(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028659
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】新規抗体フレームワーク
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220208BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220208BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220208BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220208BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220208BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220208BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220208BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220208BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/46 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
A61K39/395 N
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021169020
(22)【出願日】2021-10-14
(62)【分割の表示】P 2019111990の分割
【原出願日】2014-06-26
(31)【優先権主張番号】13003264.2
(32)【優先日】2013-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】515310984
【氏名又は名称】ヌマブ セラピューティクス アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン マイアー
(72)【発明者】
【氏名】ダービト ウレヒ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は有利な特性を有する新規抗体フレームワークに関する。
【解決手段】(i)ヒトVκフレームワーク領域IからIII;(ii)CDRドメインCDR1、CDR2及びCDR3;及び(iii)フレームワーク領域IV、を含む抗体VLドメイン。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ヒトVκフレームワーク領域IからIII;(ii)CDRドメインCDR1、CDR2及びCDR3;及び(iii)フレームワーク領域IV、を含む抗体VLドメインであって、該フレームワーク領域IVは
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系配列;
から選択され、b又はcの場合に、フレームワーク領域IVが配列FGQGTKLTVLG(配列番号15)を有することを条件とし、
(w)前記ヒトVκフレームワーク領域IからIIIは、クローンのリスト: FW1.4gen(配列番号4)、375-FW1.4opt、435-FW1.4opt、509-FW1.4opt、511-FW1.4opt、534-FW1.4opt、567-FW1.4opt、578-FW1.4opt、1-FW1.4opt、8-FW1.4opt、15-FW1.4opt、19-FW1.4opt、34-FW1.4opt、35-FW1.4opt、42-FW1.4opt、及び43-FW1.4optにみられるフレームワーク領域とは異なり;
(x)前記ヒトVκフレームワーク領域IからIIIは、クローンのリスト: FW1.4gen(配列番号4)、375-FW1.4opt、435-FW1.4opt、509-FW1.4opt、511-FW1.4opt、534-FW1.4opt、567-FW1.4opt、578-FW1.4opt、1-FW1.4opt、8-FW1.4opt、15-FW1.4opt、19-FW1.4opt、34-FW1.4opt、35-FW1.4opt、42-FW1.4opt、及び43-FW1.4optにみられるフレームワーク領域の配列から置換によって得られる配列とは異なり;
(y)前記ヒトVκフレームワーク領域IからIIIは、配列FW1.4gen(配列番号4)の位置15、22、48、57、74、87、88、90、92、95、97及び99の1以上における突然変異によって得られる配列とは異なり;又は、
(z)前記ヒトVκフレームワーク領域IからIIIは、配列番号8を有するヒトVκ配列内の各領域と比較して、5以下の突然変異を含み、特に、配列番号8を有するヒトVκ配列と比較して、5未満、4未満、3未満、特に、ただ一つの突然変異を含むか、又は突然変異を含まない、
抗体VLドメイン。
【請求項2】
フレームワーク領域IIIにおける位置AHo101のアミノ酸残基は、ヒトVλコンセンサス配列の該位置に存在するアミノ酸残基であり、特に、前記アミノ酸残基はフェニルアラニンとは異なり、より特には、前記アミノ酸残基はグルタミン酸である、請求項1に記載の抗体VLドメイン。
【請求項3】
前記Vκフレームワーク領域IからIIIはVκ1ファミリー由来である、請求項1又は2に記載の抗体VLドメイン。
【請求項4】
前記Vκフレームワーク領域IからIIIは、配列番号2及び配列番号8から選択される配列、特に配列番号8の配列に存在するフレームワーク領域である、請求項3に記載の抗体VLドメイン。
【請求項5】
前記CDRドメインCDR1、CDR2及びCDR3は、(i)目的の抗原に対して特異性を有する親非ヒト抗体由来、特に親ウサギ抗体由来又は親げっ歯類抗体、特に親マウスもしくはラット抗体由来のCDRドメイン CDR1、CDR2及びCDR3;(ii)Vκドメインを含む親ヒト抗体又は親ヒト化抗体由来、特に、治療のために認可され又はその他の商業化されている抗体由来のCDRドメイン CDR1、CDR2及びCDR3;(iii)(i)又は(ii)のCDRドメイン、特に、(i)又は(ii)の1以上のCDRドメインの最適化により得られたCDRドメインに由来するCDRドメイン CDR1、CDR2及びCDR3;及び(iv)(i)、(ii)及び/又は(iii)の1以上のCDRドメインにより置換されることになるCDRドメイン、
から独立して選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の抗体VLドメイン。
【請求項6】
フレームワーク領域IからIVは、配列番号8、配列番号9、配列番号11、配列番号12及び配列番号13から選択された配列にみられるフレームワーク領域の組み合わせである、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体VLドメイン。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の抗体VLドメインを含む、単離された抗体又はその機能的フラグメント。
【請求項8】
VH1A、VH1B、VH2、VH3、VH4、VH5及びVH6から選択されるVHドメインサブファミリーに属するVHドメインを含み、特にVHドメインサブファミリーVH3又はVH4、特にはVHドメインサブファミリーVH3に属するVHドメインを含む、請求項7に記載の単離された抗体又はその機能的フラグメント。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の単離された抗体又はその機能的フラグメントであって、以下:
IgG抗体、Fabフラグメント、scFvフラグメント、一本鎖ダイアボディ(scDb)、タンデムscDb(Tandab)、鎖状二量体scDb(LD-scDb)、環状二量体scDb(CD-scDb)、二重特異性T細胞誘導(engager)(BiTE; タンデム ジ-scFv)、タンデムトリ-scFv、トリボディ、二重特異性Fab2、ジミニ抗体(di-miniantibody)、テトラボディ、scFv-Fc-scFv融合物、ジ-ダイアボディ、DVD-Ig、IgG-scFab、scFab-dsscFv、Fv2-Fc、IgG-scFv 融合物、例えば、bsAb(軽鎖のC末端と結合したscFv)、Bs1Ab(軽鎖のN末端と結合したscFv)、Bs2Ab(重鎖のN末端に結合したscFv)、Bs3Ab(重鎖のC末端と結合したscFv)、Ts1Ab(重鎖及び軽鎖のN末端に結合したscFv)、Ts2Ab(重鎖のC末端に結合したdsscFv)、並びにノブ・イントゥ・ホール(Knob-into-Holes)(KiHs)(KiH 技術により調製された二重特異性IgG)及びデュオボディ(デュオボディ技術により調製された二重特異性IgG)、
からなる群から選ばれた、単離された抗体又はその機能的フラグメント。
【請求項10】
請求項7から9のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその機能的フラグメント、並びに、必要に応じて薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項11】
(i)請求項1から6のいずれか一項に記載の抗体VLドメイン、又は、請求項7から9のいずれか一項に記載の単離された抗体もしくはその機能的フラグメントをコードし;あるいは(ii)請求項17に記載の方法によって得られる、核酸配列もしくは核酸配列の集合物。
【請求項12】
請求項11に記載の核酸配列又は核酸配列の集合物を含む、ベクター又はベクターの集合物。
【請求項13】
請求項11に記載の核酸配列もしくは核酸配列の集合物、又は請求項12に記載のベクターもしくはベクターの集合物を含む、宿主細胞、特に、発現宿主細胞。
【請求項14】
請求項1から6のいずれか一項に記載の抗体VLドメイン、又は請求項7から9のいずれか一項に記載の単離された抗体もしくはその機能的フラグメントの製造方法であって、請求項11に記載の核酸配列もしくは核酸配列の集合物、又は請求項12に記載のベクターもしくはベクターの集合物、又は請求項13に記載の宿主細胞、特に、発現宿主細胞を発現するステップを含む、方法。
【請求項15】
ヒト化ウサギ抗体又はげっ歯類抗体の作製方法であって、以下のステップ:
a.目的の抗原によるウサギ又はげっ歯類の免疫化;
