(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028680
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】TGFβ1結合性免疫グロブリンおよびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220208BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220208BHJP
C07K 16/24 20060101ALI20220208BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220208BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220208BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20220208BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
A61K39/395 N
C07K16/28 ZNA
C07K16/24
C12N15/13
A61P35/00
A61P7/00
A61P43/00 121
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174552
(22)【出願日】2021-10-26
(62)【分割の表示】P 2018547346の分割
【原出願日】2017-03-10
(31)【優先権主張番号】62/307,353
(32)【優先日】2016-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/443,615
(32)【優先日】2017-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/452,866
(32)【優先日】2017-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】515120006
【氏名又は名称】スカラー ロック インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SCHOLAR ROCK,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】トーマス シュルフ
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー ジェイ. カルヴェン
(72)【発明者】
【氏名】アビシェク ダッタ
(72)【発明者】
【氏名】キンバリー ロング
(57)【要約】
【課題】TGFβが関与する疾患および障害を有効かつ安全に処置するために使用することができる、TGFβシグナル伝達を調節するための新しい方法および組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、TGFβ1シグナル伝達に関連する疾患を、被験体にTGFβ1アイソフォームに特異的または高度に選択的であるTGFβ阻害剤を有効量で投与することによって処置するための方法および組成物を提供する。いくつかの実施形態では、そのようなTGFβ1アイソフォーム選択的またはTGFβ1アイソフォーム特異的阻害剤は、小分子薬剤または生物製剤(例えば、抗体)であり得る。任意のそのような阻害剤の、被験体におけるTGFβ阻害に付随する毒性(例えば、有害作用または副作用)を低減するための使用は本発明に包含される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形腫瘍を有する被験体においてがんを処置するための医薬組成物であって、該組成物はアイソフォーム特異的TGFβ1阻害剤を含み、該TGFβ1阻害剤は、モノクローナル抗体またはその抗原結合性断片であり、該TGFβ1阻害剤は、チェックポイント阻害剤と組み合わせて用いられる場合、心血管毒性を引き起こさない用量で被験体において腫瘍増殖を低減し、該TGFβ阻害剤は、TGFβ2および/またはTGFβ3を阻害しない、医薬組成物。
【請求項2】
被験体において骨髄線維症を処置するための医薬組成物であって、該組成物はアイソフォーム特異的TGFβ1阻害剤を含み、該TGFβ1阻害剤は、モノクローナル抗体またはその抗原結合性断片であり、該TGFβ1阻害剤は、心血管毒性を引き起こさない用量で骨髄線維症を処置するのに有効であり、該TGFβ阻害剤は、TGFβ2および/またはTGFβ3を阻害しない、医薬組成物。
【請求項3】
前記抗体またはその抗原結合性断片が、TGFβ1の潜在型複合体に結合し、それによって、TGFβ1活性化を阻害する、請求項1または請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記抗体がヒトIgG1またはIgG4サブタイプである、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記チェックポイント阻害剤が、PD-1、PD-L1またはCTLA4に結合する抗体である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記チェックポイント阻害剤と組み合わされた前記TGFβ1阻害剤が、単独療法と比較して生存を延長する、請求項1または5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記心血管毒性が弁膜症を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記がんまたは腫瘍が、結腸、肛門、膀胱、胆管、骨、脳、乳房、子宮頸部、直腸、子宮内膜、食道、眼、胆嚢、頭頸部、肝臓、腎臓、喉頭、肺、縦隔(胸部)、口、卵巣、膵臓、陰茎、前立腺、皮膚、小腸、胃、脊髄、尾骨、精巣、甲状腺または子宮に見られる、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項9】
処置が、前記被験体における腫瘍増殖を低減する、請求項1または8のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項10】
処置が、制御性T細胞の抑制活性を低減する、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項11】
前記抗体またはその抗原結合性断片が、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/または、LRRC33-TGFβ1複合体からの成熟TGFβ1の放出を阻害する、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項12】
前記抗体が、約0.1μg/kg~約30mg/kgの治療有効用量で投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項13】
処置が固形腫瘍の増殖を阻害または低減する、請求項1または8のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項14】
前記抗体またはその抗原結合性断片が、追加的な薬剤または治療と組み合わせて投与されるものであり、任意に、該追加的な薬剤がチェックポイント阻害剤である、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項15】
前記追加的な薬剤が、抗PD1抗体、PD-1アンタゴニスト、PDL1アンタゴニスト、またはPD-L1もしくはPDL2融合タンパク質、CTLA4アンタゴニスト、GITRアゴニスト、抗ICOS抗体、抗ICOSL抗体、抗B7H3抗体、抗B7H4抗体、抗TIM3抗体、抗LAG3抗体、抗OX40抗体、抗CD27抗体、抗CD70抗体、抗CD47抗体、抗41BB抗体、腫瘍溶解性ウイルス、およびPARP阻害剤からなる群より選択される、請求項14に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項16】
TGFβのアイソフォーム特異的阻害剤である抗体またはその抗原結合性断片を含む医薬組成物を生成するための方法であって、該方法は、
i)TGFβの少なくとも1つのアイソフォームのシグナル伝達を阻害する1つまたは複数の抗体または抗原結合性断片を提供するステップ;
ii)TGFβの全てのアイソフォームに対する該1つまたは複数の抗体または抗原結合性断片の活性を測定するステップ;
iii)TGFβ1に対する特異的活性について、抗体または抗原結合性断片を選択するステップであって、該選択した抗体または抗原結合性断片が、TGFβ1のシグナル伝達を特異的に阻害するが、TGFβ2またはTGFβ3は阻害しない、ステップ;
iv)ステップiii)で選択されたTGFβ1のアイソフォーム特異的阻害剤および薬学的に許容される賦形剤を医薬組成物に製剤化するステップ
を含む、方法。
【請求項17】
前記抗体またはその断片が、GARP、LRRC33、LTBP1またはLTBP3を含むTGFβ1のプロ/潜在型複合体に特異的に結合する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
心血管毒性を引き起こさない用量でin vivoで有効なTGFβ1のアイソフォーム特異的阻害剤を選択するステップをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記抗体またはその断片が、TGFβ1のプロ/潜在型複合体に特異的に結合するが、プロ/潜在型複合体と会合していない遊離の成熟TGFβ1には結合しない、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
請求項16~19のいずれか一項に記載の方法によって生成される、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、2016年3月11日に出願された米国仮出願第62/307,353号、2017年1月6日に出願された米国仮出願第62/443,615号および2017年1月31日に出願された米国仮出願第62/452,866号(これら各々の全体の内容は、その全容が参考として本明細書に明示的に援用される)に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
増殖因子のトランスホーミング増殖因子β(TGFβ)スーパーファミリーは、これらに限定されないが、細胞増殖の阻害、組織恒常性、細胞外マトリクス(ECM)リモデリング、内皮間葉転換(EMT)、細胞遊走および浸潤、および免疫調節/抑制、ならびに間葉上皮転換を含めた多様な生物学的プロセスを制御するいくつものシグナル伝達カスケードに関与する。ECMリモデリングとの関連で、TGFβシグナル伝達により線維芽細胞集団およびECM沈着(例えば、コラーゲン)が増加する可能性がある。免疫系では、TGFβリガンドにより、制御性T細胞の機能ならびに免疫前駆細胞の増殖および恒常性の維持が調節される。正常な上皮細胞では、TGFβは、強力な増殖阻害剤および細胞分化のプロモーターである。しかし、腫瘍が発生し進行するにつれ、上皮細胞はTGFβに対する負の増殖応答を失う頻度が高い。この場面では、TGFβは、血管新生を刺激し、間質の環境を変化させ、局所および全身免疫抑制を誘導することができるので、腫瘍発生のプロモーターになり得る。これらおよび他の理由で、TGFβはいくつもの臨床的適応症に関する治療標的になっている。現在までいくつものグループにより多くの努力がなされてきたにもかかわらず、TGFβ治療薬の臨床開発は困難なものである。
【0003】
ラットおよびイヌを含めた前臨床試験からの観察から、in vivoにおけるTGFβの阻害に付随するある特定の毒性が明らかになった。さらに、現在までにいくつかのTGFβ阻害剤が開発されてきたが、TGFβを標的化する大半の臨床的なプログラムは副作用に起因して中止されている。
【0004】
例えば、Andertonら(Toxicology Pathology、39巻:916~24頁、2011年)により、前臨床動物モデルにおいてTGFβI型(ALK5)受容体の小分子阻害剤が出血、炎症、変性および弁間質細胞の増殖を特徴とする心臓弁病変を誘導することが報告された。この毒性は、試験した全ての用量で、全ての心臓弁において観察された。Frazierら(Toxicology Pathology、35巻:284~295頁、2007年)により、ラットにおいて、TGFβI型(ALK5)受容体の小分子阻害剤であるGW788388を投与すると骨端軟骨異形成が誘導されることが報告された。
【0005】
Stauberら(J. Clin. Practice、4巻:3号、2014年)により、ラットおよびイヌにおいて、ある特定のがん処置に関して調査されているTGFβ受容体I型キナーゼの阻害剤であるLY2157299を長期(3か月以上)投与すると心血管系、胃腸系、免疫系、骨/軟骨系、生殖系、および腎臓系が関与する多数の臓器毒性が引き起こされたことが報告された。
【0006】
TGFβの全てのヒトアイソフォームを中和することができる「汎」TGFβ抗体であるフレソリムマブ(Fresolimumab)(GC1008)は、カニクイザルを用いた試験において、複数回の投与後に、歯肉、膀胱、および鼻甲介上皮の上皮過形成を誘導することが報告されている(Lonningら、Current Pharmaceutical Biotechnology、12巻:2176~89頁、2011年)。同様に、臨床試験において、当該薬物の複数用量の投与後に種々の皮膚発疹/病変、歯肉出血および疲労が報告されている。フレソリムマブに対する最も注目すべき有害反応は、ヒトがん患者における皮膚の角化棘細胞腫および/または扁平上皮細胞癌の誘導を含む(例えば、Lacoutureら、2015年、Cancer Immunol Immunother、64巻:437~46頁;Stevensonら、2013年、OncoImmunology、2巻:8号、e26218頁;およびLonningら、2011年を参照されたい)。臨床試験からの追加的な証拠から、一部の場合ではこの抗体により腫瘍の進行が加速する可能性があることが示唆される(Stevensonら、2013年、OncoImmunology、2巻:8号、e26218頁)。
【0007】
したがって、例えば、がん、線維症および炎症を含めた、TGFβが関与する疾患および障害を有効かつ安全に処置するために使用することができる、TGFβシグナル伝達を調節するための新しい方法および組成物が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Lacoutureら、Cancer Immunol Immunother(2015年)64巻:437~46頁
【非特許文献2】Stevensonら、OncoImmunology(2013年)2巻:8号、e26218頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、TGFβ作用のサブセットの選択的調節に関する。本発明は、少なくとも一部において、現在までに分かっているTGFβアンタゴニストのアイソフォーム特異性の欠如が、TGFβ阻害に付随する毒性の原因の基礎をなす可能性があるという概念に基づく。実際に、本開示の発明者らは、現在までに記載されている大半のTGFβ阻害剤が複数のまたは全てのTGFβアイソフォームに対して拮抗することを見出した。さらに、当技術分野で記載されている一般的傾向は、TGFβの複数のアイソフォームの中和が「最大の治療的効能」を達成するのに必要または有利であると思われるという理由で、TGFβの複数のアイソフォームに対して拮抗する阻害剤(例えば、抗TGFβ抗体など)が有利であることである(例えば、Bedingerら(2016年)MABS、8巻(2号):389~404頁を参照されたい)。
【0010】
この一般的教示とは反対に、本発明の発明者らは、その代わりに、in vivoにおいて公知のTGFβアンタゴニストを用いて観察される毒性(例えば、有害作用、副作用)を排除することまたは著しく低減することを目的として、TGFβ2および/またはTGFβ3にも影響を及ぼす阻害とは対照的に、TGFβ1のアイソフォーム特異的阻害を可能にする薬剤を開発しようと努めた。この新規の手法は、少なくとも一部において、TGFβ阻害剤の臨床的有用性が、その効能だけでなく、その安全性にも基づくものであり得るという概念に基づく。前例のない特異性の程度を用いて標的を微調整できることにより、臨床の場における効能と安全性/忍容性の両方を達成することができると判断した。
【0011】
したがって、本発明は、TGFβシグナル伝達をアイソフォーム特異的に阻害する医薬品により、複数のTGFβアイソフォームに影響を及ぼす薬剤と比較して改善された安全性プロファイルがもたらされ得るという認識を包含する。対照的に、当技術分野におけるいくつもの公知のTGFβアンタゴニストは、in vivoにおいて効果的であることが示されている用量で、許容されないレベルの毒性を生じる。そのような例では、毒性を回避するために、より少ない投薬を使用することができるが、その低減した用量ではもはや十分なin vivo効能が生じなくなる可能性がある。特定の理論にも拘束されることを望まないが、そのような毒性は、少なくとも一部において、薬剤のアイソフォーム特異性/選択性の欠如によって生じることが予想される。
【0012】
したがって、一態様では、本発明は、被験体におけるTGFβ阻害に付随する毒性(例えば、有害作用、望ましくない副作用)を低減するための方法を提供する。本発明によると、本明細書に記載のものなどのTGFβ1特異的阻害剤は、より広範な標的(例えば、TGFβの1種よりも多くのアイソフォーム)に対する活性を引き出す薬剤と比較して優れた安全性-効能プロファイルを有する。したがって、そのようなTGFβ1特異的阻害剤は、それを必要とする被験体に、有害作用を引き起こすことなく、治療有効用量で投与することが可能である。したがって、そのような手法により、患者において効能および安全性/忍容性の両方を達成することができる投薬量の範囲が広がる。したがって、本発明は、TGFβ1シグナル伝達に関連する疾患を、被験体にTGFβ1アイソフォームに特異的または高度に選択的であるTGFβ阻害剤を有効量で投与することによって処置するための方法を提供する。いくつかの実施形態では、そのようなTGFβ1アイソフォーム選択的またはTGFβ1アイソフォーム特異的阻害剤は、小分子薬剤または生物製剤(例えば、抗体)であり得る。任意のそのような阻害剤の、被験体におけるTGFβ阻害に付随する毒性(例えば、有害作用または副作用)を低減するための使用は本発明に包含される。本発明によると、有効量は、i)効能(例えば、治療的に有益な影響);およびii)安全性(例えば、有害作用または副作用が許容されるレベルの範囲内であること)の両方を可能にする投薬量の範囲内である。いくつかの実施形態では、有害作用は、心血管毒性、胃腸毒性、免疫毒性、骨/軟骨毒性、生殖毒性、および腎毒性を含み得る。いくつかの実施形態では、心血管毒性は、これらに限定されないが、心臓弁病変、例えば、弁間質細胞の出血、炎症、変性および増殖を含む。いくつかの実施形態では、有害作用は、出血を含み得る。いくつかの実施形態では、有害作用は、皮膚病変または腫瘍を含み得る。いくつかの実施形態では、有害作用は、腫瘍の進行を含み得る。
【0013】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、in vivoにおけるTGFβ1活性化のステップを選択的に阻害し、TGFβ2および/またはTGFβ3活性化のステップは阻害しないことを特徴とするアイソフォーム特異的TGFβ1阻害剤抗体またはその抗原結合性断片を提供する。そのような抗体またはその断片は、TGFβ1阻害が有益である被験体に、許容されないまたは耐えられないレベルの有害作用を引き起こすことなく臨床的効能を達成するのに有効な量で投与され得る。したがって、本発明は、ヒト患者におけるTGFβシグナル伝達に関連する疾患または状態を処置するための効能基準および安全性基準の両方が満たされるように特異的に選択されるTGFβ1アイソフォーム特異的阻害剤を教示する。
【0014】
関連する態様では、本発明は、改善された安全性プロファイル(例えば、in vivo毒性の低減)を有するアイソフォーム特異的TGFβモジュレーターの作製方法を提供する。そのような方法では、候補薬剤をアイソフォーム特異性について試験し、選択する必要がある。いくつかの実施形態では、候補薬剤をTGFβ2および/またはTGFβ3シグナル伝達ではなくTGFβ1シグナル伝達に対する特異的な活性について選択する。いくつかの実施形態では、そのような薬剤は、TGFβ1アイソフォーム特異的阻害剤である。いくつかの実施形態では、そのような薬剤は、TGFβ2および/またはTGFβ3ではなくTGFβ1に特異的に結合し、その活性化を遮断する抗体またはその抗原結合性断片である。いくつかの実施形態では、そのような抗体またはその抗原結合性断片は、プロ/潜在型複合体と会合していない遊離の成熟TGFβ1増殖因子には結合しない。
【0015】
別の態様では、本発明は、TGFβ活性化を状況依存的に調節することによってTGFβシグナル伝達のさらなる微調整を達成するための組成物および関連する方法を提供する。
【0016】
TGFβは、いくつもの細胞/組織作用の付与に関与し、そのような作用はそれぞれ、一部において、いわゆる「提示分子」との相互作用によって媒介される。種々の提示分子の発現は細胞型特異的または組織特異的であるので、TGFβは、その特定の提示分子との相互作用(すなわち、「状況」)に応じて細胞作用を付与することが意図されている。したがって、とりわけ、本開示は、特定の状況(すなわち、TGFβと提示分子とを含む複合体)で存在するTGFβに選択的に結合するモノクローナル抗体を提供する。いくつかの実施形態では、そのようなモノクローナル抗体は、以下の複合体:i)TGFβ1-GARP;ii)TGFβ1-LRRC33;iii)TGFβ1-LTBP1;および、iv)TGFβ1-LTBP3のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つに特異的に結合する。いくつかの実施形態では、そのようなモノクローナル抗体は、以下の複合体:i)TGFβ1-GARP;ii)TGFβ1-LRRC33;iii)TGFβ1-LTBP1;および、iv)TGFβ1-LTBP3のうちの1つに特異的に結合する。いくつかの実施形態では、そのようなモノクローナル抗体は、以下の複合体:i)TGFβ1-GARP;ii)TGFβ1-LRRC33;iii)TGFβ1-LTBP1;および、iv)TGFβ1-LTBP3のうちの2つに特異的に結合する。いくつかの実施形態では、そのようなモノクローナル抗体は、以下の複合体:i)TGFβ1-GARP;ii)TGFβ1-LRRC33;iii)TGFβ1-LTBP1;および、iv)TGFβ1-LTBP3のうちの3つに特異的に結合する。いくつかの実施形態では、そのようなモノクローナル抗体は、以下の複合体:i)TGFβ1-GARP;ii)TGFβ1-LRRC33;iii)TGFβ1-LTBP1;および、iv)TGFβ1-LTBP3の全てに特異的に結合する。いくつかの実施形態では、そのようなモノクローナル抗体は、遊離のTGFβ1である(例えば、提示分子と複合体を形成していない)成熟TGFβ1には結合しない。
【0017】
本開示は、TGFβ1の小潜在型複合体(例えば、「C4S」)に結合するモノクローナル抗体を含む。
【0018】
本開示は、特定の状況にあるTGFβを選択的に標的化し、調節するモノクローナル抗体をさらに提供する。いくつかの実施形態では、そのようなモノクローナル抗体は、特定の状況にあるTGFβを阻害するかまたは活性化する。
【0019】
したがって、本発明は、TGFβ活性のサブセットを調節する(活性化するかまたは阻害する)ための組成物および方法を提供する。したがって、本発明は、TGFβに媒介されるシグナル伝達経路のサブセットを、他のTGFβに媒介されるシグナル伝達経路に影響を及ぼすことなく選択的に調節することができるモノクローナル抗体を含む。いくつかの実施形態では、TGFβに媒介されるシグナル伝達経路のサブセットは、i)GARPに媒介されるTGFβ作用、ii)LRRC33に媒介されるTGFβ作用、iii)LTBP1に媒介されるTGFβ作用、およびiv)LTBP3に媒介されるTGFβ作用のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つを含む。いくつかの実施形態では、そのようなモノクローナル抗体は、以下のTGFβに媒介されるシグナル伝達経路のうちの1つを、他の3つ経路は調節することなく、特異的に調節する:i)GARPに媒介されるTGFβ作用、ii)LRRC33に媒介されるTGFβ作用、iii)LTBP1に媒介されるTGFβ作用、およびiv)LTBP3に媒介されるTGFβ作用。いくつかの実施形態では、そのようなモノクローナル抗体は、以下のTGFβに媒介されるシグナル伝達経路のうちの2つを、他の2つの経路は調節することなく、特異的に調節する:i)GARPに媒介されるTGFβ作用、ii)LRRC33に媒介されるTGFβ作用、iii)LTBP1に媒介されるTGFβ作用、およびiv)LTBP3に媒介されるTGFβ作用。いくつかの実施形態では、そのようなモノクローナル抗体は、以下のTGFβに媒介されるシグナル伝達経路のうちの3つを、他の1つの経路は調節することなく、特異的に調節する:i)GARPに媒介されるTGFβ作用、ii)LRRC33に媒介されるTGFβ作用、iii)LTBP1に媒介されるTGFβ作用、およびiv)LTBP3に媒介されるTGFβ作用。いくつかの実施形態では、そのようなモノクローナル抗体は、以下のTGFβに媒介されるシグナル伝達経路の全てを特異的に調節する:i)GARPに媒介されるTGFβ作用、ii)LRRC33に媒介されるTGFβ作用、iii)LTBP1に媒介されるTGFβ作用、およびiv)LTBP3に媒介されるTGFβ作用。いくつかの実施形態では、そのようなモノクローナル抗体は、GARPに媒介されるTGFβ作用を特異的に調節する。いくつかの実施形態では、そのようなモノクローナル抗体は、LRRC33に媒介されるTGFβ作用を特異的に調節する。いくつかの実施形態では、そのようなモノクローナル抗体は、LTBP1に媒介されるTGFβ作用を特異的に調節する。いくつかの実施形態では、そのようなモノクローナル抗体は、LTBP3に媒介されるTGFβ作用を特異的に調節する。したがって、本発明は、TGFβ活性を状況依存的に選択的に標的化するための方法を提供する。
【0020】
本発明の態様は、ヒト被験体における疾患または障害を処置するための医薬組成物および方法を含む。いくつかの実施形態では、そのような疾患または障害は、免疫制御/制御不全に関連する状態、T細胞制御/制御不全に関連する状態;線維化特徴に関連する状態(線維症);および/または腫瘍に関連する状態を含む。
【0021】
本明細書に記載のTGFβのプロ/潜在型複合体を特異的に標的化する抗体またはその断片は、すでに放出された遊離の成熟増殖因子を標的化するのとは対照的に、活性化ステップ(すなわち、不活性な潜在型のプレ形態の複合体からの遊離の成熟TGFβ増殖因子の放出)を調節するものであるので、これらの調節剤の作用様式は、組織内のTGFβ増殖因子の供給源に依存する。したがって、疾患の状況に関与するTGFβの供給源を同定することが、適正な状況にあるTGFβを有効に調節する薬剤の選択に役立つことが意図されている。例えば、GARPに媒介されるTGFβ1作用を伴う疾患表現型を処置するためには、GARP-プロTGFβ1複合体を特異的に標的化する抗体またはその断片を選択することが望ましい。LRRC33に媒介されるTGFβ1作用を伴う疾患表現型を処置するためには、LRRC33-プロTGFβ1複合体を特異的に標的化する抗体またはその断片を選択することが望ましい。LTBP1に媒介されるTGFβ1作用を伴う疾患表現型を処置するためには、LTBP1-プロTGFβ1複合体を特異的に標的化する抗体またはその断片を選択することが望ましい。LTBP2に媒介されるTGFβ1作用を伴う疾患表現型を処置するためには、LTBP2-プロTGFβ1複合体を特異的に標的化する抗体またはその断片を選択することが望ましい。LTBP3に媒介されるTGFβ1作用を伴う疾患表現型を処置するためには、LTBP3-プロTGFβ1複合体を特異的に標的化する抗体またはその断片を選択することが望ましい。LTBP4に媒介されるTGFβ1作用を伴う疾患表現型を処置するためには、LTBP4-プロTGFβ1複合体を特異的に標的化する抗体またはその断片を選択することが望ましい。複数の(例えば、2つまたはそれよりも多くの)状況によって媒介されるTGFβ1作用を伴う疾患表現型を処置するためには、対応する複数のTGFβ1提示の状況を標的化することが可能な抗体またはその断片選択することが望ましい。
【0022】
ある特定の疾患は、単一のTGFβ機能の状況に限定されない、TGFβシグナル伝達の複数の生物学的役割に関連する。そのような場面では、複数の状況にわたってTGFβ作用を調節することが有益であり得る。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、TGFβ1を、状況特異的にではなく、アイソフォーム特異的に標的化し、調節するための方法を提供する。そのような薬剤は、「アイソフォーム特異的、状況許容的」TGFβ1モジュレーターと称され得る。いくつかの実施形態では、状況許容的TGFβ1モジュレーターは、複数の状況(例えば、複数の型のプロ/潜在型TGFβ1複合体)を標的化する。いくつかの実施形態では、状況許容的TGFβ1モジュレーターは、全ての状況を包含するように、全ての型のプロ/潜在型TGFβ1複合体(例えば、GARPと会合したもの、LRRC33と会合したもの、LTBPと会合したものなど)を標的化する。
【0023】
状況許容的TGFβ1モジュレーターは1つよりも多くの型のプロ/潜在型TGFβ1複合体(すなわち、異なる提示分子を伴う)を標的化することが可能である一方で、いくつかの実施形態では、そのようなモジュレーターは、1つまたは複数の状況を他の状況よりも好み得る。したがって、いくつかの実施形態では、TGFβ1の活性化を阻害する状況許容的抗体は、そのような抗体が両方の型のプロ/潜在型複合体に結合することができるものであっても、1つの提示分子によって媒介されるTGFβ1活性化を、別の提示分子よりも優先的に阻害する。いくつかの実施形態では、そのような抗体は、LTBPと会合したTGFβ1、GARPと会合したTGFβ1、およびLRRC33と会合したTGFβ1に結合し、その活性化を阻害するが、LTBPと会合したTGFβ1に対して優先的な阻害活性を有するモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、そのような抗体は、LTBP1と会合したTGFβ1、LTBP3と会合したTGFβ1、GARPと会合したTGFβ1、およびLRRC33と会合したTGFβ1に結合し、その活性化を阻害するが、LTBP1-およびLTBP-3と会合したTGFβ1に対して優先的な阻害活性を有するモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、そのような抗体は、LTBP1と会合したTGFβ1、LTBP3と会合したTGFβ1、GARPと会合したTGFβ1、およびLRRC33と会合したTGFβ1に結合し、その活性化を阻害するが、GARPと会合したTGFβ1およびLRRC33と会合したTGFβ1に対して優先的な阻害活性を有するモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、そのような抗体は、GARPと会合したTGFβ1およびLRRC33と会合したTGFβ1に結合し、その活性化を阻害するが、GARPと会合したTGFβ1に対して優先的な阻害活性を有するモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、そのような抗体は、GARPと会合したTGFβ1およびLRRC33と会合したTGFβ1に結合し、その活性化を阻害するが、LRRC33と会合したTGFβ1に対して優先的な阻害活性を有するモノクローナル抗体である。
【0024】
したがって、本発明によると、TGFβ作用のサブセットを標的化するために、種々の選択性の程度を生じさせることができる。TGFβのアイソフォーム特異的モジュレーター(TGFβの単一のアイソフォームを標的化する)は、汎TGFβモジュレーター(TGFβの複数のまたは全てのアイソフォームを標的化する)よりも高い選択性をもたらすものである。TGFβのアイソフォーム特異的、状況許容的モジュレーター(TGFβの単一のアイソフォームの複数の状況を標的化する)は、アイソフォーム特異的モジュレーターよりも大きな選択性をもたらすものである。TGFβのアイソフォーム特異的、状況特異的モジュレーター(TGFβの単一のアイソフォームの単一の状況を標的化する)は、アイソフォーム特異的、状況許容的モジュレーターよりもはるかに高い選択性をもたらすものである。
【0025】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、まず、疾患に関連するTGFβの供給源および/または状況を同定または確認し、次いで、組織内のTGFβの特定のサブプールを特異的に標的化する薬剤を選択することを含む、TGFβシグナル伝達に関連する疾患を処置するための方法を含む。このように、そのような手法により、TGFβの正常な機能は保存しながら、TGFβの疾患に関連する機能を優先的に調節することができることが意図されている。いくつかの実施形態では、疾患に関連するTGFβの供給源/状況を同定するために、患部組織に存在するTGFβ提示分子(複数可)の発現を評価することができる。一例を挙げると、疾患組織内にLTBPと会合したTGFβ1潜在型複合体およびGARPと会合したTGFβ1複合体の両方が存在する可能性があり、この2つのうちの後者のみが疾患表現型として発現する可能性がある。その筋書きでは、LTBPに媒介されるTGFβ1シグナル伝達はインタクトに維持しながら、GARPに媒介されるTGFβ1シグナル伝達を阻害することが望ましい。疾患に関連するTGFβ1の供給源/状況の決定は、特定の提示分子(例えば、GARP、LRRC33、LTBPなど)を含むTGFβ1潜在型複合体に特異的に結合する抗体を使用して行うことができる。T細胞制御/制御不全に関連する状態の処置に関しては、本発明のいくつかの実施形態は、被験体におけるGARPに媒介されるTGFβ作用を調節するモノクローナル抗体を有効量で含む組成物の投与を含む。
【0026】
免疫制御/制御不全に関連する状態の処置に関しては、本発明のいくつかの実施形態は、被験体におけるGARPに媒介されるTGFβ作用および/またはLRRC33に媒介されるTGFβ作用を調節するモノクローナル抗体を有効量で含む組成物の投与を含む。
【0027】
線維症に関連する状態の処置に関しては、本発明のいくつかの実施形態は、被験体におけるLTBP1に媒介されるTGFβ作用および/またはLTBP3に媒介されるTGFβ作用を調節するモノクローナル抗体を有効量で含む組成物の投与を含む。
【0028】
ある特定の型のがんに関連する状態の処置に関しては、本発明のいくつかの実施形態は、被験体におけるGARPに媒介されるTGFβ作用、LTBP1に媒介されるTGFβ作用および/またはLTBP3に媒介されるTGFβ作用を調節するモノクローナル抗体を有効量で含む組成物の投与を含む。
【0029】
本開示の態様は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分などの免疫グロブリンに関する。本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ1がGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体および/またはLRRC33-TGFβ1に存在する場合に、抗体またはその抗原結合性部分による結合に利用可能なTGFβ1のエピトープに特異的に結合する。
【0030】
一態様では、TGFβ1のエピトープに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性部分であって、エピトープが、TGFβ1が以下のタンパク質複合体:GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、およびLRRC33-TGFβ1複合体のうちの2つまたはそれよりも多くに存在する場合に、抗体による結合に利用可能なものであり、抗体が遊離の成熟TGFβ1には結合しない、単離された抗体またはその抗原結合性部分が本明細書で提供される。
【0031】
いくつかの実施形態では、TGFβ1は、潜在型TGFβ1である。いくつかの実施形態では、TGFβ1は、プロTGFβ1である。
【0032】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ2には結合しない。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ3には結合しない。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ1のインテグリンに結合する能力を妨げない。
【0033】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号5のアミノ酸配列を有する相補性決定領域3(CDR3)を含む重鎖可変領域および配列番号11のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号3のアミノ酸配列を有する相補性決定領域2(CDR2)を含む重鎖可変領域および配列番号9のアミノ酸配列を有するCDR2を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号1のアミノ酸配列を有する相補性決定領域1(CDR1)を含む重鎖可変領域および配列番号7のアミノ酸配列を有するCDR1を含む軽鎖可変領域を含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号13に記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号14に記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号13に記載されているアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号14に記載されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域および配列番号12のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号4のアミノ酸配列を有するCDR2を含む重鎖可変領域および配列番号10のアミノ酸配列を有するCDR2を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号2のアミノ酸配列を有するCDR1を含む重鎖可変領域および配列番号8のアミノ酸配列を有するCDR1を含む軽鎖可変領域を含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号15に記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号16に記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。
【0038】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号15に記載されているアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号16に記載されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ1活性化を阻害する。
【0040】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、またはLRRC33-TGFβ1複合体からの成熟TGFβ1の放出を阻害する。
【0041】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、少なくとも約10-8M;少なくとも約10-9M;少なくとも約10-10M;少なくとも約10-11M;少なくとも約10-12M;および少なくとも約10-13Mからなる群より選択される、TGFβ1のエピトープに対する解離定数(KD)を有する。
【0042】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、ヒトIgM定常ドメイン、ヒトIgG定常ドメイン、ヒトIgG1定常ドメイン、ヒトIgG2定常ドメイン、ヒトIgG2A定常ドメイン、ヒトIgG2B定常ドメイン、ヒトIgG2定常ドメイン、ヒトIgG3定常ドメイン、ヒトIgG3定常ドメイン、ヒトIgG4定常ドメイン、ヒトIgA定常ドメイン、ヒトIgA1定常ドメイン、ヒトIgA2定常ドメイン、ヒトIgD定常ドメイン、またはヒトIgE定常ドメインの免疫グロブリン重鎖定常ドメインを含む。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、ヒトIgG1定常ドメインまたはヒトIgG4定常ドメインの免疫グロブリン重鎖定常ドメインを含む。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、ヒトIgG4定常ドメインの免疫グロブリン重鎖定常ドメインを含む。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、IgG1様ヒンジが生成され、鎖間ジスルフィド結合の形成が可能になるSerからProへの骨格置換を有する、ヒトIgG4定常ドメインの免疫グロブリン重鎖定常ドメインを含む。
【0043】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、ヒトIgラムダ定常ドメインまたはヒトIgカッパ定常ドメインを含む免疫グロブリン軽鎖定常ドメインをさらに含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、抗体は、2つの重鎖および2つの軽鎖である4つのポリペプチド鎖を有するIgGである。
【0045】
いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト化抗体、ダイアボディ(diabody)、またはキメラ抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト化抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト生殖系列アミノ酸配列を有するフレームワークを含む。
【0046】
いくつかの実施形態では、抗原結合性部分は、Fab断片、F(ab’)2断片、scFab断片、またはscFv断片である。
【0047】
一態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分との結合について競合する抗TGFβ1抗体またはその抗原結合性部分が本明細書で提供される。
【0048】
別の態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分と同じエピトープに結合する抗TGFβ1抗体またはその抗原結合性部分が本明細書で提供される。
【0049】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、薬物または検出可能な部分とコンジュゲートしている。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、薬物または検出可能な部分とリンカーを介してコンジュゲートしている。いくつかの実施形態では、リンカーは、切断可能なリンカーである。いくつかの実施形態では、検出可能な部分は、蛍光剤、発光剤、酵素剤、および放射性薬剤からなる群より選択される。
【0050】
一態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物が本明細書で提供される。
【0051】
別の態様では、TGFβ1活性化を阻害するための方法であって、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、またはLRRC33-TGFβ1複合体を本明細書に記載の抗体、その抗原結合性部分、または医薬組成物に曝露させることを含む方法が本明細書で提供される。
