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特開2022-29253コンピュータプログラム、シミュレーション方法及びシミュレーション装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029253
(43)【公開日】2022-02-17
(54)【発明の名称】コンピュータプログラム、シミュレーション方法及びシミュレーション装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/20 20200101AFI20220209BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20220209BHJP
   H02P 31/00 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
G06F17/50 612L
G06F17/50 612H
H02P31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020132493
(22)【出願日】2020-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】507228172
【氏名又は名称】株式会社JSOL
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆
(72)【発明者】
【氏名】▲たに▼ 浩司
【テーマコード(参考)】
5B046
5B146
5H501
【Fターム(参考)】
5B046AA07
5B046FA06
5B046GA01
5B046HA05
5B046JA04
5B046KA05
5B146AA21
5B146DG02
5B146DJ05
5B146DJ07
5B146DL08
5B146EA08
5H501BB09
5H501DD04
5H501JJ03
5H501JJ04
(57)【要約】
【課題】回転子の永久磁石に係る鎖交磁束成分と、相電流に係る鎖交磁束成分とのトータル磁束を記憶した小サイズのLUTを用いることにより、LUTの作成負荷及びモータ挙動シミュレートの演算負荷を低減することができるコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】複数のコイル及び永久磁石を有するモータの解析モデルに基づいて、複数時点それぞれにおけるモータの挙動をシミュレートする処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、解析モデルに基づく磁界解析によって得られる、複数のコイルに流れる電流及び永久磁石によって生ずる各コイルにおける鎖交磁束と、複数のコイルに流れる電流とを関連付けたルックアップテーブルを作成し、作成されたルックアップテーブルを参照して、モータの挙動をシミュレートする処理をコンピュータに実行させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコイル及び磁性体を有する電磁回路装置の解析モデルに基づいて、複数時点それぞれにおける該電磁回路装置の挙動をシミュレートする処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記解析モデルに基づく磁界解析によって得られる、前記複数のコイルに流れる電流及び前記磁性体によって生ずる各コイルにおける鎖交磁束と、前記複数のコイルに流れる電流とを関連付けたルックアップテーブルを作成し、
作成された前記ルックアップテーブルを参照して、前記電磁回路装置の挙動をシミュレートする
処理を前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項2】
電圧方程式により、一の前記コイルを除く他の複数の前記コイルにおける鎖交磁束を算出し、
算出された前記他の複数のコイルにおける鎖交磁束をキーにして前記ルックアップテーブルから前記他の複数のコイルに流れる電流を読み出し、
電流保存式により、前記他の複数のコイルに流れる電流に基づいて、前記一のコイルに流れる電流を算出し、
前記コイルに流れる電流をキーにして前記ルックアップテーブルから前記一のコイルにおける鎖交磁束を読み出す
処理を前記コンピュータに実行させるための請求項1に記載のコンピュータプログラム。
【請求項3】
一部のコイルに電圧を与えるための配線が切断されている場合の前記電磁回路装置の挙動をシミュレートする場合、電圧方程式により、一の前記コイル及び断線した前記一部のコイルを除く他の一又は複数の前記コイルにおける鎖交磁束を算出し、
算出された前記他の一又は複数のコイルにおける鎖交磁束をキーにして前記ルックアップテーブルから前記他の一又は複数のコイルに流れる電流を読み出し、
電流保存式により、前記他の一又は複数のコイルに流れる電流に基づいて、前記一のコイルに流れる電流を算出し、
前記コイルに流れる電流をキーにして前記ルックアップテーブルから前記複数のコイルにおける鎖交磁束を読み出す
処理を前記コンピュータに実行させるための請求項1に記載のコンピュータプログラム。
【請求項4】
前記磁性体は永久磁石、前記電磁回路装置は前記複数のコイル及び前記永久磁石を有するモータであり、
前記解析モデルに基づく磁界解析によって得られる、前記複数のコイルに流れる電流及び前記永久磁石によって生ずる各コイルにおける鎖交磁束と、前記複数のコイルに流れる電流とを関連付けた前記ルックアップテーブルを作成する
処理を前記コンピュータに実行させるための請求項1に記載のコンピュータプログラム。
【請求項5】
前記モータは多相モータであり、
電圧方程式により、一相の前記コイルを除く他の複数相の前記コイルにおける鎖交磁束を算出し、
算出された前記他の複数相のコイルにおける鎖交磁束をキーにして前記ルックアップテーブルから前記他の複数相のコイルに流れる電流を読み出し、
電流保存式により、前記他の複数相のコイルに流れる電流に基づいて、前記一相のコイルに流れる電流を算出し、
前記コイルに流れる電流をキーにして前記ルックアップテーブルから前記一相のコイルにおける鎖交磁束を読み出す
処理を前記コンピュータに実行させるための請求項4に記載のコンピュータプログラム。
【請求項6】
前記モータは多相モータであり、固定子及び可動子を備え、
前記ルックアップテーブルは、
前記複数のコイルにおける鎖交磁束と、前記複数のコイルに流れる電流と、前記可動子の位置とを関連付けたテーブルであり、
前記モータの各コイルに与えられる電圧を外部の駆動回路シミュレータから取得し、
電圧方程式により、取得した電圧と、前回及び前々回のシミュレーションステップで算出した各コイルにおける鎖交磁束と、前回のシミュレーションステップで算出した一相の前記コイルを除く他の複数相の前記コイルの電流とに基づいて、前記他の複数相の前記コイルにおける鎖交磁束を算出し、
算出された前記他の複数相のコイルにおける鎖交磁束及び前記可動子の位置をキーにして前記ルックアップテーブルから前記他の複数相のコイルに流れる電流を読み出し、
電流保存式により、前記他の複数相のコイルに流れる電流に基づいて、前記一相のコイルに流れる電流を算出し、
前記コイルに流れる電流及び前記可動子の位置をキーにして前記ルックアップテーブルから前記一相のコイルにおける鎖交磁束を読み出す
処理を前記コンピュータに実行させるための請求項4に記載のコンピュータプログラム。
【請求項7】
前記モータは多相モータであり、
一部のコイルに電圧を与えるための配線が切断されている場合の前記モータの挙動をシミュレートする場合、電圧方程式により、一相の前記コイル及び断線した前記一部のコイルを除く他の一又は複数相の前記コイルにおける鎖交磁束を算出し、
算出された前記他の一又は複数相のコイルにおける鎖交磁束をキーにして前記ルックアップテーブルから前記他の一又は複数相のコイルに流れる電流を読み出し、
電流保存式により、前記他の一又は複数相のコイルに流れる電流に基づいて、前記一相のコイルに流れる電流を算出し、
前記コイルに流れる電流をキーにして前記ルックアップテーブルから前記複数のコイルにおける鎖交磁束を読み出す
処理を前記コンピュータに実行させるための請求項4に記載のコンピュータプログラム。
【請求項8】
前記モータは多相モータであり、固定子及び可動子を備え、
前記モータの各コイルに与えられる電圧を外部の駆動回路シミュレータから取得し、
一部のコイルに電圧を与えるための配線が切断されている場合の前記モータの挙動をシミュレートする場合、電圧方程式により、取得した電圧と、前回及び前々回のシミュレーションステップで算出した各コイルにおける鎖交磁束と、前回のシミュレーションステップで算出した一相の前記コイル及び断線した前記一部のコイルを除く他の一又は複数相の前記コイルの電流とに基づいて、前記他の一又は複数相の前記コイルにおける鎖交磁束を算出し、