b.少なくとも一つの目的の抗体の単離;及び
c.請求項1から6のいずれか一項に記載の抗体VLドメインをコードする核酸配列に対する、前記少なくとも一つの目的の抗体のVL CDR領域のクローニング、
を含む、方法。
【請求項16】
以下の1以上のステップ:
aa.特に、蛍光活性化細胞選別(fluorescence activated cell-sorting)を用いることにより、目的の抗原と相互作用する親和性成熟メモリーB細胞のクローン単離;
ab.単一のB細胞クローンの不死化を必要としない共培養システムにおける、単一のB細胞の培養;
ac.目的の抗原に結合する少なくとも1つの抗体を同定するための、細胞ベースのELISAでのB細胞培養上清のスクリーニング;及び/又は
ad.ヒト抗体VHドメインをコードする核酸配列に対する、少なくとも1つの抗体のVH CDR領域のクローニング、
をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1から6のいずれか一項に記載の抗体VLドメインをコードする核酸配列、又は、請求項7から9のいずれか一項に記載の単離された抗体もしくはその機能的フラグメントをコードする1以上の核酸配列の作製方法であって、(i)ヒトVκフレームワーク領域IからIII;(ii)CDRドメインCDR1、CDR2及びCDR3並びに(iii)フレームワーク領域IVをコードする、1以上の核酸配列を組み合わせることを含み、
該フレームワーク領域IVは、
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系塩基配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系塩基配列;
から選択され、
特に、上記作製方法は、以下の方法:
i.ヒト又はヒト化Vκドメインをコードする核酸配列を含む核酸構築物、特に、組換えベクターにおいて、Vκフレームワーク領域をフレームワーク領域IVによって置換し、ここで、
該フレームワーク領域IVは、
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系塩基配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系塩基配列
から選択され;
ii.1以上のステップにおいて、フレームワーク領域IVをコードする核酸配列を含む核酸構造物、特に組換えベクターに、(i)ヒトVκフレームワーク領域IからIII;並びに(ii)CDR ドメインCDR1、CDR2及びCDR3をコードする1以上の核酸配列を挿入し、ここで、
前記フレームワーク領域IVは、
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系塩基配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系塩基配列
から選択され;
iii.ヒト又はヒト化Vκドメインをコードする核酸配列において、フレームワーク領域IVを産生するために、フレームワーク領域IVをコードする核酸配列を突然変異させ、ここで、
該フレームワーク領域IVは、
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系塩基配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系塩基配列
から選択され;あるいは
iv.1以上のステップにおいて、ヒトVκフレームワーク領域IからIII、CDR ドメインCDR1、CDR2及びCDR3、並びにフレームワーク領域IVを含む、軽鎖ドメインをコードする核酸配列を含む核酸構築物、特に組換えベクターにおいて、目的の抗体由来の対応するCDRドメイン(複数)をコードする核酸配列(複数)によって前記CDRドメインをコードする1以上の核酸配列を置換すること、ここで、
前記フレームワーク領域は、
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系塩基配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系塩基配列
から選択され
のうちの一つが用いられる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は有利な特性を有する新規抗体フレームワークに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
本発明は、高い安定性及び少ない凝集傾向のような有利な特性を有する、Vκ由来のフレームワーク領域IからIII及びVλ由来のフレームワーク領域IVを含む、新規なキメラヒト抗体軽鎖フレームワークに関する。
【0003】
最初のモノクローナル抗体の開発から過去40年で(“mAbs”; Kohler & Milstein, Nature. 256 (1975) 495-7)、抗体は研究、診断及び治療目的のための生体分子のますます重要な種類となっている。はじめに、抗体は対応する目的の抗原で免疫動物からもっぱら得られた。非ヒト由来の抗体は、研究及び診断に用いることができるが、治療手段においては、人体は非ヒト抗体を異物として認識し、非ヒト抗体薬物に対して免疫応答を生じ得、それはほとんど効果的でないか効果的でない。したがって、遺伝子組み換え方法は、非ヒト抗体にほとんど免疫原生を与えないように設定されてきた。
【0004】
非ヒトmAbをほとんど免疫原性のない治療に変換する最初の試みは、動物(例えばげっ歯類)の可変ドメイン及びヒト定常領域からなるキメラ抗体の作成を伴った(Boulianne et al., Nature 312, (1984) 643 - 646)。さらなるアプローチは ヒト可変ドメイン足場にCDRを導入することによって(Jones et al. Nature 321 (1986) 522 - 525; Riechmann et al., Nature 332 (1988) 323-7)、又は、可変ドメインを変換する(resurfacing)こと(Roguska et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91 (1994) 969-973)によるげっ歯類mAbのヒト化を目的とした。
【0005】
CDRループ移植(CDR loop grafting)によるヒト化のため、ヒト受容体フレームワークは、ドナーフレームワークに対する相同性(例えばRoguska et al., Protein Engineering 9 (1996) 895-904; WO/2008/144757 (ウサギに関する))、又は、好ましい安定性プロフィール(Ewert et al., Methods 34 (2004) 184-199)に基づいて選択される。後者の概念は普遍的可変ドメインフレームワークでのウサギ抗体ヒト化のために利用されている。
【0006】
いずれかの選択された方法によっても得られるmAb又は機能的フラグメントはドナーmAbの所望の薬力学的特性を理想的に保持し、同時に、薬物様生物物理学的特性及び最少の免疫原性を示す。mAb又はその機能的フラグメントの生物物理学的特性に関して、凝集の傾向は、主に以下の三つの理由により、治療的分子の開発可能性に関する主要な関心事であった。
【0007】
第一に、タンパク質凝集は宿主内における、抗薬物抗体の形成及び、最終的には薬物中和抗体をもたらす、免疫応答を誘発するためのより高い可能性を一般的に示す(Joubert et al., J. Biol. Chem. 287 (2012) 25266-25279)。
【0008】
第二に、凝集はそれらの除去のための高い労力に因り、製造収量に影響する(Cromwell et al., AAPS Journal 8 (2006), Article 66)。
【0009】
第三に、オフターゲット(off-target)効果が観察されることがある。オリゴマー形成に対する関心は、標的及びコンストラクト当たりただ一つの結合価を有する二重特異性(又は多重特異性)抗体型を含む、一価の結合が好ましい適用についてより一層明らかである。なぜならば、それらの場合におけるオリゴマー形成は、潜在的にオフターゲット効果をもたらす多価結合性を有するタンパク質凝集を生じるためである。そのような非特異的活性の例には、二重特異性抗体型の一本(鎖)CD3ε結合ドメインを有するコンストラクトの使用がある。そのような型は、例えば、がん抗原に対しては二つの結合ドメインの一つによって結合し、細胞障害性T細胞を救援するCD3ε結合ドメインに対しては二つの結合ドメインの二つ目に結合し得る。一価のCD3ε結合部分の架橋結合はCD3εを介するシグナル伝達を誘導するために必要とされるので、T細胞は、標的細胞の表面に結合された複数の二重特異性コンストラクトによって結合されたときに、刺激されるにすぎないであろう、そして、そのため、架橋結合分子の性質を取り入れることは、もっぱらがん細胞に向けられる特定のT細胞応答を生じる。これに対して、そのようなコンストラクトのオリゴマーは架橋結合二重特異性抗体の性質を示し、それによって細胞障害性T細胞を活性化し、がん細胞に結合しなかった場合であっても、それによって、T細胞の系統的な活性化をもたらす。そのようなT細胞の非特異的かつ系統的な活性化は、有害作用につながるサイトカインレベルの上昇を生じ得た。
【0010】
さらに、クローニング、発現及び精製方法が標準化され得るので、信頼性があり、かつ、一般に適用可能なアクセプターフレームワークは、非ヒト抗体をヒト化する頑強な方法を可能にするために有益である。
【0011】
非ヒトmAbのヒト化についての上述の基準を満たすために、公表された方法論は、非ヒトの相補性決定領域の移植(engraftment)のための受容体足場としての、ヒトコンセンサス可変ドメインフレームワーク配列の使用を提唱する。タンパク質中のそれぞれのアミノ酸位置について、タンパク質安定性に寄与する残基は進化の過程で生殖系配列のプールで豊富であるという推定に基づいて、得られるヒト化可変ドメインがそれぞれの可変ドメインファミリーのヒト生殖系列コンセンサス配列に近くなればなるほど、期待される安定性が高くなることは、共通の理解である。Steipe(Steipe et al., J. Mol. Biol. 1994 240 (1994) 188-92)によって記載され、Worn(Worn et al., J. Mol. Biol. 305 (2001) 989-1010)により概説されているこの概念は、広く一般に受け入れられ、幅広い用途を見出す。非限定的な例は、(a)非ヒト抗体のヒト化のためのコンセンサス配列可変ドメインの使用(Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 4285-4289);(b)安定的な標的結合抗体のインビトロスクリーニングのためのCDRライブラリを作成するためのコンセンサス配列可変ドメインの使用(Knappik et al., J. Mol. Biol. 296 (2000) 57--86);そして、(c)非コンセンサス残基をコンセンサス残基に交換することによる、抗体可変ドメインの安定性を改善するための知識に基づいた方法(Steipe, loc. cit.)、である。
