(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028493
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】液体消火剤、該液体消火剤の製造方法および該液体消火剤を充填した消火器
(51)【国際特許分類】
A62D 1/06 20060101AFI20220208BHJP
A62C 13/02 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
A62D1/06
A62C13/02
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020131934
(22)【出願日】2020-08-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】516028565
【氏名又は名称】株式会社ファイレスキュー
(71)【出願人】
【識別番号】520278790
【氏名又は名称】飯田 大貴
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 均
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【弁理士】
【氏名又は名称】林 司
(72)【発明者】
【氏名】飯田 大貴
【テーマコード(参考)】
2E191
【Fターム(参考)】
2E191AA01
2E191AB41
2E191AB52
2E191AB54
(57)【要約】
【課題】消火力に優れた液体消火剤、該液体消火剤の製造方法および該液体消火剤を充填した消火器を提供する。
【解決手段】液体消火剤において、溶媒成分である水に、溶質成分として、塩化ナトリウム、リン酸水素二アンモニウム、炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素アンモニウム、尿素、硫酸アンモニウムと共に、クエン酸を含有させることにより、液体消火剤の消火力を向上させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災の消火に用いられる、溶媒成分である水に、溶質成分として、塩化ナトリウム、リン酸水素二アンモニウム、炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素アンモニウム、尿素、硫酸アンモニウムを含有する液体消火剤であって、
溶質成分として、更にホウ酸およびクエン酸を含有することを特徴とする、液体消火剤。
【請求項2】
溶媒である水1000ml当たり、溶質成分として、
上記塩化ナトリウムを30~90g、
上記リン酸水素二アンモニウムを110~340g、
上記炭酸水素ナトリウムおよび/または上記炭酸水素アンモニウムを50~150g、
上記尿素を60~170g、
上記硫酸アンモニウムを90~260g、
上記ホウ酸を10~40g、および
上記クエン酸を10~30g
を含有することを特徴とする、請求項1に記載の液体消火剤。
【請求項3】
溶質成分として、更にプロピレングリコールおよび/または液体洗剤を含有することを特徴とする、請求項1に記載の液体消火剤。
【請求項4】
溶媒である水1000ml当たり、溶質成分として、
上記塩化ナトリウムを30~90g、
上記リン酸水素二アンモニウムを110~340g、
上記炭酸水素ナトリウムおよび/または上記炭酸水素アンモニウムを50~150g、
上記尿素を60~170g、
上記硫酸アンモニウムを90~260g、
上記ホウ酸を10~40g、
上記クエン酸を10~30g、
上記プロピレングリコールを110~320g、および
上記液体洗剤:60~190g
を含有することを特徴とする、請求項3に記載の液体消火剤。
【請求項5】
溶媒成分である水として、海洋深層水を用いることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の液体消火剤。
【請求項6】
請求項1または2に記載の液体消火剤の製造方法であって、
1)次の工程1-a)~1-d)により、<液体消火剤材料A>を調製し、
1-a)溶媒である水(A)に常温で、該水(A)1000ml当たり上記塩化ナトリウムを30~90g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-b)上記1-a)で調製した水溶液を46~54℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記リン酸水素二アンモニウムを110~340g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-c)上記1-b)で調製した水溶液を56~64℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記炭酸水素ナトリウムおよび/または上記炭酸水素アンモニウムを50~150g添加し撹拌しながら溶解し、次いで、上記水(A)1000ml当たり上記尿素を60~170g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-d)上記1-c)で調製した水溶液を70~80℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記硫酸アンモニウムを90~260g添加し撹拌しながら溶解する工程
