(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028630
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法およびその利用
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20220208BHJP
C09K 11/67 20060101ALI20220208BHJP
B82Y 20/00 20110101ALI20220208BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220208BHJP
H05B 33/14 20060101ALI20220208BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C09K11/08 A
C09K11/67
C09K11/08 G
C09K11/08 E
B82Y20/00
B82Y40/00
H05B33/14 Z
H05B33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124602
(22)【出願日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2020131720
(32)【優先日】2020-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】大洞 康嗣
(72)【発明者】
【氏名】稲田 貢
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 駿佑
(72)【発明者】
【氏名】井口 穂南
【テーマコード(参考)】
3K107
4H001
【Fターム(参考)】
3K107AA05
3K107CC45
3K107DD53
3K107DD54
3K107DD56
3K107DD57
3K107DD64
3K107FF06
3K107FF13
3K107FF14
3K107FF15
3K107GG26
3K107GG28
4H001CA02
4H001CC13
4H001XA08
4H001XA41
(57)【要約】
【課題】ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法およびその利用技術を提供する。
【解決手段】以下の工程(A)~(C):
(A)ニオブ錯体を還元剤に溶解させ、前駆体溶液を製造する工程と、
(B)前記前駆体溶液に、ハロゲンを有する添加剤を加える工程と、
(C)前記添加剤を加えた前駆体溶液を140℃以上で加熱する工程と、を含む、ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(A)~(C):
(A)ニオブ錯体を溶媒としての還元剤に溶解させ、前駆体溶液を製造する工程と、
(B)前記前駆体溶液に、ハロゲンを有する添加剤を加える工程と、
(C)前記添加剤を加えた前駆体溶液を140℃以上で加熱する工程と、を含む、ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ニオブ錯体が、シュウ酸ニオブ、酢酸ニオブ、アセチルアセトナートニオブ、五塩化ニオブ、五臭化ニオブ、ニオブペンタエトキシドおよびこれらの塩からなる群から選択される1種類以上の錯体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
還元剤がN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、およびN-ビニルホルムアミドからなる群から選択される1種類以上である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記前駆体溶液中のニオブ錯体の濃度が0.01M以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記添加剤がトリメチルシリルクロライド、塩酸、およびジメチルジクロロシランからなる群から選択される1種類以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程(B)において、前記前駆体溶液中のニオブと、前記添加剤が有するハロゲンとのモル比が1:1を超え、1:10以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
赤外分光分析によって、1600~1750cm-1にC=O伸縮振動を示すピークが検出され、エネルギー分散型X線分析によってハロゲン原子が確認され、かつ動的光散乱法によって測定した平均粒子径が10nm未満であるニオブ酸化物ナノ粒子。
【請求項8】
前記ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素であることを特徴とする請求項7に記載のニオブ酸化物ナノ粒子。
【請求項9】
ニオブ分子が還元剤として用いられている分子によって保護されている、請求項7または8に記載のニオブ酸化物ナノ粒子。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載のニオブ酸化物ナノ粒子を含有する発光材料。
【請求項11】
前記発光材料はEL発光材料である、請求項10に記載の発光材料。
【請求項12】
請求項10または11に記載の発光材料を含有する発光素子。
【請求項13】
前記発光素子はEL発光素子である、請求項12に記載の発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、量子ドット等のナノ粒子が発光材料へと応用されたことにより、今までにない新しい発光材料(例えば、蛍光体、エレクトロルミネセンス(EL材)、半導体レーザ)の創出が期待されている。
【0003】
粒子径が1~10nmであり、かつ、10~50個程度のナノ粒子で構成されるナノスケールでは、ナノ粒子の結晶サイズによってバンドギャップの調整が可能となるため、材料および組成だけでなく、粒子径に依存した特徴的な発光特性を得ることができる。
【0004】
すなわち、上記ナノ粒子は、通常のバルク状態での固有の結晶構造に基づいたバンド構造とは異なる電子状態を示し、三次元で離散化された状態で電子(励起子)が閉じ込められた状態、すなわち量子ドットとなる。
【0005】
過去に開発された量子ドットコアの素材としては、有毒物質であるカドミウム金属を含む化合物等が用いられているため、デバイスを量産民生機器へ応用する観点から、有害金属を含まない無毒な量子ドットまたはナノ粒子の開発が望まれていた。
【0006】
前記毒性が低くかつ入手容易なナノ粒子の原料としては、ニオブが主に用いられている。例えば、非特許文献1には、カーボンナノチューブとすることによって、五酸化ニオブが電気化学特性を有するようになることが開示されている。
【0007】
また、非特許文献2には、ニオブエトキシドをエチレングリコール中で凝集させることによってナノ粒子を合成する方法が開示されている。さらに、非特許文献3には、五塩化ニオブをエタノールに溶解させ、緩やかに中和し、時間をかけて凝集させることによってナノ粒子を合成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Vicentini, R.; Nunes, W.; Freitas, B. G. A.; Silva, L. M. D.; Soares, D. M.; Cesar, R.; Rodella, C. B.; Zanin, H.; Energy Stor. Mater., 2019, 22, 311.
【非特許文献2】Tamai, K.; Hosokawa, S.; Teramura, K.; Shishido, T.; Tanaka, T.; Appl. Catal. B, 2016, 182, 469.
