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特開2022-28585鉄被覆処理されたプラスチック製模型及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028585
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】鉄被覆処理されたプラスチック製模型及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A63H 17/045 20060101AFI20220208BHJP
   A63H 33/14 20060101ALI20220208BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20220208BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20220208BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20220208BHJP
   C23C 14/20 20060101ALI20220208BHJP
   C23C 16/14 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
A63H17/045
A63H33/14
C23C26/00 B
C23C28/00 A
C23C14/14 D
C23C14/20 A
C23C16/14
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179333
(22)【出願日】2020-10-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-11
(31)【優先権主張番号】P 2020131532
(32)【優先日】2020-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】597113457
【氏名又は名称】日本プレーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】及川 哲史
(72)【発明者】
【氏名】石川 祥久
【テーマコード(参考)】
2C150
4K029
4K030
4K044
【Fターム(参考)】
2C150AA05
2C150BC01
2C150CA08
2C150FB33
2C150FB43
4K029AA11
4K029AA24
4K029BA09
4K029CA01
4K029CA03
4K029CA05
4K030BA07
4K030CA07
4K030CA17
4K044AA01
4K044AA13
4K044AA16
4K044AB10
4K044BA02
4K044BA06
4K044BA10
4K044BA12
4K044BA13
4K044BA14
4K044BA18
4K044BA19
4K044BA21
4K044BB01
4K044BB03
4K044BB04
4K044BB10
4K044BB11
4K044BB16
4K044BC09
4K044CA04
4K044CA07
4K044CA13
4K044CA14
4K044CA15
4K044CA18
4K044CA67
(57)【要約】
【課題】鉄被覆処理された部品表面に現れる実際の鉄さび等によってリアルな表面状態を実現できるプラスチック製模型及びその製造方法、並びにそのプラスチック製模型用部品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基材1と、基材1上に少なくとも設けられた鉄被覆層2とを有する部品10が全部又は一部として組み立てられているプラスチック製模型20により上記課題を解決する。鉄被覆層2は、基材1上に直に設けられていてもよいし、基材1と塗装膜3との間に設けられていてもよいし、基材1上や必要に応じて設けられる塗装膜3上に最表面層として設けられていてもよい。鉄被覆層2は、純鉄被覆層又は鉄合金被覆層であり、分散材を含有していてもよい。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に少なくとも設けられた鉄被覆層とを有する部品が、全部又は一部として組み立てられている、ことを特徴とするプラスチック製模型。
【請求項2】
前記鉄被覆層は、前記基材上に直に設けられている、前記基材と塗装膜との間に設けられている、又は、前記基材上や必要に応じて設けられる塗装膜上に最表面層として設けられている、請求項1に記載のプラスチック製模型。
【請求項3】
前記鉄被覆層は、純鉄被覆層又は鉄合金被覆層である、請求項1又は2に記載のプラスチック製模型。
【請求項4】
前記鉄被覆層は、分散材を含有している、請求項1~3のいずれか1項に記載のプラスチック製模型。
【請求項5】
前記鉄被覆層は、湿式成膜方法、PVD成膜方法、又はCVD成膜方法で成膜されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のプラスチック製模型。
【請求項6】
前記鉄被覆層に錆が発生している部分と、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分とが併存している、請求項1~5のいずれか1項に記載のプラスチック製模型。
【請求項7】
前記鉄被覆層に錆が発生している部分に塗装膜が設けられている、前記鉄被覆層に錆が発生している部分に塗装膜が設けられていない、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分に塗装膜が設けられている、及び、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分に塗装膜が設けられていない、から選ばれるいずれか1又は2以上の部位を有する、請求項6に記載のプラスチック製模型。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のプラスチック製模型を製造する方法あって、準備された基材上に鉄被覆層を形成して鉄被覆層形成部品を作製する工程を少なくとも有し、前記鉄被覆層形成部品に他の処理を必要に応じて施してプラスチック製模型用部品を作製し、作製された前記プラスチック製模型用部品の全部又は一部で前記プラスチック製模型が組み立てられている、ことを特徴とするプラスチック製模型の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載のプラスチック製模型の全部又は一部の部品として用いられるものであって、基材と、該基材上に少なくとも設けられた鉄被覆層とを有する、ことを特徴とするプラスチック製模型用部品。
【請求項10】