2)次の工程2-a)により、<液体消火剤材料B>を調製し、
2-a)水(B)を55~65℃に昇温して、該水(B)1000ml当たり上記ホウ酸を10~40g添加し撹拌しながら溶解する工程
3)上記<液体消火剤材料A>と上記<液体消火剤材料B>を、上記水(A)と上記水(B)の容積比が5:2となるように混合撹拌し、上記水(A)および上記水(B)1000ml当たり、上記クエン酸を10~30g添加することを特徴とする、液体消火剤の製造方法。
【請求項7】
請求項3または4に記載の液体消火剤の製造方法であって、
1)次の工程1-a)~1-d)により、<液体消火剤材料A>を調製し、
1-a)溶媒である水(A)に常温で、該水(A)1000ml当たり上記塩化ナトリウムを30~90g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-b)上記1-a)で調製した水溶液を46~54℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記リン酸水素二アンモニウムを110~340g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-c)上記1-b)で調製した水溶液を56~64℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記炭酸水素ナトリウムおよび/または上記炭酸水素アンモニウムを50~150g添加し撹拌しながら溶解し、次いで、上記水(A)1000ml当たり上記尿素を60~170g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-d)上記1-c)で調製した水溶液を70~80℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記硫酸アンモニウムを90~260g添加し撹拌しながら溶解する工程
2)次の工程2-a)により、<液体消火剤材料B>を調製し、
2-a)水(B)を55~65℃に昇温して、該水(B)1000ml当たり上記ホウ酸を10~40g添加し撹拌しながら溶解する工程
3)上記<液体消火剤材料A>と上記<液体消火剤材料B>を、上記水(A)と上記水(B)の容積比が5:2となるように混合撹拌し、上記水(A)および上記水(B)1000ml当たり、上記プロピレングリコールを110~320g、上記液体洗剤を60~190gおよび上記クエン酸を10~30g添加することを特徴とする、液体消火剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の液体消火剤を封入してなる、投擲型消火器。
【請求項9】
請求項1~5のいずれかに記載の液体消火剤を封入してなる、噴射型消火器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災の消火に用いられる液体消火剤、該液体消火剤の製造方法および該液体消火剤を充填した消火器に関する。
【背景技術】
【0002】
火災の消火に用いられる液体消火剤としては、従来からさまざまなものが提案されているが、一般的には、特許文献1~3に記載されているように、溶媒成分である水に、リン酸水素二アンモニウム[(NH4)2HPO4]、炭酸水素ナトリウム[NaHCO3]、炭酸水素アンモニウム[NH4HCO3]、尿素[CH4N2O]、硫酸アンモニウム[(NH4)2SO4]等の消火時に熱分解して二酸化炭素ガス、アンモニア等の消火性ガスを発生する化合物、および、この熱分解反応を促進する触媒作用のある塩化ナトリウム[NaCl]を溶質成分として溶解させた液体消火剤が用いられているが、消火力は十分とはいえず改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-288059号公報
【特許文献2】特開2013-75129号公報
【特許文献3】特開2015-61574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、消火力に優れた液体消火剤、該液体消火剤の製造方法および該液体消火剤を充填した消火器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本件出願人等は、液体消火剤について鋭意検討し、驚くべきことに、溶媒成分である水に、溶質成分として、塩化ナトリウム、リン酸水素二アンモニウム、炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素アンモニウム、尿素、硫酸アンモニウムと共に、クエン酸[C6H8O7]を含有させることにより、消火の初期段階で、クエン酸[C6H8O7]と炭酸水素ナトリウム[NaHCO3]との反応(C6H8O7+3NaHCO3→Na3C6H5O7+3H2O+3CO2↑)により二酸化炭素ガスが発生して、液体消火剤の消火力を向上できることを見い出し、本発明を成したものである。
