(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028581
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】水酸化カルシウム水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 11/02 20060101AFI20220208BHJP
C02F 1/50 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C01F11/02 Z
C02F1/50 531J
C02F1/50 540B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020144349
(22)【出願日】2020-08-28
(62)【分割の表示】P 2020131765の分割
【原出願日】2020-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】517054280
【氏名又は名称】株式会社オリーブ技研
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100165238
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】松下 良博
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA10
4G076AB04
4G076BA15
4G076BB08
4G076BC08
4G076CA14
4G076CA23
4G076CA40
4G076DA28
4G076DA30
(57)【要約】
【課題】水酸化カルシウム水溶液を、純粋な化学反応のみで進行させることができる工程によって、低コストで安定的に大量生産すること。
【解決手段】カルシウム塩と、糖類と、を、水に溶解させて、第1の水溶液L1としてカルシウムイオン水溶液を得る、第1の工程S1と、第1の工程S1で水に溶解させたカルシウム塩に対して、質量比で25質量%以上100質量%以下のアルカリ金属水酸化物を、水に溶解させて第2の水溶液L2として水酸化物イオン水溶液を得る、第2の工程S2と、第1の水溶液L1と第2の水溶液L2と、を混合して、水酸化カルシウム水溶液を得る、第3の工程S3と、を行う、水酸化カルシウム水溶液の製造方法とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム塩と、糖類と、を、水に溶解させて、第1の水溶液としてカルシウムイオン水溶液を得る、第1の工程と、
前記第1の工程で水に溶解させたカルシウム塩に対して、質量比で25質量%以上100質量%以下のアルカリ金属水酸化物を、第1の工程を行った容器とは別の容器内で、水に溶解させて第2の水溶液として水酸化物イオン水溶液を得る、第2の工程と、
前記第1の水溶液と前記第2の水溶液と、を同一容器内で混合して、水酸化カルシウム水溶液を得る、第3の工程と、を行う、
水酸化カルシウム水溶液の製造方法。
【請求項2】
水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセットであって、カルシウム塩と、糖類と、を含むカルシウムイオン水溶液である、第1の水溶液と、
前記第1の水溶液に含まれる前記カルシウム塩に対して質量比で25質量%以上100質量%以下のアルカリ金属水酸化物を含む水酸化カルシウム水溶液である、第2の水溶液と、を含んで構成されている、
2液混合型の水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化カルシウム水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
還元性溶液の一種である水酸化カルシウム水溶液は、微生物の繁殖抑制や不活性化に有用であることが知られていて、各種の抗菌剤、又は、その原材料としての需要が近年益々増大しつつある。
【0003】
従来、水酸化カルシウム水溶液等の還元性溶液を製造するための製造方法としては、電気分解によって水酸化物イオン(OH-)を発生させる工程を経る製造方法(特許文献1参照)が広く行われてきた。
【0004】
又、還元性溶液のその他の製造方法として、加圧装置を用いて水素ガスを原水に溶解させる工程を経る製造方法(特許文献2参照)や、或いは、活性炭や薬石等の接触固形素材等を用いて、貝殻等の天然素材からカルシウム等を溶出させる工程を経る製造方法(特許文献3)も行われている。
【0005】
ここで、特許文献1に開示されている製造方法においては、電気分解処理が必須の工程となる。従って、この製造方法を実施するためには、大規模な電気分解処理装置の設置が必須である。又、特許文献2に開示されている製造方法を実施するためには、水素加圧装置及びその他の付帯設備の設置が必須である。つまり上記何れの製造方法による場合においても、製造設備への初期投資や運用コストの負担が過大な負担となりやすかった。
【0006】
