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特開2022-29295樹脂成形システム、成形条件算出装置、樹脂成形方法および樹脂成形プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029295
(43)【公開日】2022-02-17
(54)【発明の名称】樹脂成形システム、成形条件算出装置、樹脂成形方法および樹脂成形プログラム
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20220209BHJP
   B29C 45/77 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
B29C45/76
B29C45/77
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020132564
(22)【出願日】2020-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】514301727
【氏名又は名称】株式会社ケミトックス
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】神谷 裕二
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AM23
4F206AR03
4F206AR082
4F206AR11
4F206JA07
4F206JL09
4F206JM04
4F206JM05
4F206JP17
4F206JP30
(57)【要約】      (修正有)
【課題】任意の仕様の樹脂成形物の成形条件をより効率的に得る、樹脂成形システム、成形条件算出装置、樹脂成形方法および樹脂成形プログラムの提供。
【解決手段】樹脂成形装置12は、加熱溶解した樹脂を金型のキャビティに射出注入し冷却することにより樹脂成形物を成形する。成形条件算出装置14は、成形条件設定値の一部を含む入力データと、入力データ以外の成形条件設定値を含む出力データとのセットを教師データとして用いてニューラルネットワークに学習させる学習部140と、学習済みニューラルネットワーク142に対して今回成形物の入力データを入力し、当該今回成形物に対応する出力データを算出する算出部144とを備える。入力データは、樹脂成形物の寸法と、樹脂成形物の材料名と、樹脂の加熱時の温度条件とを含み、出力データは、キャビティへの樹脂の注入条件、樹脂の充填量、樹脂の注入後の冷却時間とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱溶解した樹脂を金型のキャビティに射出注入し冷却することにより樹脂成形物を成形する樹脂成形装置と、前記樹脂成形装置における成形条件設定値を算出する成形条件算出装置と、を備える樹脂成形システムであって、
前記成形条件算出装置は、
前記成形条件設定値の一部を含む入力データと前記入力データ以外の前記成形条件設定値を含む出力データとのセットを教師データとして用いてニューラルネットワークに学習させる学習部と、
学習済みの前記ニューラルネットワークに対して今回成形物の入力データを入力し、当該今回成形物に対応する出力データを算出する算出部と、を備え、
前記入力データは、前記樹脂成形物の寸法と、前記樹脂成形物の材料名と、前記樹脂の加熱時の温度条件とを含み、
前記出力データは、前記キャビティへの前記樹脂の注入条件、前記樹脂の充填量、前記樹脂の注入後の冷却時間とを含む、
ことを特徴とする樹脂成形システム。
【請求項2】
前記樹脂成形装置は、前記キャビティを形成する固定側金型および移動側金型と、前記樹脂を加熱溶解するシリンダと、前記シリンダの先端に設けられ前記シリンダと前記固定側金型とを接続するノズルと、前記シリンダ内の前記樹脂を前記キャビティ方向に押し出すスクリューと、前記シリンダ内に前記樹脂のペレットを投入するホッパーを備え、
前記入力データの前記温度条件は、前記固定側金型の温度と、前記移動側金型の温度と、前記ノズルの温度と、前記シリンダの温度と、前記ホッパーに投入される前記ペレットの乾燥温度および乾燥時間とを含む、
ことを特徴とする請求項1記載の樹脂成形システム。
【請求項3】
前記シリンダは、延在方向に沿った複数の領域毎に温度を変更可能であり、
前記入力データの前記シリンダの温度は、前記複数の領域毎に設定されている、
ことを特徴とする請求項2記載の樹脂成形システム。
【請求項4】
前記入力データは、前記樹脂成形物の成形数と、前記樹脂成形装置の種類と、前記キャビティ内への前記樹脂の注入口であるゲートの位置とを更に含む、
ことを特徴とする請求項2または3記載の樹脂成形システム。
【請求項5】
前記出力データの前記注入条件は、前記キャビティへの前記樹脂の射出圧設定値と、前記樹脂の射出速度と、前記樹脂の射出時間と、前記樹脂の注入中における前記スクリューの回転数と、前記樹脂の注入後における前記スクリューの保持圧である背圧とを含む、
ことを特徴とする請求項2から4のいずれか1項記載の樹脂成形システム。
【請求項6】
前記樹脂の射出圧は、射出開始からの経過時間に基づいて複数段に変更可能であり、
前記出力データの前記射出圧設定値は、前記射出開始からの経過時間に基づいて複数段に設定されており、
前記出力データは、前記射出圧設定値の切り替えタイミングを前記スクリューの位置によって規定する保圧切替位置を更に含む、
ことを特徴とする請求項5項記載の樹脂成形システム。
【請求項7】
前記樹脂成形物は、樹脂材料評価試験に用いるテストサンプルである、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の樹脂成形システム。
【請求項8】
加熱溶解した樹脂を金型のキャビティに射出注入し冷却することにより樹脂成形物を成形する樹脂成形装置における成形条件設定値を算出する成形条件算出装置であって、
前記成形条件設定値の一部を含む入力データと前記入力データ以外の前記成形条件設定値を含む出力データとのセットを教師データとして用いてニューラルネットワークに学習させる学習部と、
学習済みの前記ニューラルネットワークに対して今回成形物の入力データを入力し、当該今回成形物に対応する出力データを算出する算出部と、を備え、
前記入力データは、前記樹脂成形物の寸法と、前記樹脂成形物の材料名と、前記樹脂の加熱時の温度条件とを含み、
前記出力データは、前記キャビティへの前記樹脂の注入条件、前記樹脂の充填量、前記樹脂の注入後の冷却時間とを含む、
ことを特徴とする成形条件算出装置。
【請求項9】
加熱溶解した樹脂を金型のキャビティに射出注入し冷却することにより樹脂成形物を成形する樹脂成形装置を用いた樹脂成形方法であって、
前記成形条件設定値の一部を含む入力データと前記入力データ以外の前記成形条件設定値を含む出力データとのセットを教師データとして用いてニューラルネットワークに学習させる学習ステップと、