【0006】
さらに、本発明の液体消火剤では、溶質成分として、クエン酸以外にも、ホウ酸[H3BO3]、プロピレングリコール[C3H8O2]、液体洗剤を配合することや、溶媒成分である水として海洋深層水を用いることにより、液体消火剤の消火力を一層向上できる。
【0007】
本発明の要旨を以下に示す。
(1)火災の消火に用いられる、溶媒成分である水に、溶質成分として、塩化ナトリウム、リン酸水素二アンモニウム、炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素アンモニウム、尿素、硫酸アンモニウムを含有する液体消火剤であって、
溶質成分として、更にホウ酸およびクエン酸を含有することを特徴とする、液体消火剤。
【0008】
(2)溶媒である水1000ml当たり、溶質成分として、
上記塩化ナトリウムを30~90g、
上記リン酸水素二アンモニウムを110~340g、
上記炭酸水素ナトリウムおよび/または上記炭酸水素アンモニウムを50~150g、
上記尿素を60~170g、
上記硫酸アンモニウムを90~260g、
上記ホウ酸を10~40g、および
上記クエン酸を10~30g
を含有することを特徴とする、(1)に記載の液体消火剤。
【0009】
(3)溶質成分として、更にプロピレングリコールおよび/または液体洗剤を含有することを特徴とする、(1)に記載の液体消火剤。
【0010】
(4)溶媒である水1000ml当たり、溶質成分として、
上記塩化ナトリウムを30~90g、
上記リン酸水素二アンモニウムを110~340g、
上記炭酸水素ナトリウムおよび/または上記炭酸水素アンモニウムを50~150g、
上記尿素を60~170g、
上記硫酸アンモニウムを90~260g、
上記ホウ酸を10~40g、
上記クエン酸を10~30g、
上記プロピレングリコールを110~320g、および
上記液体洗剤:60~190g
を含有することを特徴とする、(3)に記載の液体消火剤。
【0011】
(5)溶媒成分である水として、海洋深層水を用いることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の液体消火剤。
【0012】
(6)(1)または(2)に記載の液体消火剤の製造方法であって、
1)次の工程1-a)~1-d)により、<液体消火剤材料A>を調製し、
1-a)溶媒である水(A)に常温で、該水(A)1000ml当たり上記塩化ナトリウムを30~90g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-b)上記1-a)で調製した水溶液を46~54℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記リン酸水素二アンモニウムを110~340g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-c)上記1-b)で調製した水溶液を56~64℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記炭酸水素ナトリウムおよび/または上記炭酸水素アンモニウムを50~150g添加し撹拌しながら溶解し、次いで、上記水(A)1000ml当たり上記尿素を60~170g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-d)上記1-c)で調製した水溶液を70~80℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記硫酸アンモニウムを90~260g添加し撹拌しながら溶解する工程
2)次の工程2-a)により、<液体消火剤材料B>を調製し、
2-a)水(B)を55~65℃に昇温して、該水(B)1000ml当たり上記ホウ酸を10~40g添加し撹拌しながら溶解する工程
3)上記<液体消火剤材料A>と上記<液体消火剤材料B>を、上記水(A)と上記水(B)の容積比が5:2となるように混合撹拌し、上記水(A)および上記水(B)1000ml当たり、上記クエン酸を10~30g添加することを特徴とする、液体消火剤の製造方法。
【0013】
(7)(3)または(4)に記載の液体消火剤の製造方法であって、
1)次の工程1-a)~1-d)により、<液体消火剤材料A>を調製し、