算出された前記他の一又は複数相のコイルにおける鎖交磁束及び前記可動子の位置をキーにして前記ルックアップテーブルから前記他の一又は複数相のコイルに流れる電流を読み出し、
電流保存則により、前記他の一又は複数相のコイルに流れる電流に基づいて、前記一相のコイルに流れる電流を算出し、
前記コイルに流れる電流及び前記可動子の位置をキーにして前記ルックアップテーブルから前記複数のコイルにおける鎖交磁束を読み出す
処理を前記コンピュータに実行させるための請求項4に記載のコンピュータプログラム。
【請求項9】
複数のコイル及び磁性体を有する電磁回路装置の解析モデルに基づいて、複数時点それぞれにおける該電磁回路装置の挙動をシミュレートする処理をコンピュータが実行するシミュレーション方法であって、
前記コンピュータは、
前記解析モデルに基づく磁界解析によって得られる、前記複数のコイルに流れる電流及び前記磁性体によって生ずる各コイルにおける鎖交磁束と、前記複数のコイルに流れる電流とを関連付けたルックアップテーブルを作成し、
作成された前記ルックアップテーブルを参照して、前記電磁回路装置の挙動をシミュレートする
処理を実行するシミュレーション方法。
【請求項10】
複数のコイル及び磁性体を有する電磁回路装置の解析モデルに基づいて、複数時点それぞれにおける該電磁回路装置の挙動をシミュレートする演算部を備えるシミュレーション装置であって、
前記演算部は、
前記解析モデルに基づく磁界解析によって得られる、前記複数のコイルに流れる電流及び前記磁性体によって生ずる各コイルにおける鎖交磁束と、前記複数のコイルに流れる電流とを関連付けたルックアップテーブルを作成し、
作成された前記ルックアップテーブルを参照して、前記電磁回路装置の挙動をシミュレートする
シミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルを有する電磁回路装置の解析モデルに基づいて、該電磁回路装置の挙動をシミュレートするコンピュータプログラム、シミュレーション方法及びシミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ及び駆動回路の開発に、モータの動的な挙動をシミュレートするシミュレーション装置が利用されている。詳細かつ正確にモータの挙動をシミュレートすべく、磁界解析によって得られた特性を用いてモータの挙動をシミュレートするモータ挙動シミュレータと、モータの駆動回路の動作をシミュレートする駆動回路シミュレータとを連成することが行われている(例えば、特許文献1)。連成シミュレータにおいては、駆動回路シミュレータは、時系列の各時点に対応するシミュレーションステップ毎に、モータ挙動シミュレータを呼び出してモータの挙動を詳細にシミュレートさせ、そのシミュレーション結果を用いて駆動回路の挙動をシミュレートする。
【0003】
モータ挙動シミュレータは、複数のコイル、固定子及び回転子を有するモータの形状及び電磁特性を表す解析モデルの磁界解析によって、駆動状態に応じたモータの微分インダクタンス、回転子の永久磁石による鎖交磁束成分等の特性を表す特性データベースを予め作成し、記憶する。モータは、例えば三相永久磁石モータである。磁界解析は、有限要素法又は境界要素法等の公知の磁界解析シミュレータを用いて行われる。有限要素法は、複雑な形状及び電磁特性を有するモータの回転子及び固定子を単純な形状及び電磁特性を有する小領域(要素)に分割し、単純化された各要素の特性を近似的に演算することでモータ全体の挙動を予測する手法である。モータ挙動シミュレータは、磁界解析によって得られた特性データベースを用いてモータの挙動をシミュレートするため、インダクタンスのみで単純化した理想モータモデルを用いたシミュレータに比べて、より詳細にモータの挙動をシミュレートすることができる。
【0004】
駆動回路シミュレータは、モータのU相、V相及びW相の各コイルに印加される電圧Vu、Vv、Vwをモータ挙動シミュレータに引き渡す。モータ挙動シミュレータは、モータの駆動状態に応じた微分自己インダクタンス及び微分相互インダクタンス、回転子の永久磁石による鎖交磁束成分等の特性をLUT(Lookup table)から読み出し、電圧Vu、Vv、Vwに基づいて、各コイルの電流Iu,Iv,Iwを算出し、そのシミュレーション結果を駆動回路シミュレータに返す。
【0005】
駆動回路シミュレータは、モータ挙動シミュレータから返されたシミュレーション結果の電流Iu,Iv,Iwに基づいて、次シミュレーションステップにおける電圧Vu、Vv、Vwを算出する。以下、同様の処理を繰り返すことによって、理想モータモデルでは再現することができない詳細かつ正確なモータの動的な挙動をシミュレートすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5016504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来手法では、電流及び回転子の機械角を振って磁界解析を行い、各相コイルの電流と、回転子の機械角と、各相コイルの微分自己インダクタンス及び微分相互インダクタンスとを関連付けたインダクタンスLUT、回転子の機械角と、永久磁石による各相コイルの鎖交磁束成分とを関連付けた鎖交磁束LUTを作成する必要があり、LUTの作成負荷が大きいという問題があった。なお、微分インダクタンスを算出するためには電流(I+dI)における磁界解析も必要であり、LUTを作成するための事前計算に相当の時間を要する。
【0008】
また、3相コイルの場合、鎖交磁束が3成分、微分インダクタンスは9成分もあり、インダクタンスLUT及び鎖交磁束LUTのサイズが大きく、インダクタンスLUT及び鎖交磁束LUTを用いた演算負荷が大きいという問題があった。
なお、上記演算負荷は、複数のコイルを有する電磁回路装置一般の挙動をシミュレートする場合にも問題となる。
【0009】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、複数のコイルに流れる電流及び磁性体によって生ずるトータル磁束を記憶した小サイズのLUTを用いることにより、LUTの作成負荷及び電磁回路装置挙動シミュレートの演算負荷を低減することができるコンピュータプログラム、シミュレーション方法及びシミュレーション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るコンピュータプログラムは、複数のコイル及び磁性体を有する電磁回路装置の解析モデルに基づいて、複数時点それぞれにおける該電磁回路装置の挙動をシミュレートする処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、前記解析モデルに基づく磁界解析によって得られる、前記複数のコイルに流れる電流及び前記磁性体によって生ずる各コイルにおける鎖交磁束と、前記複数のコイルに流れる電流とを関連付けたルックアップテーブルを作成し、作成された前記ルックアップテーブルを参照して、前記電磁回路装置の挙動をシミュレートする処理を前記コンピュータに実行させる。
【0011】
本発明に係るシミュレーション方法は、複数のコイル及び磁性体を有する電磁回路装置の解析モデルに基づいて、複数時点それぞれにおける該電磁回路装置の挙動をシミュレートする処理をコンピュータが実行するシミュレーション方法であって、前記コンピュータは、前記解析モデルに基づく磁界解析によって得られる、前記複数のコイルに流れる電流及び前記磁性体によって生ずる各コイルにおける鎖交磁束と、前記複数のコイルに流れる電流とを関連付けたルックアップテーブルを作成し、作成された前記ルックアップテーブルを参照して、前記電磁回路装置の挙動をシミュレートする処理を実行する。
【0012】
本発明に係るシミュレーション装置は、複数のコイル及び磁性体を有する電磁回路装置の解析モデルに基づいて、複数時点それぞれにおける該電磁回路装置の挙動をシミュレートする演算部を備えるシミュレーション装置であって、前記演算部は、前記解析モデルに基づく磁界解析によって得られる、前記複数のコイルに流れる電流及び前記磁性体によって生ずる各コイルにおける鎖交磁束と、前記複数のコイルに流れる電流とを関連付けたルックアップテーブルを作成し、作成された前記ルックアップテーブルを参照して、前記電磁回路装置の挙動をシミュレートする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、LUTの作成負荷及び電磁回路装置挙動シミュレートの演算負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態1に係るシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
図2】回転軸方向から見たモータを示す模式図である。
図3】モータの回路構成を示す模式図である。
図4】シミュレーション装置が実行する連成解析の概要を示す概念図である。
図5】LUTの作成に係る演算部の処理手順を示すフローチャートである。
図6】連成解析に係る演算部の処理手順を示すフローチャートである。