【非特許文献3】Uekawa, N.; Kudo, T.; Mori, F.; Wu, Y. J.; Kakegawa, K.; J. Colloid Interface Sci., 2003, 264, 378.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1には、粒子径が10nm未満(シングルナノサイズ)のニオブ酸化物ナノ粒子を製造することは記載されていない。また、非特許文献2に記載の方法によって合成されたニオブ酸化物ナノ粒子のサイズは50~200nm程度であり、シングルナノサイズのニオブ酸化物ナノ粒子を製造することはできていない。さらに、非特許文献3に記載の方法は、多段階のステップを必要とし、合成に長時間を要する。
【0010】
このように、上述したニオブを原料とするナノ粒子の製造技術では、粒子径を制御することが難しく、特に粒子径が10nm未満(シングルナノサイズ)のナノ粒子を効率よく製造することは困難であった。
【0011】
また、金、パラジウム等の後周期遷移金属を量子ドットとすることは比較的容易であるが、後周期遷移金属は高価であるという問題がある。そのため、前周期金属であり安価なニオブについて、シングルナノサイズの粒子を簡易に製造することができれば非常に好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題を解決するために、本発者らは鋭意検討した結果、ニオブ錯体、溶媒としての還元剤、ハロゲンを有する添加剤を含有する前駆体溶液を140℃以上で加熱することにより、粒子径が10nm未満であり、新規な発光特性を有するニオブ酸化物ナノ粒子を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を含む。
【0013】
<1>以下の工程(A)~(C):
(A)ニオブ錯体を溶媒としての還元剤に溶解させ、前駆体溶液を製造する工程と、
(B)前記前駆体溶液に、ハロゲンを有する添加剤を加える工程と、
(C)前記添加剤を加えた前駆体溶液を140℃以上で加熱する工程と、を含む、ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法。
【0014】
<2>前記ニオブ錯体が、シュウ酸ニオブ、酢酸ニオブ、アセチルアセトナートニオブ、五塩化ニオブ、五臭化ニオブ、ニオブペンタエトキシドおよびこれらの塩からなる群から選択される1種類以上の錯体である、<1>に記載の製造方法。
【0015】
<3>還元剤がN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、およびN-ビニルホルムアミドからなる群から選択される1種類以上である、<2>に記載の製造方法。
【0016】
<4>前記前駆体溶液中のニオブ錯体の濃度が0.01M以上である、<1>~<3>のいずれかに記載の製造方法。
【0017】
<5>前記添加剤がトリメチルシリルクロライド、塩酸、およびジメチルジクロロシランからなる群から選択される1種類以上である、<1>~<4>のいずれかに記載の製造方法。
【0018】
<6>前記工程(B)において、前記前駆体溶液中のニオブと、前記添加剤が有するハロゲンとのモル比が1:1を超え、1:10以下である、<1>~<5>のいずれかに記載の製造方法。
【0019】
<7>赤外分光分析によって、1600~1750cm-1にC=O伸縮振動を示すピークが検出され、エネルギー分散型X線分析によってハロゲン原子が確認され、かつ動的光散乱法によって測定した平均粒子径が10nm未満であるニオブ酸化物ナノ粒子。
【0020】
<8>前記ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素であることを特徴とする請求項7に記載のニオブ酸化物ナノ粒子。
【0021】
<9>ニオブ分子が還元剤として用いられている分子によって保護されている、<7>に記載のニオブ酸化物ナノ粒子。
【0022】
<10><7>~<9>のいずれかに記載のニオブ酸化物ナノ粒子を含有する発光材料。
【0023】
<11>前記発光材料はEL発光材料である、<10>に記載の発光材料。
【0024】
<12><10>または<11>に記載の発光材料を含有する発光素子。
【0025】
<13>前記発光素子はEL発光素子である、<12>に記載の発光素子。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様によれば、これまで製造することが困難であった、粒子径が10nm未満であるニオブ酸化物ナノ粒子を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子の構造を模式的に示した図である。
【
図2】実施例で製造したニオブ酸化物ナノ粒子をXPS測定に供した結果を示すグラフである。
【
図3】実施例で製造したニオブ酸化物ナノ粒子の粒子径分布の測定結果を示す図である。
【
図4】実施例で製造したニオブ酸化物ナノ粒子の蛍光測定の結果を示すグラフ、およびブラックライトによる発光挙動を示す像である。
【
図5】実施例で製造したニオブ酸化物ナノ粒子の蛍光測定の結果を示すグラフである。
【
図6】実施例で製造したニオブ酸化物ナノ粒子の蛍光測定の結果を示すグラフ、およびブラックライトによる発光挙動を示す像である。
【
図7】UV-visにより、実施例で製造したニオブ酸化物ナノ粒子溶液の吸光度を測定した結果を示すグラフである。
【
図8】実施例で製造したニオブ酸化物ナノ粒子の蛍光発光スペクトルのグラフである。
【
図9】実施例で製造したニオブ酸化物ナノ粒子の蛍光励起スペクトルのグラフである。
【
図10】実施例にて、添加剤としてTMSClを用いて調製したニオブ酸化物ナノ粒子の蛍光寿命を測定した結果を示すグラフである。
【
図11】実施例にて、添加剤としてHClを用いて調製したニオブ酸化物ナノ粒子の蛍光寿命を測定した結果を示すグラフである。
【
図12】実施例にて、添加剤を用いずに調製したニオブ酸化物ナノ粒子の蛍光寿命を測定した結果を示すグラフである。
【
図13】実施例で製造したニオブ酸化物ナノ粒子のIR測定の結果を示すグラフである。
【
図14】実施例にて、添加剤としてTMSClを用いて調製したニオブ酸化物ナノ粒子の、STEMによる観察結果等を示す図である。
【
図15】実施例にて、添加剤としてHClを用いて調製したニオブ酸化物ナノ粒子の、STEMによる観察結果等を示す図である。
【
図16】実施例にて、添加剤を用いずに調製したニオブ酸化物ナノ粒子の、STEMによる観察結果等を示す図である。
【
図17】本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子を用いて製造した、EL発光素子の模式図である。
【
図18】本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子を用いて製造した、EL発光素子の発光試験の結果を示す図である。
【
図19】本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子を用いて製造した、別のEL発光素子の発光試験の結果を示す図である。
【
図20】本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子を用いて製造した、一のEL発光素子の発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【
図21】本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子を用いて製造した、他のEL発光素子の発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【