一方、特許文献3に開示されている製造方法を実施するには、天然原料である活性炭・薬石・貝殻を大量に確保する必要がある。又、原材料とする貝殻は溶解度が低く、時間と労力の負担の大きい濾過工程が不可避となる点においても経済的に不利である。従って、この製造方法によって、還元性溶液を安定的に大量生産することは難しかった。
【0007】
本願発明者は、上記の特許文献1~3に開示されている各製造方法の抱える課題を解決し得る還元性溶液の製造方法の一案を、既に開発している。即ち、この製造方法は、塩化カルシウム二水和物と糖類等との混合物を容器内で水に溶解させることで、電解処理装置や水素加圧装置等の大規模な工業設備を必要とせずに、純粋な化学反応のみで進行させることができる工程によって還元性溶液を生成する方法(特許文献4参照)である。
【0008】
しかしながら、特に、「水酸化カルシウム水溶液」を製造する場合には、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の水への溶解性の低さが律速となる。従って、特許文献4に開示されているように、原材料混合物を単一の容器内で水に溶解させることが想定されている製造方法を、水酸化カルシウムの製造にそのまま適用したとしても、「水酸化カルシウム水溶液」を、安定的に大量生産することは、尚、困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8-187492
【特許文献2】特開2004-351399号公報
【特許文献3】特開2006-68640号公報
【特許文献4】特許6455689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、水酸化カルシウム水溶液を、純粋な化学反応のみで進行させることができる工程によって、低コストで安定的に大量生産することができる、水酸化カルシウム水溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、自身が開発した特許文献4に開示されている還元性溶液の製造方法を大幅に改良し、「カルシウム塩を水に溶解させる工程」と、「水酸化物を水に溶解させる工程」とを、別途に独立して行った後に、各工程で得た2つの水溶液を混合するプロセスとすることによって、上記課題を解決することができることに想到し、本発明を完成するに至った。本発明は具体的には以下のものを提供する。
【0012】
(1) カルシウム塩と、糖類と、を、水に溶解させて、第1の水溶液としてカルシウムイオン水溶液を得る、第1の工程と、前記第1の工程で水に溶解させたカルシウム塩に対して、質量比で25質量%以上100質量%以下のアルカリ金属水酸化物を、水に溶解させて第2の水溶液として水酸化物イオン水溶液を得る、第2の工程と、前記第1の水溶液と前記第2の水溶液と、を混合して、水酸化カルシウム水溶液を得る、第3の工程と、を行う、水酸化カルシウム水溶液の製造方法。
【0013】
(1)の水酸化カルシウム水溶液の製造方法によれば、水酸化カルシウム水溶液を、純粋な化学反応のみで進行させることができる工程によって、低コストで安定的に大量生産することができる。
【0014】
(2) 前記第1の工程では、前記糖類として、スクロースを用いる、(1)に記載の水酸化カルシウム水溶液の製造方法。
【0015】
(2)の水酸化カルシウム水溶液の製造方法によれば、(1)の製造方法における第1の工程の実施時に、カルシウムイオンの溶解を特に良好に促進する。又、グルコースやガラクトース等の単糖類を用いた場合に発生する第1の溶液の褐色化も防ぐことができる。
【0016】
(3) 前記第1の工程においては、更に、アミノ酸を、水に溶解させて、前記第1の水溶液を得る、(1)又は(2)に記載の水酸化カルシウム水溶液の製造方法。
【0017】
(3)の水酸化カルシウム水溶液の製造方法によれば、(1)又は(2)の製造方法によって得られる水酸化カルシウム水溶液の有する抗酸化性(還元性)を著しく増大させることができる。
【0018】
(4) 前記第1の工程では、前記アミノ酸として、システインを用いる、(3)に記載の水酸化カルシウム水溶液の製造方法。
【0019】
(4)の水酸化カルシウム水溶液の製造方法によれば、(3)の製造方法によって得られる水酸化カルシウム水溶液の有する抗酸化性(還元性)を、特に良好に増大させることができる。これにより、より広範囲の細菌やウイルスを不活性化することができるようになり、優れた抗菌剤のより低コストでの安定供給に寄与することができる。尚、システインは、単独で抗菌剤に配合されている場合もあるが、カルシウムイオンの働きで、酸化還元電位が低下することにより、単独での配合時よりも抗菌性が向上する効果も享受することができる。
【0020】
(5) 前記第1の工程では、水に対して、4.5質量%以上10.0質量%以下の塩化カルシウム二水和物を前記カルシウム塩として、7質量%以上10質量%以下のスクロースを前記糖類として、それぞれ水に溶解させて、前記第1の水溶液を得て、前記第2の工程では、水酸化カリウムを前記アルカリ金属水酸化物として用いる、(1)から(4)の何れかに記載の水酸化カルシウム水溶液の製造方法。
【0021】
(5)の水酸化カルシウム水溶液の製造方法によれば、(1)から(4)の何れかの製造方法が、それぞれ奏する上記の各効果を、より高い精度で確実に享受することができる。