1-a)溶媒である水(A)に常温で、該水(A)1000ml当たり上記塩化ナトリウムを30~90g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-b)上記1-a)で調製した水溶液を46~54℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記リン酸水素二アンモニウムを110~340g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-c)上記1-b)で調製した水溶液を56~64℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記炭酸水素ナトリウムおよび/または上記炭酸水素アンモニウムを50~150g添加し撹拌しながら溶解し、次いで、上記水(A)1000ml当たり上記尿素を60~170g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-d)上記1-c)で調製した水溶液を70~80℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記硫酸アンモニウムを90~260g添加し撹拌しながら溶解する工程
2)次の工程2-a)により、<液体消火剤材料B>を調製し、
2-a)水(B)を55~65℃に昇温して、該水(B)1000ml当たり上記ホウ酸を10~40g添加し撹拌しながら溶解する工程
3)上記<液体消火剤材料A>と上記<液体消火剤材料B>を、上記水(A)と上記水(B)の容積比が5:2となるように混合撹拌し、上記水(A)および上記水(B)1000ml当たり、上記プロピレングリコールを110~320g、上記液体洗剤を60~190gおよび上記クエン酸を10~30g添加することを特徴とする、液体消火剤の製造方法。
【0014】
(8)(1)~(5)のいずれかに記載の液体消火剤を封入してなる、投擲型消火器。
【0015】
(9)(1)~(5)のいずれかに記載の液体消火剤を封入してなる、噴射型消火器。
【発明の効果】
【0016】
本発明における液体消火剤は、溶媒成分である水に、溶質成分として、塩化ナトリウム、リン酸水素二アンモニウム、炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素アンモニウム、尿素、硫酸アンモニウムと共に、クエン酸を含有させることにより、消火の初期段階で、クエン酸[C6H8O7]と炭酸水素ナトリウム[NaHCO3]との反応(C6H8O7+3NaHCO3→Na3C6H5O7+3H2O+3CO2↑)により二酸化炭素ガスが発生して、液体消火剤の消火力を向上できる。
【0017】
この効果は、液体消火剤を消火対象物に向けて噴射する噴射型消火器においても発揮されるが、特に、液体消火剤を封入した容器を消火対象物に向けて投げる投擲型消火器において顕著に発揮される。
【0018】
すなわち、液体消火剤に含有されるリン酸水素二アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、尿素、硫酸アンモニウム等の成分の熱分解による二酸化炭素ガス、アンモニア等の消火性ガス発生は、加熱→熱分解→消火性ガスの発生という段階で行われることから、消火の初期段階での消火性ガス発生は期待できない。一方、クエン酸[C6H8O7]と炭酸水素ナトリウム[NaHCO3]との反応(C6H8O7+3NaHCO3→Na3C6H5O7+3H2O+3CO2↑)は常温・常圧においても進行するが、噴射型消火器、投擲型消火器に液体消火剤が封入されていることにより、反応が一時的に停止状態となっているものであり、噴射型消火器の液体消火剤の噴射時、投擲型消火器の液体消火剤封入容器の破壊時における封入圧力の解放により、反応が一気に進むことから、消火の初期段階で二酸化炭素ガスが発生する。特に、投擲型消火器では、液体消火剤封入容器の破壊時直後に二酸化炭素ガスが発生することから、液体消火剤の液滴を広範囲に散布することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の液体消火剤、該液体消火剤の製造方法および該液体消火剤を充填した消火器について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
1.本発明の液体消火剤
本発明の液体消火剤の主たる特徴は、溶媒成分である水に、溶質成分として、塩化ナトリウム、リン酸水素二アンモニウム、炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素アンモニウム、尿素、硫酸アンモニウムと共に、クエン酸を含有させることにより、液体消火剤の消火力を向上させることである。
【0021】
まず、塩化ナトリウム、リン酸水素二アンモニウム、炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素アンモニウム、尿素、硫酸アンモニウム等の溶質成分は、従来の液体消火剤でも用いられているものであるが、これらの作用について以下に簡単に説明する。
【0022】
<塩化ナトリウム>
塩化ナトリウムは、リン酸水素二アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等の熱分解反応を促進する触媒作用、液体消火剤の凝固点を降下させる作用を発揮する。