【0012】
加えて、種々の可変ドメインファミリーの安定性は、もっとも安定した可変重(鎖)ドメインであるVH3について記載されている。重要なことに、可変軽鎖ドメインの場合にはVλファミリーよりもむしろVκファミリーが好ましい(Ewert, loc. cit.)。特に、VH3及びVκ1のヒトコンセンサス配列は、有利な生物物理学的特性を有し(Ewert, loc. cit.)、非ヒト原料の抗体のヒト化に特に適している(Carterでの使用, loc. cit.)と記述されてきた。
【0013】
これに即して、ヒトVκ1-VH3コンセンサスフレームワークhu-4D5がげっ歯類及びうさぎ抗体のヒト化に用いられてきたという、いくつかの刊行物がある(Rader, J. Biol. Chem. 275 (2000) 13668-13676; WO/2005/016950; WO 2008/004834)。あるいは、hu-4D5と同じファミリーに属する天然配列はウサギ起源由来の安定なヒト化一本鎖(scFv)フラグメントを生成するために用いられてきた(US 8,293,235; Borras et al., J. Biol. Chem. 285 (2010) 9054-9066)。
【0014】
重要なことに、可変ドメインが定常ドメイン1に隣接し、かつ、定常ドメイン1に接している、完全長抗体の文脈で、自然選択が安定的な可変ドメインを常に進化させたことは注目すべきである。それゆえに、例えば、一本鎖Fv(scFv)フラグメントの文脈では、ある非コンセンサス残基は、単離された可変ドメインに対しより良い安定性を十分に与え得る。この仮説の裏付けとして、安定性に寄与する非コンセンサス突然変異が米国特許出願US 2009/0074780に記載されている。
【0015】
さらに、抗体安定性は、生産、精製、保存性及び、結果として、抗体治療のための製品価格にとって非常に重要である。それらの要素の1以上の軽微な改善でさえ、抗体薬物の研究開発が商業的に実現可能となるかという問題について、高度に関連し得る。
【0016】
従って、非ヒト抗体からのヒト化抗体薬物の獲得に関する問題に取り組む多くの試みがなされてきたという事実にも関わらず、高い安定性及び少ない凝集傾向のような、有利な特性であって、できる限り免疫原性の配列を作成するリスクを減らすために、天然配列と比べた際に、ヒト抗体フレームワークができるかぎり少ない突然変異を含み、理想的には含まないとの特性を有する、新規ヒト抗体フレームワークを開発するための、大きな、未だ対処されていない要求が未だ残っている。そのような安定的なヒトフレームワークは、例えばループ移植によって、又は、単に親抗体と安定フレームワークとの間の安定性に寄与する構成要素を交換することにより、完全ヒト抗体又はそのフラグメントを安定化するために用いることもできる。
【0017】
本発明により与えられるその問題の解決、すなわち、高い安定性及び少ない凝集傾向のような有利な特性を有する、Vκ由来のフレームワーク領域IからIII及びVλ由来のフレームワーク領域IVを含む、新規なキメラヒト抗体軽鎖フレームワークは、これまで、先行技術により達成又は示唆されていない。
【発明の概要】
【0018】
本発明は、高い安定性、少ない凝集傾向及び最少の免疫原性のような有利な特性を有する、Vκ由来のフレームワーク領域IからIII及びVλ由来のフレームワーク領域IVを含む、新規なキメラヒト抗体軽鎖フレームワークに関する。
【0019】
従って、第1の態様において、本発明は(i)ヒトVκフレームワーク領域IからIII;(ii)CDRドメインCDR1、CDR2及びCDR3;及び(iii)フレームワーク領域IVを含む、抗体VLドメインであって、該フレームワーク領域IVは、
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系配列;
から選択され、
b又はcの場合に、フレームワーク領域IVが配列FGQGTKLTVLG(配列番号15)を有することを条件とし、
(w)前記ヒトVκフレームワーク領域IからIIIは、クローンのリスト: FW1.4gen(配列番号4)、375-FW1.4opt、435-FW1.4opt、509-FW1.4opt、511-FW1.4opt、534-FW1.4opt、567-FW1.4opt、578-FW1.4opt、1-FW1.4opt、8-FW1.4opt、15-FW1.4opt、19-FW1.4opt、34-FW1.4opt、35-FW1.4opt、42-FW1.4opt、及び43-FW1.4optにみられるフレームワーク領域とは異なり;
(x)前記ヒトVκフレームワーク領域IからIIIは、クローンのリスト: FW1.4gen(配列番号4)、375-FW1.4opt、435-FW1.4opt、509-FW1.4opt、511-FW1.4opt、534-FW1.4opt、567-FW1.4opt、578-FW1.4opt、1-FW1.4opt、8-FW1.4opt、15-FW1.4opt、19-FW1.4opt、34-FW1.4opt、35-FW1.4opt、42-FW1.4opt、及び43-FW1.4optにみられるフレームワーク領域の配列から置換によって得られる配列とは異なり;
(y)前記ヒトVκフレームワーク領域IからIIIは、配列FW1.4gen(配列番号4)の位置15、22、48、57、74、87、88、90、92、95、97及び99(AHo ナンバリング)の1以上における突然変異によって得られる配列とは異なり;又は、
(z)前記ヒトVκフレームワーク領域IからIIIは、配列番号8を有するヒトVκ配列内の各領域と比較して、5以下の突然変異を含み、特に、配列番号8を有するヒトVκ配列と比較して、5未満、4未満、3未満、特に、ただ一つの突然変異を含むか、又は突然変異を含まない、
抗体VLドメインに関する。
【0020】
第2の態様において、本発明は、本発明に係る抗体VLドメインを含む、単離された抗体又はその機能的フラグメントに関する。
【0021】
第3の態様において、本発明は、本発明の単離された抗体又はその機能的フラグメント、並びに、必要に応じて薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を含む、医薬組成物に関する。
【0022】
第4の態様において、本発明は、本発明のいずれか一つの抗体VLドメイン、又は、本発明の単離された抗体もしくはその機能的フラグメントをコードする核酸配列もしくは核酸配列の集合物、及び/又は本発明の第9の態様に係る方法によって得られる、核酸配列もしくは核酸配列(複数)に関する。
【0023】
第5の態様において、本発明は、本発明の核酸配列又は核酸配列の集合物を含む、ベクター又はベクターの集合物に関する。
【0024】
第6の態様において、本発明は、本発明の核酸配列もしくは核酸配列の集合物、又は本発明のベクターもしくはベクターの集合物を含む、宿主細胞、特に、発現宿主細胞に関する。
【0025】
第7の態様において、本発明は、本発明のいずれか一つの抗体VLドメイン、又は本発明の単離された抗体もしくはその機能的フラグメントの製造方法であって、本発明の核酸配列もしくは核酸配列の集合物、又は本発明のベクターもしくはベクターの集合物、又は本発明の宿主細胞、特に、発現宿主細胞を発現するステップを含む、方法に関する。
【0026】
第8の態様において、本発明は、ヒト化ウサギ抗体の作製方法であって、以下のステップ:
a)目的の抗原によるウサギの免疫化;
b)少なくとも一つの目的の抗体の単離;及び
c)本発明に係る抗体VLドメインをコードする核酸配列に対する、前記少なくとも一つの目的の抗体のVL CDR領域のクローニング、
を含む、方法に関する。
【0027】
第9の態様において、本発明は、本発明に係る抗体VLドメインをコードする核酸配列、又は、本発明に係る単離された抗体もしくはその機能的フラグメントをコードする1以上の核酸配列の作製方法であって、(i)ヒトVκフレームワーク領域IからIII;(ii)CDRドメインCDR1、CDR2及びCDR3並びに(iii)フレームワーク領域IVをコードする、1以上の核酸配列を組み合わせることを含み、
該フレームワーク領域IVは、
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系塩基配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系塩基配列;
から選択され、
特に、上記作製方法は、以下の方法:
i.ヒト又はヒト化Vκドメインをコードする核酸配列を含む核酸構築物、特に、組換えベクターにおいて、Vκフレームワーク領域をフレームワーク領域IVによって置換し、ここで、
該フレームワーク領域IVは、
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系塩基配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系塩基配列
から選択され;
ii.1以上のステップにおいて、フレームワーク領域IVをコードする核酸配列を含む核酸構造物、特に組換えベクターに、(i)ヒトVκフレームワーク領域IからIII;並びに(ii)CDR ドメインCDR1、CDR2及びCDR3をコードする1以上の核酸配列を挿入し、ここで、
前記フレームワーク領域IVは、
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系塩基配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系塩基配列
から選択され;
iii.ヒト又はヒト化Vκドメインをコードする核酸配列において、フレームワーク領域IVを産生するために、フレームワーク領域IVをコードする核酸配列を突然変異させ、ここで、
該フレームワーク領域IVは、
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系塩基配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系塩基配列
