(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029017
(43)【公開日】2022-02-17
(54)【発明の名称】シールドトンネル周辺地盤における土質試料採取治具および土質試料採取方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/093 20060101AFI20220209BHJP
【FI】
E21D9/093 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020132104
(22)【出願日】2020-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高倉 克彦
(72)【発明者】
【氏名】西田 与志雄
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AC01
2D054GA15
2D054GA61
2D054GA81
2D054GA97
(57)【要約】 (修正有)
【課題】グラウト孔が設けられたシールドトンネル周辺の地盤から任意の位置で、シールドトンネルの構築であっても、そのグラウト孔を利用して安全に不攪乱の土質試料を採取することであり、土質試料採取後に現況復旧できる土質試料採取治具および土質試料採取方法を提供する。
【解決手段】グラウト孔2を有するシールドトンネルの周辺地盤の土質試料採取治具Jであって、グラウト孔2に螺着されるソケット3と、ソケット3に接続されたスリーブ4と、を具備し、スリーブ4とソケット3とグラウト孔2はボーリングロッドを挿通可能に連結され、スリーブ4はパッカー44と、パッカー44とソケット3との間に仕切弁42と、を備え、ソケット3はグラウト孔2に近傍のシールドトンネルの内壁面に回転不可に固定されること。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラウト孔が設けられたシールドトンネル周辺地盤の試料採取治具であって、
前記グラウト孔に螺着されるソケットと、
前記ソケットに接続されたスリーブと、を具備し、
前記スリーブと前記ソケットと前記グラウト孔はボーリングロッドを挿通可能に連結され、
前記スリーブはパッカーと、
前記パッカーと前記ソケットとの間に仕切弁と、を備え、
前記ソケットは前記グラウト孔に近傍の前記シールドトンネルの内壁面に回転不可に固定されることを特徴とするシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取治具。
【請求項2】
前記スリーブは前記パッカーと前記ソケットとの間に排泥バルブをさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取治具。
【請求項3】
前記シールドトンネルは該シールドトンネル軸方向に配設された縦リブを含む複数の鋼製セグメントで形成されており、
前記ソケットが前記縦リブに固定されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取治具。
【請求項4】
前記シールドトンネルの内壁面がコンクリートで被覆された複数のコンクリート製セグメントで形成されており、
前記ソケットが前記内壁面に複数のアンカーで固定されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取治具。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4に記載の土質試料採取治具を用いたグラウト孔が設けられたシールドトンネル周辺地盤の土質試料採取方法であって、
前記グラウト孔に前記ソケットを螺着するソケット螺着工程と、
前記シールドトンネルの内壁面に前記ソケットを回転不可に固定するソケット固定工程と、
前記ソケットにスリーブを接続するスリーブ接続工程と、
前記スリーブに削孔用ボーリングロッド挿入し、前記グラウト孔から前記シールドトンネルの一部を削孔する削孔工程と、
前記スリーブに試料採取用ボーリングロッド挿入し、シールドトンネル周辺地盤の試料を採取する試料採取工程と、からなることを特徴とするシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取方法。
【請求項6】
