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▶ 棚橋 泰之の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029327
(43)【公開日】2022-02-17
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20220209BHJP
【FI】
A41D13/11 D
A41D13/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020132619
(22)【出願日】2020-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】520292844
【氏名又は名称】棚橋 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100134072
【弁理士】
【氏名又は名称】白浜 秀二
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 泰之
(57)【要約】
【課題】着用感と外観とに優れたマスクの提供。
【解決手段】マスク10は、通気性の被覆部11と着用手段12とを有する。被覆部11は、互いに重なり合う通気性の裏地41の部分と表地31の部分とを縫合することによって上縁部14と、下縁部15と、側縁部16と、稜線13とが形成される。稜線13は、上縁部14と下縁部15との間に延びて、マスク10の前方に向かって凸となるように湾曲し、被覆部11を幅方向において二等分している。裏地41の部分には、稜線13に沿って延びる第1帯状ワイヤー61が存在する。第1帯状ワイヤー61は、両側縁部それぞれに弾性復元力を有する芯材66a、66bのそれぞれを有し、両側縁部のうちの一方が稜線13に沿って裏地41の部分に縫合され、両側縁部のうちのもう一方が稜線13から離間した位置にあるとともに、裏地41の部分にも表地31の部分にも縫合されることのない状態にある。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスク着用者の顔面の上下方向と幅方向と前後方向とに対応する上下方向と幅方向と前後方向とを有し、前記着用者の鼻孔と口許とを覆う通気性の被覆部と、前記被覆部の周縁部分を前記顔面にフィットさせることが可能な着用手段とを有するマスクであって、
前記被覆部は、互いに重なり合う通気性の裏地の部分と表地の部分との少なくとも二部分を含んでいて、前記両部分を縫合することによって前記被覆部における上縁部と下縁部と側縁部とが形成されるとともに、前記裏地の部分どうしの縫合と前記表地の部分どうしの縫合とによって前記上縁部と下縁部との間に延びていて、前記前後方向の前方に向かって凸となるように湾曲し、前記被覆部を前記幅方向において二等分する稜線が形成され、
前記裏地の部分には、前記稜線に沿って延びる第1帯状ワイヤ―が存在し、
前記第1帯状ワイヤ―は、幅方向と長さ方向と厚さ方向とを有し、前記長さ方向に延びる両側縁部それぞれには弾性復元力を有する芯材を一本ずつ含み、前記両側縁部のうちの一方が前記稜線に沿わせて前記裏地の部分に縫合され、前記両側縁部のうちのもう一方が前記幅方向において前記稜線から離間した位置にあるとともに、前記裏地の部分にも前記表地の部分にも縫合されることのない状態にあることを特徴とする前記マスク。
【請求項2】
前記裏地の部分では、前記上縁部に沿って折り返されて重なり合う部分どうしの間に前記上縁部に沿って前記稜線の両側に延びる塑性変形可能な第2帯状ワイヤーが介在しており、前記第2帯状ワイヤ―はその幅方向の中央部分に塑性変形する芯材を含んでいて、前記稜線の両側における前記第2帯状ワイヤーの形状は前記芯材を塑性変形させることにより規定されており、前記第2帯状ワイヤーが前記芯材を前記マスクの前記前方に向かって凸となるように変形させた状態で前記芯材に沿う部分と前記上縁部に沿う部分とにおいて前記裏地部分に縫合されている請求項1記載のマスク。
【請求項3】
前記第1,第2帯状ワイヤーは、前記芯材を除くそれらの帯状部分が天然繊維及び合成繊維のうちの少なくとも一方によって形成されている請求項1または2記載のマスク。