から選択され;あるいは
iv.1以上のステップにおいて、ヒトVκフレームワーク領域IからIII、CDR ドメインCDR1、CDR2及びCDR3、並びにフレームワーク領域IVを含む、軽鎖ドメインをコードする核酸配列を含む核酸構築物、特に組換えベクターにおいて、目的の抗体由来の対応するCDRドメイン(複数)をコードする核酸配列(複数)によって前記CDRドメインをコードする1以上の核酸配列を置換すること、ここで、
前記フレームワーク領域は、
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系塩基配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系塩基配列
から選択される、
のうちの一つが用いられる、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、フレームワーク及びCDR領域を概説する可変ドメイン形態を示す。
【
図2A】
図2Aは、hu-4D5の可変ドメイン配列(Carter, 1992)及び試験された別のフレームワークの配列アライメントを示す。hu-4D5との相違点は、黒色で示される。hu-4D5については、VκフレームワークIからIV(配列番号34から37)及びVHフレームワークIからIV(配列番号38から41)のフレームワーク領域のみが示される。
【
図2B】
図2Bは、hu-4D5の可変ドメイン配列(Carter, 1992)及び試験された別のフレームワークの配列アライメントを示す。hu-4D5との相違点は、黒色で示される。hu-4D5については、VκフレームワークIからIV(配列番号34から37)及びVHフレームワークIからIV(配列番号38から41)のフレームワーク領域のみが示される。
【
図3】
図3は、scFv1からscFV10についてのモノマー含有量の正規化された時間分解による減少の比較を示す。
【
図4】
図4は、フレームワークIII残基AHo101とラムダ連結領域(フレームワークIV);VLカッパ(上;PDB ID:1FVC)及びVLラムダ(下;PDB ID 2A9M)との相互作用のモデルを示す。
【
図5】
図5は、天然/本来の可変ドメイン(灰色)及び、ラムダフレームワークIVを含むVLドメイン(黒色)を有する、ヒト化マウスモノクローナル抗体の2つのscFvコンストラクトの正規化されたSE-HPLCクロマトグラムの重ね合わせを示す。正規化されたscFVモノマーのピークはアスタリスク(*)により注釈され、一方、オリゴマー及び凝集のピークは括弧で強調されている。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
非ヒト抗体のヒト化/安定化、又は、ヒト抗体の安定化のための、ヒトフレームワークを作成するための従前の手法と比較した、本発明の特性は、本発明が、改善されたタンパク質安定性及び少ない凝集傾向を有する、κ-λキメラ可変軽(鎖)ドメインをもたらす、λ連結セグメント(フレームワーク領域IV)によるκ可変軽(鎖)ドメイン中のκ連結セグメントの置換に関する、という事実である。それは、タンパク質安定性をさらに向上するため及び凝集傾向をさらに少なくするために、位置AHo101におけるκコンセンサス残基(フレームワーク領域III)の突然変異、及び、κ-λキメラ可変軽(鎖)ドメイン中のλ連結セグメントのパッキング(packing)を支持するためのλコンセンサス残基による置換にさらに関する。
【0030】
従って、第1の態様において、本発明は(i)ヒトVκフレームワーク領域IからIII;(ii)CDRドメインCDR1、CDR2及びCDR3;及び(iii)フレームワーク領域IV、を含む抗体VLドメインであって、該フレームワーク領域IVは、
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系配列;
から選択され、
b又はcの場合に、フレームワーク領域IVが配列FGQGTKLTVLG(配列番号15)を有することを条件とし、
(w)前記ヒトVκフレームワーク領域IからIIIは、クローンのリスト: FW1.4gen(配列番号4)、375-FW1.4opt、435-FW1.4opt、509-FW1.4opt、511-FW1.4opt、534-FW1.4opt、567-FW1.4opt、578-FW1.4opt、1-FW1.4opt、8-FW1.4opt、15-FW1.4opt、19-FW1.4opt、34-FW1.4opt、35-FW1.4opt、42-FW1.4opt、及び43-FW1.4optにみられるフレームワーク領域とは異なり;
(x)前記ヒトVκフレームワーク領域IからIIIは、クローンのリスト: FW1.4gen(配列番号4)、375-FW1.4opt、435-FW1.4opt、509-FW1.4opt、511-FW1.4opt、534-FW1.4opt、567-FW1.4opt、578-FW1.4opt、1-FW1.4opt、8-FW1.4opt、15-FW1.4opt、19-FW1.4opt、34-FW1.4opt、35-FW1.4opt、42-FW1.4opt、及び43-FW1.4optにみられるフレームワーク領域の配列から置換によって得られる配列とは異なり;
(y)前記ヒトVκフレームワーク領域IからIIIは、配列FW1.4gen(配列番号4)の位置15、22、48、57、74、87、88、90、92、95、97及び99(AHo ナンバリング)の1以上における突然変異によって得られる配列とは異なり;又は、
(z)前記ヒトVκフレームワーク領域IからIIIは、配列番号8を有するヒトVκ配列内の各領域と比較して、5以下の突然変異を含み、特に、配列番号配列番号8を有するヒトVκ配列と比較して、5未満、4未満、3未満、特に、ただ一つの突然変異を含むか、又は突然変異を含まない、
抗体VLドメインに関する。
【0031】
本発明の文脈において、クローン375-FW1.4opt、435-FW1.4opt、509-FW1.4opt、511-FW1.4opt、534-FW1.4opt、567-FW1.4opt、578-FW1.4opt、1-FW1.4opt、8-FW1.4opt、15-FW1.4opt、19-FW1.4opt、34-FW1.4opt、35-FW1.4opt、42-FW1.4opt、及び43-FW1.4optは、Borrasら(loc. cit.)のクローンリストを言う。これらクローンは、VLドメインFW1.4gen(配列番号4)の変異体であって、それらは、表5に示すように、FW1.4gen(配列番号4)のVLフレームワーク領域とは、VLフレームワーク領域におけるある一定の位置において異なる。
【0032】
特定の実施態様においては、前記フレームワーク領域IVはFGQGTKLTVLG(配列番号15)ではない。
【0033】
本発明の文脈において、用語「抗体」とは、クラスIgG、IgM、IgB、IgA及びIgD(又はそれらのいずれかのサブクラス)に属するタンパク質として定義される、「イムノグロブリン」(Ig)の同義語として用いられ、すべての慣習的に知られている抗体及びその機能的フラグメントを含む。抗体/イムノグロブリンの「機能的フラグメント」は、抗原結合領域を保持する、抗体/イムノグロブリンの断片(例えば、IgGの可変領域)として定義される。抗体の「抗原結合領域」は、抗体の1以上の超可変領域(複数)、すなわち、CDR-1、-2及び/又は-3領域に一般的にみられるが、可変「フレームワーク」領域は、例えばCDRに対する足場を提供することによって、抗原結合における重要な役割を果たすこともできる。
【0034】
本発明の文脈においては、別段明確に言及しない限りは、Honegger & Pluckthunにより提唱されたナンバリングシステムが用いられ(Honegger & Pluckthun, J. Mol. Biol. 309 (2001) 657-670)、さらに、以下の残基:CDR-L1:L24-L42;CDR-L2:L58-L72;CDR-L3:L107-L138;CDR-H1:H27-H42;CDR-H2:H57-H76;CDR-H3:H109-H138はCDR領域として定義される。好ましくは、「抗原結合領域」は少なくとも可変軽(VL)鎖のアミノ酸残基4から149及び可変重(VH)鎖のアミノ酸残基5から149を含み、より好ましくは、VLのアミノ酸残基3から149及びVHのアミノ酸残基4から146を含み、VL及びVH鎖(
図2に従いナンバリングする、VLのアミノ酸位置1から149及びVHのアミノ酸位置1から149)が特に好ましい。フレームワーク及びCDR領域は
図2に示される。本発明の使用に好ましいイムノグロブリンのクラスはIgGである。本発明の「機能的フラグメント」は、F(ab’)
2 フラグメント、Fabフラグメント及びscFvのドメインを含む。F(ab’)
2 又はFabは、CH1ドメインとCLドメインとの間で生じる分子間ジスルフィド相互作用を最小限にする又は完全に除去するように設計され得る。本発明の抗体及びその機能的フラグメントは、段落[0055]から[0058]おいてさらに述べるように、二官能性又は多官能性コンストラクトの一部であってよい。
【0035】
本発明の文脈において、用語「Vκ」及び「Vλ」は、配列の同一性及び相同性により分類される抗体軽鎖配列のファミリーを言う。例えば、BLOSUM等の相同性検索マトリックスを用いることによる配列の相同性の測定方法(Henikoff, S. & Henikoff, J. G., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 10915-10919)、及び、相同性による配列の分類方法は、当業者に周知である。VκとVλのいずれについても、異なるサブファミリーを同定することができる(例えば、Vκ1からVκ4 のVκ及びVλ1からVλ3のVλを分類する、Knappik、loc. cit.を参照)。
【0036】
本発明の文脈において、用語「クローンのリスト:...にみられるフレームワーク領域の配列から置換によって得られる配列」は、(i)前記リストに含まれるすべての配列において所定の位置に存在するアミノ酸残基(Borras, loc. cit.参照)、又は、(ii)Borrasにより最適化されてきた位置について(Borras, loc. cit.)、前記配列の多様化された位置の一つに存在するアミノ酸残基のうちいずれか一つ(Borrasによる、位置15、22、40、49、58、69、70、72、74、77、79及び81(Borras, loc. cit.)であって、AHo位置15、22、48、57、74、87、88、90、92、95、97及び99に相当する)、のいずれかを用いることにより作成され得る配列を言う。