図7】実施形態1に係るモータ挙動シミュレーションに係る演算部の処理手順を示すフローチャートである。
図8】実施形態1に係るモータ挙動シミュレーションに係る演算部の処理方法を示す概念図である。
図9】実施形態1に係るシミュレーション装置の作用効果を示す鎖交磁束のシミュレーション結果を示すグラフである。
図10】実施形態1に係るシミュレーション装置の作用効果を示す相電流のシミュレーション結果を示すグラフである。
図11】実施形態1に係るシミュレーション装置の作用効果を示す誘起電圧のシミュレーション結果を示すグラフである。
図12】実施形態1に係るシミュレーション装置の作用効果を示す中性点電位のシミュレーション結果を示すグラフである。
図13】実施形態2に係るモータ挙動シミュレーションに係る演算部の処理手順を示すフローチャートである。
図14】実施形態2に係るシミュレーション装置の作用効果を示す鎖交磁束のシミュレーション結果を示すグラフである。
図15】実施形態2に係るシミュレーション装置の作用効果を示す鎖交磁束の誤差のグラフである。
図16】実施形態2に係るシミュレーション装置の作用効果を示す相電流のシミュレーション結果を示すグラフである。
図17】実施形態2に係るシミュレーション装置の作用効果を示す電流の誤差を示すグラフである。
図18】実施形態2に係るシミュレーション装置の作用効果を示す中性点電位のシミュレーション結果を示すグラフである。
図19】比較例に係るシミュレーション装置の作用効果を示す相電流のシミュレーション結果を示すグラフである。
図20】W相が断線したモータの回路構成を示す模式図である。
図21】実施形態3に係るモータ挙動シミュレーションに係る演算部の処理手順を示すフローチャートである。
図22】実施形態3に係るシミュレーション装置の作用効果を示す鎖交磁束のシミュレーション結果を示すグラフである。
図23】実施形態3に係るシミュレーション装置の作用効果を示す相電流のシミュレーション結果を示すグラフである。
図24】実施形態3に係るシミュレーション装置の作用効果を示す誘起電圧のシミュレーション結果を示すグラフである。
図25】実施形態3に係るシミュレーション装置の作用効果を示す中性点電位のシミュレーション結果を示すグラフである。
図26】電磁回路装置の回路構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1に係るシミュレーション装置1の構成を示すブロック図である。図中1は、本発明の実施形態に係るシミュレーション装置1である。シミュレーション装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の演算部11を備えたコンピュータであり、演算部11にはバスを介して記憶部12が接続されている。記憶部12は、例えば不揮発性メモリ及び揮発性メモリを備える。不揮発性メモリは、例えばEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)等のROMである。不揮発性メモリは、コンピュータの初期動作に必要な制御プログラム、及び本実施形態に係るシミュレータプログラム21を記憶している。シミュレータプログラム21は、例えばモータ挙動シミュレータプログラム(コンピュータプログラム)21a、駆動回路シミュレータプログラム21b、磁界解析シミュレータプログラム21c等を含む。演算部11は、シミュレータプログラム21を実行することによって、複数時点それぞれにおけるモータ4(図2参照)の挙動をシミュレートするモータ挙動シミュレータ、モータ4を駆動する駆動回路の挙動をシミュレートする駆動回路シミュレータ、有限要素法、境界要素法等の磁界解析によってモータ4の挙動を磁界解析する磁界解析シミュレータとして機能する。揮発性メモリは、例えばDRAM(Dynamic RAM)、SRAM(Static RAM)等のRAMであり、演算部11の演算処理を実行する際に不揮発性メモリから読み出された制御プログラム、シミュレータプログラム21又は演算部11の演算処理によって生ずる各種データを一時記憶する。
【0016】
また記憶部12は、モータ4を構成する複数のコイル42、固定子41及び回転子43(図2参照)の二次元又は三次元形状及び電磁特性を表す解析モデル12a、モータ4を駆動する駆動回路モデル等を記憶している。
【0017】
図2は回転軸方向から見たモータ4を示す模式図、図3はモータ4の回路構成を示す模式図である。シミュレーション対象のモータ4は、例えば、三相永久磁石同期モータである。図2に示すモータ4は8極48スロットの埋込磁石型の永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)である。モータ4は、界磁束を発生させるU相コイル42u、V相コイル42v及びW相コイル42wが周方向に等配された円筒状の固定子41と、該固定子41の内径側に同心円状に配された回転子43とを備えている。各コイル42は、例えば図3に示すようにスター結線されている。図3中、Tnは中性点である。Tu,Tv,Twは、U相コイル42u、V相コイル42v及びW相コイル42wに電圧が印加される端子である。回転子43は、円柱状をなし、複数対の永久磁石43aを備えている。なお、極数、スロット数及びコイル42の数はこれに限定されない。解析モデル12aは、例えばモータ4を構成する複数のコイル42、固定子41及び回転子43の形状を表す3次元CADデータ等の3次元形状モデル、3次元形状モデルを構成する各部の材料特性等を含む。材料特性としては、磁化特性、電気特性、機械特性、熱特性、鉄損特性等が挙げられる。電気特性は、導電率、比誘電率等である。
【0018】
シミュレーション対象の駆動回路は、例えばドライバ及びインバータにて構成されている。記憶部12は、前記ドライバ及びインバータを構成する複数の回路素子及び各回路素子の接続状態及び特性を表す駆動回路モデルを記憶している。
【0019】
更に、記憶部12は、モータ4の動的な挙動をシミュレートするための特性データベースとして、LUT12b及びトルクLUT12cを記憶する。各特性データベースは、モータ4の挙動をシミュレートする前段階に作成されるものである。LUT12bの詳細は後述する。
【0020】
なお記憶部12として、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等の読み出しが可能なディスクドライブ、及び可搬式の記録媒体2からデータの読み出しが可能なCD-ROMドライブ等の装置を備えても良い。本実施形態に係るシミュレータプログラム21又はモータ挙動シミュレータプログラム21aは、可搬式メディアであるCD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM、BD(Blu-ray Disc)(登録商標)等の記録媒体2にコンピュータ読み取り可能に記録されている。なお、光ディスクは、記録媒体2の一例であり、フレキシブルディスク、磁気光ディスク、外付けハードディスク、半導体メモリ等にシミュレータプログラム21又はモータ挙動シミュレータプログラム21aをコンピュータ読み取り可能に記録しても良い。演算部11は、記録媒体2からシミュレータプログラム21又はモータ挙動シミュレータプログラム21aを読み出して、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等に記憶させる。演算部11は、記録媒体2に記録されたシミュレータプログラム21又は記憶部12が記憶するシミュレータプログラム21を、実行することにより、コンピュータをシミュレーション装置1として機能させる。
【0021】
また、シミュレーション装置1は、図1に示すようにキーボード又はマウス等の入力装置13と、液晶ディスプレイ又はCRTディスプレイ等の出力装置14とを備えており、データの入力等の使用者からの操作を受け付ける。
【0022】
更に、シミュレーション装置1は、通信インタフェース15を備え、通信インタフェース15に接続されている外部のサーバコンピュータ3から本発明に係るシミュレータプログラム21又はモータ挙動シミュレータプログラム21aをダウンロードし、演算部11にて処理を実行する形態であってもよい。
【0023】
図4はシミュレーション装置1が実行する連成解析の概要を示す概念図である。まず、シミュレーション装置1は、モータ4の挙動をシミュレートする前に、有限要素法モデル等の解析モデル12aに基づく磁界解析によってモータ4の各種特性を算出する。例えば、演算部11は、モータ4の特性として、回転子43の永久磁石43aに係る鎖交磁束成分と、相電流に係る鎖交磁束成分との総和であるトータル磁束Ψ(以下、単に鎖交磁束と呼ぶ)と、各コイル42に流れる電流Iと、回転子43の機械角θとを対応付けたLUT(Ψ,I,θ)12b等を作成する。また、回転子43に生ずるトルクTと、各コイル42に流れる電流Iと、回転子43の機械角θとを対応付けたトルクLUT12cを作成する。
