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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028976
(43)【公開日】2022-02-17
(54)【発明の名称】回転電機制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/05 20060101AFI20220209BHJP
   H02P 21/06 20160101ALI20220209BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2018184026
(22)【出願日】2018-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】滝川 由浩
(72)【発明者】
【氏名】波多野 龍
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 篤哉
(72)【発明者】
【氏名】谷山 善大
(72)【発明者】
【氏名】久富 夏規
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】池亀 透
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD08
5H505EE41
5H505GG04
5H505GG08
5H505HA01
5H505HA05
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505JJ23
5H505JJ24
5H505JJ26
5H505JJ27
5H505LL01
5H505LL41
5H505LL58
(57)【要約】
【課題】仮想的な電磁シャント回路を用いた制振制御が可能な回転電機制御装置の実現。
【解決手段】dq軸ベクトル座標系において回転電機を駆動制御する回転電機制御装置は、d軸及びq軸のそれぞれにおいて、回転電機に対する電流指令Iと回転電機からのフィードバック電流Iとの偏差に基づき、回転電機に対する電圧指令Vを演算して回転電機をフィードバック制御する比例積分制御器1を備え、回転電機のインダクタンスと直列共振回路を形成するキャパシタンスを有する仮想的な電磁シャント回路のインピーダンスに基づいて、q軸の比例積分制御器1のゲインが設定されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石型の交流の回転電機の回転軸に伝達されるトルク振動である伝達トルク振動を低減させる制振機能を備え、永久磁石が発生する磁界の方向であるd軸と前記d軸に直交するq軸とのdq軸ベクトル座標系において前記回転電機を駆動制御する回転電機制御装置であって、
前記d軸及び前記q軸のそれぞれにおいて、前記回転電機に対する電流指令と前記回転電機からのフィードバック電流との偏差に基づき、前記回転電機に対する電圧指令を演算して前記回転電機をフィードバック制御する比例積分制御器を備え、
前記回転電機のインダクタンスと直列共振回路を形成するキャパシタンスを有する仮想的な電磁シャント回路のインピーダンスに基づいて、前記q軸の前記比例積分制御器のゲインが設定されている、回転電機制御装置。
【請求項2】
前記電磁シャント回路は、シャント抵抗器及びシャントキャパシタの直列回路により形成され、前記シャント抵抗器の抵抗値をRs、前記シャントキャパシタのキャパシタンスをCsとして、比例ゲインがRs、積分ゲインが1/Csに基づいて設定されている、請求項1に記載の回転電機制御装置。
【請求項3】
前記電流指令に基づいて前記比例積分制御器から出力される前記電圧指令を補償するフィードフォワード制御部を備える、請求項1又は2に記載の回転電機制御装置。
【請求項4】
前記フィードフォワード制御部は、前記比例積分制御器から出力される前記電圧指令に加算される補償電圧を演算するフィードフォワード電圧補償器と、前記比例積分制御器に入力される前記電流指令を補正する電流指令調整器とを備え、
前記フィードフォワード電圧補償器は、前記電圧指令から前記回転電機を流れる電流までの制御系モデルの伝達関数の逆数の伝達関数を有する制御器と、前記フィードフォワード電圧補償器の伝達関数がプロパーとなるような伝達関数を有する規範モデルとを有し、
前記電流指令調整器は、前記規範モデルにより前記電流指令を補正する、請求項3に記載の回転電機制御装置。
【請求項5】
前記回転電機の前記永久磁石とコイルとの間で生じる電磁誘導による誘起電圧を低減させる非干渉化を行う非干渉電圧補償器を備え、
前記非干渉電圧補償器は、制振対象の前記伝達トルク振動の周波数よりも低いカットオフ周波数未満の周波数において前記非干渉化を行い、前記カットオフ周波数以上の周波数において前記非干渉化を行わないようにローパスフィルタを備える、請求項1から4の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項6】
仮想的な前記電磁シャント回路のインピーダンスに基づいて、前記q軸の前記比例積分制御器のゲインが設定されている、請求項1から5の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石型の交流の回転電機の回転軸に伝達されるトルク振動である伝達トルク振動を低減させる制振機能を備えた回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2012-200128号公報には、回転電機が駆動連結される機械系から回転電機の回転軸に伝達されるトルク振動を打ち消すためのトルクを回転電機に出力させる制御装置が開示されている。この制御装置では、回転電機の回転速度から、トルク振動の周波数に対応した回転速度振動を抽出すると共に、回転電機の回転速度に基づいてトルク振動の周波数であるトルク振動周波数を算出している。そして、この制御装置は、回転速度振動及びトルク振動周波数に基づいて、回転速度振動をトルク振動周波数において所定位相遅らせた位相遅れ回転速度振動を算出して、制振トルク(打ち消しトルク振動の指令値)を演算している。この手法では、回転電機の回転速度(角速度)の変化に対して位相遅れが顕著となる共振点付近における制振性能が充分に得られないという課題がある。