前記スリーブに凍結管を挿入して、前記グラウト孔近傍の周辺地盤を凍結させる凍結工程と、
前記ソケットを前記グラウト孔および前記シールドトンネルの内壁面から取り外すことで前記土質試料採取治具を撤去する土質試料採取治具撤去工程と、をさらに含むことを特徴とするシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドトンネル周辺地山における土質試料採取技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に併設するシールドトンネル同士を非開削で連結する工事等は、一般にシールドトンネルの一部を切り開く作業を伴うため、切り開き時にトンネル坑内に地下水が浸入しないように、該当箇所の地盤に止水のための補助工法を施す。補助工法としては、地盤に薬液を注入する薬液注入工法や地盤の一部を改良する地盤改良工法、地盤を凍結する凍結工法等が採用されている。これら補助工法は、地表面からボーリングを行い、ボーリング孔内で行う原位置試験や同孔より採取した土質試料を用いた室内試験等の結果に基づいて設計される。しかしながら、こうした地表からのアプローチのみでは、詳細検討の際に事後的に必要となる局所的に十分な量の土質情報をその都度得ることは施工上の制約等から困難な場合が多い。
特許文献1には、シールド本体の隔壁に回転自在に支持されたカッタヘッドと前記隔壁との間に圧力室が形成されるとともに当該圧力室に取り込まれた掘削土砂を排出するスクリュウ式排土装置を具備した土圧式シールド掘進機における掘削土砂をサンプリングする装置が開示されている。
また、特許文献2には、トンネル掘進方向前端部に配置されたカッタ面板と、このカッタ面板の後方に配置されて前記カッタ面板との間にカッタチャンバを区画するシールド隔壁とを有するシールド掘進機の前方地山の土砂をサンプリングする装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-68250号公報
【特許文献2】特開2013-256843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された発明は、いずれもシールド掘削機のカッタチャンバ内に取り込まれた掘削土砂の採取装置やその方法であって、採取した土砂を分析することによって切羽安定に反映させることを目的に使用されるものである。一方、前記補助工法の設計に必要な情報は、シールドトンネル周囲の地盤から採取した不攪乱の土質試料から得られる情報であり、掘削土砂等の薬材を添加して塑性流動化した土砂(攪乱した土砂)はその対象ではない。一方、特許文献2はシールド掘進中の切羽前方の土砂採取を前提としており、シールド掘進後に計画外の範囲から採取することはできない。
【0005】
本発明の目的は、グラウト孔が設けられたシールドトンネル周辺の地盤から任意の位置で、シールドトンネルの構築後であっても、そのグラウト孔を利用して安全に不攪乱の土質試料を採取することであり、土質試料採取後に現況復旧できる土質試料採取治具および土質試料採取方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成すべく、本発明によるシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取治具の一態様は、グラウト孔が設けられたシールドトンネル周辺地盤の土質試料採取治具であって、 前記グラウト孔に螺着されるソケットと、前記ソケットに接続されたスリーブと、を具備し、前記スリーブと前記ソケットと前記グラウト孔はボーリングロッドを挿通可能に連結され、前記スリーブはパッカーと、前記パッカーと前記ソケットとの間に仕切弁と、を備え、前記ソケットは前記グラウト孔に近傍の前記シールドトンネルの内壁面に回転不可に固定されることを特徴とする。
ここで、グラウト孔はシールドトンネルを構成するセグメント製作時に予め設けられている場合の他、シールドトンネル構築時またはシールドトンネル構築後に事後的に任意の場所に設置する場合も含む。
【0007】
本発明の一態様である、ソケットがグラウト孔に近傍のシールドトンネル内壁面に回転不可に固定されているので、ボーリングロッドの回転に伴うパッカーとの摩擦抵抗から土質試料採取治具の全体が供回りすることを回避できる。ソケットはグラウト孔に螺着されているので、土質試料採取治具の一部を構成するソケットがグラウト孔に螺合する方向に供回りすると、ねじ山を破壊したり、過度な噛み込みによって取り外し不可となる可能性があること、逆に緩む方向に供回りすると、ソケットがグラウト孔から外れて地下水が坑内に浸入する可能性があるからである。