図22】本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子を用いて製造した、さらに他のEL発光素子の発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【
図23】本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子を用いて製造した、さらに他のEL発光素子の発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【
図24】本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子を用い、p型Si基板を用いて製造した一のEL発光素子の電流-電圧特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図25】本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子を用い、p型Si基板を用いて製造した他のEL発光素子の電流-電圧特性を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔1.本発明の概要〕
本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法は、以下の工程(A)~(C):(A)ニオブ錯体を溶媒としての還元剤に溶解させ、前駆体溶液を製造する工程と、(B)前記前駆体溶液に、ハロゲンを有する添加剤を加える工程と、(C)前記添加剤を加えた前駆体溶液を140℃以上で加熱する工程とを含む。
【0029】
ナノ粒子は粒子径が増大するほど励起エネルギーが遷移状態へと移行しやすくなり、発光する確率が減少するため、粒子径は小さい方が好ましい。特に粒子径が10nm未満になると電子運動の自由度が極端に制限され、電子の運動エネルギーが増加する。これにより、励起波長および蛍光波長の範囲が増大し、様々な発光特性を有するようになる。
【0030】
しかしながら、前述したように、従来技術では、ニオブについてシングルナノサイズのナノ粒子を製造することは困難であった。また、従来技術では、製造に不活性ガス雰囲気等が必要になる場合があり、製造コストの面でも改善の余地があった。
【0031】
これに対し、本発明者は、前駆体溶液の溶媒として還元剤を用い、かつ、当該溶液にハロゲンを有する添加剤を加えることにより、ニオブを原料としても平均粒子径が10nm未満であるニオブ酸化物ナノ粒子を製造できることを見出した。また、本発明者は、還元剤である溶媒中で加熱するという極めて簡便な方法によって上記ニオブ酸化物ナノ粒子を製造可能であることを見出した。さらに、水中または大気雰囲気で安定、かつ、熱的にも安定であり、凝集を防ぐための外部保護剤を必要としないニオブ酸化物ナノ粒子を製造可能であることを見出した。
【0032】
したがって、本発明によれば、平均粒子径が10nm未満であるニオブ酸化物ナノ粒子を安定的かつ簡便に製造することが可能である。
【0033】
本明細書において、「シングルナノサイズのナノ粒子」とは、「平均粒子径が10nm未満であるナノ粒子」を意味する。また、本明細書において、「シングルナノサイズのナノ粒子」は、単にシングルナノサイズのナノ粒子そのものだけでなく、「量子ドット」も包含し得る。
【0034】
〔2.ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法〕
本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法は、以下の工程(A)~工程(C)を含む方法である。
・工程(A)ニオブ錯体を溶媒としての還元剤に溶解させ、前駆体溶液を製造する工程
・工程(B)前記前駆体溶液に、ハロゲンを有する添加剤を加える工程
・工程(C)前記添加剤を加えた前駆体溶液を140℃以上で加熱する工程
<工程(A)>
本製造方法における工程(A)では、ニオブ錯体を溶媒としての還元剤に溶解させ、前駆体溶液を製造する。工程(A)は、例えば、ニオブ錯体と、溶媒としての還元剤とを混合し、ニオブ錯体を還元剤に溶解させることによって行うことができる。
【0035】
工程(A)により、製造されるニオブ酸化物ナノ粒子が内部に還元剤を含有するため、還元剤がニオブ酸化物ナノ粒子に対して保護剤として機能し得る。そのため、シングルナノサイズのニオブ酸化物ナノ粒子を製造する上で好ましい。
【0036】
本発明の一実施形態において、ニオブ錯体は1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0037】
ニオブ酸化物ナノ粒子は、後述するXPSによって測定した表面の価数が4価および/または5価であるニオブを有することが好ましい。発光特性の観点から、前記価数は4価であることがより好ましい。
【0038】
具体的なニオブ錯体としては、例えば、シュウ酸ニオブ、酢酸ニオブ、アセチルアセトナートニオブ、五塩化ニオブ、五臭化ニオブ、ニオブペンタエトキシドおよびこれらの塩等が挙げられる。塩としては例えば、アンモニウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。前記の中でも、安価であり、かつ大量入手が容易である観点から、シュウ酸ニオブアンモニウム塩であることが好ましい。
【0039】
本発明の一実施形態において、ニオブ錯体は市販品を用いても良く、公知の方法によって化学的に合成されたものを用いてもよい。
【0040】
前記ニオブ錯体を用いることにより、ナノ粒子の原料として、有毒金属であるカドミウム等を使用しないため、毒性のない、シングルサイズのナノ粒子を製造することができる。
【0041】
前駆体溶液の溶媒として使用される還元剤は、前記ニオブ錯体を溶解可能な還元剤であれば特に限定されない。還元剤は1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0042】
前記還元剤としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。中でも、ニオブ酸化物ナノ粒子を効率的に製造する観点から、N,N-ジメチルホルムアミドまたはN,N-ジメチルアセトアミドであることが好ましい。
【0043】
前駆体溶液の溶媒は、前記還元剤の保護剤等としての機能を阻害しない限り、前記還元剤以外に、他の溶媒をさらに含んでいてもよい。前記他の溶媒としては、N-メチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。前記溶媒における他の溶媒の含有量は少ないほど好ましく、前記溶媒は、前記還元剤からなることが最も好ましい。
【0044】
前駆体溶液中のニオブ錯体の濃度は、前記還元剤に溶解可能な濃度であれば特に限定されない。具体的には、0.01M以上であることが好ましく、0.1M以上であることがより好ましい。
【0045】
<工程(B)>
工程(B)は、前記前駆体溶液に、ハロゲンを有する添加剤を加える工程である。前駆体溶液に前記添加剤を添加することにより、製造されるニオブ酸化物ナノ粒子の粒子径にバラつきが生じにくくなり、平均粒子径が10nm未満のニオブ酸化物ナノ粒子を安定して製造することができる。
【0046】
前記添加剤は一種類のみを加えてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。前記添加剤は、ハロゲンを有する。前述したように、ニオブは粒子径をシングルナノサイズに制御することが困難であった。一方、工程(B)において前記添加剤を加えることにより、ニオブ酸化物ナノ粒子の粒子径をシングルナノサイズとすることができることが明らかとなった。
【0047】
後述する実施例では、前記添加剤を加えて合成されたニオブ酸化物ナノ粒子の表面の価数が、前記添加剤を加えずに調製したニオブ酸化物ナノ粒子の当該価数から変化していることが確認されている。
【0048】