【0003】
そのような共振点領域において高い制振性能を得られる手法が、高木賢太郎らによる論文「ディジタル仮想インピーダンス回路を用いた電磁シャント制振」において提案されている。この論文には、ばね・質量と電磁アクチュエータからなる系の支配方程式を導出して、コンピュータ上における仮想的なディジタルインピーダンス回路を用いて制振制御を行う手法が記載されている。この電磁アクチュエータは、永久磁石とコイルから構成され、コイルに電流が流れることで可動部を可動させるローレンツ力を生じ、逆に可動部の移動速度に応じてコイルに誘導起電力を生じさせるものである。但し、この論文の序文(1.はじめに)にも記載されているように、この論文では、高度な振動制御系設計に進む前の段階として、インピーダンス回路を模擬する場合を検討している。従って、ディジタル仮想インピーダンス回路(仮想的な電磁シャント回路)を用いた制振技術を、電動車両やエアコンディショナー、発電機など、今日の産業分野において広く用いられている交流の回転電機(例えば永久磁石型同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor))に対して、この制振技術をそのまま適用できるというものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-200128号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】高木賢太郎(TAKAGI Kentaro)、井上剛志(INOUE Tsuyoshi)、宮地智也(MIYACHI Tomoya)“ディジタル仮想インピーダンス回路を用いた電磁シャント制振(Electro-Magnetic Shunt Damping with a Digital Virtual Impedance Circuit)”、日本機械学会論文集(C編)、日本機械学会、2012年2月、78巻、786号、論文No.2011-JCR-0693、p.126-140(p.474-488)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景に鑑みて、仮想的な電磁シャント回路を用いた制振制御が可能な回転電機制御装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑みた回転電機制御装置は、1つの態様として、永久磁石型の交流の回転電機の回転軸に伝達されるトルク振動である伝達トルク振動を低減させる制振機能を備え、永久磁石が発生する磁界の方向であるd軸と前記d軸に直交するq軸とのdq軸ベクトル座標系において前記回転電機を駆動制御する回転電機制御装置であって、前記d軸及び前記q軸のそれぞれにおいて、前記回転電機に対する電流指令と前記回転電機からのフィードバック電流との偏差に基づき、前記回転電機に対する電圧指令を演算して前記回転電機をフィードバック制御する比例積分制御器を備え、前記回転電機のインダクタンスと直列共振回路を形成するキャパシタンスを有する仮想的な電磁シャント回路のインピーダンスに基づいて、前記q軸の前記比例積分制御器のゲインが設定されている。
【0008】
キャパシタンスによる電圧降下は、電流の時間積分により表される。比例積分制御器には、積分器が含まれる。従って、電圧指令を演算する比例積分制御器のゲインを仮想的な電磁シャント回路のインピーダンスに基づいて設定することで、仮想的な電磁シャント回路を比例積分制御器に組み込むことができる。即ち、本構成によれば、仮想的な電磁シャント回路を用いた制振制御が可能な回転電機制御装置を実現することができる。
【0009】
回転電機制御装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車両の駆動力源となる回転電機を含む車両用駆動装置の構成例を示す図
図2】ベクトル制御を行う回転電機制御装置の構成例を示す模式的ブロック図
図3】電流制御部の構成例を模式的に示すブロック線図
図4】電流制御部の他の構成例を模式的に示すブロック線図
図5】電流制御部の他の構成例を模式的に示すブロック線図
図6】電流制御部の他の構成例を模式的に示すブロック線図
図7】電流制御部の比較例を模式的に示すブロック線図
図8】電流制御部の比較例を模式的に示すブロック線図
図9】比例積分制御の原理を模式的に示すブロック線図
図10】電磁シャント回路の原理を模式的に示す等価回路図
図11】非干渉電圧制御部の構成例を模式的に示すブロック線図
図12】非干渉電圧制御部におけるローパスフィルタの仕様の説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、回転電機制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。ここでは、図1に示すように、車両の車輪Wの駆動力源として車両用駆動装置100に用いられる永久磁石型の複数相の交流(本実施形態では3相交流)の回転電機80(MG)を駆動制御する回転電機制御装置10(MG-CTRL)を例として説明する。回転電機80は、変速機90(TA)などの動力伝達装置を介して車輪Wに駆動連結されている。本実施形態では、さらに回転電機80に内燃機関70(EG)が駆動連結されている形態を例示している。つまり、例えば、車両用駆動装置100は、動力伝達経路の順に、内燃機関70、回転電機80、変速機90、車輪Wの順に駆動連結されている。