そして、シミュレーション装置1は、モータ挙動シミュレータと、駆動回路シミュレータとを連成させて、モータ4の動的な挙動をシミュレートする。駆動回路シミュレータは、モータ4の各コイル42の端子Tu,Tv,Twに印加される電圧[V]=[Vu、Vv、Vw]及び回転子43の機械角をモータ挙動シミュレータに引き渡す。モータ挙動シミュレータは、電圧[V]等に基づいて、鎖交磁束を算出し、LUT12b及びトルクLUT12cを参照して各コイル42の電流[I]=[Iu,Iv,Iw]及びモータ4のトルクを求め、そのシミュレーション結果を駆動回路シミュレータに返す。以下、同様の処理を反復的に実行することによって、モータ4の動的な挙動をシミュレートすることができる。
【0024】
以下、本実施形態に係るシミュレーション方法として、LUT12bの作成手順、モータ4の挙動シミュレート手順を順に説明する。
【0025】
図5はLUT12bの作成に係る演算部11の処理手順を示すフローチャートである。シミュレーション装置1の演算部11は、記憶部12が記憶しているモータ挙動シミュレータプログラム21aに従って、以下の処理を実行する。演算部11は、まずシミュレーション対象であるモータ4の解析モデル12a及び駆動回路モデルの選択、その他各種設定を入力装置13にて受け付ける(ステップS11)。
【0026】
次いで、演算部11は、駆動状態を示すパラメータ、つまり各コイル42を流れる電流、及び回転子43の機械角の値を振りながら、有限要素法による磁界解析を実行する(ステップS12)。なお、各コイル42を流れる電流を振る際、電流保存側を満たすように各コイル42に流れる電流を設定する。有限要素法では、モータ4の3次元形状モデルを複数の要素に分割する。例えば、演算部11は、モータ4の3次元形状モデルを複数の四面体要素、六面体要素、四角錐要素、三角柱要素等に分割する。演算部11は、マクスウェル方程式から得られる多元一次連立方程式を、特定の境界条件、例えばディリクレ境界条件、ノイマン境界条件の下で数値計算することにより、各要素の磁気ベクトルポテンシャルを算出する。磁気ベクトルポテンシャルから、モータ4の各部の磁界又は磁束密度が得られる。磁界又は磁束密度は、電流、トルク等を算出するための基本的な情報である。なお、準定常磁場はマクスウェル方程式で記述される。
【0027】
次いで、演算部11は、ステップS12の磁界解析結果に基づいて、各コイル42の電流及び回転子43の位置に応じた各コイル42における鎖交磁束を算出する(ステップS13)。
【0028】
次いで、演算部11は、ステップS12の磁界解析結果に基づいて、各コイル42の電流及び回転子43の位置に応じて回転子43に作用する電磁力を算出し、該回転子43に働くトルクを算出する(ステップS14)。演算部11は、例えば節点力法等の手法を用いて、回転子43に作用する電磁力を算出する。
【0029】
次いで、演算部11は、ステップS12の磁界解析結果に基づいて、各コイル42に流れる電流と、回転子43の機械角と、各コイル42における鎖交磁束とを対応付けて格納したLUT12bを作成する(ステップS15)。
【0030】
次いで、演算部11は、ステップS14で算出したトルクと、コイル42に流れる電流と、回転子43の機械角とを対応付けて格納したトルクLUT12cを作成し(ステップS16)、処理を終える。
【0031】
なお、LUT12b及びトルクLUT12cを別体のテーブルであるものとして説明したが、これらのテーブルを一つのテーブルで構成してもよい。
【0032】
図6は連成解析に係る演算部11の処理手順を示すフローチャートである。演算部11は、コイル42に印加される電圧、電流、回転子43の位置等の初期値を設定する(ステップS31)。
【0033】
次いで、演算部11は、前回のシミュレーションステップで算出されたコイル42の電流及び回転子43に働くトルクに基づいて、次シミュレーションステップにおいてコイル42に印加される電圧及び回転子43の機械角を算出する(ステップS32)。ステップS32の処理は、駆動回路シミュレータによって実行され(図4参照)、シミュレーション結果である電圧[V]=[Vu、Vv、Vw]及び回転子43の機械角をモータ挙動シミュレータに与える。
【0034】
次いで、演算部11は、モータ4に印加される電圧、前回以前のシミュレーションステップで算出した各コイル42の電流、各コイル42における鎖交磁束、回転子43の位置等に基づいて、モータ4の挙動をシミュレートし、各コイル42に流れる電流、回転子43に生ずるトルクを算出する(ステップS33)。ステップS33の処理は、モータ挙動シミュレータによって実行され(図4参照)、シミュレーション結果であるコイル42の電流[I]=[Iu,Iv,Iw]及び回転子43に生ずるトルクは、駆動回路シミュレータに引き渡される。ステップS33の詳細な処理は後述する。
【0035】
次いで、演算部11はシミュレーションの終了条件を満たすか否かを判定する(ステップS34)。例えば、所定の実時間に相当する所定回数のシミュレーションステップを実行した場合、演算部11はシミュレーションを終了する。シミュレーションの終了条件を満たさないと判定した場合(ステップS34:NO)、演算部11は処理をステップS32へ戻し、ステップS32及びステップS33の処理を反復実行する。シミュレーションの終了条件が満たされたと判定した場合(ステップS34:YES)、演算部11は処理を終了する。
【0036】
以下、ステップS33における演算部11の処理手順の詳細を説明する前に、各コイル42に印加される電圧に基づいて、各コイル42に流れる電流及び鎖交磁束を算出する方法の理論を説明する。
【0037】
図3に示すようなスター結線回路の電圧方程式は、下記式(1)~(3)で表すことができる。
【0038】
【数1】
【0039】
中性点Tnでは、下記式(4)に示す電流保存則が成り立つ。また、三相平衡時には、下記式(5)が成り立つ。
【数2】
【0040】
上記式(1)~(3)を加算すると、下記式(6)のようになる。
【数3】
【0041】
上記式(4)及び(5)を考慮すると、上記式(6)は下記式(7-1)のようになる。
非平衡状態においては、上記式(4)により、上記式(6)は下記式(7-2)のようになる。
また、中性点電位を求める他の方法として、既知の電圧が印加されている端子における電位を基準にして、当該端子からの誘起電圧を中性点電位とする方法がある。当該方法によれば、例えば、端子Tuの電位を基準にすると、中性点電位は下記式(7-3)で表される。他の端子Tv、Twの電位を基準とし、同様の方法で中性点電位を求めてもよい。なお、下記式(7-2)は、全ての端子Tu,Tv,Twの電位を基準にして求めた中性点電位の平均値と理解することができる。
【数4】
【0042】
上記式(4)及び(5)が成り立つ三相平衡状態においては、3変数のうち、独立変数は2つであり、結局、上記式(1)及び(2)を解けばよいことになる。
U相及びV相の変数を独立変数と考え、上記式(1)、(2)及び(7-1)を離散化すると下記式(8)~(10)のようになる。なお、変数nは、例えば自然数であり、シミュレーションステップを示す。
【0043】
【数5】
【0044】
上記式(8)及び(9)を解くことによって、U相コイル42u及びV相コイル42vの鎖交磁束が求まる。なお、上記式(8)及び(9)では、前回のシミュレーションステップ(第n-1ステップ)のU相及びV相の電圧を用いる例を示しているが、今回のシミュレーションステップ(第nステップ)のU相及びV相の電圧を用いて、U相コイル42u及びV相コイル42vの鎖交磁束を求めてもよい。
【0045】
そして、U相コイル42u及びV相コイル42vの鎖交磁束、及び回転子43の機械角をキーにしてLUT12bを参照することにより、LUT12bからU相コイル42u及びV相コイル42vを流れる電流を読み出すことができる。かかる処理を関数LUT_1として表現すると、下記式(11)のように表すことができる。
【0046】
【数6】
【0047】
W相コイル42wを流れる電流は、電流保存側により下記式(12)で求まる。下記式(12)によって、電流保存が保証される。
【0048】
【数7】
【0049】
そして、各コイル42の電流及び回転子43の機械角をキーにしてLUT12bを参照することにより、LUT12bからW相コイル42wにおける鎖交磁束を読み出すことができる。かかる処理を関数LUT_2として表現すると、下記式(13)のように表すことができる。下記式(13)により、鎖交磁束と電流との整合性が確保される。なお、下記式(13)では、全てのコイル42の電流をキーにして鎖交磁束を読み出す例を説明したが、電流保存則を満たすように電流を振ってLUT12bを作成しているため、少なくとも2つのコイル42に流れる電流及び回転子43の機械角をキーにしてLUT12bを参照することにより、LUT12bからW相コイル42wにおける鎖交磁束を読み出してもよい。
【0050】
【数8】
【0051】
