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特開2022-29314正極用電極合剤、電極及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029314
(43)【公開日】2022-02-17
(54)【発明の名称】正極用電極合剤、電極及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20220209BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220209BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20220209BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20220209BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/62 Z
C08L27/16
C08K3/22
C08K5/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020132598
(22)【出願日】2020-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 慧
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 圭介
(72)【発明者】
【氏名】上遠野 正孝
【テーマコード(参考)】
4J002
5H050
【Fターム(参考)】
4J002BD141
4J002DA030
4J002DE056
4J002EX067
4J002FD110
4J002GQ00
5H050AA19
5H050BA15
5H050BA17
5H050CA08
5H050DA11
5H050EA23
5H050EA28
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】高ニッケル系正極活物質を含む正極に好適に適用され得る電極合剤であって、集電体との接着性に優れるとともに、接着性について個体間のバラツキが小さい正極を形成することができる電極合剤、当該電極合剤を含む電極、及び、当該電極を有する非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】活物質と、フッ化ビニリデン共重合体と、シランカップリング剤と、を含有する正極用電極合剤であって、
前記フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、極性基を有する単量体に由来する構成単位とを含むものであって、
前記活物質は、下記式(1)で表されるリチウム金属酸化物を含む正極用電極合剤。
LiNiCoMnAl (1)
(式中、0.5≦x≦1.0、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦v≦1.0)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質と、フッ化ビニリデン共重合体と、シランカップリング剤と、を含有する正極用電極合剤であって、
前記フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、極性基を有する単量体に由来する構成単位とを含むものであって、
前記活物質は、下記式(1)で表されるリチウム金属酸化物を含むことを特徴とする正極用電極合剤。
LiNiCoMnAl (1)
(式中、0.5≦x≦1.0、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦v≦1.0)
【請求項2】
前記極性基はカルボキシ基であることを特徴とする請求項1に記載の正極用電極合剤。
【請求項3】
前記極性基を有する単量体が、アクリル酸又は下記式(2)で示される化合物であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の正極用電極合剤。
【化1】
(上記式(2)において、R、R、Rは、それぞれ独立に水素原子、塩素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、Xは、主鎖の原子数が1~19で構成される分子量472以下の原子団である。)
【請求項4】
前記シランカップリング剤は、アルコキシ基及び親水性官能基を有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の正極用電極合剤。
【請求項5】
前記親水性官能基は、エポキシ基であることを特徴とする請求項4に記載の正極用電極合剤。
【請求項6】
集電体と、前記集電体の表面に形成された電極合剤層と、を有し、
前記電極合剤層は、請求項1から5のいずれか1項に記載の正極用電極合剤を含む電極。
【請求項7】