【0012】
内燃機関70と回転電機80とは、クラッチ75を介して連結されており、内燃機関70と回転電機80とが駆動連結されている状態と、内燃機関70と回転電機80とが遮断されている状態とに切り換え可能である。車輪Wは、回転電機80のトルクにより駆動される状態と、内燃機関70のトルク及び回転電機80のトルクにより駆動される状態と、内燃機関70のトルクにより駆動される状態とにより駆動される。尚、車輪Wが内燃機関70のトルクにより駆動される状態では、回転電機80が内燃機関70のトルクにより従動回転するため、回転電機80は内燃機関70のトルクにより回生動作を行うことができる。
【0013】
内燃機関70は、内燃機関制御装置71(EG-CTRL)により制御され、変速機90は、変速機制御装置91(TA-CTRL)により制御される。上述したように、回転電機80は、回転電機制御装置10により制御される。回転電機制御装置10、内燃機関制御装置71、変速機制御装置91は、車両制御装置20(VHC-CTRL)からの指令(トルク、走行速度、変速比などに基づく制御指令)に基づいて、それぞれの装置を制御する。
【0014】
図1に示すように、回転電機80は、変速機90(TA)などの動力伝達装置を介して車輪Wに駆動連結されており、回転電機80の回転軸は、車輪Wや変速機90から外乱トルクTn(図3等参照)を受ける。この外乱トルクTnは、回転電機80の回転軸に伝達されるトルク振動(伝達トルク振動)に相当する。回転電機制御装置10は、そのような外乱トルクTnを低減させる制振機能も有している。即ち、回転電機制御装置10は、永久磁石型の交流の回転電機80の回転軸に伝達されるトルク振動である伝達トルク振動(外乱トルクTn)を低減させる制振機能を備え、図2図3等を参照して後述するように、永久磁石が発生する磁界の方向であるd軸と、d軸に直交するq軸とのdq軸ベクトル座標系において回転電機80を駆動制御する。
【0015】
図2に示すように、回転電機制御装置10は、トルク制御部11と、電流制御部12と、インバータ制御部13と、電流フィードバック部14とを備えている。トルク制御部11は、車両制御装置20からの指令(例えばトルク指令T)に基づいて電流指令I(Id,Iq)を演算する。電流制御部12は、電流指令Iと後述するフィードバック電流I(Id,Iq)との偏差に基づいて電圧指令V(Vd、Vq)を演算する。図3等を参照して後述するように、電流制御部12は、比例積分制御器1(PI)を中核として構成されている。インバータ制御部13は、dq軸ベクトル座標系から回転電機80の3相座標系への座標変換を行ってインバータ30を構成するスイッチング素子のスイッチング信号を生成する。電流フィードバック部14は、回転電機80の3相のステータコイル81(コイル)に流れる3相の電流(3相座標系の電流:Iu,Iv,Iw)を座標変換してdq軸ベクトル座標系の電流(ベクトル座標系の電流:I(Id,Iq))を電流制御部12にフィードバックする。3相の電流(Iu,Iv,Iw)は、電流センサ85により検出される。また、座標変換のための回転電機80のロータの回転(回転角度(機械角、及び電気角)、回転速度)は、レゾルバなどの回転センサ87によって検出される。ベクトル制御については、公知であるので詳細な説明は省略する。
【0016】
本実施形態の回転電機制御装置10は、上述したように、伝達トルク振動(外乱トルクTn)を低減させる制振機能を備えている。この制振機能は、電流制御部12に組み込まれている。図3のブロック線図は、電流制御部12の構成例を、回転電機80を含む車両用駆動装置100のモデル(8,9)と電流制御部12との関係を中心に示している。符号“8”は、回転電機80の電気系モデル8(MG(ELE))であり、符号“9”は回転電機80を含む車両用駆動装置100の機械系モデル9(MECH)である。回転電機80の電気系モデル8に基づき出力されるトルクTに外乱トルクTnが加わり、機械系モデル9を介して回転軸が回転するモデルとなっている。
【0017】
1つの態様として、電流制御部12は、比例積分制御器1(PI)と、非干渉電圧補償器2(DCPL)と、フィードフォワード制御部5とを備えている。尚、比例積分制御器1は、比例積分微分制御器(PID)であってもよい。詳細は後述するが、フィードフォワード制御部5は、フィードフォワード電圧補償器3と、電流指令調整器4とを備えている。この形態は、比較例として図7のブロック線図に示す一般的な電流制御部12Pと比較して、(A)比例積分制御器1が制振機能を得られるように適切に調整されている(図7の“1P”と比較して適切に調整されている)、(B)非干渉電圧補償器2が制振機能を得られるように適切に調整されている(図7の“2P”と比較して適切に調整されている)、(C)比例積分制御器1に対してフィードフォワード制御部5を備えている、という点で相違している。
【0018】
また、他の態様として、電流制御部12は、フィードフォワード制御部5を備えずに、図4に示すように、比例積分制御器1と、非干渉電圧補償器2とを備えて構成されていてもよい。この形態では、図7に示す比較例と比べて、(A)比例積分制御器1が制振機能を得られるように適切に調整されている、(B)非干渉電圧補償器2が制振機能を得られるように適切に調整されている、という点で相違する。
【0019】