この結果から、前記添加剤が有するハロゲンが酸素の代わりにニオブに配位すること等によって、ニオブ酸化物ナノ粒子の表面の酸化を防いでいると考えられる。詳細なメカニズムは不明であるが、前記添加剤のこのような働きによって、シングルナノサイズのニオブ酸化物ナノ粒子を調製することができると推測される。
【0049】
添加剤は、ニオブ酸化物ナノ粒子の平均粒子径をより安定させる観点から、ハロゲンとしてフッ素、臭素、ヨウ素、または塩素を有する化合物であることが好ましい。
【0050】
具体的な添加剤としては、トリメチルシリルクロライド、トリメチルシリルブロマイド、塩酸、ジメチルジクロロシラン、ブチルジメチルクロロシラン等が挙げられる。その中でもニオブ酸化物ナノ粒子の平均粒子径を安定させる観点から、トリメチルシリルクロライド、トリメチルシリルブロマイド、または塩酸であることが好ましく、トリメチルシリルクロライドまたはトリメチルシリルブロマイドであることがさらに好ましい。
【0051】
本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法は、前記工程(B)において、前記前駆体溶液中のニオブと、前記添加剤が有するハロゲンとのモル比が1:1以上、1:10以下であることが好ましい。
【0052】
前記構成は、ニオブ酸化物ナノ粒子の発光効率を高める観点から好ましい。当該観点から、前記モル比は1:5~1:10であることがより好ましい。
【0053】
前駆体溶液中には、ニオブ酸化物ナノ粒子の合成を阻害しない範囲で前駆体錯体、溶媒、添加剤以外のその他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては例えば、トリフェニルホスフィン、アセチルアセトン、ジベンザルアセトン等が挙げられる。
【0054】
<工程(C)>
工程(C)は、前記添加剤を加えた前駆体溶液を140℃以上で加熱する工程である。
【0055】
加熱を行う方法は特に限定されないが、例えばヒーター等の従来公知の手段を用い、撹拌しながら行うことが好ましい。また、工程(C)中の前駆体溶液の温度は、140℃以上であり、160℃以上がより好ましく、180℃以上がさらに好ましい。加熱温度が140℃以上であれば、前記添加剤が有するハロゲンをニオブに配位させやすくなると考えられ、かつ、前記還元剤が効率よくニオブ酸化物ナノ粒子と混じり合う。加熱温度の上限は特に限定されないが、現実的には160℃以下であってよい。工程(C)中における加熱温度は一定であることが好ましい。
【0056】
加熱を行う時間も特に限定されないが、8~24時間が好ましく、8~16時間がより好ましく、8~10時間がさらに好ましい。加熱時間が8時間以上であればニオブ酸化物ナノ粒子を安定して製造することができる。加熱時間が24時間以下であれば、ナノ粒子の凝集が発生しにくい。
【0057】
工程(C)中における撹拌は、スターラー、撹拌棒、撹拌翼等公知の撹拌手段により実施することができる。また前駆体溶液が入った容器を振とうすることにより、撹拌が行われてもよい。撹拌速度は、適宜好ましい条件を検討の上、採用すればよい。
【0058】
工程(C)は、前駆体溶液を効率的に加熱する観点から、あらかじめ予備加熱しておいた溶媒に前駆体溶液を添加してから行ってもよい。予備加熱時の温度、撹拌速度、および時間は特に限定されないが、前述した条件を適宜選択することができる。
【0059】
加熱終了後の溶液は、室温まで冷却することが好ましい。室温とは20~25℃を意味する。冷却方法は特に限定されず、公知の方法によって行ってもよい。緩やかに冷却することでニオブ酸化物ナノ粒子の形状が安定しやすいため、単に室温の環境下で静置することが好ましい。
【0060】
〔3.ニオブ酸化物ナノ粒子〕
本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子は、赤外分光分析によって、1600~1750cm-1にC=O伸縮振動を示すピークが検出され、エネルギー分散型X線分析によってハロゲン原子が確認され、かつ動的光散乱法によって測定した平均粒子径が10nm未満である。前記ニオブ酸化物ナノ粒子は、前記〔2.ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法〕にて説明した方法によって製造することができる。
【0061】
本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子の前記平均粒子径は、1~9nmであることが好ましく、2~8nmであることがより好ましく、3~7nmであることがさらに好ましい。
【0062】
ニオブ酸化物ナノ粒子の前記平均粒子径が10nm未満であることにより、後述する実施例に示すように、シングルナノサイズではないニオブ酸化物ナノ粒子よりも発光特性を向上させることができる。また、ナノ粒子の粒子径が1nm以上であれば発光特性に優れる。
【0063】
前記ニオブ酸化物ナノ粒子の平均粒子径の動的光散乱法による測定は、後述する〔試験2:動的光散乱法による粒度分布の測定〕に記載した方法によって行うことができる。
【0064】
前記ニオブ酸化物ナノ粒子は、ニオブ分子が還元剤として用いられている分子によって保護されていることが好ましい。前記ニオブ酸化物ナノ粒子は、前記〔2.ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法〕にて説明した方法によって製造することができるため、ニオブ酸化物ナノ粒子のニオブ分子が、前記〔2.ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法〕にて使用された溶媒としての還元剤を含有し得る。
【0065】
還元剤を分子内部に含有することにより、ニオブ酸化物ナノ粒子のニオブ分子は、還元剤の分子によって保護されると考えられる。また、還元剤を分子内部に含有することにより、ニオブ酸化物ナノ粒子中のニオブ分子が還元剤の分子によって配位されているとも考えられる。前記構成により、ニオブ酸化物ナノ粒子の凝集が発生しにくくなり、外部保護剤を添加する必要がなくなる。また、より一層、水中および大気雰囲気で長時間安定、かつ、熱的にも安定となる。
【0066】
前記ニオブ酸化物ナノ粒子は、前記還元剤以外に、前記添加剤を分子内部に含有していてもよい。
【0067】
前記ニオブ酸化物ナノ粒子の分子内部に前記還元剤が含有されていることは、IR法を用いたN,N-ジメチルホルムアミド分子等の還元剤由来のC=O伸縮振動ピークの観測によって確認することができる。
【0068】
前記ニオブ酸化物ナノ粒子が還元剤を分子内部に含有している場合、赤外分光分析により観察されるC=O伸縮運動ピークの範囲は、1600~1750cm-1であり、好ましくは1600~1700cm-1、より好ましくは1630~1680cm-1である。なお、前記還元剤が示すC=O伸縮運動のピークは、例えば産業技術総合研究所により公開されているスペクトルデータベースを参照することによって確認することができる。前記赤外分光分析は、例えば、後述する実施例に記載したIR Affinity-1 FT-IR (島津製作所製)の装置を用い、ニオブ酸化物ナノ粒子のサンプルをNaCl板に挟んで測定することによって行うことができる。
【0069】
図1は、ニオブ酸化物ナノ粒子中のニオブ分子が還元剤の分子によって配位されている様子を示す模式図である。本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子は、赤外分光分析により、1600~1750cm
-1の範囲にC=O伸縮運動のピークが検出されるため、ニオブ酸化物ナノ粒子中のニオブ分子が還元剤の分子によって配位されていると推定することができる。
【0070】