学習済みの前記ニューラルネットワークに対して今回成形物の入力データを入力し、当該今回成形物に対応する出力データを算出する算出ステップと、を含み、
前記入力データは、前記樹脂成形物の寸法と、前記樹脂成形物の材料名と、前記樹脂の加熱時の温度条件とを含み、
前記出力データは、前記キャビティへの前記樹脂の注入条件、前記樹脂の充填量、前記樹脂の注入後の冷却時間とを含む、
ことを特徴とする樹脂成形方法。
【請求項10】
前記今回成形物に対応する出力データに基づいて前記樹脂成形装置を制御し、前記今回成形物を成形する装置制御ステップを更に含む、
ことを特徴とする請求項8記載の樹脂成形方法。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の樹脂成形方法をコンピュータに実行させることを特徴とする樹脂成形プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形システム、成形条件算出装置、樹脂成形方法および樹脂成形プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形物の成形方法の一例として、加熱溶解した樹脂を金型に注入し冷却する射出成形方式の樹脂成形装置(以下単に「樹脂成形装置」という)が知られている。
例えば、下記特許文献1は、樹脂成形装置における樹脂温度検出装置であり、樹脂流路を有するノズル部での樹脂流路の内径が最小となる部分である先端部の近傍である感熱位置に温度センサの感熱部が配置されることにより、金型へ射出される樹脂の温度を高精度に検出することを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-098630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂成形装置では、移動側金型と固定側金型を嵌合させてキャビティ(空洞部)を形成する型締め工程、シリンダ内のスクリューを前進させてスクリュー前方に溜まった溶解樹脂をキャビティ内に射出する射出工程、圧力を所定時間保つ保圧工程、金型内に充填された樹脂が冷却されて固まるまで冷却する冷却工程、移動側金型を固定側金型に対して移動させて嵌合を解除する型開き工程、金型から樹脂成形物を取り出す取り出し工程等が実施される。
この時、必要とする成形品を得るために樹脂成形装置のシリンダ温度や射出速度、金型温度などの各種パラメータ(以下「成形条件」という)が設定されるが、その組み合わせは無数に存在する。
【0005】
一般に、要求される仕様(外観や寸法、機械的物性等)を有する樹脂成形物を得るために最適な成形条件は、習熟した技術と経験を有する技術者によって設定されている。より詳細には、技術者が成形の試し打ちを繰り返し、ヒケ、ウェルドライン、ボイド、反りおよびオーバーパッキングなどの成形の不具合をできる限り抑制可能な成形条件を選定している。一方で、試し打ちを行う度にコストがかさむため、試し打ちの回数はできる限り少なくする事が望まれる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、任意の仕様の樹脂成形物の成形条件をより効率的に得ることができる樹脂成形システム、成形条件算出装置、樹脂成形方法および樹脂成形プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明にかかる樹脂成形システムは、加熱溶解した樹脂を金型のキャビティに射出注入し冷却することにより樹脂成形物を成形する樹脂成形装置と、前記樹脂成形装置における成形条件設定値を算出する成形条件算出装置と、を備える樹脂成形システムであって、前記成形条件算出装置は、前記成形条件設定値の一部を含む入力データと前記入力データ以外の前記成形条件設定値を含む出力データとのセットを教師データとして用いてニューラルネットワークに学習させる学習部と、学習済みの前記ニューラルネットワークに対して今回成形物の入力データを入力し、当該今回成形物に対応する出力データを算出する算出部と、を備え、前記入力データは、前記樹脂成形物の寸法と、前記樹脂成形物の材料名と、前記樹脂の加熱時の温度条件とを含み、前記出力データは、前記キャビティへの前記樹脂の注入条件、前記樹脂の充填量、前記樹脂の注入後の冷却時間とを含む、ことを特徴とする。
また、本発明にかかる樹脂成形システムは、前記樹脂成形装置は、前記キャビティを形成する固定側金型および移動側金型と、前記樹脂を加熱溶解するシリンダと、前記シリンダの先端に設けられ前記シリンダと前記固定側金型とを接続するノズルと、前記シリンダ内の前記樹脂を前記キャビティ方向に押し出すスクリューと、前記シリンダ内に前記樹脂のペレットを投入するホッパーを備え、前記入力データの前記温度条件は、前記固定側金型の温度と、前記移動側金型の温度と、前記ノズルの温度と、前記シリンダの温度と、前記ホッパーに投入される前記ペレットの乾燥温度および乾燥時間とを含む、ことを特徴とする。
また、本発明にかかる樹脂成形システムは、前記シリンダは、延在方向に沿った複数の領域毎に温度を変更可能であり、前記入力データの前記シリンダの温度は、前記複数の領域毎に設定されている、ことを特徴とする。
また、本発明にかかる樹脂成形システムは、前記入力データは、前記樹脂成形物の成形数と、前記樹脂成形装置の種類と、前記キャビティ内への前記樹脂の注入口であるゲートの位置とを更に含む、ことを特徴とする。
また、本発明にかかる樹脂成形システムは、前記出力データの前記注入条件は、前記キャビティへの前記樹脂の射出圧設定値と、前記樹脂の射出速度と、前記樹脂の射出時間と、前記樹脂の注入中における前記スクリューの回転数と、前記樹脂の注入後における前記スクリューの保持圧である背圧とを含む、ことを特徴とする。
また、本発明にかかる樹脂成形システムは、前記樹脂の射出圧は、射出開始からの経過時間に基づいて複数段に変更可能であり、前記出力データの前記射出圧設定値は、前記射出開始からの経過時間に基づいて複数段に設定されており、前記出力データは、前記射出圧設定値の切り替えタイミングを前記スクリューの位置によって規定する保圧切替位置を更に含む、ことを特徴とする。
また、本発明にかかる成形条件算出装置は、加熱溶解した樹脂を金型のキャビティに射出注入し冷却することにより樹脂成形物を成形する樹脂成形装置における成形条件設定値を算出する成形条件算出装置であって、前記成形条件設定値の一部を含む入力データと前記入力データ以外の前記成形条件設定値を含む出力データとのセットを教師データとして用いてニューラルネットワークに学習させる学習部と、学習済みの前記ニューラルネットワークに対して今回成形物の入力データを入力し、当該今回成形物に対応する出力データを算出する算出部と、を備え、前記入力データは、前記樹脂成形物の寸法と、前記樹脂成形物の材料名と、前記樹脂の加熱時の温度条件とを含み、前記出力データは、前記キャビティへの前記樹脂の注入条件、前記樹脂の充填量、前記樹脂の注入後の冷却時間とを含む、
