IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カール ツァイス ヴィジョン インターナショナル ゲーエムベーハーの特許一覧

特開2022-28807領域的に変化する屈折率を有する累進眼鏡レンズ及びその設計方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028807
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】領域的に変化する屈折率を有する累進眼鏡レンズ及びその設計方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/06 20060101AFI20220208BHJP
【FI】
G02C7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021186482
(22)【出願日】2021-11-16
(62)【分割の表示】P 2021502933の分割
【原出願日】2019-07-18
(31)【優先権主張番号】18184779.9
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】507062222
【氏名又は名称】カール ツァイス ヴィジョン インターナショナル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】ゲルハルト ケルシュ
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ メンケ
(72)【発明者】
【氏名】ヘルムート ヴィートショーク
(57)【要約】      (修正有)
【課題】累進屈折力眼鏡レンズのイメージング特性を大幅に改良すること。
【解決手段】領域的に変化する屈折率を有する材料からなる基板を含み、前面及び/又は後面は、自由形態表面ジオメトリを有する累進眼鏡レンズに関する。累進眼鏡レンズは、以下の光学要件:(1)ENISO8980-2:2004による許容限度偏差内の遠用部基準点における処方屈折度数及びENISO8980-2:2004による許容限度偏差内の近用部基準点における処方屈折度数、(2)主視線に沿った遠用部基準点と近用部基準点との間の屈折度数の単調一定増加、及び(3)残余乱視によって定義される累進チャネルに準拠することを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)累進屈折力眼鏡レンズ及び前記累進屈折力眼鏡レンズを使用するための指示、又
は(b)コンピュータ可読データの形態における、データ媒体に配置された前記累進屈折
力眼鏡レンズの表現及び前記累進屈折力眼鏡レンズを使用するための指示、又は(c)コ
ンピュータ可読データの形態における前記累進屈折力眼鏡レンズの仮想表現を有するデー
タ媒体及び前記累進屈折力眼鏡レンズを使用するための指示、又は(d)コンピュータ可
読データ信号の形態における、前記累進屈折力眼鏡レンズの表現及び前記累進屈折力眼鏡
レンズを使用するための指示を含む製品であって、
- 前記累進屈折力眼鏡レンズは、前面及び後面を有する基板を含み、前記基板は、空
間的に変化する屈折率を有する材料からなり、前記前面は、前面ジオメトリを有し、及び
前記後面は、後面ジオメトリを有し、
- 前記前面ジオメトリ及び/又は前記後面ジオメトリは、自由形態表面ジオメトリで
あり、
- 前記累進屈折力眼鏡レンズは、遠用部設計基準点及び近用部設計基準点を有し、
- 前記累進屈折力眼鏡レンズは、以下の光学要件:
(1)DIN EN ISO 8980-2:2004に準拠した許容限度偏差内の前
記遠用部設計基準点における処方屈折度数及びDIN EN ISO 8980-2:2
004に準拠した前記許容限度偏差内の前記近用部設計基準点における処方屈折度数、
(2)主視線上の遠用部設計基準点と近用部設計基準点との間の前記屈折度数の単調増
加勾配、
(3)中間累進帯であって、
(a)0.25ジオプタ、
(b)0.38ジオプタ、
(c)0.50ジオプタ
の群からの値未満にある残余乱視によって定義される中間累進帯
を満たす、製品において、
(i)前記前面ジオメトリ及び前記後面ジオメトリは、1.5~1.8の空間的に変化
しない屈折率を有する材料で作られた基板を仮定して、前記光学要件(1)~(3)の少
なくとも1つが満たされていないように実施されるが、前記累進屈折力眼鏡レンズの前記
基板の前記材料の前記屈折率の実際に存在する空間的変動は、全ての光学要件(1)~(
3)が満たされるように実施されること、又は
(ii)前記累進屈折力眼鏡レンズの前記前面が自由形態表面ジオメトリを有する場合
、前記前面の前記自由形態表面ジオメトリは、対照累進屈折力眼鏡レンズであって、同じ
後面ジオメトリと、同じ屈折度数プロファイルと、前記累進屈折力眼鏡レンズを使用する
ための前記指示に基づく、前記主視線を通る眼鏡ビーム路のための同じ残余乱視と、空間
的に変化する屈折率を有する前記材料で作られた前記基板を有する前記累進屈折力眼鏡レ
ンズが全体屈折度数増加の半分を受ける、前記前面上の前記主視線の点における前記累進
屈折力眼鏡レンズの前記基板の前記材料の前記空間的に変化する屈折率の値に対応する値
を有する、空間的に変化しない屈折率を有する材料で作られた基板とを有する対照累進屈
折力眼鏡レンズに関連して変更され、及び前記累進屈折力眼鏡レンズの前記前面の前記変
更された自由形態表面ジオメトリ及び前記屈折率の前記空間的変動は、前記累進屈折力眼
鏡レンズについて、前記関連する眼鏡装用者ビーム路が、前記累進屈折力眼鏡レンズが前
記全体平均屈折力増加の半分を受ける、前記主視線の場所を通して延びる点における、計
算によって確認される前記前面の表面非点収差の第1の値が、前記関連する眼鏡装用者ビ
ーム路が、前記対照累進屈折力眼鏡レンズが前記全体平均屈折力増加の半分を受ける、前
記主視線上の場所を通して延びる点における、空間的に変化しない屈折率を有する材料か
らの前記対照累進屈折力眼鏡レンズについて計算によって確認される、自由形態表面ジオ
メトリを有する前記前面の前記表面非点収差の第2の値よりも大きいように互いに適合さ
れること、又は
(iii)前記累進屈折力眼鏡レンズの前記後面が自由形態表面ジオメトリを有する場
合、前記後面の前記自由形態表面ジオメトリは、対照累進屈折力眼鏡レンズであって、同
じ後面ジオメトリと、同じ屈折度数プロファイルと、前記累進屈折力眼鏡レンズを使用す
るための前記指示に基づく、前記主視線を通る前記眼鏡装用者ビーム路のための同じ残余
乱視と、空間的に変化する屈折率を有する前記材料で作られた前記基板を有する前記累進
屈折力眼鏡レンズが全体屈折度数増加の半分を受ける、前記後面上の前記主視線の点にお
ける前記累進屈折力眼鏡レンズの前記基板の前記材料の前記空間的に変化する屈折率の値
に対応する値を有する、空間的に変化しない屈折率を有する材料で作られた基板とを有す
る対照累進屈折力眼鏡レンズに関連して変更され、及び前記累進屈折力眼鏡レンズの前記
後面の前記変更された自由形態表面ジオメトリ及び前記屈折率の前記空間的変動は、前記
累進屈折力眼鏡レンズについて、前記関連する眼鏡装用者ビーム路が、前記累進屈折力眼
鏡レンズが前記全体平均屈折力増加の半分を受ける、前記主視線の場所を通して延びる点
における、計算によって確認される前記後面の表面非点収差の第1の値が、前記関連する
眼鏡装用者ビーム路が、前記対照累進屈折力眼鏡レンズが前記全体平均屈折力増加の半分
を受ける、前記主視線上の場所を通して延びる点における、空間的に変化しない屈折率を
有する材料からの前記対照累進屈折力眼鏡レンズについて計算によって確認される、自由
形態表面ジオメトリを有する前記後面の前記表面非点収差の第2の値よりも大きいように
互いに適合されること
を特徴とする製品。
【請求項2】
(ii)及び(iii)の場合、計算によって確認される前記第1の表面非点収差の前
記値は、
- 計算によって確認される前記第2の表面非点収差の前記値よりも少なくとも0.2