【請求項4】
前記表地の部分には、前記裏地の部分における織目よりも開孔面積の大きい透孔が形成されている請求項1~3のいずれかに記載のマスク。
【請求項5】
前記裏地の部分と前記表地の部分とは、前記被覆部における周縁部においてのみ互いに縫合されている請求項1~4のいずれかに記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用感と外観とに優れたマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
鼻孔と口許とを覆う通気性の被覆部とその被覆部と一体を成す耳掛けひも等の着用手段とを有する簡易な構造のマスクはよく知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のマスクは、互いに平行して横方向へ延びる複数条のプリーツを有し、着用者の鼻梁の両側を覆う部分には、マスク本体のフィット性を向上させるためのワイヤーや形状記憶性のあるプラスチック製のノーズクリップが取り付けられている。
【0004】
また、特許文献2には、左右一対のシートを位置合わせし、圧着することによって得られる立体マスクであって、着用者の口許や鼻腔の周辺に空間を作りながら口許や鼻腔を被覆することができるように、マスク本体の外側に向かっての弧状部分が作られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-2452号公報
【特許文献2】実用新案登録第3159977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鼻孔や口許に対する被覆部に複数条のプリーツが横方向へ互いに平行して延びる特許文献1に記載のマスクは、ノーズクリップを有することによって、マスク頂部が着用者の鼻梁の両側にフィットし易くなるという利点や、プリーツによって広い通気面積を確保できるという利点を有するが、鼻孔や口許の前方に大きな空間を形成してマスク着用者の呼吸を楽にするというものではないという点において、着用感に優れたものとはいい難い。また、着用者が呼吸を繰り返したときに、被覆部がへこんだり、ふくらんだりする動きを繰り返すことは避け難く、へこんだ時には被覆部が鼻孔を塞ぎ気味になるとか、被覆部の内面が唇に接触してリップクリームや口紅がその内面に附着するということがあるばかりでなく、そのような動きの繰り返しは見た目にも好ましいものではない。
【0007】
また、左右一対のシートを位置合わせしてマスク本体の外側に向かっての弧状部分を形成する特許文献2に記載のマスクでは、呼吸を繰り返すときに弧状部分がへこんだり、ふくらんだりする動きを繰り返すことはないが、弧状部分に隣接する部分についてはそのような動きの生じることを避け難い。また、その動きが第三者に見えることは、着用したマスクの外観を損ねる原因の一つになりかねない。
【0008】
そこで、本発明では、鼻孔と口許とを覆うマスクの被覆部が鼻孔と口許との前方に大きな空間を作ることができるとともに、マスク着用者の呼吸の反復に追随してへこんだり、ふくらんだりする動きを抑制したり、そのような動きを目立たなくしたりすることのできる着用感と外観とに優れたマスクの提供を課題にしている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための本発明が対象とするのは、マスク着用者の顔面の上下方向と幅方向と前後方向とに対応する上下方向と幅方向と前後方向とを有し、前記着用者の鼻孔と口許とを覆う通気性の被覆部と、前記被覆部の周縁部分を前記顔面にフィットさせることが可能な着用手段とを有するマスクである。