ことを特徴とする。
また、本発明にかかる樹脂成形方法は、加熱溶解した樹脂を金型のキャビティに射出注入し冷却することにより樹脂成形物を成形する樹脂成形装置を用いた樹脂成形方法であって、前記成形条件設定値の一部を含む入力データと前記入力データ以外の前記成形条件設定値を含む出力データとのセットを教師データとして用いてニューラルネットワークに学習させる学習ステップと、学習済みの前記ニューラルネットワークに対して今回成形物の入力データを入力し、当該今回成形物に対応する出力データを算出する算出ステップと、を含み、前記入力データは、前記樹脂成形物の寸法と、前記樹脂成形物の材料名と、前記樹脂の加熱時の温度条件とを含み、前記出力データは、前記キャビティへの前記樹脂の注入条件、前記樹脂の充填量、前記樹脂の注入後の冷却時間とを含む、ことを特徴とする。
また、本発明にかかる樹脂成形方法は、前記今回成形物に対応する出力データに基づいて前記樹脂成形装置を制御し、前記今回成形物を成形する装置制御ステップを更に含む、ことを特徴とする。
また、本発明にかかる樹脂成形プログラムは、上記記載の樹脂成形方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、学習済みニューラルネットワークを用いて成形条件設定値(より詳細には出力データに含まれる成形条件設定値)を算出するので、より短期間で適切な成形条件設定値を得ることができ、樹脂成形作業の効率を向上させ、コストを低減する上で有利となる。
また、本発明では、入力データとして樹脂成形物の材料名のみを用いており、当該材料の物性や特性の情報を用いることなく樹脂成形物の成形条件を得ることができ、樹脂成形作業の効率を向上させる上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】樹脂成形システムの構成を示すブロック図である。
図2】樹脂成形装置の構成を示す図である。
図3】入力データおよび出力データのデータ構成を示す図である。
図4】樹脂形成物の形状を示す図である。
図5】ゲート位置の種類を示す図である。
図6】射出工程における射出圧の変化を示す図である。
図7】本実施の形態で採用したニューラルネットワークを模式的に示す図である。
図8】各ノードの動作を模式的に示す図である。
図9】活性化関数を示すグラフである。
図10】学習部での学習結果の評価結果を示す第1の表である。
図11】学習部での学習結果の評価結果を示す第2の表である。
図12】実際値と予測値との相関を示すグラフである。
図13】本発明と比較例との予測結果の正解率を示す表である。
図14】実際値と予測値との差分の二乗誤差の総和を示すグラフである。
図15】実際値と予測値との差分の二乗誤差の総和を示すグラフである。
図16】変数xの変化量Δxを示すグラフである。
図17】変数xの変化量Δxを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる樹脂成形システム、成形条件算出装置、樹脂成形方法および樹脂成形プログラムの好適な実施の形態を詳細に説明する。
本実施の形態では、樹脂成形装置を用いて樹脂(プラスチック)材料評価試験に用いるテストサンプルを主に成形する場合について説明する。
【0011】
図1は、実施の形態にかかる樹脂成形システムの構成を示すブロック図である。
実施の形態にかかる樹脂成形システム10は、樹脂成形装置12および成形条件算出装置14を備える。
樹脂成形装置12は、加熱溶解した樹脂を金型のキャビティに射出注入し冷却することにより樹脂成形物を成形する。また、成形条件算出装置14は、樹脂成形装置12における成形条件設定値を算出する。なお、図1には成形条件算出装置14の機能的構成を示している。
【0012】
図2は、樹脂成形装置の構成を示す図である。
図2に示すように、樹脂成形装置12は、金型120,122と、射出ユニット124と、型締めユニット126とを備える。
【0013】
金型120,122は、樹脂材料を樹脂成形物の形状に成形するために射出注入する金属製の型である。金型120,122は、固定側金型120と移動側金型122とを有し、これら2つの金型120,122が嵌合することによって形成されるキャビティ(空洞部)1202に樹脂材料が注入されることによって樹脂材料の成形がなされる。
金型120,122は、樹脂成形物の形状に合わせて交換が可能である。
金型120,122には、図示しない加熱部(加熱流体流路やヒーター等)が設けられており、それぞれ個別に温度管理されている。
【0014】
固定側金型120は、図示しない支持機構により移動側金型122に対して移動不能に支持されている。固定側金型120は、一方の表面120Aに射出ユニット124が位置し、他方の表面120Bにキャビティ1202が位置する。表面120A-120B間は、ゲート1204によって連通されている。ゲート1204は、射出ユニット124から供給される樹脂材料の流路である。
【0015】
移動側金型122は、型締めユニット126により固定側金型120に対して移動可能に支持されている。移動側金型122は、一方の表面122Aに型締めユニット126が位置し、他方の表面122Bにキャビティ1202が位置する。表面122A-122B間には、インジェクタピン1206が貫通している。インジェクタピン1206は、インジェクタピン駆動機構1208により他方の表面122Bから突出するように移動可能であり、成形後の樹脂成形物はインジェクタピン1206から押されることにより金型120,122から外れるように構成されている。
【0016】
型締めユニット126は、アーム1260とアクチュエータ1262とを備える。
アーム1260は、移動側金型122を支持するとともに、複数のヒンジを介してアクチュエータ1262と接続されている。
アクチュエータ1262は、アーム1260を固定側金型120と反対側(紙面左側)に移動させることにより、移動側金型122と固定側金型120との嵌合を解除する。
【0017】
射出ユニット124は、シリンダ1240と、ノズル1242と、ホッパー1244と、スクリュー1246と、モータ1248とを備える。
シリンダ1240は、円筒形の部材であり、内部にスクリュー1246を収容する。シリンダ1240の周囲にはヒーター1249が設けられており、シリンダ1240内の樹脂材料を加熱可能となっている。
【0018】
本実施の形態では、ヒーター1249はシリンダ1240の延在方向に間隔を置いて複数設けられており、複数のヒーター1249の温度を調整することによってシリンダ1240の部位(例えばノズル1242に近い順に前部C1、中部C2、後部C3)毎に温度を調整可能としている。すなわち、シリンダ1240は、延在方向に沿った複数の領域毎に温度を変更可能である。
【0019】