【0037】
本発明の一の実施態様において、フレームワーク領域IIIにおける位置AHo101(Honegger及びPluckthunのナンバリングシステムによる位置101)のアミノ酸残基は、ヒトVλコンセンサス配列の該位置に存在するアミノ酸残基であり、特に、前記アミノ酸残基はフェニルアラニンとは異なり、より特には、前記アミノ酸残基はグルタミン酸である。
【0038】
本発明の一の実施態様において、前記Vκフレームワーク領域IからIIIは、Vκ1、Vκ2、Vκ3及びVκ4、特にVκ1から選択される、Vκドメインサブファミリーに属する。
【0039】
本発明の文脈において、Vκドメインサブファミリーは、配列番号23から26に示されるコンセンサス配列によって表される。所定の抗体可変軽鎖ドメインは、段落[0039]に記載の方法を用いた際に、前記Vκドメインサブファミリーと最も高度な配列の相同性を示す場合、Vκドメインサブファミリーに属しているとみなされる。
【0040】
特定の実施態様において、Vκフレームワーク領域IからIIIは、(a)最も近いヒト生殖配列、又は(b)配列番号23から26を有するコンセンサス配列の一つ、特に配列番号23と比較して5以下の突然変異を含み、特に、(a)最も近いヒト生殖配列、又は(b)配列番号23から26を有するコンセンサス配列の一つ、特に配列番号23と比較して、5未満、4未満、3未満、特にただ一つの突然変異を含むか、又は突然変異を含まない。
【0041】
本発明の一の実施態様において、前記Vκフレームワーク領域IからIIIは、配列番号2及び配列番号8から選択される配列、特に配列番号8の配列に存在するフレームワーク領域である。
【0042】
本発明の一の実施態様において、前記CDRドメインCDR1、CDR2及びCDR3は、(i)目的の抗原に対して特異性を有する親非ヒト抗体由来、特に親ウサギ抗体由来又は親げっ歯類抗体、特に親マウスもしくはラット抗体由来のCDRドメイン CDR1、CDR2及びCDR3;(ii)Vκドメインを含む親ヒト抗体又は親ヒト化抗体由来、特に、治療のために認可され、又はその他の商業化されている抗体由来のCDRドメイン CDR1、CDR2及びCDR3;(iii)(i)又は(ii)のCDRドメイン、特に、(i)又は(ii)の1以上のCDRドメインの最適化により得られたCDRドメインに由来するCDRドメイン CDR1、CDR2及びCDR3;及び(iv)(i)、(ii)及び/又は(iii)の1以上のCDRドメインにより置換されることになるCDRドメイン、から独立して選択される。
【0043】
本発明の一の実施態様において、フレームワーク領域IからIVは、配列番号8、配列番号9、配列番号11、配列番号12及び配列番号13から選択された配列にみられるフレームワーク領域の組み合わせである。
【0044】
第2の態様において、本発明は、本発明に係る抗体VLドメインを含む、単離された抗体又はその機能的フラグメントに関する。
【0045】
特定の実施態様において、抗体VLドメインは目的の標的に対する結合特異性を有する。
【0046】
結合特異性は絶対的ではなく、相対的な性質であるので、本明細書で使用される、結合分子は、そのような結合分子が以下の標的分子と1以上の基準分子(複数)とを識別可能な時は、標的、例えばヒトCD3「に対し/に特異的」、(標的)「を特異的に認識する」又は(標的)「に特異的に結合する」。その最も一般的な形式(及び定義されていない基準が述べられている場合)において、「特異的な結合」は、例えば、当該技術分野において知られる特異性アッセイ方法に従って測定される、目的の標的生体分子と関連のない生体分子とを識別する結合分子の能力を指している。そのような方法は、ウェスタンブロット、ELISA、RIA、ECL、IRMAテスト及びペプチドスキャンを含むが、それらに限られない。例えば、標準ELISAアッセイが行われ得る。スコアリングは標準発色展開によって行われるであろう(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼを有する二次抗体及びテトラメチルベンジジンと過酸化水素)。あるウェルにおける反応は、例えば450nmにおけるような、光学密度によりスコアされる。典型的なバックグラウンド(=陰性反応)は約0.1ODであり、典型的な陽性反応は約1ODであろう。これは、陽性スコアと陰性スコアとの比率が10倍以上となり得ることを意味する。一般的に、結合特異性の測定は、単一の基準生体分子ではなく、粉ミルク、BSA、トランスフェリン等のような、約3から5の関連のない生体分子の一組を用いることにより行われる。
【0047】
本発明の文脈において、用語「約」又は「おおよそ」は、所定の数値又は範囲の、90%と110%の間を意味する。
【0048】
しかしながら、「特異的な結合」は、標的生体分子と、基準点として用いられる1以上の密接に関連する生体分子(複数)とを識別する結合分子の能力をも言うこともある。さらに、「特異的な結合」は、例えば標的生体分子の異なるドメイン、領域又はエピトープのような、その標的抗原の異なる部分を識別し、もしくは、標的生体分子の1以上の重要なアミノ酸残基又は一続きのアミノ酸残基を識別する、結合分子の能力と関係することがある。
【0049】
本発明の文脈において、用語「エピトープ」は標的生体分子と結合分子との間の特異的な結合に必要とされる、所定の標的生体分子の部分を言う。エピトープは連続、すなわち、標的生体分子に存在する隣接した構成要素によって構成されてよく、又は、不連続、すなわち、標的としてのタンパク質のアミノ酸配列内のような、標的生体分子の主要な配列内の異なる位置にあるが、体液内等の、標的生体分子がとる三次元構造において、非常に近接している、構成要素によって構成されてもよい。
【0050】
本発明の一の実施態様において、単離された抗体又はその機能的フラグメントは、IgG抗体、Fab及びscFvフラグメントから選択される。
【0051】
本発明の他の特定の実施態様において、単離された抗体又はその機能的フラグメントは、一本鎖ダイアボディ(scDb)、タンデムscDb(Tandab)、鎖状二量体scDb(LD-scDb)、環状二量体scDb(CD-scDb)、二重特異性T細胞誘導(engager)(BiTE;タンデム ジ-scFv)、タンデムトリ-scFv、トリボディ、二重特異性Fab2、ジミニ抗体(di-miniantibody)、テトラボディ、scFv-Fc-scFv融合物、ジ-ダイアボディ、DVD-Ig、IgG-scFab、scFab-dsscFv、Fv2-Fc、IgG-scFv 融合物、例えば、bsAb(軽鎖のC末端と結合したscFv)、Bs1Ab(軽鎖のN末端と結合したscFv)、Bs2Ab(重鎖のN末端に結合したscFv)、Bs3Ab(重鎖のC末端と結合したscFv)、Ts1Ab(重鎖及び軽鎖のN末端に結合したscFv)、Ts2Ab(重鎖のC末端に結合したdsscFv)、並びにノブ・イントゥ・ホール(Knob-into-Holes)(KiHs)(KiH 技術により調製された二重特異性IgG)及びデュオボディ(デュオボディ技術により調製された二重特異性IgG)からなる群から選ばれた抗体型である、二重特異性コンストラクトである。一本鎖ダイアボディ(scDb)、特に二重特異性単量体scDbは、本明細書で使用するために特に好適である。
【0052】
二重特異性scDb、特に二重特異性単量体scDbは、VHA-L1-VLB-L2-VHB-L3-VLA、VHA-L1-VHB-L2-VLB-L3-VLA、VLA-L1-VLB-L2-VHB-L3-VHA、VLA-L1-VHB-L2-VLB-L3-VHA、VHB-L1-VLA-L2-VHA-L3-VLB、VHB-L1-VHA-L2-VLA-L3-VLB、VLB-L1-VLA-L2-VHA-L3-VHB又はVLB-L1-VHA-L2-VLA-L3-VHBの順にリンカーL1、L2及びL3によって結合された、二つの可変重鎖ドメイン(VH)又はそのフラグメント及び可変軽鎖ドメイン(VL)又はそのフラグメントを特に含み、ここで、VLA及びVHAドメインは第一の抗原に対する抗原結合部位を共に形成し、VLB及びVHBは第二の抗原に対する抗原結合部位を共に形成する。
【0053】
リンカーL1は特に2から10アミノ酸のペプチドであり、さらに特には3から7アミノ酸、そして最も特には5アミノ酸のペプチドであり、L3リンカーは特に1から10アミノ酸のペプチドであり、より特には2から7アミノ酸、そして最も特には5アミノ酸のペプチドである。中間のリンカーL2は特に10から40アミノ酸のペプチドであり、さらに特には15から30アミノ酸、最も特には20から25アミノ酸のペプチドである。
【0054】
本発明の二重特異性コンストラクトは、当該技術分野において既知のいずれの簡便な抗体製造方法を用いることによって製造することができる(例えば、二重特異性コンストラクトの製造に関してはFischer, N. & Leger, O., Pathobiology 74 (2007) 3-14 ; 二重特異性ダイアボディ及びタンデムscFvsに関してはHornig, N. & Farber-Schwarz, A., Methods Mol. Biol. 907 (2012)713-727、及びWO 99/57150を参照)。本発明の二重特異性コンストラクトの調製のための好適な方法の具体例は、とりわけ、ゲンマブ(Genmab)(Labrijn et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 110 (2013) 5145-5150参照)及びメラス(Merus)(de Kruif et al., Biotechnol. Bioeng. 106 (2010) 741-750参照)の技術をさらに含む。機能的抗体Fc部を含む二重特異性抗体の製造方法もまた、当該技術分野において知られている(例えばZhu et al., Cancer Lett. 86 (1994) 127-134);及びSuresh et al., Methods Enzymol. 121 (1986) 210-228参照)。
【0055】