【0023】
<リン酸水素二アンモニウム>
リン酸水素二アンモニウム[(NH4)2HPO4]は、消火の際、燃焼により二酸化炭素ガス(CO2)とアンモニア(NH3)に熱分解される。二酸化炭素ガスは燃焼物への酸素を遮断し、燃焼物の酸化を中和して抑える作用がある。アンモニアは中和、冷却作用で燃焼物の再燃焼を防止して、周囲への延焼を防ぐ。
【0024】
<炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム>
炭酸水素ナトリウム[NaHCO3]の水溶液は65℃以上で、炭酸ナトリウム、二酸化炭素ガス、水の3つの物質に分解される(2NaHCO3→Na2CO3+H2O+CO2↑)。また、炭酸水素アンモニウム[NH4HCO3]の水溶液は70℃以上でアンモニア、二酸化炭素ガス、水の3つの物質に分解される(NH4HCO3→NH3+H2O+CO2↑)。二酸化炭素ガスおよびアンモニアは、上記のような消火作用を発揮する。
【0025】
<尿素>
尿素は燃焼物表面の表面張力を小さくし、消化剤を浸透させる効果がある。また、尿素[CH4N2O]は、水と熱によって二酸化炭素ガスとアンモニアに分解される(CH4N2O+H2O→CO2+2NH3)。二酸化炭素ガスおよびアンモニアは、上記のような消火作用を発揮する。
【0026】
<硫酸アンモニウム>
硫酸アンモニウムは、木材や紙等の発火点を上昇させる効果を有するので、消火後の再燃焼を防止することができ、安全性を高めることとなる。また、硫酸アンモニウム[(NH4)2SO4]は分解して、アンモニアと硫酸になる((NH4)2SO4→2NH3+H2SO4)。アンモニアは、上記のような消火作用を発揮する。
【0027】
溶媒成分である水に、溶質成分として、塩化ナトリウム、リン酸水素二アンモニウム、炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素アンモニウム、尿素、硫酸アンモニウム等の上記従来の成分と共に、クエン酸を含有させることにより、液体消火剤の消火力を向上できる。
【0028】
上記従来の成分の熱分解反応は、加熱→熱分解→消火性ガスの発生という段階で行われることから、消火の初期段階、すなわち、液体消火剤を消火対象物適用した直後での消火性ガス発生は期待できない。一方、クエン酸[C6H8O7]と炭酸水素ナトリウム[NaHCO3]との反応(C6H8O7+3NaHCO3→Na3C6H5O7+3H2O+3CO2↑)は常温・常圧においても進行するが、噴射型消火器、投擲型消火器に液体消火剤が封入されていることにより、反応が一時的に停止状態となっているものであり、噴射型消火器の液体消火剤の噴射時、投擲型消火器の液体消火剤封入容器の破壊時における封入圧力の解放により、反応が一気に進むことから、消火の初期段階で二酸化炭素ガスが発生する。特に、投擲型消火器では、液体消火剤封入容器の破壊時直後に二酸化炭素ガスが発生することから、液体消火剤の液滴を広範囲に散布することができる。
【0029】
さらに、本発明の液体消火剤では、溶質成分として、クエン酸以外にも、ホウ酸[H3BO3]、プロピレングリコール[C3H8O2]、液体洗剤を配合することや、溶媒成分である水として海洋深層水を用いることにより、液体消火剤の消火力を一層向上できる。
【0030】
<ホウ酸>
ホウ酸はそれ自体が難燃剤であり、消火剤に「ホウ酸」を添加することにより、消火性能を向上できる。
【0031】
<プロピレングリコール>
プロピレングリコールは液体消火剤の不凍液として作用し、-20℃の低温環境でも消火能力を発揮する。脂肪族のグリコール類のうちでもプロピレングリコールは、人体に対する毒性がほとんどなく、沸点が187℃であり爆発の危険性が少ないことから、特に好ましい。
【0032】
<液体洗剤>
液体洗剤に含まれる界面活性剤による表面張力の低減により、水を効率的に燃焼物に付着させ、水による気化熱の冷却効果と、液体泡による燃焼物表面への被覆による窒息効果とで、消火能力を発揮する。また、市販の液体洗剤(「ボールド(登録商標)」:プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(株)製)等には消臭剤が含有されていることから、液体消火剤から発生するアンモニア臭を消すこともできる。
【0033】
<海洋深層水>
海洋深層水は、一般の海水に比べ硝酸塩、燐酸塩、珪酸塩等が豊富に含まれていることから、溶媒成分である水として海洋深層水を用いることにより、液体消火剤の消火力を一層向上できる。
【0034】
2.本発明の液体消火剤の製造方法
本発明の液体消火剤の製造方法は、次の1)~2)の事項を考慮して行う。
1)溶媒成分である水に、溶質成分である塩化ナトリウム、リン酸水素二アンモニウム、炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素アンモニウム、尿素、硫酸アンモニウム、ホウ酸、クエン酸、プロピレングリコール、液体洗剤等の成分を十分に溶解させること