前記鉄被覆層に錆が発生している部分に塗装膜が設けられている、前記鉄被覆層に錆が発生している部分に塗装膜が設けられていない、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分に塗装膜が設けられている、及び、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分に塗装膜が設けられていない、から選ばれるいずれか1又は2以上の部位を有し、該部位は、前記塗装膜を削って鉄被覆層を露出させる又は前記鉄被覆層にキズを付ける等の加工を行って実際のもののように錆を発生させたり錆を進行させたりして経年変化を可能とする部位である、請求項9に記載のプラスチック製模型用部品。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載のプラスチック製模型の全部又は一部の部品を製造する方法であって、準備された基材上に鉄被覆層を形成する工程を少なくとも有する、ことを特徴とするプラスチック製模型用部品の製造方法。
【請求項12】
前記鉄被覆層は、成膜時間、成膜温度、成膜組成等から選ばれる成膜条件を変化させて成膜される、請求項11に記載のプラスチック製模型用部品の製造方法。
【請求項13】
前記鉄被覆層は、下地処理した上又は下地層上に設けられている、請求項11又は12に記載のプラスチック製模型用部品の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄被覆処理された部品表面に現れる実際の鉄さび等によってリアルな表面状態を実現できるプラスチック製模型及びその製造方法、並びにそのプラスチック製模型用部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製模型は、プラモデル(登録商標)として古くから販売されている。こうしたプラスチック製模型は、代表的には、艦船、民間船、帆船等、陸上兵器(戦車、大砲、装甲車等)、航空機(戦闘機、旅客機、ヘリコプター等)、ロケット、宇宙船、探査機、車両(自動車、二輪車、トラック等)、鉄道車両、建築物(姫路城、五重塔等)、アニメーションキャラクター、ロボットキャラクター、SFメカ等々、様々なものが存在している。
【0003】
こうしたプラスチック製模型は、塗装膜等によって着色されたプラスチック部品を用いて組み立てられているが、よりリアルな色調とするための工夫がされている。従来は、例えば特許文献1には、実物に近い色をなした写実性に富んだ模型レールが提案されている。この模型レールは、金属製レールにプラスチックよりなる枕木が一体で成形されており、レールは、腐食、塗装膜、メッキ等で茶色の枕木と同色あるいは鉄錆色で着色されている。また、レールの踏面を磨くことで金属の地肌が部分的に露出しており、これによって、車輪との通電性を確保するようにしている。
【0004】
また、特許文献2には、リアリティに富んだ鉄道模型用レールが提案されている。この鉄道模型用レールは、金属製のレールの少なくとも側面に銅メッキ層を形成し、その銅メッキ層の表面に化成処理層を形成することにより、レールの外観を茶色化している。そして、化成処理にて得られる色調を、鉄道レールにおける鉄の錆びた色合いに見立て、模型的表現手法としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭49-79395号公報
【特許文献2】特開2019-25208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
軍用兵器、戦車、戦艦等のミリタリー系のプラスチック製模型の愛好者の一部は、金属素材感を出すために、塗装膜を工夫して仕上げている。こうした需要に対し、上記した従来技術のように金属素材感を出すための製品(例えば塗料や表面への付着物等)が販売されている。しかし、それらはあくまで塗装膜や化成処理等であり、現実の素材とは異なる表面状態であるため、リアリティに劣り、近距離でみると安っぽく見えてしまい、愛好者にとっては満足できるものではなかった。
【0007】
また、愛好者にとっては、赤錆の表面にすることで実際のもののようなリアリティを増したいとの要望がある。これに対し、いままでは、赤い粉を降って表面に付着させる等していた。しかし、現実の素材とは異なる表面状態であるためリアリティに劣っていた。愛好者にとっては、実際のもののように錆の進行等による経年変化を生じさせたり、意図的にキズを付けて錆を発生させたり、今までの錆を落として新しい箇所にキズを付けて新たな錆を発生させたりすることができれば、より現実のものに近づくという楽しみが増す。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、鉄被覆処理された部品表面に現れる実際の鉄さび等によってリアルな表面状態を実現できるプラスチック製模型及びその製造方法、並びにそのプラスチック製模型用部品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係るプラスチック製模型は、基材と、該基材上に少なくとも設けられた鉄被覆層とを有する部品が、全部又は一部として組み立てられている、ことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、基材上に少なくとも鉄被覆層が設けられているので、見た目や質感として現実の素材と同様の金属感や鉄素材感を持つ素材とすることができ、模型の域を超えたリアリティのある表面とすることができる。その結果、近距離でみても本物のように見え、愛好者にとって非常に満足できるものとすることができる。また、塗装膜を削って鉄被覆層を露出させたり、鉄被覆層にキズを付ける等により、実際のもののように錆を発生させたり錆を進行させたりすることができる。その結果、経年変化を生じさせたり、意図的にキズを付けて錆を発生させたりして経年変化したような状態にすることができ、それぞれの愛好者がオリジナルなものに仕上げることができる。また、今までの錆を落として新しい箇所にキズを付けて新たな錆を発生させることもでき、以前とは異なる外観に変化させることもでき、愛好者にとっては非常に楽しみが増すプラスチック製模型となる。なお、「全部又は一部」とは、鉄被覆層を設けた部品全てでプラスチック製模型を組み立ててもよいし、鉄被覆層を設けた部品を一部に用いてプラスチック製模型を組み立ててもよいことを意味である。
【0011】
本発明に係るプラスチック製模型において、前記鉄被覆層は、前記基材上に直に設けられている、前記基材と塗装膜との間に設けられている、又は、前記基材上や必要に応じて設けられる塗装膜上に最表面層として設けられている。この発明によれば、鉄被覆層が基材上に種々の態様で設けられた部品とすることができるので、各種の部品をラインナップすることができ、愛好者にとっては様々な工夫によってオリジナルなものに仕上げることができる。
【0012】