ノズル1242は、シリンダ1240の先端に位置し、シリンダ1240より直径が小さい部分である。ノズル1242の先端は開口1242Aとなっており、この開口1242Aが固定側金型120のゲート1204に接続する。なお、図示は省略するが、ノズル1242の周囲にもヒーター1249が設けられており、ノズル1242部分の温度調整が可能となっている。
【0020】
ホッパー1244は、樹脂材料のペレットPが投入される投入口である。ホッパー1244は、シリンダ1240のノズル1242から離れた位置にある開口1240Aに接続されており、ホッパー1244内に投入されたペレットPは開口1240Aからシリンダ1240内に投入される。シリンダ1240内に投入されたペレットPは、シリンダ1240内の熱により溶解し、溶解樹脂Mとなる。
なお、多くの場合、ペレットPは大気中の水分を吸湿しており、この状態で射出成形加工すると、樹脂材料の種類によっては加水分解を発生したり、物性が低下したりする場合がある。そこで、ペレットPを乾燥炉で予備乾燥させてからホッパー1244に投入している。
【0021】
スクリュー1246は、シリンダ1240の延在方向に延びるスクリュー軸1246Aと、スクリュー軸1246Aの周囲に位置するブレード1246Bを備える。
モータ1248は、スクリュー1246(より詳細にはスクリュー軸1246A)を回転させるとともに、シリンダ1240の延在方向に沿ってスクリュー1246を移動させる。モータ1248によってスクリュー1246を回転および移動させることによって、シリンダ1240内の溶解樹脂Mを固定側金型120内に注入することが可能となる。
【0022】
すなわち、樹脂成形装置12は、キャビティ1202を形成する固定側金型120および移動側金型122と、樹脂を加熱溶解するシリンダ1240と、シリンダ1240の先端に設けられシリンダ1240と固定側金型120とを接続するノズル1242と、シリンダ1240内の樹脂をキャビティ1202方向に押し出すスクリュー1246と、シリンダ1240内に樹脂のペレットPを投入するホッパー1244とを備える。
【0023】
図2を用いて、樹脂成形装置12による樹脂成形手順について説明する。
図2Aに示す初期状態では、金型120,122は嵌合し、キャビティ1202は空となっている。ホッパー1244からシリンダ1240内に投入されたペレットPは、シリンダ1240内の熱により溶解し、溶解樹脂Mとしてシリンダ1240の先端部分に貯留している。
次に、図2Bに示すように、スクリュー1246を回転させながらノズル1242方向に移動させることにより、所定量の溶解樹脂Mを金型120,122内のキャビティ1202に注入する。溶解樹脂Mを注入後、所定の冷却時間経過すると、溶解樹脂Mが硬化し樹脂成形物Fが成形される。
つづいて、図2Cに示すように、型締めユニット126のアクチュエータ1262を作動させ、移動側金型122を移動させることにより、移動側金型122と固定側金型120との嵌合を解除する。その後、インジェクタピン駆動機構1208によりインジェクタピン1206をキャビティ1202側に押し出すことにより、移動側金型122から樹脂成形物Fを取り外す。
【0024】
図1の説明に戻り、成形条件算出装置14は、CPU、制御プログラムなどを格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、各種データを書き換え可能に保持するEEPROM、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部などを含んで構成されるコンピュータである。
【0025】
成形条件算出装置14は、上記CPUが上記制御プログラムを実行することにより、学習部140および算出部144として機能する。
なお、図1では成形条件算出装置14を1台の装置として図示しているが、学習部140および算出部144を別個のコンピュータに配置してもよい。
【0026】
学習部140は、樹脂成形装置12における成形条件設定値の一部を含む入力データと、入力データ以外の成形条件設定値を含む出力データとのセットを教師データとして用いてニューラルネットワークに学習させる。成形条件設定値とは、樹脂成形装置12のシリンダ温度や射出速度、金型温度などの各種パラメータの設定値であり、具体的な項目は詳細する。
教師データは、例えば過去に作成した樹脂成形物Fの成形条件設定値のデータを用いる。
学習部140で学習を行ったニューラルネットワークは、学習済みニューラルネットワーク142として上記ROM等の記憶装置に記憶される。
【0027】
算出部144は、学習済みのニューラルネットワーク(学習済みニューラルネットワーク142)に対して今回成形物の入力データを入力し、当該今回成形物に対応する出力データを算出する。今回成形物とは、例えば新規に作成を依頼された樹脂成形物であり、出力データに対応する成形条件設定値が未知の樹脂成形物である。
算出部144で今回成形物に対応する出力データが算出されると、例えば作業者が当該出力データに基づいて樹脂成形装置12に対して成形条件の設定を行い、今回成形物を成形する。
【0028】
なお、算出部144で算出された今回成形物に対応する出力データに基づいて樹脂成形装置12を制御する装置制御部を更に設けてもよい。すなわち、装置制御部は、上記作業者による樹脂成形装置12への成形条件の設定に代えて、自動で樹脂成形装置12への成形条件の設定を行い、今回成形物の成形を行わせる。装置制御部は、例えば成形条件算出装置14を構成するコンピュータの一機能として設けてもよいし、樹脂成形装置12の一機能として設けてもよい。
【0029】
つぎに、成形条件算出装置14における学習処理の詳細について説明する。
図3は、入力データおよび出力データのデータ構成を示す図である。
本実施の形態では、入力データとして、樹脂成形物Fの厚さDi1、樹脂成形物Fの材料名Di2、成形機種(樹脂成形装置12の種類)Di3、固定側金型温度Di4、移動側金型温度Di5、ノズル温度Di6、シリンダ前部温度Di7、シリンダ中部温度Di8、シリンダ後部温度Di9、ゲート位置Di10、樹脂成形物FのサイズDi11、成形数Di12、材料乾燥温度Di13、材料乾燥時間Di14を入力する。
【0030】
また、本実施の形態では、出力データとして、樹脂材料の一次射出圧設定値Do1、二次射出圧設定値Do2、三次射出圧設定値Do3、射出速度Do4、材料充填量Do5、保圧切替位置Do6、背圧Do7、スクリュー回転数Do8、射出時間Do9、冷却時間Do10を出力する。
【0031】
以下、入力データDi1~Di14および出力データDo1~Do10の詳細について説明する。
入力データDi1~Di14は、一般に樹脂成形物Fの製造依頼者(樹脂成形物Fの製造者の顧客)が指定するデータである。
入力データDi1~Di14の入力は、例えば入力データDi1~Di14の各項目のリストに対して今回指定する数値を入力することによって行う。