【0052】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、またはLRRC33-TGFβ1複合体からの成熟TGFβ1の放出を阻害する。
【0053】
いくつかの実施形態では、方法をin vitroで実施する。いくつかの実施形態では、方法をin vivoで実施する。
【0054】
いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体またはLRRC33-TGFβ1複合体は、細胞の外表面に存在する。
【0055】
いくつかの実施形態では、細胞は、T細胞、線維芽細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、抗原提示細胞、またはミクログリアである。
【0056】
いくつかの実施形態では、LTBP1-TGFβ1複合体またはLTBP3-TGFβ1複合体は、細胞外マトリクスに結合している。いくつかの実施形態では、細胞外マトリクスは、フィブリリンを含む。いくつかの実施形態では、細胞外マトリクスは、RGDモチーフを含むタンパク質を含む。
【0057】
別の態様では、被験体におけるTGFβ1活性化を低減するための方法であって、被験体に、本明細書に記載の抗体、その抗原結合性部分、または医薬組成物を有効量で投与し、それにより、被験体におけるTGFβ1活性化を低減するステップを含む方法が本明細書で提供される。
【0058】
いくつかの実施形態では、被験体は、線維症を有するかまたは有するリスクがある。いくつかの実施形態では、被験体は、筋ジストロフィーを有する。いくつかの実施形態では、被験体は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を有する。いくつかの実施形態では、被験体は、肝線維症、腎線維症、または肺線維症(例えば、特発性肺線維症)を有するかまたは有するリスクがある。いくつかの実施形態では、被験体は、がんを有するかまたは有するリスクがある。いくつかの実施形態では、被験体は、認知症を有するかまたは有するリスクがある。いくつかの実施形態では、被験体は、骨髄線維症を有するかまたはそれが発生するリスクがある。
【0059】
いくつかの実施形態では、被験体は、追加的な治療をさらに受ける。いくつかの実施形態では、追加的な治療は、ミオスタチン阻害剤、VEGFアゴニスト、IGF1アゴニスト、FXRアゴニスト、CCR2阻害剤、CCR5阻害剤、二重CCR2/CCR5阻害剤、リシルオキシダーゼ様-2阻害剤、ASK1阻害剤、アセチル-CoAカルボキシラーゼ(ACC)阻害剤、p38キナーゼ阻害剤、ピルフェニドン、ニンテダニブ、GDF11阻害剤、またはこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0060】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、制御性T細胞の抑制活性を低減する。
【0061】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、被験体における臓器毒性を誘導しない。いくつかの実施形態では、臓器毒性は、心血管毒性、胃腸毒性、免疫毒性、骨毒性、軟骨毒性、生殖系毒性、または腎毒性を含む。
【0062】
一態様では、それを必要とする被験体においてがんを処置するための方法であって、被験体に、本明細書に記載の抗体、その抗原結合性部分、または医薬組成物を有効量で投与し、それにより、被験体におけるがんを処置するステップを含む方法が本明細書で提供される。
【0063】
別の態様では、それを必要とする被験体において腫瘍増殖を低減する方法であって、被験体に、本明細書に記載の抗体、その抗原結合性部分、または医薬組成物を有効量で投与し、それにより、被験体における腫瘍増殖を低減するステップを含む方法が本明細書で提供される。
【0064】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分を追加的な薬剤または追加的な治療と組み合わせて投与する。いくつかの実施形態では、追加的な薬剤はチェックポイント阻害剤である。いくつかの実施形態では、追加的な薬剤は、PD-1アンタゴニスト、PDL1アンタゴニスト、PD-L1またはPDL2融合タンパク質、CTLA4アンタゴニスト、GITRアゴニスト、抗ICOS抗体、抗ICOSL抗体、抗B7H3抗体、抗B7H4抗体、抗TIM3抗体、抗LAG3抗体、抗OX40抗体、抗CD27抗体、抗CD70抗体、抗CD47抗体、抗41BB抗体、抗PD-1抗体、腫瘍溶解性ウイルス、およびPARP阻害剤からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、追加的な治療は、放射線、化学療法薬、またはこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、追加的な治療は、放射線である。いくつかの実施形態では、追加的な薬剤は、化学療法剤である。いくつかの実施形態では、化学療法剤は、タキソールである。いくつかの実施形態では、追加的な薬剤は、抗炎症剤である。いくつかの実施形態では、追加的な薬剤は、単球/マクロファージ動員および/または組織浸潤のプロセスを阻害するものである。いくつかの実施形態では、追加的な薬剤は、肝星細胞活性化の阻害剤である。いくつかの実施形態では、追加的な薬剤は、ケモカイン受容体アンタゴニスト、例えば、CCR2アンタゴニストおよびCCR5アンタゴニストである。いくつかの実施形態では、そのようなケモカイン受容体アンタゴニストは、CCR2/CCR5アンタゴニストなどの二重特異性アンタゴニストである。いくつかの実施形態では、併用療法として投与される追加的な薬剤は、増殖因子のTGFβスーパーファミリーのメンバーまたはその制御因子であるまたはそれを含む。いくつかの実施形態では、そのような薬剤は、GDF8/ミオスタチンおよびGDF11のモジュレーター(例えば、阻害剤および活性化因子)から選択される。いくつかの実施形態では、そのような薬剤は、GDF8/ミオスタチンシグナル伝達の阻害剤である。いくつかの実施形態では、そのような薬剤は、プロ/潜在型ミオスタチン複合体に特異的に結合し、ミオスタチンの活性化を遮断するモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、プロ/潜在型ミオスタチン複合体に特異的に結合し、ミオスタチンの活性化を遮断するモノクローナル抗体は、遊離の成熟ミオスタチンには結合しない。
【0065】
さらに別の態様では、それを必要とする被験体において腎障害を処置する方法であって、被験体に、本明細書に記載の抗体、その抗原結合性部分、または医薬組成物を有効量で投与し、それにより、被験体における腎障害を処置するステップを含む方法が本明細書で提供される。
【0066】
一態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分をコードする核酸が本明細書で提供される。当該核酸を含むベクターも提供される。
【0067】
別の態様では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分をコードする核酸を含む細胞が本明細書で提供される。本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分をコードする核酸を含むベクターを含む細胞も提供される。
【0068】
さらに別の態様では、本明細書に記載の抗体、その抗原結合性部分、または医薬組成物、およびその使用についての指示を含むキットが本明細書で提供される。
【0069】
別の態様では、筋線維傷害を処置するための方法であって、筋線維傷害を有する被験体に、TGFβ2/3と比較してTGFβ1を選択的に阻害する薬剤を、i)筋線維修復を促進する;ii)収縮誘導性損傷から保護する;iii)筋肉の炎症を低減する;および/または、iv)筋肉の線維症を低減するのに有効な量で投与するステップを含む方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、量は、被験体において許容されないレベルの有害作用を引き起こすものではない。
【0070】
いくつかの実施形態では、筋線維傷害は、i)筋ジストロフィーに関連する;または、ii)急性筋損傷に関連する。いくつかの実施形態では、薬剤は、TGFβ1の活性化を遮断するがTGFβ2またはTGFβ3の活性化を遮断しない。いくつかの実施形態では、薬剤は、モノクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体は、GARP-プロTGFβ1潜在型複合体、LRRC33-プロTGFβ1潜在型複合体、LTBP1-プロTGFβ1潜在型複合体、LTBP2-プロTGFβ1潜在型複合体、LTBP3-プロTGFβ1潜在型複合体、および/またはLTBP4-プロTGFβ1潜在型複合体に結合する。いくつかの実施形態では、被験体は、ミオスタチン阻害剤をさらに受ける。
【0071】
いくつかの実施形態では、方法は、疾患に関連するTGFβ1の供給源または状況を同定するステップをさらに含む。
【0072】
さらに別の態様では、TGFβシグナル伝達を調節する医薬組成物を生成するための方法であって、TGFβの少なくとも1つのアイソフォームのシグナル伝達を調節する1つまたは複数の薬剤を提供するステップ;TGFβの全てのアイソフォームに対する1つまたは複数の薬剤の活性を測定するステップ;TGFβの単一のアイソフォームに特異的である薬剤を選択するステップ;アイソフォーム特異的TGFβモジュレーターおよび薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に製剤化するステップを含む方法が本明細書で提供される。この方法によって生成される医薬組成物も提供される。
【0073】
いくつかの実施形態では、アイソフォーム特異的TGFβモジュレーターは、TGFβ1特異的モジュレーターである。いくつかの実施形態では、TGFβ1特異的モジュレーターは、TGFβ1の阻害剤である。いくつかの実施形態では、アイソフォーム特異的TGFβモジュレーターは、抗体またはその断片である。いくつかの実施形態では、抗体またはその断片は、TGFβ1のプロ/潜在型複合体に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、抗体またはその断片は、プロ/潜在型複合体に存在しない遊離の成熟TGFβ1には結合しない。いくつかの実施形態では、プロ/潜在型複合体は、GARP、LRRC33、LTBP1、LTBP2、LTBP3またはLTBP4を含む。
【0074】
別の態様では、TGFβシグナル伝達に関連する疾患を処置するための方法であって、それを必要とする被験体に、本発明で提供される医薬組成物を、疾患を処置するために有効な量で投与するステップであり、当該量が、疾患を有する患者集団に投与した場合に統計的に有意な臨床的効能および安全性を達成するものである、ステップを含む方法が本明細書で提供される。
【0075】
さらに別の態様では、被験体における有害作用の低減に使用するためのTGFβ阻害剤であって、アイソフォーム選択的であるTGFβ阻害剤が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、TGFβ阻害剤は、TGFβ1を特異的に阻害する抗体である。
特定の態様では例えば以下の項目が提供される:
(項目1)
TGFβ1のエピトープに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性部分であって、前記エピトープは、前記TGFβ1が以下のタンパク質複合体:
GARP-TGFβ1複合体、
LTBP1-TGFβ1複合体、
LTBP3-TGFβ1複合体、および
LRRC33-TGFβ1複合体
のうちの2つまたはそれよりも多くの中に存在する場合に、前記抗体による結合に利用可能なものであり、
前記抗体は、遊離の成熟TGFβ1には結合しない、
抗体またはその抗原結合性部分。
(項目2)
前記TGFβ1が潜在型TGFβ1である、項目1に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目3)
前記TGFβ1がプロTGFβ1である、項目1に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目4)
前記抗体が、TGFβ2には結合しない、項目1から3のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目5)
TGFβ3には結合しない、項目1から4のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目6)
TGFβ1のインテグリンに結合する能力を妨げない、項目1から5のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目7)
配列番号5のアミノ酸配列を有する相補性決定領域3(CDR3)を含む重鎖可変領域および配列番号11のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、項目1から6のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目8)
配列番号3のアミノ酸配列を有する相補性決定領域2(CDR2)を含む重鎖可変領域および配列番号9のアミノ酸配列を有するCDR2を含む軽鎖可変領域を含む、項目1から7のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目9)
配列番号1のアミノ酸配列を有する相補性決定領域1(CDR1)を含む重鎖可変領域および配列番号7のアミノ酸配列を有するCDR1を含む軽鎖可変領域を含む、項目1から8のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目10)
配列番号13に記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号14に記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、項目1から9のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目11)
配列番号13に記載されているアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号14に記載されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、項目1から10のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目12)
配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域および配列番号12のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、項目1から6のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目13)
配列番号4のアミノ酸配列を有するCDR2を含む重鎖可変領域および配列番号10のアミノ酸配列を有するCDR2を含む軽鎖可変領域を含む、項目1から6、および12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目14)
配列番号2のアミノ酸配列を有するCDR1を含む重鎖可変領域および配列番号8のアミノ酸配列を有するCDR1を含む軽鎖可変領域を含む、項目1から6、12および13のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目15)
配列番号15に記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号16に記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、項目1から6、および12から14のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目16)
配列番号15に記載されているアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号16に記載されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、項目1から6、および12から15のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目17)
TGFβ1活性化を阻害する、項目1から16のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目18)
前記GARP-TGFβ1複合体、前記LTBP1-TGFβ1複合体、前記LTBP3-TGFβ1複合体、および/または前記LRRC33-TGFβ1複合体からの成熟TGFβ1の放出を阻害する、項目1から17のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目19)
TGFβ1の前記エピトープに対する解離定数(KD)が、少なくとも約10-8M;少なくとも約10-9M;少なくとも約10-10M;少なくとも約10-11M;少なくとも約10-12M;および少なくとも約10-13Mからなる群より選択される、項目1から18のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目20)
ヒトIgG1定常ドメインまたはヒトIgG4定常ドメインの免疫グロブリン重鎖定常ドメインを含む、項目1から19のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目21)
ヒトIgG4定常ドメインの免疫グロブリン重鎖定常ドメインを含む、項目1から20のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目22)
IgG1様ヒンジが生成され、鎖間ジスルフィド結合の形成が可能になるSerからProへの骨格置換を有する、ヒトIgG4定常ドメインの免疫グロブリン重鎖定常ドメインを含む、項目21に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目23)
ヒトIgラムダ定常ドメインまたはヒトIgカッパ定常ドメインを含む免疫グロブリン軽鎖定常ドメインをさらに含む、項目1から22のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分。
(項目24)
2つの重鎖および2つの軽鎖である4つのポリペプチド鎖を有するIgGである、項目1から23のいずれか一項に記載の抗体。
(項目25)
ヒト化抗体、ダイアボディ、またはキメラ抗体である、項目1から24のいずれか一項に記載の抗体。
(項目26)
ヒト化抗体である、項目1から25のいずれか一項に記載の抗体。
(項目27)
ヒト抗体である、項目1から26のいずれか一項に記載の抗体。
(項目28)
ヒト生殖系列アミノ酸配列を有するフレームワークを含む、項目1から27のいずれか一項に記載の抗体。
(項目29)
Fab断片、F(ab’)2断片、scFab断片、またはscFv断片である、項目1から28のいずれか一項に記載の抗原結合性部分。
(項目30)
項目1から29までのいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性部分と結合について競合する抗TGFβ1抗体またはその抗原結合性部分。
(項目31)
項目1から29のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分と同じエピトープに結合する抗TGFβ1抗体またはその抗原結合性部分。
(項目32)
項目1から31のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
(項目33)
TGFβ1活性化を阻害するための方法であって、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、またはLRRC33-TGFβ1複合体を項目1から31のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合性部分または項目32に記載の医薬組成物に曝露させるステップを含む、方法。
(項目34)
前記抗体またはその抗原結合性部分が、前記GARP-TGFβ1複合体、前記LTBP1-TGFβ1複合体、前記LTBP3-TGFβ1複合体、および/または前記LRRC33-TGFβ1複合体からの成熟TGFβ1の放出を阻害する、項目33に記載の方法。
(項目35)
in vitroで実施される、項目33または34に記載の方法。
(項目36)
in vivoで実施される、項目33または34に記載の方法。
(項目37)
前記GARP-TGFβ1複合体または前記LRRC33-TGFβ1複合体が、細胞の外表面に存在する、項目33から34のいずれか一項に記載の方法。
(項目38)
前記細胞が、T細胞、線維芽細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、抗原提示細胞、またはミクログリアである、項目37に記載の方法。
(項目39)
前記LTBP1-TGFβ1複合体または前記LTBP3-TGFβ1複合体が、細胞外マトリクスに結合している、項目33から36のいずれか一項に記載の方法。
(項目40)
前記細胞外マトリクスが、フィブリリンを含む、項目39に記載の方法。
(項目41)
前記細胞外マトリクスが、RGDモチーフを含むタンパク質を含む、項目39または40に記載の方法。
(項目42)
被験体におけるTGFβ1活性化を低減するための方法であって、前記被験体に、項目1から31のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合性部分または項目32に記載の医薬組成物を有効量で投与し、それにより、前記被験体におけるTGFβ1活性化を低減するステップを含む、方法。
(項目43)
前記被験体が、線維症、筋ジストロフィー、がん、認知症、および骨髄線維症からなる群より選択される状態を有するかまたは有するリスクがある、項目42に記載の方法。
(項目44)
前記被験体が、肝線維症、腎線維症、または肺線維症(例えば、特発性肺線維症)を有するかまたは有するリスクがある、項目43に記載の方法。
(項目45)
前記被験体が、ミオスタチン阻害剤、VEGFアゴニスト、IGF1アゴニスト、FXRアゴニスト、CCR2阻害剤、CCR5阻害剤、二重CCR2/CCR5阻害剤、リシルオキシダーゼ様-2阻害剤、ASK1阻害剤、アセチル-CoAカルボキシラーゼ(ACC)阻害剤、p38キナーゼ阻害剤、ピルフェニドン、ニンテダニブ、GDF11阻害剤、またはこれらの任意の組み合わせを含む治療をさらに受ける、項目44に記載の方法。
(項目46)
前記抗体またはその抗原結合性部分が、制御性T細胞の抑制活性を低減する、項目42から45のいずれか一項に記載の方法。
(項目47)
前記抗体またはその抗原結合性部分が、前記被験体における臓器毒性を誘導しない、項目33から46のいずれか一項に記載の方法。
(項目48)
前記臓器毒性が、心血管毒性、胃腸毒性、免疫毒性、骨毒性、軟骨毒性、生殖系毒性、または腎毒性を含む、項目47に記載の方法。
(項目49)
がんの処置を必要とする被験体におけるがんを処置するための方法であって、前記被験体に、項目1から31のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合性部分または項目32に記載の医薬組成物を有効量で投与し、それにより、前記被験体におけるがんを処置するステップを含む、方法。
(項目50)
前記抗体またはその抗原結合性部分を追加的な薬剤または追加的な治療と組み合わせて投与する、項目49に記載の方法。
(項目51)
前記追加的な薬剤がチェックポイント阻害剤である、項目49に記載の方法。
(項目52)
前記追加的な薬剤が、PD-1アンタゴニスト、PDL1アンタゴニスト、PD-L1またはPDL2融合タンパク質、CTLA4アンタゴニスト、GITRアゴニスト、抗ICOS抗体、抗ICOSL抗体、抗B7H3抗体、抗B7H4抗体、抗TIM3抗体、抗LAG3抗体、抗OX40抗体、抗CD27抗体、抗CD70抗体、抗CD47抗体、抗41BB抗体、抗PD-1抗体、腫瘍溶解性ウイルス、およびPARP阻害剤からなる群より選択される、項目49に記載の方法。
(項目53)
前記追加的な治療が、放射線、化学療法剤、またはこれらの組み合わせである、項目49に記載の方法。
(項目54)
項目1から31のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性部分をコードする核酸。
(項目55)
項目1から31のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合性部分または項目32に記載の医薬組成物、およびその使用についての指示を含む、キット。
(項目56)
筋線維傷害を処置するための方法であって、筋線維傷害を有する被験体に、TGFβ2/3に対してTGFβ1を選択的に阻害する薬剤を、
i)筋線維修復を促進する;
ii)収縮誘導性損傷から保護する;
iii)筋肉の炎症を低減する;および/または、
iv)筋肉の線維症を低減する
のに有効な量で投与するステップを含む、方法。
(項目57)
前記量が、前記被験体において許容されないレベルの有害作用を引き起こさない、項目56に記載の方法。
(項目58)
前記筋線維傷害が、
i)筋ジストロフィーに関連する;または
ii)急性筋損傷に関連する、
項目56または57に記載の方法。
(項目59)
前記薬剤が、TGFβ1の活性化を遮断するが、TGFβ2またはTGFβ3の活性化を遮断しない、項目56から58のいずれか一項に記載の方法。
(項目60)
前記薬剤が、モノクローナル抗体である、項目56から59のいずれか一項に記載の方法。
(項目61)
前記モノクローナル抗体が、GARP-プロTGFβ1潜在型複合体、LRRC33-プロTGFβ1潜在型複合体、LTBP1-プロTGFβ1潜在型複合体、LTBP2-プロTGFβ1潜在型複合体、LTBP3-プロTGFβ1潜在型複合体、および/またはLTBP4-プロTGFβ1潜在型複合体に結合する、項目60に記載の方法。
(項目62)
前記被験体が、ミオスタチン阻害剤をさらに受ける、項目56から61のいずれか一項に記載の方法。
(項目63)
疾患に関連するTGFβ1の供給源または状況を同定するステップ
をさらに含む、項目56から62のいずれか一項に記載の方法。
(項目64)
TGFβシグナル伝達を調節する医薬組成物を生成するための方法であって、
TGFβの少なくとも1つのアイソフォームのシグナル伝達を調節する1つまたは複数の薬剤を提供するステップ;
TGFβの全てのアイソフォームに対する前記1つまたは複数の薬剤の活性を測定するステップ;
TGFβの単一のアイソフォームに特異的である薬剤を選択するステップ;
アイソフォーム特異的TGFβモジュレーターおよび薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に製剤化するステップ
を含む、方法。
(項目65)
前記アイソフォーム特異的TGFβモジュレーターが、TGFβ1特異的モジュレーターである、項目64に記載の方法。
(項目66)
前記TGFβ1特異的モジュレーターが、TGFβ1の阻害剤である、項目65に記載の方法、
(項目67)
前記アイソフォーム特異的TGFβモジュレーターが、抗体またはその断片である、項目64に記載の方法。
(項目68)
前記抗体またはその断片が、TGFβ1のプロ/潜在型複合体に特異的に結合する、項目67に記載の方法。
(項目69)
前記抗体またはその断片が、前記プロ/潜在型複合体に存在しない遊離の成熟TGFβ1には結合しない、項目68に記載の方法。
(項目70)
前記プロ/潜在型複合体が、GARP、LRRC33、LTBP1、LTBP2、LTBP3またはLTBP4を含む、項目68に記載の方法。
(項目71)
項目64に記載の方法によって生成される医薬組成物。
(項目72)
TGFβシグナル伝達に関連する疾患を処置するための方法であって、
それを必要とする被験体に、項目71に記載の医薬組成物を、前記疾患を処置するのに有効な量で投与するステップを含み、前記量が、前記疾患を有する患者集団に投与した場合に統計的に有意な臨床的効能および安全性を達成する、
方法。
(項目73)
被験体における有害作用の低減に使用するためのTGFβ阻害剤であって、アイソフォーム選択的であるTGFβ阻害剤。
(項目74)
前記TGFβ阻害剤が、TGFβ1を特異的に阻害する抗体である、項目73に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【
図1】
図1は、組織微小環境において潜在型複合体に結合したTGFβを示す概略図である。
【0077】
【
図2】
図2Aおよび2Bは、微小環境におけるニッチ調節を示す概略図である。
図2Aは、線維性疾患ニッチおよび創傷治癒ニッチにおいてTGFβを提示する潜在型トランスホーミング増殖因子ベータ結合性タンパク質(LTBP)を示す。
図2Bは、糖タンパク質A反復優性タンパク質(glycoprotein-A repetitions predominant protein)(GARP)により炎症性ニッチにおけるTGFβ活性化が調節されることを例示する。
【0078】
【
図3】
図3は、GARP-TGFβ1複合体およびLTBP-TGFβ1複合体を作製するためのタンパク質発現プラットフォームを例示する。HEK293に基づく発現系ではNiNTAアフィニティー精製およびゲル濾過を使用して数ミリグラム量の精製タンパク質を得る。野生型プロTGFβ1、LTPB1、sGARP、およびプロTGFβ1 C4Sの概略図が示されている。
【0079】
【
図4A】
図4Aおよび4Bは、sGARP-プロTGFβ1複合体の精製を示す。
図4Aは試料のクロマトグラムであり、
図4Bは産物のブロットおよび複合体を例示する概略図を示す。
【
図4B】
図4Aおよび4Bは、sGARP-プロTGFβ1複合体の精製を示す。
図4Aは試料のクロマトグラムであり、
図4Bは産物のブロットおよび複合体を例示する概略図を示す。
【0080】
【
図5A】
図5Aおよび5Bは、sGARP-TGFβ1 LAP複合体の精製を示す。
図5Aは試料のクロマトグラムであり、
図5Bは産物のブロットおよび複合体を例示する概略図を示す。
【
図5B】
図5Aおよび5Bは、sGARP-TGFβ1 LAP複合体の精製を示す。
図5Aは試料のクロマトグラムであり、
図5Bは産物のブロットおよび複合体を例示する概略図を示す。
【0081】
【
図6A】
図6Aおよび6Bは、プロTGFβ1と複合体を形成したLTBP1の精製を示す。
図6Aは試料のクロマトグラムであり、
図6Bは産物のブロットおよび複合体を例示する概略図を示す。NRは非還元を表し、Rは還元を表す。
【
図6B】
図6Aおよび6Bは、プロTGFβ1と複合体を形成したLTBP1の精製を示す。
図6Aは試料のクロマトグラムであり、
図6Bは産物のブロットおよび複合体を例示する概略図を示す。NRは非還元を表し、Rは還元を表す。
【0082】
【
図7】
図7は、Ab1およびAb2によりTGFβ1活性の活性化が遮断されることを示すグラフである。
【0083】
【
図8】
図8は、ヒト細胞におけるAb1の最初の用量反応分析を示す。
【0084】
【
図9】
図9は、ヒト細胞におけるAb1によるTGFβ1阻害を例示するCAGA12レポーター細胞アッセイを示す。
【0085】
【
図10】
図10は、GARP複合体の阻害により、健康なドナーの血液から単離されたT細胞における制御性T(Treg)細胞の抑制活性が遮断されることを示すグラフである。
【0086】
【
図11-1】
図11A~11Cは、線維芽細胞からのインテグリン媒介性TGFβ1放出の阻害を示す。
図11Aおよび11Bは、Ab1(
図11A)またはAb2(
図11B)のいずれかを漸増濃度で使用した、正常なヒト皮膚線維芽細胞(丸)、正常なヒト肺線維芽細胞(四角)、マウスC57BL/6J肺線維芽細胞(逆三角形)、またはマウスDBA2/J筋線維芽細胞(丸)のいずれかにおける内在性TGFβ1の阻害を示すグラフである。
図11Cは、共培養アッセイ系の概略図を提示する。
【
図11-2】
図11A~11Cは、線維芽細胞からのインテグリン媒介性TGFβ1放出の阻害を示す。
図11Aおよび11Bは、Ab1(
図11A)またはAb2(
図11B)のいずれかを漸増濃度で使用した、正常なヒト皮膚線維芽細胞(丸)、正常なヒト肺線維芽細胞(四角)、マウスC57BL/6J肺線維芽細胞(逆三角形)、またはマウスDBA2/J筋線維芽細胞(丸)のいずれかにおける内在性TGFβ1の阻害を示すグラフである。
図11Cは、共培養アッセイ系の概略図を提示する。
【0087】
【0088】
【
図13A】
図13Aおよび13Bは、Ab1(「Ab1」)、Ab2(「Ab2」)、アイソタイプ対照IgG1抗体(「アイソタイプ対照」)、またはビヒクル対照(「ビヒクル」)のいずれかを漸増濃度で使用した、SW480/β6細胞トランスフェクタントにおけるGARP-TGFβ1複合体(
図13A)またはLRRC33-TGFβ1複合体(
図13B)の阻害を示すグラフである。
【
図13B】
図13Aおよび13Bは、Ab1(「Ab1」)、Ab2(「Ab2」)、アイソタイプ対照IgG1抗体(「アイソタイプ対照」)、またはビヒクル対照(「ビヒクル」)のいずれかを漸増濃度で使用した、SW480/β6細胞トランスフェクタントにおけるGARP-TGFβ1複合体(
図13A)またはLRRC33-TGFβ1複合体(
図13B)の阻害を示すグラフである。
【0089】
【
図14】
図14は、恒久的右片側性UUO手術を行い、外科的介入の前にPBS(対照)、30mg/kgのマウスIgG1対照抗体、3mg/kgのAb2、もしくは30mg/kgのAb2のいずれかを腹腔内(i.p.)投与したマウス(2番目の棒~5番目の棒);またはPBSを投与し、開腹術を行ったマウス(偽対照;最初の棒)由来の腎組織におけるヒドロキシプロリンのレベルを示す棒グラフである。
【0090】
【
図15-1】
図15A~15Hは、恒久的右片側性UUO手術を行い、外科的介入の前日、次いで外科手術の1日後および3日後にPBS(対照)、30mg/kgのマウスIgG1対照抗体、3mg/kgのAb2、もしくは30mg/kgのAb2のいずれかを腹腔内(i.p.)投与したマウス(各グラフの2番目の棒~5番目の棒);またはPBSを投与し、開腹術を行ったマウス(偽対照;各グラフの最初の棒)由来の腎組織における、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子-1(PAI-1;
図15A)、結合組織増殖因子(CTGF;
図15B)、TGFβ1(
図15C)、フィブロネクチン-1(
図15D)、α-平滑筋アクチン(α-SMA;
図15E)、単球走化性タンパク質1(MCP-1;
図15F)、I型コラーゲンアルファ1(Col1a1;
図15G)、またはIII型コラーゲンアルファ1鎖(Col3a1;
図15H)のいずれかの相対的なmRNAレベルを示す棒グラフである。このデータは、複数回の実験を代表するものである。
【
図15-2】
図15A~15Hは、恒久的右片側性UUO手術を行い、外科的介入の前日、次いで外科手術の1日後および3日後にPBS(対照)、30mg/kgのマウスIgG1対照抗体、3mg/kgのAb2、もしくは30mg/kgのAb2のいずれかを腹腔内(i.p.)投与したマウス(各グラフの2番目の棒~5番目の棒);またはPBSを投与し、開腹術を行ったマウス(偽対照;各グラフの最初の棒)由来の腎組織における、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子-1(PAI-1;
図15A)、結合組織増殖因子(CTGF;
図15B)、TGFβ1(
図15C)、フィブロネクチン-1(
図15D)、α-平滑筋アクチン(α-SMA;
図15E)、単球走化性タンパク質1(MCP-1;
図15F)、I型コラーゲンアルファ1(Col1a1;
図15G)、またはIII型コラーゲンアルファ1鎖(Col3a1;
図15H)のいずれかの相対的なmRNAレベルを示す棒グラフである。このデータは、複数回の実験を代表するものである。
【
図15-3】
図15A~15Hは、恒久的右片側性UUO手術を行い、外科的介入の前日、次いで外科手術の1日後および3日後にPBS(対照)、30mg/kgのマウスIgG1対照抗体、3mg/kgのAb2、もしくは30mg/kgのAb2のいずれかを腹腔内(i.p.)投与したマウス(各グラフの2番目の棒~5番目の棒);またはPBSを投与し、開腹術を行ったマウス(偽対照;各グラフの最初の棒)由来の腎組織における、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子-1(PAI-1;
図15A)、結合組織増殖因子(CTGF;
図15B)、TGFβ1(
図15C)、フィブロネクチン-1(
図15D)、α-平滑筋アクチン(α-SMA;
図15E)、単球走化性タンパク質1(MCP-1;
図15F)、I型コラーゲンアルファ1(Col1a1;
図15G)、またはIII型コラーゲンアルファ1鎖(Col3a1;
図15H)のいずれかの相対的なmRNAレベルを示す棒グラフである。このデータは、複数回の実験を代表するものである。
【0091】
【
図16】
図16は、ピクロシリウスレッドで染色し、カラースペクトル分割を使用した定量的組織学的分析に供した、マウスから収集された右側腎臓の3つの連続切片の複合皮質コラーゲン体積の割合(CVF)を示す。恒久的右片側性UUO手術を行い、外科的介入前にPBS(「Veh」)、30mg/kgのマウスIgG1対照抗体(「IgG Ctrl」)、3mg/kgのAb2(「3 Ab2」)、もしくは30mg/kgのAb2(「30 Ab2」)を腹腔内(i.p.)投与したマウス(各グラフの2番目の棒~5番目の棒);またはPBSを投与し、開腹術を行ったマウス(「偽」;各グラフの最初の棒)由来のCVF。
【0092】
【
図17】
図17は、マウスIgG1アイソタイプ対照抗体とラットIgG2a対照抗体の組み合わせ(群1;対照);Ab1とラットIgG2a対照抗体の組み合わせ(群2);Ab2とラットIgG2a対照抗体の組み合わせ(群3);マウスIgG1対照抗体と抗PD-1抗体の組み合わせ(群4);Ab1と抗PD-1抗体の組み合わせ(群5);Ab2と抗PD-1抗体の組み合わせ(群6)のいずれかを投与したMC38マウス結腸癌同系モデルC57/BL/6マウスのメジアン腫瘍体積を示す。
【0093】
【
図18】
図18A~18Cは、例示的なモノクローナル抗体の結合特異性を示す。
図18Aは、Ab1およびAb2が、ELISAによって測定したところプロTGFβ1に特異的に結合するが、プロTGFβ2にもプロTGFβ3にも成熟TGFβ1にも結合しないことを示す。
図18Bは、抗体結合特異性を決定するための抗原として使用するために発現させ、精製した、精製LTBP-プロTGFβ1の例を示す。
図18Cは、LTBP1-プロTGFβ1複合体に特異的に結合する抗体(ELISAによって測定して)の例を示す。
【0094】
【
図19】
図19は、ビヒクル対照(PBS;「対照」);200mg/kgのLY2109761;300mg/kgのLY2109761;100mg/kgの汎TGFβ抗体(「汎TGFβ Ab」);または100mg/kgのAb2のいずれかを用いて処置したラットの生存曲線を示す。
【0095】
【
図20】
図20は、ビヒクル対照(PBS;「対照」);200mg/kgのLY2109761;300mg/kgのLY2109761;100mg/kgの汎TGFβ抗体(「汎TGFβ Ab」);または100mg/kgのAb2のいずれかを用いて処置したラットの体重(平均/標準偏差)を示す。
【0096】
【
図21】
図21A~21Cは、ビヒクル対照(PBS;「対照」)、200mg/kgのLY2109761、または300mg/kgのLY2109761(
図21A);ビヒクル対照(PBS;「対照」)、または100mg/kgの汎TGFβ抗体(「汎TGFβ Ab」);またはビヒクル対照(PBS;「対照」)、または100mg/kgのAb2を用いて処置した個々のラットの体重を示す。
【0097】
【
図22】
図22Aおよび22Bは、Ab1(
図22A)またはAb2(
図22B)のいずれかを漸増濃度で使用した、プロTGFβ1および提示分子(すなわち、GARPまたはLRRC33)を発現するようにプラスミドを一過性にトランスフェクトしたSW480/β6細胞におけるGARP-プロTGFβ1複合体またはLRRC33-プロTGFβ1複合体の阻害を示すグラフである。GARP-TGFβ1複合体に対するAb1のIC50(μg/mL)は0.445であり、LRRC33-TGFβ1複合体に対するAb1のIC50(μg/mL)は1.325であった。
【0098】
【
図23】
図23は、200mg/kgのLY2109761(右上のパネル);100mg/kgの汎TGFβ抗体(「汎TGFβ Ab」、左下のパネル);100mg/kgのAb2(右下のパネル)のいずれかを用いて処置したラット、または無処置対照(左上のパネル)の心臓弁に由来するヘマトキシリン・エオシン染色切片の顕微鏡画像を示す。注:右下のパネル(Ab2)は、厚さが不均一なためにより濃く染色された斜めになった切片である。
【発明を実施するための形態】
【0099】
哺乳動物では、トランスホーミング増殖因子-ベータ(TGFβ)スーパーファミリーは、少なくとも33種の遺伝子産物で構成される。これらは、骨形態形成タンパク質(BMP)、アクチビン、増殖分化因子(GDF)、ならびにTGFβファミリーの3種のアイソフォーム:TGFβ1、TGFβ2、およびTGFβ3を含む。TGFβは、細胞増殖の阻害、細胞外マトリクス(ECM)リモデリング、および免疫恒常性などの多様なプロセスにおいて重要な役割を果たすと考えられている。T細胞恒常性に対するTGFβ1の重要性は、TGFβ1-/-マウスが3~4週間しか生存せず、強力な免疫活性化に起因する多臓器不全で死亡するという知見によって実証される(Kulkarni, A.B.ら、Proc Natl Acad Sci U S A、1993年、90巻(2号):770~4頁;Shull, M.M.ら、Nature、1992年、359巻(6397号):693~9頁)。TGFβ2およびTGFβ3の役割ははっきりしていない。3種のTGFβアイソフォームは、別個の時間的および空間的発現パターンを有する一方で、同じ受容体、TGFβRIおよびTGFβRIIを通じてシグナル伝達するが、一部の場合、例えばTGFβ2シグナル伝達に関しては、ベータグリカンなどのIII型受容体も必要である(Feng, X.H.およびR. Derynck、Annu Rev Cell Dev Biol、2005年、21巻:659~93頁;Massague, J.、Annu Rev Biochem、1998年、67巻:753~91頁)。TGFβRI/IIのリガンド誘導性オリゴマー形成により、SMAD転写因子のリン酸化が誘発され、その結果、Col1a1、Col3a1、ACTA2、およびSERPINE1などの標的遺伝子の転写がもたらされる(Massague, J.、J. Seoane、およびD. Wotton、Genes Dev、2005年、19巻(23号):2783~810頁)。SMADに依存しないTGFβシグナル伝達経路も、例えば、Marfanマウスのがんまたは大動脈病変において記載されている(Derynck, R.およびY.E. Zhang、Nature、2003年、425巻(6958号):577~84頁;Holm, T.M.ら、Science、2011年、332巻(6027号):358~61頁)。
【0100】
ヒトにおけるTGFβ経路の生物学的重要性は遺伝子疾患によって検証されてきた。カムラチ-エンゲルマン病の結果、TGFB1遺伝子の常染色体優性変異に起因して骨異形成が生じ、それにより、構成的なTGFβ1の活性化シグナル伝達が導かれる(Janssens, K.ら、J Med Genet、2006年、43巻(1号):1~11頁)。ロイス/ディーツ症候群の患者は、大動脈瘤、隔離症、および口蓋垂裂を引き起こす、TGFβシグナル伝達経路の構成成分の常染色体優性変異を有する(Van Laer, L.、H. Dietz、およびB. Loeys、Adv Exp Med Biol、2014年、802巻:95~105頁)。TGFβ経路の制御不全は多数の疾患に関係づけられているので、TGFβ経路を標的化するいくつかの薬物が開発され、患者において試験されてきたが、成功は限られている。