【0008】
また、本発明によるシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取治具の他の態様において、前記スリーブは前記パッカーと前記ソケットとの間に排泥バルブをさらに備えたことを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、スリーブはパッカーとソケットとの間に排泥バルブをさらに備えているので、削孔水を伴うシールドトンネルの一部を削孔する場合、削孔に伴い生じる排泥水を速やかに排泥することができる。また、バルブの開閉を制御することで、地下水の浸入量を調整することも可能になる。
【0010】
また、本発明によるシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取治具の他の態様において、前記シールドトンネルは該シールドトンネル軸方向に配設された縦リブを含む複数の鋼製セグメントで形成されており、前記ソケットが前記縦リブに固定されることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、ソケットが鋼製セグメントを構成する縦リブに溶接や万力、ボルトナットのような脱着可能な手段で固定できるので、ソケットを取り外すことで、ほぼ現況に近い状態に復旧できる。
【0012】
また、本発明によるシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取治具の他の態様において、前記シールドトンネルの内壁面がコンクリートで被覆された複数のコンクリート製セグメントで形成されており、前記ソケットが前記内壁面に複数のアンカーで固定されることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、ソケットがコンクリート製セグメントのコンクリート内壁面に複数のアンカーで固定されるので、構造上支障がなく、ソケットを取り外すことで、ほぼ現況に近い状態に復旧できる。
【0014】
本発明によるシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取方法の一態様は、前記の試料採取治具を用いたグラウト孔が設けられたシールドトンネル周辺地盤の土質試料採取方法であって、前記グラウト孔に前記ソケットを螺着するソケット螺着工程と、前記シールドトンネルの内壁面に前記ソケットを回転不可に固定するソケット固定工程と、前記ソケットにスリーブを接続するスリーブ接続工程と、前記スリーブに削孔用ボーリングロッド挿入し、前記グラウト孔から前記シールドトンネルの一部を削孔する削孔工程と、前記スリーブに試料採取用ボーリングロッド挿入し、シールドトンネル周辺地盤の試料を採取する試料採取工程と、からなることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様である、シールドトンネルの内壁面にソケットを回転不可に固定するソケット固定工程を有するので、ボーリングロッドの回転に伴うパッカーとの摩擦抵抗から土質試料採取治具の全体が供回りすることを回避できる。ソケットはグラウト孔に螺着されているので、土質試料採取治具の一部を構成するソケットがグラウト孔に螺合する方向に供回りすると、ねじ山を破壊したり、取り外し不可となる可能性があること、逆に緩む方向に供回りすると、ソケットがグラウト孔から外れて地下水が坑内に浸入する可能性があるからである。
【0016】