【0022】
(6) 水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセットであって、カルシウム塩と、糖類と、を含むカルシウムイオン水溶液である、第1の水溶液と、前記第1の水溶液に含まれる前記カルシウム塩に対して質量比で25質量%以上100質量%以下のアルカリ金属水酸化物を、を含む水酸化カルシウム水溶液である、第2の水溶液と、を含んで構成されている、2液混合型の水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセット。
【0023】
(6)の水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセットによれば、水酸化カルシウム水溶液を、純粋な化学反応のみで進行させることができる工程によって、低コストで安定的に大量生産することができる。
(7) 前記第1の水溶液に含まれる糖類が、スクロースである、(6)に記載の水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセット。
【0024】
(7)の水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセットによれば、(6)の水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセットにおける第1の水溶液中のカルシウムイオンの溶解が特に良好に促進する。又、グルコースやガラクトース等の単糖類を用いた場合に発生する第1の溶液の褐色化も防ぐことができる。
【0025】
(8) 前記第1の水溶液に、更に、アミノ酸を含む、(6)又は(7)に記載の水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセット。
【0026】
(8)の水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセットによれば、(6)又は(7)の水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセットによって得られる水酸化カルシウム水溶液の有する抗酸化性(還元性)を著しく増大させることができる。
【0027】
(9) 前記第1の水溶液に含まれるアミノ酸が、システインである、(8)に記載の水酸化カルシウム水溶液の製造方法。
【0028】
(9)の水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセットによれば、(8)の水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセットによって得られる水酸化カルシウム水溶液の有する抗酸化性(還元性)を、特に良好に増大させることができる。これにより、より広範囲の細菌やウイルスを不活性化することができるようになり、優れた抗菌剤を、より低コストで安定的に供給することができる。
【0029】
(10) 前記第1の水溶液には、水に対して、4.5質量%以上10.0質量%以下の塩化カルシウム二水和物が前記カルシウム塩として、7質量%以上10質量%以下のスクロースが前記糖類として、それぞれ含まれていて、前記第2の水溶液には、前記アルカリ金属水酸化物として水酸化カリウムが、含まれている、(6)から(9)の何れかに記載の水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセット。
【0030】
(10)の水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセットによれば、(6)から(9)の何れかの原材料組合せセットが、それぞれ奏する上記の各効果を、より高い精度で確実に享受することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、水酸化カルシウム水溶液を、純粋な化学反応のみで進行させることができる工程によって、低コストで安定的に大量生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の水酸化カルシウム水溶液の製造方法の手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、適宜図面等を参照しながら、その詳細を説明する。
【0034】
<水酸化カルシウム水溶液の製造方法>
本発明の水酸化カルシウム水溶液の製造方法は、以下に詳細を説明する通り、純粋な化学反応のみで進行させることができる工程の組合せによって、水酸化カルシウム水溶液を製造する方法である。尚、本明細書において、「純粋な化学反応のみで進行させる」とは、具体的には、特許文献1又は2に開示されている電気分解処理装置や、加圧装置等、外部から多量のエネルギーを付与する処理によらずに、必要な化学的反応を進行させることを言う。
【0035】
[全体構成]