【0101】
本開示の発明者らは、TGFβの3種のアイソフォーム全てが、同じ受容体を通じてシグナル伝達し、当該受容体を発現する細胞において下流のエフェクターを伝達することができるが、各TGFβアイソフォームはin vivoにおいて別個の生物学的効果を生じ得ると判断した。さらに、本発明者らは、少なくとも一部の場合では、増殖因子-受容体相互作用が誘発される方式により、in vivoにおけるシグナル伝達特異性がさらにもたらされ得ると考察した。この認識を踏まえて、以下に簡単に要約されている通り、現在まで文献に記載されているTGFβ阻害剤は特異性を欠くことに留意する。
【0102】
TGFβの3種のアイソフォーム全てに結合し、それを阻害するヒト化モノクローナル抗体であるフレソリムマブは、巣状分節状糸球体硬化症、悪性黒色腫、腎細胞癌、および全身性硬化症の患者において臨床的に試験されている(Rice, L.M.ら、J Clin Invest、2015年、125巻(7号):2795~807頁;Trachtman, H.ら、Kidney Int、2011年、79巻(11号):1236~43頁;Morris, J.C.ら、PLoS One、2014年、9巻(3号):e90353頁)。さらなる会社により、TGFβアイソフォームに対する選択性の程度が様々な、TGFβ増殖因子に対するモノクローナル抗体が開発されている。そのような薬剤では、TGFβ1に加えて他のTGFβファミリーメンバーに対する残留活性によりin vivoにおける毒性が引き出される可能性がある。本開示の発明者らの知見の限りでは、成熟増殖因子を標的化することでは単一のアイソフォームに対する完全な特異性は達成されておらず、これは、アイソフォーム間の配列同一性の程度が高いことに起因する。
【0103】
TGFβ経路を標的化するための他の手法は、Acceleronからの可溶性TGFβRII-FcリガンドトラップであるACE-1332(Yung, L.M.ら、A Am J Respir Crit Care Med、2016年、194巻(9号):1140~1151頁)、またはLillyのガルニセルチブなどのALK5キナーゼの小分子阻害剤を含む。一方でACE-1332はTGFβ1およびTGFβ3に同等に高い親和性で結合する(Yung, L.M.ら、Am J Respir Crit Care Med、2016年、194巻(9号):1140~1151頁)。ALK5阻害剤は、TGFR1を通じてシグナル伝達する全ての増殖因子の活性を遮断する。ALK5阻害剤を使用した前臨床試験において実質的な毒性が見出され(Anderton, M.J.ら、Toxicol Pathol、2011年、39巻(6号):916~24頁;Stauber, A.ら、Clinical Toxicology、2014年、4巻(3号):1~10頁)、有害作用を低減させながら効能を維持するためには洗練された臨床的投薬スキームが必要である(Herbertz, S.ら、Drug Des Devel Ther、2015年、9巻:4479~99頁)。実際、TGFβシグナル伝達特異性および公知のTGFβ阻害剤で観察される毒性に対する可能性のあるその影響に関する問題が、TGFβの遮断が試みられている候補薬物の全てではないが大半において生じている。例えば、TGFβ2および/またはTGFβ3に対してTGFβ1の阻害に起因する毒性がどのくらいであるかに関しては対処されていない。同様に、TGFβシグナル伝達に拮抗するためのやり方の設計または開発においてTGFβ活性化の方式は考慮されていない。
【0104】
TGFβ1の活性化機構への最近の構造的洞察により、本発明者らがTGFβ阻害のための新規のより特異的な手法をとることが可能になった(Shi, M.ら、Nature、2011年、474巻(7351号):343~9頁)。他のサイトカインとは異なり、TGFβスーパーファミリーメンバーは、活性増殖因子としては分泌されないが、N末端プロドメインおよびC末端増殖因子ドメインからなる二量体プロタンパク質として分泌される。フューリンプロテアーゼによるプロTGFβ1の切断により、ホモ二量体の増殖因子ドメインが潜在型会合ペプチド(LAP)とも称されるプロドメインから分離される。しかし、増殖因子とLAPは非共有結合により会合したままになり、その受容体に結合し、シグナル伝達を誘導することができない潜在型複合体が形成される(
図1)。翻訳の間、小潜在型複合体(small latent complex)(SLC)とも称される潜在型TGFβ1は、ジスルフィド架橋によって「提示分子」と連結し、大潜在型複合体(large latent complex)(LLC)が形成される。これらの分子により、プロTGFβ1が特異的な細胞または組織状況で提示されることが可能になる。潜在型TGFβ1のN末端付近の2つのシステインは提示分子上の適切な位置にあるシステインと連結する。提示分子の同一性は環境および潜在型TGFβ1を産生する細胞型に依存する。例えば、線維芽細胞は、潜在型TGFβ結合性タンパク質(LTBP)に係留された潜在型TGFβ1を分泌し、これは、次に細胞外マトリクス(ECM)内のタンパク質(すなわち、フィブロネクチン、フィブリリン-1)と会合し、潜在型TGFβをECMに連結させる(Robertsonら、Matrix Biol、47巻:44~53頁(2015年)(
図2A)。活性化された制御性T細胞の表面上で潜在型TGFβ1は膜貫通タンパク質GARPと共有結合し(
図2B)、最近、GARPと密接に関連するタンパク質LRRC33が、単球、マクロファージおよびミクログリアの表面上のTGFβ1のための提示分子として同定された(Wang, R.ら、Mol Biol Cell、2012年、23巻(6号):1129~39頁およびT.A. Springer, Int. BMP Conference、2016年)。
【0105】
哺乳動物では、4種の公知のLTBP、LTBP1~4が存在し、それぞれが複数のスプライスバリアントを有する(Robertson, I.B.ら、Matrix Biol、2015年、47巻:44~53頁)。LTBP2は潜在型TGFβと会合しない唯一のLTBPである(Saharinen, J.およびJ. Keski-Oja、Mol Biol Cell、2000年、11巻(8号):2691~704頁)。LTBP1またはLTBP3と潜在型TGFβ1の会合は十分に検証されているが、TGFβ提示におけるLTBP4の役割ははっきりしていない。LTBP4と潜在型TGFβ1の複合体は、LTBP4のTGFβ結合性ドメインにはいくつかの負に荷電した残基が存在しないことに潜在的に起因してはるかに低い効率で形成されると思われる(Saharinen, J.およびJ. Keski-Oja、Mol Biol Cell、2000年、11巻(8号):2691~704頁;Chen, Y.ら、J Mol Biol、2005年、345巻(1号):175~86頁)。LTBP4S-/-マウスおよびLTBP4のヌル変異を有するアーバン・リフキン・デービス症候群(Urban-Rifkin-Davis syndrome)患者のどちらでも、弾性線維アセンブリの破壊が生じる(Urban, Z.ら、Am J Hum Genet、2009年、85巻(5号):593~605頁;Dabovic, B.ら、J Cell Physiol、2015年、230巻(1号):226~36頁)。さらに、LTBP4S-/-マウスは、肺中隔形成および弾性線維形成欠陥(elastogenesis defect)を有し、潜在型TGFβ1との複合体を形成することができないLTBP4を有するトランスジェニックマウスは、明白な表現型を有さない(Dabovic, B.ら、J Cell Physiol、2015年、230巻(1号):226~36頁)。LTBP4が提示分子として機能することによって潜在型TGFβ1制御に直接関与するかどうかは不明である;その代わりに、LTBP4は、ECMにおける弾性原線維の適切な形成に必要であり得、その欠如はECMにおける欠陥によって潜在型TGFβ1活性化に間接的に影響を及ぼす。
【0106】
いくつもの研究により、TGFβ1活性化の機構が明らかになった。3種のインテグリン、αVβ6、αVβ8、およびαVβ1が潜在型TGFβ1の重要な活性化因子であることが実証されている(Reed, N.I.ら、Sci Transl Med、2015年、7巻(288号):288ra79;Travis, M.A.およびD. Sheppard、Annu Rev Immunol、2014年、32巻:51~82頁;Munger, J.S.ら、Cell、1999年、96巻(3号):319~28頁)。αVインテグリンは、TGFβ1およびTGFβ1 LAPに存在するRGD配列に高親和性で結合する(Dong, X.ら、Nat Struct Mol Biol、2014年、21巻(12号):1091~6頁)。インテグリンの結合を妨げるが分泌は妨げないTGFβ1 RGD部位における変異を有するトランスジェニックマウスは、TGFβ1-/-マウスを表現型模写する(Yang, Z.ら、J Cell Biol、2007年、176巻(6号):787~93頁)。β6インテグリンとβ8インテグリンの両方を欠くマウスは、多臓器炎症および口蓋裂を含めた、TGFβ1およびTGFβ3ノックアウトマウスの必須表現型を全て再現し、これにより、発生および恒常性におけるTGFβ1活性化に関するこれらの2種のインテグリンの本質的な役割が確認される(Aluwihare, P.ら、J Cell Sci、2009年、122巻(Pt2号):227~32頁)。潜在型TGFβ1のインテグリン依存性活性化の鍵は、提示分子との共有結合による係留である;変異誘発によるGARPとTGFβ1 LAPの間のジスルフィド結合の破壊により、複合体の形成は損なわれないが、αVβ6によるTGFβ1活性化は完全に消滅する(Wang, R.ら、Mol Biol Cell、2012年、23巻(6号):1129~39頁)。最近の潜在型TGFβ1の構造により、インテグリンにより活性なTGFβ1が潜在型複合体から放出することがどのように可能になるかが解明される:潜在型TGFβ1とその提示分子の共有結合性の連結により、潜在型TGFβ1が、LTBPを通じてECMに、またはGARPもしくはLRRC33を通じて細胞骨格に固定される。RGD配列へのインテグリンの結合の結果、LAPの構造に力依存性変化が生じ、それにより、活性なTGFβ1が放出され、近くの受容体に結合することが可能になる(Shi, M.ら、Nature、2011年、474巻(7351号):343~9頁)。疾患におけるインテグリン依存性TGFβ1活性化の重要性も十分に検証されている。αVβ1の小分子阻害剤により、ブレオマイシン誘導性肺線維症および四塩化炭素誘導性肝線維症からの保護がなされ(Reed, N.I.ら、Sci Transl Med、2015年、7巻(288号):288ra79)、また、抗体を用いたαVβ6遮断、またはインテグリンβ6発現の欠如により、ブレオマイシン誘導性肺線維症および放射線誘導性線維症が抑制される(Munger, J.S.ら、Cell、1999年、96巻(3号):319~28頁);Horan, G.S.ら、Am J Respir Crit Care Med、2008年、177巻(1号):56~65頁)。インテグリンに加えて、トロンボスポンジン-1、およびマトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)、カテプシンDまたはカリクレインなどのプロテアーゼによる活性化を含めた他のTGFβ1活性化の機構も関係づけられている。しかし、これらの研究の大多数は、精製されたタンパク質を使用してin vitroにおいて実施されたものである;in vivo研究からのこれらの分子の役割に関する証拠は少ない。トロンボスポンジン-1のノックアウトにより、一部の組織においてTGFβ1-/-表現型の一部の側面が再現されるが、TGFβ依存性であることが公知のブレオマイシン誘導性肺線維症において保護的なものではない(Ezzie, M.E.ら、Am J Respir Cell Mol Biol、2011年、44巻(4号):556~61頁)。さらに、候補プロテアーゼのノックアウトの結果、TGFβ1表現型は生じなかった(Worthington, J.J.、J.E. Klementowicz、およびM.A. Travis、Trends Biochem Sci、2011年、36巻(1号):47~54頁)。これは、冗長性によって、または、これらの機構が発生および恒常性ではなく特定の疾患において重要であることによって説明することができた。
【0107】
TGFβは、線維症、免疫調節およびがんの進行を含めたいくつもの生物学的プロセスに関係づけられている。TGFβ1は、タンパク質のTGFβスーパーファミリーの最初に同定されたメンバーである。TGFβ1ならびにアイソフォームであるTGFβ2およびTGFβ3は、TGFβスーパーファミリーの他のメンバーと同様に、最初に不活性な前駆プロタンパク質形態(プロTGFβと称される)として発現する。TGFβタンパク質(例えば、TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3)はプロタンパク質転換酵素(例えば、フューリン)によってタンパク質分解により切断されて、潜在型形態(潜在型TGFβと称される)が生じる。いくつかの実施形態では、TGFβタンパク質(例えば、TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3)のプロタンパク質形態または潜在型形態は、「プロ/潜在型TGFβタンパク質」と称され得る。TGFβ1は、例えば、GARP(GARP-TGFβ1複合体を形成するため)、LRRC33(LRRC33-TGFβ1複合体を形成するため)、LTBP1(LTBP1-TGFβ1複合体を形成するため)、および/またはLTBP3(LTBP3-TGFβ1複合体を形成するため)を含めた複数の分子との複合体で他の分子に提示され得る。これらの複合体に存在するTGFβ1は、潜在型形態(潜在型TGFβ1)であっても前駆形態(プロTGFβ1)であってもよい。
【0108】
本発明は、免疫グロブリン、例えば、(1)GARPタンパク質との複合体中のTGFβタンパク質(例えば、プロ/潜在型TGFβ1、プロ/潜在型TGFβ2、およびプロ/潜在型TGFβ3)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分、(2)LTBPタンパク質(例えば、LTBP1またはLTBP3)との複合体中のTGFβタンパク質に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分、および/または(3)LRRC33タンパク質との複合体中のTGFβタンパク質に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分に関する。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されている抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ1がGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に存在する場合に抗体またはその抗原結合性部分による結合に利用可能であるTGFβ1のエピトープに結合する。いかなる特定の理論にも束縛されることを望まないが、本明細書に開示されている抗体およびその抗原結合性部分の、GARPタンパク質、LTBPタンパク質、および/またはLRRC33タンパク質のいずれかとの複合体中に存在するTGFβタンパク質(例えば、TGFβ1)に結合する能力は、TGFβタンパク質を状況非依存的に標的化することを可能にするものであり、治療への適用に特に好適である。
【0109】
定義
本開示の理解を容易にするために、最初に特定の用語を定義する。これらの定義は、本開示の残りの部分を踏まえて読まれるべきであり、また、当業者に理解される通りである。別段の定義のない限り、本明細書において使用される全ての科学技術用語は、当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。詳細な説明の全体を通して追加的な定義が記載されている。
【0110】
本明細書で使用される場合、「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語は、抗体またはその抗原結合性部分と抗原との相互作用が特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味する。例えば、抗体またはその抗原結合性部分は、タンパク質全般に結合するのではなく、特異的なタンパク質に結合する。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、標的、例えばTGFβ1に、当該抗体の標的に対するKDが少なくとも約10-4M、10-5M、10-6M、10-7M、10-8M、10-9M、10-10M、10-11M、10-12M、10-13M、またはそれ未満であれば、特異的に結合する。いくつかの実施形態では、用語「TGFβ1のエピトープへの特異的結合」、「TGFβ1のエピトープに特異的に結合する」、「TGFβ1への特異的結合」、または「TGFβ1に特異的に結合する」は、本明細書で使用される場合、TGFβ1に結合し、表面プラズモン共鳴によって決定される解離定数(KD)が1.0×10-7Mまたはそれ未満である抗体またはその抗原結合性部分を指す。一実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ1のヒトオルソログおよび非ヒト(例えば、マウス)オルソログの両方に特異的に結合し得る。
【0111】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分のGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に対する結合親和性を、Octetアッセイを使用して決定する。いくつかの実施形態では、Octetアッセイは、抗体と抗原の結合を示す1つまたは複数の動態パラメータを決定するアッセイである。いくつかの実施形態では、Octet(登録商標)system(ForteBio、Menlo Park、CA)を使用して、抗体またはその抗原結合性部分のGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に対する結合親和性を決定する。例えば、抗体の結合親和性は、forteBio Octet QKe dipおよびバイオレイヤー干渉法を利用する読み出し標識フリーアッセイ系を使用して決定することができる。いくつかの実施形態では、抗原をバイオセンサー(例えば、ストレプトアビジンでコーティングしたバイオセンサー)に固定化し、抗体および複合体(例えば、ビオチン化GARP-TGFβ1複合体およびビオチン化LTBP-TGFβ1複合体)を溶液中に高濃度(50μg/mL)で存在させて結合相互作用を測定する。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分のGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に対する結合親和性を、表6に概説されているプロトコールを使用して決定する。
【0112】
本明細書で使用される場合、「GARP-TGFβ1複合体」という用語は、トランスホーミング増殖因子-β1(TGFβ1)タンパク質のプロタンパク質形態または潜在型形態と糖タンパク質A反復優性タンパク質(GARP)とを含むタンパク質複合体を指す。いくつかの実施形態では、TGFβ1タンパク質のプロタンパク質形態または潜在型形態は「プロ/潜在型TGFβ1タンパク質」と称され得る。いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体は、プロ/潜在型TGFβ1と1つまたは複数のジスルフィド結合を介して共有結合により連結したGARPを含む。他の実施形態では、GARP-TGFβ1複合体は、プロ/潜在型TGFβ1と非共有結合により連結したGARPを含む。いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体は、天然に存在する複合体、例えば細胞内のGARP-TGFβ1複合体である。例示的なGARP-TGFβ1複合体が
図3に示されている。
【0113】
本明細書で使用される場合、「LTBP1-TGFβ1複合体」という用語は、トランスホーミング増殖因子-β1(TGFβ1)タンパク質のプロタンパク質形態または潜在型形態と潜在型TGF-ベータ結合性タンパク質1(LTBP1)とを含むタンパク質複合体を指す。いくつかの実施形態では、LTBP1-TGFβ1複合体は、プロ/潜在型TGFβ1と1つまたは複数のジスルフィド結合を介して共有結合により連結したLTBP1を含む。他の実施形態では、LTBP1-TGFβ1複合体は、プロ/潜在型TGFβ1と非共有結合により連結したLTBP1を含む。いくつかの実施形態では、LTBP1-TGFβ1複合体は、天然に存在する複合体、例えば細胞内のLTBP1-TGFβ1複合体である。例示的なLTBP1-TGFβ1複合体が
図3に示されている。
【0114】
本明細書で使用される場合、「LTBP3-TGFβ1複合体」という用語は、トランスホーミング増殖因子-β1(TGFβ1)タンパク質のプロタンパク質形態または潜在型形態と潜在型TGF-ベータ結合性タンパク質1(LTBP3)とを含むタンパク質複合体を指す。いくつかの実施形態では、LTBP3-TGFβ1複合体は、プロ/潜在型TGFβ1と1つまたは複数のジスルフィド結合を介して共有結合により連結したLTBP3を含む。他の実施形態では、LTBP3-TGFβ1複合体は、プロ/潜在型TGFβ1と非共有結合により連結したLTBP1を含む。いくつかの実施形態では、LTBP3-TGFβ1複合体は、天然に存在する複合体、例えば細胞内のLTBP3-TGFβ1複合体である。例示的なLTBP3-TGFβ1複合体が
図3に示されている。
【0115】
本明細書で使用される場合、「LRRC33-TGFβ1複合体」という用語は、トランスホーミング増殖因子-β1(TGFβ1)タンパク質のプロタンパク質形態または潜在型形態とロイシンリッチリピートを含有するタンパク質33(LRRC33;活性酸素種の負の制御因子(Negative Regulator Of Reactive Oxygen Species)またはNRROSとしても公知)との間の複合体を指す。いくつかの実施形態では、LRRC33-TGFβ1複合体は、プロ/潜在型TGFβ1と1つまたは複数のジスルフィド結合を介して共有結合により連結したLRRC33を含む。他の実施形態では、LRRC33-TGFβ1複合体は、プロ/潜在型TGFβ1と非共有結合により連結したLRRC33を含む。いくつかの実施形態では、LRRC33-TGFβ1複合体は、天然に存在する複合体、例えば細胞内のLRRC33-TGFβ1複合体である。
【0116】
「抗体」という用語は、標的抗原に特異的に結合する免疫グロブリン分子を指し、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、および二特異性抗体を含む。インタクトな抗体は、一般に、少なくとも2つの全長重鎖および2つの全長軽鎖を含むが、ラクダ科の動物において天然に存在する重鎖のみを含む場合がある抗体などのいくつかの例では、より少ない鎖を含む場合がある。抗体は、単一の供給源のみに由来するものであってもよく、「キメラ」、すなわち、抗体の異なる部分が2つの異なる抗体に由来するものであってよい。抗体またはその抗原結合性部分は、ハイブリドーマにおいて、組換えDNA技術によって、またはインタクトな抗体の酵素的もしくは化学的切断によって作製され得る。抗体という用語は、本明細書で使用される場合、それぞれモノクローナル抗体、二特異性抗体、ミニボディ(minibody)、ドメイン抗体、合成抗体(本明細書では時には「抗体模倣物」と称される)、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、抗体融合物(本明細書では時には「抗体コンジュゲート」と称される)を含む。いくつかの実施形態では、この用語は、ペプチボディ(peptibody)も包含する。
【0117】
天然に存在する抗体構造単位は、典型的には、四量体を含む。そのような四量体は、それぞれ、典型的には、2つの同一のポリペプチド鎖の対で構成され、各対が1つの全長「軽」鎖(ある特定の実施形態では、約25kDa)および1つの全長「重」鎖(ある特定の実施形態では、約50~70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分は、典型的には、一般には抗原認識に関与する約100~110またはそれよりも多くのアミノ酸の可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部分は、典型的には、エフェクター機能に関与し得る定常領域を規定する。ヒト抗体軽鎖は、典型的には、カッパ軽鎖とラムダ軽鎖に分類される。重鎖は、典型的には、ミュー、デルタ、ガンマ、アルファ、またはイプシロンに分類され、これにより抗体のアイソタイプが規定される。抗体は、任意の型(例えば、IgM、IgD、IgG、IgA、IgY、およびIgE)およびクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM1、IgM2、IgA1、およびIgA2)のものであってよい。全長軽鎖および重鎖の中で、可変領域および定常領域は、典型的には、約12またはそれよりも多くのアミノ酸の「J」領域によって接合しており、重鎖はまた、約10またはそれよりも多くのアミノ酸の「D」領域を含む(例えば、Fundamental Immunology、第7章(Paul, W.編、第2版、Raven Press、N.Y.(1989年))(その全体が参照により組み込まれる)を参照されたい)。典型的には、各軽鎖/重鎖対の可変領域が抗原結合性部位を形成する。
【0118】
可変領域は、典型的には、比較的保存されたフレームワーク領域(FR)に相補性決定領域またはCDRとも称される超可変領域が3つ接合した、同じ一般構造を示す。典型的には、各対の2つの鎖に由来するCDRはフレームワーク領域によって整列され、これにより、特異的なエピトープへの結合が可能になる。典型的には、軽鎖可変領域および重鎖可変領域はどちらも、N末端からC末端まで、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含む。各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、典型的には、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health、Bethesda、Md.(1987年および1991年))、またはChothiaおよびLesk(1987年)J. Mol. Biol.、196巻:901~917頁;Chothiaら(1989年)Nature、342巻:878~883頁の定義に従う。軽鎖のCDRは、CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3と称される場合もあり、重鎖のCDRは、CDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3と称される場合もある。いくつかの実施形態では、抗体は、重鎖(複数可)のカルボキシ末端からの少数のアミノ酸欠失を含み得る。いくつかの実施形態では、抗体は、重鎖のカルボキシ末端の1~5つのアミノ酸欠失を有する重鎖を含む。ある特定の実施形態では、CDRの最終的な線引きおよび抗体の結合性部位を含む残基の同定は、抗体の構造を解明することおよび/または抗体-リガンド複合体の構造を解明することによって達成される。ある特定の実施形態では、これは、X線結晶構造解析などの、当業者に公知の様々な技術のいずれかによって達成され得る。いくつかの実施形態では、種々の分析方法を使用してCDR領域を同定するかまたは見積もることができる。そのような方法の例は、これらに限定されないが、Kabat定義、Chothia定義、AbM定義、およびcontact定義を含む。
【0119】
結合性タンパク質の「機能的抗原結合性部位」は、標的、抗原、またはリガンドに結合することができる部位である。抗原結合性部位の抗原結合親和性は必ずしも抗原結合性部位が由来する親結合性タンパク質ほど強力ではなくてよいが、抗原に結合する能力は抗原への結合性タンパク質の結合を評価するための公知の種々の方法のいずれか1つを使用して測定可能なものでなければならない。さらに、本明細書の多重特異性結合性タンパク質の抗原結合性部位のそれぞれの抗原結合親和性は定量的に同じである必要はない。
【0120】
「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、典型的には、おおよそで、重鎖のアミノ末端の120~130アミノ酸および軽鎖の約100~110アミノ末端アミノ酸を含む、抗体の軽鎖および/または重鎖の一部を指す。ある特定の実施形態では、異なる抗体の可変領域は、同じ種の抗体の間でさえアミノ酸配列が広範囲にわたって異なる。典型的には、抗体の可変領域により、特定の抗体のその標的に対する特異性が決定される。
【0121】
免疫グロブリン定常ドメインは、重鎖定常ドメインまたは軽鎖定常ドメインを指す。ヒトIgG重鎖定常ドメインおよび軽鎖定常ドメインのアミノ酸配列は、当技術分野で公知である。
【0122】
用語「競合する」は、同じエピトープについて競合する抗原結合性タンパク質(例えば、抗体またはその抗原結合性部分)に関して使用される場合、試験されている抗原結合性タンパク質により、参照抗原結合性タンパク質の共通の抗原(例えば、TGFβ1またはその断片)への特異的結合が妨げられるまたは阻害される(例えば、低減する)アッセイによって決定される、抗原結合性タンパク質間の競合を意味する。1つの抗原結合性タンパク質が別の抗原結合性タンパク質と競合するかどうかを決定するために、多数の型の競合結合アッセイ、例えば、固相直接または間接ラジオイムノアッセイ(RIA)、固相直接または間接酵素イムノアッセイ(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ;固相直接ビオチン-アビジンEIA;固相直接標識アッセイ、および固相直接標識サンドイッチアッセイを使用することができる。通常、競合する抗原結合性タンパク質が過剰に存在する場合、当該抗原結合性タンパク質により、参照抗原結合性タンパク質の共通の抗原への特異的結合が、少なくとも40~45%、45~50%、50~55%、55~60%、60~65%、65~70%、70~75%または75%またはそれよりも大きく阻害される(例えば、低減する)。いくつかの例では、結合は、少なくとも80~85%、85~90%、90~95%、95~97%、または97%またはそれよりも大きく阻害される。
【0123】
用語「抗原」は、抗原結合性タンパク質(例えば、抗体を含む)などの選択的な結合性薬剤が結合することが可能なエピトープ、例えば、分子もしくは分子の一部、または分子もしくは分子の一部の複合体をもたらす分子構造を指す。したがって、選択的な結合性薬剤は、複合体中の2つまたはそれよりも多くの構成成分によって形成される抗原に特異的に結合し得る。いくつかの実施形態では、抗原は、その抗原に結合することが可能な抗体を産生させるために動物に使用することができるものである。抗原は、異なる抗原結合性タンパク質、例えば、抗体と相互作用することができる1つまたは複数のエピトープを保有し得る。
【0124】
本明細書で使用される場合、用語「CDR」は、抗体可変配列内の相補性決定領域を指す。重鎖および軽鎖の可変領域のそれぞれに3つのCDRが存在し、これらは、可変領域のそれぞれについてCDR1、CDR2およびCDR3と称される。用語「CDRセット」は、本明細書で使用される場合、抗原に結合することができる単一の可変領域に存在する3つのCDRの群を指す。これらのCDRの正確な境界は、異なるシステムに従って違うように定義されている。Kabatに記載されているシステム(Kabatら(1987年;1991年)Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health、Bethesda、Md.)では、任意の抗体の可変領域に適用可能な一義的な残基の番号付けシステムが提供されるだけでなく、3つのCDRを画定する正確な残基境界も提供される。これらのCDRは、Kabat CDRと称され得る。Chothiaおよび共同研究者(ChothiaおよびLesk(1987年)J. Mol. Biol.、196巻:901~917頁;ならびにChothiaら(1989年)Nature、342巻:877~883頁)は、Kabat CDR内のある特定のサブ部分が、アミノ酸配列のレベルでは大きな多様性を有するにもかかわらずほぼ同一のペプチド骨格コンフォメーションをとることを見出した。これらのサブ部分はL1、L2およびL3またはH1、H2およびH3と名付けられ、「L」および「H」はそれぞれ軽鎖領域および重鎖領域を示す。これらの領域は、Chothia CDRと称することができ、Kabat CDRと重複する境界を有する。Kabat CDRと重複するCDRを規定する他の境界がPadlan(1995年)FASEB J.、9巻:133~139頁およびMacCallum(1996年)J. Mol. Biol.、262巻(5号):732~45頁により記載されている。さらに他のCDR境界の定義は本明細書のシステムのうちの1つに厳密に従わない場合があるが、特定の残基または残基の群またはさらにはCDR全体が抗原結合性に有意な影響を及ぼさないという予測または実験所見を踏まえて短縮または延長され得るとはいえ、それでもなおKabat CDRと重複する。本明細書で使用される方法では、これらのシステムのいずれによって定義されるCDRも利用することができるが、ある特定の実施形態では、KabatまたはChothiaにより定義されるCDRを使用する。
【0125】
用語「結晶」および「結晶化された」は、本明細書で使用される場合、結晶の形態で存在する結合性タンパク質(例えば、抗体)、またはその抗原結合性部分を指す。結晶は、物質の固体の状態の1つの形態であり、非晶質の固体の状態または液晶の状態などの他の形態とは別個である。結晶は、原子、イオン、分子(例えば、抗体などのタンパク質)、または分子アセンブリ(例えば、抗原/抗体複合体)の規則的な繰り返しの3次元アレイで構成される。これらの3次元アレイは、当技術分野でよく理解されている特定の数学的関係に従って配置されている。結晶中で繰り返される基本単位または構成要素は非対称単位と称される。所与の明確に定義された結晶学的対称性と合致する配置内での非対称単位の繰り返しにより、結晶の「単位格子」がもたらされる。3次元全てでの規則的な並進による単位格子の繰り返しにより結晶がもたらされる。Giege, R.およびDucruix, A. Barrett、Crystallization of Nucleic Acids and Proteins, a Practical Approach、第2版、201~16頁、Oxford University Press、New York、New York(1999年)を参照されたい。
【0126】
用語「エピトープ」は、結合性薬剤、免疫グロブリンまたはT細胞受容体に特異的に結合することができる任意の分子決定基(例えば、ポリペプチド決定基)を含む。ある特定の実施形態では、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル、またはスルホニルなどの、分子の化学的に活性な表面群分けを含み、ある特定の実施形態では、特定の3次元構造特性および/または特定の電荷特性を有し得る。エピトープは、結合性タンパク質が結合する抗原の領域である。したがって、エピトープは、抗原(またはその断片)の、特異的な結合パートナー上の相補部位に結合することが分かっている領域のアミノ酸残基からなる。抗原断片は、1つよりも多くのエピトープを含有し得る。ある特定の実施形態では、抗体は、タンパク質および/または高分子の複合混合物中のその標的抗原を認識する場合、抗原に特異的に結合するものである。例えば、抗体は、抗体が交差競合する(一方が、他方の結合または調節作用を妨げる)場合、「同じエピトープに結合する」と言える。さらに、エピトープの構造的な定義(重複、同様、同一)は情報価値があるが、多くの場合、機能的な定義がより関連がある。なぜなら、それらは、構造的(結合)パラメータおよび機能的(調節、競合)パラメータを包含するからである。
【0127】
「処置する(treat)」および「処置(treatment)」という用語は、治療的処置、予防的処置、および被験体で障害または他の危険因子が発生するリスクを低減する適用を包含する。処置は、障害の完全な治癒を必要とするものではなく、症状または基礎をなす危険因子を低減する実施形態を包含する。
【0128】
組換えDNA、オリゴヌクレオチド合成、および組織培養物および形質転換(例えば、電気穿孔、リポフェクション)に関する標準の技術を使用することができる。酵素反応および精製技術は、製造者の仕様書に従って、または当技術分野において一般に達成される通りもしくは本明細書に記載の通り実施され得る。前述の技術および手順は、一般に、当技術分野で周知の従来の方法に従って、ならびに本明細書全体を通して引用され考察されている種々の一般的なおよびより具体的な参考文献に記載されている通り実施され得る。例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(1989年))を参照されたい。特定の定義が提示されていなければ、本明細書に記載されている分析化学、合成有機化学、および医学および製薬化学に関連して利用される命名法、ならびに実験室における手順および技術は、当技術分野で周知であり、一般に使用されるものである。化学合成、化学分析、医薬調製、製剤、および送達、および患者の処置に関する標準の技術を使用することができる。
【0129】
抗体の「抗原結合性部分」または「抗原結合性断片」という用語は、本明細書で使用される場合、抗原(例えば、TGFβ1)に特異的に結合する能力を保持する、抗体の1つまたは複数の断片を指す。抗原結合性部分は、これらに限定されないが、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に得られる、合成、または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、抗体の抗原結合性部分は、例えば、全抗体分子から、タンパク質消化、または抗体可変ドメインおよび任意選択で定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を伴う組換え遺伝子操作技術などの任意の好適な標準の技術を使用して得られ得る。抗原結合性部分の非限定的例は、(i)VLドメイン、VHドメイン、CLドメインおよびCH1ドメインからなる一価の断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって連結した2つのFab断片を含む二価の断片であるF(ab’)2断片;(iii)VHドメインおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一のアームのVLドメインおよびVHドメインからなるFv断片;(v)単鎖Fv(scFv)分子(例えば、Birdら(1988年)SCIENCE、242巻:423~426頁;およびHustonら(1988年)PROC. NAT’L. ACAD. SCI. USA、85巻:5879~5883頁を参照されたい);(vi)dAb断片(例えば、Wardら(1989年)NATURE、341巻:544~546頁を参照されたい);ならびに(vii)抗体の超可変領域(例えば、単離された相補性決定領域(CDR))を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位を含む。ダイアボディなどの単鎖抗体の他の形態も包含される。抗体の抗原結合性部分という用語は、他に「scFab」として公知の「単鎖Fab断片」を含み、これは、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常ドメイン1(CH1)、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、抗体軽鎖定常ドメイン(CL)およびリンカーを含み、前記抗体ドメインと前記リンカーは以下のN末端からC末端方向での順序:a)VH-CH1-リンカー-VL-CL、b)VL-CL-リンカー-VH-CH1、c)VH-CL-リンカー-VL-CH1またはd)VL-CH1-リンカー-VH-CLのうちの1つを有し、また、前記リンカーは、少なくとも30アミノ酸、好ましくは32アミノ酸から50アミノ酸の間のポリペプチドである。
【0130】
「単離された抗体」とは、本明細書で使用される場合、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指す。いくつかの実施形態では、単離された抗体は、他の細胞性材料および/または化学物質を実質的に含まない。
【0131】
「親和性成熟した」抗体は、その1つまたは複数のCDRに1つまたは複数の変更を有し、その結果、抗体の抗原に対する親和性がこれらの変更を有さない親抗体と比較して改善された抗体を指す。例示的な親和性成熟した抗体は、標的抗原に対してナノモル濃度またはさらにはピコモル濃度の親和性を有する。親和性成熟した抗体は、当技術分野で公知の手順によって作製される。Marksら(1992年)Bio/Technology、10巻:779~783頁には、VHおよびVLドメインシャッフリングによる親和性成熟が記載されている。CDRおよび/またはフレームワーク残基のランダム変異誘発がBarbasら(1994年)Proc Nat. Acad. Sci. USA、91巻:3809~3813頁;Schierら(1995年)Gene、169巻:147~155頁;Yeltonら、(1995年)J. Immunol.、155巻:1994~2004頁;Jacksonら(1995年)J. Immunol.、154巻(7号):3310~9頁;およびHawkinsら(1992年)J. Mol. Biol.、226巻:889~896頁により説明されており、活性を増強させるアミノ酸残基を用いた選択的変異誘発位置、接触または超変異位置における選択的変異が米国特許第6,914,128号に記載されている。
【0132】
「CDRがグラフトされた抗体」という用語は、1つの種に由来する重鎖および軽鎖可変領域配列を含むが、VHおよび/またはVLのCDR領域の1つまたは複数の配列が別の種のCDR配列で置き換えられた抗体、例えば、マウス重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有し、マウスCDRの1つまたは複数(例えば、CDR3)がヒトCDR配列で置き換えられた抗体などを指す。
【0133】
「キメラ抗体」という用語は、1つの種に由来する重鎖および軽鎖可変領域配列ならびに別の種に由来する定常領域配列を含む抗体、例えば、ヒト定常領域と連結したマウス重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する抗体などを指す。
【0134】
用語「ヒト抗体」は、本明細書で使用される場合、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むものとする。本開示のヒト抗体は、例えばCDR、特にCDR3に、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によりコードされないアミノ酸残基を含み得る(例えば、in vitroにおけるランダム変異誘発もしくは部位特異的変異誘発によって、またはin vivoにおける体細胞変異によって導入された変異)。しかし、用語「ヒト抗体」は、本明細書で使用される場合、CDR配列が、ヒトフレームワーク配列にグラフトされたマウスなどの別の哺乳動物種の生殖系列に由来する抗体を含むものではない。
【0135】
