(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028830
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】長期作用型多重特異性分子および関連した方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20220208BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220208BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220208BHJP
A61K 47/56 20170101ALI20220208BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20220208BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C07K16/46
C07K16/28 ZNA
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K47/56
A61K47/60
A61P35/00
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187703
(22)【出願日】2021-11-18
(62)【分割の表示】P 2019520623の分割
【原出願日】2017-10-11
(31)【優先権主張番号】62/408,865
(32)【優先日】2016-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.PLURONIC
(71)【出願人】
【識別番号】520091409
【氏名又は名称】シェンチェン エンドゥリング バイオテック,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】リウ,シュ-ミン
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ドゥチュン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】二重特異性抗体の臨床開発における新規な長期作用型二重特異性分子および関連した方法を提供する。
【解決手段】下記式Ibで示される化合物、該化合物および薬学的に許容される担体を含む薬学的製剤を提供する。
式中、Pは、非免疫原性ポリマーであり;Bは、H、または末端封止基であり;Tは、リジンであり;L
1およびL
2のそれぞれは、独立して二官能性リンカーであり;A
1およびA
2は、2つの異なる抗体またはその抗原結合部分であり;yは、1であり、前記非免疫原性ポリマーがポリエチレングリコール(PEG)である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Ib:
【化1】
式中、
Pは、非免疫原性ポリマーであり;
Bは、H、または末端封止基であり、前記封止基は、C
1~50アルキルおよびアリールから選択され、前記アルキルの1個以上の炭素がヘテロ原子で置き換えられてもよく;
Tは、リジンであり;
L
1およびL
2のそれぞれは、独立して二官能性リンカーであり、(L
1)
aおよび(L
2)
bの一方は、アジドおよびアルキンから形成される連結を含み、(L
1)
aおよび(L
2)
bの他方は、マレイミドおよびチオールから形成される連結を含み、(L
1)
aおよび(L
2)
bの少なくとも一方は、-(CH
2)
mO(CH
2CH
2O)
n-を含み、mは、0~25から選択される整数であり、nは、1~25から選択される整数である;
aおよびbは、それぞれ1~10から選択される整数であり;
A
1およびA
2は、2つの異なる抗体またはその抗原結合部分であり;
yは、1であり、
前記非免疫原性ポリマーがポリエチレングリコール(PEG)であり、前記PEGの全分子量が10,000~60,000である、
の化合物。
【請求項2】
前記抗体の少なくとも1つが、認識結合部分を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
A1が、第1の認識結合部分を含み、A2が、第2の認識結合部分を含む、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
前記2つの抗体が、それぞれ、細胞毒細胞上の受容体に結合する抗CD3抗体、およびがん細胞の受容体に結合する抗CD19抗体である、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
前記2つの抗体が、一本鎖抗体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
前記PEGの少なくとも1つの末端または分岐が、メチルまたは低分子量アルキル基で封止されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
前記PEGが、パーマネント結合(permanent bond)または切断可能な結合により三官能性部分に連結される、請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
前記二官能性リンカーが、前記抗体またはその抗原結合部分との部位特異的結合(site-specific conjugation)のための官能基を有し、前記官能基が、チオール、マレイミド、
2’-ピリジルジチオ、芳香族またはビニルスルホン、アクリレート、ブロモまたはヨードアセトアミド、アジド、アルキン、ジベンゾシクロオクチル(DBCO)、カルボニル、2-アミノ-ベンズアルデヒドまたは2-アミノ-アセトフェノン基、ヒドラジド、オキシム、カリウムアシルトリフルオロボレート、O-カルバモイルヒドロキシルアミン、trans-シクロオクテン、テトラジン、およびトリアリールホスフィンからなる群から由来されるものである、請求項1~7のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
前記抗体またはその抗原結合部分の1つ以上が、単一認識結合部分または複数認識結合部分を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の化合物および薬学的に許容される担体を含む、薬学的製剤。
【請求項11】
前記PEGが、直鎖PEGである、請求項1~9のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項12】
前記PEGが、分岐状PEGである、請求項1~9のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項13】
前記(L1)aおよび前記(L2)bは、独立して-(CH2)mO(CH2CH2O)n-を含む、請求項1~9,11および12のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項14】
前記A1および前記A2をコードする核酸配列の一方は、SCACD3(配列番号3)であり、他方は、SCACD19(配列番号4)である、請求項1~9および11~13のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項15】
前記L1および前記L2のそれぞれは、1~10単位の(CH2CH2O)を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項16】
前記L1および前記L2のそれぞれは、1~5単位の(CH2CH2O)を含む、請求項1に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2016年10月17日に出願された米国仮特許出願第62/408,865号の優先権を主張する。その出願の内容は、参照することにより全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
[技術分野]
本発明は、概して、多重特異性分子に関し、特に、長期作用型多重特異性抗体、ならびに長期作用型多重特異性結合分子を作製および使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
多重特異性分子、例えば二重特異性モノクローナル抗体(BsAb)は、2つ以上の異なる分子(モノクローナル抗体またはその抗原結合部分等)で構成される人工タンパク質または複合体である。二重特異性抗体は、2つの異なる種類の標的(例えば抗原)に結合し、ある特定の障害を処置するために使用され得る。二重特異性抗体の臨床開発は、90年代初頭に始まった(Canevari,S.et al.1995,J.Hematother 4,423-427、Valone,F.H.et al.1995,J.Clin.Oncol.13,2281-2292)。10年後になって初めて、最初の二重特異性抗体「カツマキソマブ」(商品名Removab)が、2009年に欧州医薬品庁(EMA)により欧州での商業的使用を承認された。第2の二重特異性抗体「ブリナツモマブ」(商品名Blincyto)は、2014年に米国FDAにより承認された。二重特異性抗体は、2つの異なるハイブリドーマ細胞株の体細胞融合に基づくクアドローマ技術(Milstein,C.et al.1983,Nature,305(5934):p.537-40)、または2つの異なるモノクローナル抗体もしくは抗体断片の化学的結合(Brennan,M.,et al.,1985 Science,229(4708):p.81-3、Glennie,M.J.,et al.,1987 J Immunol,139(7):p.2367-75)、または最近の組換えおよび融合技術により作製されている。しかしながら、組換え二重特異性抗体の製造の問題が、そのような有望な治療法を患者にもたらす上での大きな障害であった(Klein C.et al.2012,MAbs.4(6):653-663)。さらに、これらの分子のいくつかの短い半減期もまた、その臨床へのさらなる進展を大きく制限していた。さらに、固形腫瘍用途等のいくつかの疾患用途において、これらの分子のいくつかは、腫瘍組織内に深く貫通するには大きすぎるか、または腫瘍組織内での保持時間が制限されており(Thurber,G.M.et al.,2007,J.Nuclear Medicine.48(6):995-999、Minchinton,A.I.et al.2006,Nature Reviews Cancer.6:583-592)、これは処置の不良な転帰をもたらす。したがって、新規な長期作用型二重特異性分子および関連した調製方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、多重特異性分子および関連した方法を提供することにより、上述の満たされていない必要性に対処する。
【0005】
一態様において、本発明は、式Iaの多重特異的分子、複合体、または化合物を提供し、
【0006】
【0007】
式中、Pは、非免疫原性ポリマーであり;Tは、三官能性小分子リンカー部分であり、2つの異なるタンパク質との部位特異的結合(site-specific conjugation)が可能な1つ
、2つまたはそれ以上の官能基を有し;A1およびA2は、任意の2つの異なるまたは同じタンパク質である。
【0008】
特に、本発明の一態様は、式Ibの複合体を提供し、
【0009】
【0010】
式中、
Pは、非免疫原性ポリマーであり;
Bは、H、末端封止基またはボイド(void)であり、前記封止基は、C1~50アルキル
およびアリールから選択され、前記アルキルの1個以上の炭素がヘテロ原子で置き換えられてもよく;
Tは、1つ、2つまたはそれ以上の官能基を有する多官能性リンカーであり、Tと(L1)aとの間の連結およびTと(L2)bとの間の連結は、同じまたは異なってもよく;
L1およびL2のそれぞれは、独立して二官能性リンカーであり;
aおよびbは、それぞれ0~10から選択される整数であり;
A1およびA2は、任意の2つの異なるまたは同じタンパク質であってもよい。例えば、A1およびA2は互いに異なり、A1およびA2はそれぞれ、独立して、抗体断片、一本鎖抗体もしくは任意の他の抗原結合部分またはそれらの組合せを含み、あるいは、A1およびA2は同じであり、両方とも多重特異性抗原結合タンパク質であり;
yは、1~10から選択される整数である。
【0011】
タンパク質の少なくとも1つは、認識結合部分を含む。例えば、A1は、第1の認識結合部分を含み、A2は、第2の認識結合部分を含む。2つの異なるタンパク質は、2つの異なる抗体またはその抗原結合部分であってもよい。一例において、2つの抗体は、それぞれ、細胞毒性細胞上の受容体に結合する抗CD3抗体、およびがん細胞の受容体に結合する抗CD19抗体である。2つの抗体は、一本鎖抗体(SCAまたはscFv)であってもよい。
【0012】
非免疫原性ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、炭水化物系ポリマー、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピル-メタクリルアミド(HPMA)、およびそれらのコポリマーからなる群から選択され得る。好ましくは、非免疫原性ポリマーは、PEG、例えば分岐状PEGまたは直鎖PEGまたはマルチアームPEGである。その場合、直鎖PEGまたは分岐状PEGの少なくとも1つの末端は、H、メチルまたは低分子量アルキル基で封止される。PEGの全分子量は、3,000~100,000、例えば5,000~80,000、10,000~60,000、および20,000~40,000であってもよい。PEGは、パーマネント結合(permanent bond)または切断可能な結合により多官能性部分に連結されてもよい。
【0013】
(L1)aもしくは(L2)b内、または(L1)aとタンパク質A1との間、または(L2)bとタンパク質A2との間に連結を形成する官能基(例えば2つの部位特異的結合性官能基)は、チオール、マレイミド、2-ピリジルジチオ変異体、芳香族スルホンまたはビニルスルホン、アクリレート、ブロモまたはヨードアセトアミド、アジド、アルキン、ジベンゾシクロオクチル(DBCO)、カルボニル、2-アミノ-ベンズアルデヒドまたは2-アミノ-アセトフェノン基、ヒドラジド、オキシム、カリウムアシルトリフルオロボレート、O-カルバモイルヒドロキシルアミン、trans-シクロオクテン、テトラジン、トリアリールホスフィン等からなる群から選択され得る。
【0014】
いくつかの実施形態において、(L1)aおよび(L2)bの一方は、アジドおよびアルキンから形成される連結を含んでもよい。(L1)aおよび(L2)bの他方は、マレイミドおよびチオールから形成される連結を含んでもよい。いくつかの例において、アルキンは、ジベンゾシクロオクチル(DBCO)であってもよい。他の例では、Tは、リシンであり、Pは、PEGであり、yは、1であり、アルキンは、ジベンゾシクロオクチル(DBCO)である。いくつかの例において、A1およびA2の一方は、アジドタグ化抗体、抗体鎖、抗体断片または一本鎖抗体から誘導されてもよく、一方アジドは、それぞれの(L1)aまたは(L2)bにおけるアルキンに結合しており;A1およびA2の他方は、チオールタグ化抗体、抗体鎖、抗体断片または一本鎖抗体から誘導されてもよく、チオールは、それぞれの(L1)aまたは(L2)bにおけるマレイミドに結合している。
【0015】
上述の多重特異性分子または化合物は、(i)2つの異なるタンパク質またはその修飾形態との部位特異的結合が可能な末端二官能性基を有する非免疫原性ポリマーを調製することと;(ii)非免疫原性ポリマーを2つの異なるタンパク質またはその修飾形態と段階的に部位特異的に結合させ、式IaまたはIbの化合物を形成することとを含む方法に従って作製され得る。いくつかの例において、調製するステップの前に、タンパク質は、まず小分子リンカーで修飾されてもよい。
【0016】
本発明はまた、上述の多重特異性分子または化合物および薬学的に許容される担体を含む薬学的製剤を提供する。本発明は、さらに、処置を必要とする対象における疾患を処置する方法であって、有効量の上述の多重特異性分子または化合物を投与することを含む方法を提供する。
【0017】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を、以下の説明に記載する。本発明の他の特徴、目的、および利点は、説明および特許請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】実施例1に記載の30kmPEG-Lys(マレイミド)-アルキン(化合物2、3、4、5、6)を調製する反応スキームを概略的に示す図である。
【
図1B】実施例2に記載の40k-Y-PEG-Lys(マレイミド)-アルキン(化合物3a、4a、5a、6a)を調製する反応スキームを概略的に示す図である。
【
図1C】実施例3に記載の30kmPEG-Lys(マレイミド)-DBCO(化合物4b、5b、6b)を調製する反応スキームを概略的に示す図である。
【
図2A】実施例5に記載のCu触媒を用いずにクリックケミストリーによりPEG化一本鎖抗体30kmPEG-SCACD3-SCACD19(化合物9~12)を調製する反応スキームを概略的に示す図である。
【
図2B】実施例6に記載のCu触媒を用いてクリックケミストリーによりPEG化一本鎖抗体30kmPEG-SCACD3-SCACD19(化合物11a~12a)を調製する反応スキームを概略的に示す図である。
【
図3】実施例7に記載のin-vitro T細胞媒介細胞毒性を示す図である。
【
図4】実施例7に記載のin-vivo薬物動態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、新規な長期作用型多重特異性分子(例えば多重特異性または二重特異性抗体)ならびにそのような分子を作製および使用する関連した方法に関する。特に、本明細書において提供される多重特異性分子は、二重部位特異性PEG化二重特異性抗体(DSP-BsAb)であり、2つ以上の抗原、または同じ抗原の2つ以上のエピトープに結合することができる。
【0020】
二重特異性モノクローナル抗体(BsAb)は、2つの異なるモノクローナル抗体の抗原結合断片を含む人工タンパク質である。これは、2つの異なる種類の抗原、または同じ抗原の2つの異なるエピトープに結合する。このアプローチの最も広く使用されている用途はがん免疫治療であり、操作されたBsAbが細胞毒性細胞の受容体、例えばCD3、およびがん細胞の受容体、例えばCD19の両方に結合し、細胞毒性細胞、例えばT細胞を、がん細胞を破壊するように誘導する。例えば、腫瘍免疫治療薬のうち、Amgenにより開発された二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)であるブリナツモマブは、開発された中で最も成功した治療薬の1つである。
【0021】