請求項6に記載の電極を有する、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極用電極合剤、電極及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の電極に含まれる電極合剤には、結着剤(バインダー樹脂)として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が広く使用されている。バインダー樹脂には、非水電解質二次電池の安全性及び性能向上の観点から、電極合剤に含まれる活物質、及び電極基材である集電体との高い接着性が求められているが、PVDFの接着性は十分ではない。そのため、PVDFの接着性を改良するための様々な方法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、炭素系負極活物質を含む電極合剤において、PVDFにシランカップリング剤を化学結合させた変性PVDF樹脂を使用することで、集電体である金属箔との接着性が向上することが開示されている。また、特許文献2には、リチウム系正極活物質を含む電極合剤において、フッ化ビニリデンと、末端にカルボキシ基を有する特定の化合物とを共重合して得られるフッ化ビニリデン共重合体を使用することで、金属箔との接着性が向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-093025号公報
【特許文献2】国際公開第2012/090876号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、近年、高エネルギー密度の電池を構成し得る正極活物質として期待されている、ニッケルを多く含む高ニッケル系正極活物質に対しては、特許文献1や2に開示された変性PVDF樹脂やフッ化ビニリデン共重合体の接着性は十分ではないことが確認された。また、電池の製造においては品質が安定していることが重要であり、電極の剥離強度においても個体間のバラツキが小さいことが求められているが、特許文献1や2では、接着性の改良に対して主に着目されており、剥離強度の安定性のような要求特性は問題とされていない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高ニッケル系正極活物質を含む正極に好適に適用され得る電極合剤であって、集電体との接着性に優れるとともに、接着性について個体間のバラツキが小さい正極を形成することができる電極合剤、当該電極合剤を含む電極、及び、当該電極を有する非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、高ニッケル系正極活物質を含有する電極合剤において、極性基を有する単量体に由来する構成単位を含む特定のフッ化ビニリデン共重合体と、シランカップリング剤とを併用することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、活物質と、フッ化ビニリデン共重合体と、シランカップリング剤と、を含有する正極用電極合剤であって、
前記フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、極性基を有する単量体に由来する構成単位とを含むものであって、
前記活物質は、下記式(1)で表されるリチウム金属酸化物を含むことを特徴とする正極用電極合剤に関する。
LiNiCoMnAl (1)
(式中、0.5≦x≦1.0、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦v≦1.0)
【0009】
前記極性基はカルボキシ基であることが好ましい。
【0010】
前記極性基を有する単量体が、アクリル酸又は下記式(2)で示される化合物であることが好ましい。
【化1】
【0011】
(上記式(2)において、R、R、Rは、それぞれ独立に水素原子、塩素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、Xは、主鎖の原子数が1~19で構成される分子量472以下の原子団である。)
【0012】
前記シランカップリング剤は、アルコキシ基及び親水性官能基を有していることが好ましい。
【0013】
前記親水性官能基は、エポキシ基であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、集電体と、前記集電体の表面に形成された電極合剤層と、を有し、前記電極合剤層は、前記正極用電極合剤から形成された電極に関する。
【0015】
また、本発明は、前記電極を有する、非水電解質二次電池に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、正極に好適に適用され得る電極合剤であって、集電体との接着性に優れるとともに、接着性について個体間のバラツキが小さい正極を形成することができる電極合剤、当該電極合剤を含む電極、及び、当該電極を有する非水電解質二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[電極合剤]
本発明の電極合剤は、活物質と、フッ化ビニリデン共重合体と、シランカップリング剤と、を含有する。
フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、極性基を有する単量体に由来する構成単位とを含む。
活物質は、下記式(1)で表されるリチウム金属酸化物を含む。
LiNiCoMnAl (1)
(式中、0.5≦x≦1.0、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦v≦1.0)
【0018】
本発明の電極合剤は、正極の形成に用いられる。典型的には、本発明の電極合剤は、集電体と、上記集電体の表面に形成された電極合剤層とを有する正極において、該電極合剤層を形成するために用いられる。
集電体は、電気を取り出すための端子である。集電体の材質としては、特に限定されるものではなく、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス鋼、鋼、ニッケル、チタン等の金属箔あるいは金属網等を用いることができる。また、他の媒体の表面に上記金属箔あるいは金属網等を施したものであってもよい。
