセンス鎖)又は相補鎖(又はアンチセンス鎖)などの各1本鎖DNAを包含することを意図して用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。
【0018】
従って、本明細書において「遺伝子」は、特に言及しない限り、ゲノムDNAを含む2本鎖DNA、1本鎖DNA(正鎖)、当該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、cDNA、マイクロRNA(miRNA)、及びこれらの断片、ゲノム、及びそれらの転写産物のいずれも含む。また当該「遺伝子」は特定の塩基配列(又は配列番号)で表される「遺伝子」だけではなく、これらによってコードされるDNA又はRNAと生物学的機能が同等であるDNA又はRNA、例えば同族体(すなわち、ホモログもしくはオーソログ)、遺伝子多型などの変異体、及び誘導体をコードする「核酸」が包含される。かかる同族体、変異体又は誘導体をコードする「核酸」としては、具体的には、後に記載したハイストリンジェントな条件下で、配列番号1~102のいずれかで表される塩基配列又は当該塩基配列においてuがt若しくはtがuである塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「核酸」を挙げることができる。なお、「遺伝子」は、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン又はイントロンを含むことができる。また、「遺伝子」は細胞に含まれていてもよく、細胞外に放出されて単独で存在していてもよく、またエキソソームと呼ばれる小胞に内包された状態にあってもよい。
【0019】
本明細書において「エキソソーム」又は「エクソソーム」とは、細胞から分泌される脂質二重膜に包まれた小胞である。エキソソームは多胞エンドソームに由来し、細胞外環境に放出される際にRNA、DNA等の「遺伝子」やタンパク質などの生体物質を内部に含むことがある。エキソソームは血液、血清、血漿、リンパ液等の体液に含まれることが知られている。
【0020】
本明細書において「転写産物」とは、遺伝子のDNA配列を鋳型にして合成されたRNAのことをいう。RNAポリメラーゼが遺伝子の上流にあるプロモーターと呼ばれる部位に結合し、DNAの塩基配列に相補的になるように3’末端にリボヌクレオチドを結合させていく形でRNAが合成される。このRNAには遺伝子そのもののみならず、発現制御領域、コード領域、エキソン又はイントロンをはじめとする転写開始点からポリA配列の末端にいたるまでの全配列が含まれる。
【0021】
また、本明細書において「マイクロRNA(miRNA)」は、特に言及しない限り、ヘアピン様構造のRNA前駆体として転写され、RNase III切断活性を有するdsRNA切断酵素により切断され、RISCと称するタンパク質複合体に取り込まれ、mRNAの翻訳抑制に関与する15~25塩基の非コーディングRNAを意図して用いられる。また本明細書で使用する「miRNA」は特定の塩基配列(又は配列番号)で表される「miRNA」だけではなく、当該「miRNA」の前駆体(pre-miRNA、pri-miRNA)を含有し、これらによってコードされるmiRNAと生物学的機能が同等であるmiRNA、例えば同族体(すなわち、ホモログもしくはオーソログ)、遺伝子多型などの変異体、及び誘導体をコードする「miRNA」も包含する。かかる前駆体、同族体、変異体又は誘導体をコードする「miRNA」としては、具体的には、「miRBase」(version 21)により同定することができ、後に記載したハイストリンジェントな条件下で、配列番号1~18のいずれかで表されるいずれかの特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「miRNA」を挙げることができる。なお、「miRBase」(version 21)は、miRNAの塩基配列やアノテーション、ターゲット遺伝子の予測などを提供するWeb上のデータベースである(http://www.mirbase.org/)。「miRBase」に登録されているmiRNAは全て、クローニングされているか、そのmiRNAが生体中で発現していて、かつプロセッシングを受けていることが示されているものに限られる。また、本明細書で使用する「miRNA」は、miR遺伝子の遺伝子産物であってもよく、そのような遺伝子産物は、成熟miRNA(例えば、上記のようなmRNAの翻訳抑制に関与する15~25塩基、又は19~25塩基、の非コーディングRNA)又はmiRNA前駆体(例えば、前記のようなpre-miRNA又はpri-miRNA)を包含する。
【0022】
本明細書において「プローブ」とは、ゲノムDNA、遺伝子の発現によって生じたRNA又はこれらに由来するポリヌクレオチドにハイブリダイズして、それらを特異的に検出するために使用されるポリヌクレオチド及び/又はそれに相補的なポリヌクレオチドを包含する。
【0023】
本明細書において「プライマー」とは、ゲノムDNA、遺伝子の発現によって生じたRNA又はこれらに由来するポリヌクレオチドを相補的塩基配列により特異的に認識し、増幅する、連続するポリヌクレオチド及び/又はそれに相補的なポリヌクレオチドを包含する。
【0024】
ここで、「相補的なポリヌクレオチド」(相補鎖、逆鎖)とは、配列番号1~102のいずれかによって定義される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列、又はその部分配列(ここでは便宜上、これを正鎖と呼ぶ)に対してA:T(U)、G:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチドを意味する。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる程度の相補関係を有するものであってもよい。
【0025】
本明細書において「ハイストリンジェントな条件」とは、核酸プローブが他の配列に対するよりも、検出可能により大きな程度(例えばバックグラウンド測定値の平均+バックグラウンド測定値の標準誤差×2以上の測定値)で、その標的配列に対してハイブリダイズする条件をいう。ハイストリンジェントな条件は配列依存性であり、ハイブリダイゼーションが行われる環境によって異なる。ハイブリダイゼーション及び/又は洗浄条件のストリンジェンシーを制御することにより、核酸プローブに対して100%相補的である標的配列が同定され得る。「ハイストリンジェントな条件」の具体例は、後述する。
【0026】
本明細書において「Tm値」とは、ポリヌクレオチドの二本鎖部分が一本鎖へと変性し、二本鎖と一本鎖が1:1の比で存在する温度を意味する。
【0027】
本明細書において、「遺伝子多型」とは、同種生物の個体の1%以上が保持するゲノムDNAの変異をいう。本明細書において、「一塩基多型」とは、「SNP」とも称され、ゲノムDNA上の塩基配列が一塩基だけ異なる遺伝子多型をいう。合計で約1,000万個のSNPが、ゲノム全域に存在していると考えられている。ゲノムのSNP情報は、例えば、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNP(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)等のデータベースから取得可能である。特にヒトの疾患、生体反応、薬剤感受性等に関連が高いと言われる数十万~数百万のSNPについては、一検体につき一度で検出可能なDNAアレイが複数種類市販されている。
【0028】
本明細書において「変異体」とは、核酸の場合、多型性、突然変異などに起因した天然の変異体、あるいは配列番号1~102で表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列、又はその部分配列において1、2もしくは3又はそれ以上(例えば1~数個)の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を含む変異体、あるいは配列番号1~18のいずれかの配列を有するmiRNAの前駆体RNA(premature miRNA)の塩基配列、もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列、又はその部分配列において1以上の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を含む変異体、あるいは当該塩基配列の各々又はその部分配列と約90%以上、約95%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上の%同一性を示す変異体、あるいは当該塩基配列又はその部分配列を含むポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドと上記定義のハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を意味する。
本明細書において「発現量的形質遺伝子座」とは、Expression quantitative trait loci又はeQTLとも呼ばれ、遺伝子の発現レベルの変動を説明するゲノム遺伝子座を示す。本明細書においては、特にmiRNAの発現レベルの変動に影響するSNPを意味し、このeQTLで連動するmiRNAとSNPの対を複数組み合わせてマーカーを作成している。
【0029】
本明細書において「数個」とは、約10、9、8、7、6、5、4、3又は2個の整数を意味する。
【0030】
本明細書において、変異体は、部位特異的突然変異誘発法、PCR法を利用した突然変異導入法などの周知の技術を用いて作製可能である。
【0031】
本明細書において「%同一性」は、BLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)やFASTA(http://www.genome.jp/tools/fasta/)によるタンパク質又は遺伝子の検索システムを用いて、ギャップを導入して、又はギャップを導入しないで、決定することができる(Zheng Zhangら、2000年、J. Comput. Biol.、7巻、p203-214;Altschul、S.F.ら、1990年、Journal of Molecular Biology、第215巻、p403-410;Pearson、W.R.ら、1988年、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、第85巻、p2444-2448)。
【0032】
本明細書において「誘導体」とは、修飾核酸、非限定的に例えば、蛍光団などによるラベル化誘導体、修飾ヌクレオチド(例えばハロゲン、メチルなどのアルキル、メトキシなどのアルコキシ、チオ、カルボキシメチルなどの基を含むヌクレオチド及び塩基の再構成、二重結合の飽和、脱アミノ化、酸素分子の硫黄分子への置換などを受けたヌクレオチドなど)を含む誘導体、PNA(peptide nucleic acid; Nielsen、P.E.ら、1991年、Science、254巻、p1497-500)、LNA(locked nucleic acid; Obika、S.ら、1998年、Tetrahedron Lett.、39巻、p5401-5404)などを含むことを意味する。
【0033】
本明細書において上記の認知症マーカーであるmiRNAから選択されるポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの相補鎖と特異的に結合可能な「核酸」は、合成又は調製された核酸であり、具体的には「核酸プローブ」又は「プライマー」を含み、被験体中の認知症の存在の有無を検出するために、又は認知症の罹患の有無、罹患の程度、認知症の改善の有無や改善の程度、認知症の治療に対する感受性を診断するために、あるいは認知症の予防、改善又は治療に有用な候補物質をスクリーニングするために、直接又は間接的に利用される。これらには認知症の罹患に関連して生体内、特に血液、尿等の体液等の検体において配列番号1~62のいずれかで表される転写産物又はそのcDNA合成核酸、又はこれらの相補鎖を特異的に認識し結合することのできるヌクレオチド、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドを包含する。これらのヌクレオチド、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドは、上記性質に基づいて生体内、組織や細胞内などで発現した上記遺伝子を検出するためのプローブとして、また生体内で発現した上記遺伝子を増幅するためのプライマーとして有効に利用することができる。
【0034】
本明細書で使用する「検出」という用語は、検査、測定、検出又は、判定支援という用語で置換しうる。また、本明細書において「評価」という用語は、検査結果又は測定結果に基づいて診断又は評価を支援することを含む意味で使用される。本明細書において、「評価」は、医師による判定ではないin vitroでの検査による結果に基づいた診断及び評価の支援を指す。
【0035】
本明細書で使用される「被験体」は、ヒトである。
【0036】
本明細書で使用される「認知症」は、一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続性に低下した状態をいう。一般に、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった程度の機能低下が見られるときに診断される。
【0037】
本明細書で使用される「アルツハイマー型認知症」は、CTやMRI、PETといった画像検査では脳内異常構造物がなく内側側頭葉の萎縮が認められ、認知記憶障害の中核的な症候としては近似記憶障害がおこる認知症である。神経細胞の消失、アミロイドβタンパク質の蓄積、神経原線維変化といった、脳組織の不可逆的な変性を特徴とする。
【0038】
本明細書で使用される「P値」とは、統計学的検定において、帰無仮説の下で実際にデータから計算された統計量よりも極端な統計量が観測される確率を示す。したがって「P」又は「P値」が小さいほど、比較対象間に有意差があるとみなせる。
【0039】
本明細書において判定、検出又は診断の対象となる「検体」は、ADの発症、進行、及びAD又はMCIに対する治療効果の発揮にともない本発明の遺伝子が発現変化する組織及び生体材料を指す。被験体の生体組織(好ましくは、脳組織又は神経組織)、血液、血清、血漿、尿、脳脊髄液等の体液などから調製される検体を挙げることができる。具体的には、当該組織から調製されるRNA含有検体、それからさらに調製されるポリヌクレオチドを含む検体、血液、血清、血漿、尿、脳脊髄液等の体液、被験体の生体組織の一部又は全部をバイオプシーなどで採取するか、手術によって摘出した生体組織などであり、これらから、測定のための検体を調製することができる。さらにこれらから抽出された生体試料は、具体的には、DNA、RNA、miRNAなどの遺伝子を指す。
【0040】
上記の「検体」とは別に若しくは同時に、被験体から、ゲノムDNAのSNPs解析のための検体を取得してもよい。上記の「検体」と区別するために、本明細書では、「第2検体」と称する。第2検体は、ゲノムDNAを含み得る生物学的試料をいい、例えば、細胞(組織、器官を含む)及び細胞を含み得る体液が該当する。具体的には脳組織及び神経細胞、神経組織、脳脊髄液、骨髄液、臓器、皮膚、血液、尿、唾液、汗、鼻汁、喀痰、膣液、精液、組織浸出液などの体液、血液から調製された血清、血漿、便、毛髪などを指す。さらにこれらから抽出された生体試料は、具体的には、ゲノムDNAを指す。
【0041】
検体及び第2検体は、別々に採取されてもよいが、ゲノムDNAを十分量抽出できる検体種を使用する場合は、同一検体としてもよい。同一検体とする場合、侵襲性が低く、かつ、ゲノムDNA、DNA、RNA、miRNAを抽出可能である点で、血液を好適に使用することができる。
【0042】
本明細書で使用される「臨床的要素」には、被験体の性別、年齢等の一般的項目に加え、広く健康診断等で実施される患者背景(性別、年齢、身長、体重、血圧、パフォーマンスステイタス、など)、血算(白血球数、好中球数、リンパ球数、ヘモグロビン、血小板数、など)、肝臓マーカーや腫瘍マーカー等のその他のマーカーなどの要素が含まれる。さらに、認知症の診療領域において広く実施される検査項目が含まれる。このような検査項目としては、アミロイドβタンパク質、タウタンパク質、リン酸化タウタンパク質、APOE4対立遺伝子数、ニューログラニン、ニューロフィラメント軽鎖(NFL)、TDP43、αシヌクレイン等が知られる。
【0043】
本明細書で使用される「hsa-miR-1228-5p遺伝子」又は「hsa-miR-1228-5p」という用語は、配列番号1340に記載のhsa-miR-1228-5p遺伝子(miRBaseAccessionNo.MIMAT0005582)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-1228-5p遺伝子は、BerezikovEら、2007年、MolCell、28巻、p328-336に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-1228-5p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-1228」(miRBaseAccessionNo.MI0006318、配列番号19)が知られている。
【0044】
本明細書で使用される「hsa-miR-1249-5p遺伝子」又は「hsa-miR-1249-5p」という用語は、配列番号2に記載のhsa-miR-1249-5p遺伝子(miRBase Accession No.MIMAT0006318)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-4272遺伝子は、Morin RDら、2008年、Genome Res、18巻、p610-621に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-1249-5p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-1249」(miRBase Accession No.MI0006384、配列番号20)が知られている。
【0045】