図1は、本発明の水酸化カルシウム水溶液の製造方法の手順を示すフロー図である。水酸化カルシウム水溶液の製造方法は、第1~第3の3つの工程が行われるプロセスである。第1の工程S1は、カルシウム塩と、糖類を、水に溶解させて第1の水溶液(カルシウムイオン水溶液)L1を得る工程である。第2の工程S2は、第1の工程S1で水に溶解させたカルシウム塩に対して、相対的に所定の量となるアルカリ金属水酸化物を、水に溶解させて第2の水溶液(水酸化物イオン水溶液)L2を得る工程である。そして、第3の工程は、第1の水溶液(カルシウムイオン水溶液)L1と第2の水溶液(水酸化物イオン水溶液)L2と、を混合する工程である。
【0036】
尚、本発明の水酸化カルシウム水溶液の製造方法の第1の工程S1においては、上記のカルシウム塩、糖類に加えて、更に、アミノ酸を、水に溶解させることが、より好ましい。
【0037】
本発明の水酸化カルシウム水溶液の製造方法は、後述する本発明の「水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセット」を用いて実施することができる。勿論、上記の第1~第3の3つの工程を含むプロセスである限り、「水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセット」の使用の有無にかかわらず、本発明の技術的範囲に属する。
【0038】
[第1の工程]
第1の工程S1においては、カルシウム塩、糖類、及び、好ましくは、更に、アミノ酸等の添加剤を、水に溶解させて第1の水溶液(カルシウムイオン水溶液)L1を得る処理が行われる。
【0039】
(カルシウム塩)
カルシウム塩としては、カルシウムイオン(Ca2+)として水に溶解する各種のカルシウム化合物を用いることが可能である。但し、酸化カルシウムや(CaO)炭酸カルシウム(CaCO3)等と比較して、水への溶解性に優れる塩化カルシウム(CaCl2)、臭化カルシウム(CaBr2)、酢酸カルシウム塩、乳酸カルシウム塩、グルコン酸カルシウムを用いることが好ましい。又、これらの中でもカルシウム塩としては、塩化カルシウム(CaCl2)(或いは、塩化カルシウム二水和物(CaCl2・2H2O))を用いることが更に好ましい。
【0040】
カルシウム塩として、塩化カルシウム(CaCl2)、より好ましくは塩化カルシウム二水和物(CaCl2・2H2O)を用いることによって、水の分子集団(クラスター)を更に小さな水の分子集団に再編し、これにより、本発明によって製造される水酸化カルシウム水溶液の還元性を高めて、優れた抗酸化性(還元性)を容易且つ高い精度で付与することができる。尚、経済性の観点からも、上記各種のカルシウム源の中でも最も安価な塩化カルシウム二水和物(CaCl2・2H2O)を選択することが好ましい。
【0041】
(糖類)
ここで、本明細書において、第1の水溶液に必須の成分として添加する「糖類」とは、単糖類又は二糖類のことを言うものとする。これらの糖類は水溶液中におけるカルシウム塩の溶解を促進する。グルコースやガラクトース等の単糖類、並びに、スクロース、又、市販のグラニュー糖、上白糖、又、中白糖等二糖類が溶解性向上に寄与する。これらの中でも、最も溶解性向上に顕著に寄与するスクロースを用いることが特に好ましい。
【0042】
但し、本発明の実施において、上記の意味での「糖類」即ち、上記に例示した単糖類や二糖類とは別途に、水酸化カルシウム水溶液中に、例えば、保湿効果を付与するための「多糖類」が添加されることが排除されるわけではない。本発明の効果を阻害しない範囲で多糖類を添加するプロセスであっても当然に本発明の範囲内である。
【0043】
(アミノ酸)
第1の水溶液に更にアミノ酸を添加することによって、還元性を向上させることができる。好ましく用いることができるアミノ酸としては、システインを挙げることができる。システインは、L体、D体、DL体、或いは、システイン塩酸塩1水和物等、各種形態のものを特段の制約なく適宜選択して用いることができるが、経済性の観点から、L-システイン、或いは、L-システイン塩酸塩1水和物を用いることが好ましい。
【0044】
(その他の添加剤)
第1の水溶液には、その他、アルカリ性で安定な還元性を持つ化合物を必要に応じて適宜添加することができる。その他の添加剤として、例えば、ポリフェノール、タンニン酸、没食子酸、等を挙げることができる。
【0045】
[第2の工程]
第2の工程S2においては、アルカリ金属水酸化物を、水に溶解させて第2の水溶液(水酸化物イオン水溶液)L2を得る処理が行われる。
【0046】
第2の水溶液(水酸化物イオン水溶液)L2へのアルカリ金属水酸化物の添加量は、第1の工程で水に溶解させたカルシウム塩に対して、質量比で25質量%以上100質量%以下、より好ましくは、30質量%以上100質量%以下、最も好ましくは、60質量%以上100質量%以下とする。アルカリ金属水酸化物の添加量は、或いは、第1の水溶液L1中のカルシウムイオンに対するモル比で、水酸化物イオンが60mol%以上270mol%となるように調整してもよい。
【0047】
(アルカリ金属水酸化物)
第2の工程S2において用いる、アルカリ金属水酸化物としては、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)等を好ましく用いることができる。
【0048】
[第3の工程]