用語「ヒト化抗体」は、非ヒト種(例えば、マウス)に由来する重鎖および軽鎖可変領域配列を含むが、VHおよび/またはVL配列の少なくとも一部分がより「ヒト様」になるように、すなわち、ヒト生殖系列可変配列とより類似するように変更された抗体を指す。ヒト化抗体の1つの型は、ヒトCDR配列を非ヒトVHおよびVL配列に導入して対応する非ヒトCDR配列を置き換えた、CDRがグラフトされた抗体である。「ヒト化抗体」はまた、目的の抗原に免疫特異的に結合し、また、実質的にヒト抗体のアミノ酸配列を有するFR領域および実質的に非ヒト抗体のアミノ酸配列を有するCDR領域を含む抗体、またはその改変体、誘導体、類似体もしくは断片である。本明細書で使用される場合、用語「実質的に」は、CDRに関しては、非ヒト抗体CDRのアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有するCDRを指す。ヒト化抗体は、CDR領域の全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリン(すなわち、ドナー抗体)のものに対応し、FR領域の全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものに対応する少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメイン(Fab、Fab’、F(ab’)2、FabC、Fv)の実質的に全てを含む。ある実施形態では、ヒト化抗体はまた、典型的には、ヒト免疫グロブリンの免疫グロブリンFc領域の少なくとも一部分も含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗体は、軽鎖、ならびに重鎖の少なくとも可変ドメインを含有する。抗体はまた、重鎖のCH1、ヒンジ、CH2、CH3、およびCH4領域も含み得る。いくつかの実施形態では、ヒト化抗体は、ヒト化軽鎖のみを含有する。いくつかの実施形態では、ヒト化抗体は、ヒト化重鎖のみを含有する。特定の実施形態では、ヒト化抗体は、軽鎖のヒト化可変ドメインおよび/またはヒト化重鎖のみを含有する。
【0136】
本明細書で使用される場合、「フレームワーク」または「フレームワーク配列」という用語は、可変領域からCDRを抜いた残りの配列を指す。CDR配列の正確な定義は、異なるシステムによって決定され得るので、フレームワーク配列の意味は対応して異なる解釈を受ける。6つのCDR(軽鎖のCDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3および重鎖のCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3)によっても軽鎖および重鎖上のフレームワーク領域が各鎖上の4つの小領域(FR1、FR2、FR3およびFR4)に分けられ、CDR1はFR1とFR2の間に位置付けられ、CDR2はFR2とFR3の間に位置付けられ、CDR3はFR3とFR4の間に位置付けられる。特定の小領域がFR1、FR2、FR3またはFR4として明示されなければ、フレームワーク領域は、他者によって言及される通り、単一の天然に存在する免疫グロブリン鎖の可変領域内のFRの混合を表す。本明細書で使用される場合、1つのFRは、フレームワーク領域を構成する4つの小領域のうちの1つを表し、複数のFRは、フレームワーク領域を構成する4つの小領域のうちの2つまたはそれよりも多くを表す。
【0137】
本明細書で使用される場合、用語「生殖系列抗体遺伝子」または「遺伝子断片」は、特定の免疫グロブリンの発現に関する遺伝子再配列および変異を導く成熟プロセスを受けていない非リンパ系細胞によりコードされる免疫グロブリン配列を指す(例えば、Shapiroら(2002年)Crit. Rev. Immunol.、22巻(3号):183~200頁;Marchalonisら(2001年)Adv. Exp. Med. Biol.、484巻:13~30頁を参照されたい)。本開示の種々の実施形態によってもたらされる利点の1つは、生殖系列抗体遺伝子では成熟抗体遺伝子よりも種内の個体の特徴となる必須アミノ酸配列構造が保存される可能性が高く、したがって、その種において治療的に使用された場合に外来供給源に由来するものと認識される可能性がより低いという認識に基づく。
【0138】
本明細書で使用される場合、用語「中和性(neutralizing)」は、結合性タンパク質が抗原に特異的に結合した際に抗原の生物学的活性を打ち消すことを指す。ある実施形態では、中和性結合性タンパク質は、抗原/標的、例えば、サイトカイン、キナーゼ、増殖因子、細胞表面タンパク質、可溶性タンパク質、ホスファターゼ、または受容体リガンドに結合し、その生物学的活性を少なくとも約20%、40%、60%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれよりも大きく低減する。
【0139】
用語「結合性タンパク質」は、本明細書で使用される場合、これらに限定されないが、抗体またはその抗原結合性部分、DVD-IgTM、TVD-Ig、RAb-Ig、二特異性抗体および二重特異性抗体を含めた、抗原(例えば、TGFβ1)に特異的に結合する任意のポリペプチドを含む。
【0140】
用語「モノクローナル抗体」または「mAb」は、それを含む組成物に関連して使用される場合、実質的に均一な抗体の集団、すなわち、集団を構成する個々の抗体が、微量存在し得る、可能性のある天然に存在する変異以外は同一である集団から得られた抗体調製物を指し得る。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原を対象とする。さらに、典型的には異なる決定基(エピトープ)を対象とする異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各mAbは、抗原上の単一の決定基を対象とする。修飾語「モノクローナル」は、抗体を任意の特定の方法によって作製することを必要とするものとは解釈されない。
【0141】
用語「組換えヒト抗体」は、本明細書で使用される場合、組換え手段によって調製、発現、創出または単離された全てのヒト抗体、例えば、宿主細胞にトランスフェクトした組換え発現ベクターを使用して発現させた抗体(下の節II Cにさらに記載されている)、組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体(Hoogenboom, H.R.(1997年)TIB Tech.、15巻:62~70頁;Azzazy, H.およびHighsmith, W.E.(2002年)Clin. Biochem.、35巻:425~445頁;Gavilondo, J.V.およびLarrick, J.W.(2002年)BioTechniques、29巻:128~145頁;Hoogenboom, H.およびChames, P.(2000年)Immunol. Today、21巻:371~378頁、参照により本明細書に組み込まれる)、ヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離された抗体(Taylor, L. D.ら(1992年)Nucl. Acids Res.、20巻:6287~6295頁;Kellermann, S-A.およびGreen, L.L.(2002年)Cur. Opin. in Biotechnol.、13巻:593~597頁;Little, M.ら(2000年)Immunol. Today、21巻:364~370頁を参照されたい)またはヒト免疫グロブリン遺伝子配列から他のDNA配列へのスプライシングを伴う任意の他の手段によって調製、発現、創出または単離された抗体などを含むものとする。そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する。しかし、ある特定の実施形態では、そのような組換えヒト抗体は、in vitro変異誘発(または、ヒトIg配列に関してトランスジェニックの動物を使用する場合にはin vivo体細胞変異誘発)を受け、したがって、組換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VH配列およびVL配列に由来し、それに関連するが、in vivoにおけるヒト抗体生殖系列レパートリー内では天然に存在しない可能性がある配列である。
【0142】
本明細書で使用される場合、「二重可変ドメイン免疫グロブリン」または「DVD-IgTM」などは、対になった重鎖DVDポリペプチドおよび軽鎖DVDポリペプチドを含み、各対になった重鎖および軽鎖により、2つの抗原結合性部位がもたらされる結合性タンパク質を含む。各結合性部位は、抗原結合性部位当たり抗原結合に関与するCDRを合計で6つ含む。DVD-IgTMは、典型的には、少なくとも一部においてCH3ドメインの二量体化によって互いと結合した2つのアームを有し、DVDの各アームは二特異性であり、結合性部位を4つ有する免疫グロブリンがもたらされる。DVD-IgTMは、それぞれが配列表を含め参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2010/0260668号および同第2009/0304693号に提示されている。
【0143】
本明細書で使用される場合、「三重可変ドメイン免疫グロブリン」または「TVD-Ig」などは、対になった重鎖TVD結合性タンパク質ポリペプチドおよび軽鎖TVD結合性タンパク質ポリペプチドを含み、各対になった重鎖および軽鎖により、3つの抗原結合性部位がもたらされる結合性タンパク質である。各結合性部位は、抗原結合性部位当たり抗原結合に関与するCDRを合計で6つ含む。TVD結合性タンパク質は、少なくとも一部においてCH3ドメインの二量体化によって互いと結合した2つのアームを有し得、TVD結合性タンパク質の各アームは三特異性であり、結合性部位を6つ有する結合性タンパク質がもたらされる。
【0144】
本明細書で使用される場合、「受容体-抗体免疫グロブリン」または「RAb-Ig」などは、一緒になって合計3つの抗原結合性部位を形成する重鎖RAbポリペプチドおよび軽鎖RAbポリペプチドを含む結合性タンパク質である。重鎖RAbポリペプチドおよび軽鎖RAbポリペプチドのそれぞれに存在する抗体重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインの対合によって合計6つのCDRを有する単一の結合性部位を形成することによって1つの抗原結合性部位が形成され、第1の抗原結合性部位がもたらされる。重鎖RAbポリペプチドおよび軽鎖RAbポリペプチドはそれぞれ、第2および第3の「抗原」結合性部位をもたらす、リガンドに独立に結合する受容体配列を含む。RAb-Igは、典型的には、少なくとも一部においてCH3ドメインの二量体化によって互いと結合した2つのアームを有し、RAb-Igの各アームは三特異性であり、結合性部位を6つ有する免疫グロブリンがもたらされる。RAb-Igは、配列表を含めたその内容全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2002/0127231号に記載されている。
【0145】
用語「二特異性抗体」は、本明細書で使用される場合、および「二特異性半Ig結合性タンパク質」または「二特異性(半Ig)結合性タンパク質」と区別して、クアドローマ技術によって(Milstein, C.およびCuello, A.C.(1983年)Nature、305巻(5934号):537~540頁を参照されたい)、2つの異なるモノクローナル抗体の化学的なコンジュゲーションによって(Staerz, U.D.ら(1985年)Nature、314巻(6012号):628~631頁を参照されたい)、またはノブ-イントゥ-ホール(knob-into-hole)もしくはFc領域にCH3-CH3二量体化を阻害しない変異を導入し(Holliger, P.ら(1993年)Proc. Natl. Acad. Sci USA、90巻(14号):6444~6448頁を参照されたい)、その結果、1つのみが機能的な二特異性抗体である多数の異なる免疫グロブリン種がもたらされる同様の手法によって作製される全長抗体を指す。分子機能により、二特異性抗体は、その2つの結合性アームのうちの一方(1つのHC/LCの対)上で1つの抗原(またはエピトープ)に結合し、その第2のアーム(異なるHC/LCの対)上で異なる抗原(またはエピトープ)に結合する。この定義によると、二特異性抗体は、(特異性およびCDR配列の両方において)2つの別個の抗原結合性アームを有し、それが結合する各抗原に対して一価である。
【0146】
用語「二重特異性抗体」は、本明細書で使用される場合、および二特異性半Ig結合性タンパク質または二特異性結合性タンパク質と区別して、その2つの結合性アーム(HC/LCの対)のそれぞれにおいて2つの異なる抗原(またはエピトープ)に結合することができる全長抗体を指す(PCT公開第WO02/02773号を参照されたい)。したがって、二重特異性結合性タンパク質は、同一の特異性および同一のCDR配列を有する2つの同一の抗原結合性アームを有し、それが結合する各抗原に対して二価である。
【0147】
用語「汎TGFβ抗体」は、TGFβの1種よりも多くのアイソフォーム、例えば、TGFβ1、TGFβ2、およびTGFβ3のうちの少なくとも2種に結合することができる任意の抗体を指す。いくつかの実施形態では、汎TGFβ抗体は、3種全てのアイソフォーム、すなわち、TGFβ1、TGFβ2、およびTGFβ3に結合する。いくつかの実施形態では、汎TGFβ抗体は、3種全てのアイソフォーム、すなわち、TGFβ1、TGFβ2、およびTGFβ3に結合し、それを中和する。
【0148】
用語「Kon」は、本明細書で使用される場合、当技術分野で公知の通り、結合性タンパク質(例えば、抗体)と抗原が会合して、例えば抗体/抗原複合体を形成することについての結合速度定数(on rate constant)を指すものとする。「Kon」は、本明細書では互換的に使用される用語「結合速度定数(association rate constant)」または「ka」としても公知である。抗体のその標的抗原に対する結合速度または抗体と抗原の複合体の形成速度を示す値は、方程式:抗体(「Ab」)+抗原(「Ag」)→Ab-Agによっても示される。
【0149】
用語「Koff」は、本明細書で使用される場合、当技術分野で公知の通り、結合性タンパク質(例えば、抗体)の、例えば抗体/抗原複合体からの解離についての解離速度定数(off rate constant)を指すものとする。「Koff」は、本明細書では互換的に使用される用語「解離速度定数(dissociation rate constant)」または「kd」としても公知である。抗体のその標的抗原からの解離速度またはAb-Ag複合体の経時的な遊離の抗体と抗原への分離を示す値は、方程式:Ab+Ag←Ab-Agによって示される。
【0150】
本明細書では互換的に使用される用語「平衡解離定数」または「KD」は、平衡状態での滴定測定(titration measurement)において得られる値、または解離速度定数(koff)を結合速度定数(kon)で割ることによって得られる値を指す。結合速度定数、解離速度定数、および平衡解離定数は、結合性タンパク質、例えば抗体の抗原に対する結合親和性を表すために使用される。結合速度定数および解離速度定数を決定するための方法は当技術分野で周知である。蛍光に基づく技術を使用することにより、高い感度、および平衡状態で生理的緩衝液中の試料を検査する能力がもたらされる。BIAcore(登録商標)(生体分子間相互作用分析)アッセイなどの他の実験手法および計器を使用することができる(例えば、BIAcore International AB、a GE Healthcare company、Uppsala、Swedenから入手可能な計器)。さらに、Sapidyne Instruments(Boise、Idaho)から入手可能なKinExA(登録商標)(Kinetic Exclusion Assay)アッセイも使用することができる。
【0151】
用語「リンカー」は、ペプチド結合によって接合した2つまたはそれよりも多くのアミノ酸残基を含み、1つまたは複数の抗原結合性部分を連結するために使用されるポリペプチドを指すために使用される。そのようなリンカーポリペプチドは当技術分野で周知である(例えば、Holliger, P.ら(1993年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90巻:6444~6448頁;Poljak, R.J.ら(1994年)Structure、2巻:1121~1123頁を参照されたい)。例示的なリンカーは、これらに限定されないが、ASTKGPSVFPLAP(配列番号55)、ASTKGP(配列番号56);TVAAPSVFIFPP(配列番号57);TVAAP(配列番号58);AKTTPKLEEGEFSEAR(配列番号59);AKTTPKLEEGEFSEARV(配列番号60);AKTTPKLGG(配列番号61);SAKTTPKLGG(配列番号62);SAKTTP(配列番号63);RADAAP(配列番号64);RADAAPTVS(配列番号65);RADAAAAGGPGS(配列番号66);RADAAAA(G4S)4(配列番号67);SAKTTPKLEEGEFSEARV(配列番号68);ADAAP(配列番号69);ADAAPTVSIFPP(配列番号70);QPKAAP(配列番号71);QPKAAPSVTLFPP(配列番号72);AKTTPP(配列番号73);AKTTPPSVTPLAP(配列番号74);AKTTAP(配列番号75);AKTTAPSVYPLAP(配列番号76);GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号77);GENKVEYAPALMALS(配列番号78);GPAKELTPLKEAKVS(配列番号79);GHEAAAVMQVQYPAS(配列番号80);TVAAPSVFIFPPTVAAPSVFIFPP(配列番号81);およびASTKGPSVFPLAPASTKGPSVFPLAP(配列番号82)を含む。
【0152】
用語「がん」は、本明細書で使用される場合、典型的には、制御されていない細胞増殖を特徴とする、多細胞性の真核生物における生理的状態を指す。
【0153】
「標識」および「検出可能な標識」または「検出可能な部分」は、例えば、抗体および検体などの特異的な結合対のメンバー間の反応を検出可能にするために、抗体または検体などの特異的な結合パートナーに付着させる部分を意味し、そのように標識された特異的な結合パートナー、例えば、抗体または検体は、「検出可能に標識された」と称される。したがって、用語「標識された結合性タンパク質」は、本明細書で使用される場合、結合性タンパク質の同定をもたらす標識が組み入れられたタンパク質を指す。ある実施形態では、標識は、視覚的または機器による手段、例えば、放射性標識されたアミノ酸の組み入れまたはしるしを付したアビジン(例えば、光学的もしくは比色定量方法によって検出することができる蛍光マーカーもしくは酵素活性を含有するストレプトアビジン)によって検出することができるビオチニル部分のポリペプチドへの付着によって検出可能なシグナルを生じ得る検出可能なマーカーである。ポリペプチドに対する標識の例は、これらに限定されないが、以下を含む:放射性同位元素または放射性核種(例えば、3H、14C、35S、90Y、99Tc、111In、125I、131I、177Lu、166Ho、および153Sm);色素原;蛍光標識(例えば、FITC、ローダミン、およびランタニドリン光体);酵素標識(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびアルカリホスファターゼ);化学発光マーカー;ビオチニル基;二次レポーターによって認識される所定のポリペプチドエピトープ(例えば、ロイシンジッパー対配列、二次抗体の結合性部位、金属結合性ドメイン、およびエピトープタグ);ならびにガドリニウムキレートなどの磁気薬剤。イムノアッセイに一般に使用される標識の代表的な例は、光を生じる部分、例えばアクリジニウム化合物、および、蛍光を生じる部分、例えばフルオレセインを含む。他の標識が本明細書に記載されている。この点について、部分自体は検出可能に標識されない場合があるが、さらに別の部分と反応して検出可能になる場合がある。「検出可能に標識した」の使用は、後者の型の検出可能な標識を包含することが意図されている。
【0154】
用語「表面プラズモン共鳴」は、本明細書で使用される場合、例えばBIAcore(登録商標)システム(BIAcore International AB、a GE Healthcare company、Uppsala、SwedenおよびPiscataway、NJ)を使用してバイオセンサーマトリクス内のタンパク質濃度の変化を検出することによってリアルタイム二特異性相互作用の分析を可能にする光学現象を指す。さらなる説明については、Joensson, U.ら(1993年)Ann. Biol. Clin.、51巻:19~26頁;Joensson, U.ら(1991年)Biotechniques、11巻:620~627頁;Johnsson, B.ら(1995年)J. Mol. Recognit.、8巻:125~131頁;およびJohnnson, B.ら(1991年)Anal. Biochem.、198巻:268~277頁を参照されたい。
【0155】
「プラスミド」または「ベクター」は、宿主細胞への送達または異なる宿主細胞間の移行のために設計された核酸構築物を含む。「発現プラスミド」または「発現ベクター」は、異種核酸断片を細胞内に組み入れ、発現させる能力を有するプラスミドであり得る。発現プラスミドは、追加的なエレメントを含んでよく、例えば、発現ベクターは、2つの複製系を有してよく、したがって、2つの生物内で維持されることが可能になる。プラスミドに組み入れられる核酸は、発現制御配列によりそのポリヌクレオチド配列の転写および翻訳を制御および調節する場合、発現制御配列に作動可能に連結されてよい。
【0156】
「核酸」または「核酸配列」は、リボ核酸、デオキシリボ核酸またはその類似体の単位を組み入れる任意の分子、好ましくはポリマー分子であってよい。核酸は、一本鎖または二本鎖のいずれであってもよい。一本鎖核酸は、変性した二本鎖DNAの一方の核酸鎖であってよい。代替的に、一本鎖核酸は、いかなる二本鎖DNAにも由来しない一本鎖核酸であってよい。一態様では、核酸はDNAであってよい。別の態様では、核酸はRNAであってよい。好適な核酸分子は、ゲノムDNAまたはcDNAを含めたDNAである。他の好適な核酸分子は、mRNAを含めたRNAである。
【0157】
動作する実施例中または別段の指示がある場合を除き、本明細書において使用される成分の分量または反応条件を表す全ての数字は、全ての場合に、用語「約」によって修飾されると理解されるべきである。用語「約」は、百分率に関連して使用される場合、±1%を意味し得る。
【0158】
本開示のいくつかの実施形態を本明細書において記載し、説明してきたが、機能を行うための、ならびに/あるいは本明細書において記載される結果および/または1つもしくは複数の利点を得るための、多様な他の手段および/または構造は、当業者によって容易に想起され、そのような変更および/または改変のそれぞれは、本開示の範囲内であると考えられる。より一般的には、本明細書において記載される全てのパラメータ、寸法、材料、および構成は、例示的であることを意味し、実際のパラメータ、寸法、材料、および/または構成は、特定の適用または本開示の教示が使用される適用に依存することを、当業者は容易に理解するであろう。当業者は、単なる日常的実験を使用して、本明細書に記載される開示の特異的実施形態に対する多くの同等物を認識するかまたは確認することができる。したがって、前述の実施形態は、単なる例として紹介され、添付の特許請求の範囲およびその同等物の範囲内で、本開示は具体的に記載および特許請求される以外に実践してもよいと理解すべきである。本開示は、本明細書において記載されるそれぞれの個々の特徴、システム、物品、材料、および/または方法を対象とする。さらに、2つまたはそれよりも多くのそのような特徴、システム、物品、材料、および/または方法の任意の組み合わせは、そのような特徴、システム、物品、材料、および/または方法が相互に矛盾しない限り、本開示の範囲に含まれる。
【0159】
不定冠詞「1つの(a)」および「1つの(an)」は、本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、相反することが明確に示されていなければ、「少なくとも1つの(at least one)」を意味すると理解されるべきである。
【0160】
句「および/または(and/or)」は、本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、そのようにつなげられた要素、すなわち、一部の場合では接続的に存在し、他の場合では離接的に存在する要素の「いずれかまたは両方(either or both)」を意味すると理解されるべきである。相反することが明確に示されていなければ、「および/または」節によって具体的に同定された要素以外の他の要素が、具体的に同定された要素に関連するか関連しないかにかかわらず、任意選択で存在し得る。したがって、非限定的例として、「Aおよび/またはB(A and/or B)」への言及は、「含む(comprising)」などのオープンエンドの言葉と併せて使用される場合、一実施形態では、A、Bは伴わない(A without B)(任意選択でB以外の要素を含む);別の実施形態では、B、Aは伴わない(B without A)(任意選択でA以外の要素を含む);さらに別の実施形態では、AとBの両方(both A and B)(任意選択で他の要素を含む)などを指し得る。
【0161】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、句「少なくとも1つの(at least one)」は、1つまたは複数の要素の一覧に関しては、要素の一覧中の要素の任意の1つまたは複数から選択された少なくとも1つの要素を意味するが、要素の一覧中に具体的に列挙されているそれぞれおよび全ての要素の少なくとも1つが必ずしも含まれるのではなく、また、要素の一覧中の要素の任意の組み合わせが排除されるものではないと理解されるべきである。この定義は、句「少なくとも1つの(at least one)」が指す要素の一覧中で具体的に同定されている要素以外の要素が、具体的に同定されている要素に関連するか関連しないかにかかわらず、任意選択で存在し得ることも可能にするものである。したがって、非限定的例として、「AおよびBの少なくとも1つ(at least one of A and B)」(もしくは、同等に、「AまたはBの少なくとも1つ(at least one of A or B)」、または、同等に、「Aおよび/またはBの少なくとも1つ(at least one of A and/or B)」)は、一実施形態では、任意選択で1つよりも多くを含め、少なくとも1つのA、Bは存在しない(および任意選択でB以外の要素を含む);別の実施形態では、任意選択で1つよりも多くを含め、少なくとも1つのB、Aは存在しない(および任意選択でA以外の要素を含む);さらに別の実施形態では、任意選択で1つよりも多くを含め、少なくとも1つのA、および任意選択で1つよりも多くを含め、少なくとも1つのB(および任意選択で他の要素を含む)などを指し得る。
【0162】
特許請求の範囲において請求項の要素を修飾するための、例えば「第1の」、「第2の」、「第3の」などの順序を示す用語の使用は、それだけで1つの請求項の要素の別の請求項の要素に対するいかなる優先順位、先行、もしくは順序を示すものでもなく、方法の行為が実施される時間的順序を示すものでもなく、ただ単に、特許請求の範囲の要素を区別するために、ある特定の名称を有する1つの請求項の要素と同じ名称を有する(順序を示す用語が使用されない場合)別の要素を区別するための標識として使用されるものである。
【0163】
本明細書で提供される範囲は、その範囲内の値の全てについて省略したものであることが理解される。例えば、1~50の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50からなる群よりのあらゆる数、数の組み合わせ、または部分範囲、例えば、10~20、1~10、30~40などを包含するものと理解される。
【0164】
GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体およびその抗原結合性部分
本発明は、少なくとも一部において、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に存在するTGFβ1に結合する抗体およびその抗原結合性部分の発見に基づく。したがって、本発明のいくつかの態様は、TGFβ1のエピトープに特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分であって、エピトープが、TGFβ1がGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に存在する場合に抗体またはその抗原結合性部分による結合に利用可能なものである、抗体またはその抗原結合性部分に関する。いくつかの実施形態では、エピトープは、GARP、LTBP1、LTBP3、および/またはLRRC33との複合体中にある場合のTGFβ1のコンフォメーションの変化に起因して利用可能になる。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分が結合するTGFβ1のエピトープは、TGFβ1がGARP、LTBP1、LTBP3、および/またはLRRC33との複合体中にない場合には利用可能ではない。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ2に特異的に結合しない。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ3に特異的に結合しない。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ1のインテグリンへの結合を妨げない。例えば、いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ1のインテグリン結合性部位を遮蔽しない。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ1の活性化を阻害する。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体からの成熟TGFβ1の放出を阻害する。
【0165】
本明細書で提供される抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ1のエピトープに特異的に結合し、ここで、エピトープは、TGFβ1がGARP-TGFβ1、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP2-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に存在する場合に抗体またはその抗原結合性部分による結合に利用可能なものである。いくつかの実施形態では、TGFβ1は、天然に存在する哺乳動物アミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、TGFβ1は、天然に存在するヒトアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、TGFβ1は、ヒト、サル、ラットまたはマウスアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ2に特異的に結合しない。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ3に特異的に結合しない。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ2にもTGFβ3にも特異的に結合しない。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号21に記載されているアミノ酸配列を含むTGFβ1に特異的に結合する。TGFβ2のアミノ酸配列、およびTGFβ3アミノ酸配列は、それぞれ配列番号22および23に記載されている。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分は、天然に存在しないアミノ酸配列を含むTGFβ1(そうでなければ、本明細書では、天然に存在しないTGFβ1と称される)に特異的に結合する。例えば、天然に存在しないTGFβ1は、天然に存在するTGFβ1アミノ酸配列と比べて、組換えによって生じた1つまたは複数の変異を含み得る。いくつかの実施形態では、TGFβ1、TGFβ2、またはTGFβ3アミノ酸配列は、表1に示されている配列番号24~35に記載されているアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、TGFβ1、TGFβ2、またはTGFβ3アミノ酸配列は、表2に示されている配列番号36~43に記載されているアミノ酸配列を含む。
【化1】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【0166】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分は、LTBP1-TGFβ1複合体に結合することができる。いくつかの実施形態では、抗原性タンパク質複合体(例えば、LTBP-TGFβ1複合体)は、1つまたは複数のLTBPタンパク質(例えば、LTBP1、LTBP2、LTBP3、およびLTBP4)を含み得る。いくつかの実施形態では、LTBP1タンパク質は、天然に存在するタンパク質である。いくつかの実施形態では、LTBP1タンパク質は、天然に存在しないタンパク質である。いくつかの実施形態では、LTBP1タンパク質は、組換えタンパク質である。そのような組換えLTBP1タンパク質は、LTBP1、その選択的にスプライシングされた改変体および/またはその断片を含み得る。組換えLTBP1タンパク質はまた、1つまたは複数の検出可能な標識を含むように改変されていてもよい。いくつかの実施形態では、LTBP1タンパク質は、リーダー配列(例えば、ネイティブまたは非ネイティブリーダー配列)を含む。いくつかの実施形態では、LTBP1タンパク質は、リーダー配列を含まない(すなわち、リーダー配列はプロセシングまたは切断されている)。そのような検出可能な標識としては、これらに限定されないが、ビオチン標識、ポリヒスチジンタグ、mycタグ、HAタグおよび/または蛍光タグを挙げることができる。いくつかの実施形態では、LTBP1タンパク質は、哺乳動物LTBP1タンパク質である。いくつかの実施形態では、LTBP1タンパク質は、ヒト、サル、マウス、またはラットLTBP1タンパク質である。いくつかの実施形態では、LTBP1タンパク質は、表2の配列番号46および47に記載されているアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、LTBP1タンパク質は、表3の配列番号50に記載されているアミノ酸配列を含む。
【0167】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分は、LTBP3-TGFβ1複合体に結合することができる。いくつかの実施形態では、LTBP3タンパク質は、天然に存在するタンパク質である。いくつかの実施形態では、LTBP3タンパク質は、天然に存在しないタンパク質である。いくつかの実施形態では、LTBP3タンパク質は、組換えタンパク質である。そのような組換えLTBP3タンパク質は、LTBP3、その選択的にスプライシングされた改変体および/またはその断片を含み得る。いくつかの実施形態では、LTBP3タンパク質は、リーダー配列(例えば、ネイティブまたは非ネイティブリーダー配列)を含む。いくつかの実施形態では、LTBP3タンパク質は、リーダー配列を含まない(すなわち、リーダー配列はプロセシングまたは切断されている)。組換えLTBP3タンパク質はまた、1つまたは複数の検出可能な標識を含むように改変されていてもよい。そのような検出可能な標識は、これらに限定されないが、ビオチン標識、ポリヒスチジンタグ、mycタグ、HAタグおよび/または蛍光タグを含み得る。いくつかの実施形態では、LTBP3タンパク質は、哺乳動物LTBP3タンパク質である。いくつかの実施形態では、LTBP3タンパク質は、ヒト、サル、マウス、またはラットLTBP3タンパク質である。いくつかの実施形態では、LTBP3タンパク質は、表2の配列番号44および45に記載されているアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、LTBP1タンパク質は、表3の配列番号51に記載されているアミノ酸配列を含む。
【0168】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分は、GARP-TGFβ1複合体に結合することができる。いくつかの実施形態では、GARPタンパク質は、天然に存在するタンパク質である。いくつかの実施形態では、GARPタンパク質は、天然に存在しないタンパク質である。いくつかの実施形態では、GARPタンパク質は、組換えタンパク質である。そのようなGARPは組換え型のものであってよく、本明細書では、組換えGARPと称される。いくつかの組換えGARPは、野生型GARPと比較して1つまたは複数の改変、短縮および/または変異を含んでよい。組換えGARPは、可溶性になるように改変されたものであってよい。いくつかの実施形態では、GARPタンパク質は、リーダー配列(例えば、ネイティブまたは非ネイティブリーダー配列)を含む。いくつかの実施形態では、GARPタンパク質は、リーダー配列を含まない(すなわち、リーダー配列はプロセシングまたは切断されている)。他の実施形態では、組換えGARPは、1つまたは複数の検出可能な標識を含むように改変されたものである。さらなる実施形態では、そのような検出可能な標識は、これらに限定されないが、ビオチン標識、ポリヒスチジンタグ、flagタグ、mycタグ、HAタグおよび/または蛍光タグを含み得る。いくつかの実施形態では、GARPタンパク質は、哺乳動物GARPタンパク質である。いくつかの実施形態では、GARPタンパク質は、ヒト、サル、マウス、またはラットGARPタンパク質である。いくつかの実施形態では、GARPタンパク質は、表2の配列番号48~49に記載されているアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、GARPタンパク質は、表4の配列番号52および53に記載されているアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ1に状況依存的に結合しない、例えば、TGFβ1への結合は、TGFβ1分子がGARPなどの特定の提示分子と複合体を形成している場合にのみ起こる。その代わりに、抗体およびその抗原結合性部分は、TGFβ1に状況非依存的に結合する。言い換えれば、抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ1に、TGFβ1が任意の提示分子:GARP、LTBP1、LTBP3、および/またはLRCC33と結合している場合に結合する。
【0169】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分は、LRRC33-TGFβ1複合体に結合することができる。いくつかの実施形態では、LRRC33タンパク質は、天然に存在するタンパク質である。いくつかの実施形態では、LRRC33タンパク質は、天然に存在しないタンパク質である。いくつかの実施形態では、LRRC33タンパク質は、組換えタンパク質である。そのようなLRRC33は組換え型のものであってよく、本明細書では、組換えLRRC33と称される。いくつかの組換えLRRC33タンパク質は、野生型LRRC33と比較して1つまたは複数の改変、短縮および/または変異を含み得る。組換えLRRC33タンパク質は、可溶性になるように改変されたものであってよい。例えば、いくつかの実施形態では、可溶性LRRC33タンパク質(sLRRC33;例えば、配列番号84を参照されたい)を発現させるために、LRRC33の外部ドメインをC末端Hisタグと共に発現させることができる。いくつかの実施形態では、LRRC33タンパク質は、リーダー配列(例えば、ネイティブまたは非ネイティブリーダー配列)を含む。いくつかの実施形態では、LRRC33タンパク質は、リーダー配列を含まない(すなわち、リーダー配列はプロセシングまたは切断されている)。他の実施形態では、組換えLRRC33タンパク質は、1つまたは複数の検出可能な標識を含むように改変されたものである。さらなる実施形態では、そのような検出可能な標識は、これらに限定されないが、ビオチン標識、ポリヒスチジンタグ、flagタグ、mycタグ、HAタグおよび/または蛍光タグを含み得る。いくつかの実施形態では、LRRC33タンパク質は、哺乳動物LRRC33タンパク質である。いくつかの実施形態では、LRRC33タンパク質は、ヒト、サル、マウス、またはラットLRRC33タンパク質である。いくつかの実施形態では、LRRC33タンパク質は、表4の配列番号83、84、および85に記載されているアミノ酸配列を含む。
【表3-1】
【表3-2】
【表4-1】
【表4-2】
【0170】
いくつかの実施形態では、TGFβ1がGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に存在する場合に抗体による結合に利用可能なTGFβ1のエピトープに特異的に結合する本発明の抗体またはその抗原結合性部分、ならびに抗体をコードする本開示の核酸分子は、表5に示されているCDRアミノ酸配列の1つまたは複数を含む。
【表5】
【0171】
いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する本発明の抗体は、表5に示されている抗体の任意の1つに関して提供されているCDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2、またはCDRL3、またはこれらの組み合わせを含む任意の抗体またはその抗原結合性部分を含む。いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体は、表5に示されている抗体の任意の1つのCDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2、およびCDRL3を含む。本発明は、表5に示されている抗体のいずれか1つに関して提供されているCDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2、またはCDRL3を含む分子をコードする任意の核酸配列も提供する。抗体重鎖および軽鎖CDR3ドメインは、抗体の抗原に対する結合特異性/親和性において特に重要な役割を果たし得る。したがって、本開示のGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/もしくはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体、またはこれらの抗体もしくはその抗原結合性部分をコードする核酸分子は、表5に示されている抗体の少なくとも重鎖および/または軽鎖CDR3を含み得る。
【0172】
本発明の態様は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合し、また、6つの相補性決定領域(CDR):CDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2、およびCDRL3を含む、モノクローナル抗体またはその抗原結合性部分に関する。
【0173】
いくつかの実施形態では、CDRH1は、配列番号1および2のいずれか1つに記載されている配列を含む。いくつかの実施形態では、CDRH2は、配列番号3および4のいずれか1つに記載されている配列を含む。いくつかの実施形態では、CDRH3は、配列番号5および6のいずれか1つに記載されている配列を含む。CDRL1は、配列番号7および8のいずれか1つに記載されている配列を含む。いくつかの実施形態では、CDRL2は、配列番号9および10のいずれか1つに記載されている配列を含む。いくつかの実施形態では、CDRL3は、配列番号11および12のいずれか1つに記載されている配列を含む。
【0174】