電極合剤層は、例えば、本発明の電極合剤を上記集電体上に塗布し、乾燥させることに得られる。
本発明の電極合剤を用いることにより、集電体との接着性に優れるとともに、接着性について個体間のバラツキが小さい正極を形成することができる。
【0019】
以下、電極合剤について、詳細に説明する。
【0020】
(活物質)
本発明の電極合剤は、特定の活物質を含む。本発明において、活物質とは、正極活物質を意味し、下記式(1)で表されるリチウム金属酸化物を含む。
LiNiCoMnAl (1)
(式中、0.5≦x≦1.0、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦v≦1.0)
【0021】
このような組成比を満足するリチウム金属酸化物は、ニッケルの含有量が高く、本明細書において、「高ニッケル系正極活物質」とも称する。
【0022】
x、y、z及びvの組成比としては、例えば、0.5≦x≦0.95、0≦y≦0.35、0≦z≦0.3、0≦v≦0.3が好ましく、0.75≦x≦0.9、0≦y≦0.2、0≦z≦0.1、0≦v≦0.1がより好ましい。
【0023】
式(1)で表されるリチウム金属酸化物は公知の方法により合成でき、例えば、Li含有化合物及びNi含有化合物、Co含有化合物、Mn含有化合物、Al含有化合物など各構成元素の化合物を混合し、焼成する工程を経て合成することができる。
【0024】
式(1)で表されるリチウム金属酸化物としては、例えば、Li1.00Ni0.52Co0.20Mn0.30(NCM523)、Li1.00Ni0.50Co0.30Mn0.20(NCM532)、Li1.00Ni0.6Co0.2Mn0.2(NCM622)、Li1.00Ni0.83Co0.12Mn0.05(NCM811)、Li1.00Ni0.85Co0.15Al0.05(NCA811)が挙げられる。これらの中では、ニッケルの含有量が高い点で、Li1.00Ni0.85Co0.15Al0.05(NCA811)が好ましい。
【0025】
活物質の性状は特に限定されないが、典型的には粒子状である。
活物質の平均粒子径は特に限定されず、通常は0.1μm以上100μm以下であり、0.5μm以上50μm以下が好ましく、2μm以上15μm以下がより好ましい。なお、本明細書において「平均粒子径」とは、一般的なレーザー回折・光散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径(D50、メジアン径ともいう。)をいう。
活物質の比表面積は特に限定されず、通常は0.05m/g以上50m/g以下であり、0.1m/g以上30m/g以下が好ましい。なお、活物質の比表面積は、窒素吸着法により求めることができる。
活物質の含有量は特に限定されず、正極用電極合剤を構成する全固形分中、通常は50質量%以上であり、70質量%以上98質量%以下が好ましく、86質量%以上97質量%以下がさらに好ましい。
【0026】
(フッ化ビニリデン共重合体)
本発明の電極合剤は、特定のフッ化ビニリデン共重合体を含む。本発明で使用するフッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、極性基を有する単量体に由来する構成単位とを含む。このようなフッ化ビニリデン共重合体を使用することで、集電体との接着性に優れるとともに、接着性について個体間のバラツキが小さい正極を形成することができる。本発明で使用するフッ化ビニリデン共重合体は、本発明の効果を損なわない限り、前述したフッ化ビニリデン及び極性基を有する単量体とは異なる他の単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。以下、本明細書において、このような任意成分の単量体を「他の単量体」とも称する。
【0027】
極性基としては、特に限定されず、例えば、ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、アミノ基、ニトロ基、ニトリル基、イミノ基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、メルカプト基、スルホニル基、スルホン酸基、スルフィン酸基、等が挙げられる。これらの中では、集電体との接着性に優れる観点から、カルボキシ基が好ましい。
【0028】
極性基を有する単量体としては、特に限定されず、(メタ)アクリル酸、式(2)で示される化合物等が挙げられる。式(2)で示される化合物としては、式(3)で示される化合物が好ましい。これらの中では、アクリル酸、式(3)で示される化合物が好ましい。極性基を有する単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及び/又はメタアクリルを意味する。
【0029】
【化2】
【0030】
式(2)において、R、R、Rは、それぞれ独立に水素原子、塩素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、Xは、主鎖の原子数が1~19で構成される分子量472以下の原子団である。
【0031】
【化3】
【0032】
式(3)において、R、R、Rは、それぞれ独立に水素原子、塩素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、X'は、主鎖が原子数1~18で構成される分子量456以下の原子団である。
【0033】
式(2)、(3)において、重合反応性の観点から、特にR、Rは立体障害の小さな置換基であることが望まれ、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