また、本発明によるシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取方法の他の態様において、前記スリーブに凍結管を挿入して、前記グラウト孔近傍の周辺地盤を凍結させる凍結工程と、前記ソケットを前記グラウト孔および前記シールドトンネルの内壁面から取り外すことで前記試料採取治具を撤去する土質試料採取治具撤去工程と、をさらに含むことを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、スリーブに凍結管を挿入して、グラウト孔近傍の周辺地盤を凍結させる凍結工程を有するので、周辺地盤が凍結している間であれば、地下水の浸入を抑制しながら、ソケットをグラウト孔およびシールドトンネルの内壁面から安全に取り外すことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取治具およびその土質試料採取治具を用いた土質試料採取方法によれば、グラウト孔が設けられたシールドトンネル周辺の地盤から、そのグラウト孔を利用して安全に不攪乱の土質試料を採取することであり、土質試料採取後に現況復旧できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る鋼製セグメントからなるシールドトンネルの内壁面の俯瞰図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るコンクリート製セグメントおよび鋼製セグメントに付随するグラウト孔の断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る土質試料採取治具を構成するソケットの断面図と平面図(A-A矢視)である。
【
図4】本発明の実施形態に係る土質試料採取治具の断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る土質試料採取治具を用いた土質試料採取の支障となるグラウト孔内の孔逆止弁やスキンプレートおよび裏込め材を撤去するための施工断面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る土質試料採取治具を用いた土質試料採取方法のうち、土質試料採取状況を示す施工断面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る土質試料採取治具を用いた土質試料採取方法のうち、シールドトンネル周辺地盤を凍結させる凍結状況を示す施工断面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る土質試料採取治具を用いた土質試料採取方法のうち、グラウト孔およびシールドトンネルの内壁面から土質試料採取治具の撤去状況を示す施工断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係るシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取治具およびその土質試料採取治具を用いた土質試料採取方法について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く。
【0021】
はじめに、
図1、2を参照して、シールドトンネルを構成するセグメントのグラウト孔について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る鋼製セグメントからなるシールドトンネルの内壁面の俯瞰図であり、
図2は、本発明の実施形態に係るコンクリート製セグメントおよび鋼製セグメントに付随するグラウト孔の断面図である。
一般に、複数のセグメント1,1・・・がリング状に接続されることで円筒形状の1リングが構成され、この1リングがトンネル軸方向に多数連結されることでシールドトンネルSTが形成される。セグメント1は鋼製セグメント11、コンクリート製セグメント12(RCセグメントや鋼殻の中にコンクリートを中詰めした合成セグメント)等が主流である。
【0022】
図1は、鋼製セグメント11の内壁面を撮影した写真であり、鋼製セグメント11の1ピースは、対向する2枚の円弧板状の主桁111,111および矩形板状の継手板113,113からなる枠体と、その枠体の地山側に膜状のスキンプレート114と、が溶接一体に箱体を形成し、継手板113,113の間に、かつ継手板113,113に平行に、複数の縦リブ112,112・・・が所定の間隔で主桁111,111およびスキンプレート114にそれぞれ溶接されることで形成されている。複数の鋼製セグメント11,11・・・が接続されることで、主桁111,111・・・がリング状に、縦リブ112,112・・・がシールドトンネルSTの軸方向に、それぞれ連なるように形成され、リング方向に隣り合う鋼製セグメント11,11は対向する継手板113,113同士を、隣り合う1リング同士は、対向する主桁111,111同士を、それぞれ突き合わせてボルトナットで接合される。