それらの方法は、モノクローナル抗体の生成、例えば、ハイブリドーマ技術を用いて所望の抗原で免疫されているマウス由来の脾臓細胞と骨髄腫細胞を融合する方法(例えばYokoyama et al., Curr. Protoc. Immunol. Chapter 2, Unit 2.5, 2006参照)、又は、組換え抗体技術(レパートリークローニング又はファージディスプレイ/酵母ディスプレイ)(例えばChames & Baty, FEMS Microbiol. Letters 189 (2000) 1-8参照)、そして、既知の分子クローニング手法を用いて二重特異性コンストラクトを与えるための、2つの異なるモノクローナル抗体の抗原結合ドメインもしくはフラグメント又はそれらの一部の組み合わせを典型的に含む。
【0056】
本発明の一の実施態様において、単離された抗体又はその機能的フラグメントは、VH1A、VH1B、VH2、VH3、VH4、VH5及びVH6から選択されるVHドメインサブファミリーに属するVHドメインを含み、特にVHドメインサブファミリーVH3又はVH4、特にはVHドメインサブファミリーVH3に属するVHドメインを含む。
【0057】
本発明の文脈において、VHドメインサブファミリーは、配列番号27から33に示されるコンセンサス配列によって表される。所定の抗体可変重鎖ドメインは、段落[0039]に記載の方法を用いた際に、前記VHドメインサブファミリーと最も高度な配列相同性を示す場合、VHドメインサブファミリーに属しているとみなされる。
【0058】
特定の実施態様において、VHドメインは(a)最も近いヒト生殖配列、又は(b)配列番号28から34を有するコンセンサス配列の一つ、特に配列番号30と比較して5以下の突然変異を含み、特に、(a)最も近いヒト生殖配列、又は(b)配列番号27から33を有するコンセンサス配列の一つ、特に配列番号30と比較して、5未満、4未満、3未満、特にただ一つの突然変異を含むか、又は突然変異を含まない。
【0059】
第3の態様において、本発明は、本発明の単離された抗体又はその機能的フラグメント、並びに、必要に応じて薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を含む、医薬組成物に関する。
【0060】
第4の態様において、本発明は、本発明のいずれか一つの抗体VLドメイン、又は、本発明の単離された抗体もしくはその機能的フラグメントをコードする核酸配列もしくは核酸配列の集合物、及び/又は本発明の第9の態様に係る方法によって得られる、核酸配列もしくは核酸配列(複数)に関する。
【0061】
第5の態様において、本発明は、本発明の核酸配列又は核酸配列の集合物を含む、ベクター又はベクターの集合物に関する。
【0062】
第6の態様において、本発明は、本発明の核酸配列もしくは核酸配列の集合物、又は本発明のベクターもしくはベクターの集合物を含む、宿主細胞、特に、発現宿主細胞に関する。
【0063】
第7の態様において、本発明は、本発明のいずれか一つの抗体VLドメイン、又は本発明の単離された抗体もしくはその機能的フラグメントの製造方法であって、本発明の核酸配列もしくは核酸配列の集合物、又は本発明のベクターもしくはベクターの集合物、又は本発明の宿主細胞、特に、発現宿主細胞を発現するステップを含む、方法に関する。
【0064】
第8の態様において、本発明は、ヒト化ウサギ抗体又はげっ歯類抗体、特にマウスもしくはラット抗体の作製方法であって、以下のステップ:
a)目的の抗原によるウサギ又はげっ歯類、特にマウスもしくはラットの免疫化;
b)少なくとも一つの目的の抗体の単離;及び
c)本発明に係る抗体VLドメインをコードする核酸配列に対する、前記少なくとも一つの目的の抗体のVL CDR領域のクローニング、
を含む、方法に関する。
【0065】
特定の実施態様において、ヒト化ウサギ抗体を作製する際に、前記抗体VLドメインのフレームワーク領域IVはFGQGTKLTVLG(配列番号15)ではない。
【0066】
特定の実施態様において、本発明の方法は、以下の1以上のステップ:
aa.特に、蛍光活性化細胞選別(fluorescence activated cell-sorting)を用いることにより、目的の抗原と相互作用する親和性成熟メモリーB細胞のクローン単離;
ab.単一のB細胞クローンの不死化を必要としない共培養システムにおける、単一のB細胞の培養;
ac.目的の抗原に結合する少なくとも1つの抗体を同定するための、細胞ベースのELISAでのB細胞培養上清のスクリーニング;及び/又は
ad.ヒト抗体VHドメインをコードする核酸配列に対する、少なくとも1つの抗体のVH CDR領域のクローニング、
をさらに含む。
【0067】
ウサギ抗体又はげっ歯類抗体のヒト化方法は、当業者によく知られている(例えば、2002年10月18日にオンラインで発行されたBorras, loc. cit.; Rader et al, The FASEB Journal, express article 10.1096/fj.02-0281fje; Yu et al (2010) A Humanized Anti-VEGF Rabbit Monoclonal Antibody Inhibits Angiogenesis and Blocks Tumor Growth in Xenograft Models. PLoS ONE 5(2): e9072. doi:10.1371/journal.pone.0009072参照)。ウサギ又はげっ歯類の免疫化は、タンパク質のようなそれ自体が目的の抗原を用いて行われるか、もしくは、ペプチド又はタンパク抗原の場合、例えば目的のペプチド又はタンパク質をコードするプラスミドのような核酸によるウサギのDNA免疫によって行われることがある。
【0068】
第9の態様において、本発明は、本発明に係る抗体VLドメインをコードする核酸配列、又は、本発明に係る単離された抗体もしくはその機能的フラグメントをコードする1以上の核酸配列の作製方法であって、(i)ヒトVκフレームワーク領域IからIII;(ii)CDRドメインCDR1、CDR2及びCDR3並びに(iii)フレームワーク領域IVをコードする、1以上の核酸配列を組み合わせることを含み、
該フレームワーク領域IVは、
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系塩基配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系塩基配列;
から選択され、
特に、上記作製方法は、以下の方法:
i.ヒト又はヒト化Vκドメインをコードする核酸配列を含む核酸構築物、特に、組換えベクターにおいて、Vκフレームワーク領域をフレームワーク領域IVによって置換し、ここで、
該フレームワーク領域IVは、
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系塩基配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系塩基配列
から選択され;
ii.1以上のステップにおいて、フレームワーク領域IVをコードする核酸配列を含む核酸構造物、特に組換えベクターに、(i)ヒトVκフレームワーク領域IからIII;並びに(ii)CDR ドメインCDR1、CDR2及びCDR3をコードする1以上の核酸配列を挿入し、ここで、
前記フレームワーク領域IVは、
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系塩基配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系塩基配列
から選択され;
iii.ヒト又はヒト化Vκドメインをコードする核酸配列において、フレームワーク領域IVを産生するために、フレームワーク領域IVをコードする核酸配列を突然変異させ、ここで、
該フレームワーク領域IVは、
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系塩基配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系塩基配列
から選択され;あるいは
iv.1以上のステップにおいて、ヒトVκフレームワーク領域IからIII、CDR ドメインCDR1、CDR2及びCDR3、並びにフレームワーク領域IVを含む、軽鎖ドメインをコードする核酸配列を含む核酸構築物、特に組換えベクターにおいて、目的の抗体由来の対応するCDRドメイン(複数)をコードする核酸配列(複数)によって前記CDRドメインをコードする1以上の核酸配列を置換すること、ここで、
前記フレームワーク領域は、
a.フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列、特に配列番号16から22から選択されたVλ生殖系配列;
b.Vλ系配列であって、(bi)フレームワーク領域IVのためのヒトVλ生殖系配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号17;又は(bii)フレームワーク領域IVのための再配列されたヒトVλ配列由来のコンセンサスVλ配列、特に配列番号16及び17から選択されたVλコンセンサス配列であるVλ系配列;及び、
c.Vλ系塩基配列であって、フレームワーク領域IVのための最も近いヒトVλ生殖系配列と比較して、1又は2の突然変異、特に1つの突然変異を有するVλ系塩基配列
から選択される、
のうちの一つが用いられる、方法に関する。
【0069】
本発明の方法の特定の実施態様において、(b)又は(c)の場合に、フレームワーク領域IVは配列FGQGTKLTVLG(配列番号15)を有し、
(w)前記ヒトVκフレームワーク領域IからIIIは、クローンのリスト: FW1.4gen(配列番号4)、375-FW1.4opt、435-FW1.4opt、509-FW1.4opt、511-FW1.4opt、534-FW1.4opt、567-FW1.4opt、578-FW1.4opt、1-FW1.4opt、8-FW1.4opt、15-FW1.4opt、19-FW1.4opt、34-FW1.4opt、35-FW1.4opt、42-FW1.4opt、及び43-FW1.4optにみられるフレームワーク領域とは異なり;
(x)前記ヒトVκフレームワーク領域IからIIIは、クローンのリスト: FW1.4gen(配列番号4)、375-FW1.4opt、435-FW1.4opt、509-FW1.4opt、511-FW1.4opt、534-FW1.4opt、567-FW1.4opt、578-FW1.4opt、1-FW1.4opt、8-FW1.4opt、15-FW1.4opt、19-FW1.4opt、34-FW1.4opt、35-FW1.4opt、42-FW1.4opt、及び43-FW1.4optにみられるフレームワーク領域の配列から置換によって得られる配列とは異なり;
