(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028495
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】1,4-ジオキサン含有水の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/78 20060101AFI20220208BHJP
C02F 1/72 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C02F1/78
C02F1/72 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020131936
(22)【出願日】2020-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】390036515
【氏名又は名称】株式会社鴻池組
(71)【出願人】
【識別番号】390025759
【氏名又は名称】株式会社ワイビーエム
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】大山 将
(72)【発明者】
【氏名】松生 隆司
(72)【発明者】
【氏名】大坪 修平
(72)【発明者】
【氏名】宇川 岳史
【テーマコード(参考)】
4D050
【Fターム(参考)】
4D050AA13
4D050AA15
4D050AB13
4D050BB02
4D050BB09
4D050BD03
4D050BD08
(57)【要約】
【課題】1,4-ジオキサンに加え、有機物や金属イオン等の夾雑物質を含有している水を、夾雑物質に対する前処理を行うことなく、オゾンガスを用いて1,4-ジオキサンを分解することができる1,4-ジオキサン含有水の処理方法を提供すること。
【解決手段】1,4-ジオキサンに加え、夾雑物質を含有している水を導入、処理する処理槽2に、処理槽2の水をポンプ5を介することで水流を付与した水にオゾンガスを添加して噴流式微細気泡発生部4に供給して渦流とキャビテーションの作用によって微細気泡化したオゾンガスを水流に乗せて供給することで、1,4-ジオキサンを分解する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4-ジオキサンに加え、夾雑物質を含有している水を、オゾンガスを用いて処理することで、1,4-ジオキサンを分解する1,4-ジオキサン含有水の処理方法において、前記水を導入、処理する処理槽に、該処理槽の水をポンプを介することで水流を付与した水にオゾンガスを添加して噴流式微細気泡発生部に供給して渦流とキャビテーションの作用によって微細気泡化したオゾンガスを水流に乗せて供給することで、1,4-ジオキサンを分解することを特徴とする1,4-ジオキサン含有水の処理方法。
【請求項2】
前記水に過酸化水素水を添加して噴流式微細気泡発生部に供給することを特徴とする請求項1に記載の1,4-ジオキサン含有水の処理方法。
【請求項3】
前記オゾンガスと過酸化水素水の添加割合を、モル比で、1:0.25~1:4とすることを特徴とする請求項2に記載の1,4-ジオキサン含有水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4-ジオキサン含有水を、オゾンガスを用いて処理することで、1,4-ジオキサンを分解する1,4-ジオキサン含有水の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶剤や洗浄剤等に使用されている1,4-ジオキサンは、工場廃水、家庭廃水、産業廃棄物処理場や産業廃棄物不法投棄現場からの浸出水等(本明細書において、包括して、「1,4-ジオキサン含有水」という場合がある。)を介して自然界に排出されている。
【0003】
ところで、1,4-ジオキサンは、水溶性の難分解性物質であるため、生物処理や固液分離処理ではほとんど分解できず、環境に対する汚染が懸念され、現に、河川や湖沼、地下水等の水環境中での汚染が報告されている。
【0004】
このような背景から、平成16年4月の水道法の改正に伴い、飲料水基準として1,4-ジオキサンの規制値を0.05mg/Lとする内容が導入され、さらに、平成22年11月には環境基準値が制定されており、廃水等に含まれる1,4-ジオキサンを効率的に分解除去するための処理技術が望まれている。