ブリナツモマブは、がんの処置のための二重特異性融合抗体である。これは、それぞれCD19およびCD3に特異的に結合して、CD19陽性Bがん細胞を死滅させるようにエフェクターT細胞を誘導する、2つの一本鎖モノクローナル抗体で構成される。しかしながら、他の組換え抗体断片タンパク質と同様に、ブリナツモマブは、血液循環の間に極めて迅速に排除され、1日24時間、1週7日間ずっとポータブルミニポンプで連続静脈内注入により投与されなければならない(Portell,C.A.et al.,2013,Clin Pharmacol,5(Suppl 1):p.5-11)。この特別な薬物投与は、患者、特に若い子供が順守するには大きな課題であった。さらに、感染の可能性が高いことからこれらの患者は高いリスクに曝され、最悪な場合には死亡する可能性もある。さらに、その極めて短い半減期により、ブリナツモマブ等の融合した一本鎖二重特異性抗体は、典型的には固形腫瘍において非常に低い保持時間を有し;したがって、固形腫瘍を破壊するようにエフェクター細胞を誘導するのに成功する可能性は非常に疑わしい。さらに、ボーラス注射により投与されたブリナツモマブは、おそらくは脳への抗体の漏出に起因して、実質的な中枢神経系(CNS)の毒性をもたらす可能性がある(Ahmed,M.et al.April 2015,Onco Immunology 4(4))e989776-1 -e989776-11)。それらの問題に対処するために、我々はここに、新規な二重特異性抗体技術-DSP-BsAb技術を開示する。
【0022】
BsAbを形成する2つの抗体または抗体断片の化学的結合は、組換え融合法の出現前に先行技術において報告されている。実際に、最初に報告されたBsAbは、2つのウサギIgGのペプシン消化に続く還元、次いで得られるFab’断片の再酸化によって得られたBsF(ab’)2であった。BsF(ab’)2断片のより効率的な生成は、システイン反応性ホモおよびヘテロ二官能性架橋試薬(Brennan,M.et al.1985,Science 229(4708):81-83、Glennie,M.J.et al.1987,J Immunol 139(7):2367-2375、S.SONGSIVILAI & P.J.LACHMANN.Clin.exp.1990,Immunol.79,315-321)を使用して、または2つの組換え発現Fab’断片の間の直接的結合(Shalaby M.R.et al.1992,J Exp Med 175(1):217-225)により達成された。いくつかの方法が抗体断片(FabまたはscFv)を使用して二重特異性抗体を化学的に作製することが説明されているが、これらのアプローチの多くは、低い結合収率および純度、または大量生成の困難さ等の様々な問題を呈する。
【0023】
今日、分子生物学の進展により、全てではなくともほとんどの抗体断片または鎖の任意の対が、技術的に二重特異性抗体分子内に統合され得ることが可能となった。しかしながら、組換え融合二重特異性抗体の製造の問題が、臨床開発における大きな障害であった(Klein C.et al.2012,MAbs.4(6):653-663)。さらに、これらの有望な分子の短い半減期もまた、その臨床へのさらなる進展を大きく制限していた。
【0024】
1970年代におけるその発明以来、最も成功しているタンパク質修飾戦略の1つとしてのPEG化は、製薬産業において広範囲に使用されている(Jevsevar,S.,M.et al.,2010,Biotechnology Journal,5(1):p.113-128,Veronese,F.BioDrugs,22(5):p.315-329)。その循環半減期を延長し、その薬物動態および薬力学を改善するための、タンパク質およびポリペプチド等の治療分子とのPEGの結合は、周知である(米国特許第4,179,337号明細書)。
【0025】
直鎖PEGが使用される場合、PEG化二重特異性抗体には2つの可能な形式があり、一方は、2つの異なる抗体または抗原結合部分が直鎖PEGの両端に結合しており(形式I)、他方は2つの異なる抗体または抗原結合部分がPEGの一方の末端のみに結合している(形式II)。特定の用途に応じて、一方の形式が他方の形式より好ましく選択され得る。相乗効果のための併用治療の場合、別の形式より優先した一方の形式の選択は重要ではないように思われるが、がん細胞を死滅させるために細胞毒性エフェクター細胞を動員する場合、2つの異なる抗体または抗原結合部分がPEGの両端に結合した形式(形式I)は、少なくとも以下の2つの理由により劣っている。第一に、エフェクター細胞に対する標的細胞の近接性が、エフェクター細胞を直接的溶解に効果的に誘導する免疫学的シナプスの形成に重要であり(Wuellner,U.et.al.,2015,Antibodies,4,p.426-440、Bluemel,C.et.al.,2010,Cancer Immunol Immunother.59(8):p.1197-209)、換言すれば、腫瘍免疫治療が効果的に役立つためには、2つの異なる抗体または二重特異性抗体の抗原結合部分は互いに極めて近接すべきであるが、PEG化二重特異性抗体の形式Iは、2つの異なる抗原結合部分の間の空間的距離を制御する機構を有さず、したがってこの距離要件を満たすことができない。第二に、この形式におけるPEG鎖は、典型的には短い排出半減期を有する抗原結合部分を保護するその可能性を十分に利用するために自由に移動することができない。正しいアプローチは、本発明において開示されるように、2つの異なる抗体または抗原結合部分がPEGの一方の末端のみに結合したPEG化二重特異性抗体(形式II)を構築し、PEGの他の末端(直鎖PEGの場合)または複数の末端(分岐状もしくはマルチアームPEGの場合)を、PEGが短命な二重特異性抗体をより効率的に保護し得るように自由なままにすることである。この構造形式(形式II)により、がん細胞を死滅させるようにエフェクター細胞を効率的に再標的化するために必要な免疫学的シナプスもまた提供される。したがって、より良好な薬物動態およびより良好な薬力学が期待され得る。
【0026】
1つのPEG末端の2つの異なる抗体断片または一本鎖抗体を部位特異的に結合してPEG化二重特異性抗体を形成するために、PEGの末端官能基、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基等は、2つの抗体断片または一本鎖抗体との部位特異的結合が可能な末端分岐状へテロ二官能性基に変換されなければならない。末端分岐状PEGを調製するための方法は、米国特許第6,756,037号明細書、米国特許第6,638,499号明細書、および米国特許第6,777,387号明細書において開示されているが、それらの特許において開示された末端分岐状PEGはいずれも、2つの異なる抗体断片または一本鎖抗体または他の形式の抗原結合性部分との部位特異的結合を行うことができない。
【0027】
概念的には、PEG化二重特異性抗体は、PEGを融合二重特異性抗体に結合させることにより調製され得る。このアプローチの問題は、融合抗体の製造が、単一抗体断片または一本鎖抗体の製造よりはるかに課題が多く困難であることである。本発明において開示される代替アプローチは、2つの異なる抗体断片または一本鎖抗体を別個に製造し、次いでこれらの2つの抗体断片または一本鎖抗体の間を、三官能性小分子部分を有するPEGで連結することである。
【0028】
2つの異なる抗体断片または一本鎖抗体をPEGに化学的に連結してPEG化二重特異性抗体を形成するために使用され得る2つのアプローチがある。第1のアプローチは、まず2つの異なる抗体断片または一本鎖抗体を部位特異的に連結し、続いて部位特異的PEG化を行うことである。このアプローチの問題は、2つの異なる抗体断片または一本鎖抗体のカップリングにある。カップリングプロセスは、典型的には、しばしば標的化合物(例えばscFv1-scFv2)と類似した分子量および物理的特性を有するそのような抗体断片または一本鎖抗体の二量体(例えば(scFv1)2および(scFv2)2)形成の傾向に単に起因して、同定および精製の点ではるかに困難であることが分かる。
【0029】
他のアプローチは、本発明において開示されるDSP-BsAb技術を使用することである。DSP-BsAb技術によって、まず抗体断片または一本鎖抗体を部位特異的にPEG化し、続いて別の抗体断片または一本鎖抗体との部位特異的結合を行うことができる。PEG化抗体断片またはPEG化一本鎖抗体は、抗体断片または一本鎖抗体またはそれらの二量体とは極めて異なる特性を有するため、このアプローチによって、精製および特性決定プロセスがはるかに容易となり得る。
【0030】
本発明は、2つの異なる抗体断片または一本鎖抗体、例えば抗CD19および抗CD3との部位特異的結合が可能な末端分岐状PEGを調製する方法を提供する。本明細書において開示されるように、二重特異性抗体の血液循環半減期が改善され得る。さらに、従来の単一特異性/一特異性抗体断片、一本鎖抗体、またはそれらの抗原結合部分が、本発明の二重特異性抗体の製造に使用することができ、これは、組換え融合二重特異性抗体の製造と比較して容易な製造プロセスを意味する。さらに、開示されたPEG化二重特異性抗体形式は、腫瘍免疫治療のためにがん細胞を死滅させるようにエフェクター細胞を動員する利点を有する。さらに、従来の全長二重特異性抗体またはそれらの誘導体のいずれも、通常、固形腫瘍組織内への深い貫通には大きすぎ、一方従来の一本鎖二重特異性抗体または抗体断片またはそれらの誘導体のいずれも、固形腫瘍組織内での保持時間が制限されているため、本明細書において開示されたDSP-BsAb技術は、二重特異性抗体のサイズと循環半減期とのバランスをとることができ、固形腫瘍に対するより効果的な処置を提供する可能性がある。
【0031】
したがって、本発明は、上述の問題に対処し、二重特異性抗体技術を改善する。
【0032】
I.複合体
本発明の一態様において、式(Ia)の化合物が提供される。
【0033】
【0034】
式中、Pは、非免疫原性ポリマーであり;Tは、多官能性部分、例えば三官能性小分子リンカー部分であり、その官能基の2つは、2つの異なるタンパク質との部位特異的結合が可能である。A1およびA2は、任意の2つの異なるタンパク質、例えば抗体断片または一本鎖抗体または他の形態の抗体またはそれらの任意の組合せである。
【0035】
特に、本発明の一態様は、式Ibの複合体を提供し、
【0036】
【0037】
式中、
Pは、非免疫原性ポリマーであり;
Bは、H、末端封止基またはボイド(void)であり、前記封止基は、C1~50アルキル
およびアリールから選択され、前記アルキルの1個以上の炭素がヘテロ原子で置き換えられてもよく;
Tは、多官能性リンカーであり、Tと(L1)aとの間の連結およびTと(L2)bとの間の連結は、同じまたは異なってもよく;
L1およびL2のそれぞれは、独立して二官能性リンカーであり;
aおよびbは、それぞれ0~10から選択される整数であり;
A1およびA2は、互いに同じまたは異なり、A1およびA2のそれぞれは、独立して、抗体断片、一本鎖抗体、または任意の他の形態の抗体または多重特異性抗体またはそれらの組合せを含み、
yは、1~10から選択される整数である。
【0038】
複合体のP部分は、様々な非免疫原性ポリマーから調製され得る。好ましくは、ポリマーは、水溶性である。ポリマーの例は、デキストラン、炭水化物系ポリマー、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコールおよび他の同様の非免疫原性ポリマーを含む。さらなる例示的ポリマーは、ポリ(アルキレングリコール)、ポリ(オレフィンアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、ポリ(サッカリド)、ポリ(α-ヒドロキシ酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン、ポリ(N-アクリロイルモルホリン)、またはそれらのコポリマーもしくはターポリマーを含む。ポリマーは、直鎖または分岐状であってもよい。ポリマーの平均分子量は、約100~約100,000ダルトン、例えば約3,000~約100,000ダルトンの範囲であり、全ての部分範囲が含まれる。
【0039】
ポリマーは、官能化、活性化または反応パートナーに結合され得る末端基を含んでもよい。末端基の限定されない例は、ヒドロキシル、アミノ、カルボキシル、チオール、およびハライドを含む。いくつかの実施形態において、ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)である。
【0040】
いくつかの実施形態において、yは、1であり、式Ibは、ペンダントポリマー鎖を有する複合体を表す。末端Bは、封止基として機能し得る。
【0041】
いくつかの実施形態において、yは、2、3、4、5または6であり、式Ibは、分岐状ポリマー部分を含む複合体を表す。いくつかの実施形態において、[B-P]y中のBは、低分子量C1~10アルキル基、例えばメチル、エチル、およびブチルであり、炭素の1個以上がヘテロ原子(例えばO、S、およびN)により置き換えられてもよい。
【0042】
ポリマー部分P
いくつかの実施形態において、Pは、PEG部分を表す。いくつかの実施形態において、2つの異なるタンパク質、例えば抗体断片または一本鎖抗体との部位特異的結合が可能な末端分岐状へテロ二官能性PEGを調製する方法が提供される。いくつかの実施形態において、血液循環半減期を延長することができるそのPEG化二重特異性一本鎖抗体を調製するための方法もまた提供される。
【0043】
例示的実施形態において、PEGの末端官能基、例えばヒドロキシルまたはカルボキシル基等は、活性化および三官能性小分子部分、例えばBoc保護リシンと結合して、末端分岐状ヘテロ二官能性PEGを形成する。次いで、新たに形成されたカルボキシル基は、アルキン基を有する小分子スペーサーとのカップリングによりアルキン基に変換される。Boc脱保護後の裸のアミノ基は、マレイミド基を有する別の小分子スペーサーと結合して、末端分岐状マレイミド/アルキンヘテロ官能性PEGを形成する。得られたマレイミド/アルキン末端分岐状へテロ二官能性PEGは、チオールタグ化一本鎖抗体およびアジドタグ化一本鎖抗体と連続して部位特異的に結合して、PEG化一本鎖二重特異性抗体を形成し、これは、非PEG化一本鎖二重特異性抗体より長い血液循環半減期を提供する。
【0044】
式(Ia)または(Ib)のPEG化二重特異性抗体は、PEG末端官能基、例えばヒドロキシル、カルボキシル基等を末端分岐状へテロ二官能性基に変換して、末端分岐状へテロ二官能性PEG、例えば末端分岐状マレイミド/アルキンヘテロ二官能性PEGを形成することを含む方法により作製され得る。本発明のいくつかの実施形態において、P部分は、式:
【0045】
【0046】
のPEGから誘導され得、式中、10000~40000または所望によりそれ以上の全分子量を有するポリマーを好ましく提供するためには、nは、約10~2300の整数である。Bは、メチルまたは他の低分子量アルキル基または-CH2(CH2)mFである。Bの限定されない例は、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、およびブチルを含む。Mは、0~10である。Fは、官能化、活性化および/または三官能性小分子化合物の結合が可能な末端官能基、例えばヒドロキシル、カルボキシル、チオール、ハライド、アミノ基等である。
【0047】
本発明の別の実施形態において、方法はまた、代替の分岐状PEGを用いて行われてもよい。分岐状P部分は、式:
【0048】
【0049】
の化合物から誘導され得、式中、PEGは、ポリエチレングリコールである。10000~40000または所望によりそれ以上の全分子量を有するポリマーを好ましく提供するためには、mは、1超の整数である。Bは、メチルまたは他の低分子量アルキル基である。Lは、2つ以上のPEGが結合する官能性連結部分である。そのような連結部分の例は、任意のアミノ酸、例えばグリシン、アラニン、リシン、または1,3-ジアミノ-2-プロパノール、トリエタノールアミン、3つ以上の官能基が結合した任意の5または6員芳香環または脂肪族環等である。Sは、任意の非切断可能スペーサーである。Fは、末端官能基、例えばヒドロキシル、カルボキシル、チオール、アミノ基等である。iは、0または1である。iが0に等しい場合、式は、
【0050】
【0051】
となり、式中、PEG、m、BまたはLの定義は、上記と同じ意味を有する。
【0052】
関連した態様において、以下の式を有するマルチアームポリマー部分との複合体が提供される。
【0053】
【0054】
式中、Bは、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つまたは8つのポリマーアームに連結するコアとして機能する。コアBの構造は、対称的または非対称的な直鎖または環式であってもよい。いくつかの実施形態において、Bは、飽和脂肪族基である。コアの1個以上の炭素が、酸素、硫黄または窒素等のヘテロ原子で置き換えられてもよい。コアBは、ポリマーアームと一緒になった場合、ポリオール、ポリチオールまたはポリアミンの残基であってもよい。その例は、これらに限定されないが、グリセロール、トリメチロール-プロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびグリセロールのオリゴマーを含む。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態において、マルチアームポリマー部分は、以下の式の構造から誘導され得る。
【0056】
【0057】
式中、10000~40000または所望によりそれ以上の全分子量を有するポリマーを好ましく提供するためには、nは、約10~1200の整数であり、mは、整数であり、2以上である。Fは、末端官能基、例えばヒドロキシル、カルボキシル、チオール、アミノ基等である。Bは、2つ以上のPEGが結合した非官能性連結部分である。Bの構造は、対称的または非対称的な直鎖または環式飽和脂肪族基であってもよく、Bの1個以上の炭素が、酸素、硫黄または窒素等のヘテロ原子で置き換えられてもよい。
【0058】
本発明の方法はまた、代替のポリマー物質、例えばデキストラン、炭水化物系ポリマー、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコールまたは他の同様の非免疫原性ポリマーを用いて行われてもよく、その末端基は、ヘテロ二官能性基に変換されるように官能化または活性化され得る。上記のリストは単に例示であり、本明細書における使用に好適な非抗原性ポリマーの種類を限定することを意図しない。
【0059】
三官能性リンカーT