尚、図7に例示する形態では、制振機能を有さない一般的な電流制御部12Pが非干渉電圧補償器2を備えている形態を示しているが、図8に例示するように、一般的な電流制御部12Pが非干渉電圧補償器2を備えていない場合もある。そのような電流制御部12Pに対して制振機能を設ける場合には、電流制御部12は、非干渉電圧補償器2及びフィードフォワード制御部5を備えずに、図5に示すように、制振機能を得られるように適切に調整された比例積分制御器1を備えて構成されていてもよい。つまり、この形態では、図8の比較例に対して、(A)比例積分制御器1が制振機能を得られるように適切に調整されている、という点で相違する。
【0020】
また、電流制御部12は、非干渉電圧補償器2を備えずに、図6に示すように、比例積分制御器1及びフィードフォワード制御部5を備えて構成されていてもよい。この形態では、図8の比較例に対して、(A)比例積分制御器1が制振機能を得られるように適切に調整されている、(C)比例積分制御器1に対してフィードフォワード制御部5を備えている、という点で相違する。
【0021】
以上、図3図6を参照して、電流制御部12の構成例について簡単に説明した。以下、上述したような一般的な電流制御部12Pと相違する部分、上述した(A)、(B)、(C)について詳細に説明する。
【0022】
まず、(A)比例積分制御器1を調整する手法について説明する。図9のブロック線図は、比例積分制御器1の原理を示している。ここでは、制振機能を備えた比例積分制御器1のブロック線図を示しており、回転電機80の電気系モデル8に与えられる電圧指令Vには、外乱トルクTnに基づく誘起電圧(外乱電圧Vn)が加算されることになる。また、ここでは簡略化のため、d軸、q軸を区別せずに説明する。ここで、比例積分制御器1における比例ゲインをK、積分ゲインをKとし、比例制御器(比例演算器)の伝達関数を“1”、積分制御器(積分演算器)の伝達関数を“1/s”とすると、比例積分制御器1において演算される電圧指令Vは、下記式(1)で示される。尚、“I-I”は電流指令Iとフィードバック電流Iとの偏差を示している。
【0023】
= (I-I)(K+(1/s)K) ・・・(1)
【0024】
ここで、制振機能に着目し、“電流指令I=0”とすると、比例積分制御器1において演算される電圧指令Vは、下記式(2)で示される。
【0025】
= -K・I-(1/s)K・I ・・・(2)
【0026】
図10は、電磁シャント回路の原理を示す等価回路図である。この等価回路において、回転電機80の電気系モデル8は、ステータコイル81のコイル抵抗RaとコイルインダクタンスLaとの直列回路として示されるインピーダンスを有する。この電気系モデル8(ステータコイル81)に交流の電流“I”が流れると、コイル抵抗Raの両端電圧に対して、コイルインダクタンスLaの両端電圧の位相が遅れ、位相差が生じる。一方、抵抗とキャパシタンスとの直列回路に交流電流が流れる場合には、キャパシタンスの両端電圧は、抵抗の両端電圧に対して位相が進む。従って、回路内にインダクタンスとキャパシタンスとを含むことによって、好ましくは、インダクタンスとキャパシタンスとを共振させることによって、上述した位相の遅れや進みを相殺することができる。つまり、これによって振動を低減する制振を実現することができる。
【0027】
図10に示す電磁シャント回路7のインピーダンスは、抵抗器(シャント抵抗Rs)と、キャパシタ(シャントキャパシタンスCs)との直列回路のインピーダンスである。ここで、電磁シャント回路7による電圧降下(シャント電圧Vs)は、下記式(3)で示される。尚、下記式(3)の右辺第2項は、電流“I”の時間積分であるが、ここでは式(1)、式(2)と同様に、電流“I”の時間積分をラプラス変換し、伝達関数“1/s”として表す。
【0028】
Vs = -Rs・I-(1/s)(1/Cs)・I ・・・(3)
【0029】
式(2)と式(3)とを比較すると、比例積分制御器1の比例ゲインKがシャント抵抗Rsに対応し、積分ゲインKがシャントキャパシタンスCsの逆数に対応している。
【0030】
高木賢太郎らによる論文「ディジタル仮想インピーダンス回路を用いた電磁シャント制振」にも記載されているように、上記のような電磁シャント回路7におけるシャント抵抗Rsは非常に小さな値もしくは負の値になることが多い。また、電磁シャント回路7のようなRCシャントの場合にはシャントキャパシタンスCsも大きな値となる。従って、物理的な抵抗器やキャパシタを用いたシャント回路を用いることは、素子自身が負の抵抗成分を持たないことや、キャパシタが大型化することなどより、現実的ではない。
【0031】
一方、仮想的な電磁シャント回路(仮想インピーダンス回路)であれば、より適切なパラメータ(シャント抵抗RsやシャントキャパシタンスCs)を設定することができる。仮想インピーダンス回路とは、抵抗器やキャパシタなどの受動素子を配置する代わりに電圧アンプなどを用いて、シャント回路における電圧を出力することによって、仮想インピーダンス回路と同じインピーダンスを持つ実際のシャント回路が接続されたようにする方法である。例えば、回転電機制御装置10などの制御ブロックの中に、仮想的な電磁シャント回路(或いはその仮想的なインピーダンスに基づく電圧など)を組み込めば、より適切なパラメータを有するシャント回路を用いた制振制御が可能となる。但し、交流の回転電機80をベクトル制御に駆動制御する回転電機制御装置10に対して、そのような仮想的な電磁シャント回路を組み込む技術は確立されていなかった。
【0032】
発明者らは、仮想的な電磁シャント回路を比例積分制御器1に組み込むことによって、外乱トルクTnに対する制振機能を有した回転電機制御装置10が実現できることを見いだした。式(2)及び式(3)を参照して上述したように、比例積分制御器1の比例ゲインKを仮想的な電磁シャント回路7におけるシャント抵抗Rsに基づいて設定し、積分ゲインKを仮想的な電磁シャント回路7におけるシャントキャパシタンスCsの逆数に基づいて設定することで、仮想的な電磁シャント回路を比例積分制御器1に組み込むことができる。
【0033】