2)液体消火剤を消火器に密封する前の製造段階で、クエン酸と炭酸水素ナトリウムとの反応(C6H8O7+3NaHCO3→Na3C6H5O7+3H2O+3CO2↑)ができるだけ生じないようにすること
【0035】
まず、溶媒成分である水に、溶質成分として、塩化ナトリウム、リン酸水素二アンモニウム、炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素アンモニウム、尿素、硫酸アンモニウム、ホウ酸およびクエン酸を含有する液体消火剤は、好適には、次のようにして製造される。
1)次の工程1-a)~1-d)により、<液体消火剤材料A>を調製し、
1-a)溶媒である水(A)に常温で、該水(A)1000ml当たり上記塩化ナトリウムを30~90g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-b)上記1-a)で調製した水溶液を46~54℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記リン酸水素二アンモニウムを110~340g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-c)上記1-b)で調製した水溶液を56~64℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記炭酸水素ナトリウムおよび/または上記炭酸水素アンモニウムを50~150g添加し撹拌しながら溶解し、次いで、上記水(A)1000ml当たり上記尿素を60~170g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-d)上記1-c)で調製した水溶液を70~80℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記硫酸アンモニウムを90~260g添加し撹拌しながら溶解する工程
2)次の工程2-a)により、<液体消火剤材料B>を調製し、
2-a)水(B)を55~65℃に昇温して、該水(B)1000ml当たり上記ホウ酸を10~40g添加し撹拌しながら溶解する工程
3)上記<液体消火剤材料A>と上記<液体消火剤材料B>を、上記水(A)と上記水(B)の容積比が5:2となるように混合撹拌し、上記水(A)および上記水(B)1000ml当たり、上記クエン酸を10~30g添加する
【0036】
また、溶媒成分である水に、溶質成分として、塩化ナトリウム、リン酸水素二アンモニウム、炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素アンモニウム、尿素、硫酸アンモニウム、ホウ酸、クエン酸、プロピレングリコールおよび液体洗剤を含有する液体消火剤は、好適には、次のようにして製造される。
1)次の工程1-a)~1-d)により、<液体消火剤材料A>を調製し、
1-a)溶媒である水(A)に常温で、該水(A)1000ml当たり上記塩化ナトリウムを30~90g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-b)上記1-a)で調製した水溶液を46~54℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記リン酸水素二アンモニウムを110~340g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-c)上記1-b)で調製した水溶液を56~64℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記炭酸水素ナトリウムおよび/または上記炭酸水素アンモニウムを50~150g添加し撹拌しながら溶解し、次いで、上記水(A)1000ml当たり上記尿素を60~170g添加し撹拌しながら溶解する工程
1-d)上記1-c)で調製した水溶液を70~80℃に昇温して、上記水(A)1000ml当たり上記硫酸アンモニウムを90~260g添加し撹拌しながら溶解する工程
2)次の工程2-a)により、<液体消火剤材料B>を調製し、
2-a)水(B)を55~65℃に昇温して、該水(B)1000ml当たり上記ホウ酸を10~40g添加し撹拌しながら溶解する工程
3)上記<液体消火剤材料A>と上記<液体消火剤材料B>を、上記水(A)と上記水(B)の容積比が5:2となるように混合撹拌し、上記水(A)および上記水(B)1000ml当たり、上記プロピレングリコールを110~320g、上記液体洗剤を60~190gおよび上記クエン酸を10~30g添加する
【0037】
3.本発明の液体消火剤を充填した消火器
本発明の液体消火剤を充填した消火器は、上記の消火力を向上させた液体消火剤を充填した消火器である。消火器としては従来公知のものを用いることができる。
【0038】
本発明の液体消火剤の効果は、液体消火剤を消火対象物に向けて噴射する噴射型消火器においても十分に発揮されるが、特に、液体消火剤を封入した容器を消火対象物に向けて投げる投擲型消火器において顕著に発揮される。