本明細書で使用される「hsa-miR-29a-3p遺伝子」又は「hsa-miR-29a-3p」という用語は、配列番号3に記載のhsa-miR-29a-3p遺伝子(miRBase Accession No.MIMAT0000086)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-29a-3p遺伝子は、Lagos-Quintana Mら、2003年、RNA、9巻、p175-179に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-29a-3p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-29a」(miRBase Accession No.MI0000087、配列番号21)が知られている。
【0046】
本明細書で使用される「hsa-miR-3196遺伝子」又は「hsa-miR-3196」という用語は、配列番号4に記載のhsa-miR-3196遺伝子(miRBase Accession No.MIMAT0015080)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-3196遺伝子は、Stark MSら、2010年、PLoS One、5巻、e9685に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-3196」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-3196」(miRBase Accession No.MI0014241、配列番号22)が知られている。
【0047】
本明細書で使用される「hsa-miR-323b-5p遺伝子」又は「hsa-miR-323b-5p」という用語は、配列番号5に記載のhsa-miR-323b-5p遺伝子(miRBase Accession No.MIMAT0001630)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-323b-5p遺伝子は、Stark MSら、2010年、PLoS One、5巻、e9685に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-323b-5p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-323b」(miRBase Accession No.MI0014206、配列番号23)が知られている。
【0048】
本明細書で使用される「hsa-miR-330-3p遺伝子」又は「hsa-miR-330-3p」という用語は、配列番号6に記載のhsa-miR-330-3p遺伝子(miRBase Accession No.MIMAT0000751)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-330-3p遺伝子は、Kim Jら、2004年、Proc Natl Acad Sci U S A、101巻、p360-365に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-330-3p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-330-3p」(miRBase Accession No.MI0000803、配列番号24)が知られている。
【0049】
本明細書で使用される「hsa-miR-3940-5p遺伝子」又は「hsa-miR-3940-5p」という用語は、配列番号7に記載のhsa-miR-3940-5p遺伝子(miRBase Accession No.MIMAT0019229)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-3940-5p遺伝子は、Liao JYら、2010年、PLoS One.、5巻、e10563に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-3940-5p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-3940」(miRBase Accession No.MI0016597、配列番号25)が知られている。
【0050】
本明細書で使用される「hsa-miR-4264遺伝子」又は「hsa-miR-4264」という用語は、配列番号8に記載のhsa-miR-4264遺伝子(miRBase Accession No.MIMAT0016899)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-4264遺伝子は、Goff LAら、2009年、PLoS One、4巻、e7192に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4264」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4264」(miRBase Accession No.MI0015877、配列番号26)が知られている。
【0051】
本明細書で使用される「hsa-miR-4508遺伝子」又は「hsa-miR-4508」という用語は、配列番号9に記載のhsa-miR-4508遺伝子(miRBase Accession No.MIMAT0016907)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-4508遺伝子は、Jima DDら、2010年、Blood、116巻、e118-e127に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4508」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4508」(miRBase Accession No.MI0016872、配列番号27)が知られている。
【0052】
本明細書で使用される「hsa-miR-4633-3p遺伝子」又は「hsa-miR-4633-3p」という用語は、配列番号10に記載のhsa-miR-4633-3p遺伝子(miRBase Accession No.MIMAT0019690)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-4633-3p遺伝子は、Persson Hら、2011年、Cancer Res、71巻、p78-86に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4633-3p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4633」(miRBase Accession No.MI0017260、配列番号28)が知られている。
【0053】
本明細書で使用される「hsa-miR-5006-3p遺伝子」又は「hsa-miR-5006-3p」という用語は、配列番号11に記載のhsa-miR-5006-3p遺伝子(miRBase Accession No.MIMAT0021034)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-5006-3p遺伝子は、Hansen TBら、2011年、RNA Biol、8巻、p378-383に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-5006-3p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-5006」(miRBase Accession No.MI0017873、配列番号29)が知られている。
【0054】
本明細書で使用される「hsa-miR-5006-5p遺伝子」又は「hsa-miR-5006-5p」という用語は、配列番号12に記載のhsa-miR-5006-5p遺伝子(miRBase Accession No.MIMAT0021033)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-5006-5p遺伝子は、Hansen TBら、2011年、RNA Biol、8巻、p378-383に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-5006-5p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-5006」(miRBase Accession No.MI0017873、配列番号29)が知られている。
【0055】
本明細書で使用される「hsa-miR-6085遺伝子」又は「hsa-miR-6085」という用語は、配列番号13に記載のhsa-miR-6085遺伝子(miRBase Accession No.MIMAT0023710)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-6085遺伝子は、Voellenkle Cら、2012年、RNA、18巻、p472-484に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-6085」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-6085」(miRBase Accession No.MI0020362、配列番号30)が知られている。
【0056】
本明細書で使用される「hsa-miR-6793-3p遺伝子」又は「hsa-miR-6793-3p」という用語は、配列番号14に記載のhsa-miR-6793-3p遺伝子(miRBase Accession No.MIMAT0027487)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-6793-3p遺伝子は、Ladewig Eら、2012年、Genome Res、22巻、p1634-1645に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-6793-3p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-6793-3p」(miRBase Accession No.MI0022638、配列番号31)が知られている。
【0057】
本明細書で使用される「hsa-miR-6799-3p遺伝子」又は「hsa-miR-6799-3p」という用語は、配列番号15に記載のhsa-miR-6799-3p遺伝子(miRBase Accession No.MIMAT0027499)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-6799-3p遺伝子は、Ladewig Eら、2012年、Genome Res、22巻、p1634-1645に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-6799-3p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-6799」(miRBase Accession No.MI0022644、配列番号32)が知られている。
【0058】
本明細書で使用される「hsa-miR-6851-5p遺伝子」又は「hsa-miR-6851-5p」という用語は、配列番号16に記載のhsa-miR-6851-5p遺伝子(miRBase Accession No.MIMAT0027602)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-6851-5p遺伝子は、Ladewig Eら、2012年、Genome Res、22巻、p1634-1645に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-6851-5p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-6851」(miRBase Accession No.MI0022697、配列番号33)が知られている。
【0059】
本明細書で使用される「hsa-miR-7112-3p遺伝子」又は「hsa-miR-7112-3p」という用語は、配列番号17に記載のhsa-miR-7112-3p遺伝子(miRBase Accession No.MIMAT0028122)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-7112-3p遺伝子は、Ladewig Eら、2012年、Genome Res、22巻、p1634-1645に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-7112-3p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-7112」(miRBase Accession No.MI0022963、配列番号34)が知られている。
【0060】
本明細書で使用される「hsa-miR-8070遺伝子」又は「hsa-miR-8070」という用語は、配列番号18に記載のhsa-miR-8070遺伝子(miRBase Accession No.MIMAT0030997)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-8070遺伝子は、Wang HJら、2013年、Shock、39巻、p480-487に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-8070」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-8070」(miRBase Accession No.MI0025906、配列番号35)が知られている。
【0061】
成熟型のmiRNAは、ヘアピン様構造をとるmiRNA前駆体から成熟型miRNAとして切出されるときに、配列の前後1~数塩基が短く、又は長く切出されることや、塩基の置換が生じて変異体となることがあり、そのようなmiRNAは「isomiR」と称される(Morin RD.ら、2008年、Genome Res.、第18巻、p.610-621)。miRBase(version 21)では、配列番号1~18のいずれかで表される塩基配列のほかに、数々のisomiRと呼ばれる配列番号36~62のいずれかで表される塩基配列の変異体及び断片も示されている。これらの変異体及び断片もまた、配列番号1~18のいずれかで表される塩基配列のmiRNAとして得ることができる。これらの変異体及び断片以外にも、miRBaseに登録された、配列番号1~18の数々のisomiRであるポリヌクレオチドが含まれる。さらに、配列番号1~18のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチドの例としては、それぞれの前駆体である配列番号19~35のいずれかで表されるポリヌクレオチドが挙げられる。
【0062】
表1に、配列番号1~35で表される遺伝子の名称とmiRBase Accession No.(登録番号)、配列番号1~18で表される遺伝子のisomiR(配列番号36~62)の一覧を示す。
【0063】
【0064】
本明細書で使用される「rs12997752」という用語は、2番染色体の塩基配列の205237192番目に位置する1塩基多型(SNP)を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型(メジャーアレル)は塩基配列T(チミン)であり、低頻度な遺伝子型(マイナーアレル)はC(シトシン)であることが知られている。
【0065】
本明細書で使用される「rs149944930」という用語は、20番染色体の塩基配列の17065817番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列G(グアニン)であり、低頻度な遺伝子型はC(アデニン)であることが知られている。
【0066】
本明細書で使用される「rs117393460」という用語は、8番染色体の塩基配列の2057708番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列C(シトシン)であり、低頻度な遺伝子型はT(チミン)であることが知られている。
【0067】
本明細書で使用される「rs12616298」という用語は、2番染色体の塩基配列の102236446番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列A(アデニン)であり、低頻度な遺伝子型はG(グアニン)であることが知られている。
【0068】
本明細書で使用される「rs117534907」という用語は、15番染色体の塩基配列の23884804番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列T(チミン)であり、低頻度な遺伝子型はC(シトシン)であることが知られている。
【0069】
本明細書で使用される「rs35831886」という用語は、18番染色体の塩基配列の41654801番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列T(チミン)であり、低頻度な遺伝子型はC(シトシン)であることが知られている。
【0070】
本明細書で使用される「rs118073044」という用語は、7番染色体の塩基配列の116136590番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列G(グアニン)であり、低頻度な遺伝子型はA(アデニン)であることが知られている。
【0071】
本明細書で使用される「rs117574479」という用語は、3番染色体の塩基配列の74588497番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列A(アデニン)であり、低頻度な遺伝子型はG(グアニン)であることが知られている。
【0072】
本明細書で使用される「rs116868325」という用語は、4番染色体の塩基配列の7198181番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列T(チミン)であり、低頻度な遺伝子型はC(シトシン)であることが知られている。
【0073】