本発明に係るプラスチック製模型において、前記鉄被覆層は、純鉄被覆層又は鉄合金被覆層である。鉄合金被覆層としては、FeCr合金被覆層、FeNi合金被覆層、FeNiCr合金被覆層、FeC合金被覆層等を挙げることができる。なお、鉄被覆層には、P,N,W,Moから選ばれるいずれか1又は2以上が含まれていてもよい。
【0013】
本発明に係るプラスチック製模型において、前記鉄被覆層は、分散材を含有していてもよい。なお、分散材としては、硬質粒子、磁性粒子、着色粒子、粗面化粒子等を挙げることができる。
【0014】
本発明に係るプラスチック製模型において、前記鉄被覆層は、湿式成膜方法、PVD成膜方法、又はCVD成膜方法で成膜されている。
【0015】
本発明に係るプラスチック製模型において、前記鉄被覆層に錆が発生している部分と、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分とが併存している。この発明によれば、これら部分が併存するので、模型の部分毎に錆の状態を任意に変化させることができる。その結果、それぞれの愛好者がオリジナルなものに仕上げることができる。
【0016】
本発明に係るプラスチック製模型において、前記鉄被覆層に錆が発生している部分に塗装膜が設けられている、前記鉄被覆層に錆が発生している部分に塗装膜が設けられていない、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分に塗装膜が設けられている、及び、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分に塗装膜が設けられていない、から選ばれるいずれか1又は2以上の部位を有する。この発明によれば、種々の部分を任意に設けることができるので、模型の部分毎に錆の状態を任意に変化させることができる。さらに、錆の進行を停止させた部分や錆の進行を継続させる部分を併存させることができる。その結果、それぞれの愛好者がオリジナルなものに仕上げることができる。
【0017】
(2)本発明に係るプラスチック製模型の製造方法は、上記本発明に係るプラスチック製模型を製造する方法あって、準備された基材上に鉄被覆層を形成して鉄被覆層形成部品を作製する工程を少なくとも有し、前記鉄被覆層形成部品に他の処理を必要に応じて施してプラスチック製模型用部品を作製し、作製された前記プラスチック製模型用部品の全部又は一部で前記プラスチック製模型が組み立てられている、ことを特徴とする。
【0018】
(3)本発明に係るプラスチック製模型用部品は、上記本発明に係るプラスチック製模型の全部又は一部の部品として用いられるものであって、基材と、該基材上に少なくとも設けられた鉄被覆層とを有する、ことを特徴とする。
【0019】
本発明に係るプラスチック製模型用部品において、前記鉄被覆層に錆が発生している部分に塗装膜が設けられている、前記鉄被覆層に錆が発生している部分に塗装膜が設けられていない、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分に塗装膜が設けられている、及び、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分に塗装膜が設けられていない、から選ばれるいずれか1又は2以上の部位を有し、該部位は、前記塗装膜を削って鉄被覆層を露出させる又は前記鉄被覆層にキズを付ける等の加工を行って実際のもののように錆を発生させたり錆を進行させたりして経年変化を可能とする部位である。
【0020】
(4)本発明に係るプラスチック製模型用部品の製造方法は、上記本発明に係るプラスチック製模型用部品を製造する方法であって、準備された基材上に鉄被覆層を形成する工程を少なくとも有する。
【0021】
本発明に係るプラスチック製模型用部品の製造方法において、前記鉄被覆層は、成膜時間、成膜温度、成膜組成等から選ばれる成膜条件を変化させて成膜される。この発明によれば、鉄被覆層が成膜条件を変化させて成膜されるので、得られた鉄被覆層の色調、腐食発生の程度、腐食進行の程度、腐食生成物の色調、硬さ等を任意に変化させることができる。
【0022】
本発明に係るプラスチック製模型用部品の製造方法において、前記鉄被覆層は、下地処理した上又は下地層上に設けられていることが好ましい。この発明によれば、鉄被覆層を下地処理した上又は下地層上に設けることにより、鉄被覆層の密着性等を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、鉄被覆処理された部品表面に現れる実際の鉄さび等によってリアルな表面状態を実現できるプラスチック製模型及びその製造方法、並びにそのプラスチック製模型用部品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係るプラスチック製模型用部品の一例を示す断面構成図である。
図2】本発明に係るプラスチック製模型用部品の他の例を示す断面構成図である。
図3】本発明に係るプラスチック製模型用部品のさらに他の例を示す断面構成図である。
図4】本発明に係るプラスチック製模型の一例を示す写真である。
図5】本発明に係るプラスチック製模型の他の一例を示す写真である。
図6】(A)は、鉄被覆層上に各種の塗装膜を設けた後に、その塗装膜の一部を除去して鉄被覆層を露出させた場合の写真であり、(B)は、それぞれの塗装膜の位置と、塗装膜を除去した部分とを示す配置図である。
図7】(A)は、鉄被覆層を設けたままの表面写真であり、(B)は、鉄被覆層を設けた後に液状金属磨き剤で鉄被覆層を磨いた後の表面写真である。
図8】(A)は、基材上に銅めっき層を設けた後の表面写真であり、(B)は、基材上に銅めっき層と鉄被覆層を順次設けた後の表面写真である。
図9】プラスチック製模型において、(A)は鉄被覆層にさびが発生した後、クリア塗装をせずにそのままの状態で経過させた場合であり、(B)は鉄被覆層にさびが発生した後、クリア塗装をして経過させた場合である。
図10】鉄被覆層の第1の腐食促進試験結果である。
図11図10に示す第1の腐食促進試験結果の続きである。
図12】鉄被覆層の第2の腐食促進試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係るプラスチック製模型、プラスチック製模型用部品及びそれらの製造方法について、図面を参照して説明する。本発明は、下記の実施形態及び図面に記載した形態と同じ技術的思想の発明を含むものであり、本発明の技術的範囲は実施形態の記載や図面の記載のみに限定されるものでない。なお、以下では、本発明に係るプラスチック製模型用部品を単に「模型用部品」と略すことがある。
【0026】
[プラスチック製模型、模型用部品]
本発明に係るプラスチック製模型20は、図1図3に示すように、基材1と、基材1上に少なくとも設けられた鉄被覆層2とを有する部品10が、全部又は一部として組み立てられている、ことを特徴とする。
【0027】