図7は実施形態1に係るモータ挙動シミュレーションに係る演算部11の処理手順を示すフローチャート、図8は実施形態1に係るモータ挙動シミュレーションに係る演算部11の処理方法を示す概念図である。以下、ステップS33の処理内容を説明する。演算部11は、駆動回路シミュレータから各コイル42に印加される電圧及び回転子43の機械角を取得する(ステップS51)。例えば、駆動回路シミュレータがシミュレーション結果をファイルとして出力する構成の場合、演算部11は該ファイルから各コイル42の印加電圧及び回転子43の機械角を読み出す。
【0052】
演算部11は、上記式(8)及び(10)により、U相コイル42uに印加される電圧と、前回のシミュレーションステップで算出されたU相コイル42uの電流と、U相コイル42uの電気抵抗値と、前回及び前々回のシミュレーションステップで算出された各コイルの鎖交磁束とに基づいて、U相コイル42uの鎖交磁束を算出する(ステップS52)。
【0053】
演算部11は、上記式(9)及び(10)により、V相コイル42vに印加される電圧と、前回のシミュレーションステップで算出されたV相コイル42vの電流と、V相コイル42vの電気抵抗値と、前回及び前々回のシミュレーションステップで算出された各コイルの鎖交磁束とに基づいて、V相コイル42vの鎖交磁束を算出する(ステップS53)。
【0054】
演算部11は、U相コイル42u及びV相コイル42vの鎖交磁束、並びに回転子43の機械角をキーにして、LUT12bからU相コイル42uの電流を読み出す(ステップS54)。
【0055】
同様に、演算部11は、U相コイル42u及びV相コイル42vの鎖交磁束、回転子43の機械角をキーにして、LUT12bからV相コイル42vの電流を読み出す(ステップS55)。なお、ステップS52~ステップS55の処理順序は特に限定されるものではない。また、LUT12bから電流を読み出す際、補間して読み出すとよい。補間方法としては、スプライン補間、多項式補間、線形補間等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0056】
次いで、演算部11は、電流保存式により、W相コイル42wの電流を算出する(ステップS56)。
【0057】
演算部11は、各コイル42の電流及び回転子43の機械角をキーにして、LUT12bからW相コイル42wにおける鎖交磁束を読み出す(ステップS57)。なお、LUT12bから鎖交磁束を読み出す際、補間して読み出すとよい。補間方法としては、スプライン補間、多項式補間、線形補間等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
ステップS57で算出された鎖交磁束は、ステップS52及びステップS53で算出された鎖交磁束と共に、次回又は次々回のシミュレーションステップで使用される。
【0058】
次いで、演算部11は、ステップS54~ステップS56で算出した各コイル42の電流と、駆動回路シミュレートから取得した回転子43の機械角とをキーにして、トルクLUT12cから回転子43に作用するトルクを読み出す(ステップS58)。
【0059】
そして、演算部11は、ステップS54~ステップS56で算出して得た各コイル42の電流と、ステップS58で読み出したトルクとを駆動回路シミュレータへ出力し(ステップS59)、処理を終える。
【0060】
このように構成されたシミュレーション装置1、シミュレーション方法及びシミュレータプログラム21の作用効果を説明する。作用効果を示すための実シミュレーションは、図2に示すような形状を有する8極48スロットの埋込磁石型の永久磁石同期モータを用いて行った。固定子41のスロットにはコイル42が分布巻されている。
【0061】
図9図10図11及び図12は、それぞれ実施形態1に係るシミュレーション装置1の作用効果を示す鎖交磁束、相電流、誘起電圧及び中性点電位のシミュレーション結果を示すグラフである。図9A図10A図11A図12Aは、本実施形態1に係るシミュレーション装置1を用いてモータ4の挙動をシミュレートした演算結果であり、図9B図10B図11B図12Bは、有限要素法を用いた磁界解析によりモータ4の挙動をシミュレートして得られた演算結果である。横軸は時間を示す。図9に示すグラフの縦軸は各コイル42における鎖交磁束、図10に示すグラフの縦軸は各コイル42を流れる電流、図11に示すグラフの縦軸は各コイル42における誘起電圧、図12に示すグラフの縦軸は中性点電位を示す。
【0062】
図9図12に示すように、各コイル42の鎖交磁束、相電流、誘起電圧及び中性点電位が精度良く再現されている。
【0063】
以上の通り、本実施形態1に係るシミュレーション装置1、シミュレーション方法及びシミュレータプログラム21によれば、LUT12bの作成負荷及びモータ挙動シミュレートの演算負荷を低減することができる。具体的には、実施形態1のLUT12bは、各コイル42の電流、鎖交磁束、回転子43の機械角等、少数の成分を対応付けたものであり、また、背景技術のように微分インダクタンスを算出しない構成であるため、従来技術に比べて、低負荷でLUT12bを作成することができる。また、比較的簡単な上記式(8)~(9)を用いた鎖交磁束の算出及びLUT12bの参照処理によって、高速にモータ4の挙動をシミュレートすることができる。
また、図9図12に示すように、厳密解とする磁界解析による演算結果と略同一のシミュレート結果が得られており、モータ4の挙動を精度良くシミュレートすることができる。
【0064】
なお、本実施形態では可動子が回転する回転機としてのモータ4を説明したが、可動子が直動する直動機としてのモータ4に本発明を適用することによって、モータ4の動的な挙動をシミュレートすることができる。解析モデル12aの形状が異なるだけで、同様の処理手順で直動機の挙動をシミュレートすることができる。
【0065】
また、本実施形態1では、主にスター結線のモータ4の挙動シミュレーションについて説明したが、結線方式は特に限定されるものではなく、電流保存側が成立するその他の任意の方式で結線されたモータ4の挙動をシミュレートする場合にも本発明を適用することができる。
【0066】
更に、解析対象として可動子が直線移動又は回転移動する対象を説明したが、可動子の移動態様は特に限定されるものでは無く、可動子が振動するようなモータ4、可動子が直線移動するリニアモータ、ソレノイドアクチュエータ等に対しても本発明を適用することができる。また、誘導機に対しても本発明を適用することができる。
更にまた、本発明の適用対象は、可動子を有するモータのシミュレートに限定されるものでは無く、複数のコイル及び磁性体を有する任意の電磁回路装置に対しても本発明を適用することができる。例えば、トランス、非接触充電器等の静止器の挙動をシミュレートする場合に本発明を適用することも可能である。トランスは、複数の一次側のコイルと、コアとしての磁性体とを有する電磁回路装置であり、本実施形態を同様にして適用して、その挙動をシミュレートすることができる。
【0067】
例えば、複数のコイル及び磁性体を有するスター結線された三相トランスの場合、演算部11は、当該多相トランスの特性として、複数のコイルに流れる電流に係る鎖交磁束成分と、磁性体としてのコアに生ずる鎖交磁束成分との総和であるトータル磁束Ψ(以下、単に鎖交磁束と呼ぶ)と、各コイルに流れる電流Iとを対応付けたLUT(Ψ,I)を作成するとよい。上記トランスにおいても電流保存側は同様にして成立するため、トランスの場合も基本的な考え方はモータの場合と同様であり、電圧方程式は、上記式(1)-(3)で表される。上記実施形態1と同様の手順で、上記式(1)-(3)を解くことによって、各コイルの磁束及び電流を求め、トランスの挙動をシミュレートすることができる。演算部11による処理手順は、可動子が存在しない点、トルクを計算しない点を除けば上記実施形態1と同様である。
【0068】
更にまた、本実施形態では、駆動回路シミュレータからモータ挙動シミュレータへ電圧を引き渡し、モータ挙動シミュレータから駆動シミュレータへ電流及びトルクを戻す例を説明したが、各シミュレータ間でやり取りする物理量はこれに限定されるものでは無く、やり取りする物理量は適宜選択すれば良い。また、モータ4又は発電機の状態を表す物理定数を交換するように構成しても良い。
例えば、駆動回路シミュレータからモータ挙動シミュレータへ電流を引き渡し、モータ挙動シミュレータから駆動シミュレータへ電圧を戻すように構成してもよい。この場合、モータ挙動シミュレータは、各コイル42に流れる電流及び回転子43の機械角をキーにして、LUT12bを参照して各コイル42における鎖交磁束を読み出す。そして、モータ挙動シミュレータは、鎖交磁束の時間微分を算出することによって、各コイル42に生ずる電圧を算出し、算出した電圧を駆動回路シミュレータに戻す。
【0069】