本明細書で使用される「rs117099240」という用語は、19番染色体の塩基配列の:32915259番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列G(グアニン)であり、低頻度な遺伝子型はA(アデニン)であることが知られている。
【0074】
本明細書で使用される「rs79726130」という用語は、17番染色体の塩基配列の65883073番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列A(アデニン)であり、低頻度な遺伝子型はG(グアニン)であることが知られている。
【0075】
本明細書で使用される「rs3777118」という用語は、5番染色体の塩基配列の137275115番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列G(グアニン)であり、低頻度な遺伝子型はA(アデニン)であることが知られている。
【0076】
本明細書で使用される「rs117336092」という用語は、19番染色体の塩基配列の29302614番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列T(チミン)であり、低頻度な遺伝子型はG(グアニン)であることが知られている。
【0077】
本明細書で使用される「rs6721935」という用語は、2番染色体の塩基配列の9539296番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列C(シトシン)であり、低頻度な遺伝子型はT(チミン)であることが知られている。
【0078】
本明細書で使用される「rs72861163」という用語は、11番染色体の塩基配列の12085947番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列C(シトシン)であり、低頻度な遺伝子型はT(チミン)であることが知られている。
【0079】
本明細書で使用される「rs11855092」という用語は、15番染色体の塩基配列の80090238番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列G(グアニン)であり、低頻度な遺伝子型はA(アデニン)であることが知られている。
【0080】
本明細書で使用される「rs2830386」という用語は、21番染色体の塩基配列の28059694番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列G(グアニン)であり、低頻度な遺伝子型はA(アデニン)であることが知られている。
【0081】
本明細書で使用される「rs76232851」という用語は、3番染色体の塩基配列の29820945番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列C(シトシン)であり、低頻度な遺伝子型はA(アデニン)であることが知られている。
【0082】
本明細書で使用される「rs17682567」という用語は、13番染色体の塩基配列の59457467番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列T(チミン)であり、低頻度な遺伝子型はC(シトシン)であることが知られている。
【0083】
本明細書で使用される「rs9507595」という用語は、13番染色体の塩基配列の26459787番目に位置する1塩基多型を示し、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のdbSNPデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/)に掲載されている。本1塩基多型の高頻度な遺伝子型は塩基配列T(チミン)であり、低頻度な遺伝子型はC(シトシン)であることが知られている。
【0084】
表2に、本発明で特定したSNPに関するDNA配列の情報と、それぞれのSNPを検出するためのプライマーとプローブの配列番号63~102の一覧を示す。
【0085】
【0086】
本明細書において「特異的に結合可能な」とは、本発明で使用する核酸プローブ又はプライマーが、特定の標的核酸と結合し、他の核酸と実質的に結合できないことを意味する。
本明細書においてSNPに「隣接する部位」とは、当該SNPが存在する塩基配列の正鎖又は相補鎖において、当該SNPを含まない直ぐ3’末端側又は5’末端側の塩基配列の領域を示す。
【発明の効果】
【0087】
本発明のキット又はデバイスによれば、MCI患者の将来のAD発症リスクを、将来の発症の有無のみでなく、ADの発症予測時期を含む発症リスクの高低についても詳細に判定することが可能となる。また、本発明の方法は、MCI患者の将来のAD発症リスクを、将来の発症の有無のみでなく、ADの発症予測時期を含む発症リスクの高低についても詳細に判定することが可能な判定方法である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【
図1】
図1は、軽度認知障害(MCI)患者のアルツハイマー型認知症(AD)への進行の予後予測モデルの構築ワークフローを示す図である。ロジスティック回帰モデルからの統計的有意差(P値)に基づいて、SNPデータセットを作成した。(1)発見コホートの3分の2を用いて交差検証を行い、P値を算出した。(2)P値が最適値となるSNPセットを用いて、eQTL効果を有するSNP-miRNA対を検出した(miR-eQTL)。miR-eQTLと臨床因子の組み合わせを用いて、発見コホートの3分の2から、Cox比例ハザードモデルに基づく予後予測モデルを構築した。(3)発見コホートの残り1/3を用いて、構築されたモデルを評価した。(4)3倍交差検定を行い、C指数の平均値に基づいて、モデル構築のために最適なSNPデータセットを作成した。(5)発見コホート全体を用いて、最終モデルを構築した。(6)構築したモデルを、独立の検証コホートを用いて評価した。
【
図2】
図2は、予後予測モデルによって作成した、MCI患者がADを発症しない割合を示すKaplan-Meier曲線を示す。構築した予後予測モデルに各被験体のmiR‐eQTLと臨床因子と適用して、各被験体の予後指標を計算した。
図2a:予後指標に基づいて、発見コホートのサンプルを高リスク群(破線)と低リスク群(実線)に分けた。ログランク検定においてP値が最小となるカットオフ値を最適カットオフ値として使用し、カプラン・マイヤー曲線を作成して、両群のADを発症しない割合の差異を比較した。最適カットオフは7.85、P値の最小値は3.63×10
-7であった。
図2b:構築した予後予測モデルを、検証コホートを用いて評価した。ログランク検定におけるP値は3.44×10
-4であった。
図2c:臨床的要素(miR-eQTLなし)のみで構築した予後予測モデルを、発見コホートを用いて評価した結果を示す。
図2d:臨床的要素(miR-eQTLなし)のみで構築した予後予測モデルを、検証コホートを用いて評価した結果を示す。
【
図3】
図3は、ブートストラップ再標本化法を用いたP値のログランク分布を示す。ブートストラップ再標本化法を用いて、miR‐eQTLを有する予後予測モデル(実線)とmiR‐eQTLを有さない予後予測モデル(破線)を比較した。この手順を10,000回繰り返した。両モデル間のP値のログランク分布には有意差が見られた(P<0.01;Welchのt検定)。
【
図4】
図4は、タンパク質間相互作用(PPIネットワーク)解析の結果を示す。ノードは各遺伝子を示し、ノードの大きさは、接続されたエッジの数に対応する。接続されたエッジの数が5以上のノードには、遺伝子名を表示した。
【
図5】
図5は、PPIネットワーク解析で検出されたハブ遺伝子の各細胞/組織での発現状態を示す。各ハブ遺伝子の血液細胞および脳組織における発現を、Human Protein Atlasデータベース(https://www.proteinatlas.org/)で調査した。X軸は各ハブ遺伝子の転写産物の発現量について、各試料種の各遺伝子について正規化した値を示す。
【
図6】
図6は、PPIネットワーク解析で検出されたハブ遺伝子の各疾患群での発現状態を示す。610症例(AD:271症例、MCI:248症例、認知機能正常の高齢被験体(CN):91症例)の血液検体を用いて遺伝子発現をさらに検討した。AD、MCI、CNの3群の相互比較を行った結果を示す。図中の「TMM」は、トリミングされた遺伝子発現量値(M値)の平均値を示す。「*」は統計的有意差があることを示す。
【
図7】
図7は、PPIネットワーク解析で検出されたハブ遺伝子のMCI患者での発現状態を示す。MCI群(123症例)のうち、ADに進行するMCI-C群(48症例)とADに進行しにくいMCI-NC群(75症例)の比較を行った結果を示す。図中の「TMM」は、トリミングされたM値の平均値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0089】
以下に本発明をさらに具体的に説明する。
【0090】
1.AD発症リスク判定のための標的核酸
本発明のキット又はデバイスを使用して被験体のAD発症リスクを判定するための、AD発症リスクのマーカーとしての主要な標的核酸には、(i)miR-1228-5p、miR-1249-5p、miR-29a-3p、miR-3196、miR-323b-5p、miR-330-3p、miR-3940-5p、miR-4264、miR-4508、miR-4633-3p、miR-5006-3p、miR-5006-5p、miR-6085、miR-6793-3p、miR-6799-3p、miR-6851-5p、miR-7112-3p及びmiR-8070からなる群から選択される1以上のmiRNA(以下、「第1マーカー」とも称する)、及び(ii)ゲノムDNAの、rs12997752で特定された一塩基多型(SNP)及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs149944930で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs117393460で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs12616298で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs117534907で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs35831886で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs118073044で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs117574479で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs116868325で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs117099240で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs79726130で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs3777118で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs117336092で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs6721935で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs72861163で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs11855092で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs2830386で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs76232851で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs17682567で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域及びrs9507595で特定されたSNP及び/またはその隣接する部位を含む5~50塩基の領域からなる群から選択された1以上の領域(以下、「第2マーカー」とも称する)が含まれる。
【0091】
上記第1マーカーは、配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列を含むヒト遺伝子、その転写産物、より好ましくは当該転写産物、すなわちmiRNA、その前駆体RNAであるpri-miRNA又はpre-miRNAである。
【0092】
上記第2マーカーは、具体的には、上記のSNPのいずれかを含むゲノムDNAの連続する5~50塩基の領域である。配列番号63~82で表される塩基配列は、上記のSNPより3’末端側の20塩基の領域の相補鎖であり、一塩基伸長用のプライマーとして用いることができる。また、配列番号83~102で表される塩基配列は、上記のSNPより3’末端側の20塩基の領域であり、上記1塩基伸長用のプライマーが上記のSNPに対応して1塩基伸長した成果物を捕捉するためのプローブとして用いることができる。これらの塩基配列を有する領域を標的核酸としてもよいし、より長い領域又は短い領域としてもよい。
【0093】
一態様において、本発明は、上記第1マーカー及び第2マーカーをそれぞれ少なくとも1つ含む、ADの発症リスクを評価するためのマーカーに関する。
【0094】
一態様において、本発明は、ADの発症リスクを評価するための、上記第1マーカー及び第2マーカーのそれぞれ少なくとも1つの使用に関する。
【0095】
2.AD発症リスクを評価するための核酸プローブ又はプライマー
2-1.第1マーカーを検出するための核酸プローブ又はプライマー(第1の核酸)
本発明において、AD発症リスクを評価するために使用可能な、上記1.の項に記載した「第1マーカー」を検出するための核酸プローブ又はプライマーは、第1マーカーとしての、ヒト由来のmiR-1228-5p、miR-1249-5p、miR-29a-3p、miR-3196、miR-323b-5p、miR-330-3p、miR-3940-5p、miR-4264、miR-4508、miR-4633-3p、miR-5006-3p、miR-5006-5p、miR-6085、miR-6793-3p、miR-6799-3p、miR-6851-5p、miR-7112-3p及びmiR-8070、あるいはそれらの組み合わせ、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体の存在、発現量又は存在量を定性的及び/又は定量的に測定することを可能にする。以下、これらの核酸プローブ又はプライマーを構成する核酸を「第1の核酸」とも称する。
【0096】
第1マーカーを検出するための核酸プローブ又はプライマーは、配列番号1~62の少なくとも1つで表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの相補鎖と特異的に結合可能な核酸プローブ、あるいは、配列番号1~62の少なくとも1つで表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーである。
【0097】
本発明の方法の好ましい実施形態において、上記の核酸プローブ又はプライマーは、配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列、もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列、を含むポリヌクレオチド群及びその相補的ポリヌクレオチド群、当該塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとハイストリンジェントな条件下でそれぞれハイブリダイズするポリヌクレオチド群及びその相補的ポリヌクレオチド群、並びにそれらのポリヌクレオチド群の塩基配列において15以上、好ましくは17以上の連続した塩基を含むポリヌクレオチド群から選ばれた1又は複数のポリヌクレオチドの組み合わせを含む。
【0098】
一実施形態において、本発明で使用可能な、第1マーカーを検出するための核酸プローブ又はプライマーの例は、以下のポリヌクレオチド(a)~(e)のいずれかからなる群から選択される1又は複数のポリヌクレオチドである:
(a)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(b)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(d)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、並びに、
(e)前記(a)~(d)のいずれかのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0099】
本発明で使用される上記ポリヌクレオチド類又はその断片類はいずれもDNAでもよいしRNAでもよい。
【0100】
本発明で使用可能な上記のポリヌクレオチドは、DNA組換え技術、PCR法、DNA/RNA自動合成機による方法などの一般的な技術を用いて作製することができる。
【0101】
DNA組換え技術及びPCR法は、例えばAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology、John Willey & Sons、US(1993);Sambrookら、Molecular Cloning A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、US(1989)などに記載される技術を使用することができる。
【0102】
配列番号1~18で表されるヒト由来のmiR-1228-5p、miR-1249-5p、miR-29a-3p、miR-3196、miR-323b-5p、miR-330-3p、miR-3940-5p、miR-4264、miR-4508、miR-4633-3p、miR-5006-3p、miR-5006-5p、miR-6085、miR-6793-3p、miR-6799-3p、miR-6851-5p、miR-7112-3p、miR-8070は公知であり、前述のようにその取得方法も知られている。このため、この遺伝子をクローニングすることによって、本発明で使用可能な核酸プローブ又はプライマーとしてのポリヌクレオチドを作製することができる。