こうしたプラスチック製模型20は、基材1上に少なくとも鉄被覆層2が設けられているので、見た目や質感として現実の素材と同様の金属感や鉄素材感を持つ素材とすることができ、模型の域を超えたリアリティのある表面とすることができる。その結果、近距離でみても本物のように見え、愛好者にとって非常に満足できるものとすることができる。また、塗装膜を削って鉄被覆層2を露出させたり、鉄被覆層2にキズを付ける等により、実際のもののように錆を発生させたり錆を進行させたりすることができる。その結果、経年変化を生じさせたり、意図的にキズを付けて錆を発生させたりして経年変化したような状態にすることができ、それぞれの愛好者がオリジナルなものに仕上げることができる。また、今までの錆を落として新しい箇所にキズを付けて新たな錆を発生させることもでき、以前とは異なる外観に変化させることもでき、愛好者にとっては非常に楽しみが増すプラスチック製模型20となる。
【0028】
なお、「少なくとも」とは、基材上には鉄被覆層2が必ず設けられているという意味である。「有する」とは、基材1と鉄被覆層2以外の構成が任意に設けられていてもよいことを意味する。「全部又は一部」とは、鉄被覆層2を設けた部品全てでプラスチック製模型20を組み立ててもよいし、鉄被覆層2を設けた部品10を一部に用いてプラスチック製模型20を組み立ててもよいことを意味する。
【0029】
以下、各構成要素を詳しく説明する。
【0030】
(基材)
基材1は、図1等に示すように、模型用部品10を構成し、鉄被覆層2が設けられる土台となるものである。基材1の材質は従来用いられている材質であれば特に限定されないが、一般的には、プラスチック基材(樹脂基材とも言う。)を挙げることができる。プラスチック基材としては、例えば、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、塩化ビニル、アクリル樹脂等を挙げることができる。なお、プラスチック基材以外でもよく、例えば、金属製(アルミニウム、モリブデン、ステンレススチール、銅等)の基材であってもよいし、セラミックス製(ジルコニア、アルミナ等)の基材であってもよいし、それ以外の素材からなる基材であってもよい。
【0031】
基材1の形状は、プラスチック製模型20のどの部分を構成する部品であるかにより決まる。そうした形状は、一般的なプラスチック基材の場合は各種の成形方法で形成することができる。
【0032】
(鉄被覆層)
鉄被覆層2は、図1図3に示すように、模型用部品10を構成し、基材1上に設けられている。鉄被覆層2は、他の層を介さないで基材1上に直に設けられていてもよいし(図1参照)、基材1と塗装膜3との間に設けられていてもよいし(図2(A)参照)、基材1上に必要に応じて設けられる他の層4の上に最表面層として設けられていてもよいし(図2(B)参照)、基材1上に必要に応じて設けられる他の層4と塗装膜3との間に設けられていてもよい(図2(C)参照)。なお、図2(A)~(C)は、鉄被覆層2等の膜が基材1の片面に設けられる断面形態を示しているが、基材1の両面に対称に設けられていてもよい。各層を両面に対称に設けることは、マスキングが不要となるので生産性に優れるという利点がある。
【0033】
図3はさらに他の例を示す断面図である。図3(A)は、基材1の両面に鉄被覆層2を直に設けた断面形態である。こうすることにより、基材の両面に同時に鉄被覆層2を設けることができる。図3(B)は、基材1の一方の面に鉄被覆層2を直に設け、他方の面にも鉄被覆層2を直に設け且つその上にさらに塗装膜3を設けた断面形態である。こうすることにより、一方の側の最表面の鉄被覆層2で鉄さびを発生させ、塗装膜3が設けられた他方の側の鉄被覆層2はキズを意図的に付けない限り鉄さびの発生を防いで鉄表面のまま維持することができる。図3(C)は、基材1の一方の面に鉄被覆層2を直に設け、他方の面に他の層4を直に設けた断面形態である。こうすることにより、他方の面に設けられたその他の層4を例えば銅層やニッケル層とすることにより他の金属色調の表面とすることができる。図2図3等に代表される形態にすることにより、鉄被覆層2が基材1上に種々の態様で設けられた部品を提供することができる。その結果、各種の模型用部品10をラインナップすることができ、愛好者にとっては様々な工夫によってオリジナルなプラスチック製模型20に仕上げることができる。
【0034】
鉄被覆層2は、詳しくは、純鉄被覆層又は鉄合金被覆層である。純鉄被覆層とは、文字どおり鉄の純度が高い成分組成(99.9%以上)からなるものであり、鉄合金被覆層とは、他の元素と合金化したものである。他の元素とは、Cr、Ni,C、Si等を挙げることができ、鉄合金被覆層は、これらを1又は2以上含有したもの、例えば、FeCr合金被覆層、FeNi合金被覆層、FeNiCr合金被覆層、FeC合金被覆層、FeSi合金被覆層等を挙げることができる。Cr,Ni、C、Si等の含有量は特に限定されず、その含有量に応じた被膜性能を目的として任意の量を含有させることができる。
【0035】
鉄被覆層2には、配合目的に応じたP,N,W,Moから選ばれるいずれか1又は2以上が含まれていてもよい。これらP,N,W,Mo等は、上記した合金元素に加えてさらに必要に応じて含まれていてもよい。これら元素は、Feと合金化したり複合化したり種々の形態で鉄被覆層2に含まれる。元素の含有量は特に限定されず、その含有量に応じた被膜性能を目的として任意の量を含有させることができる。
【0036】
鉄被覆層2には、分散材が含まれていてもよい。分散材は特に限定されないが、硬質粒子、磁性粒子、着色粒子、粗面化粒子等を挙げることができる。硬質粒子は、鉄被覆層2を硬くしたり強化したりする目的で用いられ、例えばダイヤモンドやcBN等を挙げることができる。磁性粒子は、鉄被覆層2にさらに磁気的特性を付与する目的で用いられ、例えばFe-Si系合金、Fe-Ni系合金、Fe-Co系合金等の軟質磁性材料の粉末や、フェライト粉末等を挙げることができる。着色粒子は、鉄被覆層2の色調を変えることを目的で用いられ、例えば酸化鉄(III)粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子等の無機粒子や、着色剤で着色されたプラスチック粒子等を挙げることができる。粗面化粒子は、鉄被覆層2の表面を粗面化してマット感を出すことを目的で用いられ、例えば上記した各粒子を粗面化粒子として用いることができる。なお、分散材の含有量は特に限定されず、その含有量に応じた被膜性能を目的として任意の量を含有させることができる。分散材を含有させるにあたり、その粒径も任意に選択され、目的に応じた粒径の分散材を含有させることになる。
【0037】
(鉄被覆層の成膜)
鉄被覆層2は、湿式成膜方法、PVD成膜方法、又はCVD成膜方法で成膜される。湿式成膜方法は、電気めっき又は無電解めっき等のことであり、PVD成膜方法は、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等のことであり、CVD成膜は、化学気相成長のことである。鉄被覆層2は、これら各成膜方法それぞれの特徴を踏まえていずれか方法で成膜される。成膜に当たっては、成膜時間、成膜温度、成膜組成等から選ばれる成膜条件を変化させて成膜することにより、得られる鉄被覆層2の性質を所望の性質にコントロールすることができる。