いくつかの実施形態では(例えば、表5に示されている抗体Ab1に関しては)、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号1に記載されているアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号3に記載されているアミノ酸配列を含むCDRH2、配列番号5に記載されているアミノ酸配列を含むCDRH3、配列番号7に記載されているアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号9に記載されているアミノ酸配列を含むCDRL2、および配列番号11に記載されているアミノ酸配列を含むCDRL3を含む。
【0175】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号5のアミノ酸配列を有する相補性決定領域3(CDR3)を含む重鎖可変領域および配列番号11のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号3のアミノ酸配列を有する相補性決定領域2(CDR2)を含む重鎖可変領域および配列番号9のアミノ酸配列を有するCDR2を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号1のアミノ酸配列を有する相補性決定領域1(CDR1)を含む重鎖可変領域および配列番号7のアミノ酸配列を有するCDR1を含む軽鎖可変領域を含む。
【0176】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号13に記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号14に記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号13に記載されているアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号14に記載されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。
【0177】
いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号91に記載されている核酸配列に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有する核酸配列によりコードされる重鎖可変ドメインアミノ酸配列、および配列番号92に記載されている核酸配列に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有する核酸配列によりコードされる軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号91に記載されている核酸配列によりコードされる重鎖可変ドメインアミノ酸配列、および配列番号92に記載されている核酸配列によりコードされる軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む。
【0178】
いくつかの実施形態では(例えば、表5に示されている抗体Ab2に関しては)、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号2に記載されているアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号3に記載されているアミノ酸配列を含むCDRH2、配列番号6に記載されているアミノ酸配列を含むCDRH3、配列番号8に記載されているアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号10に記載されているアミノ酸配列を含むCDRL2、および配列番号12に記載されているアミノ酸配列を含むCDRL3を含む。
【0179】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域および配列番号12のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号4のアミノ酸配列を有するCDR2を含む重鎖可変領域および配列番号10のアミノ酸配列を有するCDR2を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号2のアミノ酸配列を有するCDR1を含む重鎖可変領域および配列番号8のアミノ酸配列を有するCDR1を含む軽鎖可変領域を含む。
【0180】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号15に記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号16に記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号15に記載されているアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号16に記載されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。
【0181】
いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号93に記載されている核酸配列に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有する核酸配列によりコードされる重鎖可変ドメインアミノ酸配列、および配列番号94に記載されている核酸配列に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有する核酸配列によりコードされる軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、配列番号93に記載されている核酸配列によりコードされる重鎖可変ドメインアミノ酸配列、および配列番号94に記載されている核酸配列によりコードされる軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む。
【0182】
いくつかの実施例では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する本開示の抗体はいずれも、CDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2、および/またはCDRL3と実質的に同様の1つまたは複数のCDR(例えば、CDRHまたはCDRL)配列を有する任意の抗体(その抗原結合性部分を含む)を含む。例えば、抗体は、配列番号1~12のいずれか1つの対応するCDR領域と比較して最大5つ、4つ、3つ、2つ、または1つのアミノ酸残基の変動を含有する、表5に示されている1つまたは複数のCDR配列(配列番号1~12)を含み得る。表5に列挙されている抗体(例えば、Ab1およびAb2)の重鎖可変領域および軽鎖可変領域の完全なアミノ酸配列、ならびに抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードする核酸配列を以下に提示する。
【化2】
【化3】
【化4】
【0183】
いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、およびLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する本開示の抗体は、配列番号13もしくは17の重鎖可変ドメインまたは配列番号14もしくは18の軽鎖可変ドメインを含む任意の抗体を含む。いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、およびLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する本開示の抗体は、配列番号13および14;ならびに17および18の重鎖可変と軽鎖可変の対を含む任意の抗体を含む。
【0184】
本開示の態様は、本明細書に記載のもののいずれかと相同な重鎖可変および/または軽鎖可変アミノ酸配列を有する、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、およびLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体を提供する。いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、およびLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体は、配列番号13もしくは17の重鎖可変アミノ酸配列、または配列番号14もしくは18の軽鎖可変配列と少なくとも75%(例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)同一である重鎖可変配列または軽鎖可変配列を含む。いくつかの実施形態では、相同な重鎖可変および/または軽鎖可変アミノ酸配列は、本明細書で提供されるCDR配列のいずれの中でも変動しない。例えば、いくつかの実施形態では、配列変動の程度(例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)が、本明細書で提供されるCDR配列のいずれも除く重鎖可変および/または軽鎖可変アミノ酸配列内に存在し得る。
【0185】
いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する本開示の抗体は、配列番号15もしくは19の重鎖または配列番号16もしくは20の軽鎖を含む任意の抗体またはその抗原結合性部分を含む。いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する本開示の抗体は、配列番号15と16;または19と20の重鎖と軽鎖の対を含む任意の抗体を含む。
【0186】
本開示の態様は、本明細書に記載のもののいずれかと相同な重鎖および/または軽鎖アミノ酸配列を有する、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体を提供する。いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体は、配列番号15もしくは19の重鎖配列または番号16もしくは20の軽鎖配列アミノ酸配列と少なくとも75%(例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)同一である重鎖配列または軽鎖配列を含む。いくつかの実施形態では、相同な重鎖および/または軽鎖アミノ酸配列は、本明細書で提供されるCDR配列のいずれの中でも変動しない。例えば、いくつかの実施形態では、配列変動の程度(例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)が、本明細書で提供されるCDR配列のいずれも除く重鎖および/または軽鎖アミノ酸配列内に存在し得る。
【0187】
いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する本開示の抗体は、配列番号15もしくは19の重鎖または配列番号16もしくは20の軽鎖を含む任意の抗体またはその抗原結合性部分を含む。いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する本開示の抗体は、配列番号15と16;または19と20の重鎖と軽鎖の対を含む任意の抗体を含む。
【0188】
本開示の態様は、本明細書に記載のもののいずれかと相同な重鎖および/または軽鎖アミノ酸配列を有する、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体を提供する。いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体は、配列番号15もしくは19の重鎖配列または配列番号16もしくは20の軽鎖アミノ酸配列と少なくとも75%(例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)同一である重鎖配列または軽鎖配列を含む。いくつかの実施形態では、相同な重鎖および/または軽鎖アミノ酸配列は、本明細書で提供されるCDR配列のいずれの中でも変動しない。例えば、いくつかの実施形態では、配列変動の程度(例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)が、本明細書で提供されるCDR配列のいずれも除く重鎖および/または軽鎖アミノ酸配列内に存在し得る。
【0189】
いくつかの実施形態では、2個のアミノ酸配列の「パーセント同一性」はKarlinおよびAltschul Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90巻:5873~77頁、1993年のとおり改変されたKarlinおよびAltschul Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87巻:2264~68頁、1990年のアルゴリズムを使用して決定される。そのようなアルゴリズムは、Altschulら、J. Mol. Biol. 215巻:403~10頁、1990年のNBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれる。BLASTタンパク質検索は、目的のタンパク質分子に相同性のアミノ酸配列を得るためにXBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3で実行され得る。2個の配列間にギャップが存在する場合、ギャップBLASTがAltschulら、Nucleic Acids Res. 25巻(17号):3389~3402頁、1997年に記載のとおり利用され得る。BLASTおよびギャップBLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータが使用され得る。
【0190】
本明細書に記載の抗体または抗原結合性断片のいずれにおいても、CDRまたはフレームワーク配列に、抗体-抗原相互作用に関与する可能性が低い残基の位置に1つまたは複数の保存的変異を導入することができる。いくつかの実施形態では、CDRまたはフレームワーク配列に、結晶構造に基づいて決定される、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、およびLRRC33-TGFβ1複合体との相互作用に関与する可能性が低い残基の位置(複数可)にそのような保存的変異(複数可)を導入することができる。いくつかの実施形態では、構造的な類似性を共有する別の抗原に関する公知の構造的な情報から、可能性の高い界面(例えば、抗原-抗体相互作用に関与する残基)を推定することができる。
【0191】
本明細書において使用される場合、「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸置換が行われるタンパク質の相対電荷またはサイズの特徴を変更しないアミノ酸置換を指す。改変体は、そのような方法をまとめている参考文献、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual、J. Sambrookら編、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1989年またはCurrent Protocols in Molecular Biology、F.M. Ausubelら編、John Wiley & Sons, Inc.、New Yorkにおいて見出されるような当業者に公知のポリペプチド配列を変更するための方法に従って調製されてよい。アミノ酸の保存的置換は、次の群:(a)M、I、L、V;(b)F、Y、W;(c)K、R、H;(d)A、G;(e)S、T;(f)Q、N;および(g)E、D内のアミノ酸の間で行われる置換を含む。
【0192】
いくつかの実施形態では本明細書で提供される抗体は、抗体に望ましい特性を付与する変異を含む。例えば、天然IgG4 mAbで生じることが公知であるFabアーム交換による起こり得る困難な状況を回避するために、本明細書で提供される抗体は、セリン228(EU番号付け、Kabat番号付け残基241)がプロリンに変換されてIgG1様(CPPCP(配列番号54))ヒンジ配列が生じる安定化「Adair」変異を含む場合がある(Angalら、「A single amino acid substitution abolishes the heterogeneity of chimeric mouse/human (IgG4) antibody」Mol Immunol 30巻、105~108頁;1993年)。したがって、抗体のいずれかは、安定化「Adair」変異またはアミノ酸配列CPPCP(配列番号54)を含んでよい。
【0193】
GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する本開示の抗体は、任意選択で抗体定常領域またはその一部を含んでよい。例えばVLドメインは、そのC末端でCκまたはCλなどの軽鎖定常ドメインに付着され得る。同様にVHドメインまたはその一部は、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMならびに任意のアイソタイプサブクラスのような重鎖の全体または一部に付着され得る。抗体は、好適な定常領域を含み得る(例えばKabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第91~3242号、National Institutes of Health Publications、Bethesda、Md.(1991年)を参照されたい)。したがって、この範囲内の抗体は、任意の好適な定常領域と組み合わされたVHおよびVLドメイン、またはその抗原結合性部分を含み得る。
【0194】
いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体は、配列番号13~20の抗体のフレームワーク領域を含んでもよく含まなくてもよい。いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体は、マウス抗体であり、マウスフレームワーク領域配列を含む。
【0195】
いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する本開示の抗体は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に比較的高い親和性、例えば、10-6M、10-7M、10-8M、10-9M、10-10M、10-11Mまたはそれ未満のKDで結合し得る。例えば、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に、5pMから500nMの間、例えば、50pMから100nMの間、例えば、500pMから50nMの間の親和性で結合し得る。本開示は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体への結合について本明細書に記載の抗体のいずれかと競合し、50nMまたはそれ未満(例えば、20nMまたはそれ未満、10nMまたはそれ未満、500pMまたはそれ未満、50pMまたはそれ未満、または5pMまたはそれ未満)の親和性を有する抗体または抗原結合性断片も含む。GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体の親和性および結合動態は、これらに限定されないが、バイオセンサー技術(例えば、OCTETまたはBIACORE)を含めた任意の好適な方法を使用して試験され得る。
【0196】
TGFβを阻害する抗体
本発明は、一態様では、機能性抗体を提供する。本明細書で使用される場合、「機能性抗体」とは、その抗原に結合する能力によって1つまたは複数の生物学的活性を付与するものである。機能性抗体は、阻害抗体(または阻害性抗体)および活性化抗体を含み得る。したがって、本開示は、TGFβシグナル伝達によって媒介される生物学的プロセスを調節する(例えば、阻害するかまたは活性化する)ことができるTGFβ抗体を含む。
【0197】
本明細書で使用される場合、「阻害抗体」という用語は、成熟増殖因子の放出を阻害するかまたは増殖因子活性を低減する抗体を指す。阻害抗体は、そのような抗体と会合すると増殖因子の放出または活性を低減する任意のエピトープを標的化する抗体を含む。そのようなエピトープは、抗体が結合すると増殖因子活性の低減を導く、TGFβタンパク質(例えば、TGFβ1)、増殖因子または他のエピトープのプロドメイン上に存在し得る。本発明の阻害抗体は、これらに限定されないが、TGFβ1-阻害抗体を含む。
【0198】
本開示の複数の実施形態は、溶液、細胞培養物および/または被験体において、増殖因子シグナル伝達を改変するための、阻害抗体の使用方法を含む。
【0199】
ポリペプチド
本開示のいくつかの態様は、配列番号13、配列番号17、配列番号15、および配列番号19からなる群より選択される配列を有するポリペプチドに関する。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、可変重鎖ドメインまたは重鎖ドメインである。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、配列番号13、配列番号17、配列番号15、および配列番号19に記載されているアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも75%(例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)同一である。
【0200】
本開示のいくつかの態様は、配列番号14、配列番号18、配列番号16、および配列番号20からなる群より選択される配列を有するポリペプチドに関する。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、可変軽鎖ドメインまたは軽鎖ドメインである。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、配列番号14、配列番号18、配列番号16、および配列番号20に記載されているアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも75%(例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)同一である。
【0201】
GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体と競合する抗体
本開示の態様は、本明細書で提供される抗体のいずれかと競合するかまたは交差競合する抗体に関する。用語「競合する」は、抗体に関して本明細書で使用される場合、第1の抗体がエピトープ(例えば、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体のエピトープ)に、第2の抗体の結合と十分に類似した様式で結合し、したがって、第1の抗体とそのエピトープの結合の結果が、第2の抗体の存在下では、第2の抗体の非存在下での第1の抗体の結合と比較して検出可能に低下することを意味する。第2の抗体のそのエピトープへの結合も同様に第1の抗体の存在下で検出可能に低下する代替案があり得るが、そうである必要はない。すなわち、第1の抗体は第2の抗体のそのエピトープへの結合を阻害するが、その第2の抗体による第1の抗体のそのそれぞれのエピトープへの結合の阻害は伴わない場合がある。しかし、各抗体が他の抗体のそのエピトープまたはリガンドとの結合を検出可能に阻害する場合、程度が同じであるかより大きいかより小さいかにかかわらず、これらの抗体は、これらのそれぞれのエピトープ(複数可)への結合について互いと「交差競合する」と言える。競合抗体および交差競合抗体のどちらも本開示の範囲内である。そのような競合または交差競合が起こる機構(例えば、立体的な障害、コンフォメーションの変化、または共通のエピトープ、またはその一部への結合)にかかわらず、そのような競合抗体および/または交差競合抗体は本明細書で提供される方法および/または組成物に包含され、有用であり得ることが当業者には理解されよう。
【0202】
本開示の態様は、本明細書で提供される特異的抗体またはその抗原結合性部分のいずれかと競合するかまたは交差競合する抗体に関する。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、本明細書で提供される抗体のいずれかと同じエピトープまたはその付近に結合する。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、エピトープから15個またはそれ未満のアミノ酸残基以内に結合する場合、エピトープ付近に結合する。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される抗体またはその抗原結合性部分のいずれかは、本明細書で提供される抗体のいずれかが結合するエピトープから1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15アミノ酸残基以内に結合する。
【0203】
別の実施形態では、本明細書で提供される抗原(例えば、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体)のいずれかへの結合について、10-6M未満の抗体とタンパク質の間の平衡解離定数KDで競合するかまたは交差競合する抗体またはその抗原結合性部分が本明細書で提供される。他の実施形態では、本明細書で提供される抗原のいずれかへの結合について10-11Mから10-6MまでにわたるKDで競合するかまたは交差競合する抗体が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分と結合について競合する抗TGFβ1抗体またはその抗原結合性部分が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分と同じエピトープに結合する抗TGFβ1抗体またはその抗原結合性部分が本明細書で提供される。
【0204】
本明細書で提供される抗体はいずれも任意の好適な方法を使用して特徴付けられ得る。例えば、1つの方法は、抗原が結合するエピトープを同定すること、すなわち「エピトープマッピング」である。例えば、HarlowおよびLane、Using Antibodies, a Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1999年の第11章に記載されるように、抗体-抗原複合体の結晶構造の解明、競合アッセイ、遺伝子断片発現アッセイ、および合成ペプチドに基づくアッセイを含む、タンパク質上のエピトープの位置をマッピングし特徴付けるための好適な方法は多く存在する。追加的な例では、エピトープマッピングを使用して抗体が結合する配列を決定することができる。エピトープは、線形エピトープ、すなわち、アミノ酸の単一のストレッチ中に含有されるエピトープであってもよく、必ずしも単一のストレッチ(一次構造線形配列)中に含有されなくてよいアミノ酸の3次元相互作用によって形成されるコンフォメーショナルエピトープであってもよい。いくつかの実施形態では、エピトープは、TGFβ1がGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体中にある場合にのみ本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分による結合に利用可能になるTGFβ1エピトープである。様々な長さのペプチド(例えば、少なくとも4~6アミノ酸長)を単離または合成し(例えば、組換えによって)、抗体を用いた結合アッセイに使用することができる。別の例では、抗体が結合するエピトープを、標的抗原配列に由来する重複するペプチドを使用し、抗体による結合を決定することによって、系統的スクリーニングにおいて決定することができる。遺伝子断片発現アッセイによると、標的抗原をコードするオープンリーディングフレームをランダムにまたは特異的な遺伝子構築によって断片化し、発現した抗原の断片の試験される抗体との反応性を決定する。遺伝子断片を、例えばPCRによって生成し、次いで、in vitroにおいて放射性アミノ酸の存在下で転写およびタンパク質への翻訳を行う。次いで、抗体の放射性標識された抗原断片への結合を免疫沈降およびゲル電気泳動によって決定する。ある特定のエピトープは、ファージ粒子の表面上にディスプレイしたランダムなペプチド配列の大きなライブラリー(ファージライブラリー)を使用することによって同定することもできる。代替的に、重複するペプチド断片の定義されたライブラリーを試験抗体との結合について単純な結合アッセイにおいて試験することができる。追加的な例では、抗原結合性ドメインの変異誘発、ドメインスワッピング実験およびアラニンスキャニング変異誘発を実施して、エピトープ結合に要求される、十分な、および/または必要な残基を同定することができる。例えば、ドメインスワッピング実験は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体の種々の断片が、TGFβタンパク質ファミリーの別のメンバー(例えば、GDF11)などの密接に関連するが抗原性ににおいて別個のタンパク質に由来する配列で置き換えられた(スワッピングされた)標的抗原の変異体を使用して実施され得る。抗体のGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体の変異体への結合を評価することにより、抗体結合に対する特定の抗原断片の重要性を評価することができる。
【0205】
代替的に、同じ抗原に結合することが分かっている他の抗体を使用して競合アッセイを実施して、抗体が他の抗体と同じエピトープに結合するかどうかを決定することができる。競合アッセイは当業者には周知である。
【0206】
さらに、本明細書で提供される抗体のいずれかとGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体内の1つまたは複数の残基との相互作用は、常套的な技術によって決定され得る。例えば、結晶構造を決定することができ、それに応じて、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体内の残基と抗体内の1つまたは複数の残基の間の距離を決定することができる。そのような距離に基づいて、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体内の特定の残基が抗体内の1つまたは複数の残基と相互作用するかどうかを決定することができる。さらに、競合アッセイおよび標的変異誘発アッセイなどの好適な方法を適用して、候補抗体の優先的な結合を決定することができる。
【0207】
GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に結合する抗体の産生
本開示の抗体またはその抗原結合性断片を得るために、多数の方法を使用することができる。例えば、抗体は、組換えDNA法を使用して産生され得る。モノクローナル抗体は、公知の方法に従って、ハイブリドーマの生成によっても産生され得る(例えば、KohlerおよびMilstein(1975年)Nature、256巻:495~499頁を参照されたい)。次いで、このように形成されたハイブリドーマを、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)および表面プラズモン共鳴(例えば、OCTETまたはBIACORE)分析などの標準の方法を使用してスクリーニングして、指定の抗原に特異的に結合する抗体を産生する1つまたは複数のハイブリドーマを同定する。指定の抗原の任意の形態、例えば、組換え抗原、天然に存在する形態、任意の改変体またはその断片、ならびにその抗原性ペプチド(例えば、線形エピトープとしてまたはコンフォメーショナルエピトープとして足場内の本明細書に記載のエピトープのいずれか)を免疫原として使用することができる。抗体作製の1つの典型的な方法は、抗体またはその断片(例えば、scFv)を発現するタンパク質発現ライブラリー、例えば、ファージまたはリボソームディスプレイライブラリーのスクリーニングを含む。ファージディスプレイは、例えば、Ladnerら、米国特許第5,223,409号;Smith(1985年)Science、228巻:1315~1317頁;Clacksonら、(1991年)Nature、352巻:624~628頁;Marksら、(1991年)J. Mol. Biol.、222巻:581~597頁;WO92/18619;WO91/17271;WO92/20791;WO92/15679;WO93/01288;WO92/01047;WO92/09690;およびWO90/02809に記載されている。
【0208】
ディスプレイライブラリーの使用に加えて、指定の抗原(例えば、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体)を使用して非ヒト動物、例えば、げっ歯類、例えば、マウス、ハムスター、またはラットを免疫化することができる。一実施形態では、非ヒト動物はマウスである。
【0209】
別の実施形態ではモノクローナル抗体は、非ヒト動物から得られ、次いで好適な組換えDNA技術を使用して改変される(例えばキメラ)。キメラ抗体を作製するための種々のアプローチは記載されている。例えばMorrisonら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.81巻:6851頁、1985年、Takedaら、Nature 314巻:452頁、1985年、Cabillyら、米国特許第4,816,567号、Bossら、米国特許第4,816,397号、Tanaguchiら、欧州特許公開第EP171496号、欧州特許公開第0173494号、英国特許第GB2177096B号を参照されたい。
【0210】
追加的な抗体産生技術についてAntibodies: A Laboratory Manual、Harlowら編、Cold Spring Harbor Laboratory、1988年を参照されたい。本開示は、抗体のいずれかの特定の供給源、産生の方法または他の特別な特徴に必ずしも限定されない。
【0211】
本開示のいくつかの態様は、ポリヌクレオチドまたはベクターで形質転換された宿主細胞に関する。宿主細胞は、原核または真核細胞であってよい。宿主細胞に存在するポリヌクレオチドまたはベクターは、宿主細胞のゲノムに組み込まれていてもよく、または染色体外に維持されていてもよい。宿主細胞は、細菌性、昆虫、真菌、植物、動物またはヒト細胞などの任意の原核または真核細胞であってよい。いくつかの実施形態では真菌細胞は、例えばSaccharomyces属のもの、具体的にはS.cerevisiae種のものである。用語「原核生物」は、抗体または対応する免疫グロブリン鎖の発現のためにDNAまたはRNA分子で形質転換またはトランスフェクトされ得る全ての細菌を含む。原核生物の宿主は、例えばE.coli、S.typhimurium、Serratia marcescensおよびBacillus subtilisなどのグラム陰性およびグラム陽性細菌を含んでよい。用語「真核生物」は、酵母、高等植物、昆虫ならびに脊椎動物細胞、例えばNSOおよびCHO細胞などの哺乳動物細胞を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に応じて、ポリヌクレオチドによってコードされる抗体または免疫グロブリン鎖は、グリコシル化されてよい、またはグリコシル化されなくてよい。抗体または対応する免疫グロブリン鎖は、開始メチオニンアミノ酸残基も含んでよい。
【0212】
いくつかの実施形態では、ベクターが適切な宿主に組み込まれると、宿主はヌクレオチド配列の高レベル発現に好適な条件下に維持されてよく、所望により、免疫グロブリン軽鎖、重鎖、軽鎖/重鎖二量体もしくはインタクト抗体、抗原結合性断片または他の免疫グロブリン形態の回収および精製が続いてよい;Beychok、Cells of Immunoglobulin Synthesis、Academic Press、N.Y.、(1979年)を参照されたい。したがって、ポリヌクレオチドまたはベクターは、次に抗体または抗原結合性断片を産生する細胞に導入される。さらに、前述の宿主細胞を含むトランスジェニック動物、好ましくは哺乳動物は、抗体または抗体断片の大規模産生のために使用されてよい。
【0213】
形質転換された宿主細胞は、発酵槽で増殖され、最適な細胞増殖を達成するための任意の好適な技術を使用して培養されてよい。発現されると、全抗体、それらの二量体、個々の軽鎖および重鎖、他の免疫グロブリン形態または抗原結合性断片は、硫酸アンモニウム沈殿法、親和性カラム、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動などを含む当技術分野の標準的手順により精製されてよい;Scopes、「Protein Purification」、Springer Verlag、N.Y.(1982年)を参照されたい。次いで抗体または抗原結合性断片は、増殖培地、細胞溶解物または細胞膜画分から単離されてよい。例えば微生物で発現された抗体または抗原結合性断片の単離および精製は、例えば調製用クロマトグラフィー分離および、例えば抗体の定常領域に対して指向されたモノクローナルまたはポリクローナル抗体の使用を含むものなどの免疫学的分離などの任意の従来の手段によってであってよい。
【0214】
本開示の態様は、モノクローナル抗体の無期限に延長される供給源を提供するハイブリドーマに関する。ハイブリドーマの培養物から直接免疫グロブリンを得るための代替法として、不死化ハイブリドーマ細胞は、続く発現および/または遺伝子操作のための再編成重鎖および軽鎖遺伝子座の供給源として使用されてよい。再編成抗体遺伝子は、cDNAを産生するために適切なmRNAから逆転写されてよい。いくつかの実施形態では重鎖定常領域は、異なるアイソタイプのものと交換されるかまたは全体が除去されてよい。可変領域は、一本鎖Fv領域をコードするように連結されてよい。複数のFv領域は、1つより多い標的への結合能力を付与するために連結されてよく、またはキメラ重鎖および軽鎖組み合わせが用いられてよい。任意の適切な方法は、抗体可変領域のクローニングおよび組換え抗体の生成のために使用されてよい。
【0215】
いくつかの実施形態では、重鎖および/または軽鎖の可変領域をコードする適切な核酸が得られ、標準的組換え宿主細胞にトランスフェクトされ得る発現ベクターに挿入される。種々のそのような宿主細胞が使用されてよい。いくつかの実施形態では哺乳動物宿主細胞は、効率的なプロセシングおよび産生のために有利である場合がある。この目的のために有用な典型的な哺乳動物細胞株は、CHO細胞、293細胞またはNSO細胞を含む。抗体または抗原結合性断片の産生は、改変組換え宿主を宿主細胞の増殖およびコード配列の発現に適切な培養条件下で培養することによって実行されてよい。抗体または抗原結合性断片は、培養物からそれらを単離することによって回収され得る。発現系は、生じた抗体が培地に分泌されるように、シグナルペプチドを含める形で設計されてよいが;細胞内産生物も可能である。
【0216】
本開示は、本明細書に記載の抗体の免疫グロブリン鎖の少なくとも可変領域をコードするポリヌクレオチドも含む。いくつかの実施形態ではポリヌクレオチドによってコードされる可変領域は、上に記載のハイブリドーマのいずれか1つによって産生された抗体の可変領域のVHおよび/またはVLの少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む。
【0217】
抗体または抗原結合性断片をコードするポリヌクレオチドは、例えばDNA、cDNA、RNAまたは合成的に産生されたDNAもしくはRNAまたはこれらのポリヌクレオチドのいずれかを単独もしくは組み合わせで含む組換え的に産生されたキメラ核酸分子であってよい。いくつかの実施形態ではポリヌクレオチドは、ベクターの一部である。そのようなベクターは、好適な宿主細胞においておよび好適な条件下でベクターの選択を可能にするマーカー遺伝子などのさらなる遺伝子を含んでよい。
【0218】
いくつかの実施形態ではポリヌクレオチドは、原核または真核細胞での発現を可能にする発現調節配列に作動可能に連結される。ポリヌクレオチドの発現は、ポリヌクレオチドの翻訳可能なmRNAへの転写を含む。真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞での発現を確実にする制御エレメントは、当業者に周知である。それらは、転写の開始を促進する制御配列ならびに任意選択で転写の終了および転写物の安定化を促進するポリAシグナルを含んでよい。追加的制御エレメントは、転写および翻訳エンハンサー、ならびに/または天然で関連するもしくは異種性のプロモーター領域を含んでよい。原核生物の宿主細胞での発現を可能にする可能性のある制御エレメントは例えばE.coliにおけるPL、Lac、TrpまたはTacプロモーターを含み、真核宿主細胞での発現を可能にする制御エレメントの例は、酵母におけるAOX1もしくはGAL1プロモーターまたは哺乳動物および他の動物細胞におけるCMVプロモーター、SV40プロモーター、RSVプロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、CMVエンハンサー、SV40エンハンサーもしくはグロビンイントロンである。
【0219】
転写の開始に関与するエレメント以外のそのような制御エレメントはSV40ポリA部位またはtkポリA部位などのポリヌクレオチドの下流の転写終結シグナルも含み得る。さらに、用いられる発現系に応じて、ポリペプチドを細胞コンパートメントに向かわせるまたはそれを培地に分泌することができるリーダー配列を、ポリヌクレオチドのコード配列に加えてよく、以前に記載されている。リーダー配列(複数可)は、翻訳、開始および終止配列と適切なフェーズ(phase)でアセンブルされ、好ましくは、リーダー配列は翻訳されたタンパク質またはその部分の例えば細胞外培地への分泌を導くことができる。望ましい特徴、例えば発現される組換え産物の安定化または精製の簡略化を与えるCまたはN末端識別ペプチドを含む融合タンパク質をコードする異種性ポリヌクレオチド配列を、任意選択で使用してもよい。
【0220】
いくつかの実施形態では軽鎖および/または重鎖の少なくとも可変ドメインをコードするポリヌクレオチドは、両方の免疫グロブリン鎖または1つだけの可変ドメインをコードしてよい。同様にポリヌクレオチドは、同じプロモーターの調節下にあってよく、または発現のために別々に調節されてよい。さらにいくつかの態様は、抗体または抗原結合性断片の免疫グロブリン鎖の可変ドメインをコードするポリヌクレオチドを、任意選択で抗体の他の免疫グロブリン鎖の可変ドメインをコードするポリヌクレオチドとの組み合わせで含む、遺伝子工学において従来使用されるベクター、特にプラスミド、コスミド、ウイルスおよびバクテリオファージに関する。
【0221】
いくつかの実施形態では発現調節配列は、真核宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトできるベクター中の真核プロモーター系として提供されるが、原核生物の宿主のための調節配列も使用されてよい。レトロウイルス、ワクチニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルスまたはウシパピローマウイルスなどのウイルス由来の発現ベクターは、ポリヌクレオチドまたはベクターを標的化された細胞集団(例えば抗体または抗原結合性断片を発現するように細胞を操作するため)に送達するために使用されてよい。種々の適切な方法は、組換えウイルス性ベクターを構築するために使用されてよい。いくつかの実施形態ではポリヌクレオチドおよびベクターは、標的細胞への送達のためにリポソームに再構成されてよい。ポリヌクレオチド(例えば配列および発現調節配列をコードする免疫グロブリン鎖の重鎖および/または軽鎖可変ドメイン(複数可))を含有するベクターは、細胞宿主の種類に応じて変化する好適な方法によって宿主細胞に移行されてよい。
【0222】
修飾