【0103】
配列番号1、2、3、4、5、6、7、9、10、11、12、14、16及び17で表される塩基配列からなるmiRNAのisomiRNAであって、表1に記載の配列番号36~62で表される塩基配列についても、同様に公知であり、前述のようにその取得方法も知られている。このため、この遺伝子をクローニングすることによって、本発明で使用可能な、第1マーカーを検出するための核酸プローブ又はプライマーとしてのポリヌクレオチドを作製することができる。
【0104】
そのような核酸プローブ又はプライマーは、DNA自動合成装置を用いて化学的に合成することができる。この合成には一般にホスホアミダイト法が使用され、この方法によって約100塩基までの一本鎖DNAを自動合成することができる。DNA自動合成装置は、例えばPolygen社、ABI社、Applied BioSystems社などから市販されている。
【0105】
あるいは、本発明のポリヌクレオチドは、cDNAクローニング法によって作製することもできる。cDNAクローニング技術は、例えばmicroRNA Cloning Kit Wakoなどを利用できる。
【0106】
ここで、配列番号1~18のいずれかで表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを検出するための核酸プローブ及びプライマーの配列は、miRNA又はその前駆体としては生体内に存在していない。例えば、配列番号1又はmiR-1228-5pで表される塩基配列は、配列番号19で表される前駆体から生成されるが、この前駆体は、一分子間にミスマッチ配列を有し、ヘアピン様構造をとる。このため、配列番号1又はmiR-1228-5pで表される塩基配列に対する、完全に相補的な塩基配列が生体内で自然に生成されることはない。このため、配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列を検出するための核酸プローブ及びプライマーは生体内に存在しない人工的な塩基配列を有し得る。
【0107】
2-2.第2マーカーを検出するための核酸プローブ又はプライマー(第2の核酸)
本発明において、AD発症リスクを評価するために使用可能な、1.の項に記載した「第2マーカー」を検出するための核酸プローブ又はプライマーは、(ii)第2マーカーとしての、ゲノムDNAの、rs12997752で特定された一塩基多型(SNP)及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs149944930で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs117393460で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs12616298で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs117534907で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs35831886で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs118073044で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs117574479で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs116868325で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs117099240で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs79726130で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs3777118で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs117336092で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs6721935で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs72861163で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs11855092で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs2830386で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs76232851で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs17682567で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域及びrs9507595で特定されたSNP及び/又はその隣接する部位を含む5~50塩基の領域からなる群から選択された1以上の領域、あるいはそれらの組み合わせを検出することを可能にする。以下、これらの核酸プローブ又はプライマーを構成する核酸を「第2の核酸」とも称する。
【0108】
第2マーカーを検出するための核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAの上記SNP及び/又はその隣接する部位含む連続する領域と特異的に結合可能な核酸プライマー又はプローブとすることが好ましい。このような核酸プライマー又はプローブとしては、例えば、配列番号63~102の少なくとも1つで表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの相補鎖と特異的に結合可能な核酸プライマー又はプローブが挙げられる。
【0109】
ゲノムDNAのrs12997752で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として配列番号63、核酸プライマー又は核酸プローブの例として配列番号83で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドが挙げられる。これらの核酸プローブは、ゲノムDNAのrs12997752で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、2番染色体の205237193~205237212番目の配列に対応する。
【0110】
ゲノムDNAのrs149944930で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号64若しくは配列番号84で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs149944930で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、20番染色体の17065818~7065837番目の配列に対応する。
【0111】
ゲノムDNAのrs117393460で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号65若しくは配列番号85で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs117393460で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、8番染色体の2057709~2057728番目の配列に対応する。
【0112】
ゲノムDNAのrs12616298で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号66若しくは配列番号86で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs12616298で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、2番染色体の102236447~102236466番目の配列に対応する。
【0113】
ゲノムDNAのrs117534907で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号67若しくは配列番号87で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs117534907で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、15番染色体の23884805~23884824番目の配列に対応する。
【0114】
ゲノムDNAのrs35831886で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号68若しくは配列番号88で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs35831886で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、18番染色体の41654802~41654821番目の配列に対応する。
【0115】
ゲノムDNAのrs118073044で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号69若しくは配列番号89で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs118073044で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、7番染色体の116136591~116136610番目の配列に対応する。
【0116】
ゲノムDNAのrs117574479で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号70若しくは配列番号90で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs117574479で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、3番染色体の74588498~74588517番目の配列に対応する。
【0117】
ゲノムDNAのrs116868325で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号71若しくは配列番号91で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs116868325で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、4番染色体の7198182~7198201番目の配列に対応する。
【0118】
ゲノムDNAのrs117099240で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号72若しくは配列番号92で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs117099240で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、19番染色体の32915260~32915279番目の配列に対応する。
【0119】
ゲノムDNAのrs79726130で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号73若しくは配列番号93で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs79726130で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、17番染色体の65883074~65883093番目の配列に対応する。
【0120】
ゲノムDNAのrs3777118で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又は酸プローブの例として、配列番号74若しくは配列番号94で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs3777118で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、5番染色体の137275116~137275135番目の配列に対応する。
【0121】
ゲノムDNAのrs117336092で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号75若しくは配列番号95で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs117336092で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、19番染色体の29302615~29302634番目の配列に対応する。
【0122】
ゲノムDNAのrs6721935で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号76若しくは配列番号96で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs6721935で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、2番染色体の9539297~9539316番目の配列に対応する。
【0123】
ゲノムDNAのrs72861163で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号77若しくは配列番号97で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs72861163で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、11番染色体の12085948~12085967番目の配列に対応する。
【0124】
ゲノムDNAのrs11855092で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号78若しくは配列番号98で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs11855092で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、15番染色体の80090239~80090258番目の配列に対応する。
【0125】
ゲノムDNAのrs2830386で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号79若しくは配列番号99で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs2830386で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、21番染色体の28059695~28059714番目の配列に対応する。
【0126】
ゲノムDNAのrs76232851で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号80若しくは配列番号100で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs76232851で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、3番染色体の29820946~298209465番目の配列に対応する。
【0127】
ゲノムDNAのrs17682567で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号81若しくは配列番号101で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs17682567で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、13番染色体の59457468~59457487番目の配列に対応する。
【0128】
ゲノムDNAのrs9507595で特定されたSNPの検出に有用な核酸プライマー又はプローブの例として、配列番号82若しくは配列番号102で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はその相補鎖が挙げられる。これらの核酸プライマー又はプローブは、ゲノムDNAのrs9507595で特定されたSNPの3’末端側に隣接する部位を含む20塩基の塩基配列またはその相補的な配列を有する。具体的には、13番染色体の26459788~26459807番目の配列に対応する。
【0129】
核酸プライマー又はプローブは、標的となるSNPを含む又は隣接する領域と特異的に結合することができれば、上記の配列番号63~102で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドのいずれかである必要はない。核酸プライマー又はプローブは、標的となるSNPを含む又は隣接する領域と特異的に結合可能であれば、20塩基より長くても短くてもよいが、5~50塩基、特に15~30塩基の長さとすることが好ましい。また、標的となるSNPを含む又は隣接する領域と100%の同一性を有することが好ましいが、当該領域のDNAと特異的に結合可能であれば、1塩基、2塩基又は3塩基の差異を有していてもよい。
【0130】