各鋼製セグメント11の略中央にはグラウト孔2が備えられている。シールドトンネルSTは、不図示のシールド機による掘削の際に生じるシールドトンネルSTとその周辺地盤との間の空隙(一般に、テールボイドという。)を裏込め注入によって充填する。裏込め注入には大きく分けて、不図示のシールド機の掘進と同時にシールド機の後方から注入する同時裏込め注入工法か、グラウト孔2から直接注入する即時注入工法の2種類がある。前者の場合、グラウト孔2は不要となるが、機械トラブルで注入が不十分な箇所が発生した場合等に備え、一般に1ピースのセグメント1に対して、グラウト孔2を1つ設けられることが多い。
【0023】
図2の(a)はコンクリート製セグメント12、同図の(b)および(c)は鋼製セグメント11に付随するグラウト孔2の断面図をそれぞれ示す。
同図の(a)より、グラウト孔2は、グラウト孔壁21、グラウトキャップ22、 孔逆止弁23とからなる。グラウト孔壁21はコンクリート製セグメント12の内外を貫通する鋼製の円筒管からなり、シールドトンネルST外周の地下水圧に対抗するため、コンクリート製セグメント12を構成するコンクリートと水密性を確保できるように一体に埋め込まれている。グラウト孔壁21のシールドトンネルST内面側には、グラウトキャップ22を螺着可能にねじ部がその内面に形成されている。グラウトキャップ22の掛止部の下面側には不図示のOリングが嵌め込まれており、グラウトキャップ22をグラウト孔壁21に螺着するとOリングがグラウトキャップ22とグラウト孔壁21との間で押圧されて地下水圧に対抗できるパッキング効果を発揮する。なお、グラウトキャップ22を外す際に、地下水が噴出しないように、孔逆止弁23がその止水性能を確保できるようにグラウト孔壁21に螺着されている。
【0024】
同図の(b)より、鋼製セグメント11におけるグラウト孔壁21がスキンプレート114の開口周りに溶接一体に固定されている点で異なるが、前述のコンクリート製セグメント12におけるグラウト孔2とその基本的な構成は同様である。
【0025】
一方、同図の(c)も鋼製セグメント11におけるグラウト孔2の断面図を示しているが、スキンプレート114に予めグラウト孔2に連通する開口が設けられていない点で同図の(b)のケースと異なる。スキンプレート114に開口が無いので、グラウト孔壁21内には孔逆止弁23も予め設けられておらず、同図の(b)と比べて、構造が簡易であり、コスト安になる。この形式は、前述の同時裏込め注入工法適用の鋼製セグメント11に採用される場合が多く、同時裏込め注入後、さらに注入が必要になった箇所に該当する鋼製セグメント11を選択的に二次注入するという考え方に基づくものである。この場合、スキンプレート114は、注入時に機械で削孔する。
なお、グラウト孔はシールドトンネルを構成するセグメント製作時に予め設けられている場合の他、シールドトンネル構築時またはシールドトンネル構築後に事後的に任意の場所に設置する場合も含む。例えば、鋼製セグメント11であれは、スキンプレート114に溶接すれば良い。
【0026】
[シールドトンネル周辺地盤における土質試料採取治具]
次に、
図3、4を参照して、実施形態に係るシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取治具について説明する。
図3は、本発明の実施形態に係る土質試料採取治具を構成するソケットの断面図と平面図(A-A矢視)であり、
図4は、本発明の実施形態に係る土質試料採取治具の断面図である。
以降、セグメント1は、鋼製セグメント11であり、グラウト孔2は、
図2の(c)の形式とする。
【0027】
土質試料採取治具Jは、グラウト孔2に螺着されるソケット3と、ソケット3に接続されたスリーブ4とを具備し、スリーブ4とソケット3とグラウト孔2はボーリングロッドLを挿通可能に連結され、スリーブ4はパッカー44と、パッカー44とソケット3との間に仕切弁42と、を備え、ソケット3はグラウト孔2に近傍のシールドトンネルSTの内壁面に回転不可に固定される。
図3は、土質試料採取治具Jのうちソケット3について、
図4は、ソケット3にスリーブ4を接続した土質試料採取治具Jの全体を示す。
【0028】
図3より、ソケット3はグラウト孔壁21に螺着可能な接続管31と、接続管31に接続可能なスリーブ先導管32、スリーブ先導管32に接続可能な回転防止材33とからなる。