C=O伸縮運動のピークは、例えば、前記ニオブ酸化物ナノ粒子の分子内部に前記還元剤としてN,N-ジメチルホルムアミド分子が含まれる場合は1675cm-1に観察される。前記還元剤としてN,N-ジメチルアセトアミドが含まれる場合は1646cm-1に観察される。前記還元剤としてN-ビニルホルムアミドが含まれる場合は1636cm-1に観察される。前記還元剤としてN-メチルホルムアミドが含まれる場合は1668cm-1に観察される。前記還元剤としてN-メチル-2-ピロリドンが含まれる場合は1667cm-1に観察される。
【0071】
前記ニオブ酸化物ナノ粒子の励起波長は特に限定されないが、270~400nmであることが好ましく、300~400nmであることがより好ましく、350~370nmであることがさらに好ましい。ニオブ酸化物ナノ粒子の励起波長が前記範囲であれば、蛍光強度に優れる。
【0072】
前記ニオブ酸化物ナノ粒子の蛍光波長は400~500nmであることが好ましく、420~480nmであることがより好ましく、440~470nmであることがさらに好ましい。ニオブ酸化物ナノ粒子の蛍光波長が前記範囲であれば、蛍光強度に優れる。
【0073】
前記ニオブ酸化物ナノ粒子の蛍光寿命は100ナノ秒以下であることが好ましく、50ナノ秒以下であることがより好ましく、30ナノ秒であることがさらに好ましい。蛍光寿命が100ナノ秒以下であれば、蛍光発光の残光時間が十分に短いため、発光デバイスに適用する上で好ましい。
【0074】
前記ニオブ酸化物ナノ粒子は、2種類以上の蛍光寿命を有することが好ましい。前記ニオブ酸化物ナノ粒子が2種類以上の蛍光寿命を有することは、複数の蛍光メカニズムを有することを意味するため、前記ニオブ酸化物ナノ粒子を、より広範囲の機器に適用可能となる。
【0075】
本明細書において蛍光寿命とは、ニオブ酸化物ナノ粒子が最初に発光してから、発光強度が、最初に発光したときの発光強度の37%になるまでの時間を意味する。
【0076】
前記ニオブ酸化物ナノ粒子は、前記工程(B)において添加されたハロゲンを含有する。前記ニオブ酸化物ナノ粒子がハロゲンを含有することは、エネルギー分散型X線分析によってハロゲン原子が確認されることにより示される。前記ハロゲン原子としては、前記〔2.ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法〕に記載のハロゲン原子が挙げられる。
【0077】
エネルギー分散型X線分析によるハロゲン原子の確認は、例えば、後述する実施例に記載した原子分解能分析電子顕微鏡(JEM-ARM200F、日本電子製)を搭載したEDS(エネルギー分散型X線分析)を用いて、ハロゲン原子に由来する特性X線を観測することによって行うことができる。
【0078】
〔4.ニオブ酸化物ナノ粒子の用途〕
本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子は、例えば、発光材料、触媒、電子材料、機能性セラミックス等として使用できる。用途としては、発光材料が好ましく、その中でも、EL(エレクトロルミネセンス)発光材料であることがより好ましい。
【0079】
前記発光材料またはEL発光材料は、発光素子、蛍光体応用素子、波長変換フィルム、色素レーザ、生体発光マーカー等として使用できる。用途としては発光素子であることが好ましく、その中でもEL発光素子であることがより好ましい。
【0080】
前記発光素子またはEL発光素子としては、例えば半導体レーザ、発光ダイオード等として使用できる。中でも、発光材料の観点から、半導体レーザであることが好ましい。
【0081】
本発明の一実施形態に係るナノ粒子を用いた前記EL発光素子の形態は特に限定されるものではないが、例えば
図17に示す形であってもよい。
【0082】
前記EL発光素子の製造時に、Si基板を用いる場合、Si基板の種類は特に限定されない。例えば、Si基板は、p型であってもよいし、n型であってもよい。
【0083】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0084】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
[ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法]
(ニオブ酸化物ナノ粒子溶液1~3)
まず、0.1mmol(33.9mg)のシュウ酸ニオブアンモニウム(以下、「ANO」)(Companhia Brasileira de Metalurgia e. Mineracao、CBMM製)を、1mLのN,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」)(純度:≧99.7%(ガスクロマトグラフィーによる)、富士フイルム和光純薬製)に溶解し、0.1Mの前駆体溶液を調製した(工程(A))。ANOはニオブ錯体、DMFは溶媒であり、加熱時に還元剤として作用する。
【0086】
前記前駆体溶液に、添加剤として、トリメチルシリルクロライド(以下、「TMSCl」、純度:>98.0%(ガスクロマトグラフィーによる)、東京化成工業製)を0.065mL(0.5mmol)、または、10MのHCl(富士フイルム和光純薬製HCl約12Mから調製)を0.05mL(0.5mmol)、添加した(工程(B))。得られた溶液を、それぞれ、添加剤含有前駆体溶液1,2とした。対照として、添加剤を加えない前駆体溶液(以下、「添加剤不含前駆体溶液」)も調製した。工程(B)における前駆体溶液中のニオブと、前記添加剤が有するハロゲンとのモル比は、1:5である。
【0087】
次に、三口フラスコに50mLのDMFを加え、前記三口フラスコをマントルヒーターに設置して、140℃、1500rpmで10分間予備加熱した。
【0088】
その後、前記三口フラスコに、前記添加剤含有前駆体溶液1を0.5mL加えて、140℃で8時間、撹拌しながら加熱した後、室温になるまで放置して、濃度1mMのニオブ酸化物ナノ粒子の溶液1を得た(工程(C))。前記添加剤含有前駆体溶液2、前記添加剤不含前駆体溶液についても同様の操作を行い、それぞれ濃度1mMのニオブ酸化物ナノ粒子溶液2、および、添加剤を含有しないニオブ酸化物ナノ粒子溶液3を得た。
【0089】
(ニオブ酸化物ナノ粒子溶液4)
TMSClの添加量を0.13mL(1.0mmol)としたこと以外は、前記「(ニオブ酸化物ナノ粒子溶液1~3)」と同様にして、濃度1mMのニオブ酸化物ナノ粒子溶液4を得た。工程(B)における前駆体溶液中のニオブと、前記添加剤が有するハロゲンとのモル比(Nb:TMSCl)は、1:10である。
【0090】
(ニオブ酸化物ナノ粒子溶液5)
0.5mmol(169.5mg)のANOを、1mlのDMFに溶解し、0.5Mの前駆体溶液を調製した(工程(A))。当該前駆体溶液に、添加剤としてTMSClを0.325ml(2.5mmol)添加すること(工程(B))以外は、前記「(ニオブ酸化物ナノ粒子溶液1~3)」と同様にして、濃度5mMのニオブ酸化物ナノ粒子溶液5を得た。工程(B)における前駆体溶液中のニオブと、前記添加剤が有するハロゲンとのモル比(Nb:TMSCl)は、1:5である。
【0091】
(ニオブ酸化物ナノ粒子溶液6)
TMSClの添加量を0.013mL(0.1mmol)としたこと以外は、前記「(ニオブ酸化物ナノ粒子溶液1~3)」と同様にして、濃度1mMのニオブ酸化物ナノ粒子溶液6を得た。工程(B)における前駆体溶液中のニオブと、前記添加剤が有するハロゲンとのモル比(Nb:TMSCl)は、1:1である。
【0092】
(ニオブ酸化物ナノ粒子溶液7)
添加剤として、TMSClの代わりに、トリメチルシリルブロマイド(以下、「TMSBr」)を0.065mL(0.5mmol)添加したこと以外は、前記「(ニオブ酸化物ナノ粒子溶液1~3)」と同様にして、濃度1mMのニオブ酸化物ナノ粒子溶液7を得た。工程(B)における前駆体溶液中のニオブと、前記添加剤が有するハロゲンとのモル比(Nb:TMSCl)は、1:5である。
【0093】
(ニオブ酸化物ナノ粒子溶液8)