本開示の抗体またはその抗原結合性部分は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体の検出および単離のために、これらに限定されないが、酵素、補欠分子族、蛍光材料、発光材料、生物発光材料、放射性材料、ポジトロン放出金属、非放射性常磁性金属イオン、および親和性標識を含めた検出可能な標識または検出可能な部分で修飾されてよい。検出可能な物質または部分は、本開示のポリペプチドに直接または好適な技術を使用して中間体(例えばリンカー(例えば、切断可能なリンカー)など)を通じて間接のいずれかでカップリングまたはコンジュゲートされてよい。好適な酵素の非限定的例は、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼを含み; 好適な補欠分子族複合体の非限定的例は、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンを含み;
好適な蛍光材料の非限定的例は、ビオチン、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシル、またはフィコエリトリンを含み;発光材料の例はルミノールを含み;生物発光材料の非限定的例は、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、およびエクオリンを含み;好適な放射性材料の例は、例えば、ヨウ素(131I、125I、123I、121I)、炭素(14C)、硫黄(35S)、トリチウム(3H)、インジウム(115mIn、113mIn、112In、111In)、およびテクネチウム(99Tc、99mTc)、タリウム(201Ti)、ガリウム(68Ga、67Ga)、パラジウム(103Pd)、モリブデン(99Mo)、キセノン(133Xe)、フッ素(18F)、153Sm、Lu、159Gd、149Pm、140La、175Yb、166Ho、90Y、47Sc、86R、188Re、142Pr、105Rh、97Ru、68Ge、57Co、65Zn、85Sr、32P、153Gd、169Yb、51Cr、54Mn、75Se、およびスズ(113Sn、117Sn)などの放射性金属イオン、例えばアルファ放射体または他の放射性同位元素を含む。検出可能な物質は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する本開示の抗体に直接または、好適な技術を使用して中間体(例えばリンカーなど)を通じて間接のいずれかでカップリングまたはコンジュゲートされてよい。検出可能な物質にコンジュゲートされた本明細書で提供される抗体はいずれも、本明細書に記載のものなどの任意の好適な診断アッセイに使用され得る。
【0223】
さらに、本開示の抗体またはその抗原結合性部分は薬物で修飾されてよい。薬物は、本開示のポリペプチドに直接、または好適な技術を使用して中間体(例えばリンカー(例えば切断可能なリンカー)なと)を通じて間接のいずれかでカップリングまたはコンジュゲートされてよい。
【0224】
標的化薬剤
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、本明細書に開示されている抗体またはその抗原結合性部分を被験体の特定の部位に標的化して、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体からの成熟TGFβ放出を調節するための、1つまたは複数の標的化薬剤の使用を含む。例えば、LTBP1-TGFβ1およびLTBP3-TGFβ1複合体は、典型的には、細胞外マトリクスに局在している。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に開示されている抗体は、抗体をLTBP1-TGFβ1およびLTBP3-TGFβ1複合体が存在する部位に局在化させるために、細胞外マトリクス標的化薬剤とコンジュゲートされ得る。そのような実施形態では、抗体の選択的標的化により、LTBP1-TGFβ1および/またはLTBP3-TGFβ1複合体の選択的調節が導かれる。いくつかの実施形態では、抗体の選択的標的化により、LTBP1-TGFβ1および/またはLTBP3-TGFβ1複合体の選択的阻害が導かれる(例えば、線維症を処置するため)。いくつかの実施形態では、細胞外マトリクス標的化薬剤は、ヘパリン結合性薬剤、マトリクスメタロプロテイナーゼ結合性薬剤、リシルオキシダーゼ結合性ドメイン、フィブリリン結合性薬剤、ヒアルロン酸結合性薬剤、およびその他を含む。
【0225】
同様に、GARP-TGFβ1複合体は、典型的には、細胞、例えば活性化されたFOXP3+制御性T細胞(Treg)の表面に局在している。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に開示されている抗体は、抗体をGARP-TGFβ1複合体が存在する部位に局在化させるために、免疫細胞(例えば、Treg細胞)結合性薬剤とコンジュゲートされ得る。そのような実施形態では、抗体の選択的標的化により、GARP-TGFβ1複合体の選択的調節が導かれる。いくつかの実施形態では、抗体の選択的標的化により、GARP-TGFβ1複合体の選択的阻害(例えば、例えばがんの処置における免疫調節のための、成熟TGFβ1の放出の選択的阻害)が導かれる。そのような実施形態では、Treg細胞標的化薬剤は、例えば、CCL22およびCXCL12タンパク質またはその断片を含んでよい。
【0226】
いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体およびLTBP-TGFβ1複合体に選択的に結合する第1の部分と、標的部位の構成成分、例えば、ECMの構成成分(例えば、フィブリリン)またはTreg細胞の構成成分(例えば、CTLA-4)に選択的に結合する第2の部分とを有する二特異性抗体を使用することができる。
【0227】
医薬組成物
本発明は、さらに、ヒトおよび非ヒト被験体への投与に好適な医薬として使用される医薬組成物を提供する。GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する1つまたは複数の抗体は、医薬組成物を形成するために、例えば緩衝液を含めた、薬学的に許容される担体(賦形剤)と共に製剤化または混和されてよい。そのような製剤は、TGFβシグナル伝達が関与する疾患または障害の処置に使用され得る。いくつかの実施形態では、TGFβシグナル伝達に関連するそのような疾患または障害は、1つまたは複数の状況を伴う、すなわち、TGFβが特定の型(複数可)の提示分子と会合している。いくつかの実施形態では、そのような状況は、細胞型特異的かつ/または組織特異的に生じる。いくつかの実施形態では、例えば、そのようなTGFβシグナル伝達の状況依存性作用は、一部においてGARP、LRRC33、LTBP1および/またはLTBP3に媒介される。
【0228】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、2つまたはそれよりも多くの状況のTGFβに特異的に結合し、したがって、抗体は、GARP、LRRC33、LTBP1およびLTBP3のうちの2つまたはそれよりも多くから選択される提示分子との複合体中にあるTGFβに結合する。したがって、そのような医薬組成物は、TGFβ関連適応症(例えば、線維症、免疫障害、および/またはがん)を緩和するために患者に投与され得る。「許容される」とは、担体が組成物の活性成分と適合性であり(および、好ましくは、活性成分を安定化でき)、処置される被験体に有害でないことを意味する。緩衝液を含めた薬学的に許容される賦形剤(担体)の例は当業者には明らかであり、以前に記載されている。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy 第20版(2000年)、Lippincott Williams and Wilkins、K. E. Hoover編を参照されたい。一例では、本明細書に記載の医薬組成物は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体を1つよりも多く含有し、ここで、これらの抗体は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体の異なるエピトープ/残基を認識する。
【0229】
本方法において使用される医薬組成物は、薬学的に許容される担体、賦形剤、または安定剤を凍結乾燥製剤または水溶液の形態で含むことができる(Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第20版(2000年)、Lippincott Williams and Wilkins、K. E. Hoover編)。許容される担体、賦形剤または安定化剤は、使用される投薬量および濃度でレシピエントに無毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸などの緩衝剤;アルコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化物質;保存剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリドなど;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルもしくはベンジルアルコール;メチルもしくはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンもしくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンもしくはリシンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類およびグルコース、マンノースもしくはデキストランを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースもしくはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えばZnタンパク質錯体);ならびに/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)もしくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含んでよい。薬学的に許容される賦形剤はさらに本明細書に記載される。
【0230】
いくつかの実施例では、本明細書に記載の医薬組成物は、Epsteinら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、82巻:3688頁(1985年);Hwangら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、77巻:4030頁(1980年);ならびに米国特許第4,485,045号および同第4,544,545号に記載されているものなどの任意の好適な方法によって調製することができるGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体を含有するリポソームを含む。循環時間が増強されたリポソームが米国特許第5,013,556号に開示されている。特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロールおよびPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含む脂質組成物での逆相蒸発法によって生成され得る。リポソームは、望ましい直径を有するリポソームを得るための規定のポアサイズのフィルターを通して押し出される。
【0231】
GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体は、コロイド薬物送達系(例えばリポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)またはマクロエマルジョン中の、例えばコアセルベーション技術によってまたは界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセロースもしくはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルにも捕捉され得る。例示的技術は、以前に記載されており、例えばRemington、The Science and Practice of Pharmacy、第20版、Mack Publishing(2000年)を参照されたい。
【0232】
他の例では本明細書に記載の医薬組成物は、徐放性形式で製剤化されてよい。徐放性調製物の好適な例は、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリクスを含み、マトリクスは成形品、例えばフィルムまたはマイクロカプセルの形態である。徐放性マトリクスの例は、ポリエステル、ハイドロゲル(例えばポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)または、ポリ(ビニルアルコール)、ポリラクチド乳酸(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸と7エチル-L-グルタメートとの共重合体、非分解性エチレン酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸グリコール酸共重合体および酢酸ロイプロリドから構成される注射可能なミクロスフェア)などの分解性乳酸グリコール酸共重合体、スクロースアセテートイソブチレートおよびポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸を含む。
【0233】
in vivo投与のために使用される医薬組成物は、無菌でなければならない。これは、例えば無菌濾過膜を通じた濾過によって容易に達成される。治療用抗体組成物は、一般に無菌アクセスポートを有する容器、例えば皮下注射針によって貫通できるストッパーを有する静脈内用溶液バッグまたはバイアルに入れられる。
【0234】
本明細書に記載の医薬組成物は、経口、非経口もしくは直腸投与または吸入もしくは吹送法による投与のための錠剤、丸剤、カプセル、粉末、顆粒、溶液もしくは懸濁物または座薬などの単位投与形態であってよい。
【0235】
錠剤などの固体組成物を調製するために主要活性成分は、医薬用担体、例えばコーンデンプン、ラクトース、スクロース、ソルビトール、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウムもしくはガムなどの従来の錠剤化成分、および本開示の化合物の均一な混合物を含有する固体予備製剤組成物を形成するための他の医薬用希釈剤、例えば水、または無毒性の薬学的に許容されるそれらの塩と混合されてよい。これらの予備製剤組成物を均一と称する場合、活性成分が組成物全体に均質に分散されており、それにより組成物が錠剤、丸剤およびカプセルなどの同等に有効な単位投与形態に容易に分割され得ることを意味する。この固体予備製剤組成物は、次いで本開示の活性成分0.1mgから約500mgを含有する上に記載の種類の単位投与形態に分割される。新規組成物の錠剤または丸剤は、長期作用の利点をもたらす投与形態を提供するためにコーティングまたは他の方法で配合されてよい。例えば錠剤または丸剤は、内剤(inner dosage)および外剤(outer dosage)構成成分を含んでよく、後者は前者を覆うエンベロープの形態にある。2個の構成成分は、胃での崩壊に抵抗するために役立ち、内部の構成成分が十二指腸へインタクトなまま通過することまたは放出を遅らせることを可能にする腸溶性層(enteric layer)によって分離されてよい。種々の材料がそのような腸溶性層またはコーティングのために使用されてよく、そのような材料はいくつかのポリマー酸ならびにポリマー酸とセラック、セチルアルコールおよび酢酸セルロースなどの材料との混合物を含む。
【0236】
好適な表面活性剤は、具体的にはポリオキシエチレンソルビタン(例えばTween(商標)20、40、60、80または85)および他のソルビタン(例えばSpan(商標)20、40、60、80または85)などの非イオン性剤を含む。表面活性剤を含む組成物は、好都合には0.05から5%の表面活性剤を含み、0.1から2.5%であってよい。必要に応じて他の成分、例えばマンニトールまたは他の薬学的に許容されるビヒクルが添加されてよいことは理解される。
【0237】
好適なエマルジョンは、Intralipid(商標)、Liposyn(商標)、Infonutrol(商標)、Lipofundin(商標)およびLipiphysan(商標)などの商業的に入手できる脂肪エマルジョンを使用して調製されてよい。活性成分は、予め混合されたエマルジョン組成物に溶解されてよく、または代替的に油(例えばダイズ油、ベニバナ油、綿実油、ゴマ油、コーン油もしくはアーモンド油)およびリン脂質(例えば卵リン脂質、ダイズリン脂質もしくはダイズレシチン)と水とを混合して形成されたエマルジョンに溶解されてもよい。他の成分、例えばグリセロールまたはグルコースが、エマルジョンの張度を調整するために加えられてよいことは理解される。好適なエマルジョンは、典型的には20%まで、例えば5から20%の油を含有する。
【0238】
エマルジョン組成物は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体をIntralipid(商標)とまたはその構成成分(ダイズ油、卵リン脂質、グリセロールおよび水)と混合することによって調製されるものであってよい。
【0239】
吸入または吹送法のための医薬組成物は、薬学的に許容される水性もしくは有機溶媒またはそれらの混合物中の溶液および懸濁物ならびに粉末を含む。液体または固体組成物は、上に記載の好適な薬学的に許容される賦形剤を含有してよい。いくつかの実施形態では組成物は、局所または全身性効果のために経口または経鼻呼吸経路によって投与される。
【0240】
好ましくは無菌の薬学的に許容される溶媒中の組成物は、ガスの使用によって噴霧されてよい。噴霧される溶液は、噴霧デバイスから直接吸われてよい、または噴霧デバイスはフェイスマスク、テントもしくは間欠的陽圧呼吸器に取り付けられてよい。溶液、懸濁物または粉末組成物は、好ましくは経口または経鼻で適切な様式で製剤を送達するデバイスから投与されてよい。
【0241】
GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体およびその抗原結合性部分の使用
いくつかの実施形態では、本開示の抗体、その抗原結合性部分、および組成物は、多種多様な疾患、障害および/または状態を処置するために使用され得る。一部の場合では、そのような疾患、障害および/または状態は、TGFβ関連適応症であり得る。本明細書で使用される場合、「TGFβ関連適応症」という用語は、TGFβファミリーメンバータンパク質の発現、活性および/または代謝に関連する任意の疾患、障害および/または状態、あるいは1つまたは複数のTGFβファミリーメンバータンパク質の活性および/またはレベルの調節が有益であり得る任意の疾患、障害および/または状態を指す。TGFβ関連適応症は、これらに限定されないが、線維症、がん(これらに限定されないが、結腸がん、腎がん、乳がん、悪性黒色腫および神経膠芽腫、化学療法後の迅速な造血の促進、骨治癒、創傷治癒、認知症、骨髄線維症、腎疾患、片側尿管閉塞(UUO)、歯の脱落および/または変性、内皮増殖症候群、喘息およびアレルギー、胃腸障害、加齢貧血、大動脈瘤、希少適応症(例えば、マルファン症候群およびカムラチ・エンゲルマン病など)、肥満症、糖尿病、関節炎、多発性硬化症、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)パーキンソン病、骨粗鬆症、変形性関節症、骨減少症、メタボリックシンドローム、栄養障害、臓器萎縮、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、ならびに食欲不振を含み得る。追加的な適応症は、それぞれの内容全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2013/0122007号、米国特許第8,415,459号または国際特許出願公開第WO2011/151432号に開示されている任意の適応症を含み得る。
【0242】
線維症
いくつかの実施形態では、本開示の抗体および/または組成物は、線維症を変化させるために有用であり得る。いくつかの実施形態では、そのような抗体および/または組成物は、TGFβ(例えば、TGFβ1)のアンタゴニストである。TGFβ1は、線維化応答の中心的な編成因子(orchestrator)として認識されている。多数の前臨床モデルにおいて、TGFβ1を標的化する抗体により、線維症が減少する。そのような抗体および/または抗体に基づく化合物は、LY2382770(Eli Lilly、Indianapolis、IN)を含む。それぞれの内容全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,492,497号、同第7,151,169号、同第7,723,486号および米国特許出願公開第2011/0008364号に記載されているものも包含される。
【0243】
本開示の抗体および/または組成物を治療的に使用することができる線維化適応症は、これらに限定されないが、肺適応症(例えば、特発性肺線維症(IPF)、慢性閉塞性肺障害(COPD)、アレルギー性喘息、急性肺損傷、好酸性食道炎、肺動脈高血圧症および化学的気体損傷(chemical gas-injury))、腎臓適応症(例えば、糖尿病性糸球体硬化症、巣状分節状糸球体硬化症(FSGS)、慢性腎疾患、腎移植および慢性拒絶反応に関連する線維症、IgA腎症、ならびに溶血性尿毒症症候群)、肝線維症(例えば、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、慢性ウイルス性肝炎、寄生虫血症、先天性代謝異常、アルコール性線維症などの毒素媒介線維症、非アルコール性脂肪性肝炎-肝細胞癌(NASH-HCC)、原発性胆汁性肝硬変、および硬化性胆管炎)、心血管線維症(例えば、心筋症、肥大性心筋症、アテローム性動脈硬化症および再狭窄)、全身性硬化症、皮膚線維症(例えば、全身性硬化症における皮膚線維症、びまん性皮膚全身性硬化症、強皮症、病理学的皮膚瘢痕、ケロイド、術後瘢痕、瘢痕修正術、放射線誘導性瘢痕および慢性創傷)およびがんまたは二次性線維症(例えば、骨髄線維症、頭頸部がん、M7急性巨核芽球性白血病および粘膜炎)を含む。本開示の化合物および/または組成物を使用して処置することができる線維症に関連する他の疾患、障害または状態は、これらに限定されないが、マルファン症候群、皮膚硬化症候群(stiff skin syndrome)、強皮症、関節リウマチ、骨髄線維症、クローン病、潰瘍性大腸炎、全身性エリテマトーデス、筋ジストロフィー(例えばDMDなど)、デュピュイトラン拘縮、カムラチ・エンゲルマン病、神経瘢痕(neural scarring)、認知症、増殖性硝子体網膜症、角膜損傷、緑内障ドレナージ術後の合併症、および多発性硬化症を含む。そのような線維化適応症の多くは、免疫構成成分の関与を示す患部組織(複数可)の炎症も伴う。
【0244】
本明細書に記載の抗体は、線維症を処置するために使用され得る。いくつかの実施形態では、TGFβ1アイソフォーム特異的薬剤は、線維症を処置するために有効な量で被験体に投与される。そのような抗体の有効量は、被験体における治療的効能および臨床的安全性の両方を達成するために有効な量である。いくつかの実施形態では、そのような抗体は、LTBPを含有する、ECMと会合したTGFβ1によって媒介されるTGFβ1の活性化を遮断することができる状況特異的抗体である。いくつかの実施形態では、LTBPは、LTBP1および/またはLTBP3である。いくつかの実施形態では、抗体は、ECMに局在するLTBPに媒介されるTGFβ1および免疫細胞に局在するGARPに媒介されるTGFβ1の活性化を遮断することができる状況許容的抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、ECMに局在するLTBPに媒介されるTGFβ1および単球/マクロファージに局在するLRRC33に媒介されるTGFβ1の活性化を遮断することができる状況許容的抗体である。いくつかの実施形態では、LTBPは、LTBP1および/またはLTBP3である。いくつかの実施形態では、線維化微小環境において線維化促進性M2様マクロファージ上のLRRC33によって提示されるTGFβ1を標的化し、阻害することが有益であり得る。
【0245】
線維症を変化させるための本開示の抗体および/または組成物の効能の決定において有用なアッセイは、これらに限定されないが、当技術分野で公知の線維芽細胞を計数するための組織学的アッセイおよび基本的な免疫組織化学分析を含む。
【0246】
がん
本開示の抗体および/または組成物を用いて種々のがんを処置することができる。本明細書で使用される場合、用語「がん」は、周囲組織に浸潤し、新しい身体部位に転移する傾向がある未分化細胞の増殖を特徴とする種々の悪性新生物のいずれかを指し、また、そのような悪性新生物の増殖を特徴とする病的状態も指す。がんは、腫瘍または血液悪性疾患であり得、これらに限定されないが、全ての型のリンパ腫/白血病、癌腫および肉腫、例えば、肛門、膀胱、胆管、骨、脳、乳房、子宮頸部(cervix)、結腸/直腸、子宮内膜、食道、眼、胆嚢、頭頸部、肝臓、腎臓、喉頭、肺、縦隔(胸部)、口、卵巣、膵臓、陰茎、前立腺、皮膚、小腸、胃、脊髄、尾骨、精巣、甲状腺および子宮に見られるがんまたは腫瘍などを含む。
【0247】
がんにおいて、TGFβ(例えば、TGFβ1)は、増殖促進性または増殖阻害性のいずれでもあり得る。例として、膵がんでは、SMAD4野生型腫瘍は、TGFβに応答して増殖の阻害を受ける可能性があるが、疾患が進行するにつれて、典型的には、構成的に活性化されたII型受容体が存在する。さらに、SMAD4ヌル膵がんが存在する。いくつかの実施形態では、本開示の抗体、その抗原結合性部分、および/または組成物は、1つまたは複数の形態のがんにおいて一意的に機能するTGFβシグナル伝達経路の構成成分を選択的に標的化するように設計される。白血球細胞(white blood cell)、すなわち白血球(leukocyte)の異常な増殖を特徴とする白血病、または血液もしくは骨髄のがんは、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病または急性骨髄性白血病(AML)(第10染色体と第11染色体の間の転座[t(10,11)]、第8染色体と第21染色体の間の転座[t(8;21)]、第15染色体と第17染色体の間の転座[t(15;17)]、および第16染色体における逆位[inv(16)]を伴うAML;以前にAMLに変化する骨髄異形成症候群(MDS)または骨髄増殖性疾患を有したことのある患者を含む、多系列異形成(multilineage dysplasia)を伴うAML;AMLおよび骨髄異形成症候群(MDS)、療法関連、このカテゴリーは、以前に化学療法および/または放射線を受け、その後、AMLまたはMDSが発生したことがある患者を含む;d)上記のカテゴリーに入らないAMLの亜型を含む、他にカテゴリー化されないAML;およびe)白血病細胞を骨髄系細胞またはリンパ系細胞のいずれかに分類することができない場合、または両方の型の細胞が存在する場合に生じる、系列が不明瞭な急性白血病);ならびに慢性骨髄性白血病(CML)を含めた4つの主要な分類に分けることができる。
【0248】
癌腫の型は、これらに限定されないが、乳頭腫/癌腫、絨毛癌、卵黄嚢腫瘍、奇形腫、腺腫/腺癌、黒色腫、線維腫、脂肪腫、平滑筋腫、横紋筋腫、中皮腫、血管腫、骨腫、軟骨腫、神経膠腫、リンパ腫/白血病、扁平上皮細胞癌、小細胞細胞腫、大細胞未分化癌、基底細胞癌および副鼻腔未分化癌を含む。
【0249】
肉腫の型は、これらに限定されないが、胞状軟部肉腫などの軟部肉腫、血管肉腫、皮膚線維肉腫、デスモイド腫瘍、線維形成性小円形細胞腫瘍、骨外性軟骨肉腫(extraskeletal chondrosarcoma)、骨外性骨肉腫(extraskeletal osteosarcoma)、線維肉腫、血管外皮腫、血管肉腫、カポジ肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、リンパ管肉腫、リンパ肉腫、悪性線維性組織球腫、神経線維肉腫、横紋筋肉腫、滑膜肉腫、およびアスキン腫瘍(Askin’s tumor)、ユーイング肉腫(未分化神経外胚葉性腫瘍)、悪性血管内皮腫、悪性シュワン細胞腫、骨肉腫、および軟骨肉腫を含む。
【0250】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体および方法は、これらに限定されないが、結腸がん、腎がん、乳がん、悪性黒色腫および神経膠芽腫を含み得る、1つまたは複数の型のがんまたはがんに関連した状態を処置するために使用され得る(Schlingensiepenら、2008年;Ouhtitら、2013年)。
【0251】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分は、それを必要とする被験体においてがんを処置するための方法であって、がんが処置されるように、抗体またはその抗原結合性部分を被験体に投与するステップを含む方法において使用され得る。ある特定の実施形態では、がんは、結腸がんである。
【0252】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分は、固形腫瘍を処置するための方法において使用され得る。いくつかの実施形態では、固形腫瘍は、一般に高密度であり、治療用分子の透過が難しい、線維形成性腫瘍であり得る。そのような腫瘍のECMの構成成分を標的化することにより、そのような抗体は、高密度の腫瘍組織を「緩め」て崩壊させ、それにより、治療薬の接近を容易にして、その抗がん効果を発揮する。したがって、任意の公知の抗腫瘍薬などの追加的な治療薬を組み合わせて使用することができる。
【0253】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分は、固形腫瘍を有する被験体における固形腫瘍増殖を阻害するかまたは減少させるための方法であって、固形腫瘍増殖が阻害されるかまたは減少されるように抗体またはその抗原結合性部分を被験体に投与するステップを含む方法において使用され得る。ある特定の実施形態では、固形腫瘍は、結腸癌腫瘍である。いくつかの実施形態では、がんを処置するために有用な抗体またはその抗原結合性部分は、TGFβ1活性化のアイソフォーム特異的、状況許容的阻害剤である。いくつかの実施形態では、そのような抗体は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、およびLRRC33-TGFβ1複合体を標的化する。いくつかの実施形態では、そのような抗体は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、およびLTBP3-TGFβ1複合体を標的化する。いくつかの実施形態では、そのような抗体は、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、およびLRRC33-TGFβ1複合体を標的化する。いくつかの実施形態では、そのような抗体は、GARP-TGFβ1複合体およびLRRC33-TGFβ1複合体を標的化する。
【0254】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分は、がんまたは腫瘍を有する被験体に、単独で、または、追加的な薬剤、例えば抗PD-1抗体(例えば抗PD-1アンタゴニスト)と組み合わせてのいずれかで投与される。本発明に包含される他の併用療法は、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分を放射線、または化学療法剤と共に投与するものである。例示的な追加的な薬剤は、これらに限定されないが、PD-1アンタゴニスト、PDL1アンタゴニスト、PD-L1またはPDL2融合タンパク質、CTLA4アンタゴニスト、GITRアゴニスト、抗ICOS抗体、抗ICOSL抗体、抗B7H3抗体、抗B7H4抗体、抗TIM3抗体、抗LAG3抗体、抗OX40抗体、抗CD27抗体、抗CD70抗体、抗CD47抗体、抗41BB抗体、抗PD-1抗体、腫瘍溶解性ウイルス、およびPARP阻害剤を含む。
【0255】
骨格筋の状態におけるTGFβの役割
骨格筋において、TGFβは、増殖および分化の阻害、萎縮の誘導、および線維症の発生を含めた種々の役割を果たす。TGFβにより、サテライト細胞増殖が低減し、分化が妨げられる(MyoDおよびミオゲニンの阻害によって)(Allen, R.E.およびL.K. J Cell Physiol、1987年、133巻(3号):567~72頁;Brennan, T.J.ら、Proc Natl Acad Sci U S A、1991年、88巻(9号):3822~6頁;Massague, J.ら、Proc Natl Acad Sci U S A、1986年、83巻(21号):8206~10頁;Olson, E.N.ら、J Cell Biol、1986年、103巻(5号):1799~805頁)。これらの初期の論文ではTGFβのアイソフォーム(すなわち、TGFβ1、2、または3)は特定されていないが、TGFβ1であると推定される。TGFβはまた、筋肉線維症にも寄与する;組換えTGFβ1の直接注射により骨格筋線維症が生じ、汎TGFβ阻害により急性および慢性的に損傷を受けている筋肉における線維症が減少する(Li, Y.ら、Am J Pathol、2004年、164巻(3号):1007~19頁;Mendias, C.L.ら、Muscle Nerve、2012年、45巻(1号):55~9頁;Nelson, C.A.ら、Am J Pathol、2011年、178巻(6号):2611~21頁)。TGFβ1は、骨格筋内の筋線維、マクロファージ、制御性T細胞、線維芽細胞、および線維細胞によって発現され(Li, Y.ら、Am J Pathol、2004年、164巻(3号):1007~19頁;Lemos, D.R.ら、Nat Med、2015年、21巻(7号):786~94頁;Villalta, S.A.ら、Sci Transl Med、2014年、6巻(258号):258ra142;Wang, X.ら、J Immunol、2016年、197巻(12号):4750~4761頁)、発現は損傷の際におよび疾患で増大する(Li, Y.ら、Am J Pathol、2004年、164巻(3号):1007~19頁;Nelson, C.A.ら、Am J Pathol、2011年、178巻(6号):2611~21頁;Bernasconi, P.ら、J Clin Invest、1995年、96巻(2号):1137~44頁;Ishitobi, M.ら、Neuroreport、2000年、11巻(18号):4033~5頁)。mdx筋肉ではTGFβ2およびTGFβ3も、TGFβ1より程度は低いが、上方制御される(mRNAレベルで)(Nelson, C.A.ら、Am J Pathol、2011年、178巻(6号):2611~21頁;Zhou, L.ら、Neuromuscul Disord、2006年、16巻(1号):32~8頁)。Pessinaらは、最近、系列追跡実験を使用して、ジストロフィーの筋肉内の多数の起源の細胞がTGFβ依存性の経路を介して線維形成性の運命をたどる(Pessina, P.ら、Stem Cell Reports、2015年、4巻(6号):1046~60頁)。
【0256】
TGFβ1は、ヒト筋ジストロフィーに関係づけられている。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、ジストロフィンが存在しないことによって引き起こされる、重症、進行性であり、最終的に死に至る疾患である(Bushby, K.ら、Lancet Neurol、2010年、9巻(1号):77~93頁)。ジストロフィンの欠乏の結果、収縮誘導性損傷への感受性が増大し、それにより、継続的な筋肉変性が導かれる(Petrof, B.J.ら、Proc Natl Acad Sci U S A、1993年、90巻(8号):3710~4頁;Dellorusso, C.ら、J Muscle Res Cell Motil、2001年、22巻(5号):467~75頁;Pratt, S.J.ら、Cell Mol Life Sci、2015年、72巻(1号):153~64頁)。修復のラウンドの反復が慢性炎症、線維症、サテライト細胞プールの消耗、最終的な可動性の喪失および死亡に寄与する(Bushby, K.ら、Lancet Neurol、2010年、9巻(1号):77~93頁;McDonald, C.M.ら、Muscle Nerve、2013年、48巻(3号):343~56頁)。TGFβ1の発現はDMDの患者において有意に増大し、これらの患者において観察される線維症の程度と相関する(Bernasconi, P.ら、J Clin Invest、1995年、96巻(2号):1137~44頁;Chen, Y.W.ら、Neurology、2005年、65巻(6号):826~34頁)。過剰なECM沈着は筋肉の収縮特性に対して有害な影響を有し、筋線維が血液供給から隔離されるので栄養の利用が制限され得る(Klingler, W.ら、Acta Myol、2012年、31巻(3号):184~95頁)。最近、追加的なデータにより、TGFβ1がさらに筋ジストロフィーに関係づけられた。LTBP4の改変体は、マウスおよびヒトにおける疾患の重症度を調節することが見出されている。マウスでは、LTBP4の改変体はジストロフィンまたはγ-サルコグリカンを欠くマウスにおいて保護的である(Coley, W.D.ら、Hum Mol Genet、2016年、25巻(1号):130~45頁;Heydemann, A.ら、J Clin Invest、2009年、119巻(12号):3703~12頁)。ヒトでは、2つのグループが独立に、LTBP4の改変体がDMDにおいて保護的であり、歩行運動の喪失を数年遅延させることを同定した(Flanigan, K.M.ら、Ann Neurol、2013年、73巻(4号):481~8頁;van den Bergen, J.C.ら、J Neurol Neurosurg Psychiatry、2015年、86巻(10号):1060~5頁)。マウスおよびヒトにおいて遺伝学的改変体の性質は異なるが、どちらの種でも、保護的な改変体により、TGFβシグナル伝達の低下がもたらされる(Heydemann, A.ら、J Clin Invest、2009年、119巻(12号):3703~12頁);Ceco, E.ら、Sci Transl Med、2014年、6巻(259号):259ra144)。骨格筋生物学におけるTGFβ1の機能の多くは、精製された活性増殖因子を動物に注射するかまたは培養物中の細胞に添加する実験から推定されている(Massague, J.ら、Proc Natl Acad Sci U S A、1986年、83巻(21号):8206~10頁;Li, Y.ら、Am J Pathol、2004年、164巻(3号):1007~19頁;Mendias, C.L.ら、Muscle Nerve、2012年、45巻(1号):55~9頁)。TGFβ1の特定の機能に対する細胞の状況の重要性を考慮すると(例えば、Hinckら、Cold Spring Harb. Perspect. Biol、2016年、8巻(12号)を参照されたい)、これらの実験において観察される影響の一部はin vivoにおけるサイトカインの内在的役割(複数可)を反映しない可能性がある。例えば、ヒト皮膚線維芽細胞を組換えTGFβ1、ミオスタチン、またはGDF11で処置すると、in vivoにおけるこれらのタンパク質の役割はかなり異なるにもかかわらず、これらの細胞においてほぼ同一の遺伝子発現の変化がもたらされる(Tanner, J.W.、Khalil, A.、Hill, J.、Franti, M.、MacDonnell, S.M.、Growth Differentiation Factor 11 Potentiates Myofibroblast Activation、Fibrosis: From Basic Mechanisms to Targeted therapies.、2016年:Keystone, CO)。
【0257】
多数の研究者が、in vivoにおける増殖因子の役割を明らかにするためにTGFβの阻害剤を使用してきた。mdxマウスを汎TGFβ中和抗体1D11で処置することにより、線維症の低減(組織学およびヒドロキシプロリン含有量による)、筋傷害の低減(血清中クレアチンキナーゼの低減およびより大きな筋線維密度)、ならびに筋肉機能の改善(プレチスモグラフィ、単離されたEDL筋の力発生、および前肢握力の増大)が明白にもたらされる(Nelson, C.A.ら、Am J Pathol、2011年、178巻(6号):2611~21頁;Andreetta, F.ら、J Neuroimmunol、2006年、175巻(1~2号):77~86頁;Gumucio, J.P.ら、J Appl Physiol(1985年)、2013年、115巻(4号):539~45頁)。さらに、ドミナントネガティブTGFβII型受容体の筋線維特異的発現により、心臓毒損傷後に、およびδ-サルコグリカン-/-マウスにおいて筋傷害からの保護がなされる(Accornero, F.ら、Hum Mol Genet、2014年、23巻(25号):6903~15頁)。骨格筋において豊富であり、TGFβ活性を阻害するプロテオグリカンデコリンにより、mdxマウスにおける、および裂創損傷後の筋線維症が減少する(Li, Y.ら、Mol Ther、2007年、15巻(9号):1616~22頁;Gosselin, L.E.ら、Muscle Nerve、2004年、30巻(5号):645~53頁)。スラミン(抗腫瘍薬剤)およびロサルタン(アンジオテンシン受容体遮断薬)などの、TGFβ阻害活性を有する他の分子が、損傷、マルファン症候群、および筋ジストロフィーのマウスモデルにおける筋肉病態の改善および線維症の低減において有効であった(Spurney, C.F.ら、J Cardiovasc Pharmacol Ther、2011年、16巻(1号):87~95頁;Taniguti, A.P.ら、Muscle Nerve、2011年、43巻(1号):82~7頁;Bedair, H.S.ら、Am J Sports Med、2008年、36巻(8号):1548~54頁;Cohn, R.D.ら、Nat Med、2007年、13巻(2号):204~10頁)。上記の治療剤は全てTGFβ1またはそのシグナル伝達を阻害するものであるが、いずれもTGFβ1アイソフォームに特異的ではない。例えば、1D11は、TGFβ1、2、および3アイソフォームに結合し、それを阻害する(Dasch, J.R.ら、J Immunol、1989年、142巻(5号):1536~41頁)。スラミンは、TGFβ1に加えてPDGF、FGF、およびEGFを含めた多数の増殖因子のこれらの受容体に結合する能力を阻害する(Hosang, M.、J Cell Biochem、1985年、29巻(3号):265~73頁;Olivier, S.ら、Eur J Cancer、1990年、26巻(8号):867~71頁;Scher, H.I.およびW.D. Heston、Cancer Treat Res、1992年、59巻:131~51頁)。デコリンは、ミオスタチン活性も阻害し、これは、直接結合によるものであり、かつミオスタチン阻害物質であるフォリスタチンの上方制御を通じたものである(Miura, T.ら、Biochem Biophys Res Commun、2006年、340巻(2号):675~80頁;Brandan, E.、C. Cabello-Verrugio、およびC. Vial、Matrix Biol、2008年、27巻(8号):700~8頁;Zhu, J.ら、J Biol Chem、2007年、282巻(35号):25852~63頁)。ロサルタンは、IGF-1/AKT/mTOR経路を含めたレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系に対するその効果を通じて追加的なシグナル伝達経路に影響を及ぼす(Burks, T.N.ら、Sci Transl Med、2011年、3巻(82号):82ra37;Sabharwal, R.およびM.W. Chapleau、Exp Physiol、2014年、99巻(4号):627~31頁;McIntyre, M.ら、Pharmacol Ther、1997年、74巻(2号):181~94頁)。したがって、これらの療法は全て、これらの治療効果、ならびに毒性の一因となり得る追加的な分子を阻害するものである。
【0258】