核酸プライマー又はプローブは、上記の配列番号63~102で表される塩基配列より、ゲノムDNAの5’末端寄り又は3’末端寄りの位置に結合する配列を有していてもよい。例えば、核酸プローブの3’末端がSNPに当接するように設計してもよい(例えば、invader法のインベーダーオリゴ)。このような核酸プローブは、例えば、通常のPCR法に加え、TaqMan(登録商標)PCR法、DNAアレイ法、ラインプローブ法、invader法、ループ媒介増幅(LAMP)法、核酸配列ベース増幅(NASBA)法、鎖置換増幅(SDA)法、ローリングサークル増幅(RCA)法、RNA技術のシグナル媒介増幅(SMART)法、ヘリカーゼを活用した核酸検出法、等に好適に適用できる。
【0131】
AD発症リスクを評価するために使用可能な、第2マーカーを検出するためのプライマーの第1の態様では、プライマーは、ゲノムDNAの標的となるSNPに隣接する部位を含む5~50塩基の領域に特異的に結合可能な塩基配列を有する。好適には、プライマーはSNPには結合しない。より好適には、プライマーは、標的となるSNPの3’末端側に隣接する部位に結合する。SNPの3’末端側に隣接する部位に結合するプライマーの使用により、一塩基伸長法によるSNPの検出が可能となる。例えば、上記SNPの3’末端側に隣接する核酸プライマーと、各塩基毎に異なる色素で標識したddNTP(ダイデオキシデオキシヌクレオチド三リン酸)を用いてポリメラーゼ反応に処した場合、上記核酸プライマーからSNP部位に対する1塩基だけ塩基配列が伸長され、上記SNPの種類に応じた色素標識を付加したポリヌクレオチドの成果物が得られる。このような核酸プライマーには、核酸、人工核酸、ポリペプチド、タンパク質、糖鎖、またはその他の化合物から成るタグ、基質などの標識体が付加されていてもよい。このような核酸プライマーとしては、例えば、配列番号63~82の少なくとも1つで表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの相補鎖と特異的に結合可能な核酸プライマーが挙げられる。
【0132】
上記のSNPの種類に応じた色素標識を付加したポリヌクレオチド成果物を検出するためには、例えば、この塩基配列の相補鎖からなるポリヌクレオチドからなる核酸プローブや、上記核酸プライマーに付加されたタグなどの標識体を検出することができる化合物からなるプローブを用いることができる。上記のような核酸プローブとしては、例えば、配列番号83~102の少なくとも1つで表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドの相補鎖と特異的に結合可能な核酸プローブが挙げられる。
【0133】
AD発症リスクを評価するために使用可能な、第2マーカーを検出するためのプライマーの第2の態様では、プライマーは、ゲノムDNAの標的となるSNPの近傍の領域(例えば、数塩基から数十塩基離れた領域)に特異的に結合する塩基配列を有し、上記の核酸プローブと組み合わせて使用される。生体試料から得られる標的とするSNPを含むDNAの量は少量であるため、核酸プローブによる検出前又は検出中に、例えば、上記プライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等で標的とするSNPを含む領域を増幅させてもよい。
【0134】
上記の核酸プローブ又はプライマーは、DNA自動合成装置を用いて化学的に合成することができる。この合成には一般にホスホアミダイト法が使用され、この方法によって約100塩基までの一本鎖DNAを自動合成することができる。DNA自動合成装置は、例えばPolygen社、ABI社、Applied BioSystems社などから市販されている。
【0135】
あるいは、本発明のポリヌクレオチドは、cDNAクローニング法によって作製することもできる。cDNAクローニング技術は、例えばmicroRNA Cloning Kit Wakoなどを利用できる。
【0136】
3.AD発症リスク評価用キット又はデバイス
本発明は、AD発症リスク評価用のマーカーである第1マーカー及び第2マーカーを測定するための、本発明において各標的核酸に対応する核酸プローブ又はプライマーとして使用可能なポリヌクレオチド(これには、変異体、断片、又は誘導体を含みうる。)の1つ又は複数を含むAD発症リスク評価用キット又はデバイスを提供する。本発明のキット又はデバイスは、第1マーカーを測定するための核酸プローブ又はプライマーからなる「第1の核酸」と、第2マーカーを測定するための核酸プローブ又はプライマーからなる「第2の核酸」とを備える。
【0137】
3-1.第1の核酸を備える構成
本発明のキット又はデバイスは、第1の核酸として、配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列、もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列を含む(もしくは、からなる)ポリヌクレオチド、その相補的配列を含む(もしくは、からなる)ポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、又はそれらのポリヌクレオチド配列の15以上の連続した塩基を含む変異体又は断片、を少なくとも1つ含むことができる。
【0138】
好ましい実施形態では、前記ポリヌクレオチドが、配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その相補的配列からなるポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、又はそれらの15以上、好ましくは17以上、より好ましくは19以上の連続した塩基配列を含む変異体である。
【0139】
また、好ましい実施形態では、前記ポリヌクレオチドが、配列番号1~18のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その相補的配列からなるポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、又はそれらの15以上、好ましくは17以上、より好ましくは19以上の連続した塩基を含む変異体である。
【0140】
好ましい実施形態では、前記断片は、15以上、好ましくは17以上、より好ましくは19以上の連続した塩基を含むポリヌクレオチドであることができる。
【0141】
本発明において、ポリヌクレオチドの断片のサイズは、各ポリヌクレオチドの塩基配列において、例えば、連続する15から配列の全塩基数未満、17から配列の全塩基数未満、19から配列の全塩基数未満などの範囲の塩基数である。
【0142】
本発明のキット又はデバイスにおける第1マーカーとしての上記ポリヌクレオチドの組み合わせとしては、具体的には表1に示される配列番号1~62に表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個以上、又は全部を組み合わせた場合を挙げることができるが、それらはあくまでも例示であり、他の種々の可能な組み合わせのすべてが本発明に包含される。例えば、配列番号1~18に表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを全て組み合わせてもよい。
【0143】
3-2.第2の核酸を備える構成
本発明のキット又はデバイスは、第2の核酸として、rs12997752で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs149944930で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs117393460で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs12616298で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs117534907で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs35831886で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs118073044で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs117574479で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs116868325で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs117099240で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs79726130で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs3777118で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs117336092で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs6721935で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs72861163で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs11855092で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs2830386で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs76232851で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域、rs17682567で特定された一塩基多型及び/又はその隣接する部位を含む連続する5~50塩基の領域及びrs9507595で特定された一塩基多型を含む5~50塩基の領域からなる群から選択された1以上の領域又はその相補鎖と特異的に結合可能な核酸を含む。
【0144】
本発明のキット又はデバイスに含まれる第2の核酸は、上記のrs12997752、rs149944930、rs117393460、rs12616298、rs117534907、rs35831886、rs118073044、rs117574479、rs116868325、rs117099240、rs79726130、rs3777118、rs117336092、rs6721935、rs72861163、rs11855092、rs2830386、rs76232851、rs17682567及びrs9507595からなる群より選択される少なくとも1つのSNPを検出可能とする核酸であれば、その配列は特に限定されるものではない。
【0145】
本発明のキット又はデバイスに含まれる第2の核酸としては、例えば、配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列、もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列を含む(もしくは、からなる)ポリヌクレオチド、その相補的配列を含む(もしくは、からなる)ポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、又はそれらのポリヌクレオチド配列の15以上の連続した塩基を含む断片、を少なくとも1つ含むことができる。前記15以上の連続した塩基を含む断片は、好ましくは17以上、より好ましくは19以上の連続した塩基配列を含む断片である。
【0146】
本発明のキット又はデバイスが検出可能なSNPの組み合わせとしては、rs12997752、rs149944930、rs117393460、rs12616298、rs117534907、rs35831886、rs118073044、rs117574479、rs116868325、rs117099240、rs79726130、rs3777118、rs117336092、rs6721935、rs72861163、rs11855092、rs2830386、rs76232851、rs17682567及びrs9507595からなる群より選択される1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個以上、又は全部を組み合わせた場合を挙げることができるが、それらはあくまでも例示であり、他の種々の可能な組み合わせのすべてが本発明に包含される。例えば、上記SNPを全て組み合わせてもよい。
【0147】
3-3.共通の構成
本発明のキット又はデバイスは、上で説明した第1の核酸及び第2の核酸に加えて、アミロイドβタンパク質やタウタンパク質などの公知の認知症検査用マーカーや、それらを可視化するPETなどの画像検査と組み合わせて使用することもできる。
【0148】
本発明のキットは、上で説明した本発明におけるポリヌクレオチドに加えて、MMSEなどの神経心理検査やテストと組み合わせて使用することもできる。
【0149】
本発明のキットに含まれる第1の核酸及び第2の核酸は、個別に又は任意に組み合わせて異なる容器に包装されうる。
【0150】
本発明のキットには、体液、細胞又は組織から核酸(例えば、total RNA、ゲノムDNA)を抽出するためのキット、標識用蛍光物質、核酸増幅用酵素及び培地、使用説明書、などを含めることができる。
【0151】
本発明のデバイスは、上で説明した本発明における第1の核酸又は第2の核酸が、例えば、固相に結合もしくは付着された認知症マーカー測定のためのデバイスである。固相の材質の例は、プラスチック、紙、ガラスシリコン、などであり、加工のしやすさから、好ましい固相の材質はプラスチックである。固相の形状は、任意であり、例えば方形、丸形、短冊形、フィルム形などである。本発明のデバイスは、例えば、ハイブリダイゼーション技術による測定のためのデバイスを含み、具体的にはブロッティングデバイス、核酸アレイ(例えばマイクロアレイ、DNAチップ、RNAチップなど)などが例示される。
【0152】
核酸アレイ技術は、必要に応じてLリジンコートやアミノ基、カルボキシル基などの官能基導入などの表面処理が施された固相の表面に、スポッター又はアレイヤーと呼ばれる高密度分注機を用いて核酸をスポットする方法、ノズルより微少な液滴を圧電素子などにより噴射するインクジェットを用いて核酸を固相に吹き付ける方法、固相上で順次ヌクレオチド合成を行う方法などの方法を用いて、上記の核酸を1つずつ結合もしくは付着させることによりチップなどのアレイを作製し、このアレイを用いてハイブリダイゼーションを利用して標的核酸を測定する技術である。
【0153】
本発明のキット又はデバイスは、AD発症リスクの評価方法(後述)のために使用することができる。しかし、AD発症リスクの評価方法は、これらのキット又はデバイスを使用する方法のみに限定されない。
【0154】
4.AD発症リスクの評価方法
本発明のAD発症リスクの評価方法は、(1)被験体の検体において、miR-1228-5p、miR-1249-5p、miR-29a-3p、miR-3196、miR-323b-5p、miR-330-3p、miR-3940-5p、miR-4264、miR-4508、miR-4633-3p、miR-5006-3p、miR-5006-5p、miR-6085、miR-6793-3p、miR-6799-3p、miR-6851-5p、miR-7112-3p、miR-8070からなる群から選択される1以上のポリヌクレオチドの発現量を測定する工程(以下「第1の工程」とも称する)、(2)被験体のゲノムDNAにおける、rs12997752で特定された一塩基多型(SNP)、rs149944930で特定されたSNP、rs117393460で特定されたSNP、rs12616298で特定されたSNP、rs117534907で特定されたSNP、rs35831886で特定されたSNP、rs118073044で特定されたSNP、rs117574479で特定されたSNP、rs116868325で特定されたSNP、rs117099240で特定されたSNP、rs79726130で特定されたSNP、rs3777118で特定されたSNP、rs117336092で特定されたSNP、rs6721935で特定されたSNP、rs72861163で特定されたSNP、rs11855092で特定されたSNP、rs2830386で特定されたSNP、rs76232851で特定されたSNP、rs17682567で特定されたSNP及びrs9507595で特定されたSNPからなる群から選択された1以上のSNPの情報を取得する工程(以下、「第2の工程」とも称する)、及び(3)測定されたポリヌクレオチドの発現量及び取得されたSNP情報を用いて、被験体のAD発症リスクを評価する工程(以下、「第3の工程」とも称する)を含む。
【0155】
本発明の方法において、「被験体」は、ヒトである。より好ましくは、「被験体」は、軽度認知障害(MCI)患者である。本発明の方法は、ADを発症していないMCI患者において、将来のAD発症のリスクに有用な方法である。
【0156】
4-1.第1の工程
本発明の方法における第1の工程(以下、本項では単に「本工程」とも称する)は、被験体の検体において、所定のmiRNAの発現量を測定する工程である。具体的には、上記の第1マーカーである、配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列を含むヒト遺伝子、その転写産物、より好ましくは当該転写産物、すなわちmiRNA、その前駆体RNAであるpri-miRNA又はpre-miRNAを測定する工程である。
【0157】
本発明の方法における「検体」は、上記第1マーカーを測定するための検体である。miRNAを含み得る検体であれば、特に限定されないが、使用する検出方法の種類に応じて、血液、血清、血漿、尿等の体液を使用できる。血液検体、特に血漿又は血清検体を使用することが好ましい。あるいは、そのような体液上記の方法によって調製したtotal RNAとしてもよいし、さらに当該RNAをもとにして調製される、cDNAを含む各種のポリヌクレオチドとしてもよい。検体は、後述する「第2の検体」と同一の検体であっても、別の検体であってもよい。別の検体とする場合、両検体の採取は、同時若しくは同日であってもよく、また、別の日であってもよい。
【0158】
本工程の一態様は、検体中のmiR-1228-5p、miR-1249-5p、miR-29a-3p、miR-3196、miR-323b-5p、miR-330-3p、miR-3940-5p、miR-4264、miR-4508、miR-4633-3p、miR-5006-3p、miR-5006-5p、miR-6085、miR-6793-3p、miR-6799-3p、miR-6851-5p、miR-7112-3p及びmiR-8070で表される遺伝子を含む群から選択される、1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、より好ましくは15個以上、最も好ましくはすべての遺伝子の発現量をin vitroで測定する工程である。