【0032】
樹脂成形物Fの厚さDi1:
樹脂成形物Fは、例えば図4に示すように板状に形成される。樹脂成形物Fの厚さDi1は、板状の樹脂成形物Fの一方の表面から他方の表面までの距離であり、本実施の形態では単位をmmとし、樹脂成形物Fの厚さに対応する数値を入力する。
【0033】
なお、図4には各種性能試験用のテストサンプルの形状の一例を図示している。
図4Aに示すのは燃焼性試験用のバーサンプルであり、底面が125mm×13mmの長方形を呈している。図4Aに示すバーサンプルは、燃焼性試験((UL94等)の他、大電流アーク発火試験(HAI)、曲げ強さ試験(FS)、シャルピー衝撃試験(CI)などでも使用される。
図4Bに示すのは、直径100mmの円板型テストサンプルであり、絶縁破壊試験
(DS)、体積抵抗/表面抵抗試験(VR/SR)、耐トラッキング性試験(CTI)などで用いられる。
図4Cに示すのは、引張試験や引張衝撃試験等に用いられるダンベル型サンプルであり、中央部の幅が両端部の幅と比較して小さくなっている。
【0034】
樹脂成形物Fの材料名Di2:
樹脂成形物Fの材料名Di2は、ABS(Acrylonitrile butadiene styrene)、PPS(Poly Phenylene Sulfide)、PP(polypropylene)など、樹脂成形物Fを形成する際に用いる材料の化学名称を示す。
本実施の形態では、入力データの材料名Di2の項目は29種類の材料名のリストとなっており、リスト中、樹脂成形物Fに用いる材料の欄には1を、それ以外の材料の欄には0を入力する。
【0035】
成形機種(樹脂成形装置12の種類)Di3:
一般に、樹脂成形物Fの製造者は、メーカーや型番が異なる複数の樹脂成形装置12を保有している。このため、複数の樹脂成形装置12のいずれを樹脂成形物Fの成形に用いるかを本項目で指定する。後述するように、出力データの一次射出圧設定値Do1等の項目は、樹脂成形装置12の最大出力(射出圧であれば最大射出圧)を基準とした割合(%)として出力されるため、成形機種の違いが重要なパラメータとなる。
本実施の形態では、成形機種Di3の項目は3種類の樹脂成形装置12の機種名のリストとなっており、リスト中、樹脂成形物Fに用いる機種の欄には1を、それ以外の機種の欄には0を入力する。
【0036】
固定側金型温度Di4、移動側金型温度Di5、ノズル温度Di6、シリンダ前部温度Di7、シリンダ中部温度Di8、シリンダ後部温度Di9:
固定側金型温度Di4は、固定側金型120の加熱温度設定値である。移動側金型温度Di5は、移動側金型122の加熱温度設定値である。ノズル温度Di6は、ノズル1242の加熱温度設定値である。シリンダ前部温度Di7は、シリンダ1240の前部C1の加熱温度設定値である。シリンダ中部温度Di8は、シリンダ1240の中部C2の加熱温度設定値である。シリンダ後部温度Di9は、シリンダ1240の後部C3の加熱温度設定値である。
これら温度条件の単位は℃であり、各項目に対して設定温度値を入力する。
【0037】
このような温度条件を入力データとして用いるのは、材料のグレード毎に好適な温度条件が指定されているためである。
上述のように、入力データである材料名Di2は、樹脂成形物Fの材料の化学名称であるが、例えば同一の化学名称を有する商品(例えばペレットP)であっても、商品毎に異なる配合でガラス補強材や添加剤などが混合されており、これらは種類の異なる材料ともいえる。これらを区別するために「グレード名称(≒商品名)」が用いられており、材料メーカーにおいても、化学名称は同一だがグレードが異なる商品を販売している。そのため、材料のグレード毎に成形時の温度条件が定められており、既製品であれば販売元メーカーから温度条件が公開されており、開発品であれば開発段階での温度の指定がなされる。
【0038】
ゲート位置Di10:
ゲート位置Di10は、キャビティ1202に対するゲート1204の位置(溶解樹脂Mの流入位置)である。
本実施の形態では、樹脂成形物Fが図4Aに示す燃焼性試験用のバーサンプルである場合に、図5A図5Gに示すようにゲート1204の位置が7種類から選択可能である。図5中の矢印は、溶解樹脂Mの流れを示している。いずれのゲート位置を選択するかは、樹脂成形物Fの用途や形状に合わせて決定される。
【0039】
図5Aでは、樹脂成形物Fの両端部にゲート1204を設けている(両端タブゲート)。
図5Bでは、樹脂成形物Fの両端部のうち一方にゲート1204を設けている(片端タブゲート)。
図5Cでは、樹脂成形物Fの両端部側方にゲート1204を設けている(両端サイドゲート)。
図5Dでは、樹脂成形物Fの両端部のうち一方の側方にゲート1204を設けている(片端サイドゲート)。
図5Eでは、樹脂成形物Fの長手方向の中央部側方にゲート1204を設けている(センターサイドゲート)。
図5Fでは、樹脂成形物Fの側面に、薄いフィルム状のゲート1204を設けている(フィルムゲート)。
図5Gでは、樹脂成形物Fの側方5箇所にゲート1204を設けている(5点サイドゲート)。
【0040】
本実施の形態では、ゲート位置Di10の項目は7種類のゲート位置のリストとなっており、リスト中、樹脂成形物Fに用いるゲート位置の欄には1を、それ以外のゲート位置の欄には0を入力する。
また、樹脂成形物Fが燃焼性試験用のバーサンプル以外である場合には、ゲート1204の位置は選択できないため、ゲート位置Di10は規定されない(全欄に0と入力される)。
【0041】
樹脂成形物FのサイズDi11:
樹脂成形物FのサイズDi11は、樹脂成形物Fの厚さ以外の寸法である。
例えば樹脂成形物Fが図4Aに示す燃焼性試験用のバーサンプルである場合にはサイズは125mm×13mmとなり、図4Bに示す円板型テストサンプルである場合にはサイズは直径100mmとなる。
本実施の形態では、樹脂成形物Fのサイズは12種類から選択可能であるものとする。このため、サイズDi11の項目は12種類の寸法のリストとなっており、リスト中、樹脂成形物Fの寸法の欄には1を、それ以外の寸法の欄には0を入力する。
【0042】
成形数Di12:
一般に、樹脂成形装置12では、同一サイズ・同一材料の樹脂成形物Fを、同時期に複数本製造する。入力データの成形数Di12の欄には、今回同時期に製造する同一サイズ・同一材料の樹脂成形物Fの数を入力する。
【0043】
材料乾燥温度Di13、材料乾燥時間Di14:
上述のように、樹脂成形材料であるペレットPは、一般的に空気中の水分を吸水している。ペレットPの吸水量が多いと、シリンダ1240の中で溶解混練している過程で樹脂が加水分解を起こしたり、射出成形した際に成形物の表面にシルバーストリークが走ったり、気泡、光沢不良、転写不良などを起こす場合がある。そこで、シリンダ1240への投入前に、乾燥装置を用いてペレットPに対して予備乾燥を行い、水分を除去している。