更に、本実施形態1では、各コイル42に流れる電流と、各コイル42における鎖交磁束と、回転子43の機械角とを対応付けた情報としてのLUT12bを説明したが、上記式(11)に示すように、鎖交磁束及び機械角が入力された場合、コイル42の電流が出力される第1LUTと、上記式(13)に示すように、コイル42の電流及び機械角が入力された場合、鎖交磁束が出力される第2LUTを用いてもよい。なお、まず第2LUTを作成し、次いで、第2LUTを逆変換することによって第1LUTを作成するとよい。演算部11は、鎖交磁束から電流を求める際は第1LUTを参照し、電流から鎖交磁束を求める際は第2LUTを参照するとよい。
なお、言うまでも無く上記変形は、実施形態2~4についても適用することができる。
【0070】
(実施形態2)
実施形態2に係るシミュレーション装置1、シミュレーション方法及びシミュレータプログラム21は、モータ挙動シミュレーションの方法が実施形態1と異なるため、以下では主に上記相違点を説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態1と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0071】
図13は実施形態2に係るモータ挙動シミュレーションに係る演算部11の処理手順を示すフローチャートである。演算部11は、駆動回路シミュレータから各コイル42に印加される電圧を取得する(ステップS71)。
【0072】
ここで、実施形態1で説明した電圧方程式(1)~(3)を離散化し、下記式(14)~(16)のように表す。中性点電位は、実施形態1で説明した数式(10)で表される既知のスカラー量である。cは、その補正係数である。
【0073】
【数9】
【0074】
演算部11は、補正係数c=1.0として、上記式(14)~(16)により、各コイルの鎖交磁束を算出する(ステップS72)。そして、演算部11は、各コイル42における鎖交磁束と、回転子43の機械角とをキーにして、LUT12bから各コイル42の電流を読み出す(ステップS73)。
【0075】
ただし、実施形態2に係るLUT12bは、電流保存則を考慮せず、各コイル42に流れる電流をランダムに設定して磁界解析を行い、作成されたものである。例えば、U相コイル42uに流れる電流の値(-2I,-I,0,+I,+2I)、V相コイル42vに流れる電流の値(-2I,-I,0,+I,+2I)、W相コイル42wに流れる電流の値(-2I,-I,0,+I,+2I)の全ての組合せ5の3乗通について、磁界解析により鎖交磁束を算出し、電流と鎖交磁束とを関連付けることにより、LUT12bは作成される。
【0076】
次いで、演算部11は、各コイル42の電流の総和を算出する(ステップS74)。
【0077】
同様にして、演算部11は、補正係数c=0.0として、上記式(14)~(16)により、各コイルにおける鎖交磁束を算出する(ステップS75)。そして、演算部11は、LUT12bを参照して各コイル42の電流を読み出す(ステップS76)。そして、演算部11は、各コイル42の電流の総和を算出する(ステップS77)。
【0078】
次いで、演算部11は、ステップS74にて算出した電流の総和と、ステップS77で算出した電流の総和とに基づき、線形補間にて、電流の総和が0.0となる補正係数cを算出する(ステップS78)。なお、ここでは、補正係数が0.0と、1.0の時の電流の総和を用いた線形補間によって補正係数cを求める例を説明したが、0.0及び1.0の値は一例であり、少なくとも異なる2つの補正係数を用いて電流の総和を算出し、線形補間によって補正係数cを求めればよい。
【0079】
演算部11はステップS78で求めた補正係数cを用いて各コイル42における鎖交磁束を算出する(ステップS79)。そして、演算部11はLUT12bを参照して、各コイル42の電流を読み出し(ステップS80)、電流の総和を算出する(ステップS81)。
【0080】
そして、演算部11は算出された電流の総和が所定値未満であるか否かを判定する(ステップS82)。つまり、総和が略ゼロ、つまり電流保存が満たされたか否かを判定する。所定値未満でないと判定した場合(ステップS82:NO)、処理をステップS78へ戻し、電流保存が満たされるまで補正係数cの調整を行う。電流の総和が所定値未満であると判定した場合(ステップS82:YES)、演算部11は、実施形態1と同様、上記処理で算出した各コイル42の電流に基づいて、トルクLUT12cから回転子43に作用するトルクを読み出し(ステップS83)。そして、演算部11は、算出して得た各コイル42の電流と、回転子43に生ずるトルクとを駆動回路シミュレータへ出力し(ステップS84)、処理を終える。
【0081】
このように構成されたシミュレーション装置1、シミュレーション方法及びシミュレータプログラム21の作用効果を説明する。作用効果を示すための実シミュレーションは、実施形態1同様、図2に示すような形状を有する8極48スロットの埋込磁石型の永久磁石同期モータを用いて行った。
【0082】
図14図15図16図17及び図18は、それぞれ実施形態2に係るシミュレーション装置1の作用効果を示す鎖交磁束、鎖交磁束の誤差、相電流、電流の誤差及び中性点電位のシミュレーション結果を示すグラフである。図14A図16A図18Aは、本実施形態1に係るシミュレーション装置1を用いてモータ4の挙動をシミュレートした演算結果であり、図14B図16B図18Bは、背景技術で説明した従来手法によりモータ4の挙動をシミュレートして得られた演算結果である。各図の横軸は時間を示す。図14に示すグラフの縦軸は各コイル42における鎖交磁束、図16に示すグラフの縦軸は各コイル42の電流、図18に示すグラフの縦軸は中性点電位を示す。図15に示すグラフの縦軸は、図14Bに示す鎖交磁束を真とした場合における、本実施形態1に係るシミュレーション装置1を用いて算出された鎖交磁束が有する誤差を示す。図17に示すグラフの縦軸は、図16Bに示す相電流を真とした場合における、本実施形態1に係るシミュレーション装置1を用いて算出された相電流が有する誤差を示す。
【0083】
図14図18に示すように、各コイル42の鎖交磁束、相電流、誘起電圧及び中性点電位を精度良く再現している。
【0084】
このように構成された、本実施形態1に係るシミュレーション装置1、シミュレーション方法及びシミュレータプログラム21によれば、実施形態1と同様、LUT12bの作成負荷及びモータ挙動シミュレートの演算負荷を低減することができる。
【0085】
比較的簡単な上記式(14)~(16)を用いた鎖交磁束の算出及びLUT12bの参照処理によって、高速にモータ4の挙動をシミュレートすることができる。
また、図14図18に示すように、厳密解とする磁界解析による演算結果と略同一のシミュレート結果が得られており、モータ4の挙動を精度良くシミュレートすることができる。
ただし、本実施形態2では、補正係数cを求めるために反復計算が必要である。この点、実施形態1では、このような反復計算は不要であり、優れている。
【0086】
(比較例)
ここで比較例について説明する。実施形態1で説明した電圧方程式(1)~(3)を離散化すると、下記式(17)~(19)のようになる。
【0087】
【数10】
【0088】
なお、中性点電位は実施形態1で説明した数式(6)より、三相平衡、電流保存則を考慮することにより、下記式(20)のように表すことができる。
【数11】
【0089】
つまり、上記式(17)~(19)を解くことによって、各コイル42の鎖交磁束を求め、LUT12bを参照することによって、各コイル42の電流を読み出すことによって、モータ4の挙動をシミュレートすることも考えられる。
【0090】
図19は比較例に係るシミュレーション装置1の作用効果を示す相電流のシミュレーション結果を示すグラフである。横軸は時間、縦軸は各コイル42の電流である。比較例の方法でシミュレートすると、電流に大きな振動が見られる。また、図示しないが、鎖交磁束についても微小な振動が見られる。これらの振動は、時間増分幅を小さくしても改善されなかった。
【0091】
本実施形態に係るシミュレーション方法と、比較例の方法との違いは、中性点Tnにおける電流保存則を明示的に解くか解かないかの違いにあると考えられ、両者のシミュレーション結果は中性点Tnにおける電流保存則を明示的に解く必要があることを示している。なお、ここでは実施形態2と、比較例との比較を説明したが、実施形態1との違いも同様にして理解することができる。
【0092】
実施形態1及び実施形態2に係るシミュレータプログラム21及びモータ挙動シミュレータプログラム21aによれば、単純に上記式(17)~(18)を解く場合に比べ、精度良くモータ4の挙動をシミュレートすることができる。
【0093】
(実施形態3)
実施形態3に係るシミュレーション装置1、シミュレーション方法及びシミュレータプログラム21は、ある一相が断線した場合のモータ4の挙動をシミュレートする点が実施形態1と異なるため、以下では主に上記相違点を説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態1と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0094】