掛止部を有する円筒形状の接続管31は、グラウトキャップ22を取り外した後のグラウト孔壁21に、螺着可能なねじ部を有しており、接続管31の掛止部の下面側には不図示のOリングが嵌め込まれており、接続管31をグラウト孔壁21に螺着するとOリングが接続管31とグラウト孔壁21との間で押圧されて地下水圧に対抗できるパッキング効果を発揮する。
次に、後述するスリーブ4と連結するため、スリーブ先導管32の頭部には複数の貫通孔を有する円環状のフランジ部がある。スリーブ先導管32と、回転防止材33とをボルトナットで一体に接続した上で、グラウト孔2に隣接する縦リブ112,112に設けた複数の貫通孔に回転防止材33を横架させるようにボルトナットで固定する。このとき、スリーブ先導管32の端部が接続管31の掛止部の上面に接触するように調整されているので、この接触部の外周を隅肉溶接することで両部材を一体化する。これにより、接続管31は後述するボーリングロッドLの回転に伴うパッカー44との摩擦抵抗から土質試料採取治具Jの全体が供回りすることを回避できる。接続管31を介してソケット3はグラウト孔2に螺着されているので、土質試料採取治具Jの一部を構成するソケット3がグラウト孔2に螺合する方向に供回りすると、接続管31やグラウト孔壁21のねじ山を破壊したり、過度な噛み込みによって取り外し不可となる可能性があること、逆に緩む方向に供回りすると、ソケット3がグラウト孔2から外れて地下水が坑内に浸入する可能性があるからである。
なお、本実施形態のセグメント1は、鋼製セグメント11であるが、コンクリート製セグメント12であっても良く、この場合、コンクリート製セグメント12を構成するコンクリート面に複数のアンカーを打ち込み、このアンカーを介してソケット3を固定する。
また、ソケット3は接続管31、スリーブ先導管32、回転防止材33からなる別々の部材から構成される形態としたが、一体の部材であっても良い。この場合、グラウト孔2に隣接する縦リブ112,112との接続は、万力による圧着や溶接によるものであっても良く、ソケット3が回転しなければ実施形態に限定されない。
【0029】
図4より、スリーブ4は、スリーブ本管41、仕切弁42、排泥バルブ43およびパッカー44とからなる。
円筒管からなるスリーブ本管41の一端部には複数の貫通孔を有する円環状のフランジ部があり、スリーブ先導管32に設けられた前記フランジ部と面合わせした上で、両フランジ部の貫通孔を介してボルトナットで一体に連結する。所定の止水性能を確保するために、両フランジ部の間には不図示の円環板状のパッキンを介設しておく。
スリーブ本管41の他端側の口元にはパッカー44が、スリーブ本管41に連通するように仕切弁42と排泥バルブ43がそれぞれ設けられている。パッカー44は、後述するボーリングロッドLをスリーブ本管41の口元から周辺地盤Gに挿入した際に、地下水の出水を防ぐ止水効果を発揮する。仕切弁42はスリーブ本管41の流路を遮断することができ、ゲートバルブやボールバルブ等が挙げられる。また、排泥バルブ43は、後述するボーリングマシンBによる削孔作業が送水を伴う場合、その排泥を速やかにスリーブ本管41外に排出するためのバルブである。本実施形態で想定しているパッカー44、仕切弁42、排泥バルブ43いずれも一般的に使用される汎用品を想定しているため、ここではその詳細な仕組みや構造についての説明は省略し、これらの形態は、本実施例に限定されるものではない。
【0030】
[シールドトンネル周辺地盤における土質試料採取方法]
図5、6を参照して、実施形態に係るシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取方法について説明する。
図5は、本発明の実施形態に係る土質試料採取治具を用いた土質試料採取の支障となるグラウト孔内の孔逆止弁やスキンプレートおよび裏込め材を撤去するための施工断面図であり、
図6は、本発明の実施形態に係る土質試料採取治具を用いた土質試料採取方法のうち、土質試料採取状況を示す施工断面図である。