【0005】
ところで、このような要請から、従来、1,4-ジオキサン含有水を、オゾンガスを用いた促進酸化法(AOP法)で処理することが提案されている(例えば、特許文献1~2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-58854号公報
【特許文献2】特開2013-126617号公報
【特許文献3】特開2016-36775号公報
【特許文献4】特開2018-30094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、1,4-ジオキサン含有水は、一般に有機物や金属等の夾雑物質を含有しているため、オゾンガスを用いた従来の1,4-ジオキサン含有水の処理方法では、1,4-ジオキサンを効率よく分解することが困難なため、生物反応槽や固液分離槽等で1,4-ジオキサン含有水に含有される夾雑物質の前処理を行う必要があり、処理設備が大型化し、処理コストが高くなるといった問題があった。
【0008】
本発明は、上記従来の1,4-ジオキサン含有水の処理方法の有する問題点に鑑み、1,4-ジオキサンに加え、有機物や金属等の夾雑物質を含有している水を、夾雑物質に対する前処理を行うことなく、オゾンガスを用いて処理することで、1,4-ジオキサンを分解することができる1,4-ジオキサン含有水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の1,4-ジオキサン含有水の処理方法は、1,4-ジオキサンに加え、夾雑物質を含有している水を、オゾンガスを用いて処理することで、1,4-ジオキサンを分解する1,4-ジオキサン含有水の処理方法において、前記水を導入、処理する処理槽に、該処理槽の水をポンプを介することで水流を付与した水にオゾンガスを添加して噴流式微細気泡発生部に供給して渦流とキャビテーションの作用によって微細気泡(ファインバブル)化したオゾンガスを水流に乗せて供給することで、1,4-ジオキサンを分解することを特徴とする。
【0010】
この場合において、前記水に過酸化水素水を添加して噴流式微細気泡発生部に供給することができる。
【0011】
また、前記オゾンガスと過酸化水素水の添加割合を、モル比で、1:0.25~1:4とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の1,4-ジオキサン含有水の処理方法は、1,4-ジオキサンに加え、夾雑物質を含有している水を、夾雑物質に対する前処理を行うことなく、オゾンガスやオゾンガス及び過酸化水素水を併用して処理することで、1,4-ジオキサンを、簡易に分解することができ、大量の1,4-ジオキサン含有水を処理する場合でも、処理設備が大型化することがないため、処理コストを低廉にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の1,4-ジオキサン含有水の処理方法の一実施例を示す処理フローの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の1,4-ジオキサン含有水の処理方法の実施の形態を説明する。
【0015】
本発明の1,4-ジオキサン含有水の処理方法は、1,4-ジオキサンに加え、夾雑物質を含有している水(原水)を、オゾンガスやオゾンガス及び過酸化水素水を併用して処理することで、1,4-ジオキサンを分解するもので、
図1に示す処理フローのとおり、1,4-ジオキサンに加え、夾雑物質を含有している水を、原水槽1からポンプ6を介して、導入、処理する処理槽2に、処理槽2の水をポンプ5を介することで水流を付与した水にオゾンガスを添加して噴流式微細気泡発生部4に供給して渦流とキャビテーションの作用によって微細気泡(ファインバブル)化したオゾンガスを水流に乗せて供給することで、1,4-ジオキサンを分解し、処理された水は、放流調整槽3からポンプ8を介して放流されるようにしている。
なお、
図1中の流量は、1,4-ジオキサン含有水の処理の一例を示すものである。
【0016】
この場合において、噴流式微細気泡発生部4に供給される水の供給量は、流量計13によって計測し、調節できるようにしている。
【0017】
また、オゾンガスは、制御盤23を備えたオゾン発生器9、チラー10、酸素濃縮器11及びコンプレッサ12からなるオゾンガス発生機構によって生成するようにするとともに、噴流式微細気泡発生部4に供給されるオゾンガスの供給量を調節できるようにしている。