N,N-ジメチルホルムアミドの代わりに、1mLのN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を用いて、予備加熱温度を160℃としたこと以外は、前記「(ニオブ酸化物ナノ粒子溶液1~3)」と同様にして、0.1Mの前駆体溶液を調製した。次に、当該前駆体溶液に、前記「(ニオブ酸化物ナノ粒子溶液1~3)」において添加剤としてTMSClを用いる場合と同様の操作を行い、濃度1mMのニオブ酸化物ナノ粒子溶液8を得た。工程(B)における前駆体溶液中のニオブと、前記添加剤が有するハロゲンとのモル比(Nb:TMSCl)は、1:5である。
【0094】
以下の図中、「Nb NPs(without additive)」または「Nb NPs」は、「製造時に添加剤を加えずに調製したニオブ酸化物ナノ粒子」を示し、「Nb NPs(TMSCl)」は「製造時に添加剤としてTMSClを加えて調製したニオブ酸化物ナノ粒子」を示し、「Nb NPs(HCl)」は、「製造時に添加剤としてHClを加えて調製したニオブ酸化物ナノ粒子」を示す。
【0095】
また、「Nb NPs(TMSBr)」は「製造時に添加剤としてTMSBrを加えて調製したニオブ酸化物ナノ粒子」を示し、「NB NPs(TMSCl)(DMAc)」は「製造時に溶媒としてDMAcを使用して調製したニオブ酸化物ナノ粒子」を示す。
【0096】
〔試験1:X線光電子分光による構成元素の電子状態の測定〕
ニオブ酸化物ナノ粒子表面のニオブの電子状態を調べるために、X線光電子分光(XPS)により、ニオブ酸化物ナノ粒子表面の価数の測定を行った。XPS測定はULVAC-PHI PHI5000 VersaProbe(アルバック・ファイ株式会社製)を用いて行った。
【0097】
測定に用いたサンプルは以下の方法によって調製した。まず、前記[ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法]で調製したニオブ酸化物ナノ粒子溶液1、および、ニオブ酸化物ナノ粒子溶液3を、それぞれエバポレーターで濃縮した。さらに真空蒸留を行うことにより、遊離のDMFを完全に除去した。得られたニオブ酸化物ナノ粒子(以下、ニオブ酸化物ナノ粒子1と称する)、および、添加剤を含有しないニオブ酸化物ナノ粒子(以下、ニオブ酸化物ナノ粒子3と称する)の粒子ペーストは、アルゴンを封入した状態で保存した。
【0098】
次に、ニオブ酸化物ナノ粒子1およびニオブ酸化物ナノ粒子3の粒子ペーストを2枚の銀板(0.2×0.3cm、厚さ0.2mm)の間に挟み、指圧によって圧着させた。次に、2枚の前記銀板を離間させ、圧着させた粒子ペーストを一枚ずつ半分に分割することにより、平面状に延ばした。その後、粒子ペーストを前記銀板から剥離し、二枚の圧着された粒子ペーストを得て、それぞれをサンプルとした。また、比較対照として、通常のニオブ箔を用いた。サンプルを2枚ともサンプル台に乗せ、Alkα線によって表面の価数の測定を行った。結果を
図2に示す。
【0099】
図2より、通常のニオブ箔は0価および3価のスペクトルを示したが、ニオブ酸化物ナノ粒子のサンプルのうち、添加剤を加えなかったニオブ酸化物ナノ粒子3(Nb NPs)は、多くが5価および3価のスペクトルを示した。したがって、ニオブ酸化物ナノ粒子3の表面の多くは酸化状態にあると考えられる。
【0100】
一方で、添加剤を加えたニオブ酸化物ナノ粒子1は、5価のピークが一部4価側にシフトしたことが示された。したがって、ニオブ酸化物ナノ粒子1では、酸素の代わりに、添加剤のクロロ基等が配位することにより、表面の酸化が抑制されていると考えられる。よって、添加剤によって、ニオブ酸化物ナノ粒子の粒子径だけでなく、材料自身の発光特性も変化することが想定される。
【0101】
〔試験2:動的光散乱法による粒度分布の測定〕
前記[ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法]にて合成したニオブ酸化物ナノ粒子の平均粒子径を、動的光散乱法(DLS)によって測定した。測定機器としては、Zetasizer nano ZSP(Malvern社製)を用いた。
【0102】
測定に用いたサンプルは以下の方法によって調製した。まず、ニオブ酸化物ナノ粒子溶液1~3をそれぞれエバポレーターで濃縮し、濃縮後の溶液をDMFに分散させてサンプルとした。前記測定機器のホルダ温度を25.0℃とし、前記サンプルを前記測定機器に設置して、動的光散乱法を用いることにより、ニオブ酸化物ナノ粒子の平均粒子径を算出した。
【0103】
前記測定機器は、前記サンプルにレーザー光を照射し、前記サンプル中のニオブ酸化物ナノ粒子の散乱光を観測することにより、ニオブ酸化物ナノ粒子のブラウン運動による散乱光強度の揺らぎを観測する。次いで、光子相関法により前記揺らぎから自己相関関数を求め、ヒストグラム法解析を用いることにより、ニオブ酸化物ナノ粒子の拡散係数、平均粒子径および粒子径分布を求める。
図3は、ニオブ酸化物ナノ粒子の粒子径分布の測定結果を示す図である。
図3の上段はニオブ酸化物ナノ粒子3の測定結果、中段はニオブ酸化物ナノ粒子1の測定結果、下段はニオブ酸化物ナノ粒子2の測定結果をそれぞれ示す。
【0104】
図3より、添加剤を加えずに調製したニオブ酸化物ナノ粒子3の平均粒子径は100nm以上であったのに対して、添加剤であるTMSClおよびHClを加えて調製したニオブ酸化物ナノ粒子1,2の平均粒子径は10nm未満であることが示された。したがって、添加剤を加えることによって、シングルナノサイズのニオブ酸化物ナノ粒子を製造可能であることが示された。
【0105】
〔試験3:蛍光測定〕
ニオブ酸化物ナノ粒子が発光する波長を調べるために、蛍光測定を行った。蛍光測定はRF-6000(SHIMADZU製)を用いて行った。測定には、前記[ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法]で調製したニオブ酸化物ナノ粒子溶液1~8をそのまま用いた。なお、濃度0.1mMの溶液は、ニオブ酸化物ナノ粒子溶液1~8を10倍希釈して調製した。各サンプルを石英セルに入れて、室温で測定を行った。また、ニオブ酸化物ナノ粒子溶液8の濃度10mMの溶液は、エバポレーターにてニオブ酸化物ナノ粒子溶液8中のDMFを留去した後、溶液の濃度が10mMとなるようにDMFを再度添加して調製した。
【0106】
測定条件は、励起波長を350nm、測定範囲を360~600nm、データ間隔を1.0nm、スキャン速度を2000nm/min、スペクトルバンド幅を励起側、蛍光側共に5.0nm、感度をLowとした。
【0107】
結果を
図4~6に示す。
図4の上段はニオブ酸化物ナノ粒子溶液3の測定結果、中段はニオブ酸化物ナノ粒子溶液1の測定結果、下段はニオブ酸化物ナノ粒子溶液2の測定結果をそれぞれ示す。
【0108】
また、
図4の右側上段は、濃度1mMのニオブ酸化物ナノ粒子溶液3の、ブラックライト(波長352nm)を照射した時の発光挙動を示す。
図4の右側中段および下段は、それぞれ、濃度0.1mMのニオブ酸化物ナノ粒子溶液1,2の、前記ブラックライトを照射したときの発光挙動を示す。なお、発光挙動の観察は、長波および短波の2種類のUV光源を内蔵した、ポータブルタイプの暗箱であるUV-BOX(KENIS製)を用いて行った。
【0109】
図5の上段はニオブ酸化物ナノ粒子溶液4の測定結果、中段はニオブ酸化物ナノ粒子5の測定結果、下段はニオブ酸化物ナノ粒子6の測定結果をそれぞれ示す。
【0110】
加えて、
図6の上段左はニオブ酸化物ナノ粒子溶液7の測定結果、上段右はブラックライト(波長254nm)を照射した時の濃度0.1mMのニオブ酸化物ナノ粒子溶液7の発光挙動、下段左はニオブ酸化物ナノ粒子溶液8の測定結果、下段右は前記ブラックライトを照射した時の濃度1mMのニオブ酸化物ナノ粒子溶液8の発光挙動を示す。
【0111】