(y)前記ヒトVκフレームワーク領域IからIIIは、配列FW1.4gen(配列番号4)の位置15、22、48、57、74、87、88、90、92、95、97及び99(AHo ナンバリング)の1以上における突然変異によって得られる配列とは異なり;又は、
(z)前記ヒトVκフレームワーク領域IからIIIは、配列番号8を有するヒトVκ配列内の各領域と比較して、5以下の突然変異を含み、特に、配列番号8を有するヒトVκ配列と比較して、5未満、4未満、3未満、特に、ただ一つの突然変異を含むか、又は突然変異を含まない。
【0070】
特定の実施態様において、1以上の前記CDRドメイン(複数)がウサギ起源のものである場合は、前記フレームワーク領域IVはFGQGTKLTVLG(配列番号15)ではない。
【実施例0071】
以下の実施例はその範囲を限定することなく本発明を説明する。
【0072】
実施例1: 代表的なウサギCDRを有するscFvコンストラクトの構築
変性及び凝集傾向に関して改善された安定性を示す可変ドメインを同定することは我々の目的であった。加えて、これらドメインは、ヒトにおける免疫応答を誘発するリスクを最小限にするために、ヒト生殖系レパートリーとできる限り近くあるべきである。驚いたことに、コンセンサスVκ1由来のフレームワーク領域IからIII及び異なるVλドメイン由来のフレームワーク領域IV(
図1参照)から構成されるキメラVL ドメインを有するVH3コンセンサスフレームワークの組み合わせは、結果として、優れた生物物理学的特性のscFvコンストラクトとなることを我々は発見した。
【0073】
我々の発明の出発点は、1992年にすでに公表されたようなヒトVH3及びVκ1コンセンサスフレームワークHu-4D5であった(Carter, loc. cit.)。我々は代表的なウサギ抗TNFα抗体のCDR(WO/2009/155723)を記載(Rader 2000, loc. cit.; WO 2005/016950; WO 2008/004834)の通りhu-4D5可変ドメインに移植した。ヒト化可変ドメインは、前記文献中、Borrasによって記載の通りフレキシブルなペプチドリンカーによって結合され、一本鎖Fv(scFv)フラグメント(scFv1)を生じた。
【0074】
hu-4D5に加えて、別の公表されたフレームワークの解決方法が試験された、すなわち、広範な生物物理学的データが公表されている(Borras, loc. cit.)、フレームワークFW1.4gen(scFv2)である。hu-4D5と比較したときに、フレームワークFW1.4genは、いくつかのアミノ酸置換を含み、それによってヒトコンセンサスから外れる(deviating)。VHにおいて、そのような違いはおそらく親和性成熟に起因し、一方で、それは、生殖系配列よりもむしろ体細胞高頻度突然変異を経た成熟抗体の配列を含むヒトcDNAライブラリーに由来するためであり、他方では、いくつかの突然変異が、ウサギCDRを順応させることを目的として、筆者らにより導入されているためである。VLにおいては、突然変異は導入されていないか、又はほんのわずかな突然変異が計画的に導入されており、最大の相違点は、体細胞高頻度突然変異に用いられる生殖系配列によって生じるか、又は、おそらく、ライブラリークローニング方法により生じる人為的結果である、ということを示唆している。
【0075】
hu-4D5又はFW1.4gen(それぞれscFv1及びscFv2)のいずれかにもとづく、2つのコンストラクトの熱変性の実験的測定は、そのフレームワークがヒトコンセンサス配列に高い相同性を有するscFv1の優れた性能を示した、したがって、文献と一致している。驚いたことに、この優れた安定性は、ストレス条件下における保存中の単分散性については、より高い安定性に変換されなかった(表4参照)。これに対して、scFv2は本実施例では、より良い安定性を示した。
【0076】
安定性において観察された違いを合理的に説明する試みの中で、フレームワーク内の配列変異は、より厳密に調べられた。フレームワークIV領域の5アミノ酸領域は、FW1.4genにおけるVκ1のコンセンサス配列に変換されたとき(scFv3)、ストレス安定性試験において、単量体状態の安定性障害をもたらしたことが明らかにされた(
図3参照)。
【0077】
この発見は大いに予想外であった。なぜなら、それは、Vκ1の場合、コンセンサス配列は、各可変ドメインの安定性に関して最も支持された解決を提示したであろう、という共通の理解と矛盾するためである。この発見に基づいて、我々は、モデル系におけるドメイン安定性の決定因子をさらに調査することに着手した。FW1.4のフレームワーク領域IVにおける5アミノ酸が、κタイプよりもむしろλタイプフレームワーク領域IV配列と似ている、連結セグメント(フレームワーク領域IV)を形成したので、我々は、λタイプ連結セグメントは、Vκ1-VH3可変ドメインの安定性について、κタイプ連結セグメントよりも有利であろうと仮定した。
【0078】
実際、我々は、対応するVλフレームワーク領域によるVκ1フレームワーク領域IVのすべての置換は(scFv5、scFv9)、熱変性の中点(表3)と、ストレス安定性試験中の単量体状態の安定性(表4)のいずれの点でも、scFv1又はscFv2と比較して、有利な安定性プロフィールをもたらした、ということを発見した。さらに、Vκ1コンセンサスフレームワークのバックグラウンドへの、異なる切断Vλフレームワーク領域IV生殖系モチーフの導入は(scFv7、scFv10)、いくらかの安定効果を示した。重要なことに、本手法ではすべての個々のフレームワーク領域は、生殖系又は生殖系コンセンサスと同一のままであるので、Vλ領域IVによるVκ1フレームワーク領域IVのすべての置換は、免疫原性となる、より低い可能性を有する。
【0079】
加えて、フレームワークIIIにおける位置AHo101は、フレームワーク領域IVのパッキングに寄与することになるVκ及びVλ可変ドメインの構造モデルの比較によって同定された(
図4)。該位置におけるVλコンセンサス残基の導入は(scFv4、scFv6、scFv8)、熱変性(表3)及びストレス安定性(表4)におけるドメイン安定性のさらなる増大をもたらした。
【0080】
要約すると、scFv可変ドメインコンストラクトの文脈において、優れた安定性プロフィールは、異なるVλ生殖系遺伝子由来のコンセンサスフレームワーク領域IVと、Vκ配列のフレームワーク領域IからIIIとを組み合わせることによって成し遂げられることが見出されている。これら人工及びキメラの可変ドメインの安定性は、可変軽(鎖)ドメインのフレームワーク領域IIIにおける、フレームワーク領域IVと空間的に非常に近接している位置の、改変F101E(AHoナンバリング体系による)によってさらに改善される。
【0081】
重要なことに、公表されている事例(Schafer, Protein Engineering, Design & Selection 25 (2012) 485-505)に基づいて、可変ドメインの好ましい特性は、他の抗体型にも変換する(translate)ことが予測される。
【0082】
Borrasらによって公表されているCDR定義を用いて(Borras, loc. cit.)、代表的なウサギバインダーは文献(WO 2009/155723)から同定され、そのCDRは、ヒトコンセンサスVH3/Vκ1フレームワークの各可変ドメインに移植された(Rader 2000, loc. cit.; WO/2005/016950; WO 2008/004834; US 8,293,235)。ウサギCDRのループ移植のために、Honegger によるナンバリング(Honegger & Pluckthun, loc. cit.;
図2参照)による配列領域CDR-L1(L24-L42)、CDR-L2(L58-L72)、CDR-L3(L107-L138)、CDR-H1(H27-H42)、CDR-H2(H57-H76)、CDR-H3(H109-H138)は、ヒトフレームワークに変換された。これらヒト化可変ドメインに基づき、scFvコンストラクトは、フレキシブルGly4-SerリンカーでVLとVHとを結合することによって作製され、それによってNH
2-VL-リンカー-VH-COOHの配置を生じる。
【0083】
方法
コンストラクト設計及び製造
得られるアミノ酸配列はデノボ合成され、pET26b(+)backbone(ノバジェン)に基づくE.コリ(coli)発現に適合した発現ベクターにクローン化した。発現コンストラクトは、E.コリ株BL12(DE3)(ノバジェン)に変換され、細胞は開始培養として2YT培地で培養された(Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual)。発現培養物は接種され、37°Cかつ200 rpmにおいてバッフルフラスコでインキュベートされた。一度、1のOD600 nmに達したら、タンパク質発現は0.5 mMの最終濃度において、IPTGの追加によって誘導された。一晩の発現後、細胞は4000 gにおける遠心分離によって回収された。封入体の調製のため、細胞ペレットはIB再懸濁バッファー(50 mM Tris-HCl pH 7.5、100 mM NaCl、5 mM EDTA、0.5% トリトン X-100)中で再懸濁された。細胞スラリーは1 mM DTT、0.1 mg/mL リゾチーム、10 mM ロイペプチン、100 μM PMSF及び1 μM ペプスタチンを添加された。細胞は、氷上で冷やされながら、3サイクルの超音波ホモジナイゼーションによって溶解された。その後、0.01 mg/mL DNアーゼが加えられ、ホモジネートは室温で20分間インキュベートされた。封入体は、10,000 gかつ4°Cにおける遠心分離によって沈降させられた。IBは、他の遠心分離の前に、IB再懸濁バッファー中で再懸濁され、超音波処理によってホモジナイズされた。全体として、IB再懸濁バッファーによる最低3回の洗浄ステップが行われ、その後、IB洗浄バッファーによる2回の洗浄が行われ、最終IBを得た。
【0084】