図20はW相が断線したモータ4の回路構成を示す模式図である。実施形態3に係るモータ4は、スター結線された3相モータである。実施形態3では、W相コイル42wに電圧を与えるための配線が切断されており、電流Iwがゼロである場合のモータ4の挙動を考える。
【0095】
以下、演算部11の処理手順を説明する前に、W相が断線したモータ4の各コイル42に印加される電圧に基づいて、各コイル42に流れる電流及び鎖交磁束を算出する方法の理論を説明する。
【0096】
スター結線回路の電圧方程式は、下記式(21)~(23)で表すことができる。
【数12】
【0097】
中性点Tnでは、下記式(24)に示す電流保存則が成り立つ。
【数13】
【0098】
上記式(21)~(23)を加算すると、下記式(25)のようになる。
【数14】
【0099】
W相が断線しているとすると、上記式(23)により、端子Twに誘起される電圧は下記式(26)で表すことができる。
【数15】
【0100】
上記式(25)に、上記式(26)を代入して整理すると、下記式(27)のようになる。
【数16】
【0101】
断線していてもスター結線である限り上記式(24)の電流保存式は成り立つため、上記式(27)に上記式(24)を代入すると、下記式(28)のようになる。
【数17】
【0102】
電流保存則が成立しており、U相、V相を独立変数、W相を従属変数として解くことを考えると、結局、上記式(21)、(22)、(28)を解けばよいことになる。これらを離散化すると下記式(29)~(31)のようになる。
【0103】
【数18】
【0104】
上記式(29)及び(30)を解くことによって、U相コイル42u及びV相コイル42vの鎖交磁束が求まる。
【0105】
そして、U相コイル42u及びV相コイル42vの鎖交磁束、及び回転子43の機械角をキーにしてLUT12bを参照することにより、LUT12bからU相コイル42uを流れる電流を読み出すことができる。かかる処理を関数LUT_1として表現すると、下記式(32)のように表すことができる。また、下記式(33)に示すように、電流保存側により、U相コイル42uを流れる電流から、V相コイル42vに流れる電流を算出することができる。下記式(33)によって、電流保存が保証される。
【0106】
【数19】
【0107】
上記式(33)でV相コイル42vの電流が更新されるため、下記式(34)、(35)に示すように、U相コイル42u及びV相コイル42vにおける鎖交磁束を求め直す。具体的には、上記式(32)で求めたU相コイル42uの電流と、上記式(33)で求めたV相コイル42vの電流と、W相コイル42wの電流=0と、回転子43の機械角とをキーにして、LUT12bを参照し、U相コイル42u及びV相コイル42vにおける鎖交磁束を読み出す。
この処理によって、U相コイル42u及びV相コイル42vにおける鎖交磁束のセットと、U相コイル42u及びV相コイル42vの電流のセットが、LUT12bにおける鎖交磁束及び電流の関係を満たすようにすることができる。
【0108】
【数20】
【0109】
また、下記式(36)に示すように、上記(32)で求めたU相コイル42uの電流と、上記式(33)で求めたV相コイル42vの電流と、W相コイル42wの電流=0と、回転子43の機械角とをキーにして、LUT12bを参照し、W相コイル42wにおける鎖交磁束を読み出す。
【0110】
【数21】
【0111】
図21は実施形態3に係るモータ挙動シミュレーションに係る演算部11の処理手順を示すフローチャートである。以下、ステップS33の処理内容を説明する。演算部11は、駆動回路シミュレータから各コイル42に印加される電圧を取得する(ステップS91)。
【0112】
演算部11は、上記式(29)及び(31)により、U相コイル42uに印加される電圧と、前回のシミュレーションステップで算出されたU相コイル42uの電流と、U相コイル42uの電気抵抗値と、前回及び前々回のシミュレーションステップで算出された各コイルの鎖交磁束とに基づいて、U相コイル42uの鎖交磁束を算出する(ステップS92)。
【0113】
演算部11は、上記式(30)及び(31)により、V相コイル42vに印加される電圧と、前回のシミュレーションステップで算出されたV相コイル42vの電流と、V相コイル42vの電気抵抗値と、前回及び前々回のシミュレーションステップで算出された各コイルの鎖交磁束とに基づいて、V相コイル42vの鎖交磁束を算出する(ステップS93)。
【0114】
演算部11は、U相コイル42u及びV相コイル42vの鎖交磁束、並びに回転子43の機械角をキーにして、LUT12bからU相コイル42uの電流を読み出す(ステップS94)。演算部11は、電流保存式により、V相コイル42vの電流を算出する(ステップS95)。
【0115】
演算部11は、各コイル42の電流及び回転子43の機械角をキーにして、LUT12bからU相コイル42u、V相コイル42v、W相コイル42wにおける鎖交磁束を読み出す(ステップS96)。
【0116】
以下、実施形態1のステップS58及びステップS59と同様にして、トルクLUT12cからトルクを読み出し(ステップS97)、各コイル42の電流及び回転子43に生ずるトルクを駆動回路シミュレータへ出力し(ステップS98)、処理を終える。
【0117】
図22図23図24及び図25は、それぞれ実施形態1に係るシミュレーション装置1の作用効果を示す鎖交磁束、相電流、誘起電圧及び中性点電位のシミュレーション結果を示すグラフである。図22A図23A図24A図25Aは、本実施形態1に係るシミュレーション装置1を用いてモータ4の挙動をシミュレートした演算結果であり、図22B図23B図24B図25Bは、有限要素法を用いた磁界解析によりモータ4の挙動をシミュレートして得られた演算結果である。横軸は時間を示す。図22に示すグラフの縦軸は各コイル42における鎖交磁束、図23に示すグラフの縦軸は各コイル42の電流、図24に示すグラフの縦軸は各コイル42における誘起電圧、図25に示すグラフの縦軸は中性点電位を示す。
【0118】
図22図25に示すように、各コイル42の鎖交磁束、相電流、誘起電圧及び中性点電位を精度良く再現している。
【0119】
以上の通り、本実施形態3に係るシミュレーション装置1、シミュレーション方法及びシミュレータプログラム21によれば、断線したモータ4の挙動をシミュレートすることができる。
【0120】
ここではモータ4が断線したケースを説明したが、電圧方程式より鎖交磁束を求め、電流保存則を考慮しながらLUT12bを用いて鎖交磁束及び電流を変換することにより、その他の特殊な運用状況にあるモータ4の挙動をシミュレートすることもできる。
【0121】
(実施形態4)
実施形態4に係るシミュレーション装置1、シミュレーション方法及びシミュレータプログラム21は、χ相モータの挙動をシミュレートする点が実施形態1と異なるため、以下では主に上記相違点を説明する。χは3以上の自然数である。その他の構成及び作用効果は実施形態1と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0122】
χ相のスター結線回路の電圧方程式は、下記式(37-1)~(37-χ)で表すことができる。
【0123】
【数22】
【0124】
中性点Tnでは、下記式(38)に示す電流保存則が成り立つ。また、χ相平衡時には、下記式(39)が成り立つ。
【0125】
【数23】
【0126】
上記式(37-1)~(37-χ)を加算すると、下記式(40)のようになる。
【0127】
【数24】
【0128】
上記式(38)及び(39)を考慮すると、上記式(40)は下記式(41-1)のようになる。
非平衡状態においては、上記式(38)を考慮すると、上記式(40)は下記式(41-2)のようになる。
また、中性点電位を求める他の方法として、既知の電圧が印加されている端子における電位を基準にして、当該端子からの誘起電圧を中性点電位とする方法がある。当該方法によれば、例えば、任意の端子の電位を基準にすると、中性点電位は下記式(41-3)で表される。なお、下記式(41-2)は、全ての端子の電位を基準にして求めた中性点電位の平均値と理解することができる。
【0129】
【数25】
【0130】
上記式(38)及び(39)が成り立つχ相平衡状態においては、χ変数のうち、独立変数は(χ-1)個であり、結局、上記式(37-1)~(37-χ)のうち、(χ-1)個の式を解けばよいことになる。
(χ-1)個の変数を独立変数と考え、上記式(37-1)~(37-(χ-1))を離散化すると下記式(42-1)~(42-(χ-1))のようになる。
【0131】
【数26】
【0132】
また、上記式(41-1)を離散化すると下記式(43)のようになる。
【0133】
【数27】
【0134】
上記式(42-1)~(42-(χ-1))、(43)を解くことによって、(χ-1)個のコイル42における鎖交磁束を算出することができる。
【0135】