なお、発光挙動の観察は、電池式UVランプであるMiniMAX UV Lamp UV-5NF(SPECTROLINE製)を用いて行った。
【0112】
図4および
図6より、製造時に添加剤を加えなかったニオブ酸化物ナノ粒子溶液3は濃度1.0mMで強く発光したのに対して、添加剤を加えて調製したニオブ酸化物ナノ粒子溶液1,2,7は濃度0.1mMで強く発光したことが示された。また、溶媒を変更したニオブ酸化物ナノ粒子溶液8は濃度1mMで強く発光した。
【0113】
加えて、
図6より、ニオブ酸化物ナノ粒子溶液7,8はいずれもブラックライトの照射により発光することが分かった。
【0114】
〔試験4:UV-visによる吸光度の測定〕
ニオブ酸化物ナノ粒子製造時に用いた前駆体の残留を調べるために、UV-vis(紫外可視分光法)による吸光度の測定を行った。UV-visは分光光度計V-770(JASCO製)を用いて行った。測定には、ニオブ酸化物ナノ粒子溶液1~3を10倍希釈した0.1mMの溶液を用いた。各サンプルを石英セルに入れて、室温で測定を行った。結果を
図7に示す。
図7の上段はニオブ酸化物ナノ粒子溶液3の測定結果、中段はニオブ酸化物ナノ粒子溶液1の測定結果、下段はニオブ酸化物ナノ粒子溶液2の測定結果をそれぞれ示す。
【0115】
図7より、いずれのニオブ酸化物ナノ粒子溶液も、前駆体であるシュウ酸ニオブアンモニウムのピークを示さなかったため、前駆体はニオブ酸化物ナノ粒子中に残留していないことがわかった。
【0116】
〔試験5:フォトルミネセンスおよびフォトルミネセンス励起の測定〕
ニオブ酸化物ナノ粒子の発光過程における変化を評価するために、フォトルミネセンス(PL)およびフォトルミネセンス励起(PLE)を測定した。PLの測定では、蛍光発光スペクトルを測定し、PLEの測定では、蛍光励起スペクトルを測定した。PL測定およびPLE測定は、分光蛍光光度計F-2700(HITACHI製)を用いて行った。測定には、前記[ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法]で調製したニオブ酸化物ナノ粒子溶液1~3をそのまま用いた。なお、濃度0.1mMの溶液は、各溶液を10倍希釈して調製した。
【0117】
各サンプルを石英セルに入れて、室温で測定を行った。PL測定時の励起波長は350nmで固定し、蛍光開始波長は360nm、蛍光終了波長は600nmとした。PLE測定時の励起開始波長は220nm、励起終了波長は400nmとした。結果を
図8および
図9に示す。
図8,9の上段はニオブ酸化物ナノ粒子溶液3の測定結果、中段はニオブ酸化物ナノ粒子溶液1の測定結果、下段はニオブ酸化物ナノ粒子溶液2の測定結果をそれぞれ示す。
【0118】
図8より、
図4に示す蛍光測定のときと同様に、製造時に添加剤を加えずに調製したニオブ酸化物ナノ粒子溶液3は、濃度1.0mMで強く発光したのに対して、添加剤を加えて調製したニオブ酸化物ナノ粒子溶液1,2は濃度0.1mMで強く発光したことが示された。
【0119】
また
図9より、PL強度と同様に、製造時に添加剤を加えずに調製したニオブ酸化物ナノ粒子溶液3は、濃度1.0mMで強く励起されたのに対して、添加剤を加えて調製したニオブ酸化物ナノ粒子溶液1,2は濃度0.1mMで強く励起されたことが示された。
【0120】
ニオブ酸化物ナノ粒子溶液1,2と、ニオブ酸化物ナノ粒子溶液3との結果の違いは、ニオブ酸化物ナノ粒子1,2は、調製時に添加剤を加えたことによって、平均粒子径が10nm未満となっていることに起因すると考えられる。
【0121】
〔試験6:蛍光寿命の測定〕
蛍光寿命とは、励起された分子が基底状態に戻るまでの時間のことである。励起された分子が全て蛍光を発して基底状態に戻るときの寿命を自然寿命と呼ぶが、実際には、無輻射遷移(項間交差による三重項状態への緩和、熱エネルギーへの内部転換等)により一定の確率で蛍光を発する。この遷移を起こす確率のことを量子収率と呼び、自然寿命に量子収率を乗じたものが蛍光寿命である。
【0122】
ニオブ酸化物ナノ粒子の蛍光寿命は、励起パルスレーザーUltra50(Quantel製)(励起波長266nm)、分光器SP2358(Princeton Instruments製)、光検出器PI-MAX4(Princeton Instruments製)を用いて測定した。
【0123】
測定には、前記[ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法]で調製したニオブ酸化物ナノ粒子溶液1~3をそのまま用いた。なお、濃度0.1mMの溶液は、各溶液を10倍希釈して調製した。各サンプルを石英セルに入れて、室温で測定を行った。本試験では、初めの発光強度の約37%となった時間を蛍光寿命とした。測定は、3ナノ秒のフレームを300回連続測定し、測定開始時間を0.1ナノ秒ずつずらすことにより、時間に対する蛍光寿命のデータを取得した。結果を
図10~12に示す。
【0124】
図10は、ニオブ酸化物ナノ粒子溶液1の測定結果を表す。
図11はニオブ酸化物ナノ粒子溶液2の測定結果を表す。
図12はニオブ酸化物ナノ粒子溶液3の測定結果を表す。各図の左側の図はニオブ酸化物ナノ粒子溶液の濃度が0.1mM、測定時間が30ナノ秒である測定結果を表し、中央の図はニオブ酸化物ナノ粒子溶液の濃度が0.1mM、測定時間が300ナノ秒である測定結果を表し、右側の図はニオブ酸化物ナノ粒子溶液の濃度が1mM、測定時間が30ナノ秒である測定結果を表す。各図の横軸は測定時間を表し、縦軸は標準化したPLの強度を表す。蛍光寿命測定は、波長350nmにて行った。
【0125】
図10~12に示すように、ニオブ酸化物ナノ粒子の蛍光寿命は、数ナノ秒から数十ナノ秒程度であった。したがって、ニオブ酸化物ナノ粒子が発した光は、ニオブ酸化物ナノ粒子の特徴であるニオブ酸化物ナノ粒子中に形成された離散的なエネルギー準位間、もしくはニオブ酸化物ナノ粒子表面近傍の局在準位による蛍光であることが示された。
【0126】
また、溶液の濃度を高くすると、ニオブ酸化物ナノ粒子間のエネルギー移動により、ニオブ酸化物ナノ粒子の蛍光寿命が短くなることがわかる。このような蛍光特性は、ニオブ酸化物ナノ粒子の蛍光量子効率が比較的高いことを示している。したがって、本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子は発光材料として良好な特性を有することがわかった。
【0127】
〔試験7:IR測定〕
ニオブ酸化物ナノ粒子中に含まれる成分を分析するために、IR(赤外分光分析)測定を行った。IR測定は、IRAffinity-1 FT-IR(島津製作所製)を用いて行った。測定に用いたサンプルは以下の方法によって調製した。まず、前記[ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法]で調製したニオブ酸化物ナノ粒子溶液1~3をエバポレーターで濃縮した。さらに、真空留去(10-3torr)を行い、その後、濃縮した各溶液を、それぞれNaCl板にペーストし、NaCl板で挟み、サンプルとした。
【0128】
結果を
図13に示す。
図13の横軸は波数(cm
-1)である。図中、「Nb NPs(TMSCl)」はニオブ酸化物ナノ粒子溶液1を供した結果を示し、「Nb NPs(HCl)」はニオブ酸化物ナノ粒子溶液2を供した結果を示し、「Nb NPs none」はニオブ酸化物ナノ粒子溶液3を供した結果を示す。「DMF」は、DMFのみを供した結果を示す。
【0129】
図13より、全てのサンプルのピーク中に、前駆体溶液の溶媒であるDMFと同様のピークが観察されることが示された。したがって、製造したニオブ酸化物ナノ粒子は還元剤として用いたDMFの分子によって保護されていることがわかった。
【0130】
〔試験8:走査型透過電子顕微鏡(STEM)によるニオブ酸化物ナノ粒子の観察、平均粒子径の測定〕