【0039】
すなわち、クエン酸[C6H8O7]と炭酸水素ナトリウム[NaHCO3]との反応(C6H8O7+3NaHCO3→Na3C6H5O7+3H2O+3CO2↑)は常温・常圧においても進行するものであるが、液体消火剤を消火器に密封することで二酸化炭素ガスの生成が抑制され、反応が一時的に停止状態となっている。そして、噴射型消火器の液体消火剤の噴射時や投擲型消火器の液体消火剤封入容器の破壊時における封入圧力の解放によって、上記の反応が一気に進行し、消火の初期段階で二酸化炭素ガスが発生する。特に、投擲型消火器では、液体消火剤を封入した容器が破壊された直後に二酸化炭素ガスが発生し、これにより液体消火剤の液滴を広範囲に散布できる。
【実施例0040】
以下、本発明を実施例・比較例により具体的に説明する。
【0041】
I.実施例1
1.液体消火剤原液の製造
常温の水道水500mlに塩化ナトリウム40gを入れ攪拌しながら溶解し、この水溶液を50℃に加温してリン酸水素二アンモニウム160gを攪拌しながら溶解し、この水溶液を60℃に加温して炭酸水素ナトリウム70gを攪拌しながら溶解し、次いで60℃に加温して尿素80gを攪拌しながら溶解し、75℃に加温し硫酸アンモニウム120gを攪拌しながら溶解して、液体消火剤材料Aを調製した。
【0042】
また、純水200mlを60℃に加温してホウ酸20gを攪拌しながら溶解して、液体消火剤材料Bを調製した。
【0043】
その後、液体消火剤材料Aと液体消火剤材料Bを混合し、プロピレングリコール150gを添加し撹拌して、液体消火剤原液を調製した。
【0044】
2.液体消火剤原液の消火器への充填
<実施例1A>
噴射型消火器の消火剤収容部(液体消火剤収容量:3000ml)に上記液体消火剤原液を収容量の95容量%まで入れ(2848g)、残りの5容量%に液体洗剤(「ボールド(登録商標)」:プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(株)製、比重1.25)を入れた。また、クエン酸30gを収容したティーバッグを消火剤収容部に投入し、空気が入らないように蓋をして密封した。
【0045】
噴射型消火器の消火剤収容部に密封された消火剤の組成は、溶媒である水1000ml当たり、溶質成分として、塩化ナトリウム:57g、リン酸水素二アンモニウム:229g、炭酸水素ナトリウム:100g、尿素:114g、硫酸アンモニウム:171g、ホウ酸:29g、プロピレングリコール:214g、クエン酸:20gおよび液体洗剤:126gを含有するものである。
【0046】
<実施例1B>
投擲型消火器の消火剤収容部(液体消火剤収容量:650ml)にクエン酸6gを入れ、次いで上記液体消火剤原液を収容量の95容量%まで入れ(617g)、残りの5容量%に液体洗剤(「ボールド(登録商標)」:プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(株)製、比重1.25)を入れて、空気が入らないように蓋をして密封した。
【0047】
投擲型消火器の消火剤収容部に密封された消火剤の組成は、溶媒である水1000ml当たり、溶質成分として、塩化ナトリウム:57g、リン酸水素二アンモニウム:229g、炭酸水素ナトリウム:100g、尿素:114g、硫酸アンモニウム:171g、ホウ酸:29g、プロピレングリコール:214g、クエン酸:19gおよび液体洗剤:126gを含有するものである。
【0048】
3.消火試験
<実施例1Aで作成した噴射型消火器を用いた消火試験>
長さ50cm幅4cm高さ4cmの木材を72本用意し、スタンドの上に、5本、4本と順次この木材を重ねて16段組み上げた。そして、スタンドの下の容器にガソリンを2L入れて燃料を着火した。
着火して2分後に、実施例1Aで作成した噴射型消火器を用いて消火を開始した。
35秒で、液体消火剤1500mlを噴射した時点で完全に消火できた。
【0049】
<実施例1Bで作成した投擲型消火器を用いた消火試験>
27m3の小屋をベニヤ合板で2棟作り、新聞紙に灯油を浸して着火し、更に火が大きくなるように柄杓で灯油80mlを四方にまいた。
20秒後に、実施例1Aで作成した噴射型消火器を用いて消火を開始した。
1回目は2.5秒で完全消火でき、2回目は2秒で完全消火できた。
【0050】
II.比較例1
1.液体消火剤原液の製造
ホウ酸、クエン酸および液体洗剤を添加しないこと以外は<実施例1>と同様にして、液体消火剤原液を調製した。
【0051】
2.液体消火剤原液の消火器への充填
<比較例1A>
実施例1Aと同じ噴射型消火器の消火剤収容部(液体消火剤収容量:3000ml)に上記液体消火剤原液を充填し、空気が入らないように蓋をして密封した。
【0052】
噴射型消火器の消火剤収容部に密封された消火剤の組成は、溶媒である水1000ml当たり、溶質成分として、塩化ナトリウム:57g、リン酸水素二アンモニウム:229g、炭酸水素ナトリウム:100g、尿素:114g、硫酸アンモニウム:171g、プロピレングリコール:214gを含有するものである。