Tは、P、(L1)aおよび(L2)bに接続する三官能性リンカーを表す。Tは、3つの官能基の任意の組合せを有する分子から誘導され得、その限定されない例は、ヒドロキシル、アミノ、ヒドラジニル、カルボキシル、チオールおよびハライドを含む。官能基は、三官能性リンカー内で同じまたは異なっていてもよい。いくつかの実施形態において、官能基の1つまたは2つは、他の反応パートナーとの選択的結合を達成するために保護されてもよい。例えばAdvanced Organic Chemistry by March(Third Edition,1985,Wiley and Sons,New York)を含む文献において、様々な保護基が知られている。官能基はまた、Tと別の反応パートナーとの間の反応の前または後に、他の基に変換されてもよい。例えば、ヒドロキシル基は、メシレートまたはトシレート基に変換されてもよい。ハライドは、アジド基で置換されていてもよい。Tの酸官能基は、末端アルキンを有するアミノ基とのカップリングによってアルキン官能基に変換されてもよい。
【0060】
例示的実施形態において、Tは、リシン、1,3-ジアミノ-2-プロパノール、またはトリエタノールアミンから誘導される。これらの分子上の官能基の1つ以上が、選択的反応のために保護されてもよい。いくつかの実施形態において、Tは、BOC-保護リシンから誘導される。
【0061】
二官能性リンカーL1およびL2
リンカーL1およびL2は両方とも、リンカー鎖、内部連結および/または末端連結を含む。リンカー鎖および/または連結(内部もしくは末端)は、-(CH2)aC(O)NR1(CH2)b-、-(CH2)aO(CH2CH2O)c-、-(CH2)aヘテロ環-、-(CH2)aC(O)-、および-(CH2)aNR1-、-CR1=N-NR1-、-CR1=N-O-、-CR1=N-NR2-CO-、-N=N-CO-、-S-S-から独立して選択され、式中、a、b、およびcは、それぞれ、0~25から選択される整数であり、全ての部分単位が含まれ、R1およびR2は、水素またはC1~C10アルキルを独立して表す。
【0062】
リンカーL1およびL2内のヘテロ環連結基(内部位置か末端位置かを問わず)は、マレイミド系部分から誘導され得る。好適な前駆体の限定されない例は、N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)、N-スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシ-(6-アミドカプロエート)(LC-SMCC)、κ-マレイミドウンデカン酸N-スクシンイミジルエステル(KMUA)、γ-マレイミド酪酸N-スクシンイミジルエステル(GMBS)、ε-マレイミドカプロン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(EMCS)、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)、N-(α-マレイミドアセトキシ)-スクシンイミドエステル(AMAS)、スクシンイミジル-6-(β-マレイミドプロピオンアミド)ヘキサノエート(SMPH)、N-スクシンイミジル4-(p-マレイミドフェニル)-ブチレート(SMPB)、およびN-(p-マレイミドフェニル)イソシアネート(PMPI)を含む。
【0063】
いくつかの他の限定されない例示的実施形態において、各リンカー単位は、N-スクシンイミジル-4-(ヨードアセチル)-アミノベンゾエート(SIAB)、N-スクシンイミジルヨードアセテート(SIA)、N-スクシンイミジルブロモアセテート(SBA)、またはN-スクシンイミジル3-(ブロモアセトアミド)プロピオネート(SBAP)から選択されるハロアセチル系部分から誘導されてもよい。
【0064】
代替として、リンカーのヘテロ環連結基は、異なるリンカー部分の複合体から形成されるテトラゾリルまたはトリアゾリルであってもよい。したがって、ヘテロ環基はまた、連結点として機能する。
【0065】
いくつかの実施形態において、(L1)aおよび(L2)bはそれぞれ、
X1-(CH2)aC(O)NR1(CH2)bO(CH2CH2O)c(CH2)dC(O)-または
X3-(CH2)aC(O)NR1(CH2)bO(CH2CH2O)c(CH2)dX2(CH2)eN R2を含み、
式中、X1、X2およびX3は、同じまたは異なり、独立してヘテロ環基を表してもよく;
a、b、c、dおよびeは、それぞれ、1~25から選択される整数であり、
R1およびR2は、独立して、水素またはC1~C10アルキルを表す。
【0066】
いくつかの実施形態において、X1および/またはX3は、マレイミド系部分から誘導される。いくつかの実施形態において、X2は、トリアゾリルまたはテトラゾリル基を表す。いくつかの実施形態において、R1およびR2は、それぞれ水素を表す。いくつかの実施形態において、a、b、c、dおよびeは、それぞれ独立して、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、および10から選択される。
【0067】
連結基
本発明の複合体の異なる部分は、様々な化学的連結により接続され得る。その例は、これらに限定されないが、アミド、エステル、ジスルフィド、エーテル、アミノ、カルバメート、ヒドラジン、チオエーテル、およびカーボネートを含む。例えば、PEG部分(P)の末端ヒドロキシル基は、活性化され、次いでリシン(T)と結合して、式IaまたはIbのPとTとの間に望ましい連結点を提供し得る。一方で、TとL1またはL2との間の連結基は、リンカーL1またはL2のアミノ基とリシン(T)のカルボキシル基との間の反応から得られるアミドであってもよい。また、複合体の所望の特性に依存して、抗体部分(A)と隣接リンカー(L1またはL2)との間、およびL1またはL2の個々のリンカーの間またはその中に好適な連結基が組み込まれてもよい。
【0068】
いくつかの実施形態において、複合体の異なる部分の間の連結基は、互いの固有の化学親和性または選択性を有する官能基の対のカップリングから誘導されてもよい。これらの種類のカップリングまたは環形成は、特定のタンパク質または抗体部分の導入のための部位特異的結合を可能にする。部位特異的結合をもたらすこれらの官能基の限定されない例は、チオール、マレイミド、2’-ピリジルジチオ変異体、芳香族またはビニルスルホン、アクリレート、ブロモまたはヨードアセトアミド、アジド、アルキン、ジベンゾシクロオクチル(DBCO)、カルボニル、2-アミノ-ベンズアルデヒドまたは2-アミノ-アセトフェノン基、ヒドラジド、オキシム、カリウムアシルトリフルオロボレート、O-カルバモイルヒドロキシルアミン、trans-シクロオクテン、テトラジン、およびトリアリールホスフィンを含む。
【0069】
合成
合成の重要なステップは、以下の実施形態により例示され得る。所望のPEGが選択されたら、PEGの末端官能基、例えばヒドロキシル、カルボキシル基等は、当技術分野において認識されている任意のプロセスを使用して末端分岐状ヘテロ二官能性基に変換される。大まかに説明すると、末端分岐状ヘテロ二官能性PEG、例えば末端分岐状ヘテロ二官能性マレイミド/アルキンPEGは、末端ヒドロキシル基の場合にはジ(N-スクシンイミジル)カーボネート(DSC)、トリホスゲン等の試薬を使用して、または末端カルボキシル基の場合には例えばΝ,Ν’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)等のカップリング試薬を使用して、例えば4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、ピリジン等の塩基の存在下でPEGの末端ヒドロキシルまたはカルボキシル基をN-ヒドロキシスクシンイミドで活性化し、活性化PEGを形成することにより調製される。
【0070】
次に、活性化PEGは、ジイソプロピルアミン(DIPE)等の塩基の存在下、リシン誘導体H-Lys(Boc)-OH等の三官能性小分子と反応し、遊離カルボキシル基およびBoc保護アミノ基を有する末端分岐状へテロ二官能性PEGを形成する。当業者により認識されるように、所望により同じ目的で、例えばハライド、アミノ、チオール基等のPEGの他の知られている末端官能基、および他の知られている三官能性小分子が代替として使用されてもよい。三官能性小分子の例は、3つの官能基(NH2、NHNH2、COOH、OH、C=OX、N=C=X、S、無水物、ハライド、マレイミド、C=C、C≡C等)またはそれらの保護型の任意の組合せを含む分子を含む。
【0071】
次いで、末端分岐状カルボキシル/Bocアミノヘテロ二官能性PEGは、1-アミノ-3-ブチンまたはNH2-DBCO等のアルキン基を有する小分子スペーサーとのカップリングにより、末端分岐状アルキン/Bocアミノヘテロ二官能性PEGに変換される。トリフルオロ酢酸(TFA)等の酸での末端分岐状アルキン/Bocアミノヘテロ二官能性PEGの処理によって、末端分岐状アルキン/アミンヘテロ二官能性PEGが生じる。末端分岐状アルキン/アミンヘテロ二官能性PEGを、NHS-PEG2-マレイミド等のマレイミド基を有する別の小分子スペーサーと反応させることにより、標的末端分岐状アルキン/マレイミドヘテロ二官能性PEGが得られる。この末端分岐状アルキン/マレイミドヘテロ二官能性PEGは、チオールタグ化抗体およびアジドタグ化抗体との連続した部位特異的結合が可能である。
【0072】
別個に、2つの一本鎖抗体(SCA)断片、抗CD3(SCACD3)および抗CD19(SCACD19)は、当技術分野において知られている様々な技術を使用して生成され得る。一例において、それらは、pPICZベクターを含むEasySelect(商標)Pichia Expression Kitを使用して、ピキア・パストリス(Pichia pastorius)における組換えDNA技術により作製される。抗CD3 VH-VLおよび抗CD19 VL-VH等の抗体の遺伝子が、pPIZA発現ベクター内に合成およびクローン化され、P.パストリスX33株において形質転換される。メタノールによりSCAの発現が誘引され、Niキレート樹脂により精製される。その後の結合を促進するために、チオール等の部位特異性官能基が、組換えDNA技術により、一本鎖抗体のVHとVLとの間のリンカーに挿入される(Yang,K.et al.2003,Protein Eng 16(10):761-770)。クロマトグラフィープロセスにより、純粋なSCAが得られる。当業者に理解されるように、所望により同じ目的で、他の知られている部位特異性官能基が、組換えDNA技術により、SCAのVHとVLとの間のリンカーに代替として挿入されてもよい。
【0073】
PEG化一本鎖二重特異性抗体を調製するために、末端分岐状アルキン/マレイミドヘテロ二官能性PEGは、遺伝子的に挿入されたSCACD3の遊離チオール官能基と部位特異的に反応され、PEG-(SCACD3)-アルキンをもたらし、一方、SCACD19は、小分子アジド/マレイミド二官能性リンカーと部位特異的に結合され、アジド-SCACD19をもたらす。精製されたアジド-SCADCD19および精製されたPEG-(SCACD3)-アルキンは、アジド-アルキンクリックケミストリーにより部位特異的に反応され、標的PEG化一本鎖二重特異性抗体PEG-SCACD3/SCACD19を形成する。
【0074】
本発明において使用されるチオール/マレイミドおよびアジド/アルキン部位特異性結合基対に加えて、当業者に認識されるように、他の知られている部位特異性結合基の対、例えばチオール/2’-ピリジルジチオ対、チオール/スルホン対、DBCO/アジド対、trans-シクロオクテン/テトラジン対、カルボニル/ヒドラジド対、カルボニル/オキシム対、アジド/トリアリールホスフィン対、カリウムアシルトリフルオロボレート/O-カルバモイルヒドロキシルアミン対が、同様に設計され、所望により同じ目的で代替として使用され得る。部位特異性結合基対の上記のリストは単に例示であり、本明細書における使用に好適な部位特異性結合基対の種類を限定することを意図しない。
【0075】
用語の定義
「アルキル」という用語は、本明細書で使用される場合、典型的には長さが約1~25原子の範囲の炭化水素鎖を指す。そのような炭化水素鎖は、必須ではないが好ましくは飽和しており、分岐状または直鎖であってもよいが、典型的には直鎖が好ましい。C1~10アルキルという用語は、1、2、3、4、5、6、7、8、9および10個の炭素を有するアルキル基を含む。同様に、C1~25アルキルは、1~25個の炭素を有する全てのアルキルを含む。例示的なアルキル基は、メチル、エチル、イソプロピル、n-ブチル、n-ペンチル、2-メチル-1-ブチル、3-ペンチル、3-メチル-3-ペンチル等を含む。本明細書で使用される場合、「アルキル」は、3個以上の炭素原子が言及される場合、シクロアルキルを含む。別段に指定されない限り、アルキルは、置換または非置換であってもよい。
【0076】
「官能基」という用語は、本明細書で使用される場合、結合する実体と、典型的にはさらなる官能基を有する別の実体との間の共有結合的連結を形成するために、有機合成の通常条件下で使用され得る基を指す。「二官能性リンカー」は、2つの官能基を有するリンカーが、複合体の他の部分と2つの連結を形成することを指す。
【0077】
「誘導体」という用語は、本明細書で使用される場合、新たな官能基を導入するために、または元の化合物の特性を調整するために追加の構造部分を有する化学修飾された化合物を指す。
【0078】
「保護基」という用語は、本明細書で使用される場合、ある特定の反応条件下で分子内の特定の化学反応性官能基の反応を防止またはブロックする部分を指す。様々な保護基が当技術分野において周知であり、例えば、T.W.Greene and G.M.Wuts,Protecting Groups in Organic Synthesis,Third Edition,Wiley,New York,1999およびP.J.Kocienski,Protecting Groups,Third Ed.,Thieme Chemistry,2003、ならびにそれらに引用されている参考文献に記載されている。
【0079】
「PEG」または「ポリ(エチレングリコール)」という用語は、本明細書で使用される場合、ポリ(エチレンオキシド)を指す。本発明における使用のためのPEGは、典型的には、-(CH2CH2O)n-の構造を備える。PEGは、様々な分子量、構造または形状を有し得る。PEG基は、典型的な合成反応条件下では容易には化学転換を生じない封止基を備えてもよい。封止基の例は、-OC1-25アルキルまたは-Oアリールを含む。
【0080】
「リンカー」という用語は、本明細書で使用される場合、抗体およびポリマー部分等の相互接続部分を連結するために使用される原子または原子の集合を指す。リンカーは、切断可能または非切断可能であってもよい。複合体のための様々なリンカーの調製は、例えば、Goldmacher et al.,Antibody-drug Conjugates and Immunotoxins:From Pre-clinical Development to Therapeutic Applications,Chapter 7,in Linker Technology and Impact of Linker Design on ADC properties,Edited by Phillips GL; Ed.Springer Science and Business Media,New York(2013)を含む文献において説明されている。切断可能なリンカーは、ある特定の生物学的または化学的条件下で切断され得る基または部分を組み込む。その例は、酵素的に切断可能なジスルフィドリンカー、1,4-または1,6-ベンジル除去、トリメチルロック系、ビシンベースの自己切断可能な系、酸不安定性シリルエーテルリンカーおよび他の光不安定性リンカーを含む。
【0081】
「連結性基」または「連結基」という用語は、本明細書で使用される場合、化合物または複合体の異なる部分を接続する官能基または部分を指す。連結性基の例は、これらに限定されないが、アミド、エステル、カルバメート、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、ヒドラゾン、オキシム、およびセミカルバジド、カルボジイミド、酸不安定性基、光不安定性基、ペプチダーゼ不安定性基およびエステラーゼ不安定性基を含む。例えば、リンカー部分およびポリマー部分は、アミドまたはカルバメート連結基を介して互いに接続され得る。
【0082】
「複数アーム」または「マルチアーム」という用語は、本明細書で使用される場合、形状を指し、またはポリマーの全体的構造は、「コア」分子または構造に接続された2つ以上のポリマー含有「アーム」を有するポリマーを指す。したがって、マルチアームポリマーは、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つまたはそれ以上のアームを有し得る。
【0083】
II.多重特異性分子および抗体
本発明は、2つ以上の異なる認識特異性を有する多重特異性分子を包含する。本発明の多重特異性分子は、中でも、第1の標的に結合する第1の認識結合部分、および第2の標的に結合する第2の認識結合部分を含む分子を指す。特定の実施形態において、認識結合部位の一方または両方が、抗体またはその抗原結合部分である。
【0084】
抗体
本発明の多重特異性分子は、任意の単離された抗体、特にモノクローナル抗体、例えば異なる抗原またはエピトープに結合するヒトモノクローナル抗体を使用して作製され得る。好ましくは、抗体は、ヒト抗体であるが、抗体はまた、例えば、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはそれらの組合せであってもよい。
【0085】
構造要素
モノクローナル抗体技術は、特異的結合性モノクローナル抗体またはその断片の形態での特異的結合性薬剤の生成を可能にする。モノクローナル抗体またはその断片を形成するためには、従来のハイブリドーマ技術を使用することができる。代替として、モノクローナル抗体またはその断片は、scFv(一本鎖可変領域)、具体的にはヒトscFvのファージライブラリを使用することにより得ることができる(例えば米国特許第5,885,793号明細書、国際公開第92/01047号、国際公開第99/06587号を参照されたい)。
【0086】
一実施形態において、本発明の多重特異性分子における認識結合部分の少なくとも1つは、一価抗体断片である。一実施形態において、一価抗体断片は、モノクローナル抗体から得られる。一価抗体断片は、これらに限定されないが、Fab、Fab’-SH、単一ドメイン抗体、F(ab’)2、Fv、およびscFv断片を含む。したがって、一実施形態において、一価抗体断片は、Fab、Fab’-SH、単一ドメイン抗体、F(ab’)2、Fv、およびscFv断片からなる群から選択される。一実施形態において、本明細書において開示される多重特異性分子の認識結合部分の少なくとも1つは、単一ドメイン抗体、またはscFvまたはモノクローナル抗体のFab断片もしくはFab’断片である。
【0087】