シャント抵抗Rsは、仮想的な電磁シャント回路7のインピーダンスの実部であり、シャントキャパシタンスCsの逆数は、仮想的な電磁シャント回路7のインピーダンスの虚部である。従って、本実施形態の比例積分制御器1は、回転電機80のインダクタンス(コイルインダクタンスLa)と直列共振回路を形成するキャパシタンス(シャントキャパシタンスCs)を有する仮想的な電磁シャント回路7のインピーダンスに基づいてゲインが設定されている。
【0034】
尚、上述したように、シャント抵抗Rsは、非常に小さな値もしくは負の値になることが多い。このため、実際にシャント回路を組む場合には、シャント抵抗Rsがゼロ(短絡)に設定される場合がある。このため、比例積分制御器1は、少なくともシャントキャパシタンスCsによるインピーダンスに基づいてゲインが設定される形態であってもよい。
【0035】
尚、ベクトル制御においては、図2のブロック図に示したように、d軸及びq軸のそれぞれについて独立して比例積分制御が実行される。発明者らによる実験やシミュレーションによれば、q軸の比例積分制御器1のゲインを仮想的な電磁シャント回路7に基づいて設定することによって、好適な制振機能を実現できることが確認されている。従って、本実施形態では、q軸の比例積分制御器1のゲインが仮想的な電磁シャント回路7に基づいて設定される。
【0036】
図3図4図5図6に例示した回転電機制御装置10の何れにおいても、比例積分制御器1には、仮想的な電磁シャント回路7のインピーダンスに基づく比例ゲインK及び積分ゲインKが設定されている。つまり、これらの回転電機制御装置10の何れにおいても、比例積分制御器1の内部構成は、図7及び図8に示す比較例の回転電機制御装置における比例積分制御器1Pの内部構成とは異なっており、比例積分制御器1は、制振機能を得られるように適切に調整されている。
【0037】
尚、比例積分制御器1と同様に、ベクトル制御においてしばしば用いられる比例積分微分制御器(PID)も、比例ゲイン及び積分ゲインを有している。従って、「比例積分制御器が制振機能を得られるように適切に調整されている。」と言った場合の「比例積分制御器」には、「比例積分微分制御器」を含めてもよい。或いは、回転電機制御装置10が、回転電機80に対する電流指令Iと回転電機80からのフィードバック電流Iとの偏差に基づき、回転電機80に対する電圧指令Vを演算して回転電機80をフィードバック制御する比例積分制御器1又は比例積分微分制御器を備え、回転電機80のインダクタンスと直列共振回路を形成するキャパシタンスを有する仮想的な電磁シャント回路のインピーダンスに基づいて、q軸の比例積分制御器1又は比例積分微分制御器のゲインが設定されている、ということもできる。
【0038】
次に、(B)非干渉電圧補償器2を調整する手法について説明する。上述したように、ベクトル制御においては、d軸及びq軸が独立して演算される。但し、回転電機80の回転に伴う誘導起電力(誘起電圧)は、d軸及びq軸の間で相互に影響を与え合う(干渉し合う)。例えば、埋込磁石型同期モータ(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)では、下記式(4)及び下記式(5)に示すように、誘起電圧を含むd軸電圧Vdには、q軸が干渉し、q軸電圧Vqにはd軸が干渉する。尚、式(4)及び式(5)においては、永久磁石の磁束(鎖交磁束数)をΨ、ロータの回転速度(電気角速度)をω、d軸インダクタンスをLd、q軸インダクタンスをLq、d軸電流をId、q軸電流をIq、ステータコイル81の抵抗をRa、微分演算子をpとする。
【0039】
Vd = (Ra+pLd)Id - ωLqIq ・・・(4)
Vq = (Ra+pLq)Iq + ωLdId + ω・Ψ ・・・(5)
【0040】
式(4)及び式(5)の右辺第2項は、ステータコイル81のインダクタンス(Ld,Lq)と、ステータコイル81を流れる電流(Id,Iq)とによる誘起電圧を示しており、この誘起電圧が、d軸及びq軸における異なる軸の電圧(Vd,Vq)に干渉することを示している。このため、式(4)及び式(5)の右辺第2項の誘起電圧は、後述する第1の非干渉化制御における制御対象となる。また、式(5)の右辺第3項は、ロータの永久磁石とステータコイル81との間で生じる電磁誘導による誘起電圧を示している。このため、式(5)の右辺第3項の誘起電圧は、後述する第2の非干渉化制御における制御対象となる。
【0041】
式(4)及び式(5)は、回転電機80(インバータ30)に対して、電圧“Vd,Vq”を与えることで、回転電機80に流れる電流“Id,Iq”が定まることを意味している。ここで、回転電機80に所望の電流(目標電流)を流すために、回転電機80に与える電圧(目標電圧)を“Vd,Vq”とすると、目標電圧“Vd,Vq”を、下記式(6)及び式(7)で示すことができる(図11参照)。
【0042】
Vd = Vd_dcpl1+Vd_pid ・・・(6)
Vq = Vq_dcpl1+Vq_dcpl2+Vq_pid・・・(7)
【0043】
ここで、第1の非干渉化制御として、上記式(4)及び式(5)の右辺第2項に相当する成分を取り除き、d軸及びq軸間の干渉を取り除く制御が行われる。第1の非干渉化制御では、複数相のステータコイル81の間における誘起電圧を取り除く非干渉化が行われる。第1の非干渉化制御は、図11に示すd軸非干渉化制御器21及びq軸第1非干渉化制御器22によって実行される。式(8)は、d軸非干渉化制御器21を示し、式(9)は、q軸第1非干渉化制御器22を示している。
【0044】
Vd_dcpl1 = -ωLqIq ・・・(8)
Vq_dcpl1 = ωLdId ・・・(9)
【0045】