かかるマスクにおいて、本発明が特徴とするところは、以下のとおりである。前記被覆部は、互いに重なり合う通気性の裏地の部分と表地の部分との少なくとも二部分を含んでいる。前記両部分を縫合することによって前記被覆部における上縁部と下縁部と側縁部とが形成される。それとともに、前記裏地の部分どうしの縫合と前記表地の部分どうしの縫合とによって前記上縁部と下縁部との間に延びていて、前記前後方向の前方に向かって凸となるように湾曲し、前記被覆部を前記幅方向において二等分する稜線が形成される。前記裏地の部分には、前記稜線に沿って延びる第1帯状ワイヤ―が存在する。前記第1帯状ワイヤ―は、幅方向と長さ方向と厚さ方向とを有し、前記長さ方向に延びる両側縁部それぞれには弾性復元力を有する芯材を一本ずつ含む。前記両側縁部のうちの一方は、前記稜線に沿わせて前記裏の地部分に縫合される。前記両側縁部のうちのもう一方は、前記幅方向において前記稜線から離間した位置にあるとともに、前記裏地の部分にも前記表地の部分にも縫合されることのない状態にある。
【0010】
本発明の実施態様の一つにおいて、前記裏地の部分では、前記上縁部に沿って折り返されて重なり合う部分どうしの間に前記上縁部に沿って前記稜線の両側に延びる塑性変形可能な第2帯状ワイヤーが介在しており、前記第2帯状ワイヤ―はその幅方向の中央部分に塑性変形する芯材を含んでいて、前記稜線の両側における前記第2帯状ワイヤーの形状は前記芯材を塑性変形させることにより規定されており、前記第2帯状ワイヤーが前記芯材を前記マスクの前記前方に向かって凸となるように変形させた状態で前記芯材に沿う部分と前記上縁部に沿う部分とにおいて前記裏地の部分に縫合されている。
【0011】
本発明の実施態様のさらに他の一つにおいて、前記第1,第2帯状ワイヤーは、前記芯材を除くそれらの帯状部分が天然繊維及び合成繊維のうちの少なくとも一方によって形成されている。
【0012】
本発明の実施態様のさらに他の一つにおいて、前記表地の部分には、前記裏地の部分における織目よりも開孔面積の大きい透孔が形成されている。
【0013】
本発明の実施態様のさらに他の一つにおいて、前記裏地の部分と前記表地の部分とは、前記被覆部における周縁部においてのみ互いに縫合されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るマスクでは、第1帯状ワイヤーの弾性復元力によって、マスクの裏地の部分における稜線が大きな弧を画くように作用するから、その裏地の部分が作るドーム状のふくらみが大きくなって、マスク着用者の鼻孔や口許の前方に大きな空間を作ることができ、マスク着用時における呼吸が楽になる。また、第1帯状ワイヤーは、表地がふくらむようにも作用する。しかも、表地は、マスクの被覆部の周縁部においてのみ裏地の部分に縫合されているから、着用者の呼吸によって裏地の部分がへこんだり、ふくらんだりする動きをしても、その動きが第三者に見えることのないように、裏地の部分を覆うことができて、マスクの外観を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】着用状態にあるマスクの斜視図。
図2】マスクの斜視図。
図3】マスクの左半体の部分破断平面図。
図4図2のIV-IV線切断面を示す模式図。
図5図2のV-V線切断面を示す模式図。
図6】平面上に置いたマスクの部分破断斜視図。
図7】第1帯状ワイヤーの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付の図面を参照して本発明に係るマスクの詳細を説明すると、以下のとおりである。
【0017】
図1,2は、着用状態にあるマスク10の斜視図と、マスク10単体の斜視図である。マスク10は、着用者1の鼻孔2と口許3とを覆うことのできる通気性の被覆部11と、被覆部11から着用者1の耳4に向かって延びる耳掛けひも12を一例とする着用手段とを有する。マスク10はまた、着用者1の顔面の上下方向と幅方向と前後方向とに対応する上下方向Aと幅方向Bと前後方向Cとを有する。マスク10において、被覆部11はドーム状に膨らんだ形状を有し、その形状は着用者1の鼻梁5の延長上にあって上下方向Aに延びる稜線13に関して実質的な意味において左右対称である。なお、本発明でいう左右は、着用者1にとっての左右を意味している。図示されているように、稜線13は、着用者1の顔面の前方に向かって凸となる曲線を画いている。
【0018】