【0159】
本工程において、血液、血清、血漿等の検体から第1マーカーを含み得る遺伝子を抽出する方法としては、3D-Gene(登録商標)RNA extraction reagent from liquid sample kit(東レ株式会社)中のRNA抽出用試薬を加えて調整するのが特に好ましいが、一般的な酸性フェノール法(Acid Guanidinium-Phenol-Chloroform(AGPC)法)を用いてもよいし、Trizol(登録商標)(Life Technologies社)用いてもよいし、Trizol(life technologies社)やIsogen(ニッポンジーン社)などの酸性フェノールを含むRNA抽出用試薬を加えて調製してもよい。さらに、miRNeasy(登録商標)Mini Kit(Qiagen社)などのキットを利用できるが、これらの方法に限定されない。
【0160】
本工程において、遺伝子発現量の測定は、ノーザンブロット法、サザンブロット法、in situ ハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、サザンハイブリダイゼーション法などのハイブリダイゼーション技術、定量RT-PCR法などの定量増幅技術、及び次世代シークエンサーによる方法などの、特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法において、定法に従って行うことができる。
【0161】
本工程の一態様は、さらに以下の(1)及び(2)のステップ:
(1)被験体由来の検体を、in vitroで、上記第1核酸と接触させるステップ、
(2)検体中の標的核酸の発現量を、上記ポリヌクレオチドを核酸プローブ又はプライマーとして用いて測定するステップ、
を含むことができる。
【0162】
また、本工程の好ましい一態様において、第1の核酸(具体的には、プローブ又はプライマー)は、下記の(a)~(e)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(a)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(b)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(d)配列番号1~62のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(e)前記(a)~(d)のいずれかのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択される。
【0163】
本工程において、測定対象として用いる検体の種類に応じてステップを変更することができる。
【0164】
測定対象とする第1マーカーがRNA(miRNAを含む)である場合、本工程は、例えば、さらに下記のステップ(1’)及び(2’):
(1’)被験体の検体から調製されたRNA(ここで、例えばRNAの3’末端はポリアデニル化されていてもよい、又はいずれか若しくは両方の末端に任意の配列がライゲーション法などで付加されていてもよい)又はそれから転写された相補的ポリヌクレオチド(cDNA)を、上記「2-1」の項に記載した第1の核酸と接触させるステップ、
(2’)当該ポリヌクレオチドに結合した検体由来のRNA又は当該RNAから合成されたcDNAを、上記ポリヌクレオチドを核酸プローブとして用いるハイブリダイゼーションによって、あるいは、上記ポリヌクレオチドをプライマーとして用いる核酸検出方法によって測定するステップ、
を含むことができる。
【0165】
本工程において、標的遺伝子の発現量を測定するために、例えば種々のハイブリダイゼーション法を使用することができる。このようなハイブリダイゼーション法には、例えばノーザンブロット法、サザンブロット法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、サザンハイブリダイゼーション法などを使用することができる。また、ハイブリダイゼーション法と組み合わせて、又はその代替法として、定量RT-PCRなどのPCR法、インベーダー法、ループ媒介増幅(LAMP)法、核酸配列ベース増幅(NASBA)法、鎖置換増幅(SDA)法、ローリングサークル増幅(RCA)法、RNA技術のシグナル媒介増幅(SMART)法、ヘリカーゼを活用した核酸検出法、又は次世代シークエンス法などを使用することができる。
【0166】
ノーザンブロット法を利用する場合は、例えば本発明で使用可能な上記核酸プローブを用いることによって、RNA中の各遺伝子発現の有無やその発現量を検出、測定することができる。具体的には、核酸プローブ(相補鎖)を放射性同位元素(32P、33P、35Sなど)や蛍光物質などで標識し、それを常法にしたがってナイロンメンブレンなどにトランスファーし被験体の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせたのち、形成されたDNA/RNA二重鎖の標識物(放射性同位元素又は蛍光物質)に由来するシグナルを放射線検出器(BAS-1800II(富士フィルム株式会社)、などを例示できる)又は蛍光検出器(STORM 865(GEヘルスケア社)、などを例示できる)で検出、測定する方法を例示することができる。
【0167】
定量RT―PCR法を利用する場合には、例えば本発明で使用可能な上記プライマーを用いることによって、RNA中の遺伝子発現の有無やその発現量を検出、測定することができる。例えば、被験体の生体組織由来のRNAを回収し、3’末端をポリアデニル化し、ポリアデニル化RNAから常法にしたがってcDNAを調製して、これを鋳型として標的の各遺伝子マーカーの領域が増幅できるように、本発明の検出用キット又はデバイスに含まれ得る1対のプライマー(上記cDNAに結合する正鎖と逆鎖からなる)をcDNAとハイブリダイズさせて常法によりPCR法を行い、得られた一本鎖もしくは二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。miRNAのような短いRNAを増幅する場合は、miRNAの末端にアダプター核酸等を結合して全長を長くした後に、逆転写し、鋳型DNAを調製することもできる。なお、一本鎖もしくは二本鎖DNAの検出法としては、上記PCRをあらかじめ放射性同位元素や蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行う方法、PCR産物をアガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドなどで二本鎖DNAを染色して検出する方法、産生された一本鎖もしくは二本鎖DNAを常法にしたがってナイロンメンブレンなどにトランスファーさせ、標識した核酸プローブとハイブリダイズさせて検出する方法を含むことができる。
【0168】
核酸アレイ解析を利用する場合は、例えば本発明の上記検出用キット又はデバイスを核酸プローブ(一本鎖又は二本鎖)として基板(固相)に貼り付けたRNAチップ又はDNAチップを用いる。核酸プローブを貼り付けた領域をプローブスポット、核酸プローブを貼り付けていない領域をブランクスポットと称する。遺伝子群を基板に固相化したものには、一般に核酸チップ、核酸アレイ、マイクロアレイなどという名称があり、DNAもしくはRNAアレイにはDNAもしくはRNAマクロアレイとDNAもしくはRNAマイクロアレイが包含されるが、本明細書ではチップといった場合、当該アレイを含むものとする。DNAチップとしては3D-Gene(登録商標)Human miRNA Oligo chip(東レ株式会社)を用いることができるが、これに限られない。
【0169】
DNAチップの測定は、限定されないが、例えば検出用キット又はデバイスの標識物に由来するシグナルを画像検出器(Typhoon 9410(GEヘルスケア社)、3D-Gene(登録商標)スキャナー(東レ株式会社)などを例示できる)で検出、測定する方法を例示することができる。
【0170】
本工程における「ハイストリンジェントな条件」はハイブリダイゼーションとその後の洗浄によって、規定される。そのハイブリダイゼーションの条件は、限定されないが、例えば30℃~60℃で、SSC、界面活性剤、ホルムアミド、デキストラン硫酸塩、ブロッキング剤などを含む溶液中で1~24時間の条件とする。ここで、1×SSCは、150mM塩化ナトリウム及び15mMクエン酸ナトリウムを含む水溶液(pH7.0)であり、界面活性剤はSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、Triton、もしくはTweenなどを含む。ハイブリダイゼーション条件としては、より好ましくは3~10×SSC、0.1~1% SDSを含む。ハイストリンジェントな条件を規定するもうひとつの条件である、ハイブリダイゼーション後の洗浄条件としては、例えば、30℃の0.5×SSCと0.1%SDSを含む溶液、及び30℃の0.2×SSCと0.1%SDSを含む溶液、及び30℃の0.05×SSC溶液による連続した洗浄などの条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件下で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが望ましい。具体的にはこのような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに当該鎖と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%又は少なくとも95%の相同性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
【0171】
これらのハイブリダイゼーションにおける「ハイストリンジェントな条件」の他の例については、例えばSambrook、J.& Russel、D.著、Molecular Cloning、A LABORATORY MANUAL、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001年1月15日発行、の第1巻7.42~7.45、第2巻8.9~8.17などに記載されており、本発明において利用できる。
【0172】
定量RT-PCR等のPCRを実施する際の条件の例としては、例えば10mM Tris-HCL(pH8.3)、50mM KCL、1~2mM MgCl2などの組成のPCRバッファーを用い、当該プライマーの配列から計算されたTm値+5~10℃において15秒から1分程度処理することなどが挙げられる。かかるTm値の計算方法としてTm値=2×(アデニン残基数+チミン残基数)+4×(グアニン残基数+シトシン残基数)などが挙げられる。
【0173】
また、定量RT-PCR法を用いる場合には、TaqMan(登録商標) MicroRNA Assays(Life Technologies社):LNA(登録商標)-based MicroRNA PCR(Exiqon社):Ncode(登録商標) miRNA qRT-PCT キット(invitrogen社)などの、miRNAを定量的に測定するために特別に工夫された市販の測定用キットを用いてもよい。
【0174】
本工程において、遺伝子の発現量の測定は、上記ハイブリダイゼーション法に加えて、シークエンサーを用いて行ってもよい。シークエンサーを用いる場合には、サンガー法に基づいた第1世代とするDNAシークエンサー、リードサイズの短い第2世代、リードサイズの長い第3世代のいずれも利用することができる(第2世代及び第3世代のシークエンサーを含めて、本明細書では「次世代シークエンサー」とも称する)。例えばMiseq・Hiseq・NexSeq(イルミナ社)、Ion Proton・Ion PGM・Ion S5/S5 XL(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)、PacBio RS II・Sequel(Pacific Bioscience社)、ナノポアシークエンサーを用いる場合には、例えばMinION(Oxford Nanopore Technologies社)などを利用して、miRNAを測定するために特別に工夫された市販の測定用キットを用いてもよい。
【0175】
次世代シークエンスとは、次世代シークエンサーを用いた配列情報の取得法であり、Sanger法に比べて膨大な数のシークエンス反応を同時並行して実行できることを特徴とする(例えば、Rick Kamps et al.,Int. J. Mol.Sci.,2017,18(2),p.308及びInt.Neurourol.J.,2016,20(Suppl.2),S76-83を参照されたい)。限定するものではないが、miRNAに対する次世代シークエンスの工程例としては、まず、所定の塩基配列を有するアダプター配列を付加し、配列付加の前又は後に、全RNAをcDNAに逆転写する。逆転写後、シークエンス工程の前に、標的miRNAを解析するために、特定の標的miRNA由来のcDNAをPCR等により、又はプローブ等を用いて増幅又は濃縮してもよい。続いて行われるシークエンス工程の詳細は、次世代シークエンサーの種類により異なるが、典型的にはアダプター配列を介して基板に連結させ、またアダプター配列をプライミング部位としてシークエンス反応が行われる。シークエンス反応の詳細については、例えばRick Kamps et al.(上掲)を参照されたい。最後に、データ出力が行われる。この工程では、シークエンス反応により得られた配列情報(リード)を集めたものが得られる。例えば、次世代シークエンスでは、配列情報に基づいて標的miRNAを特定し、標的miRNAの配列を有するリードの数に基づいてその発現量を測定することができる。
【0176】
遺伝子発現量の算出としては、限定されないが、例えばStatistical analysis of gene expression microarray data(Speed T.著、Chapman and Hall/CRC)、及びA beginner’s guide Microarray gene expression data analysis(Causton H.C.ら著、Blackwell publishing)などに記載された統計学的処理を、本発明において利用できる。例えばDNAチップ上のブランクスポットの測定値の平均値に、ブランクスポットの測定値の標準偏差の2倍、好ましくは3倍、より好ましくは6倍を加算し、その値以上のシグナル値を有するプローブスポットを検出スポットとみなすことができる。さらに、ブランクスポットの測定値の平均値をバックグラウンドとみなし、プローブスポットの測定値から減算し、遺伝子発現量とすることができる。遺伝子発現量の欠損値については、解析対象から除外するか、好ましくは各DNAチップにおける遺伝子発現量の最小値で置換するか、より好ましくは遺伝子発現量の最小値の対数値から0.1を減算した値、で置換することができる。さらに、低シグナルの遺伝子を除去するために、測定サンプル数の20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上において2の6乗、好ましくは2の8乗、より好ましくは2の10乗以上の遺伝子発現量を有する遺伝子のみを解析対象として選択することができる。遺伝子発現量の正規化(ノーマライゼーション)としては、限定されないが、例えばglobal normalizationやquantile normalization(Bolstad、B.M.ら、2003年、Bioinformatics、19巻、p185-193)、などが挙げられる。
【0177】
4-2.第2の工程
本発明の方法における第2の工程(以下、本項では単に「本工程」とも称する)は、被験体のゲノムDNAにおける、rs12997752、rs149944930、rs117393460、rs12616298、rs117534907、rs35831886、rs118073044、rs117574479、rs116868325、rs117099240、rs79726130、rs3777118、rs117336092、rs6721935、rs72861163、rs11855092、rs2830386、rs76232851、rs17682567及びrs9507595からなる群から選択された1以上のSNPの情報を取得する工程である。
【0178】
本工程は、上記のSNPのうち、1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、より好ましくは15個以上、最も好ましくはすべての遺伝子の発現量をin vitroで測定する工程である。
【0179】
本工程におけるゲノムDNAは、ヒトゲノムDNAであり、基本的にヒトの生涯において変動することはない。したがって、被験体について、既に全ゲノム解析等がなされており、所望のSNPについて解析されたデータが存在し、当該データが利用可能である場合は、新たに被験体から検体を採取してSNPの検出を行う必要はない。この場合、既存のSNP情報を適法に入手する工程が本工程に相当する。
【0180】
既存のSNP情報が入手できない場合は、被験体から採取された検体を用いて、ゲノムDNAを取得し、SNPの検出を行う必要がある。本工程において使用される「検体」は、第1の工程に使用される「検体」と区別するため、「第2検体」と称する。第2検体は、ゲノムDNAを含むものであれば特に限定されないが、血液検体、特に全血検体を好適に使用できる。検体からのゲノムDNAの抽出は、常法にしたがって実施可能である。例えば、ISOSPIN Blood & Plasma DNA(株式会社ニッポンジーン)等の市販の試薬を用いて抽出することができる。
【0181】
本工程におけるSNPの検出は、既知の手段をいずれも使用可能である。目的のSNPのみを検出する手段を用いてもよいが、全ゲノムのSNPを網羅的に解析できるゲノムワイド関連解析(genome-wide association study:GWAS)を用いて行ってもよい。GWASは、例えば、「ジャポニカアレイ」(株式会社東芝)等を用いて実施することができる。
【0182】
目的のSNPを検出する手段としては、RFLP法、SSCP法、TaqMan(登録商標) PCR法、一塩基伸長法、Invader法、質量分析法、DNAアレイ法、パイロシーケンス法、次世代シーケンサーによる方法などが知られる。これらのいずれの手段も使用可能である。