多重特異性分子における認識結合部分の1つ以上はまた、ジアボディまたは単一ドメイン抗体であってもよい。ジアボディは、二価または二重特異性であってもよい2つの抗原結合部位を有する抗体断片である(例えば、欧州特許第0404097号明細書、国際公開第93/01161号、Hudson,P.J.,et al.,Nat.Med.9(2003)129-134、およびHolliger,P.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90(1993)6444-6448を参照されたい)。Hudson,P.J.,et al.,Nat.Med.9(2003)129-134に記載のようなトリアボディおよびテトラボディもまた、多重特異性分子における認識結合部分に使用され得る。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全てもしくは一部、または軽鎖可変ドメインの全てもしくは一部を含む抗体断片である。ある特定の実施形態において、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis,Inc.,Waltham,Mass.;米国特許第6,248,516号明細書)。
【0088】
多重特異性分子における認識結合部分は、Fvであってもよく、これは、完全抗原結合部位を含有し、定常領域を含まない最小抗体断片である。scFvの考察については、例えば、Plueckthun,in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore(eds.),(Springer-Verlag,New York,1994),pp.269-315、国際公開第93/16185号、米国特許第5,571,894号明細書、米国特許第5,587,458号明細書を参照されたい。一般に、6つの超可変領域(HVR)が、抗体に抗原結合特異性を付与する。しかしながら、単一可変ドメイン(または抗原に特異的な3つのHVRのみを含むFvの半分)でも、その抗原を認識しそれに結合する能力を有する。
【0089】
一実施形態において、一価抗体断片は、緊密な非共有結合的会合での1つの重鎖および1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる二本鎖Fv種である。一実施形態において、一価抗体断片は、柔軟なペプチドリンカーにより共有結合的に連結した1つの重鎖および1つの軽鎖可変ドメインからなる一本鎖Fv(scFv)種である。
【0090】
抗体のFab断片は、重鎖および軽鎖可変ドメイン、ならびに軽鎖の定常ドメインおよび重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)を含有する。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域からの1つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端におけるいくつかの残基の追加により、Fab断片とは異なる。Fab’-SHは、定常ドメインのシステイン残基(複数可)が遊離チオール基を有するFab’を示す。
【0091】
抗体断片の生成には様々な技術が開発されている。従来、抗体断片は、全長抗体のタンパク質分解により得ることができる(例えば、Morimoto,K.,et al.,J.Biochem.Biophys.Meth.24(1992)107-117、Brennan,M.,et al.,Science 229(1985)81-83を参照されたい)。例えば、全長抗体のパパイン分解は、それぞれ単一抗原結合部位を有する「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合断片、および残留「Fc」断片をもたらす。ある特定の抗体断片の考察については、Hudson,P.J.,et al.,Nat.Med.9(2003)129-134を参照されたい。
【0092】
抗体断片はまた、組換え手段により直接生成され得る。Fab、FvおよびscFv抗体断片は、例えば大腸菌において発現およびそれから分泌され得、したがって大量のこれらの断片の容易な生成が可能となる。抗体断片は、標準的手順に従って抗体ファージライブラリから単離され得る。代替として、Fab’-SH断片は、大腸菌から直接回収され得る(Carter,P.,et al.,Bio/Technology 10(1992)163-167)。哺乳動物細胞系もまた、発現に使用され得、また所望により抗体断片を分泌し得る。
【0093】
標的
細胞表面分子および/またはそのリガンドに方向付けられたいくつかの治療抗体が知られている。これらの抗体は、多重特異性分子内の特別設計の特異的認識結合部分の選択および構築に使用され得る。その例は、ブリナツモマブ/BLINCYTOリツキサン/MabThera/リツキシマブ、H7/オクレリズマブ、Zevalin/イブリツモマブ、Arzerra/オファツムマブ(CD20)、HLL2/エプラツズマブ、イノツゾマブ(CD22)、Zenapax/ダクリズマブ、Simulect/バシリキシマブ(CD25)、Herceptin/トラスツズマブ、ペルツズマブ(Her2/ERBB2)、Mylotarg/ゲムツズマブ(CD33)、Raptiva/エファリズマブ(Cd11a)、Erbitux/セツキシマブ(EGFR、上皮成長因子受容体)、IMC-1121B(VEGF受容体2)、Tysabri/ナタリズマブ(a4β1およびα4β7インテグリンのα4-サブユニット)、ReoPro/アブシキシマブ(gpIIb-gpIIaおよびαvβ3-インテグリン)、Orthoclone OKT3/ムロモナブ-CD3(CD3)、Benlysta/べリムマブ(BAFF)、Tolerx/オテリキシマブ(CD3)、Soliris/エクリズマブ(C5補体タンパク質)、Actemra/トシリズマブ(IL-6R)、Panorex/エドレコロマブ(EpCAM、上皮細胞接着分子)、CEA-CAM5/ラベツズマブ(CD66/CEA、がん胎児性抗原)、CT-11(PD-1、プログラム死-1 T細胞阻害受容体、CD-d279)、H224G11(c-Met受容体)、SAR3419(CD19)、IMC-A12/シクスツムマブ(IGF-1R、インスリン様成長因子1受容体)、MEDI-575(PDGF-R、血小板誘導成長因子受容体)、CP-675、206/トレメリムマブ(細胞毒性Tリンパ球抗原4)、RO5323441(胎盤成長因子またはPGF)、HGS1012/マパツムマブ(TRAIL-R1)、SGN-70(CD70)、ベドチン(SGN-35)/ブレンツキシマブ(CD30)、およびARH460-16-2(CD44)を含む。
【0094】
本明細書において開示される多重特異性結合分子/多重特異性抗体は、例えば、腫瘍性疾患、心臓血管疾患、感染性疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、代謝(例えば内分泌系)疾患、または神経(例えば神経変性)疾患の処置用の医薬の調製に使用され得る。これらの疾患の例示的な限定されない例は、アルツハイマー病、非ホジキンリンパ腫、B細胞急性および慢性リンパ性白血病、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、ヘアリー細胞白血病、急性および慢性骨髄性白血病、T細胞リンパ腫および白血病、多発性骨髄腫、神経膠腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、癌腫(例えば口腔、消化管、結腸、胃、肺気道、乳、卵巣、前立腺、子宮、子宮内膜、子宮頸、膀胱、膵臓、骨、肝臓、胆嚢、腎臓および精巣)、黒色腫、肉腫、神経膠腫、および皮膚がん、急性特発性血小板減少性紫斑病、慢性特発性血小板減少性紫斑病、皮膚筋炎、シデナム舞踏病、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、リウマチ熱、多腺性症候群、水疱性類天疱瘡、糖尿病、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、連鎖球菌感染後腎炎、結節性紅斑、高安動脈炎、アジソン病、関節リウマチ、サルコイドーシス、潰瘍性大腸炎、多形性紅斑、IgA腎症、結節性多発性動脈炎、強直性脊椎炎、グットパスチャー症候群、閉塞性血栓血管炎、シェーグレン症候群、原発性胆汁性肝硬変、橋本甲状腺炎、甲状腺中毒症、強皮症、慢性活性肝炎、多発性筋炎/皮膚筋炎、多発性軟骨炎、尋常性天疱瘡、ウェゲナー(Wegener)肉芽腫症、膜性腎症、筋萎縮性側索硬化症、脊髄ロウ、巨細胞性動脈炎/多発性筋痛、悪性貧血、急速進行性糸状体腎炎、乾癬、または繊維化肺胞炎である。
【0095】
いくつかの細胞表面マーカーおよびそのリガンドが知られている。例えば、がん細胞は、これらに限定されないが、炭酸脱水酵素IX、アルファ-フェトプロテイン、アルファ-クチニン-4、A3(A33抗体に特異的な抗原)、ART-4、B7-1、B7-H1、Ba-733、BAGE、BrE3-抗原、CA125、CAMEL、CAP-1、CASP-8/m、CCCL19、CCCL21、CD1、CD1a、CD2、CD3、CD4、CDS、CD8、CD1-1A、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD29、CD30、CD32b、CD33、CD37、CD38、CD40、CD40L、CD45、CD46、CD54、CD55、CD59、CD64、CD66a-e、CD67、CD70、CD74、CD79a、CD80、CD83、CD95、CD126、CD133、CD137、CD138、CD147、CD154、CDC27、CDK-4/m、CDKN2A、CTLA-4、CXCR4、CXCR7、CXCL12、HIF-1-α、直腸特異的抗原-p(CSAp)、CEA(CEACAM5)、CEACAM6、c-met、DAM、EGFR、EGFRvIII、EGP-1、EGP-2、ELF2-M、Ep-CAM、Flt-1、Flt-3、葉酸受容体、G250抗原、GAGE、GROB、HLA-DR、HM1.24、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)およびそのサブユニット、HER2/neu、HMGB-1、低酸素誘導因子(HIF-1)、HSP70-2M、HST-2または1a、IGF-1R、IFN-γ、IFN-α、IFN-β、IL-2、IL-4R、IL-6R、IL-13R、IL-15R、IL-17R、IL-18R、IL-6、IL-8、IL-12、IL-15、IL-17、IL-18、IL-25、インスリン様成長因子-1(IGF-1)、KC4抗原、KS-1抗原、KS 1-4、LAG3、Le-Y、LDR/FUT、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)、MAGE、MAGE-3、MART-1、MART-2、NY-ESO-1、TRAG-3、mCRP、MCP-1、MIP-1A、MIP-1B、MIF、MUC1、MUC2、MUC3、MUC4、MUC5、MUM-1/2、MUM-3、NCA66、NCA95、NCA90、膵臓がんムチン、PD-1およびその受容体、PD-L1、PD-L2、胎盤成長因子、p53、PLAGL2、前立腺酸性ホスファターゼ、PSA、PRAME、PSMA、P1GF、ILGF、ILGF-1R、IL-6、IL-25、RS5、RANTES、T101、SAGE、5100、スルビビン、スルビビン-2B、TAC、TAG-72、テネイシン、TIM3(T細胞免疫グロブリンおよびムチン-ドメイン含有-3)、TRAIL受容体、TNF-α、Tn抗原、Thomson-Friedenreich抗原、腫瘍壊死抗原、VEGFR、ED-Bフィブロネクチン、WT-1、17-1A抗原、補体因子C3、C3a、C3b、C5a、C5、血管形成マーカー、bcl-2、bcl-6、Kras、cMET、がん遺伝子マーカーおよびがん遺伝子産物を含む細胞表面マーカーおよび/またはリガンドの少なくとも1つを発現することが報告されている(例えば、Sensi et al.,Clin.Cancer Res.12(2006)5023-5032、Parmiani et al,J.Immunol.178(2007)1975-1979、Novellino et al.,Cancer Immunol.Immunother.54(2005)187-207を参照されたい)。したがって、そのような特定の細胞表面受容体またはそのリガンドを認識する抗体は、疾患に関連したいくつかの/多数の細胞表面マーカーまたはリガンドを標的化およびそれに結合する、本発明の多重特異性分子における特異的および選択的認識結合分子に使用され得る。
【0096】
いくつかの実施形態において、がん/腫瘍の処置のために、腫瘍関連抗原(TAA)、例えば、Herberman,「Immunodiagnosis of Cancer」,in Fleisher ed.,「The Clinical Biochemistry of Cancer」,page 347(American Association of Clinical Chemists,1979)、ならびに米国特許第4,150,149号明細書、米国特許第4,361,544号明細書、および米国特許第4,444,744号明細書において報告されているものを標的化する多重特異性結合分子/多重特異性抗体が使用される。
【0097】
腫瘍関連抗原に関する報告は、Mizukami et al.,Nature Med.11(2005)992-997、Hatfield et al.,Curr.Cancer Drug Targets 5(2005)229-248、Vallbohmer et al.,J.Clin.Oncol.23(2005)3536-3544、およびRen et al.,Ann.Surg.242(2005)55-63)を含み、これらはそれぞれ、特定されるTAAに関して参照することにより本明細書に組み込まれる。疾患がリンパ腫、白血病または自己免疫障害を含む場合、標的化される抗原は、CD4、CD5、CD8、CD14、CD15、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD33、CD37、CD38、CD40、CD40L、CD46、CD54、CD67、CD74、CD79a、CD80、CD126、CD138、CD154、CXCR4、B7、MUC1または1a、HM1.24、HLA-DR、テネイシン、VEGF、P1GF、ED-B フィブロネクチン、がん遺伝子、がん遺伝子産物(例えばc-metまたはPLAGL2)、CD66a-d、壊死抗原、IL-2、T101、TAG、IL-6、MIF、TRAIL-R1(DR4)およびTRAIL-R2(DR5)からなる群から選択され得る。
【0098】
上述の抗原に対する抗体は、本発明の二重特異性抗体を作製するための結合部位または部分として使用され得る。2つの異なる標的に対していくつかの二重特異性抗体が作製され得る。
【0099】
抗原対の例は、CD19/CD3、BCMA/CD3、組合せとしてのHERファミリーの異なる抗原(EGFR、HER2、HER3)、IL17RA/IL7R、IL-6/IL-23、IL-1-β/IL-8、IL-6またはIL-6R/IL-21またはIL-21R、ANG2/VEGF、VEGF/PDGFR-ベータ、血管内皮成長因子(VEGF)受容体2/CD3、PSMA/CD3、EPCAM/CD3、VEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3、FLT3、c-FMS/CSF1R、RET、c-Met、EGFR、Her2/neu、HER3、HER4、IGFR、PDGFR、c-KIT、BCR、インテグリン、およびMMPからなる群から選択される抗原と、VEGF、EGF、PIGF、PDGF、HGF、およびアンジオポイエチンからなる群から選択される水溶性リガンドとの組合せ、ERBB-3/C-MET、ERBB-2/C-MET、EGF受容体1/CD3、EGFR/HER3、PSCA/CD3、C-MET/CD3、ENDOSIALIN/CD3、EPCAM/CD3、IGF-1R/CD3、FAPALPHA/CD3、EGFR/IGF-1R、IL 17A/F、EGF受容体1/CD3、ならびにCD19/CD16を含む。二重特異性抗体のさらなる例は、(i)Lewis x-、Lewis b-およびLewis y-構造、Globo H-構造、KH1、Tn抗原、TF抗原およびムチンの炭水化物構造、CD44、糖脂質およびスフィンゴ糖脂質、例えばGg3、Gb3、GD3、GD2、Gb5、Gm1、Gm2、およびシアリルテトラオシルセラミドからなる群から選択される抗原のグリコエピトープに方向付けられた第1の特異性、ならびに(ii)EGFR、HER2、HER3およびHER4からなる群から選択されるErbB受容体チロシンキナーゼに方向付けられた第2の特異性を有し得る。第2の抗原結合部位と組み合わせたGD2は、Tリンパ球NK細胞、Bリンパ球、樹状細胞、単球、マクロファージ、好中球、間充織幹細胞、神経幹細胞からなる群から選択される免疫細胞に関連している。
【0100】
多重特異性抗体を作製するために、一特異性または二重特異性抗体は、本明細書において開示される方法を使用して別の一特異性または二重特異性抗体と連結されてもよい。すでに利用可能な一特異性または二重特異性治療結合実体、例えば上述の治療抗体を使用することにより、必要な多重特異性結合分子の迅速で容易な生成が達成され得る。2つ以上の異なるエピトープへの同時の標的化および結合のために2つ以上の単一治療分子を組み合わせることによる多重特異性治療薬のこの特別設計の生成によって、単一治療分子と比較して相加的/相乗的効果が期待され得る。
【0101】
いくつかの実施形態において、本発明の多重特異性分子は、以下の標的対に特異的に相互作用し、それに対する測定可能な親和性を示す抗体対を使用して作製される。
【0102】
【0103】
【0104】
好ましい実施形態において、二重特異性分子は、それぞれCD3およびCD19に特異的に相互作用し、それらに対する測定可能な親和性を示す2つの抗体またはその抗原結合断片の複合体である。抗体はそれぞれ、1×10-6M以下、例えば1×10-7M、5×10-8M、1×10-8M、5×10-9M、1×10-9M以下のKD、または1×10-8M~1×10-10Mの間のKDでヒトCD3またはCD19に結合する。抗原に対する抗体の結合能力を評価するためのアッセイは当技術分野において知られており、例えば、ELISA、ウェスタンブロットおよびRIAを含む。抗体の結合反応速度(例えば結合親和性)はまた、当技術分野において知られている標準的アッセイ、例えばBiacore分析により評価され得る。
【0105】
ある特定の実施形態において、第1または第2の認識結合部分は、対象抗体の重鎖および軽鎖、または対応するCDR1、CDR2およびCDR3を含む。例えば、各認識結合部分は、一本鎖抗体Fv領域(scFv)であってもよい。CDR領域は、Kabatシステムを使用して記述される(Kabat,E.A.,et al.(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242)。以下に列挙されるのは、抗CD3 scFvおよび抗CD19 scFvのアミノ酸配列である。
【0106】
【0107】
【0108】
修飾