本実施形態は、前述の土質試料採取治具Jを用いたグラウト孔2を有するシールドトンネルSTの周辺地盤Gの試料採取方法であって、グラウト孔2にソケット3を螺着するソケット螺着工程と、シールドトンネルSTの内壁面にソケット3を回転不可に固定するソケット固定工程と、ソケット3にスリーブ4を接続するスリーブ接続工程と、スリーブ4に削孔用ボーリングロッドLを挿入し、グラウト孔2からシールドトンネルSTの一部を削孔する削孔工程と、スリーブ4に試料採取用ボーリングロッドLを挿入し、シールドトンネルSTの周辺地盤Gの試料Sを採取する試料採取工程を有する。
【0031】
前述の通り、試料採取の対象とするグラウト孔2に隣接するシールドトンネルSTの内壁面を構成する鋼製セグメント11の縦リブ112,112にソケット3を固定(ソケット固定工程)、グラウト孔2にソケット3を螺着(ソケット螺着工程)後、ソケット3にスリーブ4を接続(スリーブ接続工程)した土質試料採取治具Jを用いる。
図5の(a)より、スリーブ4のパッカー44が設けられている口元側からボーリングマシンBを使って先端に削孔用のメタルクラウンMを備えたボーリングロッドLを挿入する。
同図の(b)より、スキンプレート114とともに、裏込め注入材Fを削孔する(削孔工程)。削孔の際はボーリングロッドL内から送水を行い、排泥バルブ43は土質試料採取治具J内等が異常な圧高にならないように、適切に弁の開度を調整しながら坑内に排泥を行う。
なお、本事例では送水(削孔水)を伴う形態を示したが、無水での削孔を排除するものでない。
また、本実施例では、セグメント1は、鋼製セグメント11であり、グラウト孔2は、
図2の(c)の形式であるが、同図の(b)やコンクリート製セグメント12の同図の(a)の形態を排除するものではなく、“シールドトンネルSTの一部を削孔する削孔工程”の中には、同図(a),(b)の孔逆止弁23を削孔する場合も含む。
図5の(c)より、ボーリングロッドLがパッカー44に掛かっている間に、排泥バルブ43と仕切弁42を閉じ、坑内を地下水から遮断する。ボーリングロッドLを土質試料採取治具Jから引き抜き、メタルクラウンMを含むボーリングロッドL内に介在している削孔物を回収する。
【0032】
図6の(a)より、スリーブ4のパッカー44が設けられている口元側からボーリングマシンBを使って先端に土質試料回収用のコアビットCを備えたボーリングロッドLを挿入する。ボーリングロッドLがパッカー44に掛かったことを確認後、仕切弁42(排泥バルブ43は閉じたまま)を開ける。
同図の(b)より、試験に必要な試料Sの長さを考慮してコアビットCを周辺地盤G内に貫入させ、試料SをボーリングロッドL内に収納する。このとき、試料Sを乱す可能性があるため原則送水は行わない。
同図の(c)より、ボーリングロッドLがパッカー44に掛かっている間に、仕切弁42を閉じ、坑内を地下水から遮断する。ボーリングロッドLを土質試料採取治具Jから引き抜き、ボーリングロッドL内に収納した試料Sを採取する(試料採取工程)。
なお、本実施例は、裏込め注入材Fを含めて周辺地盤Gから試料Sを採取したり、削孔工程を省略して、削孔と採取を同一工程で行うことを排除するものではない。しかし、無水削孔長が長くなったり、試料Sの採取と一緒に裏込め材Fやスキンプレート114の削孔屑等も残存していると、採取した試料Sを乱すなどの弊害が発生するため、本実施例のように削孔工程と試料採取工程を分けて行う方が望ましい。
【0033】
[シールドトンネル周辺地盤における土質試料採取後の現況復旧方法]
次に、
図7、8を参照して、実施形態に係るシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取後の現況復旧方法について説明する。
図7は、本発明の実施形態に係る土質試料採取治具を用いた土質試料採取方法のうち、シールドトンネル周辺地盤を凍結させる凍結状況を示す施工断面図であり、
図8は、本発明の実施形態に係る土質試料採取治具を用いた土質試料採取方法のうち、グラウト孔およびシールドトンネルの内壁面から土質試料採取治具の撤去状況を示す施工断面図である。
本実施形態は、スリーブ4に凍結管を挿入して、グラウト孔2近傍の周辺地盤Gを凍結させる凍結工程と、ソケット3をグラウト孔2およびシールドトンネルSTの内壁面から取り外すことで土質試料採取治具Jを撤去する土質試料採取治具撤去工程とをさらに含む。
【0034】
図7の(a)より、スリーブ4のパッカー44が設けられている口元側からボーリングマシンBを使って凍結外管Oを挿入する。凍結外管Oがパッカー44に掛かったことを確認後、仕切弁42(排泥バルブ43は閉じたまま)を開け、所定の位置まで凍結外管Oを挿入する。このとき、凍結外管O内に予め凍結内管Iを備えていても良いし、後から挿入しても良い。