【0183】
PCR法を使用する場合、使用するプライマー及びプローブとしては、目的のSNP又は隣接する部位を含む15~30塩基程度のポリヌクレオチドを使用できる。特に一塩基伸長法を使用する場合、プライマーとしては、目的のSNPの3’末端側に隣接する塩基に結合する塩基を3’末端に有する15~30塩基程度のポリヌクレオチドを使用できる。また、DNAアレイを使用する場合、固相化する検出プローブとしては、目的のSNP又は隣接する部位を含む15~30塩基程度のポリヌクレオチドを使用できる。このようなポリヌクレオチドとしては、例えば、以下のポリヌクレオチドを使用することができる。
(f)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(g)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(h)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(i)配列番号63~102のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(j)前記(f)~(i)のいずれかのポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0184】
Invader法を使用する場合、5’末端側にフラップ配列、3’末端側に特異的結合配列を有するアレルプローブと、インベーダーオリゴの2つのプローブを使用する。アレルプローブとしては、特異的結合配列の5’末端の塩基が目的とするSNPに結合する塩基配列を有するものを使用できる。また、インベーダーオリゴとしては、3’末端近傍の塩基が目的のSNPに結合するものを使用できる。
【0185】
上記のいずれかのプローブと組み合わせて、または、単独で、目的とするSNPを含む領域のDNAをPCRで増幅可能なプライマーを使用してもよい。プライマーは、目的とするSNPから数塩基から数十塩基離れた位置に特異的に結合する塩基配列を有するポリペプチドを使用できる。プライマーの長さは特に限定されないが、5~50塩基、特に15~30塩基とすることが好ましい。
【0186】
上記のように、既知のいずれかの方法で、被験体のゲノムDNAにおける、所望のSNP情報を取得し、次の第3の工程に使用する。
【0187】
4-3.第3の工程
本発明の方法における第3の工程(以下、本項では単に「本工程」とも称する)は、上記の第1の工程で測定されたmiRNAの発現量と、第2の工程で取得されたSNP情報を用いて、被験体のAD発症リスクを評価する工程である。より具体的には、第1及び第2の工程で得られた結果に基づいて得られたmiRNA発現量的形質遺伝子座(miR-eQTL)情報から、予め構築された予後予測因子の算出式を用いて、当該被験体のAD発症リスクを判定する工程である。
【0188】
本工程は、miR-5006-5p-rs72861163、miR-6085-rs11855092、miR-3940-5p-rs117574479、miR-1228-5p-rs12997752、miR-330-3p-rs118073044、miR-323b-5p-rs118073044、miR-4633-3p-rs6721935、miR-6793-3p-rs2830386、miR-29a-3p-rs117393460、miR-8070-rs9507595、miR-5006-3p-rs118073044、miR-3196-rs12616298、miR-1249-5p-rs149944930、miR-3940-5p-rs116868325、miR-4508-rs3777118、miR-3940-5p-rs117099240、miR-3196-rs35831886、miR-7112-3p-rs79726130、miR-3940-5p-rs35831886、miR-3196-rs117534907、miR-6851-5p-rs17682567、miR-4508-rs117336092、miR-4264-rs79726130、及びmiR-6799-3p-rs76232851からなる群より選択される、1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、より好ましくは15個以上、最も好ましくはすべてのmiR-eQTLを評価指標として使用する。
【0189】
本工程の一態様では、上記のmiR-eQTLに加えて、被験体の臨床的要素を評価要素として使用することができる。ここでいう臨床的要素には、認知症の診療領域において広く実施される検査項目がいずれも含まれ得る。特に、年齢、性別、APOE4対立遺伝子数(0、1又は2、以下単に「APOE4アレル数」とも称する)を使用できる。APOE4アレル数は、被験体のゲノムDNAを用いて、例えば、シークエンス法や定量PCR法等を用いて検出することが可能である。被験体からのゲノムDNAの取得方法は、上記の「4-2.第2の工程」の項に記載した通りである。
【0190】
本工程の一態様では、下記式Iを用いて、被験体のAD発症予測指標(以下、「予後指標」とも称する)を算出する。
【数1】
上記式Iは、臨床的要素である、年齢、性別、APOE4アレル数と、上記24のmiR-eQTLとを組み合わせた式であり、λ(t|C,I)は予後指標、C
1、C
2、C
3は臨床的要素の評価指標を、I
1・・・I
24はmiR-QTLの評価指標を示す。また、β
1・・・β
27は、各要素に対する係数を示す。
【0191】
上記式Iは、追跡調査が可能なMCI患者群の臨床的要素及びmiR-eQTLから構築したCoxハザードモデルに基づく。発明者らは、MCI患者197症例について、発見コホートと検証コホートとに分け、発見コホートに基づいて予測モデルを構築し、検証コホートを用いてモデルの評価を行った。検証コホートを上記予後指標に基づいて高リスク群と低リスク群とに分け、各群についてADを発症しない割合を「生存率」としてKaplan-Meier曲線を作成した。その結果、
図2bに示す通り、高リスク群と低リスク群とを明確に分けることができた。上記式Iの作成、及び
図2bの結果を得るまでの詳細な手段は、実施例に記載の通りである。
【0192】
予後が未知の被験体の予後を予測する手法としては、例えば、以下の手法を使用することができる。被験体の臨床的要素及びmiR-eQTLを上記式Iに当てはめ、予後指標を算出する。得られた予後指標から、カットオフ値に基づいて、被験体を高リスク群又は低リスク群に割り当てる。例えば、被験体が高リスク群に割り当てられた場合、
図2bのKaplan-Meier曲線によると、約1000日後に約50%の確率でADを発症し得ることが分かる。
【0193】
予後予測において、被験体を必ずしも高リスク群-低リスク群の2群に割り当てなくとも、予後指標からAD発症リスクを予測することができる。具体的には、例えば、得られた予後指標が事前に設定した閾値よりも高ければAD発症リスクは比較的に高く、予後指標が低ければAD発症リスクは比較的に低いことが予測できる。
【0194】
このように、本工程においては、被験体のAD発症リスクについて、発症するか否かのみでなく。いつ、どの程度の確率でADを発症するかについても評価することが可能である。なお、これは、臨床的指標のみを用いても達成できなった(
図2dを参照のこと)。また、ADへの関連が予測されるmRNA遺伝子の発現量を用いても達成できなかった(実施例及び
図5cを参照のこと)。
【0195】
本工程において使用する式Iの各指標の係数及ハザード比は、実施例の表3に例示するが、これらの数値に限定することを意図するものではない。これらの数値は、例えば、新規に、予後既知のMCI患者の各評価指標を用いて発見コホートを作成し、別途算出してもよい。また、予後指標を算出するための式は、式Iに限定されず、例えば、いくつかの評価指標を省略することもできる。式IのうちmiR-eQTLの種類を24種から14種に減らしてもよく、すなわち、例えば、miR-3196_rs12616298、miR-3196_rs117534907、miR-3196_rs35831886、miR-323b-5p_rs118073044、miR-330-3p_rs118073044、miR-3940-5p_rs117574479、miR-3940-5p-rs116868325、miR-3940-5p-rs35831886、miR-3940-5p_rs117099240、miR-4264_rs79726130、miR-5006-3p_rs118073044、miR-5006-5p_rs72861163、miR-6793-3p_rs2830386、miR-7112-3p_rs79726130を用いた式であってもよく、AD発症リスクを予測することができる。
【0196】
更に、式IのうちmiR-eQTLの種類を10種に減らしてもよく、すなわち、例えば、miR-3196_rs117534907、miR-3196_rs35831886、miR-323b-5p_rs118073044、miR-330-3p_rs118073044、miR-3940-5p_rs117574479、miR-3940-5p_rs116868325、miR-3940-5p_rs35831886、miR-3940-5p_rs117099240、miR-5006-3p_rs118073044、miR-5006-5p_rs72861163を用いた式であってもよく、AD発症リスクを予測することができる。
【0197】
更に、式IのうちmiR-eQTLの種類を6種に減らしてもよく、すなわち、例えば、miR-3196_rs35831886、miR-323b-5p_rs118073044、miR-330-3p_rs118073044、miR-3940-5p_rs117574479、miR-3940-5p_rs35831886、miR-5006-3p_rs118073044を用いた式であってもよく、AD発症リスクを予測することができる。
【0198】
4-4.その他
本発明のAD発症リスクの評価方法によれば、被験体がADを発症するか否かに加え、何時発症リスクの判定検出のために有用である。この評価対象たる被験体は、例えば、認知機能が正常な対象についても適用可能であるが、特に、MCI患者が適している。MCI患者に対して、従来、ADへの進行の可能性は分からなかった、または一部の方法を用いてADへ進行する、又はADへ進行しない、の定性的な判断しかなされなかったのに対し、本発明は発症リスクの評価に加えて発症時期の予測もなされることにより、被験者に対する治療方針の決定、具体的には運動療法等の治療の要否や、その必要とされる量的負荷等をより効果的に判断し得る。
【0199】
本発明の方法は、上記予測指標を経時的に観察することで、被験体たるMCI患者の運動療法等の治療の効果をモニタリングすることも可能である。これにより、より効果の高い治療方法を探索することも可能となる。
【0200】
本発明のAD発症リスクの評価方法は、本発明のキット又はデバイスを用いて実施することができる。ただし、本発明のキット又はデバイスを使用する態様のみに限定されるものではない。
【0201】
本発明の方法は、使用する検体を限定するものではないが、全て血液検体で実現可能であることに特徴を有する。これにより、例えば脳脊髄液の採取等の侵襲性の高い手段を必要とせず、低侵襲での評価が可能である。ただし、必ずしも脳脊髄液の使用を除外することを意図しない。
【0202】
本発明の方法は、上記第1~第3の工程のみならず、他の工程を含んでいてもよい。例えば、アミロイドβタンパク質、タウタンパク質、リン酸化タウタンパク質、APOE4対立遺伝子数、ニューログラニン、ニューロフィラメント軽鎖(NFL)、TDP43、αシヌクレインなどの公知の認知症検査用マーカーの検査や、MRI、PETなどの画像検査の結果を取得し、併せて評価することもできる。
【実施例0203】
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明する。しかし、本発明の範囲は、この実施例によって制限されないものとする。
【0204】
<被験体>
インフォームドコンセントを得た197例のMCI患者(男性78例、女性124例、いずれも60歳超)を登録した(表1)。全ての被験体の診断は、病歴、身体診察、診断検査、神経学的検査、神経心理学的検査、および磁気共鳴画像法またはコンピュータ断層撮影による脳画像検査に基づいて、認知症診断に精通する1人以上の専門家(神経科医、精神科医、老年科医または脳神経外科医)によって行われた。神経心理学的検査として、ミニメンタルステート検査(MMSE)、Alzheimer’s Disease Assessment Scale Cognitive Component (ADAS-jcog、アルツハイマー型認知症の認知機能評価ADASの日本版)、Wechsler Memory Scale-Revised(WMS-R)の論理的記憶I及びII、Frontal Assessment Battery(FAB)、Ravenの色彩マトリックス検査、及び老年期うつ病評価尺度(Geriatric Depression Scale(GDS))を実施した(Kawai Y, et al., Neuropsychological differentiation between Alzheimer’s disease and dementia with Lewy bodies in a memory clinic. Psychogeriatrics 13, 157-163(2013))。全被験体について、APOE4対立遺伝子(ADの主要な遺伝的要因)の数とMMSEスコアを得た。血液検体からDNAを抽出後、TaKaRa Ex Taq Hot Start Version試薬(タカラバイオ株式会社)を用いて得られたDNAをPCR法で増幅し、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit試薬とシークエンサーである3730xl DNA Analyzer(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いてサンガーシークエンス法によりAPOE遺伝子型を決定した。
【0205】
APOE遺伝子型分布はε3/ε2が9,ε3/ε3が117,ε2/ε4が2,ε4/ε3が59,ε4/ε4が10であった。平均年齢は75.42歳(標準偏差[SD],6.31歳)であった。MCI患者を6か月から最長7年間(平均±SD、971±552日)追跡した。その間に83例(42.1%)がADを発症した。ADを発症した患者83例をMCI‐Cに分類し、残りのMCI患者114例(57.9%)をMCI‐NCに分類した。MCI患者197例を98例の発見コホート(MCI-C41例、MCI-NC57例)と、99例の検証コホート(MCI-C42例、MCI-NC57例)に振り分けた。各コホートの症例のプロフィールを表3に示す。
【0206】
【0207】
<SNP遺伝子型解析>
197例全症例の全血検体を用いて、SNP解析を行った。検体からのDNA抽出及び解析は、株式会社東芝の「ジャポニカアレイ(登録商標)」ジェノタイピングにて行われた。IMPUTE2(バージョン2.3.2)(Howie BN, Donnelly P, Marchini J. A flexible and accurate genotype imputation method for the next generation of genome-wide association studies. PLoS Genet 5, e1000529(2009))のプロジェクトリファレンスパネルを用いて遺伝子型のインピュテーションを行った。インピュテーション後、SNP/INDELコールレート≧0.99およびマイナーアレル頻度≧0.01の基準を満たす、常染色体及び性染色体の計2,836,104のSNPsを抽出した。さらに、統計分析プログラムPLINKバージョン1.90beta(https://www.cog-genomics.org/plink/1.9/)(Slifer SH. PLINK: Key Functions for Data Analysis. Curr Protoc Hum Genet 97,e59(2018))を使用して、50SNPのウィンドウサイズ、5SNPのステップ、および0.1のペアワイズを閾値とした連鎖不平衡(--indep-pairwise 50 5 0.1)に基づく抽出を行い、独立したSNPのセットを生成した。データが欠落しているSNPは全て破棄した。最終的に92,878個のSNPのサブセットを得た。
【0208】
<total RNAの抽出>
上記の197症例全症例から取得した血清300μLから、3D-Gene(登録商標)RNA extraction reagent from liquid sample kit(東レ株式会社(日本))中のRNA抽出用試薬を用いて、同社の定めるプロトコールに従ってtotal RNAを得た。
【0209】
<遺伝子発現量の測定>
上記の合計197症例から得たtotal RNAに対して、それぞれ、3D-Gene(登録商標) miRNA Labeling kit(東レ株式会社)を用いて同社が定めるプロトコールに基づいてmiRNAを蛍光標識した。オリゴDNAチップとして、miRBase release 21(http://www.mirbase.org/)に登録されているmiRNAの中で、2,565種のmiRNAと相補的な配列を有するプローブを搭載した3D‐Gene(登録商標) Human miRNA Oligo chip(東レ株式会社)を用い、同社が定めるプロトコールに基づいてハイストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーション後の洗浄を行った。DNAチップを3D-Gene(登録商標)スキャナー(東レ株式会社)を用いてスキャンし、画像を取得して3D-Gene(登録商標)Extraction(東レ株式会社)にて蛍光強度を数値化した。予め、一組の陰性対照シグナル(バックグラウンドシグナル)の蛍光強度を測定し、その平均および標準偏差(SD)を計算し、そこから上下5%の値を除去した。試料について測定した、数値化された蛍光強度のうち、バックグラウンドシグナルの平均+2SDより高い値を底が2の対数値に変換して遺伝子発現量とし、ブランク値の減算を行った。検出されなかったmiRNAの数値は、シグナル値0.1に置換した。複数のマイクロアレイ間のシグナルを補正するため、内部対照miRNA(miR-149-3p、miR-2861、およびmiR-4463)を各マイクロアレイで測定し、各miRNAの数値を3つの内部標準miRNAの数値で標準化した。その結果、上記の197症例の血清に対する、網羅的なmiRNAの遺伝子発現量を得た。数値化されたmiRNAの遺伝子発現量を用いた計算及び統計解析は、R言語3.4.1(R Core Team(2017). R: A language and environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing、Vienna、Austria. URL https://www.R-project.org/.)及びRubyバージョン2.4.0(https://www.ruby-lang.org/ja/)を用いて実施した。