5ジオプタ大きいか、又は
- 計算によって確認される前記第2の表面非点収差の前記値よりも近用加入屈折力の
値の少なくとも1/3だけ大きいことを特徴とする、請求項1に記載の製品。
【請求項3】
(ii)及び(iii)の場合、計算によって確認される前記第1の表面非点収差の前
記値は、1つの点のみならず、前記累進屈折力眼鏡レンズ及び前記対照累進屈折力眼鏡レ
ンズが前記全体屈折度数増加の1/4~3/4を受ける、前記主視線に沿った領域におい
ても、計算によって確認される前記第2の表面非点収差の前記値より大きいことを特徴と
する、請求項1又は2に記載の製品。
【請求項4】
累進屈折力眼鏡レンズを設計するコンピュータ実施方法であって、前記累進屈折力眼鏡
レンズは、前面及び後面を有する基板を含み、前記基板は、空間的に変化する屈折率を有
する材料からなり、前記累進屈折力眼鏡レンズの前記前面及び/又は前記後面は、遠用部
設計基準点及び近用部設計基準点を有する自由形態表面ジオメトリを有し、及び前記累進
屈折力眼鏡レンズは、以下の光学要件:
(1)前記遠用部設計基準点における処方屈折度数が、DIN EN ISO 898
0-2:2004に準拠した許容限度偏差内にあり、及び前記近用部設計基準点における
処方屈折度数が、DIN EN ISO 8980-2:2004に準拠した前記許容限
度偏差内にあること、
(2)遠用部設計基準点と近用部設計基準点との間の前記処方屈折度数の単調増加勾配
が主視線上にあること、
(3)中間累進帯であって、
(a)0.25ジオプタ、
(b)0.38ジオプタ、
(c)0.50ジオプタ
の群からの値未満にある残余乱視によって定義される中間累進帯があること
を満たす、コンピュータ実施方法において、
(i)前記累進屈折力眼鏡レンズの前記前面及び/又は前記後面の前記自由形態表面ジ
オメトリ並びに前記屈折率の空間的変動は、同じジオメトリを有するが、空間的に変化し
ない屈折率を有する材料で作られた基板に基づく対照累進屈折力眼鏡レンズが前記光学要
件(1)~(3)の少なくとも1つを満たさないように互いに適合されること、又は
(ii)前記累進屈折力眼鏡レンズの前記前面及び/又は前記後面の前記自由形態表面
ジオメトリ並びに前記屈折率の前記空間的変動は、前記累進屈折力眼鏡レンズについて、
関連する眼鏡装用者ビーム路が、前記累進屈折力眼鏡レンズが全体平均屈折力増加の半分
を受ける、前記主視線の場所を通して延びる点における、計算によって確認される、前記
自由形態表面ジオメトリを有する前記表面の表面非点収差の第1の値が、対照累進屈折力
眼鏡レンズであって、前記関連する眼鏡装用者ビーム路が、前記対照累進屈折力眼鏡レン
ズが前記全体平均屈折力増加の半分を受ける、前記主視線上の場所を通して延びる点にお
ける、空間的に変化しない屈折率を有する材料からの対照累進屈折力眼鏡レンズについて
計算によって確認される、前記自由形態表面ジオメトリを有する前記表面の前記表面非点
収差の第2の値よりも大きいように互いに適合され、前記対照累進屈折力眼鏡レンズは、
前記自由形態表面ジオメトリを有する前記表面の同じ相対位置及び対向する表面の同じジ
オメトリ、前記主視線に沿った同じ屈折度数プロファイルを有し、及び前記屈折率は、空
間的に変化する屈折率を有する前記材料で作られた前記基板を有する前記累進屈折力眼鏡
レンズが前記全体屈折度数増加の半分を受ける、前記前面上の前記主視線の前記点におけ
る前記基板の前記屈折率の値に対応する値を有すること
を特徴とするコンピュータ実施方法。
【請求項5】
コンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムがコンピュータにロー
ドされ、且つ/又はコンピュータ上で実行されると、請求項4に記載の全ての方法ステッ
プを実行するプログラムコードを有するコンピュータプログラム。
【請求項6】
請求項5に記載のコンピュータプログラムを含むコンピュータ可読媒体。
【請求項7】
請求項4に記載の方法によって設計された累進屈折力眼鏡レンズを製造する方法。
【請求項8】
前記製造は、加法的方法を使用して実施されることを特徴とする、請求項7に記載の方
法。
【請求項9】
プロセッサと、請求項5に記載のコンピュータプログラムが記憶されるメモリとを含む
コンピュータであって、請求項4に記載の方法を実行するように準備されるコンピュータ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求項1の前文による、(a)累進屈折力眼鏡レンズ、又は(b)デー
タ媒体に配置されたコンピュータ可読データの形態における累進屈折力眼鏡レンズの表現
、又は(c)コンピュータ可読データの形態における累進屈折力眼鏡レンズの仮想表現を
有するデータ媒体を含む製品と、特許請求項4の前文による、累進屈折力眼鏡レンズを設
計するコンピュータ実施方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズ光学系では、累進屈折力眼鏡レンズが知られており、何十年にもわたり広く
行き渡っている。多焦点眼鏡レンズ(一般に二焦点及び三焦点眼鏡レンズ)のように、こ
れらは、近くの物体を観測する目的のために、例えば読書時、眼鏡レンズの下部に老眼ユ
ーザのための追加の光学屈折力を提供する。この追加の光学屈折力は、年齢が進むにつれ
て、目の水晶体が近くの物体に焦点を合わせる特性を一層失うために必要とされる。これ
らの多焦点眼鏡レンズと比較して、累進屈折力眼鏡レンズは、鮮鋭視が、遠く及び近くの
みならず、全ての中間距離でも保証されるような遠用部から近用部への光学屈折力の連続
増加を提供するという利点を提供する。
【0003】
一般に、累進屈折力眼鏡レンズは、従来、一定の屈折率を有する材料から製造され、す
なわち、眼鏡レンズの光学屈折力は、眼鏡レンズの2つの空気隣接表面(前面又は物体側
表面及び後面又は目側表面)の対応する整形によってのみ設定される。累進屈折力眼鏡レ
ンズにおいて光学屈折力の連続増加を生成するには、表面曲率の対応する連続変化が2つ
のレンズ表面の少なくとも一方に存在しなければならない。しかしながら、少なくとも2
回連続して微分可能な表面の微分幾何学的特性は、一定の屈折率を有する材料で作られた
累進屈折力眼鏡レンズの場合、不要な光学イメージング収差に繋がらざるを得ない。
【0004】
これらの特性は、「ミンクウィッツ定理」(Minkwitz,G.,“Ueber
den Flaechenastigmatismus bei gewissen s
ymmetrischen Asphaeren.”,Optica Acta,10(
3),No.3 July 1963,p.223-227)に遡る。ミンクウィッツは
、連続して増加又は減少する曲率を有する臍線の側に向かう少なくとも2回連続して微分
可能な表面において、表面非点収差がこの線に沿って曲率の2倍迅速に変化すると述べて
いる。表面の各点において、表面非点収差は、この点における表面の主曲率の差の絶対値
を、その表面点における表面の前及び後の屈折率差で乗算したものである。表面非点収差
及び平均表面屈折度数の定義については、Diepes H.,Blendowske
R.,“Optik und Technik der Brille”,2nd ed
ition,Heidelberg 2005,p.256を参照されたい。
【0005】
この表面非点収差は、目によって補償することができない眼鏡レンズの光学屈折力の非
鮮鋭さを装用者に対してもたらす。したがって、上記の方法で製造された全ての累進屈折
力眼鏡レンズは、遠用から近用への遷移における「中間累進帯」と呼ばれる、鮮鋭視領域
の側へのイメージング収差(残余乱視)に直面する。より正確には、ミンクウィッツ定理
による臍線に沿った平均表面屈折力の増大と、それにより示される側方表面非点収差との
関係は、主に、累進屈折力眼鏡レンズにおける垂直屈折度数増大と、それにより示される
、中間累進帯における眼鏡装用者にとっての非点収差(残余乱視)の側方増大との関係に
対応する。ここで、DIN EN ISO13666:2012、セクション14.1.