さらに、第2の非干渉化制御では、上記式(5)の右辺第3項に相当する成分を取り除く。つまり、第2の非干渉化制御では、回転電機80の永久磁石とステータコイル81との間で生じる電磁誘導による誘起電圧を打ち消す制御が実行される。一般的には、第2の非干渉化制御は、図11に示すq軸第2非干渉化制御器23によって実行される。式(10)は、q軸第2非干渉化制御器23を示している。
【0046】
Vq_dcpl2 = ω・Ψ ・・・(10)
【0047】
但し、回転電機80の永久磁石とステータコイル81との間で生じる電磁誘導による誘起電圧には、外乱トルクTnに基づく外乱電圧Vnも含まれる。このため、この誘起電圧の全てを対象としてq軸電圧(q軸電流)が補償されてしまうと、外乱トルクTnを相殺するトルクを出力するようにフィードバック制御を行う制振機能の妨げとなる。従って、電流制御部12が非干渉電圧補償器2を備える場合(図3及び図4に示す形態の場合)には、回転電機80の永久磁石とステータコイル81との間で生じる電磁誘導による誘起電圧の内、外乱トルクTnに起因する誘起電圧については非干渉電圧補償を行わず、電圧指令Vに基づくロータの回転(定常制御による回転)に起因する誘起電圧についてのみ非干渉電圧補償を行うことが好ましい。
【0048】
制振対象となる外乱トルクTnの周波数(角速度[rad/s])は、ロータの回転速度(角速度)に対して高い。尚、車両用駆動装置100が図1に示すような構成の場合、内燃機関70の駆動力によって回転電機80の回転軸が回転する場合があり、その際にはその駆動力も回転電機80から見て外乱トルクとなる。但し、この外乱トルクは、例えば車両を加速させるためのトルクであり、制振対象となるトルクではない。そして、内燃機関70によるトルクに基づく回転速度(角速度)も、制振対象となる外乱トルクTnの周波数(角速度)に比べて低い。従って、非干渉電圧補償器2に、角速度に対するフィルタを設けることによって、非干渉電圧補償を行う誘起電圧と、非干渉電圧補償を行わない誘起電圧とを分離し、制振対象とはならないトルクによる回転軸の回転に基づく誘起電圧に対してのみ、非干渉電圧補償を行うと好適である。第2の非干渉化制御は、図11に示すローパスフィルタ24(LPF)及びq軸第2非干渉化制御器23によって実行される。下記式(11)の右辺は、角速度ωに対してフィルタ(FILT)が設けられ、ローパスフィルタ24(LPF)とq軸第2非干渉化制御器23とにより、適切に第2の非干渉化制御が実行されることを示している。
【0049】
Vq_dcpl2 = FILT(ω)・Ψ ・・・(11)
【0050】
図12は、制振対象となる外乱トルクTnの周波数特性(角速度の特性)と、非干渉電圧補償器2に設定されるフィルタのフィルタ特性とを示している。制振対象となる外乱トルクTnの中心周波数Fnに対して充分離れた周波数(角速度)~本実施形態では中心周波数Fnに対して充分低い周波数(角速度)~をカットオフ周波数Fcとするフィルタ(ローパスフィルタ)が、非干渉電圧補償器2に設定されると好適である。
【0051】
非干渉電圧補償器2は、少なくとも第2の非干渉化制御を実現する制御器(q軸第2非干渉化制御器23)を備え、さらに、ロータの永久磁石とステータコイル81との間で生じる誘起電圧の内、制振対象の外乱トルクTnに基づく誘起電圧を遮断或いは減衰させて、制振対象ではないトルクに基づく誘起電圧(定常制御によるロータの回転に伴う誘起電圧)を通過させるようなローパスフィルタ24を備える。つまり、相対的に低周波側(定常回転成分)の誘起電圧は打ち消して、高周波側(振動成分)の誘起電圧は打ち消さないことで、制振対象である高周波側の誘起電圧をフィードバックしている。上述したように、制振対象である高周波側の誘起電圧も打ち消されると、振動成分がフィードバックされなくなり、制振制御ができなくなってしまう。非干渉電圧補償器2が、このようなローパスフィルタを備えることにより、回転電機80の回転速度が変化する場合(例えば加速する場合)には、加速に応じて誘起電圧が変化した場合にも、適切に電圧補償を行うことができる。一方、制振対象の外乱トルクTnによる誘起電圧については、ローパスフィルタによって遮断或いは減衰されるので、電圧補償が行われず、適切に電磁シャント機能による制振を行うことができる。
【0052】
以上説明したように、図3及び図4に例示した形態のように、回転電機80の永久磁石とステータコイル81との間で生じる電磁誘導による誘起電圧を低減させる非干渉化を行う非干渉電圧補償器2(少なくとも第2の非干渉化を行う制御器(q軸第2非干渉化制御器23)を備えた非干渉電圧補償器2)を備える場合、この非干渉電圧補償器2は、制振対象の外乱トルクTn(伝達トルク振動)の周波数(中心周波数Fn)よりも低いカットオフ周波数Fc未満の周波数において非干渉化を行い、カットオフ周波数Fc以上の周波数において非干渉化を行わないようにローパスフィルタ24を備えると好適である。
【0053】
次に、(C)フィードフォワード制御部5について説明する。上述したように、比例積分制御器1のゲイン(K,K)を電磁シャント制振機能が得られるように適切に調整した場合、通常のゲインに比べてその値が小さくなる傾向がある。このため、電流指令I(I**)の変化に対する比例積分制御器1の追従性が低下するおそれがある。例えば、回転電機80の回転速度が速くなるように電流指令I(I**)が増加した場合(回転電機を加速させる場合)に、回転電機80の回転速度の上昇が遅くなり、加速性を妨げるおそれがある。フィードフォワード制御部5は、比例積分制御器1の後段の制御器に提供される電圧指令が、電流指令I(I**)の変化に対応した電圧指令となるように、比例積分制御器1が出力する電圧指令Vを補償する。つまり、フィードフォワード制御部5は、仮想的な電磁シャント回路を比例積分制御器1に組み込むことにより低下する比例積分制御器1のゲインの低下を補完するように、電流指令I(I**)に基づいて比例積分制御器1から出力される電圧指令Vを補償する。