【0038】
鉄被覆層2を電気めっきによって成膜する例を説明する。電気めっきで成膜する場合は、基材1や基材1上に設けられる他の層が導電性である必要があり、したがって導電性の基材1(金属製の基材)や導電性の下地膜が予め設けられている必要がある。使用される鉄めっき液は、硫酸鉄めっき液、塩化鉄めっき液、硫酸鉄と塩化鉄とを含む鉄めっき液、スルファミン酸鉄めっき液等を挙げることができる。また、必要に応じて、各種の支持電解質や添加剤(レベリング剤、分散剤、応力緩和剤、界面活性剤等)を含有させることができる。めっき条件は、電流密度、温度、pH等を挙げることができ、これらの条件を任意に設定することができる。また、めっき手段は、直流めっきであってもよいし、パルスめっきであってもよい。鉄めっき層の厚さは、特に限定されず、電流密度や電解時間等によって任意に設定され、通常は、5~20μm程度であることが好ましい。なお、鉄めっき層に炭素を含有させることもでき、この場合には、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、アスコルビン酸等のカルボン酸及びその塩を少なくとも1種又は2種以上含んでいることが好ましい。鉄めっき層の最表面に酸化物層であるFe(マグネタイト)を形成することもできる。こうした酸化物層が設けられていることにより、凝着抑制効果、硬質化、耐摩耗性向上、砥石保持力向上等の性能が良くなるという利点がある。この酸化物層は必須ではないので、設けられていなくてもよい。酸化物層は、鉄めっき層の陽極電解、熱処理、黒染加工処理という手段によって設けられる。なお、無電解めっきで鉄被覆層2を形成するのはあまり一般的ではないが、上記した電解めっきと同様に適用してもよい。
【0039】
次に、鉄被覆層2をPVD法で成膜する例を説明する。PVD法には、代表的には、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等があり、それぞれの成膜方法に応じた公知の手段で成膜することができる。なお、これらの方法は、湿式成膜と異なる様々な組成や被膜特性を付与できるが、生産性は湿式成膜の方が高いため、総合的に勘案して採用されることが望ましい。
【0040】
なお、鉄被覆層2において、合金元素の含有量、他の元素の含有量、分散材の含有量等は、どの成膜手段で成膜するか、成膜時に元素や分散材をどの程度供給するか、どのような成膜条件で成膜するかによってコントロールすることができる。
【0041】
(塗装膜)
塗装膜3は、必要に応じて任意に設けられる。塗装膜3は、図2及び図3に例示するように、模型用部品10の表裏両面の全面又は一部に設けられていてもよいし、片面の全面又は一部に設けられていてもよい。塗装膜3は、鉄被覆層2の上に設けられていてもよいし、基材1と鉄被覆層2との間に設けられていてもよい。なお、塗装膜3の上に鉄被覆層2が設けられる場合は、その塗装膜3に鉄被覆層2が成膜しやすいように、成膜手段に応じた前処理を適宜行うことが好ましい。
【0042】
塗装膜3は、一般的に使用されているラッカー系塗料、水性アクリル塗料、エナメル塗料を挙げることができる。これら塗料には、添加剤、着色剤等が任意に配合されている。粘度調整は、塗料に応じた希釈溶媒を配合して行うこともできる。
【0043】
「他の層4」は、下地処理層又は下地層であってもよいし、他の金属層であってもよい。下地処理層は、基材1の材質に応じてその表面を特定の目的をもって処理した後の表面のことであり、例えば、平滑化処理、粗面化処理、化成処理、含浸処理、酸化処理、窒化処理等を挙げることができる。下地層は、基材1の表面に特定の目的をもって設けた他の層のことであり、例えば、電気めっきや無電解めっき等の湿式めっき、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等のPVD、CVD等を挙げることができる。具体的には、ニッケルや銅等の下地めっきや、アルミニウム等の金属蒸着層等を挙げることができる。こうした下地処理層又は下地層は、鉄被覆層2に光沢や非光沢(マット)を付与することを目的として設けられたり、鉄被覆層2の密着性を向上させるために設けられたり、鉄被覆層2を成膜した後の応力緩和のために設けられたりする、これらの代表例に限定されない。
【0044】
他の層4は金属層であってもよい。この場合の金属層は、下地層の目的としてではなく、鉄被覆層2とは異なる色調を呈するCu、Ni、Cr又はそれらの合金からなる金属層を挙げることができる。
【0045】
プラスチック製模型20は多くの模型用部品10で構成されている。本発明の模型用部品10は、例えば図1図3に示すいずれか1又は2以上の部品であればよく、全て同じ種類の模型用部品10であってもよいし、プラスチック製模型20の部位に応じた様々な種類の模型用部品10であってもよい。様々な部品でプラスチック製模型20が形成されることにより、本発明に係る模型用部品10を適用した部位では鉄さび等によってリアルな表面状態を実現でき、特にそうした表面状態が必要ない部位には一般的なプラスチック製部品をそのまま適用すればよい。
【0046】
(種々の状態の併存)
本発明に係るプラスチック製模型20では、種々の状態を併存させたものとすることができる。具体的には、後述の実験例に示すように、鉄被覆層2に錆が発生している部分と、鉄被覆層2に錆が発生していない部分とを併存させるようにしてもよい。こうした異なる部分を併存させることにより、プラスチック製模型20の部分毎に錆の状態を任意に変化させることができる。その結果、それぞれの愛好者がオリジナルなものに仕上げることができる。
【0047】
また、鉄被覆層2に錆が発生している部分に塗装膜3が設けられている箇所、鉄被覆層2に錆が発生している部分に塗装膜3が設けられていない箇所、鉄被覆層2に錆が発生していない部分に塗装膜3が設けられている箇所、及び、鉄被覆層2に錆が発生していない部分に塗装膜3が設けられていない箇所、から選ばれるいずれか1又は2以上の部位を有するようにしてもよい。このように種々の部分を任意に設けることにより、プラスチック製模型20の部分毎に錆の状態を任意に変化させることができる。さらに、錆の進行を停止させた部分や錆の進行を継続させる部分を併存させることができる。その結果、それぞれの愛好者がオリジナルなものに仕上げることができる。
【0048】
(製造方法)
本発明に係るプラスチック製模型20の製造方法は、準備された基材1上に鉄被覆層2を形成して鉄被覆層形成部品を作製する工程を少なくとも有し、その鉄被覆層形成部品に他の処理を必要に応じて施してプラスチック製模型用部品10を作製し、作製されたプラスチック製模型用部品10の全部又は一部でプラスチック製模型20が組み立てられることに特徴がある。