25によれば、中間累進帯とは、遠用と近用との間の中間範囲に明確視を提供する累進屈
折力眼鏡レンズの領域である。垂直屈折度数増大は、垂直方向における中間累進帯での眼
鏡装用者にとっての眼鏡レンズの平均屈折力の増大として理解される。近用領域では、遠
用領域の平均屈折力に、処方された加入屈折力が加算されたものが得られる。累進屈折力
眼鏡レンズの各視点において、2つの主経線屈折力からなる合焦効果は、主光線に沿った
対応する視線方向において眼鏡装用者にとって出現する。これらの主経線屈折力の算術平
均が平均屈折力である。
【0006】
遠用から近用への眼鏡装用者の直線方向に前の物体点上の目の注視運動中、表面を通る
全ての視点の全体を表す主視線は、中間累進帯の中心を通して延びる。図1は、この関係
を示す。図面中の記号ΔAddは、臍線の方向における平均屈折力の勾配である。図面中
の記号ΔCylは、乱視の勾配である。記号Nは、臍線の曲線を示す。乱視は、本明細書
では、軸を考慮に入れて眼鏡装用者に処方された乱視屈折力からの乱視ずれを意味するも
のとして理解される。
【0007】
眼鏡レンズ上の視点にける平均屈折力及び乱視ずれの計算は、眼鏡装用者ビーム路にお
いて実施される。このビーム路は、眼鏡装用者が注視する物体点を目の回転中心に結ぶ主
光線に沿った光路を記述する。
【0008】
したがって、累進屈折力眼鏡レンズにおける屈折率の増大と、鮮鋭視が可能な中間累進
帯の幅との間に簡易な関係が提供される。より広い中間累進帯は、中間距離における視覚
でのレンズの有用性の大幅な改良を意味するため、この法則を打破することが非常に望ま
しい。ミンクウィッツ定理については、Diepes H.,Blendowske R
.,“Optik und Technik der Brille”,2nd edi
tion,Heidelberg 2005,p.257fも参照されたい。
【0009】
国際公開第89/04986 A1号パンフレットでは、累進屈折力眼鏡レンズにおけ
る可変屈折率を有する材料の使用が考慮されている。第3頁において、可変屈折率を使用
する3つの選択肢が指定されており、特に、
- 屈折率を変えることにより、湾曲した主視線を辿る線又は平面にあり、主視線に適
合された線に沿って屈折力増大が生成又は増幅される。
【0010】
ここで、主視線とは、遠見視及び近見視の主視点を相互に結び、中間距離での可視光線
の交点が「直線」方向にある眼鏡レンズの前面上の線を示す。主視線とは、遠用部及び近
用部において概ね垂直に延び、中間部で曲がる線である。
- 主視線に沿った乱視は、可変屈折率の結果として完全又は部分的に修正される。
- 主経線の側に向かうイメージング収差の補正は、勾配媒体を使用することによって
行われる。
【0011】
3つの効果「主視線に沿った屈折率増大」、「主視線に沿った乱視の除去」及び「側方
補正」が、屈折率の変動に主に部分的に関連するか又は関連しないと考えられる場合、合
計で3=27個の組合せ選択肢があり、それらは、全て数学的に特徴付けることができ
【0012】
第2頁の下から2番目の段落において指定される国際公開第89/04986 A1号
パンフレットの目的は、「レンズ表面の製造中、可変屈折率の使用により、全体的に、同
等のイメージング特性でもって簡易化された製造が生じるような大きい利点を得ることが
可能であること」からなる。
【0013】
国際公開第89/04986 A1号パンフレットの第5頁は、ミンクウィッツ定理も
概説している。
「乱視が更に屈折率の変動の結果として主経線に沿って低減する場合、これは、主経線
又は主視線に沿って小さい必要がある表面非点収差の眼鏡レンズを形成する場合の制限も
なくなり、したがって本発明による眼鏡レンズがミンクウィッツ定理を受けず、眼鏡レン
ズが他の態様下ではるかに費用効率的に形成され得ることを意味する。」
【0014】
全体的に、国際公開第89/04986 A1号パンフレットは、同等のイメージング
特性を有する眼鏡レンズのより簡易且つより費用効率的な生産性を強調している。第12
頁の上部でのイメージング特性の改良の言及は、およその条件に留まっている。
「最適化中、イメージング収差の補正が考慮に入れられておらず、それにも関わらず、
側方領域において非常に良好なイメージング特性を有するレンズが出現したことを明確に
参照すべきである。主経線に対して側方の領域におけるイメージング特性の更なる改良は
、屈折率機能の更なる最適化によって得られる。従来技術によるレンズに関連した中間累
進帯の側への改良は、例において識別可能ではない。」
【0015】
国際公開第99/13361 A1号パンフレットは、累進屈折力レンズの全ての機能
特徴、特に遠用部、近用部及び累進ゾーンを有するが、縁領域は、非点収差を有するべき
でないことが意図された、いわゆる「MIV」レンズ物体を記載している。この文献は、
そのようなレンズ物体が球面前面及び球面後面を含み得ることを記載している。レンズ物
体は、遠用部から近用部に連続して増大する屈折率を有する累進ゾーンを含むべきである
。しかしながら、一般に、そのような実施形態では、望まれる全ての加入屈折力を実現す
ることは、可能ではない。したがって、この文献は、「必要に応じて、加入屈折力の範囲
は、可変屈折率のみで不可能な場合、上述したように可変屈折率材料の未加工塊を用いて
レンズを製造し、従来の累進レンズとして可変ジオメトリ曲線を形成し、そうしてこれら
の従来の累進レンズと比較してはるかに高い性能を有する結果を得ることによっても橋渡
しすることができ、なぜなら、異なるエリアで異なる屈折率を有するレンズは、遠見視と
近見視との間に分化がはるかに少ない曲線を使用し、収差エリアを低減し、有用視エリア
を増大させることにより、所望の加入屈折率に達することを可能にするためである」と説
明している。
【0016】
米国特許出願公開第2010/238400 A1号明細書には、それぞれの場合に複
数の層からなる累進屈折力眼鏡レンズが記載されている。層の少なくとも1つは、互いに
直交して延びる2つの経線に関して説明される、変化する屈折率を有し得る。更に、複数
の層の1つの表面の少なくとも1つは、累進表面形態を有し得る。この明細書は、水平方
向における屈折率プロファイルを表面のジオメトリによるそれの完全補正に使用すること
ができると記載している。
【0017】
Yuki Shitanoki et al.:“Application of G
raded-Index for Astigmatism Reduction in
Progressive Addition Lens”,Applied Phys
ics Express,Vol.2,March 1,2009,page 0324
01は、同じ成形金型を用いて成形された2つの累進屈折力眼鏡レンズの比較により、屈
折率勾配を有する累進屈折力眼鏡レンズの場合の乱視が、屈折率勾配のない累進屈折力眼
鏡レンズと比較して低減することができると記載している。
【0018】
欧州特許公開第2 177 943 A1号明細書は、対象者の視覚的印象に影響する
基準リストからの少なくとも1つの基準に従った光学系、例えば眼科レンズの最適化によ
って計算する方法を記載している。この文献は、目標値及び基準値を考慮に入れて費用関
数を最小化することを提案している。そのような費用関数の一般公式が指定されている。
特に、以下の2つの例が指定されている。
段落[0016]:「一実施形態では、最適化される光学作業系は、少なくとも2つの
光学表面を含み、変更されるパラメータは、少なくとも光学作業系の2つの光学表面の式
の係数である。」
段落[0018]:「最適化される光学系が少なくとも2つの光学表面を含む一実施形
態では、光学作業系の変更は、少なくとも光学作業系の屈折率が変更されるように実行さ
れる。屈折率に勾配が存在する不均質材料からレンズ(GRINレンズとして知られてい
る)を製造することが可能である。例として、最適化される屈折率の分布は、軸方向分布
又は径方向分布であり得、且つ/又は波長に依存し得る。」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、従来技術と比較して累進屈折力眼鏡レンズのイメージング特性を大幅