第3の工程S3において、上述の各工程で得た第1の水溶液(カルシウムイオン水溶液)L1と第2の水溶液(水酸化物イオン水溶液)L2とを混合することによって、水酸化カルシウム水溶液を得ることができる。具体的には、第1の水溶液(カルシウムイオン水溶液)L1が投入されている容器内に、第2の水溶液(水酸化物イオン水溶液)L2を、適切な添加速度で添加して混合し、水溶液内に両者を溶解させることで、水酸化カルシウム水溶液を生成することができる。
【0049】
尚、第3の工程S3において、2液を混合するための容器は樹脂製であることが好ましい。上記容器を樹脂製とすることによって、ガラス瓶を用いた場合に起こり得るガラス表面の浸食を回避する事ができる。
【0050】
[水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセット]
本発明のカルシウム水溶液の製造方法を実施するために、本発明の「水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセット」を好ましく用いることができる。この原材料組合せセットは、上記においてその詳細を説明した第1の水溶液L1と、第2の水溶液L2とを含んで構成されている2液混合型の原材料組合せセットであって、その用途を水酸化カルシウム水溶液の製造用とするものである。
【0051】
安定的に大量入手が可能な化学物質の最適な組合せであって、第1の水溶液L1と第2の水溶液L2とを含んで構成される、本発明の「水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセット」は、これを、本発明の「水酸化カルシウム水溶液の製造方法」用の材料として用いることにより、高額な設備費や製造時において設備運営費が嵩むといった経済性に係る問題を解決することができる。又、これによれば、貝殻等の天然素材を確保準備するために必要な期間や費用も不要となる。従って、本発明の「水酸化カルシウム水溶液の原材料組合せセット」を用いることによって、極めて低コストの還元性溶液を大量に製造して、市場に安価且つ爆発的に普及させることが可能となる。
【実施例0052】
以下、本発明の「水酸化カルシウム水溶液の製造方法」に係る実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(第1の工程)
本発明の水酸化カルシウム水溶液の製造方法における必須の工程である「第1の工程」を以下の通り行った。カルシウム塩として「塩化カルシウム二水和物(分子量147.01)」を用いた。糖類として「スクロース(分子量342.30)」、アミノ酸として「L-システイン塩酸塩一水和物(175.63)」を用いた。但し、実施例3においてのみ、糖類として「スクロース」に代えて「グルコース(分子量180.2)」を用いた。そして、これらを精製水に溶解させることによって、第1の水溶液を得た。各実施例及び比較例毎の精製水100ml当たりの各剤の添加量は、それぞれ下記の表1に示す通りとした。
【0054】
(第2の工程)
同じく「第2の工程」を以下の通り行った。アルカリ金属水酸化物として「水酸化カリウム(分子量56.11)」を用いた。そして、これを精製水に溶解させることによって第2の水溶液を得た。各実施例及び比較例毎の精製水100ml当たりのアルカリ金属水酸化物の添加量は、それぞれ下記の表1に示す通りとした。
【0055】
(第3の工程)
そして、上記「第1の工程」で得た第1の水溶液5000mlを入れた樹脂製の反応容器に、上記「第2の工程」で得た第2の水溶液5000mlを、30分程度の時間をかけて少量ずつ全量滴下する態様で混合することにより「第3の工程」を行った。
【0056】
(水酸化カルシウム溶液の評価)
上記「第3の工程」で得た、実施例及び比較例の水酸化カルシウム溶液の、Ca(OH)2の生成量(%)、酸化還元電位(mv)、及び、第2の水溶液の滴下時の沈殿物の発生の有無を比較評価した。
【0057】
Ca(OH)2の生成量(%)は、各剤の化学当量から算出した理論値であるが、適量のアルカリ金属水酸化物を第2の水溶液に添加した水酸化物イオンを実施例1から4においては、沈殿物の発生もなく、十分なカルシウムイオン濃度の水酸化カルシウム溶液を、速やかに生成することができた。
【0058】
酸化還元電位(mv)は、「東亜電波工業(株)製HM50V型pHメータ付属のORP同時測定装置」を使用して測定した。
【0059】
沈殿物の発生の有無は目視により評価を行った。沈殿が発生しなかった実施例3に対して、第1の水溶液に糖類の添加を行わなかった点のみが相違点である比較例1において、
水酸化カルシウム由来の白色沈殿の発生が確認された。
【0060】
(糖類の選択についての評価)
実施例3において、糖類として「スクロース」に代えて、単糖類の「グルコース」を用いたところ、第3の工程において製造される水酸化カルシウム水溶液の品質(還元力)には、有意な変化はなかったが、第1の工程における糖類の添加時に、第1の水溶液が一時的に褐色化する現象が起こった。この現象は「スクロース」を用いた場合には発生しないことが確認されている。
【0061】
【0062】
上記の各評価結果より、本発明によれば、水酸化カルシウム水溶液を、純粋な化学反応のみで進行させることができる工程によって、低コストで安定的に大量生産することが可能であることが分かる。