次に同図の(b)より、凍結内管Iの口元からブライン(冷却液)を流し、凍結内管Iの先端から凍結内管Iと凍結外管Oとの間の隙間を通って、ブラインを循環させる(凍結工程)。これにより、凍結外管Oの周囲を冷却して地盤中の地下水(間隔水)を、凍結外管Oを中心に年輪状に氷結させ、凍結領域FAを造成し、後述する土質試料採取治具Jを撤去した際に、シールドトンネルST坑内に地下水の浸入を防ぐ事ができる。
同図の(c)より、凍結外管Oがパッカー44に掛かっている間に、排泥バルブ43を開けることで、凍結領域FAにより止水が完全にできていることを確認できる。
なお、試料採取後の孔壁が崩れている場合、削孔式凍結管で再削孔しながら凍結管を配置する。
【0035】
図8の(a)より、前記凍結領域FAを造成により、地下水が遮断されていることを確認後、土質試料採取治具JをシールドトンネルSTの内壁面(セグメント1又は鋼製セグメント11)から撤去する(土質試料採取治具撤去工程)。
同図の(b)より、グラウト孔壁21にグラウトキャップ22螺着して復旧する。なお、必要に応じて削孔や試料採取によって生じた空隙を充填材で充填したり、事後的にグラウトキャップ22を取り外す場合が想定されるのであれば孔逆止弁23をグラウト孔壁21内に装着しておくと良い。
【0036】
本実施形態のシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取治具およびその土質試料採取治具を用いた土質試料採取方法によれば、ソケットがグラウト孔に近傍のシールドトンネル内壁面に回転不可に固定されているので、ボーリングロッドの回転に伴うパッカーとの摩擦抵抗から土質試料採取治具の全体が供回りすることを回避できる。ソケットはグラウト孔に螺着されているので、土質試料採取治具の一部を構成するソケットがグラウト孔に螺合する方向に供回りすると、ねじ山を破壊したり、過度な噛み込みによって取り外し不可となる可能性があること、逆に緩む方向に供回りすると、ソケットがグラウト孔から外れて地下水が坑内に浸入する可能性があるからである。
スリーブはパッカーとソケットとの間に排泥バルブをさらに備えているので、削孔水を伴うシールドトンネルの一部を削孔する場合、削孔に伴い生じる排泥水を速やかに排泥することができる。また、バルブの開閉を制御することで、地下水の浸入量を調整することも可能になる。
さらに、ソケットが鋼製セグメントを構成する縦リブに溶接や万力、ボルトナットのような脱着可能な手段で固定できるので、ソケットを取り外すことで、ほぼ現況に近い状態に復旧できる。コンクリート製セグメントであってもコンクリート内壁面に複数のアンカーで固定すれば、同様に復旧できる。
【0037】
本実施形態のシールドトンネル周辺地盤における土質試料採取治具を用いた土質試料採取方法によれば、シールドトンネルの内壁面にソケットを回転不可に固定するソケット固定工程を有するので、ボーリングロッドの回転に伴うパッカーとの摩擦抵抗から土質試料採取治具の全体が供回りすることを回避できる。
また、スリーブに凍結管を挿入して、グラウト孔近傍の周辺地盤を凍結させる凍結工程を有するので、周辺地盤が凍結している間であれば、地下水の浸入を抑制しながら、ソケットをグラウト孔およびシールドトンネルの内壁面から安全に取り外すことができる。
【0038】
なお、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本発明はここで示した構成に何等限定されるものではない。
この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0039】
ST シールドトンネル
G 周辺地盤
F 裏込め注入材
J 土質試料採取治具
B ボーリングマシン
L ボーリングロッド
M メタルクラウン
C コアビット
S 試料
O 凍結外管
I 凍結内管
FA 凍結領域
1 セグメント
11 鋼製セグメント
111 主桁
112 縦リブ
113 継手板
114 スキンプレート
12 コンクリート製セグメント
2 グラウト孔
21 グラウト孔壁
22 グラウトキャップ
23 孔逆止弁
3 ソケット
31 接続管
32 スリーブ先導管
33 回転防止材
4 スリーブ
41 スリーブ本管
42 仕切弁
43 排泥バルブ
44 パッカー