に改良することである。そうするにあたり、特にミンクウィッツ定理の結果としての制限
を低減し、可能な場合にはなくすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この目的は、請求項1の特徴を有する製品及び請求項4の特徴を有する方法によって達
成される。有利な実施形態及び発展形態は、従属請求項の主題である。
【0021】
特に、可変屈折率を有する材料(GRIN)が目的達成のために使用される。国際公開
第89/04986 A1号パンフレットとは対照的に、この場合、表面ジオメトリの簡
易化は、正確には追求されない。
【0022】
対照的に、本発明者らは、従来技術からのイメージング品質の実質的な改良が屈折率分
布及び自由形態表面の形態の同時最適化のみによって得られると判断した。これは、特に
中間累進帯の側への領域において当てはまる。
【0023】
したがって、本発明は、以下の代替形態の1つを特徴とする。
(1)屈折率は、第1の空間次元及び第2の空間次元でのみ変わり、第3の空間次元で
は一定であり、第1の空間次元及び第2の空間次元における屈折率分布は、点対称も軸対
称も有さない。
(2)屈折率は、第1の空間次元、第2の空間次元及び第3の空間次元において変わる
。第3の空間次元に直交する全ての平面での第1の空間次元及び第2の空間次元における
屈折率の分布は、点対称も軸対称も有さない。
(3)屈折率は、第1の空間次元、第2の空間次元及び第3の空間次元において変わる
。屈折率の分布は、点対称も軸対称も全く有さない。
【0024】
本発明の好ましい一実施形態変形では、(1)又は(2)の場合の第3の空間次元は、
- 意図される使用中、主固視方向から5°以下だけ異なるか、又は
- 意図される使用中、主固視方向から10°以下だけ異なるか、又は
- 意図される使用中、主固視方向から20°以下だけ異なるか、又は
- 意図される使用中、主視線方向から5°以下だけ異なるか、又は
- 意図される使用中、主視線方向から10°以下だけ異なるか、又は
- 意図される使用中、主視線方向から20°以下だけ異なるか、又は
- 累進屈折力眼鏡レンズの幾何学中心における前面の法線ベクトルの方向から5°以
下だけ異なるか、又は
- 累進屈折力眼鏡レンズの幾何学中心における前面の法線ベクトルの方向から10°
以下だけ異なるか、又は
- 累進屈折力眼鏡レンズの幾何学中心における前面の法線ベクトルの方向から20°
以下だけ異なるか、又は
- プリズム測定点における法線ベクトルの方向から5°以下だけ異なるか、又は
- プリズム測定点における法線ベクトルの方向から10°以下だけ異なるか、又は
- プリズム測定点における法線ベクトルの方向から20°以下だけ異なるか、又は
- 心取り点における法線ベクトルの方向から5°以下だけ異なるか、又は
- 心取り点における法線ベクトルの方向から10°以下だけ異なるか、又は
- 心取り点における法線ベクトルの方向から20°以下だけ異なる方向に延在する。
【0025】
DIN EN ISO 13666:2013-10-14.2.12によれば、プリ
ズム測定点(累進屈折力眼鏡レンズ又は累進屈折力眼鏡レンズブランクの場合)とは、仕
上げられたレンズのプリズム効果が特定される必要がある、製造業者によって規定される
前面における点である。心取り点の定義は、DIN EN ISO 13666:201
3-10のセクション5.20に見出される。
【0026】
本発明によれば、自由形態表面とは、好ましくは、2015年12月付けDIN SP
EC 58194のセクション2.1.2に対応する、狭義での自由形態表面、特に微分
幾何学の範囲内で数学的に記述され、点対称も軸対称も有さない、自由形態技術を使用し
て製造された眼鏡レンズ表面である。
【0027】
中間累進帯の幅が増大するような中間累進帯の側への残余乱視の低減は、相当な改良で
あるとみなされるべきである。この幅は、眼鏡装用者によって苛立ちとして知覚される残
余乱視の境界によって定義される。この境界は、通常、0.25ジオプタ~0.50ジオ
プタの範囲にある。更に、中間領域、好ましくは主視線から20mmの水平距離における
最大残余乱視を低減することも可能である。
【0028】
これらの実質的な改良は、正確には、近見視中、眼鏡装用者の目の集束運動に設計を適
合させることによって生じる、非対称(光学)設計を有する累進屈折力レンズに対しても
取得され、すなわち、眼鏡装用者にとっての残余非点収差及び球面収差のその分布は、眼
鏡レンズ全体にわたって軸対称を有さない。
【0029】
本発明による最適化に従い、少なくとも1つの自由形態表面及び非一定、一般に非対称
分布の屈折率をレンズに有する累進屈折力眼鏡レンズが生じる。
【0030】
本発明によれば、この累進屈折力眼鏡レンズは、第1の代替形態では、境界面のジオメ
トリを維持しながら、GRIN材料が、一定の屈折率を有する材料で置換される場合、処
方による眼鏡装用者の光学要件を満たさないことを特徴とする。
【0031】
別の言い方をすれば、本発明の主題は、
(a)累進屈折力眼鏡レンズ及び累進屈折力眼鏡レンズを使用するための指示、又は
(b)コンピュータ可読データの形態における、データ媒体に配置された累進屈折力眼
鏡レンズの表現及び累進屈折力眼鏡レンズを使用するための指示、又は
(c)コンピュータ可読データの形態における累進屈折力眼鏡レンズの仮想表現を有す
るデータ媒体及び累進屈折力眼鏡レンズを使用するための指示、又は
(d)コンピュータ可読データ信号の形態における、累進屈折力眼鏡レンズの表現及び
累進屈折力眼鏡レンズを使用するための指示
を含む製品であって、
- 累進屈折力眼鏡レンズは、前面及び後面を有する基板を含み、前記基板は、空間的
に変化する屈折率を有する材料からなり、
- 前面及び/又は後面は、自由形態表面ジオメトリを有し、
- 累進屈折力眼鏡レンズは、遠用部設計基準点及び近用部設計基準点を有し、
- 累進屈折力眼鏡レンズは、以下の光学要件:
(1)遠用部設計基準点における処方屈折度数が、DIN EN ISO 8980-
2:2004に準拠した許容限度偏差内にあり、及び近用部設計基準点における処方屈折
度数が、DIN EN ISO 8980-2:2004に準拠した許容限度偏差内にあ
ること、
(2)屈折度数が遠用部設計基準点と近用部設計基準点との間で連続して単調に増加す
ること、
(3)中間累進帯であって、
(a)0.25ジオプタ、
(b)0.38ジオプタ、
(c)0.50ジオプタ
の群からの値未満にある残余乱視によって定義される中間累進帯があること
を満たす、製品を含む。
【0032】
本発明によれば、累進屈折力眼鏡レンズの前面及び/又は後面の自由形態表面並びに屈
折率の空間的変動は、この代替形態では、同じジオメトリを有するが、空間的に変化しな
い屈折率を有する対照累進屈折力眼鏡レンズが前記光学要件(1)~(3)の少なくとも
1つを満たさないように互いに適合される。
【0033】
本発明の範囲内において、「データ媒体に配置された累進屈折力眼鏡レンズの表現」と
いう表現は、例えば、コンピュータのメモリに記憶された累進屈折力眼鏡レンズの表現を
意味すると理解される。
【0034】
累進屈折力眼鏡レンズを使用するための指示は、特に、眼鏡が装用されている間、装用
者の両目及び顔に関する累進屈折力眼鏡レンズ又は累進屈折力眼鏡レンズが挿入された眼
鏡の位置及び向きを示す。例として、使用条件は、「装用時」前掲角(DIN ISO
13666:2013-10、セクション5.18)、そり角(DIN ISO 136
66:2013-10、セクション17.3)及び頂点間距離(DIN ISO 136
66:2013-10、セクション5.27)によって指定することができる。「装用時
」前掲角の典型的な値は、-20度~+30度であり、垂直間距離の典型的な値は、5m
m~20mmの範囲であり、そり角の典型的な値は、-5度~+30度の範囲である。「
装用時」前掲角、反り角及び頂点間距離に加えて、使用条件は、一般に、DIN ISO
13666:2013-10、セクション5.29に準拠する瞳孔間距離、すなわち両
目が直線方向に前の位置の無限遠における物体を固視しているときの瞳孔の中心間距離、