TGFβの筋肉恒常性、修復、および再生における仮定される役割を考慮すると、TGFβ1シグナル伝達を選択的に調節する本明細書に記載のモノクローナル抗体などの薬剤は、慢性/遺伝学的筋ジストロフィーおよび急性筋肉損傷におけるなどの筋線維の傷害を現在までに開発されたより広範に作用するTGFβ阻害剤に伴う毒性を伴わずに処置するのに有効であり得る。
【0259】
したがって、本発明は、in vivoにおけるTGFβ作用の全てではなくサブセットを優先的に調節する薬剤を使用して筋線維の傷害を処置するための方法を提供する。そのような薬剤は、TGFβ1シグナル伝達を選択的に調節することができる(「アイソフォーム特異的調節」)。いくつかの実施形態では、そのような薬剤は、さらに、特定の状況にあるTGFβ1を選択的に調節することができる(「状況特異的調節」)。
【0260】
慢性筋疾患における筋線維修復
本発明は、DMD患者における筋肉の質および機能を、線維症を限定し、筋肉の形態および機能の標準化に寄与することによって改善するための方法を包含する。TGFβ1は筋形成も阻害するので、TGFβ1遮断により、ジストロフィーの筋肉の再生が促進される可能性があり、これにより、さらなる治療的利益が付加される。TGFβ1阻害剤は、Exondys 51(Eteplirsen)などのジストロフィン上方制御療法と組み合わせて使用され得る。筋ジストロフィーにおけるTGFβ1阻害の潜在的な治療的利益を考慮すると、(1)TGFβ1の役割(複数可)をTGFβ2およびTGFβ3の役割(複数可)と区別すること、ならびに(2)TGFβ1阻害が最も有益になる分子の状況(複数可)を明らかにすることが重要である。上記の通り、汎TGFβ阻害剤には著しい毒性が付随し、それにより、これらの化合物の臨床使用は限定されている(Anderton, M.J.ら、Toxicol Pathol、2011年、39巻(6号):916~24頁;Stauber, A.ら、Clinical Toxicology、2014年、4巻(3号):1~10頁)。TGFβアイソフォーム(複数可)のいずれによって毒性が引き起こされるかは不明である。記載されている毒性の一部は、免疫系におけるTGFβ1阻害に起因する可能性がある。例えば、1D11は、横隔膜における線維症のレベルを有意に低減するが、この処置はまた、筋肉におけるCD4+およびCD8+T細胞の数を増加させ、これは、長期間にわたる処置で有害になり得る、汎TGFβ阻害の際の炎症反応の増大を示唆するものである(Andreetta, F.ら、J Neuroimmunol、2006年、175巻(1~2巻):77~86頁)。実際に、筋肉からのT細胞の枯渇により、mdxマウスの筋肉病態が改善し、これにより、T細胞により媒介される炎症反応がジストロフィーの筋肉に対して有害であることが示唆される(Spencer, M.J.ら、Clin Immunol、2001年、98巻(2号):235~43頁)。1D11投与に際したT細胞数の増加は、制御性T(Treg)細胞に対するTGFβ1の影響に起因する可能性がある。Tregはこれらの細胞表面上にGARPを介してTGFβ1を提示し、この複合体からのTGFβ1の放出によりTreg抑制活性が増強され、したがって、T細胞媒介性炎症が限定される(Wang, R.ら、Mol Biol Cell、2012年、23巻(6号):1129~39頁;Edwards, J.P.、A.M. Thornton、およびE.M. Shevach、J Immunol、2014年、193巻(6号):2843~9頁;Nakamura, K.ら、J Immunol、2004年、172巻(2号):834~42頁;Nakamura, K.、A. Kitani、およびW. Strober、J Exp Med、2001年、194巻(5号):629~44頁)。実際に、PC61抗体を使用してTregを枯渇させるとmdxマウスの横隔膜における炎症および筋傷害が増大し、Tregの数および活性を強化することにより、筋傷害が低減する(Villalta, S.A.ら、Sci Transl Med、2014年、6巻(258号):258ra142)。興味深いことに、追加的な免疫抑制性T細胞の集団、Tr1細胞が最近同定された。これらの細胞は、これらの抑制活性に必要な大量のTGFβ3を産生する(Gagliani, N.ら、Nat Med、2013年、19巻(6号):739~46頁;Okamura, T.ら、Proc Natl Acad Sci U S A、2009年、106巻(33号):13974~9頁;Okamura, T.ら、Nat Commun、2015年、6巻:6329頁)。骨格筋におけるTr1細胞の役割は分かっていないが、1D11によるTGFβ1およびTGFβ3の両方の阻害には、TregおよびTr1細胞の両方の阻害による付加的な炎症促進効果がある可能性がある。
【0261】
TGFβ1潜在性および活性化に関する上記の構造的洞察から、TGFβ1の活性化を特異的に標的化する薬物を発見するための新規の手法が可能になる(Shi, M.ら、Nature、2011年、474巻(7351号):343~9頁)。3種の成熟TGFβ増殖因子の間で共有される高い程度の配列同一性は、潜在型複合体には共有されず、これにより、プロTGFβ1に非常に特異的な抗体の発見が可能になる。抗体発見のための所有権のある手法を使用して、本発明者らは、プロTGFβ1に特異的に結合する抗体(Ab1およびAb2)を同定した(
図18A)。in vitro共培養系を使用して、これらの抗体がTGFβ1のインテグリン媒介性放出を阻害することが実証された。この系では、ヒト皮膚またはマウス骨格筋由来の線維芽細胞が潜在型TGFβ1の供給源であり、これは、活性なTGFβ1の放出を可能にするαVβ6を発現する細胞株であり、活性なTGFβ1は、次いで、SMAD2/3応答性ルシフェラーゼレポーターを発現する第3の細胞株を使用して測定される(
図11A~C)。これらの抗体の1つ、Ab1は、in vivoにおいて試験されており、腎線維症のUUO(片側尿管閉塞)マウスモデルにおける効能が示されている。このモデルでは、マウス(n=10)を9mg/kg/週のAb1で処置することにより、TGFβ1応答性遺伝子の上方制御が防止され(
図15)、損傷後の線維症の程度が低減した(ピクロシリウスレッド染色による)(
図16)。TGFβ1特異的療法は、汎TGFβ阻害剤と比較して改善された効能および安全性プロファイルを有し得、これは、DMD集団において長期にわたって使用される治療薬に関して重大な側面である。TGFβ1阻害性抗体は、特異的なTGFβ1阻害がDMDまたは他の筋疾患に対する治療薬としての潜在性を有するかどうかを決定するため、および骨格筋再生におけるTGFβ1の役割を明らかにするために使用され得る。
【0262】
慢性筋線維損傷 対 急性筋線維損傷および最適な治療薬の選択
急性損傷後の正常であるが再生中の筋肉(例えば、他の点では健康な筋肉または運動ニューロンへの外傷性損傷など)では、傷害を受けた組織を取り除くため、およびサテライト細胞活性化に必要な因子(例えば、サイトカイン)を分泌させるためには、最初に炎症性マクロファージが浸潤することが必要であると考えられている。その後、これらの細胞はM2表現型に切り替わって創傷の消散を駆動する。
【0263】
対照的に、DMDを含めた疾患などの慢性の状態では、炎症促進性マクロファージが常に優勢であり、M2への切り替えは全く(または少なくとも十分に効率的には)起こらず、炎症促進性マクロファージにより炎症および筋傷害が駆動され続ける。DMDでは、NFkB経路が永久的に活性であり、その結果、構成的な炎症が生じる。したがって、いくつかの実施形態では、慢性炎症を低減させるためにNFkB阻害剤をDMD患者に投与することができる。
【0264】
したがって、DMDなどの慢性の状態では、治療上の焦点は、筋肉再生とは対照的に筋肉修復に当てられ得る。これは、DMD筋線維に欠陥があるが、破壊されてはいないこと-DMD筋線維が膜の裂傷、カルシウムトランジェントの制御不全、およびマクロファージからのROS傷害による傷害を受けているからである。比較すると、健康な筋肉への損傷の場合、治療上の焦点は再生に当てられ得る。例えば、心臓毒モデルでは、筋線維は死滅し、再生させる必要がある。これは、挫滅創などの外傷性損傷後のプロセスをシミュレートするものである。
【0265】
証拠から、LRRC33がM2様表現型(アルギナーゼを高レベルで発現し、iNOSを発現せず、CD206を高レベルで発現することを特徴とする)を有するチオグリコール酸誘導性腹膜マクロファージにおいて発現することが示唆される。
【0266】
LRRC33が主にM2細胞上に発現する場面、およびTGFβ1の提示(「状況」)がこれらの細胞の創傷治癒促進効果に重要である場面では、LRRC33に媒介されるTGFβ1を活性化して、修復および/または筋形成を促進することが有益であり得る。他方では、LRRC33が炎症促進性M1細胞上にも発現する場面では、特にDMDなどのジストロフィーの場合では炎症により線維症が駆動されることを考慮して、LRRC33に媒介されるTGFβ1阻害することが有益であり得る。したがって、疾患に関連するTGFβ1の供給源/状況を同定することは、どのレベルの選択性を検討すべきか(例えば、アイソフォーム特異的、状況許容的TGFβ1モジュレーター、または、状況特異的TGFβ1モジュレーター;TGFβ1阻害剤または活性化因子など)を伝える、TGFβシグナル伝達の適切なモジュレーターの選択における重要なステップであり得る。
【0267】
慢性炎症以外のDMDの特質は、過剰かつ進行性の線維症である。進行疾患では、線維症は、実際に個々の筋線維がこれらの血液供給から隔離される可能性があるほどに重症である。線維症はまた、筋肉の収縮特性も変化させる。ヒト患者では、TGFβ1上方制御の程度と線維症の間に強力な相関があり、また、線維症の程度と負の可動性転帰の間に強力な関連性がある。したがって、いくつかの実施形態では、LTBP-プロTGFβ1阻害剤を、線維症の防止および/または低減のために、疾患におけるECMと会合したTGFβ1作用を選択的に標的化するためにジストロフィー患者に投与することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の種々のアイソフォーム選択的薬剤および/または状況選択的薬剤は、線維症を防止し、筋形成を促進するが、免疫系に対しては望ましくない影響を及ぼさないように、TGFβ1の阻害シグナル伝達を達成するため(例えば、GARPまたはLRRC33を通じて)に使用され得る。
【0268】
処置
本明細書に開示されている方法を実施するために、上記の医薬組成物の有効量を、処置を必要とする被験体(例えば、ヒト)に静脈内投与、例えばボーラスとしてまたは一定期間にわたる持続注入によって、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑液包内、髄腔内、経口、吸入または局所経路によって、などの好適な経路を介して投与することができる。ジェット噴霧器および超音波噴霧器を含めた、液体製剤のための商業的に入手できる噴霧器が投与に有用である。液体製剤は、直接噴霧されてよく、凍結乾燥粉末は再構成後に噴霧され得る。代替的に、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分は、フルオロカーボン製剤および定量吸入器を使用してエアロゾル化されてよく、または凍結乾燥され破砕された粉末として吸入されてよい。
【0269】
本明細書に記載の方法によって処置される被験体は、哺乳動物、より好ましくはヒトであり得る。哺乳動物は、これらに限定されないが、家畜、競技動物、愛玩動物、霊長類、ウマ、イヌ、ネコ、マウスおよびラットを含む。処置を必要とするヒト被験体は、上記のものなどのTGFβ関連適応症を有する、そのリスクがある、またはそれを有する疑いがあるヒト患者であり得る。TGFβ関連適応症を有する被験体は、日常的な医学的検査、例えば、臨床検査、臓器機能検査、CTスキャン、または超音波によって同定することができる。そのような適応症のいずれかを有する疑いがある被験体は、適応症の1つまたは複数の症状を示し得る。適応症のリスクがある被験体は、その適応症に関する危険因子の1つまたは複数を有する被験体であり得る。
【0270】
本明細書で使用される場合、用語「有効量」および「有効用量」は、その意図された目的(複数可)、すなわち、組織または被験体において、許容されるベネフィット/リスク比で所望の生物学的反応または医学的な反応を満たすために十分な、化合物または組成物の任意の量または用量を指す。例えば、本発明のある特定の実施形態では、意図された目的は、in vivoでTGFβ-1活性化を阻害してTGFβ-1阻害に関連する臨床的に意味がある転帰を達成することであり得る。当業者によって認識されるとおり、有効量は、処置される特定の状態、状態の重症度、年齢、身体状態、サイズ、性別および体重を含む個々の患者パラメータ、処置の期間、同時に行われている治療(ある場合)の性質、投与の特定の経路ならびに医療関係者の知識および専門的意見内の同様の要因などに応じて変化する。これらの要因は当業者に周知であり、日常的な実験程度で対処され得る。個々の構成成分またはその組み合わせの最大用量、すなわち正当な医学的判断による最高安全用量が使用されることは一般に好ましい。しかし患者が医学的根拠、心理的理由のためにまたは事実上任意の他の理由のためにより低い用量または許容できる用量を主張できることは、当業者によって理解される。
【0271】
半減期などの経験的検討事項は、一般に投薬量の決定に寄与する。例えば、ヒト化抗体または完全ヒト抗体などのヒト免疫系に適合性である抗体は、抗体の半減期を延長し、かつ宿主の免疫系によって抗体が攻撃されることを防ぐために使用されてよい。投与の頻度は、治療の経過にわたって決定および調整されてよく、一般に、必ずではないが、TGFβ関連適応症の処置および/または抑制および/または好転(amelioration)および/または遅延に基づく。代替的に、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体の持続した継続放出製剤も適切である場合がある。徐放を達成するための種々の製剤およびデバイスは、当業者に明らかであり、本開示の範囲内である。
【0272】
一例では、本明細書に記載のGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体についての投薬量は、抗体の1回または複数回の投与を与えられた個体において経験的に決定され得る。個体は、漸増する投薬量のアンタゴニストを与えられる。効能を評価するために、TGFβ関連適応症の指標が追跡されてよい。例えば、筋線維傷害、筋線維修復、筋肉における炎症レベル、および/または筋肉における線維症レベルを測定するための方法は、当業者に周知である。
【0273】
本発明は、TGFβの活性化ステップをアイソフォーム特異的に調節することができる薬剤が、医薬として使用した場合に改善された安全性プロファイルをもたらすという認識を包含する。したがって、本発明は、TGFβ1に特異的に結合し、その活性化を阻害するが、TGFβ2またはTGFβ3には結合せず、それにより、in vivoにおけるTGFβ1シグナル伝達の特異的阻害を付与しながら、TGFβ2および/またはTGFβ3シグナル伝達が影響を受けることに起因する望ましくない副作用は最小化する、抗体およびその抗原結合性断片を含む。
【0274】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分は、被験体に投与された場合に毒性ではない。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分は、被験体に投与された場合に、TGFβ1およびTGFβ2の両方に特異的に結合する抗体と比較して低減した毒性を示す。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分は、被験体に投与された場合に、TGFβ1およびTGFβ3の両方に特異的に結合する抗体と比較して低減した毒性を示す。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分は、被験体に投与された場合に、TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3に特異的に結合する抗体と比較して低減した毒性を示す。
【0275】
一般に、本明細書に記載の抗体のいずれの投与についても、初回の候補投薬量は約2mg/kgであってよい。本開示の目的のため、典型的な毎日投薬量は、上述の因子に応じて約0.1μg/kg~3μg/kg~30μg/kg~300μg/kg~3mg/kg~30mg/kg~100mg/kgまたはそれよりも多くのいずれかの範囲でよい。数日間またはそれよりも長い期間にわたる繰り返し投与のためには、状態に応じて、所望の症状の抑制が起こるまで、あるいはTGFβ関連適応症またはその症状を緩和するために十分な治療レベルが達成されるまで、処置を持続する。例示的な投与レジメンは、約2mg/kgの初回用量、続いて毎週の抗体の約1mg/kgの維持用量、または続いて1週おきの約1mg/kgの維持用量の投与を含む。しかし、臨床医が達成したい薬物動態学的減衰のパターンに応じて他の投与レジメンも有用であり得る。例えば、週1~4回の投与が意図される。いくつかの実施形態では、約3μg/mg~約2mg/kgの範囲(例えば、約3μg/mg、約10μg/mg、約30μg/mg、約100μg/mg、約300μg/mg、約1mg/kg、および約2mg/kgなど)の投与が使用されてよい。薬物動態実験により、本明細書に開示されている抗体(例えば、Ab2)の血清中濃度が、前臨床動物モデル(例えば、マウスモデル)への投与後、少なくとも7日間安定したままであることが示されている。いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、抗体が投与される被験体(例えば、ヒト被験体)において臨床的に有効な血清中濃度を維持しながら抗体をより少ない頻度で投与することができるので、この投与後の安定性は有利であり得る。いくつかの実施形態では、投与頻度は、毎週、2週ごと、4週ごと、5週ごと、6週ごと、7週ごと、8週ごと9週ごと、もしくは10週ごとに1回、または毎月、2か月ごと、3か月ごと、またはそれよりも長い期間に1回である。この治療の進行は従来の技術およびアッセイによって容易にモニターすることができる。投与レジメン(用いられる抗体を含む)は時間をわたって変動し得る。
【0276】
いくつかの実施形態では正常体重の成人患者について、約0.3から5.00mg/kgの範囲の用量が投与され得る。特定の投与レジメン、例えば用量、タイミングおよび反復は、特定の個体およびその個体の医療歴および個々の薬剤の特性(薬剤の半減期および他の関連する検討事項など)に依存する。
【0277】
本開示の目的のために、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体の適切な投薬量は、用いられる特異的抗体(またはその組成物)、適応症の種類および重症度、抗体が予防目的または治療目的で投与されるか、以前の治療、患者の病歴およびアンタゴニストへの応答、ならびに主治医の判断に依存する。いくつかの実施形態では、望ましい結果を達成する投薬量に到達するまで、臨床医は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体を投与する。GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体の投与は、投与の目的が治療的または予防的であるかにかかわらず、例えばレシピエントの生理学的状態、および熟練した医師に公知である他の要因に応じて連続的または間欠的であってよい。GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体の投与は、予め選択した期間にわたって本質的に連続的であっても、または間隔をあけた一連の用量、例えばTGFβ関連適応症が発症する前、その間またはその後のいずれかであってもよい。
【0278】
本明細書で使用される場合、用語「処置する」は、TGFβ関連適応症、適応症の症状、または適応症に対する素因を有する被験体への、その適応症、その適応症の症状、またはその適応症に対する素因を治癒する(cure)、治す(heal)、緩和する、軽減する、変える、治療する(remedy)、好転させる、改善する、または影響を与えることを目的とした、1つまたは複数の活性剤を含む組成物の適用または投与を指す。
【0279】
GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体を用いてTGFβ関連適応症を緩和することは、適応症の発生もしくは進行を遅らせること、または適応症の重症度を低減することを含む。適応症を緩和することは、必ずしも治癒的結果を要求しない。本明細書で使用する場合、TGFβ関連適応症の発症を「遅らせること」は、適応症の進行を遅らせる(defer)、妨げる(hinder)、遅くする(slow)、遅らせる(retard)、安定化するおよび/または先に延ばす(postpone)ことを意味する。この遅らせることは、適応症の病歴および/または処置される個体に応じて様々な時間の長さであってよい。適応症の発症を「遅らせる」もしくは緩和する、または適応症の発病(onset)を遅らせる方法は、方法を使用しない場合と比較して所与の時間枠において適応症の1つもしくは複数の症状の発症の可能性を低減するおよび/または所与の時間枠において症状の程度を低減する方法である。そのような比較は、統計的に有意な結果をもたらすのに十分な数人の被験体を使用する臨床研究に典型的には基づく。
【0280】
DBA2/Jマウスは、LTBP4アレルに40bpの欠失を有する。潜在型TGFb1が会合するECMの制御不全により、Ab1が結合するエピトープが露出し得る。Ab1が結合するエピトープが露出した疾患が存在する可能性があり、これらの疾患は、TGFb1阻害が適応である場合、Ab1のための治療的機会であり得る。
【0281】
併用療法
本開示は、in vivoでのTGFβ阻害が有益である可能性がある被験体を処置するための併用療法として使用される医薬組成物および関連する方法を包含する。これらの実施形態のいずれにおいても、そのような被験体は、少なくとも1つのTGFβ阻害剤、例えば、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性部分を含む第1の組成物と、同じまたは重複する疾患または臨床的状態の処置を目的とする少なくとも1つのさらなる治療薬を含む第2の組成物とを併せて含む併用療法を受けることができる。第1の組成物および第2の組成物は、どちらも同じ細胞標的に作用するものであってもよく、別個の細胞標的に作用するものであってもよい。いくつかの実施形態では、第1の組成物および第2の組成物により、疾患または臨床的状態の症状または外観(aspect)の同じまたは重複するセットを処置または緩和することができる。いくつかの実施形態では、第1の組成物および第2の組成物により、疾患または臨床的状態の症状または外観の別々のセットを処置または緩和することができる。一例を挙げると、第1の組成物によりTGFβシグナル伝達に関連する疾患または状態を処置することができ、第2の組成物により同じ疾患に関連する炎症または線維症を処置することができる、などである。そのような併用療法は、互いと併せて投与することができる。句「と併せて」とは、併用療法に関しては、併用療法を受けている被験体において第1の治療の治療効果が第2の治療の治療効果と一時的におよび/または空間的に重複することを意味する。したがって、併用療法は、同時投与用の単一の製剤として製剤化されてもよく、療法の逐次的投与用の別々の製剤として製剤化されてもよい。
【0282】
好ましい実施形態では、併用療法により、疾患の処置において相乗効果が生じる。「相乗的」という用語は、各単独療法を総計した相加効果よりも大きな効果(例えば、より大きな効能)を指す。
【0283】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の医薬組成物を含む併用療法により、別の療法(例えば、第2の薬剤の単独療法など)によって生じる効能と全体的に同等の効能が生じるが、第2の薬剤の単独療法と比較して、第2の薬剤に付随する望ましくない有害作用がより少なくなるまたは毒性の重症度がより低くなる。いくつかの実施形態では、そのような併用療法により、第2の薬剤の投薬量をより少なくし、しかし全体的な効能を維持することが可能になる。そのような併用療法は、長期間にわたる処置が保証されているおよび/または小児患者を伴う患者集団に特に好適であり得る。
【0284】
したがって、本発明は、TGFβ1タンパク質活性化を低減させるため、および本明細書に記載のTGFβ1シグナル伝達に関連する疾患または状態を処置または防止するための併用療法に使用するための医薬組成物および方法を提供する。したがって、方法または医薬組成物は、第2の治療をさらに含む。いくつかの実施形態では、第2の治療は、TGFβ1シグナル伝達に関連する疾患または状態の処置または防止において有用であり得る。第2の治療は、標的化された疾患に関連する少なくとも1つの症状(複数可)を減弱または処置することができる。第1の治療と第2の治療はこれらの生物学的効果を同様の作用機構によってもしくは無関係の作用機構によって発揮し得る、または第1の治療と第2の治療の一方もしくは両方がこれらの生物学的効果を多数の作用機構によって発揮し得る。
【0285】
本明細書に記載の医薬組成物は、記載されている実施形態のそれぞれについて第1の治療と第2の治療を同じ薬学的に許容される担体中に、または異なる薬学的に許容される担体中に有してもよいことが理解されるべきである。第1の治療および第2の治療は、記載されている実施形態の範囲内で同時にまたは逐次的に投与され得ることがさらに理解されるべきである。
【0286】
本発明の1つまたは複数の抗TGFβ抗体またはその抗原結合性部分は、追加的な治療剤の1つまたは複数と組み合わせて使用され得る。本発明の抗TGFβ抗体と共に使用され得る追加的な治療剤の例は、これらに限定されないが、ミオスタチン阻害剤、VEGFアゴニスト、IGF1アゴニスト、FXRアゴニスト、CCR2阻害剤、CCR5阻害剤、二重CCR2/CCR5阻害剤、リシルオキシダーゼ様-2阻害剤、ASK1阻害剤、アセチル-CoAカルボキシラーゼ(ACC)阻害剤、p38キナーゼ阻害剤、ピルフェニドン、ニンテダニブ、GDF11阻害剤などを含む。
【0287】
いくつかの実施形態では、追加的な薬剤は、チェックポイント阻害剤である。いくつかの実施形態では、追加的な薬剤は、PD-1アンタゴニスト、PDL1アンタゴニスト、PD-L1またはPDL2融合タンパク質、CTLA4アンタゴニスト、GITRアゴニスト、抗ICOS抗体、抗ICOSL抗体、抗B7H3抗体、抗B7H4抗体、抗TIM3抗体、抗LAG3抗体、抗OX40抗体、抗CD27抗体、抗CD70抗体、抗CD47抗体、抗41BB抗体、抗PD-1抗体、腫瘍溶解性ウイルス、およびPARP阻害剤からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、追加的な治療は、放射線である。いくつかの実施形態では、追加的な薬剤は化学療法剤である。いくつかの実施形態では、化学療法剤はタキソールである。いくつかの実施形態では、追加的な薬剤は抗炎症剤である。いくつかの実施形態では、追加的な薬剤は、単球/マクロファージ動員および/または組織浸潤のプロセスを阻害する。いくつかの実施形態では、追加的な薬剤は、肝星細胞活性化の阻害剤である。いくつかの実施形態では、追加的な薬剤は、ケモカイン受容体アンタゴニスト、例えば、CCR2アンタゴニストおよびCCR5アンタゴニストである。いくつかの実施形態では、そのようなケモカイン受容体アンタゴニストは、CCR2/CCR5アンタゴニストなどの二重特異性アンタゴニストである。いくつかの実施形態では、併用療法として投与される追加的な薬剤は、増殖因子のTGFβスーパーファミリーのメンバーまたはその制御因子であるまたはそれを含む。いくつかの実施形態では、そのような薬剤は、GDF8/ミオスタチンおよびGDF11のモジュレーター(例えば、阻害剤および活性化因子)から選択される。いくつかの実施形態では、そのような薬剤は、GDF8/ミオスタチンシグナル伝達の阻害剤である。いくつかの実施形態では、そのような薬剤は、プロ/潜在型ミオスタチン複合体に特異的に結合し、ミオスタチンの活性化を遮断するモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、プロ/潜在型ミオスタチン複合体に特異的に結合し、ミオスタチンの活性化を遮断するモノクローナル抗体は、遊離の成熟ミオスタチンには結合しない。
【0288】
そのような併用療法では、投与される治療剤をより少ない投薬量で有利に利用し、したがって、種々の単独療法に関連する可能性のある毒性または合併症を回避することができる。
【0289】
TGFβ活性の調節
本開示の方法は、1つまたは複数の生物系において増殖因子活性を調節する方法を含む。そのような方法は、1つまたは複数の生物系を本開示の抗体および/または組成物に接触させることを含み得る。一部の場合では、これらの方法は、生物系における(例えば、細胞ニッチまたは被験体における)遊離の増殖因子のレベルを調節するステップを含む。そのような方法による抗体および/または組成物は、これらに限定されないが、本明細書に記載の組換えタンパク質、タンパク質複合体および/または抗体もしくはその抗原結合性部分を含めた生体分子を含んでよいが、これらに限定されない。
【0290】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、本明細書では「阻害方法」と称される、増殖因子活性の低減または排除に使用され得る。そのような方法のいくつかは、TGFβ複合体における成熟増殖因子の保持(例えば、GARP、LTBP1、LTBP3および/またはLRRC33と複合体を形成したTGFβ1)および/または増殖因子のTGFβ複合体への再会合の促進を含み得る。一部の場合では、阻害方法は、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体の使用を含み得る。いくつかの阻害方法によると、1つまたは複数の阻害抗体が提供される。
【0291】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体、その抗原結合性部分、および組成物は、TGFβ1活性化を阻害するために使用され得る。いくつかの実施形態では、TGFβ1活性化を阻害するための方法であって、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体を本明細書に記載の抗体、その抗原結合性部分、または医薬組成物に曝露させるステップを含む方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、抗体、その抗原結合性部分、または医薬組成物が、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体からの成熟TGFβ1の放出を阻害する。いくつかの実施形態では、方法はin vitroで実施される。いくつかの実施形態では、方法はin vivoで実施される。いくつかの実施形態では、方法はex vivoで実施される。
【0292】
いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、またはLRRC33-TGFβ1複合体は、細胞の外表面に存在する。いくつかの実施形態では、細胞は、T細胞、線維芽細胞、マクロファージ、単球、またはミクログリアである。
【0293】
いくつかの実施形態では、LRRC33-TGFβ1複合体は、線維化促進性(M2様)マクロファージの外表面に存在する。いくつかの実施形態では、線維化促進性(M2様)マクロファージは線維化微小環境に存在する。いくつかの実施形態では、線維化促進性(M2様)マクロファージの外表面のLRRC33-TGFβ1複合体を標的化することにより、LTBP1-TGFβ1および/またはLTBP1-TGFβ1複合体を単に標的化することと比較して優れた効果がもたらされる。
【0294】
いくつかの実施形態では、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体は、細胞外マトリクスに結合している。いくつかの実施形態では、細胞外マトリクスは、フィブリリンを含む。いくつかの実施形態では、細胞外マトリクスは、RGDモチーフを含むタンパク質を含む。
【0295】
いくつかの実施形態では、被験体におけるTGFβ1タンパク質活性化を低減させるための方法であって、本明細書に記載の抗体、その抗原結合性部分、または医薬組成物を被験体に投与し、それにより、被験体におけるTGFβ1タンパク質活性化を低減させることを含む方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、被験体は、線維症を有するかまたは有するリスクがある。いくつかの実施形態では、被験体は、がんを有するかまたは有するリスクがある。いくつかの実施形態では、被験体は、認知症を有するかまたは有するリスクがある。
【0296】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体、またはその抗原結合性部分により、制御性T細胞(Treg)の抑制活性が低減する。
【0297】
TGFβ関連適応症に関連する疾患/障害の緩和に使用するためのキット
本開示は、TGFβ関連適応症に関連する疾患/障害の緩和に使用するためのキットも提供する。そのようなキットは、GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分、例えば、本明細書に記載のもののいずれかを含む1つまたは複数の容器を含んでよい。
【0298】
いくつかの実施形態では、キットは、本明細書に記載の方法のいずれかによる使用のための指示を含んでよい。含まれる指示は、本明細書に記載の標的疾患を処置する、発病を遅延させるまたは緩和するためのGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分の投与の記載を含み得る。キットは、個体が標的疾患を有するかどうかを同定することに基づいて処置に好適な個体を選択する記載をさらに含み得る。さらに他の実施形態では、指示は、標的疾患のリスクがある個体に抗体またはその抗原結合性部分を投与する記載を含む。
【0299】
GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分の使用に関する指示は、一般に意図される処置のための投薬量、投与スケジュールおよび投与の経路についての情報を含む。容器は、単位用量、バルクパッケージ(例えば、複数用量パッケージ)または部分単位用量であってよい。本開示のキット中に供給される指示は、典型的にはラベルまたはパッケージ挿入物(例えばキットに含まれる紙のシート)上の書面での指示であるが、機械で読み出し可能な指示(例えば磁気または光学保存ディスク上に書き込まれた指示)も許容される。
【0300】
ラベルまたはパッケージ挿入物は組成物がTGFβ関連適応症に関連する疾患または障害を処置する、発病を遅らせるおよび/または緩和するために使用されることを示す。指示は、本明細書に記載の方法のいずれかを実施するために提供されてよい。
【0301】
本開示のキットは、好適なパッケージ中にある。好適なパッケージは、これらに限定されないが、バイアル、ビン、ジャー、可撓性パッケージ(例えばシールされたマイラーまたはプラスチックバッグ)などを含む。吸入器、鼻投与デバイス(例えばアトマイザー)またはミニポンプなどの注入デバイスなどの特定のデバイスとの組み合わせでの使用のためのパッケージも検討される。キットは、無菌アクセスポートを有してよい(例えば容器は皮下注射針によって貫通できるストッパーを有する静脈内用溶液バッグまたはバイアルであってよい)。容器も無菌アクセスポートを有してよい(例えば容器は皮下注射針によって貫通できるストッパーを有する静脈内用溶液バッグまたはバイアルであってよい)。組成物中の少なくとも1つの活性剤は、本明細書に記載のGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性部分である。
【0302】
任意選択でキットは、緩衝剤および解釈の情報などの追加的構成成分を提供できる。通常キットは、容器および、容器上にまたは容器に付随してラベルまたはパッケージ挿入物(複数可)を含む。いくつかの実施形態では本開示は、上に記載のキットの内容物を含む製造品を提供する。
【0303】
GARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体を検出するためのアッセイ
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される方法および組成物は、被験体から得られた試料中のGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体を検出するための方法に関する。本明細書で使用される場合、「被験体」は、個々の生物、例えば、個々の哺乳動物を指す。いくつかの実施形態では、被験体はヒトである。いくつかの実施形態では、被験体は非ヒト哺乳動物である。いくつかの実施形態では、被験体は非ヒト霊長類である。いくつかの実施形態では、被験体はげっ歯類である。いくつかの実施形態では、被験体はヒツジ、ヤギ、ウシ、家禽、ネコ、またはイヌである。いくつかの実施形態では、被験体は、脊椎動物、両生類、爬虫類、魚類、昆虫、ハエまたは線虫である。いくつかの実施形態では、被験体は実験動物である。いくつかの実施形態では、被験体は遺伝子操作されており、例えば遺伝子操作された非ヒト被験体である。被験体は、いずれの性で任意の発達段階にあってよい。いくつかの実施形態では、被験体は患者または健康なボランティアである。
【0304】
いくつかの実施形態では、被験体から得られた試料中のGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体を検出するための方法は、(a)抗原が試料中に存在する場合、抗体の抗原への結合に好適な条件下で試料をGARP-TGFβ1複合体、LTBP1-TGFβ1複合体、LTBP3-TGFβ1複合体、および/またはLRRC33-TGFβ1複合体に特異的に結合する抗体と接触させ、それにより結合複合体を形成するステップ、および(b)抗原に結合した抗体のレベルを決定するステップ(例えば結合複合体のレベルを決定するステップ)を含む。
【0305】
一実施形態では、係留を提供することによって潜在型TGFβのインテグリンによる活性化を可能にする、表面上に固定化されたビオチン化潜在型TGFβ1複合体を利用するスクリーニングアッセイ。他に、非インテグリン活性化因子をその系において試験することもできる。読み出しは、レポーター細胞または他のTGFβ依存性の細胞応答を通じたものであってよい。
【0306】
TGFβ活性化を測定するための細胞に基づくアッセイ
TGFβの活性化(および、抗体などのTGFβ試験阻害剤によるその阻害)は当技術分野で公知の任意の好適な方法によって測定され得る。例えば、TGFβのインテグリン媒介性活性化を本明細書により詳細に記載されている「CAGA12」ルシフェラーゼアッセイなどの細胞に基づくアッセイにおいて利用することができる。そのようなアッセイの例示的な実施形態を例示目的で
図11Cに示す。示されている通り、そのようなアッセイ系は、以下の構成成分:i)TGFβの供給源(組換え、内在性またはトランスフェクトされたもの);ii)インテグリンの供給源(組換え、内在性またはトランスフェクトされたもの);およびiii)TGFβに応答し、シグナルを読み取り可能な出力(例えば、CAGA12細胞または他のレポーター細胞株におけるルシフェラーゼ活性)に変えることができるTGFβ受容体を発現する細胞などの、TGFβ活性化に応答するレポーター系を含み得る。いくつかの実施形態では、レポーター細胞株は、TGFβ応答性プロモーター(例えば、PAI-1プロモーター)の制御下にあるレポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ遺伝子)を含む。いくつかの実施形態では、感度を付与するある特定のプロモーターエレメントをレポーター系に組み入れることができる。いくつかの実施形態では、そのようなプロモーターエレメントはCAGA12エレメントである。アッセイに使用することができるレポーター細胞株は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるAbeら(1994年)Anal Biochem.、216巻(2号):276~84頁に記載されている。いくつかの実施形態では、上述のアッセイの構成成分のそれぞれは同じ供給源(例えば、同じ細胞)から提供される。いくつかの実施形態では、上述のアッセイの構成成分のうちの2つが同じ供給源から提供され、第3のアッセイの構成成分は異なる供給源から供給される。いくつかの実施形態では、3つのアッセイの構成成分は全て異なる供給源から供給される。例えば、いくつかの実施形態では、インテグリンと潜在型TGFβ複合体(プロTGFβおよび提示分子)は、同じ供給源(例えば、同じトランスフェクトされた細胞株)からアッセイのために提供される。いくつかの実施形態では、インテグリンとTGFは、別々の供給源(例えば、2つの異なる細胞株、精製されたインテグリンとトランスフェクトされた細胞の組み合わせ)からアッセイのために提供される。細胞がアッセイの構成成分の1つまたは複数の供給源として使用される場合、そのようなアッセイの構成成分は、細胞に対して内在性のもの、細胞において安定に発現するもの、一過性にトランスフェクトされたもの、またはこれらの任意の組み合わせであってよい。本明細書に開示されている抗体Ab1およびAb2を使用したGARP-プロTGFβ1複合体またはLRRC33-プロTGFβ1複合体のいずれかの阻害が実証されたTGFβ活性化を測定するための細胞に基づくアッセイの非限定的な例示的な実施形態からの結果をそれぞれ
図22Aおよび
図22Bに示す。この例示的なアッセイでは、GARP-TGFβ1複合体に対するAb1のIC50(μg/mL)は0.445であり、およびLRRC33-TGFβ1複合体に対するAb1のIC50(μg/mL)は1.325であった。
【0307】
当業者は、そのようなアッセイを種々の好適な構成に容易に適合させることができる。例えば、TGFβの種々の供給源を検討することができる。いくつかの実施形態では、TGFβの供給源は、TGFβが発現し、それが沈着する細胞(例えば、初代細胞、繁殖細胞、不死化細胞または細胞株など)である。いくつかの実施形態では、好適な手段を使用したアッセイ系においてTGFβの供給源が精製され、かつ/または組換えTGFβが固定化される。いくつかの実施形態では、アッセイ系において固定化されたTGFβは、アッセイプレート上の細胞外マトリクス(ECM)組成物中に、脱細胞化(de-cellularization)を伴ってまたは伴わずに存在し、線維芽細胞起源のTGFβを模倣する。いくつかの実施形態では、TGFβは、アッセイに使用される細胞の細胞表面上に存在する。さらに、好適な潜在型TGFβ複合体を提供するために、選択された提示分子をアッセイ系に含めることができる。当業者は、どの提示分子(複数可)がある特定の細胞または細胞型において存在し得るまたは発現され得るかを容易に決定することができる。そのようなアッセイ系を使用して、試験薬剤(例えば抗体など)の存在下または非存在下でのTGFβ活性化の相対的変化を容易に測定して、in vitroにおける試験薬剤のTGFβ活性化に対する効果を評価することができる。例示的な細胞に基づくアッセイからのデータを下の実施例の節に提示する。
【0308】
そのような細胞に基づくアッセイは、試験されるTGFβアイソフォーム、潜在型複合体の型(例えば、提示分子)などに応じて、いくつものやり方で改変または調整され得る。いくつかの実施形態では、TGFβを活性化することができるインテグリンを発現することが分かっている細胞をアッセイにおけるインテグリンの供給源として使用することができる。そのような細胞は、SW480/β6細胞(例えば、クローン1E7)を含む。いくつかの実施形態では、インテグリン発現細胞に、目的の提示分子(例えばGARP、LRRC33、LTBP(例えば、LTBP1またはLTBP3)など)をコードするプラスミドと目的のTGFβアイソフォームのプロ形態(例えばプロTGFβ1など)をコードするプラスミドを同時トランスフェクトすることができる。トランスフェクション後、細胞を、トランスフェクトされた遺伝子の発現が可能になるのに十分な時間にわたって(例えば、約24時間)インキュベートし、細胞を洗浄し、試験薬剤(例えば、抗体)の段階希釈物と一緒にインキュベートする。次いで、レポーター細胞株(例えば、CAGA12細胞)をアッセイ系に添加し、その後、適切な時間インキュベートしてTGFβシグナル伝達を可能にする。試験薬剤を添加した後のインキュベーション期間(例えば、約18~20時間)後、シグナル/読み出し(例えば、ルシフェラーゼ活性)を好適な手段を使用して検出する(例えば、ルシフェラーゼを発現するレポーター細胞株に関しては、Bright-Glo試薬(Promega)を使用することができる)。いくつかの実施形態では、ルシフェラーゼ蛍光は、BioTek(Synergy H1)プレートリーダーをオートゲイン設定で使用して検出され得る。