STEMによるニオブ酸化物ナノ粒子の観察は、JEM-ARM-200F(日本電子株式会社製)を用いて、以下のように行った。すなわち、前記[ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法]で調製したニオブ酸化物ナノ粒子溶液1~3をエバポレーターで濃縮し、エタノールに分散した溶液をサンプルとして用いた。サンプルを銅グリッドに滴下し、加速電圧を200kVとして観察を行った。結果を
図14~16に示す。
【0131】
図14、15の左側、
図16の左上には、ニオブ酸化物ナノ粒子のSTEMによる観察像を示す。図中、丸囲みした領域は、ニオブ酸化物ナノ粒子を表す。各図の右上には、観察視野中の粒子径をスケールバーと対比し算出する方法によって測定した、ニオブ酸化物ナノ粒子の粒子径の分布を示す。平均粒子径は、得られた粒子径分布のデータから個数平均を算出することによって求めた(サンプル数75~103)。各図の右下には、エネルギー分散型X線(EDS)分析による元素分析結果を示す。
【0132】
図14、15に示すように、添加剤を用いて調製したニオブ酸化物ナノ粒子1および2は、10nm未満の平均粒子径を示した。しかしながら、製造時に添加剤を加えなかったニオブ酸化物ナノ粒子3には、一部で粒子径が100nm程度の粒子が観察された(
図16の左下の写真)。したがって、添加剤を加えることにより、10nm以上の粒子径を有するナノ粒子の発生を抑制できることが示された。
【0133】
なお、製造時に添加剤を加えなかったニオブ酸化物ナノ粒子3の平均粒子径が、試験2と異なる結果を示しているのは、STEMによる平均粒子径の測定が局所での観察に基づく測定法であり、動的光散乱法による平均粒子径の測定が溶液全体を測定対象とする測定法であることに起因する。
【0134】
EDS分析の結果を示す図において、NbLl、NbLaはニオブ由来のエネルギーを示し、ClKa、ClKbは塩素由来のエネルギーを示す。
図14~16のEDS分析表より、各ニオブ酸化物ナノ粒子内にはニオブおよび塩素が含有されていることが示された。
【0135】
〔試験9:EL発光素子の作製〕
前記[ニオブ酸化物ナノ粒子の製造方法]で製造したニオブ酸化物ナノ粒子溶液1を用いてEL発光素子を作製した。
図17にEL発光素子の模式図を示す。具体的には、まずn型のSi基板(抵抗率1~10Ωcm)およびp型のSi基板(抵抗率0.01~0.02Ωcm)をアセトンおよびイソプロピルアルコールによって洗浄した。
【0136】
次に、Al電極(厚さ40nm)を前記基板の裏面に真空加熱蒸着装置によって蒸着した。その後、前記基板の表面に、添加剤としてTMSClを用いて調製したニオブ酸化物ナノ粒子溶液1(
図17中、「Nb NP」)をドロップキャストし、真空乾燥によって堆積した。
【0137】
さらにその上に、透明電極(ITO)(厚さ300nm)をスパッタリングにより形成し、EL発光素子とした。当該EL発光素子を、銅板上に導電性ペーストによって貼り付けて、電流-電圧特性(I-V特性)測定用およびELスペクトル測定用の素子とした。この時、基板裏面のAl電極が銅板と接触するようにした。銅板およびEL発光素子上のITO層にプローブ電極を接触させ、電源としてソースメジャーユニットGS820(横河計測株式会社製)を用いて、室温にてEL発光素子に電圧を印加した。印加電圧と注入電流の値はそれぞれ9V、36mAであった。発光状態を肉眼にて観察した。結果を
図18に示す。また、
図18に示す結果に再現性があることを確認するために、
図18に示す発光素子と同じ調製法および同じ測定法に供した発光素子AおよびBの観察結果を、
図19に示す。観察時の前記印加電圧および注入電流は、再現性確認用に作製したEL発光素子AおよびBの大きさに依存するため、当該大きさに応じて適宜変更した。
【0138】
図18はp型のSi基板を用いて調製したEL発光素子の試験結果を示す。
図18より、p型Si基板を用いた場合に、発光していることが示された。したがって、本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子は単体で発光可能であることがわかった。
【0139】
図19は、
図18と同様に、p型のSi基板を用いて調製したEL発光素子AおよびBの試験結果を示す。
図19に示すように、EL発光素子AおよびEL発光素子Bは共に発光しており、EL発光素子Aは白色に発光していることが肉眼で観察され、EL発光素子Bは赤色に発光することが肉眼で観察された。したがって、本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子は同じ調製法および同じ測定法に供したとしても、発光色が変化し得ることがわかった。
【0140】
〔試験10.EL発光素子の発光特性の測定〕
前記〔試験9.EL発光素子の作製〕に記載した調製法によって、p型基板を用いて調製したEL発光素子に対し、試験9と同様にITO層にプローブ電極を接触させ、試験9と同じ電源を用いて、EL発光素子からの発光が目視で確認できるまで素子に電圧を印加した。次に、分光器SP2358(Princeton Instruments製)、および光検出器PI-MAX4(Princeton Instruments製)を用いて、発光スペクトルを測定した。なお、測定は、再現性の確認のため、前記調製法によって調製した異なる2つのEL発光素子を用いてそれぞれ行った。
【0141】
前記異なる2つのEL発光素子の発光スペクトル測定の結果を
図20および
図21に示す。なお、
図20および
図21中、線が途切れている部分は装置由来の空白であり、新たな発光ピークは存在せず、空白部分の発光スペクトルは滑らかに上昇している。
【0142】
図20より、本発明の一実施形態に係るEL発光素子は、肉眼で白色に見える発光を行い、波長650nm付近に発光のピークを持ち、可視光全域で発光を有することがわかった。一方、同じ調製法によって得られ、同じ測定法に供したEL発光素子であっても、
図21に示すように、波長810nm付近の赤外光域に発光のピークを持ち、肉眼では赤色もしくは橙色に見える発光を行うEL発光素子もあった。
【0143】
前記EL発光素子AおよびBについても、前記2つのEL発光素子と同様に、発光スペクトルの測定を行った。前記EL発光素子Aの発光スペクトルの測定結果を
図22に示し、前記EL発光素子Bの発光スペクトルの測定結果を
図23に示す。
図22に示すように、前記EL発光素子Aは、
図20に示す肉眼で白色に見える発光を示したEL発光素子と同様に、波長650nm付近に発光のピークを持ち、可視光全域で発光を有することがわかった。また、
図23に示すように、前記EL発光素子Bは、
図21に示す肉眼で赤色もしくは橙色に見える発光を示したEL発光素子と同様に、波長810nm付近の赤外光域に発光のピークを持つスペクトルを示した。
【0144】
また〔試験9.EL発光素子の作製〕に記載した調製法によって、p型基板を用いて調製した2つのEL発光素子に対し、試験9と同様にITO層にプローブ電極を接触させ、試験9と同じ電源を用いて電流-電圧特性(I-V特性)の測定を行った。
【0145】
EL発光素子のI-V特性の測定結果を
図24および
図25に示す。2つの前記EL発光素子のうち、一方は、
図24に示すように、電流が印加電圧に対してダイオード様の整流特性を示した。一方、他方のEL発光素子は、
図25に示すように、前記一方のEL発光素子のような整流性は示さず、印加電圧に対して不均一ではあるが、オーミック性を示す特性を示した。
【0146】
このように、2つの前記EL発光素子は、
図24および
図25に示すように、いずれも発光を示した。しかし、発光色とI-V特性の整流性およびオーミック性との間に相関は見られなかった。加えて、I-V特性がオーミック性を示すEL発光素子は、印加電圧の正、負に関わらず発光した。したがって、本発明の一実施形態に係るニオブ酸化物ナノ粒子は、様々な波長の光を単体で発光可能であることがわかった。