【0210】
<実施例1>
<予後予測モデル構築>
予後予測モデルの構築手段の概要を、
図1に示す。予後予測モデルの構築は、マイクロRNA発現量的形質遺伝子座(miR-eQTL)を用いて、Cox比例ハザード法により実施した。miR-eQTLの全ての組み合わせを評価することはあまりにも時間がかかるため、予め構築したSNPデータセットを使用した。全症例のデータを発見コホートと検証コホートに振り分けた。その後、使用するデータセット構築のため、発見コホートの全体の3分の2を用いて、複数の組み合わせのSNPデータセット(学習セット)を作成し、各データセット間での交差検証を行ってP値を算出した。SNPに対するP値は、MCI-CとMCI-NCの間の下記式IIのロジスティック回帰モデルを使用して計算した。
【数2】
式中、X
SNPはSNP遺伝子型を示し、(β
1、β
2、・・・β
n)は、それぞれの係数を示す。ロジスティック回帰は、PLINKを用いて行った。構築したq個(q=100、200、…10,000)のSNPのデータセットから、eQTLとして有用なSNP-miRNA対(miR‐eQTL)を絞り込むために、0.1未満のP値を有するSNP-miRNA対を、miR-eQTLデータベースから選択した(データ示さず)。
【0211】
予後予測モデルを構築には、miR-eQTLと臨床的要素として年齢、性別、APOE4対立遺伝子数を組み合わせて使用した。この時、年齢とAPOE4対立遺伝子数は実測値、性別は男性を1、女性を2とした説明変数として組み込んだ。発見コホートの3分の2を用いて、下記式IIIのCox比例ハザードモデルに基づいて、予後予測モデルを構築した。
【数3】
h(t|C,I)は、t時点での予測ハザードを示し、それぞれ係数(β
1、β
2…β
n)の影響を受ける、3つの共変量(C
1、C
2,C
3)=(年齢、性別、APOE4アレル数)及びm個の共変量(I
1、I
2、・・・I
m)の集合により決定される。
【0212】
下記式IVのX={X
1、・・・、X
q}は予め選択したSNP遺伝子型を示す。Y={Y
1,・・・、Y
q}はmiRNA発現量を示す。「σ」は、任意のSNP-miRNA対を示す。
【数4】
【0213】
また、下記式Vの「I」は、発現量的形質遺伝子座(miR-eQTL)としてのSNP-miRNA対を示す。
【数5】
【0214】
構築した予後予測モデルについて、発見コホートの残りの3分の1を用いて評価した。上記の工程を3回繰り返し行った(3倍交差試験)。発見コホートの3回の3倍交差試験にわたって、C指数(Concordance index)の平均値がもっとも高くなるSNPの数qを最適値として、予後予測モデルに予め組み込むSNPの数とした。q(9,600)(最適値)のSNPデータセットを用いて、miR‐eQTLを検出した。発見コホート全体を用いて、前記miR-eQTLと臨床的要素から、最終的な予後予測モデルを構築した。
【0215】
次に、発見コホートから完全に独立した検証コホートについて、上記モデルを評価した。
最終的に構築された24のmiR-eQTLと臨床的要素の組合せからなるモデルを用いて、発見コホートの各試料について、下記式VIで求められる予後指標を算出した。
【数6】
【0216】
予後指標の最適カットオフ値を用いて、試料を2つの群(高リスク群と低リスク群)に分類した(Yoshihara K, et al.,High-risk ovarian cancer based on 126-gene expression signature is uniquely characterized by downregulation of antigen presentation pathway. Clin Cancer Res 18, 1374-1385(2012))。最適カットオフ値は、発見コホートにおける高リスク群と低リスク群とを比較するログランク検定において、P値が最小になる値とした。
【0217】
上記の最適なカットオフ値を用いて、予後予測モデルを検証した。MCIからADを発症しない割合(Survival)の差を、Kaplan‐Meier曲線を構築して示した。各種条件におけるデータをログランク検定を用いて比較した。p<0.05を、統計学的に有意とみなした。あこれらの統計解析は、統計分析ソフトR(RDC T. R: A Language and Environment for Statistical Computing.Vienna, Austria: R Foundation for Statistical Computing.,(2009))の「survival」及び「survminer」パッケージを使用して実施した。
【0218】
最終モデルを用いた予後予測のC指数は、発見コホートでは0.718(
図2a)、検証コホートでは0.702(
図2b)と良好な値を示した。P値と最小となる条件でカットオフを設定して試料を高リスク群と低リスク群に分け、Kaplan‐Meier曲線で決定されたADを発症しない割合(Survival)の差を比較した結果、発見コホートにおいては、最適カットオフ=7.85、最小P値=3.63×10
-7となった(
図2a)。このモデルを独立した検証コホートに適用したところ、MCI患者をAD進行の高リスク群と低リスク群に分類することが可能であった(ログランク検定P=3.44×10
-4、
図2b)。24種類のmiR-eQTLと3つの臨床的要素のそれぞれについて、要素ごとに予後指標を算出した(表4)。
【0219】
【0220】
例えば、ある被験者において、本モデルから得られた予後指標が上記カットオフ値より大きい場合は高リスク群に、小さい場合は低リスク群に分類される。未知の症例を予測する場合には上記検証コホートと同程度の予測率が適応できるため、例えば1,000日以内にADを発症する可能性は、高リスク群に分類された被験者の場合は5割以上であるのに対し、低リスク群に分類された被験者の場合は2割弱であることが予測できた。また、2,000日以内にADを発症する可能性は、高リスク群に分類された被験者の場合は9割以上であるのに対し、低リスク群に分類された被験者の場合は5割に満たなかった。
MCIからADへの進行の予測モデルとして選択された24種類のmiR‐eQTLの有効性を明らかにするために、miR‐eQTLを含む予測モデルと臨床的要素のみの予測モデルとを比較した。miR-eQTLを含むモデル(
図2aおよび2b)と比較して、miR-eQTLを除く予測モデルにおけるC指数は、発見コホートで0.611(
図2c)、検証コホートで0.586(
図2d)と顕著に低かった。また、miR-eQTLを除く予測モデルでは、検証コホートにおいてサンプルを高リスク群と低リスク群とを明確に分けることができなかった(最適カットオフ=4.39、ログランク検定P=0.255、
図2d)。これらの結果より、選択されたmiR‐eQTLによって、予後予測モデルが優れた予測効果を示すことが明らかとなった。この効果の普遍性を検証するために、ブートストラップ再標本化法を用いて、miR‐eQTLを用いた予後モデルと用いない予後モデルを比較した。この手順を10,000回繰り返した。各回のログランク検定のP値の分布は、miR-eQTLを用いた予後予測モデルと臨床的要素のみを用いた予後予測モデルとで有意差があり(P<0.01、Welchのt検定)、明らかに前者の予後予測モデルで良好な結果が得られた(
図3)。
【0221】
<miRNAの標的遺伝子アノテーション>
選択した24種類のmiR‐eQTLの生物学的意義を検討するために、各miRNAの標的遺伝子を調査した。miRDB(Wong N, Wang X. miRDB: an online resource for microRNA target prediction and functional annotations. Nucleic Acids Res 43, D146-152(2015))を用いてmiRNAの標的遺伝子のアノテーションを行った。miRDBは、包括的な6709のmiRNAにより制御されると予測される標的遺伝子の情報を含む。すべての標的遺伝子は、MirTarget V3によって割り当てられた0~100の予測スコアを有し、スコアが高いほど予測結果の統計的信頼性が高いことを示す。本解析では、スコアが90を超える標的遺伝子のみを使用した。20種類のSNPと18種類のmiRNAから構成される24種類のmiR-eQTL(表4)は、778の遺伝子を標的とすることが予測された(データ示さず)。
【0222】
<ネットワークのメタ解析>
ラージスケールのタンパク質-タンパク質相互作用(PPI)ネットワーク解析を通して、ハブ遺伝子の発生を伴う標的遺伝子由来の機能モジュールの解明を試みた。ネットワークの解析は、NetworkAnalystOBand STRING Interactomeデータベース(Szklarczyk D, et al.,The STRING database in 2011: functional interaction networks of proteins, globally integrated and scored. Nucleic Acids Res 39, D561-568(2011))を用いて行われた。このデータベースは、PPIについて、予測データ及び実験データを含む包括的な情報を提供する。信頼カットオフスコアを900に設定した。2,304個のノードと3,901個のエッジで形成されたPPIネットワークが得られた。ネットワークをより扱いやすいサイズにするために、ゼロ次相互作用ネットワーク解析(直接相互作用のみ)を行い、60個のノードおよび66個のエッジを含むPPIネットワークを検出した。Cytoscape v3.7.2(http://www.cytoscape.org/)(Shannon P, et al.,Cytoscape: a software environment for integrated models of biomolecular interaction networks. Genome Res 13, 2498-2504(2003).)を用いて、PPIネットワークを可視化した(
図4)。互いに、及び他の5つ以上の遺伝子と直接相互作用する機能モジュールとして、GSK3B、PTEN、FOXO1及びSHC1の4つのハブ遺伝子が検出された。これら4つの遺伝子は、それぞれmiR-1249-5p、miR-29a-3p、miR-330-3p及びmiR-5006-3pによって制御されることが分かった。
【0223】
<PPIネットワーク解析により検出されたハブ遺伝子の発現>
上記のPPIネットワーク解析で検出された4つのハブ遺伝子(GSK3B、PTEN、FOXO1およびSHC1)について、http://www.proteinatlas.orgからアクセス可能なHuman Protein Atlasデータベース(Uhlen M, et al., Proteomics. Tissue-based map of the human proteome. Science 347, 1260419(2015).)を使用して、血球および脳で実際に発現されるかを検証した。Human Protein Atlasデータベースは、組織および臓器レベルで定量的なトランスクリプトミクスデータを提供する。検証の結果、2つの遺伝子(FOXO1とGSK3B)の血液中での発現レベルが低かったが、すべての遺伝子は脳内で高レベルの発現を示した(
図5a)。
【0224】
上記の結果を検証するために、610の血液試料(AD271例、MCI248例、認知能力正常の高齢被験体(CN)91例)におけるこれらの遺伝子の発現を調べ、疾患群間の各遺伝子発現量の差異を検討した。具体的には、各試料中のtotalRNAについて、Illumina社のNGSシステムを用いて、ライブラリ構築及びシーケンシングを行った。詳細な検体調製及び測定手順は、メーカーの取扱説明書に従った。
【0225】
得られたRNA配列データについて、FastQC(バージョン0.11.7、Illumina社)を用いてクオリティ評価を行った。クオリティスコアがQ20以下の配列、50bp未満(アダプター配列を含む)の配列をトリミングし、Cutadapt(バージョン1.16)(Martin M, EMBnet.jounal 17.1, p10-11)を使用して削除した。STAR(2パスオプション、バージョン2.5.2b)(Dobin A, et al., STAR: ultrafast universal RNA-seq aligner. Bioinformatics 29, 15-21(2013))を使用して、残りの配列をヒト基準ゲノム(GRCh37)にマッピングした。サブリードパッケージからのfeatureCountsプログラム(バージョン1.6.6)(Liao Y, Smyth GK, Shi W. featureCounts: an efficient general purpose program for assigning sequence reads to genomic features. Bioinformatics 30, 923-930(2014))を使用して、各遺伝子のリードカウントを計算し、発現レベルを求めた。リードカウントの上下5%は異常値とし、残りのカウントの最大値及び最小値と同じ値とした。次に、各サンプルからのリードカウントをカウントファイルにまとめて、edgeR(バージョン3.18.1)(Robinson MD, McCarthy DJ, Smyth GK. edgeR: a Bioconductor package for differential expression analysis of digital gene expression data. Bioinformatics 26,139-140(2010))を用いて、発現量の差異を分析した。全症例の4分の1を超える症例で、CPM(マップの100万リードあたりのカウント)が閾値1を超える遺伝子を選択し、さらに分析を行った。edgeR56のcaclNormFactors機能を用いて、ライブラリーサイズを示すM値正規化因子のトリミング平均を得た(TMM正規化)。edgeRのestimateCommonDisp機能とestimateTagwiseDisp機能を使用して分散を計算した。edgeRのexactTest機能を用いて、疾患群間で発現量に差がある遺伝子の情報を得た。
【0226】
各疾患群における各遺伝子の発現量を
図6に示す。FOXO1およびGSK3Bは、疾患群間で発現量に統計的有意差は見られなかったが、しかしながら、PTENはMCIよりもADにおいて有意に高い遺伝子発現を示し(P=0.023)、SHC1はCNよりもADにおいて有意に低い発現を示した(P=0.049)。以上から、本発明で特定されたmiRNAはその下流パスウェイにある遺伝子、タンパク質の相互作用において、ADの病態に関連することが裏付けられた。一方で、
図7に示すように、MCI-C患者群とMCI-NC患者群(n=123;MCI-C48例、MCI-NC75例)の比較において上記遺伝子の発現量に統計的有意差を示す遺伝子は認められなかった。すなわち、ADの病態に関連している遺伝子であっても、mRNA発現量では、MCI患者のAD発症を予測はできず,miR-eQTL,特に本発明で見出した24種のmiR-eQTLが有効であることが裏付けられた。
【0227】
<実施例2>
実施例2では、実施例1で構築した24種のmiR-eQTLと臨床的要素の組合せからなるモデルに対し、AD発症リスク予測の有効性を維持しつつmiR-eQTLの種類を減らすことを検討した。
【0228】
その結果、表4記載の24種のmiR-eQTLと臨床的要素の組合せからなるモデルを用いて197全症例の予後予測を試みたところ、統計的有意差p値(student‘s t-test)は7.41x10-8であった。このモデルからmiR-eQTLの種類を14種に減らした場合、すなわちmiR-3196-rs12616298、miR-3196-rs117534907、miR-3196-rs35831886、miR-323b-5p-rs118073044、miR-330-3p-rs118073044、miR-3940-5p-rs117574479、miR-3940-5p-rs116868325、miR-3940-5p-rs35831886、miR-3940-5p-rs117099240、miR-4264-rs79726130、miR-5006-3p-rs118073044、miR-5006-5p-rs72861163、miR-6793-3p-rs2830386、miR-7112-3p-rs79726130を用いた場合であって表4と同じ係数を用いた場合、p値は5.35x10-5であった。
【0229】
更にmiR-eQTLの種類を10種に減らした場合、すなわちmiR-3196-rs117534907、miR-3196-rs35831886、miR-323b-5p-rs118073044、miR-330-3p-rs118073044、miR-3940-5p-rs117574479、miR-3940-5p-rs116868325、miR-3940-5p-rs35831886、miR-3940-5p-rs117099240、miR-5006-3p-rs118073044、miR-5006-5p-rs72861163を用いた場合であって表4と同じ係数を用いた場合、p値は1.75x10-4であった。
【0230】
更にmiR-eQTLの種類を6種に減らした場合、すなわちmiR-3196-rs35831886、miR-323b-5p-rs118073044、miR-330-3p-rs118073044、miR-3940-5p-rs117574479、miR-3940-5p-rs35831886、miR-5006-3p-rs118073044を用いた場合であって表4と同じ係数を用いた場合、p値は5.27x10-3であった。
【0231】
以上から、miR-eQTLの種類を24種から、14種、10種、6種と減らしても統計的な有意差は維持され、AD発症リスクを予測するに有効なマーカーと成り得ることが示された。