入力データの材料乾燥温度Di13および材料乾燥時間Di14の項目には、予備乾燥における乾燥装置の設定温度(単位は℃)および乾燥時間(単位はh(時間))を入力する。
【0044】
すなわち、本実施の形態では、入力データは、樹脂成形物Fの寸法(厚さDi1、サイズDi11)と、樹脂成形物Fの材料名(材料名Di2)と、樹脂の加熱時の温度条件とを含んでいる。温度条件は、固定側金型120の温度(固定側金型温度Di4)と、移動側金型122の温度(移動側金型温度Di5)と、ノズル1242の温度(ノズル温度Di6)と、シリンダ1240の温度と、ホッパー1244に投入されるペレットPの乾燥温度および乾燥時間(材料乾燥温度Di13、材料乾燥時間Di14)とを含んでいる。また、シリンダ1240の温度は、シリンダ1240の延在方向に沿った複数の領域(前部C1、中部C2、後部C3)毎に指定されている(シリンダ前部温度Di7、シリンダ中部温度Di8、シリンダ後部温度Di9)。
更に、本実施の形態では、入力データは、樹脂成形物Fの成形数(成形数Di12)と、樹脂成形装置12の種類(成形機種Di3)と、キャビティ1202内への樹脂の注入口であるゲート1204の位置(ゲート位置Di10)とを更に含んでいる。
【0045】
次に、出力データについて説明する。
出力データDo1~Do10は、従来は樹脂成形物Fの製造者が試し打ち等を繰り返して決定するデータであるが、本実施の形態ではニューラルネットワーク(学習済みニューラルネットワーク142)を用いて成形条件算出装置14が算出する。
【0046】
樹脂材料の一次射出圧設定値Do1、二次射出圧設定値Do2、三次射出圧設定値Do3:
一次射出圧設定値Do1、二次射出圧設定値Do2、三次射出圧設定値Do3は、キャビティ1202内に溶解樹脂Mを充填する際の圧力である。一次射出圧設定値Do1、二次射出圧設定値Do2、三次射出圧設定値Do3の単位は、本来はMPaまたはkgf/cm2であるが、本実施の形態では、樹脂成形装置12の最大射出圧力を100%とし、最大射出圧力に対する割合(例えば90%など)を指定することによって調整を行っている。したがって、本実施の形態では、一次射出圧設定値Do1、二次射出圧設定値Do2、三次射出圧設定値Do3の単位を%とする。
【0047】
本実施の形態では、図6に示すように、射出工程を3段階に分け、各段階において射出圧を変化させている。図6において、射出開始時刻T0から切替時刻T1までが一次射出圧、切替時刻T1から切替時刻T2までが二次射出圧、切替時刻T2から射出終了時刻T3までが三次射出圧となる。
また、図6における射出開始時刻T0から射出終了時刻T3までが後述する射出時間Do9に対応し、切替時刻T1が後述する保圧切替位置Do6に対応する。
射出開始時刻T0から切替時刻T1(一次射出圧時)にキャビティ1202内の大部分に溶解樹脂Mが充填される。切替時刻T1以降(二次射出圧時および三次射出圧時)は保圧工程となり、キャビティ1202内の残りの空間に溶解樹脂Mを更に押し込んで100%充填させるとともに、その後も圧力を与え続けることにより樹脂が冷えて縮む分の材料を補給する。
【0048】
射出速度Do4:
射出速度Do4は、キャビティ1202内に溶解樹脂Mを充填する際のスピードである。射出速度Do4の単位は、本来はmm/sであるが、上記と同様に本実施の形態では樹脂成形装置12の最大射出速度を100%とし、最大射出速度に対する割合(例えば90%など)を指定することによって調整を行っている。したがって、本実施の形態では、射出速度Do4の単位を%とする。
【0049】
材料充填量Do5:
材料充填量Do5は、射出に必要な溶解樹脂Mの体積(製品容量)である。本実施の形態では、スクリュー1246の先端部Tの基準位置からの移動距離(単位はmm)で材料充填量Do5を表す。
【0050】
保圧切替位置Do6:
保圧切替位置Do6は、上述した保圧工程への切替タイミングを規定する。本実施の形態では、スクリュー1246の先端部Tの基準位置からの移動距離(単位はmm)で保圧切替位置Do6を表す。
【0051】
背圧Do7:
背圧Do7は、溶解樹脂Mの計量時にスクリュー1246が後退する際の圧力である。背圧Do7の単位は、本来はMPaまたはkgf/cm2であるが、本実施の形態では、樹脂成形装置12の最大背圧を100%とし、最大背圧に対する割合(例えば90%など)を指定することによって調整を行っている。したがって、本実施の形態では、背圧Do7の単位を%とする。
【0052】
スクリュー回転数Do8は、溶解樹脂Mを混錬するためのスクリュー1246の回転数である。スクリュー回転数Do8の単位は、本来はrpmであるが、本実施の形態では、樹脂成形装置12の最大スクリュー回転数を100%とし、最大スクリュー回転数に対する割合(例えば90%など)を指定することによって調整を行っている。したがって、本実施の形態では、スクリュー回転数Do8の単位を%とする。
【0053】
射出時間Do9:
射出時間Do9は、溶解樹脂Mをキャビティ1202内に充填(射出)する期間であり、単位は秒(sec)である。
【0054】
冷却時間Do10:
冷却時間Do10は、溶解樹脂Mをキャビティ1202内に充填(射出)完了した後、金型120,122内に留めて冷却する期間であり、単位は秒(sec)である。
【0055】
すなわち、本実施の形態では、出力データは、キャビティ1202への樹脂の注入条件、樹脂の充填量(材料充填量Do5)、樹脂の注入後の冷却時間(冷却時間Do10)を含んでいる。樹脂の注入条件は、キャビティ1202への樹脂の射出圧設定値と、樹脂の射出速度(射出速度Do4)と、樹脂の射出時間(射出時間Do9)と、樹脂の注入中におけるスクリュー1246の回転数(スクリュー回転数Do8)と、樹脂の注入後におけるスクリュー1246の保持圧である背圧(背圧Do7)とを含む。また、樹脂の射出圧は、射出開始からの経過時間に基づいて複数段に変更可能であり、上記射出圧設定値は、射出開始からの経過時間に基づいて複数段(一次射出圧設定値Do1、二次射出圧設定値Do2、三次射出圧設定値Do3)に設定されており、出力データは、射出圧設定値の切り替えタイミングをスクリュー1246の位置によって規定する保圧切替位置(保圧切替位置Do6)を更に含む。
【0056】
なお、上述した入力データDiおよび出力データDoを構成するパラメータの種類は一例であり、樹脂成形装置12の構成や樹脂成形物Fの性質などによって入力データDiおよび出力データDoを構成するパラメータの種類を変更してもよい。例えば、実施の形態では、シリンダ1240を前部C1、中部C2、後部C3の3つの領域に分割し、それぞれに温度を設定したが、前部および後部の2つの領域に分割したり、4つ以上の領域に分割したりしてもよい。
【0057】
図7は、本実施の形態で採用したニューラルネットワークを模式的に示す図である。
本実施の形態では、10個の出力データDo1~Do10のそれぞれに対応して図7に示すようなニューラルネットワークNを設定した。なお、図7ではバイアスの図示を省略している。