【0049】
プラスチック製模型用部品10は、プラスチック製模型20の全部又は一部の部品として用いられるものであって、既に説明したように、基材1と、基材1上に少なくとも設けられた鉄被覆層2とを有する。このプラスチック製模型用部品10は、準備された基材1上に鉄被覆層2を形成する工程を少なくとも有している。鉄被覆層2は、上記「鉄被覆層」の説明欄で詳しく説明したように、成膜時間、成膜温度、成膜組成等から選ばれる成膜条件を変化させて成膜され、色調、腐食発生の程度、腐食進行の程度、腐食生成物の色調、硬さ等を任意に変化させることができる。
【0050】
(模型型の外観)
プラスチック製模型20は、鉄被覆層2が表面、又は塗装膜3の下に設けられている。鉄被覆層2が表面に設けられている場合は、金属調の塗装膜とは異なり、見た目や質感として現実の素材と同様の金属感や鉄素材感を有し、模型の域を超えたリアリティのある表面とすることができる。また、鉄被覆層2が外表面に露出しているので、自然腐食を発生させることができる。また、塩水を滴下したり酸化環境に置いたりすることで、鉄被覆層2の腐食を進行させることができる。また、進行した腐食に対しては、クリア塗装をすることで、腐食の進行を停止又は抑制することも可能である。さらに、意図的にキズを付けることで、例えば戦車等の模型にキズを形成し、そのキズの部分を腐食させることで、現実のもののようなリアリティを出すことができ、愛好者のオリジナリティーを出すことができる。また、鉄被覆層2の組成を任意に変化させた模型用部品10をラインナップすることにより、赤錆だけに限らない外表面とすることも可能である。
【0051】
また、鉄被覆層2の表面を研磨して鏡面仕上げとしてもよい。研磨仕上げの程度も特に限定されず、任意の研磨表面に仕上げることができる。なお、研磨は、他の層4として金属層を設けた場合にも適用できる。
【0052】
なお、鉄被覆層2が塗装膜に下に設けられている場合は、そのままでは鉄被覆層2は変化しないが、塗装膜3を一部削ったり、塗装膜3にキズをつけたりすることにより、鉄被覆層2腐食を生じさせることができる。また、鉄被覆層2をある程度厚く形成しておくことで、錆を生じさせた箇所を削って元通りにし、再度腐食させて前回とは異なる状態にすることもできる。
【0053】
本発明は、近距離でみても本物のように見え、愛好者にとって非常に満足できるものとすることができる。本発明に係るプラスチック製模型用部品10は、通常は、プラスチック製模型20を作製するための他の模型用部品(鉄被覆層2を有しないプラスチック製部品)とともに「プラスチック製模型セット」として商品として販売されるであろうが、鉄被覆層2を有する模型用部品10としてばら売りされる商品であってもよい。
【実施例0054】
以下、実験により本発明をさらに詳しく説明する。本発明は以下の実験で得られた内容に限定されるものではない。
【0055】
[試料1]
基材1として、脱脂処理したポリスチレン樹脂からなるプラスチック製模型用部品を用いた。めっき液として純鉄めっき膜形成用の一般的な硫酸鉄めっき液(硫酸第一鉄、クエン酸一水和物を含む)を用い、厚さ約10μmの鉄被覆層2を基材1上に形成した(図1参照)。
【0056】
[試料2]
基材1として、脱脂処理したポリスチレン樹脂からなるプラスチック製模型用部品を用いた。めっき液としてFeC合金めっき膜形成用の硫酸鉄めっき液(硫酸第一鉄、クエン酸一水和物、L-アスコルビン酸を含む)を用い、炭素を約1質量%含有する厚さ約5μmのFeC合金被覆層2を基材1上に形成した。
【0057】
[試料3]
基材1として、脱脂処理したポリスチレン樹脂からなるプラスチック製模型用部品を用いた。めっき液としてFeC合金めっき膜形成用の硫酸鉄-塩化鉄めっき液(硫酸第一鉄、クエン酸一水和物、L-アスコルビン酸を含む)を用い、炭素を約0.1質量%含有する厚さ約10μmのFeC合金被覆層2を基材1上に形成した。
【0058】
[試料4]
基材1として、脱脂処理したポリスチレン樹脂からなるプラスチック製模型用部品を用いた。めっき液としてFeC合金めっき膜形成用の硫酸鉄-塩化鉄めっき液(硫酸第一鉄、塩化鉄、クエン酸一水和物、L-アスコルビン酸を含む)に工業用ダイヤモンドを分散剤として含有させた分散めっき液を用い、ダイヤモンドの体積比率が12.5%で炭素の含有量が約1質量%含有する厚さ約5μmのFeC合金被覆層2を基材1上に形成した。
【0059】
[試料5~8]
試料5は、試料1の鉄被覆層2の上に水性アクリル塗料で塗装膜3を設けた(図2(A)参照)。試料6は、試料1の鉄被覆層2を設けた側の反対側の基材面に鉄被覆層2を設けた(図3(A)参照)。試料7は、試料1の鉄被覆層2を設けた側の反対側の基材面に鉄被覆層2を設け、さらにその上に水性アクリル塗料で塗装膜3を設けた(図3(B)参照)。試料8は、試料1の鉄被覆層2を設けた側の反対側の基材面に銅めっき層を他の層4として設けた(図3(C)参照)。
【0060】
[実験例1]
試料1の模型用部品10を用い、戦車模型であるプラスチック製模型20を作製した。その写真を図4に示した。図4に示すプラスチック製模型20は、模型用部品10を作製した後の自然腐食により全体的にうっすらと鉄さびが形成され、実際の鉄さびによってリアルな表面状態を実現できる。
【0061】
[実験例2]
試料1の模型用部品10を用い、戦車模型であるプラスチック製模型20を作製した。その写真を図5に示した。なお、図5(A)に示すプラスチック製模型20は、作製直後に食塩水を部分的に滴下して意図的に鉄さびを生じさせた形態である。図5(B)に示すプラスチック製模型20は、作製して6ヶ月経過した後の形態であり、図5(C)はその拡大図である。
【0062】
[実験例3]
鉄被覆層上に各種の塗装膜を設けた後に、その塗装膜の一部を除去して鉄被覆層を露出させた試験を行った。図6は、鉄被覆層2上に各種の塗装膜3を設けた後に、その塗装膜3の一部を除去して鉄被覆層2を露出させた場合の写真(A)と、それぞれの塗装膜の位置と塗装膜を除去した部分とを示す配置図(B)である。用いた試料は、厚さ1mmの透明ポリスチレン板を基材とし、その上に無電解銅めっき(ロッシェル塩浴)を設け、その上に試料2と同じFeC合金被覆層を設け、その上に各種の塗装膜を設けたものである。
【0063】
図6(B)において、番号1は、武蔵ホルト株式会社のZGFミルクティベージュMS-41を用いたミルクティベージュ色のスプレー塗装膜である。番号2は、ニッペホームプロダクツ株式会社の透明クリアを用いた透明クリア色のスプレー塗装膜である。番号3は、武蔵ホルト株式会社のZGFミルクティベージュMS-41を用いたミルクティベージュ色の刷毛塗り塗装膜である。番号4は、株式会社GSIクレオスのH-76焼鉄色を用いた焼鉄色のスプレー塗装膜である。番号5は、塗装膜を設けない鉄被覆層のままである。番号6は、株式会社GSIクレオスのH-48オリーブグレー(フィールドグレー2)を用いたオリーブグレー色のスプレー塗装膜である。番号7は、株式会社GSIクレオスの39ダークイエローを用いたダークイエロー色のスプレー塗装膜である。なお、「○」部分は、塗装膜を設けた後に溶剤(アセトン)で塗装膜を除去した部分を示しており、「□」部分は、塗装膜を設けた後に研磨(耐水研磨紙、#320)で塗装膜を除去した部分を示しており、「△」部分は、塗装膜を設けていないポリスチレン基材を示している。