【0034】
式(2)において、Xで表わされる原子団の分子量は472以下であるが、172以下であることが好ましい。また、Xで表わされる原子団の分子量の下限としては特に限定はないが、通常はXが―CH―の態様、すなわち分子量としては14である。また、式(3)において、X'で表わされる原子団の分子量は456以下であるが、156以下であることが好ましい。また、X'で表わされる原子団の分子量の下限としては特に限定はないが、通常はX'が―CH―の態様、すなわち分子量としては14である。
【0035】
X又はX’で表わされる原子団の分子量が前述の範囲であると、重合性の観点から好ましい。
【0036】
式(3)で示される化合物としては、例えば、2-カルボキシエチルアクリレート、2-カルボキシエチルメタクリレート、アクリロイロキシエチルコハク酸、メタクリロイロキシエチルコハク酸、アクリロイロキシプロピルコハク酸、メタクリロイロキシプロピルコハク酸、アクリロイロキシエチルフタル酸、メタクリロイロキシエチルフタル酸等が挙げられる。
【0037】
フッ化ビニリデン共重合体において、上記極性基を有する単量体に由来する構成単位の含有量は特に限定されないが、例えば、フッ化ビニリデン共重合体中の全構成単位に対し、0.01モル%以上10モル%以下が好ましく、0.02モル%以上7モル%以下がより好ましく、0.03モル%以上4モル%以下がさらに好ましい。
【0038】
フッ化ビニリデン共重合体において、フッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有量は特に限定されないが、例えば、フッ化ビニリデン共重合体中の全構成単位に対し、90モル%以上99.99モル%以下が好ましく、93モル%以上99.98モル%以下がより好ましく、96モル%以上99.97モル%以下がさらに好ましい。
【0039】
他の単量体としては、特に限定されず、例えば、フッ化ビニリデンと共重合可能なフッ素系単量体あるいはエチレン、プロピレン等の炭化水素系単量体等が挙げられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なフッ素系単量体としては、例えば、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロメチルビニルエーテルに代表されるペルフルオロアルキルビニルエーテル等が挙げられる。なお、上記他の単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0040】
フッ化ビニリデン共重合体が他の単量体に由来する構成単位を有する場合には、該構成単位の含有量は特に限定されず、例えば、フッ化ビニリデン共重合体中の全構成単位に対し、0.01モル%以上10モル%以下が好ましい。
【0041】
フッ化ビニリデン共重合体の含有量は特に限定されないが、活物質100質量部に対して、電池性能と接着性の観点から、0.2質量部以上15質量部以下が好ましく、0.5質量部以上10質量部以下がより好ましい。
【0042】
フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデン及び極性基を有する単量体、必要に応じて上記他の単量体を共重合することにより得られる。
【0043】
フッ化ビニリデン共重合体の製造方法は特に限定されず、通常は、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の方法で行われる。後処理の容易さ等の点から水系の懸濁重合、乳化重合が好ましく、水系の懸濁重合がさらに好ましい。
【0044】
水系の懸濁重合法としては特に限定されず、例えば、水系の媒体中、懸濁剤、重合開始剤の存在下で、共重合に使用する全モノマー(フッ化ビニリデン及び極性基を有する単量体、必要に応じて上記他の単量体)を共重合させる方法等が挙げられる。
【0045】
懸濁剤は特に限定されず、例えば、メチルセルロース、メトキシ化メチルセルロース、プロポキシ化メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ゼラチン等が挙げられる。懸濁剤の使用量は特に限定されず、例えば、共重合に使用する全モノマー100質量部に対して、0.005質量部以上1.0質量部以下が好ましく、0.01質量部以上0.4質量部以下がより好ましい。
【0046】
重合開始剤は特に限定されず、例えば、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジノルマルプロピルペルオキシジカーボネート、ジノルマルヘプタフルオロプロピルペルオキシジカーボネート、イソブチリルペルオキサイド、ジ(クロロフルオロアシル)ペルオキサイド、ジ(ペルフルオロアシル)ペルオキサイド、t-ブチルペルオキシピバレート等が挙げられる。重合開始剤の使用量は特に限定されず、例えば、共重合に使用する全モノマーを100質量部に対して、0.05質量部以上5質量部以下が好ましく、0.15質量部以上2質量部以下がより好ましい。
【0047】
また、共重合に使用する全単量体の仕込量は、単量体の合計:水の質量比で、通常は1:1~1:10であり、1:2~1:5が好ましい。懸濁重合を行う際の、重合温度、重合時間等の重合条件は、特に限定されず、例えば、公知の重合条件を採用してもよい重合温度Tは、重合開始剤の10時間半減期温度T10に応じて適宜選択され、通常はT10-25℃≦T≦T10+25℃の範囲で選択される。例えば、t‐ブチルペルオキシピバレートおよびジイソプロピルペルオキシジカーボネートのT10はそれぞれ、54.6℃および40.5℃(日油株式会社製品カタログ参照)である。したがって、t‐ブチルペルオキシピバレートおよびジイソプロピルペルオキシジカーボネートを重合開始剤として用いた重合では、その重合温度Tはそれぞれ29.6℃≦T≦79.6℃および15.5℃≦T≦65.5℃の範囲で適宜選択される。重合時間は、特に制限されず、生産性等を考慮すると、1~24時間であることが好ましい。