心取りデータ、すなわち眼鏡レンズを目の前でセンタリングするのに必要な寸法及び距離
並びに眼鏡レンズ表面上の特定の点が最適化される物体距離を設定する物体距離モデルも
含む。
【0035】
DIN ISO 13666:2013-10、セクション5.18に準拠して、「装
用時」前掲角とは、ボクシング中心における眼鏡レンズの前面の法線と、通常、水平と解
釈される第1眼位における目の視線との間の垂直面における角度である。
【0036】
DIN ISO 13666:2013-10、セクション17.3によれば、そり角
とは、眼鏡フロントの平面と右玉形又は左玉形の平面との間の角度である。
【0037】
DIN ISO 13666:2013-10、セクション5.27によれば、頂点間
距離とは、視線が眼鏡フロントの平面と直交する状態で測定された眼鏡レンズの後面と角
膜頂点との間の距離である。
【0038】
DIN ISO 13666:2013-10、セクション17.1によれば、玉形の
平面とは、フレームに搭載されたとき、ボクシング中心におけるプラノレンズ、デモレン
ズ又はダミーレンズの前面に正接する平面である。
【0039】
DIN ISO 13666:2013-10、セクション17.2によれば、眼鏡フ
ロントの平面とは、左右のボクシング玉形の2つの垂直中心線を含む平面である。
【0040】
累進屈折力眼鏡レンズの表現は、特に累進屈折力眼鏡レンズの幾何学的形態及び媒体の
記述を含むことができる。例として、そのような表現は、前面、後面、互い及び累進屈折
力眼鏡レンズの縁に対するこれらの表面の配置(厚さを含む)並びに累進屈折力眼鏡レン
ズを構成すべき媒体の屈折率分布の数学的記述を含み得る。表現は、符号化された形態又
は暗号化された形態で存在することができる。ここで、媒体とは、累進屈折力眼鏡レンズ
の製造に使用される1つ又は複数の材料又は物質を意味する。累進屈折力眼鏡レンズは、
複数の層からなり得、例えばプラスチックが塗布された10μm~500μmの厚さを有
する極めて薄いガラスからなり得る。
【0041】
DIN EN ISO 13666:2013-10のセクション9.3によれば、屈
折度数とは、眼鏡レンズの焦点屈折力及びプリズム屈折力を含む一般的な用語である。し
たがって、通常、眼鏡装用者の屈折異常を矯正するのに必要とされる球面屈折力、円柱屈
折力、円柱屈折力の軸及び加入屈折力からなる屈折度数についてのデータを含む。累進屈
折力眼鏡レンズのDIN EN ISO 13666:2013-10による測定点、特
に設計基準点において、測定値は、規格DIN 8980-2:2004に準拠した許容
差セットを観測しなければならない。これは、基準点における眼鏡装用者の処方屈折力に
も当てはまるべきである。この連続勾配の曲線及び累進長は、眼鏡装用者によるガラスタ
イプ(ガラス設計)の選択によって設定される。
【0042】
DIN EN ISO 13666:2013-10の14.2.1によれば、加入屈
折力は、指定された条件下で測定される近用部の頂点屈折力と遠用部の頂点屈折力との間
の差を意味するものと理解される。DIN EN ISO 13666:2013-10
の11.1は、平行光の近軸光束を1つの焦点にもっていく眼鏡レンズとして球面屈折力
眼鏡レンズを定義する。この規格のセクション12.1は、平行光の近軸光束を相互に直
角の2つの別個の線焦点にもっていき、したがって2つの主経線でのみ頂点屈折力を有す
る眼鏡レンズとして乱視屈折力眼鏡レンズを定義する。11.2によれば、球面屈折力又
は球面とは、基準に選択される主経線に応じて、球面屈折力眼鏡レンズの後面頂点屈折力
の値又は乱視屈折力眼鏡レンズの2つの主経線の一方における頂点屈折力である。この規
格の12.5は、基準に選択される主経線に応じて、プラス又はマイナスの乱視差として
円柱屈折力又は円柱を定義する。
【0043】
第2の代替形態では、本発明による累進屈折力眼鏡レンズは、以下として特徴付けるこ
ともできる。
【0044】
1つのみの自由形態表面を有する、本発明による累進屈折力眼鏡レンズでは、累進屈折
力眼鏡レンズの屈折率は、眼鏡装用者が累進屈折力眼鏡レンズの屈折力増大の半分を受け
る、前面又は任意選択的に後面における主視線の点において特定することができる。
【0045】
主視線は、遠用から近用への眼鏡装用者の直線方向に前の物体点上の目の注視運動中、
眼鏡レンズ表面を通る全ての視点の全体を意味するものと理解される。主視線は、通常、
中間累進帯の中心を通して延びる。
【0046】
したがって、自由形態表面にこの一定の屈折率を有する表面非点収差の分布は、自由形
態表面上の主視線のこの屈折率を用いて自由形態表面の曲率半径によって計算することが
できる。
【0047】
自由形態表面の表面非点収差分布は、同じ屈折度数及び同じ使用条件に向けて最適化さ
れるとともに、眼鏡レンズ装用者に同じ屈折力分布を有する、同じ相対位置の自由形態表
面及び同じ対向表面を有する従来技術による一定の屈折率を有する材料で作られた基板に
基づく累進屈折力眼鏡レンズと同じ方法で確認することができる(本発明による累進屈折
力眼鏡レンズにも使用された屈折率を使用して計算される)。
【0048】
中間累進帯におけるイメージング特性の改善の結果として、本発明による累進屈折力眼
鏡レンズは、中間領域における主視線周囲の領域での表面非点収差値を増大させる。
【0049】
これらは、特に従来技術による累進屈折力眼鏡レンズが中間部における主視線に沿って
眼鏡装用者に対して同様の非点収差偏差を有する場合、少なくとも0.25dptから加
入屈折力/3dptだけ従来技術による累進屈折力眼鏡レンズの対応する表面非点収差値
の上にある。
【0050】
ここで、比較領域は、3mm、5mm又は10mmまでの主視線の両側への水平広がり
を有し、垂直に少なくとも主視線における加入屈折力が眼鏡装用者にとって0.25
入屈折力~0.75加入屈折力だけ増大する領域を有する。
【0051】
別の言い方をすれば、本発明の主題は、
a)累進屈折力眼鏡レンズ及び累進屈折力眼鏡レンズを使用するための指示、又は
b)コンピュータ可読データの形態における、データ媒体に配置された累進屈折力眼鏡
レンズの表現及び累進屈折力眼鏡レンズを使用するための指示、又は
c)コンピュータ可読データの形態における累進屈折力眼鏡レンズの仮想表現を有する
データ媒体及び累進屈折力眼鏡レンズを使用するための指示、又は
d)コンピュータ可読データ信号の形態における、累進屈折力眼鏡レンズの表現及び累
進屈折力眼鏡レンズを使用するための指示
を含む製品であって、
- 累進屈折力眼鏡レンズは、前面及び後面を有する基板を含み、前記基板は、空間的
に変化する屈折率を有する材料からなり、前面は、前面ジオメトリを有し、及び後面は、
後面ジオメトリを有し、
- 前面ジオメトリ及び/又は後面ジオメトリは、自由形態表面ジオメトリであり、
- 累進屈折力眼鏡レンズは、遠用部設計基準点及び近用部設計基準点を有し、
- 累進屈折力眼鏡レンズは、以下の光学要件:
(1)遠用部設計基準点における処方屈折度数が、DIN EN ISO 8980-
2:2004に準拠した許容限度偏差内にあり、及び近用部設計基準点における処方屈折
度数が、DIN EN ISO 8980-2:2004に準拠した許容限度偏差内にあ
ること、
(2)屈折度数が遠用部設計基準点と近用部設計基準点との間で連続して単調に増加す
ること、
(3)中間累進帯であって、
(a)0.25ジオプタ、
(b)0.38ジオプタ、
(c)0.50ジオプタ
の群からの値未満にある残余乱視によって定義される中間累進帯があること
を満たす、製品を含む。
【0052】
累進屈折力眼鏡レンズの前面が自由形態表面ジオメトリを有する場合、前面の自由形態
表面ジオメトリは、対照累進屈折力眼鏡レンズであって、同じ後面ジオメトリと、同じ屈
折度数プロファイルと、累進屈折力眼鏡レンズを使用するための指示に基づく、主視線を
通る眼鏡装用者ビーム路のための同じ残余乱視と、空間的に変化する屈折率を有する材料
で作られた基板を有する累進屈折力眼鏡レンズが全体屈折度数増加の半分を受ける、前面
上の主視線の点における累進屈折力眼鏡レンズの基板の材料の空間的に変化する屈折率の
値に対応する値を有する、空間的に変化しない屈折率を有する材料で作られた基板とを有