【0064】
図6に示すように、各種の色の塗装膜を設けることができるとともに、ぞれぞれの塗装膜を溶剤又は研磨で除去して鉄被覆層を部分的の露出させることができる。その結果、種々の部分を任意に設けることが可能となり、特に鉄被覆層を露出させた部分は、腐食を発生させたり、さらに進行させたりすることも可能となる。
【0065】
[実験例4]
鉄被覆層を設けた後に、その鉄被覆層の表面を磨いた。図7(A)は、鉄被覆層を設けたままの表面写真であり、図7(B)は、鉄被覆層を設けた後に液状金属磨き剤で鉄被覆層を磨いた後の表面写真である。用いた試料は、厚さ1mmの透明ポリスチレン板を基材とし、その上に無電解銅めっき(ロッシェル塩浴)を設け、その上に試料2と同じFeC合金被覆層を設けたものである。磨きは、日本磨料工業株式会社の液状金属みがき剤(研磨剤20%アルミナ系鉱物)を用いてウエスで磨いた。
【0066】
磨き後の鉄被覆層の表面は、光沢になった。こうした磨きにより、種々の表面状態を形成でき、その表面に腐食を発生させたり、さらに進行させたりすることが可能となる。
【0067】
[実験例5]
図8(A)は、基材上に銅めっき層を設けた後の表面写真であり、図8(B)は、基材上に銅めっき層と鉄被覆層を順次設けた後の表面写真である。用いた試料は、厚さ1mmの透明ポリスチレン板を基材とし、その上に無電解銅めっき(ロッシェル塩浴)を設け、その上に試料2と同じFeC合金被覆層を設けたものである
【0068】
図8に示すように、非導電性の基材上に鉄被覆層を設ける場合には、基材上の全面又は所定領域をマスキング等した後に無電解めっきで銅めっき層を設けることで、鉄被覆層も全面又は所定領域(銅めっき層が設けられた領域)に設けることができる。
【0069】
[実験例6]
図9(A)は、鉄被覆層にさびが発生した後、クリア塗装をせずにそのままの状態で経過させた場合であり、図9(B)は、鉄被覆層にさびが発生した後、クリア塗装をして経過させた場合である。用いた試料は、厚さ1mmの透明ポリスチレン板を基材とし、その上に無電解銅めっき(ロッシェル塩浴)を設け、その上に試料2と同じFeC合金被覆層を設けたものである。
【0070】
図9に示すように、好みの錆具合でクリア塗装することにより、それ以上の錆の浸食を抑制することができる。なお、クリア塗装をするとわずかに光沢が出ていた。
【0071】
[実験例7]
第1の腐食促進試験を行った。用いた試料は、厚さ1mmの透明ポリスチレン板を基材とし、その上に無電解銅めっき(ロッシェル塩浴)を設け、その上に試料2と同じFeC合金被覆層を設けたものである。試験は、室温25~30℃ 湿度50~60%の環境で行った。
【0072】
図10(A)は、自然腐食、イオン交換水滴下及び5wt%食塩水滴下を行う前の各試験試料の表面写真であり、図10(B)は、自然腐食、イオン交換水滴下及び5wt%食塩水滴下を行った後の各試験試料の表面写真であり、図10(C)は、滴下後1時間経過させた後に滴下した液体を除去し、そのときの各試験試料の表面写真である。また、図11は、図10に示す第1の腐食促進試験結果の続きであり、1段目は、自然腐食、イオン交換水滴下及び5wt%食塩水滴下を行う前の各試験試料の表面写真(図10(A)と同じ)であり、2段目は、自然腐食、イオン交換水滴下及び5wt%食塩水滴下を行った後1時間経過させ、その後に水洗及び乾燥した各試験試料の表面写真(図10(C)と同じ)であり、3段目は、その後さらに5日間経過した後の各試験試料の各表面写真であり、4段目は、その後さらに5日間(計10日間)経過した後の各試験試料の各表面写真である。
【0073】
図10及び図11に示す結果より、食塩水を滴下した場合は、試験開始時(5wt%食塩水滴下を行った後1時間経過させ、その後に水洗及び乾燥したもの)から黒色に変色するのが確認され、5日後、10日後と徐々に変化していた。一方、イオン交換水では、一部茶色に変色したものの。時系列では大きな変化はなかった。
【0074】
[実験例8]
第2の腐食促進試験を行った。この試験は、上記した第1の腐食促進試験において、食塩水を滴下した後に水洗を行うと経時的に大きな変化が出なかったため、食塩水を滴下した後にふき取りのみを実施した試験である。用いた試料は、厚さ1mmの透明ポリスチレン板を基材とし、その上に無電解銅めっき(ロッシェル塩浴)を設け、その上に試料2と同じFeC合金被覆層を設けたものである。試験は、室温25~30℃ 湿度50~60%の環境で行った。
【0075】
図12は、鉄被覆層の第2の腐食促進試験結果であり、図中の番号1は、鉄被覆層を設けた後の試験試料の表面写真であり、番号2は、5wt%食塩水を滴下した時の試験試料の表面写真であり、番号3は、滴下した食塩水を拭き取った後(水洗と乾燥しない)の試験試料の表面写真であり、番号4は、その後さらに10日間経過した後の試験試料の表面写真である。
【0076】
図12に示すように、10日間の経過で大きな赤さびが発生していることが確認でき、さびの経時変化の程度を変えることができることがわかった。
【0077】
[まとめ]
上記実験例3~8に示すように、本発明に係るプラスチック製模型20では、種々の状態を変化させることができ、変化した状態を併存させたものとすることができることがわかった。具体的には、鉄被覆層2に錆が発生している部分と、鉄被覆層2に錆が発生していない部分とを併存させたりして、異なる部分を併存させることによりプラスチック製模型20の部分毎に錆の状態を任意に変化させることができることがわかった。
【0078】
さらにこれらの実験例により、鉄被覆層2に錆が発生している部分に塗装膜3が設けられている箇所、鉄被覆層2に錆が発生している部分に塗装膜3が設けられていない箇所、鉄被覆層2に錆が発生していない部分に塗装膜3が設けられている箇所、及び、鉄被覆層2に錆が発生していない部分に塗装膜3が設けられていない箇所、を任意に形成することが可能になることを示すことができた。このように種々の部分を任意に設けることが可能になることによって、プラスチック製模型20の部分毎に錆の状態を任意に変化させることができるとともに、錆の進行を停止させた部分や錆の進行を程度を変えて継続させる部分を併存させることができる。その結果、それぞれの愛好者がオリジナルなものに仕上げることができる。
【符号の説明】
【0079】
1 基材
2 鉄被覆層
3 塗装膜
4 他の層(下地層又は下地処理層)
10 模型用部品
20 プラスチック製模型