タンパク質リフォールディング(refolding)のために、単離されたIBは、湿IBgあたり5 mLの割合で、可溶化バッファー(100 mM Tris/HCl pH 8.0、6 M Gdn-HCl、2 mM EDTA)中で再懸濁された。20 mMの最終濃度においてDTTが追加されるまで、可溶化物は室温で30分間インキュベートされ、さらに30分間インキュベーションは続けられた。可溶化が完了した後、溶液は8500 gかつ4°Cにおける10分の遠心分離によって除かれる。リフォールディングは、リフォールディングバッファー(一般的に:100 mM Tris-HCl pH 8.0、4.0 M 尿素、5 mM システイン、1 mM シスチン)中の可溶化タンパク質の0.5 g/Lの最終タンパク質濃度における急激な希釈によって行われる。リフォールディング反応は通常、最低14時間インキュベートされる。得られるタンパク質溶液は濃縮され、バッファーは透析濾過によりネイティブバッファー(50 mM クエン酸リン酸塩 pH 6.4、200 mM NaCl)とバッファー交換される。リフォールディングされたタンパク質は適当な樹脂材料(例えばスーパーデックス(Superdex) 75, GE ヘルスケア)によるサイズ排除クロマトグラフィーによって精製される。単離された単量体フラクションは、サイズ排除HPLC、純度についてはSDS-PAGE、そしてタンパク質含量については紫外・可視分光法によって分析される。タンパク質濃度は必要な濃度に調整され、安定性解析が行われる。
【0085】
構造モデルの比較
可変ドメインVLカッパ及びVLラムダの三次元構造はPDBから得られる構造モデルの例を用いて比較された(それぞれPDB ID 1FVC及びPDB ID 2A9M)。VLフレームワーク領域IVのパッキングの分析は、側鎖配向における位置147以降との違いを明らかにした。加えて、位置101におけるアミノ酸側鎖の配向はVκ及びVλ構造において異なった。
図4に示されるように、主要なアミノ酸(位置101)の異なるパッキングは明らかである。Vκの場合、フェニルアラニン101はドメインのコアに向かい、しかしながら、ラムダ可変ドメインにおいては、位置101のグルタミン酸は溶媒曝露し、V147(矢印)疎水性コアに順番に配置される。この観察に基づいて、アミノ酸置換F101Eを含む可変ドメインは、VλフレームワークIVのVλ特異的パッキングを順応させるために作製された(配列番号8、11及び13)。
【0086】
実施例2:scFvコンストラクトについての生物物理学的データの測定
熱変性
試験されたコンストラクトの熱変性による転移の中点は、Niesenによって基本的に記載された、示差走査蛍光定量法(Differential Scanning Fluorimetry )(DSF)によって測定された(Niesen et al., Nat Protoc. 2 (2007) 2212-21)。DSFアッセイは、qPCR装置によって行われた(例えばMX3005p, アジレント・テクノロジー)。試料は、全量25 μLにおいて5x サイプロオレンジ(SYPRO orange)の最終濃度を含むバッファー(クエン酸リン酸塩 pH 6.4、0.25 M NaCl)で希釈された。バッファー探索実験において、変性温度のpH依存性が測定され、匹敵できるpH特性がすべてのコンストラクトについて観察された。試料は25~96°Cにプログラムされた温度勾配で三重測定された。蛍光シグナルが得られ、生データはグラフパッドプリズム(GraphPad Prism)で分析された(グラフパッドソフトウェアインク)。
【0087】
ストレス安定性試験
タンパク質は、オリゴマー形成についてはサイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)により、分解についてはドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって、二週間にわたって37°Cの保存において分析された。本試験に先立って、試料は1、10及び40 g/Lに濃縮され、t0時点が測定された。単量体含量は、ショウデックスKW-402.5-4F(昭和電工)による試料の分離、及び、得られるクロマトグラムの評価によって定量化された。タンパク質単量体の相対的な割合の計算のため、単量体のピークの面積は、試料マトリックスに起因し得ないであろうピークの全面積で割った。タンパク質分解は、Any kDミニプロティアンTGXゲル(バイオ・ラッド ラボラトリーズ)によるSDS-PAGE分析により評価され、クマシーブリリアントブルーにより染色された。タンパク質濃度は、ナノクアントプレート(Nanoquant plate)を備えたインフィニティリーダーM200 Pro(テカングループ エルティーディー)を用いた紫外・可視分光法によって異なる時点で観察された。
【0088】
実施例3:市販ヒト化マウスモノクローナル抗体からのscFvコンストラクトの構築
抗体可変ドメインの安定化について提唱された概念の、幅広い適用性を確認するために、2つの単鎖Fvコンストラクトは、Vカッパ軽鎖を含む市販ヒト化マウスモノクローナル抗体に基づいて作製された。第1コンストラクトについては、IgGのアミノ酸配列として公表された元の可変ドメイン配列が用いられたが、一方で、第2コンストラクトについては、可変軽鎖ドメインのフレームワーク領域IVがラムダ生殖系遺伝子由来の各配列によって置換された、改変された配列が用いられた。scFvコンストラクト内の可変ドメインは 20アミノ酸フレキシブル(Gly
4Ser)
4リンカーによって結合され(配列番号1)、それによって、モデルコンストラクトscFv1からscFv10に用いられる、NH
2-VL-リンカー-VH-COOHの配置を生じる(表2参照)。scFv分子の発現及びリフォールディングは、前述のとおり行われ、リフォールディングされたタンパク質は、プロテインLレジンのアフィニティークロマトグラフィーによって精製された。SE-HPLCによる精製タンパク質の分析は、VL内のラムダフレームワークIVを含むコンストラクトの有意に改善された単量体含量において現れた、コンストラクトの製造効率の顕著な違いを明らかにした(
図5参照)。加えて、元の配列を有するコンストラクト及びVL内のラムダフレームワークIVを含む分子の熱変性分析は、それぞれ69.9及び71.2°Cの変性の中点をもたらした。本結果は段落[0082]に記載の結果と合致する。
【0089】
実施例4:より短いリンカー配列を有するscFvコンストラクトの構築
リンカー配列の影響を分析するために、より短い15アミノ酸(Gly4Ser)3 リンカーを用いて、実施例1に記載の方法と同様の方法で、代替コンストラクトが作製された(配列番号34)。リンカーを除いて、scFv11及びscFv12の2つのコンストラクトは、それぞれコンストラクトscFv1及びscFv5に相当する(表2参照)。ストレス安定性試験は実施例2に記載のとおり行われた。表4に示されるように、VL内のラムダフレームワークIVを含む、より短いリンカーを有するコンストラクトscFv12は、コンセンサスカッパ軽鎖scFv11を有するコンストラクトと比較して、高い安定性を示した。分子の全体的な安定性は、より長いリンカーを有する対応するコンストラクトよりも低かった。scFv安定性は、15merリンカーの代わりに20mer又は25merリンカーを用いることによって増大する、ということは周知である(Worn and Pluckthun, J. Mol. Biol. 305 (2001) 989-1010参照)。従って、これらの発見は、20merリンカーの結果に合致し、かつ、可変ドメインの安定性がVL内のラムダフレームワークIVの導入によって改善されることを確認させる。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
本発明は、本明細書に記載された特定の実施態様によって範囲が制限されることはない。実際に、本明細書に記載された改変に加えて、本発明の種々の改変は、先の説明から当業者にとって明らかであろう。そのような改変は、添付の特許請求の範囲の範囲に属する。
【0099】
本明細書で引用されているすべての特許、出願、刊行物、試験方法、文献及びその他の資料は、各特許法の下で可能な程度に、参照によって本明細書に組み込まれる。
前記VHドメインがVHフレームワーク領域IからIV及びCDRドメインCDR1、CDR2及びCDR3を含み、ここで当該VHドメインはVH1A(配列番号27)、VH1B(配列番号28)、VH2(配列番号29)、VH3(配列番号30)、VH4(配列番号31)、VH5(配列番号32)、及びVH6(配列番号33)から選択されるVHドメインサブファミリーに属する、請求項1に記載の単離された抗体又はその機能的フラグメント。
前記VLドメインが(i)ヒトVκフレームワーク領域IからIII、ここで当該Vκフレームワーク領域IからIIIはVκ1(配列番号23)、Vκ2(配列番号24),Vκ3(配列番号25)及びVκ4(配列番号26)から選択されたVκドメインサブファミリーに属する;(ii)CDRドメインCDR1、CDR2及びCDR3;及び(iii)配列番号16から22から選択された、フレームワーク領域IVのヒトVλ生殖系配列である、
フレームワーク領域IV、を含む請求項1又は2に記載の単離された抗体又はその機能的フラグメント。
前記Vκフレームワーク領域IからIIIは、配列番号2及び配列番号8から選択される配列に存在するフレームワーク領域である、請求項4に記載の単離された抗体又はその機能的フラグメント。
前記CDRドメインCDR1、CDR2及びCDR3は、(i)親ウサギ抗体由来又は親げっ歯類抗体由来のCDRドメイン CDR1、CDR2及びCDR3;(ii)Vκドメインを含む親ヒト抗体又は親ヒト化抗体由来のCDRドメイン CDR1、CDR2及びCDR3;(iii)(i)又は(ii)のCDRドメインに由来するCDRドメイン CDR1、CDR2及びCDR3;及び(iv)(i)、(ii)及び/又は(iii)の1以上のCDRドメインにより置換されることになるCDRドメイン、
から独立して選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその機能的フラグメント。
請求項1から8のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその機能的フラグメント、並びに、必要に応じて薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を含む、医薬組成物。
(i)請求項1から8のいずれか一項に記載の単離された抗体もしくはその機能的フラグメントの抗体VLドメイン又は請求項1から6のいずれか一項に記載の単離された抗体もしくはその機能的フラグメントをコードする、核酸もしくは核酸の集合物。
請求項1から8のいずれか一項に記載の単離された抗体もしくはその機能的フラグメントの抗体VLドメイン、又は請求項1から6のいずれか一項に記載の単離された抗体もしくはその機能的フラグメントの製造方法であって、請求項10に記載の核酸もしくは核酸の集合物、又は請求項1に記載のベクターもしくはベクターの集合物、又は請求項12に記載の宿主細胞、を発現するステップを含む、方法。