【0309】
核酸
いくつかの実施形態では、本開示の抗体、その抗原結合性部分、および/または組成物は、核酸分子によりコードされ得る。そのような核酸分子は、限定することなく、DNA分子、RNA分子、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、mRNA分子、ベクター、プラスミドなどを含む。いくつかの実施形態では、本開示は、本開示の化合物および/または組成物をコードする核酸分子を発現するようにプログラミングまたは生成された細胞を含み得る。一部の場合では、本開示の核酸は、コドン最適化された核酸を含む。コドン最適化された核酸を生成する方法は当技術分野で公知であり、これらに限定されないが、それぞれの内容全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,786,464号および同第6,114,148号に記載されているものを含み得る。
【0310】
本発明は、いかなる形でも限定されるものではない以下の実施例によってさらに例示される。本出願全体を通して引用されている全ての参考文献、特許および公開特許出願の全内容、ならびに図面は、これにより参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例0311】
(実施例1:TGFβ1の阻害)
TGFβスーパーファミリーは、活性増殖因子と複合体を形成したプロペプチドを含む(
図1)。複合体を安定化する抗体を得て、その結果、より選択的かつ強力な阻害をもたらすための選択戦略を開発した。
【0312】
HEK293に基づく発現系を使用して、NiNTA親和性およびゲル濾過を実施して数ミリグラム量の精製タンパク質を得て、それを使用して、LTBPと複合体を形成したTGFβ1(LTBP-TGFβ1複合体)およびGARPと複合体を形成したTGFβ1(GARP-TGFβ1複合体)を生成した(
図3)。製造されるタンパク質の多様性により、種交差反応性の試験およびエピトープマッピングが可能になった。sGARP-プロTGFβ複合体(
図4Aおよび4B)、sGARP-TGFβ LAP複合体(
図5)、およびLTBP1-プロTGFβ1複合体(
図6)の精製が示されている。
【0313】
候補抗体を、in vitro発光アッセイを使用して試験した(
図8)。スクリーニングにおいて、増殖因子の放出を阻害した抗体は、正常な活性化の刺激に直面するとレポーター細胞を「オフ」にした。Ab1およびAb2は、潜在型TGFβ1複合体の活性化の阻害剤であり(
図7)、マウスに対して交差反応性であることが示された。
【0314】
ヒトTGFβ1を発現する細胞におけるAb1の最初の用量反応分析曲線によりTGFβ1活性阻害が示された(
図8)。より感度の高いCAGA12レポーター細胞株を使用して、Ab1は、同様のヒトプロTGFβ1活性の阻害を示した(
図9)。さらに、GARP複合体の阻害により、健康なドナーの血液から単離されたT細胞における分裂しているエフェクターT細胞(Teff)のパーセントによって測定される制御性T細胞(Treg)の抑制活性が遮断されることが示された(
図10)。
【0315】
GARP-プロTGFβ1阻害剤の親和性をヒトGARP-プロTGFβ1細胞に対するOctetアッセイによって測定し、一方、活性を、ヒトGARP-プロTGFβ1阻害を試験するCAGA12レポーター細胞によって測定した。抗体Ab1およびAb2の本明細書で提供される複合体に対する親和性を測定するために使用したプロトコールを表6に要約する。結果を表7に示す。
【表6-1】
【表6-2】
【表7】
【0316】
クローンを、結合選択性(表8)および種交差反応性(表9)についてさらにスクリーニングした。Ab1およびAb2は、TGFβ1、TGFβ2、またはTGFβ3には結合しなかったが、プロTGFβ1複合体には結合し、また、種交差反応性を示した。
【表8】
【表9】
【0317】
(実施例2:Ab1およびAb2は、複数の種に由来するプロTGFβ1複合体に特異的に結合する)
Ab1およびAb2が複数の種に由来するプロTGFβ1複合体に特異的に結合することができるかどうかを決定するために、表6に記載されている通りOctet結合アッセイを実施した。表10(以下)に示されている通り、どちらの抗体も(すなわち、Ab1もAb2も)ヒトLTBP1-プロTGFβ1複合体およびマウスLTBP1-プロTGFβ1複合体、ヒトLTBP3-プロTGFβ1複合体、ならびにヒトGARP-プロTGFβ1複合体に特異的に結合した。しかし、ラットLTBP1-プロTGFβ1複合体にはAb2のみが特異的に結合した。
【表10】
【0318】
(実施例3:Ab1およびAb2は、ヒト線維芽細胞およびマウス線維芽細胞において内在性TGFβ1を阻害する)
Ab1およびAb2が異なる起源の培養された初代線維芽細胞から分泌される内在性TGF-β1を阻害することができるかどうかを決定するために、分泌されるTGF-β1の活性を、CAGA12合成プロモーターと融合したルシフェラーゼレポーター遺伝子を含む核酸で安定にトランスフェクトし、Ab1またはAb2のいずれかで処理した線維芽細胞と共培養したミンク肺上皮細胞から生じるルシフェラーゼレベルを測定することによって決定する定量的in vitroアッセイを実施した。
図11Aおよび11Bに示されている通り、Ab1およびAb2のどちらによっても、正常なヒト皮膚線維芽細胞、マウスC57BL.6J肺線維芽細胞、およびDBA2/J筋線維芽細胞から分泌される内在性TGF-β1が阻害された。各抗体を用いて観察される最大阻害の差異は細胞株特異的であった。
【0319】
(実施例4:Ab2はLRRC33-プロTGFβ1に結合する)
Ab1およびAb2がLRRC33と複合体を形成したプロTGFβ1に結合するかどうかを決定するために、Octet結合アッセイを実施した。
図12Aおよび12Bに示されている通り、Ab1およびAb2はどちらもLRRC33-プロTGFβ1タンパク質複合体に結合することができる。しかし、Ab1は、LRRC33-プロTGFβ1タンパク質複合体への結合に関して遅い会合速度(on-rate)を示す。Ab1およびAb2のLRRC33-プロTGFβ1タンパク質複合体への結合を、ELISAを使用してさらに確認した。
【0320】
(実施例5:Ab1およびAb2により、GARP-プロTGFβ1およびLRRC33-プロTGFβ1のどちらの活性も阻害される)
Ab1およびAb2によりGARP-プロTGF-β1および/またはLRRC33-プロTGF-β1活性が阻害されるかどうかを決定するために、in vitro細胞に基づくアッセイを実施した。このアッセイ系では、β6インテグリンで安定にトランスフェクトされた、操作されたヒト結腸がん細胞株(SW480/β6細胞)を、プロTGF-β1を発現させるための構築物および提示分子(すなわち、GARPまたはLRRC33)を発現させるための構築物で同時トランスフェクトした。提示分子を発現させるために、キメラLRRC33-GARP(配列番号85)またはGARPをコードする構築物を使用した。トランスフェクトされた細胞を、構成成分(インテグリンおよびそれぞれの提示分子と複合体を形成したプロTGFβ1)の十分な発現および沈着が可能になるようにインキュベートした。Ab1またはAb2の存在下または非存在下でのTGFβ1の活性化を、下流のシグナルトランスダクション経路とカップリングしたTGFβ受容体を発現するレポーター細胞(CAGA12細胞)を使用してアッセイして抗体の阻害活性を測定した。
図13Aおよび13Bに示されている通り、Ab1およびAb2により、GARP-プロTGF-β1およびLRRC33-プロTGF-β1がどちらも阻害された。
【0321】
追加的な細胞に基づくアッセイを実施して、抗体Ab1およびAb2を使用するGARP-プロTGFβ1複合体またはLRRC33-プロTGFβ1複合体のいずれかの阻害を検出した。
図22Aおよび
図22Bに示されている通り、Ab1およびAb2により、GARP-プロTGF-β1およびLRRC33-プロTGF-β1がどちらも阻害された。このアッセイでは、GARP-TGFβ1複合体に対するAb1のIC50(μg/mL)は0.445であり、LRRC33-TGFβ1複合体に対するAb1のIC50(μg/mL)は1.325であった。
【0322】
(実施例6:片側尿管閉塞(UUO)マウスモデルにおける腎臓バイオマーカーおよび線維症に対するAb2の効果)
片側尿管閉塞マウスモデルは、末期腎疾患に至る可能性がある一般的な病理学的プロセスである間質性線維症を試験するために広く使用されている(Isakaら(2008年)Contrib. Nephrol.、159巻:109~21頁、およびChevalier(1999年)Pediatr. Nephrol.、13巻:612~9頁を参照されたい)。UUOマウスは、最小の糸球体病変を伴う、腎臓の筋線維芽細胞活性化、尿細管萎縮および間質性線維症を特徴とする(Lianら(2011年)Acta Pharmacol. Sin.、32巻:1513~21頁を参照されたい)。TGFβ1の発現の増大は、UUOマウスにおいて観察される表現型において役割を果たすと考えられる。UUOマウスモデルにおける間質性線維症の症状(presentation)に対するAb2の効果を評価するために、以下の実験を実施した。
【0323】
簡単に述べると、マウス(n=10)を4群にした7~8週齢の雄CD-1マウス(Charles River Laboratories)に、Ab2(3mg/kgまたは30mg/kg;投与体積10mL/kg)、マウスIgG1対照抗体(30mg/kg;投与体積10mL/kg)、またはビヒクル対照としてPBSのいずれかを腹腔内(i.p.)投与した後、外科的介入を行った。処置を、外科手術の1日前(d-1)、外科手術の1日後(d1)、および外科手術の3日後(d3)に施行した。0日目(d0)に、マウスをノーズコーンを用いてイソフルラン麻酔により麻酔し、開腹術を実施し、その後、恒久的右片側性UUO手術を行った。追加的な対照群のマウス(n=8)にPBSを上記の通り投与したが、偽外科手術(すなわち、尿管の閉塞を伴わない)のみを行った。外科手技の完了直後に、全てのマウスが0.001mg/kgのブプレノルフィンの皮下注射を1回受けた。マウスを外科手術の5日後に屠殺し、分析のために組織を回収した。回収後、両側の腎臓を氷冷の0.9%NaCl中に入れ、脱被包化(de-encapsulate)し、秤量した。腎組織のコラーゲン含有量を評価するためのヒドロキシプロリンレベルを評価した。
図14に示されている通り、組織線維症およびコラーゲン沈着のマーカーである腎臓ヒドロキシプロリンレベルは、外科的介入を受けたマウスにおいて偽外科手術を受けたマウスと比較して有意に上昇した。
【0324】
各右側腎臓の中央横断切片を10%中性緩衝ホルマリン中に48時間にわたって浸漬固定し、次いで、それを組織学的処理および分析のために70%エタノールに移した。固定された腎臓切片をパラフィン包埋し、切片作製し(より大きく試料採取し、腎臓損傷を表すことを可能にするために、動物の腎臓当たり3つの、200~250μm離して取得した5μmの連続切片)、ピクロシリウスレッドで染色し、カラースペクトル分割を使用した定量的組織学的分析に供して、皮質コラーゲン体積の割合(CVF)を決定した。3つの連続切片それぞれのCVFスコアの平均を決定することによって各動物について1つの複合CVFスコアを算出した。片側t検定を使用して統計解析を実施した。
図16に示されている通り、CVFによって決定される腎臓皮質線維症は、UUO閉塞腎臓において対照偽処置マウスと比較して増加した。3mg/kgまたは30mg/kgのAb2を受けたマウスでは、ビヒクル対照(PBS)またはIgG対照のいずれかを受けたマウスと比較してCVFのUUO誘導性増大の有意な減弱が示された。
【0325】
回収された腎組織におけるプラスミノーゲン活性化因子阻害因子-1(PAI-1)、結合組織増殖因子(CTGF)、TGFβ1、フィブロネクチン-1、α-平滑筋アクチン(α-SMA)、単球走化性タンパク質1(MCP-1)、I型コラーゲンアルファ1(Col1a1)、およびIII型コラーゲンアルファ1鎖(Col3a1)の相対的なmRNA発現レベルを決定した(
図15A-15H)。mRNAレベルを、ハウスキーピング遺伝子ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1(HPRT1)mRNAレベルを使用して正規化した。さらに、外科的介入の前に3mg/kgまたは30mg/kgのいずれかのAb2を受けたマウスでは、PAI-1、CTGF、TGFβ1、フィブロネクチン1、Col1a1、およびCol3a1のmRNAレベルが30mg/kgのIgG1対照を受けたマウスと比較して有意に低下した。外科的介入前に3mg/kgのAb2を受けたマウスでは、α-SMAのmRNAレベルが30mg/kgのIgG1対照を受けたマウスと比較して有意に低下した。さらに、外科的介入前に30mg/kgのAb2を受けたマウスでは、MCP-1のmRNAレベルが30mg/kgのIgG1対照を受けたマウスと比較して有意に低下した。
【0326】
要約すると、UUOマウスモデルでは、Ab2で処置したマウスにおいて、ヒドロキシプロリンレベルを例外として、有意な効果が観察された。
図15A~15Hおよび16に示されている通り、Ab2による処置により、CVFのUUO誘導性増大が有意に減弱し、また、PAI-1、CTGF、TGFβ1、フィブロネクチン1、Col1a1、およびCol3a1などの公知の線維症マーカーの遺伝子発現が有意に低下した。これらのデータから、TGFβ1が腎疾患において役割を果たすTGFβの主要な形態であること、ならびに、驚いたことに、TGFβ2およびTGFβ3は病因に関与しない可能性があることが実証される。
【0327】
(実施例7:Ab1およびAb2の単独でまたは抗PD-1抗体との組み合わせでのMC38マウス結腸癌同系マウスモデルにおける腫瘍の進行に対する効果)
Ab1およびAb2の、単独でまたは抗PD-1抗体との組み合わせでの、結腸癌腫瘍の進行の低下に対する効果を評価するために、MC38マウス結腸癌C57BL/6マウス同系モデルを使用した。
【0328】
腫瘍細胞培養
MC38マウス結腸癌細胞を、10%ウシ胎仔血清、100単位/mLのペニシリンGナトリウム、100μg/mLの硫酸ストレプトマイシン、25μg/mLのゲンタマイシン、および2mMのグルタミンを含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で増殖させた。細胞培養物を加湿インキュベーター中、37℃、5%CO2および95%空気の雰囲気下、組織培養フラスコ中で維持した。
【0329】
in vivo埋め込みおよび腫瘍増殖
埋め込みに使用するMC38細胞を対数期増殖中に回収し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に再懸濁させた。腫瘍埋め込みの日に、各試験マウスの右側腹部に5×10
5個の細胞(細胞懸濁物0.1mL)を皮下注射し、腫瘍増殖を、平均サイズが80~120mm
3の標的範囲に近づくのをモニターした。試験の1日目に指定される11日後に、マウスを算出された腫瘍サイズに応じてそれぞれが個々の腫瘍体積が63mm
3から196mm
3までにわたり、群平均腫瘍体積が95~98mm
3である動物12匹からなる群に選別した。カリパスを使用して腫瘍を2つの寸法で測定し、式:
【化5】
(式中、w=腫瘍の幅およびl=腫瘍の長さ、mm単位である)を使用して体積を算出した。腫瘍重量は、1mgが腫瘍体積1mm
3と等しいという仮定を用いて推定され得る。
【0330】
処置
簡単に述べると、1日目に、皮下MC38腫瘍(63~172mm3)を有する8週齢の雌C57BL/6マウス(n=12)にAb1、Ab2、マウスIgG1対照抗体のいずれか(それぞれ投与体積10mL/kg中30mg/kg)を週2回、4週間にわたって腹腔内(i.p.)投与した。対照群の腫瘍が150mm3に達したら(6日目)、マウスにラット抗マウスPD-1抗体(RMP1-14)またはラットIgG2A対照抗体のいずれかを週に2回、2週間にわたってi.p.投与した(各抗体を投与体積10mL/kg中5mg/kgで)。
【0331】
群1は、腫瘍増殖対照としての機能を果たし、マウスIgG1アイソタイプ対照抗体とラットIgG2a対照抗体の組み合わせを受けた。群2は、Ab1とラットIgG2a対照抗体の組み合わせを受けた。群3は、Ab2とラットIgG2a対照抗体の組み合わせを受けた。群3は、マウスIgG1対照抗体と抗PD-1抗体の組み合わせを受けた。群4は、Ab1と抗PD-1抗体の組み合わせを受けた。群5は、Ab2と抗PD-1抗体の組み合わせを受けた。群6(n=16)は処置せず、試料採取対照群としての機能を果たした。
【0332】
エンドポイントおよび腫瘍増殖遅延(TGD)分析
週2回、カリパスを使用して腫瘍を測定し、各動物について、腫瘍がエンドポイント体積1,000mm
3に達した時または試験終了時(60日目)のいずれか早い時点で安楽死させた。腫瘍体積エンドポイントにより試験を終了したマウスは、腫瘍の進行(TP)により安楽死させたとして安楽死の日にちと共に記録に残した。各マウスについて、分析のためのエンドポイントまでの時間(TTE)を以下の方程式:
【化6】
(式中、TTEは日数で表され、エンドポイント体積はmm
3で表され、bは切片であり、mは対数変換された腫瘍増殖データセットの線形回帰から得られる線の傾きである)を使用して算出した。データセットは、分析に使用したエンドポイント体積を超えた最初の観察およびこのエンドポイント体積が達成されるすぐ前の3つの連続した観察からなった。算出されるTTEは、通常、腫瘍サイズにより動物を安楽死させた日であるTP日よりも小さい。エンドポイント体積に到達しなかった腫瘍を有するマウスには、試験の最終日と等しいTTE値を割り当てた(60日目)。対数変換された算出されたTTEが、エンドポイントに到達するより前の日に先行するかまたは腫瘍体積エンドポイントに到達する日を超える例では、線形補間を実施してTTEを概算した。処置に関連しない(NTR)原因で死亡したものに分類されたマウスはTTE算出(およびさらなる分析の全て)から排除した。TR(処置に関連する)死亡またはNTRm(転移に起因する、処置に関連しない死亡)に分類された動物には死亡日と等しいTTE値を割り当てた。
【0333】
処置の転帰を腫瘍増殖遅延(TGD)から評価し、対照群と比較して処置群におけるエンドポイントまでのメジアン時間(TTE)の増大と定義した:
日数で表すと:
TGD=T-C、
または対照群のメジアンTTEに対する百分率として表すと:
【化7】
(式中、
T=処置群についてのメジアンTTE、および
C=指定の対照群についてのメジアンTTE)。
【0334】
MTVおよび退縮応答についての基準
処置の効能は、最終日に試験に残っている動物の腫瘍体積から決定され得る。MTV(n)を、腫瘍がエンドポイント体積に達しなかった残りの動物の数(n)での、試験の最終日におけるメジアン腫瘍体積と定義した。
【0335】
処置の効能は、試験中に観察される退縮応答の発生数および大きさからも決定され得る。処置により、動物における腫瘍の部分的退縮(PR)または完全退縮(CR)が引き起こされ得る。PR応答では、腫瘍体積は、試験の過程中の3回の連続した測定に関して、その1日目の体積の50%またはそれ未満であり、これらの3回の測定のうちの1回または複数回に関して13.5mm3と等しいまたはそれよりも大きかった。CR応答では、腫瘍体積は、試験の過程中の3回の連続した測定に関して13.5mm3よりも小さかった。試験終了時にCR応答を有した動物はさらに無腫瘍生存動物(TFS)に分類した。動物を退縮応答についてモニターした。
【0336】
腫瘍増殖阻害
腫瘍増殖阻害(TGI)分析では処置マウスと対照マウスのメジアン腫瘍体積(MTV)の差異が評価される。この試験に関して、TGIを決定するためのエンドポイントは、対照マウスの平均腫瘍体積が1500mm
3に達した日である29日目であった。TGI分析日の動物の数、nについてのメジアン腫瘍体積であるMTV(n)を各群について決定した。パーセント腫瘍増殖阻害(%TGI)を、指定の対照群のMTVと薬物処置群のMTVの差異を対照群のMTVに対する百分率として表したものと定義した:
【化8】
【0337】
TGI分析のためのデータセットは、TGI分析日よりも前に処置に関連する(TR)または処置に関連しない(NTR)原因で死亡したマウス以外の群内全てのマウスを含むものであった。
【0338】
本試験では、Ab1およびAb2を単独でおよび抗PD-1と組み合わせて、MC38マウス結腸癌C57BL/6マウス同系モデルにおいて評価した。Ab2を抗PD-1と組み合わせて投与したマウスでは、有意な29日目TGIがもたらされ(P<0.05、マン・ホイットニーのU検定)、ログランク生存分析(P<0.05、ログランク)を使用して、ビヒクルで処置した対照とは統計的に有意に異なる生存利益が生じた(
図17を参照されたい)。Ab1またはAb2とラットIgG2a対照抗体の組み合わせを受けたマウスでは、それぞれCRが1例およびPRが1例の退縮応答があった。抗PD-1と組み合わせると、Ab1およびAb2の退縮応答は、それぞれPRが1例およびCRが1例、ならびにCRが4例であった。Ab2と抗PD-1を組み合わせると、29日目に有意な短期の効能が生じ、また、このMC38マウス結腸癌C57BL/6マウス同系モデルにおける60日間のTGD試験において全生存利益が生じた。
【0339】
(実施例8:筋ジストロフィーにおけるTGFβ1の役割)
TGFβは、筋形成の阻害、炎症および筋肉修復の制御、ならびに線維症の促進を含む、骨格筋機能における多数の役割を果たす。TGFβ阻害には筋ジストロフィーを含めた広範囲の疾患に対する治療としてかなりの関心が寄せられているが、これらの治療では、分子の状況にかかわらず、TGFβ1、TGFβ2、およびTGFβ3が阻害される。これらの阻害剤の特異性/選択性の欠如により、望ましくない副作用が生じる可能性があり、それにより、効能が不十分な臨床的用量が導かれる。mdxマウスにおいて汎TGFβ阻害性分子により筋肉機能が改善され、線維症が低減することが報告されているが、これらの効果がTGFβ1、β2、またはβ3の不活化に起因するものであるかどうかはまだ対処されていない。
【0340】
そのために、TGFβ2およびβ3は残しながら潜在型TGFβ1のインテグリン媒介性活性化を特異的に遮断する抗体が生成された。ジストロフィーの筋肉における筋肉修復において特異的なTGFβ1の役割を確認するために、D2.mdxマウスをプロTGFβ1特異的抗体で処置する。TGFβ1阻害の、収縮誘導性損傷からの保護に対する機能的効果、ならびに同じ損傷方法からの回復に対する機能的効果を評価する。組織学的評価は、処置が筋傷害、線維症、および炎症に影響を及ぼすかどうかを含む。さらに、筋肉における汎TGFβ阻害で報告された観察される負の影響(例えば、炎症の増大、筋肉機能の長期欠損)がTGFβ1の阻害に起因するものであるのか、またはTGFβ2/3の阻害に起因するものであるのかを決定するために、可能性のある毒性を評価することができる。特定の分子の状況にあるTGFβ1の阻害がより効果的であり、かつ/または負の影響(有害作用)がより少ないのかどうかを理解するために、このモデルにおけるLTBP-プロTGFβ1阻害剤の効能を評価して、免疫細胞に提示されたTGFβ1の役割を細胞外マトリクス(ECM)内に存在するTGFβ1の役割からデコンボリュートし、より安全かつ/またはより有効な抗線維化治療が潜在的に導かれるようにすることができる。
【0341】
ジストロフィーの筋肉は、収縮誘導性損傷に対して高度に感受性である。損傷後、mdxマウス由来の筋肉は、WTと比較した力生成の有意な低減およびエバンスブルー色素の取り込みの増加(筋線維に対する物理的損傷/傷害の指標となる)を示す(Lovering, R.M.ら、Arch Phys Med Rehabil、2007年、88巻(5号):617~25頁)。収縮誘導性損傷の程度を低減するかまたは損傷後の回復を改善する治療剤は、筋ジストロフィー患者に対する有意な臨床的有用性があるものである(Bushby, K.ら、Lancet Neurol、2010年、9巻(1号):77~93頁)。Ab1およびAb2を、i)収縮誘導性損傷を防止する能力、ならびにii)損傷からの回復を促進する能力について評価する。本発明者らの実験では、B10バックグラウンドの従来のmdx系統とは対照的に、D2.mdx系統を使用することができる。mdxをDBA2/Jバックグラウンドと交配することによって生成されたこれらのマウスは、上記のLTBP4の非保護的改変体を有し、したがって、より重症であり、進行性であり、かつ標準のmdx系統よりもヒト疾患に類似した疾患病態を示す(Coley, W.D.ら、Hum Mol Genet、2016年、25巻(1号):130~45頁)。D2.mdxマウスを使用するので、DBA2/Jマウスが野生型対照としての機能を果たし得る。DMDは主に男性に影響を及ぼすので、試験は、雄マウスに焦点を当てることができる。
【0342】
Ab1およびAb2の収縮誘導性損傷を防止する/限定する能力を調査するために、6週齢の雄D2.mdxマウス(n=10)を、IgG対照、Ab1、またはAb2のいずれかを10mg/kg/週で用いて6週間処置する。公開されている、汎TGFβ阻害剤を使用した研究との比較を可能にするために、第4の群に1D11を10mg/kg/週で投与する。全ての抗体がmIgG1アイソタイプであり、この用量は、UUOモデルにおいて有効であることが以前に示されている(
図15および16)。IgG対照が投与されるWT群も包含される。蛍光顕微鏡による筋線維傷害の評価を可能にするために、屠殺の24時間前にマウスにPBS中1%のエバンスブルー色素(EBD)(体重の1%の体積)を投与する。処置の最後に、マウスをin vivo伸張性収縮プロトコールに供す。腓腹筋の伸張性損傷を、305B筋肉レバーシステム(Aurora Scientific)を用いて、記載の通り行うことができる(Khairallah, R.J.ら、Sci Signal、2012年、5巻(236号):ra56頁)。簡単に述べると、間に1分間の休止を伴う20回の伸張性収縮を実施し、伸張性フェーズ前のピーク等尺性筋力の低下を筋傷害の指標とみなすことができる。筋力低下の程度およびEBD陽性線維のパーセントを決定することができる。このプロトコールに供されたDBA2/Jマウスは20回の伸張性収縮後に最初の筋力の30~40%を失う。対照的に以前に記載されている通り、D2.mdxマウスは同じプロトコール後に最初の筋力の80%を失う(Pratt, S.J.ら、Cell Mol Life Sci、2015年、72巻(1号):153~64頁;Khairallah, R.J.ら、Sci Signal、2012年、5巻(236号):ra56頁)。Ab1およびAb2の損傷後の筋力低下を低減する能力を評価することができる。マウスを実験の最後に屠殺し、損傷を受けた腓腹筋および損傷を受けていない腓腹筋の両方を組織学的分析のために採取することができる。両方の筋肉からEBD取り込みを評価することができる。筋線維横断面積および線維症の程度を測定することができる。横断面積を決定するために、筋肉の中腹部由来の切片をフルオロフォアとコンジュゲートしたコムギ胚芽凝集素で染色して細胞膜を可視化することができる。蛍光顕微鏡を使用して切片をデジタル化し、予測ソフトウェアを使用して細胞境界をたどり、不偏の自動測定によって横断面積を決定することができる。線維症を分析するために、切片をピクロシリウスレッド(PSR)で染色し、スライド当たりのPSR+面積をコンピュータで計算することができる。
【0343】
Ab1およびAb2の収縮誘導性損傷からの回復を加速する能力を評価する。12週齢のDBA2/JマウスおよびD2.mdxマウスに上記の同じ伸張性収縮プロトコールを受けさせることができる。損傷後、マウスを処置群(n=10)に分類し、IgG対照(WTおよびD2.mdxマウスに対して)、1D11、Ab1、またはAb2(D2.mdxのみ)のいずれかを投与する。抗体を10mg/kg/週で実験の持続時間にわたって投与する。損傷の7日後および14日後、最大ピーク等尺性筋力、単収縮・強縮比、および力・頻度関係を測定して損傷からの回復に対する処置の効果を評価することができる。Ab1およびAb2は提示分子にかかわらずTGFβ1の放出を阻害するが、DMDでは、TGFβ1により駆動されるTreg活性が保存されるので細胞外マトリクスからのTGFβ1(すなわち、LTBPにより提示される)の選択的放出がより大きく有益である。この問題に取り組むために、特異的なLTBP-プロTGFβ1阻害性抗体を、収縮誘導性損傷を妨げる能力および損傷からの回復を加速する能力の両方について評価することもできる。
【0344】
(実施例9:急性損傷後の骨格筋再生におけるTGFβ1の役割)
特に筋損傷後の筋線維再生におけるTGFβ1の役割を調査することができる。TGFβ1特異的抗体を心臓毒損傷モデルにおいて使用して、特に筋線維再生中のTGFβ1の役割を決定することができる。再生を組織学的に評価することができ、筋肉の強度および質の機能的評価を行うことができる。筋肉再生に対するTGFβ1阻害の潜在的利益を考慮すると、汎TGFβ阻害で観察される毒性を伴わずに有益な効果を有する療法の利益は大きい。これにより、サテライト細胞機能に対するTGFβ1特異的阻害の効果を調査することが可能になり、サテライト細胞移植試験に関する洞察をもたらすことができる。
【0345】
上記の通り、TGFβは、筋芽細胞の増殖および分化の阻害ならびに萎縮および線維症の促進を含む筋肉生物学に対する多数の影響を及ぼすと思われる(Allen, R.E.およびL.K. Boxhorn、J Cell Physiol、1987年、133巻(3号):567~72頁;Brennan, T.J.ら、Proc Natl Acad Sci U S A、1991年、88巻(9号):3822~6頁;Massague, J.ら、Proc Natl Acad Sci U S A、1986年、83巻(21号):8206~10頁;Olson, E.N.ら、J Cell Biol、1986年、103巻(5号):1799~805頁;Li, Y.ら、Am J Pathol、2004年、164巻(3号):1007~19頁;Mendias, C.L.ら、Muscle Nerve、2012年、45巻(1号):55~9頁;Nelson, C.A.ら、Am J Pathol、2011年、178巻(6号):2611~21頁)。しかし、これらの試験では、結果が非生理的になる可能性がある、培養物中の組換えTGFβ1を使用するかマウスに注射した。なぜなら、これは、増殖因子がその分子の状況から除かれるからである。代替的に、研究者はTGFβ1に選択的でないTGFβ阻害剤を使用した。
【0346】
TGFβ1のアイソフォーム特異的影響を評価するために、複数のプロTGFβ1抗体(例えば、Ab1およびAb2)を、CTX誘導性損傷後の筋肉再生に影響を及ぼすこれらの能力について調査することができる。これらの抗体は、TGFβ1活性化の「アイソフォーム特異的」かつ「状況許容的」阻害剤であり、したがって、任意の提示分子からのTGFβ1の放出を特異的に阻害し(TGFβ2またはTGFβ3とは対照的に)、成熟増殖因子には結合しない(
図18A)。
【0347】
雄DBA2/Jマウス(n=10)において右腓腹筋へのCTX注射によって筋肉再生を誘導することができる。損傷の前日、マウスに、10mg/kgのIgG対照、1D11、Ab1、またはAb2を投与することができる。抗体を試験終了まで毎週投与し続ける。損傷の7日後および14日後に、筋力測定値をin vivoで305C筋肉レバーシステム(Aurora Scientific Inc.、Aurora、CAN)を用いて測定することができる。簡単に述べると、足底屈筋群について、麻酔したマウスにおける坐骨神経への経皮電気刺激によって収縮を誘発し、次いで、刺激の周波数を増加させながら一連の刺激を行う(パルス0.2ms、連続継続時間(train duration)500ms):1、10、20、40、60、80、100、150Hz、続いて1Hzで最後の刺激。最大ピーク等尺性筋力、単収縮・強縮比、および力・頻度関係を決定する。筋力測定後、損傷を受けた腓腹筋およびヒラメ筋を採取し、組織学のために調製する。筋線維横断面積および%PSR+面積を上の実施例8に記載されている通り決定することができる。
【0348】
Ab1およびAb2を用いた処置により、線維症の低減および筋肉機能の改善がもたらされ得る。しかし、免疫活性化の制御におけるTGFβ1の役割を考慮すると、1D11による処置で報告されている通り、抗体を用いると炎症の増大が観察され得る可能性がある(Andreetta, F.ら、J Neuroimmunol、2006年、175巻(1~2号):77~86頁)。炎症の増大によりTGFβ1阻害の治療効果が限定される可能性がある場合、その後、毒性を限定し得るさらなる特異性の程度がもたらされるように状況特異的抗体を評価することができる。例えば、上記の読み出しおよび方法を使用して、TGFβ1のLTBPからの放出を阻害する抗体のみを使用することができる。これらの抗体は、TGFβ1の、Tregまたはマクロファージからの放出に影響を及ぼすことなく、ECMからの放出のみを限定し得る。
【0349】
(実施例10:適切なTGFβ1阻害性薬剤の選択)
健康な筋肉、再生中の筋肉、および疾患にかかっている筋肉におけるプロTGFβ1およびその提示分子の発現解析により、最適な治療手法の選択を補助するための有用な情報がもたらされ得る。筋肉の再生および修復におけるTGFβ1阻害の潜在的利益を考慮すると、異なる条件下(健康、急性損傷、および慢性損傷)での骨格筋におけるプロTGFβ1提示の状況(例えば、ECM内または免疫細胞上)の理解が、抗体の治療的有用性を伝えるのに役立ち、最終的に臨床的効能と安全性の両方を達成するために必要な特異性/選択性の程度に関する洞察がもたらされ得る。TGFβ1提示の性質は、筋肉の健康状態に応じておよび疾患の経過にわたって変動する可能性があり、これは、あらゆるTGFβ1標的化療法に意味を持つ可能性がある。これらの分子の発現プロファイルを理解することにより、潜在的な治療用分子に対する適切な投与時間の選択も補助される。ウエスタンブロット、免疫組織化学、および免疫沈降を使用して、正常な筋肉、急性損傷(心臓毒損傷)を受けた筋肉、および長期にわたって再生中の筋肉(D2.mdxマウス)におけるプロTGFβ1およびその提示分子の発現を評価することができる。これらの分子の発現は、特に、上記の異なる条件での重要な細胞型または細胞型のサブセット(例えば、サテライト細胞、マクロファージ、線維形成・脂肪生成前駆体(fibro-adipogenic progenitor)など)を調査することができる。
【0350】
mdxマウス由来の筋肉におけるTGFβアイソフォームの発現は調査されているが、以前の研究は、成熟増殖因子の発現に焦点を合わせたものであった(Nelson, C.A.ら、Am J Pathol、2011年、178巻(6号):2611~21頁;Zhou, L.ら、Neuromuscul Disord、2006年、16巻(1号):32~8頁)。本明細書に記載のTGFβ1抗体の標的特異性を考慮すると、発現パターンを成熟およびプロTGFβ1についてだけでなく、同様に提示分子についても調査することが必須であり、それにより、目的のTGFβ1のプールの供給源および/または状況に関する情報がもたらされるはずである。理想的には、各構成成分についてだけでなく潜在型複合体の発現パターンについて理解することが望ましい。
【0351】
抗体を目的の標的に対するウエスタンブロットおよびIHCのためにスクリーニングする。マウスTGFβ1-LAP、LTBP1、LTBP3、およびLTBP4に対する抗体は商業的に入手できる。TGFβ1-LAPに対する抗体(クローンTW7-16B4)は広範囲にわたって特徴付けられており、フローサイトメトリーおよびウエスタンブロットのどちらにおいても有効である(Oida, T.およびH.L. Weiner、PLoS One、2010年、5巻(11号):e15523頁)。LTBP1に対する抗体(ProteinTech#22065-1-AP)およびLTBP3に対する抗体(Millipore#ABT316)は、LTBP1-プロTGFβ1またはLTBP3-プロTGFβ1をトランスフェクトしたSW480細胞を使用して内部で検証されており、これらの標的に特異的であることが示されている。これらの抗体のIHCへの有用性を決定することができる。健康なマウス由来の筋肉およびD2.mdxマウス由来の筋肉を切片作製し、抗体を凍結切片およびFFPE切片で試験する。観察されるシグナルが特異的なものであることを確実にするために、100×過剰の精製された標的タンパク質または複合体(自社製、例えば
図18B)を用いた条件を含めることによって抗体を検証することができる。
【0352】
以前の研究により、所与の潜在型複合体に特異的に結合するが阻害活性は有さない抗体が同定されている。これらの抗体による抗原結合はELISAによって確認されており(
図18Bおよび18C)、IHCにおけるこれらの有用性についても評価することができる(これらのエピトープの三次元構造を考慮すると、これらの抗体はウエスタンブロット試薬として有効である可能性は低い)。バルク組織由来の潜在型TGFβ1複合体の存在もウエスタンブロットまたは免疫沈降によって評価することができる。潜在型複合体は、ウエスタンブロットにより、還元条件下および非還元条件下で同じ試料で実行することによって同定することができる。還元条件下では、TGFβ1、LAPおよび提示分子は分離し、3つの分子を同じブロット上で同定することができるが、二色ウエスタンブロット法を使用する。非還元条件では、LAP:提示分子複合体は会合したままであるが、TGFβ1は放出される;複合体は空の提示分子よりも遅く移動し、TGFβ1-LAPと共に移動する(
図18B)。TGFβ1と特定の提示分子の直接結合を実証するために、種々の抗体を筋肉由来の潜在型複合体を免疫沈降させるこれらの能力についても評価することができる。
【0353】
適切な抗体が同定されたら、健康な筋肉、再生中の筋肉、およびジストロフィーの筋肉における発現を、利用可能な抗体に応じてウエスタンおよび/またはIHCによって評価する。前脛骨筋(TA)および横隔膜筋を4週齢、8週齢、および12週齢のDBA2/JマウスおよびD2.mdxマウスから採取することができる。再生中の筋肉については、心臓毒を12週齢のDBA2/JマウスのTAに注射し、損傷の3日後、7日後、および14日後に筋肉を採取することができる。各条件/時点について少なくとも4匹のマウスからの組織を使用することができる。種々の分子を発現する細胞集団を同定するために共染色実験も行うことができる(例えば:マクロファージについてはCD11b、TregについてはFoxP3、筋原細胞についてはMyoD)。
【0354】
(実施例11:Ab2は、ALK5キナーゼ阻害剤LY2109761および汎TGFβ抗体と比較して低減した毒性を示す)
Ab2の毒性を小分子TGF-βI型受容体(ALK5)キナーゼ阻害剤LY2109761と、および汎TGFβ抗体(hIgG4)と比較して評価するために、ラットにおいて毒性試験を実施した。簡単に述べると、雌F344/NHsdラットに、3mg/kg(1群、n=5)、30mg/kg(1群、n=5)、もしくは100mg/kg(1群、n=5)でのAb2;3mg/kg(1群、n=5)、30mg/kg(1群、n=5)、もしくは100mg/kg(1群、n=5)での汎TGFβ抗体;200mg/kg(1群、n=5)もしくは300mg/kg(1群、n=5)でのLY2109761;またはPBS(pH7.4)ビヒクル対照(1群、n=5)のいずれかを投与した。Ab2、汎TGFβ抗体またはビヒクル対照のいずれかを受ける動物には静脈内に1回投与し(1日目)、LY2109761を受けるラットには経口胃管栄養によって1日1回、7日間投与した(7回用量)。動物の体重を投与相の1日目、3日目、および7日目に決定した。動物を8日目に屠殺し、剖検を実施した。
【0355】
図19に示した生存データに示されている通り、Ab2は、他の処置群と比較して低減した毒性を示した。300mg/kgのALK5キナーゼ阻害剤LY2109761を投与した全ての動物が、試験の3日目、6日目、または7日目に瀕死の状態で屠殺されたまたは死亡しているのが見つかった。200mg/kgのLY2109761を投与した動物のうち2匹が試験の7日目に死亡しているのが見つかった。100mg/kgの汎TGFβ抗体を投与した動物1匹が試験の6日目に死亡しているのが見つかった。100mg/kgまでのAb2を投与した動物は全てが最終的に屠殺するまで生存した。
【0356】
さらに、投与相の間の動物の体重をモニターすることによって処置の毒性を評価した。
図20および21A~21Cに示されている通り、LY2109761を200mg/kgまたは300mg/kgのいずれかで受けた動物は、試験の過程中、体重の減少を示した。
【0357】
動物の臓器重量も死後に評価した。表11に示されている通り、≧200mg/kgのLY2109761を投与した動物において心臓重量の増加が観察された。≧30mg/kgの汎TGFβ抗体を投与した動物においても心臓重量の増加が観察された。100mg/kgまでのAb2を投与した動物では臓器重量に値する影響は観察されなかった。
【表11】
【0358】
100mg/kgまでのAb2または汎TGFβ抗体を投与した動物では肉眼で見える所見は観察されなかったが、200mg/kgまたは300mg/kgのLY2109761のいずれかを受けた各処置群の動物4匹で異常な形状の胸骨が観察された。300mg/kgのLY2109761を投与した動物1匹で胸腔中の透明な液体(fluid)2.5mLおよび過剰な液体に起因する胸腺の肥大(すなわち、浮腫)が観察され、この動物は試験の3日目に死亡しているのが見つかった。
【0359】
表12に示されている通り、顕微鏡レベルでは、≧200mg/kgのLY2109761を投与した動物は、心臓弁所見(すなわち、弁膜症)を示した。弁膜症は、出血、内皮過形成、混合炎症細胞浸潤、および/または間質過形成に起因して心臓弁が肥厚することを特徴とする(
図23、右上のパネルを参照されたい)。大半の動物は、複数の弁が影響を受けた。さらに、最小~わずかな混合炎症細胞浸潤、最小の出血、および/またはヘマトキシリン・エオシン染色切片における心房の好塩基性染色の増大をもたらす最小の内皮(心内膜)過形成を含めた心房所見が観察された。心筋所見も観察され、大部分が心臓底部におけるものであり、最小~わずかな変性/壊死、わずかな出血、および/またはわずかな混合炎症細胞浸潤からなるものであった。300mg/kgのLY2109761を投与した動物1匹では冠状動脈の炎症を伴うわずかな壊死があった。さらに、200mg/kgのLY2109761を投与した動物2匹では最小の混合炎症細胞浸潤または大動脈根の出血があった。
【表12】
【0360】
表13に示されている通り、≧3mg/kgの汎TGFβ抗体を投与した動物は、上記の通りLY2109761を投与した動物に関して記載されているものと同様の心臓弁所見(すなわち、弁膜症)を示した(
図23、左下のパネルも参照されたい)。≧30mg/kgの汎TGFβ抗体を投与した動物は、LY2109761を投与した動物に関して記載されているものと同様の心房所見を示した。100mg/kgの汎TGFβ抗体を投与した動物は、LY2109761を投与した動物に関して記載されているものと同様の心筋所見を示し、30mg/kgの汎TGFβ抗体を投与した動物では心筋の出血があった。100mg/kgの汎TGFβ抗体を投与した動物1匹では冠状動脈の出血を伴う中程度の壁内壊死があり、これは、わずかな血管周囲の混合炎症細胞浸潤を伴った。
【表13】
【0361】
対照的に、100mg/kgのAb2を投与した処置群の動物1匹では、左房室弁の単一の心臓弁リーフレットに最小の混合炎症細胞浸潤があり(
図23、右下のパネルを参照されたい)、これは、発生数が単一であり、また、同時発生的な弁所見がないので、バックグラウンド所見と一致した。したがって、Ab2を用いた処置では、驚いたことに、ALK5キナーゼ阻害剤LY2109761を用いた処置または汎TGFβ抗体を用いた処置のいずれと比較しても死亡率の低減および心毒性の低減がもたらされた。