【0054】
図3及び図6に示すように、フィードフォワード制御部5は、フィードフォワード電圧補償器3と電流指令調整器4とを備えている。フィードフォワード電圧補償器3は、制御対象のモデル(印加する電圧に対して流れる電流を規定したモデル(伝達関数“P”))を用いて構成されている。フィードフォワード電圧補償器3による補償対象は電圧であるから、流れる電流に対して印加が必要な電圧を規定する必要がある。このため、フィードフォワード電圧補償器3では、制御対象のモデルの逆数“P-1”が用いられる。本実施形態では、制御対象は、「回転電機80の電気系モデル8(MG(ELE))」と、「車両用駆動装置100の機械系モデル9(MECH)」と、「非干渉電圧補償器2P(DCPL)」とで構成されている(図7参照)。つまり、制御対象のモデルは、電圧指令“V”からモータの電流“I”までの伝達関数モデルであり、“P-1”はその逆数である。
【0055】
ここで、制御の安定性を得るためには、フィードフォワード電圧補償器3の伝達関数がプロパーであることが好ましい。尚、「伝達関数がプロパーであること」とは、伝達関数を分数で表した場合に、「分子の次数≦分母の次数」となることを言う。規範モデルは、フィードフォワード電圧補償器3の伝達関数“P-1M”がプロパーとなるような伝達関数“M”を有する制御器である。つまり、規範モデルの伝達関数“M”と、制御対象のモデルの伝達関数“P”の逆数“P-1”との積をとることで、フィードフォワード電圧補償器3の伝達関数をプロパーとしている。
【0056】
また、フィードフォワード電圧補償器3により演算される電圧と、比例積分制御器1により演算される電圧とのバランスを考慮すると、比例積分制御器1に入力される電流指令Iも、規範モデルを通過したものであることが好ましい。電流指令調整器4は、規範モデルを有して構成され、比例積分制御器1に入力される電流指令Iを調整している。尚、図3図6では、電流指令調整器4の前後の電流指令を区別するため、入力側の電流指令を“I**”で示し、出力側(比例積分制御器1の側)の電流指令を“I”で示している。
【0057】
以上説明したように、本実施形態(変形例を含む)によれば、仮想的な電磁シャント回路7を用いた制振制御が可能な回転電機制御装置10を実現することができる。尚、上記においては、図1に示すように、車両の車輪Wの駆動力源として車両用駆動装置100に用いられる永久磁石型の複数相の交流(本実施形態では3相交流)の回転電機80を制御対象とする回転電機制御装置10を例として説明したが、制御対象となる回転電機80はこれに限定されるものではない。回転電機制御装置10は、エアコンディショナー、発電機など、今日の産業分野において広く用いられている交流の回転電機を制御対象とすることができる。
【0058】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した回転電機制御装置(10)の概要について簡単に説明する。
【0059】
1つの態様として、永久磁石型の交流の回転電機(80)の回転軸に伝達されるトルク振動である伝達トルク振動(Tn)を低減させる制振機能を備え、永久磁石が発生する磁界の方向であるd軸と前記d軸に直交するq軸とのdq軸ベクトル座標系において前記回転電機(80)を駆動制御する回転電機制御装置(10)は、前記d軸及び前記q軸のそれぞれにおいて、前記回転電機(80)に対する電流指令(I)と前記回転電機(80)からのフィードバック電流(I)との偏差に基づき、前記回転電機(80)に対する電圧指令(V)を演算して前記回転電機(80)をフィードバック制御する比例積分制御器(1)を備え、前記回転電機(80)のインダクタンス(La)と直列共振回路を形成するキャパシタンス(Cs)を有する仮想的な電磁シャント回路(7)のインピーダンスに基づいて、前記q軸の前記比例積分制御器(1)のゲインが設定されている。
【0060】
キャパシタンス(Cs)による電圧降下は、電流(I)の時間積分により表される。比例積分制御器(1)には、積分器が含まれる。従って、電圧指令(V)を演算する比例積分制御器(1)のゲインを仮想的な電磁シャント回路(7)のインピーダンスに基づいて設定することで、仮想的な電磁シャント回路(7)を比例積分制御器(1)に組み込むことができる。即ち、本構成によれば、仮想的な電磁シャント回路を用いた制振制御が可能な回転電機制御装置を実現することができる。
【0061】
ここで、前記電磁シャント回路(7)は、シャント抵抗器及びシャントキャパシタの直列回路により形成され、前記シャント抵抗器の抵抗値をRs、前記シャントキャパシタのキャパシタンスをCsとして、比例ゲインがRs、積分ゲインが1/Csに基づいて設定されていると好適である。
【0062】
電磁シャント回路(7)の電圧降下(Vs)は、シャント抵抗における電圧降下と、シャントキャパシタによる電圧降下とにより表される。シャント抵抗による電圧降下は、シャント抵抗を流れる電流(I)に比例し、シャントキャパシタによる電圧降下は、電流(I)の時間積分により表される。比例積分制御器(1)は、制御器(演算器)として比例器と積分器とを有する。従って、電圧指令(V)を演算する比例積分制御器(1)の比例ゲイン(K)をシャント抵抗の抵抗値(Rs)に基づいて設定し、比例積分制御器(1)の積分ゲイン(K)をシャントキャパシタのキャパシタンス(Cs)に基づいて設定することで、仮想的な電磁シャント回路(7)を適切に比例積分制御器(1)に組み込むことができる。
【0063】
また、回転電機制御装置(10)は、前記電流指令(I)に基づいて前記比例積分制御器(1)から出力される前記電圧指令(V)を補償するフィードフォワード制御部(5)を備えると好適である。
【0064】