いくつかの実施形態において、抗体のVHおよび/またはVLアミノ酸配列は、上記の配列に対して82%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%相同性であってもよく、また対応する抗原結合活性および特異性を維持し得る。上記の配列のVHおよびVL領域に対する高い(すなわち80%以上の)相同性を有するVHおよびVL領域を有する抗体は、上述の重鎖および軽鎖、または関連したCDR1、CDR2およびCDR3をコードする核酸分子の突然変異生成(例えば部位特異的またはPCR媒介突然変異生成)に続き、本明細書に記載の機能アッセイを使用して保持された機能についてコードされた改変抗体を試験することにより得ることができる。
【0109】
本明細書で使用される場合、2つのアミノ酸配列間のパーセント相同性は、2つの配列間のパーセント同一性と等価である。2つの配列間のパーセント同一性は、ギャップの数、および各ギャップの長さを考慮した、2つの配列の最適なアラインメントのために導入される必要がある配列により共有される同一位置の数の関数(すなわち、%相同性=同一位置の数/位置の総数×100)である。配列の比較および2つの配列間のパーセント同一性の決定は、以下の限定されない例に記載のような数学的アルゴリズムを使用して達成され得る。
【0110】
2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性は、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれたE.MeyersおよびW.Miller(Comput.Appl.Biosci.,4:11-17(1988))のアルゴリズムを用いて、PAM120重み残基表(weight residue table)、ギャップ長ペナルティ12、およびギャップペナルティ4を使用して決定され得る。さらに、2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性は、GCGソフトウェアパッケージにおけるGAPプログラム(www.gcg.comで入手可能)に組み込まれたNeedlemanおよびWunsch(J.Mol.Biol.48:444-453(1970))のアルゴリズムを用いて、Blossum 62マトリックスまたはPAM250マトリックス、ならびにギャップ重み16、14、12、10、8、6、または4および長さ重み1、2、3、4、5、または6を使用して決定され得る。
【0111】
追加的に、または代替的に、本発明のタンパク質配列は、例えば関連配列を同定するべく公開データベースでの検索を実行するために、「クエリ配列」としてさらに使用され得る。そのような検索は、Altschul,et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-10のXBLASTプログラム(バージョン2.0)を使用して行うことができる。BLASTタンパク質検索は、本発明の抗体分子に相同性のアミノ酸配列を得るために、XBLASTプログラム、スコア=50、wordlength=3を用いて行うことができる。比較目的でギャップ付きアラインメントを得るためには、Altschul et al.,(1997)Nucleic Acids Res.25(17):3389-3402に記載のGapped BLASTが利用され得る。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、各プログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)の初期設定パラメータが使用され得る(www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい)。
【0112】
ある特定の実施形態において、本発明の認識結合部分は、CDR1、CDR2およびCDR3配列を含む重鎖可変領域、ならびにCDR1、CDR2およびCDR3配列を含む軽鎖可変領域を含み、これらのCDR配列の1つ以上は、本明細書に記載の好ましい抗体に基づく特定のアミノ酸配列またはその保存的修飾を含み、抗体は、所望の機能的特性を保持する。
【0113】
本明細書で使用される場合、「保存的配列修飾」は、アミノ酸配列を含む抗体の結合特性に著しく影響しない、またはそれを変更しないアミノ酸修飾を指す。そのような保存的修飾は、アミノ酸置換、付加および欠失を含む。修飾は、当技術分野において知られている標準的技術、例えば部位特異的突然変異生成およびPCR媒介突然変異生成により、本発明の抗体に導入され得る。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基が同様の側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられる置換である。同様の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において定義されている。これらのファミリーは、以下を含む。
【0114】
塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)を有するアミノ酸、
酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、
非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、
非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、
ベータ分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および
芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)。
【0115】
したがって、本発明の抗体のCDR領域内の1つ以上のアミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリーからの他のアミノ酸残基で置き換えられ得、改変された抗体は、本明細書に記載の機能アッセイを使用して保持された機能に関して試験され得る。
【0116】
本発明の認識結合部分は、改変抗体の操作のための出発材料として、本明細書において開示されるVHおよび/またはVL配列の1つ以上を有する抗体を使用して調製され得、改変抗体は、出発抗体から改変された特性を有し得る。抗体は、一方または両方の可変領域(すなわちVHおよび/またはVL)内、例えば1つ以上のCDR領域内および/または1つ以上のフレームワーク領域内の1つ以上の残基を修飾することにより操作され得る。追加的または代替的に、抗体は、例えば抗体のエフェクター機能(複数可)を改変するために、定常領域(複数可)内の残基を修飾することにより操作され得る。
【0117】
行うことができる可変領域操作の1つの種類は、CDRグラフト化である。抗体は、主に6つの重鎖および軽鎖CDR内に位置するアミノ酸残基により標的抗体と相互作用する。このため、CDR内のアミノ酸配列は、CDR外の配列よりも個々の抗体間で多様である。CDR配列は、ほとんどの抗体-抗原相互作用を担うため、異なる特性を有する異なる抗体からのフレームワーク配列上にグラフトされた特定の天然抗体からのCDR配列を含む発現ベクターを構築することにより、特定の天然抗体の特性を模倣する組換え抗体を発現させることが可能である(例えば、Riechmann,L.et al.(1998)Nature 332:323-327、Jones,P.et al.(1986)Nature 321:522-525、Queen,C.et al.(1989)Proc.Natl.Acadを参照されたい。U.S.A.86:10029-10033、Winterに対する米国特許第5,225,539号明細書、ならびにQueenらに対する米国特許第5,530,101号明細書、同第5,585,089号明細書、同第5,693,762号明細書および同第6,180,370号明細書を参照されたい)。
【0118】
そのようなフレームワーク配列は、生殖細胞系列抗体遺伝子配列を含む公開DNAデータベースまたは刊行された参考文献から入手することができる。例えば、ヒト重鎖および軽鎖可変領域遺伝子の生殖細胞系列DNA配列は、「VBase」ヒト生殖細胞系列配列データベース(www.mrc-cpe.cam.ac.uk/vbaseで利用可能)、ならびにKabat,E.A.,et al.(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242、Tomlinson,I.M.,et al.(1992)「The Repertoire of Human Germline VH Sequences Reveals about Fifty Groups of VH Segments with Different Hypervariable Loops」 J.Mol.Biol.227:776-798、およびCox,J.P.L.et al.(1994)「A Directory of Human Germ-line VH Segments Reveals a Strong Bias in their Usage」 Eur.J.Immunol.24:827-836に見出すことができ、これらの内容はそれぞれ、参照することにより本明細書に組み込まれる。別の例として、ヒト重鎖および軽鎖可変領域遺伝子の生殖細胞系列DNA配列は、GenBankデータベースに見出すことができる。
【0119】
フレームワークまたはCDR領域内に形成される修飾に加えて、またはその代替として、本発明の抗体は、典型的には、抗体の1つ以上の機能的特性、例えば血清半減期、補体結合、Fc受容体結合、および/または抗原依存性細胞毒性を改変するために、Fc領域内に修飾を含むように操作されてもよい。さらに、本発明の抗体は、同じく抗体の1つ以上の機能特性を改変するために、化学修飾されてもよく(例えば、1つ以上の化学部分が抗体に結合されてもよい)、またはそのグリコシル化を改変するように修飾されてもよい。Fc領域内の残基の番号付けは、KabatのEU指数の番号付けである。
【0120】
さらに別の実施形態において、抗体のグリコシル化は修正されてもよい。グリコシル化は、例えば、抗原またはFc受容体に対する抗体の親和性を増加または減少させるように改変され得る。そのような炭水化物修飾は、例えば、抗体配列内のグリコシル化の1つ以上の部位を改変することにより達成され得る。例えば、1つ以上の可変領域フレームワークグリコシル化部位の排除をもたらし、それによりその部位でのグリコシル化を排除する、1つ以上のアミノ酸置換が形成されてもよい。そのようなアプローチは、米国特許第8,008,449号明細書および同第6,350,861号明細書においてより詳細に説明されている。
【0121】
エフェクター
いくつかの実施形態において、多重特異性化合物または分子は、1つ以上のエフェクター部分、例えば細胞毒性薬剤、例えば化学治療剤または薬物、成長阻害剤、毒素(例えば、タンパク質毒素、細菌、真菌、植物、もしくは動物起源の酵素活性毒素、またはそれらの断片)、あるいは放射性同位体にさらに結合されてもよい。
【0122】
いくつかの実施形態において、エフェクター部分は、これらに限定されないが、メイタンシノイド(米国特許第5,208,020号明細書、米国特許第5,416,064号明細書、欧州特許第0425235号明細書)、オーリスタチン、例えばモノメチルオーリスタチン薬物部分DEおよびDF(MMAEおよびMMAF、米国特許第5,635,483号明細書、米国特許第5,780,588号明細書、米国特許第7,498,298号明細書を参照されたい)、ドラスタチン、カリケアミシン、またはそれらの誘導体(米国特許第5,712,374号明細書、米国特許第5,714,586号明細書、米国特許第5,739,116号明細書、米国特許第5,767,285号明細書、米国特許第5,770,701号明細書、米国特許第5,770,710号明細書、米国特許第5,773,001号明細書、米国特許第5,877,296号明細書、Hinman,L.M.,et al.,Cancer Res.53(1993)3336-3342、Lode,H.N.,et al.,Cancer Res.58(1998)2925-2928を参照されたい)、アントラサイクリン、例えばダウノマイシンまたはドキソルビシン(Kratz,F.,et al.,Current Med.Chem.13(2006)477-523、Jeffrey,S.C.,et al.,Bioorg.Med.Chem.Letters 16(2006)358-362、Torgov,M.Y.,et al.,Bioconjug.Chem.16(2005)717-721、Nagy,A.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97(2000)829-834、Dubowchik,G.M.,et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.12(2002)1529-1532、King,H.D.,et al.,J.Med.Chem.45(2002)4336-4343、および米国特許第6,630,579号明細書を参照されたい)、メトトレキセート、ビンデシン、タキサン、例えばドセタキセル、パクリタキセル、ラロタキセル、テセタキセル、およびオルタタキセル、トリコテセン、およびCC1065を含む薬物であってもよい。
【0123】
他の実施形態において、エフェクター部分は、これらに限定されないが、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性断片、外毒素A鎖(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)起源)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ-サルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチンタンパク質、アメリカヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP-S)、ニガウリ(momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、サボンソウ(Saponaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、マイトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシンおよびトリコセセンス(tricothecenes)を含む、酵素活性毒素またはその断片であってもよい。
【0124】
さらにいくつかの他の実施形態において、エフェクター部分は、放射性原子であってもよい。放射性複合体の生成には、様々な放射性同位体が利用可能である。その例は、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212、およびLuの放射性同位体を含む。検出に放射性複合体が使用される場合、これは、シンチグラフィー研究用の放射性原子、例えばTc99もしくはI123、または核磁気共鳴(NMR)画像化(磁気共鳴画像化、MRI)用のスピン標識、例えば同じくI123、I131、In111、F19、C13、N15、O17、ガドリニウム、マンガンもしくは鉄を含み得る。
【0125】
エフェクター部分は、様々な二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えばジメチルアジピミデートHCl)、活性エステル(例えばジスクシンイミジルスベレート)、アルデヒド(例えばグルタルアルデヒド)、ビス-アジド成分(例えばビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えばビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えばトルエン2,6-ジイソシアネート)、およびビス-活性フッ素成分(例えば1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を使用して、本明細書において開示される多重特異性化合物または分子の任意の成分に結合され得る。例えば、リシン免疫毒素は、Vitetta,E.S.,et al.,Science 238(1987)1098-1104に記載のように調製され得る。炭素14標識化1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミン五酢酸(MX-DTPA)は、錯体への放射性ヌクレオチドの結合のための例示的キレート剤である(国際公開第94/11026号を参照されたい)。本明細書において報告されるように毒性部分を錯体に結合するためのリンカーは、細胞内の細胞毒性薬の放出を促進する「切断可能性リンカー」であってもよい。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー、またはジスルフィド含有リンカー(Chari,R.V.,et al.,Cancer Res.52(1992)127-131、米国特許第5,208,020号明細書)が使用され得る。
【0126】
エフェクター部分は、本明細書において開示される多重特異性化合物または分子に結合され得るが、BMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC-SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ-EMCS、スルホ-GMBS、スルホ-KMUS、スルホ-MBS、スルホ-SIAB、スルホ-SMCC、およびスルホ-SMPB、ならびにSVSB(スクシンイミジル-(4-ビニルスルホン)ベンゾエート)を含むがそれらに限定されない、市販(例えばPierce Biotechnology,Inc.、Rockford、Ill.、U.S.A製)の架橋試薬を用いて調製されるそのような複合体に限定されない。
【0127】
組成物
本発明はまた、薬学的に許容される担体と共に製剤化された、本発明の多重特異性分子を含有する組成物、例えば薬学的組成物を提供する。例えば、本発明の薬学的組成物は、CD13およびCD9の両方に結合する多重特異性分子を含んでもよい。
【0128】