【0018】
また、必要に応じて、ポンプ5を介することで水流を付与した水に、過酸化水素水タンク24から過酸化水素水をポンプ7を介して添加して噴流式微細気泡発生部4に供給することできるようにしている。
噴流式微細気泡発生部4に供給される過酸化水素水の供給量は、流量計15によって計測し、電磁弁16によって調節できるようにしている。
【0019】
原水槽1に流入する水の流入量及び原水槽1から流出する水の流出量並びに原水槽1の水位は、流量計14a、14b並びにレベルセンサ17aによって計測し、調節できるようにしている。
【0020】
処理槽2の水位は、レベルセンサ17bによって計測し、調節できるようにしている。
【0021】
放流調整槽3の水位は、レベルセンサ17cによって計測し、調節できるようにしている。
また、放流調整槽3には、pH計18、DO計19、ORP計20、濁度計21及び溶存オゾン計22を備えることで、放流される水の水質を管理するようにしている。
【0022】
噴流式微細気泡発生部4は、圧力液体に気体を添加して供給することで、渦流とキャビテーションの作用によって微細気泡(ファインバブル)化した気体、具体的には、気泡径が、100μm未満のマイクロバブルや1μm未満のウルトラファインバルブ(JIS B 8741-1:2019(ISO 20480-1:2017)参照。)、好ましくは、多くの1μm未満のウルトラファインバルブを液体流に乗せて吐出するもので、例えば、特許文献3~4に記載された構造の機構を適用することができる。
本実施例において、噴流式微細気泡発生部4には、ワイビーエム社製の「フォームジェット(FJP-300(最大処理量:300m3/hr))」(商品名)を使用しているが、このほか、同社製の「ファビー」(商品名)等を使用することができる。
【0023】
次に、
図1に示す処理フローを実施する処理設備について説明する。
・処理条件
50m
3/日(約2m
3/hr)の連続処理
オゾンガスのみの注入又はオゾンガス及び過酸化水素水添加を併用した促進酸化法(AOP)
・初期濃度
原水の1,4-ジオキサン濃度:1.4mg/L程度
・処理目標
処理後の水の1,4-ジオキサン濃度:0.25m以下
【0024】
[処理設備]
・オゾンガス注入濃度:200mg-O3/L
200g-O3/m3×2m3/hr=400g-O3/hr
→ オゾンガス発生機構の能力:500g-O3/hr
・処理槽2の処理時間:2時間程度
オゾンガス注入濃度(時間当たり):70mg/L・hr程度以上
→ 5m3規模の処理槽2に常時4m3を貯留してオゾンガスを注入して反応させる。
→ 原水槽1及び放流調整槽3は0.5m3規模に設定する。
→ 4m3÷2m3/hr=2hr(反応時間)
→ 400g-O3/hr÷4m3
=100g-O3/m3・hr
=100mg-O3/L・hr(オゾンガス注入濃度(時間当たり))
>70mg-O3/L・hr
オゾンガス濃度、流量を133.4g/m3、50L/minとした場合、オゾンガス発生量:400.2g-O3/hrとなる。
→ オゾンガス及び過酸化水素水添加を併用した促進酸化法(AOP)(モル比1:1)の場合、35%過酸化水素水が0.717L/hr必要となる。
→ 35%過酸化水素水使用量:17.2L/日、523L/月(平均)必要となる。
【0025】
次に、1,4-ジオキサン含有水の具体的な処理例について説明する。
表1に、処理対象の1,4-ジオキサン含有水(原水)の分析結果を示す。
この処理対象水は、不法投棄された廃棄物から浸出した浸出水であって、1,4-ジオキサンに加え、多量の有機物(TOC)や金属(Fe、Mn)等の夾雑物質を含有しているものである。
このため、従来のオゾンガスを用いた処理方法では、オゾンガスが専ら夾雑物質の分解や酸化のために消費されてしまい、1,4-ジオキサンを効率よく分解することが困難なことが確認されていた。
【0026】
【0027】
表1に記載の処理対象の原水(浸出水)に対して、
図1に示す処理フロー図に対応するスモールスケール化した装置を用いて処理実験を行った。
噴流式微細気泡発生部4には、ワイビーエム社製の「フォームジェット(FJP-3(最大処理量:50L/min))」(商品名)を使用し、処理槽に貯留した処理対象の原水(浸出水)を循環処理するようにした。
【0028】
[処理実験(1)]