する対照累進屈折力眼鏡レンズに関連して変更される。累進屈折力眼鏡レンズの前面の変
更された自由形態表面ジオメトリ及び屈折率の空間的変動は、この累進屈折力眼鏡レンズ
について、関連する眼鏡装用者ビーム路が、この累進屈折力眼鏡レンズが全体平均屈折力
増加の半分を受ける、主視線上の場所を通して延びる点における、計算によって確認され
る前面の表面非点収差の第1の値が、関連する眼鏡装用者ビーム路が、この対照累進屈折
力眼鏡レンズが全体平均屈折力増加の半分を受ける、主視線上の場所を通して延びる点に
おける、空間的に変化しない屈折率を有する材料からの対照累進屈折力眼鏡レンズについ
て計算によって確認される、自由形態表面ジオメトリを有する前面の表面非点収差の第2
の値よりも大きいように互いに適合される。
【0053】
累進屈折力眼鏡レンズの後面が自由形態表面ジオメトリを有する場合、後面の自由形態
表面ジオメトリは、対照累進屈折力眼鏡レンズであって、同じ前面ジオメトリと、同じ屈
折度数プロファイルと、累進屈折力眼鏡レンズを使用するための指示に基づく、主視線を
通る眼鏡装用者ビーム路のための同じ残余乱視と、空間的に変化する屈折率を有する材料
で作られた基板を有する累進屈折力眼鏡レンズが全体屈折度数増加の半分を受ける、後面
上の主視線の点における累進屈折力眼鏡レンズの基板の材料の空間的に変化する屈折率の
値に対応する値を有する、空間的に変化しない屈折率を有する材料で作られた基板とを有
する対照累進屈折力眼鏡レンズに関連して変更される。更に、累進屈折力眼鏡レンズの後
面の変更された自由形態表面ジオメトリ及び屈折率の空間的変動は、この累進屈折力眼鏡
レンズについて、関連する眼鏡装用者ビーム路が、この累進屈折力眼鏡レンズが全体平均
屈折力増加の半分を受ける、主視線上の場所を通して延びる点における、計算によって確
認される後面の表面非点収差の第1の値が、関連する眼鏡装用者ビーム路が、この対照累
進屈折力眼鏡レンズが全体平均屈折力増加の半分を受ける、主視線上の場所を通して延び
る点における、空間的に変化しない屈折率を有する材料からの対照累進屈折力眼鏡レンズ
について計算によって確認される、自由形態表面ジオメトリを有する後面の表面非点収差
の第2の値よりも大きいように互いに適合される。
【0054】
したがって、先に指定した主視線上の点は、加入屈折力を有する場所に対応する。
【0055】
計算によって確認される第1の表面非点収差は、空間的に変化する屈折率を有する材料
で作られた基板を有する累進屈折力眼鏡レンズが全体屈折度数増大の半分を受ける、前面
上の主視線の点における基板の屈折率の値に対応する値を有する一定の屈折率に基づいて
計算される。
【0056】
対照累進屈折力眼鏡レンズの自由形態表面ジオメトリを有する表面は、本発明による累
進屈折力眼鏡レンズと同じ相対位置を有する。換言すれば、自由形態表面が本発明による
累進屈折力眼鏡レンズの前面である場合、これは、対照累進屈折力眼鏡レンズにも当ては
まる。自由形態表面が本発明による累進屈折力眼鏡レンズの後面である場合、これは、対
照累進屈折力眼鏡レンズにも当てはまる。
【0057】
更に、本発明による累進屈折力眼鏡レンズ及び対照累進屈折力眼鏡レンズは、自由形態
表面に対向する、対応するジオメトリを有する表面も有するべきである。
【0058】
主視線に沿った屈折度数曲線も、本発明による累進屈折力眼鏡レンズ及び対照累進屈折
力眼鏡レンズで同じであるべきである。
【0059】
対照累進屈折力眼鏡レンズの屈折率は、本発明による累進屈折力眼鏡レンズの自由形態
表面の表面非点収差の計算に使用された値に精密に対応すべきである。したがって、屈折
率は、空間的に変化する屈折率を有する材料で作られた基板を有する、本発明による累進
屈折力眼鏡レンズが全体屈折度数増大の半分である、前面(前面が自由形態表面である場
合)又は後面(後面が自由形態表面である場合)上の主視線の点における基板の屈折率の
値に対応する値を有するべきである。
【0060】
先に指定された目的は、これらの2つの代替形態によって完全に達成される。
【0061】
本発明によるレンズの最適化は、例えば、このレンズの特定の処方、特定の使用条件(
前掲角、そり角、頂点間距離、心取り等)及び特定の厚さについて最適化された、一定の
屈折率を有する従来技術による既存の累進屈折力眼鏡レンズの設計から進めることができ
る。
【0062】
本明細書における設計という用語は、レンズ全体にわたる眼鏡装用者の残余球面収差及
び残余非点収差の分布を示す。この累進屈折力眼鏡レンズでは、特に中間部で小さい残余
非点収差を得ることができる、説明の導入部において指定された定義に従って主視線を定
義することが可能である。中間部とは、遠用部(遠用視のための領域:DIN EN I
SO 13666:2013-10、セクションの14.1.1セクションを参照された
い)と近用部(近用視のための領域:DIN EN ISO 13666:2013-1
0のセクション14.1.3を参照されたい)との間の遷移領域全体である。DIN E
N ISO 13666:2013-10は、セクション14.1.2におけて、遠用部
と近用部との間の中間範囲における視覚の屈折度数を有する3焦点レンズの部分として中
間部を定義する。この定義は、本事例において拡張される。
【0063】
しかしながら、ミンクウィッツの法則により、残余非点収差は、主視線と並んで水平方
向に増大する(垂直方向における屈折度数の増大により)。
【0064】
本発明の目的は、主視線と並んで(すなわち中間部の中央領域において)これらの残余
球面収差及び残余非点収差、特に残余非点収差を低減することである。
【0065】
この設計から進んで、前の分布の球面収差及び非点収差を含む新しいターゲット設定を
生成することが可能であるが、これらは、特に中央中間部で低減する。この場合、残余非
点収差は、好ましくは、例えば改善されたターゲット設計を得るために0.5~0.8の
係数で乗算されることにより、主視線周囲の領域(例えば、主視線から5.10mm~2
0mmの距離にある領域)において低減される。
【0066】
ターゲット設計は、例えば、レンズ全体の全面にわたり分布する多くの点における残余
光学収差、特に球面収差及び非点収差の規定化によって固定することもできる。この場合
、眼鏡装用者がレンズを通して見ているときの眼鏡装用者の屈折力及び/又は残余球面収
差及び残余非点収差が特定される物体の距離についての仕様があり得る。更に、累進面上
の更なる点における表面曲率、更なる点における厚さ要件(特に幾何学中心及び累進屈折
力眼鏡レンズの縁部における)及びプリズム要件についての規定があり得る。
【0067】
個々の重みwijを前記点Piのそれぞれにおけるこれらの光学規定及び幾何学的規定
ijに割り当てることができる。したがって、点Pにおける規定ijの残余収差、表
面曲率、プリズム屈折力及び厚さrijが開始レンズ(例えば、一定の屈折率に対して最
適化された累進屈折力眼鏡レンズ)に対して決定される場合、合計収差Gを特定すること
が可能である。
【数1】
【0068】
光学レンズ特性及び幾何学的レンズ特性に依存するこの関数値Gは、表面ジオメトリ及
び屈折率分布を同時に変更することにより、既知の数学的方法によって最小化することが
できる。先に指定した要件に関して特性を改善した累進屈折力眼鏡レンズは、このように
して得られる。
【0069】
代替的に、可変屈折率を有する材料を有する累進屈折力眼鏡レンズを最適化するために
、元のターゲット設計、すなわち一定の屈折率を有するレンズの最適化に使用されたター
ゲット設計を使用することも可能である。この場合、元の設計での最適化に使用された重
みを使用又は変更することができる。特に、累進領域における累進屈折力眼鏡レンズの特
性改善を得るために、中間累進帯における残余非点収差及び球面収差の重みを増大させる
か、又は残余非点収差及び球面収差のターゲット規定を低減することができる。しかしな
がら、中間累進帯における重みの増大は、本明細書では、一定の屈折率を有する材料を有
する最適化されたレンズの非点収差及び球面収差が(新しい)ターゲット設計の規定に依
然として対応していない場合にのみ好都合である。