本発明の治療製剤は、所望の純度を有する多重特異性分子を任意選択の生理学的に許容される担体、賦形剤または安定剤と混合することにより(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980))、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で調製され得る。許容される担体、賦形剤、または安定剤は、使用される用量および濃度でレシピエントに対して非毒性であり、ホスフェート、シトレート、および他の有機酸等の緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含む酸化防止剤;保存剤(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチルもしくはベンジルアルコール、アルキルパラベン、例えばメチルもしくはプロピルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、およびm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチンもしくは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリシン;モノサッカリド、ジサッカリド、およびグルコース、マンノースもしくはデキストリンを含む他の炭水化物;キレート剤、例えばEDTA;糖、例えばスクロース、マンニトール、トレハロースもしくはソルビトール;塩形成対イオン、例えばナトリウム;金属錯体(例えばZn-タンパク質錯体);ならびに/または非イオン性界面活性剤、例えばTWEEN、PLURONICS、もしくはポリエチレングリコール(PEG)を含む。
【0129】
製剤はまた、処置されている特定の適応症に必要な場合には2種以上の活性化合物、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を有するものを含有してもよい。例えば、製剤は、別の抗体、細胞毒性薬剤、または化学治療薬剤をさらに含んでもよい。そのような分子は、好適には、意図される目的に効果的な量で組み合わせて存在する。
【0130】
活性成分はまた、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子およびナノカプセル)またはマクロエマルションにおいて、例えばコアセルベーション技術により、または界面重合により、好ましいマイクロカプセル内に、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセル内に捕捉されていてもよい。そのような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)において開示されている。
【0131】
持続放出調製物が調製されてもよい。持続放出調製物の好適な例は、多重特異性分子を含有する固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスを含み、このマトリックスは、成形物、例えばフィルム、またはマイクロカプセルの形態である。持続放出性マトリックスの例は、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号明細書)、L-グルタミン酸およびγエチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOT(乳酸-グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドで構成される注射用ミクロスフェア)、ならびにポリ-D-(--)-3-ヒドロキシ酪酸を含む。エチレン-酢酸ビニルおよび乳酸-グリコール酸等のポリマーは、100日を超える期間分子の放出を可能にするが、ある特定のヒドロゲルは、より短い期間タンパク質を放出する。カプセル化された抗体が長期間体内に残留する場合、それらは37℃での水分への曝露の結果、変性または凝集し、生物学的活性の喪失および可能な免疫原性の変化をもたらし得る。関与する機序に応じて、安定化のために合理的な戦略が考案され得る。例えば、凝集機序がチオ-ジスルフィド交換による分子間S-S結合形成であることが発見された場合、安定化は、スルフヒドリル残基の修飾、酸性溶液からの凍結乾燥、水分含有量の制御、適切な添加剤の使用、および特定のポリマーマトリックス組成物の開発により達成され得る。
【0132】
本発明の薬学的組成物は、併用療法において投与されてもよく、すなわち他の薬剤と組み合わされてもよい。併用療法において使用され得る治療薬剤の例は、以下により詳細に記載される。
【0133】
in vivo投与に使用される製剤は、無菌でなければならない。これは、滅菌濾過膜を通した濾過により容易に達成され得る。無菌注射溶液は、必要に応じて上で列挙された成分の1つまたは組合せと共に、適切な溶媒中に必要量の活性化合物を組み込み、続いて滅菌精密濾過を行うことにより調製され得る。一般に、分散液は、基本的な分散媒および上に列挙されたものからの必要なその他の成分を含有する無菌ビヒクルに、活性化合物を導入することにより調製される。無菌注射溶液の調製用の無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥およびフリーズドライ(凍結乾燥)であり、これにより、活性成分と、以前に滅菌濾過されたその溶液からの追加的な任意の所望の成分との粉末が得られる。
【0134】
用量
単回投薬形態を生成するために担体材料と組み合わせることができる活性成分の量は、処置されている対象および特定の投与形態に依存して変動する。単回投薬形態を生成するために担体材料と組み合わせることができる活性成分の量は、一般に、治療効果を生成する組成物の量である。一般に、100パーセントのうち、この量は、薬学的に許容される担体と組み合わせて、約0.01パーセント~約99パーセントの活性成分、好ましくは約0.1パーセント~約70パーセント、最も好ましくは約1パーセント~約30パーセントの活性成分の範囲である。
【0135】
投薬計画は、最適な所望の反応(例えば治療反応)を提供するように調節される。例えば、単回ボーラスが投与されてもよく、いくつかの分割用量が経時的に投与されてもよく、または、用量は、治療状況の要件により示されるように比例的に低減もしくは増加されてもよい。投与の容易性、および投薬の均一性のために、投薬単位形態で非経口組成物を製剤化することが特に有利である。本明細書において使用されるような投薬単位形態は、処置される対象への単一用量として好適な、物理的に別個の単位を指し、各単位は、必要とされる薬学的担体に関連して所望の治療効果を生成するように計算された所定量の活性化合物を含有する。本発明の投薬単位形態の明細は、(a)活性化合物の独特の特性および達成されるべき特定の治療効果、ならびに(b)個体における感受性の処置のためのそのような活性化合物の配合技術に固有の制限により決定付けられ、またそれらに直接依存する。
【0136】
本発明の多重特異性分子の投与に関して、用量は、約0.0001~100mg/kg(ホスト体重)、より通常では0.01~50mg/kgの範囲である。例えば、用量は、0.3mg/kg(体重)、1mg/kg(体重)、3mg/kg(体重)、5mg/kg(体重)もしくは10mg/kg(体重)であってもよく、または1~10mg/kgの範囲内であってもよい。例示的な処置計画は、週2回、週1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、月1回、3ヶ月に1回、または3ヶ月~6ヶ月に1回の投与を伴う。本発明の多重特異性分子の好ましい投薬計画は、静脈内投与による1mg/kg(体重)または3mg/kg(体重)を含み、付与される多重特異性分子は、以下の投薬スケジュールの1つを用いて付与される:(i)4週間に1回で6回の投薬、次いで3ヶ月に1回;(ii)3週間に1回;(iii)3mg/kg(体重)を1回、続いて1mg/kg(体重)を3週間に1回。
【0137】
代替として、多重特異性分子は、持続放出製剤として投与されてもよく、その場合、より少ない頻度の投与が必要とされる。用量および頻度は、患者における多重特異性分子の半減期に依存して変動する。一般に、ヒト抗体が最長の半減期を示し、次いでヒト化抗体、キメラ抗体、および非ヒト抗体が続く。用量および投与頻度は、処置が予防的か治療的かに依存して変動し得る。予防用途においては、長期間にわたり比較的低頻度の間隔で比較的低い用量が投与される。一部の患者は、生涯処置を受け続ける。治療用途においては、疾患の進行が低減または停止されるまで、好ましくは患者が疾患の症状の部分的または完全な改善を示すまで、比較的短い間隔で比較的高い用量が必要となることがある。その後、患者に予防計画が施されてもよい。
【0138】
本発明の薬学的組成物中の活性成分の実際の投薬レベルは、患者に有毒となることなく特定の患者、組成、および投与形態に対して所望の治療反応を達成するのに効果的である活性成分の量を得るために変動し得る。選択される投薬レベルは、使用される本発明の特定の組成物の活性、投与経路、投与時間、使用されている特定の化合物の排泄速度、処置期間、使用される特定の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物および/または材料、処置されている患者の年齢、性別、体重、状態、全体的な健康および病歴、ならびに医療分野において周知の同様の因子を含む、様々な薬物動態因子に依存する。
【0139】
本発明の多重特異性分子の「治療有効用量」は、好ましくは、疾患症状の重症度の減少、疾患症状のない期間の頻度および期間の増加、または疾患の苦痛に起因する不全もしくは障害の防止をもたらす。例えば、腫瘍の処置の場合、「治療有効用量」は、好ましくは、細胞成長または腫瘍成長もしくは転移を、未処置対象と比較して少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも40%、さらにより好ましくは少なくとも約60%、さらにより好ましくは少なくとも約80%阻害する。腫瘍成長を阻害する薬剤または化合物の能力は、ヒト腫瘍における効力を予測する動物モデル系において評価され得る。代替として、組成物のこの特性は、化合物の阻害能力を検査することにより評価され得、そのような阻害は、当業者に知られたアッセイによりin vitroで評価され得る。治療有効量の治療化合物は、腫瘍のサイズ、転移を減少させ得、または対象における症状を別様に改善し得る。当業者は、対象のサイズ、対象の症状の重症度、および選択された特定の組成物または投与経路等の因子に基づいて、そのような量を決定することができる。
【0140】
投与
本発明の組成物は、当技術分野において知られている様々な方法の1つ以上を使用して、1つ以上の投与経路で投与され得る。当業者に理解されるように、投与経路および/または投与様式は、所望の結果に依存して変動する。本発明の抗体の好ましい投与経路は、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、皮下、脊髄、または例えば注射もしくは注入による他の非経口投与経路を含む。「非経口投与」という語句は、本明細書で使用される場合、通常は注射による、経腸および局所投与以外の投与様式を意味し、限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内(intrathecal)、関節内(intracapsular)、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内(intraarticular)、皮膜下、くも膜下(subarachnoid)、脊髄内、硬膜外、および胸骨内の注射および注入を含む。代替として、本発明の多重特異性分子は、非経口以外の経路で、例えば局所、表皮または粘膜投与経路で、例えば鼻腔内、経口、経膣、経直腸、舌下または局所的に投与され得る。
【0141】
活性化合物は、インプラント、経皮パッチ、およびマイクロカプセル化送達系を含む制御放出製剤等、急速放出に対して化合物を保護する担体を用いて調製されてもよい。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸等の生分解性の生体適合性ポリマーが使用され得る。そのような製剤の調製のための多くの方法が特許取得済みであり、または当業者に一般に知られている。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems,J.R.Robinson,ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,1978を参照されたい。
【0142】
治療組成物は、当技術分野において知られている医療デバイスを用いて投与され得る。例えば、本発明の治療組成物は、無針式皮下注射デバイス、例えば米国特許第5,399,163号明細書、同第5,383,851号明細書、同第5,312,335号明細書、同第5,064,413号明細書、同第4,941,880号明細書、同第4,790,824号明細書、および同第4,596,556号明細書において開示されているデバイスを用いて投与され得る。本発明において有用な周知のインプラントおよびモジュールの例は、米国特許第4,487,603号明細書、同第4,486,194号明細書、同第4,447,233号明細書、同第4,447,224号明細書、同第4,439,196号明細書、および同第4,475,196号明細書に記載のものを含む。これらの特許は、参照することにより本明細書に組み込まれる。その他多くのそのようなインプラント、送達システム、およびモジュールが、当業者に周知である。
【0143】
処置方法
一態様において、本発明は、がん性腫瘍の成長および/または転移が阻害されるような、上述の多重特異性分子を使用したin vivoでの対象の処置に関する。一実施形態において、本発明は、対象における腫瘍細胞の成長を阻害する、および/またはその転移拡散を制限する方法であって、治療有効量の多重特異性分子を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0144】
処置に好ましいがんの限定されない例は、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病を含む慢性または球性白血病、リンパ球性リンパ腫、乳がん、卵巣がん、黒色腫(例えば転移性悪性黒色腫)、腎臓がん(例えば明細胞癌)、前立腺がん(例えばホルモン抵抗性前立腺癌)、結腸癌および肺がん(例えば非小細胞肺がん)を含む。さらに、本発明は、その成長が本発明の抗体を使用して阻害され得る抵抗性または再発性悪性腫瘍を含む。本発明の方法を使用して処置され得る他のがんの例は、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭部または頸部のがん、皮膚または眼球内の悪性黒色腫、子宮がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん、精巣がん、子宮がん、ファロピウス管の癌腫、子宮内膜の癌腫、子宮頚の癌腫、膣の癌腫、陰門の癌腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道がん、小腸がん、内分泌系のがん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、小児期の固形腫瘍、膀胱がん、腎臓または尿管のがん、腎盂癌腫、中枢神経系(CNS)の新生物、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊椎腫瘍、脳幹グリオーマ、下垂体アデノーマ、カポジ肉腫、扁平上皮がん、扁平細胞がん、T細胞リンパ腫、アスベストにより誘発されるものを含む環境誘発がん、および前記がんの組み合わせを含む。
【0145】
本明細書において使用される場合、「対象」という用語は、人間および人間以外の動物を含むことを意図する。人間以外の動物は、全ての脊椎動物、例えば哺乳動物および非哺乳動物、例えば人間以外の霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ニワトリ、両生類および爬虫類を含むが、哺乳動物、例えば人間以外の霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウシおよびウマが好ましい。好ましい対象は、免疫反応の向上を必要とする人間の患者を含む。方法は、免疫反応の増強により処置され得る障害を有する人間の患者の処置に特に好適である。
【0146】
上記の処置はまた、標準的ながん処置と組み合わされてもよい。例えば、それは、化学治療計画と効果的に組み合わされ得る。これらの場合、投与される化学治療試薬の用量を低減することが可能となり得る(Mokyr,M.et al.(1998)Cancer Research 58:5301-5304)。
【0147】
宿主の免疫反応性を活性化するために使用され得る他の抗体が、本発明の多重特異性分子と組み合わせて使用されてもよい。これらは、DC機能および抗原提示を活性化する樹状細胞の表面を標的化する分子を含む。例えば、抗CD40抗体は、T細胞ヘルパー活性を効果的に代替することができ(Ridge,J.et al.(1998)Nature 393:474-478)、本発明の多重特異性分子と併せて使用され得る(Ito,N.et al.(2000)Immunobiology 201 (5)527-40)。同様に、T細胞共刺激分子、例えばCTLA-4(例えば米国特許第5,811,097号明細書)、CD28(Haan,J.et al.(2014)Immunology Letters 162:103-112)、OX-40(Weinberg,A.et al.(2000)Immunol 164:2160-2169)、4-1BB(Melero,I.et al.(1997)Nature Medicine 3:682-685 (1997)、およびICOS(Hutloff,A.et al.(1999)Nature 397:262-266)、またはPD-1(米国特許第8,008,449号明細書)PD-1L(米国特許第7,943,743号明細書および同第8,168,179号明細書)を標的化する抗体もまた、T細胞活性化レベルの増加を提供し得る。別の例において、本発明の多重特異性分子は、抗新生物抗体、例えばRITUXAN(リツキシマブ)、HERCEPTIN(トラスツズマブ)、BEXXAR(トシツモマブ)、ZEVALIN(イブリツモマブ)、CAMPATH(アレムツズマブ)、LYMPHOCIDE(エプラツズマブ)、AVASTIN(ベバシズマブ)、およびTARCEVA(エルロチニブ)等と併せて使用され得る。
【0148】
用語の定義
「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」という用語は、本明細書において、ポリマー内のアミノ酸残基の配置を説明するために同義的に使用される。ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質は、希少アミノ酸および合成アミノ酸類似体に加えて、標準的な20の天然アミノ酸で構成され得る。それらは、長さまたは翻訳後修飾(例えばグリコシル化またはリン酸化)に関わらず、アミノ酸の任意の鎖であってもよい。
【0149】