被覆部11の上方では上縁部14が稜線13を中心にして幅方向Bへ延び、下方では下縁部15が稜線13を中心にして幅方向Bへ延びている。被覆部11の左右両側では、上縁部14と下縁部15との間に側縁部16が延びている(図2を併せて参照)。側縁部16からは着用手段である耳掛けひも12が着用者1の耳4に向かって延びていて、その耳掛けひも12を使うことによって被覆部11の周縁部を形成している上縁部14、下縁部15、側縁部16を着用者1の顔面にフィットさせることが可能である。被覆部11ではまた、縫糸によって形成された縫合線17がこれら上縁部14と下縁部15と側縁部16とに沿って延びている。縫合線17は、マスク10の外面を形成する表地31と、内面を形成する裏地41(後記図3参照)とを縫合するとともに、耳掛けひも12を被覆部11に縫い留めている。図1,2に示されているように、マスク11は、着用状態にあるときにも、非着用状態にあるときにも、稜線13が前後方向Aの前方に向かって凸となるように湾曲している。また、本発明の実施態様の一つでは、その稜線13の両側において、上縁部14が着用者1の鼻梁5とその両側部分にフィットし易いように上方に向かって凸となるような曲線を画いている。マスク10における被覆部11の左側の半分である左半体11Lと右側の半分である右半体11Rは、それらを形成している布地の裁断形状、縫合線17等の縫合線のレイアウト、および後記する第1,第2帯状ワイヤー61,62の作用等によって、容易に図示の如くドーム状にふくらんだ形状になり得る部分である。
【0019】
図3は、被覆部11の左半体11Lを平面的に見たときの被覆部11の部分破断平面図である。被覆部11の左半体11Lは、後記図6において説明するように、それが持つ特有の構造から平面状になるものではないが、図3では説明を容易にする目的でその左半体11Lが平面的なものとして図示されている。被覆部11は、それを厚さ方向で見たときに、少なくとも表地31の部分と裏地41の部分とを有するものであって、表地31と裏地41とのそれぞれは、実質的な意味において稜線13に関して対称な形状である左右の表地半体31L,31Rと、左右の裏地半体41L,41Rとを有する(図2と後記図4,5参照)。表地31と裏地41とには、所要のろ過性能と通気性とを有する織布や不織布を使用することができるが、好ましくは、裏地41にはマスク10としての所要のろ過性能と通気性とを可能にする大きさの織目を有する生地を使用し、表地31には裏地41よりも通気性のよい生地、より好ましくは裏地41の通気性を低下させることがないような、高い通気性を有する生地を使用する。図3では、そのような表地31の例として、レース模様の織布が使用され、その織布には表地31の織目および裏地41の織目よりも大きくて孔径の最大値が1.5mm~5mmの範囲にあり、好ましくは装飾性と通気孔としての作用とを兼ね備えた透孔35が多数形成されている。かような表地31は、裏地41を通気可能な状態で覆いながら、マスク10の外観を整えるために使用される。その外観を整えるということには、マスク10の見た目の美しさの他に、被覆部11の内部構造を隠蔽することや、着用者1の呼吸動作に伴う裏地41の動き、例えばへこんだり、ふくらんだりを反復するという動きを隠蔽することも含まれる。なお、本発明において表地31および/または裏地41に不織布を使用する場合には、織布についての織目に代えて繊維間隙の大きさを透孔35の大きさと対比する。
【0020】
さらに図3における被覆部11の内部では、稜線13に沿うとともに、前後方向Aの前方に向かって凸となるように湾曲し状態で上下方向Cへ延びる第1帯状ワイヤー61が一条の縫合線63によって裏地41に縫い付けられている。図示の第1帯状ワイヤー61は、被覆部11の下縁部15から上縁部14に向かい、後記第2帯状ワイヤー62の手前にまで延びていて、第2帯状ワイヤー62に重なることがない。一方、上縁部14では、それに沿って前後方向Aへ延びる第2帯状ワイヤー62が裏地41に対して縫い付けられている。第1,第2帯状ワイヤー61,62の縫い付け方の詳細は、後記図4,5に基づいて説明される。ただし、ここで図3についていえば、第2帯状ワイヤー62は、裏地半体41Lの折り返し部分42に覆われるとともに、裏地41とその折り返し部分42とに縫合線65によって縫合されている。第1、第2帯状ワイヤー61,62は、それらの幅方向にも厚さ方向にも変形し得るものであるが、第1帯状ワイヤー61は弾性変形可能な芯材を含み、第2帯状ワイヤー62は塑性変形する芯材を含んでいる。