処理槽に貯留した処理対象の原水(浸出水)(1):32L
オゾンガス濃度:70g/m3
オゾンガス量:0.50L/min
オゾン注入濃度(時間当たり):65.6mg/L・hr
360分間オゾンガスを注入
【0029】
[処理実験(2)]
処理槽に貯留した処理対象の原水(浸出水)(2):32L
オゾンガス濃度:70g/m3
オゾンガス量:0.50L/min
オゾン注入濃度(時間当たり):65.6mg/L・hr
300分間オゾンを注入
オゾンと過酸化水素水の注入モル比:1:1
【0030】
[処理実験(3)]
処理槽に貯留した処理対象の原水(浸出水)(2):32L
オゾンガス濃度:70g/m3
オゾンガス量:0.50L/min
オゾン注入濃度(時間当たり):65.6mg/L・hr
180~240(360)分間オゾンを注入
オゾンと過酸化水素水の添加割合(モル比):1:4~1:0.5(1:0)
【0031】
表2~表3に、処理実験(1)及び(2)の実験結果を、表4に、処理実験(3)の実験結果を、それぞれ示す。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
表5に、処理実験(1)~(3)の実験結果から確認できたことをまとめて記載する。
【0036】
【0037】
さらに、処理実験(1)~(3)の実験結果から分かったことを記載する。
・原水(浸出水)は、多量の有機物(TOC)や金属(Fe、Mn)等の夾雑物質を含有しているものであるため、オゾンガス注入量をかなり増加させ、オゾン注入濃度(時間当たり)が70mg/L・hr程度以上とする(総合計で、50~300mg/L程度のオゾンガスを添加する)ことで、1,4-ジオキサンを効率的に分解できることを確認した。
具体的には、1,4-ジオキサンの放流基準(0.5mg/L)や処理目標(0.25mg/L)を安定的に満足するためには、初期濃度に応じてオゾン注入濃度(オゾン注入量)を設定し、それを達成するための設備を検討する必要がある。今回の処理対象の原水(浸出水)の実験(実験結果省略)で得られた、1,4-ジオキサン初期濃度と必要とされるオゾン注入濃度(オゾン注入量)は、表6に示すとおりである。
・オゾンガスの注入処理でも着色・懸濁物質を生成するものの1,4-ジオキサンを効率的に分解できることを確認した。ただし、臭素酸やブロモホルムの生成、溶存オゾンの後オゾン処理、排オゾン処理等に留意する必要がある。
・オゾンガスと過酸化水素水を併用したAOP(モル比1:1)では、オゾンガスのみの注入処理と比較して効率的に1,4-ジオキサンを分解することが可能であり、臭素酸、ブロモホルム等の生成も抑制できることを確認した。なお、溶存オゾンはほとんど存在しないため、後オゾン処理は不要である。
オゾンガスと過酸化水素水の添加割合は、モル比で、1:4~1:0.5、好ましくは、1:2~1:0.5であり、今回の処理対象の原水(浸出水)では、1:1であることを確認した。
・オゾンガスのみの注入処理で生成する着色・懸濁物質は、沈降性が良好であるため、後処理は容易であるが、例えば、0.15μm精度のプリーツ型フィルタ式ろ過装置を使用することによって、着色・懸濁物質を除去することもできる。
【0038】
【0039】
以上、本発明の1,4-ジオキサン含有水の処理方法について、その実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の1,4-ジオキサン含有水の処理方法は、1,4-ジオキサンに加え、有機物や金属イオン等の夾雑物質を含有している水を、夾雑物質に対する前処理を行うことなく、オゾンガスを用いて処理することで、1,4-ジオキサンを分解することができることから、工場廃水、家庭廃水、産業廃棄物処理場や産業廃棄物不法投棄現場からの浸出水等に含有されている1,4-ジオキサンを分解する用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 原水槽
2 処理槽
3 放流調整槽
4 噴流式微細気泡発生部
5 ポンプ
6 ポンプ
7 ポンプ
8 ポンプ
9 オゾン発生器
10 チラー
11 酸素濃縮器
12 コンプレッサ
13 流量計
14a 流量計
14b 流量計
15 流量計
16 電磁弁
17a レベルセンサ
17b レベルセンサ
17c レベルセンサ
18 pH計
19 DO計
20 ORP計
21 濁度計
22 溶存オゾン計
23 制御盤
24 過酸化水素水タンク