そして、(χ-1)個のコイル42における鎖交磁束、及び回転子43の機械角をキーにしてLUT12bを参照することにより、LUT12bから(χ-1)個のコイル42を流れる電流を読み出すことができる。かかる処理を関数LUT_1として表現すると、下記式(44-1)~(44-(χ-1))のように表すことができる。
【0136】
【数28】
【0137】
残りの一相のコイル42を流れる電流は、下記式(45)で求まる。下記式(45)によって、電流保存が保証される。
【0138】
【数29】
【0139】
そして、各コイル42の電流及び回転子43の機械角をキーにしてLUT12bを参照することにより、LUT12bから上記一相のコイル42における鎖交磁束を読み出すことができる。かかる処理を関数LUT_2として表現すると、下記式(46)のように表すことができる。下記式(46)により、鎖交磁束と電流との整合性が確保される。
【0140】
【数30】
【0141】
以上の通り、本実施形態4に係るシミュレーション装置1、シミュレーション方法及びシミュレータプログラム21によれば、実施形態1同様、LUT12bの作成負荷及びモータ挙動シミュレートの演算負荷を低減することができ、χ相モータの挙動をシミュレートすることができる。
なお、χ相モータについても、実施形態3に係る断線時のシミュレーション方法を適用し、断線しているχ相モータの挙動をシミュレートすることができる。
【0142】
(実施形態5)
実施形態5に係るシミュレーション装置1、シミュレーション方法及びシミュレータプログラム21は、シミュレーション対象である電磁回路装置の回路構成が実施形態1と異なるため、以下では主に上記相違点を説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態1と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0143】
図26は、電磁回路装置504の回路構成を示す模式図である。電磁回路装置504は、界磁束を発生させる、スター結線された第1U相コイル542u1、第1V相コイル542v1及び第1W相コイル542w1を有する第1スター結線回路と、スター結線された第2U相コイル542u2、第2V相コイル542v2及び第2W相コイル542w2を有する第2スター結線回路と、第1スター結線回路及び第2スター結線回路を接続する電気抵抗器544とを備える。図26中、Tn1は第1スター結線回路の中性点であり、Tn2は第2スター結線回路の中性点である。電気抵抗器544の一端部は第1スター結線回路の中性点Tn1に接続され、電気抵抗器544の他端部は第2スター結線回路の中性点Tn2に接続されている。
Tu1,Tv1,Tw1は、第1U相コイル542u1、第1V相コイル542v1及び第1W相コイル542w1に電圧が印加される端子である。
Tu2,Tv2,Tw2は、第2U相コイル542u2、第2V相コイル542v2及び第2W相コイル542w2に電圧が印加される端子である。
以下、第1U相コイル542u1、第1V相コイル542v1、第1W相コイル542w1、第2U相コイル542u2、第2V相コイル542v2及び第2W相コイル542w2を総括して、適宜、コイル542と呼ぶ。
【0144】
実施形態5におけるLUT12bは、実施形態1と同様の構成であり、各コイル542に流れる電流と、回転子43の機械角と、各コイル542における鎖交磁束とを対応付けて格納している。LUT12bの作成方法も実施形態1と同様である。
【0145】
各コイル542に印加される電圧に基づいて、各コイル542に流れる電流及び鎖交磁束を算出する方法の理論を説明する。
【0146】
図26に示すような第1スター結線回路及び第2スター結線回路の電圧方程式は、下記式(47)~(53)で表すことができる。また中性点Tn1,Tn2では、下記式(54)、(55)に示す電流保存則が成り立つ。
【0147】
【数31】
【0148】
上記式(47)~(49)を加算すると、下記式(56)のようになる。同様に、上記式(50)~(52)を加算すると、下記式(57)のようになる。
【数32】
【0149】
上記式(53)を考慮すると、上記式(54)は下記式(58)のようになる。また、上記式(53)を考慮すると、上記式(55)は下記式(59)のようになる。
【数33】
【0150】
上記式(58)を上記式(56)に代入して整理すると、下記式(60)のようになる。また、上記式(59)を上記式(57)に代入して整理すると、下記式(61)のようになる。
【数34】
【0151】
上記式(58)及び(59)が成り立つため、6変数のうち、独立変数は4つであり、結局、上記式(47)、(48)、(50)及び(51)を解けばよいことになる。
第1スター結線回路及び第2スター結線回路のU相及びV相の変数を独立変数と考え、上記式(47)、(48)、(50)及び(51)を離散化すると下記式(62)~(65)のようになる。なお、変数nは、例えば自然数であり、シミュレーションステップを示す。
【数35】
【0152】
また、上記式(53)を離散化すると下記式(66)のようになる。
【数36】
【0153】
更に、上記式(60)、(61)を離散化すると下記式(67)、(68)のようになる。
【数37】
【0154】
上記式(67)を解くことによって、第1スター結線回路の中性点電位を求め、上記式(62)及び(63)を解くことによって、第1スター結線回路の第1U相コイル542u1及び第1V相コイル542v1の鎖交磁束が求まる。同様に、上記式(68)を解くことによって、第2スター結線回路の中性点電位を求め、上記式(64)及び(65)を解くことによって、第2スター結線回路の第2U相コイル542u2及び第2V相コイル542v2の鎖交磁束が求まる。
なお、上記式(62)~(65)では、前回のシミュレーションステップ(第n-1ステップ)のU相及びV相の電圧を用いる例を示しているが、今回のシミュレーションステップ(第nステップ)のU相及びV相の電圧を用いて、第1U相コイル542u1及び第1V相コイル542v1の鎖交磁束、並びに第2U相コイル542u2及び第2V相コイル542v2の鎖交磁束を求めてもよい。
【0155】

そして、第1U相コイル542u1及び第1V相コイル542v1の鎖交磁束、第2U相コイル542u2及び第2V相コイル542v2の鎖交磁束、並びに回転子43の機械角をキーにしてLUT12bを参照することにより、LUT12bから第1U相コイル542u1及び第1V相コイル542v1、並びに第2U相コイル542u2及び第2V相コイル542v2を流れる電流を読み出すことができる。かかる処理を関数LUT_1として表現すると、下記式(69)のように表すことができる。
【0156】
【数38】
【0157】
次いで、上記式(66)により電気抵抗器544を流れる電流を求め、第1W相コイル542w1を流れる電流は、電流保存側により下記式(70)で求まる。同様に、第2W相コイル542w2を流れる電流は、電流保存側により下記式(71)で求まる。下記式(70)及び(71)によって、電流保存が保証される。
【0158】
【数39】
【0159】
そして、各コイル542の電流及び回転子43の機械角をキーにしてLUT12bを参照することにより、LUT12bから第1W相コイル542w1における鎖交磁束と、第2W相コイル542w2における鎖交磁束とを読み出すことができる。かかる処理を関数LUT_2として表現すると、下記式(72)のように表すことができる。下記式(72)により、鎖交磁束と電流との整合性が確保される。
【0160】
【数40】
【0161】
以上の処理により、各コイル542及び電気抵抗器544を流れる電流を算出することができる。連成解析に係る演算部11の処理手順は図6に示す通りであり、実施形態1と同様にして、電磁回路装置504の挙動をシミュレートすることができる。
【0162】
実施形態5に係るシミュレータプログラム21によれば、実施形態1同様、LUT12bの作成負荷及びモータ挙動シミュレートの演算負荷を低減することができ、図26に示す電磁回路装置504の挙動をシミュレートすることができる。
なお、図26に示す電磁回路装置504についても、実施形態3に係る断線時のシミュレーション方法を適用し、断線している電磁回路装置504の挙動をシミュレートすることができる。
また、第1スター結線回路及び第2スター結線回路を任意のχ相回路とするモータについても、同様にしてその挙動をシミュレートすることができる。
【0163】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0164】
1 シミュレーション装置
2 記録媒体
3 サーバコンピュータ
4 モータ
11 演算部
12 記憶部
12a 解析モデル
12b LUT
12c トルクLUT
13 入力装置
14 出力装置
15 通信インタフェース
41 固定子
42 コイル
42u U相コイル
42v V相コイル
42w W相コイル
43 回転子
Tn 中性点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26