具体的には、そのような芯材として、第1帯状ワイヤー61は、少なくとも両側縁部のそれぞれにあって互いに並行して第1帯状ワイヤー61の長さ方向へ延びる第1、第2側部芯材66a,66bを含み、より好ましくは図示例の如く第1側部芯材66aと第2側部芯材66bとの間において、これら第1、第2側部芯材66a,66bに並行して長さ方向へ延びる中央部芯材66cをも含む。これら第1,第2側部芯材66a,66bおよび中央部芯材66cは、第1帯状ワイヤー61の幅方向へ延びていて剛性ではあるが可撓性でもある糸67によって並行する間隔が保たれている。糸67は、好ましくは繊度の大きい合成繊維で形成されていて、上下方向へ延びる縫合線63と交差している。
【0021】
第2帯状ワイヤー62は、天然繊維または合成繊維の織布である帯状部分62aの幅方向中央に一条の塑性変形する中央部芯材68を含むもので、その中央部芯材68に隣接する縫合線69によって裏地41のうちの左半体である裏地41Lとその折り返し部42とに対して縫合されている。中央部芯材68には、アルミニウム等の金属の線材や合成樹脂の線材が使用される。帯状部分62aは、中央部芯材68の変形に追随して変形するもので、中央部芯材68の変形が裏地41の広い範囲へ及ぶように作用する。
【0022】
図4は、図2におけるIV-IV線切断面を模式的に示す図である。図4において、表地31の左半体31Lには稜線13に沿っての折り返し部32が付属し、右半体31Rには、稜線13を越えて折り返し部32の下側に延びる縁部33が付属している。左半体31Lと右半体31Rとは、稜線13に沿って延びる縫合線13aにおいて一体になっている。裏地41では、左半体41Lが裏地41における稜線13に沿っての折り返し部42を有する。裏地41の右半体41Rは、裏地41における稜線13を越えて左半体41Lの折り返し部42に重なる縁部43を有する。縁部43には第1帯状ワイヤー61が重なっている。また、縫合線63によって、第1帯状ワイヤー61と、右半体41Lの縁部43と、左半体41Lの折り返し部42と、左半体41Lとが一体になっている。第1帯状ワイヤー61では、第1側部芯材66aを裏地41における稜線13にほぼ一致させた状態で第1側部芯材66aに隣接する縫合線63を形成する縫糸63aを介して裏地41に対して固定されている。一方、第2側部芯材66bと中央部芯材66cとは、第1帯状ワイヤー61において、その幅方向へ延びる糸67(図3を併せて参照)を介して第1側部芯材66aと一体になっているだけであって、裏地41に対しては、折り返し部42や縁部43を含むいずれに対しても固定されておらず、比較的自由に動くことができる状態にある。
【0023】
図5は、図2におけるV-V線切断面を模式的に示す図である。マスク10の被覆部11では、表地31の左半体31Lが上縁部14において裏地41に向かって折り返されることによって折り返し部32が形成されている。また、裏地41の左半体41Lは、上縁部14において表地31に向かって折り返されることによって折り返し部42が形成されている。左半体41Lと折り返し部42との間には第2帯状ワイヤー62が存在する。表地31の左半体31Lと、その折り返し部32と、裏地41の折り返し部42と、第2帯状ワイヤー62と、裏地41の左半体41Lとは順に重なり合い、縫合線17において縫い合わせられている。縫合線17の下方においては、表地31の折り返し部32と、裏地41の折り返し部42と、第2帯状ワイヤー62と、裏地41の左半体41Lとが順に重なり合い、縫合線69において縫い合わせられている。縫合線69は、第2帯状ワイヤー62における中央部芯材68に隣接して、好ましくは中央部芯材68から2mmを越えることにない範囲、さらに好ましくは中央部芯材68から1mmを越えることにない範囲において隣接し、中央部芯材68に並行する態様で、中央部芯材68の長さとほぼ同じ長さだけ延びている。縫合線69は、表地31の左半体31Lを含んでおらず、したがって、縫合線69がマスク10の外側、すなわち被覆部11の外側に現れることはない。したがってまた、被覆部11において、表地31と裏地41とは、縫合線17においてのみ分離不能に一体となり、縫合線17によって囲まれている内側の部分では分離した状態にあって、個々別々に変形することが可能である。