【0048】
(シランカップリング剤)
本発明の電極合剤は、シランカップリング剤を含む。シランカップリング剤を使用することで、集電体との接着性に優れるとともに、接着性について個体間のバラツキが小さい正極を形成することができる。
【0049】
シランカップリング剤としては、アルコキシ基及び親水性官能基を有する限り、特に限定されない。アルコキシ基としては、例えば、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基等が挙げられる。これらの中では、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。親水性官能基としては、例えば、アミノ基、ウレイド基、エポキシ基、イソシアネート基、メルカプト基、アジド基、ジアゾ基、ジアジリン基等が挙げられる。これらの中では、アミノ基、エポキシ基が好ましく、エポキシ基がさらに好ましい。
【0050】
シランカップリング剤の具体例としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメトキシシラン、3-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルメチルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルメチルトリエトキシシラン、3-(2-ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリクロロシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルジメトキシシラン等が挙げられる。これらの中では、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランが好ましく、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランがより好ましい。
【0051】
シランカップリング剤の含有量は特に限定されないが、活物質100質量部に対して、電池性能と接着性の観点から、0.01質量部以上10質量部以下が好ましく、0.05質量部以上1質量部以下がより好ましく、0.1質量部以上0.5質量部以下がさらに好ましい。
【0052】
(他の成分)
本発明の正極用電極合剤は、本発明の効果を損なわない限り、活物質、フッ化ビニリデン共重合体、シランカップリング剤以外の成分(以下、「他の成分」ともいう。)を含有してもよい。他の成分としては、公知の添加剤であれば全て使用することができ、例えば、カーボンブラックやカーボンナノチューブ等の導電助剤、アルミナやマグネシアやシリカ等の絶縁性無機フィラー、ポリテトラフルオロエチレンやポリイミドやポリアクリロニトリル等の絶縁性有機フィラー、可塑剤、分散剤、難燃剤等が挙げられる。
【0053】
本発明の正極用電極合剤は、活物質と、フッ化ビニリデン共重合体と、シランカップリング剤と、必要に応じて他の成分とを混合することで、調製することができる。調整された正極合剤は、混合時に各成分の一部またはすべてが結合を形成していても、していなくてもよい。すなわち、本発明の正極用電極合剤は、活物質と、フッ化ビニリデン共重合体と、シランカップリング剤と、必要に応じて他の成分との混合物(但し、活物質と、フッ化ビニリデン共重合体と、シランカップリング剤と、必要に応じて他の成分とを混合して得られる反応生成物を含む。)である。混合方法は特に限定されず、公知の方法で混合することができる。
【0054】
本発明では、高ニッケル系正極活物質を含有する電極合剤において、特定のフッ化ビニリデン共重合体と、シランカップリング剤とを併用する点に特徴がある。具体的には、集電体との接着性について、特定のフッ化ビニリデン共重合体のみを含む電極合剤と、シランカップリング剤のみを含む電極合剤との足し合わせによって予想される接着力と比較して、両者を併用した本発明の電極合剤の方が、接着力が高くなる。この理由については、定かではないが、上記3成分の混合物である電極合剤が、その一部において、高ニッケル系正極活物質表面のヒドロキシ基と共有結合したシランカップリング剤が有する親水性官能基と、フッ化ビニリデン共重合体の構成単位が有する極性基とが共有結合していることによるものと推測している。また、本発明では、接着性について個体間のバラツキが小さい。この理由についても、前述したように3成分が共有結合する態様で存在し、温湿度の影響を受けにくくなるためと推測している。
【0055】
[電極]
本発明の電極は、集電体と、上記集電体の表面に形成された電極合剤層とを有する。
電極合剤層は、前述したように、本発明の電極合剤を上記集電体上に塗布し、乾燥させることにより得られる。塗布方法は、特に限定されず、例えば、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法、ダイコート法及びディップコート法等を適用することができる。また、電極合剤の塗布後、任意の温度で加熱し、溶媒を乾燥させることが一般的である。乾燥は、異なる温度で複数回行ってもよい。乾燥の際には、圧力を印加してもよい。乾燥後に更に熱処理を行ってもよい。熱処理は、一例において、100℃以上300℃以下で10秒以上300分以下行う。