【0070】
元の設計が眼鏡装用者によって既に承認されている場合、残余光学収差は、新しい設計
を用いて低減されるため、この手順は、いずれにしても眼鏡装用者にとってより快適な設
計をもたらす。全体的に達成されるのは、一定の屈折率を有する材料を用いて取得可能で
はなく、このターゲット設計を用いて、自由形態表面及び非一定屈折率を有する材料の屈
折率分布の同時最適化によって取得可能な新しい改善されたターゲット設計であり、特に
より広い中間累進部、中間領域におけるより低い最大残余非点収差、したがって中間領域
におけるより低い歪みを有する改善された累進屈折力眼鏡レンズ設計を達成することが可
能である。
【0071】
本発明による、累進屈折力眼鏡レンズを設計するコンピュータ実施方法であって、累進
屈折力眼鏡レンズは、前面及び後面を有する基板を含み、前記基板は、空間的に変化する
屈折率を有する材料からなり、累進屈折力眼鏡レンズの前面及び/又は後面は、遠用部設
計基準点及び近用部設計基準点を有する自由形態表面ジオメトリを有し、及び累進屈折力
眼鏡レンズは、以下の光学要件:
(1)DIN EN ISO 8980-2:2004に準拠した許容限度偏差内の遠
用部設計基準点における処方屈折度数及びDIN EN ISO 8980-2:200
4に準拠した許容限度偏差内の近用部設計基準点における処方屈折度数、
(2)主視線上の遠用部設計基準点と近用部設計基準点との間の処方屈折度数の単調増
加勾配、
(3)中間累進帯であって、
(a)0.25ジオプタ、
(b)0.38ジオプタ、
(c)0.50ジオプタ
の群からの値未満にある残余乱視によって定義される中間累進帯
を満たす、コンピュータ実施方法において、
(i)累進屈折力眼鏡レンズの前面及び/又は後面の自由形態表面ジオメトリ並びに屈
折率の空間的変動は、同じジオメトリを有するが、空間的に変化しない屈折率を有する材
料で作られた基板に基づく対照累進屈折力眼鏡レンズが光学要件(1)~(3)の少なく
とも1つを満たさないように互いに適合されること、又は
(ii)累進屈折力眼鏡レンズの前面及び/又は後面の自由形態表面ジオメトリ並びに
屈折率の空間的変動は、この累進屈折力眼鏡レンズについて、関連する眼鏡装用者ビーム
路が、この累進屈折力眼鏡レンズが全体平均屈折力増加の半分を受ける、主視線の場所を
通して延びる点における、計算によって確認される、自由形態表面ジオメトリを有する表
面の表面非点収差の第1の値が、関連する眼鏡装用者ビーム路が、対照累進屈折力眼鏡で
あって、この対照累進屈折力眼鏡レンズが全体平均屈折力増加の半分を受ける、主視線上
の場所を通して延びる点における、空間的に変化しない屈折率を有する材料からの対照累
進屈折力眼鏡レンズについて計算によって確認される、自由形態表面ジオメトリを有する
表面の表面非点収差の第2の値よりも大きいように互いに適合され、対照累進屈折力眼鏡
レンズは、自由形態表面ジオメトリを有する表面の同じ相対位置及び対向する表面の同じ
ジオメトリ、主視線に沿った同じ屈折度数プロファイルを有し、及び屈折率は、空間的に
変化する屈折率を有する材料で作られた基板を有する累進屈折力眼鏡レンズが全体屈折度
数増加の半分を受ける、前面上の主視線の点における基板の屈折率の値に対応する値を有
すること
を特徴とするコンピュータ実施方法である。
【0072】
先に指定した目的は、これらの2つの代替形態によって完全に達成される。
【0073】
本発明は、加法的方法により、上述した製品の任意の1つによる累進屈折力眼鏡レンズ
又は上述したタイプの方法を使用して設計された累進屈折力眼鏡レンズを製造する方法に
も関する。
【0074】
加法的方法とは、累進屈折力眼鏡レンズが順次構築される方法である。特に、この状況
では、いわゆるデジタルファブリケータは、特に、従来の研磨方法を使用して実現可能で
はないか又は困難さを伴ってのみ実現可能な略あらゆる構造の製造選択肢を提供すること
が分かっている。デジタルファブリケータ機械クラス内において、3Dプリンタは、加法
、すなわち累積の構築ファブリケータの最も重要なサブクラスを表す。3Dプリントの最
も重要な技法は、金属のための選択的レーザ溶融(SLM)及び電子ビーム溶融、ポリマ
ー、セラミックス及び金属のための選択的レーザ焼結、液体人工樹脂のためのステレオリ
ソグラフィ(SLA)及びデジタル光処理並びにプラスチック及び部分的に人工樹脂のた
めのマルチジェット又は又はポリジェット成形(例えば、インクジェットプリンタ)及び
溶融堆積成形(FDM)である。更に、例えば、2017年1月12日に検索されたht
tp://peaknano.com/wp-content/uploads/PEA
K-1510-GRINOptics-Overview.pdfに記載されているよう
な、ナノポリマーを用いた構築も既知である。
【0075】
3Dプリントによって製造するソース材料及び3D製造法自体の選択肢は、例えば、欧
州特許出願公開第16195139.7号明細書から収集することができる。
【0076】
本発明の発展形態は、累進屈折力眼鏡レンズを製造する方法であって、上述したような
累進屈折力眼鏡レンズを設計し、且つ設計に従って累進屈折力眼鏡レンズを製造する方法
を含む方法を含む。
【0077】
設計に従って累進屈折力眼鏡レンズを製造することは、本発明によれば、加法的方法に
よって実施され得る。
【0078】
本発明の別の発展形態は、上述したタイプによる累進屈折力眼鏡レンズを設計する方法
を実行するように構成されたプロセッサを含むコンピュータを含む。
【0079】
本発明について図面を参照して以下に更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
図1】ミンクウィッツ定理を示すために、一定の屈折率を有する材料で作られた基板を有する累進屈折力眼鏡レンズ(従来技術)のイソ残余乱視分布を有する図を示す。
図2】一定の屈折率n=1.60を有する材料で作られた基板を有する累進屈折力眼鏡レンズ(従来技術)の光学特性 a)平均屈折力、 b)残余乱視、 c)平均表面屈折度数、 d)表面非点収差を示す。
図3】変化する屈折率を有する材料で作られた基板を有する、本発明による累進屈折力眼鏡レンズの光学特性 a)平均屈折力、 b)残余乱視、 c)屈折率n=1.60に関連する平均表面屈折度数、 d)屈折率n=1.60に関連する表面非点収差、 e)屈折率分布、 f)屈折率分布のフリンジ-ゼルニケ係数を示す。
図4】一定の屈折率n=1.60を有する材料で作られた基板に基づいて計算された、図3による本発明による累進屈折力眼鏡レンズと同じジオメトリを有する対照累進屈折力眼鏡レンズの光学特性 a)平均屈折力、 b)残余乱視を示す。
【発明を実施するための形態】
【0081】
以下に説明する例示的な実施形態では、以下の要件が仮定される:
球面屈折力:Sph=0.00dpt、
円柱屈折力:Cyl=0.00dpt、
加入屈折力:Add=2.50dpt、
累進長:L=14mm、
前掲角:9度、
そり角:5度、
目の回転中心からの距離:25.5mm、
物体距離近:380mm、
半径R=109.49mmを有する前面球面、
後面自由形態表面、
平均厚2.55mm。
【0082】
図2は、従来技術による一定の屈折率n=1.60を有する材料で作られた基板を有す
る累進屈折力眼鏡レンズの光学特性を示す。平均屈折力は、図2a)から収集することが
できる。水平に直線方向に前を注視する場合(すなわち幾何学中心の4mm上のレンズを
通る視点の場合)、眼鏡装用者は、平均屈折力0dptを得、幾何学中心の11mm下の
点を通り、鼻方向において-2.5mmを水平に注視する場合、前記眼鏡装用者は、平均
屈折力2.50dptを得る。したがって、すなわち、レンズ屈折力は、長さ15mmに
わたり概ね2.50dptだけ増大する。
【0083】
図2b)に示される従来技術による累進屈折力眼鏡レンズの残余乱視プロファイルは、
ミンクウィッツ定理によって予期される主視線に直交する方向における残余乱視の増大を
示す。示される例では、残余乱視<1dptの領域(中間累進帯)の幅について以下の値
が現れる:
0.25加入屈折力の場合:6.1mm、
0.50加入屈折力の場合:4.6mm、