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2021-03-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に少なくとも設けられた鉄被覆層とを有する部品が、全部又は一部として組み立てられているプラスチック製模型であって
前記プラスチック製模型は、前記鉄被覆層に錆が発生している部分に塗装膜が設けられている、前記鉄被覆層に錆が発生している部分に塗装膜が設けられていない、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分に塗装膜が設けられている、及び、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分に塗装膜が設けられていない、から選ばれるいずれか1又は2以上の部位を有する、ことを特徴とするプラスチック製模型。
【請求項2】
前記鉄被覆層前記基材上に直に設けられている、前記鉄被覆層が前記基材と前記塗装膜との間に設けられている、前記鉄被覆層が前記基材上必要に応じて設けられる他の層の上に最表面層として設けられている、前記鉄被覆層が前記基材上に必要に応じて設けられる他の層と前記塗装膜との間に設けられている、又は、前記基材と前記鉄被覆層との間に前記塗装膜が設けられている、請求項1に記載のプラスチック製模型。
【請求項3】
前記鉄被覆層は、純鉄被覆層又は鉄合金被覆層である、請求項1又は2に記載のプラスチック製模型。
【請求項4】
前記鉄被覆層は、分散材を含有している、請求項1~3のいずれか1項に記載のプラスチック製模型。
【請求項5】
前記鉄被覆層は、湿式成膜方法、PVD成膜方法、又はCVD成膜方法で成膜されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のプラスチック製模型。
【請求項6】
前記鉄被覆層に錆が発生している部分と、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分とが併存している、請求項1~5のいずれか1項に記載のプラスチック製模型。
【請求項7】
前記他の層は、下地処理層、下地層又は金属層である、請求項2~6のいずれか1項に記載のプラスチック製模型。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のプラスチック製模型の全部又は一部の部品として用いられるプラスチック製模型用部品であって、基材と、該基材上に少なくとも設けられた鉄被覆層とを有し、前記プラスチック製模型用部品は、前記鉄被覆層に錆が発生している部分に塗装膜が設けられている、前記鉄被覆層に錆が発生している部分に塗装膜が設けられていない、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分に塗装膜が設けられている、及び、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分に塗装膜が設けられていない、から選ばれるいずれか1又は2以上の部位を有する、ことを特徴とするプラスチック製模型用部品。
【請求項9】
前記部位は、前記鉄被覆層が表面に露出している場合には該鉄被覆層に自然腐食を発生させ又は酸化環境に置いて錆を進行させ、前記鉄被覆層上に前記塗装膜が設けられている場合は前記塗装膜を削って前記鉄被覆層を露出させる加工又は前記鉄被覆層にキズを付ける加工を行って実際のもののように錆を発生させたり錆を進行させたりして経年変化を可能とする部位である、請求項8に記載のプラスチック製模型用部品。
【手続補正書】
【提出日】2021-05-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に少なくとも設けられた鉄被覆層とを有する部品が、全部又は一部として組み立てられているプラスチック製模型であって、
前記プラスチック製模型は、前記鉄被覆層に錆が発生している部分に塗装膜が設けられている、前記鉄被覆層に錆が発生している部分に塗装膜が設けられていない、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分に塗装膜が設けられている、及び、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分に塗装膜が設けられていない、から選ばれるいずれか1又は2以上の部位を有する、ことを特徴とするプラスチック製模型。
【請求項2】
前記鉄被覆層が前記基材上に直に設けられている、前記鉄被覆層が前記基材と前記塗装膜との間に設けられている、前記鉄被覆層が前記基材上に必要に応じて設けられる他の層の上に最表面層として設けられている、前記鉄被覆層が前記基材上に必要に応じて設けられる他の層と前記塗装膜との間に設けられている、又は、前記基材と前記鉄被覆層との間に前記塗装膜が設けられている、請求項1に記載のプラスチック製模型。
【請求項3】
前記鉄被覆層は、純鉄被覆層又は鉄合金被覆層である、請求項1又は2に記載のプラスチック製模型。
【請求項4】
前記鉄被覆層は、分散材を含有している、請求項1~3のいずれか1項に記載のプラスチック製模型。
【請求項5】
前記鉄被覆層は、湿式成膜方法、PVD成膜方法、又はCVD成膜方法で成膜されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のプラスチック製模型。
【請求項6】
前記鉄被覆層に錆が発生している部分と、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分とが併存している、請求項1~5のいずれか1項に記載のプラスチック製模型。
【請求項7】
前記他の層は、下地処理層、下地層又は金属層である、請求項に記載のプラスチック製模型。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のプラスチック製模型の全部又は一部の部品として用いられるプラスチック製模型用部品であって、基材と、該基材上に少なくとも設けられた鉄被覆層とを有し、前記プラスチック製模型用部品は、前記鉄被覆層に錆が発生している部分に塗装膜が設けられている、前記鉄被覆層に錆が発生している部分に塗装膜が設けられていない、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分に塗装膜が設けられている、及び、前記鉄被覆層に錆が発生していない部分に塗装膜が設けられていない、から選ばれるいずれか1又は2以上の部位を有する、ことを特徴とするプラスチック製模型用部品。
【請求項9】
前記部位は、前記鉄被覆層が表面に露出している場合には該鉄被覆層に自然腐食を発生させ又は酸化環境に置いて錆を進行させ、前記鉄被覆層上に前記塗装膜が設けられている場合は前記塗装膜を削って前記鉄被覆層を露出させる加工又は前記塗装膜にキズを付ける加工を行って実際のもののように錆を発生させたり錆を進行させたりして経年変化を可能とする部位である、請求項8に記載のプラスチック製模型用部品。