ニューラルネットワークNは、複数のノード(パーセプトロン)で構成されている。本実施の形態では、ニューラルネットワークNの隠れ層を2段に設定し、1段目の隠れ層(隠れ層1)のノード数を20、2段目の隠れ層(隠れ層2)のノード数を7とした。すなわち、ニューラルネットワークNは、複数の中間層によりディープラーニングを行う。各隠れ層のノード数は、演算結果の集約性と計算時間の兼ね合いから決定したものである。
【0058】
図8は、各ノードの動作を模式的に示す説明図である。
各ノードには、複数の入力i(図8の例では3つの入力i1,i2,i3)が入力される。
各入力iには重みwが設定されている。入力i1に対応する重みをw1、入力i2に対応する重みをw2、入力i3に対応する重みをw3とする。重みwは、入力iの重要度を調整する値であり、重要度が高い入力ほど重みを大きく設定する。
バイアスbは、ノードの出力を調整するための閾値である。
【0059】
各ノードには活性化関数fが設定されており、入力iと重みwの積とバイアスbとの和に活性化関数fを適用した値(図8の例ではf(i1×w1+i2×w2+i3×w3+b))がノードからの出力となると同時に、下流のノードに対する入力となる。
本実施の形態では、活性化関数fとして、図9に示すReLU関数を用いる。ReLU関数は、関数への入力値が0以下の場合には出力値が常に0、入力値が0より上の場合には出力値が入力値と同じ値となる関数であり、ディープラーニングを実施するニューラルネットワークで良く用いられる。
なお、図9には比較例としてシグモイド関数を図示している。
【0060】
図7に示すニューラルネットワークNでは、各隠れ層および最終段における演算(入力に対する活性化関数の適用)を経て、最終的な出力о(出力データDo1~Dо10のいずれかの予測値)を得る。
【0061】
学習部140は、ニューラルネットワークNの各ノードにおける重みwおよびバイアスbの最適値を教師データを用いて決定する。
上述のように、入力データの種類は14であるが(Di1~Di14)、材料名Di2は29種類、成形機種Di3は3種類、ゲート位置Di10は7種類、サイズDi11は12種類が列挙されたリストからそれぞれ選択される。よって、入力の項目数は61個(14-4+29+3+7+12)となる(入力i1~i61)。
よって、1つのニューラルネットワークNにおける重みwおよびバイアスbの数は、隠れ層1で1240個(重みw=61×20、バイアスb=20)、隠れ層2で147個(重みw=20×7、バイアスb=7)、最終段において8個(重みw=7、バイアスb=1)、合計1395個となり、更に10個の出力データDoごとにニューラルネットワークNを設定することから、学習部140は、10倍の13950個の変数を決定することになる。
なお、本実施の形態では、材料名Di2を29種類、成形機種Di3を3種類、ゲート位置Di10を7種類、サイズDi11を12種類としているが、実際のシステムでは、これらのデータの種類を拡張できるように構成し、将来的に新規の材料やサンプルサイズなどが増えた場合でも、学習を繰り返すことで成長可能なシステムとしている。
【0062】
より詳細に、学習部140の処理について説明する。
ニューラルネットワークNとして、10個の出力データDo1~Do10に対応したニューラルネットワークN1~N10が設けられているが、ここではそのうち1つのニューラルネットワークNについて考える。ニューラルネットワークNの各ノードには、重みwおよびバイアスbがそれぞれ設定されている。
教師データの入力データi(i1~i61)をニューラルネットワークNに入力し、得られた出力データ(以下「予測値」という)をoi(оi1~оi10)とする。また、教師データの出力データ(以下「実際値」という)をOi(Оi1~Оi10)とする。
【0063】
教師データは複数(本実施の形態では6000個)用意されており、全教師データDtを用いて予測値oiを算出し、実際値Oiと比較する。すなわち、下記式(1)で表される二乗誤差の総和Eを求める。
E=Σ(Oi-oi)・・・(1)
【0064】
二乗誤差の総和E=0ならば、全予測値が実際値と一致していることを意味する。一般には二乗誤差の総和E=0とはならず、図14に示すように二乗誤差の総和Eが最小値mとなる重みwおよびバイアスbが最適値といえる。学習部140による学習は、二乗誤差の総和Eの最小値mとなる重みwおよびバイアスbを求めることを意味する。
【0065】
学習部140は、まずニューラルネットワークN内の重みwおよびバイアスbにそれぞれ初期値を設定し、この初期状態のニューラルネットワークNを用いて二乗誤差の総和E0を求める(図14参照)。
なお、重みwおよびバイアスbの初期値は、-1から+1の値を取る正規分布の出現率となる値としている。厳密には、細かな度数分布を作成し、その中で乱数を使ったモンテカルロ法を用いて疑似的な正規分布をもつ値を設定する。
【0066】
つぎに、学習部140は、ニューラルネットワークN内の1つの変数x(重みwまたはバイアスb、上記1388個の変数の1つ)の値を初期値からプラス方向またはマイナス方向に変更する。この時、他の変数(残り1387個)の値は固定する。そして、全教師データDtを用いて予測値oiを算出し、実際値Oiを用いて二乗誤差の総和E1を算出する。
【0067】
E1<E0の場合(図14における状態S1の場合)は、二乗誤差が小さくなっているため、変数xの変化方向(プラス方向またはマイナス方向)は適切だったと判断し、次回も変数xをさらに同方向に変化させる。
E1>E0の場合(図14における状態S2の場合)は、二乗誤差が大きくなっているため、変数xの変化方向(プラス方向またはマイナス方向)は適当でなかったと判断し、次回は変数xを初期値から逆方向に変化させる。
この作業を1388個の変数全てに行う。これを本実施の形態では「1セット」と呼ぶ。
【0068】
2セット目以降は、前回のセットで適切と判断された方向に変数xを変化させる。
この時、発散防止のため、セット回数が大きくなるほど変数xの変化量Δxを小さくする(図16参照)。
また、Eの値が図14のような曲線を取ると仮定すると、前回のセットにおけるEの値(例えばE0)と、今回のセットにおけるEの値(例えばE1)との差分ΔEが大きい場合には、最適値(Eが最小値を取る点)が遠いと予測でき、反対に差分ΔEが小さい場合には、最適値が近いと予測できる。このため、学習部140は、差分ΔEが大きい変数xについては変化量Δxを大きくし、差分ΔEが小さい変数xについては変化量Δxを小さくする。
この結果、変数xの変化量Δxは、図17のように変則的に変化する。
【0069】
また、本実施の形態では、100セットを1バッチとし、更に30バッチ計算を行った。すなわち、3000セットの計算を行うのではなく、100セット×30バッチに分けて計算を行った。