【0053】
<比較例1B>
実施例1Bと同じ投擲型消火器の消火剤収容部(液体消火剤収容量:650ml)に上記液体消火剤原液を充填し、空気が入らないように蓋をして密封した。
【0054】
投擲型消火器の消火剤収容部に密封された消火剤の組成は、溶媒である水1000ml当たり、溶質成分として、塩化ナトリウム:57g、リン酸水素二アンモニウム:229g、炭酸水素ナトリウム:100g、尿素:114g、硫酸アンモニウム:171g、プロピレングリコール:214gを含有するものである。
【0055】
3.消火試験
<比較例1Aで作成した噴射型消火器を用いた消火試験>
上記<実施例1Aで作成した噴射型消火器を用いた消火試験>と同じ条件で、比較例1Aで作成した噴射型消火器を用いて消火試験を行った。
3分後に一旦消火したように見えたが20秒後に再度延焼し、消火できなかった。
【0056】
<比較例1Bで作成した投擲型消火器を用いた消火試験>
上記<実施例1Bで作成した投擲型消火器を用いた消火試験>と同じ条件で、比較例1Bで作成した投擲型消火器を用いて消火試験を行った。
1回目は小屋の左隅に残火があり、2回目は小屋の屋根部分に残火があり、消火できなかった。
【0057】
III.比較例2
特許文献1として示した特開2005-288059号公報に記載された消火剤を用いて、実施例1と同じ方法で消火試験を行った。
【0058】
1.消火剤の製造
35℃のお湯に塩化ナトリウムを10g入れ、リン酸二アンモニウムを60g入れて溶解し、重炭酸アンモニウム45g入れて溶解し、尿素を20g入れて溶解し、硫酸アンモニウムを45g入れ熱湯を適量入れて溶解し、消火剤の全体量が500mlになるまで水を加えた。
【0059】
最後に、製造した消火剤500mlに対して20mlの界面活性剤を加えて、消火剤を調製した。
【0060】
2.消火剤の消火器への充填
<比較例2A>
実施例1Aと同じ噴射型消火器の消火剤収容部(液体消火剤収容量:3000ml)に上記消火剤を充填し、空気が入らないように蓋をして密封した。
【0061】
<比較例2B>
実施例1Bと同じ投擲型消火器の消火剤収容部(液体消火剤収容量:650ml)に上記消火剤を充填し、空気が入らないように蓋をして密封した。
【0062】
3.消火試験
<比較例2Aで作成した噴射型消火器を用いた消火試験>
上記<実施例1Aで作成した噴射型消火器を用いた消火試験>と同じ条件で、比較例2Aで作成した噴射型消火器を用いて消火試験を行った。
消火剤全量(3000ml)を噴射したが、下方中心部に残火があり、消火できなかった。
【0063】
<比較例2Bで作成した投擲型消火器を用いた消火試験>
上記<実施例1Bで作成した投擲型消火器を用いた消火試験>と同じ条件で、比較例2Bで作成した投擲型消火器を用いて消火試験を行った。
1回目は小屋左隅の壁中央残火があり、2回目は小屋中央に残火があり、消火できなかった。
【0064】
IV.比較例3
特許文献2として示した特開2013-75129号公報に記載された消火剤を用いて、実施例1と同じ方法で消火試験を行った。
【0065】
1.消火剤の製造
55℃のお湯に塩化ナトリウム40gを入れて溶解し、リン酸二アンモニウムを200g入れて溶解し、炭酸水素ナトリウムを100gを入れて溶解し、混合した薬液を85℃の温度で25分間保ち、尿素を100g入れて溶解し、硫酸アンモニウムを170g入れて溶解して全体量を600mlとした。更に、エチレングリコールを100g入れ、界面活性剤を30g入れて消火剤を調製した。
【0066】
2.消火剤の消火器への充填
<比較例3A>
実施例1Aと同じ噴射型消火器の消火剤収容部(液体消火剤収容量:3000ml)に上記消火剤を充填し、空気が入らないように蓋をして密封した。
【0067】
<比較例3B>
実施例1Bと同じ投擲型消火器の消火剤収容部(液体消火剤収容量:650ml)に上記消火剤を充填し、空気が入らないように蓋をして密封した。
【0068】
3.消火試験
<比較例3Aで作成した噴射型消火器を用いた消火試験>
上記<実施例1Aで作成した噴射型消火器を用いた消火試験>と同じ条件で、比較例3Aで作成した噴射型消火器を用いて消火試験を行った。
消火剤全量(3000ml)を噴射したが、積み上げや木材真中内部に残火があり、消火できなかった。
【0069】
<比較例3Bで作成した投擲型消火器を用いた消火試験>
上記<実施例1Bで作成した投擲型消火器を用いた消火試験>と同じ条件で、比較例3Bで作成した投擲型消火器を用いて消火試験を行った。
1回目は小屋中央の後壁に残火があり、2回目は小屋中央の後壁に残火があり、消火できなかった。
【0070】
上記実施例1および比較例1~3の消火試験結果を、下記表1に整理して示す。
【0071】
【0072】
上記の表1から明らかなように、溶媒成分である水に、溶質成分として更にホウ酸およびクエン酸を含有する本件発明の液体消火剤は、従来の液体消火剤に比べ、優れた消化力を発揮する優れたものである。