【0056】
上記塗布及び乾燥後、更にプレス処理を行ってもよい。プレス処理は、一例において、1MPa以上200MPa以下で行われる。プレス処理を行うことにより、電極密度を向上させることができる。
【0057】
[非水電解質二次電池]
本発明の非水電解質二次電池は、正極として前述した電極を有する。本発明の非水電解質二次電池としては、正極以外の部材、例えば、負極、セパレータ等は従来公知のものを用いることができる。
【実施例0058】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
〔調製例1〕(フッ化ビニリデン共重合体P1の調製)
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1096g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトローズ90SH-100、信越化学工業社製)0.2g、50質量%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート-フロン225cb溶液2.2g、フッ化ビニリデン(VDF)426g、及びアクリロイロキシプロピルコハク酸(APS)の初期添加量0.2gの各量を仕込み、26℃まで1時間で昇温した。その後、26℃を維持し、6質量%アクリロイロキシプロピルコハク酸(APS)水溶液を0.5g/minの速度で徐々に添加した。得られた重合体スラリーを脱水、乾燥して極性基を含むフッ化ビニリデン共重合体P1(VDF/APS共重合体)を得た。APSは、初期に添加した量を含め、全量4.0gを添加した。
【0060】
〔調製例2〕(フッ化ビニリデン共重合体P2の調製)
アクリロイロキシプロピルコハク酸の代わりにアクリル酸(AA)を使用したこと以外は、上記調製例1と同様の方法で、フッ化ビニリデン共重合体P2(VDF/AA共重合体)を得た。
【0061】
〔調製例3〕(ポリフッ化ビニリデンホモポリマーP3の調製)
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1000g、メトローズSM-100(信越化学工業社製)0.2g、50質量%イソプロピルペルオキシド-フロン225cb溶液2.8g、及びフッ化ビニリデン400gを仕込み、26℃まで1時間かけて昇温した。次に、26℃を維持しながら、昇温開始から合計20時間重合を行った。重合終了後、重合体スラリーを95℃で60分熱処理した後、脱水し、水洗して、更に80℃で20時間乾燥させることによりポリフッ化ビニリデンホモポリマーP3(VDF重合体)を得た。
【0062】
<正極用電極合剤の調製>
[実施例1~5、比較例1~7]
実施例1~5、比較例1~7では、活物質として、下記A1~A2を用いた。
A1:Li1.00Ni0.85Co0.15Al0.05(NCA811、平均粒子径14.7μm、比表面積0.17m/g)
A2:LiC(LCO)
【0063】
実施例1~5、比較例1~7では、フッ化ビニリデン共重合体として、上記P1~P2を用い、ポリフッ化ビニリデンホモポリマーとして、上記P3を用いた。
【0064】
実施例1~5、比較例1~7では、シランカップリング剤として、下記C1~C2を用いた。
C1:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
C2:3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン
【0065】
実施例1~5、比較例1~7では、導電助剤として、下記D1を用いた。
D1:カーボンブラック(SP;Timcal Japan社製 SuperP(登録商標))
【0066】
それぞれ表1に記載の種類及び量の、活物質と、フッ化ビニリデン共重合体と、シランカップリング剤と導電助剤とを、同時に混合して正極用電極合剤を得た。
【0067】
<評価>
[剥離強度]
得られた正極用電極合剤を、集電体である厚さ15μmのアルミ箔上にバーコーターで塗布し、これを恒温槽を用いて、窒素雰囲気下にて110℃で30分間一次乾燥を行い、次いで窒素雰囲気下にて130℃で2時間二次乾燥して、電極を作製した。得られた電極の上面をプラスチックの厚板と貼り合わせ、JIS K 6854-1に準じて引張試験機(ORIENTEC社製「STA-1150 UNIVERSAL TESTING MACHINE」)を使用し、ヘッド速度10mm/分で90°剥離強度として評価した。各実施例及び比較例の電極を3回ずつ作製し、それぞれについて剥離強度を測定し(n1、n2、n3)、また、これらの平均値(Ave.)を算出した。結果を表1に示す。なお、プラスチックの厚板は、アクリル樹脂製であり、厚さ5mmである。
【0068】
[変動係数]
前述の90°剥離強度の結果をもとに、下記式により変動係数を算出した。結果を表1に示す。
変動係数=90°剥離強度における標準偏差/90°剥離強度における平均値
【0069】
【表1】
【0070】
表1から、フッ化ビニリデン共重合体とシランカップリング剤のいずれも含まない場合、比較例5に示すように、電極の剥離強度の平均値は4.3gf/mmしかなかった。また、両者のうち、前者のみを含む比較例1や後者のみを含む比較例4では、剥離強度はそれぞれ5.8gf/mm及び6.8gf/mmにとどまった。一方、両者を併用すると、実施例1に示すように、剥離強度は10.1gf/mmと、大きく向上した。また、剥離強度の変動係数については、比較例1、4、5のうち、最小の変動係数0.13を示した比較例4と比較して、実施例1では0.04となり、1/3以下の小さい値を示した。