【0024】
表地31の右半体31Rの態様は、左半体31Lについての図5の態様と同じである。なお、マスク10に組み込まれる前の第2帯状ワイヤー62は、扁平にして直状のものであるが、マスク10に組み込むときには、マスク10の稜線13に関して対称となるように形状、寸法を整えることができる。その形状は、第2帯状ワイヤー62の帯状部分62aに含まれた中央部芯材68を塑性変形させることによって整えることができる。第2帯状ワイヤー62は、帯状部分62aの幅に比べて極めて小さな寸法の径の線材である中央部芯材68を変形させるだけで、その変形が帯状部分62aを介して裏地41の広い範囲に及ぶ。裏地41は、その広い範囲において着用者1の顔面に密着可能になる。マスク10において、第2帯状ワイヤー62の全長について格別の制約ないが、子供用から大人用までのマスク10を対象にした場合、その全長は40~140mmの範囲にあることが好ましい。
【0025】
このように組み付けられている第2帯状ワイヤー62は、いわゆるノーズクリップとして使用されるものであるが、図示例においては、表地31と、表地31の折り返し部32と、裏地41の折り返し部42との三層からなる布地で覆われることによって、マスク10の外側からはその存在を知ることができないか、または知ることが難しいという状態にある。したがって、第2帯状ワイヤー62を裏地41とともに着用者1の顔面に沿わせるように、好ましくは密着させるように変形させても、その変形している様子は、マスク10の外側からは見えない。マスク10のかかる状態は、外観上、マスク着用者1にとって好ましいものである。また、第2帯状ワイヤー62は、中央部芯材68に極めて近い部分が縫合線69によって裏地41と、その折り返し部42と、表地31の折り返し部32とに縫合されているから、マスク10を着用して中央部芯材68を着用者1の鼻梁5の両側に沿わせるときには、中央部芯材68とそれと一体の帯状部分62aとに重なる部分の裏地41が第2帯状ワイヤー62と一体になって変形し、鼻梁5とその両側の部分とによく密着する一方、表地31は、裏地41のそのような動きに追随することなく、ドーム状にふくらんだ形状を維持することができる。マスク10のかかる状態は、外観上、マスク着用者1にとって好ましいものである。
【0026】
図6,7において、図6は、マスク10における被覆部11の左半体11Lと右半体11Rとを稜線13を折曲線として折り重ね合わせたときの状態にあるマスク10の部分破断斜視図であって、マスク10は平らな板100の上に載せてある。マスク10において、左半体11Lが破断されている部分には、第1帯状ワイヤー61が見えている。図7は、マスク10に使用される前の、単体としての第1帯状ワイヤー61の平面図であって、第1帯状ワイヤー61は直線的に延びている。図7において、第1,第2側部芯材66a,66b及び中央部芯材66cは、互いに並行して第1帯状ワイヤー61の長さ方向へ延びていて、長さ方向およびそれに直交する幅方向においての相互の位置は、多数の糸67によって一定に保たれている。そのような第1帯状ワイヤー61を裏地41に取り付ける時には、第1側部芯材66aが裏地41の左半体41Lにおける稜線13(図4参照)に一致するように、もしくはほぼ一致するように、第1側部芯材66aをマスク10の前方に向かって凸となる弧を画くように湾曲させ、左半体41Lとそれに重なる折り返し部42と右半体41Rの縁部43とに縫合線63によって縫合する。
【0027】