「組換え」ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質は、組換えDNA技術により生成された、すなわち所望のペプチドをコードする外因性DNAコンストラクトにより形質転換された細胞から生成されたペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質を指す。「合成」ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質は、化学合成により調製されたペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質を指す。「組換え」という用語は、例えば細胞、または核酸、タンパク質もしくはベクターに関して使用される場合、細胞、核酸、タンパク質またはベクターが、異種核酸もしくはタンパク質の導入、または天然の核酸もしくはタンパク質の改変により修飾されていること、あるいは細胞が、そのように修飾された細胞から誘導されることを示す。上述の配列および異種配列の1つ以上を含有する融合タンパク質は、本発明の範囲内である。異種ポリペプチド、核酸または遺伝子は、外来種に由来するもの、または、同じ種に由来する場合には、その元の形態から実質的に修飾されたものである。2つの融合したドメインまたは配列は、天然タンパク質または核酸において互いに隣接していない場合、互いに異種である。
【0150】
「単離された」ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質は、自然に関連している他のタンパク質、脂質、および核酸から分離されたペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質を指す。ポリペプチド/タンパク質は、乾燥重量で、精製された調製物の少なくとも10%(すなわち、10%~100%の間の任意のパーセンテージ、例えば20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、および99%)を構成し得る。純度は、任意の適切な標準的方法により、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析により測定され得る。本発明において説明される単離されたポリペプチド/タンパク質は、天然源から精製されてもよく、組換えDNA技術により生成されてもよく、または化学的方法により生成されてもよい。
【0151】
「抗原」は、免疫反応を惹起する、またはその反応の生成物に結合する物質を指す。「エピトープ」という用語は、抗体またはT細胞が結合する抗原の領域を指す。
【0152】
本明細書で使用される場合、「抗体」は、最も広い意味で使用され、具体的には、所望の生物活性を示す限り、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および抗体断片を包含する。
【0153】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」は、無傷抗体の一部を含んでもよく、一般的には、無傷抗体の抗原結合および/もしくは可変領域、ならびに/またはFcR結合能力を保持する抗体のFc領域を含む。抗体断片の例は、直鎖抗体、一本鎖抗体分子、および抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。好ましくは、抗体断片は、IgG重鎖の全定常領域を保持し、IgG軽鎖を含む。
【0154】
本明細書で使用される場合、「Fc断片」または「Fc領域」は、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。
【0155】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、微量に存在し得る可能な天然突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、極めて特異的であり、単一抗原部位に方向付けられている。さらに、異なる決定因子(エピトープ)に方向付けられた異なる抗体を典型的に含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定因子に方向付けられている。「モノクローナル」という修飾語は、抗体の実質的に均質な集団から得られるような抗体の特性を示し、任意の特定の方法による抗体の生成を必要とするものとして解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、参照することにより本明細書に組み込まれるKohler and Milstein,Nature,256,495-497(1975)により初めて説明されたハイブリドーマ法によって作製されてもよく、または、組換えDNA法(例えば、参照することにより本明細書に組み込まれる米国特許第4,816,567号明細書を参照されたい)によって作製されてもよい。モノクローナル抗体はまた、例えば、それぞれ参照することにより本明細書に組み込まれるClackson et al.,Nature,352,624-628(1991)およびMarks et al.,J Mol Biol,222,581-597(1991)に記載の技術を使用して、ファージ抗体ライブラリから単離されてもよい。
【0156】
本明細書において、モノクローナル抗体は、具体的には、所望の生物活性を示す限り、重鎖および/または軽鎖が特定の種から得られる、または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応する配列に同一または相同性であり、一方鎖(複数可)の残りが別の種から得られる、または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応する配列に同一または相同性である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、ならびにそのような抗体の断片を含む(それぞれ参照することにより本明細書に組み込まれる、米国特許第4,816,567号明細書、Morrison et al.,Proc Natl Acad Sci USA,81,6851-6855(1984)、Neuberger et al.,Nature,312,604-608(1984)、Takeda et al.,Nature,314,452-454(1985)、国際特許出願第PCT/GB85/00392号を参照されたい)。
【0157】
非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンから得られた最小配列を含むキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域からの残基が、所望の特異性、親和性および能力を有するマウス、ラット、ウサギまたは人間以外の霊長類等の人間以外の種(ドナー抗体)の超可変領域からの残基で置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの場合において、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基により置き換えられている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体において見られない残基を含んでもよい。これらの修飾は、抗体性能をさらに精緻化するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、超可変ループの全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FR残基の全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体はまた、任意選択で、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部を含む。さらなる詳細については、それぞれ参照することにより本明細書に組み込まれる、Jones et al.,Nature,321,522-525(1986)、Riechmann et al.,Nature,332,323-329(1988)、Presta,Curr Op Struct Biol,2,593-596(1992)、米国特許第5,225,539号明細書を参照されたい。
【0158】
「ヒト抗体」は、例えばヒトハイブリドーマ、ヒトファージディスプレイライブラリ、またはヒト抗体配列を発現するトランスジェニックマウスから得ることができるような完全にヒト配列を有する任意の抗体を指す。
【0159】
「薬学的組成物」という用語は、活性薬剤と、組成物をin vivoまたはex vivoでの診断または治療的使用に特に好適とする不活性または活性の担体との組み合わせを指す。
【0160】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、生理学的に適合性であるありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌および抗真菌薬剤、等張および吸収遅延薬剤等を含む。「薬学的に許容される担体」は、対象に投与された後、または対象上で、望ましくない生理学的効果を引き起こさない。薬学的組成物中の担体はまた、活性成分に適合しそれを安定化させ得るという意味でも「許容され得」なければならない。活性薬剤の送達のための薬学的担体として、1種以上の可溶化剤が利用され得る。薬学的に許容される担体の例は、これらに限定されないが、投薬形態として使用可能な組成物を達成するために、生体適合性ビヒクル、アジュバント、添加剤、および希釈剤を含む。他の単体の例は、コロイド状酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、およびラウリル硫酸ナトリウムを含む。さらなる好適な薬学的担体および希釈剤、ならびにそれらの使用のための薬学的必須成分は、Remington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄、または表皮投与(例えば注射または注入による)に好適である。治療化合物は、1種以上の薬学的に許容される塩を含んでもよい。「薬学的に許容される塩」は、特許化合物の所望の生物活性を保持し、望ましくない毒性効果をもたらさない塩を指す(例えば、Berge,S.M.,et al.(1977)J.Pharm.Sci.66:1-19を参照されたい)。
【0161】
「細胞毒性薬剤」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞の機能を阻害もしくは防止する、および/または細胞の破壊をもたらす物質を指す。この用語は、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32およびLuの放射性同位体Lu)、化学治療薬剤、ならびに毒素、例えば細菌、真菌、植物または動物起源の小分子毒素または酵素活性毒素(それらの断片および/または変異体を含む)を含むことを意図する。
【0162】
「化学治療薬剤」は、がんの処置に有用な化学化合物である。化学治療薬剤の例は、アルキル化剤、例えばチオテパおよびシクロホスファミド(CYTOXAN(商標));アルキルスルホネート、例えばブスルファン、インプロスルファンおよびピポスルファン;アジリジン、例えばベンゾドパ、カルボコン、メツレドパ、およびウレドパ;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミドおよびトリメチロロメラミンを含む、エチレンイミンおよびメチラメラミン;アセトゲニン(特にブラタシンおよびブラタシノン);カンプトテシン(合成類似体トポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシンおよびビゼレシン合成類似体を含む);クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;ズオカルマイシン(合成類似体、KW-2189およびCBI-TMIを含む);エレウセロビン;パンクラティスタチン;サルコジクチン;スポンギスタチン;ナイトロジェンマスタード、例えばクロラムブシル、クロラナファジン、コロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベンビチン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロフォスファミド、ウラシルマスタード;ニトロソ尿素、例えばカルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン;抗生物質、例えばエネジイン抗生物質(例えばカリケアミシン、例えばAgnew Chem.Intl.Ed.Engl.33:183-186(1994)を参照されたい;ジネミシンAを含むジネミシン;エスペラミシン;ならびにネオカルジノスタチン発色団および関連した色素タンパク質エネジイン抗生物質クロモモフォア(chromomophores))、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウスラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン、カミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシンおよびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、ピューロマイシン、クエラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;抗代謝剤、例えばメトトレキセートおよび5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸類似体、例えばデノプテリン、メトトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキセート;プリン類似体、例えばフルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えばアンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フルオキシウリジン、5-FU;アンドロゲン、例えばカルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎ステロイド、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸補充剤、例えばフロリニック酸(frolinic acid);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキセート;デフォファミン;デメコルチン;ジアジコン;エルフォルミチン;酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン;メイタンシノイド、例えばメイタシンおよびアンサミトシン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2”-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特にT-2トキシン、ベラキュリンA、ロリジンAおよびアンギジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えばパクリタキセル(TAXOL(登録商標)、Bristol-Myers Squibb Oncology、Princeton、N.J.)およびドキセタキセル(TAXOTERE(登録商標)、Rhone-Poulenc Rorer、Antony、France);クロランブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;白金類似体、例えばシスプラチンおよびカルボプラチン;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;キセロダ;イバンドロネート;CPT-11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;カペシタビン;ならびに上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸または誘導体を含む。また、腫瘍に対するホルモン作用を調節または阻害するように作用する抗ホルモン剤、例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害4(5)-イミダゾール、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、トレミフェン(Fareston);ならびに抗アンドロゲン、例えばフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、およびゴセレリン;ならびに上記の薬学的に許容される塩、酸または誘導体もまた、この定義に含まれる。
【0163】
本明細書で使用される場合、「処置する」または「処置」は、障害、障害の症状、障害に続発する疾患状態、または障害への傾向を治癒、軽減、緩和、治療、発症遅延、予防、または改善することを目的とした、障害を有する、または障害を発症するリスクのある対象への化合物または薬剤の投与を指す。
【0164】
「有効量」は、処置される対象に対して治療効果を付与するために必要な活性化合物/薬剤の量を指す。有効用量は、当業者に認識されるように、処置されている状態の種類、投与経路、賦形剤の使用量、および他の治療処置との併用の可能性に依存して変動する。新生物の状態を処置するための組み合わせの治療有効量は、例えば、未処理動物と比較して、腫瘍サイズの低減、腫瘍病巣の数の低減をもたらす、または腫瘍の成長を抑制する量である。
【0165】
本明細書において開示されるように、いくつかの値の範囲が提供される。文脈上異なる定義が明示されない限り、下限値の単位の10分の1まで、その範囲の上限値と下限値との間の各介在値もまた具体的に開示される。示された範囲内の任意の示された値または介在値と、その示された範囲内の任意の他の示された値または介在値との間のそれぞれのより狭い範囲が、本発明に包含される。これらのより狭い範囲の上限値および下限値は、独立してその範囲に含まれてもよく、または除外されてもよく、より狭い範囲内にいずれかもしくは両方が含まれる、またはいずれも含まれない各範囲もまた、本発明の範囲内に包含され、示された範囲内の任意の具体的に除外される限界値の対象となる。示された範囲が限界値の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限界値のいずれかまたは両方を除外する範囲もまた、本発明に含まれる。
【0166】
「約」という用語は、一般に、示された数字のプラスまたはマイナス10%を指す。例えば、「約10%」は、9%~11%の範囲を示し得、「約1」は、0.9~1.1を意味し得る。「約」の他の意味は文脈から明らかとなり得、例えば四捨五入であってもよく、したがって、例えば「約1」はまた、0.5~1.4を意味し得る。
【実施例0167】
実施例1.30kmPEG-Lys(マレイミド)-アルキンの調製(
図1A)
30kmSC-PEG(化合物2)の調製:
25gの30kmPEG-OH(MW=30000、1当量)を、360mLの試薬トルエンと2時間共沸させ、75mLのトルエン/水を除去した。共沸後、溶液を45~50℃に冷却した。166mgのトリホスゲン(0.67当量)をPEGに添加し、続いて131.8mgの無水ピリジン(2当量)を添加した。反応を50℃で3時間撹拌した。次いで、239.8mgのN-ヒドロキシスクシンイミド(2.5当量)を添加し、続いて164.8gの無水ピリジン(2.5当量)を添加した。反応混合物を、窒素下で50℃で一晩撹拌した。ピリジン塩を濾過した。Rotavaporで溶媒を除去し、残渣を2-プロパノールから再結晶させた。単離された生成物を真空炉内で40℃で乾燥させると、23gの30kmSC-PEGが得られた。
【0168】
30kmPEG-Lys(Boc)-OH(化合物3)の調製:
369mgのH-lys(boc)-OH(3当量)、646.5mgのDIEA(10当量)および15gの30kmSCPEG(1当量)を、100mLのDMFおよび150mlのDCM中で混合した。混合物を室温で一晩撹拌した。不溶性材料を濾過除去した。溶媒を除去し、残渣を2-プロパノールから再結晶させた。単離された生成物を真空下で40℃で乾燥させると、12.8gの30kmPEG-Lys(Boc)-OHが得られた。
【0169】
30kmPEG-Lys(Boc)-アルキン(化合物4)の調製:
11gの30kmPEG-Lys(Boc)-OH(1当量)を、110mLのDCMに溶解し、0~5℃に冷却した。101.4mgの1-アミノ-3-ブチン(4当量)を添加し、続いて402.6mgのDMAP(9当量)および422.4mgのEDC(6当量)を添加した。混合物を0~5℃で1時間撹拌した。冷却を外し、反応物を室温で一晩放置した。溶媒を除去し、残渣を2-プロパノールから再結晶させた。単離された生成物を真空下で40℃で乾燥させると、10.4gの30kmPEG-Lys(Boc)-アルキンが得られた。
【0170】
30kmPEG-Lys-アルキン(化合物5)の調製:
10gの30kmPEG-lys(Boc)-アルキンを室温で1時間、150mLのTFA/DCM(1:2)で処理する。溶媒を真空下で除去する。残渣をエチルエーテル/DCMから再結晶させる。単離された生成物を真空下で40℃で乾燥させると、9.5gの30kmPEG-Lys-アルキンが得られる。
【0171】
30kmPEG-Lys(マレイミド)-アルキン(化合物6)の調製:
9gの30kmPEG-lys-アルキン(1当量)を、90mLのDCMに溶解した。774mgのDIEA(20当量)、続いて281mgのNHS-PEG2-Mal(2.2当量)を、0/5℃で添加した。混合物を室温で一晩撹拌した。溶媒を除去し、残渣を2-プロパノールから再結晶させた。単離された生成物を真空下で乾燥させると、8gの30kmPEG-Lys(マレイミド)-アルキンが得られた。
【0172】
実施例2.40kY-PEG-Lys(マレイミド)-アルキンの調製(
図1B)
40k-Y-PEG-Lys(Boc)-OH(化合物3a)の調製:
246mgのH-lys(boc)-OH(4当量)、323mgのDIEA(10当量)および10gの40k-Y-PEG-NHS(1当量)を、100mLのDMFおよび100mlのDCM中で混合した。混合物を室温で一晩撹拌した。不溶性材料を濾過除去した。溶媒を除去し、残渣を2-プロパノールから再結晶させた。単離された生成物を真空下で40℃で乾燥させると、9.1gの40k-Y-PEG-Lys(Boc)-OHが得られた。
【0173】
40k-Y-PEG-Lys(Boc)-アルキン(化合物4a)の調製:
9gの40k-Y-PEG-Lys(Boc)-OH(1当量)を、90mLのDCMに溶解し、0~5℃に冷却した。62.3mgの1-アミノ-3-ブチン(4当量)を添加し、続いて247mgのDMAP(9当量)および259mgのEDC(6当量)を添加した。混合物を0~5℃で1時間撹拌した。冷却を外し、反応物を室温で一晩放置した。溶媒を除去し、残渣を2-プロパノールから再結晶させた。単離された生成物を真空下で40℃で乾燥させると、8.4gの40k-Y-PEG-Lys(Boc)-アルキンが得られた。
【0174】
40k-Y-PEG-Lys-アルキン(化合物5a)の調製:
8.2gの40k-Y-PEG-lys(Boc)-アルキンを室温で1時間、120mLのTFA/DCM(1:2)で処理した。溶媒を真空下で除去した。残渣をエチルエーテル/DCMから再結晶させた。単離された生成物を真空下で40℃で乾燥させると、7.9gの40k-Y-PEG-Lys(Boc)-アルキンが得られた。
【0175】
40k-Y-PEG-Lys(マレイミド)-アルキン(化合物6a)の調製:
7.68gの40k-Y-PEG-lys-アルキン(1当量)を、80mLのDCMに溶解した。495mgのDIEA(20当量)、続いて204mgのNHS-PEG2-Mal(2.5当量)を、0/5℃で添加した。混合物を室温で一晩撹拌した。溶媒を除去し、残渣を2-プロパノールから再結晶させた。単離された生成物を真空下で乾燥させると、7.24gの40k-Y-PEG-Lys(マレイミド)-アルキンが得られた。
【0176】
実施例3.30kmPEG-Lys(マレイミド)-DBCOの調製(
図1C)
30kmPEG-Lys(Boc)-DBCO(化合物4b)の調製:
6gの30kmPEG-Lys(Boc)-OH(1当量)を、60mLのDCMに溶解し、0~5℃に冷却した。221.1mgのNH2-DBCO(4当量)を添加し、続いて219.6mgのDMAP(9当量)および230.4mgのEDC(6当量)を添加した。混合物を0~5℃で1時間撹拌した。冷却を外し、反応物を室温で一晩放置した。溶媒を除去し、残渣を2-プロパノールから再結晶させた。単離された生成物を真空下で40℃で乾燥させると、5.7gの30kmPEG-Lys(Boc)-アルキンが得られた。
【0177】
30kmPEG-Lys-DBCO(化合物5b)の調製:
5.7gの30kmPEG-lys(Boc)-DBCOを室温で1時間、86mLのTFA/DCM(1:2)で処理する。溶媒を真空下で除去した。残渣をエチルエーテル/DCMから再結晶させた。単離された生成物を真空下で40℃で乾燥させると、5.5gの30kmPEG-Lys-アルキンが得られた。
【0178】
30kmPEG-Lys(マレイミド)-DBCO(化合物6b)の調製:
5.5gの30kmPEG-lys-DBCO(1当量)を、55mLのDCMに溶解した。473mgのDIEA(20当量)、続いて195mgのNHS-PEG2-Mal(2.5当量)を、0/5℃で添加した。混合物を室温で一晩撹拌した。溶媒を除去し、残渣を2-プロパノールから再結晶させた。単離された生成物を真空下で乾燥させると、5.1gの30kmPEG-Lys(マレイミド)-DBCOが得られた。
【0179】
実施例4.SCACD3およびSCACD19の調製
pPICZ ベクターを含むEasySelect(商標)Pichia Expression Kitを使用して、一本鎖抗体(SCA)断片抗CD3(SCACD3)および抗CD19(SCACD19)を、ピキア・パストリスにおいて組換えDNA技術により作製した。抗CD3 VH-VLおよび抗CD19 VL-VHをコードする遺伝子を、pPIZA発現ベクター内に合成およびクローン化し、P.パストリスX33株において形質転換させた。メタノールによりSCAの発現を誘引し、Niキレート樹脂により精製する。その後の結合を促進するために、部位特異性官能基チオールを、組換えDNA技術により、SCACD3およびSCACD19の両方のVHとVLとの間のリンカーに挿入した。クロマトグラフィープロセスにより、純粋なSCACD3およびSCADCD19を得た。SCACD3およびSCACD19のDNA配列を、以下に列挙する。
【0180】
【0181】
【0182】
実施例5.Cu触媒を用いないクリックケミストリーによる30kmPEG-(SCACD3)SCACD19の調製(
図2A)
アジド-PEG
10-マレイミド(化合物9)の調製:
15mgのN-スクシンイミジル4-マレイミドブチレート(1当量)を、200μlのDMSO中で、室温で45分間38mgのアジド-dPEG
10-アミン(1.5当量)と反応させた。得られた化合物アジド-PEG
10-マレイミドを、さらに精製することなく直接次のステップで使用した。
【0183】
アジド-SCACD19(化合物10)の調製:
31mgのSCACD19(1当量)(1~5mg/ml)を、20mMのTris、1.5%のPEG600、pH8.0中の2~8mMのTCEP-HClにより30分間還元した。還元したSCADCD19(1当量)を200μlの二官能性リンカーアジド-PEG10-マレイミド(50当量)に添加した。混合物をボルテックスし、室温で3時間シェーカー上で放置した。反応物を100μlの200mMシステインにより室温で10分間クエンチした。過剰のリンカー、アジド-PEG10-マレイミドを、脱塩カラムHiPrep(商標)26/10(カタログ番号17-5087-01、GE Healthcare、NJ)により、20mMのTris、1.5%のPEG600、pH8.0の緩衝液で除去し、続いてCapto(商標)Q(GE Healthcare、NJ)カラムで除去した。Capt(商標)Qからの分画を回収し、SimplerBlue(商標)で染色したSDS-PAGEにより分析した。SDS-PAGEプロファイルに基づき、所望の化合物アジド-SCACD19分画をプールし、1~5mg/mlに濃縮し、さらなる使用のために冷蔵庫内で保存した。
【0184】
30kmPEG-Lys(SCACD3)-DBCO(化合物11)の調製:
24mgのSCACD3(1当量)(1~5mg/ml)を、20mMのリン酸ナトリウム、1.5%のPEG600、pH6.0中の2~5mMのTCEP-HClにより30分間還元した。還元した24mgのSCADCD3(1当量)を、20mMのリン酸Na、1.5%のPEG600、pH6.0中で264mgの30KmPEG-Lys(マレイミド)-DBCO(10当量)と混合した。混合物をボルテックスし、室温で約3時間シェーカー上で放置した。30kmPEG-Lys(SCACD3)-DBCOを、20mMのリン酸Na、1.5%のPEG600、pH6.0で事前に平衡化された20mLのCM Sepgharose Fast Flow(GE Healthcare)カラムにより精製した。試料投入後、カラムを10CVの平衡化緩衝液により洗浄して遊離PEGを完全に洗い流し、次いで0.5MのNaClにより溶出した。分画を回収し、SimplerBlue(商標)およびヨウ素で染色したSDS-PAGEにより分析した。SDS-PAGEプロファイルに基づいて、30kmPEG-Lys(SCACD3)-DBCOをプールし、1~5mg/mlに濃縮した。さらなる使用のために、緩衝液をPBSに交換した。
【0185】
30kmPEG-SCACD3/SCACD19(化合物12)の調製:
30kmPEG-Lys(SCACD3)-DBCO(化合物11)とアジド-SCACD19(化合物10)との結合を、1:1モル比でのPBS中室温で一晩のクリックケミストリーにより達成した。標的PEG化二重特異性抗体30kmPEG-SCACD3/SCACD19の精製を、まずHiPrep(商標)26/10脱塩カラムにより、20mMのTris、pH8.0緩衝液を、続いてDEAE Fast Flow Sepharose(GE Healthcare、NJ)およびCM Fast Flow Sepharose(GE Healthcare)を用いて行った。全てのカラムクロマトグラフィー精製は、上述の手順と同様に行った。分画を回収し、SimplerBlue(商標)およびヨウ素で染色したSDS-PAGEにより分析した。SDS-PAGEプロファイルに基づいて、最終二重特異性抗体生成物をプールし、PBS、pH7.4中約1mg/mlに濃縮した。標的化合物を、SEC-HPLCおよび細胞ベース活性アッセイにより確認した。
【0186】
実施例6.Cu触媒を用いたクリックケミストリーによる30kmPEG-(SCACD3)SCACD19の調製(
図2B)
30kmPEG-Lys(SCACD3)-アルキン(化合物11a)の調製:
24mgのSCACD3(1当量)(1~5mg/ml)を、20mMのリン酸ナトリウム、1.5%のPEG600、pH6.0中の2~5mMのTCEP-HClにより30分間還元した。還元した24mgのSCADCD3(1当量)を、20mMのリン酸Na、1.5%のPEG600、pH6.0中で264mgの30KmPEG-Lys(マレイミド)-アルキン(10当量)と混合した。混合物をボルテックスし、室温で約3時間シェーカー上で放置した。30kmPEG-Lys(SCACD3)-アルキン(化合物11a)を、20mMのリン酸Na、1.5%のPEG600、pH6.0で平衡化された20mLのCM Sepgharose Fast Flow(GE Healthcare)カラムにより精製した。試料投入後、カラムを10CVの平衡化緩衝液により洗浄して遊離PEGを完全に洗い流し、次いで0.5MのNaClにより溶出した。分画を回収し、SimplerBlue(商標)およびヨウ素で染色したSDS-PAGEにより分析した。SDS-PAGEプロファイルに基づいて、30kmPEG-Lys(SCACD3)-アルキンをプールし、1~5mg/mlに濃縮した。さらなる使用のために、緩衝液をPBSに交換した。
【0187】
30kmPEG-SCACD3/SCACD19(化合物12a)の調製:
30kmPEG-Lys(SCACD3)-アルキン(化合物11a)とアジド-SCACD19(化合物10)との結合を、15μΜのCu(I)および30μΜのティス(ベンジルトリアルゾリルメチル)アミン(TBTA)(事前にDMSO中で調製)の存在下、1:1モル比でのPBS中室温で一晩のクリックケミストリーにより達成した。
【0188】
標的PEG化二重特異性抗体30kmPEG-SCACD3/SCACD19(化合物12a)の精製を、実施例5で化合物12に関して説明したものと同様に行った。
【0189】
実施例7.生物学的データ(
図3および4)
in-vitro T細胞媒介細胞毒性
PEG化二重特異性抗体化合物12の細胞毒性力を評価するために、in vitro bscCD19xCD3細胞毒性アッセイを行った。この試験を用いて、DSP-BsAb技術が、腫瘍免疫治療のためにがん細胞を破壊するようにエフェクター細胞を動員することができる二重特異性抗体を調製するための代替技術であることを実証した。測色LDH放出アッセイを使用して、化合物12の細胞毒性を決定した。GraphPad Prism 6によりフィッティングされた4パラメータ対数非線形回帰モデルを用いて、最大半量有効濃度(EC
50)値を分析した。
【0190】
簡潔に説明すると、この試験において、37℃/5%CO2で完全媒体中に維持された標的Raji細胞(Bリンパ腫細胞株)を、化合物12(添加前に1%FBSが加えられたフェノールレッド不含MEM培地で希釈)と共に、異なる濃度で37℃で0.5時間インキュベートした。CD8+ T Cell Isolation Kitにより(20人の健常個人からの)PBMCから単離されたCD8+ T細胞をエフェクター細胞として添加した(E:T比=5:1)。化合物12、Raji細胞およびエフェクター細胞の混合物を、37℃/5%CO2で24時間さらにインキュベートした。LDHキットを用いて細胞生存率をアッセイするために、上澄みを回収した。OD492nmおよびOD650nmでの吸光度データを読み出した。バックグラウンド(OD650nm)を差し引いたOD492nmデータを分析して、LDH放出を調べた。細胞溶解のパーセンテージは、以下の式に従って計算した。
【0191】
【0192】
結果(平均±SD、(n=3))を
図3に示す。分析データを表1に列挙する。8.24ng/mlのEC
50値は、化合物12が標的細胞に対して有意に細胞毒性であることを示していた。さらに、化合物12はまた、標的細胞に対して用量依存性の殺傷力を示した。
【0193】
【0194】
in-vivo薬物動態
この試験は、本明細書において開示されるDSP-BsAb技術が従来の一本鎖二重特異性抗体の排除半減期を劇的に延長し得ることを実証するために設計された。PEG化一本鎖二重特異性抗体の薬物動態を、ラットへの1mg/kgの静脈注射後に決定した。ラットにおけるPEG化複合体の半減期は、典型的にはヒトにおける半減期よりも1/5短い範囲内にあるため、この試験でのラットにおけるPEG化一本鎖二重特異性抗体の半減期は、ヒトにおける可能な毎週の薬物投与で約10時間以上に達するはずである。
【0195】
試験のために、実験を以下のように行った:腫瘍不含Sprague-Dawley雄ラット(約250g、n=3)に、2つの頚静脈カニューレ(JVC)を取り付けた。薬物投与前最低12時間、投薬後4時間までは動物に食物を与えなかった。水は不断で与えた。JVCにより1mg/kgの二重特異性抗体化合物12を単回注射でラットに静脈内注射した。様々な時点で(投薬前、30分、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、24時間および48時間)、約0.3mlの血液試料を、頚静脈カニューレまたは尾静脈から採取し、ナトリウムヘパリンを含む冷却管内に入れた。試料を4℃で遠心分離し、結晶を回収してアッセイまで凍結した。
【0196】
ELISAアッセイを使用することにより、薬物動態分析を行った。簡潔に説明すると、マイクロプレートをまず2~8℃で一晩CD19抗原で被覆し、一方表面上の任意の非特異性結合部位をPBS中2%のBSAでブロックした。プレートをPBS、0.05%v/v Tween20で3×5分間洗浄してから、ラット血漿試料を塗布した。37℃で1.5時間のインキュベーション後、プレートをPBS、0.05%v/v Tween20で3×5分間洗浄し、続いて抗PEG抗体を37℃で1時間結合させた。プレートをPBS、0.05%v/v Tween20で3×5分間洗浄してから、酵素連結抗体を塗布した。次いで、プレートを酵素基質で処理して発色させ、1Nの硫酸により停止させた。化合物12の血漿濃度を較正曲線から計算し、時間に対してプロットした。結果(
図4および表2)は、化合物12が、ラットにおいて、一本鎖CD19/CD3二重特異性抗体の非PEG化型であるブリナツモマブ(t
1/2<0.5時間)よりはるかに長い排除半減期(T
1/2=27.48時間)を提供することを示している。
【0197】
【0198】
上記実施例および好ましい実施形態の説明は、本発明を特許請求の範囲により定義されるように制限するのではなく、例示として考慮されるべきである。容易に理解れるように、上に記載される特徴の多くの変形例および組み合わせが、特許請求の範囲に記載のように本発明から逸脱せずに利用され得る。そのような変形例は、本発明の範囲からの逸脱とみなされず、そのような変形例は全て、以下の特許請求の範囲内に含まれることを意図する。本明細書において引用される全ての参考文献は、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。