0.75加入屈折力の場合:5.0mm。
【0084】
図面中、これは、-0.5mm、-4mm、-7.5mmのy値に対応する。主視線は
、図面に記されている。
【0085】
図2c)は、自由形態表面として実施される後面の平均表面屈折度数の分布を示す。表
面曲率は、上から下に連続して低下し、平均表面屈折力値は、y=概ね2mmにおける-
5.50dptからy=-15mmにおける-3.50に増加する。
【0086】
図2d)から収集することができる従来技術による累進屈折力眼鏡レンズの後面の表面
非点収差の分布は、この場合、眼鏡レンズの残余乱視に厳密に対応する:遠用部及び中間
累進帯における非点収差消失、中間累進帯の側に向かって急速に増大する非点収差。
【0087】
ここで、本発明による累進屈折力眼鏡レンズは、後述する光学特性によって区別され、
図3a)~図3f)に示される。
【0088】
従来技術による累進屈折力眼鏡レンズの平均屈折力の分布に対応する平均屈折力の分布
は、図2a)に示され、図3a)から収集することができる。特に、図2a)及び図3
)から、中間累進帯における主視線に沿った屈折力増大が同じであることを収集すること
が可能である。
【0089】
図3b)に示される残余乱視プロファイルは、主視線に直交する方向における残余乱視
の増大を示し、これは、従来技術よりも本発明によるGRIN累進屈折力眼鏡レンズにお
いてはるかに低い。示される例では、残余乱視<1dptの領域(中間累進帯)の幅につ
いて以下の値が現れる:
0.25加入屈折力の場合:7.3mm、
0.50加入屈折力の場合:6.0mm、
0.75加入屈折力の場合:6.5mm。
【0090】
図面中、これは、-0.5mm、-4mm、-7.5mmのy値に対応する。
【0091】
したがって、一定の屈折率を有するレンズに関連した累進帯の幅広化は、あらゆる場所
で少なくとも1.2mmであり、少なくとも20%の幅広化に対応する。
【0092】
図3c)は、屈折率n=1.60に関連する裏面自由形態表面の平均表面屈折度数を示
し、図3d)は、屈折率n=1.60に関連する裏面自由形態表面の表面非点収差を示す
。平均曲率に関して図2c)及び表面非点収差に関して図2d)と比較できるようにする
ために、計算中に使用されたのは、GRIN材料ではなく、屈折率n=1.600を有す
る材料であった。
【0093】
図3c)及び図3d)との図2c)及び図2d)の比較は、自由形態表面の形態が大幅
に変更された:平均表面屈折度数の分布及び表面非点収差の分布(n=1.600を用い
て計算された)は、両方とも典型的な中間累進帯をもはや明らかにしないことを示す。本
発明によるGRIN累進屈折力眼鏡レンズの場合、これが表面形状のみからの累進屈折力
レンズであると判断することは可能ではない:非点収差は、遠用部からも中間累進帯から
も消えない。
【0094】
本発明による累進屈折力眼鏡レンズの屈折率分布を図3e)に示す。点対称も軸対称も
有さないという特徴がある。最小屈折率1.55は、上横領域に生じ、最大屈折率1.6
4は、下領域に生じている。屈折率分布は、示される平面に直交する方向で不変であり、
したがって2つの空間次元でのみ変化する。
【0095】

【数2】

は、本発明による累進屈折力眼鏡レンズの屈折率分布のフリンジ-ゼルニケ級数展開を表
す。Z(x,y)は、デカルト座標におけるフリンジ-ゼルニケ多項式を示す。例によ
る本発明による累積屈折力眼鏡レンズの屈折率分布のフリンジ-ゼルニケ係数は、図3
)から収集される。
【0096】
比較目的で、図4a)及び図4b)は、一定の屈折率n=1.60を有する材料で作ら
れた基板に基づいて計算された、図3による本発明による累進屈折力眼鏡レンズと同じジ
オメトリを有する対照累進屈折力眼鏡レンズの光学特性を示す。
【0097】
図4a)及び図4b)に示される平均屈折力及び残余乱視の分布は、使用可能な累進屈
折力眼鏡レンズ、特に本明細書に記載される使用条件及び眼鏡装用者に必要とされる光学
矯正に必要な特性を有さない。図4b)から収集することができるように、少なくとも0
.75dptの残余乱視が既に遠用部に存在する。したがって、この累進屈折力眼鏡レン
ズは、本明細書で考慮される正視眼鏡装用者にとって有用ではない。図4a)から収集す
ることができるように、必要とされる近用部屈折力2.5dptは、いずれの箇所でも達
成されない。更に、図4b)に示されるように、残余乱視は近用部の広い領域で1dpt
超である。
【0098】
本発明の主題を欧州特許庁審決の判断J15/88の意義の範囲内において条項の形態
で概説する。
【0099】
1.(i)累進屈折力レンズ、(ii)データ媒体に配置された累進屈折力眼鏡レンズ
の表現、又は(iii)累進屈折力眼鏡レンズの仮想表現を有するデータ媒体を含む製品
であって、
- 累進屈折力レンズは、前面及び後面を有する基板を含み、前記基板は、空間的に変
化する屈折率を有する材料からなり、
- 前面及び/又は後面は、自由形態表面ジオメトリを有し、
- 累進屈折力レンズは、遠用部設計基準点及び近用部設計基準点を有し、
- 累進屈折力レンズは、以下の光学要件:
(1)DIN EN ISO 8980-2:2004に準拠した許容限度偏差内の遠
用部設計基準点における処方屈折度数及びDIN EN ISO 8980-2:200
4に準拠した許容限度偏差内の近用部設計基準点における処方屈折度数、
(2)主視線上の遠用部設計基準点と近用部設計基準点との間の屈折度数の単調増加勾
配、
(3)遠用部設計基準点及び近用部設計基準点を囲む中間累進帯であって、
(a)0.25ジオプタ、
(b)0.38ジオプタ、
(c)0.50ジオプタ
の群からの値未満にある残余乱視によって定義される中間累進帯
を満たす、製品において、
(i)累進屈折力眼鏡レンズの前面及び/又は後面の自由形態表面ジオメトリ並びに屈
折率の空間的変動は、同じジオメトリを有するが、空間的に変化しない屈折率を有する材
料で作られた基板に基づく対照累進屈折力眼鏡レンズが光学要件(1)~(3)の少なく
とも1つを満たさないように互いに適合されること、又は
(ii)累進屈折力眼鏡レンズの前面及び/又は後面の自由形態表面ジオメトリ並びに
屈折率の空間的変動は、このレンズについて、関連する眼鏡装用者ビームが、このレンズ
が全体平均屈折力増加の半分を受ける、主視線の場所を通して延びる点における、計算に
よって確認される、自由形態表面ジオメトリを有する表面の第1の表面非点収差の値が、
対照累進屈折力眼鏡レンズであって、関連する眼鏡装用者ビームが、この対照累進屈折力
眼鏡レンズが全体平均屈折力増加の半分を受ける、主視線上の場所を通して延びる点にお
ける、空間的に変化しない屈折率を有する材料を有する対照累進屈折力眼鏡レンズについ
て計算によって確認される、自由形態表面ジオメトリを有する表面の第2の表面非点収差
の値よりも大きいように互いに適合され、対照累進屈折力眼鏡レンズは、自由形態表面ジ
オメトリを有する表面の同じ相対位置及び対向する表面の同じジオメトリ、主視線に沿っ
た同じ屈折度数プロファイルを有し、及び屈折率は、空間的に変化する屈折率を有する材
料で作られた基板を有する累進屈折力眼鏡レンズが全体屈折度数増加の半分を受ける、前
面上の主視線の点における基板の屈折率の値に対応する値を有すること
を特徴とする製品。
【0100】
2.(ii)の場合、計算によって確認される第1の表面非点収差の値は、
- 計算によって確認される第2の表面非点収差の値よりも少なくとも0.25ジオプ
タ大きいか、又は
- 計算によって確認される第2の表面非点収差の値よりも近用加入屈折力の値の少な
くとも1/3だけ大きいことを特徴とする、条項1に記載の製品。
【0101】
3.(ii)の場合、計算によって確認される第1の表面非点収差の値は、1つの点の
みならず、累進屈折力眼鏡レンズ及び対照累進屈折力眼鏡レンズが全体屈折度数増加の1
/4~3/4を受ける、主視線に沿った領域においても、計算によって確認される第2の
表面非点収差の値よりも大きいことを特徴とする、条項1又は2に記載の製品。
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図3f
図4a
図4b
【外国語明細書】