比例積分制御器(1)のゲインを仮想的な電磁シャント回路(7)の回路定数に応じて設定すると、ゲインが小さくなって制御の追従性が低下する場合がある。例えば、電流指令(I)の変化が比較的大きい場合に、出力される電圧指令(V)が電流指令(I)ほどには大きく変化せず、追従性が低下する場合がある。本構成によれば、フィードフォワード制御部(5)が、電流指令(I)の変化に応じて電圧指令(V)を補償するので、比例積分制御器(1)における追従性が低下しても、適切な電圧指令を、比例積分制御器(1)の後段の制御器に提供することができる。
【0065】
ここで、前記フィードフォワード制御部(5)は、前記比例積分制御器(1)から出力される前記電圧指令(V)に加算される補償電圧を演算するフィードフォワード電圧補償器(3)と、前記比例積分制御器(1)に入力される前記電流指令(I)を補正する電流指令調整器(4)とを備え、前記フィードフォワード電圧補償器(3)は、前記電圧指令(V)から前記回転電機(80)を流れる電流(I)までの制御系モデルの伝達関数(P)の逆数(P-1)の伝達関数を有する制御器と、前記フィードフォワード電圧補償器(3)の伝達関数がプロパーとなるような伝達関数(M)を有する規範モデルとを有し、前記電流指令調整器(4)は、前記規範モデルにより前記電流指令(I)を補正すると好適である。
【0066】
フィードフォワード電圧補償器(3)は、制御対象のモデル(印加する電圧に対して流れる電流を規定したモデル、伝達関数(P))を用いて構成されている。但し、フィードフォワード電圧補償器(3)による補償対象は電圧であるから、流れる電流に対して印加が必要な電圧を規定する必要がある。このため、フィードフォワード電圧補償器(3)では、制御対象のモデルの逆数“P-1”の伝達関数を有する制御器が用いられると好適である。また、制御の安定性を得るためには、フィードフォワード電圧補償器(3)の伝達関数がプロパーであること(伝達関数を分数で表した場合に、「分子の次数≦分母の次数」となること)が好ましい。従って、フィードフォワード電圧補償器3は、自身の伝達関数“P-1M”がプロパーとなるような伝達関数(M)を有する制御器(規範モデル)を備えると好適である。また、フィードフォワード電圧補償器(3)により演算される電圧と、比例積分制御器(1)により演算される電圧とのバランスを考慮すると、比例積分制御器(1)に入力される電流指令(I)も、伝達関数(M)を有する規範モデルを通過したものであることが好ましい。即ち、上記のようにフィードフォワード制御部(5)を構成することで、安定した制御が可能な回転電機制御装置(10)を構成することができる。
【0067】
また、回転電機制御装置(10)は、前記回転電機(80)の前記永久磁石とコイル(81)との間で生じる電磁誘導による誘起電圧を低減させる非干渉化を行う非干渉電圧補償器(2)を備え、前記非干渉電圧補償器(2)は、制振対象の前記伝達トルク振動(Tn)の周波数(Fn)よりも低いカットオフ周波数(Fc)未満の周波数において前記非干渉化を行い、前記カットオフ周波数(Fc)以上の周波数において前記非干渉化を行わないようにローパスフィルタを備えると好適である。
【0068】
ベクトル制御においては、回転電機(80)の前記永久磁石とコイル(81)との間で生じる電磁誘導による誘起電圧を低減させる非干渉化が行われる場合がある。但し、この誘起電圧には、回転電機(80)が定常制御されてロータが回転することによって生じるものの他、制振対象の伝達トルク振動(Tn)によって生じるものも含まれる。このため、この誘起電圧の全てが非干渉化されてしまうと、制振対象の伝達トルク振動(Tn)がフィードバックされなくなり、制振機能にも影響する。制振対象の伝達トルク振動(Tn)による誘起電圧と、電圧指令(V)に基づく回転電機(80)の回転に伴う誘起電圧とでは、周波数帯域が異なる。本構成によれば、非干渉電圧補償器(2)が、制振対象の伝達トルク振動(Tn)の周波数(Fn)よりも低いカットオフ周波数(Fc)を有するローパスフィルタを備えるので、回転電機制御装置(10)は、適切に非干渉化を行うと共に、制振制御も行うことができる。
【0069】
また、回転電機制御装置(10)は、仮想的な前記電磁シャント回路(7)のインピーダンスに基づいて、前記q軸の前記比例積分制御器(1)のゲインが設定されていると好適である。
【0070】
発明者らの検討によれば、q軸の比例積分制御器(1)のゲインが仮想的な電磁シャント回路(7)のインピーダンスに基づいて設定されていると、適切に制振を行うことができることが判った。この構成によれば、例えば、従来使用しており、信頼性の高い回転電機制御装置(10P)に対して、少ない設計変更によって制振機能を付加することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 :比例積分制御器
2 :非干渉電圧補償器
23 :q軸第2非干渉化制御器
24 :ローパスフィルタ
3 :フィードフォワード電圧補償器
4 :電流指令調整器
5 :フィードフォワード制御部
7 :電磁シャント回路
10 :回転電機制御装置
80 :回転電機
81 :ステータコイル(コイル)
Cs :シャントキャパシタンス
Fc :カットオフ周波数
Fn :中心周波数(制振対象の伝達トルク振動の周波数)
I :フィードバック電流
:電流指令
Id :d軸フィードバック電流(フィードバック電流)
Iq :q軸フィードバック電流(フィードバック電流)
:積分ゲイン
:比例ゲイン
La :コイルインダクタンス(回転電機のインダクタンス)
M :規範モデル
P :制御対象のモデル(回転電機の電気系制御モデル)
Ra :コイル抵抗
Rs :シャント抵抗
Tn :外乱トルク(伝達トルク振動)
:電圧指令
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12