第1帯状ワイヤー61では、第1側部芯材66aをそのように湾曲させると、第1側部芯材66aとの位置関係が一定である第2側部芯材66bおよび中央部芯材66cは、稜線13に向かって凸となるような弧を画きながら湾曲する。ただし、中央部芯材66cが画く弧の曲率半径は、第1側部芯材66aが画く弧の曲率半径よりも小さく、また、第2側部芯材66bが画く弧の曲率半径は中央部芯材66cが画く弧の曲率半径よりも小さくなる。このときに、第1、第2側部芯材66a、66bおよび中央部芯材66cに弾性的な復元力を有する線材を使用しておくことによって、湾曲させた状態から直線的に延びる状態へとその復元力によって復元しようとする第1側部芯材66aは、それが固定されている裏地41における稜線13が画く弧を大きく広げるように、すなわちその弧の曲率半径を大きくして、鼻孔2と口許3との前方においてマスク10が作るドーム状の空間が大きくなるように作用する。それゆえ、マスク10の着用時に裏地41がふくらんだり、へこんだりする動作を繰り返し、へこんだ時には鼻孔2の周囲に接触して呼吸の妨げになるということを防ぎ、また口許3に接触してリップクリームや口紅が裏地41に付着して化粧が乱れたり、マスク10が汚れたりするということも防ぐことができる。また、裏地41に拘束されていない中央部芯材66cと第2側部芯材66bとが、弾性的な復元力を発揮すると、それらが画く弧を大きく広げるように作用する。そのような作用は表地31の内側から表地31に及んで、表地31が画くドーム状の空間はより大きくなろうとする。また、表地31は被覆部11の内側に向かってへこむように動くことを阻止される。このような第1帯状ワイヤー61と表地31との作用の関係は、図4における第1帯状ワイヤー61と表地31との位置関係によって理解することができる。加えて、表地31に通気孔として作用する多数の大きな透孔35(図3参照)が形成されている場合には、着用者1の呼吸によって裏地41の内側が陰圧になったり陽圧になったりすることに伴って、裏地41がへこんだり、ふくらんだりする動作を示したとしても、表地31と裏地41との間の空間では圧力変化が生じにくいので、表地31は裏地41の動作に追随することがなく、前方に向かって大きくふくらんだ状態を維持することができる。表地31がこのような挙動を示すマスク10は、着用時における外観が好ましいものになる。
【0028】
上述の如き第1帯状ワイヤー61は、その全体の動きをみると、第1側部芯材66aが湾曲することに伴って、あたかも円錐台形の斜面の一部分を形成するかのごとくに変形する。その円錐台形の斜面(側面)は、第1側部芯材66aが底縁になり、第2側部芯材66bが頂縁になるというものである。それゆえ、第1側部芯材66aが稜線13において裏地41に固定されている第1帯状ワイヤー61は、図6に示すように被覆部11を稜線13に沿って二つ折りにして重ねて平らな板100の上に置くと、中央部芯材66cと第2側部芯材66bとが平らな板100から大きく離れて第1側部芯材66aよりも上方の位置をとるようになり、それに伴って被覆部11の左半体11Lは稜線13に沿う部分18が図示の如くにふくらんだ状態になる。換言すると、このときの中央部芯材66cと第2側部芯材66bとは、稜線13の近傍において表地31の左半体31Lがマスク10の前方に向かって膨らむように表地31に対して作用する。この作用は、その左半体31Lが、マスク10の後方に向かって、すなわち着用者1の顔面に向かってへこもうとする動きを阻止するような作用でもある。このような作用は、稜線13を介して左半体31Lと一体の右半体31Rにも及ぶ。その結果として、表地31は、図1の如くドーム状にふくらんだ形状の維持が容易になる。
【0029】
このように形成されている図示例のマスク10は、第1帯状ワイヤー61と第2帯状ワイヤー62とを使用するものであるが、第2帯状ワイヤー62が奏する効果を必要としない場合には、第1帯状ワイヤー61のみを使用し、第2帯状ワイヤー62を使用しない態様で実施することも可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 着用者
2 鼻孔
3 口許
10 マスク
11 被覆部
11L 被覆部の左半体
11R 被覆部の右半体
13 稜線
14 上縁部
15 下縁部
16 側縁部
17 縫合線
31 表地
31L 表地の左半体
31R 表地の右半体
35 透孔(通気孔)
41 裏地
41L 裏地の左半体
41R 裏地の右半体
61 第1帯状ワイヤー
62 第2帯状ワイヤー
62a 帯状部分
66a 芯材(第1側部芯材)
66b 芯材(第2側部芯材)
66c 芯材(中央部芯材)
68 芯材(中央部芯材)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7