図16に示したように、本実施の形態では、1バッチ内でセット回数が大きくなるほど変数xの変化量Δxを小さくして発散を防止しているが、Δxを小さくしていくと、図15に示すようにEに複数の極値(局所解L)がある場合、最適解を見つけられず局所解に収束する可能性がある。その対策として、100セット×30バッチで計算を行い、バッチ毎にΔxの振れ幅をリセットして、小さな谷の局所解を飛び越える作用を与えている。
なお、本実施の形態では、学習部140における学習時間は10バッチ当たり1日であり、30バッチで計3日間学習を行った。
【0070】
図10は、学習部での学習結果の評価結果を示す第1の表である。
図10では、学習結果の評価指標として、下記式(2)で示す決定係数Rを用いた。決定係数Rの値が大きいほど(1に近いほど)予測値と実際値との差分が小さく、学習の精度が高いと言える。
【0071】
【数1】
【0072】
図10の表には、教師データのうち90%を用いて学習を行ったニューラルネットワークNについて、教師データの残り10%を評価用データとして用い、10種類の出力データDo1~Do10のそれぞれについて決定係数Rを求めた結果を示している。
【0073】
また、図10には、比較例として、市販の機械学習アプリケーションを用いて、同じ教師データで学習を行い、同様の評価を行った結果を示している。
比較例1は、ソニー株式会社製、「Prediction One」であり、アルゴリズムは勾配ブースティング決定木とニューラルネットワークの組み合わせである。
比較例2は、Microsoft社製、「Azure Machine Learning」であり、アルゴリズムは隠れ層1段のニューラルネットワークとした。
比較例1と比較例2とを比較すると、10種類の出力データの9種類で比較例1の方が決定係数Rが大きくなっており、比較例1の方が高性能であるといえる。
【0074】
本発明では10バッチ程度から良好な結果が得られており、比較例1と比較しても遜色ない結果が得られているといえる。
なお、一般にはバッチ数が大きいほど(学習が進むほど)決定係数Rが大きくなると考えられるが、教師データのうちどのデータを学習用データ(教師データ中90%)または評価用データ(教師データ中10%)に割り振るかはバッチ毎に異なるため、決定係数Rの値はバッチ毎に上下している。
【0075】
図11は、学習部での学習結果の評価結果を示す第2の表である。
図11では、新規に成形依頼を受けた(教師データに含まれていない条件の)樹脂成形物Fの成形条件(出力データ)を算出部144において算出したものである。
図11にはNo.1~No.7まで7種類の樹脂成形物Fについての予測結果を図示しているが、実際には25種類の樹脂成形物F(出力データは計250個)について予測した。
各成形条件の上段は実際値、中段は予測値、下段は予測値の正誤である。本実施の形態では、予測値が実際値の±2±20%の範囲にある場合に正解とし、予測値が実際値の±2±20%の範囲から外れている場合に誤り(図11中◆マーク)と判定した。
図12は、実際値と予測値との相関を示すグラフである。±20%ではなく、±2±20%を閾値としたのは、出力データが0付近の値である場合に、不必要に判定を激しくしないためである。なお、±2の部分は、各出力データの単位系を持つ値である。
【0076】
図13に示すように、比較例1では、予測値が実際値の±2±20%の範囲に入るケースが82%、±2±10%の範囲に入るケースが72%であった。比較例2では、予測値が実際値の±2±20%の範囲に入るケースが74%、±2±10%の範囲に入るケースが64%であった。これに対して、本発明では、予測値が実際値の±2±20%の範囲に入るケースが83%、±2±10%の範囲に入るケースが69%であり、本発明の精度は比較例1と同程度であることが分かった。
【0077】
以上説明したように、実施の形態にかかる樹脂成形システム10によれば、学習済みニューラルネットワーク142を用いて成形条件設定値(より詳細には出力データに含まれる成形条件設定値)を算出するので、より短期間で適切な成形条件設定値を得ることができ、樹脂成形作業の効率を向上させ、コストを低減する上で有利となる。
また、樹脂成形システム10によれば、入力データとして樹脂成形物の材料名のみを用いており、当該材料の物性や特性の情報を用いることなく樹脂成形物の成形条件を得ることができ、樹脂成形作業の効率を向上させる上で有利となる。
【0078】
なお、本実施の形態では、入力データとして、樹脂成形物Fの厚さDi1、樹脂成形物Fの材料名Di2、成形機種(樹脂成形装置12の種類)Di3、固定側金型温度Di4、移動側金型温度Di5、ノズル温度Di6、シリンダ前部温度Di7、シリンダ中部温度Di8、シリンダ後部温度Di9、ゲート位置Di10、樹脂成形物FのサイズDi11、成形数Di12、材料乾燥温度Di13、材料乾燥時間Di14を用い、また出力データとして、樹脂材料の一次射出圧設定値Do1、二次射出圧設定値Do2、三次射出圧設定値Do3、射出速度Do4、材料充填量Do5、保圧切替位置Do6、背圧Do7、スクリュー回転数Do8、射出時間Do9、冷却時間Do10を用いたが、入力データおよび出力データの種類は、樹脂成形物の用途や成形環境等に応じて適宜変更が可能である。
例えば、本実施の形態では、樹脂成形物が樹脂材料評価試験に用いるテストサンプルであるものとしたが、当該樹脂成形物が用いられる樹脂材料評価試験の種類を入力データに含めてもよい。
例えば、図4Aに示す125×13mmサイズのバーサンプルは、多くの場合は燃焼性試験に用いられるが、曲げ試験や大電流アーク発火性試験、シャルピー衝撃試験(後加工で切り欠き追加の上で使用)でも用いられる場合がある。また、図4Bに示す直径100mmの円板型テストサンプルは、絶縁破壊試験の他、耐トラッキング性試験、表面抵抗率・体積抵抗率測定、耐アーク試験等に用いられる。
このように今回形成する樹脂成形物が樹脂材料評価試験に用いるテストサンプルである場合に、目的とする評価試験の種類を入力データとして用いることにより、樹脂成形物の性能向上や成形効率向上の観点において、より良い成形条件(出力データ)を得られる可能性がある。
【符号の説明】
【0079】
10 樹脂成形システム
12 樹脂成形装置
120 固定側金型
122 移動側金型
1202 キャビティ
1204 ゲート
1206 インジェクタピン
1208 インジェクタピン駆動機構
124 射出ユニット
1240 シリンダ
1242 ノズル
1244 ホッパー
1246 スクリュー
1248 モータ
1249 ヒーター
126 型締めユニット
1260 アーム
1262 アクチュエータ
F 樹脂成形物
M 溶解樹脂
P ペレット
14 成形条件算出装置
140 学習部
142 学習済みニューラルネットワーク
144 算出部
N ニューラルネットワーク
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